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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038594
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】スパイラル型膜エレメントの検査方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 65/10 20060101AFI20240313BHJP
   B01D 63/10 20060101ALI20240313BHJP
   G01N 29/265 20060101ALI20240313BHJP
   G01N 29/06 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
B01D65/10
B01D63/10
G01N29/265
G01N29/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142706
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田所 功嗣
(72)【発明者】
【氏名】能見 俊祐
(72)【発明者】
【氏名】速水 重輝
【テーマコード(参考)】
2G047
4D006
【Fターム(参考)】
2G047AA08
2G047AB01
2G047BA03
2G047BB05
2G047BC02
2G047BC03
2G047BC07
2G047DB03
2G047DB04
2G047DB05
2G047GE02
2G047GF06
2G047GG28
2G047GG30
2G047GH06
4D006GA03
4D006HA61
4D006HA62
4D006JA05A
4D006JA05C
4D006JA06A
4D006JA06C
4D006JA10A
4D006JA10C
4D006LA03
4D006LA06
4D006MC11
4D006MC22
4D006MC45
4D006MC48
4D006MC56
4D006MC58
4D006MC62
4D006MC63
4D006MC65
(57)【要約】
【課題】スパイラル型膜エレメントを解体せずに、使用後にリークの原因となり易い部分の状態を観察できるスパイラル型膜エレメントの検査方法を提供する。
【解決手段】有孔の中心管5と、その中心管5に巻回され分離膜を含む巻回体Rと、供給側流路と透過側流路との混合を防止する封止部13と、を備えるスパイラル型膜エレメントの検査方法であって、中心管5の内部に検査プローブ20を挿入して、エネルギー波の照射位置を走査することにより、中心管5の外周近傍に位置する封止部13を可視化した画像を得る。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有孔の中心管と、その中心管に巻回され分離膜を含む巻回体と、供給側流路と透過側流路との混合を防止する封止部と、を備えるスパイラル型膜エレメントの検査方法であって、
前記中心管の内部に検査プローブを挿入して、エネルギー波の照射位置を走査することにより、前記中心管の外周近傍に位置する前記封止部を可視化した画像を得る、スパイラル型膜エレメントの検査方法。
【請求項2】
前記エネルギー波は、超音波である、請求項1に記載のスパイラル型膜エレメントの検査方法。
【請求項3】
前記検査プローブは、超音波を照射して反射波を検出するものであり、前記中心管に液体を充填した状態で超音波の照射位置を走査する、請求項1に記載のスパイラル型膜エレメントの検査方法。
【請求項4】
前記検査プローブにより超音波の照射位置を走査する際に、前記中心管の内面に対する前記照射位置をらせん状に移動させる、請求項3に記載のスパイラル型膜エレメントの検査方法。
【請求項5】
前記反射波の大きさと反射時間とに基づいて、前記封止部における空隙を可視化するものである、請求項3に記載のスパイラル型膜エレメントの検査方法。
【請求項6】
前記スパイラル型膜エレメントにおける前記供給側流路又は前記透過側流路の一方から他方への流体の漏洩を検出するリーク検査を併用する、請求項1~5いずれか1項に記載のスパイラル型膜エレメントの検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、供給側流路と透過側流路との混合を防止する封止部を検査するためのスパイラル型膜エレメント(以下、「膜エレメント」と略称する場合がある)の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のスパイラル型膜エレメントは、例えば、図1に示すように、対向する分離膜1の間に透過側流路材3が介在する複数の膜リーフLと、膜リーフLの間に介在する供給側流路材2と、膜リーフL及び供給側流路材2を巻回した有孔の中心管5と、供給側流路と透過側流路との混合を防止する封止部11,12,13と、を備えるものが一般的である。
【0003】
このような膜エレメントは、例えば、図2A図2Bに示すように、分離膜1を屈曲させて供給側面を対向させた間に供給側流路材2を配置したものと透過側流路材3とを積み重ね、両端封止部11と外周側封止部12とを形成するための接着剤4,6を、透過側流路材3の軸心方向A1の両端部及び巻回の外周側端部に塗布した分離膜ユニットUを準備した後、図2Cに示すように、分離膜ユニットUを積層してから、中心管5を矢印の方向に回転させて、複数の分離膜ユニットUを中心管5に巻回することで、製造されていた。
【0004】
そして、一般的な構造のスパイラル型膜エレメントでは、中心管5回りの中央側封止部13などにリーク等の問題が生じる場合があり、リーク検査を行なうのが通常であった。このようなリーク検査方法としては、例えば特許文献1のように、膜エレメントを通過した気体を用いて膜エレメントの透気度を測定して欠陥を検出する欠陥検出方法が知られている。
【0005】
また、特許文献2には、中空糸膜モジュールを製造後にX線非破壊検査装置を用いて、CT解析により中空糸膜内の封止剤の充填状態を観察することが開示されており、中空糸膜モジュール内の見えない部分を可視化できることが示唆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-532982号公報
【特許文献2】国際特開WO2021/131145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の検査方法のみでは、製造直後にリークが生じている膜エレメントを検出できても、膜エレメントの使用後に生じ得るような、潜在的な封止部の欠陥については、これを検出することができなかった。つまり、膜エレメントを使用する際に、運転時の加圧と、停止時の減圧が生じるため、膜の変形等の影響により、特に中心管回りの封止部の封止構造が不安定となり易く、封止部に潜在的な欠陥(ボイド等を介して供給側流路側と透過側流路側とが連通し易い状態)があると、製造直後に存在しないリークが使用後に生じる場合があり、これを効率良く検出する必要があった。
【0008】
また、特許文献2に開示された検査方法では、CT解析により横断面(中空糸に垂直な断面)を観察しているため、封止剤が所望の位置まで充填されていることは確認できても、中空糸に平行な断面が観察できないため、封止部の潜在的な欠陥を検出することが困難であった。
【0009】
つまり、潜在的な封止部の欠陥については、膜エレメントを解体することにより、発見することができたが、膜エレメントを解体せずに、潜在的な欠陥を検出することは困難であった。
【0010】
そこで、本発明の目的は、スパイラル型膜エレメントを解体せずに、使用後にリークの原因となり易い部分の状態を観察できるスパイラル型膜エレメントの検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、以下の如き本発明によって達成できる。
【0012】
[1] 有孔の中心管と、その中心管に巻回され分離膜を含む巻回体と、供給側流路と透過側流路との混合を防止する封止部と、を備えるスパイラル型膜エレメントの検査方法であって、前記中心管の内部に検査プローブを挿入して、エネルギー波の照射位置を走査することにより、前記中心管の外周近傍に位置する前記封止部を可視化した画像を得る、スパイラル型膜エレメントの検査方法。
【0013】
前述のように、中心管の外周近傍に位置する封止部は、加圧運転の繰り返し等により、将来的なリークの原因となり得る。本発明の検査方法によると、中心管の内部に検査プローブを挿入して、エネルギー波の照射位置を走査することで、封止部を可視化した画像が得られ、その状態を効率よく検査することができる。
【0014】
[2] 前記エネルギー波は、超音波である、[1]に記載のスパイラル型膜エレメントの検査方法。
【0015】
超音波を用いる非破壊検査は、技術が確立されているため検査システムが入手し易く、これを利用して、膜エレメント用の検査システムを構築することができる。
【0016】
[3] 前記検査プローブは、超音波を照射して反射波を検出するものであり、前記中心管に液体を充填した状態で超音波の照射位置を走査する、[1]又は[2]に記載のスパイラル型膜エレメントの検査方法。
【0017】
検査プローブと中心管との間に液体が介在することにより、超音波の伝播が良好になるため、封止部を可視化する際の感度が向上し、より鮮明な画像が得られ易くなる。
【0018】
[4] 前記検査プローブにより超音波の照射位置を走査する際に、前記中心管の内面に対する前記照射位置をらせん状に移動させる、[1]~[3]の何れかに記載のスパイラル型膜エレメントの検査方法。
【0019】
照射位置をらせん状に移動させる場合、簡易な動作により、前記中心管の全周近傍にわたる封止部を、軸心方向に所望の長さで可視化した画像を得ることができる。
【0020】
[5] 前記反射波の大きさと反射時間とに基づいて、前記封止部における空隙を可視化するものである、[1]~[4]の何れかに記載のスパイラル型膜エレメントの検査方法。
【0021】
封止部に空隙が存在すると、その位置に応じた反射時間の反射波が変化するため、反射波の大きさと反射時間とに基づいて、高い精度で封止部における空隙を可視化できる。
【0022】
[6] 前記スパイラル型膜エレメントにおける前記供給側流路又は前記透過側流路の一方から他方への流体の漏洩を検出するリーク検査を併用する、[1]~[5]の何れかに記載のスパイラル型膜エレメントの検査方法。
【0023】
このように漏洩の検出によるリーク検査を併用することにより、潜在的な欠陥の検出に加えて、既に生じているリーク状態を膜エレメント全体について検査することができるようになる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、スパイラル型膜エレメントを解体せずに、使用後にリークの原因となり易い部分の状態を観察できるスパイラル型膜エレメントの検査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】膜リーフ及び供給側流路材が中心管に巻回された巻回体の一例を示す、一部を切り欠いた斜視図である。
図2A】スパイラル型膜エレメントに使用する分離膜ユニットの一例を示す平面図である。
図2B】スパイラル型膜エレメントに使用する分離膜ユニットの一例を示す正面図である。
図2C】スパイラル型膜エレメントに使用する分離膜ユニットを積層して巻回する前の状態の一例を示す正面図である。
図3】スパイラル型膜エレメントの要部の一例を示す正面視断面図である。
図4】スパイラル型膜エレメントの中央側封止部に生じたボイドが、中心管の外周付近で軸心方向に連続して存在し、連続するボイドが着色されている例を模式的に示す斜視図である。
図5】スパイラル型膜エレメントの検査方法に用いることができる超音波検査システムの一例を示す概略構成図であり、スパイラル型膜エレメントの内部については縦断面図で示している。
図6A】スパイラル型膜エレメントの検査方法に用いる検査プローブの一例を示す斜視図である。
図6B】スパイラル型膜エレメントの検査方法に用いる検査プローブの一例を示す側面図である。
図7】スパイラル型膜エレメントの検査方法の原理を説明するための説明図である。
図8】スパイラル型膜エレメントの検査方法により可視化された封止部の画像の一例を示す展開図である。
図9】スパイラル型膜エレメントの検査方法に好ましく用いることができる超音波観測装置の一例を示すブロック図である。
図10】スパイラル型膜エレメントの検査方法に用いることができる超音波検査システムの他の例を示す概略構成図であり、スパイラル型膜エレメントの内部については縦断面図で示している。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(スパイラル型膜エレメントの検査方法)
本発明のスパイラル型膜エレメントの検査方法は、図1に示すように、有孔の中心管5と、その中心管5に巻回され分離膜1を含む巻回体Rと、供給側流路と透過側流路との混合を防止する封止部11,12,13と、を備えるスパイラル型膜エレメントを、検査の対象とするものである。この膜エレメントの詳細については、後に説明するが、特に、図3に示すような中心管5の外周付近の中央側封止部13について、潜在的な封止部の欠陥に関する懸念があった。
【0027】
つまり、図3に示すように、分離膜1を中心管5に巻回する際、例えば供給側流路材2が介在する場合、それに応じた分離膜1の内周側端部の屈曲厚み(例えば曲率半径)が生じ、これに伴って三角形状の段差Sが生じ易くなる。その結果、透過側流路材3に塗布された接着剤によって形成される中心管5回りの中央側封止部13にも間隙(ボイド等を含む)が生じる場合があり、分離膜1の内周側端部の周辺における封止構造の信頼性が低下する場合があった。
【0028】
実際に製造した膜エレメントを用いて、着色剤を含有する液体を供給した後に、膜エレメントを解体して検査すると、三角形状の段差Sによって生じたボイドが確認できる場合がある。そして、図4に示すように、中央側封止部13に生じたボイドが、中心管5の外周付近で軸心方向A1に連続して存在することが確認できる場合が極めてまれにある。このようなボイド(空隙)が供給側流路(図4の手前側)から透過側流路(図4の奥側)まで連通すると、リークが生じるため、加圧や気体透過などの試験で検査することが必要となる。しかし、供給側流路と透過側流路とが完全に連通せずに、僅かな封止剤のみで連通が妨げられている場合には、加圧や気体透過などの試験のみで検査して判別することができない。このような場合においても、膜エレメントを使用する際の運転時の加圧と停止時の減圧とにより、膜の変形等の影響により、供給側流路と透過側流路とがボイドを介して連通し、リークの原因となる。本発明の検査方法は、このような封止部の潜在的な欠陥を、非破壊検査により検査するものである。
【0029】
本発明のスパイラル型膜エレメントの検査方法は、例えば図5に示すような超音波検査システムを用いて、中心管5の内部に検査プローブ20を挿入して、エネルギー波(超音波S1等)の照射位置を走査することにより、中心管5の外周近傍に位置する封止部13を可視化した画像を得るものである。本実施形態では、エネルギー波として超音波S1を用いる場合の例を示す。
【0030】
超音波S1を用いる場合、超音波S1の伝播を良好にして封止部13を可視化する際の感度を向上させる目的で、検査プローブ20と中心管5との間に液体27を介在させることが好ましい。このため、本実施形態では、図5に示すように、超音波S1の照射位置を走査する際に、中心管5の端部の一方をゴム栓等の閉塞部材26で塞いだ状態で、中心管5に液体27を充填している。このとき、中心管5の孔5aから液体27の一部が流出して巻回体Rの内部に流入する場合があるが、分離膜1を透過して巻回体Rから排出される液体27は微量であるため、検査中に液体27の充填を維持することができる。また、液体27を充填する際には、容器内に溜めた液体27に膜エレメントの一方を浸漬して、中心管5に液体27を充填することも可能である。
【0031】
液体27としては、特に限定されないが、純水、イオン交換水、蒸留水などの不純物の少ない水等が挙げられる。
【0032】
中心管5に液体27を充填する場合、膜エレメントを縦方向に設置することが好ましい。その際、巻回体Rは端部部材16と一体化されており、端部部材16により荷重が支持される。巻回体Rのうち、端部部材16に近い位置の中央側には、中心管5の周囲に接着剤層である中央側封止部13が存在する。この中央側封止部13に対して、検査プローブ20による検査が行なわれる。膜エレメントの一方の端部を検査した後、上下を入れ換えて、他方の端部を検査することができる。
【0033】
(検査プローブ)
検査プローブ20は、例えば図5に示すように、超音波S1を照射して反射波S2を検出するための超音波探触子21と、超音波探触子21と超音波観測装置30との間で信号S3を送受信するための配線(図示省略)と、配線を収容し検査プローブ20を回転・移動させるためのロッド24とを備えている。
【0034】
検査プローブ20としては、超音波探触子21が中心管5の内面に向けて、直接、超音波S1を照射する構成としてもよいが、本実施形態では、図6A図6Bに示すように、超音波探触子21から照射された超音波S1を反射体25により反射させることで、中心管5の内面に向けて照射できる例を示している。このため、検査プローブ20が軸心方向A1の回りに回転することで、中心管5の内面の全周にわたって照射位置を移動させることができる。このように、反射体25を回転させる場合、超音波探触子21の回転を不要(固定状態)にすることができる。
【0035】
図5に示す例では、検査プローブ20の回転体23がセンタリング部材22に保持されており、センタリング部材22の外周面が、中心管5の内面に摺接することで、回転体23の中心軸が中心管5の軸心方向A1から偏心しにくい構造としている。センタリング部材22としては、摺動性の高い材料、例えばフッ素樹脂やポリオレフィン樹脂などの他、摺動性層を設けた材料などが使用できる。また、ベアリング等を利用した摺動機構によってセンタリング部材22を構成することも可能である。
【0036】
検査プローブ20により超音波S1の照射位置を走査する際には、中心管5の内面に対する照射位置をらせん状に移動させることが好ましい。らせん状に移動させる際のピッチとしては、走査効率と得られる画像の解像度の観点から、0.1~3mmが好ましく、0.2~1mmがより好ましい。また、らせん状に移動させる際の回転速度としては、走査効率と得られる画像の解像度の観点から、10~300rpmが好ましく、20~100rpmがより好ましい。
【0037】
照射位置をらせん状に移動させる場合、ロッド24を回転させながら、軸心方向A1に移動させることで、回転体23が回転しながら軸心方向A1に移動して、反射体25により反射した超音波S1の照射位置をらせん状に移動させることができる。このような照射位置の移動によって、中心管5の外周付近に位置する中央側封止部13に対して、エネルギー波(超音波S1等)の照射位置を走査することができる。
【0038】
このようなロッド24による駆動は、ロッド24の基端側に設けた駆動機構33で行なうことができる。なお、検査プローブ20を回転させる代わりに、例えば膜エレメントを回転させながら検査プローブ20を軸心方向A1に移動させることも可能であり、照射位置をらせん状に移動させる操作は、検査プローブ20と膜エレメントとの相対的な移動により行なうことが可能である。
【0039】
超音波探触子21としては、超音波S1の受信部と発信部が一つになった一振動子探触子、又は、超音波S1の発信部と受信部が分割された二振動子探触子のいずれでもよい。また、水浸タイプの探触子を用いることも可能である。更に、複数の探触子をアレイ化して、同時に複数の信号を送受信できるようにしてもよい。
【0040】
反射体25としては、超音波S1を反射させる反射面を有するものであればよく、例えば鏡面仕上げされた金属、ガラス、などの反射面を備えるものを用いることができる。反射体25を配置する際の反射面の角度としては、中心管5の内面の法線方向に対して、入射角が0~45度となるように配置することが好ましい。
【0041】
(超音波検査システム)
超音波検査システムとしては、例えば図5に示すように、前記のような検査プローブ20と、信号S3を検査プローブ20との間で信号S3を送受信しながら、封止部13を可視化した画像を生成する超音波観測装置30とを備えるものが使用できる。
【0042】
前記のような検査プローブ20の移動のための操作は、超音波観測装置30からの信号S4によって、駆動機構33を駆動させることで行なうことが好ましい。また、検査プローブ20の位置を検出するための位置検出機構を設けて、検出した位置情報に基づいて、超音波観測装置30で画像を生成するための処理を行なってもよい。位置検出機構は、駆動機構33に設けることが可能であるが、駆動機構33とは別に設けてもよい。
【0043】
超音波S1は、例えば超音波探触子21から超音波パルスとして照射され、そのための信号S3が超音波観測装置30から送信される。また、超音波パルスが封止部13に照射されると、反射エコーを生成し、超音波探触子21がこれを検出することができる。得られた反射エコー信号(信号S3)は、超音波観測装置30の本体部32に取り込まれて、所定の信号処理を行うことにより表示部31に超音波画像を表示することができる。
【0044】
図9には、スパイラル型膜エレメントの検査方法に、好ましく用いることができる超音波観測装置の一例のブロック図を示す。図9において、38は位置検出機構(図示省略)に接続されて信号S5の送受信を行なう変位検出用送受信部、37は変位検出用送受信部38に接続された変位検出用信号処理部、42は超音波探触子21に接続されて信号S3の送受信を行なう超音波送受信部、41は超音波送受信部42に接続された超音波信号処理部、35は駆動機構33に接続されて信号S4の送受信を行なう駆動制御部、36はこれらの制御等のための演算を行なうCPU部である。39は変位検出用信号処理部37と超音波信号処理部41の出力から画像を生成する画像生成部、31は画像生成部39で生成した画像を表示する表示部である。
【0045】
このような超音波観測装置30の動作を説明する。まず、図5に示すように、検査プローブ20を中心管5内部に挿入する。超音波探触子21は、超音波送受信部42の信号S3により超音波パルスを照射する。反射体25にて反射された超音波S1は、中心管5の内面に対し所望の入射角で照射され、管内部と管外部を伝搬する。後述のように周方向のボイド等が存在する場合、超音波探触子21はボイド等からの反射エコーを受信し、信号S3が超音波送受信部42を介して超音波信号処理部41に送信され、ボイド等の検出を行なう。この検出動作を駆動機構33の回転に伴う反射体25の回転中に連続して行なうことで、円周方向に超音波S1を走査させ、更に検査プローブ20を軸心方向A1に移動させることで、中心管5の外周付近に位置する中央側封止部13を走査することができる。
【0046】
位置検出機構は、ロッド24の移動距離と回転角を測定し、その信号S5が変位検出用送受信部38を介して変位検出用信号処理部37に送信され、照射位置の位置情報を変位検出用信号処理部37で求める。位置検出機構は、回転方向位置を検出するエンコーダ等と、軸心方向位置を検出するエンコーダ等により構成することができる。その信号S5は、変位検出用送受信部38のインターフェースを介してA/D変換器によりデジタル信号に変換することで、変位検出用信号処理部37で位置情報の演算に使用される。
【0047】
また、超音波送受信部42によって、超音波探触子21に駆動信号が入力されると共に、その反射エコー信号を受信して、この受信信号がインターフェースを介してA/D変換器によりデジタル信号に変換されて、超音波信号処理部41で検出情報の演算に使用される。この演算結果は、位置情報と対応付けられてメモリ(図示省略)に記憶される。
【0048】
図7には、スパイラル型膜エレメントの検査方法において、ボイド等を検出するための原理を示している。図7に示すように、1)中心管5の外面に接着層がない場合、内表面エコーに遅れて境界面エコー(外表面エコー)が反射波S2として検出される。2)ボイドがない場合、内表面エコーに遅れて境界面からの微小な境界面エコーが検出される。3)接着界面にボイドがある場合、内表面エコーに遅れて比較的大きいボイドのエコーが検出される。4)界面より外側にボイドがある場合、内表面エコーに遅れて、ボイドとの界面でボイドによる小さなエコーが検出される。これらの結果から、反射エコー等の反射波S2の大きさと反射時間とに基づいて、封止部13における空隙を可視化できることがわかる。
【0049】
また、超音波探触子21の最適化および深さ方向の検出能力の確認を行なった結果、次のような知見を得た。
【0050】
試験片として、中心管5と同じABS樹脂製の平板(厚さ5mm)の上にゴム製の枠材を設けて、封止部13と同じ接着剤(ウレタン樹脂製)を流し込んで硬化させて、厚み5mmの接着剤層を形成し、これに界面から底面までの距離が0~3mmの7種類(0.5mmづつ変化)の穴(直径1mm、底面は平坦)を開けたものを使用した。
【0051】
超音波探触子21として、高周波タイプ(周波数25MHz)と低周波タイプ(周波数5MHz)とを用いて、反射ミラーを介して、超音波S1を照射し、反射エコーを受信して、7種類の穴の検出精度を調べた。その結果、低周波タイプの探触子の方が深さ方向への検出範囲が広く、管外表面から3mm程度外側までの直径1mmのボイド検出が可能であった。
【0052】
上記は好ましい周波数の一例であるが、他の条件下での超音波による非破壊検査では、周波数が異なる事例もある。最適な周波数帯は中心管5、接着剤層の材質、厚み等により影響を受けるため、周波数帯の決定は、このような事前確認にて実施することが好ましい。
【0053】
そして、各々の照射位置において、反射エコーの強度の時間変化を超音波探触子21で検出し、これをデジタル信号に変換することで、照射位置と対応付けてメモリに記憶することができる。このとき、予めボイド等の厚み(半径方向の大きさ)を算出してもよい。照射位置と対応付ける場合、変位検出用信号処理部37からの位置情報を利用することができる。
【0054】
また、変換されたデジタル信号又はメモリから読み出したデジタル信号を、超音波信号処理部41によって、ボイドのエコーの数、間隔、強度、発生時間などから、照射位置におけるボイドの厚み(半径方向の大きさ)を算出することができる。
【0055】
画像生成部39では、ボイドの厚み等を照射位置と対応付けることで、走査領域全体についてボイドの厚み等を可視化した画像を得ることができる。例えば、走査位置をらせん状に移動させる場合、らせん状に移動させるピッチと角度に応じたデータを、平面における座標に対応させることで、中心管5の外周近傍に位置する封止部13の全体を可視化した平面画像を生成することができる。
【0056】
画像生成部39において、ボイドの厚み等を可視化する際には、ボイドの厚みに応じて色を変化させたり、濃淡を変化させたりすることができる。また、ボイドの厚みに対して閾値を設定し、ボイドの厚みが閾値を超える位置のみを白黒の2値表示させることも可能である。
【0057】
図8には、スパイラル型膜エレメントの検査方法により可視化された封止部13の画像の一例を示しており、中心管5の全周に存在する封止部13について、これを平面に展開した展開図である。この図では、グレー表示されているが、超音波S1による画像(左側)はカラー画像であり、ボイドの厚みが大きくなるにつれて、ボイドの存在しない青色から→緑色→黄色→赤色の順でカラー表示されている。図8の右側には、X線CTで得られた画像も示されているが、X線CTで確認できるボイドが超音波S1でも十分に検出できていることがわかる。中心管5の軸心方向A1で繋がっているボイドは、使用後にリークを発生させるリスクがあり、封止部13内部の状態観察が可能なため、このようなリスクに対応することができる。
【0058】
なお、図8において、超音波S1を用いる場合は、中心管5の外表面から約3mmの深さ範囲のボイドの総検出量を示すことができる。これに対して、X線CTを用いる場合は、中心管5の外表面より外側に約0.25mm位置の断層画像を示すことができる。
【0059】
ボイドの厚みを照射位置と対応付けたデータは、照射位置の走査中にメモリに記憶しておき、これを読み出して画像生成部39により画像を生成することで、表示部31に超音波画像を表示することができる。
【0060】
(検査方法の別の実施形態)
(1) 先の実施形態では、ロッド24の回転により、反射体25と超音波探触子21を回転させる例を示したが、例えば図10に示すように、ロッド24を二重構造にして、外側ロッド24aのみを回転させて反射体25を回転させ、超音波探触子21を内側ロッド24bで固定して回転させないようにしてもよい。
【0061】
その場合、軸心方向A1への移動については、外側ロッド24aと内側ロッド24bを駆動機構33によって駆動させる方法でもよいが、これを行なわずに膜エレメントを昇降台に載せて、膜エレメント側を軸心方向A1へ移動させてもよい。その場合、膜エレメントの軸心方向A1の変位量を検出することで、外側ロッド24aの回転を検出した回転角と併せて、位置情報を算出することができ、ボイドの厚みを照射位置と対応付けることができる。
【0062】
(2) 先の実施形態では、駆動機構33によりロッド24を介して反射体25を回転させる例を示したが、反射体25を含むタービンをロッド24に対して回転自在に支持しておき、水流等によってタービンを回転させてもよい。その場合、検査プローブ20の側(ロッド24側)に回転位置の検出機構を設けておくことが好ましい。これにより、ロッド24を介して軸心方向A1の位置検出だけでなく、検査プローブ20により回転位置の検出が可能となり、中心管5の外周近傍に位置する封止部13を可視化した画像を得ることができる。回転位置の検出機構としては、例えば磁気式エンコーダ等が使用できる。
【0063】
(3) 先の実施形態では、超音波探触子21に超音波パルス信号を送信する際に、駆動機構33により照射位置を走査しながら、一定の時間間隔で超音波パルス信号の送信を行ない、得られたボイドの厚みを照射位置情報と対応付ける例を示したが、位置検出機構からの照射位置情報に基づいて、例えば、一定の角度変化に同期させて、超音波パルス信号を送信することも可能である。
【0064】
その場合、例えば超音波送受信部42における超音波パルスの送信タイミングを設定するために、位置検出機構からの位置情報に関する信号が変位検出用送受信部38を介して変位検出用信号処理部37に取り込まれて、そこからの信号が送信トリガ信号として超音波送受信部42に入力される。また、超音波信号処理部41による検出結果は、変位検出用信号処理部37からの位置情報に対応付けられてメモリに記憶される。
【0065】
(4) 先の実施形態では、検査プローブ20により超音波S1の照射位置を走査する際に、照射位置をらせん状に移動させる例を示したが、回転方向と軸心方向A1との駆動は、同時に行なう必要はなく、別々に行なってもよい。その場合でも、照射位置を合成して二次元化することにより、中心管の外周近傍に位置する封止部を可視化した画像を得ることができる。
【0066】
その場合、例えば1回転毎に軸心方向A1に一定ピッチで移動させることで、回転方向と軸心方向A1との駆動を交互に行なう方法、封止部の全長にわたり軸心方向A1に移動させる毎に、一定ピッチで回転させることで、軸心方向A1と回転方向との駆動を交互に行なう方法などが挙げられる。
【0067】
(5) エネルギー波としては、反射波又は透過波によりボイド等の空間部(材料の無い部分)が検出できるものであればよく、非破壊検査技術に利用されているエネルギー波を、いずれも用いることが可能である。
【0068】
例えば、このようなエネルギー波としては、超音波の他、音波、X線、赤外線、電磁波、衝撃弾性波などが挙げられる。ただし、エネルギー波の取扱いが容易であり、検査システムが比較安価に構築できるという理由から、超音波が最も本発明には適している。
【0069】
(リーク検査)
本発明では、以上のような、封止部を可視化した画像を得る検査方法に加えて、一般的なリーク検査を併用することも可能である。リーク検査としては、スパイラル型膜エレメントにおける供給側流路又は透過側流路の一方から他方への流体の漏洩を検出する方法が好ましい。
【0070】
具体的には、例えば(1)膜エレメントにおける供給側流路又は透過側流路の一方を加圧状態とし、気体の漏洩による圧力低下を検出する方法、(2)膜エレメントにおける供給側流路又は透過側流路の一方を加圧状態とし、通過した気体の流量(透気度)を測定して漏洩を検出する方法、(3)膜エレメントに清浄な液体(水等)を透過させて、通過した液体の流量を測定して漏洩を検出する方法、(4)その際、液体に着色剤を添加して、漏洩を検出する方法、(5)膜エレメントにおける供給側流路又は透過側流路の一方に液体を満たして、他方を徐々に昇圧してバブルポイントを測定する方法などが挙げられる。
【0071】
(スパイラル型膜エレメント)
検査の対象となるスパイラル型膜エレメントは、水処理等の液体分離用途に限られず、気体分離用途に使用するものも含まれる。スパイラル型膜エレメントは、例えば図1に示すように、有孔の中心管5と、その中心管5に巻回されており、内周側端部で屈曲させて供給側面を対向させた分離膜1とその分離膜1の間に介在する供給側流路材2とを含む巻回体Rと、供給側流路と透過側流路との混合を防止する封止部11,12,13と、を備えるものである。
【0072】
本実施形態では、封止部が両端封止部11と外周側封止部12とを含む例を示す。封止部のうち、両端封止部11は、膜リーフLの軸心方向A1の両側における二辺端部を接着剤で封止したものである。外周側封止部12は、膜リーフLの外周側先端の端部を接着剤で封止したものである。
【0073】
また、図1に示すように、中心管5と膜リーフLの基端部の軸心方向A1の両側を接着剤で封止した中央側封止部13を有することが好ましい。本実施形態の膜エレメントは、このような中央側封止部13を介して、膜リーフL及び供給側流路材2が中心管5に巻回された巻回体Rを有している。
【0074】
上記のような巻回体Rを有する膜エレメントは、例えば図2A図2Cに示す工程により製造することができる。図2Aは分離膜ユニットUの平面図であり、図2Bは分離膜ユニットUの正面図であり、図2Cは分離膜ユニットUを積層して巻回する前の状態を示す正面図である。
【0075】
まず、図2A及び図2Bに示すように、分離膜1を2つ折りにして屈曲させて供給側面を対向させ、その間に供給側流路材2を配置したものと透過側流路材3とを積み重ねる。次いで、両端封止部11と外周側封止部12とを形成するための接着剤4,6を、透過側流路材3の軸心方向A1の両端部及び巻回の先端部に塗布した分離膜ユニットUを準備する。このとき、分離膜1の折り目部分に保護テープを貼り付けるなどして、保護層を設けてもよい。
【0076】
接着剤4,6としては、特に限定されるものではなく、従来公知のものを採用することができる。具体的には、例えばウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤等、従来公知のいずれの接着剤も使用することができる。
【0077】
次ぎに、図2Cに示すように、他のものより延長した部分を有する透過側流路材3の上に、膜リーフLと同数の分離膜ユニットUを積層して、分離膜ユニットUの積層体を準備する。このとき、最も下側の透過側流路材3の延長部分の軸心方向A1の両端部にも接着剤を塗布しておくことで、中央側封止部13を形成することができる。
【0078】
次いで、図2Cに示すように、有孔の中心管5を矢印の方向に回転させて、複数の分離膜ユニットUを中心管5に巻回する。このとき、接着剤4,6が、対向する分離膜1と透過側流路材3とを接着することにより、両端封止部11と外周側封止部12とを有する膜リーフLが形成される。
【0079】
その結果、図1に示すように、膜リーフL及び供給側流路材2が中心管5に巻回された巻回体Rが形成される。封止後の巻回体Rは、軸心方向A1の長さを調整するために、両端部のトリミング等を行ってもよい。
【0080】
必要に応じて、膜エレメントの巻回体Rの上流側には、シールキャリア等の上流側端部材が設けられ、下流側にはアンチテレスコープ材等の下流側端部材が設けられる。更に、耐圧性の向上等を目的として、外装材を設けてることも可能である。
【0081】
外装材としては、特に限定されず、各種シート、フィルム、テープ等が挙げられ、必要に応じて、補強のために繊維補強樹脂(FRP)などが使用される。繊維補強樹脂の形成方法としては、繊維に硬化性樹脂を含浸させたロービングを使用して、これを巻回体Rの外周に巻き付ける方法が好ましい。
【0082】
一般的な8インチ径のスパイラル型膜エレメントにおいては、膜リーフLは15~30組程度巻回される。
【0083】
膜エレメントを使用する際は、圧力容器(ベッセル)内に収容され、水処理用エレメントの場合、供給液は膜エレメントの一方の端面側から供給される。供給された供給液は、供給側流路材2に沿って中心管5の軸心方向A1に平行な方向に流れ、膜エレメントの他方の端面側から濃縮液として排出される。また、供給液が供給側流路材2に沿って流れる過程で分離膜1を透過した透過液は、透過側流路材3に沿って流動した後に、孔5aから中心管5の内部に流れ込み、この中心管5の端部から排出される。
【0084】
(供給側流路材)
供給側流路材2は一般に、膜面に流体や気体を満遍なく供給するための間隙を確保する役割を有する。このような供給側流路材2は、例えばネット、編み物、凹凸加工シートなどを用いることができ、適当な厚さを有するものを適宜用いることができる。また、流路材は分離膜1の両面に設置するのが好ましいが、供給液側に設ける供給側流路材2と、透過液側に設ける透過側流路材3として、異なる流路材を用いることが一般的である。供給側流路材2では目が粗く厚いネット状の流路材を用いる一方で、透過側流路材3では目の細かい織物や編物の流路材を用いることが好ましい。
【0085】
例えば、RO膜やNF膜を用いる海水淡水化や排水処理等の用途の場合、供給側流路材2としては、線状物を格子状に配列した網目構造のものを好ましく利用することができる。
【0086】
構成する材料としては特に限定されるものではないが、ポリエチレンやポリプロピレンなどが用いられる。これらの樹脂は殺菌剤や抗菌剤を含有していてもよい。この供給側流路材2の厚さは、一般に0.3~3.0mmであり、0.5~1.0mmが好ましい。厚さが厚すぎると膜エレメントに収容できる膜の有効膜面積とともに透過量が減ってしまい、逆に薄すぎると汚染物質が付着しやすくなるため、透過性能の劣化が生じやすくなる。
【0087】
(中心管)
中心管5は、管の周囲に孔5aを有するものであれば良く、従来のものが何れも使用できる。一般に海水淡水化や排水処理等で用いる場合には、分離膜1を経た透過水が壁面の孔から中心管5中に侵入し、透過側流路を形成する。中心管5の長さは巻回体Rの軸方向長さより長いものが一般的だが、複数に分割するなど連結構造の中心管5を用いてもよい。中心管5を構成する材料としては特に限定されるものではないが、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂が用いられる。
【0088】
(透過側流路材)
透過側流路材3としては、従来のものが何れも使用できる。透過側流路材3は、海水淡水化や排水処理等の用途において、RO膜やNF膜を用いる場合に、例えば図1に示すように、膜リーフLにおいて対向する分離膜1の間に介在するように設けられる。この透過側流路材3には膜にかかる圧力を膜背面から支えるとともに、透過液の流路を確保することが求められる。
【0089】
このような機能を確保するために、トリコット編物により透過側流路材3が形成されていることが好ましく、編物形成後に樹脂補強又は融着処理されたトリコット編物であることがより好ましい。
【0090】
透過側流路材3の構成糸としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンなどが挙げられる。なかでも、加工性と生産性の観点からポリエチレンテレフタレートが特に好ましく用いられる。
【0091】
編物形成後に樹脂補強を行なう場合、繊維中に樹脂を含浸して硬化させたり、繊維表面に樹脂を被覆して硬化させる方法などが挙げられる。補強に使用する樹脂としては、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、などが挙げられる。
【0092】
透過側流路材3の構成糸は、モノフィラメントでもマルチフィラメントでもよいが、一定の太さの構成糸によって、トリコット編物が形成される。トリコット編物のなかでも、直線状に連続する溝の構造が明確なハーフ編みやダブルデンビー編みが好ましい。
【0093】
透過側流路材3の厚みは、0.10~0.40mmが好ましく、0.15~0.35mmがより好ましく、0.20~0.30mmが更に好ましい。厚みが0.10mm以上であると、十分な流路が確保され、透過液の圧力損失を低減できる。また、厚みが0.40mm以下であると、膜エレメントにおける分離膜の有効膜面積が大きくなり、透過側液の流量を増加させ易くなる。透過側流路材3の構成糸は、上記の厚みのトリコット編物を形成する上で、0.1~0.15mmが好ましい。
【0094】
膜エレメントにおいて透過側流路材3を配置する方向は、いずれでもよいが、直線状に連続する溝の方向が周方向に沿った方向で巻回されていることが好ましい。
【0095】
(分離膜)
分離膜1としては、従来のものが何れも使用できる。例えば各種の多孔質膜等を使用することもできるが、多孔性支持体の表面に分離機能層を有する複合半透膜も使用することができる。多孔性支持体としては、不織布層の片面にポリマー多孔質層を有するものが好ましい。分離膜、特に複合半透膜の厚さは70~160μm程度が好ましく、85~130μmがより好ましい。
【0096】
このような多孔質膜ならびに複合半透膜はその濾過性能や処理方法に応じて、UF膜(限外濾過)膜、RO(逆浸透)膜、NF(ナノ濾過)膜、FO(正浸透)膜、ガス分離膜、メンブレンコンタクタ(脱気膜)、PV(浸透気化)膜、VP(蒸気透過)膜、溶剤分離膜と呼ばれ、超純水製造や、海水淡水化、かん水の脱塩処理、排水の再利用処理、二酸化炭素分離、気体分離、溶剤分離などに用いることができる。
【0097】
分離機能層としては、ポリアミド系、ポリイミド系、セルロース系、ポリエーテル系、シリコン系、などの分離機能層が挙げられるが、水処理用の分離膜の場合はポリアミド系の分離機能層を有するものが好ましい。ポリアミド系の分離機能層としては、一般に、視認できる孔のない均質膜であって、所望のイオン分離能を有する。この分離機能層としてはポリマー多孔質層から剥離しにくいポリアミド系薄膜であれば特に限定されるものではないが、例えば、多官能アミン成分と多官能酸ハライド成分とを多孔性支持膜上で界面重合させてなるポリアミド系分離機能層がよく知られている。
【0098】
前記ポリアミド系分離機能層をポリマー多孔質層の表面に形成する方法は特に制限されずにあらゆる公知の方法を用いることができる。例えば、界面重合法、相分離法、薄膜塗布法などの方法が挙げられるが、水処理用の分離膜の場合では特に界面重合法が好ましく用いられる。界面重合法は例えば、ポリマー多孔質層上を多官能アミン成分含有アミン水溶液で被覆した後、このアミン水溶液被覆面に多官能酸ハライド成分を含有する有機溶液を接触させることで界面重合が生じ、スキン層を形成する方法である。
【0099】
以下は水処理用の分離膜について述べる。
【0100】
前記アミン水溶液に含まれる多官能アミン成分は、2以上の反応性アミノ基を有する多官能アミンであり、芳香族、脂肪族、及び脂環式の多官能アミンが挙げられる。前記芳香族多官能アミンとしては、例えば、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、1,3,5-トリアミノベンゼン、1,2,4-トリアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、N,N’-ジメチル-m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノアニソール、アミドール、キシリレンジアミン等が挙げられる。前記脂肪族多官能アミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリス(2-アミノエチル)アミン、n-フェニル-エチレンジアミン等が挙げられる。前記脂環式多官能アミンとしては、例えば、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、4-アミノメチルピペラジン等が挙げられる。これらの多官能アミンは1種で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。特に本発明では、逆浸透膜性能において高阻止率を求める場合には緻密性の高い分離機能層が得られるm-フェニレンジアミンを主成分とすることが好ましく、また、NF膜性能において高いFlux保持率を求める場合にはピペラジンを主成分とすることが好ましい。
【0101】
前記有機溶液に含まれる多官能酸ハライド成分は、反応性カルボニル基を2個以上有する多官能酸ハライドであり、芳香族、脂肪族、及び脂環式の多官能酸ハライドが挙げられる。前記芳香族多官能酸ハライドとしては、例えば、トリメシン酸トリクロライド、テレフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライド、ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、ベンゼントリスルホン酸トリクロライド、ベンゼンジスルホン酸ジクロライド、クロロスルホニルベンゼンジカルボン酸ジクロライド等が挙げられる。前記脂肪族多官能酸ハライドとしては、例えば、プロパンジカルボン酸ジクロライド、ブタンジカルボン酸ジクロライド、ペンタンジカルボン酸ジクロライド、プロパントリカルボン酸トリクロライド、ブタントリカルボン酸トリクロライド、ペンタントリカルボン酸トリクロライド、グルタリルハライド、アジポイルハライド等が挙げられる。前記脂環式多官能酸ハライドとしては、例えば、シクロプロパントリカルボン酸トリクロライド、シクロブタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタントリカルボン酸トリクロライド、シクロペンタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロヘキサントリカルボン酸トリクロライド、テトラハイドロフランテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタンジカルボン酸ジクロライド、シクロブタンジカルボン酸ジクロライド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、テトラハイドロフランジカルボン酸ジクロライド等が挙げられる。これら多官能酸ハライドは1種で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。高塩阻止性能のスキン層を得るためには、芳香族多官能酸ハライドを用いることが好ましい。また、多官能酸ハライド成分の少なくとも一部に3価以上の多官能酸ハライドを用いて、架橋構造を形成することが好ましい。
【0102】
前記多官能酸ハライドを含有させる有機溶媒としては、水に対する溶解度が低く、多孔性支持膜を劣化させることなく、多官能酸ハライド成分を溶解するものであれば特に限定されず、例えば、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、及びノナン等の飽和炭化水素、1,1,2-トリクロロトリフルオロエタン等のハロゲン置換炭化水素などを挙げることができる。好ましくは沸点が300℃以下、さらに好ましくは沸点が200℃以下の飽和炭化水素である。
【0103】
前記アミン水溶液や有機溶液には、各種性能や取り扱い性の向上を目的とした添加剤を加えてもよい。前記添加剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸などのポリマー、ソルビトール、グリセリンなどの多価アルコールや、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、及びラウリル硫酸ナトリウム等の界面活性剤、重合により生成するハロゲン化水素を除去する水酸化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、及びトリエチルアミン等の塩基性化合物、アシル化触媒及び、特開平8-224452号公報記載の溶解度パラメータが8~14(cal/cm1/2の化合物などが挙げられる。
【0104】
前記分離機能層の露出表面には、各種ポリマー成分からなるコーティング層を設けてもよい。前記ポリマー成分は、分離機能層及び多孔性支持膜を溶解せず、また水処理操作時に溶出しないポリマーであれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリエチレングリコール、及びケン化ポリエチレン-酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。これらのうち、ポリビニルアルコールを用いることが好ましく、特にケン化度が99%以上のポリビニルアルコールを用いるか、ケン化度90%以上のポリビニルアルコールを前記スキン層のポリアミド系樹脂と架橋させることで、水処理時に溶出しにくい構成とすることが好ましい。このようなコーティング層を設けることにより、膜表面の電荷状態が調整されるとともに親水性が付与されるため、汚染物質の付着を抑制することができ、さらに本発明との相乗効果によりFlux保持効果をより高めることができる。
【0105】
本発明に用いられる不織布層としては、前記複合半透膜の分離性能および透過性能を保持しつつ、適度な機械強度を付与するものであれば特に限定されるものではなく、市販の不織布を用いることができる。この材料としては例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、セルロースなどからなるものが用いられ、複数の素材を混合したものも使用することができる。特に成形性の点ではポリエステルを用いることが好ましい。また適宜、長繊維不織布や短繊維不織布を用いることができるが、ピンホール欠陥の原因となる微細な毛羽立ちや膜面の均一性の点から、長繊維不織布を好ましく用いることができる。
【0106】
前記ポリマー多孔質層としては、前記ポリアミド系分離機能層を形成しうるものであれば特に限定されないが、通常、0.01~0.4μm程度の孔径を有する微多孔層である。前記微多孔層の形成材料は、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンに例示されるポリアリールエーテルスルホン、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデンなど種々のものをあげることができる。特に化学的、機械的、熱的に安定である点からポリスルホン、ポリアリールエーテルスルホンを用いたポリマー多孔質層を形成することが好ましい。
【0107】
(保護層)
分離膜1の供給側面には、内周側端部(屈曲部)に沿って設けられた保護層を備えることが好ましい。このような保護層により、屈曲部の分離膜1が供給側に露出する場合と比較して、分離膜1を損傷しにくくすることができる。
【0108】
保護層は、分離膜1の供給側面の屈曲部の中心線に対して、保護層の両端が平行になるように形成することが好ましく、屈曲部の中心線が保護層の中央に配置されることがより好ましい。
【0109】
このような保護層としては、粘着テープ、フィルムの接着、樹脂塗工、などが挙げられるが、形成工程の簡易性や材料の溶出性の観点から、粘着テープを用いることが好ましい。
【0110】
(スパイラル型膜エレメントの別の実施形態)
以上の説明に於いては、本発明の最も好適な水処理用分離膜の実施態様について説明した。しかし、本発明は当該実施態様に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一の範囲で種々の変更が可能であり、各用途のスパイラル型膜エレメントに適用される。
【0111】
即ち、前記の実施態様に於いては、図2A図2Cに示すように、供給側流路材2を挟みこむように二つ折りにした分離膜1の上に、透過側流路材3を重ねて、接着剤4,6を塗布する例で説明した。しかし、本発明では、透過側流路材3の上に二つ折りにした分離膜1を重ねその上に接着剤4,6を塗布することも可能である。更に、連続した分離膜1を用いて、外周側封止部12を不要にしてもよい。
【0112】
以上では、主に液体分離用途のスパイラル型膜エレメントの例について説明したが、気体分離用途のスパイラル型膜エレメントについても、分離膜の材質が異なるだけで、基本的な構造、構成部材、組立方法は、液体分離用途のスパイラル型膜エレメントと同様である。また、気体分離用途の場合も、液体分離用途と同様に、封止部の潜在的な欠陥が生じる場合があり、本発明の検査方法が有効となる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明によると、スパイラル型膜エレメントを解体せずに、使用後にリークの原因となり易い部分の状態を観察できるスパイラル型膜エレメントの検査方法を提供することができる。このため、分離膜の内周側端部の周辺における封止構造の信頼性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0114】
1 :分離膜
5 :中心管
13 :中央側封止部(封止部)
20 :検査プローブ
21 :超音波探触子
25 :反射体
30 :超音波観測装置
A1 :軸心方向
R :巻回体
S :段差
S1 :超音波(エネルギー波)
S2 :反射波
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10