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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038606
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】車両用ドア構造
(51)【国際特許分類】
   B60J 5/00 20060101AFI20240313BHJP
【FI】
B60J5/00 501E
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142728
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120514
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 雅人
(72)【発明者】
【氏名】濱端 智之
(57)【要約】
【課題】サービスホールカバーに熱変形を生じた場合であっても、ドアインナパネルに設けられているサービスホールから車室内側に水漏れが生じることを適切に防止または抑制することが可能な車両用ドア構造を提供する。
【解決手段】車両用ドア構造Aは、ドアインナパネル10のサービスホール14の周縁部に設けられ、かつこの周縁部の最内周寄り部分が車室外側に向けて屈曲して突出した形態のフランジ部15と、サービスホールカバー2に設けられ、かつサービスホールカバー2の一般部分よりも車室外側に膨出してサービスホール14に進入する膨出部21と、を備えており、膨出部21およびフランジ部15は、それらの相互間領域Sa,Sbを水が通過することを抑制することが可能な状態に対向接近している。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用ドアの一部を構成し、かつサービスホールが設けられているドアインナパネルと、
前記サービスホールを塞ぐように前記ドアインナパネルの車室内側の片面に対向して取付けられるサービスホールカバーと、
を備えている、車両用ドア構造であって、
前記ドアインナパネルの前記サービスホールの周縁部に設けられ、かつこの周縁部の最内周寄り部分が車室外側に向けて屈曲して突出した形態のフランジ部と、
前記サービスホールカバーに設けられ、かつ前記サービスホールカバーの一般部分よりも車室外側に膨出して前記サービスホールに進入する膨出部と、
をさらに備えており、
前記膨出部および前記フランジ部は、それらの相互間領域を水が通過することを抑制可能な状態に対向接近していることを特徴とする、車両用ドア構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両用ドア構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ドア構造の具体例としては、たとえば特許文献1,2に記載された構造がある。
これらの文献に記載された車両用ドア構造においては、車両のサイドドアを構成するドアインナパネルに設けられているサービスホールが、樹脂成形品であるサービスホールカバーによって塞がれている。車両の側突検知手段として、車両の側突が発生した際のサイドドア内の気圧の変化を検知する手段があり、サービスホールをたとえば軟質なシート状部材で覆ったのでは、車両の側突発生時における気圧変化が緩やかとなり、側突検知精度が低下する。これに対し、樹脂成形品であるサービスホールカバーを用いれば、車両の側突検知精度を高めることが可能である。
【0003】
しかしながら、前記従来技術においては、次に述べるように、未だ改善すべき余地があった。
【0004】
すなわち、前記したサービスホールカバーは、サービスホールを隙間なく塞ぐように取付けられる。このため、本来ならば、サイドドア内に窓部から進入した雨水などの水が、サービスホールから車室内側に流入することも、サービスホールカバーによって適切に阻止されるはずである。ところが、実際には、サービスホールカバーには、周辺環境の温度変化に対応した熱変形が生じるため、このサービスホールカバーとドアインナパネルとの相互間に隙間が発生する場合がある。その結果、車両用ドア内の水が前記隙間を通過して車室内側に流入する虞があった。このような虞は、適切に解消することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-78775号公報
【特許文献2】特開2019-166950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記したような事情のもとで考え出されたものであり、サービスホールカバーに熱変形を生じた場合であっても、ドアインナパネルに設けられているサービスホールから車室内側に水漏れが生じることを適切に防止または抑制することが可能な車両用ドア構造を提供することを、その課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0008】
本発明により提供される車両用ドア構造は、車両用ドアの一部を構成し、かつサービスホールが設けられているドアインナパネルと、前記サービスホールを塞ぐように前記ドアインナパネルの車室内側の片面に対向して取付けられるサービスホールカバーと、を備えている、車両用ドア構造であって、前記ドアインナパネルの前記サービスホールの周縁部に設けられ、かつこの周縁部の最内周寄り部分が車室外側に向けて屈曲して突出した形態のフランジ部と、前記サービスホールカバーに設けられ、かつ前記サービスホールカバーの一般部分よりも車室外側に膨出して前記サービスホールに進入する膨出部と、をさらに備えており、前記膨出部および前記フランジ部は、それらの相互間領域を水が通過するこ
とを抑制可能な状態に対向接近していることを特徴としている。
【0009】
このような構成によれば、次のような効果が得られる。
第1に、ドアインナパネルのサービスホールの周縁部に設けられたフランジ部と、サービスホールに進入したサービスホールカバーの膨出部とは、互いに対向接近しているため、これらの相互間領域に、雨水などの水が進入した場合に、水の表面張力によってこの水が前記相互間領域において止められる止水作用が得られる。サービスホールカバーに熱変形を生じたとしても、前記したフランジ部と膨出部との位置関係に大きなズレが生じない限りは、前記した止水作用が得られる。また、サービスホールカバーに熱変形を生じる場合、その膨出部とドアインナパネルのフランジ部とが対向接近する位置関係が大きく崩れることはないと考えられる。このようなことから、サービスホールカバーに熱変形を生じた場合であっても、車両用ドア内の水が、サービスホールから車室内側に漏れることを適切に防止または抑制することが可能である。
第2に、前記したフランジ部と膨出部との相互間領域は、この領域に進行してきた水を、サービスホールの形成箇所よりも下方に導く流路として役立たせることも可能である。また、フランジ部は、サービスホールの形成箇所よりも上側の位置からサービスホールに向けてドアインナパネルの車室外側の片面を伝ってきた水を受けて、サービスホールの横に導くガイドとして役立たせることが可能である。このようなことにより、サービスホールの形成箇所に向けて、多くの水が流れることは適切に防止可能である。その結果、サービスホールとドアインナパネルとの隙間から車室内側に水が漏れることを一層適切に防止することができる。
第3に、サービスホールカバーには、膨出部が設けられているため、サービスホールカバーの剛性を大きくし、熱変形にも強いものとすることが可能である。また、サービスホールカバーを、ドアインナパネルに取付けるときには、膨出部をサービスホールに進入させるようにすればよいため、サービスホールカバーの取付け作業の容易化なども図ることが可能である。
第4に、全体の構成が簡易であり、重量の増大や製造コストの上昇を抑制することも可能である。
【0010】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行なう発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(a)は、本発明に係る車両用ドア構造の一例を示す車室内側から視た概略正面図であり、(b)は、(a)の要部分解概略正面図であり、(c)は、(a)のIc-Ic概略断面図である。
図2】(a)は、図1(a)の要部拡大正面図であり、(b)は、(a)のIIb-IIb断面図である。
図3図2(b)の分解断面図である。
図4図2(a)のIV-IV断面図である。
図5図2(a)のV-V断面図である。
図6図1図5に示すサービスホールカバーの車室内側から視た正面図である。
図7図6の背面図(車室外側から視た図)である。
図8図7に示した構成における作用説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0013】
図1に示す車両用ドア構造Aは、車体側部に取リ付けられるサイドドア1、およびサービスホールカバー2を備えている。
【0014】
サイドドア1は、本発明でいう車両用ドアの一例に相当し、金属製のドアインナパネル10と、ドアアウタパネル12((図1(c)に一部を示す)とが組み合わされて構成されており、また窓部13を備えている。この窓部13からサイドドア1内に雨水などが入る虞がある。このサイドドア1の前端寄り領域は、不図示のヒンジ部を介して車体に対して水平回転可能に連結され、車体のドア用開口部を開閉可能である。サイドドア1内には、窓ガラス昇降用機構やその他の機器・部品類が配設されているが、これらの説明は省略する。
【0015】
ドアインナパネル10には、たとえば上下2つのサービスホール14(14a,14b)が設けられている。図2図5によく表われているように、サービスホール14a,14bの周縁部には、フランジ部15(15a,15b)が設けられている。各フランジ部15は、各サービスホール14の周縁部の最内周寄り部分が車室外側に向けて屈曲して突出した部位であり、各サービスホール14の周縁部の全周にわたる正面視ループ状である。
【0016】
サービスホールカバー2は、たとえば樹脂成形品であり、ドアインナパネル10の車室内側の片面に対向して取付けられることにより、2つのサービスホール14a,14bを一括して塞ぐように構成されたものである。
このサービスホールカバー2は、シール面形成部20、膨出部21(21a,21b)、および複数の取付け孔形成部22(22a~22b)を備えている。
【0017】
シール面形成部20は、サービスホールカバー2の一般部分(非膨出部)に相当する部分であり、エプトシーラなどのシール材3(図7図8では網点模様を付している)を介してドアインナパネル10に対向接触し、ドアインナパネル10との間で止水シールを図る部分である。
取付け孔形成部22a~22cにそれぞれ設けられている孔部、およびこれに対応して設けられたドアインナパネル10の孔部19a~19cには、取付けクリップ8a~8cが差し込まれている(図2参照)。これら取付けクリップ8a~8cを利用し、ドアインナパネル10へのサービスホールカバー2の取付けが図られている。ただし、取付けクリップ8a~8cに代えて、ネジ止めなどの他の手段を採用することもできる。
【0018】
サービスホールカバー2の膨出部21a,21bは、シール面形成部20よりも車室外側に膨出する部分であり、サービスホール14a,14bに対応した形状およびサイズである。サービスホールカバー2は、それら膨出部21a,21bが、サービスホール14a,14bに進入するように設定される。
図4によく表われているように、サービスホールカバー2の取付け状態においては、膨出部21aの側壁部210と、ドアインナパネル10のフランジ部15aとは、互いに対向接近している。それら側壁部210とフランジ部15aとの相互間の領域Saは、サービスホール14aの周縁部全周にわたって形成されている(図2も参照)。前記領域Saの最小幅は、たとえば2~3mm程度であり、後述するように、この領域Saに雨水などの水が進入した場合に、この水が表面張力によって水膜状となり、それ以上に車室内側に進行しないようにし得る幅である。
【0019】
図5に示すように、膨出部21bの側壁部210と、ドアインナパネル10のフランジ部15bとの相互間の領域Sbも、図4に示した領域Saと同様な幅とされている。また、領域Sbは、サービスホール14bの周縁部全周にわたって形成されている(図2も参照)。
【0020】
図4および図5によく表われているように、膨出部21(21a,21b)の側壁部2
10の基部と、シール面形成部20との相互間領域には、車室内側に窪んだ凹部23が形成されている。これは、仮に、水が前記した領域Sa,Sbを車室内側に通過したとしても、シール面形成部20には水を到達させ難くする効果を生じさせる。
【0021】
膨出部21aには、水ガイド用のリブ24a,24bが設けられ、膨出部21bには、水ガイド用のリブ24cが設けられている(図7図8では、太線で示している)。リブ24a~24cは、これらの上側から進行してきた水を受け止め、かつこれを下方に導く役割を果たす。
ドアインナパネル10のうち、サービスホールカバー2の取付け箇所の最下部には、水抜き孔18が設けられている(図2図8においてその位置を仮想線で示す)。
【0022】
次に、前記した車両用ドア構造Aの作用について説明する。
【0023】
図4および図5を参照して説明したように、サービスホール14(14a,14b)の周縁部に設けられたフランジ部15(15a,15b)と、サービスホールカバー2の膨出部21(21a,21b)の側壁部210とは、互いに対向接近し、所定の幅の領域Sa,Sbを形成している。雨水などの水が、矢印Na,Na’に示すように進行し、それらの領域Sa,Sbに進入すると、この水はその表面張力によりそれ以上は車室内側に進行しない、または進行し難い。この領域Sa,Sbに進入した水は、この領域Sa,Sbの下方に流れていく。
また、仮に、水が前記した領域Sa,Sbを車室内側に通過したとしても、この水は凹部23に進入するため、シール面形成部20には到達し難い。さらに、シール面形成部20においては、シール材3を用いた止水シールが的確に図られる。このようなことから、サービスホール14から車室内側への水漏れは適切に防止される。
【0024】
サービスホールカバー2が熱変形を生じた場合には、たとえばシール面形成部20に歪みが生じ、シール面形成部20の一部における止水シール性能が低下する虞がある。ところが、本実施形態においては、水がシール面形成部20の位置に到達し難くされているため、シール面形成部20の一部における止水シール性能が低下したとしても、このことによって直ちに水漏れが生じることはない。前記した領域Sa,Sbの止水シール性能は、膨出部21の側壁部210とフランジ部15との相互間に適当な微小隙間があれば得られるため、サービスホールカバー2の熱変形に起因して、それらの領域Sa,Sbの止水シール性能が大きく低下することもない。このようなことから、サービスホールカバー2に熱変形が生じた場合においても、車室内側への水漏れを適切に防止することが可能である。
【0025】
図4および図5において、矢印Nb,Nb’に示すように、ドアインナパネル10の内面(車室外側を向く片面)を伝い、サービスホール14a,14bに向かって流れる水は、フランジ部15a,15bに当たり、塞き止められる。このため、前記水がそのままサービスホール14a,14bに進入して凹部23側に進行することも解消される。
【0026】
さらに、矢印Nc,Nc’に示すように、サービスホールカバー2の膨出部21a,21bの先端部側からサービスホール14a,14bに向けて流れる水の一部は、リブ24a~24cに当たり、それ以上サービスホール14a,14b側に流れることは阻止される。また、リブ24a~24cに当たった水は、その後リブ24a~24cに沿って下方へ流れていく。
このような点を簡単に纏めると、サービスホールカバー2のループ状のシール材3の内側領域においては、たとえば図8の矢印で示すような経路で水が流れるようにガイドされる。このような水のガイドは、サービスホールカバー2が熱変形を生じたときに、止水シール性能が低下する箇所に水ができる限り進行しないようにするものである。前記した水
は、最終的には、水抜き孔18からその下方へ適切に排出される。
【0027】
その他、本実施形態によれば、サービスホールカバー2には膨出部21が設けられ、またドアインナパネル10のサービスホール14の周縁部には、フランジ部15が設けられているため、それらの剛性が高められ、熱変形に強いものとすることが可能である。サービスホールカバー2を、ドアインナパネル10に取付けるときには、膨出部21をサービスホール14に進入させるように設定すればよいため、サービスホールカバー2の取付け作業の容易化なども図られる。
【0028】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。本発明に係る車両用ドア構造の各部の具体的な構成は、本発明の意図する範囲内において種々に設計変更自在である。
【0029】
本発明が適用される車両用ドアは、回転式のサイドドアに限定されない。たとえば、スライド式のサイドドアや、車両後部に取付けられるバックドアを適用対象とすることもできる。
また、ドアインナパネルに設けられるサービスホールの数は限定されない。さらに、上述の実施形態においては、2つのサービスホールを1つのサービスホールカバーによって塞ぐようにしているが、1つのサービスホールカバーは、1つのサービスホールのみを塞ぐものとして構成することもできる。
サービスホールカバーの具体的な形状、サイズ、材質なども限定されず、これらはサービスホールなどに対応させて種々に変更できる。
【0030】
上述した実施形態では、ドアインナパネルのサービスホールの周縁部のフランジ部と、サービスホールカバーの膨出部とが対向接近する領域は、サービスホールの周縁部の全周にわたって設けられており、このような構成を採用することが好ましい。ただし、本発明はこれに限定されない。本発明においては、たとえばサービスホールカバーに熱変形を生じたときに、他の部分と比較して止水シール性が低下すると考えられる箇所に対応し、サービスホールの周縁部の一部分のみにフランジ部と膨出部とが対向接近する領域が設けられた構成とすることもできる(つまり、サービスホールの周縁部のフランジ部は、周縁部の一部のみに設けられていてもよいし、サービスホールカバーの膨出部は、その全周が前記フランジ部と対向した配置になくてもよい)。
【符号の説明】
【0031】
A 車両用ドア構造
1 サイドドア(車両用ドア)
10 ドアインナパネル
14(14a,14b) サービスホール
15(15a,15b) フランジ部
2 サービスホールカバー
21(21a,21b) 膨出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8