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特開2024-38617墨出しロボットシステムおよび墨出しロボットの制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038617
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】墨出しロボットシステムおよび墨出しロボットの制御方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/18 20060101AFI20240313BHJP
   G05D 1/49 20240101ALI20240313BHJP
   G01C 15/00 20060101ALI20240313BHJP
   G01C 15/02 20060101ALI20240313BHJP
   B25H 7/04 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
E04G21/18 B ESW
G05D1/08 Z
G01C15/00 104C
G01C15/02
B25H7/04 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142751
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】504373093
【氏名又は名称】日立チャネルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊地 伸治
【テーマコード(参考)】
2E174
5H301
【Fターム(参考)】
2E174DA41
5H301BB03
5H301BB20
5H301CC03
5H301CC06
5H301CC08
5H301GG08
5H301GG09
5H301GG10
5H301LL01
5H301LL06
5H301LL07
(57)【要約】
【課題】墨出しロボットの墨出し作業の効率を向上すること。
【解決手段】墨出しロボットシステム1は、障害物を検知するセンサ26を搭載し、位置測定装置4により測定された位置情報に基づいて作業現場FLを走行し、墨出し位置で印字する墨出しロボット2と、作業現場の構造物5の位置を設定し、墨出しロボットに墨出し処理を指示する操作装置3を備え、墨出しロボットは、構造物の所定範囲を注意エリア6として設定し、注意エリア内の所定の墨出し位置MP2へ移動する際に経由する中継点RPを設定し、中継点から所定の墨出し位置へ移動する際に、センサの検知感度を注意エリア外の通常エリア9で使用される通常値よりも低下させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
墨出しロボットシステムであって、
障害物を検知するセンサを搭載し、位置測定装置により測定された位置情報に基づいて作業現場を走行し、墨出し位置で印字する墨出しロボットと、
前記作業現場の構造物の位置を設定し、前記墨出しロボットに墨出し処理を指示する操作装置を備え、
前記墨出しロボットは、
前記操作装置により設定された構造物の所定範囲を注意エリアとして設定し、
前記注意エリア内の所定の墨出し位置へ移動する際に経由する中継点を設定し、
前記中継点から前記所定の墨出し位置へ移動する際に、前記センサの検知感度を前記注意エリア外の通常エリアで使用される通常値よりも低下させる
墨出しロボットシステム。
【請求項2】
前記墨出しロボットは、前記中継点から前記所定の墨出し位置へ走行を開始した際の姿勢で印字できるように、前記中継点を設定する
請求項1に記載の墨出しロボットシステム。
【請求項3】
前記墨出しロボットは、前記中継点から前記所定の墨出し位置へ移動する際に、前記センサの検知感度を前記通常値よりも低下させるとともに、移動速度も前記通常エリアにおける通常速度よりも低下させる
請求項2に記載の墨出しロボットシステム。
【請求項4】
前記墨出しロボットは、前記注意エリアにおける前記センサの検知感度または移動速度の少なくともいずれか一方を、前記通常値または通常速度よりも複数段階で低下させる
請求項3に記載の墨出しロボットシステム。
【請求項5】
前記墨出しロボットは、前記所定の墨出し位置で印字すると、印字したときの姿勢で、前記所定の墨出し位置から前記中継点まで戻る
請求項4に記載の墨出しロボットシステム。
【請求項6】
前記墨出しロボットは、前記中継点から前記所定の墨出し位置へ移動中に、前記センサにより障害物が検知されると、その場で停止してそのままの姿勢で前記中継点へ戻る
請求項5に記載の墨出しロボットシステム。
【請求項7】
前記墨出しロボットは、前記所定の墨出し位置で印字できなかった場合は、その旨を前記操作装置に通知する
請求項6に記載の墨出しロボットシステム。
【請求項8】
前記墨出しロボットは、前記通常エリアの各座標点のうち、前記所定の墨出し位置への距離が最も短くなる座標点を前記中継点として選択する
請求項1に記載の墨出しロボットシステム。
【請求項9】
前記墨出しロボットは、前記中継点から前記所定の墨出し位置までの経路が前記作業現場の通り芯に対して平行または垂直となる、前記通常エリアの各座標点の中から、前記所定の墨出し位置までの距離が最も短くなる座標点を前記中継点として選択する
請求項8に記載の墨出しロボットシステム。
【請求項10】
前記墨出しロボットは、前記構造物の外縁を拡大することにより前記注意エリアを設定する
請求項1に記載の墨出しロボットシステム。
【請求項11】
前記墨出しロボットは、前記構造物の外縁を拡大して得られるエリアが所定値以上大きい場合には、前記エリアの頂点の領域を所定量削除することにより前記注意エリアを設定する
請求項10に記載の墨出しロボットシステム。
【請求項12】
前記操作装置は、前記構造物の位置を、前記作業現場の実測、手動設定、3次元設計データ、前記作業現場を撮影した画像の解析、のいずれかまたは複数を用いて設定する
請求項1に記載の墨出しロボットシステム。
【請求項13】
墨出しロボットの制御方法であって、
前記墨出しロボットは、障害物を検知するセンサを搭載しており、位置測定装置で測定された位置情報に基づいて作業現場を走行して、墨出し位置で印字するものであり、
操作装置により設定された構造物の所定範囲を注意エリアとして設定し、
前記注意エリア内の所定の墨出し位置へ移動する際に経由する中継点を設定し、
前記中継点から前記所定の墨出し位置へ移動する際に、前記センサの検知感度を前記注意エリア外の通常エリアで使用される通常値よりも低下させる
墨出しロボットの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、墨出しロボットシステムおよび墨出しロボットの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建設現場においては、これまで熟練者でしか実施できなかった墨出し等の作業をロボットで自動化する動きが広まっている。このような墨出しを自動的に行う墨出しロボットシステムは、例えば、特許文献1に開示されている。
【0003】
墨出しに関する技術ではないが、地図データを補正する技術としては、特許文献2が知られている。特許文献2は、「地図と実空間との差異又は誤差を検出し、検出結果を用いて、地図について、構造物の状況を反映するように補正する」技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-043114号公報
【特許文献2】特開2021-196489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、熟練者が実施していた墨出し作業では、建物の作業現場全体の墨出し作業を手動で行っていた。特許文献1に記載の墨出しロボットでは、所定条件下で、墨出し作業を自動的に実施することができる。しかし、壁または開口部などの構造物の近辺では、墨出しロボットと構造物とが物理的に干渉する可能性がある。したがって、自動的に墨出し作業を行う範囲について改善の余地がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、墨出しロボットの墨出し作業の効率を向上できるように的に実施できるようにした墨出しロボットシステムおよび墨出しロボットの制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、墨出しロボットシステムは、障害物を検知するセンサを搭載し、位置測定装置により測定された位置情報に基づいて作業現場を走行し、墨出し位置で印字する墨出しロボットと、作業現場の構造物の位置を設定し、墨出しロボットに墨出し処理を指示する操作装置を備え、墨出しロボットは、操作装置により設定された構造物の所定範囲を注意エリアとして設定し、注意エリア内の所定の墨出し位置へ移動する際に経由する中継点を設定し、中継点から所定の墨出し位置へ移動する際に、センサの検知感度を注意エリア外の通常エリアで使用される通常値よりも低下させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、注意エリア内の所定の墨出し位置へ墨出しロボットを移動させる場合に、センサの検知感度を通常値よりも低下させるため、墨出しロボットを構造物に近づけて所定の墨出し位置で印字させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】墨出しロボットシステムの全体概要を示す説明図である。
図2】墨出しロボットシステムの機能構成を示す図である。
図3】墨出しロボットの概略を示す斜視図である。
図4】墨出し作業の全体処理を示すフローチャートである。
図5】壁エリアを設定する方法を示すフローチャートである。
図6】壁エリアを実測で設定する際に使用される画面例である。
図7】墨出しロボットの走行経路を生成する処理を示すフローチャートである。
図8】壁エリアの外側に注意エリアを設定する処理のフローチャートである。
図9】走行経路を設定する一つの例を示す説明図である。
図10】走行経路を設定する他の例を示す説明図である。
図11】注意エリアの設定例を示す説明図である。
図12】墨出しロボットが作業現場を移動して墨出しする処理を示すフローチャートである。
図13】第2実施例に係り、墨出しロボットによる墨出し処理を示すフローチャートである。
図14】第3実施例に係り、墨出し作業の結果を作業者に提供する処理を示すフローチャートである。
図15】第4実施例に係り、墨出しロボットによる墨出し処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。本発明は、以下に説明する実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の技術思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。また、以下に説明する実施例の構成において、同一機器、同様の動作や機能を有する部分には同一の符号を用いて、重複する説明を省略することがある。また、図面に示す各構成の位置、大きさ、形状、範囲などは本発明の理解を容易にするようにしており、実際の各構成の位置、大きさ、形状、範囲などを表しているわけではない。例えば、実施例で述べる墨出しロボットの構成は一例であり、実施例に記載された構成に限定されない。
【0011】
本実施形態に開示される墨出しロボットシステム1は、位置測定装置4で測定された位置情報に基づいて作業現場FLを走行する墨出しロボット2と、作業者(墨出しロボット2のオペレータ)により操作される操作装置3を備える(図1参照)。
【0012】
墨出しロボット2は、図2に示すように、例えば、墨出し印字を行うプリンタ22と、プリンタ22を移動可能とするプリンタ駆動部212と、プリンタ22およびプリンタ駆動部212を搭載して移動する移動体20と、プリンタ22とプリンタ駆動部212および移動体20を制御する墨出しロボット制御部210を備える。
【0013】
位置測定装置4は、例えば、自動追尾型3次元測量機として構成されており、墨出しロボット2の作業現場FLにおける位置を計測して、その位置計測結果(位置情報)を墨出しロボット制御部210へ通知する。
【0014】
操作装置3は、墨出しロボット制御部210と通信し、墨出しロボット制御部210に墨出し処理を指示する。
【0015】
墨出しロボット制御部210は、通信部24を用いて、位置測定装置4および操作装置3との間で、情報を送受信する。墨出しロボット制御部210は、基本墨出し情報と基本墨出し情報に対応する編集可能情報とで構成された墨出し情報を記憶する。
【0016】
操作装置3は、墨出し情報を取込み、編集可能情報を作業者が編集するための編集画面を表示し、編集画面における操作結果に基づきカスタマイズされた墨出し情報を生成し墨出しロボット制御部210へ送信する。墨出しロボット制御部210は、カスタマイズされた墨出し情報にしたがって墨出し印字を行う。
【0017】
本開示に係る墨出しロボットシステムによれば、墨出しロボット2の走行が難しかった構造物に近いエリア内でも墨出しできる可能性が増加するため、墨出しロボット2による墨出し作業の効率が改善する。
【0018】
本開示には、以下の構成を備えるシステムまたは方法が含まれる。
【0019】
(表現1)墨出しロボットシステムであって、障害物5を検知するセンサ26を搭載し、位置測定装置4により測定された位置情報に基づいて作業現場FLを走行し、墨出し位置MPで印字する墨出しロボット2と、前記作業現場FLの構造物5の位置を設定し、前記墨出しロボット2に墨出し処理を指示する操作装置3を備え、前記墨出しロボット2は、前記操作装置3により設定された構造物5の所定範囲を注意エリア6として設定し、前記注意エリア6内の所定の墨出し位置MP2へ移動する際に経由する中継点RPを設定し、前記中継点RPから前記所定の墨出し位置MP2へ移動する際に、前記センサ26の検知感度を前記注意エリア6外の通常エリア9で使用される通常値よりも低下させる墨出しロボットシステム。
【0020】
(表現2)前記墨出しロボットは、前記中継点から前記所定の墨出し位置へ走行を開始した際の姿勢で印字できるように、前記中継点を設定する表現1に記載の墨出しロボットシステム。
【0021】
(表現3)前記墨出しロボットは、前記中継点から前記所定の墨出し位置へ移動する際に、前記センサの検知感度を前記通常値よりも低下させるとともに、移動速度も前記通常エリアにおける通常速度よりも低下させる表現1,2のいずれか一つに記載の墨出しロボットシステム。
【0022】
(表現4)前記墨出しロボットは、前記注意エリアにおける前記センサの検知感度または移動速度の少なくともいずれか一方を、前記通常値または通常速度よりも複数段階で低下させる表現1-3のいずれか一つに記載の墨出しロボットシステム。
【0023】
(表現5)前記墨出しロボットは、前記所定の墨出し位置で印字すると、印字したときの姿勢で、前記所定の墨出し位置から前記中継点まで戻る
表現1-4のいずれか一つに記載の墨出しロボットシステム。
【0024】
(表現6)前記墨出しロボットは、前記中継点から前記所定の墨出し位置へ移動中に、前記センサにより障害物が検知されると、その場で停止してそのままの姿勢で前記中継点へ戻る表現1-5のいずれか一つに記載の墨出しロボットシステム。
【0025】
(表現7)前記墨出しロボットは、前記所定の墨出し位置で印字できなかった場合は、その旨を前記操作装置に通知する表現1-6のいずれか一つに記載の墨出しロボットシステム。
【0026】
(表現8)前記墨出しロボットは、前記通常エリアの各座標点のうち、前記所定の墨出し位置への距離が最も短くなる座標点を前記中継点として選択する表現1-7のいずれか一つに記載の墨出しロボットシステム。
【0027】
(表現9)前記墨出しロボットは、前記中継点から前記所定の墨出し位置までの経路が前記作業現場の通り芯に対して平行または垂直となる、前記通常エリアの各座標点の中から、前記所定の墨出し位置までの距離が最も短くなる座標点を前記中継点として選択する表現1-8のいずれか一つに記載の墨出しロボットシステム。
【0028】
(表現10)前記墨出しロボットは、前記構造物の外縁を拡大することにより前記注意エリアを設定する表現1-9のいずれか一つに記載の墨出しロボットシステム。
【0029】
(表現11)前記墨出しロボットは、前記構造物の外縁を拡大して得られるエリアが所定値以上大きい場合には、前記エリアの頂点の領域を所定量削除することにより前記注意エリアを設定する表現1-10のいずれか一つに記載の墨出しロボットシステム。
【0030】
(表現12)前記操作装置は、前記構造物の位置を、前記作業現場の実測、手動設定、3次元設計データ、前記作業現場を撮影した画像の解析、のいずれかまたは複数を用いて設定する表現1-11のいずれか一つに記載の墨出しロボットシステム。
【0031】
(表現13)墨出しロボットの制御方法であって、前記墨出しロボットは、障害物を検知するセンサを搭載しており、位置測定装置で測定された位置情報に基づいて作業現場を走行して、墨出し位置で印字するものであり、操作装置により設定された構造物の所定範囲を注意エリアとして設定し、前記注意エリア内の所定の墨出し位置へ移動する際に経由する中継点を設定し、前記中継点から前記所定の墨出し位置へ移動する際に、前記センサの検知感度を前記注意エリア外の通常エリアで使用される通常値よりも低下させる墨出しロボットの制御方法。
【実施例0032】
図1図12を用いて第1実施例を説明する。墨出しロボットシステム1の構成について、図1図3を用いて説明する。図1は、墨出しロボットシステム1の全体概要を示す説明図である。図2は、墨出しロボットシステム1の機能構成を示す図である。図3は、墨出しロボット2の概略を示す斜視図である。
【0033】
図1に示すように、墨出しロボットシステム1は、例えば、墨出しロボット2と、墨出しロボット2の位置を計測する「位置測定装置」の一例としての追尾型三次元計測器4と、作業者により操作される操作装置3とを含む。
【0034】
建築現場または工事現場などの作業現場FLには、例えば壁または柱などの構造物5が存在する場合がある。構造物5の中には、壁や柱などの恒久的物体以外に、比較的長期間存在する一時的構造物もあり得る。構造物5を壁エリア5とも呼ぶ。
【0035】
構造物5の近辺にも、例えば、コンセント、配管の通し穴などの位置を示す墨点(墨出し点、墨出し位置とも呼ぶ)を印字することがある。構造物(壁エリア)5の近辺の墨点を印字する場合、墨出しロボット2は構造物5に近づく必要がある。しかし、墨出しロボット2には、後述のように安全走行を実現するための安全走行センサの例として、前方センサ26が搭載されている。このため、前方センサ26が構造物5の存在を検知してしまい、構造物5の近辺の墨点(図1では、所定の墨出し位置MP2)に近づくことができない可能性がある。
【0036】
そこで、本実施例では、構造物5の外側に注意エリア6を設定し、墨出しロボット2は、注意エリア6内での前方センサ26の検知感度を、通常エリア9での検知感度(通常値)よりも低下させる。さらに、墨出しロボット2は、注意エリア6での移動速度を通常エリア9での通常速度よりも低下させる。これにより、墨出しロボット2は、注意エリア6内を所定の墨点MP2に向けて低速で近づくことができる。
【0037】
さらに、本実施例では、墨出しロボット2が注意エリア6内の所定の墨点MP2へ安全に到達するために、通常エリア9と注意エリア6との境界に中継点RPを設定する。墨出しロボット2は、直前の作業位置である墨点MP1から中継点RPへ移動する。
【0038】
墨出しロボット2は、中継点RPに到達すると、所定の墨点MP2に向けて姿勢を合わせ、移動速度およびセンサ検知感度を低下させる。そして、墨出しロボット2は、中継点RPから所定の墨点MP2に向けて低速で走行し、所定の墨点MP2で印字する。印字が終了すると、墨出しロボット2は、そのままの姿勢で中継点RPまで後進する。
【0039】
すなわち、中継点RPは、墨出しロボット2が中継点RPから出発したときの姿勢で、所定の墨点MP2で印字できるように設定される。プリンタ22は、フレーム200の中心よりも前側寄りに設けられており、前方バンパ201に近い位置にある。したがって、墨出しロボット2が所定の墨点MP2の方向を向くことにより、プリンタ22の位置を構造物5に近づけることができる。
【0040】
また、墨出しロボット2が注意エリア6内で旋回などして姿勢を変えると、構造物5に接触する可能性もある。旋回などにより接触を防止するためには、墨出しロボット2が注意エリア6内で回転できるように、注意エリア6の幅を広げる必要があり、低速で移動する面積が増えて墨出し作業の時間が長くなる。
【0041】
墨出しロボット2は、基準芯BLと平行または垂直に、所定の墨点MP2へ向けて移動することができる。中継点RPの候補が複数ある場合、中継点RPから所定の墨点MP2までの移動距離が最短になる中継点RPが選択される。
【0042】
墨出しロボット2は、所定の墨点MP2での印字が終了すると、印字終了時の姿勢で中継点RPまで後進する。すなわち、墨出しロボット2は、180度回転などせずに、そのまま後進する。墨出しロボット2は、中継点RPまで戻ると、前方センサ26の検知感度を通常値に戻すとともに、移動速度も通常速度に戻す。そして、墨出しロボット2は、次の作業位置である墨点MP3へ向けて移動する。
【0043】
注意エリア6の設定方法は後述する。注意エリア6と構造物5(後述の壁エリア5)との距離dLは、構造物5の全周にわたって一定値でもよいし、変えてもよい。
【0044】
前方センサ26の検知感度を注意エリア6内で低下させるため、墨出しロボット2は、構造物5の近くの所定の墨点MP2まで移動することができ。前方センサ26の検知感度は通常エリア9では通常値に戻されるため、墨出しロボット2の進行方向に存在する障害物を早期に発見することができる。
【0045】
墨出しロボット2の移動速度を注意エリア6内では低下させるため、墨出しロボット2は、安全に所定の墨点MP2まで移動することができる。そして、墨出しロボット2は、通常エリア9では通常速度で走行するため、通常エリア9内の墨点MP3に速やかに到達して印字することができる。
【0046】
操作装置3について説明する。操作装置3は、墨出しロボット2と双方向通信するとともに、追尾型三次元計測器4とも双方向通信する。操作装置3は、墨出し情報作成部7から墨出し情報を取得し、取得した墨出し情報をカスタマイズした墨出し情報を墨出しロボット2へ送信する。墨出し情報作成部7は、3次元CADデータを記憶する記憶部8から取得した3次元CADデータに基づいて墨出し情報を作成する。墨出しロボット2は、カスタマイズされた墨出し情報に応じた墨出し印字を行う。
【0047】
図2を用いて墨出しロボットシステム1の機能構成を説明する。
【0048】
先に操作装置3について説明する。操作装置3は、例えば、タブレット型パーソナルコンピュータ、ラップトップ型パーソナルコンピュータ、デスクトップ型パーソナルコンピュータ、携帯電話(スマートフォンを含む。)、携帯情報端末、時計型ウェアラブル端末、眼鏡型ウェアラブル端末のように構成される。
【0049】
操作装置3は、例えば、プロセッサ(図中CPU)31、主記憶装置32、補助記憶装置33、ユーザインターフェース部(図中UI部)34、通信部36を備えており、これら各回路部はバス36で通信可能に接続されている。
【0050】
演算装置としてのプロセッサ31は、CPU(Central Processing Unit)に限らず、例えば、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などでもよい。複数の演算装置を備えてもよい。
【0051】
主記憶装置32は、プロセッサ31により読み書きされるコンピュータプログラムおよびデータを記憶する装置である。主記憶装置32には、例えば、DRAM(Dynamic RAM)、SRAM(Static RAM)などが使用される。
【0052】
補助記憶装置33は、比較的大容量の記憶装置であり、例えば、フラッシュメモリ、ハードディスク、磁気テープ、光ディスク、光磁気ディスクなどが使用される。
【0053】
通信部24は、例えば無線LAN(Local Area Network)などを用いて、墨出しロボット2、追尾型三次元計測器4、墨出し情報作成部7との間で通信する装置である。無線に限らず、赤外線または音波を用いて情報を伝送してもよい。無線通信と有線通信のいずれかまたは両方を用いてもよい。
【0054】
墨出しロボット2について説明する。墨出しロボット2は、作業現場FLに配備されて、所定の墨出し位置に移動して墨出し印字を自動で行うロボットである。作業現場FLとしては、例えば、ビル等の建設現場、道路等の土木現場等がある。
【0055】
墨出しロボット2は、作業者が操作装置3に入力した操作指令にしたがって、追尾型三次元計測器4で測定された位置情報を利用して自律的に走行する。追尾型三次元計測器4で測定された墨出しロボット2の位置情報は、墨出しロボット2に送信される。墨出しロボット2は、予定された墨出し点(墨出し印字位置)に移動すると、墨出し情報に応じた墨出し印字をプリンタ22により実行する。
【0056】
墨出しロボット2は、後述のように、走行部20、車輪21F,21R、プリンタ22、計測ターゲット23、通信部24、操作ボタン25、前方センサ26、バンパセンサ27F,27R、下方センサ28、墨出しロボット制御部210、走行駆動部211、プリンタ移動部212、計測ターゲット駆動部213、バッテリ(不図示)を備える。
【0057】
墨出しロボット制御部210は、墨出し印字するための情報である「墨出し情報」を記憶し、墨出しロボット2全体を制御する装置である。墨出しロボット制御部210についてはさらに後述する。
【0058】
プリンタ22は、墨出しロボット制御部210の制御により、墨出し印字を行う装置である。走行部20は、墨出しロボット2全体を移動させる装置である。プリンタ移動部212は、走行部20に設置されたプリンタ22を二次元方向あるいは3次元方向に移動させる装置である。計測ターゲット23は、例えばプリズムとして構成される。計測ターゲット23は、プリンタ移動部212上に設置されており、プリンタ22と一緒にX-Y平面上(図3参照)を移動する。したがって、計測ターゲット23の位置は、プリンタ22の印字位置を指し示す。計測ターゲット23は、計測ターゲット駆動部213により、位置を変える。計測ターゲット23の位置変化は、追尾型三次元計測器4によって検出され、これにより墨出しロボット2の現在位置が算出される。
【0059】
計測ターゲット23は、墨出しロボット2から取り外して使用することもできる。作業者は、墨出しロボット2では墨点に印字できない場合に、計測ターゲット23を墨出しロボット2から取り外して、所望の位置に置き、追尾型三次元計測器4によって位置を計測することもできる。なお、構造物(壁エリア)5を実測する場合にも、計測ターゲット23を墨出しロボット2から取り外して使用する。壁エリア5の実測が終わったら、計測ターゲット23は墨出しロボット2に取り付けられる。
【0060】
墨出しロボット制御部210には、通常の計算機の機能を有する情報機器を使用することができる。すなわち、墨出しロボット制御部210は、記憶部と演算処理部を備える(いずれも不図示)。演算処理部の通信処理機能は通信部24を介して操作装置3に接続される。
【0061】
記憶部は、墨出しロボット2全体の制御を行う制御プログラム、墨出し情報、および動作に必要な情報を記憶する。演算処理部は、制御プログラムに従って、墨出しロボット2を墨出し位置まで移動させ、プリンタ22の位置を墨出し位置に合わせた後で、プリンタ22を駆動し、墨出し情報に応じた墨出し印字を行わせる。プリンタ22の全体は、プリンタ移動部212により作業現場FLの平面上(床面上)を前後左右に移動する。すなわち、プリンタ22およびプリンタ移動部212は、全体としてXYプロッタのように動作する。XYプロッタ型のプリンタ22およびプリンタ駆動部212に代えて、走行部20に3軸アームロボットを搭載し、3軸アームロボットのアーム先端にプリントヘッドを取り付けてもよい。
【0062】
走行部20は、例えば、フレーム200と、フレーム200の下方に設けられた車輪21F,21Rと、車輪21F,21Rを駆動する走行駆動部211を備える。走行駆動部211は、前後の車輪21F,21Rのうちいずれか一方を駆動させてもよいし(前輪駆動または後輪駆動)、車輪21F,21Rの全てを駆動させてもよい(四輪駆動)。車輪21F,21Rに代えて、クローラを用いてもよい。
【0063】
操作ボタン25は、フレーム200に設けられており、作業者により必要に応じて手動操作される。操作ボタン25は、例えば、電源スイッチ、停止スイッチ(いずれも不図示)である。
【0064】
墨出しロボット2は、作業現場FLを安全に走行するために、安全を確保するための各種センサ26,27F,27R,28を備える。前方センサ26は、例えば、LiDAR(Light Detection And Ranging)などから構成されており、墨出しロボット2の進行方向にある物体を検知する。バンパセンサ27F,27Rは、フレーム200の前後に設けられたバンパ201に設けられており、バンパ201が物体に接触したことを検知する(図3では前側のバンパのみ図示。)。下方センサ28は、作業現場FLの床面の凹凸および開口部などを検知する。図示したセンサ以外のセンサ、例えば、3次元カメラ、超音波センサ、放射温度計などを墨出しロボット2に搭載してもよい。
【0065】
上述のように、プリンタ移動部212は、走行部20上に配置されて、下方にプリンタ22が取り付けられている。プリンタ移動部212は、墨出しロボット制御部210による位置決め制御により、プリンタ22を墨出し印字位置に移動させて位置決めする。本実施例におけるプリンタ移動部212は、プリンタ22をXYの二次元方向に移動させるとともに、Z方向にも移動させることができる。プリンタ22の印字ヘッドを墨出し面(床面、壁、天井)への印字に適した位置に位置決めするためである。
【0066】
墨出しロボット制御部210は、墨出し情報に含まれる墨出し位置(目標印字位置)と追尾型三次元計測器4で計測された墨出しロボット2の位置情報とに基づいて、墨出しロボット2を墨出し位置(墨出し点)まで移動させて位置決めする。墨出しロボット2が墨出し位置に到達すると、墨出しロボット制御部210は、プリンタ移動部212により、プリンタ22を墨出し点(墨出し印字位置)に高精度に位置決めさせる。そして、プリンタ22は、所定の内容を墨出し点に印字する。
【0067】
上述の追尾型三次元計測器4は、墨出しロボット2に取り付けられた計測ターゲット23をレーザ光で追尾する。追尾型三次元計測器4は、計測ターゲット23からの反射光を利用して、三次元空間における計測ターゲット23の位置、すなわち墨出しロボット2の位置を計測する。
【0068】
追尾型三次元計測器4は、墨出しロボット2に取り付けられた計測ターゲット23の位置を計測することで、墨出しロボット2の位置を精度よく計測する。追尾型三次元計測器4は、レーザ光を利用したもの限らず、墨出しロボット2の位置を計測できるものであればどのようなものでも使用できる。追尾型三次元計測器4により計測された墨出しロボット2の位置は、墨出しロボット2の墨出し位置への移動制御(位置決め)に使用するために、墨出しロボット制御部210へ送信される。操作装置3からの指令情報により、必要に応じて操作装置3にも送信される。
【0069】
上述の通り、操作装置3は、墨出しロボット2及び追尾型三次元計測器4との間で情報を送受信して、墨出しロボット2及び追尾型三次元計測器4の動作を制御するコンピュータ端末である。本実施例における操作装置3は、墨出しロボット制御部210から受信した墨出し情報に基づき、操作装置3側において作業者の操作により墨出し情報を編集する(カスタマイズする)機能を備えている。そのため、操作装置3は、墨出しロボット制御部210との間で情報の送受信を行い、墨出し情報を墨出しロボット制御部210と共有可能である。操作装置3は、「墨出し情報」における基本墨出し情報である「墨出し基本情報」と、カスタマイズのための「編集可能情報」とを取り込み、作業者が操作するための編集画面を表示する機能と、編集画面を利用して作業者が選択操作するための操作機能を備えている。
【0070】
図4のフローチャートを用いて、墨出し作業の全体処理を説明する。現場の作業は、墨出し事前準備手順と墨出し作業とに大別される。
【0071】
ステップS11では、作業者は、追尾型三次元計測器4の設置位置を特定するために、基準芯BL(図1参照)を2つ以上計測して、器械点設定を実施する。
【0072】
ステップS12では、現場の柱や壁などの構造物を壁エリア5(図1参照)として登録する。壁エリアを、例えば構造物エリア、回避エリアと呼ぶこともできる。本実施例では、壁エリアと呼ぶ。壁エリアを設定し、さらに壁エリアの外側に設けられる注意エリア6(図1参照)の安全マージンを低下させることにより、墨出しロボット2は、壁エリア5付近の墨点に近づいて、印字することができる。ここまでの作業が墨出しを実行する前の事前準備となる。
【0073】
ステップS13~ステップS15は、現場で墨出しを実施する作業となる。作業者が操作装置3を用いて墨出し対象の墨点を1点以上選択すると、墨出しロボット制御部210は、選択された墨点(墨出し点、墨出し位置とも呼ぶ)への移動経路を生成する。
【0074】
ステップS14およびステップS15では、墨出しロボット2は、ステップS13で生成された経路に従い、移動と墨出し印字とを実行する。
【0075】
墨出しロボット2は、指定された全ての墨点の墨出し印字が完了したかをステップS15で判定し、未完了であれば再度ステップS13とステップS14を繰り返す。墨出しロボット2は、指定された全ての墨点の墨出し印字が完了すると停止する。
【0076】
図5のフローチャートを用いて、壁エリア5を設定する方法(S12)を説明する。本実施例では、操作装置3を用いて複数の方法で壁エリア5を設定することができる。すなわち、本実施例では、壁エリア5の位置を、作業現場FLでの実測により、手動で設定することにより、3次元設計データを用いることにより、作業現場FLを撮影した画像を解析することにより、という複数の方法のいずれかまたは複数を用いて、設定することができる。
【0077】
作業者は、操作装置3に表示されるメニューの中から壁エリアの設定方法を選択する(S121)。壁エリア5を実測によって設定する方法(S1221)は、精密に壁エリア5を設定する方法であり、精密エリア設定とも呼ばれる。精密エリア設定では、壁エリア5の各頂点にプリズムなどの計測ターゲットを設置し(S1222)、その計測ターゲットの位置を追尾型三次元計測器4によって測定する。追尾型三次元計測器4で計測された位置情報は、操作装置3に送信されて記憶される(S1223)。
【0078】
図6は、精密に壁エリアを実測して設定する実測設定画面G1の例である。実測設定画面G1は、例えば、ガイダンス表示部G11、マップ表示部G12、計測データ操作部G13、計測データ表示部G131、測量器操作部G14、前の画面に戻るボタンG15、壁エリアの設定を決定するボタンG16を含む。
【0079】
ガイダンス表示部G11には、作業者の操作を促すためのメッセージが表示される。メッセージとしては、例えば「プリズムをエリアの頂点に置き、「計測」を押してください。障害物で計測できない場合は、マップ上で設定したい箇所を長押ししてください。3点以上計測した後、「決定」を押してください。」などがある。
【0080】
マップ表示部G12には、作業現場FLの地図情報が表示される。地図情報は、3次元CADデータから作成されてもよい。計測データ操作部G13は、作業者が、計測されたデータを選択したり、削除したりするための操作部である。計測データ操作部G13には、例えば「1つ上」「1つ下」「選択行削除」などのボタンが配置される。
【0081】
計測データ表示部G131には、実測された壁エリアの頂点座標、またはマップ上で指定された壁エリアの頂点座標が表示される。
【0082】
測量器操作部G14には、例えば、「左旋回」「右旋回」「計測」などの追尾型三次元計測器4を操作するためのボタンが配置される。
【0083】
壁エリア5の位置は正確に設定する方が望ましい。すなわち、画面G1は、追尾型三次元計測器4と計測ターゲット23とを用いて壁際を計測するための画面の一例である。
【0084】
計測ターゲット23を用いて計測を希望する位置と追尾型三次元計測器4との間に、壁や柱などの障害物が存在する場合、追尾型三次元計測器4は計測ターゲット23の位置を測定できない。この場合、作業者は、マップ表示部G12に表示されたマップ上の所定箇所を長押しすることで、座標を指定することができる。
【0085】
図5に戻る。手動により壁エリア5を設定するモードが選択されると(S1231)、作業者はマップ表示部G12に表示されたマップ上の位置を選択することにより、壁エリア5の位置(頂点の座標)を入力することができる(S1232)。
【0086】
図面データを処理して壁エリア5を設定するモードが選択されると(S1241)、操作装置3は、3次元CADデータを取得し(S1242)、取得した3次元CADデータから壁エリア5を抽出して設定する(S1243)。3次元CADデータには、例えば、BIM(Building Information Modelling)データも含まれる。BIM等の図面データに含まれる壁情報(Wall)から壁エリア5を設定してもよい。
【0087】
センサデータを処理して壁エリアを設定するモードが選択されると(S1251)、操作装置3は、3次元空間を認識するための所定センサからのデータを取得し(S1252)、そのセンサデータから壁エリア5を抽出する(S1253)。
【0088】
所定センサには、例えば測域センサ、画像センサ(距離測定も可能なカメラ)を用いることができる。
【0089】
図7のフローチャートを用いて、墨出しロボット2が走行経路を生成する処理(図4のステップS13)の詳細を説明する。
【0090】
墨出しロボット2が計測ターゲット23を移動させて、追尾型三次元計測器4により計測ターゲット23の位置を2点計測する。これにより、墨出しロボット2の向きと位置を算出する(S131)。
【0091】
墨出しロボット2は、壁エリア5に近い墨点については、壁エリア5の形状から注意エリア6を生成する(S132)。注意エリア6の設定方法は後述するが、簡単に説明すると、図9に示すように、注意エリア6は、例えば、壁エリア5の外縁を拡大した領域として算出できる。図10に示すように、壁エリア5が三角形の場合、注意エリア6が無駄に大きくなってしまうことがある。そこで、墨出しロボット2は、壁エリア5の外縁を拡大して得られる注意エリアが所定値以上大きい場合には、注意エリア6の頂点の領域を所定量削除する。
【0092】
墨出しロボット2は、中継点RPの候補を算出する(S133)。墨出しロボット2は、墨点MPから注意エリア6の各辺(注意エリア6の外縁)までの垂線101を計算する(S133)。垂線のうち、壁エリア5を横切る垂線は除外される。墨出しロボット2は、壁エリア5を横切って移動できないためである。垂線のうち壁エリア5を横切らない垂線だけが選択される。選択された垂線101と注意エリア6の各辺とが交わる点RPCは、中継点RPの候補となる点(座標)である。
【0093】
算出された中継点候補RPCの中から、墨出しロボット2が走行できない領域内にある中継点候補RPCは除外される(S134)。
【0094】
墨出しロボット2は、注意エリア6内の墨点と各中継点候補RPCとの距離を算出し、最短の中継点候補RPCを中継点RPとして選択する(S135)。
【0095】
墨出しロボット2は、選択された中継点RPと通常エリア9内の他の墨点とを結ぶ走行経路を生成する(S136)。墨出しロボット2は、操作装置3からの要求に応じて、生成された経路を操作装置3へ送信する(S137)。作業者は、墨出しロボット2の作成した経路を操作装置3上で修正することもできる。
【0096】
図8のフローチャートを用いて、注意エリア6を設定する処理(図7のステップS132)を説明する。墨出しロボット2は、壁エリア5の外縁を拡大し(S1321)、拡大したエリアが所定値以上大きくなる箇所があるか判定する(S1322)。
【0097】
エリアが所定値以上大きくなる箇所がある場合(S1322:YES)、墨出しロボット2は、その箇所を削除する(S1323)。そして、墨出しロボット2は、作成された注意エリア6を記憶する(S1324)。拡大したエリアが所定値以上大きくなる箇所がない場合(S1322:NO)、ステップS1323をスキップしてステップS1324へ移る。
【0098】
図9の説明図は、矩形状の壁エリア5に対して注意エリア6と中継点RPを設定する概略を示す。注意エリア6は、矩形状の壁エリア5の形状を変えることなく、その外縁を拡大することにより設定することができる。したがって、注意エリア6と壁エリア5とは相似である。
【0099】
注意エリア6内の所定の墨点MPから注意エリア6の各辺に垂線を引く。それら垂線のうち壁エリア5を横切って上側に向かう垂線は除外される。したがって図示しない。他の3つの垂線101(1)~101(3)と注意エリア6とが交わる点が、中継点候補RPC1~RPC3となる。
【0100】
墨出しロボット2は、所定の墨点MPから各中継点候補RPC1~RPC3までの距離を算出する。最も距離が短いのは、所定の墨点MPから第1中継点候補RPC1までの間であるが、第1中継点候補RPC1は、開口部51内に位置するため、墨出しロボット2は第1中継点候補RPC1に移動することができない。したがって、第1中継点候補RPC1は中継点として選択できず、除外される。開口部51は、床の穴または陥没部などである。
【0101】
次に距離が短いのは、所定の墨点MPから第2中継点候補RPC2までの間である。第2中継点候補RPC2は、通常エリア9内にあり、周囲に他の障害物もない。したがって、図9下側に示すように、第2中継点候補RPC2が中継点RPとして選択される。
【0102】
なお、中継点RPは、垂線101と注意エリア6との交点に厳密に一致させる必要はない。垂線101と注意エリア6との交点から通常エリア9寄りに、中継点RPを設定してもよい。これにより、墨出しロボット2をより一層安全に走行させることができる。これに対し、墨出しロボット2と壁エリア5とが接触しない程度で、垂線101と注意エリア6との交点から壁エリア5寄りに、中継点RPを設定することもできる。これにより、墨出しロボット2が通常速度で走行する経路を長くでき、作業現場FL全体での墨出し作業の時間を短縮できる。
【0103】
図10は、三角形状の壁エリア5に対して注意エリア6と中継点RPを設定する概略を示す。壁エリア5の形状を変えずにそのまま拡大すると、図10右上の領域61が無駄に大きくなる。そこで、図10の下側に示すように、墨出しロボット2は、無駄な領域61を削除して注意エリア6を設定する。
【0104】
そして、墨出しロボット2は、注意エリア6内の所定の墨点MPから中継点候補RPC1,RPC2までの距離を算出し、最短距離となる中継点候補RPC1を中継点RPとして選択する。
【0105】
図11に示す変形例のように、壁エリア5の形状を変えずに拡大した注意エリア6の各頂点付近の領域61(1)~61(3)をそれぞれ所定量ずつ削除してもよい。このように、必要最低限の面積で注意エリア6を設定することもできる。これにより、墨出しロボット2が通常速度で走行できる範囲を広げることができ、墨出し作業に要する時間を短縮できる。
【0106】
図12のフローチャートを用いて、墨出しロボット2が作業現場FLを移動して墨出しする処理(図4のステップS14)を説明する。
【0107】
墨出しロボット2は、次に移動する点が墨点であるか判定する(S1401)。次の点が墨点の場合(S1401:YES)、墨出しロボット2は、その墨点へ通常速度で移動する(S1402)。
【0108】
墨出しロボット2は、移動中に物体を検知すると(S1403:YES)、その場で停止し(S1404)、本処理を終了する。前方センサ26の検知感度は通常値である。ステップS1403では、全てのセンサ26,27F,27R,28のうちいずれか一つでも障害物を検知すると、墨出しロボット2は停止する(S1404)。
【0109】
墨出しロボット2は、目的地の墨点に到達し、印字可能であると判定すると(S1405:YES)、プリンタ22およびプリンタ移動部212を用いて、墨点に所定内容を印字する(S1406)。墨出しロボット2は、墨点に到着して印字可能となるまで、ステップS1402へ戻る。
【0110】
これに対し、墨出しロボット2は、次に移動する点が墨点ではない場合、すなわち中継点である場合(S1401:NO)、通常速度で中継点へ移動する(S1401)。墨出しロボット2は、中継点に到達すると、注意エリア6内の墨点の方向を向くように姿勢を制御する(S1412)。そのままの姿勢で墨点へ移動し、回転などせずに墨点で印字するためである。
【0111】
墨出しロボット2は、前方センサ26の検知感度を通常エリア9での通常値から低下させる(S1413)。墨出しロボット2は、前方センサ26の検知感度(検知範囲)を、通常エリア9での検知感度(通常値)未満に設定する。例えば、注意エリア6での検知感度を、通常値の半分以下に設定してもよい。注意エリア6での検知感度を通常値の三分の一以下、あるいは四分の一以下に設定してもよい。
【0112】
検知感度とは、前方センサ26の検知範囲の距離である。例えば、検知感度がNメートルの場合、前方センサ26は、前方Nメートルの範囲にある物体を検知する。したがって、前方センサ26の検知感度を低下させると、前方センサ26は壁エリア5に近づくことができる。
【0113】
ただし、前方センサ26の検知感度をあまり低下させると、前方センサ26よりも前方に突出しているバンパ201などが壁エリア5に接触する可能性がある。そこで、注意エリア6における前方センサ26の検知感度の下限値は、前方センサ26よりも前に突出している部分(バンパ201など)の長さに設定することができる。ただし、バンパ201には、バンパセンサ27Fが設けられており、バンパセンサ27Fが物体に接触すると検知され、墨出しロボット2はただちに停止する。したがって、前方センサの検知感度をバンパ201などの前方への突出物の長さ以下に設定してもよい。
【0114】
墨出しロボット2は、注意エリア6内を走行する際の移動速度(第2移動速度と呼ぶ。)を、例えば、通常速度未満の値に低下させる(S1414)。第2移動速度は、通常速度の半分程度に低下させることもできる。第2移動速度は、通常速度の三分の一程度に低下させることもできる。第2移動速度は、固定値でもよいし、作業現場FLの状況に応じて設定される値でもよい。作業現場FLの状況としては、例えば、床面の状態(凹凸の有無、滑りやすさなど)、壁エリア5の数、注意エリア6と壁エリア5との間の隙間dLの大きさなどである。これら以外の要素を考慮して、第2移動速度を設定してもよい。
【0115】
なお、ステップS1413とステップS1414は順番を変えてもよいし、同時に実行してもよい。
【0116】
墨出しロボット2は、前方センサ26の検知感度を低下させた状態で、かつ、通常速度よりも遅い移動速度で、注意エリア6内を墨点に向けて移動する(S1415)。注意エリア6での移動中に物体を検知すると(S1416:YES)、墨出しロボット2はその場で停止する(S1417)。墨出しロボット2は、作業者の到着を待ってもよいし、中継点まで後進してもよい。
【0117】
墨出しロボット2は、注意エリア6内の墨点に到着して印字可能と判断すると(S1418:YES)、墨点に所定内容を印字する(S1419)。
【0118】
墨出しロボット2は、墨点での印字が終了すると、そのままの姿勢で、出発点である中継点へ後進する(S1420)。注意エリア6内で回転などの姿勢変化を起こすと、壁エリア5または他の障害物に接触するおそれがあるためである。ただし、通常速度よりも低速で障害物に接触したとしても、墨出しロボット2はただちに停止するため、なんら支障はなく、安全性は維持されている。
【0119】
墨出しロボット2は、中継点への後進中に物体を検知すると(S1421:YES)、その場で停止する(S1422)。墨出しロボット2は、中継点に戻ると(S1422:YES)、前方センサ26の検知感度を通常値に戻すと共に(S1424)、移動速度を通常速度に戻す(S1425)。ステップS1424とステップS1425の順番を変えてもよいし、同時に実行してもよい。
【0120】
このように構成される本実施例によれば、壁エリア5の外側に注意エリア6を設定し、注意エリア6での移動速度とセンサの検知感度を通常エリア9での設定値よりも低下させるため、墨出しロボット2は、壁エリア5に近い墨点に移動して印字できる。したがって、本実施例の墨出しロボットシステム1は、作業現場FLを安全に自動走行して、墨点を安全に印字できる範囲を広げることができる。もしも注意エリア6を設定し、センサの検知感度を低下させたり、墨出しロボット2の移動速度を低下させたりしない場合、安全性が低下するため、自動的に墨出し作業を実行できる範囲が狭くなる。
【0121】
センサの検知感度と移動速度の両方を低下させると安全性が最も高まるが、センサの検知感度だけを低下させて壁エリア5近くの墨点へ通常速度で移動させてもよい。なお、注意エリア6で走行を開始する際に、墨出しロボット2が音声メッセージを発したり、ライトを点滅させたりすることにより、周囲の人間に注意を促してもよい。
【実施例0122】
図13を用いて実施例2を説明する。本実施例を含む以下の各実施例では、実施例1との相違を中心に述べる。図13は、墨出しロボット2による墨出し処理S14Aを示すフローチャートである。本実施例では、墨出しロボット2が注意エリア6内の墨点へ向けて前進中に、前方の安全を検出するためのセンサ26,27F,28が物体を検知した場合の処理を実施例1から変える(S1416:YES)。
【0123】
墨出しロボット2は、前方の安全を検知するセンサ26,27F,28が物体を検知すると、その場でただちに停止し(S1417)、その後、中継点に向けて姿勢を変えずに後進する(S1430)。
【0124】
このように構成される本実施例も実施例1と同様の作用効果を奏する。
【実施例0125】
図14を用いて実施例3を説明する。本実施例では、墨出しロボット2から操作装置3へ作業結果を報告する。
【0126】
墨出しロボット2は、墨出し情報に基づく墨出し作業が終了すると(図4のステップS15でYESと判定されると)、作業報告を作成して操作装置3へ送信する(S161~S163)。例えば、墨出しロボット2は、印字できた墨点の情報と、印字できなかった墨点の情報とを取得し(S161,S162)、作業日報を作成して操作装置3へ送信する(S163)。作業者は、作業日報を閲覧することにより、無人作業の状況を確認することができる。
【0127】
このように構成される本実施例も実施例1と同様の作用効果を奏する。本実施例は実施例2と結合することができる。
【実施例0128】
図15を用いて、実施例4を説明する。図15は、墨出しロボット2による墨出し処理14Bを示すフローチャートである。本実施例では、墨出しロボット2は、注意エリア6の墨点に近づくほど、移動速度を段階的に低下させる(S1440)。例えば、墨出しロボット2は、中継点から出発するときの移動速度を通常速度の70%とし、中継点から墨点への経路長の半分を過ぎると移動速度を通常速度の50%にするなどのように、墨点に近づくほど移動速度を低下させることができる。
【0129】
このように構成される本実施例も実施例1と同様の作用効果を奏する。さらに本実施例では、墨点に近づくほど墨出しロボット2の移動速度を低下させるため、墨出しロボット2は、通常速度未満のできるだけ早い速度で注意エリア6を走行し、墨点の近くで移動速度を低下させるため、墨出し作業の効率低下を抑制しつつ、安全性を向上させることができる。本実施例は、実施例2、実施例3とも結合することができる。
【0130】
なお、本発明は上記各実施例に限定されず、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0131】
また、上記の各構成は、それらの一部又は全部が、ハードウェアで構成されても、プロセッサでプログラムが実行されることにより実現されるように構成されてもよい。また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0132】
1:墨出しロボットシステム、2:墨出しロボット、3:操作装置、4:追尾型三次元計測器、5:壁エリア(構造物)、6:注意エリア、7:墨出し情報作成部、8:CADデータ記憶部、9:通常エリア、20:走行部、22:プリンタ、23:計測ターゲット、26:前方センサ、27F,27R:バンパセンサ、28:下方センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15