(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038623
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】処理装置、処理装置の制御方法、処理装置の制御プログラム
(51)【国際特許分類】
F26B 13/08 20060101AFI20240313BHJP
【FI】
F26B13/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142764
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】安藤 富雄
【テーマコード(参考)】
3L113
【Fターム(参考)】
3L113AA08
3L113AB05
3L113AC10
3L113AC32
3L113AC63
3L113AC68
3L113BA28
3L113BA32
3L113CA20
3L113CB06
3L113DA24
(57)【要約】
【課題】被処理物に供給された流動材を適切に乾燥できる処理装置等を提供する。
【解決手段】処理装置10は、被処理物30に第1インクを供給する第1印刷ユニット21と、第1インクが供給された被処理物30に、第1インクと異なる色の第2インクを供給する第2印刷ユニット22と、第1印刷ユニット21および第2印刷ユニット22の間に設けられ、被処理物30が第2印刷ユニット22に搬送される前に、第1印刷ユニット21によって供給された第1インクに乾燥処理を施す第1乾燥ユニット41と、第1印刷ユニット21による第1インクの供給状態を検知する供給状態検知部61と、供給状態に基づいて第1乾燥ユニット41による乾燥量を制御し、第1インクが流動性を維持した不完全乾燥状態のまま被処理物30を第2印刷ユニット22に搬送させる乾燥量制御部62と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1流動材が供給された被処理物に対して第2流動材が供給される前に行われる乾燥処理の乾燥量を制御し、当該第1流動材が流動性を維持した不完全乾燥状態まで乾燥させる乾燥量制御部を備える、処理装置。
【請求項2】
前記被処理物に前記第1流動材を供給する第1供給ユニットと、
前記第1流動材が供給された前記被処理物に、前記第2流動材を供給する第2供給ユニットと、
前記第1供給ユニットおよび前記第2供給ユニットの間に設けられ、前記被処理物が前記第2供給ユニットに搬送される前に、前記第1供給ユニットによって供給された前記第1流動材に前記乾燥処理を施す乾燥ユニットと、
を備え、
前記乾燥量制御部は、前記乾燥ユニットによる乾燥量を制御し、前記第1流動材が流動性を維持した不完全乾燥状態のまま前記被処理物を前記第2供給ユニットに搬送させる、
請求項1に記載の処理装置。
【請求項3】
前記第1供給ユニットによる前記第1流動材の供給状態を検知する供給状態検知部を更に備え、
前記乾燥量制御部は、前記供給状態に基づいて前記乾燥ユニットによる乾燥量を制御する、
請求項2に記載の処理装置。
【請求項4】
前記乾燥ユニットは、前記被処理物が巻き付けられて前記乾燥処理を施す加熱部と、その巻き付け長を調整可能な巻付長調整機構を備え、
前記乾燥量制御部は、前記巻付長調整機構によって前記乾燥ユニットによる乾燥量を制御する、
請求項2または3に記載の処理装置。
【請求項5】
前記供給状態検知部は、前記第1供給ユニットによる前記第1流動材の供給量を前記供給状態として検知する、請求項3に記載の処理装置。
【請求項6】
前記処理装置は、前記被処理物に対して印刷処理を施す印刷装置であり、
前記第1供給ユニットは、前記被処理物に前記第1流動材としての第1インクを供給する第1印刷ユニットであり、
前記第2供給ユニットは、前記第1インクが供給された前記被処理物に、前記第1インクと異なる色の前記第2流動材としての第2インクを供給する第2印刷ユニットである、
請求項3に記載の処理装置。
【請求項7】
前記第1インクおよび前記第2インクの少なくともいずれかは水溶性を有する、請求項6に記載の処理装置。
【請求項8】
前記供給状態検知部は、前記第1印刷ユニットが前記第1インクによって印刷した絵柄を前記供給状態として検知する、請求項6に記載の処理装置。
【請求項9】
前記処理装置は、前記被処理物に対して塗工処理を施す塗工装置であり、
前記第1供給ユニットは、前記被処理物に前記第1流動材としての第1塗料を塗る第1塗工ユニットであり、
前記第2供給ユニットは、前記第1塗料が塗られた前記被処理物に、前記第1塗料と異なる前記第2流動材としての第2塗料を塗る第2塗工ユニットである、
請求項2または3に記載の処理装置。
【請求項10】
被処理物に第1流動材を供給する第1供給ユニットと、前記第1流動材が供給された前記被処理物に、前記第1流動材と異なる第2流動材を供給する第2供給ユニットと、前記第1供給ユニットおよび前記第2供給ユニットの間に設けられ、前記被処理物が前記第2供給ユニットに搬送される前に、前記第1供給ユニットによって供給された前記第1流動材に乾燥処理を施す乾燥ユニットを備える処理装置の制御方法であって、
前記乾燥ユニットによる乾燥量を制御し、前記第1流動材が流動性を維持した不完全乾燥状態のまま前記被処理物を前記第2供給ユニットに搬送させる乾燥量制御ステップと、
を備える制御方法。
【請求項11】
被処理物に第1流動材を供給する第1供給ユニットと、前記第1流動材が供給された前記被処理物に、前記第1流動材と異なる第2流動材を供給する第2供給ユニットと、前記第1供給ユニットおよび前記第2供給ユニットの間に設けられ、前記被処理物が前記第2供給ユニットに搬送される前に、前記第1供給ユニットによって供給された前記第1流動材に乾燥処理を施す乾燥ユニットを備える処理装置の制御プログラムであって、
前記乾燥ユニットによる乾燥量を制御し、前記第1流動材が流動性を維持した不完全乾燥状態のまま前記被処理物を前記第2供給ユニットに搬送させる乾燥量制御ステップと、
をコンピュータに実行させる制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は処理装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
被処理物にインクや塗料等の流動材を供給する処理装置として、印刷装置や塗工装置等が知られている。処理装置には、被処理物に供給された流動材に乾燥処理を施す乾燥ユニットが設けられることがある。特許文献1に開示されている乾燥ユニットは、流動材(塗膜)が供給された被処理物が巻き付けられて乾燥処理を施す円筒状の加熱部(加熱ロール)と、その巻き付け長を調整可能な巻付長調整機構(ガイドロール等)を備える。
【0003】
特許文献1では、加熱ロールで案内された後の被処理物の塗膜が所望の温度になるように、被処理物の加熱ロールへの巻き付け長が調整される。これによって「アルミウェブ上の塗膜は、加熱ロールとアルミウェブとの接触により急激に乾燥が進行し、同時に被膜の硬化が起り加熱ロールから帯状体が離れる側で乾燥が終了する」(特許文献1からの引用)。このように、従来の処理装置における乾燥ユニットは、被膜等の流動材を硬化させる、すなわち流動性が失われる完全乾燥状態まで乾燥する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、食品包装用のフィルム等の薄くて(10ミクロン程度のものもある)熱に弱い被処理物を完全乾燥状態まで乾燥してしまうと、過熱による被処理物の変形や劣化が発生する恐れがある。一方、流動材の乾燥が不十分な状態で後続の供給ユニットに被処理物が搬送されてしまうと、乾燥不足の流動材と新たに供給される流動材が混ざり合って干渉してしまう(例えば、多色インクによる印刷の場合は色にじみが発生してしまう)。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、被処理物に供給された流動材を適切に乾燥できる処理装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の処理装置は、第1流動材が供給された被処理物に対して第2流動材が供給される前に行われる乾燥処理の乾燥量を制御し、当該第1流動材が流動性を維持した不完全乾燥状態まで乾燥させる乾燥量制御部を備える。
【0008】
この態様では、乾燥量制御部が乾燥処理の乾燥量(加熱物と被加熱物間の熱授受による温度上昇量でもあり、乾燥には熱重合による硬化を含む)を制御する。この際、第1流動材は完全乾燥状態まで乾燥されず、流動性を維持した不完全乾燥状態まで乾燥されるため、乾燥処理による被処理物および/または第1流動材の過熱を防止できる。また、乾燥量制御部によれば、乾燥対象の第1流動材を、その後に新たに供給される第2流動材との間でにじみ等の干渉を実質的に引き起こさない程度の適切な粘度まで乾燥できる。
【0009】
本発明の別の態様は、処理装置の制御方法である。この方法は、被処理物に第1流動材を供給する第1供給ユニットと、第1流動材が供給された被処理物に、第1流動材と異なる第2流動材を供給する第2供給ユニットと、第1供給ユニットおよび第2供給ユニットの間に設けられ、被処理物が第2供給ユニットに搬送される前に、第1供給ユニットによって供給された第1流動材に乾燥処理を施す乾燥ユニットを備える処理装置の制御方法であって、乾燥ユニットによる乾燥量を制御し、第1流動材が流動性を維持した不完全乾燥状態のまま被処理物を第2供給ユニットに搬送させる乾燥量制御ステップと、を備える。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組合せや、これらの表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラム等に変換したものも、本発明に包含される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被処理物に供給された流動材を適切に乾燥できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】被処理物に流動材を供給する処理装置の構成を模式的に示す。
【
図2】異なる印刷色の間の色にじみを模式的に示す。
【
図3】本実施形態において異なる印刷色の間の色にじみが効果的に抑制されている様子を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態(以下では実施形態ともいう)について詳細に説明する。説明および/または図面においては、同一または同等の構成要素、部材、処理等に同一の符号を付して重複する説明を省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明の簡易化のために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施形態に記載される全ての特徴やそれらの組合せは、必ずしも本発明の本質的なものであるとは限らない。
【0014】
図1は、被処理物30に流動材を供給する処理装置10の構成を模式的に示す。被処理物30としては、紙、布、フィルム、箔、ゴム等の面状またはシート状のものや、紐やワイヤ等の線状のものが例示される。本実施形態では、シート状の基材を被処理物30として搬送方向(矢印によって模式的に図示されるように、
図1において概ね右から左に向かう方向)に搬送しながら、印刷処理や塗工処理等の流動材供給処理を施すロール・ツー・ロール(Roll-to-Roll)方式の処理装置10について説明する。処理装置10は、搬送される被処理物30に対して任意の流動材を供給する装置である。処理装置10は印刷装置でもよく、その場合は流動材としてのインクが被処理物30に印刷される。また、処理装置10は塗工装置でもよく、その場合は流動材としての塗料が被処理物30に塗られる。本実施形態は、主に処理装置10の一例としての印刷装置について記述される。そこで、以下では処理装置10を印刷装置10とも表す。
【0015】
印刷装置10は、被処理物30に流動材としてのインクを供給する複数の印刷ユニット21、22、23を備える。各印刷ユニット21、22、23の印刷方式は任意であるが、本実施形態の例では微滴化されたインクを被処理物30に吹き付けるインクジェット方式とする。本実施形態のインクジェット印刷における解像度は、例えば1200ドット/インチである。但し、インクジェット方式以外の例えば有版印刷方式が利用されてもよい。具体的には、グラビア印刷方式、オフセット印刷方式、フレキソ印刷方式等が利用可能である。
【0016】
各印刷ユニット21、22、23は、典型的には互いに異なる色のインクで被処理物30に印刷する。例えば、第1供給ユニットとしての第1印刷ユニット21は、被処理物30に第1流動材としてのイエロー(Y)色の第1インクを供給し、第2供給ユニットとしての第2印刷ユニット22は、被処理物30に第2流動材としてのシアン(C)色の第2インクを供給し、第3供給ユニットとしての第3印刷ユニット23は、被処理物30に第3流動材としてのマゼンタ(M)色の第3インクを供給する。
【0017】
第1印刷ユニット21、第2印刷ユニット22、第3印刷ユニット23は、この順番で搬送方向に搬送される被処理物30に対して順次各色の印刷処理を施す。具体的には、第1印刷ユニット21は典型的には未印刷の被処理物30にイエロー(Y)色の第1印刷処理を施し、第2印刷ユニット22は第1印刷処理が施された被処理物30にシアン(C)色の第2印刷処理を施し、第3印刷ユニット23は第1印刷処理および第2印刷処理が施された被処理物30にマゼンタ(M)色の第3印刷処理を施す。
【0018】
第1印刷ユニット21と第2印刷ユニット22の間には、イエロー(Y)色の第1印刷処理の施された被処理物30が第2印刷ユニット22に搬送される前に、第1印刷ユニット21によって印刷されたイエロー(Y)色の第1インクに乾燥処理を施す第1乾燥ユニット41が設けられる。同様に、第2印刷ユニット22と第3印刷ユニット23の間には、シアン(C)色の第2印刷処理の施された被処理物30が第3印刷ユニット23に搬送される前に、第2印刷ユニット22によって印刷されたシアン(C)色の第2インクに乾燥処理を施す第2乾燥ユニット42が設けられる。また、第3印刷ユニット23の後段には、マゼンタ(M)色の第3印刷処理の施された被処理物30が更に後段の不図示の印刷ユニット(例えばブラック(K)色)その他の処理ユニットに搬送される前に、第3印刷ユニット23によって印刷されたマゼンタ(M)色の第3インクに乾燥処理を施す第3乾燥ユニット43が設けられる。
【0019】
なお、第3乾燥ユニット43の後段に他の処理ユニットが設けられない場合、すなわち、第3乾燥ユニット43が被処理物30の巻き取り(リワインド)前の最終処理ユニットである場合、第3乾燥ユニット43は第1乾燥ユニット41および/または第2乾燥ユニット42と異なる方式の乾燥処理を施して、第1~第3インクの被処理物30への最終定着を図ってもよい。また、第3乾燥ユニット43に加えてまたは代えて、紫外線等によって第1~第3インクの被処理物30への最終定着を図る最終定着ユニットが設けられてもよい。
【0020】
第1乾燥ユニット41は、例えばドラムヒータとして構成でき、被処理物30が巻き付けられて乾燥処理を施す加熱部411と、その巻き付け長L1を調整可能な巻付長調整機構としての駆動可能なガイドローラ412を備える。
【0021】
円筒状(直径は例えば600mmと1500mmの間)の加熱部411は、搬送方向(
図1における反時計回り方向)に回転駆動されることで、被処理物30を搬送しながら第1印刷ユニット21によって印刷されたイエロー(Y)色の第1インクに乾燥処理を施す。被処理物30の非印刷面(印刷面の裏面)と接触する加熱部411の外周面は、第1インクの乾燥に好適な略一定の温度(例えば、60℃と120℃の間)に維持されている。具体的には、不図示の温度センサによって測定される加熱部411の外周面の温度が略一定になるように、加熱部411に内蔵される不図示のハロゲンランプや赤外線ランプ等の熱源が制御される。ここで、被処理物30の搬送速度(すなわち、円筒状の加熱部411の回転速度)が一定(例えば50m/分と200m/分の間)とすれば、加熱部411による乾燥量(乾燥時間、乾燥距離、乾燥長、乾燥強度等と言い換えてもよい)は、被処理物30の加熱部411への巻き付け長L1によって決まる。
【0022】
巻き付け長L1は、加熱部411の周りを略周方向に沿って駆動可能なガイドローラ412によって調整可能である。ガイドローラ412が搬送方向(
図1における反時計回り方向)に移動すると、被処理物30の加熱部411への巻き付け長L1は長くなり、ガイドローラ412が搬送方向と逆方向(
図1における時計回り方向)に移動すると、被処理物30の加熱部411への巻き付け長L1は短くなる。前述のように、被処理物30の加熱部411への巻き付け長L1は、加熱部411による乾燥量に直結するため、ガイドローラ412の周方向の位置を調整することで加熱部411による乾燥量を調整できる。ここで、ガイドローラ412の周方向の位置が変わると、第1印刷ユニット21と第2印刷ユニット22の間の被処理物30の搬送距離が変化する。そこで、第2印刷ユニット22は、ガイドローラ412の周方向の位置に応じて印刷タイミングを自動的に調整する。
【0023】
なお、ガイドローラ412の表面には、被処理物30の印刷面が接触しうる。この際、後述するように、第1印刷ユニット21によって被処理物30の印刷面に印刷されたイエロー(Y)色の第1インクは、加熱部411によって完全乾燥状態まで乾燥されず、流動性を維持した不完全乾燥状態になっており、ガイドローラ412の表面に接触しうる。このような「生乾き」または「半乾き」の第1インクとガイドローラ412の接触による悪影響を低減するため、ガイドローラ412の表面を非粘着性または離型性の高い材料で構成する、エッチングローラや溶射ローラ等のようにガイドローラ412の表面に微小な凹凸または突起を設けて被処理物30の印刷面との接触面積を低減する、ガイドローラ412の表面から圧縮空気等の気体を噴出して被処理物30の印刷面との接触面積を実質的に零(非接触)にする、等の対策を講じるのが好ましい。
【0024】
非粘着性または離型性の高い材料としては、フッ素樹脂やシリコーン樹脂が例示される。特にフッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルキルビニルエーテルとテトラフルオロエチレンの共重合体(PFA)、6フッ化ポリプロピレンが例示される。一般的な搬送用途のガイドローラでは、被搬送物との滑りを低減することが優先されるため、滑りを増大しうる非粘着性または離型性の高い材料で表面を構成することは考えづらい。しかし、本実施形態におけるガイドローラ412には、折り返される被処理物30が巻き付けられる形になるため、非粘着性または離型性の高い材料で表面が構成されていたとしても滑りが生じにくい。また、離型性と搬送性を強化したい場合は、離型材料と前述の微小突起の組合せが有効である。
【0025】
第2乾燥ユニット42および第3乾燥ユニット43は、第1乾燥ユニット41と同様の構成を備える。具体的には、第2乾燥ユニット42は、被処理物30が巻き付けられて第2インクに乾燥処理を施す加熱部421と、その巻き付け長L2を調整可能な巻付長調整機構としての駆動可能なガイドローラ422を備え、第3乾燥ユニット43は、被処理物30が巻き付けられて第3インクに乾燥処理を施す加熱部431と、その巻き付け長L3を調整可能な巻付長調整機構としての駆動可能なガイドローラ432を備える。加熱部421、431は、第1乾燥ユニット41における加熱部411と同様であり、ガイドローラ422、432は、第1乾燥ユニット41におけるガイドローラ412と同様であるため、重複する説明を省略する。
【0026】
各印刷ユニット21~23の後段であって、好ましくは被処理物30が各乾燥ユニット41~43の各加熱部411~431と接触し始める箇所を撮影する各カメラ51~53が設けられてもよい。後述するように、供給状態検知部61は、各カメラ51~53によって撮影された被処理物30の画像(静止画でも動画でもよい)に基づいて、各印刷ユニット21~23による各色のインクの供給状態を検知できる。なお、供給状態検知部61(あるいは別の干渉検知部)は、各カメラ51~53によって撮影された被処理物30の画像に基づいて、各印刷ユニット21~23によって印刷された各色のインクの干渉(後述する色にじみ等)を検知してもよい。カメラ51~53は、その全部または一部が設けられなくてもよい。仮にカメラが一台しか利用できない場合は、カメラ53のように被処理物30の搬送方向の後段に設置されることで、全ての印刷ユニット21~23によるインクの供給状態を検知できる。
【0027】
供給状態検知部61は、各印刷ユニット21~23による各色のインクの供給状態を検知する。供給状態検知部61は、各印刷ユニット21~23の設定情報や動作情報に基づいて各色のインクの供給状態を検知してもよいし、前述の各カメラ51~53によって撮影された各色印刷後(および、好ましくは各乾燥ユニット41~43による乾燥前)の被処理物30画像に基づいて各色のインクの供給状態を検知してもよい。ここで、供給状態検知部61が検知できるインクの供給状態としては、供給されたインク自体の材料や特性に関する情報、インク供給量、絵柄、絵柄量、絵柄率、網点率、印刷厚等のインクによる印刷に関する情報が例示される。更に、インクの供給状態を表す指標としては、温度、湿度等の印刷環境に関する情報が例示される。また、二色目以降の印刷ユニット22、23については、その印刷色と先の印刷色の間の干渉(色にじみ)を、供給状態検知部61が広義の供給状態として検知してもよい。更に、後述のINT等、絵柄等の中で干渉が起こりやすい箇所を機械学習や深層学習といった所謂AI技術で強化できる。この場合、印刷等のパターン認識(セグメンテーション)技術が有効である。
【0028】
図2は、異なる印刷色の間の色にじみを模式的に示す。本図では簡素化のため、前段の第1印刷ユニット21が例えばイエロー(Y)色の第1インクで印刷した第1絵柄P1と、後段の第2印刷ユニット22が例えばシアン(C)色の第2インクで印刷した第2絵柄P2のみを示す(すなわち、第3印刷ユニット23による第3絵柄の図示を省略する)。特に本図は、第2印刷ユニット22によって第2絵柄P2が印刷された直後の被処理物30を示す。この図示の状態はカメラ52によって撮影可能である。
【0029】
第2絵柄P2(第2インク)は印刷された直後(第2乾燥ユニット42によって乾燥される前)であるため、典型的には液体状態にあり流動性が極めて高い。また、後述するように、第1絵柄P1(第1インク)は第1乾燥ユニット41によって乾燥された後であるものの、完全乾燥状態まで乾燥されないために流動性を維持した不完全乾燥状態にある。このように、いずれも流動性を有する第1絵柄P1および第2絵柄P2は、互いに混ざり合って干渉してしまう恐れがある。特に、模式的に図示されるように、流動性が比較的高い第2絵柄P2の方に、隣接する第1絵柄P1の第1インクが流れ出して、色にじみINTが発生してしまう恐れがある。
【0030】
また、被処理物30の浸透性や吸収性が低い場合は、被処理物30上のインクの流動性が維持されやすいため、色にじみINT等の異なる流動材の干渉が起こりやすい。このような被処理物30としては、グロスコート紙、ポリエチレンテレフタラート(PET)、2軸延伸ポリプロピレン(OPP)、無延伸ポリプロピレン(CPP)等が例示される。また、油性(オイルベースあるいはソルベントベース)のインクに比べて乾燥性等から流動性が高い水溶性のインクが使用される場合も、色にじみINT等の異なる流動材の干渉が起こりやすい。本実施形態に係る印刷装置10は、乾燥量制御部62によって各色印刷後の乾燥量を適切に制御することで、色にじみINT等の異なる流動材の干渉の発生を防止すると共に、過熱による被処理物30の変形や劣化の発生を防止する。
【0031】
乾燥量制御部62は、供給状態検知部61によって検知された各色のインクの供給状態に基づいて各乾燥ユニット41~43による乾燥量を制御し、主乾燥対象の各色のインクが流動性を維持した不完全乾燥状態のまま被処理物30を後段に搬送させる。具体的には、乾燥量制御部62は、各乾燥ユニット41~43における巻付長調整機構としてのガイドローラ412~432の周方向の位置を個別に調整することで、各加熱部411~431による乾燥量に直結する被処理物30の各加熱部411~431への巻き付け長L1~L3を個別に調整する。
【0032】
最前段の第1乾燥ユニット41では、被処理物30が十分に昇温しておらず、加熱部411による過熱の恐れも少ないことから、乾燥すべき第1インクの絵柄量が顕著に少ない等の例外的な場合を除いて、乾燥量制御部62は巻き付け長L1(すなわち加熱部411による第1インクの乾燥量)を最大値に設定する。その後段の第2乾燥ユニット42では、主に乾燥すべき第2インクの絵柄量が小さいとの供給状態検知部61による検知結果を受けて、乾燥量制御部62は巻き付け長L2(すなわち加熱部421による第2インクの乾燥量)を小さめに設定する。その後段の第3乾燥ユニット43では、主に乾燥すべき第3インクの絵柄量が前段の第2インクの絵柄量より大きいとの供給状態検知部61による検知結果を受けて、乾燥量制御部62は巻き付け長L3(すなわち加熱部431による第3インクの乾燥量)を前段の巻き付け長L2より大きく設定する。
【0033】
乾燥量制御部62は、過熱による被処理物30の変形や劣化を防止する、異なる色のインク間の干渉(色にじみINT等)を防止する、という主に二つの観点から各巻き付け長L1~L3を最適化する。特に水系インクでは気化熱の影響が大きく、絵柄面積や厚さが大きい場合、失わせる気化熱相当の熱量を、巻き付け長を増やすことで加えなくてはならない。
【0034】
過熱による被処理物30の変形や劣化は、薄くて(例えば12ミクロンと16ミクロンの間)熱に弱い食品包装用のフィルム等で発生しやすい。このような極薄の被処理物30を、インクが流動性を失って硬化する完全乾燥状態まで乾燥してしまうと、過熱によって容易に変形または劣化してしまう。そこで、乾燥量制御部62は、被処理物30が変形または劣化しないように、各巻き付け長L1~L3(すなわち各加熱部411~431による乾燥量)の上限を、供給状態検知部61からの情報に基づいて個別に設定する。これら各巻き付け長L1~L3の上限の下では、各乾燥ユニット41~43の少なくともいずれかにおいて、主乾燥対象の各色のインクが流動性を維持した不完全乾燥状態(未硬化状態や不完全硬化状態とも表しうる)のまま、被処理物30が後段に搬送される。
【0035】
この際、
図2に関して説明したように、各乾燥ユニット41~43を経た各色のインク(
図2の例では第1絵柄P1の第1インク)の流動性が高過ぎると、新たに印刷された液体状態のインク(
図2の例では第2絵柄P2の第2インク)と干渉して色にじみINTを引き起こす。そこで、乾燥量制御部62は、色にじみINT等の異なる色のインク間の干渉が生じないように、各巻き付け長L1~L3(すなわち各加熱部411~431による乾燥量)の下限を、供給状態検知部61からの情報に基づいて個別に設定する。
【0036】
以上のような各巻き付け長L1~L3の上限および/または下限は、カメラ51~53によって撮影された画像等に基づいて適応的に設定されてもよい。例えば、第1乾燥ユニット41を通過した後の被処理物30の画像では変形や劣化が確認されず、第2乾燥ユニット42を通過した後の被処理物30の画像では変形や劣化が確認された場合、第2乾燥ユニット42において被処理物30の過熱が生じているため、巻き付け長L2(の上限)が適応的に下げられる。また、第2印刷ユニット22を通過した後の被処理物30の画像では第1インクと第2インクの間に色にじみが確認されず、第3印刷ユニット23を通過した後の被処理物30の画像では第2インクと第3インクの間に色にじみが確認された場合、第2乾燥ユニット42における第2インクの乾燥が不十分であるため、巻き付け長L2(の下限)が適応的に上げられる。
【0037】
以上のように、本実施形態に係る乾燥量制御部62によれば、被処理物30に供給された各色のインクの少なくともいずれかは完全乾燥状態まで乾燥されず、流動性を維持した不完全乾燥状態のまま後段に搬送されるため、各乾燥ユニット41~43による被処理物30および/または各色のインクの過熱を防止できる。更に、本実施形態に係る乾燥量制御部62によれば、乾燥対象の各色のインク(例えば
図2における第1絵柄P1の第1インク)を、後段の印刷ユニットによって新たに供給されるインク(例えば
図2における第2絵柄P2の第2インク)との間で色にじみINT等の干渉を実質的に引き起こさない程度の適切な粘度まで乾燥できる。
図3は、本実施形態に係る乾燥量制御部62によって、異なる印刷色の間の色にじみが効果的に抑制されている(
図2のような色にじみINTが発生していない)様子を模式的に示す。
【0038】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。例示としての実施形態における各構成要素や各処理の組合せには様々な変形例が可能であり、そのような変形例が本発明の範囲に含まれることは当業者にとって自明である。
【0039】
以上の実施形態では、乾燥ユニット41~43の乾燥量が巻き付け長L1~L3によって調整可能であったが、他の任意の方式によって調整可能としてもよい。例えば、被処理物30に風を当てて乾燥させる方式の乾燥ユニットにおいては、風量や風の強さによって乾燥量を調整可能としてもよい。
【0040】
図1における第1印刷ユニット21に代えてまたはその前段に、インクの付着性を向上させるプライマーコーティング(厚さは例えば20ミクロンと50ミクロンの間)を被処理物30に施す塗工ユニットが設けられてもよい。
【0041】
以上の実施形態では、複数の印刷ユニット21~23を備える印刷装置10を処理装置として例示したが、処理装置は、異なる塗料を被処理物に塗る複数の塗工ユニットを備える塗工装置でもよい。各塗工ユニットおよび/または塗工装置のタイプは任意であるが、例えばダイコータやマイクログラビアである。
【0042】
なお、実施形態で説明した各装置や各方法の構成、作用、機能は、ハードウェア資源またはソフトウェア資源によって、あるいは、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働によって実現できる。ハードウェア資源としては、例えば、プロセッサ、ROM、RAM、各種の集積回路を利用できる。ソフトウェア資源としては、例えば、オペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【符号の説明】
【0043】
10 処理装置、21 印刷ユニット、30 被処理物、41 乾燥ユニット、51 カメラ、61 供給状態検知部、62 乾燥量制御部、411 加熱部、412 ガイドローラ。