(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038640
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】インバータ装置及びそれを用いたモータ駆動装置、冷凍機器
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240313BHJP
【FI】
H02M7/48 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142817
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】李 東昇
(72)【発明者】
【氏名】舟橋 佳邦
(72)【発明者】
【氏名】高木 純一
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA05
5H770BA01
5H770BA05
5H770BA11
5H770BA15
5H770CA02
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA01
5H770HA02W
5H770HA03W
5H770HA03Z
5H770KA01Y
(57)【要約】
【課題】母線電流を検出して3相電流を再現すると共に電流歪みを抑制する。
【解決手段】PWM信号に基づいて直流電圧を3相交流電圧に変換するインバータ回路4と、インバータ回路4の直流母線電流から3相電流を再現し、この3相電流及び電流指令値から電圧指令値を演算し、電圧指令値に基づいてPWM制御器26に出力する3相変調波指令値を演算する。三角波のキャリア波の下り坂となる区間を第1区間、第3区間とし、三角波のキャリア波の上り坂となる区間を第2区間、第4区間とした状態において、変調波演算器25は、第2区間において3相変調波信号に調整量を加算し、第1区間及び第3区間のそれぞれの区間において調整量の1/2を減算し、さらに前記第4区間において前記3相変調波信号に所定の調整量を加算する場合、前記第3区間において前記第4区間の所定の調整量 の1/2を重ねて減算する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相変調波と三角波のキャリア波とに基づいてPWM信号を生成するPWM制御器と、前記PWM制御器で生成されたPWM信号に基づいて直流電圧を3相交流電圧に変換するインバータ回路と、前記インバータ回路の直流母線電流を検出して3相電流を再現する電流再現演算器と、前記電流再現演算器で再現された3相電流及び電流指令値に基づいて電圧指令値を演算する電圧指令演算器と、を備えるインバータ装置において、
前記電圧指令演算器で演算された電圧指令値に基づいて前記PWM制御器に出力する3相変調波指令値を演算する変調波演算器を備え、
前記三角波のキャリア波の下り坂となる区間を第1区間とし、前記第1区間より後であって前記三角波のキャリア波の上り坂となる区間を第2区間とし、前記第2区間より後であって前記三角波のキャリア波の下り坂となる区間を第3区間とし、前記第3区間より後であって前記三角波のキャリア波の上り坂となる区間を第4区間とした状態において、前記変調波演算器は、
前記第2区間において3相変調波信号に所定の調整量を加算し、前記第1区間及び前記第3区間のそれぞれの区間において前記所定の調整量の1/2を減算し、さらに前記第4区間において前記3相変調波信号に所定の調整量を加算する場合、前記第3区間において前記第4区間の所定の調整量の1/2を重ねて減算するようにすることを特徴とするインバータ装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記変調波演算器は、前記電圧指令値と前記インバータ回路の直流電圧検出信号に基づいて前記3相変調波信号に換算する変調波換算器と、前記変調波換算器が出力する前記3相変調波信号に基づいて3相変調波指令値を演算する変調波調整器と、を備えたことを特徴とするインバータ装置。
【請求項3】
直流電圧を交流電圧に変換してモータに供給するインバータ装置を備えたモータ駆動装置において、
請求項1又は2に記載のインバータ装置を備えたことを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項4】
モータを有し冷媒を圧縮して循環させる圧縮機と、前記圧縮機で圧縮された冷媒と流体との間で熱交換を行う熱交換器と、を備えた冷凍機器において、
前記モータは、請求項3に記載のモータ駆動装置により駆動させることを特徴とする冷凍機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ装置及びそれを用いたモータ駆動装置、冷凍機器に関する。
【背景技術】
【0002】
直流を交流に変換するインバータ装置は、系統連結インバータ、無停電電源装置(UPS:Uninterruptible Power Supply)、交流モータの駆動装置などに広く利用されている。
【0003】
このようなインバータ装置では、出力電流を制御するために、交流側の各相の相電流を検出する手段が必要になる。安価な電流検出手段として、インバータ主回路の直流母線電流を検出し、インバータ主回路のスイッチングのオン・オフ状態に応じて各相に分配することにより、各相の相電流を推定する方法が開示されている。
【0004】
この電流検出方法に関し、例えば、特許文献1に開示される技術が知られている。特許文献1は、直流母線電流の時間幅が検出可能最小区間より短い場合、変調波を調整して、直流母線電流の時間幅を確保する技術を開示する。また、特許文献2は、直流母線電流の時間幅を確保しつつ、電流リップルの影響を抑制する方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3664040号公報
【特許文献2】特許第4866216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された技術は、PWM信号を生成する三角波キャリアの1周期を前半と後半との期間に分割し、これらの何れか一方の期間で直流母線電流を検出するものである。直流母線電流の時間幅が検出可能最小区間より短い場合は、三角波キャリアの前半区間で各相の電圧指令値に補正電圧を加算し、相間電圧の時間幅を大きくして直流母線電流を検出するようにしている。また、三角波キャリアの後半区間にて、前半区間で加算した補正電圧を減算し、前半と後半との平均出力電圧に影響がないようにしている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された技術においては、補正処理前後における各相の出力電圧の平均値は変化しないが、補正電圧を加えることで、本来不要である電流リップルが発生してしまい、この電流変化分の平均値が0ではなく、結果的に、電流歪みやトルク脈動を引き起こすという課題があった。特に、モータの巻線インダクタンスが小さい場合において、補正電圧の加算/減算による電流歪みが発生し易くなる。
【0008】
一方、特許文献2に開示された技術は、補正電圧の減算処理を加算区間の前後の区間に分配して、電流リップルの平均値を0に抑制することができる。しかしながら、特許文献2に開示された技術においては、電流検出の間隔が従来の1.5倍と長くなり、電流リップルの周波数もキャリア周波数の2/3に低下するという課題があった。
【0009】
本発明の目的は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、母線電流を検出して3相電流を再現すると共に電流歪みを抑制する装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、3相変調波と三角波のキャリア波とに基づいてPWM信号を生成するPWM制御器と、前記PWM制御器で生成されたPWM信号に基づいて直流電圧を3相交流電圧に変換するインバータ回路と、前記インバータ回路の直流母線電流を検出して3相電流を再現する電流再現演算器と、前記電流再現演算器で再現された3相電流及び電流指令値に基づいて電圧指令値を演算する電圧指令演算器と、を備えるインバータ装置において、前記電圧指令演算器で演算された電圧指令値に基づいて前記PWM制御器に出力する3相変調波指令値を演算する変調波演算器を備え、前記三角波のキャリア波の下り坂となる区間を第1区間とし、前記第1区間より後であって前記三角波のキャリア波の上り坂となる区間を第2区間とし、前記第2区間より後であって前記三角波のキャリア波の下り坂となる区間を第3区間とし、前記第3区間より後であって前記三角波のキャリア波の上り坂となる区間を第4区間とした状態において、前記変調波演算器は、
前記第2区間において3相変調波信号に所定の調整量を加算し、前記第1区間及び前記第3区間のそれぞれの区間において前記所定の調整量の1/2を減算し、さらに前記第4区間において前記3相変調波信号に所定の調整量を加算する場合、前記第3区間において前記第4区間の所定の調整量の1/2を重ねて減算するようにすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明よれば、母線電流を検出して3相電流を再現すると共に電流歪みを抑制する装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例1に係るインバータ装置100の全体構成を示す図である。
【
図2】インバータ装置100における制御器11の内部構成を示す図である。
【
図3】PWM制御信号を生成するキャリア波40の1周期の波形を示す図である。
【
図4】変調波演算器25及びPWM制御器26の構成を示す図である。
【
図5】従来の調整方法による波形の一例を示す図である。
【
図6】従来の調整方法による波形の他の例を示す図である。
【
図7】本発明の実施例1に係る調整方法の波形の一例を示す図である。
【
図8】本発明の実施例1の効果を示す3相電流波形(50、51、52)の検証結果を示す図である。
【
図9】本発明の実施例2に係るモータ駆動装置200の全体構成を示す図である。
【
図10】
図9の制御器208の内部構成を示すブロック図である。
【
図11】本発明の実施例3に係る冷凍機器300の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら説明する。本発明の実施例は、以下に説明する具体的な構成に限定されるものではない。なお、図面において、同一符号は、同一または相当部分を示すものとする。
【実施例0014】
以下、
図1~
図8を参照しながら、本発明の実施例1によるインバータ装置100およびその制御方法について説明する。なお、
図1~
図8に示した第1の実施形態は、太陽光発電設備や蓄電池向けの系統連系インバータ装置およびその制御方法に対応するものである。
【0015】
図1は、本発明の実施例1に係るインバータ装置100の全体構成を示す図である。
図1に示すインバータ装置100は、その交流側で交流電源1に接続され、直流側で直流負荷または直流電源(以下、「直流負荷/直流電源10」と参照する。)に接続されている。
【0016】
インバータ装置100は、交流電源1に直列に接続されたノイズフィルタ2と、リアクトル3と、直流負荷/直流電源10に接続されるインバータ回路4とを含み構成される。インバータ装置100は、さらに、インバータ回路4の直流側の正極/負極間に接続されたコンデンサ5と、交流電源1の交流電圧を検出する電圧検出回路6と、正極/負極間の直流電圧を検出する電圧検出回路7と、コンデンサ5とインバータ回路4との間に設けられたシャント抵抗8及び増幅器9と、インバータ回路4のパルス幅変調(以下、PWM(Pulse Width Modulation)とする)制御を行う制御器11とを含み成されている。
【0017】
以下、インバータ回路4の動作モードについて説明する。インバータ回路4の動作モードには、整流モード(交流/直流変換モード)と、回生モード(直流/交流変換モード)とがある。整流モードは、交流電源1から交流電力を受電して直流負荷/直流電源10に直流電力を供給するモードである。回生モードは、直流負荷/直流電源10からの直流電力を逆変換して交流電源1(交流負荷)へ交流電力を出力するモードである。これら両動作モードの切り替えは、制御器11からの制御信号によって実現される。直流負荷/直流電源10に用いられる直流電源としては、例えば、太陽光発電設備や蓄電池などを挙げることができる。
【0018】
図1に示す交流電源1は、3相交流の電源であり、インバータ回路4は、3相交流電源1に対応して、3相ブリッジ回路が構成されている。
【0019】
コンデンサ5は、インバータ回路4の直流側の直流電圧のリップル電圧およびサージ電圧を抑制するための要素である。
【0020】
制御器11は、電圧検出回路6、電圧検出回路7および増幅器9からの検出信号に基づいて、インバータ回路4の各半導体スイッチング素子をスイッチング(オン・オフ)制御するためのパルス幅変調(PWM)信号を生成する。制御器11としては、マイクロコンピュータやDSP(Digital Signal Processor)などの演算処理装置が用いられ得る。制御器11は、また、サンプリングホールド回路およびA/D(Analog/Digital)変換部を備えており、入力される各電圧・電流の検出信号がデジタル信号に変換される。
【0021】
以下、
図2を参照しながら、制御器11の内部構成を説明する。
図2は、インバータ装置100における制御器11の内部構成を示す図である。制御器11は、上述した演算処理装置が所定のプログラムを実行することで、インバータ回路4に対するPWM信号を生成するように動作する。
【0022】
制御器11は、
図2に示すように、電源位相演算器21と、電流再現演算器22と、電圧指令演算器23と、2軸/3相変換器24と、変調波演算器25と、PWM制御器26と、3相/2軸変換器27と、を含み構成される。
【0023】
電源位相演算器21は、電圧検出回路6が検出した交流電圧検出信号が入力され、電源電圧位相(θs)を演算して、演算された電源電圧位相(θs)を2軸/3相変換器24および3相/2軸変換器27へそれぞれ出力する。
【0024】
3相/2軸変換器27は、電源電圧位相(θs)に基づいて、後述する電流再現演算器22で再現されたインバータ回路4の3相電流iu、iv、iwをd軸電流検出値Idおよびq軸電流検出値Iqに変換する。
【0025】
電圧指令演算器23は、d軸電流指令値Id
*およびq軸電流指令値Iq
*と、3相/2軸変換器27で求められたd軸電流検出値Idおよびq軸電流検出値Iqの誤差を無くすように、比例積分(PI)制御などを用いて、d軸電圧指令値Vd
*及びq軸電圧指令値Vq
*を演算する。この電圧指令演算には公知技術を採用することができ、詳細な説明は省略する。
【0026】
また、
図2の2軸/3相変換器24は、d軸電圧指令値V
d
*およびq軸電圧指令値V
q
*と、電源位相演算器21で求められた電源電圧位相(θ
s)とを用い、3相電圧指令値(v
u
*,v
v
*,v
w
*)を算出して変調波演算器25へ出力する。変調波演算器25及びPWM制御器26の処理は、
図4を用いて後で詳細説明する。
【0027】
電流再現演算器22は、シャント抵抗8及び増幅器9が出力するインバータ回路4の母線電流検出信号i
shと、変調波演算器25が出力する3相変調波指令値m
u
’,m
v
’,m
w
’を用いて、インバータ回路4の3相電流i
u、i
v、i
wを再現する。具体的な電流再現処理について、
図3を用いて説明する。
【0028】
図3は、PWM制御信号を生成するキャリア波40の1周期の波形を示す図である。3相変調波指令値m
u
’,m
v
’,m
w
’と三角波のキャリア波40との比較により、各相に対応するPWM制御信号Pup、Pvp、Pwp(上アーム素子の制御信号である。下アーム素子の制御信号は上アーム素子の制御信号の反転であるため、ここで省略。)を生成する。
図3に示す母線電流検出信号i
shは、PWM制御信号Pup=0、Pvp=1、Pwp=1の区間では、i
sh=i
uであり、Pup=0、Pvp=0、Pwp=1の区間では、i
sh=i
wである。ゆえに、
図3に示すように、母線電流検出信号i
shの丸いところでサンプリングすれば、2相分の相電流i
u、i
wを検出できる。ただし、上記区間の時間幅がサンプリングを実行できる時間より狭い場合は、対応の相電流の検出ができなくなる。その対策は、
図5~
図7を用いて後述する。
【0029】
電流再現演算器22で再現された3相電流は、3相/2軸変換器27に入力して、電源位相演算器21で演算された電源電圧位相(θs)を用い、d軸電流Idとq軸電流Iqを演算する。
【0030】
次に、
図4を用いて、変調波演算器25及びPWM制御器26の処理を説明する。
図4は、変調波演算器25及びPWM制御器26の構成を示す図である。
【0031】
変調波演算器25には、変調波換算器30と変調波調整器31が備えられている。変調波換算器30では、3相電圧指令値(vu
*,vv
*,vw
*)を直流電圧検出信号Edcを用いて下式により正規化し、3相変調波信号(mu,mv,mw)に変換する。
【0032】
m
u=v
u
*/(Edc/2)
m
v=v
v
*/(Edc/2)
m
w=v
w
*/(Edc/2)
変調波調整器31は、母線電流検出信号i
shの各相電流に対応する区間の時間幅を確保するように、各相の変調波を調整する。具体的な調整処理は、
図5~
図7を用いて説明する。
【0033】
図5は、従来の調整方法による波形の一例を示す図である。この例では、三角波であるキャリア波40の上り坂の半周期区間(IとIIIの区間)で、母線電流検出信号i
shの時間幅を確保するために、3相変調波信号m
uに対して、調整量Δm
u1とΔm
u2をそれぞれ加算する。また、キャリア波40の1周期間の変調波の平均値を保つために、キャリア波40の下り坂の半周期区間(IIとIVの区間)で、調整量Δm
u1とΔm
u2をそれぞれ減算する。また、
図5に図示しないが、変調波m
vとm
wに対しても、同様な調整処理を実行する。
【0034】
このような変調波の加算/減算により、U相電流に余分な電流リップル成分Δi
uが発生する。
図5に示す例では、キャリア波40の上り坂の半周期区間で、電流リップル成分Δi
uが正方向に上昇し、キャリア波40の下り坂の半周期区間で、電流リップル成分Δi
uが負方向に降下する。ゆえに、電流リップル成分Δi
uの平均値は0ではなく、U相電流に正のバイアス成分が現れる。
【0035】
同様に、キャリア波40の上り坂の半周期区間で、調整量Δmuを減算して、キャリア波40の下り坂の半周期区間で、調整量Δmuを加算する場合、U相電流に負のバイアス成分が現れる。3相変調波が周期的な波形の場合、調整量Δmuも周期変化するため、変調波の加算/減算により、U相電流のバイアス成分が周期変動して電流歪みが現れる。
【0036】
図6は、従来の調整方法による波形の他の例を示す図である。この例では、三角波のキャリア波40の上り坂あるいは下り坂の半周期区間(IIとVの区間)で、母線電流検出信号i
shの時間幅を確保するために、3相変調波信号m
uに対して、調整量Δm
u1とΔm
u2をそれぞれ加算する。変調波の平均値を保つために、前記調整区間前後のキャリア波40の下り坂と上り坂の二つの半周期区間(IとIII、及びIVとVI)で、調整量Δm
u1/2とΔm
u2/2をそれぞれ減算する。
【0037】
このような変調波の加算/減算により、U相電流に余分な電流リップル成分Δi
uが発生するが、
図6に示すように、減算処理が加算処理の前後に分けて行うため、電流リップル成分Δi
uの平均値は0である。ゆえに、U相電流に電流歪みが少ない。しかし、
図6に示すように、電流検出値が更新される電流検出の間隔は、三角波のキャリア波周期の1.5倍になり、電流リップルの周波数もキャリア周波数の2/3に低くなる。この現象により、インバータ装置やモータ駆動装置の騒音が増加する可能性がある。
【0038】
この課題を解決するための手段について、以下説明する。
図7は、本発明の実施例1に係る調整方法の波形の一例を示す図である。
【0039】
図7において、三角波のキャリア波40の下り坂となる区間Iを第1区間とし、第1区間より後であって三角波のキャリア波40の上り坂となる区間IIを第2区間とし、第2区間より後であって三角波のキャリア波40の下り坂となる区間IIIを第3区間とし、第3区間より後であって三角波のキャリア波40の上り坂となる区間IVを第4区間とし、第4区間より後であって三角波のキャリア波40の下り坂となる区間Vを第5区間とする。
【0040】
この例において、変調波演算器25は、三角波であるキャリア波40の上り坂の半周期区間(第2区間IIと第4区間IV)で、母線電流検出信号ishの時間幅を確保するために、3相変調波信号muに対して、所定の調整量Δmu1とΔmu2をそれぞれ加算する。変調波の平均値を保つために、第2区間IIと第4区間IVの前後に位置するキャリア波40の下り坂の二つの半周期区間(第1区間I、第3区間III、第5区間V)において、調整量Δmu1/2とΔmu2/2をそれぞれ減算する。また、上り坂の前後に挟まれる下り坂の区間(第3区間III)において、前後の上り坂(第2区間IIと第4区間IV)において調整量Δmu1とΔmu2の加算処理を行う場合、それぞれの調整量の半分を重ねて減算する(第2区間IIの調整量Δmu1/2+第4区間IVの調整量Δmu2/2)。
【0041】
このような変調波の加算/減算により、U相電流に余分な電流リップル成分Δi
uが発生するが、
図7に示すように、減算処理が加算処理の前後に分けて行うため、電流リップル成分Δi
uの平均値は0である。ゆえに、U相電流に電流歪みが少ない。また、調整量の減算処理を下り坂の区間で重なって実行するため、電流リップルの周波数はキャリア周波数と同じである。即ち、この調整方法は、既存のキャリア周波数以外の周波数成分による騒音発生を抑制できる。
【0042】
また、
図5~
図7に示す三角波のキャリア波の上り坂と下り坂を前後交換して、同様な変調波調整は実施可能である。ここでは、詳細説明を省略する。
【0043】
最後に、
図4のPWM制御器26の構成と動作を簡単に説明する。
【0044】
PWM制御器26におけるPWM制御の方式としては、特に限定されるものではないが、例えば、マイクロコンピュータの内蔵機能を用いて、三角波または鋸歯状波のキャリア波信号を生成し、各レジスタの出力と比較して、出力信号のレベルを制御する、いわゆる三角波比較方式を採用することができる。以下、三角波のキャリア波信号を用いた三角波比較方式を用いてより具体的に説明する。
【0045】
しかしながら、三角波のキャリア波信号を用いる三角波比較方式は、あくまでも一例であり、鋸歯状波のキャリア波信号を用いてもよい。また、実装の容易性およびハードウェアコストを低減する観点からは、三角波比較方式を採用することが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0046】
PWM制御器26は、タイマ機能を用いて、キャリア波発生器35で、三角波のキャリア波信号を発生させるとともに、山(上に凸部分の頂点)・谷(下に凸部分の頂点)のタイミングを示す山・谷信号を生成する。
【0047】
変調波演算器25が出力する3相変調波指令値m
u
’,m
v
’,m
w
’は、バッファレジスタ32に入力され、山・谷信号に従って、キャリア波の山または谷の時点で、比較用レジスタ33へ転送される。比較器34は、比較用レジスタ33の出力(変調波信号)と、キャリア波発生器35で発生されたキャリア波信号と比較を比較し、PWM信号を生成する。
図8は、本発明の実施例1の効果を示す3相電流波形(50、51、52)の検証結果を示す図である。
図8(a)の波形は、
図5に示す従来方法を用いた検証結果である。
図8(b)の波形は、
図7に示す本発明の実施例1に係る調整方法を用いた検証結果である。二つの検証結果を比較すると、3相電流の歪みが改善されたことを確認できる。特に、3相電流大きさ関係が変化する時点前後に、3相変調波の大きさ関係が変化するため、
図5に示す方法を使用すると、各相電流のバイアス成分が急変化するので、電流の不連続現象が見られる。一方、
図7の方法を使用すると、電流の不連続が無くなり、電流歪みが少なくなる。
【0048】
上述した実施例1では、母線電流検出信号ishの時間幅を確保するために、三角波のキャリア波の上り坂の半周期区間で、3相変調波muに対して、調整量Δmuを加算し、また、前記加算区間の前後のキャリア波の下り坂の二つの半周期区間で、調整量Δmuの半分をそれぞれ減算して、さらに、下り坂の前後上り坂で、調整量の加算処理を連続実施する場合、それぞれの調整量の半分を重なって減算ことを特徴とする。
【0049】
実施例1によれば、上述した変調波の調整により、変調波の加算/減算による電流リップルの平均値を概に0に抑制して、電流歪みを低減し、電流リップルの周波数をキャリア周波数と一致することができる。
整流回路202は、交流電源201に接続され、交流電源201からの交流電圧を直流電圧に変換する。平滑コンデンサ203は、整流回路202の直流出力端子に接続され、整流回路202の出力である直流電圧を平滑する。インバータ回路204は、制御器208から入力されたPWM信号に従って、IGBTやパワーMOSなどの半導体スイッチング素子をオン・オフ動作させ、平滑コンデンサ203の出力である直流電圧を交流電圧に変換して出力し、モータ210を駆動する。
なお、交流電源201に代え、蓄電池などの直流電源から給電する場合は、整流回路202を省略し、直流電源の出力をインバータ回路204に入力する構成としても良い。
また、電流検出回路206は、平滑コンデンサ203とインバータ回路204との間に設けられたシャント抵抗により、インバータ回路204の直流電流(母線電流)を検出する。直流電圧検出回路207は、平滑コンデンサ203の両端の直流電圧を検出する。
制御器208は、電流検出回路206および直流電圧検出回路207の出力に基づいてインバータ回路204を制御するPWM信号を生成する。なお、制御器208は、マイクロコンピュータもしくはDSP(Digital Signal Processor:デジタルシグナルプロセッサ)などの半導体演算素子を用いて実装することができる。
速度&位相推定器225は、dc軸電流検出値Idcとqc軸電流検出値Iqc、及びdc軸電圧指令値Vdcとqc軸電圧指令値Vqcを入力し、推定速度と制御系の位相情報θdcを演算し、出力する。
以上説明したように、実施例2によれば、母線電流を確実に検出しながら、変調波の調整による電流リップルの平均値を概に0に抑制して、モータ電流歪みを低減し、電流リップルの周波数をキャリア周波数と一致することを実現したモータ駆動装置200を提供することが可能となる。また、電流歪みの改善により、モータ駆動装置200は、トルク脈動が低減されているため、装置の振動・騒音及び消費電力を低減することが可能となる。