(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038654
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】熱音響装置
(51)【国際特許分類】
F25B 9/00 20060101AFI20240313BHJP
【FI】
F25B9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142844
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】飯島 伸介
(72)【発明者】
【氏名】藤井 沙也加
(57)【要約】
【課題】冷熱出力の低下を防止可能な熱音響装置を実現できる。
【解決手段】熱音響装置は、作動気体が封入された気柱管と、作動気体に振動を生じさせる原動機と、作動気体に生じた振動によって両端間に温度差を発生させる負荷と、熱源から原動機へ熱を輸送する熱輸送管と、流体を原動機へ送るためのポンプと、を備えている。熱輸送管を流れる流体には、潜熱蓄熱材が添加されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動気体が封入された気柱管と、
前記気柱管の内部に配置され、前記作動気体に振動を生じさせる原動機と、
前記気柱管の内部に配置された負荷であって、前記作動気体に生じた前記振動によって前記負荷の両端間に温度差を発生させる負荷と、
流体が封入され、前記原動機に熱を供給する熱源から前記流体を介して前記熱を前記原動機へ輸送する熱輸送管と、
前記熱輸送管に設けられ、前記流体を前記原動機へ送るためのポンプと、
を備え、
前記流体には、潜熱蓄熱材が添加されていることを特徴とする熱音響装置。
【請求項2】
前記流体は、油であることを特徴とする請求項1に記載の熱音響装置。
【請求項3】
前記潜熱蓄熱材は、所定温度の融点を有する第1潜熱蓄熱材を含むことを特徴とする請求項2に記載の熱音響装置。
【請求項4】
前記潜熱蓄熱材は、
前記所定温度よりも融点が高く、前記油の異常発熱を抑制する第2潜熱蓄熱材、
または、
前記所定温度よりも融点が低く、前記油の温度低下を抑制する第3潜熱蓄熱材
のうちの少なくとも1つを更に含むことを特徴とする請求項3に記載の熱音響装置。
【請求項5】
前記熱源に接続され、前記熱源から出力される、加熱されたガスが流れるダクトと、
前記ダクトに設けられ、前記油が通る熱交換部であって、前記ガスから前記油へ前記熱を伝達する熱交換部と、
を備え、
前記熱輸送管の一部分は、前記ダクトの外側を覆うように配置されており、
当該一部分は、前記熱交換部を構成し、
前記熱交換部には、前記熱交換部の内部に固定された、潜熱蓄熱材からなる部材が充填されていることを特徴とする請求項2に記載の熱音響装置。
【請求項6】
前記原動機及び前記負荷に接続され、循環水を循環させるための循環配管と、
前記循環配管に設けられ、前記循環水に冷熱を供給する循環水用熱交換器と、
を備え、
前記循環配管を流れる前記循環水には、潜熱蓄熱材が添加されていることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の熱音響装置。
【請求項7】
作動気体が封入された気柱管と、
前記気柱管の内部に配置され、前記作動気体に振動を生じさせる原動機と、
前記気柱管の内部に配置された負荷であって、前記作動気体に生じた前記振動によって前記負荷の両端間に温度差を発生させる負荷と、
前記原動機及び前記負荷に接続され、循環水を循環させるための循環配管と、
前記循環配管に設けられ、前記循環水に冷熱を供給する循環水用熱交換器と、
を備え、
前記循環配管を流れる前記循環水には、潜熱蓄熱材が添加されていることを特徴とする熱音響装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱音響現象を利用した熱音響装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、熱音響現象を利用した熱音響装置が開示されている。特許文献1の熱音響装置では、両端部間の温度差によって発振するスタックと、スタックの一方側と熱交換を行う熱交換器とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の熱音響装置では、熱輸送管により加熱流体を熱源から熱交換器へ輸送することで、熱交換器を加熱する。ここで、加熱流体が油である場合、熱交換器を通過する油から熱が奪われるので、熱交換器を通過する際に油の温度は低下する。当該油の温度低下に伴ってスタックの両端部間における温度差は小さくなり、スタックの発振効率は低下する。その結果、熱音響装置の冷熱出力が低下するという課題がある。本開示は、冷熱出力の低下を防止可能な熱音響装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る熱音響装置は、作動気体が封入された気柱管と、前記気柱管の内部に配置され、前記作動気体に振動を生じさせる原動機と、前記気柱管の内部に配置された負荷であって、前記作動気体に生じた前記振動によって前記負荷の両端間に温度差を発生させる負荷と、流体が封入され、前記原動機に熱を供給する熱源から前記流体を介して前記熱を前記原動機へ輸送する熱輸送管と、前記熱輸送管に設けられ、前記流体を前記原動機へ送るためのポンプと、を備えている。前記流体には、潜熱蓄熱材が添加されている。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一態様によれば、冷熱出力の低下を防止可能な熱音響装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の実施形態1に係る熱音響装置の概略構成を示す図である。
【
図2】実施形態1に係る熱輸送管の排熱用熱交換部の断面図である。
【
図3】実施形態1に係る熱媒油が流れる熱輸送管の断面図である。
【
図5】実施形態1に係る熱音響装置の熱媒油の平均温度と冷熱出力との関係を示すグラフである。
【
図6】本開示の実施形態2に係る熱音響装置の概略構成を示す図である。
【
図7】本開示の実施形態3に係る熱音響装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本開示の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は繰り返さない。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0009】
〔実施形態1〕
以下、本開示の実施形態1に係る熱音響装置1について、
図1~
図5を参照して説明する。
【0010】
図1は、熱音響装置1の概略構成を示す図である。熱音響装置1は、例えば、冷房及び冷凍施設の冷却器として用いられる。熱音響装置1は、気柱管10と、原動機20と、負荷30と、冷却器8と、ラジエータ9と、熱輸送管40と、排熱用熱交換部41と、ポンプ42と、熱源50と、ダクト60と、を備えている。
【0011】
気柱管10は、例えば環状のループ管であり、作動気体が封入されている。作動気体としては、例えば、ヘリウム、窒素、アルゴン、空気、又はこれらのうち少なくとも2つの混合気体を用いることができる。
【0012】
気柱管10の材質は、例えば金属である。なお、気柱管10の材質は、作動気体の圧力及び作動温度条件において、十分な強度を有する材質であればよく、他にも、セラミック等であってもよい。
【0013】
気柱管10の内部には、原動機20及び負荷30が配置されている。原動機20は、高温側原動機熱交換器21と、低温側原動機熱交換器22と、原動機蓄熱器23とを有している。高温側原動機熱交換器21は、原動機蓄熱器23の一端部に配置され、低温側原動機熱交換器22は、原動機蓄熱器23の他端部に配置されている。原動機20は、作動気体に振動を生じさせる。
【0014】
原動機蓄熱器23は、金属等で形成されている。原動機蓄熱器23は、原動機蓄熱器23を貫通する複数の微細流路を有している。複数の微細流路は、原動機蓄熱器23の両端部を連通する方向に沿って形成されている。複数の微細流路の各々は、例えば正六角形状の断面を有している。なお、各微細流路の断面積は、気柱管10の断面積に比べて十分小さいことが好ましい。ただし、各微細流路の断面積の総面積は、気柱管10の断面積よりも大きくなっても構わない。
【0015】
負荷30は、高温側負荷熱交換器31と、低温側負荷熱交換器32と、負荷蓄熱器33とを有している。高温側負荷熱交換器31は、負荷蓄熱器33の一端部に配置され、低温側負荷熱交換器32は、負荷蓄熱器33の他端部に配置されている。負荷30は、作動気体に生じた振動によって、負荷30の両端部間、より具体的には負荷蓄熱器33の両端部間に温度差を発生させる。
【0016】
負荷蓄熱器33は、原動機蓄熱器23と同様の構造を有している。なお、負荷蓄熱器33は、原動機蓄熱器23と異なる構造であってもよく、例えば、負荷蓄熱器33の両端部を連通する方向の長さ、及び負荷蓄熱器33に形成される微細流路数のうちの少なくとも1つが原動機蓄熱器23と異なっても良い。
【0017】
原動機20の高温側原動機熱交換器21には、熱輸送管40が接続されている。熱輸送管40に熱媒油Lが流れることにより、熱源50から出力される排気ガスの熱が高温側原動機熱交換器21へ輸送される。
【0018】
熱媒油Lは、熱輸送管40に封入された流体の一例である。熱媒油Lとしては、例えばバーレルサーム400を用いることができる。熱媒油Lには、潜熱蓄熱材(PCM:Phase Change Material)が添加されている。
【0019】
図2は、熱輸送管40の排熱用熱交換部41の断面図である。熱輸送管40は、排熱用熱交換部41を有している。より詳細には、熱輸送管40の一部分は、ダクト60の外側を覆うように配置されており、二重管構造をなしている。当該一部分は、排熱用熱交換部41に相当する。排熱用熱交換部41において、ダクト60を流れる排気ガスの熱が、熱輸送管40を流れる熱媒油Lへ伝達される。
【0020】
なお、図示はしないが、更に、排熱用熱交換部41の内部に第1潜熱蓄熱材を充填しても良い。その充填方法としては、例えば、第1潜熱蓄熱材からなる部材を排熱用熱交換部41の内部に固定し、当該内部に充填することができる。当該部材の構造としては、ハニカム構造体及び多数の細い孔が空いている板部材を挙げることができる。ただし、これら構造は一例であり、第1潜熱蓄熱材を排熱用熱交換部41の内部に固定し、熱媒油Lの流れを妨げない構造であればどのような構造であっても構わない。
【0021】
また、排熱用熱交換部41の内部には第2潜熱蓄熱材及び第3潜熱蓄熱材を更に充填しても良い。充填方法としては、上述した第1潜熱蓄熱材の充填方法と同様である。
【0022】
再び、
図1を参照する。ダクト60の一端部は、熱源50に接続されている。ダクト60の他端部は、外部に連通している。熱源50から出力された排気ガスは、ダクト60を通って排熱用熱交換部41に送風される。なお、熱源50は、例えば炉であるが、これに限定されない。また、排気ガスは、加熱されたガスの一例であり、例えば炉から排出されるガスであるが、これに限定されない。なお、排気ガスは、内燃機関から排出されるガスに限られるものでもない。
【0023】
熱輸送管40における排熱用熱交換部41と高温側原動機熱交換器21との間には、ポンプ42が設けられている。ポンプ42は、熱輸送管40内の熱媒油Lを、原動機20の高温側原動機熱交換器21側へ送るためのものである。熱媒油Lが高温側原動機熱交換器21を通ることによって、高温側原動機熱交換器21が加熱される。
【0024】
排熱用熱交換部41は、排気ガスの熱を、熱輸送管40を流れる熱媒油Lに伝達する。熱輸送管40を流れる熱媒油Lは、排熱用熱交換部41により、例えば180℃程度に加熱される。
【0025】
排熱用熱交換部41により加熱された熱媒油Lは、ポンプ42によって、原動機20の高温側原動機熱交換器21へ送られ、高温側原動機熱交換器21で熱交換された後、排熱用熱交換部41へ戻される。
【0026】
熱輸送管40における高温側原動機熱交換器21の入口側には、温度センサT1が設けられている。温度センサT1は、熱輸送管40内における高温側原動機熱交換器21の入口側の熱媒油Lの温度を検出する。
【0027】
熱輸送管40における高温側原動機熱交換器21の出口側には、温度センサT2が設けられている。温度センサT2は、熱輸送管40内における高温側原動機熱交換器21の出口側の熱媒油Lの温度を検出する。
【0028】
低温側原動機熱交換器22と高温側負荷熱交換器31には、循環配管80が接続されている。循環配管80には、循環ポンプ81が設けられている。循環ポンプ81は、循環配管80内を流れる循環水を循環させる。なお、循環水の代わりに、グリコール等の冷媒を用いてもよい。
【0029】
循環配管80における高温側負荷熱交換器31の入口側には、温度センサT3が設けられている。温度センサT3は、循環配管80内における高温側負荷熱交換器31の入口側の循環水の温度を検出する。
【0030】
循環配管80における低温側原動機熱交換器22の出口側には、温度センサT4が設けられている。温度センサT4は、循環配管80内における低温側原動機熱交換器22の出口側の循環水の温度を検出する。
【0031】
循環配管80において、温度センサT4と循環ポンプ81との間には、冷却器8が配置されている。冷却器8は、循環配管80を流れる循環水を冷却するためのものである。
【0032】
負荷30の低温側負荷熱交換器32には、冷却配管90が接続されている。冷却配管90は、冷却用の冷媒を流すための配管である。冷媒としては、不凍液等を用いることができる。冷却配管90には、ポンプ91が設けられている。ポンプ91は、冷却配管90の冷媒を低温側負荷熱交換器32へ送るためのものである。
【0033】
冷却配管90における低温側負荷熱交換器32の入口側には、温度センサT5が設けられている。温度センサT5は、冷却配管90内における低温側負荷熱交換器32の入口側の冷媒の温度を検出する。
【0034】
冷却配管90における低温側負荷熱交換器32の出口側には、温度センサT6が設けられている。温度センサT6は、冷却配管90内における低温側負荷熱交換器32の出口側の冷媒の温度を検出する。
【0035】
冷却配管90における温度センサT6とポンプ91との間には、ラジエータ9が配置されている。ラジエータ9は、低温側負荷熱交換器32により冷却された冷媒によって、空気を冷却し、冷風を排出する冷房に用いられる。
【0036】
[潜熱蓄熱材]
図3は、熱媒油Lが流れる熱輸送管40の断面図である。本実施形態では、熱輸送管40を流れる熱媒油Lには、第1潜熱蓄熱材、第2潜熱蓄熱材、及び第3潜熱蓄熱材の3種類の潜熱蓄熱材が添加されている。より具体的には、熱媒油Lには、第1潜熱蓄熱カプセルM1、第2潜熱蓄熱カプセルM2、及び第3潜熱蓄熱カプセルM3が添加されている。第1潜熱蓄熱カプセルM1は、第1潜熱蓄熱材が充填されたマイクロカプセルである。第2潜熱蓄熱カプセルM2は、第2潜熱蓄熱材が充填されたマイクロカプセルである。第3潜熱蓄熱カプセルM3は、第3潜熱蓄熱材が充填されたマイクロカプセルである。
【0037】
図4は、熱音響装置1の第1潜熱蓄熱材P1が充填された第1潜熱蓄熱カプセルM1の断面図である。球状のマイクロカプセルC1に第1潜熱蓄熱材P1が充填されている。各第1潜熱蓄熱材P1は粒子形状である。マイクロカプセルC1は、例えば酸化アルミニウムからなる。
【0038】
図示はしないが、第2潜熱蓄熱カプセルM2、及び第3潜熱蓄熱カプセルM3についても、第1潜熱蓄熱カプセルM1と同様に、各々のマイクロカプセルに第2潜熱蓄熱材及び第3潜熱蓄熱材がそれぞれ充填されている。なお、マイクロカプセルの外形形状は、球状に限られるものではない。熱媒油Lへの添加に適した形状であれば良く、例えば楕円形状であってもよい。
【0039】
マイクロカプセルの直径は、例えば20μm~50μm程度である。マイクロカプセルの比重は、熱媒油Lの比重に対して、±5%以内の範囲であることが好ましい。
【0040】
第1潜熱蓄熱材としては、例えば、スズ(Sn)を用いることができる。スズの融点は、約232℃である。この場合、所定温度の一例が232℃である。なお、第1潜熱蓄熱材として、他にも、例えばスズ合金を用いてもよい。スズ合金の融点は、210℃~230℃程度である。また、熱媒油Lが180℃程度に加熱される場合であれば、第1潜熱蓄熱材の融点は、当該180℃程度であることが好ましい。
【0041】
第2潜熱蓄熱材としては、例えば、硝酸ナトリウム(NaNO3)を用いることができる。硝酸ナトリウムの融点は、約307℃である。なお、第2潜熱蓄熱材として、他にも、例えば水酸化ナトリウム(NaOH)を用いてもよい。水酸化ナトリウムの融点は、約318℃である。
【0042】
第3潜熱蓄熱材としては、例えば、塩化マグネシウム六水和物(MgCl2・6H2O)を用いることができる。塩化マグネシウム六水和物の融点は、約117℃である。なお、第3潜熱蓄熱材として、他にも、例えば硫酸アルミニウム十水和物(Al2(SO4)3・10H2O)を用いてもよい。硫酸アルミニウム十水和物の融点は、約112℃である。
【0043】
ここで、第1潜熱蓄熱カプセルM1、第2潜熱蓄熱カプセルM2、及び第3潜熱蓄熱カプセルM3のいずれにおいても、潜熱蓄熱材がマイクロカプセル内に充填されている。このため、潜熱蓄熱材は、固相から液相に相変化したときにマイクロカプセルから漏れ出すことなく、再び、マイクロカプセル内で液相から固相に相変化することができる。これにより、潜熱の高い輸送性を維持できる。なお、第1潜熱蓄熱カプセルM1、第2潜熱蓄熱カプセルM2、及び第3潜熱蓄熱カプセルM3は、孔のないマイクロカプセルに粒子形状の潜熱蓄熱材を充填した、所謂シェルコア構造であるが、この構造に限るものではない。潜熱蓄熱材が固相から液相に相変化する際に、液相の潜熱蓄熱材が外に漏れださない構造であれば良い。
【0044】
また、潜熱蓄熱材がマイクロカプセル内に充填されているので、潜熱蓄熱材が沈降したり、熱媒油Lに溶融したりすることを防ぐことができる。また、液相の潜熱蓄熱材中に熱媒油Lの微粒子が分散したエマルジョンが生じることを防ぐことができる。これにより、熱輸送管40内の熱媒油Lの流れが閉塞することを防ぐことができる。
【0045】
また、第1潜熱蓄熱カプセルM1、第2潜熱蓄熱カプセルM2、及び第3潜熱蓄熱カプセルM3の比重は、熱媒油Lの比重に対して±5%以内の範囲であるので、熱輸送管40内において第1潜熱蓄熱カプセルM1、第2潜熱蓄熱カプセルM2、及び第3潜熱蓄熱カプセルM3が沈降してしまうことを防ぐことができる。
【0046】
また、第1潜熱蓄熱カプセルM1、第2潜熱蓄熱カプセルM2、及び第3潜熱蓄熱カプセルM3の直径は、20μm~50μm程度であるので、潜熱蓄熱材が熱媒油Lの流れに悪影響を与えることを防止できる。
【0047】
[熱音響装置の動作]
図1を参照しながら、熱音響装置1の動作の一例について説明する。まず、循環配管80への循環水の供給を開始する。続いて、冷却配管90への不凍液等の冷媒の供給を開始する。次に、熱輸送管40への熱媒油Lの供給を開始する。
【0048】
熱源50から出力された排気ガスの熱は、排熱用熱交換部41にて、熱輸送管40を流れる熱媒油Lに伝達される。このとき、熱媒油Lには、第2潜熱蓄熱材が添加されているので、熱媒油Lが高温異常になることを抑制することが可能となっている。
【0049】
排気ガスの熱により加熱された熱媒油Lが熱輸送管40を通って、原動機20の高温側原動機熱交換器21に供給されることで、高温側原動機熱交換器21が加熱される。一方、低温側原動機熱交換器22に循環配管80を介して循環水が供給されることで、低温側原動機熱交換器22の温度は、高温側原動機熱交換器21の温度よりも低く保たれる。
【0050】
このようにして、原動機蓄熱器23の両端部間に所定の温度差が生じると、熱音響効果により、原動機蓄熱器23内の作動気体に振動が生じる。原動機20内の作動気体の振動は、気柱管10内の作動気体に伝わる。これにより、負荷30の作動気体が振動する。負荷30内の作動気体が振動すると、熱音響効果により、負荷30の負荷蓄熱器33の両端部間に所定の温度差が生じる。即ち、低温側負荷熱交換器32に供給された冷媒が冷却される。ラジエータ9は、低温側負荷熱交換器32により冷却された冷媒によって、空気を冷却し、冷風を排出する。
【0051】
以上説明した熱音響装置1によれば、熱輸送管40を流れる熱媒油Lに、第1潜熱蓄熱材が添加されているので、熱媒油Lが原動機20の高温側原動機熱交換器21を通過する際に、熱媒油Lの温度が低下することを抑制できる。
【0052】
ここで、
図5は、熱音響装置1の熱媒油Lの平均温度Taと冷熱出力との関係を示すグラフである。平均温度Taは、高温側原動機熱交換器21の入口側の熱媒油Lの温度である入口温度Tiと、高温側原動機熱交換器21の出口側の熱媒油Lの温度である出口温度Toとの平均値である。例えば、高温側原動機熱交換器21の入口温度Tiが180℃であり、高温側原動機熱交換器21の出口温度Toが140℃である場合、平均温度Taは160℃となる。この場合、熱音響装置1の冷熱出力は、約75%となる。
【0053】
第1潜熱蓄熱材の蓄熱効果によって、高温側原動機熱交換器21を通過することに伴う熱媒油Lの温度低下を防止した場合、高温側原動機熱交換器21の入口温度Ti及び出口温度Toが180℃となり、平均温度Taは180℃となる。この場合、熱音響装置1の冷熱出力は、約100%となる。
【0054】
このように、熱媒油Lの温度が低下することを抑制することで原動機蓄熱器23の両端部間の温度差が小さくなることを防ぎ、熱音響装置1における冷熱の出力を向上させることができる。また、熱媒油Lの単位流量あたりの熱量を増加させることができるので、熱媒油Lの流量を少なくして、ポンプ42の消費電力を削減することが可能となる。
【0055】
また、所定温度よりも融点の高い第2潜熱蓄熱材が熱媒油Lに含まれていることにより、過剰な加熱による高温異常を防止できる。また、所定温度よりも融点の低い第3潜熱蓄熱材が熱媒油Lに含まれていることにより、熱源50の温度が短時間で低下した場合に、熱媒油Lの温度低下を抑制することができる。
【0056】
また、熱源50から熱を輸送するための流体として、空気よりも熱容量が大きい熱媒油Lを用いることで、小さな体積の流体でより多くの熱量を原動機20に伝えることができる。
【0057】
また、排熱用熱交換部41を通る熱媒油Lには、第1潜熱蓄熱材、第2潜熱蓄熱材、及び第3潜熱蓄熱材が添加されているので、排気ガスの温度変動による冷熱の出力の変動を緩和することができる。
【0058】
また、排熱用熱交換部41は、
図2に示すように、二重管構造となっている。ここで、従来のように、ダクト60内にチューブや板等から構成される熱交換器を設けた場合、当該熱交換器を排気ガスが通過する際、当該排気ガスの圧力損失が増加するおそれがあった。これに対し、ダクト60内の排気ガスが排熱用熱交換部41を通過する際、排熱用熱交換部41が二重管構造であるので、当該排気ガスの圧力損失は変化しない。このため、排熱用熱交換部41の下流における、排気ガスの圧力低下、排気ガスの流量及び流速の減少を招くことは無い。
【0059】
〔実施形態2〕
本開示の実施形態2に係る熱音響装置1Aについて、
図6を参照して説明する。
【0060】
図6は、熱音響装置1Aの概略構成を示す図である。
図6に示すように、熱音響装置1Aでは、ダクト100におけるラジエータ9の後流に、送風用熱交換器70が配置されている点が、実施形態1の熱音響装置1と異なる。
【0061】
送風用熱交換器70には、分岐配管110が接続されている。分岐配管110は、循環配管80における低温側原動機熱交換器22と冷却器8との間から分岐している。
【0062】
循環配管80における温度センサT4と冷却器8との間には、開閉弁101が設けられている。分岐配管110には、開閉弁102が設けられている。図示しない制御部は、開閉弁101及び開閉弁102を開閉制御することにより、分岐配管110に流れる循環水の流量を調節する。
【0063】
ダクト100における送風用熱交換器70の後流には、温度センサT7が設けられている。温度センサT7は、ダクト100から排出される空気の温度を検出する。
【0064】
図示しないファン等により送風された空気は、ラジエータ9により除湿される。除湿された空気は、送風用熱交換器70において所定温度に加熱された後、ダクト100から排出される。
【0065】
以上説明した実施形態2の熱音響装置1Aにおいても、実施形態1の熱音響装置1と同様の効果を得ることができる。特に、実施形態2の熱音響装置1Aによれば、循環配管80から分岐させた分岐配管110に流れる循環水の熱を利用して、ラジエータ9により除湿された空気を送風用熱交換器70で温めることによって、所定温度の除湿された空気を送風することができる。
【0066】
〔実施形態3〕
本開示の実施形態3に係る熱音響装置1Bについて、
図7を参照して説明する。
【0067】
図7は、実施形態3における熱音響装置1Bの概略構成を示す図である。熱音響装置1Bでは、循環配管80に、冷却器8に代えて、循環水用熱交換器82が配置されている点が実施形態1と異なる。
【0068】
循環水用熱交換器82には、例えば井戸水が供給される。循環配管80を流れる循環水は、循環水用熱交換器82において、井戸水の冷熱により冷却される。井戸水は、循環水用熱交換器82を通過した後、外部へ排出される。なお、井戸水の代わりに、所定温度の水道水を利用してもよい。
【0069】
更に、実施形態3では、循環配管80内を流れる循環水に潜熱蓄熱材を添加しても良い。当該潜熱蓄熱材を循環水に添加することで、当該循環水の温度を安定化することができる。なお、具体的には、上記の実施形態1及び2と同様、粒子形状の潜熱蓄熱材をマイクロカプセルに充填し、当該マイクロカプセルを循環水に添加すれば良い。また、循環水の性質に合わせて、添加する潜熱蓄熱材を選択することが好ましい。
【0070】
以上説明した実施形態3の熱音響装置1Bにおいても、実施形態1の熱音響装置1と同様の効果を得ることができる。特に、実施形態3の熱音響装置1Bによれば、冷却器8を用いることなく、循環水用熱交換器82にて循環配管80を流れる循環水の温度を低下させることができる。
【0071】
また、循環配管80を流れる循環水に、潜熱蓄熱材が添加されているため、高温側負荷熱交換器31及び低温側原動機熱交換器22を循環水が通過する際に、循環水の温度が上昇することを抑制できる。原動機蓄熱器23の両端部間の温度差が大きくなるため、作動気体の振動は増加すると共に、高温側負荷熱交換器31の温度が上昇しないので、低温側負荷熱交換器32の温度がより低くなる。これにより、熱音響装置1Bの冷熱の出力を向上させることができる。
【0072】
〔その他の実施形態〕
上記した実施形態1~3では、熱媒油Lに、第1潜熱蓄熱材、第2潜熱蓄熱材、及び第3潜熱蓄熱材の3種類の潜熱蓄熱材を添加するものとしたが、これに限らず、少なくとも第1潜熱蓄熱材を熱媒油Lに添加すればよい。
【0073】
上記した実施形態1~3では、二重管構造の排熱用熱交換部41において、排気ガスの熱を熱媒油Lに伝達するものとしたが、これに限定されない。
【0074】
上記した実施形態1~3では、循環配管80を介して原動機20及び負荷30に直列に循環水を供給するものとしたが、これに限らず、循環配管80を分岐させ、原動機20及び負荷30に並列に循環水を供給させてもよい。
【0075】
上記した実施形態1~3では、冷房及び冷凍施設の冷却器として用いられる場合を挙げたが、これに限らず、例えば、車両、船舶又は潜水艇に設けることができる。また、上記実施形態1~3では、ダクト60から出力される排気ガスを用いているが、これに限らず、例えば、自動車等の排気ガスを用いてもよい。
【0076】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る熱音響装置は、作動気体が封入された気柱管と、前記気柱管の内部に配置され、前記作動気体に振動を生じさせる原動機と、前記気柱管の内部に配置された負荷であって、前記作動気体に生じた前記振動によって前記負荷の両端間に温度差を発生させる負荷と、流体が封入され、前記原動機に熱を供給する熱源から前記流体を介して前記熱を前記原動機へ輸送する熱輸送管と、前記熱輸送管に設けられ、前記流体を前記原動機へ送るためのポンプと、を備え、前記流体には、潜熱蓄熱材が添加されている。
【0077】
本発明の態様2に係る熱音響装置は、上記態様1において、前記流体は、油であることが好ましい。
【0078】
本発明の態様3に係る熱音響装置は、上記態様1または2において、前記潜熱蓄熱材は、所定温度の融点を有する第1潜熱蓄熱材を含むことが好ましい。
【0079】
本発明の態様4に係る熱音響装置は、上記態様3において、前記潜熱蓄熱材は、前記所定温度よりも融点が高く、前記流体の異常発熱を抑制する第2潜熱蓄熱材、または、前記所定温度よりも融点が低く、前記流体の温度低下を抑制する第3潜熱蓄熱材のうちの少なくとも1つを更に含むことが好ましい。
【0080】
本発明の態様5に係る熱音響装置は、上記態様1~4のいずれかにおいて、前記熱源に接続され、前記熱源から出力される、加熱されたガスが流れるダクトと、前記ダクトに設けられ、前記流体が通る熱交換部であって、前記ガスから前記流体へ前記熱を伝達する熱交換部と、を備え、前記熱輸送管の一部分は、前記ダクトの外側を覆うように配置されており、当該一部分は、前記熱交換部を構成し、前記熱交換部には、前記熱交換部の内部に固定された、潜熱蓄熱材からなる部材が充填されていることが好ましい。
【0081】
本発明の態様6に係る熱音響装置は、上記態様1~5のいずれかにおいて、前記原動機及び前記負荷に接続され、循環水を循環させるための循環配管と、前記循環配管に設けられ、前記循環水に冷熱を供給する循環水用熱交換器と、を備え、前記循環配管を流れる前記循環水には、潜熱蓄熱材が添加されていることが好ましい。
【0082】
本発明の態様7に係る熱音響装置は、作動気体が封入された気柱管と、前記気柱管の内部に配置され、前記作動気体に振動を生じさせる原動機と、前記気柱管の内部に配置された負荷であって、前記作動気体に生じた前記振動によって前記負荷の両端間に温度差を発生させる負荷と、前記原動機及び前記負荷に接続され、循環水を循環させるための循環配管と、前記循環配管に設けられ、前記循環水に冷熱を供給する循環水用熱交換器と、を備え、前記循環配管を流れる前記循環水には、潜熱蓄熱材が添加されている。
【0083】
本開示は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【符号の説明】
【0084】
1、1A、1B:熱音響装置、8:冷却器、9:ラジエータ、10:気柱管、20:原動機、30:負荷、40:熱輸送管、41:排熱用熱交換部、42:ポンプ、50:熱源、60:ダクト、80:循環配管、90:冷却配管、P1:第1潜熱蓄熱材、L:熱媒油