(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038672
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】電動車両、制御方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
B62K 17/00 20060101AFI20240313BHJP
【FI】
B62K17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142874
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507369936
【氏名又は名称】ホンダ太陽株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】野原 大督
(72)【発明者】
【氏名】池田 鞠花
(72)【発明者】
【氏名】山本 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】矢田 渉
(72)【発明者】
【氏名】金森 聡史
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 誠
(72)【発明者】
【氏名】小橋 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 和徳
(72)【発明者】
【氏名】松岡 丈朗
(72)【発明者】
【氏名】小林 哲也
(72)【発明者】
【氏名】首藤 優一郎
(72)【発明者】
【氏名】田尻 志保
【テーマコード(参考)】
3D212
【Fターム(参考)】
3D212BB08
3D212BB12
3D212BB23
3D212BB32
3D212BB42
3D212BB46
3D212BB66
3D212BB72
3D212BB77
3D212BB92
(57)【要約】
【課題】利用者の利便性を向上させることができる電動車両、制御方法、およびプログラムを提供することを目的の一つとする。
【解決手段】自車両のバランス状態を検知するためのセンサと、前記センサの検知結果に基づくバランス制御により、主車輪の接地点を支点として倒立する第1の倒立状態と、前記主車輪以外の第2の接地手段を用い前記バランス制御によらずに倒立状態を維持し得る第2の倒立状態とのいずれかに自車両の倒立状態を制御する倒立状態制御部と、自車両が前記第1の倒立状態にあり、且つ、自車両に関して特定の事象が認識された場合に、自車両のバランス状態を安定化させるための動作である安定化動作を自車両に行わせる安定化動作制御部と、を備える電動車両。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両のバランス状態を検知するためのセンサと、
前記センサの検知結果に基づくバランス制御により、主車輪の接地点を支点として倒立する第1の倒立状態と、前記主車輪以外の第2の接地手段を用い前記バランス制御によらずに倒立状態を維持し得る第2の倒立状態とのいずれかに自車両の倒立状態を制御する倒立状態制御部と、
自車両が前記第1の倒立状態にあり、且つ、自車両に関して特定の事象が認識された場合に、自車両のバランス状態を安定化させるための動作である安定化動作を自車両に行わせる安定化動作制御部と、
を備える電動車両。
【請求項2】
前記安定化動作制御部は、前記特定の事象として、前記安定化動作を指示する操作入力が行われたことを認識した場合に前記安定化動作を行わせるものであり、
前記安定化動作は、前記第1の倒立状態において自車両のバランス状態を安定化させるための第3の接地手段を着地させる動作である、
請求項1に記載の電動車両。
【請求項3】
前記安定化動作によって着地した前記第3の接地手段を離地させるためのレバーである着地解除レバーをさらに備える、
請求項2に記載の電動車両。
【請求項4】
前記安定化動作は、自車両または自車両に搭乗した利用者が、自車両周辺の特定物に当接させるように移動する動作である、
請求項1に記載の電動車両。
【請求項5】
自車両の周辺状況を認識する認識部をさらに備え、
前記安定化動作制御部は、前記認識部の認識結果に基づき、前記特定の事象として、自車両周辺に前記特定物が存在することを認識した場合に前記安定化動作を行わせるものである、
請求項4に記載の電動車両。
【請求項6】
前記安定化動作により自車両または自車両に搭乗した利用者が前記特定物に当接した状態を解除する解除操作の入力を受け付ける解除操作入力部をさらに備え、
前記安定化動作制御部は、前記解除操作が入力されるまで、利用者による自車両の運転操作を無効化する、
請求項5に記載の電動車両。
【請求項7】
自車両のバランス状態を検知するためのセンサを備えた電動車両が、
前記センサの検知結果に基づくバランス制御により、主車輪の接地点を支点として倒立する第1の倒立状態と、前記主車輪以外の第2の接地手段を用い前記バランス制御によらずに倒立状態を維持し得る第2の倒立状態とのいずれかに自車両の倒立状態を制御する倒立状態制御と、
自車両が前記第1の倒立状態にあり、且つ、自車両に関して特定の事象が認識された場合に、自車両のバランス状態を安定化させるための動作である安定化動作を自車両に行わせる安定化動作制御と、
を実行する制御方法。
【請求項8】
自車両のバランス状態を検知するためのセンサを備えた電動車両に、
前記センサの検知結果に基づくバランス制御により、主車輪の接地点を支点として倒立する第1の倒立状態と、前記主車輪以外の第2の接地手段を用い前記バランス制御によらずに倒立状態を維持し得る第2の倒立状態とのいずれかに自車両の倒立状態を制御する倒立状態制御と、
自車両が前記第1の倒立状態にあり、且つ、自車両に関して特定の事象が認識された場合に、自車両のバランス状態を安定化させるための動作である安定化動作を自車両に行わせる安定化動作制御と、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両、制御方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、倒立振子制御された駆動輪を有する車両(以下「倒立振子型車両」という。)が開発されている(例えば特許文献1参照)。倒立振子型車両は、乗用車などの一般的な車両とは異なって操縦方法が独特な乗り物であり、それ故に、その用途も様々である。例えば、独特な体感を楽しむためのレジャー用途として用いられたり、身体不自由者の移動を支援するための介護用途として用いられたりすることが想定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
倒立振子型車両は、上述のとおり、幅広い用途で用いられる可能性がある一方で、操縦方法が独特な乗り物である。そのため、倒立振子型車両のさらなる活用のために、操作性や安全性の面で、各種用途に応じた利便性の向上が望まれている。特に、近年、交通参加者の中でも脆弱な立場にある人々にも配慮した持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する取り組みが活発化しており、この実現に向けて交通の安全性や利便性をより一層改善することが望まれている。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、利用者の利便性を向上させることができる電動車両、制御方法、およびプログラムを提供することを目的の一つとする。そして、延いては持続可能な輸送システムの発展に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る電動車両、制御方法、およびプログラムは、以下の構成を採用した。
【0007】
(1):この発明の一態様に係る電動車両は、自車両のバランス状態を検知するためのセンサと、前記センサの検知結果に基づくバランス制御により、主車輪の接地点を支点として倒立する第1の倒立状態と、前記主車輪以外の第2の接地手段を用い前記バランス制御によらずに倒立状態を維持し得る第2の倒立状態とのいずれかに自車両の倒立状態を制御する倒立状態制御部と、自車両が前記第1の倒立状態にあり、且つ、自車両に関して特定の事象が認識された場合に、自車両のバランス状態を安定化させるための動作である安定化動作を自車両に行わせる安定化動作制御部と、を備える。
【0008】
(2):上記(1)の態様において、前記安定化動作制御部は、前記特定の事象として、前記安定化動作を指示する操作入力が行われたことを認識した場合に前記安定化動作を行わせるものであり、前記安定化動作は、前記第1の倒立状態において自車両のバランス状態を安定化させるための第3の接地手段を着地させる動作である。
【0009】
(3):上記(1)または(2)の態様において、前記安定化動作によって着地した前記第3の接地手段を離地させるためのレバーである着地解除レバーをさらに備えるものである。
【0010】
(4):上記(1)から(3)のいずれかの態様において、前記安定化動作は、自車両または自車両に搭乗した利用者が、自車両周辺の特定物に当接させるように移動する動作である。
【0011】
(5):上記(1)から(4)のいずれかの態様において、自車両の周辺状況を認識する認識部をさらに備え、前記安定化動作制御部は、前記認識部の認識結果に基づき、前記特定の事象として、自車両周辺に前記特定物が存在することを認識した場合に前記安定化動作を行わせるものである。
【0012】
(6):上記(1)から(5)のいずれかの態様において、前記安定化動作により自車両または自車両に搭乗した利用者が前記特定物に当接した状態を解除する解除操作の入力を受け付ける解除操作入力部をさらに備え、前記安定化動作制御部は、前記解除操作が入力されるまで、利用者による自車両の運転操作を無効化するものである。
【0013】
(7):この発明の一態様に係る制御方法は、自車両のバランス状態を検知するためのセンサを備えた電動車両が、前記センサの検知結果に基づくバランス制御により、主車輪の接地点を支点として倒立する第1の倒立状態と、前記主車輪以外の第2の接地手段を用い前記バランス制御によらずに倒立状態を維持し得る第2の倒立状態とのいずれかに自車両の倒立状態を制御する倒立状態制御と、自車両が前記第1の倒立状態にあり、且つ、自車両に関して特定の事象が認識された場合に、自車両のバランス状態を安定化させるための動作である安定化動作を自車両に行わせる安定化動作制御と、を実行するものである。
【0014】
(8):この発明の一態様に係るプログラムは、自車両のバランス状態を検知するためのセンサを備えた電動車両に、前記センサの検知結果に基づくバランス制御により、主車輪の接地点を支点として倒立する第1の倒立状態と、前記主車輪以外の第2の接地手段を用い前記バランス制御によらずに倒立状態を維持し得る第2の倒立状態とのいずれかに自車両の倒立状態を制御する倒立状態制御と、自車両が前記第1の倒立状態にあり、且つ、自車両に関して特定の事象が認識された場合に、自車両のバランス状態を安定化させるための動作である安定化動作を自車両に行わせる安定化動作制御と、を実行させるためのプログラムである。
【0015】
上記(1)~(8)の態様によれば、倒立振子型車両の利用者の利便性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態の倒立振子型車両の構成の概略を示す第1の外観図である。
【
図2】実施形態の倒立振子型車両の構成の概略を示す第2の外観図である。
【
図3】実施形態の倒立振子型車両の構成の概略を示す第3の外観図である。
【
図4】実施形態の倒立振子型車両の利用状況の一例を示す図である。
【
図6】倒立振子型車両の操縦方法の一例を説明する第1の図である。
【
図7】倒立振子型車両の操縦方法の一例を説明する第2の図である。
【
図8】実施形態の倒立振子型車両の機能構成の一例を示す図である。
【
図9】倒立振子型車両の制御方法の一例を示すフローチャートである。
【
図10】倒立振子型車両の制御方法の一例を示すフローチャートである。
【
図11】実施形態の倒立振子型車両が奏する効果の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照し、本発明の電動車両、制御方法、およびプログラムの実施形態について説明する。
【0018】
[概略]
図1~
図3は、実施形態の倒立振子型車両100(以下単に車両100という)の構成の概略を示す外観図である。
図1~
図3は、それぞれ、車両100の正面図、側面図、および背面図を表す。
図1~
図3に図示する車両100は、車輪やモータ等の駆動機構を備えた車両基体10に、座席シート21や背もたれ22のほか、ヘッドレスト23、アームレスト24などを有した搭乗部20が備えられたものであり、バランス制御によって自律的に倒立状態を維持しながら移動することができる1人乗りの電動モビリティである。より具体的には、車両100は、接地点を起点として前後左右の任意の方向に進み出すことを可能にする全方向移動車輪101を備え、自車両の進行方向や加速度を自車両のバランス状態に適応してフィードバック制御することにより倒立状態を維持することができるものである。このようなバランス制御により、車両100は、倒立状態を維持しながら移動したり、その場に静止したりすることができる。車両100は、このようなバランス制御のために、自車両のバランス状態を検知する不図示の各種センサを備えているものである。以下では、このようなバランス制御によって実現される車両100の倒立状態を「第1の倒立状態」という。
図1は、第1の倒立状態の車両100を表すものである。
【0019】
また、一方で、車両100は、複数の補助輪102-1~102-4(以下総称して補助輪102という。)を備えており、補助輪102の支持によって自然にバランスがとられた形で倒立することも可能である。以下では、バランス制御を行うことなく、補助輪102によって車両100が自然に倒立する状態を「第2の倒立状態」という。
図2は、第2の倒立状態の車両100を表すものである。例えば、車両100は、第1の倒立状態では、補助輪102が接地しないように補助輪102を高い位置に保持し、第2の倒立状態に移行する際には、補助輪102が接地するように補助輪102を低い位置に移動させる。補助輪102は、このような位置変更のために上下方向の移動(矢印A1)が制御可能に構成されるものである。また、本実施形態において、第2の倒立状態では補助輪102とともに全方向移動車輪101も接地するものとし、車両100は、全方向移動車輪101の制御により、第2の倒立状態においても任意の方向に移動できるものとする。なお、補助輪102は、全方向移動車輪101の接地点と異なる複数の接地点を形成して第2の倒立状態を実現するための接地手段の一例である。
【0020】
なお、第2の倒立状態では、車両基体10の高さが低いほど移動時のバランスが安定する場合がある。そのため、車両基体10は、第2の倒立状態での高さが、第1の倒立状態での高さよりも低くなるように、上下方向の移動を制御可能に構成されてもよい。この場合、車両100は、車両基体10の高さを低くしつつ、車両基体10に対して補助輪102を下方向に移動させることで第2の倒立状態に移行することができる。なお、この場合、第1の倒立状態と第2の倒立状態とで全方向移動車輪101の接地状態は変わらないので、車両基体10の高さを基準とすれば、第1の倒立状態から第2の倒立状態への移行は、全方向移動車輪101を上方向に移動させて、補助輪102を下方向に移動させることであるいうこともできる。そのため、車両基体10の高さを変更するために、全方向移動車輪101は、車両基体10に対する上下方向の移動(矢印A2)を制御可能に構成されてもよい。
【0021】
また、一方で、車両100は、複数のストッパ103-1~103-4(以下総称してストッパ103という。)を備えており、ストッパ103の支持によって自車両が停車位置から移動することを防止し、当該停車位置に停留しつづけるようにすることが可能である。
図3は、ストッパ103により停車位置に停留している状態の車両100を表すものである。図示するストッパ103は、床面(地面)との摩擦力によって自車両の移動を防止するものであり、摩擦力の調整のために、上下方向の移動(矢印A3)が制御可能に構成されるものである。なお、ストッパ103は、このような態様のものに限定されない。例えば、ストッパ103は、全方向移動車輪101や補助輪102の回転を抑止するロック機構であってもよいし、回転を抑制するブレーキ機構であってもよい。以下では、ストッパ103によって車両100が停車位置に停留している状態を「第3の倒立状態」という。バランス制御は、第3の倒立状態において継続されてもよいし、一時停止されてもよい。
【0022】
また、
図1において、矢印A4は、ヘッドレスト23が背もたれ22に対して上下に移動させることができることを表している。例えば、ヘッドレスト23は、ガイド23Gによって背もたれ22に連結され、ガイド23Gが背もたれ22の内外方向にスライドすることによって、その高さが調整可能である。ヘッドレスト23の高さ調整は、手動でのスライド操作によって行われてもよいし、モータ等の駆動部を制御することにより電動で行われてもよい。
【0023】
また、
図2において、矢印A5は、アームレスト24が背もたれ22側の端部を支点として上下に回転させることができることを表している。また、本実施形態の車両100において、アームレスト24は、着地解除レバーとしても機能するように構成されたものである。着地解除レバーは、車両100が、第3の倒立状態(後述の安定化状態)の解除操作を受け付ける直線形状のレバーである。例えば、第3の倒立状態の解除操作は、上方に引き上げられたアームレスト24を下方に引き下げるように回転させる操作であってもよい。このため、車両100は、自車両が第3の倒立状態に遷移する際に、アームレスト24を上方に引き上げ、利用者の操作によってアームレスト24が下方に引き下げられたことに応じて第3の倒立状態を解除する(すなわち、ストッパ103を離地させる)ように構成される。なお、第3の倒立状態の解除は、解除操作に応じて実行されるソフトウェア制御によって実現されておよいし、アームレスト24に機械的に接続されて連動するハードウェアによって実現されてもよい。以下、アームレスト24を着地解除レバー24と記載する場合がある。
【0024】
また、
図2において、矢印A6は、座席シート21が、その基準位置21bから車両基体10に対して水平方向にスライド可能であることを表している。例えば
図2の例において、基準位置21bは、座席シート21の移動可能範囲のうち最も背もたれ22に近い側の位置であってもよい。また、
図2は、車両100において、車両基体10が、正面方向にフットレスト25を有することを表している。
【0025】
また、
図1~
図3は、右腕側のアームレスト24に、利用者(搭乗者)が車両100を操作に用いる操作パネル110が設置されていることを表している。例えば、操作パネル110は、ディスプレイや、ボタンやスイッチ、スピーカ、マイクなどを備え、車両100の制御部(不図示)との間で車両100の操作に関する情報の入出力を行うように構成される。操作パネル110は、例えば、制御部から出力された操作メニューの情報をディスプレイに表示させ、ボタンやスイッチにより、操作メニューに対する操作入力を受け付けてもよい。操作パネル110は、例えば、操作メニューの説明や各種効果音などを示す音声をスピーカから出力してもよいし、マイクを介して音声による操作入力を受け付けてもよい。なお、操作パネル110は、必ずしも右腕側のアームレスト24に設置される必要はない。例えば、操作パネル110は、左腕側のアームレスト24に設置されてもよいし、右腕側および左腕側の両方のアームレスト24に設置されてもよいし、アームレスト24から着脱可能であり、任意のアームレスト24に収納可能なように構成されてもよい。
【0026】
上述した全方向移動車輪101、補助輪102、ストッパ103、ヘッドレスト23の上下移動、アームレスト24の回転移動、座席シート21の水平移動に関し、車両100は、レールやガイド、ギヤ、駆動輪、モータ等の変位機構(不図示)を有しているものとする。変位機構は、上述の上下移動、回転移動、水平移動を実現できるものであれば特定のものに限定されない。また、ここでいう変位とは物体の位置や向きが変化することを意図するものであり、外力や応力等によって物体自体が変形またはひずみを生じることを意味しないものとする。変位機構は、上下移動、回転移動、水平移動の移動種別ごとに設けられてもよいし、移動させる対象の部位ごとに設けられてもよい。また、複数の変位機構を構成する場合、一の変位機構は、一部の部品を他の変位機構と共用する形で構成されてもよい。
【0027】
図4は、利用者が離地状態の車両100に搭乗している様子を表したイメージ図である。上述のとおり、離地状態ではバランス制御が必要になる。
図4は、車両100が全方向移動車輪101を制御することにより、自車両のバランスを維持している状況をイメージしたものである。この状況において、利用者が操縦操作を行えば、車両100はバランスを取りながら自車両を支持された進行方向に走行させる一方、利用者が操縦操作を行わなければ、車両100はその場でバランスをとりながら倒立し続ける。なお、本実施形態の車両100は、全方向移動車輪101として全方向移動車輪を備えるものである。この構成により、実施形態の車両100は、その場倒立の状態から、360度の任意方向に進み出すことができるものである。以下、全方向移動車輪101としての全方向移動車輪を全方向移動車輪101と記載する。
【0028】
図5は、全方向移動車輪101の構成の概略を示す図である。全方向移動車輪101は、例えば、大径車輪101Aと、大径車輪101Aの円周に沿って配置された複数の小径車輪101Bとを備える。大径車輪101Aは、主に前後方向への直進移動を実現する車輪である。小径車輪101Bは、大径車輪101Aの回転方向(円周方向;矢印RA)を軸として矢印RB方向に回転することにより、主にその場での横方向の移動を実現する車輪である。全方向移動車輪101は、大径車輪101Aおよび小径車輪101Bの回転をそれぞれ独立して制御可能なモータ(図示せず)で駆動させる。このような構成により、全方向移動車輪101は、その場から、前後、左右、斜めの任意方向に進み出すことができる。
【0029】
なお、車両100は、全方向移動車輪101に加えて、旋回用車輪を備えてもよい。例えば、旋回用車輪は、全方向移動車輪101の後輪として配置され、大径車輪101Aの回転軸に直交する回転軸で回転することにより、車両100の向きを変更することができる。すなわち、旋回用車輪のみを回転させた場合、車両100をその場で回転させ、大径車輪101Aと旋回用車輪を同時に回転させた場合、車両100を進行方向に向きを変えながら旋回前進させることができる。
【0030】
図6および
図7は、車両100の操縦例を示す図である。ここでは簡単のため、離地状態の車両100を、車両基体10、座席シート21、全方向移動車輪101のみ示した形で簡略化して記載しているが、
図6および
図7に示す車両100は、
図1~
図4で説明したものと同じである。車両100には自車両のバランス状態を検知するためのIMUセンサが搭載されており、車両100はIMUセンサの検知結果に基づいて自車両のバランスをとるように構成される。
図6は、このように構成された車両100に対して、利用者Uが紙面手前方向を正面方向として右方向に体重移動を行った場合を示す。この場合、車両100は利用者Uの体重移動により崩れたバランスを回復するために右方向に移動する。また、
図7は、利用者Uが後ろ方向(紙面右方向)に体重移動を行った場合を示し、この場合車両100はバランスを回復するために後ろ方向に移動する。このようなバランス制御が行われることにより、利用者Uは、自身の進行したい方向に体重移動を行うことで車両100に対して移動方向を指示することができる。また、利用者Uが大きく体重移動を行った場合、車両100はバランスを回復するためにより速く移動するように制御される。これにより、利用者Uは、自身の体重移動の大きさを変えることにより車両100の移動速度を調節することができる。
【0031】
[全体構成]
図8は、本実施形態における車両100の構成例を示す図である。車両100は、例えば、操作パネル110と、IMU120と、カメラ130と、無線通信部140と、位置情報取得部150と、インジケータ160と、記憶部170と、内部バッテリ180と、駆動部200と、制御部300とを備える。制御部300は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。また、制御部300の一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予め記憶部170などの記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体に格納されており、記憶媒体(非一過性の記憶媒体)がドライブ装置に装着されることで車両100の記憶部170などにインストールされてもよい。
【0032】
操作パネル110は、上述のとおり、利用者に対して車両100の操作に関するユーザインタフェースを提供する装置である。例えば、操作パネル110は、車両100の操作に関し、利用者の操作入力を受け付けて制御部300に出力するとともに、制御部300から出力された各種情報の出力を行う。
【0033】
IMU(Inertial Measurement Unit)120は、3次元の慣性運動を検出するセンサである。IMU120は、並進運動を検出する加速度センサや回転運動を検出するジャイロセンサなどを含んでもよい。IMU120は、検出結果を制御部300に出力する。
【0034】
カメラ130は、車両100の周辺を撮像する。カメラ130は、撮像した自車両周辺の画像データを制御部300に出力する。
【0035】
無線通信部140は、車両100が他の装置と通信するための通信インタフェースである。無線通信部140は、Wi-Fi(登録商標)やBluetooth(登録商標)等に基づく無線LAN(Local Area Network)インタフェースであってもよいし、セルラー網や専用線等に接続するためのWAN(Wide Area Network)インタフェースであってもよい。
【0036】
位置情報取得部150は、車両100の位置情報を取得する。位置情報取得部150は、例えばGPS(Global Positioning System)発信器を含み、自車両の位置情報を取得して制御部300に出力する。
【0037】
インジケータ160は、標識や、計器、表示器、指針、指標などの機器であり、制御部300の指示により、車両100に関する各種標示を行う装置である。
【0038】
記憶部170は、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等の記憶装置である。記憶部170は、車両100の制御に関連する各種の設定情報171を記憶する。設定情報171は、制御部300によって参照または更新される。
【0039】
内部バッテリ180は、車両100の各部に動力を供給する電源として機能する。内部バッテリ180には、例えば、リチウムイオン電池やニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池などの充電可能な蓄電池が使用される。内部バッテリ180は、車両100に固定されたものであってもよいし、車両100に着脱可能なものであってもよい。
【0040】
駆動部200は、車両100の各部の位置または姿勢を変化させる各種の変位機構の集合である。ここでいう集合とは、概念的な集合を意図したものであり、各変位機構が物理的に集合したものであることを必ずしも意図しない。すなわち、各変位機構は、物理的に別々のものであってもよいし、一部または全部を共有するものであってもよい。駆動部200の動作は、制御部300によって制御される。
【0041】
より具体的には、駆動部200は、例えば、全方向移動車輪駆動部210と、補助輪駆動部220と、ストッパ駆動部230と、座席シート駆動部240と、ヘッドレスト駆動部250と、アームレスト駆動部260とを備える。全方向移動車輪駆動部210は、全方向移動車輪101を駆動する駆動部である。補助輪駆動部220は、補助輪102を駆動する駆動部である。ストッパ駆動部230は、ストッパ103を駆動する駆動部である。座席シート駆動部240は、座席シート21を駆動する駆動部である。ヘッドレスト駆動部250は、ヘッドレスト23を駆動する駆動部である。アームレスト駆動部260は、アームレスト24を駆動する駆動部である。
【0042】
制御部300は、車両100の各部の動作を制御する機能を有する。より具体的には、制御部300は、操作パネル110やIMU120、カメラ130、無線通信部140、位置情報取得部150、記憶部170から取得される各種情報をもとに各部の制御内容を決定し、決定した制御内容で各部の動作を制御する。例えば、制御部300は、車両100の全体的な制御を行う主制御部310と、自車両周辺の状況を認識する周辺認識部320と、駆動部200の各種駆動部に対応した制御機能を有する駆動制御部330とを備える。
【0043】
駆動制御部330は、例えば、全方向移動車輪制御部331と、補助輪制御部332と、ストッパ制御部333と、座席シート制御部334と、ヘッドレスト制御部335と、アームレスト制御部336とを備える。全方向移動車輪制御部331は、全方向移動車輪駆動部210を制御する。補助輪制御部332は、補助輪駆動部220を制御する。ストッパ制御部333は、ストッパ駆動部230を制御する。座席シート制御部334は、座席シート駆動部240を制御する。ヘッドレスト制御部335は、ヘッドレスト駆動部250を制御する。アームレスト制御部336は、アームレスト駆動部260を制御する。
【0044】
主制御部310は、全方向移動車輪制御部331による全方向移動車輪駆動部210の制御により、全方向移動車輪101による全方向移動を行ったり、全方向移動車輪101を上下方向に移動させたりすることができる。なお、全方向移動車輪101による全方向移動には、第1の倒立状態における移動と、第2の倒立状態における移動とがあり、第1の倒立状態における全方向移動車輪駆動部210の制御には、IMU120の検知結果に基づくバランス制御が含まれる。全方向移動車輪制御部331は、バランス制御を実行することにより、第1の倒立状態において車両100の倒立状態を維持しながら車両100を移動させることができる。
【0045】
また、主制御部310は、補助輪制御部332による補助輪駆動部220の制御により、補助輪102による移動を行ったり、補助輪102を上下方向に移動させたりすることができる。また、車両100は、ストッパ制御部333によるストッパ駆動部230の制御により、ストッパ103を上下方向に移動させることができる。このように、主制御部310は、全方向移動車輪101の接地点を支点として倒立する第1の倒立状態と、全方向移動車輪101以外の接地手段である補助輪102を用い、バランス制御によらずに倒立状態を維持し得る第2の倒立状態とのいずれかに自車両の倒立状態を制御するものである。主制御部310は「倒立状態制御部」の一例である。
【0046】
また、主制御部310は、自車両が第1の倒立状態にあり、且つ、自車両に関して特定の事象が認識された場合に、各駆動制御部330を制御して、自車両のバランス状態を安定化させるための動作である安定化動作を自車両に行わせる。詳細は後述するが、本実施形態において、車両100は、以下の2種類の安定化動作を実施するように構成される。ここで、主制御部310は「安定化動作制御部」の一例である。車両100が安定化動作を行うことにより、車両100は、第1の安定化状態において、一時的により安定した倒立状態(以下、安定化状態という。)をとることができる。
【0047】
(1)第1の安定化動作は、自車両を第1の安定化状態にする動作である。第1の安定化状態は、第1の倒立状態において自車両のバランス状態を安定化させるためのストッパ103を着地させる動作である。この場合、主制御部310は、特定の事象として、安定化動作を指示する操作入力が行われたことを認識した場合に、自車両に安定化動作を行わせる。ここで、ストッパ103は「第3の接地手段」の一例である。
【0048】
(2)第2の安定化動作は、自車両を第2の安定化状態にする動作である。第2の安定化状態は、車両100または車両100に搭乗した利用者が、自車両周辺の特定物に当接させるように移動し、その当接状態を維持する動作である。車両100または車両100に搭乗した利用者が、自車両周辺の特定物に当接した状態では、車両100または車両100に搭乗した利用者は、当接する特定物に寄りかかることにより、より安定した倒立状態を維持することができる。この場合、主制御部310は、周辺認識部320の認識結果に基づいて、自車両周辺に特定物が存在するか否かを判定することができる。特定物は、安定化状態を作り出すのに足る物体であればどのようなものであってもよいが、例えば、壁や商品棚、本棚など、所定位置に固定され、その場から動かないようなものが想定される。特定物は、車両100または車両100に搭乗した利用者が寄りかかっても動かないように固定されたものであることが望ましい。
【0049】
本実施形態において、周辺認識部320は、少なくとも第2の安定化動作を実行する契機となる特定物を認識することができるように構成される。周辺認識部320は、壁や商品棚、本棚など、一般的な特定物を広く認識するように構成されてもよいし、特定環境において固有の特定物を認識するようにカスタマイズされてもよい。
【0050】
また、座席シート制御部334は、座席シート駆動部240を制御することにより、座席シート21を水平方向にスライドして移動させることができる。より具体的には、座席シート制御部334は、自車両の倒立状態に基づいて座席シート駆動部240を制御するものである。
【0051】
また、ヘッドレスト制御部335は、ヘッドレスト駆動部250を制御することにより、ヘッドレスト23を上下方向に移動させることができる。また、アームレスト制御部336は、アームレスト駆動部260を制御することにより、アームレスト24を、支点を中心として回転移動させることができる。
【0052】
駆動制御部330は、利用者が操作パネル110に入力した内容に基づいて操作対象の駆動部を制御してもよいし、周辺認識部320によって認識された自車両周辺の状況に基づいて各駆動部を制御してもよいし、IMU120や位置情報取得部150等により検知された自車両の状態(バランス状態や位置、姿勢等)に基づいて各駆動部を制御してもよいし、主制御部310の全体制御に基づいて各駆動部を制御してもよい。
【0053】
図9は、実施形態の車両100が第1の安定化動作を行う処理の流れの一例を示すフローチャートである。まず、主制御部310は、自車両の現在の倒立状態が、第1の倒立状態または第2の倒立状態のいずれであるかを判定する(ステップS101)。ここで、自車両の現在の倒立状態が第2の倒立状態であると判定した場合、主制御部310は、ステップS101に処理を戻す。これにより、主制御部310は、自車両の倒立状態が第1の倒立状態となるまで、ステップS101を繰り返し実行する。
【0054】
一方、ステップS101において、自車両の現在の倒立状態が第1の倒立状態であると判定した場合、続いて、主制御部310は、自車両に対して第1の安定化動作を指示する操作(以下、安定化操作)が入力されたか否かを判定する(ステップS102)。ここで、自車両に対して安定化操作が入力されていないと判定した場合、主制御部310は、ステップS101に処理を戻し、自車両に安定化操作が入力されるまでステップS101およびS102を繰り返し実行する。
【0055】
一方、ステップS102において、自車両に対して安定化操作が入力されたと判定した場合、主制御部310は、自車両に第1の安定化動作を実行させる(ステップS103)。具体的には、主制御部310は、ストッパ制御部333に指示してストッパ103を着地させる。ストッパ103を着地させた後、主制御部310は、第1の安定化動作によって安定化した倒立状態(以下、第1の安定化状態という)を利用者が解除できるように、着地解除レバー24(アームレスト24)をレバーが引かれた状態とすることをアームレスト制御部336に指示して(ステップS104)、一連の処理を終了する。
【0056】
このような処理を行うことにより、実施形態の車両100は、第1の倒立状態において、安定化操作の入力という特定の事象を認識した場合に、第1の安定化動作として、自車両のバランス状態を安定化させるためのストッパ103(第3の接地手段)を着地させる動作を行うものである。このような第1の安定化動作によれば、利用者は第1の倒立状態の車両100に搭乗しているときに、任意のタイミングで一時的に自車両のバランス状態を安定化させることができる。このような機能により、例えば、利用者は、第1の倒立状態の車両100を操縦しながら必要に応じて車両100の倒立状態を安定化し、車両100に搭乗したまま状態で安全に作業を行うことができる。また、第1の安定化動作時に着地解除レバー24が引かれた状態になるので、利用者は、着地解除レバー24を下すことで、作業終了後に容易かつ安全に車両100を第1の倒立状態に戻すことができる。
【0057】
図10は、実施形態の車両100が第2の安定化動作を行う処理の流れの一例を示すフローチャートである。まず、主制御部310は、自車両の現在の倒立状態が、第1の倒立状態または第2の倒立状態のいずれであるかを判定する(ステップS201)。ここで、自車両の現在の倒立状態が第2の倒立状態であると判定した場合、主制御部310は、ステップS101に処理を戻す。これにより、主制御部310は、自車両の倒立状態が第1の倒立状態となるまで、ステップS101を繰り返し実行する。
【0058】
一方、ステップS101において、自車両の現在の倒立状態が第1の倒立状態であると判定した場合、続いて、主制御部310は、自車両周辺に特定物が存在するか否かを判定する(ステップS202)。より具体的には、主制御部310は、周辺認識部320の認識結果に基づいて、自車両周辺における特定物の存在有無を判定する。なお、周辺認識部320が自車両周辺で認識した物体までの距離を認識することができる場合、主制御部310は、自車両から所定距離の範囲内に特定物が存在するか否かを判定してもよい。対象物までの距離の認識は、距離画像を用いる方法等、既存の任意の手法が用いられてよい。
【0059】
ここで、自車両周辺に特定物が存在していないと判定した場合、主制御部310は、ステップS201に処理を戻し、自車両周辺に特定物が存在する状態となるまでステップS201およびS202を繰り返し実行する。一方、ステップS202において、自車両周辺に特定物が存在すると判定した場合、主制御部310は、全方向移動車輪制御部331に指示して、自車両に第2の安定化動作を実行させる(ステップS203)。すなわち、主制御部310は、自車両または自車両に搭乗した利用者が、検出された自車両周辺の特定物に当接するように移動する動作を全方向移動車輪制御部331に指示する。主制御部310は、自車両が第2の安定化動作を完了すると、自車両に対する運転操作(すなわち体重移動)の入力を無効化する(ステップS204)。
【0060】
続いて、主制御部310は、自車両に対して着地解除操作が入力されたか否かを判定する(ステップS205)。例えば、着地解除操作は、操作パネル110から入力され得る。ここで、自車両に対して着地解除操作が入力されていないと判定した場合、主制御部310は、ステップS205に処理を戻し、着地解除操作が入力されるまでステップS205を繰り返し実行する。一方、ステップS205において、自車両に対して着地解除操作が入力されたと判定した場合、主制御部310は、全方向移動車輪制御部331に現在の安定化状態を解除することを指示する(ステップS206)。安定化状態が解除されると、主制御部310は、自車両に対する運転操作(すなわち体重移動)の入力を有効し(ステップS207)、一連の処理を終了する。
【0061】
このような処理を行うことにより、実施形態の車両100は、第1の倒立状態において、自車両周辺に特定物が存在するという特定の事象を認識した場合に、第2の安定化動作として、自車両または自車両の利用者が、検出された特定物に当接する状態を作り出すことでバランス状態を安定化するものである。ここで、特定物は、車両100または車両100の利用者が当接することで車両100のバランス状態を安定化する物体であって、周辺認識部320が認識可能なものであればどのようなものであってもよい。例えば、特定物は、壁や商品棚、本棚、ホワイトボードなどであってもよい。このような第2の安定化動作によれば、車両100は、第1の倒立状態において、利用者の操作を必要とせずに、自車両周辺の環境に基づいて自律的に自車両のバランス状態を安定化させることができる。
【0062】
このような機能により、例えば、車両100が、倉庫や図書館、会議室などの特定用途の空間で使用される際、空間内での作業(車両100での移動を含む)と空間のレイアウトの組み合わせによって、利用者は、一連の作業の中で手動操作(運転のための傾動動作を含まない)を行うことなく、安定化状態と移動を繰り返すことができ、効率良く作業を行うことができる。また、安定化状態では、運転操作が無効化されるので、利用者は、安定化状態において安全に作業を行うことができる。
【0063】
図11は、実施形態の車両100が奏する効果の一例を説明する図である。
図11において、本棚を特定物として認識するように構成された車両100の利用者Uが、本棚Sのある部屋Rの室内でテーブルTの上に置かれた本Bを本棚Sに片づける作業を行っている状況を表した図である。この場合、利用者Uは第1の倒立状態の車両100を運転してテーブルTに向かい、テーブルT上の本BKを手に取り、本棚Sに向かって車両100を運転する(ステップS31)。このとき、車両100は、移動の途中で本棚Sを認識すると、第2の安定化動作を開始する。車両100は、第2の安定化動作によって本棚Sまで移動し、車体が本棚Sに当接した安定化状態を維持するように制御される(ステップS32)。車両100が安定化状態になると、利用者Uは保持している本BKを本棚Sに収納し、その後安定化解除操作を入力する。車両100は、安定化解除操作の入力に応じて自車両の安定化状態を解除する。利用者Uは、安定化状態が解除された後、新たな本BKを取るために車両100を運転してテーブルTに向かう(ステップS33)。
【0064】
このように、実施形態の車両100では、第1の倒立状態において、利用者は、手動操作によることなく車両100を安定化状態に遷移させることができるので、車両100を利用しながらより安全かつ確実に車上での作業を行うことができる。
【0065】
以上説明した実施形態の車両100は、自車両のバランス状態を検知するためのセンサと、前記センサの検知結果に基づくバランス制御により、全方向移動車輪101の接地点を支点として倒立する第1の倒立状態と、全方向移動車輪101以外の補助輪102(第2の接地手段)を用い前記バランス制御によらずに倒立状態を維持し得る第2の倒立状態とのいずれかに自車両の倒立状態を制御する主制御部310とを備え、主制御部310は、自車両が第1の倒立状態にあり、且つ、自車両に関して特定の事象が認識された場合に、自車両のバランス状態を安定化させるための動作である安定化動作を自車両に行わせるものである。そして、このような構成を備えることにより、実施形態の車両100は、倒立振子型車両の利用者の利便性を向上させることができる。
【0066】
上記説明した実施形態は、以下のように表現することができる。
自車両のバランス状態を検知するためのセンサと、
プログラムを記憶した記憶装置と、
ハードウェアプロセッサと、を備え、
前記ハードウェアプロセッサが前記プログラムを実行することにより、
前記センサの検知結果に基づくバランス制御により、主車輪の接地点を支点として倒立する第1の倒立状態と、前記主車輪以外の第2の接地手段を用い前記バランス制御によらずに倒立状態を維持し得る第2の倒立状態とのいずれかに自車両の倒立状態を制御する倒立状態制御と、
自車両が前記第1の倒立状態にあり、且つ、自車両に関して特定の事象が認識された場合に、自車両のバランス状態を安定化させるための動作である安定化動作を自車両に行わせる安定化動作制御と、
を実行する電動車両。
【0067】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0068】
100…倒立振子型車両、10…車両基体、20…搭乗部、21…座席シート、22…背もたれ、23…ヘッドレスト、23G…ガイド、24…アームレスト、25…フットレスト、101…全方向移動車輪、101A…大径車輪、101B…小径車輪、102…補助輪、103…ストッパ、110…操作パネル(リモコン装置)、120…IMU、130…カメラ、140…無線通信部、150…位置情報取得部、160…インジケータ、170…記憶部、171…設定情報、180…内部バッテリ、200…駆動部、210…全方向移動車輪駆動部、220…補助輪駆動部、230…ストッパ駆動部、240…座席シート駆動部、250…ヘッドレスト駆動部、260…アームレスト駆動部、300…制御部、310…主制御部、320…周辺認識部、330…駆動制御部、331…全方向移動車輪制御部、332…補助輪制御部、333…ストッパ制御部、334…座席シート制御部、335…ヘッドレスト制御部、336…アームレスト制御部