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  • 特開-ゴム組成物及びホース 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038707
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】ゴム組成物及びホース
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/16 20060101AFI20240313BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240313BHJP
   C08K 3/06 20060101ALI20240313BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20240313BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20240313BHJP
   F16L 11/10 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
C08L23/16
C08K3/04
C08K3/06
C08J3/22 CES
C08J3/20
F16L11/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142938
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100181179
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 洋一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197295
【弁理士】
【氏名又は名称】武藤 三千代
(72)【発明者】
【氏名】杉原 孝樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 彩
(72)【発明者】
【氏名】吉川 篤志
【テーマコード(参考)】
3H111
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
3H111AA02
3H111BA01
3H111BA13
3H111BA15
3H111BA24
3H111BA32
3H111CB04
3H111CB14
3H111CB23
3H111CC02
3H111CC07
3H111CC08
3H111DB27
4F070AA08
4F070AA16
4F070AC04
4F070AC05
4F070AC14
4F070AC50
4F070AC94
4F070AE01
4F070AE02
4F070AE08
4F070FA03
4F070FB03
4F070FB06
4F070FB07
4F070FC03
4J002BB151
4J002DA036
4J002DA047
4J002FD016
4J002FD147
4J002GM00
(57)【要約】
【課題】本発明は、硬化物となったときに、破断時伸び、硬度、耐オゾン性に優れるゴム組成物、及び、ホースの提供を目的とする。
【解決手段】ジエン量が6質量%以上であり、エチレン-エチレン連鎖構造の含有量が35.0モル%以上であるエチレン-プロピレン-非共役ジエン系共重合体を40質量%以上含むゴム成分と、カーボンブラックと、硫黄とを含有する、ゴム組成物、及び、上記ゴム組成物を用いて形成されたホース。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン量が6質量%以上であり、エチレン-エチレン連鎖構造の含有量が35.0モル%以上であるエチレン-プロピレン-非共役ジエン系共重合体を40質量%以上含むゴム成分と、
カーボンブラックと、
硫黄とを含有する、ゴム組成物。
【請求項2】
前記エチレン-プロピレン-非共役ジエン系共重合体が有するエチレン-プロピレン連鎖構造に対する前記エチレン-エチレン連鎖構造のモル比が、1.0以上である、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記ゴム成分の全量が、前記エチレン-プロピレン-非共役ジエン系共重合体である、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記カーボンブラックの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、70質量部以上であり、
前記硫黄の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、0.65質量部以上である、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項5】
ホース用である、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項のゴム組成物を用いて形成された、ホース。
【請求項7】
エアコン用である、請求項6に記載のホース。
【請求項8】
前記ゴム組成物を用いて形成された最外層を有する、請求項6に記載のホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物及びホースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エチレン-プロピレン-非共役ジエン系共重合体等を含有するゴム組成物が提案されている。
例えば、特許文献1には、燃料電池の構成部材をシールするために用いられる、ゴム組成物の架橋体からなる燃料電池用シール部材であって、上記ゴム組成物が下記の(A)および(B)を含有する、燃料電池用シール部材が記載されている。
(A)エチレン-エチレンの2連子分布が29モル%以下である、エチレン-プロピレンゴムおよびエチレン-プロピレン-ジエンゴムの少なくとも一方からなるゴム成分。
(B)有機過酸化物からなる架橋剤。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-192107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、エチレン-プロピレン-非共役ジエン系共重合体等を含有するゴム組成物をホース用として使用する場合、上記ゴム組成物から得られる硬化物には、高い破断時伸び(ホース柔軟性が向上し、ホース取付け作業性が向上する)と高硬度(金具装着性の向上につながる)が求められる。しかし、上記硬化物における高破断時伸びと高硬度は背反事象であり、両者を同時に高いレベルで得ることは困難であった。
また上記ゴム組成物をホースの外層に使用する場合、ホースの外層には耐オゾン性が求められる。
【0005】
本発明者らは、特許文献1を参考にして、エチレン-エチレンの2連子分布が低い割合であるエチレン-プロピレン-ジエンゴムを用いて、上記エチレン-プロピレン-ジエンゴムとカーボンブラックと硫黄とを含有するゴム組成物を加硫して得られる硬化物を評価したところ、上記硬化物は、ホースに求められている、破断時伸び、硬度、又は、耐オゾン性を満足しない場合があることが明らかとなった。
【0006】
そこで、本発明は、硬化物となったときに、破断時伸び、硬度、耐オゾン性に優れるゴム組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、ホースを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定のジエン量及びエチレン-エチレン連鎖構造を特定の含有量で有するエチレン-プロピレン-非共役ジエン系共重合体を特定の量で含むゴム成分と、カーボンブラックと、硫黄とを含有するゴム組成物によれば所望の効果が得られることを見出し、本発明に至った。
【0008】
特許文献1によれば、エチレン-プロピレン-ジエンゴム等のエチレン-エチレンの2連子分布が29モル%を超えると、エチレン鎖が長くなってポリマー主鎖が配向して結晶構造を取りやすくなる。このことから、エチレン-エチレンの2連子分布が29モル%を超えるエチレン-プロピレン-ジエンゴムを使用する場合、エチレン-エチレンの2連子分布が上記よりも小さいエチレン-プロピレン-ジエンゴムを使用する場合よりも、得られる硬化物の破断時伸びが低下することが予想された。
しかし、本発明者らは、エチレン-プロピレン-非共役ジエン系共重合体におけるエチレン-エチレン連鎖構造の含有量が35.0モル%以上であることによって、上記予想に反して、破断時伸びが向上することを見出した。
本発明は上記知見等に基づくものであり、具体的には以下の構成により上記課題を解決するものである。
【0009】
[1] ジエン量が6質量%以上であり、エチレン-エチレン連鎖構造の含有量が35.0モル%以上であるエチレン-プロピレン-非共役ジエン系共重合体を40質量%以上含むゴム成分と、
カーボンブラックと、
硫黄とを含有する、ゴム組成物。
[2] 上記エチレン-プロピレン-非共役ジエン系共重合体が有するエチレン-プロピレン連鎖構造に対する上記エチレン-エチレン連鎖構造のモル比が、1.0以上である、[1]に記載のゴム組成物。
[3] 上記ゴム成分の全量が、上記エチレン-プロピレン-非共役ジエン系共重合体である、[1]又は[2]に記載のゴム組成物。
[4] 上記カーボンブラックの含有量が、上記ゴム成分100質量部に対して、70質量部以上であり、
上記硫黄の含有量が、上記ゴム成分100質量部に対して、0.65質量部以上である、[1]~[3]のいずれか1つに記載のゴム組成物。
[5] ホース用である、[1]~[4]のいずれか1つに記載のゴム組成物。
[6] [1]~[4]のいずれか1つに記載のゴム組成物を用いて形成された、ホース。
[7] エアコン用である、[6]に記載のホース。
[8] 上記ゴム組成物を用いて形成された最外層を有する、[6]又は[7]に記載のホース。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、硬化物となったときに、破断時伸び、硬度、耐オゾン性に優れるゴム組成物、及び、上記ゴム組成物を用いて形成されたホースを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明のホースの一例について、各層を切り欠いて表した、模式的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明について以下詳細に説明する。
本明細書において、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を含む範囲を意味する。
本明細書において、特に断りのない限り、各成分はその成分に該当する物質をそれぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。成分が2種以上の物質を含む場合、成分の含有量は、2種以上の物質の合計の含有量を意味する。
本発明に使用される各成分はその製造方法について特に制限されない。例えば、従来公知の方法が挙げられる。
本明細書において、破断時伸び、硬度及び耐オゾン性のうちの少なくとも1つがより優れることを、「本発明の効果がより優れる」ということがある。
【0013】
[ゴム組成物]
本発明のゴム組成物は、
ジエン量が6質量%以上であり、エチレン-エチレン連鎖構造の含有量が35.0モル%以上であるエチレン-プロピレン-非共役ジエン系共重合体を40質量%以上含むゴム成分と、
カーボンブラックと、
硫黄とを含有する、ゴム組成物である。
【0014】
本明細書において、ジエン量及びエチレン-エチレン連鎖構造の含有量がそれぞれ上記の特定量であるエチレン-プロピレン-非共役ジエン系共重合体を「特定EPDM」とも称する。
また、特定EPDM、及び、特定EPDM以外のエチレン-プロピレン-非共役ジエン系共重合体を合わせて、「EPDM」とも称する。
EPDMは、エチレンに由来する構成単位、プロピレンに由来する構成単位、及び、非共役ジエンに由来する構成単位を含む共重合体である。
【0015】
本発明のゴム組成物はこのような構成をとるため、所望の効果が得られるものと考えられる。その理由は明らかではないが、およそ以下のとおりと推測される。
すなわち、特定EPDMのエチレン-エチレン連鎖構造の含有量が35.0モル%以上であることによって結晶性が付与されるため、本発明のゴム組成物を硬化させて得られる硬化物の硬度が上昇すると考える。一方、上記硬化物の破断時伸びは伸長時の特定EPDMの構造が影響を及ぼす事から、伸長時には特定EPDMのエチレンの結晶性が解け、且つ特定EPDMの非共役ジエン系成分が6質量%以上ある事によって硫黄による共役ジエン系成分のみの部分的な架橋が可能になり、高破断時伸びが優れると考える。特定EPDMは主鎖に二重結合をもたないことから高耐候性を有する。
【0016】
以下、本発明のゴム組成物に含有される各成分について詳述する。
<ゴム成分>
本発明のゴム組成物において、ゴム成分は、ジエン量が6質量%以上であり、エチレン-エチレン連鎖構造の含有量が35.0モル%以上であるエチレン-プロピレン-非共役ジエン系共重合体(特定EPDM)を含む。
本発明のゴム組成物は、特定EPDMを含有することによって、本発明の効果が優れる。
【0017】
<特定EPDM>
本発明に含有される特定EPDMは、ジエン量が6質量%以上であり、かつ、エチレン-エチレン連鎖構造の含有量が35.0モル%以上であるエチレン-プロピレン-非共役ジエン系共重合体である。
特定EPDMを構成するエチレン及びプロピレンは特に制限されない。
【0018】
<非共役ジエン>
特定EPDMを構成する非共役ジエンは、共役しない2個の二重結合を有する化合物である。
非共役ジエンとしては、例えば、1,4-ヘキサジエンなどの鎖状の構造を有する非共役ジエン(環状構造を有さない);5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネンなどの環状の構造を有する非共役ジエン(鎖状の構造を更に有してもよい)が挙げられる。中でも非共役ジエンは、環状非共役ジエンが好ましく、5-エチリデン-2-ノルボルネン(ENB)、5-ビニル-2-ノルボルネンがより好ましい。
【0019】
<ジエン量>
特定EPDMは、ジエン量が6質量%以上である。
本発明において、ジエン量は、特定EPDMが有する、非共役ジエンに由来する構成単位の含有量を意味する。
本発明において、特定EPDMのジエン量は、特定EPDM中の6質量%以上である。
特定EPDMのジエン量は、本発明の効果がより優れるという観点から、特定EPDM中の6~12質量%が好ましく、6.5~10.0質量%がより好ましい。
【0020】
<エチレン-エチレン連鎖構造>
一般的に、ポリマーにおいて、連続した2つのモノマーのユニットをダイアッドという。
EPDMが有し得るダイアッドとして、例えば、エチレン-エチレン連鎖構造、エチレン-プロピレン連鎖構造、プロピレン-プロピレン連鎖構造が挙げられる。
特定EPDMは、エチレン-エチレン連鎖構造を有する。
エチレン-エチレン連鎖構造は、エチレンによる繰り返し単位2個が連続した構造(ユニット)である。
【0021】
<エチレン-エチレン連鎖構造の含有量(EE量)>
エチレン-エチレン連鎖構造の含有量(以下これを「EE量」ともいう。)は、35.0モル%以上である。
EE量は、本発明の効果がより優れるという観点から、35.0~65.0モル%が好ましく、45.0~55.0モル%がより好ましい。
【0022】
(エチレン-エチレン連鎖構造の含有量(EE量)の基準)
なお、本発明において、エチレン-エチレン連鎖構造の含有量(EE量)は、エチレン-エチレン連鎖構造の含有量(EE量)、エチレン-プロピレン連鎖構造の含有量(EP量)、及び、プロピレン-プロピレン連鎖構造の含有量(PP量)の合計量(モル)を基準とする百分率である。EP量、及び、PP量についても同様である。
【0023】
(エチレン-プロピレン連鎖構造)
特定EPDMは、更にエチレン-プロピレン連鎖構造を有することができる。
エチレン-プロピレン連鎖構造は、EPDMにおいて、エチレンによる繰り返し単位1個とプロピレンによる繰り返し単位1個が連続した構造(ユニット)を意味する。
エチレン-プロピレン連鎖構造の含有量(EP量)は、本発明の効果がより優れるという観点から、30.0~60.0モル%が好ましく、40.0~50.0モル%がより好ましい。
【0024】
(プロピレン-プロピレン連鎖構造)
特定EPDMは、更にプロピレン-プロピレン連鎖構造を有することができる。
プロピレン-プロピレン連鎖構造は、EPDMにおいて、プロピレンによる繰り返し単位2個が連続した構造(ユニット)を意味する。
プロピレン-プロピレン連鎖構造の含有量(PP量)は、本発明の効果がより優れるという観点から、5.0~35.0モル%が好ましく、5.0~15.0モル%がより好ましい。
【0025】
(EE量/EP量)
特定EPDMにおいて、上記エチレン-プロピレン連鎖構造に対する上記エチレン-エチレン連鎖構造のモル比(EE量/EP量)は、本発明の効果がより優れるという観点から、1.0以上が好ましく、1.1~1.5がより好ましい。
【0026】
(EPDMのジエン量、EE量等の算出)
本発明において、EPDMのジエン量、EE量、EP量及びPP量は、同位体炭素による核磁気共鳴法(13C-NMR法)によって以下の方法で測定し、定量し、算出できる。
【0027】
13C-NMRによる分析)
13C-NMRは、積算回数2048回(2時間)の条件下で、インバースゲイトデカップリング法で測定した。
13C-NMR測定用のサンプルとして、EPDM(加硫前)に重クロロホルムを加えて膨潤させたサンプルを用いた。
化学シフトは、重クロロホルムの13Cシグナルを77ppmに設定し、他の13Cによるシグナルの化学シフトはこれを基準とした。
【0028】
(ジエン量の算出)
13C-NMRの積分範囲51ppm~19ppmの全てのピークの積分値の合計(質量比基準)、及び、13C-NMRの積分範囲42.00ppm~40.60ppmのピークの積分値(質量比基準)から、EPDM中のジエン量を以下の式で算出した。
ジエン量(質量%)=A/B×100
A:積分範囲42.00ppm~40.60ppmのピークの積分値(質量比基準)
B:積分範囲51ppm~19ppmの全てのピークの積分値の合計(質量比基準)
【0029】
(EE量等の算出)
13C-NMRにおいて、以下の各積分範囲(ppm)でピーク面積の積分を行い、得られた各積分値を用いて以下の式でEE量、EP量及びPP量を求めた。なお、EE量等の算出において用いられた各積分値は、19~51ppmの領域に含まれるすべての化学シフトの総積分値(ただし上記総積分値から、共役ジエン由来の構造(例えばENB由来)に帰属されるピークの積分値を除く)に対するモル比基準である。
EE量(モル%)=(9)×0.5+0.25×(8)+(11)×0.5
上記(9)は積分範囲30.68~30.00ppmにおけるピーク面積の積分値(モル比基準)を表す。
上記(8)は積分範囲31.00~30.68ppmにおけるピーク面積の積分値(モル比基準)を表す。
上記(11)は積分範囲27.80~27.43ppmにおけるピーク面積の積分値(モル比基準)を表す。
【0030】
EP量(モル%)=(2)
上記(2)は積分範囲39.80~35.60ppmにおけるピーク面積の積分値(モル比基準)を表す。
【0031】
PP量(モル%)=(1)+(E1)-4×(E2)
上記(1)は積分範囲49.00~42.00ppmにおけるピーク面積の積分値(モル比基準)を表す。
上記(E1)は積分範囲51.00~49.00ppmにおけるピーク面積の積分値(モル比基準)を表す。
上記(E2)は積分範囲42.00~40.60ppmにおけるピーク面積の積分値(モル比基準)を表す。
【0032】
各積分範囲におけるピーク面積の積分値を表す記号である(E1)から(11)と、各積分範囲における帰属と、各積分範囲(ppm)を以下にまとめて示す。
記号 : 帰属 :積分範囲(ppm)
(E1):ENB(C1E):51.00~49.00ppm
(1) :Sαα+ENB(C5+C6+C1Z):49.00~42.00ppm
(E2):ENB(C4) :42.00~40.60ppm
(2) :Sαγ+Sαδ :39.80~35.60ppm
(8) :Sγδ :31.00~30.68ppm
(9) :Sδδ :30.68~30.00ppm
(11):Sβγ :27.80~27.43ppm
ENBは、5-エチリデン-2-ノルボルネンである。
【0033】
なお、上記帰属について、Sはメチレンを意味する。ギリシア文字は、EPDMにおいて、主鎖上の、メチル基が結合している、最短の、2つの炭素原子間にあるメチレン炭素原子の位置を示し、メチル基が結合している炭素原子の隣の炭素原子をαとする。炭素の表記の例を以下に示す。
【化1】
【0034】
EPDMの帰属、モノマー比、ダイアッド比等の算出について、例えば以下の文献を参照することができる。
1.エチレン―プロピレン系エラストマー(EPDM)のモノマー組成および配列構造解析(NMR) 東ソー 技術レポート:No.T1913 / 2019.12.4
2.Determination of Monomer Sequence Distribution in EPDM by 13C-NMR: Third Monomer Effects[Journal of Applied Polymer Science, Vol. 71, 523-530 (1999)]
3.US 9,543,596 B2
【0035】
(特定EPDMの重量平均分子量、分子量分布)
特定EPDMの重量平均分子量(Mw)は、本発明の効果がより優れるという観点から、45万以下が好ましく、30万~45万がより好ましい。
特定EPDMの分子量分布(Mw/Mn)は、本発明の効果がより優れるという観点から、8.0~2.0が好ましく、2.0~2.8がより好ましい。
本明細書において、EPDMの重量平均分子量、数平均分子量、分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定値をもとにした標準ポリスチレン換算値である。
EPDMの重量平均分子量等の測定条件は以下のとおりである。
・測定器:HLC-8020(東ソー社製)
・カラム:GMH-HR-H(東ソー社製)2本を直列に連結した
・検出器:示差屈折計RI-8020(東ソー社製)
・溶離液:テトラヒドロフラン
・カラム温度:40℃
【0036】
<特定EPDMの含有量>
本発明において、ゴム成分は、特定EPDMをゴム成分中の40質量%以上の量で含む。
特定EPDMの含有量がゴム成分中の40質量%以上であることによって、本発明の効果(特に耐オゾン性)が優れる。
ゴム成分は、本発明の効果がより優れるという観点から、特定EPDMをゴム成分中の90~100質量%の量で含むことが好ましく、ゴム成分の全量が特定EPDMであることがより好ましい。
【0037】
ゴム成分が、特定EPDM以外のゴム成分(その他のゴム成分)を更に含む場合、その他のゴム成分は特に制限されない。例えば、ジエン系ゴムが挙げられ、より具体的には例えば、天然ゴム;ブタジエンゴム;スチレンブタジエンゴムのような芳香族ビニル-ジエン系共重合体が挙げられる。
ゴム成分がその他のゴム成分を更に含む場合、その他のゴム成分は、本発明の効果(特に耐オゾン性)がより優れるという観点から、スチレンブタジエンゴム(SBR)を含むことが好ましい。
その他のゴム成分の含有量は、本発明の効果がより優れるという観点から、ゴム成分中の0~60質量%であることが好ましく、0~10質量%がより好ましく、0質量%が更に好ましい。
【0038】
<カーボンブラック>
本発明のゴム組成物は、カーボンブラックを含有する。
【0039】
(よう素吸着量)
カーボンブラックのよう素吸着量は、本発明の効果がより優れるという観点から、10~50mg/gであることが好ましく、15~50mg/gであることがより好ましい。
カーボンブラックのよう素吸着量は、JIS K6217-1:2008に準じて測定できる。
【0040】
(窒素吸着比表面積)
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、本発明の効果がより優れるという観点から、0~130m/gであることが好ましく、20~50m/gであることがより好ましい。
カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JIS K6217-2:2008に準じて測定できる。
【0041】
(ジブチルフタレート吸油量)
カーボンブラックのジブチルフタレート(DBP)吸油量は、本発明の効果がより優れるという観点から、0~140ml/100gであることが好ましく、0~130ml/100gであることがより好ましく、40~130ml/100gであることが更に好ましい。
カーボンブラックのDBP吸油量は、JIS K6217-4:2008に準じて、測定できる。
【0042】
(カーボンブラックの種類)
カーボンブラックは、本発明の効果がより優れるという観点から、SAF、ISAF、HAF、FEF、GPF、SRF、FT及びMTカーボンブラックからなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましく、FEF、GPF、SRF、FT及びMTカーボンブラックからなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことがより好ましく、FEF及び/又はSRFカーボンブラックを含むことが更に好ましい。
【0043】
(カーボンブラックの含有量)
カーボンブラックの含有量は、本発明の効果がより優れるという観点から、ゴム成分100質量部に対して、70質量部以上であることが好ましく、70~100質量部がより好ましい。
【0044】
<硫黄>
本発明のゴム組成物は、硫黄を含有する。
硫黄は、ゴムの加硫に使用できるものであれば特に制限されない。例えば、従来公知の硫黄が挙げられる。
硫黄の形態は特に制限されない。例えば、油処理されたもの、粉末状のものが挙げられる。
【0045】
(硫黄の含有量)
硫黄の含有量(正味の硫黄の含有量)は、本発明の効果がより優れるという観点から、ゴム成分100質量部に対して、0.65質量部以上であることが好ましく、0.70~3.0質量部がより好ましい。
【0046】
(添加剤)
本発明のゴム組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、更に添加剤を含有することができる。
添加剤としては、例えば、パラフィンオイル、ナフテンオイルのような軟化剤;タルク、シリカ;加硫促進助剤(例えば、ステアリン酸)、酸化亜鉛、加硫遅延剤、加硫促進剤、老化防止剤などが挙げられる。
【0047】
本発明のゴム組成物は、エチレン・プロピレン共重合体(エチレンとプロピレンとの2元共重合体)を含有しないことが好ましい態様の1つとして挙げられる。なお、エチレン・プロピレン共重合体はEPDMに該当しない。
本発明のゴム組成物は、過酸化物を含有しないことが好ましい態様の1つとして挙げられる。
【0048】
(ゴム組成物の製造方法)
本発明のゴム組成物はその製造方法について特に制限されない。例えば、上記必須成分と、必要に応じて使用することができる任意成分とを100~180℃の条件下で混合することによって製造することができる。
【0049】
(ゴム組成物の加硫)
本発明のゴム組成物を加硫(硫黄加硫)する方法は特に制限されない。本発明のゴム組成物を、例えば、140~190℃の条件下において加硫することができる。加硫する方法としては具体的には例えば、プレス加硫、蒸気加硫、オーブン加硫(熱気加硫)又は温水加硫が挙げられる。本発明のゴム組成物を加硫することによって、硬化物(加硫ゴム)を得ることができる。
【0050】
(用途)
本発明のゴム組成物は、例えば、ホースに適用することができる。
上記ホースとしては、例えば、エアコンのホースが挙げられる。より具体的には例えば、カーエアコンのホースが挙げられる。
本発明のゴム組成物をホースの最外層に適用することが好ましい。
【0051】
[ホース]
本発明のホースは、本発明のホース用ゴム組成物を用いて形成されたホースである。
本発明のホースは、本発明のゴム組成物を用いて形成されること以外は特に制限されない。本発明のホースに使用されるゴム組成物は本発明のゴム組成物であれば特に制限されない。本発明のホースのいずれの部材を本発明のゴム組成物で形成するかは特に制限されない。
【0052】
(最外層)
本発明のホースは、本発明のゴム組成物で形成された最外層を有することが好ましい。
最外層の厚みは例えば0.2~4mmとすることができる。
【0053】
本発明のホースは最外層以外に、更に、補強部材(補強層)、最内層及び中間ゴム層からなる群から選ばれる少なくとも1種を有することができる。最外層は1層又は複数の層であってもよい。最内層、補強部材及び中間ゴム層も同様である。
本発明のホースは、例えば、最内層、補強部材及び最外層をこの順番で有することができる。
【0054】
(最内層)
本発明のホースが有することができる最内層は特に制限されない。例えば、従来公知の最内層が挙げられる。
最内層の厚みは例えば0.2~4mmとすることができる。
【0055】
(補強部材)
本発明のホースが有することができる補強部材は特に限定されない。例えば、従来公知の補強部材が挙げられる。
補強部材の材質としては、例えば、金属、繊維材料(例えばポリアミド、ポリエステル等)が挙げられる。補強部材は表面処理されたものであってもよい。
補強部材の形態としては、例えば、スパイラル構造及び/又はブレード構造に編組されたものが挙げられる。
【0056】
本発明のホースの例について添付の図面を参照して説明する。本発明は添付の図面に制限されない。
図1は、本発明のホースの一例について、各層を切り欠いて表した、模式的な斜視図である。
図1において、ホース1は、最内層2を有し、最内層2の上に補強部材3を有し、補強部材3の上に最外層4を有する。最外層4を本発明のゴム組成物で形成することが好ましい態様の1つとして挙げられる。
【0057】
本発明のホースはその製造方法について特に制限されない。例えば、マンドレル上に、最内層を形成するためのゴム組成物、補強部材及び最外層を形成するためのゴム組成物(例えば本発明のゴム組成物)をこの順に積層させて積層体とし、上記積層体をナイロン布などで覆い、上記ナイロン布などで覆われた積層体を140~190℃、30~180分の条件で、プレス加硫、蒸気加硫、オーブン加硫(熱気加硫)又は温水加硫することにより加硫接着させて本発明のホースを製造することができる。
【0058】
本発明のホースの用途としては、例えば、エアコン用ホースが挙げられる。より具体的には例えば、カーエアコンのホースが挙げられる。
【実施例0059】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし本発明はこれらに限定されない。
【0060】
<ゴム組成物の製造>
下記各表の各成分を同表に示す組成(質量部)で用いて、これらを撹拌機で混合し、ゴム組成物を製造した。
具体的には、まず、下記各表に示す成分のうち加硫促進剤及び油処理硫黄を除く成分をバンバリーミキサー(3.4リットル)で5分間混合し、160℃に達したときに放出し、マスターバッチを得た。
次に、上記のとおり得られた各マスターバッチに加硫促進剤及び油処理硫黄を加え、これらをオープンロールで混合し、ゴム組成物を得た。
第1表では、ゴム成分としてEPDMとSBRを使用した。
第2表では、ゴム成分としてEPDMを使用した。
【0061】
(加硫シートの作製)
上記のとおり得られた各ゴム組成物を153℃のプレス成型機を用い、面圧3.0MPaの圧力下で45分間加硫して、2mm厚の加硫シートを作製した。
【0062】
<<評価>>
<破断時伸び>
まず、上記各加硫シートからJIS K6251に準拠したJIS3号ダンベル状の試験片を打ち抜き、初期試験片を得た。
次に、上記各初期試験片を用いて、JIS K6251:2010に準じて、23℃±2℃、引張速度500mm/分の条件下で引張試験を行い、破断時伸び(EB)[%]を測定した。
破断時伸びの結果を、第1表においては、EPDMとして比較EPDM1を含有する比較例1の結果を100とする指数で表示した。第2表においては、EPDMとして比較EPDM1を含有する比較例6の結果を100とする指数で表示した。
破断時伸びの評価基準は以下のとおりである。
上記破断時伸び(指数)が107以上であった場合、得られた硬化物の破断時伸びが優れると評価した。硬度(指数)が107より大きい程、得られた硬化物の破断時伸びがより優れる。
一方、上記破断時伸び(指数)が107未満であった場合、得られた硬化物の破断時伸びが悪いと評価した。
【0063】
<硬度>
まず、上記のとおり(加硫シートの作製)で得られた各加硫シートを3枚重ねて、初期試験片を得た。
次に、JIS K 6253-3:2012に準じて、タイプAデュロメータを用いて23℃の条件下において硬度測定試験を行い、上記のとおり得られた各初期試験片の硬度を測定した。
硬度の結果を、第1表においては比較例1の結果を100とする指数で表示し、第2表においては比較例6の結果を100とする指数で表示した。
硬度の評価基準は以下のとおりである。
上記硬度(指数)が100以上であった場合、得られた硬化物の硬度が優れると評価した。硬度(指数)が100より大きい程、得られた硬化物の硬度がより優れる。
一方、上記硬度(指数)が100未満であった場合、得られた硬化物の硬度が悪いと評価した。
【0064】
<耐オゾン性>
まず、上記のとおり(加硫シートの作製)で得られた各加硫シートからJIS K6251に準拠したJIS3号ダンベル型試験片を切り出した。
次に、上記各試験片を30%伸長させ、オゾン濃度100pphm、50℃の条件下で72時間オゾン劣化させた後、試験片表面におけるオゾンクラックの有無を目視で評価した。
得られた結果を、各表の「耐オゾン性」の欄に示した。
耐オゾン性の評価基準は以下のとおりである。
試験片表面にオゾンクラックがなかった場合、耐オゾン性が優れると評価し、「クラックなし」と表示した。
一方、試験片表面にオゾンクラックがあった場合、耐オゾン性が悪いと評価し、「クラックあり」と表示した。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
各表に示した各成分の詳細は以下のとおりである。
(ゴム成分)
・比較EPDM1 Keltan 6950C(CHINA):ジエン量が8質量%でありEE量が28.9モル%であるエチレン-プロピレン-非共役ジエン系共重合体。LANXESS社製。
・比較EPDM2 Keltan 6950C(オランダ):ジエン量が9質量%でありEE量が30.2モル%であるエチレン-プロピレン-非共役ジエン系共重合体。LANXESS社製。
・比較EPDM3 EPT9090M:ジエン量が11質量%でありEE量が32.8モル%であるエチレン-プロピレン-非共役ジエン系共重合体。三井化学社製。
【0068】
(エチレン-プロピレン-非共役ジエン系共重合体)
・EPDM1 KEP370F:ジエン量9質量%でありEE量が39.7モル%であるエチレン-プロピレン-非共役ジエン系共重合体。EE量/EP量は0.73。重量平均分子量150,000、分子量分布7.7。非共役ジエンは5-エチリデン-2-ノルボルネン。KUMHO社製
・EPDM2 4110M:ジエン量が7質量%でありEE量が49.7モル%であるエチレン-プロピレン-非共役ジエン系共重合体。EE量/EP量は1.21。重量平均分子量449,000、分子量分布2.3。非共役ジエンは5-エチリデン-2-ノルボルネン。SSME社製
【0069】
・SBR:スチレンブタジエンゴム。商品名NIPOL1502、日本ゼオン社製
【0070】
(カーボンブラック)
・FEFカーボンブラック:商品名ニテロン♯10N、新日化カーボン社製。よう素吸着量41±4mg/g、NSA:42±4m/g、DBP吸油量121±6ml/100g。
・SRFカーボンブラック:商品名アサヒ50、旭カーボン社製。よう素吸着量20±5mg/g、NSA:25±5m/g、DBP吸油量55~79ml/100g。
【0071】
・タルク:商品名MISTRON VAPOR、イメリス社製
・ナフテンオイル:商品名コウモレックス H22、JXTGエネルギー社製
・パラフィンオイル:商品名SUNPAR2280。日本サン石油社製。
・pvi:加硫遅延剤。N-シクロヘキシルチオフタルイミド。商品名リターダーCTP、東レファインケミカル社製
・酸化亜鉛:酸化亜鉛3種、正同化学工業社製
・ステアリン酸:ステアリン酸50S、千葉脂肪酸社製
【0072】
・加硫促進剤CZ:N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド。スルフェンアミド系。大内新興化学工業社製ノクセラーCZ-G
・加硫促進剤TET:テトラエチルチウラムジスルフィド。チウラム系。大内新興化学工業社製ノクセラーTET-G
・加硫促進剤TRA:ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド。チウラム系。大内新興化学工業社製ノクセラーTRA
・加硫促進剤TT:テトラメチルチウラムジスルフィド。チウラム系。大内新興化学工業社製ノクセラーTT)
・加硫促進剤DM:ジベンゾチアジルジスルフィド。チアゾール系。サンセラーDM、三新化学工業社製
【0073】
(硫黄)
・油処理硫黄:細井化学工業社製。油処理硫黄は硫黄を含む。油処理硫黄中の硫黄の濃度は95質量%である。
【0074】
第1表に示す結果から、EE量が35.0モル%未満のEPDMを含有する比較例1~3は、破断時伸びが悪かった。
EE量が35.0モル%未満のEPDMの含有量がゴム成分中の30質量%である比較例4は、破断時伸び、硬度及び耐オゾン性が悪かった。
特定EPDMの含有量がゴム成分中の40質量%未満であった比較例5は、耐オゾン性が悪かった。
第2表に示す結果から、EE量が35.0モル%未満のEPDMを含有する比較例6~8は、破断時伸び又は硬度が悪かった。
【0075】
これらに対して、本発明のゴム組成物は、得られる硬化物の破断時伸び、硬度、及び、耐オゾン性に優れた。
【符号の説明】
【0076】
1:ホース
2:最内層
3:補強部材
4:最外層
図1