(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038712
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】内燃エンジンの制御装置
(51)【国際特許分類】
F02B 19/12 20060101AFI20240313BHJP
F02P 5/145 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
F02B19/12 D
F02P5/145 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142943
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【弁理士】
【氏名又は名称】網屋 美湖
(72)【発明者】
【氏名】小林 賢一郎
【テーマコード(参考)】
3G022
3G023
【Fターム(参考)】
3G022EA01
3G023AA01
3G023AB02
3G023AB03
3G023AD21
(57)【要約】
【課題】副室式内燃エンジンにて動作点変動時に燃焼状態が不安定になるのを防止する。
【解決手段】燃焼室と、燃焼室の上部中央に噴孔を介して連通する副室と、吸気通路内に燃料を噴射する燃料噴射弁と、副室内に臨む第1点火手段と、前記燃焼室に臨む第2点火手段とを備えた内燃エンジンにおいて、(i)定常状態では第1点火手段(5)により副室(50)内で点火する第1燃焼モードを実行し、(ii)定常状態で動作点変更が判定された場合は、第2点火手段(7)により燃焼室内(20)で点火する第2燃焼モードに移行し、(iii)動作点の移行が完了し、第2燃焼モードの燃焼が安定していると判定された場合は、第1点火手段(5)と第2点火手段(7)の両方により点火する第3燃焼モードに移行し、第3燃焼モードの燃焼が安定していると判定された場合は、第1燃焼モードに移行するように構成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンとシリンダヘッドの間に画成される燃焼室と、前記燃焼室の上部中央に噴孔を介して連通する副室と、前記燃焼室への吸気通路内に燃料を噴射する燃料噴射弁と、前記副室内に臨む第1点火手段と、前記燃焼室に臨む第2点火手段と、を備えた内燃エンジンの制御装置であって、
定常状態では前記第1点火手段により前記副室内で点火する第1燃焼モードを実行し、
定常状態で動作点変更が判定された場合は、前記第2点火手段により前記燃焼室内で点火する第2燃焼モードに移行し、
動作点の移行が完了し、前記第2燃焼モードの燃焼が安定していると判定された場合は、前記第1点火手段と前記第2点火手段の両方により点火する第3燃焼モードに移行し、
前記第3燃焼モードの燃焼が安定していると判定された場合は、前記第1燃焼モードに移行するように構成されていることを特徴とする内燃エンジンの制御装置。
【請求項2】
前記第2燃焼モードでの前記第2点火手段による点火時期を前記第1燃焼モードでの前記第1点火手段による点火時期より進角し、前記第2燃焼モードから前記第3燃焼モードへの移行時に、前記第2点火手段の点火時期を前記第1点火手段による点火時期より遅角するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記第3燃焼モードの燃焼が不安定と判定された場合は、前記第1点火手段を停止して前記第2燃焼モードに戻るように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃エンジンの制御装置。
【請求項4】
前記第3燃焼モードの燃焼が不安定と判定された場合は、前記第1点火手段の放電エネルギーを徐々に低下させて前記第2燃焼モードに戻るように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃エンジンの制御装置。
【請求項5】
前記第3燃焼モードから前記第1燃焼モードに移行した後に燃焼が不安定と判定された場合は、前記第3燃焼モードに戻るように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃エンジンの制御装置。
【請求項6】
前記第3燃焼モードの燃焼が安定していると判定された前記場合は、前記第2点火手段の放電エネルギーを徐々に低下させて前記第1燃焼モードに移行するように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃エンジンの制御装置。
【請求項7】
前記第3燃焼モードにおける燃焼の安定を判定する期間は、前記第2燃焼モードにおける燃焼の安定を判定する期間よりも長く、
前記第1燃焼モードにおける燃焼の安定を判定する期間は、前記第3燃焼モードにおける燃焼の安定を判定する期間よりも長いことを特徴とする請求項1または2に記載の内燃エンジンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃エンジンの制御装置に関し、さらに詳しくは、燃焼室に連通する副室内に点火プラグを備えた副室式内燃エンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼室の上部に設置した副室内に点火プラグを備えた副室式内燃エンジンは、圧縮行程で連通孔を通じて副室内に流入した混合気に副室内で点火する構成により、連通孔から主燃焼室に噴出する火炎により主燃焼室の混合気を急速燃焼させることで、燃焼エネルギーが効率良く圧力に変換され、エンジンの熱効率が向上する利点がある。その反面、特定の状況では燃焼状態が不安定になるという課題がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、副室式内燃エンジンにおいて、プリイグニッションを抑制するために点火時期直前に燃料噴射を行うと、混合気が十分に混合されずに過剰にリーンな状態のまま副室に流入し燃焼が不安定になる、という問題に対処するために、エンジンの負荷が所定値未満であるときは副室内の点火プラグで点火し、エンジン負荷が所定値以上であるときは、所定時期よりも遅い時期に燃料を噴射して、主燃焼室内の点火プラグで点火することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、副室式内燃エンジンの燃焼状態が必ずしも高負荷領域で不安定になるというわけではなく、むしろ、吸気流量が減少する低負荷領域の方が混合気を副室に流入させ難い傾向がある。一方、負荷の変動やEGRの導入などにより、直前の動作点と運転状態が急激に変化すると、副室内に流入する混合気の状態が変化し、燃焼状態が不安定になるという問題がある。
【0006】
本発明は、従来技術の上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、副室式内燃エンジンにおいて動作点変動時に燃焼状態が不安定になるのを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、
ピストンとシリンダヘッドの間に画成される燃焼室と、前記燃焼室の上部中央に噴孔を介して連通する副室と、前記燃焼室への吸気通路内に燃料を噴射する燃料噴射弁と、前記副室内に臨む第1点火手段と、前記燃焼室に臨む第2点火手段と、を備えた内燃エンジンの制御装置であって、
定常状態では前記第1点火手段により前記副室内で点火する第1燃焼モードを実行し、
定常状態で動作点変更が判定された場合は、前記第2点火手段により前記燃焼室内で点火する第2燃焼モードに移行し、
動作点の移行が完了し、前記第2燃焼モードの燃焼が安定していると判定された場合は、前記第1点火手段と前記第2点火手段の両方により点火する第3燃焼モードに移行し、
前記第3燃焼モードの燃焼が安定していると判定された場合は、前記第1燃焼モードに移行するように構成されていることを特徴とする内燃エンジンの制御装置にある。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る内燃エンジンの制御装置は、上記構成により、定常状態では副室内で点火する第1燃焼モードを実行することで、噴孔から主燃焼室に噴出する火炎により主燃焼室の混合気を急速燃焼させ、エンジンの熱効率を向上でき、かつ、動作点変更時には燃焼室内で点火する第2燃焼モードに移行し、動作点移行完了後に、副室内の第1点火手段と燃焼室の第2点火手段の両方で点火する第3燃焼モードを経て第1燃焼モードに復帰することで、動作点変更ないし移行後に燃焼状態が不安定になるのを防止できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】内燃エンジンの基本構成を示す模式的断面図である。
【
図2】動作点変更時の基本的な点火制御を示すタイミングチャートである。
【
図3】第3燃焼モードへの移行時に不安定判定した場合の制御を示すタイミングチャートである。
【
図4】第3燃焼モードから第1燃焼モードへの移行時に不安定判定した場合の制御を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
(基本構成)
図1は、本発明が実施される内燃エンジンの基本構成を示している。
図1において、内燃エンジンは、シリンダ1内に往復摺動可能に収容されたピストン2を備えるピストン往復動式内燃エンジンであり、ピストン2は、コネクティングロッド23を介してクラックシャフト24に連結され、ピストン2の往復直線運動がクランクシャフト24の回転運動に変換される。
【0011】
シリンダ1を構成するシリンダブロックの上部には、ピストン2の冠面21との間に燃焼室20を画成するシリンダヘッドが配設されている。燃焼室20の上部中央には、副室50を画成するキャップ53が配設されており、キャップ53の上部に第1点火プラグ5が設けられている。
【0012】
副室50は、燃焼室20に比較して十分に小さい容積を有し、キャップ53を貫通する複数の噴孔51を介して燃焼室20に連通している。噴孔51(オリフィス)は、
図2に示すように、キャップ53の中心軸に対して傾斜角を有して斜めに配向され、中心軸周りに放射状に等角配置で複数箇所、例えば6箇所に設けられている。
【0013】
また、シリンダヘッドは、天井面の一側の吸気ポート30で燃焼室20に連通する吸気通路3、天井面の他側の排気ポート60で燃焼室20に連通する排気通路60を備え、吸気ポート30を開閉するための吸気バルブ31、および、排気ポート60を開閉するための排気バルブ61を備える。吸気バルブ31、排気バルブ61は、不図示の可変動弁機構により、それぞれの開閉時期を個別に制御可能である。
【0014】
さらに、シリンダヘッドは、吸気通路3内に燃料を噴射するための燃料噴射弁4(インジェクタ)を備えている。燃料噴射弁4は、吸気バルブ31の裏面側に向けて斜めに配設されている。なお、図示を省略するが、吸気通路3の上流側には、サージタンクを介してエアクリーナが接続され、エアフロセンサ、スロットルバルブ、吸気温度センサ、吸気流量センサ、吸気圧力センサなどが配設されている。
【0015】
一方、排気通路6の下流側には、排気ガス中の酸素濃度を検出するO2センサ16(または空燃比センサ)、排ガス中に含まれる有害物質を除去する排ガス浄化装置62が配設されている。また、図示を省略するが、排気通路6から排気ガスの一部を吸気通路3に循環させるEGR通路が設けられ、このEGR通路にEGRクーラ、EGRバルブが配設され、EGRシステムを構成しており、部分負荷領域で排ガスを吸気通路に導入することによりポンピング損失を低減し、燃焼温度を下げることで冷却損失を低減できるようにしている。
【0016】
ところで、負荷の変動やEGR導入などにより、直前の動作点と運転状態が急激に変化すると、副室内に流入する混合気の状態が変化し、燃焼状態が不安定になることは既に述べた通りである。特に、吸気通路3内に燃料噴射弁4を備えたポート噴射方式の副室式内燃エンジンでは、混合気の混合は良好であるが、直前の動作点と運転状態が変わると、副室内の混合気状態(空気、燃料、残ガスの割合)や温度、圧力が急激に変化し、事前に燃料、点火の適合値を持っていたとしても、副室内の混合気状態が安定せず、燃焼が不安定になる場合がある。
【0017】
そこで、本発明実施形態に係る内燃エンジンは、副室50内の第1点火プラグ5とは別に、燃焼室20に臨む第2点火プラグ7(補助点火プラグ)を備え、後述するように、定常状態では第1点火プラグ5により副室50内で点火(第1燃焼モード)し、動作点変更時(動作点移行期間)は第2点火プラグ7により燃焼室20内で点火(第2燃焼モード)することで燃焼状態が不安定になるのを回避できるようにしている。
【0018】
第2点火プラグ7は、好ましくは、
図1に示すように、燃焼室20の天井面の吸気ポート30側(2つの吸気ポート間の天井面周辺部)に配設されるが、天井面の他の側、例えば、吸気ポート30と排気ポート60の間の天井面周辺部などであっても良い。
【0019】
内燃エンジンは、クランクシャフト24のタイミングロータからクランク角とエンジン回転数を検出するクランク角センサ12、気筒判別を行うカム角センサ、スロットル開度センサ、冷却水の温度を検知する水温センサ、外気温センサ、油温センサ、ノックセンサなどを備え、さらに好適には、エンジンの燃焼状態を検知する筒内圧力センサ(燃焼圧センサ)を備えており、各センサの検出値はECU10に入力される。
【0020】
ECU(エンジン制御装置)10は、各センサの検出値に基づいてエンジンの運転状態を最適化するための電子制御ユニット(コンピュータ)であり、演算処理を行うCPU、制御プログラムや設定データなどを格納するROM、制御プログラムや設定データを読出し、動的データや演算処理結果を記憶するRAM、および、入出力I/Fなどを備えており、運転者(アクセル開度)および/またはシステムの出力要求(トルク要求、加減速要求)に基づく目標値と、エンジン状態(回転数、吸気量、空燃比)に基づく実際値との偏差と、吸気温度、吸気圧力などの状態値を基に演算し、制御指示値(スロットル開度、燃料噴射量、点火時期、EGR量)を決定し、エンジンの運転状態を最適化する。
【0021】
そして、ECU10は、運転者の出力要求(出力ダウン要求)と並行して目標値と実際値との偏差に応じてエンジンの動作点変更を判定し、
(i)偏差が所定以内の定常状態では第1点火プラグ5により副室50内で点火する第1燃焼モードを実行し、
(ii)動作点変更と判定された場合には第2点火プラグ7により燃焼室20内で点火する第2燃焼モードに移行し、
(iii)動作点移行が完了した場合には第1点火プラグ5と第2点火プラグ7の両方で点火する第3燃焼モードを経て第1燃焼モードに復帰する制御を行う。
【0022】
エンジンの動作点変更を判定する基準としては、例えば、目標エンジン回転数に対する実エンジン回転数の偏差を監視し、目標エンジン回転数に対する実エンジン回転数の偏差が所定値(例えば100rpm)を超過した場合に動作点変更要求ありと判定する。
【0023】
以下、動作点変更に伴う燃焼モードの制御について、
図2を参照しながら説明する。
【0024】
(第1燃焼モード)
ECU10は、基本的に運転者の出力要求(出力ダウン要求)と実際値との偏差が所定値未満の定常状態では、第1点火プラグ5により副室50内で点火する第1燃焼モードを実行する。
【0025】
第1燃焼モードでは、吸気行程または排気行程で吸気流路3内に噴射された燃料が吸気行程でシリンダ1内に流入する空気と混合されて混合気となり、圧縮行程で噴孔51を通じて副室50内に流入した混合気に、第1点火プラグ5により副室50内で点火することで、噴孔51から燃焼室20内に放射状に高速で噴出する火炎により燃焼室20内の混合気を急速燃焼させ、エンジンの運転状態が熱効率の良い状態で最適化される。
【0026】
(第2燃焼モード)
上記のような第1燃焼モードでの運転中に、例えば、
図1の時刻t1において、運転者の出力要求(出力ダウン要求)と実際値との偏差が所定値以上となるような出力要求(出力ダウン要求)により、動作点変更要求ありと判定された場合は、第2点火プラグ7により燃焼室20内で点火する第2燃焼モードに移行する。
【0027】
第2燃焼モードでは、第1点火プラグ5の代わりに、第2点火プラグ7で燃焼室20内の混合気に直接点火することで、エンジンの熱効率は相対的に低下するものの、吸気流量やEGR量の変動により燃焼室20内の混合気の状態が変化しても、燃焼状態が不安定になるのを防止できる。
【0028】
なお、第2点火プラグ7で点火する第2燃焼モードは、第1燃焼モードに比較して燃焼速度が遅く、熱発生率のピークが遅角側に移動する。そこで、第2燃焼モードにおける第2点火プラグ7の点火時期は、第1燃焼モードでの第1点火プラグ5による点火時期に対して進角させることが好ましい。
【0029】
その後、
図1の時刻t2において、エンジンが目標動作点に到達し、運転者の出力要求(出力ダウン要求)と実際値との偏差が所定値未満となると、エンジンの燃焼安定判定1が実施される。燃焼安定判定は、判定期間中の回転変動が所定値以内、例えば100rpm以内に収まっていることをもって評価される。あるいは、筒内圧力センサの検出値より求まる燃焼変動率(COV of IMEP)が所定値以内、例えば4%以内であることをもって評価してもよい。燃焼安定判定を行う機関は、特に限定されるものではないが、数サイクルないし数10サイクル程度である。
【0030】
(第3燃焼モード)
そして、
図1の時刻t3において、燃焼安定判定1が完了し、第2燃焼モードでの燃焼が安定状態にあると判定されると、第1点火プラグ5と第2点火プラグ7の両方で点火する第3燃焼モードに移行する。すなわち、第2燃焼モードにおける第2点火プラグ7での点火を直ちに停止するのではなく、第2点火プラグ7の点火と並行して第1点火プラグ5の点火を開始することにより、第1点火プラグ5による副室50内での点火が直ちに安定化しない場合にも、エンジンの燃焼状態が不安定になるのを防止できる。
【0031】
なお、第3燃焼モードでは、第2点火プラグ7の点火時期を、第1点火プラグ5の点火時期より遅角して、第1点火プラグ5での点火で噴孔51から火炎が噴出するタイミングに合わせて第2点火プラグ7が点火されるようにする、すなわち、第1点火プラグ5の点火による火炎噴出前に第2点火プラグ7が点火されないようにする必要がある。
【0032】
また、第3燃焼モードは過渡的な燃焼モードであるため、第3燃焼モードへの移行と同時にエンジンの燃焼安定判定2が実施され、
図1の時刻t4において第3燃焼モードでの燃焼が安定状態にあると判定されると、第2点火プラグ7を停止して第1点火プラグ5により副室50内で点火する第1燃焼モードに移行する。
【0033】
この際、第2点火プラグ7を直ちに停止するのではなく、第2点火プラグ7の放電エネルギーを徐々に低下させることが好ましい。なお、第1燃焼モードへの移行と同時にエンジンの燃焼安定判定3が実施され、
図1の時刻t5において安定状態のまま判定期間が経過すると定常状態に復帰する。
【0034】
(燃焼安定判定で不安定と判定された場合)
上記実施例では各燃焼モードへの移行後に所定期間内に燃焼状態が安定した場合について述べたが、各燃焼モードへの移行後に燃焼状態が安定しない場合は、以下のような制御を実行する。
【0035】
例えば、
図3に示すように、時刻t3で第2燃焼モードから第3燃焼モードに移行した後、時刻t3′において燃焼状態が不安定であると判定された場合、そのまま第3燃焼モードを継続するのではなく、副室50の第1点火プラグ5を停止して燃焼室20内の第2点火プラグ7のみで点火を行う第2燃焼モードに戻る。
【0036】
第2燃焼モードへの復帰後も燃焼安定判定は継続されており、時刻t4′で第2燃焼モードでの燃焼が安定状態にあると判定されると、第1点火プラグ5と第2点火プラグ7の両方で点火する第3燃焼モードに移行する。その後、時刻t5′で第3燃焼モードでの燃焼が安定状態にあると判定されると、第2点火プラグ7を停止して第1点火プラグ5により副室50内で点火する第1燃焼モードに移行する。
【0037】
また、
図4に示すように、時刻t4で第2点火プラグ7を停止し(放電エネルギーを徐々に低下させ)、第2燃焼モードから第1燃焼モードに移行した後、時刻t4′において燃焼安定判定2で不安定と判定された場合には、副室50内の第1点火プラグ5と燃焼室20内の第2点火プラグ7の両方で点火する第3燃焼モードに戻る。その後、時刻t5′において第3燃焼モードでの燃焼が安定状態にあると判定されている状態で、第2点火プラグ7を停止し(放電エネルギーを徐々に低下させ)第1燃焼モードに移行する。
【0038】
なお、燃焼安定判定の期間は各モードにおける燃焼安定判定1~3で同じでも良いが、第3燃焼モードにおける燃焼安定判定2の判定期間が、第2燃焼モードにおける燃焼安定判定1の判定期間よりも長く、第1燃焼モードへの移行時における燃焼安定判定3の判定期間が、第3燃焼モードにおける燃焼安定判定2の判定期間よりも長くなるようにしても良い。すなわち、不安定になりやすい燃焼モードへの移行時ほど安定判定の期間を長くすることで、燃焼変動のリスクを低減して、燃焼の安定化と応答性をバランスさせるうえで有利である。
【0039】
(作用と効果)
以上述べたように、本発明に係る内燃エンジンの制御装置は、
(i)定常状態では第1点火プラグ5により副室50内で点火する第1燃焼モードを実行することで、噴孔51から燃焼室20に放射状に噴出する火炎により燃焼室20内の混合気を急速燃焼させることができ、燃焼エネルギーが効率良く圧力に変換され、エンジンの熱効率を向上できる。そして、定常状態において、
(ii)動作点変更と判定された場合には、第2点火プラグ7により燃焼室20内で点火する第2燃焼モードに移行することで、燃焼状態が不安定になるのを回避できる。
(iii)動作点移行が完了した場合には、第1点火プラグ5と第2点火プラグ7の両方で点火する第3燃焼モードを経て第1燃焼モードに復帰する制御を実行することで、動作点移行後に定常状態に復帰する過程で燃焼状態が不安定になるのを防止できる。
【0040】
上記のように動作点変更時に第2燃焼モード(退避モード)への移行および第3燃焼モード(遷移モード)を経由して第1燃焼モード(副室燃焼モード、定常状態)に復帰する制御により、一時的な熱効率の低下を招いても、燃焼状態が不安定になるのを回避することで、運転期間全体としての熱効率の低下を最小限に留め、第1燃焼モード(副室燃焼モード)における熱効率の向上やノッキング低減効果が得られる利点がある。
【0041】
特に、第2燃焼モード(退避モード)から、第1燃焼モード(副室燃焼モード、定常状態)に復帰する際に、第3燃焼モード(遷移モード、緩衝モード)を経由することで、定常状態への円滑な移行が可能となる利点がある。
【0042】
以上、本発明の実施形態について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいてさらに各種の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 シリンダ
2 ピストン
3 吸気通路
4 燃料噴射弁
5 第1点火プラグ
6 排気通路
7 第2点火プラグ
10 ECU(エンジン制御装置)
12 クランク角センサ
16 O2センサ
20 燃焼室
30 吸気ポート
31 吸気バルブ
50 副室
51 噴孔
60 排気ポート
61 排気バルブ
62 排ガス浄化装置