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特開2024-38713金属酸化物薄膜の製造方法及び有機薄膜太陽電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038713
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】金属酸化物薄膜の製造方法及び有機薄膜太陽電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/50 20230101AFI20240313BHJP
【FI】
H01L31/04 166
H01L31/04 186
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142944
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】中野 正浩
【テーマコード(参考)】
5F151
5F251
【Fターム(参考)】
5F151AA11
5F151CB13
5F151CB29
5F151FA02
5F151FA03
5F151FA04
5F151FA06
5F151GA03
5F151GA05
5F251AA11
5F251CB13
5F251CB29
5F251FA02
5F251FA03
5F251FA04
5F251FA06
5F251GA03
5F251GA05
5F251XA54
5F251XA61
(57)【要約】
【課題】有機層の分解を抑制できる金属酸化物薄膜の製造方法及び有機薄膜太陽電池の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】この金属酸化物薄膜の製造方法は、下地上に、酸化物の前駆体溶液を塗布する塗布工程と、前記前駆体溶液を減圧雰囲気で80℃以上の温度で加熱する加熱工程と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地上に、酸化物の前駆体を含む前駆体溶液を塗布する塗布工程と、
前記前駆体溶液を減圧雰囲気で80℃以上の温度で加熱する加熱工程と、を有する、金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記加熱工程における真空度を5.0×10Pa以下とする、請求項1に記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記酸化物が、酸化亜鉛である、請求項1に記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記前駆体溶液は、アセチルアセトン金属錯体と、2-メトキシエタノール又はイソプロピルアルコールと、を有し、
前記前駆体溶液に、アセチルアセトンを添加する、請求項1に記載の金属酸化物薄膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の金属酸化物薄膜の製造方法を用いて金属酸化物薄膜を形成する工程と、
前記金属酸化物薄膜上に、有機層を形成する工程と、を有する、有機薄膜太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物薄膜の製造方法及び有機薄膜太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機薄膜太陽電池は、設置箇所への制限が少なく、素子の大型化が比較的簡単と言われており、注目されている。
【0003】
有機薄膜太陽電池は、第1電極と第2電極とに挟まれる活性層で、光エネルギーを電気エネルギーに変換する。活性層は、電子捕集層、発電層、ホール捕集層等の複数の層が積層されて形成される。
【0004】
金属酸化物薄膜は、有機薄膜太陽電池の電極、電子捕集層として用いられる。例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン等は、電極に用いられる。例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ケイ素、酸化スズ、酸化タングステン、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化アルミニウム、酸化イットリウム等は、電子捕集層に用いられる。
【0005】
金属酸化物薄膜の作製方法として、様々な方法が提案されている。例えば、特許文献1には、金属酸化物粒子が分散した分散液を乾燥又は焼結する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-094841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
有機薄膜太陽電池の有機層は、光照射により劣化する。例えば、金属酸化物薄膜と有機層との界面で、有機層が劣化する場合がある。これは、金属酸化物薄膜の表面に存在するOH基に吸着した水分子が原因ではないかと考えられる。水分子は、光照射により生じる正孔と反応し、ラジカルを生み、ラジカルが有機層を劣化させる。
【0008】
例えば、特許文献1のように、金属酸化物粒子を作製した後に、金属酸化物粒子を分散媒に分散し、金属酸化物薄膜を形成すると、金属酸化物粒子を作製した時点で金属酸化物粒子の表面にOH基が形成される。OH基は、水分子と吸着する。そのため、この金属酸化物粒子を用いて作製された金属酸化物薄膜は、水分子を含み、有機層を劣化させる。つまり、特許文献1に記載の金属酸化物薄膜では、有機層の劣化を十分防ぐことは難しい。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、有機層の分解を抑制できる金属酸化物薄膜の製造方法及び有機薄膜太陽電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0011】
(1)第1の態様にかかる金属酸化物薄膜の製造方法は、下地上に、酸化物の前駆体を含む前駆体溶液を塗布する塗布工程と、前記前駆体溶液を減圧雰囲気で80℃以上の温度で加熱する加熱工程と、を有する。
【0012】
(2)上記態様にかかる金属酸化物薄膜の製造方法において、前記加熱工程における真空度を5.0×10Pa以下としてもよい。
【0013】
(3)上記態様にかかる金属酸化物薄膜の製造方法において、前記酸化物が、酸化亜鉛である。
【0014】
(4)上記態様にかかる金属酸化物薄膜の製造方法において、前記前駆体溶液は、アセチルアセトン金属錯体と、2-メトキシエタノール又はイソプロピルアルコールと、を有し、前記前駆体溶液に、アセチルアセトンを添加してもよい。
【0015】
(5)第2の態様にかかる有機薄膜太陽電池の製造方法は、上記態様にかかる金属酸化物薄膜の製造方法を用いて金属酸化物薄膜を形成する工程と、前記金属酸化物薄膜上に、有機層を形成する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0016】
本実施形態に係る金属酸化物薄膜の製造方法及び有機薄膜太陽電池の製造方法は、有機層の分解を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態に係る金属酸化物薄膜の製造方法を説明するための模式図である。
図2】有機薄膜太陽電池の斜視図の一例である。
図3】金属酸化物薄膜のフーリエ変換赤外分光分析(FT-IR)結果を示す。
図4】比較例1に係る金属酸化物薄膜と、実施例1に係る金属酸化物薄膜と、実施例3に係る金属酸化物薄膜と、の水接触角測定結果を示す。
図5】実施例4及び比較例4の有機薄膜太陽電池の電子捕集層の光照射に対する抵抗値変化を示す。
図6】実施例4及び比較例4の有機薄膜太陽電池の発電層の光照射に対する抵抗値変化を示す。
図7】実施例4及び比較例4の有機薄膜太陽電池のPCEの変化を示す。
図8】実施例5の有機薄膜太陽電池の発電層の光照射に対するインピーダンス変化を示す。
図9】比較例5の有機薄膜太陽電池の発電層の光照射に対するインピーダンス変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本実施形態について詳細に説明する。以下の説明は本発明の一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0019】
「第1実施形態」
図1は、第1実施形態に係る金属酸化物薄膜の製造方法を説明するための模式図である。第1実施形態に係る金属酸化物薄膜の製造方法は、塗布工程S1と加熱工程S2とを有する。
【0020】
塗布工程S1では、下地10上に前駆体溶液20を塗布する。下地10は、特に問わない。下地10は、例えば、ガラス、フィルムである。下地10は、ガラス、フィルム等の基材の一面に導電層を形成したものでもよい。塗布工程S1の前に、UVオゾン洗浄を行ってもよい。製造設備を簡素にするためには、UVオゾン洗浄を行わないことが好ましい。
【0021】
前駆体溶液20は、例えば、アセチルアセトン金属錯体と、2-メトキシエタノール又はイソプロピルアルコールと、を有する。アセチルアセトン金属錯体は金属酸化物の前駆体であり、加熱工程S2での焼成により金属酸化物となる。例えば、金属酸化物が酸化亜鉛の場合、アセチルアセトン金属錯体は、以下の化学式で表されるアセチルアセトン亜鉛である。2-メトキシエタノール及びイソプロピルアルコールは、溶媒である。
【0022】
【化1】
【0023】
前駆体溶液20には、例えば、アセチルアセトンを添加してもよい。添加するアセチルアセトンは微量でよい。アセチルアセトンを添加することで、前駆体溶液中にアセチルアセトン金属錯体が均質に分散する。前駆体溶液中における前駆体の分散性が高いと、形成される金属酸化物が緻密になり、水分子がより吸着しにくくなる。
【0024】
下地10上への前駆体溶液20の塗布方法は特に問わない。例えば、スピンコート法、バーコート法等を前駆体溶液20の塗布方法として用いることができる。
【0025】
次いで、加熱工程S2を行う。加熱工程S2では、前駆体溶液20が塗布された下地10(以下、積層体と称する)を減圧雰囲気で加熱する。
【0026】
積層体の加熱は、例えば、密閉された焼成炉30内で行う。焼成炉30内は減圧雰囲気とする。焼成炉30内の真空度は、5.0×10Pa以下とすることが好ましい。すなわち、加熱工程S2における真空度は、5.0×10Pa以下が好ましい。
【0027】
加熱工程S2における焼成温度は、例えば、80℃以上であり、80℃以上250℃以下が好ましく、80℃以上150℃以下がより好ましく、80℃以上120℃以下がさらに好ましい。当該焼成温度は、一般に金属酸化物を作製する際の加熱温度(約200℃)より低く、低温で金属酸化物薄膜21を得られる。例えば、作製される金属酸化物薄膜21が酸化亜鉛の場合は、加熱工程S2における焼成温度は、80℃以上が好ましい。
【0028】
前駆体溶液20は、加熱工程S2を経て、金属酸化物薄膜21となる。金属酸化物薄膜21は、例えば、亜鉛、スズ、アルミニウム等の両性金属の酸化物である。金属酸化物薄膜21は、例えば、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化アルミニウム、酸化アルミニウム亜鉛(AZO)である。
【0029】
第1実施形態に係る金属酸化物薄膜の製造方法を経て作製された金属酸化物薄膜は、表面にOH基が少ない。すなわち、酸素及び水分の少ない減圧環境下で加熱を行うことで、表面が金属リッチな酸化膜が形成されたものと考えられる。大気中の水分子は、OH基を介して金属酸化物の表面に吸着する。表面にOH基が少ない金属酸化物薄膜は、吸着の担い手が少なく、水分子が吸着しにくい。
【0030】
「第2実施形態」
第2実施形態に係る有機薄膜太陽電池の製造方法は、第1実施形態に係る金属酸化物薄膜の製造方法を用いて金属酸化物薄膜を形成する工程と、金属酸化物薄膜上に有機層を形成する工程と、を有する。
【0031】
図2は、有機薄膜太陽電池の斜視図の一例である。有機薄膜太陽電池100は、例えば、基板1と第1電極2と有機活性層3と第2電極7と被覆層8とを備える。基板1上には、第1電極2、有機活性層3、第2電極7、被覆層8がこの順に積層されている。
【0032】
基板1は、構造物を支持するものであれば特に限定されない。基板1は、光透過性に優れていることが好ましい。基板1は、例えば、可視光の透過率が90%以上である。また基板1は、フレキシブルであることが好ましい。基板1は、例えば、ガラス、プラスティックフィルム等である。プラスティックフィルムを構成する樹脂として、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等を用いることができる。
【0033】
第1電極2は、例えば、透明電極である。第1電極2は、基板1上にある。第1電極2は、公知のものを適用できる。第1電極2は、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化アルミニウム亜鉛(AZO)、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン、グラフェン等である。第1実施形態に係る金属酸化物薄膜の製造方法を用いて第1電極2を作製する場合は、例えば、第1電極2を酸化アルミニウム亜鉛(AZO)、酸化亜鉛、酸化スズとすることが好ましい。
【0034】
有機活性層3は、有機半導体を含む層である。有機活性層3は、第1電極2と第2電極7とに挟まれる。有機活性層3は、例えば、電子捕集層4、発電層5、正孔捕集層6を有する。電子捕集層4と正孔捕集層6とは、発電層5を挟む。電子捕集層4は、例えば、発電層5の第1電極2側にある。正孔捕集層6は、例えば、発電層5の第2電極7側にある。電子捕集層4と正孔捕集層6との位置関係は、第1電極2と第2電極7とのエネルギー準位によって逆転してもよい。例えば、第2電極7が金の場合は、図1に示す関係を満たすが、第2電極7がアルミニウムの場合は、電子捕集層4と正孔捕集層6との位置関係は逆転する。電子捕集層4は電子輸送層、正孔捕集層6は正孔輸送層と呼ばれる場合もある。
【0035】
発電層5は、光を受けて発電する層である。発電層5は、ドナーとアクセプターとを含む。発電層5は、ドナーとアクセプターが混合された層(バルクヘテロ構造)でもよいし、ドナーの層とアクセプターの層とが積層されたもの(積層構造)でもよい。ドナーは光を吸収して励起する。励起した励起子は、ドナーとアクセプターの界面へ移動する。励起子がアクセプターに電子を受け渡すと、ドナーはカチオン(ホール)を生成し、アクセプターはアニオンを生成する。カチオンとアニオンとが異なる電極に向かって流れることで、外部回路に電流が流れる。
【0036】
ドナーは、例えば、p型有機半導体である。ドナーは、公知のものを用いることができる。ドナーは、例えば、共役系重合体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、トリアリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、オリゴチオフェン誘導体等である。例えば、ポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)(P3HT)は共役高分子であり、ドナーとして用いられる。
【0037】
アクセプターは、例えば、n型有機半導体である。アクセプターは、公知のものを用いることができ、非フラーレン系化合物でも、フラーレン系化合物でもよい。フラーレン系化合物のアクセプターは、例えば、[60]PCBM、bis-[60]PCBM、[70]PCBM、bis-[70]PCBM等である。この他、シリルメチル基を有するフラーレン誘導体(SIMEF)等もフラーレン系化合物のアクセプターの一例である。非フラーレン系化合物のアクセプターは、例えば、TTBT系化合物、ITIC系化合物、IDT系化合物、IDTT系化合物、TTCTT系化合物、PPhTQ、ローバンドギャップ材料(Y6、Y7等)等である。
【0038】
電子捕集層4は、発電層5で生じた電子を第1電極2に向かって効率的に輸送するために、電子を捕集する層である。電子捕集層4は、公知のものを用いることができる。電子捕集層4は、例えば、金属酸化物である。電子捕集層4に用いられる酸化物は、例えば、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化アルミニウムである。
【0039】
正孔捕集層6は、発電層5で生じた電子を第2電極7に向かって効率的に輸送するために、正孔を捕集する層である。正孔捕集層6は、公知のものを用いることができる。正孔捕集層6は、例えば、PEDOT:PSS(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)との複合物)である。
【0040】
第2電極7は、導電性を有する材料である。第2電極7は、有機活性層3上にある。第2電極7は、例えば、金、銀、アルミニウム等の金属、PEDOT:PSSのような有機導電性インクである。
【0041】
被覆層8は、第2電極7上にある。被覆層8は、有機活性層3への水分等の侵入を防ぐとともに、有機活性層3の汚染を防ぐ。被覆層8は、例えば、樹脂シートである。被覆層8は、例えば、フッ素樹脂又はポリエステル系樹脂(例えば、PET)である。
【0042】
第1実施形態に係る金属酸化物薄膜の製造方法は、第1電極2又は電子捕集層4を作製する際に適用できる。第1実施形態に係る金属酸化物薄膜の製造方法を用いて第1電極2を作製する場合は、電子捕集層4を有機層とする。第1実施形態に係る金属酸化物薄膜の製造方法を用いて電子捕集層4を作製する場合は、発電層5が有機層になる。
【0043】
第2実施形態に係る有機薄膜太陽電池の製造方法を用いて作製された有機薄膜太陽電池は、有機層が劣化しにくい。有機層は、励起光によって生じた正孔が水分子と反応することで生じるラジカルによって分解される。有機層と接する金属酸化物薄膜に吸着する水分子が少なければ、有機層の劣化を抑制できる。上述のように、第1実施形態に係る金属酸化物薄膜の製造方法を用いて作製された金属酸化物薄膜は水分子を吸着しにくく、当該金属酸化物薄膜を有する有機薄膜太陽電池は劣化しにくい。
【0044】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例0045】
アセチルアセトン亜鉛と2-メチルエタノールとにアセチルアセトンを添加したものを前駆体溶液として準備した。前駆体溶液は、0.035Mのアセチルアセトン亜鉛である。ITOが一面に形成されたガラスのITO面上に、スピンコートで当該前駆体溶液を塗布した。そして、当該前駆体溶液が塗布された基板を焼成して、金属酸化物薄膜として酸化亜鉛薄膜を得た。前駆体溶液を塗布前に、基板のUVオゾン洗浄処理は行わなかった。
【0046】
実施例1は、真空度が5.0×10Paの減圧下で、100℃、5分焼成して、金属酸化物薄膜を作製した。
実施例2は、真空度が5.0×10Paの減圧下で、100℃、60分焼成して、金属酸化物薄膜を作製した。
実施例3は、真空度が5.0×10Paの減圧下で、80℃、60分焼成して、金属酸化物薄膜を作製した。
比較例1は、大気圧下で60分焼成して、金属酸化物薄膜を作製した。
比較例2は、真空度が5.0×10Paの減圧下で、70℃、60分焼成して、金属酸化物薄膜を作製した。
比較例3は、真空度が5.0×10Paの減圧下で、50℃、60分焼成して、金属酸化物薄膜を作製した。
【0047】
図3は、金属酸化物薄膜のフーリエ変換赤外分光分析(FT-IR)結果を示す。図3は、実施例1~3、比較例1~3及び加熱処理を行っていない前駆体溶液膜(参考例1)のFT-IR結果を示す。
【0048】
比較例1及び実施例1~3は、500cm-1近傍にZn-O結合由来のピークが確認された。また比較例1及び実施例1~3は、1500cm-1近傍のC=O伸縮振動由来のピークが減少していた。すなわち、比較例1及び実施例1~3は、いずれも酸化亜鉛薄膜が得られていた。他方、比較例2及び比較例3は、参考例1と同様のグラフが得られ、酸化亜鉛薄膜が得られなかった。
【0049】
図4は、比較例1に係る金属酸化物薄膜と、実施例3に係る金属酸化物薄膜と、実施例1に係る金属酸化物薄膜と、の水接触角測定結果を示す。図4(a)は、比較例1に係る金属酸化物薄膜の水接触角を測定する際の測定画像であり、図4(b)は、実施例3に係る金属酸化物薄膜の水接触角を測定する際の測定画像であり、図4(c)は、実施例1に係る金属酸化物薄膜の水接触角を測定する際の測定画像である。水接触角は、湿度30%以下の大気中で1.5μLの液滴を基板に滴下し、滴下後30秒後に測定した。
【0050】
図4(a)に示すように、比較例1に係る金属酸化物薄膜の接触角は36°±5°であった。また図4(b)に示すように、実施例3に係る金属酸化物薄膜の接触角は74°±3°であった。また図4(c)に示すように、実施例1に係る金属酸化物薄膜の接触角は73°±2°であった。比較例1に係る金属酸化物薄膜は、表面に露出したOH基に水分子が吸着することで、親水性が高く、水接触角が小さかった。これに対し、実施例1及び実施例3に係る金属酸化物薄膜は、親水性が低く、撥水していた。
【0051】
このように、図3及び図4の結果から、本実施形態に係る金属酸化物薄膜の製造方法を用いて作製された金属酸化物薄膜は、水分子を吸着しにくいことが確認された。
【0052】
次いで、実施例1及び比較例1の基板を用いて図2に示す有機薄膜太陽電池を作製した。有機薄膜太陽電池の各層の構成は以下とした。
基板1:ガラス
第1電極2:ITO
電子捕集層4:酸化亜鉛
発電層5:P3HT:PCBM
正孔捕集層6:PEDOT:PSS
第2電極7:金
実施例1及び比較例1の加熱条件は、電子捕集層である酸化亜鉛の作製に適用した。実施例1の条件で電子捕集層を作製した有機薄膜太陽電池を実施例4の有機薄膜太陽電池と称し、比較例1の条件で電子捕集層を作製した有機薄膜太陽電池を比較例4の有機薄膜太陽電池と称する。
【0053】
図5は、実施例4及び比較例4の有機薄膜太陽電池の電子捕集層の光照射に対する抵抗値変化を示す。図6は、実施例4及び比較例4の有機薄膜太陽電池の発電層の光照射に対する抵抗値変化を示す。有機薄膜太陽電池に照射した光は、AM1.5全天放射スペクトル、100mWcm-2とした。抵抗値は、高周波インピーダンス測定で測定した。
【0054】
図5及び図6に示すように、電子捕集層及び発電層の抵抗率は、光の照射時間が長くなるにつれ、徐々に高くなる傾向があった。図5に示すように、電子捕集層の抵抗値の変化率は、実施例4と比較例4とで大きな差はなかった。他方、図6に示すように、発電層の抵抗値の変化率は、実施例4と比較例4とで差があった。比較例4の有機薄膜太陽電池の方が実施例4の有機薄膜太陽電池より抵抗値が早く大きくなった。これは、比較例4の有機薄膜太陽電池の発電層が、水分子により生じたラジカルによって劣化したためと思われる。
【0055】
図7は、実施例4及び比較例4の有機薄膜太陽電池に光を照射した際のエネルギー変換効率(PCE)の時間変化を示す。有機薄膜太陽電池に照射した光は、AM1.5全天放射スペクトル、100mWcm-2とした。
【0056】
PCEは、最大出力点における電流密度をJmax、電圧をVmaxとし、照射光のエネルギーをPincとした際に、次式から求められる。図7は、最大のPCEを1で規格化した値を示す。
PCE(%)=(Jmax×Vmax)/Pinc×100
【0057】
PCEは、有機薄膜太陽電池の電流-電圧曲線(J-V曲線)から求めた。電流-電圧曲線は、株式会社エーディーシー、4262multi-meterを用いて測定した。
【0058】
光照射後100時間経過した後のPCEの最大のPCEに対する比率をPCE保持率とする。実施例4のPCE保持率は94%で、比較例4のPCE保持率は74%であった。すなわち、実施例4の有機薄膜太陽電池は、比較例4の有機薄膜太陽電池より劣化しにくく、光耐久性が高かった。
【0059】
以下の表1に、実施例4及び比較例4の有機薄膜太陽電池の初期性能をまとめた。JSCは短絡電流密度、VOCは開放端電圧、FFは抵抗因子である。表1に示すように、実施例4と比較例2とで、PCE以外の初期性能に大きな差はなかった。
【0060】
【表1】
【0061】
次いで、実施例5として、実施例4の発電層5のアクセプタを以下のY6に変更した有機薄膜太陽電池を作製した。また比較例5として、比較例4の発電層5のアクセプタを以下のY6に変更した有機薄膜太陽電池を作製した。
【0062】
【化2】
【0063】
図8は、実施例5の有機薄膜太陽電池の発電層の光照射に対するインピーダンス変化を示す。図9は、比較例5の有機薄膜太陽電池の発電層の光照射に対するインピーダンス変化を示す。
【0064】
図8図9とを比較すると、図9に示す有機薄膜太陽電池は、光照射時間と共にインピーダンス変化のグラフの形状が変化している。すなわち、比較例5に示す有機薄膜太陽電池は、実施例5に示す有機薄膜太陽電池より劣化しやすいことが分かる。換言すると、実施例5の有機薄膜太陽電池は、比較例5の有機薄膜太陽電池より劣化しにくく、光耐久性が高い。
【符号の説明】
【0065】
1…基板、2…第1電極、3…有機活性層、4…電子捕集層、5…発電層、6…正孔捕集層、7…第2電極、8…被覆層、10…下地、20…前駆体溶液、21…金属酸化物薄膜、30…焼成炉、100…有機薄膜太陽電池、S1…塗布工程、S2…加熱工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9