(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038724
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】植物の環境ストレス耐性向上剤、植物の環境ストレス耐性を向上させる方法、及び低分子量キチンの植物の環境ストレス耐性を向上させるための使用
(51)【国際特許分類】
A01N 43/16 20060101AFI20240313BHJP
A01P 21/00 20060101ALI20240313BHJP
A01N 61/00 20060101ALI20240313BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20240313BHJP
A01G 7/06 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
A01N43/16 A
A01P21/00
A01N61/00 D
A01N25/00 102
A01G7/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142960
(22)【出願日】2022-09-08
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】390033145
【氏名又は名称】焼津水産化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】樋口 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】片山 星也
【テーマコード(参考)】
2B022
4H011
【Fターム(参考)】
2B022EA10
4H011AB03
4H011BB08
4H011BB19
4H011DD03
4H011DH10
(57)【要約】
【課題】植物の環境ストレス耐性向上剤、及び植物の環境ストレス耐性を向上させる方法を提供する。
【解決手段】植物の環境ストレス耐性向上剤が、キチンを加水分解して得られる数平均分子量2000~50000の低分子量キチンを有効成分とする。植物の環境ストレス耐性を向上させる方法が、この環境ストレス耐性向上剤を植物に付与する工程を含む。この環境ストレス耐性向上剤は、好ましくは、ウンシュウミカンの浮皮低減、ウンシュウミカンの収量増加、トマトの裂果低減、及びトマトの収量増加からなる群から選ばれる少なくとも1つのために使用される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キチンを加水分解して得られる数平均分子量2000~50000の低分子量キチンを有効成分とすることを特徴とする植物の環境ストレス耐性向上剤。
【請求項2】
環境ストレスが、温度ストレス、光ストレス、及び乾燥ストレスからなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載の環境ストレス耐性向上剤。
【請求項3】
ナス科ナス属、アブラナ科シロイヌナズナ属、及びミカン科ミカン属からなる群から選ばれる少なくとも1つの植物に用いられることを特徴とする、請求項2に記載された植物の環境ストレス耐性向上剤。
【請求項4】
トマト、イロイヌナズナ、及びウンシュウミカンからなる群から選ばれる少なくとも1つに用いられることを特徴とする、請求項3に記載された植物の環境ストレス耐性向上剤。
【請求項5】
葉面散布により施与されることを特徴とする、請求項1に記載された植物の環境ストレス耐性向上剤。
【請求項6】
ウンシュウミカンの浮皮低減、ウンシュウミカンの収量増加、トマトの裂果低減、及びトマトの収量増加からなる群から選ばれる少なくとも1つのために使用されることを特徴とする、請求項1に記載された植物の環境ストレス耐性向上剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載された環境ストレス耐性向上剤を植物に付与する工程を含む、植物の環境ストレス耐性を向上させる方法。
【請求項8】
キチンを酸加水分解して得られる数平均分子量2000~50000の低分子量キチンの、植物の環境ストレス耐性を向上させるための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の環境ストレス耐性向上剤、植物の環境ストレス耐性を向上させる方法、及び低分子量キチンの植物の環境ストレス耐性を向上させるための使用に関する。
【背景技術】
【0002】
キチンは、カニ等の甲殻類、昆虫の外骨格(殻)、及び真菌の細胞壁の主成分であり、自然界の多くの生物に含まれる含窒素多糖高分子である。キチンは、強固な水素結合を有するから、不溶不融という特徴を持ち、キチンの加工に関する技術的難易度は極めて高く、セルロースに次いで地球上に多く存在するバイオマスであるにもかかわらず、その多くは利用されていない。
【0003】
出願人は、キチンの高度な加工技術を有しており、キチンをキチンオリゴ糖とは異なる適度な分子量に加工した低分子量キチンとその利用方法を開発した。特許文献1には、低分子量キチンを土壌に添加する土壌中のフザリウム菌低減方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
植物は、細菌、ウィルス等の微生物による生物的ストレス以外に、高温、低温、光、乾燥等の非生物的な環境ストレスに晒され、その生育が阻害されるという問題がある。
【0006】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、植物の環境ストレス耐性向上剤、及び植物の環境ストレス耐性を向上させる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題に鑑み検討を重ね、低分子量キチンを有効成分とする剤が、植物の環境ストレス耐性向上剤として機能することを見出した。本発明はこの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0008】
本発明は、キチンを加水分解して得られる数平均分子量2000~50000の低分子量キチンを有効成分とする植物の環境ストレス耐性向上剤に関する。
前記環境ストレスは、好ましくは、温度ストレス、光ストレス、及び乾燥ストレスからなる群から選択される少なくとも1つを含む。
本発明の植物の環境ストレス耐性向上剤は、好ましくは、ナス科ナス属、アブラナ科シロイヌナズナ属、及びミカン科ミカン属からなる群から選ばれる少なくとも1つの植物に用いられ、より好ましくは、トマト、イロイヌナズナ、及びウンシュウミカンからなる群から選ばれる少なくとも1つに用いられる。
本発明の植物の環境ストレス耐性向上剤は、好ましくは、葉面散布により施与される。
本発明の植物の環境ストレス耐性向上剤は、好ましくは、ウンシュウミカンの浮皮低減、ウンシュウミカンの収量増加、トマトの裂果低減、及びトマトの収量増加からなる群から選ばれる少なくとも1つのために使用される。
【0009】
また本発明は、前記環境ストレス耐性向上剤を植物に付与する工程を含む、植物の環境ストレス耐性を向上させる方法に関する。
【0010】
さらに本発明は、キチンを酸加水分解して得られる数平均分子量2000~50000の低分子量キチンの、植物の環境ストレス耐性を向上させるための使用に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の植物の環境ストレス耐性向上剤は、植物の環境ストレス耐性を向上させ、植物が環境ストレスに起因する生育阻害を受けにくくする剤を提供できる。本発明の植物の環境ストレス耐性を向上させる方法は、植物の環境ストレス耐性を向上させ、植物が環境ストレスに起因する生育阻害を受けにくくする方法を提供できる。さらに本発明の低分子量キチンの植物の環境ストレス耐性を向上させるための使用は、植物の環境ストレス耐性を向上させ、植物が環境ストレスに起因する生育阻害を受けにくくするための低分子量キチンの使用を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】シロイヌナズナをLMC分散液に浸漬した際のジャスモン酸のシグナル伝達経路活性化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明について更に詳細に説明する。
なお、数値範囲の「~」は、断りがなければ、以上から以下を表し、両端の数値をいずれも含む。また、数値範囲を示したときは、上限値および下限値を適宜組み合わせることができ、それにより得られた数値範囲も開示したものとする。
【0014】
本発明の植物の環境ストレス耐性向上剤は、低分子量キチンを有効成分とする。
<環境ストレス>
本発明において、環境ストレスは、外部から受ける、高温、低温、光、乾燥、降雨、強風等の非生物的な、植物の生育を阻害するストレスを意味する。前記環境ストレスは、好ましくは温度ストレス、光ストレス、及び乾燥ストレスからなる群から選択される少なくとも1つを含む。
なお、本発明において、植物の環境ストレス耐性が向上することは、植物から収穫される可食部の収量が増加するように植物の生長が調節されることではない。
【0015】
<低分子量キチン>
前記低分子量キチン(LMC)は、カニ、エビ等の甲殻類の殻等から常法によって調製されるキチンを、酸又は酵素で部分加水分解することによって得られる。低分子量キチンの数平均分子量は、2,000~50,000であることが好ましく、2,500~20,000であることがより好ましい。なお、上記数平均分子量は、例えばプルランを標準物質としたサイズ排除クロマトグラフィーなどの方法によって測定することができる。
【0016】
前記低分子量キチンは、例えば、以下のようにして調製することができる。すなわち、原料キチンを3~8倍量程度の濃塩酸に分散させ、40℃で10~20分間分解を行う。濃塩酸と等量の水を加えて反応停止し、アルカリで中和した後、濾過して残渣を回収し、必要に応じて賦形剤を適宜添加し乾燥することにより、低分子量キチンを得ることができる。また、低分子量キチンを主成分として含むキチン分解物は市販されており、例えば、商品名「低分子キチンFO」、「LMC-3」(いずれも焼津水産化学工業株式会社製)等をそのまま用いることができる。
【0017】
本発明の植物の環境ストレス耐性向上剤は、前記分子量の低分子量キチンのみで構成してもよく、前記分子量の低分子量キチン以外の他の成分を含んでいてもよい。例えば、他の成分として、シリカ、ケイ藻土、タルク、炭酸カルシウム、ゼオライトなどの固形肥料、尿素、硫安、塩安、燐安、塩加里などの水可溶性肥料、カルシウム、亜鉛、鉄、硼酸、銅、マンガン、ビタミンCなどの微量栄養素、バリン、グルタミン酸、アスパラギン酸、リジン、アラニン、シスチン、グリシン、イソロイシンなどのアミノ酸、プロリン、アデニンなどの核酸などを含むことができる。また、必要に応じて、沈殿防止剤、展着剤、防腐剤、増粘剤、賦形剤などを含むこともできる。本発明の植物の環境ストレス耐性向上剤は、これらの他の成分の1種又は2種以上を含んでいてよい。植物の環境ストレス耐性向上剤中の低分子量キチンの含有量は、低分子量キチンを固形分換算で1~100質量%含むことが好ましく、10~80質量%含むことがより好ましい。また、本発明の植物の環境ストレス耐性向上剤の形態は、粉状、顆粒状、液状、粉状物を水等の溶媒に分散させた分散液状体のいずれの形態であってもよい。低分子量キチンを水等の溶媒に分散させる場合、低分子量キチンの濃度は、植物の種類、施用方法、施用時期等により異なり一概に規定することはできない。例えば、トマトに葉面散布する場合、低分子量キチンの濃度は、好ましくは30~200ppmであり、より好ましくは50~160ppmである。シロイヌナズナに葉面散布する場合、低分子量キチンの濃度は、好ましくは1~10mg/Lであり、より好ましくは3~7mg/Lである。ウンシュウミカンに葉面散布する場合、低分子量キチンの濃度は、好ましくは100~300ppmであり、より好ましくは100~200ppmである。
【0018】
植物への施与方法は、特に制限はなく、植物が生育する土壌又は培土への混合又は散布、植物の株元への灌注、注水又は散布、若しくは植物の茎葉への噴霧又は散布で行うことができる。灌注又は注水の手段としては、ジョロ、散水ノズル、灌水チューブ、スプリンクラー、灌注機などを用いることができる。噴霧又は散布の手段としては、動力噴霧器、肩掛け噴霧器、ブロードキャスター、スプレイヤー、有人または無人ヘリコプター、煙霧器、ハンドスプレーなどを用いることができる。本発明の植物の環境ストレス耐性向上剤は、好ましくは葉面散布により施与される。
【0019】
植物への施与量としては、植物の種類、施用方法、施用時期等により異なり一概に規定することはできないが、例えば、植物が生育する土壌又は培土へ混合又は散布をする場合には、1平方メートルあたり、前記分子量の低分子量キチン換算で好ましくは8~200g、より好ましくは10~160g、更に好ましくは20~80gが目安である。また、例えば、植物の株元へ灌注、注水又は散布をする場合には、植物が生育する土壌等の面積1平方メートルにつき1回あたり、前記分子量の低分子量キチン換算で好ましくは0.1~10g、より好ましくは0.2~8g、更に好ましくは1.5~6gが目安である。また、例えば、育苗、コマツナ、シュンギクのような小サイズの植物の茎葉へ噴霧又は散布をする場合には、植物が生育する土壌等の面積1平方メートルにつき1回あたり、上記分子量の低分子量キチン換算で好ましくは0.05~100mg、より好ましくは0.2~80mg、更に好ましくは1~10mgが目安である。また、例えば、トマトのような中~大サイズの植物の茎葉へ噴霧又は散布をする場合には、植物が生育する土壌等の面積1平方メートルにつき1回あたり、前記分子量の低分子量キチン換算で好ましくは5~300mg、より好ましくは10~200mg、更に好ましくは40~100mgが目安である。
【0020】
施与回数及び施与時期は、植物に合わせて適宜決定される。例えば、本発明の植物の環境ストレス耐性向上剤がトマト又はコマツナに施与される場合、好ましくは7~14日毎に一回、施与されればよい。また、育苗期、本圃どちらの生育ステージでも、本発明の植物の環境ストレス耐性向上剤は、同様な方法により施与されてよい。
【0021】
本発明の植物の環境ストレス耐性向上剤が適用される植物の種属に制限はない。前記植物として、典型的には、ナス科、アブラナ科、ミカン科、キク科、バラ科、ウリ科、イネ科、ヒガンバナ科、セリ科、ショウガ科、マメ科の植物などが挙げられる。より具体的には、例えば、トマト、ナス、ジャガイモなどのナス科ナス属の植物、ケール、カリフラワー、キャベツ、ブロッコリー、アブラナ、ミズナ、カブ、ノザワナ、コマツナ、ハクサイ、チンゲンサイなどのアブラナ科アブラナ属の植物、ウンシュウミカンなどのミカン科ミカン属の植物、ダイコン、ハツカダイコンなどのアブラナ科ダイコン属の植物、シュンギクなどのキク科シュンギク属の植物、イチゴなどのバラ科オランダイチゴ属、メロン、キュウリ、スイカなどのウリ科キュウリ属、イネなどのイネ科イネ属、ネギ、タマネギ、ニラ、ワケギ、ニンニク、ラッキョウなどのヒガンバナ科ネギ属、ニンジンなどのセリ科ニンジン属、ショウガ、ミョウガなどのショウガ科ショウガ属、エンドウマメ、豆苗、ソラマメ、枝豆などのマメ科エンドウ属などが挙げられる。本発明の植物の環境ストレス耐性向上剤は、好ましくは、ナス科ナス属、アブラナ科シロイヌナズナ属、及びミカン科ミカン属からなる群から選ばれる少なくとも1つの植物に、より好ましくは、トマト、イロイヌナズナ、及びウンシュウミカンからなる群から選ばれる少なくとも1つに用いられる。
【0022】
本発明の植物の環境ストレス耐性向上剤は、これを植物に施与することにより、植物の環境ストレスに対する耐性を向上させ、植物の生育が阻害されにくくできる。具体的には、本発明の植物の環境ストレス耐性向上剤は、環境ストレスに晒されているトマトの収量を増加させ、その裂果を低減できる。さらに本発明の植物の環境ストレス耐性向上剤は、環境ストレスに晒されているウンシュウミカンの収量を増加させ、その浮皮を低減できる。
【実施例0023】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
各試験例において、低分子量キチン(LMC)として焼津水産化学工業株式会社製LMC-3(数平均分子量3000)又はLMC100%粉末(焼津水産化学工業株式会社製)が使用された。
【0025】
<試験例1>(トマトの環境ストレス耐性の向上)
タキイ種苗株式会社製のトマトの種「桃太郎ヨーク」(商品名、以下「ヨーク」と称する)、株式会社サカタ製のトマトのタネ「りんか409」(商品名、以下「りんか」と称する)を、それぞれ育苗トレイ(30×60cm)中の培土(日本肥糧株式会社製ニッピ園芸培土1号)に播種した。前記播種から13日後、各苗をビニルポット3.5号に鉢上げし、翌日、ヨーク、りんかそれぞれ9株ずつ2セット用意し、1つのセットには、水で250倍に希釈したLMC-3希釈液(LMC含有量120ppm)1000mLを、もう1つのセットには、水で500倍に希釈したLMC-3希釈液(LMC含有量60ppm)1000mLを、ZenCT電動霧吹きでそれぞれ葉面散布した。初回のLMC散布以降、2週間に1度の頻度で初回と同濃度のLMC散布を継続した。さらに各株から脇芽を除去し、適宜潅水を続けた。前記播種から41日後、各株を素焼き鉢5号に鉢広げした。前記播種から54日後、各株が開花した。開花後、石原バイオサイエンス株式会社製トマトトーンによる着果促進処理を実施し、前記播種から62日後、1鉢の各株を、40℃(6:00~18:00)、30℃(18:00~翌日6:00)、湿度60%、日照条件明12h/暗12h、40℃の時間帯に明時間が経過する条件に設定した人工気象器(株式会社日本以下器械製作所製LPH-411 PFDT-SP)に移設した。移設時の各株の1段目には果実が着果かつ肥大しており、2段目は開花していた。前記移設後、LMC散布を前記と同様に継続した。さらに第2果房より上位3葉を残して摘心を実施し、脇芽の除去を適宜実施した。
【0026】
前記播種から98日経過後、2~3日毎に各株を、スマートフォン接続型カメラ(FLIR ONE PRO for iOS)をiPhone(登録商標) Xs(ver. 15.1)に接続して撮影し、果実の表面温度を測定した。撮影時、人工気象器を開放し、約3秒間のインターバルを設けて撮影を開始した。その撮影画像から葉面温度を測定した(測定精度±3℃)。
【0027】
前記播種から98日経過後、各株の葉の表面温度(葉面温度)は人工気象器内の温度より低く、25~28℃であった。前記播種から112日経過後、LMCを散布しなかった対照区の株の葉面温度は28~35℃に上昇した。一方、500倍に希釈したLMC希釈液を散布し続けたヨーク及びりんかの試験区(500倍区)、及び250倍に希釈したLMC希釈液を散布し続けたヨーク及びりんかの試験区(250倍区)の株の葉面温度は25~28℃に保たれていた。特にヨーク及びりんかの500倍区の株に関し、葉面温度だけでなく、人工気象器内の株周辺の温度も他の2区のものより低かった。
【0028】
前記播種から166日経過後、栽培を終了し、各鉢の果実の質量の合計、果実の数、果実の裂果程度、果実を除く株の地上部質量、及び株元直径を測定した。結果を表1に示す。栽培終了時、対照区の株は乾燥して枯死していた一方、500倍区及び250倍区の株の茎は緑色で、その葉の一部も緑色を残していた。
【0029】
【0030】
高温多湿環境下のトマトへのLMCの葉面散布により、トマトの成長は阻害されず、トマト果実の収量は増加し、その裂果が低減されることが確認された。
【0031】
<試験例2>(シロイヌナズナの環境ストレス耐性の向上)
96穴マイクロプレートに、防御応答に働く植物ホルモンであるジャスモン酸のシグナル伝達経路マーカー遺伝子VSP1を発現すると発光を呈するよう形質転換されたシロイヌナズナ種子を播種し、培養液90μL/穴で22℃連続明条件下において培養した。種子発芽後に50mg/mLに調整したLMC100%粉末(試作品)の滅菌水分散液を10μL/穴添加し、LMCの最終濃度を5mg/mL/穴にした。LMC分散液添加の後、穴ごとの発光量を遺伝子発現誘導活性として,高感度カメラにより各タイムポイントにおいて経時的にモニタリングした。結果を
図1に示す。
【0032】
LMC分散液の添加の後、120時間(5日間)経過後、ジャスモン酸誘導の活性化が確認された。
【0033】
<試験例3>(ウンシュウミカンの環境ストレス耐性の向上1)
水で200倍に希釈したLMC-3希釈液(LMC含有量150ppm)を、7L/樹となるように25年生青島温州6樹に株式会社丸山製作所製充電式動力噴霧器(霧大将)で葉面散布した。前記葉面散布から34日後、64日後、94日後に同様に葉面散布を実施した。第1回目の葉面散布から137日経過後、1樹当たり20果を収穫し、浮皮空間率、浮皮度、及び浮皮指数を算出した。結果を表2に示す。
【0034】
浮皮空間率は下記式(1)により算出された。
浮皮空間率=(剥皮後の皮の水中重-剥皮前の果実全体の水中重)/[剥皮後の果肉重-(剥皮前の果実全体の水中重-風袋)]×100・・・(1)
【0035】
果実を剥皮し、目視により下記基準に従って浮皮度を評価し、平均点を算出した。
-浮皮度の評価基準-
0点:浮皮がない。
1点:僅かな浮皮が存在する。
2点:浮皮が存在する。
3点:甚大な浮皮が存在する。
【0036】
浮皮指数は下記式(2)により算出された。
浮皮指数=[(1×1点の果数)+(2×2点の果数)+(3×3点の果数)]/(3×総調査果数)]×100・・・(2)
【0037】
【0038】
LMCを葉面散布したウンシュウミカン及びLMCを含む液肥を施肥したウンシュウミカンの浮皮の程度は、LMCを施肥しなかった対照区のウンシュウミカンの浮皮の程度より小さく、LMCの施肥によるウンシュウミカンの浮皮低減効果が確認された。
【0039】
<試験例4>(ウンシュウミカンの環境ストレス耐性の向上2)
水で125倍に希釈したLMC-3希釈液(LMC含有量240ppm)を、7L/樹となるように22年生青島温州3樹に株式会社丸山製作所製充電式動力噴霧器(霧大将)で葉面散布した。前記葉面散布から30日後、58日後、90日後、124日後に同様に葉面散布を実施した。第1回目の葉面散布から168日経過後、前記3樹から全ての果実を収穫した。結果を表3に示す。
【0040】
【0041】
表3における商品価値の有無は、柑橘共選場の光センサー選果機による外観、糖度、酸度、大きさによる判別に加え、専門パネルにより、色沢、形状、浮皮、病害、外傷等に基づき、目視で判断された。
LMCの葉面散布により、ウンシュウミカンの収量が増加すること、特に商品価値を有するウンシュウミカンの収量が増加することが確認された。