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<図1>
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038730
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】バッテリ管理装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20240313BHJP
   G01R 31/392 20190101ALI20240313BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20240313BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240313BHJP
   B60L 58/16 20190101ALI20240313BHJP
   B60L 58/25 20190101ALI20240313BHJP
   G01R 31/388 20190101ALI20240313BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
H02J7/00 Y
G01R31/392
G01R31/389
H01M10/48 P
H01M10/48 301
B60L58/16
B60L58/25
G01R31/388
H02J7/00 302A
H01M10/44 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142967
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若林 謙太
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
5H125
【Fターム(参考)】
2G216AB01
2G216BA03
2G216BA23
2G216BA33
2G216BA52
2G216BA72
5G503AA01
5G503BA01
5G503BB01
5G503CA08
5G503CA10
5G503CB11
5G503GD06
5H030AA10
5H030AS08
5H030FF22
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
5H125AA01
5H125AC12
5H125BC06
5H125BC09
5H125BC19
5H125EE22
5H125EE23
5H125EE24
5H125EE25
5H125EE27
5H125EE29
5H125EE53
(57)【要約】
【課題】バッテリから出力される電力を適切に管理する。
【解決手段】バッテリ管理装置1は、バッテリ10と、記憶装置22と、制御装置24と、を備え、前記制御装置24は、1つまたは複数のプロセッサ40と、前記プロセッサ40に接続される1つまたは複数のメモリ42と、を有し、前記記憶装置22には、複数の前記劣化度の各々に対応する複数の前記出力マップ30が予め記憶されており、前記プロセッサ40は、前記バッテリ10の内部抵抗の推定値である推定抵抗値を導出することと、前記推定抵抗値に基づいて、前記推定抵抗値の導出時点における前記劣化度を導出することと、複数の前記出力マップ30のうち、導出した前記劣化度に対応する前記出力マップ30を決定することと、決定した前記出力マップ30に基づいて、前記バッテリ10から出力される電力を制御することと、を含む処理を実行する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリと、
記憶装置と、
制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
1つまたは複数のプロセッサと、
前記プロセッサに接続される1つまたは複数のメモリと、
を有し、
前記バッテリのSOCおよび前記バッテリの温度に、前記バッテリから出力可能な電力の最大値が関連付けられたマップが、出力マップであり、
前記バッテリの劣化の程度を示す指標が、劣化度であり、
前記記憶装置には、複数の前記劣化度の各々に対応する複数の前記出力マップが予め記憶されており、
前記プロセッサは、
前記バッテリの内部抵抗の推定値である推定抵抗値を導出することと、
前記推定抵抗値に基づいて、前記推定抵抗値の導出時点における前記劣化度を導出することと、
複数の前記出力マップのうち、導出した前記劣化度に対応する前記出力マップを決定することと、
決定した前記出力マップに基づいて、前記バッテリから出力される電力を制御することと、
を含む処理を実行する、バッテリ管理装置。
【請求項2】
前記プロセッサは、
前記推定抵抗値を導出する処理では、
前記バッテリの発熱量と前記バッテリの放熱量とが等しくなるように、前記バッテリから出力する電力の時間推移を示す放電パターンを設定することと、
前記放電パターンに従って前記バッテリから電力を出力させ、前記バッテリの電流および電圧の測定値を取得することと、
前記放電パターンに応じて取得した電流および電圧の測定値に基づいて、前記推定抵抗値を導出することと、
を含む処理を実行する、請求項1に記載のバッテリ管理装置。
【請求項3】
前記プロセッサは、
前記バッテリの通電中の電流および電圧の測定値に基づいて、前記バッテリから実際に出力されている電力である実電力を導出することと、
現在決定されている前記出力マップに基づいて、前記バッテリから出力可能な電力の最大値の推定値である最大推定電力を導出することと、
前記最大推定電力に対する前記実電力の乖離の程度を示す第1乖離率を導出することと、
前記第1乖離率に基づいて、前記推定抵抗値の導出を行うか否かを決定することと、
を含む処理を実行する、請求項1または2に記載のバッテリ管理装置。
【請求項4】
前記プロセッサは、
現在決定されている前記出力マップに基づいて、前記バッテリから出力可能な電力の最大値の推定値である最大推定電力を導出することと、
前記バッテリ管理装置が適用された車両において所定の加速に必要な電力が所要電力であり、前記最大推定電力に対する前記所要電力の乖離の程度を示す第2乖離率を導出することと、
前記第2乖離率に基づいて、前記推定抵抗値の導出を行うか否かを決定することと、
を含む処理を実行する、請求項1または2に記載のバッテリ管理装置。
【請求項5】
前記プロセッサは、
前記推定抵抗値に基づいて導出した前記劣化度と、前記劣化度を導出する直前に決定されていた前記劣化度とを、所定の比率で合成することで、前記推定抵抗値に基づいて導出した前記劣化度を補正することと、
複数の前記出力マップのうち、補正した前記劣化度に対応する前記出力マップを決定することと、
を含む処理を実行する、請求項1または2に記載のバッテリ管理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリ管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、バッテリの劣化度合いを示す劣化度を推定する技術が開示されている。かかる特許文献1では、新品時におけるバッテリの内部抵抗の値に対する、現在におけるバッテリの内部抵抗の推定値の比率が、劣化度として算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-103471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、バッテリの温度等が変化すると、バッテリから出力可能な電力が変化する。バッテリから出力可能な電力は、バッテリの劣化が進行することによっても変化する。そこで、バッテリの劣化を踏まえて、バッテリから出力可能な電力を管理することが望まれている。
【0005】
そこで、本発明は、バッテリから出力される電力を適切に管理することが可能なバッテリ管理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一実施形態に係るバッテリ管理装置は、
バッテリと、
記憶装置と、
制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
1つまたは複数のプロセッサと、
前記プロセッサに接続される1つまたは複数のメモリと、
を有し、
前記バッテリのSOCおよび前記バッテリの温度に、前記バッテリから出力可能な電力の最大値が関連付けられたマップが、出力マップであり、
前記バッテリの劣化の程度を示す指標が、劣化度であり、
前記記憶装置には、複数の前記劣化度の各々に対応する複数の前記出力マップが予め記憶されており、
前記プロセッサは、
前記バッテリの内部抵抗の推定値である推定抵抗値を導出することと、
前記推定抵抗値に基づいて、前記推定抵抗値の導出時点における前記劣化度を導出することと、
複数の前記出力マップのうち、導出した前記劣化度に対応する前記出力マップを決定することと、
決定した前記出力マップに基づいて、前記バッテリから出力される電力を制御することと、
を含む処理を実行する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、バッテリから出力される電力を適切に管理することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本実施形態にかかるバッテリ管理装置の構成を示す概略図である。
図2図2は、記憶装置に記憶されている複数の出力マップの一例を示す図である。
図3図3は、第1常時制御部の動作の流れを説明するフローチャートである。
図4図4は、第1常時制御部による推定抵抗値の導出方法を説明する図である。
図5図5は、第2常時制御部の動作の流れを説明するフローチャートである。
図6図6は、第2常時制御部における実電力の補正について説明する図である。
図7図7は、起動時制御部の動作の流れを説明するフローチャートである。
図8図8は、推定抵抗値導出処理の流れを説明するフローチャートである。
図9図9は、放電パターンの一例を示す図である。
図10図10は、推定抵抗値導出処理における推定抵抗値の導出方法を説明する図である。
図11図11は、温度調整処理の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す具体的な寸法、材料、数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0010】
図1は、本実施形態にかかるバッテリ管理装置1の構成を示す概略図である。バッテリ管理装置1は、例えば、車両2に適用される。車両2は、例えば、駆動源としてモータジェネレータを備える電気自動車である。なお、車両2は、駆動源としてモータジェネレータとエンジンとを備えるハイブリッド電気自動車であってもよい。
【0011】
バッテリ管理装置1は、バッテリ10、温度調整装置12、電流センサ14、電圧センサ16、バッテリ温度センサ18、外気温度センサ20、記憶装置22および制御装置24を備える。
【0012】
バッテリ10は、例えば、リチウムイオンバッテリなどであり、放電および充電が可能な2次電池である。バッテリ10は、駆動源であるモータジェネレータや温度調整装置12など、車両2に搭載される各種の装置に電力を供給することができる。
【0013】
温度調整装置12は、加熱装置および冷却装置を含む。温度調整装置12は、例えば、バッテリ10の温度が比較的低い場合、バッテリ10を加熱してバッテリ10の温度を上昇させることができる。また、温度調整装置12は、バッテリ10の温度が比較的高い場合、バッテリ10を冷却してバッテリ10の温度を低下させることができる。以後、バッテリ10の温度を、バッテリ温度という場合がある。
【0014】
電流センサ14は、バッテリ10の電流を検出する。電圧センサ16は、バッテリ10の電圧を検出する。バッテリ温度センサ18は、バッテリ温度を検出する。外気温度センサ20は、車両2の外側の空気の温度、すなわち、外気の温度を検出する。
【0015】
記憶装置22は、不揮発性の記憶素子で構成される。なお、不揮発性の記憶素子は、フラッシュメモリなどの電気的に読み書き可能な不揮発性の記憶素子などを含んでもよい。記憶装置22には、複数の出力マップ30および複数の入力マップ32が予め記憶されている。
【0016】
図2は、記憶装置22に記憶されている複数の出力マップ30の一例を示す図である。図2で示すように、出力マップ30は、バッテリ10の複数のSOC(State Of Charge)および複数のバッテリ温度それぞれに、バッテリ10から出力可能な電力の最大値が関連付けられたマップである。なお、SOCは、バッテリ10の満充電容量に対する現在の充電容量を百分率で表した充電率を示す。
【0017】
ここで、バッテリ10の劣化の程度を示す指標を、バッテリ10の劣化度と呼ぶこととする。初期のバッテリ10の劣化度は「1.0」である。劣化度は、バッテリ10の劣化が進行するに従って大きな値となる。例えば、劣化度「1.1」は、劣化度「1.0」より劣化が進行していることを示し、劣化度「1.2」は、劣化度「1.1」より劣化が進行していることを示す。
【0018】
図2で示すように、出力マップ30は、バッテリ10の劣化度ごとに設けられる。つまり、記憶装置22には、複数の劣化度の各々に対応する複数の出力マップ30が予め記憶されている。
【0019】
図示を省略するが、入力マップ32は、バッテリ10のSOCおよびバッテリ温度に、バッテリ10に入力可能な電力の最大値、すなわち、充電可能な電力の最大値が関連付けられたマップである。入力マップ32は、出力マップ30と同様に、バッテリ10の劣化度ごとに設けられる。つまり、記憶装置22には、複数の劣化度の各々に対応する複数の入力マップ32が予め記憶されている。
【0020】
図1に戻り、制御装置24は、1つまたは複数のプロセッサ40と、プロセッサ40に接続される1つまたは複数のメモリ42とを備える。メモリ42は、プログラム等が格納されたROMおよびワークエリアとしてのRAMを含む。プロセッサ40は、メモリ42に含まれるプログラムと協働して、バッテリ管理装置1の各制御を実現する。また、プロセッサ40は、プログラムを実行することで、第1常時制御部50、電力制御部52、第2常時制御部54および起動時制御部56としても機能する。
【0021】
第1常時制御部50、バッテリ10の通電中に、バッテリ10の内部抵抗の推定値である推定抵抗値を導出する。なお、バッテリ10の通電中は、バッテリ10から外部に電力を出力している、または、外部からバッテリ10に電力が入力されているときを示す。第1常時制御部50は、導出した推定抵抗値に基づいて、推定抵抗値の導出時点におけるバッテリ10の劣化度を導出する。
【0022】
第1常時制御部50は、記憶装置22に記憶されている複数の出力マップ30のうち、導出した劣化度に対応する出力マップ30を決定する。
【0023】
電力制御部52は、決定した出力マップ30に基づいて、バッテリ10から出力される電力を制御する。
【0024】
なお、第1常時制御部50は、使用する出力マップ30の決定と並行して、記憶装置22に記憶されている複数の入力マップ32のうち、導出した劣化度に対応する入力マップ32を決定してもよい。電力制御部52は、決定した入力マップ32に基づいて、バッテリ10に入力される電力を制御してもよい。
【0025】
図3は、第1常時制御部50の動作の流れを説明するフローチャートである。第1常時制御部50は、所定の第1周期で訪れる所定の割込みタイミングが到来するごとに、図3の一連の処理を繰り返し実行する。所定の第1周期は、例えば、100msなどに設定されるが、この例に限らず、任意の時間に設定されてもよい。
【0026】
所定の割込みタイミングが到来すると、第1常時制御部50は、バッテリ10が通電中であるかを判定する(S10)。バッテリ10が通電中ではない場合(S10におけるNO)、今回の一連の処理を終了する。
【0027】
バッテリ10が通電中である場合(S10におけるYES)、第1常時制御部50は、電流センサ14により検出された電流を取得する(S11)。第1常時制御部50は、電圧センサ16により検出された電圧を取得する(S12)。第1常時制御部50は、取得した電流および電圧を記憶装置22に記憶させる(S13)。第1常時制御部50は、電流および電圧の取得回数kを1だけインクリメントする(S14)。
【0028】
次に、第1常時制御部50は、取得回数kが所定回数以上であるか否かを判定する(S15)。所定回数は、例えば、300回などに設定されるが、この例に限らず、任意の回数に設定されてもよい。
【0029】
取得回数kが所定回数未満である場合(S15におけるNO)、第1常時制御部50は、一連の処理を終了する。すなわち、第1常時制御部50は、所定回数分の電流および電圧を記憶装置22に蓄積させる。
【0030】
取得回数kが所定回数以上である場合(S15におけるYES)、所定回数分の電流および電圧が蓄積されたため、第1常時制御部50は、所定回数分の電流および電圧に基づいて推定抵抗値を導出する(S16)。
【0031】
図4は、第1常時制御部50による推定抵抗値の導出方法を説明する図である。図4において、横軸は電流を示し、縦軸は電圧を示す。図4における黒丸印A1は、取得回数kが所定回数に至るまでに取得された電流および電圧の関係を示すプロットである。電流および電圧のプロットを示す黒丸印A1は、実際には、所定回数分だけ存在することになるが、図4では、図の簡略化のために、黒丸印A1の表示数を少なくしている。
【0032】
第1常時制御部50は、複数の電流および電圧に最小二乗法を適用し、図4の破線A2で示す回帰直線を導出する。第1常時制御部50は、導出した回帰直線の傾きを導出し、当該傾きを推定抵抗値とする。
【0033】
図3に戻り、推定抵抗値の導出後、第1常時制御部50は、導出した推定抵抗値に基づいて、バッテリ10の劣化度を導出する(S17)。例えば、記憶装置22には、初期のバッテリ10の抵抗値である基準抵抗値が予め記憶されている。第1常時制御部50は、導出した推定抵抗値を基準抵抗値で除算することで劣化度を導出する(劣化度=推定抵抗値/基準抵抗値)。
【0034】
次に、第1常時制御部50は、導出した劣化度を補正する(S18)。ここで、劣化度は、第1常時制御部50により導出されるだけでなく、後述の起動時制御部56においても導出される。そうすると、今回の劣化度の前に決定されていた劣化度、すなわち、直前の劣化度が、起動時制御部56により導出されたものである、という状況が起こり得る。そして、起動時制御部56により導出される劣化度の方が、第1常時制御部50により導出される劣化度よりも精度を高くすることができる。これらを踏まえ、第1常時制御部50は、直前の劣化度の一部を、今回導出した劣化度に反映させるように、劣化度を補正する。
【0035】
より詳細には、第1常時制御部50は、今回の推定抵抗値に基づいて導出した劣化度と、劣化度を導出する直前に決定されていた劣化度とを、所定の比率で合成することで、推定抵抗値に基づいて導出した劣化度を補正する。例えば、第1常時制御部50は、以下の式(1)により補正後の劣化度を導出する。なお、式(1)中の反映率は、例えば、0.2などに設定されるが、任意の値に設定されてもよい。
補正後の劣化度=導出した劣化度×反映率+直前の劣化度×(1-反映率)
・・・(1)
【0036】
このように劣化度を補正することで、仮に、直前の劣化度の精度が高く、今回の劣化度の精度が低かったとしても、直前の劣化度の一部が今回の劣化度に反映されるため、最新の劣化度の精度の低下を抑制することができる。
【0037】
第1常時制御部50は、補正後の劣化度を、最新の劣化度として記憶装置22に記憶させることで、劣化度を更新する(S19)。
【0038】
次に、第1常時制御部50は、複数の出力マップ30のうち、補正後の劣化度に対応する出力マップ30を決定する(S20)。これにより、以後、電力制御部52は、決定された出力マップ30に基づいて、バッテリ10から出力される電力を制御することとなる。
【0039】
なお、例えば、記憶装置22には、劣化度「1.1」の出力マップ30および劣化度「1.2」の出力マップ30が記憶されているが、劣化度「1.15」の出力マップ30が記憶されておらず、補正後の劣化度が「1.15」であるような事態が起こり得る。このような場合、第1常時制御部50は、劣化度「1.1」の出力マップ30における電力と、劣化度「1.2」の出力マップ30における電力とを線形補間して、劣化度「1.15」に対応する出力マップ30を作成してもよい。第1常時制御部50は、このようにして作成した出力マップ30を、補正後の劣化度に対応する出力マップ30として決定してもよい。
【0040】
また、第1常時制御部50は、出力マップ30の決定とともに、複数の入力マップ32のうち、補正後の劣化度に対応する入力マップ32を決定してもよい。
【0041】
次に、第1常時制御部50は、取得回数kをクリアし(S21)、一連の処理を終了する。取得回数kがクリアされることで、第1常時制御部50は、取得回数kのクリア後から蓄積された電流および電圧に基づいて、次の推定抵抗値を導出することができる。
【0042】
なお、図3では、導出した劣化度を補正する例を説明していた。しかし、劣化度の精度の低下を許容できるのであれば、劣化度の補正は省略されてもよい。その場合、第1常時制御部50は、最新の劣化度である導出した劣化度を記憶装置22に記憶させる(S19)。そして、第1常時制御部50は、複数の出力マップ30のうち、導出した劣化度に対応する出力マップ30を決定する(S20)。
【0043】
また、第1常時制御部50は、導出した劣化度に対応する出力マップ30が記憶装置22に記憶されていない場合、記憶装置22に記憶されている複数の出力マップ30を線形補間して、導出した劣化度に対応する出力マップ30を作成してもよい。第1常時制御部50は、このようにして作成した出力マップ30を、使用する出力マップ30として決定してもよい。また、第1常時制御部50は、出力マップ30の決定とともに、複数の入力マップ32のうち、導出した劣化度に対応する入力マップ32を、劣化度に対応する出力マップ30として決定してもよい。
【0044】
第1常時制御部50による推定抵抗値の導出方法では、後述の起動時制御部56による推定抵抗値の導出方法と比べ、推定抵抗値の精度が低下することがあるものの、車両2の走行に制限されずに推定抵抗値を導出することができる。一方、起動時制御部56による推定抵抗値の導出方法では、第1常時制御部50による推定抵抗値の導出方法と比べ、推定抵抗値の導出中に車両2の走行が制限されるものの、推定抵抗値の精度を向上させることができる。これらを踏まえ、バッテリ管理装置1では、車両2の起動時という特定のタイミングで起動時制御部56により推定抵抗値を導出し、その他の通常時には車両2の走行を優先して第1常時制御部50により推定抵抗値を導出するようにしている。
【0045】
図1に戻り、第2常時制御部54は、バッテリ10の通電中の電流および電圧の測定値に基づいて、バッテリ10から実際に出力されている電力である実電力を導出する。第2常時制御部54は、現在決定されている出力マップ30に基づいて、バッテリ10から出力可能な電力の最大値の推定値である最大推定電力を導出する。
【0046】
第2常時制御部54は、最大推定電力に対する実電力の乖離の程度を示す第1乖離率を導出する。第1乖離率は、後述の起動時制御部56において利用される。すなわち、第2常時制御部54は、起動時制御部56において利用する第1乖離率を事前に導出しておく。
【0047】
第1乖離率が1以上の場合、最大推定電力より実電力の方が大きいため、バッテリ10の実際の抵抗値は、最大推定電力から推定される抵抗値よりも小さいこととなる。すなわち、第1乖離率が1以上の場合、例えば、実際の劣化度が「1.05」のところ計算上「1.1」にされているという具合に、実際の劣化度は、現在決定されている劣化度よりも小さい。
【0048】
第1乖離率が1未満の場合、最大推定電力より実電力の方が小さいため、バッテリ10の実際の抵抗値は、最大推定電力から推定される抵抗値よりも大きいこととなる。すなわち、第1乖離率が1未満の場合、例えば、実際の劣化度が「1.1」のところ計算上「1.05」にされているという具合に、実際の劣化度は、現在決定されている劣化度より大きい。
【0049】
これらより、第1乖離率を利用することで、劣化度を更新した方がよいかを判定することが可能となる。劣化度の更新に関する判定については、後述の起動時制御部56により行われる。
【0050】
図5は、第2常時制御部54の動作の流れを説明するフローチャートである。第2常時制御部54は、所定の第2周期で訪れる所定の割込みタイミングが到来するごとに、図5の一連の処理を繰り返し実行する。所定の第2周期は、第1常時制御部50における第1周期と同じ長さであってもよいし、第1周期と異なる長さであってもよい。また、第2周期で訪れる割込みタイミングと第1周期で訪れる割込みタイミングとが、重なってもよいし、ずれてもよい。
【0051】
所定の割込みタイミングが到来すると、第2常時制御部54は、バッテリ10が通電中であるかを判定する(S30)。バッテリ10が通電中ではない場合(S30におけるNO)、今回の一連の処理を終了する。
【0052】
バッテリ10が通電中である場合(S30におけるYES)、第2常時制御部54は、電流センサ14により検出された電流を取得する(S31)。第2常時制御部54は、電圧センサ16により検出された電圧を取得する(S32)。第2常時制御部54は、取得した電流に、取得した電圧を乗算して、実電力(実電力=電流の測定値×電圧の測定値)を導出する(S33)。
【0053】
次に、第2常時制御部54は、バッテリ温度センサ18により検出されたバッテリ温度を取得する(S34)。第2常時制御部54は、取得した電圧に基づいてバッテリのSOCを導出する(S35)。第2常時制御部54は、バッテリ温度およびSOCに基づいて、最大推定電力を導出する(S36)。例えば、第2常時制御部54は、現在決定されている出力マップ30と、取得したバッテリ温度と、導出したSOCとから決定される電力を、最大推定電力とする。
【0054】
次に、第2常時制御部54は、取得した電圧が所定電圧Va以下であるか否かを判定する(S37)。所定電圧Vaは、例えば、バッテリ10の電圧の適正範囲における下限電圧に設定される。
【0055】
取得した電圧が所定電圧Va以下である場合(S37におけるYES)、第2常時制御部54は、導出した実電力を、導出した最大推定電力で除算して、第1乖離率(第1乖離率=実電力/最大推定電力)を導出する(S38)。そして、第2常時制御部54は、導出した第1乖離率を記憶装置22に記憶させることで、第1乖離率を更新し(S39)、一連の処理を終了する。
【0056】
また、取得した電圧が所定電圧Vaより大きい場合(S37におけるNO)、第2常時制御部54は、導出した実電力が、導出した最大推定電力以上であるか否かを判定する(S40)。
【0057】
実電力が最大推定電力未満である場合(S40におけるNO)、第2常時制御部54は、第1乖離率の導出を行わず、一連の処理を終了する。この場合、第1乖離率の更新が行われない。取得した電圧が所定電圧Va以下であり(S37におけるNO)、かつ、実電力が最大推定電力未満である場合(S40におけるNO)、実電力を計算するために取得された電流が小さくなっている。取得された電流が小さいということは、その電流に、電流センサ14による検出誤差が比較的多く含まれているおそれがある。そのような電流に基づく実電力を用いて第1乖離率を導出した場合、第1乖離率の精度が低下するおそれがある。第1乖離率が、精度が低いものに更新されることを回避するため、実電力が最大推定電力未満である場合(S40におけるNO)、第1乖離率の更新を行わないようにしている。
【0058】
実電力が最大推定電力以上である場合(S40におけるYES)、第2常時制御部54は、実電力を補正する(S41)。実電力の補正については後述する。第2常時制御部54は、補正後の実電力を、導出した最大推定電力で除算して、第1乖離率(第1乖離率=補正後の実電力/最大推定電力)を導出する(S42)。そして、第2常時制御部54は、導出した第1乖離率を記憶装置22に記憶させることで、第1乖離率を更新し(S39)、一連の処理を終了する。
【0059】
図6は、第2常時制御部54における実電力の補正について説明する図である。図6において、横軸は電流を示し、縦軸は電圧を示す。図6の「Va」は、図5のステップS37の判定基準である所定電圧Vaに相当する。図6の「Voc」は、電流がゼロのときの電圧、すなわち、開回路電圧を示す。
【0060】
図6の黒丸印B1は、出力マップ30の電力に対応するプロットの一例である。すなわち、黒丸印B1は、最大推定電力に対応する。最大推定電力は、所定電圧Vaと電流Iaとの乗算で表現できる(最大推定電力=Va×Ia)。
【0061】
実線B11は、開回路電圧Vocと黒丸印B1とを通る直線を示す。実線B11の傾きは、最大推定電力に基づく推定抵抗値を示す。
【0062】
図6の第1網掛け丸印C1は、電圧の測定値が所定電圧Vaであるときの、電流および電圧の測定値から得られたプロットの一例である。すなわち、第1網掛け丸印C1は、図5のステップS37における電圧が所定電圧Va以下であるかの条件を満たしたときの実電力の一例に対応する。第1網掛け丸印C1の第1実電力は、所定電圧Vaと、電流Iaより小さい電流Ibとの乗算で表現できる(第1実電力=Va×Ib)。
【0063】
一点鎖線C11は、開回路電圧Vocと第1網掛け丸印C1とを通る直線を示す。一点鎖線C11の傾きは、第1実電力に基づく推定抵抗値を示す。
【0064】
図6で示すように、一点鎖線C11の傾きが実線B11の傾きより大きいため、第1実電力に基づく推定抵抗値は、最大推定電力に基づく推定抵抗値よりも大きい。また、第1実電力と最大推定電力とにおいて電圧が所定電圧Vaで同じであり、電流Ibが電流Iaより小さいことから、第1実電力は、最大推定電力より小さい。すなわち、第1実電力を最大推定電力で除算した第1乖離率は、1未満となる。この場合、実際の劣化度は、現在決定されている劣化度より大きい。
【0065】
図6の第2網掛け丸印C2は、電圧の測定値が、所定電圧Vaより大きい電圧Vcであるときの、電流および電圧の測定値から得られたプロットの一例である。すなわち、第2網掛け丸印C2は、図5のステップS37における電圧が所定電圧Va以下の条件を満たさず、ステップS40における実電力が最大推定電力以上の条件を満たしたときの実電力の一例に対応する。第2網掛け丸印C2の第2実電力は、電圧Vcと電流Icとの乗算で表現できる(第2実電力=Vc×Ic)。電流Icは、例えば、電流Iaより小さい。
【0066】
一点鎖線C12は、開回路電圧Vocと第2網掛け丸印C2とを通る直線を示す。一点鎖線C12の傾きは、第2実電力に基づく推定抵抗値を示す。
【0067】
ここで、一点鎖線C12と所定電圧Vaとの交点を白丸印D1で示す。電流Idは、白丸印D1に対応する電流である。電流Idは、最大推定電力に対応する電流Iaより大きい。白丸印D1は、第2網掛け丸印C2の第2実電力を補正した後の第2実電力に対応する。つまり、図5のステップS41で行われる実電力の補正は、例えば、第2網掛け丸印C2の第2実電力(第2実電力=Vc×Ic)を、白丸印D1に対応する電力に補正(補正後の第2実電力=Va×Id)することに相当する。
【0068】
これを踏まえ、図5のステップS41において、第2常時制御部54は、取得した電流Icと、取得した電圧Vcと、開回路電圧Vocとから、一点鎖線C12で示す直線の式を導出する。第2常時制御部54は、導出した直線の式に所定電圧Vaを代入して電流Idを導出する。第2常時制御部54は、所定電圧Vaに電流Idを乗算して、補正後の実電力、例えば、補正後の第2実電力を導出する(補正後の実電力=Va×Id)。
【0069】
図6で示すように、一点鎖線C12の傾きが実線B11の傾きより小さいため、第2電力に基づく推定抵抗値は、最大推定電力に基づく推定抵抗値よりも小さい。また、補正後の第2実電力と最大推定電力とにおいて電圧が所定電圧Vaで同じであり、電流Idが電流Iaより大きいことから、補正後の第2実電力は、最大推定電力より大きい。すなわち、補正後の第2実電力を最大推定電力で除算した第1乖離率は、1以上となる。この場合、実際の劣化度は、現在決定されている劣化度より小さい。
【0070】
図1に戻り、起動時制御部56は、バッテリ管理装置1が適用されている車両2の起動時に推定抵抗値を導出する。車両2の起動時は、車両2のイグニッションスイッチがオフ状態からオン状態に切り替えられたときである。起動時制御部56における推定抵抗値の導出方法は、第1常時制御部50における推定抵抗値の導出方法と異なる。起動時制御部56における推定抵抗値の導出方法については後に詳述する。
【0071】
起動時制御部56は、導出した推定抵抗値に基づいて、推定抵抗値の導出時点におけるバッテリ10の劣化度を導出する。起動時制御部56は、複数の出力マップ30のうち、導出した劣化度に対応する出力マップ30を決定する。起動時制御部56における劣化度の導出方法および出力マップ30の決定方法は、第1常時制御部50における劣化度の導出方法および出力マップ30の決定方法と同じである。
【0072】
電力制御部52は、起動時制御部56により決定された出力マップ30に基づいて、バッテリ10から出力される電力を制御する。
【0073】
また、起動時制御部56は、第2常時制御部54により導出された第1乖離率に基づいて、推定抵抗値の導出を行うか否かを決定する。
【0074】
また、起動時制御部56は、現在決定されている出力マップ30に基づいて、バッテリ10から出力可能な電力の最大値の推定値である最大推定電力を導出する。ここで、バッテリ管理装置1が適用された車両2において所定の加速に必要な電力が、所要電力であるとする。所要電力は、例えば、予め設定された固定値であり、メモリ42に予め記憶されている。
【0075】
起動時制御部56は、最大推定電力に対する所要電力の乖離の程度を示す第2乖離率を導出する。より詳細には、起動時制御部56は、所定電力を最大推定電力で除算して第2乖離率を導出する(第2乖離率=所要電力/最大推定電力)。起動時制御部56は、第2乖離率に基づいて、推定抵抗値の導出を行うか否かを決定する。
【0076】
所要電力が最大推定電力以上である場合、第2乖離率は、1以上となる。一方、所要電力が最大推定電力未満である場合、第2乖離率は、1未満となる。
【0077】
図7は、起動時制御部56の動作の流れを説明するフローチャートである。起動時制御部56は、車両2の起動が検出されるまで待機する(S50におけるNO)。
【0078】
車両2の起動が検出されると(S50におけるYES)、起動時制御部56は、バッテリ温度センサ18により検出されたバッテリ温度を取得する(S51)。起動時制御部56は、電圧センサ16により検出された電圧を取得し、取得した電圧に基づいてバッテリ10のSOCを導出する(S52)。起動時制御部56は、バッテリ温度およびSOCに基づいて、最大推定電力を導出する(S53)。例えば、起動時制御部56は、現在決定されている出力マップ30と、取得したバッテリ温度と、導出したSOCとから決定される電力を、最大推定電力とする。
【0079】
次に、起動時制御部56は、所要電力を最大推定電力で除算して、第2乖離率(第2乖離率=所要電力/最大推定電力)を導出する(S54)。
【0080】
次に、起動時制御部56は、記憶装置22に記憶されている第1乖離率を読み出す(S55)。起動時制御部56は、第1乖離率を第2乖離率で除算して、推定抵抗値の導出を行うか否かを判定するための判定対象を示す抵抗更新判定値(抵抗更新判定値=第1乖離率/第2乖離率)を導出する(S56)。
【0081】
上述のように、第1乖離率は、実電力または補正後の実電力を、最大推定電力で除算した値であり、第2乖離率は、所要電力を最大推定電力で除算した値である。このことから、第1乖離率を第2乖離率で除算した抵抗更新判定値は、実電力または補正後の実電力を、所要電力で除算した値と等しい(抵抗更新判定値=第1乖離率/第2乖離率=(実電力または補正後の実電力)/所要電力)。つまり、抵抗更新判定値を用いることで、実電力または補正後の実電力と、所要電力とを比較することができる。
【0082】
次に、起動時制御部56は、抵抗更新判定値が1未満であるか否かを判定する(S57)。抵抗更新判定値が1未満であることは、実電力または補正後の実電力が所要電力より小さいことに相当する((実電力または補正後の実電力)<所要電力)。実電力または補正後の実電力が所要電力より小さい場合、車両2における所定の加速に必要な電力よりも実際に出力される電力が小さいため、劣化度を更新させるようにする。
【0083】
一方、抵抗判定値が1以上であることは、実電力または補正後の実電力が所要電力以上であることに相当する((実電力または補正後の実電力)≧所要電力)。実電力または補正後の実電力が所要電力以上の場合、車両2における所定の加速に必要な電力よりも実際に出力される電力が大きいため、劣化度を更新しなくてもよい。
【0084】
これを踏まえ、抵抗更新判定値が1以上の場合(S57におけるNO)、起動時制御部56は、一連の処理を終了する。この場合、起動時制御部56による推定抵抗値の導出は行われず、劣化度の更新は行われない。
【0085】
また、抵抗更新判定値が1未満である場合(S57におけるYES)、起動時制御部56は、劣化度を更新するために推定抵抗値導出処理(S58)を行う。推定抵抗値導出処理(S58)は、起動時制御部56によりバッテリ10の推定抵抗値を導出する処理である。推定抵抗値導出処理については後に詳述する。
【0086】
なお、起動時制御部56は、第1乖離率および第2乖離率から抵抗更新判定値を導出し、抵抗更新判定値が1未満であるかを判定していた。しかし、起動時制御部56は、抵抗更新判定値の導出を省略し、第1乖離率と第2乖離率とを直接比較することで、推定抵抗値導出処理を行うか否かを判定してもよい。その場合、起動時制御部56は、第1乖離率が第2乖離率未満である場合に推定抵抗値導出処理を行い、第1乖離率が第2乖離率以上である場合に推定抵抗値導出処理を行わないようにしてもよい。
【0087】
次に、起動時制御部56は、推定抵抗値導出処理(S58)により導出された推定抵抗値に基づいて、バッテリ10の劣化度を導出する(S59)。例えば、起動時制御部56は、推定抵抗値を基準抵抗値で除算することで劣化度を導出する(劣化度=推定抵抗値/基準抵抗値)。
【0088】
次に、起動時制御部56は、導出した劣化度を補正する(S60)。より詳細には、起動時制御部56は、今回の推定抵抗値に基づいて導出した劣化度と、劣化度を導出する直前に決定されていた劣化度とを、所定の比率で合成することで、推定抵抗値に基づいて導出した劣化度を補正する。例えば、起動時制御部56は、第1常時制御部50による劣化度の補正と同様に、上述した式(1)により補正後の劣化度を導出する。
【0089】
起動時制御部56は、補正後の劣化度を、最新の劣化度として記憶装置22に記憶させることで、劣化度を更新する(S61)。
【0090】
次に、起動時制御部56は、複数の出力マップ30のうち、補正後の劣化度に対応する出力マップ30を決定する(S62)。これにより、以後、電力制御部52は、決定された出力マップ30に基づいて、バッテリ10から出力される電力を制御することとなる。
【0091】
なお、起動時制御部56は、導出した劣化度に対応する出力マップ30が記憶装置22に記憶されていない場合、記憶装置22に記憶されている複数の出力マップ30を線形補間して、導出した劣化度に対応する出力マップ30を作成してもよい。また、起動時制御部56は、出力マップ30の決定とともに、複数の入力マップ32のうち、補正後の劣化度に対応する入力マップ32を決定してもよい。
【0092】
また、図7において、劣化度の補正は省略されてもよい。その場合、起動時制御部56は、最新の劣化度である導出した劣化度を記憶装置22に記憶させる(S61)。そして、起動時制御部56、複数の出力マップ30のうち、導出した劣化度に対応する出力マップ30を決定する(S62)。
【0093】
次に、起動時制御部56は、温度調整処理(S63)を行い、その後、一連の処理を終了する。温度調整処理(S63)は、バッテリ温度が所定の適正範囲から外れている場合に、バッテリ温度が適正範囲に収まるように、バッテリ10を加熱または冷却する処理である。温度調整処理(S63)については後に詳述する。
【0094】
図8は、推定抵抗値導出処理(S58)の流れを説明するフローチャートである。起動時制御部56は、推定抵抗値導出処理(S58)が開始されると、外気温度センサ20により検出された外気の温度を取得する(S70)。
【0095】
次に、起動時制御部56は、バッテリ10から出力する電力の時間推移を示す放電パターンを設定する(S71)。この際、起動時制御部56は、バッテリ10の発熱量とバッテリ10の放熱量とが等しくなるように、放電パターンを設定する。なお、ここでの放電は、バッテリ10から所定の負荷に電力を供給することを示す。所定の負荷は、例えば、温度調整装置12とする。
【0096】
図9は、放電パターンの一例を示す図である。図9で示すように、起動時制御部56は、パルス状の電力を複数回出力するような放電パターンを設定する。パルス状の電力のパルス幅に相当する出力時間tは、複数のパルスで同じであるとする。
【0097】
起動時制御部56は、個々のパルスの電力がそれぞれ異なるような放電パターンを設定する。例えば、起動時制御部56は、時間が経過するに連れてパルスの電力が次第に大きくなるような放電パターンを設定する。より詳細には、起動時制御部56は、電力が「Wmax/8」の第1パルスP1、電力が「Wmax/4」の第2パルスP2、電力が「Wmax/2」の第3パルスP3、電力が「Wmax」の第4パルスP4の順に出力する放電パターンを設定する。「Wmax」は、電力の最大値を示す。
【0098】
ここで、放電パターンにおける隣接するパルス間を、部分放熱時間と呼ぶ場合がある。放電パターンにおける複数の部分放熱時間を合計した時間を、合計放熱時間と呼ぶ場合がある。
【0099】
起動時制御部56は、個々の部分放熱時間がそれぞれ異なるような放電パターンを設定する。例えば、起動時制御部56は、時間が経過するに連れて部分放熱時間が次第に長くなるような放電パターンを設定する。より詳細には、起動時制御部56は、第1パルスP1と第2パルスP2との間の部分放熱時間を「X/7」とする。起動時制御部56は、第2パルスP2と第3パルスP3との間の部分放熱時間を「2X/7」とする。起動時制御部56は、第3パルスP3と第4パルスP4との間の部分放熱時間を「4X/7」とする。「X」は、部分放熱時間「X/7」、部分放熱時間「2X/7」および部分放熱時間「4X/7」を合計した合計放熱時間を示す。
【0100】
電力を出力する出力時間tでは、例えば、温度調整装置12がバッテリ10の電力を消費して、バッテリ10を加熱し、バッテリ温度を上昇させる。これに対し、電力を出力しない部分放熱時間では、バッテリ10が外気によって冷却され、バッテリ温度を低下させる。放電パターンでは、このようなバッテリ温度の上昇と低下とを均衡させるような合計放熱時間Xが決定されることになる。
【0101】
図8に戻って、起動時制御部56は、放電パターンの設定の後、設定された放電パターンに従ってバッテリ10の発熱量Hを導出する(S72)。図9で例示した放電パターンを設定した場合、起動時制御部56は、以下の式(2)により発熱量Hを導出する。
発熱量H=t×Wmax/8+t×Wmax/4+t×Wmax/2+t×Wmax
・・・(2)
【0102】
ここで、放熱量Qは、以下の式(3)により導出することができる。なお、放熱係数αは、メモリ42に予め記憶されている。
放熱量Q=放熱係数α×(バッテリ温度-外気の温度)×合計放熱時間X
・・・(3)
【0103】
起動時制御部56は、バッテリ10の発熱量Hと放熱量Qとが等しいとして、放電パターンにおける合計放熱時間Xを導出する(S73)。より詳細には、起動時制御部56は、式(2)により導出した発熱量Hを、放熱量Qとして式(3)に代入して、式(3)により合計放熱時間Xを導出する。
【0104】
起動時制御部56は、導出した合計放熱時間Xに基づいて、放電パターンにおける個々の部分放熱時間を導出する(S74)。これにより、放電パターンが確定されることになる。
【0105】
次に、起動時制御部56は、放電パターンに従ってバッテリ10から電力を出力させる(S75)。例えば、起動時制御部56は、放電パターンに従ってバッテリ10と温度調整装置12とを電気的に接続させて、放電パターンにおけるパルスごとにバッテリ10から温度調整装置12に電力を供給させる。
【0106】
起動時制御部56は、放電パターンに従って電力を出力させる都度、電流センサ14により検出された電流、および、電圧センサ16により検出された電圧を取得する(S76)。これにより、第1パルスP1を出力したときの電流および電圧、第2パルスP2を出力したときの電流および電圧、第3パルスP3を出力したときの電流および電圧、第4パルスP4を出力したときの電流および電圧が取得される。
【0107】
次に、起動時制御部56は、放電パターンに応じて取得した電流および電圧の測定値に基づいて、推定抵抗値を導出し(S77)、推定抵抗値導出処理を終了する。
【0108】
図10は、推定抵抗値導出処理(S58)における推定抵抗値の導出方法を説明する図である。図10において、横軸は電流を示し、縦軸は電圧を示す。図10において、黒丸印P11は、第1パルスP1を出力したときの電流および電圧の測定値に対応するプロットを示す。黒丸印P12は、第2パルスP2を出力したときの電流および電圧の測定値に対応するプロットを示す。黒丸印P13は、第3パルスP3を出力したときの電流および電圧の測定値に対応するプロットを示す。黒丸印P14は、第4パルスP4を出力したときの電流および電圧の測定値に対応するプロットを示す。
【0109】
放電パターンにおいて個々のパルスの電力を異ならせることで、図10で示すように、電流および電圧の測定値に対応するプロットが分散される。
【0110】
起動時制御部56は、図10で示す複数の電流および電圧に最小二乗法を適用し、図10の破線P20で示す回帰直線を導出する。起動時制御部56は、導出した回帰直線の傾きを導出し、当該傾きを推定抵抗値とする。
【0111】
このように、バッテリ10の発熱量Hと放熱量Qとを均衡させるようにして測定された電流および電圧から推定抵抗値を導出することで、推定抵抗値の精度を向上させることができる。
【0112】
図11は、温度調整処理(S63)の流れを説明するフローチャートである。起動時制御部56は、温度調整処理(S63)が開始されると、図7のステップS62において決定された出力マップ30、バッテリ温度およびSOCにより最大推定電力を導出する(S80)。
【0113】
次に、起動時制御部56は、所要電力を、ステップS80において導出された最大推定電力で除算して、第2乖離率を導出する(S81)。起動時制御部56は、第2乖離率が所定乖離率以上であるか否かを判定する(S82)。所定乖離率は、任意の値に設定されてもよい。
【0114】
第2乖離率が所定乖離率未満である場合(S82におけるNO)、起動時制御部56は、温度調整処理を終了する。この場合、所要電力と最大推定電力との乖離が小さいため、バッテリ10の温度調整が不要である。
【0115】
第2乖離率が所定乖離率以上である場合(S82におけるYES)、起動時制御部56は、バッテリ温度が適正範囲における下限温度未満であるかを判定する(S83)。バッテリ温度が下限温度未満である場合(S83におけるYES)、起動時制御部56は、温度調整装置12を制御してバッテリ10を加熱する温度調整を行う(S84)。バッテリ10の加熱は、バッテリ温度が下限温度以上になるまで継続され、バッテリ温度が下限温度以上となると温度調整処理が終了される。
【0116】
バッテリ温度が下限温度以上である場合(S83におけるNO)、起動時制御部56は、バッテリ温度が適正範囲の上限温度を超えているかを判定する(S85)。バッテリ温度が上限温度を超えている場合(S85におけるYES)、起動時制御部56は、温度調整装置12を制御してバッテリ10を冷却する温度調整を行う(S86)。バッテリ10の冷却は、バッテリ温度が上限温度以下になるまで継続され、バッテリ温度が上限温度以下となると温度調整処理が終了される。
【0117】
バッテリ温度が上限温度以上の場合(S85におけるNO)、バッテリ温度が適正範囲に収まっているため、起動時制御部56は、バッテリ10の温度調整を行わず、温度調整処理を終了する。
【0118】
なお、ここでは、起動時制御部56が、出力マップ30の決定の後に、温度調整処理(S63)を行う例を説明していた。しかし、温度調整処理(S63)は、第1常時制御部50が出力マップ30を決定した後において行われてもよい。
【0119】
以上のように、本実施形態のバッテリ管理装置1では、推定抵抗値に基づいて推定抵抗値の導出時点におけるバッテリ10の劣化度が導出される。本実施形態のバッテリ管理装置1では、複数の出力マップ30のうち、導出した劣化度に対応する出力マップ30が決定される。このように、本実施形態のバッテリ管理装置1では、使用するマップが、現在の劣化度に対応する出力マップ30に更新される。そして、本実施形態のバッテリ管理装置1では、決定した出力マップ30に基づいて、バッテリ10から出力される電力が制御される。
【0120】
これにより、本実施形態のバッテリ管理装置1では、バッテリ10から出力される電力がバッテリ10の劣化の進行が反映された電力に制御されるため、バッテリ10から出力される電力を適切に管理することが可能となる。
【0121】
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0122】
1 バッテリ管理装置
2 車両
10 バッテリ
22 記憶装置
24 制御装置
30 出力マップ
40 プロセッサ
42 メモリ
50 第1常時制御部
52 電力制御部
54 第2常時制御部
56 起動時制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11