(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038735
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】基礎構造の設計方法
(51)【国際特許分類】
E02D 27/34 20060101AFI20240313BHJP
E02D 27/10 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
E02D27/34 Z
E02D27/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142978
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】周 友昊
(72)【発明者】
【氏名】浅香 美治
(72)【発明者】
【氏名】大和 由佳
(72)【発明者】
【氏名】木村 匠
(72)【発明者】
【氏名】大泉 修
(72)【発明者】
【氏名】内本 英雄
(72)【発明者】
【氏名】横井 義彦
【テーマコード(参考)】
2D046
【Fターム(参考)】
2D046CA01
2D046DA17
(57)【要約】
【課題】複数の基礎形式を効率良く導入し、各基礎形式の長所を活用した合理的な設計を可能とする基礎構造の設計方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る基礎構造の設計方法は、構造物の深さ方向の荷重及び地盤の許容支持力に基づいて基礎構造の直接基礎部と杭基礎部との荷重分担率を設定する荷重分担率設定工程と、前記荷重分担率に基づいて前記直接基礎部に採用する形式と前記杭基礎部に採用する形式とを選定する形式選定工程と、選定された前記形式を備える前記基礎構造を含む解析モデルを作成し、前記解析モデルに対して前記荷重をかけて沈下解析を行い、前記基礎構造の沈下量、前記直接基礎部の負担荷重、及び前記杭基礎部の負担荷重を算出する第1沈下解析工程と、算出された前記基礎構造の沈下量、前記直接基礎部の負担荷重、及び前記杭基礎部の負担荷重の全てが各々の許容値以下であるか否かを判定する第1判定工程と、を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の条件から前記構造物の深さ方向の荷重を算出する荷重算出工程と、
前記構造物を支持する直接基礎部及び杭基礎部を有する基礎構造が配置される地盤の条件から前記地盤の許容支持力を算出する支持力算出工程と、
前記荷重及び前記許容支持力に基づいて前記直接基礎部と前記杭基礎部との荷重分担率を設定する荷重分担率設定工程と、
前記荷重分担率に基づいて前記直接基礎部に採用する形式と前記杭基礎部に採用する形式とを選定する形式選定工程と、
前記形式選定工程において選定された前記形式を備える前記基礎構造を含む解析モデルを作成し、前記解析モデルに対して前記荷重をかけて沈下解析を行い、前記基礎構造の沈下量、前記直接基礎部の負担荷重、及び前記杭基礎部の負担荷重を算出する第1沈下解析工程と、
第1沈下解析工程において算出された前記基礎構造の沈下量、前記直接基礎部の負担荷重、及び前記杭基礎部の負担荷重の全てが各々の許容値以下であるか否かを判定する第1判定工程と、
前記解析モデルに対して前記地盤の変化量を条件に加えて沈下解析を行い、前記基礎構造の沈下量、前記直接基礎部の負担荷重、及び前記杭基礎部の負担荷重を算出する第2沈下解析工程と、
第2沈下解析工程において算出された前記基礎構造の沈下量、前記直接基礎部の負担荷重、及び前記杭基礎部の負担荷重の全てが各々の許容値以下であるか否かを判定する第2判定工程と、
を備え、
前記第1判定工程において、
前記基礎構造の沈下量、前記直接基礎部の負担荷重、及び前記杭基礎部の負担荷重の全てが各々の許容値以下であると判定された場合、前記第2沈下解析工程を行い、
前記基礎構造の沈下量、前記直接基礎部の負担荷重、及び前記杭基礎部の負担荷重のうちの少なくとも1つが許容値以上であると判定された場合、前記荷重分担率設定工程において前記直接基礎部と前記杭基礎部との荷重分担率を再設定し、
前記第2判定工程において、
前記基礎構造の沈下量、前記直接基礎部の負担荷重、及び前記杭基礎部の負担荷重の全てが各々の許容値以下であると判定された場合、前記直接基礎部の形式及び前記杭基礎部の形式を確定し、
前記基礎構造の沈下量、前記直接基礎部の負担荷重、及び前記杭基礎部の負担荷重のうちの少なくとも1つが許容値以上であると判定された場合、前記荷重分担率設定工程において前記直接基礎部と前記杭基礎部との荷重分担率を再設定する、
基礎構造の設計方法。
【請求項2】
前記第1沈下解析工程において、
前記解析モデルに対して前記荷重を長期及び短期の各々の条件で加え、
前記第1判定工程において、
長期及び短期の各々の条件について前記基礎構造の沈下量、前記直接基礎部の負担荷重、及び前記杭基礎部の負担荷重の全てが各々の許容値以下であるか否かを判定する、
請求項1に記載の基礎構造の設計方法。
【請求項3】
前記第1沈下解析工程において、
前記解析モデルに対する沈下解析に、少なくとも前記直接基礎部の大きさ及び剛性を表す数値、前記杭基礎部の大きさ及び剛性を表す数値、前記地盤を構成する各層の厚み及び支持力係数をパラメータとして含む3次元有限要素法を用い、
前記沈下解析において前記解析モデルを前記パラメータに合わせたスパンの複数の要素でモデル化する、
請求項1又は2に記載の基礎構造の設計方法。
【請求項4】
前記形式選定工程において、
前記直接基礎部に採用する形式は独立基礎、布基礎の少なくとも1つを含み、
前記杭基礎部に採用する形式は支持杭、摩擦杭の少なくとも1つを含み、
前記荷重分担率、前記独立基礎及び前記布基礎の素材の特性、前記支持杭及び前記摩擦杭の素材の特性や摩擦係数に合わせて、前記独立基礎及び前記布基礎の大きさ、前記支持杭及び前記摩擦杭の長さを調整する、
請求項1又は2に記載の基礎構造の設計方法。
【請求項5】
前記形式選定工程において、
前記地盤は地表面を含む非支持層と前記非支持層の直下の支持層とを含み、
前記直接基礎部に採用する形式は独立基礎及び布基礎であり、
前記布基礎は前記非支持層に配置され、
前記非支持層の前記直接基礎部が配置される領域に軟弱層が含まれ、
前記軟弱層のうち少なくとも前記布基礎の直下を含む領域に前記軟弱層を地盤改良した地盤改良層が形成され、
前記第1沈下解析工程において、
前記許容支持力及び前記解析モデルに前記軟弱層及び前記地盤改良層の各条件を反映し、前記沈下解析を行う、
請求項1又は2に記載の基礎構造の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基礎構造の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、建物等の構造物を支持する基礎の形式は、構造物の重量と地盤の支持力とに応じて直接基礎、杭基礎の何れかから選定される。直接基礎には、主に、構造物の支え方が互いに異なる独立基礎、布基礎、べた基礎がある。独立基礎、布基礎、べた基礎、杭基礎の順に、支持可能な構造物の重量が大きい。
【0003】
べた基礎と杭基礎とを組み合わせた形式として、パイルドラフト基礎が挙げられる。パイルドラフト基礎のべた基礎には、例えば複数のフーチング同士を地表面に平行な面内で耐圧盤によって連結した複合基礎も含まれる。パイルドラフト基礎では、従来の設計基準において、構造物の重量(荷重)は全てべた基礎で負担し、杭は沈下抑制の役割のみを担うものと想定されている。すなわち、パイルドラフト基礎の支持力は、同じ構造物を支えるべた基礎と実質的に同等である。
【0004】
例えば特許文献1に開示されている基礎構造では、基礎上部(構造物の基礎構造のうち、杭を含まない部分)が複数の杭の各々の杭頭部(地下側の先端部)と深さ方向で離間して設けられている。基礎上部と複数の杭の各々の杭頭部との間に、パイルドラフト基礎を適用可能な地盤である上層地盤が設けられている。上層地盤は、パイルドラフト基礎を適用可能に改良された地盤である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1に開示された基礎構造をはじめとする従来の基礎構造では、実際にべた基礎では支持力が僅かに不足する構造物に対して、杭基礎を選択せざるを得なかった。すなわち、採用する基礎形式(形式)の長所を最大限に活用した合理的な設計が難しく、コストが上がる要因が生じていた。
【0007】
本発明は、互いに異なる複数の基礎形式を効率良く導入し、各基礎形式の長所を活用した合理的な設計を可能とする新たな基礎構造の設計方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る基礎構造の設計方法は、構造物の条件から前記構造物の深さ方向の荷重を算出する荷重算出工程と、前記構造物を支持する直接基礎部及び杭基礎部を有する基礎構造が配置される地盤の条件から前記地盤の許容支持力を算出する支持力算出工程と、前記荷重及び前記許容支持力に基づいて前記直接基礎部と前記杭基礎部との荷重分担率を設定する荷重分担率設定工程と、前記荷重分担率に基づいて前記直接基礎部に採用する形式と前記杭基礎部に採用する形式とを選定する形式選定工程と、前記形式選定工程において選定された前記形式を備える前記基礎構造を含む解析モデルを作成し、前記解析モデルに対して前記荷重をかけて沈下解析を行い、前記基礎構造の沈下量、前記直接基礎部の負担荷重、及び前記杭基礎部の負担荷重を算出する第1沈下解析工程と、第1沈下解析工程において算出された前記基礎構造の沈下量、前記直接基礎部の負担荷重、及び前記杭基礎部の負担荷重の全てが各々の許容値以下であるか否かを判定する第1判定工程と、前記解析モデルに対して前記地盤の変化量を条件に加えて沈下解析を行い、前記基礎構造の沈下量、前記直接基礎部の負担荷重、及び前記杭基礎部の負担荷重を算出する第2沈下解析工程と、第2沈下解析工程において算出された前記基礎構造の沈下量、前記直接基礎部の負担荷重、及び前記杭基礎部の負担荷重の全てが各々の許容値以下であるか否かを判定する第2判定工程と、を備える。前記第1判定工程において、前記基礎構造の沈下量、前記直接基礎部の負担荷重、及び前記杭基礎部の負担荷重の全てが各々の許容値以下であると判定された場合、前記第2沈下解析工程を行う。前記基礎構造の沈下量、前記直接基礎部の負担荷重、及び前記杭基礎部の負担荷重のうちの少なくとも1つが許容値以上であると判定された場合、前記荷重分担率設定工程において前記直接基礎部と前記杭基礎部との荷重分担率を再設定する。前記第2判定工程において、前記基礎構造の沈下量、前記直接基礎部の負担荷重、及び前記杭基礎部の負担荷重の全てが各々の許容値以下であると判定された場合、前記直接基礎部の形式及び前記杭基礎部の形式を確定する。前記基礎構造の沈下量、前記直接基礎部の負担荷重、及び前記杭基礎部の負担荷重のうちの少なくとも1つが許容値以上であると判定された場合、前記荷重分担率設定工程において前記直接基礎部と前記杭基礎部との荷重分担率を再設定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、直接基礎と杭基礎とを効率良く導入し、合理的な設計を可能とする基礎構造の設計方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る基礎構造の設計方法を用いて設計可能な第1の基礎構造の斜視図である。
【
図2】本発明に係る基礎構造の設計方法を用いて設計可能な第2の基礎構造の斜視図である。
【
図3】本発明に係る基礎構造の設計方法を用いて設計可能な第3の基礎構造の斜視図である。
【
図4】本発明に係る基礎構造の設計方法を用いて設計可能な第4の基礎構造の斜視図である。
【
図5】本発明に係る基礎構造の設計方法を説明するためのフローチャートである。
【
図6】
図4の基礎構造の沈下解析を行うための単スパンの解析モデルの一例である。
【
図7】
図4の基礎構造の沈下解析を行うための連続スパンの解析モデルの一例である。
【
図8A】
図4の基礎構造の沈下解析で得られた鉛直応力分布図である。
【
図8B】
図4の基礎構造の沈下解析で得られた鉛直応力分布図である。
【
図8C】
図4の基礎構造の沈下解析で得られた鉛直応力分布図である。
【
図8D】
図4の基礎構造の沈下解析で得られた鉛直応力分布図である。
【
図9】
図4の基礎構造の沈下解析で得られた沈下量分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を適用した実施形態の基礎構造の設計方法について、図面を参照して説明する。
【0012】
[基礎構造]
先ず、本発明に係る基礎構造の設計方法を用いて設計可能な基礎構造の例として、第1から第3の基礎構造について説明する。
図1は、第1の基礎構造101の斜視図である。
図1に示すように、基礎構造101は、地盤10に配置されている。
【0013】
地盤10は、非支持層20と、支持層30と、を有する。非支持層20は、地表面Gを含み、地表面Gの深度から地中の所定の深度までの領域に存在する。支持層30は、非支持層20の直下にあり、地盤10において所定の深度から当該深度よりもさらに深い領域に存在する。支持層30よりも深い領域の地盤10の構成は、特に限定されない。以下では、地表面Gと平行な一方向を地面方向D1と記載し、地表面Gと平行且つ地面方向D1と直交する方向を地面方向D2と記載する。また、地表面Gに直交する方向を深さ方向D3と記載する。
【0014】
基礎構造101によって支持される構造物は、例えば家屋やマンションをはじめとする建物であるが、特定の建物に限定されない。
図1では、構造物の本体は省略されている。構造物の柱脚141及び基礎梁142は、地盤10の非支持層20に配置されている。柱脚141の上面及び基礎梁142の上面は、深さ方向D3で地表面Gと略同じ高さに配置されている。なお、柱脚141及び基礎梁142の全体が必ず非支持層20に配置されている必要はなく、例えば柱脚141の下部及び基礎梁142の下部が非支持層20に配置され、柱脚141の下部よりも上部及び基礎梁142の下部よりも上部が地表面Gよりも上方の地上にあってもよい。
【0015】
柱脚141は、例えば地表面Gに平行な面内で地面方向D1,D2の各々で互いに略一定の間隔をあけて配置されている。基礎梁142は、地面方向D1,D2の各々で互いに隣り合う柱脚141,141同士を連結している。なお、基礎梁142は、地面方向D1,D2で互いに隣り合う全ての柱脚141,141を連結する必要はなく、互いに隣り合う複数組の柱脚141,141のうちの一部の柱脚141,141同士を連結していてもよい。例えば、基礎梁142は、地面方向D1,D2の少なくとも何れか一方の方向で1組おきの柱脚141,142同士を連結してもよい。柱脚141及び基礎梁142の各々の形状、数、及び柱脚141,141同士の間隔は、構造物の大きさや形状に合わせて適宜設定されている。
【0016】
基礎構造101は、上述の構造物を支持し、直接基礎部201としての独立基礎131と、杭基礎部202としての支持杭111と、を備える。独立基礎131は、所謂フーチングであり、少なくとも構造物の柱脚141の直下に接続され、非支持層20の上部に配置されている。基礎構造101の独立基礎131及び支持杭111は、全ての柱脚141の下部に必ず接続されている。
【0017】
深さ方向D3に沿って見たときに、独立基礎131は、柱脚141と柱脚141に隣接する基礎梁142の端部との下側に接続されている。なお、以下では、深さ方向D3に沿って見たときの状態を「平面視」と説明し、地表面Gに平行な方向から見たときの状態を「側面視」と説明する場合がある。具体的には、柱脚141とその柱脚141に隣接する基礎梁142の端部は、独立基礎131に上方すなわち地上側から挿入されている。独立基礎131の大きさは、少なくとも支持杭111の平面視での断面よりも大きく、後述する基礎構造の設計方法によって適切に設定されている。
【0018】
支持杭111は、独立基礎131の下部に接続され、少なくとも深さ方向D3で独立基礎131の下部から地盤10の支持層30の上部の深度までの領域に配置されている。支持杭111の上端(すなわち、地上側の端)は独立基礎131に下方から挿入されていてもよい。支持杭111の下端(すなわち、地下側の端)は、支持層30の上部に配置されている。つまり、支持杭111は、支持層30に根入れされている。
【0019】
図2は、第2の基礎構造102の斜視図である。
図2に示すように、基礎構造102は、地盤10に配置され、前述の構造物を支持する。基礎構造102は、直接基礎部201としての独立基礎131と、布基礎132と、杭基礎部202としての摩擦杭113と、を備える。
【0020】
布基礎132は、第1の基礎構造101に関して説明した構造物の基礎梁142の下部に接続されている。地面方向D1で互いに隣り合う柱脚141,141同士を接続する基礎梁142の下部に接続される布基礎132の地面方向D2での大きさは、直上の基礎梁142の地面方向D2での大きさと略同等であり、具体的には後述する基礎構造の設計方法によって適切に設定されている。同様に、地面方向D2で互いに隣り合う柱脚141,141同士を接続する基礎梁142の下部に接続される布基礎132の地面方向D1での大きさは、直上の基礎梁142の地面方向D1での大きさと略同等であり、詳しくは基礎梁142よりも僅かに大きい。
【0021】
基礎構造102では、柱脚141とその柱脚141に隣接する基礎梁142及び布基礎132の端部は、独立基礎131に上方すなわち地上側から挿入されている。基礎構造102においても、独立基礎131の大きさは、少なくとも摩擦杭113の平面視での断面よりも大きい。但し、基礎構造102では基礎梁142に布基礎132が設けられるため、基礎構造101,102の各々で構造物の形状や柱脚141及び基礎梁142の形状や数が互いに共通であれば、基礎構造102の独立基礎131の大きさを基礎構造101の独立基礎131よりも縮小できる。
【0022】
摩擦杭113は、独立基礎131の下部に接続され、少なくとも深さ方向D3で独立基礎131の下部から地盤10の非支持層20の下部の深度までの領域に配置されている。摩擦杭113の上端(すなわち、地上側の端)は独立基礎131に下方から挿入されていてもよい。摩擦杭113の下端(すなわち、地下側の端)は、非支持層20の下部に配置されている。つまり、摩擦杭113は、非支持層20の直下にある図示略の支持層30に根入れされていない。
【0023】
摩擦杭113の側面113sは、隣接する非支持層20との間に摩擦による抵抗力を生じるように形成又は加工されている。側面113sの摩擦特性は、構造物の荷重や非支持層20の支持能力を勘案し、後述する基礎構造の設計方法によって適切に設定されている。
【0024】
図3は、第3の基礎構造103の斜視図である。
図3に示すように、基礎構造103は、地盤12に配置され、前述の構造物を支持する。地盤12は、非支持層20と、支持層30と、を有する。非支持層20の上部に、軟弱層22が存在する。
【0025】
基礎構造103は、直接基礎部201としての独立基礎131と、布基礎132と、杭基礎部202としての支持杭111と、を備える。但し、布基礎132の下面よりも深い軟弱層22は、地盤改良されている。すなわち、布基礎132の直下に、地盤改良層25が形成されている。軟弱層22を地盤改良して地盤改良層25を形成する方法としては、例えば表層改良工法、柱状改良工法、締固砂杭工法等が挙げられるが、特に限定されない。
【0026】
図3に一例として示すように、地盤改良層25は、地面方向D1において、互いに隣り合う基礎梁142,142のうち、一組飛ばしの基礎梁142,142同士の略中間位置に配置され、地面方向D2に延在していてもよい。同様に、地面方向D2において、互いに隣り合う基礎梁142,142のうち、一組飛ばしの基礎梁142,142同士の略中間位置に配置され、地面方向D1に延在していてもよい。この場合、地盤改良層25は、平面視で地面方向D1,D2に沿って格子状に配置されている。
【0027】
但し、上述のように
図3に示す地盤改良層25の配置は、第3の基礎構造の一例である。必要に応じて、地盤改良層25は、布基礎132の直下の地表面Gに平行な面内全域、或いは地表面Gに平行な面内の所定の領域に形成されてもよい。このように地盤改良層25の配置は特定の配置に限定されないが、地盤改良層25の少なくとも一部は、布基礎132の直下に配置され、平面視で布基礎132と重なっている。地盤改良層25の地面方向D1,D2、深さ方向D3の各々の大きさ、基礎梁142及び地盤改良層25の配置は、構造物の荷重および形状や地盤10の各層のN値等を勘案し、設計指針に定められた設計方法によって適切に設定されている。
【0028】
図4は、第4の基礎構造104の斜視図である。
図4に示すように、基礎構造104は、地盤10に配置され、前述の構造物を支持する。基礎構造104は、直接基礎部201としての独立基礎131と、布基礎132と、杭基礎部202としての支持杭111と、を備える。基礎構造104を例示したように、直接基礎部201の種類と杭基礎部202の種類との組み合わせは、
図1~3の基礎構造101~103に限定されない。
【0029】
[基礎構造の設計方法]
次に、例えば基礎構造101~104を設計可能な本実施形態の基礎構造の設計方法について、説明する。本実施形態の基礎構造の設計方法は、少なくとも荷重算出工程と、支持力算出工程と、荷重分担率設定工程と、形式選定工程と、第1沈下解析工程と、第1判定工程と、第2沈下解析工程と、第2判定工程と、を備える。
【0030】
<荷重算出工程>
図5は、本実施形態の基礎構造の設計方法を説明するためのフローチャートである。
図5に示すように、本実施形態の基礎構造の設計方法では、先ず、基礎構造の設計フローの初期値又は入力値として、基礎構造の支持対象である構造物の条件を設定する(ステップS201)。構造物の条件としては、構造物を構成する各部材の地面方向D1,D2及び深さ方向D3の各々での大きさ、各部材が設置されている姿勢、各部材の材質、柱脚141及び基礎梁142の各々の数、形状、大きさ及び材質等が挙げられる。前述の構造物の条件の設定に基づいて、構造物の荷重を算定する(ステップS202)。本明細書における「荷重」、及びステップS202から後述のステップS216までの「荷重」は、深さ方向D3における荷重(すなわち、鉛直荷重)を意味する。
【0031】
<支持力算出工程>
荷重算出工程を行う一方で、本実施形態の基礎構造の設計方法では、基礎構造の設計フローの上述とは別の初期値又は入力値として、基礎構造を配置する地盤の条件を設定する(ステップS205)。地盤の条件としては、非支持層20の厚みすなわち深さ方向D3の大きさ、非支持層20のN値や支持力係数等が挙げられる。前述の地盤の条件の設定に基づいて、地盤で許容される支持力(すなわち、許容支持力)を算定する(ステップS206)。
【0032】
<荷重分担率設定工程>
次に、基礎構造の設計フローでは、直接基礎部201と杭基礎部202との荷重分担率を設定する(ステップS210)。具体的には、ステップS202で算定された構造物の荷重を基礎構造の直接基礎部201と杭基礎部202とで分担する荷重分担率の初期値又は暫定値を設定する。荷重分担率は、例えば独立基礎131又は布基礎132と、支持杭111又は摩擦杭113とで分担する比率を表す。
【0033】
<形式選定工程>
続いて、前述の荷重分担率の初期値又は暫定値をふまえて、直接基礎部201として用いる形式、杭基礎部202として用いる形式を選定することによって、直接基礎部201と杭基礎部202とが導入された新しい基礎形式を選定し(ステップS211)、当該基礎形式を備える基礎構造(例えば、基礎構造101~103の何れか)を設定する。
【0034】
<第1沈下解析工程>
次に、上述のステップS211で設定した基礎構造の解析モデルを作成する(ステップS212)。このような解析モデルの例については、後に提示する。続いて、解析モデルを用いた数値計算等において、長期及び短期に荷重がかかった状況における構造物の沈下解析を行う(ステップS213)。短期とは、地震時又は強風時のように水平荷重が建物に掛かっている状態を意味する。本設計方法では水平荷重を取り扱っていないが、水平荷重が構造物に作用すると構造物が転倒し、当該転倒に応じて構造物の鉛直荷重に変化が生じる。沈下解析には、直接基礎部201及び杭基礎部202と地盤10,12との相互作用を適切に取り扱い、評価するために、3次元有限要素法(Finite Element Method;FEM)を用いた。
【0035】
<第1判定工程>
基礎構造の設計フローでは、上述のように設定した基礎構造の沈下量の許容値、直接基礎部201にかかる負荷荷重の許容値、杭基礎部202にかかる負荷荷重の許容値の各々が構造物の条件及び地盤の条件に応じて決められている。上述のステップS213で行った長期及び短期に荷重がかかった状況における構造物の沈下解析の結果から、構造物の沈下量、直接基礎部201にかかる負荷荷重及び杭基礎部202にかかる負荷荷重の各々が対応する許容値以下であるという条件を満たすか否かを判別する(ステップS214)。
【0036】
ステップS214での条件が満たされる場合は、次に説明するステップS215を行う。ステップS214での条件が満たされない場合、すなわち上述のように設定した基礎構造の沈下量、直接基礎部201にかかる負荷荷重、及び杭基礎部202にかかる負荷荷重の少なくとも1つが対応する許容値を超える場合は、上述のステップS210に戻り、直接基礎部201と杭基礎部202との荷重分担率を初期値又は暫定値から変更し、新たに荷重分担率を設定する。直接基礎部201と杭基礎部202との荷重分担率を再設定した後、上述のステップS211~S214を順次行う。
【0037】
<第2沈下解析工程>
上述のステップS214での条件が満たされた場合は、地盤のばらつき(変化量)を考慮した検討を行う(ステップS215)。地盤のばらつきには、例えば非支持層20及び支持層30の各々の厚みの地表面Gに平行な任意の方向(地面方向)での変化量、非支持層20及び支持層30の各々のN値や支持力係数の地面方向での変化量等が挙げられる。具体的には、前述の地盤のばらつきを地盤の条件、許容支持力及び上述のステップS212で用いた解析モデルに反映し、反映後の解析モデルを用いた数値計算等において、長期及び短期に荷重がかかった状況における構造物の沈下解析を行う。
【0038】
<第2判定工程>
次に、上述のステップS215の検討において、始めに設定した基礎構造(又は再設定した基礎構造)の沈下量、直接基礎部201にかかる負荷荷重、及び杭基礎部202にかかる負荷荷重の各々が対応する許容値以下であるという条件を満たすか否かを判別する(ステップS216)。ステップS216での条件が満たされる場合は、設計フローを終了する。ステップS216での条件が満たされない場合、すなわち基礎構造の沈下量、直接基礎部201にかかる負荷荷重、及び杭基礎部202にかかる負荷荷重の少なくとも1つが対応する許容値を超える場合は、上述のステップS210に戻り、直接基礎部201と杭基礎部202との荷重分担率を初期値又は暫定値から調節し、荷重分担率を再設定した後、上述のステップS211~S216を順次行う。
【0039】
次に、上述の設計フローにおいてステップS214やステップS216で条件が満たされない場合の基礎形式の調整方法を説明する。調整方法としては、直接基礎部201を調整する方法と、杭基礎部202を調整する方法が考えられる。
【0040】
先ず、直接基礎部201に対して調整する方法について簡単に説明する。構造物の荷重に対して支持杭111や摩擦杭113である杭基礎部202の負担が設定上の想定よりも大きい場合、又は杭基礎部202の沈下量が布基礎132よりも小さい場合は、布基礎132の幅、すなわち地表面Gに平行な面内で布基礎132が延在する方向に直交する方向の幅(すなわち、布基礎132の幅)を拡げることによって、杭基礎部202に対する布基礎132の荷重分担率を大きくして、布基礎132の沈下量を抑制する。
【0041】
なお、本実施形態の基礎構造の設計方法を例えば基礎構造101に適用した際に、構造物の荷重に対して支持杭111の負担が設定上の想定よりも大きい場合には、独立基礎131の地表面Gに平行な面内での大きさを拡げる対策が考えられる。
【0042】
一方で、構造物の荷重に対して摩擦杭113の負担が設計上の想定よりも小さい場合、又は摩擦杭113の沈下量が布基礎132よりも大きい場合は、布基礎132の幅を減らすことによって、摩擦杭113に対する布基礎132の荷重分担率を小さくして、布基礎132の沈下量を摩擦杭113に合わせて大きくする。また、本実施形態の基礎構造の設計方法を基礎構造101に適用した際に、構造物の荷重に対して支持杭111の負担が設定値よりも小さい場合には、独立基礎131の地表面Gに平行な面内での大きさを減じる対策が考えられる。
【0043】
次に、杭基礎部202に対して調整する方法について簡単に説明する。構造物の荷重に対して杭基礎部202の負担が設定上の想定よりも大きい場合、又は杭基礎部202の沈下量が直接基礎部201よりも小さい場合は、杭基礎部202の支持杭111や摩擦杭113の剛性を小さくすることによって、直接基礎部201の独立基礎131や布基礎132に対する杭基礎部202の荷重分担率を小さくして、杭基礎部202の沈下量を直接基礎部201に合わせて大きくする対策が考えられる。具体的には、支持杭111や摩擦杭113の直径を縮小する、或いは摩擦杭113の深さ方向D3の長さを縮める対策が考えられる。
【0044】
一方で、構造物の荷重に対して杭基礎部202の負担が設定上の想定よりも小さい場合、又は杭基礎部202の沈下量が直接基礎部201よりも大きい場合は、支持杭111や摩擦杭113の剛性を大きくすることによって、直接基礎部201に対する杭基礎部202の荷重分担率を大きくして、杭基礎部202の沈下量を抑制する。具体的には、支持杭111や摩擦杭113の直径を拡大する、或いは支持杭111や摩擦杭113の深さ方向D3の長さを伸ばす対策が考えられる。
【0045】
さらに、直接基礎部201の沈下量を杭基礎部202に合わせるために、例えば基礎構造101に替えて基礎構造102,103を採用し、採用した基本構造に関する設計パラメータを最適化してもよい。その場合には、上述の基礎構造の設計フローにおいて、ステップS211で基礎構造102又は基礎構造103に応じた形式を選定し、ステップS212で前述のように選定された形式を備える基礎構造の解析モデルを作成し、上述のように沈下解析を行えばよい。
【0046】
以上の各ステップを含む設計フローによって、構造物の荷重を直接基礎部201と杭基礎部202とで分担する基礎構造101~104を設計できる。このように設計された基礎構造101~104では、直接基礎部201の形式と杭基礎部202の形式とが効率良く導入されている。例えば、基礎構造101~104では、直接基礎部201として独立基礎131又は布基礎132の組み合わせが選定されている。また、基礎構造101~103では、支持杭111又は摩擦杭113が従来のべた基礎ではなく、独立基礎131に接続され、独立基礎131よりも深く、且つ支持層30の上部までの深さ方向D3の所定の領域に延在している。直接基礎部201と杭基礎部202との荷重分担率を適切に設定し、確認することによって、支持杭111又は摩擦杭113は、構造物の沈下抑制の役割だけではなく、構造物の荷重の一部を負担し、構造物を支持する役割の一部を担う。
【0047】
<数値例>
次に、上述の本実施形態の基礎構造の設計方法に基づく設計フローを適用して設計された基礎構造104の数値例について説明する。本数値例では、先ず、前述の設計フローのステップS201,S202において、支持対象の構造物の条件から長期及び短期の荷重を算定し、地盤10の条件から長期、短期、極限の各々の許容支持力を算定した。構造物に関する条件を適宜設定した結果、構造物の長期の平均荷重は240[kN/m2]であり、平板載荷試験の結果に基づいた布基礎132の地盤10の許容支持力は長期で120[kN/m2]であり、短期で230[kN/m2]であり、極限で320[kN/m2]であった。
【0048】
続いて、前述の設計フローのステップS205,S206を経て、ステップS210において、布基礎132と支持杭111の荷重分担率を設定した。本数値例では、布基礎132と支持杭111との荷重分担率を3:7とし、布基礎132に構造物の荷重の30%を負担させ、支持杭111に構造物の荷重の70%を負担させた。また、短期では、布基礎132が長期荷重及び変動軸力の和の30%を短期支持力で支持し、長期荷重及び変動軸力の和に対して支持杭111が構造物の荷重の100%を極限支持力で支持する、と想定した。
【0049】
続いて、前述の設計フローのステップS211において、上述の構造物の条件、地盤10の条件、及び布基礎132と支持杭111との荷重分担率に基づいて、基礎形式の選定及び基礎構造102の設定を行った。本数値例では、基礎構造102で支持する対象の構造物に対し、布基礎132と支持杭111の各々で長期及び短期の各々の所定の評価基準を満足するように、各基礎形式の条件を算定した。その結果、10m×10mの単位スパンにおいて、支持杭111の直径(杭径)を800[mm]、深さ方向D3の長さを38[m]、布基礎132の地面に平行な方向D1又は地面方向D2の大きさ(以下、「幅」という場合がある)を1.5[m]と算出した。
【0050】
続いて、ステップS212,S213で長期荷重による沈下解析を行い、上述のステップS211において選定された基礎形式を備える基礎構造102が長期において設定した布基礎132と支持杭111との荷重分担率と、基礎構造102の沈下量の評価基準が各々の許容量以下であるという条件を満足することを確認した。
【0051】
上述のように、3次元FEMを用いた沈下解析を行ったときの単スパンの解析モデルを
図6に示し、連続スパンの解析モデルを
図7に示す。
図6及び
図7に示す解析モデルでは、布基礎132(すなわち、直接基礎部201)を梁要素でモデル化した。また、摩擦杭113(すなわち、杭基礎部202)及び地盤10をソリッド要素でモデル化した。地盤10をソリッド要素でモデル化することによって、沈下現象の非線形性を適切に評価できる。
【0052】
なお、布基礎132及び摩擦杭113の各々の軸剛性と曲げ剛性とを適切にモデル化することができれば、布基礎132及び摩擦杭113をソリッド要素以外の要素、例えば梁要素でモデル化してもよい。また、面ジョイント要素を導入し、摩擦杭113と非支持層20との間の摩擦現象をモデル化した。また、深さ方向D3では、地表面Gを深度0mとして、深度0m~40mの領域及び当該領域の構造を1m間隔でモデル化した。深度40m~60mの領域及び当該領域の構造を2m間隔でモデル化した。深度60m~100mの領域及び当該領域の構造を4m間隔でモデル化した。
【0053】
上述の条件によって、単スパンの解析モデルは、地盤10がA1~A11の3次元領域に区画され、3次元領域A1~A11の沈下現象が数値計算によって総合的に解析される。3次元領域A8~A11は、支持層30の領域である。
図6の「杭天端レベル」は、深さ方向D3における摩擦杭113の地上側の端面の深度、及び布基礎132の地下側の盤面の深度を意味する。「杭先端レベル」は、深さ方向D3における摩擦杭113の地下側の端面の深度を意味する。また、「先端レベル」は、深さ方向D3において解析モデルで取り扱う地盤10の最も深い深度を意味する。
【0054】
連続スパンの解析モデルでは、3次元領域A1~A11のうち1つの次元に対応する一方向にスパンが延びており、3次元領域C1~C11での沈下現象が数値計算によって総合的に解析される。前述の一方向は、基礎構造102における「地面方向D1,D2(地表面Gに平行な任意の方向)」に対応する。
【0055】
上述の解析モデル化の範囲は、構造物の条件、基礎構造に用いる杭の条件、及び地盤の条件に応じて適切に選択及び調整される。構造物の条件としては、例えばスパンが均等である場合、地表面Gよりも上方に存在する構造物の複数の柱ごとの荷重のばらつきが所定の範囲内である等の条件が含まれる。杭の条件としては、例えば複数の摩擦杭113の長さや直径が互いに揃っている等の条件が含まれる。地盤の条件としては、例えば地表面Gに対して支持層30の傾斜がない等の条件が含まれる。そこで、上述の各条件が構築物において地面方向で同一とみなせる場合は、単スパンの解析モデルで評価を行った。上述の各条件が構築物において地面方向で変化する場合は、連続スパンの解析モデルで評価を行った。なお、上述の各条件が地面方向で変化する場合は、必要に応じて構築物の全体、及び当該全体が占める地面方向の領域内の全体をモデル化して、沈下解析を行ってもよい。
【0056】
本数値例では、構造物において各条件が地面方向で同一であるとみなし、単スパンの解析モデルを用いて、布基礎132と摩擦杭113との荷重分担率の設計値とその妥当性を確認した。その後、連続スパンの解析モデルを用いて、基礎構造102の沈下性状を確認した。
【0057】
単スパンの解析モデルを用いて基礎構造102における布基礎132と摩擦杭113との長期の荷重負担を解析した結果から得られた深さ方向D3の応力(鉛直応力)の分布を、
図8A~8Dに示す。
図8A~8Dでは、地盤10の層構成が互いに異なる2パターンの条件と、摩擦杭113の設計上の支持力が互いに異なる2パターンの条件に基づいて、合計4パターンの解析モデルB-1,B-2,B-4,B-5の鉛直応力の分布が示されている。
図8A~8Dの各々において、紙面に直交する方向は基礎構造102における深さ方向D3に相当する。
図8A~8Dの各々は、摩擦杭113の地上側の端の沈下前の深度での結果を示している。
図8A~8Dの各々において、紙面の上下方向及び左右方向は基礎構造102における地面方向D1,D2(すなわち、地表面Gに平行な任意の方向)に相当する。
図8A~8Dの各々の中央部(濃い色の部分)は、摩擦杭113が配置されている領域を表している。
【0058】
鉛直応力の分布の算出では、地上側の端の深度(すなわち、解析モデルの最上端)における摩擦杭113の要素、基礎下地盤の要素及び外部地盤の要素の各々に発生する鉛直応力を集計し、基礎構造102における布基礎132と摩擦杭113との荷重分担率を表1のように算定した。
【0059】
【0060】
表1に示すように、4パターンの解析モデルB-1,B-2,B-4,B-5の何れにおいても、布基礎132と摩擦杭113との荷重分担率は概ね30%:70%となっており、設定した荷重分担率の条件を満足していることを確認した。
【0061】
続いて、上述の算出結果及び
図8A~
図8Dに示した鉛直応力分布に基づいて基礎構造102の沈下量を算出した。算出した基礎構造102の沈下量分布を
図9に示す。
図9に示す沈下量分布から、構造物122の最大沈下量及び最大傾斜角の評価基準(すなわち、沈下量の許容値以下、且つ傾斜角の許容値以下であるという条件)を満たしていることを確認した。
【0062】
なお、本数値例については、必要に応じて地盤10のばらつきを考慮した検討も行った。地盤10のばらつきの考慮にあたっては、例えば地盤の剛性に対して2倍とした場合と、0.5倍とした場合について検討した。但し、地盤10の地盤定数のばらつき度合いについては、調査の結果に基づいて適切に設定した。本数値例の基礎構造102では、地盤10の調査結果に基づいて地層10の構成の差異を考慮し、前述したように2種類の倍率の場合(2倍とした場合と、0.5倍とした場合)の地盤条件に基づいて検討を行った。
【0063】
以上説明した本実施形態の基礎構造の設計方法は、荷重算出工程と、支持力算出工程と、荷重分担率設定工程と、形式選定工程と、第1沈下解析工程と、第1判定工程と、第2沈下解析工程と、第2判定工程と、を備える。荷重算出工程では、支持対象の構造物の条件から構造物の深さ方向D3の荷重を算出する。支持力算出工程では、構造物を支持する直接基礎部201及び杭基礎部202を有する基礎構造101~103が配置される地盤10,12の条件から地盤10,12の許容支持力を算出する。荷重分担率設定工程では、荷重算出工程で算出した構造物の荷重、及び支持力算出工程で算出した許容支持力に基づいて、直接基礎部201と杭基礎部202との荷重分担率を設定する。形式選定工程では、荷重分担率設定工程で算出した荷重分担率に基づいて、直接基礎部201に採用する初期形式(形式)と、杭基礎部202に採用する初期形式(形式)と、を選定する。第1沈下解析工程では、構造物、地盤10,12の何れか、形式選定工程において選定された初期形式を備える基礎構造101,102,103の何れかを含む全体的な解析モデルを作成し、その解析モデルに対して構造物の荷重に応じた荷重を仮想的にかけて沈下解析を行う。その後、基礎構造101/102/103の沈下量、直接基礎部201の負担荷重、及び杭基礎部202の負担荷重を算出する。第1判定工程では、基礎構造101/102/103(すなわち、設定される基礎構造101,102,103の何れか)の沈下量、直接基礎部201の負担荷重、及び杭基礎部202の負担荷重の全てが各々の許容値以下であるか否かを判定する。第1判定工程では、基礎構造101/102/103の沈下量、直接基礎部201の負担荷重、及び杭基礎部202の負担荷重の全てが各々に対応する許容値以下であると判定された場合、第2沈下解析工程を行う。但し、第1判定工程では、基礎構造101/102/103の沈下量、直接基礎部201の負担荷重、及び杭基礎部202の負担荷重のうちの少なくとも1つが各々に対応する許容値以上であると判定された場合、荷重分担率設定工程において直接基礎部201と杭基礎部202との荷重分担率を再設定し、再設定した荷重分担率に基づいて形式選定工程と、第1沈下解析工程と、第1判定工程を行う。第2沈下解析工程では、形式選定工程において選定された初期形式を備える基礎構造101,102,103の何れかを含む解析モデルを作成し、その解析モデルに対して対応する地盤10,12の何れかの変化量を条件に加えて沈下解析を行い、基礎構造101/102/103の沈下量、直接基礎部201の負担荷重、及び杭基礎部202の負担荷重を算出する。第2沈下解析工程では、基礎構造101,102,103の沈下量、直接基礎部201の負担荷重、及び杭基礎部202の負担荷重の全てが各々の許容値以下であると判定された場合、直接基礎部201の形式及び杭基礎部202の形式を確定する。一方、同工程において、基礎構造101/102/103の沈下量、直接基礎部201の負担荷重、及び杭基礎部202の負担荷重のうちの少なくとも1つが許容値以上であると判定された場合、荷重分担率設定工程において直接基礎部201と杭基礎部202との荷重分担率を再設定する。本実施形態の基礎構造の設計方法では、第1判定工程及び第2判定工程の各々において、基礎構造101/102/103の沈下量、直接基礎部201の負担荷重、及び杭基礎部202の負担荷重の全てが各々に対応する許容値以下であることを判定するまで、荷重分担率設定工程、形式選定工程、第1沈下解析工程及び第2沈下解析工程が繰り返される。
【0064】
従来では、直接基礎部(例えば、布基礎)と杭基礎部とが支持対象の構造物の荷重を負担し合う基礎構造を体系的に設計可能な設計方法が提供されていなかった。そのため、直接基礎部のみで構造物の荷重を負担して構造物を支え、構造物の沈下を抑えるために杭基礎部を追加することによって構成される基礎構造を採用せざるを得なかった。つまり、従来では、杭基礎部がなくても、直接基礎部のみで構造物の支持力が足りることを前提とし、直接基礎部のみで構造物を支持しきれない場合には、杭基礎部のみで構造物を支持するように切り替えていた。
【0065】
上述の事情をふまえ、本発明者らは、本実施形態の基礎構造の設計方法において、設計当初から構造物の荷重を直接基礎部201及び杭基礎部202で分担する基礎構造101,102,103を想定し、第1沈下解析工程の前に、直接基礎部201と杭基礎部202との荷重分担率を設定する荷重分担率設定工程を導入した。このことによって、第1沈下解析工程において、構造物の荷重及び地盤の条件に応じて実際に直接基礎部201が負担する荷重、杭基礎部202が負担する荷重、基礎構造101/102/103の沈下量を正確に算出できる。また、本実施形態の基礎構造の設計方法において、第1判定工程を導入したため、直接基礎部201が負担する荷重、杭基礎部202が負担する荷重、基礎構造101/102/103の沈下量の全てが各々の許容値以下であるか否かを判定する。また、本実施形態の基礎構造の設計方法において、第2沈下解析工程及び第2判定工程を導入したため、地盤10,12(すなわち、地盤10,12の何れか)の変化量を条件に加え、基礎構造101/102/103を含む解析モデルに反映し、沈下解析を行う。この沈下解析の結果に応じて、直接基礎部201が負担する荷重、杭基礎部202が負担する荷重、基礎構造101/102/103の沈下量の全てが各々の許容値以下であるか否かをさらに判定する。第1判定工程及び第2判定工程の少なくとも一工程にて否の場合は、荷重分担率設定工程及び形式選定工程に戻り、直接基礎部201と杭基礎部202との荷重分担率、直接基礎部201及び杭基礎部202の各形式を再考する。その結果、直接基礎部201と杭基礎部202に最適な直接基礎部201及び杭基礎部202の各形式を選定できる。
【0066】
本実施形態の基礎構造の設計方法によって確定された直接基礎部201の独立基礎131や布基礎132の配置及び大きさ、杭基礎部202の支持杭111や摩擦杭113の配置及び大きさは、従来のように直接基礎部のみで構造物の荷重を負担し、杭基礎部が追加された基礎構造の直接基礎部や杭基礎部の配置及び大きさや、杭基礎部のみで構造物の荷重を負担する基礎構造の直接基礎部や杭基礎部の配置及び大きさからは想起困難であり、従来の基礎構造の設計方法を用いても算出困難である。
【0067】
したがって、本実施形態の基礎構造の設計方法によれば、基礎構造101,102,103に直接基礎部201と杭基礎部202とを構造物及び地盤の条件に応じて効率良く導入し、合理的な設計を可能とする。合理的な設計とは、構造物及び地盤の条件に応じて最大限に最適化した直接基礎部201と杭基礎部202との荷重分担率を実現するとともに、最適化した荷重分担率に合った直接基礎部201の形式及び杭基礎部202の形式を選定し、採用する基礎形式の長所を最大限に活用することを意味する。
【0068】
本実施形態の基礎構造の設計方法では、第1沈下解析工程において、基礎構造101,102,103の何れかを含む解析モデルに対して構造物の荷重を長期及び短期の各々の条件で加える。また、第1判定工程において、長期及び短期の各々の条件について基礎構造101,102,103の沈下量、直接基礎部201の負担荷重、及び杭基礎部202の負担荷重の全てが各々の許容値以下であるか否かを判定する。
【0069】
本実施形態の基礎構造の設計方法によれば、基礎構造101,102,103の解析モデルに対して仮想的に加える構造物の荷重として、例えば初期荷重や平均荷重のみではなく、長期及び短期にかかる荷重を想定し、長期及び短期の各々における基礎構造101,102,103の沈下解析を行うことができる。また、沈下解析の結果を受けて、基礎構造101,102,103の沈下量、直接基礎部201の負担荷重、及び杭基礎部202の負担荷重の全てが長期及び短期において許容値以下であることを確認するまで、直接基礎部201や杭基礎部202の各形式、条件を最適化できる。その結果、長期及び短期の各々に広く対応可能な基礎構造101,102,103を設計できる。
【0070】
本実施形態の基礎構造の設計方法では、第1沈下解析工程において、構造物、基礎構造101/102/103及び地盤10/12の全体を含む解析モデルに対する沈下解析に、少なくとも直接基礎部201の大きさ及び剛性を表す数値、杭基礎部202の大きさ及び剛性を表す数値、地盤10/12を構成する非支持層20、支持層30の各々(各層)の厚み及び支持力係数をパラメータとして含む3次元FEMを用いる。第1沈下解析工程の沈下解析において、解析モデルを前述のパラメータに合わせたスパンの複数の要素でモデル化する。
【0071】
本実施形態の基礎構造の設計方法によれば、第1沈下解析工程において、予め構造物の荷重条件、地盤10/12の各層の厚み及び支持力係数、直接基礎部201の大きさ及び剛性、杭基礎部202の大きさ及び剛性に関する数値及び条件が組み込まれた解析モデルに対して3次元FEMを用いて沈下解析を行うことができる。3次元FEMを用いた沈下解析では、地盤10/12、直接基礎部201及び杭基礎部202に関する各パラメータに応じたスパンで解析モデルを複数の要素に分割し、各要素或いは要素間において各パラメータを含む微分方程式によって地層10/12と直接基礎部201及び杭基礎部202との作用を詳細に解析できる。また、複数の要素間の作用を地面方向及び深さ方向D3で連続的に解析できる。その結果、直接基礎部201及び杭基礎部202と地盤10,12との相互作用を適切かつ高精度に取り扱うことができる。なお、従来の基礎構造の設計方法では、そもそも直接基礎部及び杭基礎部と地盤との相互作用を上述のように体系的に解析できなかったため、直接基礎部と杭基礎部の各々の長所が発揮された基礎構造の設計が困難であった。
【0072】
本実施形態の基礎構造の設計方法では、形式選定工程において、直接基礎部201に採用する形式は独立基礎131、布基礎132の少なくとも1つを含み、杭基礎部202に採用する形式は支持杭111、摩擦杭113の少なくとも1つを含み、荷重分担率、独立基礎131及び布基礎132の素材の特性、支持杭111及び摩擦杭113の素材の特性、摩擦係数や地盤の特性に合わせて、独立基礎131の大きさ及び布基礎132の幅、支持杭111及び摩擦杭113の長さを調整する。
【0073】
本実施形態の基礎構造の設計方法によれば、選定した直接基礎部201及び杭基礎部202の各形式の荷重分担率、及び地盤10,12の層構造や各層の厚み、N値、支持力係数を含む条件に合わせた設定及び調整できる。例えば、直接基礎部201の独立基礎131の平面視での大きさ、布基礎132の幅を直接基礎部201の荷重分担率及び地盤10,12の非支持層20の組成に合わせて設定及び調整できる。また、杭基礎部202の支持杭111の直径、剛性、深さ方向D3の長さ、摩擦杭113の直径、剛性、側面113sの摩擦係数を杭基礎部202の荷重分担率及び地盤10,12の非支持層20の組成、支持層30の支持力係数に合わせて設定及び調整できる。
【0074】
例えば、構造物の荷重に対して杭基礎部202の荷重負担が許容値よりも大きい場合、又は杭基礎部202の沈下量が直接基礎部201の沈下量よりも小さい場合は、前述のように、杭基礎部202の支持杭111や摩擦杭113の剛性を小さく再設定することによって、杭基礎部202の沈下量を直接基礎部201に合わせて大きくし、結果として直接基礎部201及び杭基礎部202の沈下量を許容値以下に抑えることができる。
【0075】
本実施形態の基礎構造の設計方法では、形式選定工程において、地盤12は、地表面Gを含む非支持層20と非支持層20の直下の支持層30とを含む。直接基礎部201に採用する形式は、独立基礎131及び布基礎132である。布基礎132は、非支持層20に配置される。非支持層20のうち、直接基礎部201が配置される領域を含む所定の領域が軟弱層22であり、軟弱層22のうち少なくとも布基礎132の直下を含む領域に軟弱層22を地盤改良した地盤改良層25が形成されている。本実施形態の基礎構造の設計方法では、第1沈下解析工程において、地盤12の許容支持力及び沈下解析の対象となる解析モデルに軟弱層22及び地盤改良層25の各条件を反映し、沈下解析を行う。
【0076】
本実施形態の基礎構造の設計方法によれば、地盤12のように非支持層20に軟弱層22が存在する場合であっても、少なくとも直接基礎部201の布基礎132の直下を含む軟弱層22の所望の領域を地盤改良し、軟弱層22及び地盤改良層25に対応した基礎構造103を設計できる。
【0077】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は特定の実施形態に限定されない。本発明は、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、変更可能である。
【0078】
なお、本発明に係る基礎構造の設計方法で設計可能な基礎構造は、直接基礎部と杭基礎部とを備える基礎構造を広く含み、上述の実施形態で例示した基礎構造101~104、
図1~
図4の形状を有する基礎構造101~104に限定されない。例えば、本発明に係る基礎構造の設計方法によって、図示していないが直接基礎部201として独立基礎131を備え、且つ杭基礎部202として摩擦杭113を備える基礎構造を設計できる。
【0079】
また、本発明に係る基礎構造の設計方法で設計可能な基礎構造が配置される地盤の条件についても、上述の実施形態で例示した地盤10,12に限定されず、直接基礎部と杭基礎部とを備える基礎構造に適した地盤の任意の条件を設定できる。例えば、上述の実施形態で例示した基礎構造101,102,104の何れか1以上の基礎構造が配置される地盤に基礎構造103に関して説明した地盤改良がなされ、地盤改良層25が形成されてもよい。
【符号の説明】
【0080】
10,12…地盤
20…非支持層
22…軟弱層
25…地盤改良層
30…支持層
101,102,103…基礎構造
111…支持杭
113…摩擦杭
131…独立基礎
132…布基礎
201…直接基礎部
202…杭基礎部