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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038755
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】濡れ広げシステム及び濡れ広げ方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20240313BHJP
   C12Q 1/24 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
C12M1/34 A
C12Q1/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143012
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】長島 健太
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029BB02
4B029BB06
4B029GA01
4B029HA05
4B063QA06
4B063QQ06
4B063QQ07
4B063QR75
4B063QR76
(57)【要約】
【課題】試験片と被覆フィルムとの間において液体を濡れ広げる作業の効率化を可能とした濡れ広げシステム及び濡れ広げ方法を提供する。
【解決手段】試験片11と被覆フィルム12との間に位置する試験菌液13を、試験片11と被覆フィルム12との間において濡れ広げるための濡れ広げシステム1であって、試験片11と被覆フィルム12と試験菌液13とが収容されたシャーレSを保持する保持部21と、保持部21を傾ける傾動部22と、試験片11と被覆フィルム12との間において試験菌液13が濡れ広がるように傾動部22を駆動する制御部31と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験片と被覆フィルムとの間に位置する液体を、前記試験片と前記被覆フィルムとの間において濡れ広げるための濡れ広げシステムであって、
前記試験片と、前記被覆フィルムと、前記試験片と前記被覆フィルムとの間に位置する前記液体と、が収容された容器を保持する保持部と、
前記保持部を傾ける傾動部と、
前記試験片と前記被覆フィルムとの間において前記液体が濡れ広がるように前記傾動部を駆動する制御部と、を備える
濡れ広げシステム。
【請求項2】
前記被覆フィルムは、円形状を有し、
前記被覆フィルムにおける前記試験片と対向する面の面積は、400mm以上1600mm以下であり、かつ、前記試験片における前記被覆フィルムと対向する面の面積よりも小さい
請求項1に記載の濡れ広げシステム。
【請求項3】
前記被覆フィルムにおける前記試験片と対向する面には、親水性処理が施されている
請求項1または2に記載の濡れ広げシステム。
【請求項4】
前記被覆フィルムにおける前記試験片と対向する面は、前記試験片における前記被覆フィルムと対向する面よりも高い親水性を有する
請求項1または2に記載の濡れ広げシステム。
【請求項5】
前記被覆フィルムにおける前記試験片と対向する第1面は、前記被覆フィルムにおける前記第1面と反対の第2面よりも高い親水性を有する
請求項1または2に記載の濡れ広げシステム。
【請求項6】
試験片と被覆フィルムとの間に位置する液体を、前記試験片と前記被覆フィルムとの間において濡れ広げるための方法であって、
容器に設置した前記試験片に前記液体を滴下することと、
前記試験片に滴下された前記液体の上に前記被覆フィルムを被せることと、
前記容器を保持する保持部に前記容器を設置することと、
前記試験片と前記被覆フィルムとの間において前記液体が濡れ広がるように前記保持部を傾ける傾動部を駆動することと、を含む
濡れ広げ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濡れ広げシステム及び濡れ広げ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物品の表面における細菌に対する抗菌性の試験方法の一例として、JIS Z 2801に規定される抗菌加工を施した製品の表面における細菌に対する抗菌性試験方法が知られている(非特許文献1を参照)。抗菌性の試験方法の一例は、シャーレに設置した試験片の表面に試験菌液を滴下した後、滴下した試験菌液にフィルムを被せる。そして、試験菌液をフィルム全体に行き渡るように濡れ広げた後、シャーレに蓋をする。その後、温度及び湿度が所定の条件に設定された環境下に一定時間シャーレを静置することによって、試験菌液を摂取した試験片の培養を行う。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】JIS Z 2801:2012「抗菌加工製品-抗菌性試験方法・抗菌効果」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来では、試験菌液をフィルム全体に濡れ広げる際には、フィルムのなかで試験菌液が行き渡っていない部分を作業者が目視で確認しながら、手作業で試験菌液を濡れ広げていた。しかし、抗菌性の試験では、1水準の抗菌加工の評価であっても、抗菌加工を施していない無加工品に対する試験や、菌種の異なる試験菌液を使用した試験が行われるため、複数の試料を作成する必要がある。そのため、試験菌液をフィルム全体に濡れ広げる作業を繰り返す必要があったことから、その作業効率の向上が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための濡れ広げシステムは、試験片と被覆フィルムとの間に位置する液体を、前記試験片と前記被覆フィルムとの間において濡れ広げるための濡れ広げシステムであって、前記試験片と、前記被覆フィルムと、前記試験片と前記被覆フィルムとの間に位置する前記液体と、が収容された容器を保持する保持部と、前記保持部を傾ける傾動部と、前記試験片と前記被覆フィルムとの間において前記液体が濡れ広がるように前記傾動部を駆動する制御部と、を備える。
【0006】
上記課題を解決するための濡れ広げ方法は、試験片と被覆フィルムとの間に位置する液体を、前記試験片と前記被覆フィルムとの間において濡れ広げるための方法であって、容器に設置した前記試験片に前記液体を滴下することと、前記試験片に滴下された前記液体の上に前記被覆フィルムを被せることと、前記容器を保持する保持部に前記容器を設置することと、前記試験片と前記被覆フィルムとの間において前記液体が濡れ広がるように前記保持部を傾ける傾動部を駆動することと、を含む。
【0007】
上記構成または方法によれば、試験片と被覆フィルムとの間において液体を濡れ広げる作業を自動で行うことができる。結果として、試験片と被覆フィルムとの間に液体を濡れ広げる作業を効率化できる。
【0008】
上記濡れ広げシステムにおいて、前記被覆フィルムは、円形状を有し、前記被覆フィルムにおける前記試験片と対向する面の面積は、400mm以上1600mm以下であり、かつ、前記試験片における前記被覆フィルムと対向する面の面積よりも小さくてもよい。上記構成によれば、被覆フィルムが円形状を有することで、液体が被覆フィルムの角部に集中することなく、試験片と被覆フィルムとの間の全体に液体を濡れ広げることができる。これにより、例えば、液体が被覆フィルムの角部に集中することで、液体が角部からはみ出すことを抑制できる。
【0009】
上記濡れ広げシステムにおいて、前記被覆フィルムにおける前記試験片と対向する面には、親水性処理が施されていてもよい。上記構成によれば、被覆フィルムの親水性を高めることができる。これにより、仮に試験片の濡れ性が低い場合であっても、試験片と被覆フィルムとの間の全体に液体を好適に濡れ広げることができる。
【0010】
上記濡れ広げシステムにおいて、前記被覆フィルムにおける前記試験片と対向する面は、前記試験片における前記被覆フィルムと対向する面よりも高い親水性を有する構成としてもよい。上記構成によれば、仮に試験片の親水性が低い場合であっても、試験片と被覆フィルムとの間の全体に液体を好適に濡れ広げることができる。
【0011】
上記濡れ広げシステムにおいて、前記被覆フィルムにおける前記試験片と対向する第1面は、前記被覆フィルムにおける前記第1面と反対の第2面よりも高い親水性を有する構成としてもよい。上記構成によれば、被覆フィルムのうち親水性の高い第1面によって液体を覆うことで、第2面によって液体を覆う場合と比較して、より容易に第1面の全体に液体を濡れ広げることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、試験片と被覆フィルムとの間において液体を濡れ広げる作業を効率化できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、濡れ広げシステムを模式的に示す斜視図である。
図2図2は、容器に設置された試料を模式的に示す斜視図である。
図3図3は、試料を模式的に示す側面図である。
図4図4は、濡れ広げ装置を模式的に示す上面図である。
図5図5は、濡れ広げ装置が傾いた状態を模式的に示す側面図である。
図6図6は、濡れ広げ装置が容器を水平に支持する状態を模式的に示す側面図である。
図7図7は、濡れ広げ装置が容器を傾けた状態を模式的に示す側面図である。
図8図8は、濡れ広げ装置が図7に示す状態から反対に容器を傾けた状態を模式的に示す側面図である。
図9図9は、濡れ広げ装置の変更例を模式的に示す側面図である。
図10図10は、実施例1~3で用いた被覆フィルムの条件と、実施例1~3の評価結果とを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[濡れ広げシステム]
以下、濡れ広げシステムの一実施形態について図1図9を参照して説明する。濡れ広げシステムは、一例として、JIS Z 2801:2012に規定される抗菌性試験方法において、試験片に滴下された試験菌液に被覆フィルムを被せた状態で、試験菌液を試験片と被覆フィルムとの間の全体に濡れ広げるために用いられる。
【0015】
図1に示すように、濡れ広げシステム1では、容器の一例であるシャーレSに試料10が収容される。試料10は、試験片11と、被覆フィルム12と、試験片11と被覆フィルム12との間に位置する試験菌液13とを備える。
【0016】
試験片11は、例えば、抗菌性試験における抗菌効果の評価対象であって、抗菌加工が施された抗菌加工試験片である。もしくは、試験片11は、例えば、抗菌性試験における抗菌効果を測るための比較対象であって、抗菌加工が施されていない無加工試験片である。被覆フィルム12は、試験片11に滴下された試験菌液13を覆う。試験菌液13は、細菌を含む液体である。
【0017】
濡れ広げシステム1は、濡れ広げ装置20を備える。濡れ広げ装置20は、保持部21と、傾動部22とを備える。保持部21は、保持台21Aと、複数の保持片21Bとを備える。保持台21Aは、一例として円柱形状を有するがその形状は限定されず、例えば矩形状であってもよいし、多角柱状であってもよい。保持台21Aは、シャーレSが載置される載置面21Sを備える。
【0018】
保持片21Bは、保持台21Aの載置面21Sに突設されている。保持片21Bは、一例として、円柱形状を有する。保持部21は、保持台21Aの載置面21SにシャーレSが設置された状態で、シャーレSが載置面21Sに沿って移動することを複数の保持片21Bが規制することでシャーレSを保持する。
【0019】
傾動部22は、保持部21の載置面21Sを傾けるための機構である。傾動部22は、例えば、エアシリンダ、電動モータ等のアクチュエータ、もしくは、それらが複数組み合わされたロボットアームであってもよい。傾動部22は、試験片11と被覆フィルム12との間で試験菌液13が下方に向かって濡れ広がるように、シャーレSが設置された保持部21を傾動する。
【0020】
濡れ広げシステム1は、制御装置30を備える。制御装置30は、制御部31と、記憶部32とを備える。制御部31は、一例として、CPUである。制御部31は、傾動部22が保持部21を傾ける動作を制御する。すなわち、制御部31は、試験片11と被覆フィルム12との間において試験菌液13が濡れ広がるように傾動部22を駆動する。
【0021】
記憶部32は、一例として、HDDである。記憶部32は、一例として、制御部31が傾動部22の動作を制御するためのプログラムを記憶する。傾動部22の動作を制御するためのプログラムは、例えば、傾動部22が保持部21を傾動する際において、保持部21を傾動する方向、傾斜角度、動作速度、及び傾動回数を規定する。
【0022】
制御部31は、例えば、保持部21にシャーレSが設置されたことを検知したときに、傾動部22を駆動して保持部21を傾ける動作を実行させてもよい。この場合、保持部21は、シャーレSが設置されたことを検知する検知部を備えてもよい。検知部の一例は、光センサ(例えば赤外線センサ)や、保持部21に設置されたシャーレSの重量を検知する感圧センサである。また、制御部31は、CPUに限らず、例えば、リレー回路などの電気回路によって傾動部22を駆動する構成であってもよい。
【0023】
[シャーレ及び試料の構成]
図2に示すように、シャーレSは、上部に開口を有し、かつ、平坦な底面を有した容器である。シャーレSは、上部の開口を塞ぐための蓋部を着脱可能に構成される。シャーレSは、例えば、90mmの内径を有した円形のガラス容器である。もしくは、シャーレSは、JIS K 0950に規定の90A号もしくは90B号に適合する容器である。なお、シャーレSは、試料10を収容可能な大きさであれば任意の形状でよい。また、シャーレSは、ガラス製に限定されず、例えば、樹脂製であってもよい。
【0024】
試験片11は、一例として、プラスチック製、金属製、紙製、またはセラミック製、もしくは、それらが複数種類組み合わされた複合体であってもよい。試験片11は、試験対象面11Sを備える。試験対象面11Sは、試験片11がシャーレSに設置された状態で上方に面する。試験対象面11Sは、被覆フィルム12に対向する面であって、試験菌液13が滴下される面である。試験対象面11Sは、一例として一辺が48mm以上52mm以下の正方形である。試験片11の厚さは、一例として10mm以下である。
【0025】
試験対象面11Sは、例えば、抗菌性試験における抗菌効果の評価対象となる面であって、抗菌加工が施された面である。もしくは、試験対象面11Sは、抗菌性試験における抗菌効果を測るための比較対象となる面であって、抗菌加工が施されていない面である。なお、試験片11は、被覆フィルム12が試験対象面11Sからはみ出さない大きさであれば任意の形状でよい。
【0026】
被覆フィルム12は、微生物や菌の発育に影響を及ぼさず、かつ、吸水性がなく、さらに、密着性が高い樹脂材料で構成される。被覆フィルム12は、一例として、ポリエチレン製のフィルムである。被覆フィルム12は、被覆フィルム12の外縁が試験対象面11Sの外縁の内側に位置するように、試験片11に対して配置される。
【0027】
被覆フィルム12は、試験対象面11Sと対向する第1面12S1(図3参照)の面積が試験片11の試験対象面11Sの面積よりも小さい。また、被覆フィルム12は、第1面12S1の面積が400mm以上1600mm以下であることが好ましい。
【0028】
第1面12S1の面積を400mm以上とすることで、試験菌液13が被覆フィルム12の全体に濡れ広がった際に、評価に必要な試験対象面11Sと試験菌液13との接触面積を確保できる。
【0029】
第1面12S1の面積を1600mm以下とすることで、被覆フィルム12が試験対象面11Sからはみ出さないように設置することが容易となる。また、第1面12S1の面積を1600mm以下とすることで、被覆フィルム12の外縁と試験対象面11Sの外縁との距離を確保できる。これにより、試験菌液13が被覆フィルム12の全体に濡れ広がった際に、試験菌液13が試験対象面11Sの外縁から試験対象面11Sの裏面に回り込むことを防ぐことができる。したがって、試験片11と試験菌液13との接触面積が過剰に大きくなることによる抗菌性試験の誤判定を防ぐことができる。
【0030】
被覆フィルム12は、8角形以上の多角形、より好ましくは円形状である。仮に、正方形の被覆フィルム12を試験片11に設置する際には、試験片11の中心と被覆フィルム12の中心とを重ねる以外に、被覆フィルム12の角部が試験片11からはみ出さないように試験片11に対する被覆フィルム12の角度も制御する必要がある。この点、被覆フィルム12を8角形以上の多角形、より好ましくは円形状とすることで、被覆フィルム12を試験片11に設置する際に、試験片11に対する被覆フィルム12の角度を制御する必要が無くなる。したがって、より容易に被覆フィルム12を試験片11に設置できる。
【0031】
また、傾動部22が保持部21の載置面21Sを傾けた際には、被覆フィルム12の角部(頂点部)に試験菌液13が集中して溜まりやすく、試験菌液13が過剰に溜まった場合には、試験菌液13が被覆フィルム12から漏れ出る。この点、被覆フィルム12を8角形以上の多角形とすることで、仮に正方形の被覆フィルム12を用いる場合よりも角部の数が多くなることから、1つの角部あたりに溜まる試験菌液13の量を低減できる。そのため、1つの角部に試験菌液13が過剰に溜まることを抑制できるため、試験菌液13が被覆フィルム12から漏れ出にくくなる。また、被覆フィルム12が円形状であれば、被覆フィルム12が角部を備えないため、試験菌液13が被覆フィルム12の外縁上の1点に溜まることを抑制できるためより好ましい。
【0032】
試験菌液13は、細菌が培養液に分散した液体である。抗菌性試験においては、一例として、1つの試験片11を評価するために0.4mLの試験菌液13が用いられる。細菌は、例えば、黄色ブドウ球菌または大腸菌である。培養液は、例えば、普通ブイヨン培地を精製水で500倍に希釈した1/500普通ブイヨン培地(1/500NB)である。普通ブイヨン培地は、1000mLの精製水またはイオン交換水に対して、3.0gの微生物試験用の肉エキスと、10.0gのペプトンと、5.0gの塩化ナトリウムとを加えて混合したものである。なお、試験菌液13の量の下限は、0.1mL以上である。抗菌性試験において試験菌液13の量を減らす場合、試験片11に提供される細菌の数が変わらないように、試験菌液13中の細菌の濃度を高めるとよい。
【0033】
図3に示すように、被覆フィルム12は、相反する方向に面する第1面12S1と第2面12S2とを備える。第1面12S1は、試験片11の試験対象面11Sと対向する面であって、試験菌液13と接する面である。第2面12S2は、第1面12S1と反対の面である。
【0034】
第1面12S1は、試験対象面11Sよりも高い親水性(濡れ性)を有する。これにより、仮に、試験対象面11Sの親水性が低い場合であっても、試験片11と被覆フィルム12との間において、第1面12S1の全体に試験菌液13を好適に濡れ広げることができる。なお、基準面が比較面よりも親水性が高いことは、基準面に液体を滴下したときの接触角が、比較面に同じ液体を滴下したときの接触角よりも小さいことを意味する。
【0035】
第1面12S1は、親水性処理が施されていることが好ましい。親水性処理は、樹脂材料の表面の親水性(濡れ性)を高めるための処理である。親水性処理は、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、サンドブラスト加工、ケミカルマット加工、コーティングマット加工、及び、エッチング加工からなる群から選択される少なくとも一種である。第1面12S1に親水性処理が施されていることで、試験片11と被覆フィルム12との間において、第1面12S1の全体に試験菌液13をより好適に濡れ広げることができる。
【0036】
親水性処理の一例は、樹脂材料の表面に極性官能基を導入することで親水性を向上させる処理である。樹脂材料の表面に極性官能基を導入する処理は、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、及び、フレーム処理である。
【0037】
親水性処理の一例は、例えば、素材の表面に凹凸形状を形成することで親水性を向上させる粗面化処理である。粗面化処理は、例えば、サンドブラスト加工、ケミカルマット加工、コーティングマット加工、及び、エッチング加工である。なお、ケミカルマット加工は、素材の表面に樹脂材料で被覆した後、被覆した樹脂材料に粒子を吹き付けて粗面化した表面を形成する処理である。コーティングマット加工は、フィラーを含有させた合成樹脂を素材の表面にコーティングすることにより、素材の表面に凹凸形状を形成する処理である。
【0038】
なお、第2面12S2は、親水性処理が施されていてもよいし、親水性処理が施されていなくてもよい。第2面12S2に親水性処理が施されていない場合、第1面12S1は、第2面12S2よりも高い親水性を有する。この場合、第1面12S1によって試験菌液13を覆うことで、第2面12S2によって試験菌液13を覆う場合と比較して、より容易に第1面12S1の全体に試験菌液13を濡れ広げることができる。また、第2面12S2に親水性処理が施されていない分だけ、被覆フィルム12の製造コストの削減が可能となる。なお、第2面12S2に親水性処理が施されている場合は、被覆フィルム12の表裏を区別することなく被覆フィルム12を試験片11に設置できる。
【0039】
[濡れ広げ装置の構成]
図4に示すように、保持片21Bは、例えば、シャーレSが載置面21Sに載置された状態で、シャーレSの外形よりもわずかに離れた位置に配置される。複数の保持片21Bは、例えば、載置面21S上の一点を回転中心として、互いに回転対称になるように配置される。例えば、保持片21Bの数をn個(nは3以上の整数)としたとき、載置面21Sの一点を回転中心として、n個の保持片21Bがn回対称となるように配置される。このとき、シャーレSは、シャーレSの中心が複数の保持片21Bの回転中心と重なるように設置される。
【0040】
なお、図4では、4つの保持片21Bが載置面21Sの中心Pを回転中心とした4回対称となるように配置された状態を図示している。この場合、シャーレSは、シャーレSの円形状の中心が載置面21Sの中心Pと重なるように設置される。
【0041】
傾動部22は、保持部21を傾ける際の回転軸となる1つまたは複数の傾動軸を備える。傾動軸は、載置面21SもしくはシャーレSの底面と平行な面内において、一次元方向に延びる軸であることが好ましいが、載置面21Sに対して直交しない範囲で載置面21Sに対して交差する面内において、一次元方向に延びる軸であってもよい。傾動部22は、1つの傾動軸を備えるごとに、載置面21Sの一端を下方に移動させる順方向の傾動と、該一端を上方に移動させる逆方向の傾動とを行うことができる。
【0042】
一例として、傾動部22は、第1傾動軸AX1と、第2傾動軸AX2とを備える。第1傾動軸AX1及び第2傾動軸AX2は、それぞれ載置面21Sと平行な面内において、一次元方向に延びる傾動軸の一例である。
【0043】
載置面21Sと対向する視点から見る上面視(以下、単に上面視とする)において、第1傾動軸AX1及び第2傾動軸AX2は、一例として、それぞれ載置面21Sの中心Pを通過する。すなわち、第1傾動軸AX1及び第2傾動軸AX2は、上面視において載置面21Sの中心Pで交差する。なお、第1傾動軸AX1及び第2傾動軸AX2の一方または両方が、上面視で載置面21Sの中心Pを通らずに、中心Pからずれた位置を通過する構成であってもよい。この場合、第1傾動軸AX1及び第2傾動軸AX2は、中心Pからずれた位置で交差する。
【0044】
傾動部22が第1傾動軸AX1と第2傾動軸AX2と2つの傾動軸を備える場合、上面視において2つの傾動軸がなす第1角度θ1は、90度であることが好ましい。この場合、載置面21S及びシャーレSの底面と平行な面内方向で90度刻みの4方向にシャーレSを傾けることができる。これにより、傾動部22が第1傾動軸AX1と第2傾動軸AX2とのそれぞれを順方向及び逆方向に傾動させたときに、試験片11と被覆フィルム12との間において、試験菌液13を偏りなく濡れ広げることができる。
【0045】
また、傾動部22が3つ以上の傾動軸を備える場合も同様に、上面視において隣り合う2つの傾動軸がなす角が何れも等しくなるように、各傾動軸を配置することが好ましい。なお、傾動部22が3つ以上の傾動軸を備える場合、上面視において全ての傾動軸が一点で交わらなくてもよく、例えば、1つの傾動軸が2つの他の傾動軸に跨るようにして配置されてもよい。この場合では、上面視において、全ての傾動軸が一点で交わるように傾動軸を仮想的に平行移動させたときに、隣り合う2つの傾動軸がなす角が互いに等しくなるように、傾動軸を配置することが好ましい。この場合、載置面21S及びシャーレSの底面と平行な面内方向で等角度間隔の複数の方向にシャーレSを傾けることができる。これにより、傾動部22が各傾動軸を順方向及び逆方向に傾動させたときに、試験片11と被覆フィルム12との間において、試験菌液13を偏りなく濡れ広げることができる。
【0046】
図5に示すように、傾動部22は、一例として、載置面21Sが水平な状態から、載置面21Sが水平面に対して傾斜する角度が所定の第2角度θ2になるように、保持部21を傾動する。なお、図5では、載置面21Sが水平な状態を二点鎖線で図示するとともに、載置面21Sが水平な状態から第1傾動軸AX1を回転軸として、載置面21Sが水平面に対して傾斜する角度が第2角度θ2となった状態を図示している。
【0047】
第2角度θ2は、一例として、5度以上30度以下である。第2角度θ2を5度以上とすることで、試験菌液13が自重によって下方に向かって濡れ広がり易くすることができる。第2角度θ2を30度以下とすることで、試験菌液13が下方に向かって過剰に濡れ広がることを抑制できる。これにより、下方に向かって濡れ広がった試験菌液13が被覆フィルム12から漏れ出すことを抑制できる。
【0048】
また、傾動部22は、載置面21Sが水平面に対して傾斜した状態で所定の停止時間が経過するまで停止した後、再び載置面21Sが水平な状態になるように保持部21を傾動する。停止時間は、一例として、1秒以上10秒以下である。停止時間の下限は、好ましくは2秒以上、より好ましくは3秒以上である。停止時間の上限は、好ましくは8秒以下、より好ましく7秒以下である。停止時間を上記範囲とすることで、試験菌液13を下方に向けて好適に濡れ広げつつ、過剰な量の試験菌液13が下方に向かって濡れ広がることを抑制できる。
【0049】
なお、第2角度θ2及び停止時間に加え、傾動軸の数や傾動を行う回数などの条件は、試験片11及び被覆フィルム12の親水性に応じて適宜決定すればよい。例えば、試験片11と被覆フィルム12との間において、試験菌液13が濡れ広がり易い場合には、第2角度θ2を小さくしつつ、停止時間を短くするとともに、傾動を行う回数を少なくするとよい。反対に、試験菌液13が濡れ広がりにくい場合には、駆動する傾動軸の数を多くして傾動を行う回数を増やすとともに、第2角度θ2を大きくしつつ、停止時間を長くするとよい。
【0050】
例えば、第2角度θ2を大きくしつつ、傾動を行う回数を少なくすれば、濡れ広げに要する時間を短縮できる。反対に、第2角度θ2を小さくしつつ、傾動を行う回数を増やせば、試験菌液13が被覆フィルム12の外縁に向かって徐々に濡れ広がることから、試験菌液13が被覆フィルム12から漏れ出すことを抑制できる。
【0051】
[濡れ広げ方法]
濡れ広げシステム1を用いた濡れ広げ方法の一例は、まず、試験片11を試験対象面11Sが上方に面するように滅菌されたシャーレSに設置する。次いで、メスピペットを用いて0.4mLの試験菌液13を、シャーレSに設置した試験片11の試験対象面11Sに滴下する。その後、試験片11に滴下された試験菌液13の上に被覆フィルム12を被せる。このとき、被覆フィルム12の第1面12S1が試験対象面11Sと対向するように、かつ、被覆フィルム12の外縁が試験片11の外縁からはみ出さないように被覆フィルム12を設置する。
【0052】
図6に示すように、続いて、載置面21Sを水平にした状態で、保持部21にシャーレSを設置する。この状態では、保持部21がシャーレSを水平に支持する。この状態から、試験片11と被覆フィルム12との間において試験菌液13が濡れ広がるように、制御部31が傾動部22を駆動する。
【0053】
図7に示すように、制御部31は、載置面21Sが水平面に対して傾斜するように、保持部21を傾動する動作を傾動部22に実行させる。例えば、制御部31は、載置面21Sが水平面に対して傾斜するように、第1傾動軸AX1を回転軸として保持部21が図7中で反時計回りに回転するように傾動部22を駆動する。
【0054】
そして、制御部31は、所定の停止時間が経過するまで載置面21Sが水平面に対して傾斜した状態を保持するように傾動部22を制御する。所定の停止時間が経過した後、制御部31は、再び載置面21Sが水平な状態になるように、保持部21を傾動する動作を傾動部22に実行させる。例えば、制御部31は、再び載置面21Sが水平な状態になるように、第1傾動軸AX1を回転軸として保持部21が図7中で時計回りに回転するように傾動部22を駆動する。以上の動作が、傾動部22が保持部21を傾動するための一連の動作である。
【0055】
図8に示すように、続いて、制御部31は、回転する方向を反転させた状態、もしくは、回転軸となる傾動軸を変えた状態で、載置面21Sが水平面に対して傾斜するように、保持部21を傾動する動作を傾動部22に実行させる。例えば、制御部31は、第1傾動軸AX1を回転軸として保持部21が図8中で時計回りに回転するように傾動部22を駆動する。そして、所定の停止時間が経過した後、制御部31は、再び載置面21Sが水平な状態になるように、第1傾動軸AX1を回転軸として保持部21が図8中で反時計回りに回転するように傾動部22を駆動する。
【0056】
以上のように、濡れ広げシステム1を用いた濡れ広げ方法としては、回転軸となる傾動軸と回転する方向との組合せにおいて、少なくとも一方の条件が異なる2以上の条件下において、傾動部22が保持部21を駆動することが好ましい。なお、複数の条件下で保持部21を駆動する際の順序は特に限定されず、被覆フィルム12から試験菌液13が漏れ出さず、かつ、試験片11と被覆フィルム12との間において試験菌液13が好適に濡れ広がるように適宜設定すればよい。また、同一の条件下で複数回の傾動を行ってもよい。
【0057】
[実施形態の効果]
上記実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)濡れ広げシステム1によれば、試験片11と被覆フィルム12との間において試験菌液13を濡れ広げる作業を自動で行うことができる。結果として、当該作業を効率化できる。
【0058】
(2)被覆フィルム12が円形状を有することで、試験菌液13が被覆フィルム12の角部に集中することなく、試験片11と被覆フィルム12との間の全体に試験菌液13を濡れ広げることができる。これにより、例えば、試験菌液13が被覆フィルム12の角部に集中することで、試験菌液13が角部からはみ出すことを抑制できる。
【0059】
(3)被覆フィルム12における第1面12S1に親水性処理を施すことで、第1面12S1の親水性を高めることができる。これにより、仮に試験片11の試験対象面11Sの濡れ性が低い場合であっても、試験片11と被覆フィルム12との間の全体に試験菌液13を好適に濡れ広げることができる。
【0060】
(4)第1面12S1が試験対象面11Sよりも高い親水性を有することで、仮に試験対象面11Sの濡れ性が低い場合であっても、試験片11と被覆フィルム12との間の全体に試験菌液13を好適に濡れ広げることができる。
【0061】
(5)第1面12S1の親水性を第2面12S2の親水性よりも高くした場合、親水性の高い第1面12S1によって試験菌液13を覆うことで、より容易に第1面12S1の全体に試験菌液13を濡れ広げることができる。
【0062】
(6)傾動部22が2つ以上の傾動軸を備えることで、試験片11と被覆フィルム12との間において、試験菌液13を偏りなく濡れ広げることができる。このとき、上面視において、隣り合う2つの傾動軸がなす角が互いに等しくなるように傾動軸を配置することで、試験菌液13を均一に濡れ広げることができる。
【0063】
[変更例]
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。また、各変更例は、技術的に矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【0064】
・試験対象面11Sの親水性が高い場合には、第1面12S1が第2面12S2よりも親水性が低くてもよいし、第1面12S1が第2面12S2と同等の親水性を有していてもよい。
【0065】
・試験対象面11Sの親水性が高い場合には、第1面12S1が試験対象面11Sよりも親水性が低くてもよいし、第1面12S1が試験対象面11Sと同等の親水性を有していてもよい。
【0066】
・試験対象面11Sの親水性が高い場合には、第1面12S1に親水性処理が施されていなくてもよい。もしくは、第1面12S1が親水性処理を施さずとも高い親水性を有するのであれば、第1面12S1に親水性処理が施されていなくてもよい。
【0067】
・試験対象面11Sまたは第1面12S1の親水性が相対的に低い場合など、試験菌液13が被覆フィルム12の角部から漏れ出すことが生じない場合には、被覆フィルム12の形状は、八角形以上の多角形もしくは円形状に限定されない。例えば、被覆フィルム12を四角形としてもよい。
【0068】
・濡れ広げシステム1は、JIS Z 2801:2012に規定される抗菌性試験方法に適合するように試験菌液13を濡れ広げるためのものであるが、それ以外の用途にも適用可能である。例えば、濡れ広げシステム1は、試験菌液13に代えて、細菌を含まない任意の液体を濡れ広げるために用いられてもよい。言い換えれば、試験片11、被覆フィルム12、試験菌液13、及び、シャーレSは、必ずしもJIS Z 2801:2012に規定される抗菌性試験方法に準拠する必要はない。
【0069】
・傾動部22が備える傾動軸の数は、1つであってもよいし、複数であってもよい。また、傾動部22が備える傾動軸が1つの場合において、例えば、水平面から順方向または逆方向の一方のみに傾動する構成であってもよい。この場合、ぬれ広げ装置20は、載置面21Sと直交する軸を回転軸として保持部21を回転させる回転部を有していてもよい。これにより、傾動部22が保持部21を傾けたときに、保持部21の下方に位置する部分を変えることができる。このような構成であっても、試験片11と被覆フィルム12との間の全体に試験菌液13を均一に濡れ広げることができる。
【0070】
・保持部21は、保持台21Aと保持片21Bとを備える構成に限定されず、任意の構成としてよい。例えば、保持片21Bに代えて、または、保持片21Bに加えて、載置面21Sに吸着部もしくは高摩擦部を設けてもよい。吸着部は、シャーレSの底面に吸着力を作用させるための構成であって、例えば、吸着パッド、多孔質プレート、粘着シートから選択される少なくとも1種である。高摩擦部は、シャーレSの底面との間の摩擦力を高めるための構成であって、例えば、ゴム製(例えばシリコーンゴムや合成樹脂)のシート部材である。
【0071】
図9に示すように、濡れ広げ装置20は、保持部21としてロボットハンドを備えるとともに、傾動部22としてロボットアームを備えてもよい。この場合、例えば、シャーレSの開口がカバーCによって塞がれた状態で、保持部21としてのロボットハンドは、シャーレS及びカバーCを挟持する。ロボットハンドは、シャーレS及びカバーCと接する部分に吸着部もしくは高摩擦部を備えていてもよい。なお、図9では、ロボットハンドにおいて、シャーレS及びカバーCと接する部分にドットを付して示す。
【0072】
傾動部22としてのロボットアームは、試験片11と被覆フィルム12との間において試験菌液13が濡れ広がるように保持部21を傾動する。傾動部22の傾動軸は、保持部21が保持するシャーレSの底面と平行な面内において、一次元方向に延びる軸であることが好ましい。例えば、傾動部22は、保持部21が保持するシャーレSの底面と平行な面内において、それぞれ一次元方向に延びるとともに互いに直交する第1傾動軸AX1と第2傾動軸AX2とを備えてもよい。この場合、傾動部22は、第1傾動軸AX1と第2傾動軸AX2とのそれぞれを回転軸として、順方向及び逆方向に保持部21を回転させることで、シャーレSの底面と平行な面内方向で90度刻みの4方向にシャーレSを傾けることができる。以上のような構成であっても、試験片11と被覆フィルム12との間において試験菌液13を濡れ広げることができる。
【0073】
・保持部21は、複数のシャーレSを保持可能に構成されてもよい。この場合、傾動部22が保持部21を傾けることで、複数の試料10において試験菌液13を濡れ広げる作業を同時に行うことができる。
【0074】
[実施例]
以下、図10を参照して、実施例及び比較例について説明する。なお、以下の実施例は、上記実施形態の効果を説明するための一例であって、本発明を限定するものではない。
【0075】
[実施例1]
実施例1では、試験片11として厚さが5mm、かつ、一辺が50mmの正方形を有したフッ素樹脂(PTEF)を用いた。被覆フィルム12として、直径が45mmの円形を有したポリエチレン製のフィルムを用いた。第1面12S1には、親水性処理の一例であるコロナ処理を施すことで、第1面12S1の親水性を高めた。なお、第1面12S1は、試験対象面11Sよりも親水性が高くなっている。試験菌液13として、大腸菌を1/500普通ブイヨン培地に分散させた0.4mLの液体を用いた。シャーレSは、90mmの直径を有した樹脂製の容器を用いた。
【0076】
実施例1で用いた濡れ広げ装置20は、保持部21としてロボットハンドを備えるとともに、傾動部22としてロボットアームを備える構成とした。保持部21は、試料10を収容したシャーレSに蓋部の一例であるカバーCを被せた状態でシャーレS及びカバーCを挟持した。傾動部22は、保持部21が保持するシャーレSの底面と平行な面内において、それぞれ一次元方向に延びるとともに互いに直交する第1傾動軸AX1と第2傾動軸AX2とを備える構成とした。したがって、傾動部22は、第1傾動軸AX1と第2傾動軸AX2とのそれぞれを回転軸として、順方向及び逆方向に保持部21を回転させることで、シャーレSの底面と平行な面内方向で90度刻みの4方向にシャーレSを傾けることが可能な構成とした。なお、各方向において、傾動部22が保持部21を傾ける第2角度θ2を5度以上30度以下の範囲で調製可能な構成とした。また、傾動部22が保持部21を傾けた状態を保つ停止時間を1秒以上10秒以下の範囲で調整可能な構成とした。
【0077】
[実施例2]
実施例2では、被覆フィルム12の第1面12S1に親水性処理を施さなかった点を除き、実施例1と同様の構成とした。なお、実施例2で用いた被覆フィルム12の第1面12S1は、実施例1で用いた被覆フィルム12の第1面12S1よりも親水性が低いが、試験対象面11Sよりも親水性が高い構成であった。
【0078】
[実施例3]
実施例3では、試験片11をポリエチレン製のフィルムとしたうえで、試験対象面11Sにコロナ処理を施すことで親水性を高めた。したがって、実施例3で用いた試験片11の試験対象面11Sは、実施例1で用いた試験片11の試験対象面11Sよりも親水性が高い。さらに、被覆フィルム12を一辺が40mmの正方形としたうえで、第1面12S1には、実施例1と同様にコロナ処理を施した。なお、実施例3では、上記以外の部分については、実施例1と同様に構成した。
【0079】
[評価1:第1面の親水性の影響]
評価1として、実施例1,2において、第1傾動軸AX1と第2傾動軸AX2とのそれぞれを回転軸として順方向及び逆方向に保持部21を傾けることで、シャーレSの底面と平行な面内方向で90度刻みの4方向に1回ずつシャーレSを傾けた。各方向において、第2角度θ2を20度、かつ、停止時間を2秒の条件とした。これを1サイクルとして、試験菌液13が試験片11と被覆フィルム12との間の全体に濡れ広がるまでに要したサイクル数が、1~3サイクルのものを良(○)、4~6サイクルのものを並(△)として評価を行った。なお、試験片11と被覆フィルム12との間の全体に濡れ広がっているか否かは、目視にて確認した。
【0080】
[評価2:被覆フィルムの形状の影響]
評価2として、実施例1,3において、第1傾動軸AX1を回転軸として、順方向に保持部21を傾けることでシャーレSを傾けた。なお、第2角度θ2を5度、10度、15度、及び、20度で5度刻みに変えた計4回の傾動を行った。4回の傾動では、それぞれ別の試料10を用いた。4回の傾動の何れにおいても、停止時間を2秒の条件とした。そして、傾動後の4つの試料10の何れにおいても試験菌液13が被覆フィルム12から漏れ出していないものを良(○)とした。また、傾動後の4つの試料10において、試験菌液13が被覆フィルム12から漏れ出していない試料10と、試験菌液13が被覆フィルム12から漏れ出した試料10とが確認されたものを並(△)とした。なお、試験菌液13が被覆フィルム12から漏れ出したか否かは、目視にて確認した。
【0081】
[評価結果]
図10に示すように、評価1において、実施例1では、1サイクル目の終了時点で試験菌液13が試験片11と被覆フィルム12との間の全体に濡れ広がっていることが確認された(評価:○)。これに対して、実施例2では、1サイクル目の終了時点では、試験菌液13が初期状態よりは濡れ広がっているものの、被覆フィルム12の端部までは濡れ広がっていなかった。最終的に、5サイクル目の終了時点で試験菌液13が試験片11と被覆フィルム12との間の全体に濡れ広がっていることが確認された(評価:△)。したがって、被覆フィルム12の第1面12S1に親水性処理を施すことで、第1面12S1に親水性処理が施されていない場合よりも、試験菌液13の濡れ広げに要する傾動の回数を少なくすることができることが確認された。
【0082】
評価2において、実施例1では、第2角度θ2が5度、10度、15度、及び、20度の何れの場合であっても、試験菌液13が被覆フィルム12から漏れ出すことは確認されなかった(評価:○)。これに対して、実施例2では、第2角度θ2が5度の場合では、試験菌液13が被覆フィルム12から漏れ出すことは確認されなかったものの、10度、15度、及び、20度の場合では、試験菌液13が被覆フィルム12の角部から漏れ出していた(評価:△)。したがって、被覆フィルム12が角部を備える場合には、試験菌液13が被覆フィルム12の角部から漏れ出しやすいため、被覆フィルム12を円形状とすることで、被覆フィルム12の角部から試験菌液13が漏れ出すことを抑制できるといえる。
【符号の説明】
【0083】
S…シャーレ
1…濡れ広げシステム
10…試料
11…試験片
11S…試験対象面
12…被覆フィルム
12S1…第1面
12S2…第2面
13…試験菌液
20…濡れ広げ装置
21…保持部
21S…載置面
22…傾動部
30…制御装置
31…制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10