(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038766
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】家具用積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20240313BHJP
C08L 23/10 20060101ALI20240313BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20240313BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20240313BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
B32B27/00 E
C08L23/10
C08L23/08
C08L21/00
C08L53/02
B32B27/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143030
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅原 敬
(72)【発明者】
【氏名】中島 友則
(72)【発明者】
【氏名】日下(村瀬) 真央
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AK01
4F100AK01A
4F100AK03
4F100AK03B
4F100AK07
4F100AK07A
4F100AK46
4F100AK46B
4F100AK51
4F100AK51B
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4F100AK62A
4F100AL09
4F100AL09A
4F100AN02
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4F100AT00B
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4F100EH17
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4F100EJ42
4F100GB07
4F100GB33
4F100GB81
4F100JB16
4F100JB16A
4F100JK07
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4F100JK15
4F100JK15A
4F100JK16
4F100YY00A
4J002AE053
4J002BB052
4J002BB111
4J002BB114
4J002BB121
4J002BP013
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4J002FD130
4J002FD180
4J002FD320
4J002GC00
4J002GF00
4J002GL00
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】本発明は、家具などの用途において、さらさらしつつもしっとりとした触感などの良好な触感、および皮革のような高級感のある外観を実現できる家具用積層体を提供することを課題とする。
【解決手段】熱可塑性エラストマー組成物の成形体からなる表面層と、基材層と、を有する家具用積層体であって、
前記表面層の表面の算術平均粗さRaが、0を超え20μm未満である、家具用積層体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマー組成物の成形体からなる表面層と、基材層と、を有する家具用積層体であって、
前記表面層の表面の算術平均粗さRaが、0を超え20μm未満である、家具用積層体。
【請求項2】
前記成形体の引張貯蔵弾性率が、前記基材層の引張弾性率よりも小さい、請求項1に記載の家具用積層体。
【請求項3】
前記表面層の厚みが0.1~10mmである、請求項1または2に記載の家具用積層体。
【請求項4】
前記基材層が、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂およびポリアミド樹脂からなる群から選択される少なくとも一の樹脂を含む、請求項1または2に記載の家具用積層体。
【請求項5】
前記基材層が、曲面を有する形状である、請求項1または2に記載の家具用積層体。
【請求項6】
前記熱可塑性エラストマー組成物が、下記(A)~(C)を以下の割合で含む、請求項1または2に記載の家具用積層体。
(A)プロピレン系重合体:100質量部に対して、
(B)エチレンと炭素数3~20のα-オレフィン単位を含むエチレン・α-オレフィン共重合体:30~300質量部の範囲、
(C)軟化剤:30~280質量部の範囲。
【請求項7】
前記熱可塑性エラストマー組成物が、さらに下記(D)を前記(A)100質量部に対して以下の割合で含む、請求項6に記載の家具用積層体。
(D)共役ジエン単量体単位を主体とするブロックと、ビニル芳香族単量体単位を主体とするブロックと、をそれぞれ少なくとも1つずつ有するブロック共重合体の水素添加物:50~400質量部の範囲。
【請求項8】
椅子に用いられる、請求項1または2に記載の家具用積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層体に関し、より詳しくは家具用途に好適な家具用積層体(以下、これらを単に「積層体」と総称する。)に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のインストルメントパネル、ドアトリムなどの内装表皮材には、材料の軽量化が求められる観点からオレフィン系熱可塑性エラストマーが使われることがある。オレフィン系熱可塑性エラストマーからなる内装表皮材用シートをインストルメントパネル、ドアトリムなどの形状に賦形するには、真空成形や射出成形が一般的に行われている。
【0003】
射出成形用のオレフィン系熱可塑性エラストマーとして、例えば、特許文献1には、ポリプロピレン系樹脂、オレフィン系共重合体ゴム、ビニル芳香族単量体単位を有するブロック共重合体の水添物及び軟化剤を所定の割合で含有する組成物が提案されており、特許文献2には、ポリプロピレン系樹脂、軟化剤、およびポリオルガノシロキサンを所定の割合で含有する熱可塑性エラストマー組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2010/067564号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2011/155571号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1または2においては、オレフィン系熱可塑性エラストマーを射出成型した後に適宜シボ加工を施すことにより、本革のような高級感のある外観を付与することが行われている。
今回、発明者らの調査により、自動車以外の用途、例えば家具などの用途においても、触感や外観をより優れたものとしたいというニーズがあることがわかった。しかし従来の検討では、通常は自動車の内装表皮材などに使用されるオレフィン系熱可塑性エラストマーを自動車以外の用途、例えば家具などに用いても所期の触感や外観を実現できるかどうか十分に検討されていなかった。
【0006】
本発明の目的は、家具などの用途において、さらさらしつつもしっとりとした触感などの良好な触感、および皮革のような高級感のある外観を実現できる家具用積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、たとえば以下の〔1〕~〔8〕に関する。
〔1〕
熱可塑性エラストマー組成物の成形体からなる表面層と、基材層と、を有する家具用積層体であって、
前記表面層の表面の算術平均粗さRaが、0を超え20μm未満である、家具用積層体。
【0008】
〔2〕
前記成形体の引張貯蔵弾性率が、前記基材層の引張弾性率よりも小さい、〔1〕に記載の家具用積層体。
〔3〕
前記表面層の厚みが0.1~10mmである、〔1〕または〔2〕に記載の家具用積層体。
〔4〕
前記基材層が、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂およびポリアミド樹脂からなる群から選択される少なくとも一の樹脂を含む、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の家具用積層体。
【0009】
〔5〕
前記基材層が、曲面を有する形状である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の家具用積層体。
〔6〕
前記熱可塑性エラストマー組成物が、下記(A)~(C)を以下の割合で含む、〔1〕~〔5〕のいずれか2に記載の家具用積層体。
(A)プロピレン系重合体:100質量部に対して、
(B)エチレンと炭素数3~20のα-オレフィン単位を含むエチレン・α-オレフィン共重合体:30~300質量部の範囲、
(C)軟化剤:30~280質量部の範囲。
【0010】
〔7〕
前記熱可塑性エラストマー組成物が、さらに下記(D)を前記(A)100質量部に対して以下の割合で含む、〔6〕に記載の家具用積層体。
(D)共役ジエン単量体単位を主体とするブロックと、ビニル芳香族単量体単位を主体とするブロックと、をそれぞれ少なくとも1つずつ有するブロック共重合体の水素添加物:50~400質量部の範囲。
〔8〕
椅子に用いられる、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の家具用積層体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、家具などの用途において、さらさらしつつもしっとりとした触感などの良好な触感、および皮革のような高級感のある外観を実現できる家具用積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本発明の家具用積層体は、熱可塑性エラストマー組成物の成形体からなる表面層と、基材層とを有する。
【0013】
熱可塑性エラストマー組成物
本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物は、公知の熱可塑性エラストマーを含む組成物であれば特に限定されるものではないが、ポリオレフィン系樹脂を含み、シート状に射出成型可能な組成物を用いることができ、成形した場合に、柔軟性を有し、触感に優れたものとなる組成物を好適に用いることができる。
【0014】
本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物としては、具体的には、たとえば、ポリオレフィン系樹脂と軟化剤とを含む組成物が挙げられる。好ましくは、プロピレン系重合体(A)、エチレン・α-オレフィン共重合体(B)、および軟化剤(C)を含む熱可塑性エラストマー組成物が挙げられ、より好ましくは、プロピレン系重合体(A)、エチレン・α-オレフィン共重合体(B)、軟化剤(C)およびブロック共重合体の水素添加物(D)を含む熱可塑性エラストマー組成物が挙げられる。
【0015】
<プロピレン系重合体(A)>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の成分の一つとして好適に用いられるプロピレン系重合体(A)〔以下、「成分(A)」と呼称する場合がある。〕は、該重合体を構成する構成単位のうち、プロピレンに由来する構成単位の含有量が50モル%以上である重合体のことをいい、成分(A)中のプロピレンに由来する構成単位の含有量は、90モル%以上であることが好ましい。
【0016】
本発明に係る成分(A)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
本発明に係る成分(A)は、プロピレン単独重合体であってもよく、プロピレンとプロピレン以外のコモノマーとの共重合体であってもよい。
【0017】
本発明に係る成分(A)の構造は特に制限されず、例えば、プロピレン由来の構成単位部分は、アイソタクチック構造でも、シンジオタクチック構造でも、アタクチック構造でもよいが、アイソタクチック構造であることが好ましい。また、前記共重合体の場合、ランダム型〔ランダムPPとも呼称〕、ブロック型〔ブロックPP:bPPとも呼称〕、グラフト型のいずれであってもよい。
【0018】
前記コモノマーとしては、プロピレンと共重合可能な他のモノマーであればよく、炭素数2または4~10のα-オレフィンが好ましい。具体的には、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセンなどが挙げられ、これらの中でも、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテンが好ましい。コモノマーは、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0019】
前記共重合体中のコモノマー由来の構成単位の含有量は、柔軟性等の点から、好ましくは10モル%以下である。
本発明に係る成分(A)は、従来公知の方法で合成してもよく、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えばサンアロマー(株)のポリプロピレン、(株)プライムポリマーのプライムポリプロ、日本ポリプロピレン(株)のノバテック、SCG Plastics社のSCG PP等が挙げられる。
【0020】
本発明に係る成分(A)は、結晶性の重合体であってもよく、また、非結晶性の重合体であってもよい。ここで、結晶性とは、示差走査熱量測定(DSC)において、融点(Tm)が観測されることを意味する。
【0021】
本発明に係る成分(A)が結晶性の重合体である場合、その融点(JIS K 7121の測定方法に準拠)は、耐熱性等の点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上であり、好ましくは180℃以下、より好ましくは170℃以下である。
【0022】
本発明に係る成分(A)のMFR(ASTM D 1238-65Tの測定方法に準拠、230℃、2.16kg荷重)は、好ましくは0.1~100g/10分であり、より好ましくは0.1~50g/10分である。
本発明に係る成分(A)のMFRが前記範囲にあると、耐熱性、機械的強度、流動性、成形加工性に優れる組成物を容易に得ることができる。
【0023】
<エチレン・α―オレフィン共重合体(B)>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の成分の一つとして好適に用いられるエチレン・α―オレフィン共重合体(B)は、エチレンから導かれる単位と炭素数3~20のα-オレフィンから導かれる単位とを含むエチレン・α-オレフィン共重合体である。
【0024】
本発明に係るエチレン・α―オレフィン共重合体(B)〔以下、「成分(B)」と呼称する場合がある。〕は、エチレン及び炭素数3~20のα-オレフィンを少なくとも共重合させることで得ることができる。炭素数3~20のα-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン等が挙げられる。これらの中で、柔軟性付与の観点から、炭素数3~12のα-オレフィンが好ましく、プロピレン、1-ブテン、1-オクテンがより好ましく、1-オクテンがさらに好ましい。
【0025】
本発明に係る成分(B)は、通常、エチレンから導かれる単位が70~99モル%、好ましくは80~97モル%の範囲、および炭素数3~20のα-オレフィンから導かれる単位が1~30モル%、好ましくは3~20モル%の範囲〔但し、エチレンから導かれる単位と炭素数3~20のα-オレフィンから導かれる単位との合計量を100モル%とする。〕にある。エチレンから導かれる単位の含有比率が前記範囲内であることで、機械特的強度に優れた熱可塑性エラストマー組成物を得ることができるため好ましい。
【0026】
本発明に係る成分(B)には、必要に応じて、不飽和結合を有する単量体を共重合させることができる。不飽和結合を有する単量体としては、例えば、ブタジエン、イソプレン等の共役ジオレフィン、1、4-ヘキサジエン等の非共役ジオレフィン;ジシクロペンタジエン、ノルボルネン誘導体等の環状ジエン化合物;及びアセチレン類が好ましい。これらの中でも、柔軟性の観点から、エチリデンノルボルネン(ENB)、ジシクロペンタジエン(DCP)がより好ましい。
【0027】
本発明に係る成分(B)は、通常、MFR(ASTM D1238 荷重2.16kg,温度190℃)が、0.1~20g/10分、好ましくは0.3~10g/10分の範囲にある。
【0028】
上記範囲内のMFRとすることで、流動性と機械的強度のバランス特性がより優れた熱可塑性エラストマー組成物とすることができる。
本発明に係る成分(B)は、通常、密度が0.8~0.9g/cm3の範囲にある。
【0029】
本発明に係る成分(B)は、たとえば、チーグラー・ナッタ触媒、バナジウム系触媒やメタロセン触媒など公知の重合用触媒を用いて製造することができる。重合方法としても特に限定されず、溶液重合法、懸濁重合法、バルク重合法などの液相重合法、気相重合法、その他公知の重合方法で行うことができる。また、これらの共重合体は、本発明の効果を奏する限り限定されず、市販品としても入手可能である。市販品としては、たとえば、ダウ・ケミカル社製の商品名エンゲージ8842〔エチレン・1-オクテン共重合体〕、エクソンモービル社製のVistalon(登録商標)、住友化学(株)社製のエスプレン(登録商標)、三井化学(株)社製の三井EPT(登録商標)、タフマーP(登録商標)、タフマーA(登録商標)などが挙げられる。
【0030】
<軟化剤(C)>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の成分の一つとして好適に用いられる軟化剤(C)〔以下、「成分(C)」と呼称する場合がある。〕は、特に限定されないが、通常ゴムに使用される可塑剤を用いることができる。上記プロピレン系重合体(A)およびエチレン・α-オレフィン共重合体(B)などとの相溶性の観点から、パラフィン系、ナフテン系、芳香族系等の炭化水素からなるプロセスオイルが好ましい。これら成分(C)の中でも耐候性や着色性の観点からパラフィン系炭化水素主体のプロセスオイルが好ましく、相溶性の観点からナフテン系炭化水素主体のプロセスオイルが好ましい。熱及び光安定性の観点から、プロセスオイル中の芳香族系炭化水素の含有量は、ASTM D2140-97に規定する炭素数比率で、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることが更に好ましい。
【0031】
<ブロック共重合体の水素添加物(D)>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に含まれてよい成分の一つであるブロック共重合体の水素添加物(D)〔以下、「成分(D)」と呼称する場合がある。〕は、共役ジエン単量体単位を主体とするブロックと、ビニル芳香族単量体単位を主体とするブロックとをそれぞれ少なくとも1つずつ有するブロック共重合体の水素添加物である。
【0032】
本発明に係る成分(D)は、共役ジエン単量体に由来する単量体単位の、少なくとも一部が水素添加(以下、「水添」と呼称する場合がある。)されてなる。
ここで、「ビニル芳香族単量体単位」とは、単量体であるビニル芳香族化合物を重合した結果生ずる重合体の構成単位を意味し、その構造は、置換ビニル基に由来する置換エチレン基の二つの炭素が結合部位となっている分子構造である。また、「共役ジエン単量体単位」とは、単量体である共役ジエンを重合した結果生ずる重合体の構成単位を意味し、その構造は、共役ジエン単量体に由来するオレフィンの二つの炭素が結合部位となっている分子構造である。
【0033】
本発明に係る成分(D)において、「主体とする」とは、共重合体ブロック中、共役ジエン単量体(又はビニル芳香族単量体)に由来する単量体単位を当該共重合体ブロック中に50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上含むことをいう。例えば、共役ジエン単量体単位を主体とするブロックとは、共役ジエン単量体に由来する単量体単位を当該ブロック中に50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上含むことを意味する。
【0034】
本発明に係る成分(D)における、ビニル芳香族単量体は、特に限定されず、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1-ジフェニルエチレン、N,N-ジメチル-p-アミノエチルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン等のビニル芳香族化合物が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、経済性の観点から、スチレンが好ましい。
【0035】
本発明に係る成分(D)における、共役ジエン単量体は、1対の共役二重結合を有するジオレフィンであり、例えば、1,3-ブタジエン(ブタジエン)、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン等が挙げられる。これらの中でも、経済性の観点から、ブタジエン、イソプレンが好ましい。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0036】
本発明に係る成分(D)における各ブロックの配置は、特に限定されず、適宜好適なものを採用することができる。例えば、ビニル芳香族単量体単位からなる重合体ブロックをSで表示し、共役ジエン単量体単位の少なくとも一部が水添された単位からなる重合体ブロックをBで表す場合、このブロック共重合体の水添物は、SB、S(BS)n1(ここで、n1は1~3の整数を表す。)、S(BSB)n2(ここで、n2は1~2の整数を表す。)等で表されるリニアブロック共重合体や、(SB)n3X(ここで、n3は3~6の整数を表す。Xは四塩化ケイ素、四塩化スズ、ポリエポキシ化合物等のカップリング剤残基を表す。)で表される共重合体が挙げられる。これらの中でも、SBの2型(ジブロック)、SBSの3型(トリブロック)、SBSBの4型(テトラブロック)のリニアブロック共重合体が好ましい。
【0037】
ここで、重合体ブロックBは、共役ジエン単量体単位のみからなる重合体ブロックであっても、共役ジエン単量体単位を主体として含み、かつビニル芳香族単量体単位を含む(共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位が共重合した)重合体ブロックであってもよく、いずれの重合体ブロックも共役ジエン単量体単位の少なくとも一部は水添されてなる。
【0038】
本発明に係る成分(D)中のビニル芳香族単量体単位の含有量は、30~80質量%であり、耐熱性や分散性の観点から40~80質量%であることが好ましく、50~70質量%であることがより好ましい。ビニル芳香族単量体単位の含有量を30質量%以上とすることで機械物性が一層向上し、80質量%以下とすることで低温特性を一層改善できる。
【0039】
本発明に係る成分(D)中のビニル芳香族単量体単位の含有量は、核磁気共鳴スペクトル解析(NMR)により測定することができる。
本発明に係る成分(D)中のビニル芳香族単量体単位ブロックの含有量は、機械的強度の観点から、10質量%以上であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましい。ここで、成分(D)中のビニル芳香族化合物重合体ブロックの含有量は、四酸化オスミウムを触媒として水添前の共重合体をtert-ブチルハイドロパーオキサイドにより酸化分解する方法(I. M. Kolthoff,et al.,J.Polym.Sci.1,429(1946)に記載の方法、以下、「四酸化オスミウム分解法」ともいう。)により得たビニル芳香族化合物重合体ブロックの質量(ここで、平均重合度が約30以下のビニル芳香族化合物重合体は除かれている)を用いて、下記式で定義される。
ビニル芳香族化合物重合体ブロックの含有量(質量%)=(水添前の共重合体中のビニル芳香族化合物重合体ブロックの質量/水添前の共重合体の質量)×100
【0040】
本発明に係る成分(D)中に重合体ブロックが複数存在している場合には、各々の分子量や組成等の構造は同一であってもよいし、異なっていてもよい。例えば、成分(D)中に、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む水添共重合体ブロックと、共役ジエン単量体単位を主体とする水添共重合体ブロックとが存在してもよい。各ブロックの境界や端部は必ずしも明瞭に区別される必要はない。各重合体ブロック中のビニル芳香族単量体単位の分布の態様は、特に限定されず、均一に分布していてもよいし、テーパー状、階段状、凸状、あるいは凹状に分布していてもよい。また、重合体ブロック中に、結晶部が存在していてもよい。
【0041】
本発明に係る成分(D)中における各重合体ブロック中の共役ジエン単量体単位のビニル単位の分布の態様は、特に限定されず、例えば、分布に偏りがあってもよい。ビニル単位の分布を制御するための方法としては、重合中にビニル化剤を添加する方法や、重合温度を変化させる方法等が挙げられる。また、共役ジエン単量体単位の水添率の分布に偏りがあってもよい。水添率の分布は、ビニル単位の分布の状況を変更する方法や、イソプレンとブタジエンを共重合した後に、後述される水添触媒を用いて水添し、イソプレン単位とブタジエン単位の水添速度の差を利用する方法等により制御することができる。
【0042】
本発明に係る成分(D)は、耐熱性、耐老化性及び耐候性の観点から、水添前の共役ジエン単量体単位中に含まれる不飽和結合のうち、好ましくは75mol%以上が、より好ましくは85mol%以上が、更に好ましくは97mol%以上が水添されている。
【0043】
水添に用いる水添触媒は特に限定されず、従来から公知である
(1)Ni、Pt、Pd、Ru等の金属をカーボン、シリカ、アルミナ、ケイソウ土等に担持させた担持型不均一系水添触媒、
(2)Ni、Co、Fe、Cr等の有機酸塩又はアセチルアセトン塩等の遷移金属塩と有機アルミニウム等の還元剤とを用いる、いわゆるチーグラー型水添触媒、
(3)Ti、Ru、Rh、Zr等の有機金属化合物等のいわゆる有機金属錯体等の均一系水添触媒を用いることができる。
【0044】
具体的な水添触媒としては、特公昭42-008704号公報、特公昭43-006636号公報、特公昭63-004841号公報、特公平01-037970号公報、特公平01-053851号公報、特公平02-009041号公報等に記載された水添触媒を使用することができる。これらの中でも、好ましい水添触媒としては、チタノセン化合物等の還元性有機金属化合物が挙げられる。
【0045】
チタノセン化合物としては、例えば、特開平08-109219号公報に記載された化合物が使用でき、具体例としては、ビスシクロペンタジエニルチタンジクロライド、モノペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリクロライド等の(置換)シクロペンタジエニル骨格、インデニル骨格あるいはフルオレニル骨格を有する配位子を少なくとも1つ以上有する化合物等が挙げられる。
【0046】
還元性有機金属化合物としては、例えば、有機リチウム等の有機アルカリ金属化合物、有機マグネシウム化合物、有機アルミニウム化合物、有機ホウ素化合物、有機亜鉛化合物等が挙げられる。
【0047】
本発明に係る成分(D)における上記水添前のブロック共重合体の重合方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することもできる。例えば、特公昭36-019286号公報、特公昭43-017979号公報、特公昭46-032415号公報、特公昭49-036957号公報、特公昭48-002423号公報、特公昭48-004106号公報、特公昭56-028925号公報、特開昭59-166518号公報、特開昭60-186577号公報等に記載された方法が挙げられる。
【0048】
必要に応じて、成分(D)は、極性基を有してもよい。極性基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、チオカルボニル基、酸ハロゲン化物基、酸無水物基、チオカルボン酸基、アルデヒド基、チオアルデヒド基、カルボン酸エステル基、アミド基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、リン酸基、リン酸エステル基、アミノ基、イミノ基、ニトリル基、ピリジル基、キノリン基、エポキシ基、チオエポキシ基、スルフィド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、ハロゲン化ケイ素基、アルコキシケイ素基、ハロゲン化スズ基、ボロン酸基、ホウ素含有基、ボロン酸塩基、アルコキシスズ基、フェニルスズ基等が挙げられる。
【0049】
本発明に係る成分(D)中の水添前のブロック共重合体における共役ジエン単量体単位中のビニル結合含有量は、柔軟性及び耐傷性の観点から、5mol%以上が好ましく、生産性、破断伸び性及び耐傷性の観点から、70mol%以下が好ましい。共役ジエン単量体単位中のビニル結合含有量は、10~50mol%がより好ましく、10~30mol%が更に好ましく、10~25mol%がより更に好ましい。
【0050】
ここでいう、ビニル結合含有量とは、水添前の共役ジエンの1,2-結合、3,4-結合及び1,4-結合の結合様式で組み込まれているうちの、1,2-結合及び3,4-結合で組み込まれているものの割合を意味する。ビニル結合含有量は、NMRによって測定することができる。
【0051】
架橋する前の成分(D)の重量平均分子量は、特に限定されないが、耐傷性の観点から、好ましくは5万以上であり、成形流動性の観点から、好ましくは40万以下であり、より好ましくは5万~30万である。分子量分布(Mw/Mn:重量平均分子量/数平均分子量)は、特に限定されないが、耐傷性の観点から、1に近い値であることが好ましい。重量平均分子量及び数平均分子量は、溶媒に、テトラヒドロフラン(1.0mL/分)を使用し、オーブン温度40℃の条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;島津製作所製、装置名「LC-10」)、カラム:TSKgelGMHXL(4.6mmID×30cm、2本)により求めることができる。重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)は、ポリスチレン換算分子量として算出される。
【0052】
本発明に係る成分(D)の前記共役ジエン単量体単位を主体とするブロックは、共役ジエン単量体単位を主体として含み、かつビニル芳香族単量体単位を含む共重合体ブロックであることが、耐摩耗性の観点から好ましい。
【0053】
本発明に係る成分(D)は、特に限定されず、上記した共役ジエン単量体及びビニル芳香族単量体を用いることができる。それらの中でも、機械的強度と耐衝撃性のバランスの観点から、好ましい組合せとしては、ブタジエン単位とスチレン単位とを含むブロック、イソプレン単位とスチレン単位とを含むブロック等が挙げられる。
【0054】
本発明に係る成分(D)は、少なくとも共役ジエン単量体単位を主体として含むものであればよく、各単量体の含有量は特に限定されない。特に、機械的強度と耐衝撃性のバランスの観点から、共重合体ブロック中におけるビニル芳香族単量体単位の含有量は10質量%以上50質量%未満であることが好ましく、20質量%以上50質量%未満であることがより好ましい。
【0055】
<ポリオルガノシロキサン(E)>
本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物は、必要に応じて、ポリオルガノシロキサンを含んでもよい。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に含まれてよい成分の一つであるポリオルガノシロキサン(E)〔以下、「成分(E)」と呼称する場合がある。〕の構造としては、特に限定されないが、耐摩耗性や手触り感の観点から、直鎖状、分岐状、又は架橋構造のポリマー構造をとることが好ましい。
【0056】
本発明に係る成分(E)は、特に限定されず、公知のものを用いることもできる。好ましいポリオルガノシロキサンとしては、アルキル基、ビニル基、アリール基等の置換基を有するシロキサン単位を含むポリマーであり、これらの中でも特に、アルキル基を有するポリオルガノシロキサンが好ましく、メチル基を有するポリオルガノシロキサンがより好ましい。
【0057】
メチル基を有するポリオルガノシロキサンの具体例としては、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリメチルハイドロジェンシロキサン等が挙げられる。これらの中でも、ポリジメチルシロキサンが好ましい。
【0058】
本発明に係る成分(E)は、その動粘度は、特に限定されないが、耐摩耗性および耐傷性の観点から、JIS Z8803に規定する動粘度(25℃)は5000センチストークス(cSt)以上であることが好ましい。また、得られる熱可塑性エラストマー組成物における成分(E)の分散性が向上する傾向にあり、外観に優れ、溶融押出時の品質安定性も一層向上する傾向にある観点から、成分(E)の動粘度は300万cSt未満であることが好ましい。成分(E)の動粘度は、1万cSt以上300万cSt未満であることがより好ましく、5万cSt以上300万cSt未満であることが更に好ましい。
【0059】
<熱可塑性エラストマー組成物>
本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物は、公知の熱可塑性エラストマーを含む組成物であって、成形後に所定の算術平均粗さを達成し得るものであればよいが、たとえば、ポリオレフィン系樹脂と軟化剤とを含む組成物が挙げられ、好ましくは、プロピレン系重合体(A)、エチレン・α-オレフィン共重合体(B)、および軟化剤(C)を含む熱可塑性エラストマー組成物が挙げられ、より好ましくは、プロピレン系重合体(A)、エチレン・α-オレフィン共重合体(B)、軟化剤(C)およびブロック共重合体の水素添加物(D)を含む熱可塑性エラストマー組成物が挙げられる。
【0060】
本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物が、プロピレン系重合体(A)、エチレン・α-オレフィン共重合体(B)、および軟化剤(C)を含む組成物である場合、その組成としては、好ましくは、
前記プロピレン系重合体(A)100質量部に対して、
前記エチレン・α―オレフィン共重合体(B)を、柔軟性と耐傷性の観点から30~300質量部、好ましくは50~300質量部、より好ましくは60~200質量部、さらに好ましくは70~100質量部の範囲、
前記軟化剤(C)を、成形性と耐熱性の観点から30~280質量部、より好ましくは31~200質量部、さらに好ましくは32~170質量部、特に好ましくは33~150質量部の範囲で含む。
【0061】
また、本発明に係る上記の熱可塑性エラストマー組成物は、上記成分(B)および上記成分(C)に加え、成形性と耐傷性の観点から、前記プロピレン系重合体(A)100質量部に対して、前記ブロック共重合体の水素添加物(D)を好ましくは50~400質量部、より好ましくは55~300質量部、さらに好ましくは60~200質量部、特に好ましくは65~150質量部の範囲で含む。
【0062】
また、本発明に係る上記の熱可塑性エラストマー組成物は、上記成分(B)および上記成分(C)に加え、前記プロピレン系重合体(A)100質量部に対して、好ましくは前記ポリオルガノシロキサン(E)を2~30質量部、より好ましくは3~20質量部、さらに好ましくは4~10質量部の範囲で含む。
【0063】
ポリオルガノシロキサン(E)の配合量が前記プロピレン系重合体(A)100質量部に対して2質量部以上であると、耐傷性の改良効果が十分に現れ、30質量部以下であると熱可塑性エラストマー組成物中への分散性に優れる。本発明の熱可塑性エラストマー組成物は成形性と耐傷性の観点から、好ましくは、エチレン・α-オレフィン共重合体(B)と軟化剤(C)の質量比(C/B)が、0を超え3未満、より好ましくは0.20~2.50、さらに好ましくは0.30~2.00である。
【0064】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、必要に応じて下記有機過酸化物(F)〔以下、「成分(F)」と呼称する場合がある。〕を含むことが好ましい。
本発明に係る成分(F)は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を動的に熱処理することにより、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の成分である成分(A)と成分(B)および成分(D)の架橋開始剤等として働く。
【0065】
〈有機過酸化物(F)〉
本発明に係る有機過酸化物(F)の具体例としては、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロドデカン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)オクタン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレート等のパーオキシケタール類;ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、α,α'-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、α,α'-ビス(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3等のジアルキルパーオキサイド類;アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m-トリオイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウリレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジ-t-ブチルパーオキシイソフタレート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクテート等のパーオキシエステル類;t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類等が挙げられる。
【0066】
これら成分(F)の中でも、熱分解温度及び架橋性能等の観点から、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3が好ましい。
【0067】
本発明に係る成分(F)は、1種単独でも、2種以上を併用してもよい。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が成分(F)を含む場合は、その含有量は、成分(A)100質量部に対して、成形流動性の観点から、好ましくは0.5~5質量部、より好ましくは1~3質量部含む。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が成分(F)を含む場合は、下記架橋助剤を併用することが好ましい。
【0068】
〈架橋助剤〉
本発明に係る架橋助剤は、種々公知の架橋助剤、具体的には、単官能単量体や多官能単量体が挙げられる。かかる架橋助剤は架橋反応速度を制御することができる。
【0069】
単官能単量体としては、例えば、ラジカル重合性のビニル系単量体が好ましく、芳香族ビニル単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル単量体、アクリル酸エステル単量体、メタクリル酸エステル単量体、アクリル酸単量体、メタクリル酸単量体、無水マレイン酸単量体、N-置換マレイミド単量体等が挙げられる。
【0070】
単官能単量体の具体例として、例えば、スチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシスチレン、tert-ブトキシスチレン、アセトキシスチレン、クロロスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、無水マレイン酸、無水メチルマレイン酸、無水1,2-ジメチルマレイン酸、無水エチルマレイン酸,無水フェニルマレイン酸、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-ラウリルマレイミド、N-セチルマレイミド等が挙げられる。これらの中でも、反応容易性と汎用性の観点から、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸メチル、無水マレイン酸、N-メチルマレイミド等が好ましい。これらの単官能単量体は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0071】
多官能単量体は、官能基としてラジカル重合性の官能基を複数有する単量体であり、ビニル基を有する単量体が好ましい。多官能単量体の官能基の数は2個又は3個が好ましい。
【0072】
多官能単量体の具体例としては、ジビニルベンゼン、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ダイアセトンジアクリルアミド、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジイソプロペニルベンゼン、p-キノンジオキシム、p,p'-ジベンゾイルキノンジオキシム、フェニルマレイミド、アリルメタクリレート、N,N'-m-フェニレンビスマレイミド、ジアリルフタレート、テトラアリルオキシエタン、1,2-ポリブタジエン等が好ましく、ジビニルベンゼン、トリアリルイソシアヌレートがより好ましい。これらの多官能単量体は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が架橋助剤を含む場合は、成分(F)100質量部に対して、1~100質量部、好ましくは1~50質量部である。
【0073】
<熱可塑性エラストマー組成物の製造方法と物性>
上記の熱可塑性エラストマー組成物を動的架橋することにより、熱可塑性エラストマー組成物に含まれる成分(A)、成分(B)および成分(D)の少なくとも一部(たとえば、成分(B)の少なくとも一部)が架橋される。動的架橋を行う際には、前記成分(F)の存在下、あるいは前記成分(F)と前記架橋助剤の存在下に、動的に熱処理するのがよい。
【0074】
本発明において、「動的に熱処理する」とは、溶融状態で混練することをいう。
なお、本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物に対し、動的に熱処理する前の組成物を「組成物1」とも呼び、動的に熱処理されてなる組成物を「組成物2」とも呼ぶ。
【0075】
本発明における動的な熱処理は、非開放型の装置中で行うことが好ましく、また窒素、炭酸ガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。熱処理の温度は、成分(A)の融点から300℃の範囲であり、通常、150~270℃、好ましくは170~250℃である。混練時間は、通常1~20分間、好ましくは1~10分間である。また、加えられる剪断力は、剪断速度で表すと通常10~50,000s-1、好ましくは100~10,000s-1の範囲にある。
【0076】
組成物2のショアA硬度(10秒値)(JIS K 6253の測定方法に準拠)は、好ましくは50~100、より好ましくは60~90、さらに好ましくは65~80である。
【0077】
組成物2のショアA硬度(10秒値)が前記範囲にあると、触感や高級な外観などの意匠性、耐傷性を備えた成形体を容易に形成することができる。
前記ショアA硬度(10秒値)は具体的には、下記実施例に記載の方法で測定できる。
【0078】
組成物2のメルトフローレート(JIS K 7210の測定方法に準拠、230℃、1.2kg荷重)は、成形性に優れる組成物となる等の点から、好ましくは0.1~100g/10分、より好ましくは5~90g/10分、さらに好ましくは10~80g/10分である。
【0079】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上記成分(A)などに加え、無機フィラー、可塑剤、その他の添加剤を加えてもよい。
無機フィラーとしては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、カーボンブラック、ガラス繊維、酸化チタン、クレー、マイカ、タルク、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0080】
可塑剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、ジオクチルフタレート(DOP)等のフタル酸エステル等が挙げられる。
その他の添加剤としては、例えば、カーボンブラックや二酸化チタン又はフタロシアニンブラック等の有機・無機顔料;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノールやn-オクタデシル-3-(3,5'-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等の熱安定剤;トリスノニルフェニルフォスファイトやジステアリルペンタエリストールジホスファイト等の酸化防止剤;2-(2'-ヒドロキシ-5'メチルフェニル)ベンゾトリアゾールや2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン等の紫外線吸収剤;ビス-[2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル]セバケート、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート等の光安定剤;ポリリン酸アンモニウムやトリオクチルホスフェート及び水酸化マグネシウム等の難燃剤;ジメチルシリコンオイルやメチルフェニルシリコンオイル等のシリコンオイル;ステアリン酸アミドやエルカ酸アミド等のアンチブロッキング剤;重炭酸ナトリウムやN,N'-ジニトロソペンタメチレンテトラミン等の発泡剤;パルミチン酸モノグリセライドやステアリン酸モノグリセライド等の帯電防止剤;銀イオン担持ゼオライトやチオサルファイト銀錯体等の抗菌剤等が挙げられる。
【0081】
〈成形体〉
本発明の家具用積層体の表面層は、上述した熱可塑性エラストマー組成物の成形体からなる。
成形体は、上記熱可塑性エラストマー組成物を、任意の既知の成形法を用いて成形した成形体である。成形法の例としては、例えば、プレス成形、射出成形法、押出成形法、カレンダー成形法、中空成形法、真空成形法、圧縮成形法が挙げられる。生産性や複雑な形状を容易に形成できるという観点から、射出成形法を用いて成形した射出成形体であることが好ましい。特に、後述する表面の算術平均粗さや動摩擦係数を有し、外観および触感に優れた成形体は、たとえば、シボ形状を有する金型を用いて射出成形などの成形を行う方法や、公知の方法でシート状等に成形した後にエンボス加工を施す方法などにより、少なくとも家具用積層体の表面となる側にシボ加工を施して得ることができる。
【0082】
積層体の表面となる、表面層の表面の算術平均粗さ(Ra)、すなわち成形体の表面の算術平均粗さ(Ra)は、0を超え20μm未満であり、好ましくは0.1~15μmであり、より好ましくは0.5~10μmであり、さらに好ましくは1~8μmである。前記成形体の表面の算術平均粗さ(Ra)が前記範囲にあることで、本発明の積層体の外観および触感が良好となる。
【0083】
積層体の表面となる、成形体の表面の動摩擦係数は、好ましくは0.10~0.70であり、より好ましくは0.20~0.60である。前記成形体の表面の動摩擦係数が前記範囲にあることで、本発明の積層体の触感がより良好となる。
また、表面層となる成形体の厚さは、好ましくは0.1~10mmであり、より好ましくは0.5~5mmである。成形体の幅および長さ(すなわち、成形体の寸法のうち厚さを除くもの)は特に制限されず、用途にあわせて適宜設定することができる。
【0084】
〈基材層〉
積層体は、基材層を有する。基材層と上記成形体を積層することで、積層体の形状を保持し、積層体の耐久性を高めることができる。
基材層としては特に制限されないが、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂などを用いることができ、好ましくはウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂およびポリアミド樹脂からなる群から選択される少なくとも一の樹脂を含み、より好ましくはウレタン樹脂(なかでも熱可塑性ウレタン樹脂(TPU))、ポリプロピレンおよびナイロンからなる群から選択される少なくとも一の樹脂を含む。
【0085】
基材層の形状は特に制限されず、円柱状、半円柱状、平板、角材状などどのような形状であってもよいが、好ましくは円柱状、半円柱状などの曲面を有する形状である。基材層の寸法(すなわち、基材層の厚さ、幅および長さ)は特に制限されず、用途にあわせて適宜設定することができる。
【0086】
〈積層体〉
本発明の積層体は、上記成形体と、上記基材層とを積層してなる。成形体と基材層は直接積層されていてもよく、公知の粘着剤、接着剤、粘着テープ、接着テープ、粘着フィルム、接着フィルム、粘着シート、接着シートなどを介して積層されていてもよい。
【0087】
本発明の積層体は、上記成形体の引張貯蔵弾性率が、上記基材層の引張弾性率よりも小さいことが好ましい。また、上記基材層の引張弾性率が、上記成形体の引張貯蔵弾性率の10倍以上であることがより好ましく、20倍以上であることがより好ましい。上記成形体の引張貯蔵弾性率と上記基材層の引張弾性率が上記関係を満たすと、基材層による積層体の形状維持性と、表面層による触感改善効果がより良好となる。
【0088】
また、上記成形体の引張貯蔵弾性率は、3~90MPaであることが好ましく、15~75MPaであることがより好ましく、30~60MPaであることがさらに好ましい。上記成形体の引張貯蔵弾性率が上記範囲内であると、表面層による触感改善効果がより良好となる。
また、上記基材層の引張弾性率は、500~2500MPaであることが好ましく、600~2200MPaであることがより好ましく、1000~1800MPaであることがさらに好ましい。上記基材層の引張弾性率が上記範囲内であると、基材層による積層体の形状維持効果が良好となる。
【0089】
本発明の積層体は消費者に好まれる触感や本革のような高級感のある外観を備えるところ、その用途は特に限定されるものではないが、従来熱可塑性エラストマー組成物の成形体が検討されていなかった家具に好適に用い得る。
【0090】
具体例を挙げると、本発明の積層体は、椅子(例えばオフィスチェアの肘掛け部材、ハンドル、レバー、背面、ボタン、座面;家庭用椅子の肘掛け部材、ハンドル、レバー、背面、ボタン、座面;オフィスデスクの天板;家庭用デスクの天板などに用いることができる。
【実施例0091】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0092】
実施例および比較例では、下記の重合体を用いた。
〔プロピレン系重合体(A)〕
プロピレン系重合体(A-1)として、230℃、2.16kg荷重条件におけるメルトフローレート(MFR):2.0g/10分)のプロピレン単独重合体(ホモPP)(商品名 サンアロマー(登録商標) PL400A サンアロマー社製)を用いた。
【0093】
〔エチレン・α-オレフィン共重合体(B)〕
エチレン・α-オレフィン共重合体(B-1)として、エチレン・1-オクテン共重合体(ダウ・ケミカル社製、商品名「エンゲージ8842」)を使用した。共重合体のエチレンの含有量は55質量%であり、オクテンの含有量は45質量%、温度;190℃、荷重;2.16kgの条件下で測定したMFRは1.0g/10分である。
【0094】
〔軟化剤(C)〕
軟化剤(C-1)として、パラフィン系オイル(出光興産社製、商品名「ダイアナプロセスオイル PW-100」)を用いた。
【0095】
〔ブロック共重合体の水素添加物(D)〕
ブロック共重合体の水素添加物(D)として、以下に示す方法で製造したブロック共重合体の水素添化物を用いた。
【0096】
〔ブロック共重合体の水素添加物(D-1)の製造〕
(1)水添触媒の調製
ブロック共重合体の水添反応に用いた水添触媒は下記の方法で調製した。窒素置換した反応容器に、乾燥及び精製したシクロヘキサン1Lを仕込み、ビス(シクロペンタジエニル)チタニウムジクロリド100mmolを添加し、十分に攪拌しながら、トリメチルアルミニウム200mmolを含むn-ヘキサン溶液を添加して、室温にて約3日間反応させた。
【0097】
(2)ブロック共重合体の水素添加物の製造
内容積が10Lの攪拌装置及びジャケット付き槽型反応器を使用してバッチ重合を行った。はじめに、シクロヘキサン6.4L、スチレン75gを加え、予めTMEDAをn-ブチルリチウムのLiモル数の0.25倍モルになるように添加し、n-ブチルリチウム開始剤のLiのモル数として10ミリモルとなるように添加し、初期温度65℃で重合し、重合終了後、ブタジエン470gとスチレン380gを含有するシクロヘキサン溶液(モノマー濃度22質量%)を60分間かけて一定速度で連続的に反応器に供給し、重合集合後、スチレン75gを含有するシクロヘキサン溶液(モノマー濃度22質量%)を10分間かけて添加して共重合体(D-1’)を得た。
【0098】
得られた共重合体(D-1’)中のスチレン含有量は53質量%、スチレン重合体ブロック含有量は15質量%、共重合体ブロック(即ち、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とを含む共重合体ブロック)中のスチレン含有量は45質量%、ブタジエン含有量は55質量%、ビニル結合含有量は23%であった。
【0099】
得られた共重合体(D-1’)に、上記水添触媒をポリマー100質量部当たりチタン換算で100ppm添加し、水素圧0.7MPa、温度75℃で水添反応を行った。得られたポリマー溶液に、安定剤としてオクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートをブロック共重合体の水素添加物100質量部に対して0.3質量部添加して、ブロック共重合体の水素添加物(D-1)を得た。
【0100】
得られたブロック共重合体の水素添加物(D-1)の重量平均分子量は16万であり、ブロック共重合体の水素添加物(D-1)中に含まれるブタジエンの二重結合中の水添率は、99%であった。また、粘弾性測定により得られたtanδピークの一つは-15℃に存在していた。
【0101】
〔ポリオルガノシロキサン(E)〕
ポリオルガノシロキサン(E-1)として、ジメチルシロキサンを50質量%とポリプロピレン50質量%とからなるマスターバッチ(デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル社製、商品名「MB50-001」))を用いた。
【0102】
〔有機過酸化物(F)〕
有機過酸化物(F)として、下記有機過酸化物と下記架橋助剤の混合物を使用した。
有機過酸化物:2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(日本油脂社製、商品名「パーヘキサ25B」) 100質量部
架橋助剤:ジビニルベンゼン(和光純薬社製;以下、「DVB」と称する。)15質量部
【0103】
[製造例1](熱可塑性エラストマー組成物1の製造)
押出機として、バレル中央部にオイル注入口を有した二軸押出機(30mmφ、L/D=74;神戸製鋼所製、「KTX-30」)を用いた。スクリューとしては注入口の前後に混練部を有した2条スクリューを用いた。表1に記載した軟化剤以外の原料を表1に示した組成比(質量部比)で一括混合したのち、二軸押出機(シリンダー温度200℃)に定量フィーダーで導入し、引き続き、押出機の中央部にある注入口より表1に示した量の軟化剤をポンプにより注入し、溶融押出を行い、熱可塑性エラストマー組成物1を得た。
【0104】
[製造例2](熱可塑性エラストマー組成物2の製造)
原料の組成比(質量部比)を表1に示したとおりに変更した以外は組成物1と同様にして、熱可塑性エラストマー組成物2を得た。
【0105】
性状評価
製造例1および2で得られた熱可塑性エラストマー組成物1および2の性状を、以下の方法によりそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
[MFR(g/10分)]
熱可塑性エラストマー組成物のメルトフローレートは、JIS K7120に準拠して、230℃、1.2kg荷重の条件にて測定した。
【0106】
[ショアA硬度測定]
熱可塑性エラストマー組成物から厚さ2mmのプレスシートを作製し、このプレスシートを3枚重ねて得られた厚み6mmの積層されたシートを測定サンプルとして用いた。
上記で得られた測定サンプルを、JIS K6253に準拠して、ショアA硬度計により測定した。加圧板を試験片に接触させた後、10秒後に読み取った値をショアA硬度(10秒値)とした。
【0107】
[引張弾性率]
(成形体の引張貯蔵弾性率) 熱可塑性エラストマー組成物の成形体の引張貯蔵弾性率は、以下のように測定した。
まず、成形体の貯蔵弾性率G’を、動的粘弾性試験機を用いて、変形モード:ねじり、周波数:1Hz,動的歪み:0.1%、測定温度:25℃の条件で測定した。
次に、エラストマー材料のポアソン比が一般的に0.49であることからエラストマー材料の引張貯蔵弾性率は貯蔵弾性率G’の3倍の値と計算できるので、得られた成形体の貯蔵弾性率G’の値を3倍することで成形体の引張貯蔵弾性率の値を得た。
【0108】
(基材層の引張弾性率)
基材層の引張弾性率は、以下の条件により測定した。
試験規格 :JIS K 7161-1、-2
試験環境 :23℃±2℃、50%RH±10%RH
試験片形状:JIS K 7161-2 1A形試験片
引張速度 :30mm/min.
【0109】
【0110】
[実施例1]
<射出成形体の製造>
製造例1で得た熱可塑性エラストマー組成物1を、射出成形機を用いて、樹脂温度220℃、金型温度40℃の条件で、皮シボ加工が施された平板金型に射出成形し、厚さ1mm、表面の平均算術粗さ(Ra)が2μmの射出成形体を、積層体の表面層となる成形体として得た。
【0111】
<積層体の製造>
上記で得た射出成形体と、下記基材層1とを、両面テープで貼り合わせて、射出成形体を表面層として有する積層体を得た。
基材層1:TPU製、半円柱状、高さ19mm、幅50mm、長さ180mm、引張弾性率1500MPa
【0112】
各性状は、以下の方法によりそれぞれ測定あるいは評価した。結果を表2に示す。
(1)算術平均粗さRa(μm)
上記で得られた熱可塑性エラストマー組成物の成形体の算術平均粗さRaは、表面粗さ測定機(表面粗さ形状測定機サーフコム1400D、東京精密社製)によって測定した。
なお、測定条件は以下の通りである。
接触子:球状φ1.6mm
仕様荷重:0.4gf
測定長さ:40mm
カットオフ波長:8mm
測定速度:0.15mm
【0113】
(2)動摩擦係数
上記で得られた熱可塑性エラストマー組成物の成形体の動摩擦係数は、触感評価機(動・静摩擦測定機TL201Ts)を用いて測定した。なお、測定条件は以下の通りである。
摺動速度:100mm/sec
荷重:50gf
摺動距離:50mm
【0114】
(3)触感評価(さらさら感)
上記で得られた熱可塑性エラストマー組成物の成形体の表面を人差し指の指腹で摺動した際の触感を、良好な場合は2点、不良の場合は1点として下記の基準で評価した。評価は3人で行い、3人の評点の合計点を表2に示した。
2点:良好(指で摺動した際に抵抗を感じない。)
1点:不良(指で摺動した際に抵抗を感じる。)
【0115】
(4)触感評価(しっとり感)
上記で得られた熱可塑性エラストマー組成物の成形体の表面を人差し指の指腹で摺動した際の触感を、良好な場合は2点、不良の場合は1点として下記の基準で評価した。評価は3人で行い、3人の評点の合計点を表2に示した。
2点:良好(指で摺動した際に撫で柔らかく感じる。)
1点:不良(指で摺動した際に撫で硬く感じる。)
【0116】
[実施例2~4、比較例1~2]
<射出成形体の製造>
実施例1の射出成形体の製造において、熱可塑性エラストマー組成物として製造例1で得た熱可塑性エラストマー組成物1または製造例2で得た熱可塑性エラストマー組成物2のいずれか表2に示すものを用い、平板金型として、シボ形状の異なる3種の平板金型のいずれかを用いたことの他は同様にして、表面の平均算術粗さ(Ra)が、2μm、6μm、20μmのいずれか表2に示す値である成形体をそれぞれ得た。
【0117】
<積層体の製造>
上記で得た成形体のうち、表2に示す熱可塑性エラストマー組成物の種類および表面の平均算術粗さ(Ra)を満たす成形体と、下記基材層1または2のうち表2に示す基材層とを、実施例1と同様に両面テープで貼り合わせて、射出成形体を表面層として有する積層体を得た。各性状を実施例1と同様に測定あるいは評価した。表2に結果を示す。
基材層1:TPU製、半円柱状、高さ19mm、幅50mm、長さ180mm、引張弾性率1500MPa
基材層2:PP製、直方体状、高さ10mm、幅50mm、長さ180mm、引張弾性率1300MPa
【0118】
本発明の家具用積層体は、各種家具材として好適に用いることができ、特に、事務用椅子、家庭用椅子、ソファーなどの表面材、各種部材として好適に用いることができる。