(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038771
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】プロテオグリカンの精製法
(51)【国際特許分類】
C07K 1/30 20060101AFI20240313BHJP
【FI】
C07K1/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143039
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】309015019
【氏名又は名称】地方独立行政法人青森県産業技術センター
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 草平
(72)【発明者】
【氏名】山口 信哉
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA53
4H045CA40
4H045CA52
4H045EA01
4H045EA15
4H045GA01
4H045GA05
(57)【要約】
【課題】プロテオグリカンの簡易な精製法を提供する。
【解決手段】以下の工程からなる精製法。1)pHが7.5になるよう、かつ終濃度が5mMより高い濃度のリン酸ナトリウム緩衝液をプロテオグリカンが溶解している溶液に加え、混合する工程。2)次に、終濃度が50mM以上になるように塩化カルシウムを上記1)の溶液に加え、混合する工程。3)上記2)で生じた不溶化した固体を集める工程。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程による水溶液に溶解しているプロテオグリカンの精製方法。
1)pHが7.5になるよう、かつ終濃度が5mMより高い濃度のリン酸ナトリウム緩衝液をプロテオグリカンが溶解している溶液に加え、混合する工程、
2)次に、終濃度が50mM以上になるように塩化カルシウムを上記1)の溶液に加え、混合する工程、
3)上記2)で生じた不溶化した固体を集める工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテオグリカンの精製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロテオグリカンは、保水性、細胞増殖因子様作用、ヒアルロン酸産生作用、抗アレルギー作用など様々な機能を有することが報告されている。近年、食品や化粧品などにプロテオグリカンが用いられてきており、需要が増加している。プロテオグリカンの製造は、一般に抽出工程、精製工程であるが、精製の効率化が求められている。また、プロテオグリカンは微量で効果を発揮することが明らかになっており、食品や化粧品などに含まれているプロテオグリカンも極微量であることから、これらに含まれるプロテオグリカンの量を分析するにあたって、前処理工程における簡易な精製方法が必要である。精製法とは具体的に、溶液にプロテオグリカンとその他の物質として各種塩、糖やタンパク質、アミノ酸、有機酸などの有機化合物が共存している中から、プロテオグリカン以外の成分をできる限り取り除き、プロテオグリカン単体、または高純度のプロテオグリカンを得ることである。精製にあたっては、プロテオグリカンの損失がないことが条件となる。
【0003】
プロテオグリカンの精製法として、陰イオン交換樹脂を用いる方法が一般的であるが(特許文献1、特許文献2、特許文献3)、塩濃度が高い溶液やプロテオグリカン以外のイオン性の物質が多く混在しているときは、プロテオグリカンの精製が困難である。また、他の精製法として、限外ろ過膜を用いる方法や有機溶剤による分別沈殿法もあるが、他の高分子の化合物が混在しているときは、プロテオグリカンの精製は困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-172296号 公報
【特許文献2】特開2020-134435号 公報
【特許文献3】特開2021-189178号 公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記課題に鑑み、本発明は、プロテオグリカンの簡易な精製法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために、以下の方法がプロテオグリカンの精製に優れた方法であることを見出した。それは、最初にプロテオグリカンが溶解している溶液に、pHが7.5になるよう、かつ終濃度が5mMより高い濃度のリン酸ナトリウム緩衝液を加え、混合し、次に、このプロテオグリカンとリン酸ナトリウム緩衝液を含む溶液に、終濃度が50mM以上の濃度になるように塩化カルシウムを加え、混合し、次に、生じた不溶化した固体を集める工程、である。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、プロテオグリカンを簡易に精製することが可能である。また、プロテオグリカンの精製にあたって、プロテオグリカンの損失を防ぐ効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施の形態をより具体的に説明する。
【0009】
本発明のプロテオグリカンは糖タンパク質の一種であるが、本発明でいうプロテオグリカンは、動物や魚類に存在し、タンパク質にコンドロイチン硫酸やケラタン硫酸などのグルコサミノグルカンが共有結合したものであり、分子量数万から数百万の天然高分子化合物である。起源となる生物や抽出・製造条件により、分子量や含まれる糖(ウロン酸、アミノ糖、中性糖など)、タンパク質を構成するアミノ酸の種類や量、比率も異なっているが、本発明でいうプロテオグリカンは、起源となる生物や抽出・製造条件を問わない。本発明でいうリン酸ナトリウム緩衝液は、リン酸二水素ナトリウムもしくはリン酸二水素ナトリウム水和物と、リン酸水素二ナトリウムもしくはリン酸水素二ナトリウム水和物とで調製される緩衝液であり、塩化カルシウムは、塩化カルシウムもしくは塩化カルシウムの水和物である。
【0010】
最初に、プロテオグリカンを含む水溶液を用意する。プロテオグリカンが固体状の場合は、水溶液に溶解する。プロテオグリカンの濃度は1%(w/v)以下が好ましく、0.5%(w/v)以下がさらに好ましい。水に不溶な物質がある場合は、ろ過などにより除いておく。この水溶液にpHが7.5でかつ終濃度が5mMより高い濃度のリン酸ナトリウム緩衝液を加え、混合する。プロテオグリカンの濃度が高いほど、リン酸ナトリウム緩衝液の濃度を高くしたほうがよい。水溶液がpH7.5から乖離しているときはリン酸ナトリウム緩衝液を加える前に、水酸化ナトリウムやリン酸などでpHを7.5に調整することや高濃度の塩が含まれているときなどは、限外ろ過膜や透析膜、有機溶剤などで低分子物質を除去した後に、リン酸ナトリウム緩衝液を加える。
【0011】
次に、上記溶液に終濃度が50mM以上になるように塩化カルシウムを加え、混合する。プロテオグリカンの濃度が高いほど、塩化カルシウムの濃度を高くしたほうがよい。最後は、塩化カルシウムを加え混合すると不溶物が発生するので、この不溶物をろ過や遠心などで回収する工程である。この不溶物はプロテオグリカンとリン酸とカルシウムを含み、プロテオグリカンの回収率はほぼ100%である。この不溶物からプロテオグリカンを抽出するには、pHが6より低い、例えば酢酸などの酸性溶液を加えて、不溶物を再溶解し、限外ろ過膜や透析膜の使用、有機溶剤などの沈殿などの常法により可能である。
【0012】
本方法により、プロテオグリカンを含む混合物から容易にプロテオグリカンを精製できる。溶液中に含まれるプロテオグリカンの濃度は薄い場合が多いので、本方法は従来の精製法に比較し効果的である。特にプロテオグリカンとそれ以外の水可溶性高分子化合物が存在したときに、プロテオグリカンの粗精製に威力を発揮する。
【0013】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これは単に例示の目的で述べるものであり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0014】
プロテオグリカンは、市販のプロテオグリカン((株)角弘プロテオグリカン研究所)を用いた。容量1.5mLのポリプロピレン製マイクロチューブを用い、総量0.4mLで行った。最初に終濃度0.1mg/mLになるようにプロテオグリカンの水溶液を入れた。次に、このマイクロチューブに終濃度10mMになるようにリン酸ナトリウム緩衝液を加え、かく拌した。リン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムは和光純薬工業(株)を用いた。リン酸ナトリウム緩衝液のpHは、5.0、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、9.0で行った。次に終濃度100mMになるように塩化カルシウム溶液をこれらのマイクロチューブに加え、かく拌した。塩化カルシウムは塩化カルシウム二水和物(和光純薬工業(株))を用いた。マイクロチューブを卓上遠心機(商品名:himac CT13、日立工機(株))にて10,000rpm、10分間遠心した。
【0015】
これらの上清のプロテオグリカンの有無について、プロテオグリカン中のウロン酸量を測定する比色法であるカルバゾール硫酸法により測定した。カルバゾール硫酸法は、試料溶液0.1mLに、冷却しながら濃硫酸0.6mLを加えてかく拌し、次に0.125%カルバゾール溶液0.02mLを加えてかく拌し、15分間100℃で加熱した。本方法は極めて感度の高い測定方法であり、プロテオグリカンが存在すると反応液は赤い色を呈し、530nm付近の波長に最大吸収を有する。上清中のプロテオグリカンの有無は反応液の赤色の着色度合いで判定した。
【0016】
リン酸ナトリウム緩衝液のpH7.0~9.0は下部に白色の沈殿が生じたが、pH5.0~6.5では沈殿は見られなかった。リン酸ナトリウム緩衝液のpH7.5のときだけ、カルバゾール硫酸法反応液は無色透明であり、上清にプロテオグリカンは存在せず、全て不溶化し、沈殿することが示された。pH7.5以外の7.0、8.0、9.0ではカルバゾール硫酸法反応液で薄く赤い着色が見られ、プロテオグリカンの大部分は沈殿したが、一部上清に溶解していた。リン酸ナトリウム緩衝液のpHに対する上清中のプロテオグリカンの有無についての結果を表1に示す。
【0017】
【0018】
(比較実験1)
最初に終濃度0.1mg/mLになるようにプロテオグリカンの水溶液を容量1.5mLのポリプロピレン製マイクロチューブに入れた。次に、このマイクロチューブに終濃度100mMになるように塩化カルシウム溶液(塩化カルシウム二水和物を使用)をマイクロチューブに加え、かく拌した。次に、終濃度10mMになるようにpH7.5のリン酸ナトリウム緩衝液を加え、かく拌した。マイクロチューブに加えた溶液の総量は0.4mLで行った。マイクロチューブを卓上遠心機(商品名:himac CT13、日立工機(株))にて10,000rpm、10分間遠心した。プロテオグリカンは(株)角弘プロテオグリカン研究所製、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、塩化カルシウム二水和物は和光純薬工業(株)製を用いた。
【0019】
これらの上清のプロテオグリカンの有無について、プロテオグリカン中のウロン酸量を測定するカルバゾール硫酸法により測定した。カルバゾール硫酸法は前記と同様に行った。結果、カルバゾール硫酸法反応液は薄く赤い着色が見られ、プロテオグリカン溶液に加えるリン酸ナトリウム緩衝液と塩化カルシウム溶液の順序により、プロテオグリカンの沈殿の度合が異なることがわかった。
【0020】
(比較実験2)
最初に終濃度0.1mg/mLになるようにプロテオグリカンの水溶液を容量1.5mLのポリプロピレン製マイクロチューブに入れた。次に、このマイクロチューブに終濃度20mMになるようにpH7.5のリン酸カリウム緩衝液を加え、かく拌した。次に終濃度200mMになるように塩化カルシウム溶液(塩化カルシウム二水和物を使用)をマイクロチューブに加え、かく拌した。マイクロチューブに加えた溶液の総量は0.4mLで行った。マイクロチューブを卓上遠心機(商品名:himac CT13、日立工機(株))にて10,000rpm、10分間遠心した。プロテオグリカンは(株)角弘プロテオグリカン研究所製、その他の試薬は和光純薬工業(株)製を用いた。
【0021】
これらの上清のプロテオグリカンの有無について、プロテオグリカン中のウロン酸量を測定するカルバゾール硫酸法により測定した。カルバゾール硫酸法は前記と同様に行った。結果、カルバゾール硫酸法反応液は薄く赤い着色が見られ、リン酸カリウム緩衝液では、プロテオグリカンの大部分は沈殿したが、一部上清に溶解していることが示され、リン酸ナトリウム緩衝液を使用したときとは異なることがわかった。
【0022】
(比較実験3)
最初に終濃度0.1mg/mLになるようにプロテオグリカンの水溶液を容量1.5mLのポリプロピレン製マイクロチューブに入れた。次に、このマイクロチューブに終濃度pH7.5に水酸化ナトリウムで調整した終濃度20mMになるようにリン酸を加え、かく拌した。次に終濃度200mMになるように塩化カルシウム溶液(塩化カルシウム二水和物を使用)をマイクロチューブに加え、かく拌した。マイクロチューブに加えた溶液の総量は0.4mLで行った。マイクロチューブを卓上遠心機(商品名:himac CT13、日立工機(株))にて10,000rpm、10分間遠心した。プロテオグリカンは(株)角弘プロテオグリカン研究所製、その他の試薬は和光純薬工業(株)製を用いた。
【0023】
これらの上清のプロテオグリカンの有無について、プロテオグリカン中のウロン酸量を測定するカルバゾール硫酸法により測定した。結果、カルバゾール硫酸法反応液は薄く赤い着色が見られ、リン酸溶液をpH7.5に調整したものでは、プロテオグリカンは全て沈殿せず、上清に溶解していることが示され、リン酸ナトリウム緩衝液を使用したときとは異なることがわかった。
最初に終濃度0.1mg/mLになるようにプロテオグリカンの水溶液を容量1.5mLのポリプロピレン製マイクロチューブに入れた。次に、このマイクロチューブに終濃度10mMになるようにpH7.5のリン酸ナトリウム緩衝液を加え、かく拌した。次に終濃度50mM、60mM、70mM、80mM、90mM、100mMになるように塩化カルシウム溶液(塩化カルシウム二水和物を使用)をマイクロチューブに加え、かく拌した。マイクロチューブに加えた溶液の総量は0.4mLで行った。マイクロチューブを卓上遠心機(商品名:himac CT13、日立工機(株))にて10,000rpm、10分間遠心した。プロテオグリカンは(株)角弘プロテオグリカン研究所製、その他の試薬は和光純薬工業(株)製を用いた。
これらの上清のプロテオグリカンの有無について、プロテオグリカン中のウロン酸量を測定するカルバゾール硫酸法により測定した。カルバゾール硫酸法は、実施例1に記載の方法と同様に行った。結果、塩化カルシウムが50mM、60mM、70mMのときは、カルバゾール硫酸法反応液で薄く赤い着色が見られ、プロテオグリカンの大部分は沈殿したが、一部上清に溶解していることが示された。塩化カルシウムが80mM、90mM、100mMのときは、カルバゾール硫酸法反応液は無色透明であり、プロテオグリカンは上清に存在することなく、すべて不溶化し、沈殿することが示された。塩化カルシウム濃度に対する上清中のプロテオグリカンの有無についての結果を表2に示す。