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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038774
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】撥水部材
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/18 20060101AFI20240313BHJP
   C25D 11/24 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
C25D11/18 306C
C25D11/18 301A
C25D11/18 306A
C25D11/24 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143042
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000104652
【氏名又は名称】キヤノン電子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】花島 幸司
(72)【発明者】
【氏名】若林 孝幸
(57)【要約】
【課題】高い撥水性を有する撥水部材を提供する。
【解決手段】多孔質の酸化アルミニウムを備える第1層201と、第1層201上に設けられ、複数の突起部204を有する酸化アルミニウムを備える第2層101と、第2層上に設けられた疎水性分子からなる表面層205とを備えることを特徴とする。また、表面層205の膜厚に対し、第2層202の厚みが100~10000倍の高さであることが好ましい。また、第2層202の厚みは、第1層201の厚みに対し、1/100~9/10の厚みであることが好ましい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の酸化アルミニウムを備える第1層と、
前記第1層上に設けられるとともに複数の突起部を有し、酸化アルミニウムを備える第2層と、
前記第2層上に設けられた疎水性分子からなる表面層と
を備えることを特徴とする撥水部材。
【請求項2】
前記表面層の膜厚に対し、前記第2層の厚みが100~10000倍の高さであることを特徴とする請求項1に記載の撥水部材。
【請求項3】
前記第2層の厚みは、前記第1層の厚みに対し、1/100~2の厚みであることを特徴とする請求項2に記載の撥水部材。
【請求項4】
前記第2層の厚みが2μm以上50μm以下の範囲であることを特徴とする請求項3に記載の撥水部材。
【請求項5】
前記表面層の膜厚が、1nm以上100nm以下の範囲であることを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載の撥水部材。
【請求項6】
前記表面層の膜厚が、4nm以上20nm以下の範囲であることを特徴とする請求項5に記載の撥水部材。
【請求項7】
前記表面層の前記疎水性分子が、フッ素化合物、珪素化合物、珪素化合物を含む混合物のうちのいずれかであることを特徴とする請求項4に記載の撥水部材。
【請求項8】
前記第1層は、前記多孔質の封孔処理が施されていることを特徴とする請求項1または2に記載の撥水部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性を有する積層体である撥水部材、特に、空調装置や光学部材、その他の電気機器などの装置、家具などの器具に対して用いられるものに関する。
【背景技術】
【0002】
撥水部材が用いられる装置の一例としての空調装置においては、冷房運転すると、装置内に導入された空気は、熱交換部により冷却される。そして、空気に含まれていた水分は、熱交換部のフィンの表面等にて結露することがある。結露した水(ドレン水) は、熱交換部の下方に配置された水受皿(ドレンパン)を介して、水受皿に接続されたドレンホースによって装置外に排出される。水分が付着した部分には、細菌やかびが、繁殖することがある。これらの細菌やかびは悪臭の原因となる。
【0003】
特許文献1では、このような水分が発生または通過する場所に抗菌、防カビコートを形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-107806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のコートが剥がれた場合には、抗菌作用が低下し悪臭が発生してしまう可能性が増える。そのため、耐久性の高い撥水性表面が望まれている。他の装置においても同様であり、空気中の水分による結露の発生や異物の付着などを避けるべく、高い撥水性を有する撥水部材が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を鑑み、本発明に係る撥水部材は、
多孔質の酸化アルミニウムを備える第1層と、
前記第1層上に設けられるとともに複数の突起部を有し、酸化アルミニウムを備える第2層と、
前記第2層上に設けられた疎水性分子からなる表面層と
を備えることを特徴とする撥水部材。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高い撥水性を有する撥水部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る空調装置の断面図。
図2】本発明に係る撥水部材の概略図。
図3】本発明に係る撥水部材の製造方法を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0010】
図1(a)は、本発明の実施の形態および一般的な空調装置100の一態様の断面図である。装置内を通る空気の流れは、送風ファン101 の回転により発生し、フィルタ102を介して装置内に導入された空気は、熱交換部103を通過し、送風ファン101 、吹出口内壁104、フラップ105を通って装置外へ放出される。
【0011】
装置内に導入された空気に含まれていた水分は、熱交換部103 の支持部材に取り付けられたフィンの表面にて結露し、熱交換部103 の下方に配設された水受皿105a、105bを介して、前方側水受皿105a及び/又は後方側105bに接続されたドレンホース106 を通って装置外に排出される。また、上述の部分でそれぞれ結露する場合もある。
【0012】
図1(b)は、 図1(a)の本発明に関連する部分の概略前面図である。フィルタ102または前面カバー等に覆われた装置本体内には、熱交換部103の伝熱管103aと複数のフィン103bが設けられている。前方側水受皿105aは、ドレンホース106に水が流れやすいようにわずかに傾斜して設けられている。
【0013】
図1における熱交換部103のフィン、水受皿105 、吹出口内壁104、及び、ドレンホース106の少なくともいずれか一つの表面には、撥水機能を有する金属製の微細凹凸構造体である撥水部材200が設けられている。
【0014】
(撥水部材)
続いて、撥水部材の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0015】
図2は実施形態における撥水部材の概略図である。実施形態における撥水部材200は、基部203、第1層201、第2層202を備える。基部203にはアルミニウムまたはアルミニウム合金を用いる。第1層201は細孔301を備えており、染料を封入することで基材を染色することができ、外観部材として使用することができる。また光の吸収を持つ染料を選択することで、基材表面の反射率を抑えることができ、光学部材としても使用することができる。撥水部材として使用する際には、染色を封入しなくても良い。
【0016】
図2における第1層201には封孔処理を実施している(不図示)。封孔処理により、細孔を塞ぐことで耐食性を向上させ、染料を封入した際には染料の染み出しを防止することができる。
【0017】
図2における第2層202は複数の突起部204を持つ酸化アルミニウム層である。図2における第2層202の表面には疎水性分子によるコーティング205を実施して表面層を形成している。基材表面に疎水性の微細凹凸構造を形成することで、基材に対して撥水性能を付与することができる。
【0018】
(撥水部材の製造方法)
続いて撥水部材の製造方法について、図を参照しながら断面経過で説明する。
【0019】
まず、基材にはアルミニウムまたはアルミニウム合金を用いる。基材が切削などの機械加工により形成されている場合には、加工時に付着した汚れや油分を除去する。基材をアセトン等の有機溶媒に浸漬し、超音波洗浄をすることによって脱脂する。また、超音波洗浄では除去できない汚れや自然酸化膜に対しては、市販のアルミニウム用脱脂液を用いて脱脂処理を行い除去する。
【0020】
次に、アルミニウムまたはアルミニウム合金の基材に対して、陽極酸化処理を行う。陽極酸化処理を行うと、基材は図3(a)に示すように、基材そのものである基部203の表面に複数の細孔301を備えた多孔質(ポーラス構造ともいう)の酸化アルミニウム被膜の第1層201が生成される。
【0021】
陽極酸化処理には、硫酸と硫酸アルミニウムを純水に投入し濃度を調整した電解液を使用する。電解液に陽極(基材:アルミニウムまたはアルミニウム合金)と陰極を浸漬させ、陰極と陽極を電源に接続し通電することで陽極酸化処理を実施する。陰極の材質は、電解液との反応性が低ければよく、例えば、カーボン、白金、チタン、ステンレスを用いることができる。また、電解液の温度はチラーによって制御されることが好ましい。電極間に電圧を印可し、10分から120分の間、陽極酸化処理を行うことにより、図3(b)のように基材の表面近傍に細孔301を備えた酸化アルミニウム被膜の第1層201が生成される。その後、処理槽から取り出した基材に対して、純水で電解液を洗い流す。
【0022】
次に、陽極酸化処理によって図3(b)のような形状になった基材の細孔301に対し、溶剤を浸漬させる。溶剤は酸化アルミニウムに対して濡れ性が良いものが好ましい。溶剤としては、アセトン、イソプロピルアルコール等を使用することができる。また、細孔内に水が多量に残っていると、溶剤との置換に時間を要するため、陽極酸化を施した板材は一度加熱乾燥をすることが好ましい。浸漬時間としては、例えば、15分から120分である。なお、この浸漬工程は省いても構わない。
【0023】
次に、細孔が形成された基材の表面に対してエッチングを行う。処理槽にエッチング液を用意し、その中に細孔が形成された基材を浸漬させる。エッチング液の温度は40℃から60℃、エッチング時間は5分から30分であることが好ましい。エッチング液中には、ポンプによる攪拌や空気攪拌により液流を発生させることが好ましく、液流を均一な速度にすることにより、エッチングレートを制御することができる。エッチング液は、溶剤が充填された細孔内へ溶剤と相溶しながら置換し、細孔深部に侵入していく。そこで、基材の表面と細孔の内壁が同時にエッチングされることにより、図3(b)のように酸化アルミニウムの突起部204を備えた第2層202が形成される。
【0024】
なお、第2層の厚み(突起部の高さ)および突起部の形状は、このエッチングレートにより制御できる。エッチングレートは溶剤の種類、溶剤の浸漬時間およびエッチング液の種類、及びエッチング液の液流により制御することができる。
【0025】
次に、基材に対して封孔処理を実施する。一般的には、アルミニウムの陽極酸化処理においては、封孔処理を実施して基材に形成された細孔を塞ぐことで、耐食性を向上させることができる。また、細孔に染料を封入している場合には、封孔処理を実施することで染料の染み出しによる外観の変化を防止することができる。封孔処理は加圧水蒸気処理、沸騰水処理、クロム酸塩処理/重クロム酸塩処理、ニッケル塩処理などの水和処理から選択することができる。
【0026】
最後に、基材表面に疎水性分子をコーティングすることにより、基材に対して撥水性能を付与することができる。疎水性分子のコーティングにおいては、最終的に基材に残るコーティング膜の厚みができるだけ薄くなるようにコーティングを実施することが好ましい。すなわち、基材に対する撥水性能は、上述したエッチングのような工程により突起部を形成し、さらに突起部の表面を疎水化することで達成される。しかし、突起部間の空間を埋める程度までコーティング膜が厚くなると、基材に対して撥水性能を付与することができない。
【0027】
(実施例)
以下に、本発明の撥水部材の製造方法について説明する。基材には、50mm×50mm×厚さ1mmのアルミニウム板材を用いた。基材をアセトンに浸漬し、超音波洗浄を3分行った。その後、アルミニウム用の脱脂液(奥野製薬工業製、トップアルクリーン)にて、60℃で5分間脱脂処理を実施した。
【0028】
次に、陽極に基材(アルミニウム)、陰極にステンレス(SUS316L)板として、陽極酸化処理を行った。電解液は、硫酸180g/L、硫酸アルミニウムのアルミニウムイオンが8g/Lとなるように調整した。電解液はチラーを用いて冷却を行い、電解液の温度として20℃に保持した。電源を用いて陽極及び陰極に電圧を印加することで陽極酸化処理を実施した。電圧は、陽極酸化する部分の面積に対し電流密度が3A/dm2となるように電圧を調整した。電圧を60分間印加することにより、図3(a)に示すような細孔を持つ酸化アルミニウム層を形成した。
【0029】
続いて、細孔が形成された基材を溶剤であるアセトンに60分間浸漬させ、細孔に溶剤を浸透させた。
【0030】
続いて、基材表面に対してエッチングを行った。処理槽にエッチング液として濃度0.5mol/Lのリン酸を用意し、リン酸の温度を50℃に保持して、空気攪拌を行いながら、7.5分間浸漬させることにより、図3(b)のような突起部204を有する酸化アルミニウムの第2層202を基材表面に形成した。本実施例においては、第2層202の厚み(突起部204の高さ)は、5~15μmとなっている。この厚みは、エッチング条件を変更することで制御可能であり、2μm~50μmなどで形成することが可能であるが、望ましくは、8μm~12μmに制御されることが好ましい。
【0031】
この時、エッチングされずに残った酸化アルミニウム層が、上述した実施形態における第1層201となる。本実施例では第1層の厚みは20μmとなっている。この厚みは陽極酸化の条件によって制御可能であり、一例としては10μm~100μmなどあればよいが、望ましくは、15μm~25μmに制御されることが好ましい。また、本実施例においては、第2層202の厚みは、第1層201の厚みに対し1/2倍程となっているが、これに限られず、第1層の厚みに対し、第2層の厚みを1/100~2倍であることが好ましい。
【0032】
次に、封孔処理を実施した。本実施例では封孔処理液として奥野製薬工業製のトップシールH-298を使用し、40ml/Lの濃度となるように純水で希釈して調整した。封孔処理液を90℃に加熱し、空気攪拌を行いながら、40分間基材を浸漬させることで、図3(b)における基部203上の第1層201の細孔301を封孔した。
【0033】
次に、撥水性を付与するため、疎水性分子のコーティングを実施することにより、図3(c)に示す表面層205を形成した。本実施例では疎水性分子としてフッ素化合物(株式会社ハーベス製、DURASURF DS-5935TH)を使用した。スプレーや浸漬などにより基材に対してフッ素化合物を塗布することができるが、今回は浸漬法を選択した。浸漬法にて基材にフッ素化合物を塗布した後、最終的に基材に残るコーティング膜の厚みが4~6nmとなるように、70℃で30分間、加熱乾燥処理を実施した。本実施例では表面層であるコーティング膜の厚みが4~6nmとなるように処理したが、これは一例であり、コーティング剤の種類や処理方法によって膜厚を制御可能であり、一例としては1nm~100nmなどあればよいが、望ましくは、2nm~20nmの範囲に制御されることが好ましい。
【0034】
疎水性分子に関しては、フッ素化合物以外に珪素化合物、珪素化合物を含む混合物を使用することができる。珪素化合物としては、一例としてKBM3103C(信越化学工業株式会社製)を用いることができ、珪素化合物を含む混合物としては、一例としてソルベン EF-2400(株式会社京絹化成製)を用いることができるが、疎水性分子であればこれらに限定されない。
【0035】
珪素化合物、珪素化合物を含む混合物を使用する場合でも、最終的に基材に残るコーティング膜の厚みはできるだけ薄くなるようにコーティングを実施した。珪素化合物を使用する場合は膜厚10nm以下、珪素化合物を含む混合物を使用する場合は膜厚20nm以下となるようにコーティングを実施した。
【0036】
これらは一例であり、疎水性分子であれば他のものを用いることも可能であり、その場合には、膜厚もより厚くなることも許容される。いずれの場合であっても、第2層202の厚みが10倍以上程の高さの差があれば十分であり、より好ましくは疎水性分子の表面層の膜厚に対し、第2層202の厚みが100~10000倍程になっていれば良い。
【0037】
(撥水性評価)
前記方法により製作した撥水部材における撥水性を評価した結果を表1に示す。
【表1】
【0038】
表1において、実施例1は、上述した方法で製造した撥水部材である。実施例2は、上述した方法において、封孔処理を施さずに製造した撥水部材である。
【0039】
比較例については、比較例1が上述した製造方法において用いたアルミニウム板材そのものに対して上述した製造方法と同様の疎水性分子のコーティングを施したものである。比較例2は、アルミニウム板材そのまま、比較例3は、上述した製造方法において、エッチングによる第2層の形成までのみを行ったもので、比較例4は、比較例3に対し封孔処理までを行ったものである。これらに対し、撥水性の評価として純水における接触角と滑落角を測定した。
【0040】
接触角は、純水2.5μlの液滴を基材表面に載置して測定した。その結果、実施例1では接触角152°、実施例2では接触角156°となり、接触角150°以上の超撥水性を示した。それに対し、いずれの比較例も接触角150°以上となるものはなく、超撥水性を示すことはなかった。
【0041】
滑落角は、純水50μlの液滴を基材表面に載置して基材を傾けていき、液滴が基材表面を滑落した際の基材傾斜角度を測定した。滑落角を測定した結果、実施例1、実施例2ともに、基材の傾斜角度が2°以下で載置した水滴が滑落し、水滴の滑落性能に関しても良好な結果となった。それに対し、いずれの比較例1でも滑落角は40°であり、比較例2から4については、それ以上の角度に傾斜させても滑落することはなかった。
【0042】
以上説明したように、本発明に係る撥水部材は、例えば空調装置の各部に設けることができ、熱交換器のフィン等では、両面に処理を実施し撥水性能を付与することで表面積を拡大し、効率よく熱交換することもできる。
【0043】
その他、光学部材の鏡筒部品などに適用することも可能であり、この場合には、上述した通り、第1層201に備える細孔301に対し、黒色などの光の吸収を持つ染料を封入することで、基材表面の反射率を抑えることができ、好適である。
【0044】
その他、種々の装置に対して本発明の撥水部材を適用可能であり、車両、航空機などのボディやミラー、ガラスなど、あるいは家電製品、家財、水回りの家具やインテリアの外装などにも好適に適用可能である。
【符号の説明】
【0045】
100 空調装置
101 送風ファン
103 熱交換部
104 吹出口内壁
105 水受皿(ドレンパン)
106 ドレンホース
201 第1層
202 第2層
203 基材
204 突起部
205 疎水性分子からなる表面層
301 細孔

図1
図2
図3