(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038781
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】直動案内装置
(51)【国際特許分類】
F16C 29/06 20060101AFI20240313BHJP
【FI】
F16C29/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143054
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183357
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義美
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 豊
【テーマコード(参考)】
3J104
【Fターム(参考)】
3J104AA03
3J104AA25
3J104AA36
3J104AA69
3J104AA74
3J104BA13
3J104BA24
3J104BA33
3J104CA01
3J104CA13
3J104DA11
3J104DA13
3J104DA14
3J104EA01
(57)【要約】
【課題】ころの引掛りやスキューの発生を抑え、滑らかな作動性が得られる保持器を組み込んでなる直動案内装置を提供する。
【解決手段】リニアガイドにおいて、ころ13を保持する保持器15が組み込まれており、保持器15は、上側のころ13の上部を保持する上側保持部23と、下側のころ13の下部を保持する下側保持部29と、上側のころ13の下部と下側のころ13の上部を保持する中間保持部17と、を備え、それぞれの保持部におけるころ端面と接する面部は、第一のつば面19と第二のつば面21の二つのつば面によって構成されており、二つのつば面は、同一平面に構成され、二つのつば面のうち、同一平面に構成されたうちの第一のつば面19が、保持器本体5からエンドキャップ11まで連続して構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延びる2条のレール側転動体転動溝を有する案内レールと、前記レール側軌道面に対向するスライダ側軌道面を有すると共に前記案内レールに跨設されて軸方向に相対移動可能なスライダ本体と、前記スライダ本体の移動方向の両端部に備えられた一対のエンドキャップと、前記双方の軌道面間に転動自在に組み込まれた転動体としてのころと、前記スライダ本体の内面部に組付けられて前記ころを転動自在に保持する保持器と、を含み、
前記保持器は、上側のころの上部を保持する上側保持部と、下側のころの下部を保持する下側保持部と、上側のころの下部と下側のころの上部を保持する中間保持部と、を備え、前記上側保持部と前記中間保持部との間で上側のころを保持する上側ポケットを形成するとともに、前記下側保持部と前記中間保持部との間で下側のころを保持する下側ポケットを形成し、前記上側保持部と前記中間保持部と前記下側保持部とが、それぞれ長手方向の両端部で一体に連結されて断面視略V字板状をなすように構成された直動案内装置であって、
前記上側保持部、前記下側保持部及び前記中間保持部におけるそれぞれのころ端面と接する面部は、それぞれ二つのつば面によって構成されており、
前記二つのつば面は、同一平面に構成されるか、あるいは一方が他方に対して突出して構成されていることを特徴とする直動案内装置。
【請求項2】
前記それぞれの二つのつば面のうち、同一平面に構成されたうちの一方、あるいは突出している側のつば面が、前記保持器本体から前記エンドキャップまで連続して構成されていることを特徴とする請求項1に記載の直動案内装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械等の案内部に設けられ、テーブル等の移動対象を直線的にスライド移動させるための直動案内装置であって、転動体としてころを用いた直動案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
直動案内装置は、例えば、軸方向に延びる案内レールと、案内レールに跨設されるとともに、軸方向に相対移動するスライダと、を含んで構成されている。案内レールの両側面には、それぞれ軸方向に延びるレール側軌道面が形成されており、スライダのスライダ本体には、その両袖部の内側面に、レール側軌道面に対向するスライダ側軌道面がそれぞれ形成されている。
そして、それらの対向する両軌道面間に、多数の円筒ころ(転動体)を転動自在に組み込み、これら多数の円筒ころの転動を介してスライダが案内レール上を軸方向に相対移動する。この種の直動案内装置では、多数の円筒ころを転動自在に保持するために保持器を備えている。保持器は円筒ころの向きを安定させるためのつば面を有しており、軌道面間において円筒ころは両端面をつば面に摺接しながら転動している。スライダ本体の両端には円筒ころの方向転換路が形成されたエンドキャップが取り付けられ、軌道面と方向転換路からなる循環回路の中を円筒ころが循環することで、スライダは案内レールに対して相対移動可能に支持されている。
【0003】
ところで、円筒ころが、負荷領域からエンドキャップ内の無負荷領域を転動し、そして、負荷領域に戻り、これを繰り返しながら無限循環するが、保持器とエンドキャップの接合部でつば面に段差が生じてしまうと、この段差にころ端面部が引っ掛かってころの循環を妨げることとなる。
【0004】
特許文献1では、保持器に形成されているつば面の長手方向両端に面取りを設け、保持器とエンドキャップの接合部を緩やかな傾斜とすることで段差が生じないようにし、段差にころ端面部が引っ掛かってころの循環を妨げることとならないようにすることを目的としている。
しかしながら,つば面の長手方向の面取りはころの公転方向に対して傾斜面となるためにこの面取り部のつば面に沿ってころが移動すると、ころは公転方向に対して傾斜した状態となるためにスキューが発生し、作動性を悪化させるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は従来技術の有するこのような問題点を解決するためになされたものであり、その課題とするところは、ころの引掛りやスキューの発生を抑え、滑らかな作動性が得られる保持器を組み込んでなる直動案内装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、第1の本発明は、軸方向に延びる2条のレール側軌道面を有する案内レールと、前記レール側軌道面に対向するスライダ側軌道面を有すると共に前記案内レールに跨設されて軸方向に相対移動可能なスライダ本体と、前記スライダ本体の移動方向の両端部に備えられた一対のエンドキャップと、前記双方の軌道面間に転動自在に組み込まれた転動体としてのころと、前記スライダ本体の内面部に組付けられて前記ころを転動自在に保持する保持器と、を含み、
前記保持器は、上側のころの上部を保持する上側保持部と、下側のころの下部を保持する下側保持部と、上側のころの下部と下側のころの上部を保持する中間保持部と、を備え、前記上側保持部と前記中間保持部との間で上側のころを保持する上側ポケットを形成するとともに、前記下側保持部と前記中間保持部との間で下側のころを保持する下側ポケットを形成し、前記上側保持部と前記中間保持部と前記下側保持部とが、それぞれ長手方向の両端部で一体に連結されて断面視略V字板状をなすように構成された直動案内装置であって、
前記上側保持部、前記下側保持部及び前記中間保持部におけるそれぞれのころ端面と接する面部は、それぞれ二つのつば面によって構成されており、
前記二つのつば面は、同一平面に構成されるか、あるいは一方が他方に対して突出して構成されていることを特徴とする直動案内装置としたことである。
また、好ましくは前記それぞれの二つのつば面のうち、同一平面に構成されたうちの一方、あるいは突出している側のつば面が、前記保持器本体から前記エンドキャップまで連続して構成されていることを特徴とする直動案内装置としたことである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、つば面に段差や傾斜が無くなることから、ころの引掛りやスキュー(ころの傾き)の発生を抑え、滑らかな作動性が得られる保持器を組み込んでなる直動案内装置を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明直動案内装置の一実施形態を示す概略側面図である。
【
図3】
図2にて一点鎖線で囲んだ領域を示す拡大図である。
【
図4】本実施形態の保持器を構成している下側保持部の拡大断面図である。
【
図5】他の実施形態の保持器を構成している下側保持部の拡大断面図である。
【
図6】本実施の形態と比較の形態との動摩擦力を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明直動案内装置の一実施形態について説明する。
なお、本実施形態は本発明の一実施形態に過ぎず、何等限定解釈されるものではなく、本発明の範囲内で適宜設計変更可能である。
なお、本明細書では、案内レールを跨設したスライダ(スライダ本体)の開口する向きを「下側」、その反対方向の向きを「上側」と称する。
【0011】
本実施形態では、例えば、
図1に示す直動案内装置(リニアガイド装置)を想定している。
【0012】
直動案内装置は、軸方向に延びる2条のレール側軌道面3を有する案内レール1と、レール側軌道面3に対向するスライダ側軌道面7を有すると共に案内レール1に跨設されて軸方向L1に相対移動可能な断面視で略コの字状のスライダ本体(ベアリングブロック)5と、スライダ本体5の移動方向(図中L1の軸方向)の両端部5aに備えられた断面視で略コの字状のエンドキャップ11,11と、双方の軌道面3,7間に転動自在に組み込まれた転動体としてのころ13と、前記スライダ本体5の内面部に組付けられて前記ころ13を転動自在に保持する保持器15と、エンドキャップ11の軸方向両端部に備えられる断面視で略コの字状のサイドシール(シール材)9,9と、で構成されている。
【0013】
なお、スライダ5、エンドキャップ11、及びサイドシール9の断面視で略コの字状の形状は略同一の形状に構成されている。
本発明は、保持器15に特徴的な構成を有しており、案内レール1、スライダ5、サイドシール9、エンドキャップ11は周知の構成が本発明の範囲内で採用可能であるため、ここでの詳細な説明は省略し、以下では本発明の特徴的構成要素である保持器15について詳細に説明する。
【0014】
保持器15は、例えば、樹脂材料、金属材料の成形品からなり、軸方向L1に延びる略三角柱状の中間保持部17と、中間保持部17から略V字状をなすように上下方向に延びる上側保持部23及び下側保持部29と、を備え、中間保持部17、上側保持部23、及び下側保持部29が、それぞれ長手方向の両端部で一体に連結されて断面視で全体略V字板状に形成されている(
図3参照。)。
【0015】
保持器15は、スライダ本体5の両端部から突出し、前後のエンドキャップ11まで延びる長さに構成されている。
【0016】
上側保持部23は上側のころ13の上部を保持し、下側保持部29は下側のころ13の下部を保持し、中間保持部17は上側のころ13の下部と下側のころ13の上部を保持する。そして、上側保持部23と中間保持部17との間で上側のころ13を保持案内する上側ポケット35を形成するとともに、下側保持部29と中間保持部17との間で下側のころ13を保持案内する下側ポケット37を形成している。
【0017】
上側保持部23、下側保持部29及び中間保持部17におけるそれぞれのころ13の端面と接する面部は、平坦な第一のつば面19と第二のつば面21との二つのつば面によって構成されている。
【0018】
第一のつば面19と第二のつば面21とは、それぞれ同一幅で、かつ同一平面に構成されている。
同一平面に構成されたうちの一方のつば面、例えば、第一のつば面19は、保持器本体5から前記エンドキャップ11まで連続して構成されているが、第二のつば面21はスライダ本体5までに留められている。
【0019】
そして、中間保持部17が、上下の軌道面3・3,7・7の間に位置し、保持器15が袖部5bの内側面に沿うようにして、スライダ本体5に固定される。
保持器15を固定する部分は特に限定されるものではなく、例えば、中間保持部17をスライダ本体5の袖部5bの側面に固定してもよいし、保持器15の軸方向両端部を、エンドキャップ11にそれぞれ固定してもよい。
【0020】
また、第一のつば面19と第二のつば面21の二つのつば面は、次のように構成することも可能である。
図5では、二つのつば面のうち、一方のつば面が、他方のつば面に対して突出して構成されている実施の一形態を示す。すなわち、本実施形態では、第一のつば面19が第二のつば面21に対して突出している実施の一形態を示す。
そして、突出している第一のつば面19が、保持器本体5から前記エンドキャップ11まで連続して構成されているが、第二のつば面21はスライダ本体5までに留められている。
【0021】
図6は、本実施の形態(実施品2)と別の実施形態(実施品1)との動摩擦力を測定した結果を示す。
測定試験では、本実施の形態と別の実施形態において、NSKローラガイド「RAシリーズ」のRA55ANを用い、本実施の形態では、
図5に示す形態構成の保持器15を組み込み、第一のつば面19の突出量を0.2mmとし、少なくとも一方のつば面ところ端面のすきまがあるようにした。別の実施形態では実施品1の保持器(少なくとも一方のつば面ところ端面のすきまなし)を組み込んでいる。
この結果から明らかなように、本実施の形態によれば、ころ端面の引っ掛かりによる細かい周期の変動が抑えられ、スキューも生じなくなったことで動摩擦力(軸摩擦力)の絶対値も小さくすることが出来た。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、転動体としてころを用いた直動案内装置全般に利用可能である。
【符号の説明】
【0023】
1 案内レール
3 レール側軌道面
5 スライダ
7 スライダ側軌道面
9 サイドシール
11 エンドキャップ
13 ころ
15 保持器
17 中間保持部
19 第一のつば面
21 第二のつば面
23 上側保持部
29 下側保持部
35 上側ポケット
37 下側ポケット