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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038786
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】自動調心ころ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20240313BHJP
   F16C 23/08 20060101ALI20240313BHJP
   F16C 19/38 20060101ALI20240313BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20240313BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20240313BHJP
【FI】
F16C33/78 D
F16C23/08
F16C19/38
F16C33/58
F16J15/3204 201
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143062
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】佐波 幹隆
【テーマコード(参考)】
3J006
3J012
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AE02
3J006AE12
3J006AE15
3J006AE30
3J006AE34
3J006AE40
3J006AE41
3J006CA01
3J006CA02
3J012AB01
3J012AB11
3J012AB13
3J012BB03
3J012DB02
3J012EB01
3J012FB07
3J012HB01
3J216AA03
3J216AA14
3J216BA02
3J216BA16
3J216BA22
3J216CA01
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB12
3J216CB19
3J216CC03
3J216CC16
3J216DA01
3J216DA12
3J216GA03
3J701AA15
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA26
3J701BA34
3J701BA44
3J701BA45
3J701BA53
3J701BA56
3J701BA57
3J701BA69
3J701FA38
3J701FA44
3J701XB03
3J701XB24
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】シールリップ部にかかるトルクの低減をはかり、リールリップ部の摩耗を抑制し、より高速での使用が可能な自動調心ころ軸受(シール付き自動調心ころ軸受)を提供する。
【解決手段】内径面に凹球面状の軌道面を有する外輪と、外径面に凹球面状の複数列の軌道面を有する内輪と、外輪の軌道面と内輪の軌道面との間に複数列に配置され、転動面が球面状に膨らんだたる形ころと、たる形ころを転動自在に保持する保持器とを備え、軸方向両端開口部を密封装置にて密封する自動調心ころ軸受である。密封装置は、内輪の軸方向端部に設けられるシール摺動面に摺動するシールリップ部を有するシール部材を備える。シール摺動面を前記内輪の転動面よりも内径側に配置されるように、シール摺動面と内輪の転動面との間に段差部を設けた。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径面に凹球面状の軌道面を有する外輪と、外径面に凹球面状の複数列の軌道面を有する内輪と、外輪の軌道面と内輪の軌道面との間に複数列に配置され、転動面が球面状に膨らんだたる形ころと、前記たる形ころを転動自在に保持する保持器とを備え、軸方向両端開口部を密封装置にて密封する自動調心ころ軸受であって、
前記密封装置は、内輪の軸方向端部に設けられるシール摺動面に摺動するシールリップ部を有するシール部材を備え、前記シール摺動面を前記内輪の転動面よりも内径側に配置されるように、前記シール摺動面と前記内輪の転動面との間に段差部を設けたことを特徴とする自動調心ころ軸受。
【請求項2】
内輪における、前記シール摺動面と前記転動面との間に径方向に延びる周方向端面を形成することによって、前記段差部を形成し、前記保持器を、軸受外方側の径方向に延びる径方向環状部と、この環状部の外径部から軸受内部側に延びる周方向環状部とを備え、周方向環状部に設けられるポケットに前記ころが転動自在に嵌入されるかご形保持器であることを特徴とする請求項1に記載の自動調心ころ軸受。
【請求項3】
前記内輪における、転動面と連なる外径面と周方向端面とが成す角度を90°以下としたことを特徴とする請求項2に記載の自動調心ころ軸受。
【請求項4】
前記内輪における、前記シール摺動面と前記転動面との間に外径側に膨出する鍔部を設けることによって、前記段差部を形成し、前記保持器を、環状部と、前記環状部から軸方向に延びる複数の柱部とを備え、周方向に沿って隣り合う柱部間に形成されるポケットに前記ころが転動自在に嵌入されるくし形保持器としたことを特徴とする請求項1に記載の自動調心ころ軸受。
【請求項5】
前記内輪における、前記鍔部の外径面と鍔部の軸受外方側端面とが成す角度を90°以下としたことを特徴とする請求項4に記載の自動調心ころ軸受。
【請求項6】
前記シール摺動面の軸受内方側のコーナ部にぬすみ部を設けたことを特徴とする請求項1に記載の自動調心ころ軸受。
【請求項7】
前記シール摺動面が形成される部位の内輪端部の平均肉厚を、内輪の軌道面が形成される部位の肉厚最薄部の肉厚に対して60%以上としたことを特徴とする請求項1に記載自動調心ころ軸受。
【請求項8】
前記シール摺動面を、軸受内方側から軸受外方側に向かって縮径するテーパ形状としたことを特徴とする請求項1に記載の自動調心ころ軸受。
【請求項9】
前記シール摺動面を、軸受中心を中心とする球面形状としたことを特徴とする請求項1に記載の自動調心ころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動調心ころ軸受に関し、特に、軸方向両端開口部を密封装置にて密封するシール付き自動調心ころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
ころ軸受には、自動調心ころ軸受がある。この自動調心ころ軸受は、内輪に二列の軌道面,外輪には球面の軌道面及び転動体がたる形のころ軸受である。外輪軌道面の中心が軸受中心に一致しているので、自動調心性がありハウジングに対する取付誤差あるいは軸のたわみによって生じる内輪と外輪の傾きがある場合にも使用できる。この軸受は負荷能力が大きく振動・衝撃荷重を受ける用途に適している。自動調心ころ軸受としては、特許文献1及び特許文献2等に記載されているように、軸方向両端開口部を密封装置にて密封するシール付き自動調心ころ軸受がある。
【0003】
特許文献1に記載の自動調心ころ軸受は、図7に示すように、内輪1に二列の軌道面2,2,外輪3には球面の軌道面4及び転動体がたる形ころ5のころ軸受であり、外輪3の端部に嵌合されるシール6を備える。この場合、シール6は、そのリップ7が、金属板製の芯金8にゴム材料9を固着することで形成されたものである。
【0004】
そして、シール6のリップ7が、内輪の軸方向端部に設けられた内輪シール面10に摺動するものである。この内輪シール面10は、軸受内方から軸受外方に向かって縮径するテーパ面となっている。この場合、内輪1の軌道面2と内輪シール面10との間に保持器11の案内面12が形成される。このため、内輪シール面10が軌道面2に案内面12を介して連続形成されるものである。
【0005】
特許文献2に記載の自動調心ころ軸受も、図8に示すように、内輪1に二列の軌道面2,2,外輪3には球面の軌道面4及び転動体がたる形ころ5のころ軸受である。しかしながら、内輪1の軸方向端部に、外径側へ膨出する鍔部15が設けられ、この鍔部15の軸方向外端部に軸受内方から軸受外方に向かって縮径するテーパ面が設けられ、このテーパ面がシール摺動面10を構成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-232324号公報
【特許文献2】特開2010-190241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されたものであっても、特許文献2に記載されたものであっても、シール摺動面は、比較的大径とされる。このため、シールリップ部の周速が早くなり、シールリップ部に係るトルクが大となって、シールリップ部の摩耗及び発熱がしやすくなっていた。
【0008】
そこで、本発明は斯かる実情に鑑み、シールリップ部にかかるトルクの低減を図り、リールリップ部の摩耗を抑制し、より高速での使用が可能な自動調心ころ軸受(シール付き自動調心ころ軸受)を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の自動調心ころ軸受は、内径面に凹球面状の軌道面を有する外輪と、外径面に凹球面状の複数列の軌道面を有する内輪と、外輪の軌道面と内輪の軌道面との間に複数列に配置され、転動面が球面状に膨らんだたる形ころと、前記たる形ころを転動自在に保持する保持器とを備え、軸方向両端開口部を密封装置にて密封する自動調心ころ軸受であって、前記密封装置は、内輪の軸方向端部に設けられるシール摺動面に摺動するシールリップ部を有すシール部材を備え、前記シール摺動面を前記内輪の転動面よりも内径側に配置されるように、前記シール摺動面と前記内輪の転動面との間に段差部を設けたものである。
【0010】
本発明の自動調心ころ軸受によれば、シール摺動面が前記内輪の転動面よりも内径側に配置されるように、前記シール摺動面と前記内輪の転動面との間に段差部を設けたものであるので、内輪の軌道面と連続的に形成されて比較的大径となる従来のシール摺動面よりもシール摺動面の径を小径とすることができる。このため、シールリップ部の周速は、従来のこの種のシール付き心ころ軸受よりも遅くなる。
【0011】
内輪における、前記シール摺動面と前記転動面との間に径方向に延びる周方向端面を形成することによって、段差部を形成し、前記保持器を、軸受外方側の径方向に延びる径方向環状部と、この環状部の外径部から軸受内部側に延びる周方向環状部とを備え、周方向環状に設けられるポケットに前記ころが転動自在に嵌入されるかご形保持器であってもよい。このため、内輪にころを受ける鍔部を設けることなく、ころを安定して軌道面間に保持できる。
【0012】
この場合、前記内輪における、転動面と連なる外径面と周方向端面とが成す角度を90°以下とするのが好ましい。このように設定することによって、シール摺動面の幅寸法(軸受軸方向長さ)を大きく設定することができ、軸受が調心した際にシール摺動面として安定して対応できる。
【0013】
前記内輪における、前記シール摺動面と前記転動面との間に外径側に膨出する鍔部を設けることによって、前記段差部を形成し、前記保持器を、環状部と、前記環状部から軸方向に延びる複数の柱部とを備え、周方向に沿って隣り合う柱部間に形成されるポケットに前記ころが転動自在に嵌入されるくし形保持器としたものであってもよい。くし形保持器としたことにより複列ころ軸受に好適となる。
【0014】
この際、前記内輪における、前記鍔部の外径面と鍔部の軸受外方側端面とが成す角度を90°以下とするのが好ましい。このように設定することによって、シール摺動面の幅寸法(軸受軸方向長さ)を大きく設定することができ、軸受が調心した際にシール摺動面として安定して対応できる。しかも、シール摺動面と前記転動面との間に外径側に膨出する鍔部を設けていても、軸受が調心した際にこの鍔部とシールリップ部との干渉を防止できる。
【0015】
前記シール摺動面の軸受内方側のコーナ部にぬすみ部を設けるのが好ましい。このようにぬすみ部を設けることによって、シール摺動面の研削加工性が向上する。
【0016】
前記シール摺動面が形成される部位の内輪端部の平均肉厚を、内輪の軌道面が形成される部位の肉厚最薄部の肉厚に対して60%以上とするのが好ましい。シール摺動面が形成される部位の内輪端部の平均肉厚が小さいと、シール摺動面が強度的に劣るおそれがあり、また、内輪幅面の平坦部(軸受を軸に取り付ける際の幅押さえのための平面)を確保できなくなる場合が生じる。しかしながら、60%以上とすることによって、シール摺動面が強度的に劣ることを防止し、かつ、軸受を軸に取り付ける際に幅押さえも有効に確保できる。
【0017】
前記シール摺動面を、軸受内方側から軸受外方側に向かって縮径するテーパ形状とするのが好ましい。このように、テーパ形状とすることによって、調心時のシールリップ部の締め代の変化量を小さくすることが可能となる。
【0018】
前記シール摺動面を、軸受中心を中心とする球面形状としたものであってもよい。軸受中心を中心とする球面形状としたことによって、調心していないときのシールリップ部の締め代と、調心時のシールリップ部の締め代を一定とすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、シールリップ部の周速を下げることができるので、シールリップ部に負荷されるトルクを低減し、シールリップ部の摩耗を抑制し、従来では対応できなかったより高速での使用が可能なシール付き自動調心ころ軸受を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1の自動調心ころ軸受の断面図である。
図2図1に示す自動調心ころ軸受の要部拡大断面図である。
図3】本発明の第2の自動調心ころ軸受の断面図である。
図4図3に示す自動調心ころ軸受の要部拡大断面図である。
図5図3に示す自動調心ころ軸受の変形例の断面図である。
図6図1に示す自動調心ころ軸受の変形例の断面図である
図7】従来の自動調心ころ軸受の要部拡大断面図である。
図8】他の従来の自動調心ころ軸受の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明に係る自動調心ころ軸受の断面図であり、内径面21に凹球面状の軌道面22を有する外輪23と、外径面24に凹球面状の複数列の軌道面25,25を有する内輪26と、外輪23の軌道面22と内輪26の軌道面25,25との間に複数列に配置され、転動面27a、27aが球面状に膨らんだ複列(この2列)のたる形ころ27、27と、たる形ころ27、27を転動自在に保持する一対の保持器28、28とを備え、軸方向両端開口部30、30を密封装置S、Sにて密封する自動調心ころ軸受である。
【0022】
この場合の各保持器28、28は、軸受外方側(軸方向開口部側)の径方向に延びる径方向環状部31、31と、この環状部31,31の外径部から軸受内部側に延びる周方向環状部32,32とを備えたものである。そして、周方向環状部32,32にポケット33,33を設け、ポケット33にたる形ころ27,27が転動自在に嵌入される。このため、軌道面25,25よりも軸方向外方に、保持器案内面34が形成される。この保持器28,28としては、金属製保持器であっても、樹脂製保持器であってもよい。
【0023】
密封装置Sは、芯金35と、この芯金35を覆う弾性材のシール本体36とからなるシール部材37を備える。シール部材37の内径側端部には、シールリップ部38が形成される。芯金35は、径方向に延びる本体部35aと、この本体部35aの外径端に設けられる軸受内方側へ折れ曲がり片部35bと、本体部35aの内径端に設けられて軸受内方側へ傾斜する傾斜片部35cとを有する。芯金35は、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)や防錆処理された冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)等の防錆能を有する鋼板からプレス加工にて形成されている。
【0024】
そして、折れ曲がり片部35bには、シール本体36の外径側端部の膨出部39にて被覆され、この膨出部39が、外輪23の内径面の軸方向端部に設けられた凹周溝40に嵌合している。これによって、シール部材37が外輪23に装着される。また、傾斜片部35cを覆うシールリップ部38は、内輪26の軸方向端部に設けられたシール摺動面41に摺動する。
【0025】
シール部材37は、例えば、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)等の合成ゴムからなる。なお、シール部材37の材質としては、NBR以外にも、例えば、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム)、EPM、EPDM(エチレン・プロピレンゴム)等をはじめ、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等を例示することができる。
【0026】
シール摺動面41と内輪26の転動面25との間に段差部42を設け、シール摺動面41を内輪26の転動面25よりも内径側に配置されるように設定している。この場合、シール摺動面41と転動面25との間に径方向に延びる周方向端面43を形成することによって、段差部42を形成している。具体的には、図2に示すように、周方向端面43は、保持器案内面34とシール摺動面41との間に形成される。そして、周方向端面43と保持器案内面34との成す角度αを90°以下に設定する。この実施形態では、90°とした。
【0027】
この場合、シール摺動面41は、周方向端面43の内径端から軸受外方に向かって傾斜(縮径)するテーパ形状とされている。このシール摺動面41の傾斜角度θは、例えば、10°~20°程度に設定される。シール摺動面41としては、調心時のシールリップ部38の動作範囲に追従できる必要がある。つまり、シール摺動面41とシールリップ部38との間に隙間が形成されず、また、シール摺動面41にシールリップ部38が圧接しすぎないように設定する必要がある。
【0028】
また、シール摺動面41が形成される部位の内輪端部の平均肉厚を、内輪26の軌道面25が形成される部位の肉厚最薄部の肉厚に対して60%以上としている。すなわち、図2に示すように、シール摺動面41が形成される部位の内輪端部の平均肉厚をtとし、軌道面25が形成される部位の肉厚最薄部の肉厚をTとしたときに、t/T=60%となる。ここで、肉厚最薄部とは、ころ27の転動面27aの軸方向端27a1における肉厚である。また、シール摺動面41の長さ寸法Lは、調心時のシールリップ部の動作範囲に追従できる長さが必要である。
【0029】
本発明の自動調心ころ軸受によれば、シール摺動面41が内輪26の転動面25よりも内径側に配置されるように、シール摺動面41と内輪26の転動面25との間に段差部42を設けたものであるので、内輪26の軌道面25と連続的に形成されて比較的大径となる従来のシール摺動面よりもシール摺動面41の径を小径とすることができる。このため、シールリップ部38の周速は、従来のこの種のシール付き心ころ軸受よりも遅くなる。
【0030】
本発明は、シールリップ部38の周速を下げることができるので、シールリップ部38に負荷されるトルクを低減し、シールリップ部38の摩耗を抑制し、従来では対応できなかったより高速での使用が可能なシール付き自動調心ころ軸受を提供できる。
【0031】
図1及び図2に示す実施形態では、内輪26における、シール摺動面41と転動面25との間に径方向に延びる周方向端面43を形成することによって、段差部42を形成し、保持器28を、軸受外方側の径方向に延びる径方向環状部31と、この環状部31の外径部から軸受内部側に延びる周方向環状部32とを備え、周方向環状部32に設けられるポケット33に前記ころが転動自在に嵌入されるかご形保持器としている。このため、内輪26にたる形ころ27を受ける鍔部を設けることなく、たる形ころ27を安定して軌道面22、25間に保持できる。
【0032】
また、内輪26における、転動面25と連なる外径面34と周方向端面43とが成す角度αを90°以下とするのが好ましい。このように設定することによって、シール摺動面41の幅寸法(軸受軸方向長さ)を大きく設定することができ、軸受が調心した際にシール摺動面41として安定して対応できる。
【0033】
シール摺動面41が形成される部位の内輪端部の平均肉厚を、内輪の軌道面が形成される部位の肉厚最薄部の肉厚に対して60%以上とするのが好ましい。シール摺動面41が形成される部位の内輪端部の平均肉厚が小さいと、シール摺動面41が強度的に劣るおそれがあり、また、内輪幅面の平坦部(軸受を軸に取り付ける際の幅押さえのための平面)を確保できなくなる場合が生じる。しかしながら、60%以上とすることによって、シール摺動面41が強度的に劣ることを防止し、かつ、軸受を軸に取り付ける際に幅押さえも有効に確保できる。
【0034】
シール摺動面41を、軸受内方側から軸受外方側に向かって縮径するテーパ形状とするのが好ましい。このように、テーパ形状とすることによって、調心時のシールリップ部38の締め代の変化量を小さくすることが可能となる。
【0035】
次に、図3に示す自動調心ころ軸受では、内輪26における、シール摺動面41と転動面25との間に外径側に膨出する鍔部50を設けることによって、段差部42を設け、保持器51を、環状部52と、前記環状部52から軸方向に延びる複数の柱部53とを備え、周方向に沿って隣り合う柱部53,53間に形成されるポケット54にころ27が転動自在に嵌入されるくし形保持器である。
【0036】
この場合、図1等に示すような保持器案内面が形成されず、図1における案内面形成部に鍔部50を設けている。そして、図4に示すように、この鍔部50の軸受軸方向外方側の端面50aが段差部42を構成することになる。また、この場合も、シール摺動面41が、周方向端面43の内径端から軸受外方に向かって傾斜(縮径)するテーパ形状とされている。このシール摺動面41の傾斜角度θは、例えば、10°~20°程度に設定される。鍔部50の軸受軸方向外方側の端面50aと鍔部50の外径面50bとの成す角度βを90°以下に設定する。この実施形態では、90°とした。
【0037】
また、シール摺動面41が形成される部位の内輪端部の平均肉厚を、内輪26の軌道面25が形成される部位の肉厚最薄部の肉厚に対して60%以上としている。すなわち、図2に示すように、シール摺動面41が形成される部位の内輪端部の平均肉厚をtとし、軌道面25が形成される部位の肉厚最薄部の肉厚をTとしたときに、t/T=60%となる。ここで、肉厚最薄部とは、ころ27の転動面27aの軸方向端27a1における肉厚である。また、シール摺動面41の長さ寸法Lは、調心時のシールリップ部の動作範囲に追従できる長さが必要である。
【0038】
このため、図3図4に示す自動調心ころ軸受であっても、図1図2に示す自動調心ころ軸受と同様、「シールリップ部38の周速を下げることができるので、シールリップ部38に負荷されるトルクを低減し、シールリップ部38の摩耗を抑制し、従来では対応できなかったより高速での使用が可能なシール付き自動調心ころ軸受を提供できる。」という作用効果を奏することができる。
【0039】
また、内輪26における、鍔部50の外径面50bと鍔部50の軸受外方側端面50aとが成す角度βを90°以下に設定することによって、図1及び図2に示す自動調心ころ軸受と同様、シール摺動面41の幅寸法(軸受軸方向長さ)を大きく設定することができ、軸受が調心した際にシール摺動面41として安定して対応できる。しかも、シール摺動面41と転動面25との間に外径側に膨出する鍔部50を設けていても、軸受が調心した際にこの鍔部50とシールリップ部38との干渉を防止できる。
【0040】
この場合も、シール摺動部41が形成される部位の内輪端部の平均肉厚を、内輪26の軌道面25が形成される部位の肉厚最薄部の肉厚に対して60%以上としているので、図1及び図3に示す自動調心ころ軸受と同様、シール摺動面41が強度的に劣ることを防止し、かつ、軸受を軸に取り付ける際に幅押さえも有効に確保できる。また、シール摺動面41をテーパ形状とすることによって、調心時のシールリップ部の締め代の変化量を小さくすることが可能となる。
【0041】
図5に示す自動調心ころ軸受では、鍔部50の軸受軸方向外方側の端面50aと鍔部50の外径面50bとの成す角度βを90°未満の鋭角(例えば、50°から85°)としている。このように、90°未満とすることによって、シール摺動面41の幅をより広く確保できる。また、シール摺動面41の軸受内方側のコーナ部にぬすみ部55を設けている。このようにぬすみ部55を設けることによって、シール摺動面41の研削加工性が向上する。
【0042】
図5に示す自動調心ころ軸受の他の構成は、図3及び図4に示す自動調心ころ軸受の構成と同様であり、同一の部材については、図3及び図4と同一符号を付してそれらの説明を説明する。このため、図5に示す自動調心ころ軸受は、図3及び図4に示す自動調心ころ軸受と同等の作用効果を奏する。
【0043】
次に、図6に示す自動調心ころ軸受は、図1図2に示す自動調心ころ軸受において、
シール摺動面を球面形状としたものである。具体的には、シール摺動面41を、軸受内方端よりも軸受外方端が小径となり、軸受中心O(図1参照)を中心とする曲率半径Rの球面形状としたものであってもよい。軸受中心を中心とする球面形状とした。
【0044】
このようにシール摺動面41を、軸受中心を中心とする球面形状としたことによって、調心していないときのシールリップ部38の締め代と、調心時のシールリップ部の締め代を一定とすることができる。
【0045】
図6に示す自動調心ころ軸受の他の構成は、図1及び図2に示す自動調心ころ軸受の構成と同様であり、同一の部材については、図1及び図2と同一符号を付してそれらの説明を説明する。このため、図6に示す自動調心ころ軸受は、図1及び図2に示す自動調心ころ軸受と同等の作用効果を奏する。
【0046】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、図1及び図2に示す自動調心ころ軸受において、周方向端面43と保持器案内面34との成す角度αを図5に示すように90度未満の鋭角としてもよく、図5に示すように、ぬすみ部55を有するものであってもよい。また、図3及び図4に示す自動調心ころ軸受においても、ぬすみ部55を設けてもよい。さらに、図3及び図4に示す自動調心ころ軸受や図5に示す自動調心ころ軸受において、シール摺動面41を、図6に示すような球面形状としてもよい。なお、シール摺動面41として、テーパ形状とすることなく、軸受軸方向に延びる平坦面であってもよい。
【符号の説明】
【0047】
21 内径面
22 軌道面
23 外輪
24 外径面
25 転動面
26 内輪
27a 転動面
28 保持器
31 径方向環状部
32 周方向環状部
33 ポケット
37 シール部材
38 シールリップ部
41 シール摺動面
42 段差部
43 周方向端面
50 鍔部
50a 端面
51 保持器
52 環状部
53 柱部
54 ポケット
55 ぬすみ部
O 軸受中心
S 密封装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8