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  • 特開-穀物のGABA富化方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003879
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】穀物のGABA富化方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20240109BHJP
【FI】
A23L7/10 Z
A23L7/10 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103205
(22)【出願日】2022-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001812
【氏名又は名称】株式会社サタケ
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤田 明子
(72)【発明者】
【氏名】西本 有紀
【テーマコード(参考)】
4B023
【Fターム(参考)】
4B023LC09
4B023LE16
4B023LG01
4B023LG03
4B023LG10
4B023LK20
4B023LP05
4B023LP20
(57)【要約】
【課題】穀物に酢あるいはグルタミン酸を添加する際の、グルタミン酸脱炭酸酵素の酵素作用をより好適に得ることが可能な、穀物のGABA富化方法を提供すること。
【解決手段】穀物に対して重量比で1.0~6.0%の添加量の食酢を添加する食酢添加工程と、前記食酢が添加された前記穀物を50℃以上にて3時間以上貯留する貯留工程と、を少なくとも有することを特徴とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀物に対して重量比で1.0~6.0%の添加量の食酢を添加する食酢添加工程と、
前記食酢が添加された前記穀物を50℃以上にて3時間以上貯留する貯留工程と、を少なくとも有する
ことを特徴とする穀物のGABA富化方法。
【請求項2】
前記食酢添加工程における食酢の添加量は前記穀物に対する重量比で1.25~4.0%である
請求項1に記載の穀物のGABA富化方法。
【請求項3】
前記貯留工程における貯留時間は3~5時間である
請求項1又は2に記載の穀物のGABA富化方法。
【請求項4】
前記貯留工程における貯留温度は50~60℃である
請求項1又は2に記載の穀物のGABA富化方法。
【請求項5】
前記食酢添加工程は、前記食酢を含有する水、又は前記食酢を含有しない水を前記穀物に加水する加水工程を有し、
前記加水工程は複数回に分けて行われる
請求項1又は2に記載の穀物のGABA富化方法。
【請求項6】
前記穀物は、籾及び玄米、分搗米のうちのいずれかであり、
前記食酢は、米酢である
請求項1又は2に記載の穀物のGABA富化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穀物のGABA富化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、穀物のGABA富化方法として、特許文献1や特許文献2が開示されている。例えば特許文献1では、胚芽米にグルタミン酸若しくはグルタミン酸の塩を含む溶液を添加して反応させ、添加溶液中のグルタミン酸と胚芽米中のグルタミン酸とを、胚芽米中のグルタミン酸脱炭酸酵素の酵素作用により、γ-アミノ酪酸にすることが記載されている。これにより、大量のγ-アミノ酪酸、所謂GABAを生産するものである。また特許文献2には、そば種子に、酢あるいはグルタミン酸の塩を添加して、そば種子中のGABA含有量を増加させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-201651号公報
【特許文献2】特許第4883643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記各特許文献には、酢あるいはグルタミン酸を添加することで、穀物中のGABA含有量が増加するとの記載があるものの、そのメカニズムが詳細に解明されていない。
【0005】
そこで、本発明はこのような課題に鑑み、穀物に酢あるいはグルタミン酸を添加する際の、グルタミン酸脱炭酸酵素の酵素作用をより好適に得ることが可能な、穀物のGABA富化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上述の課題を解決するために、穀物に対して重量比で1.0~6.0%の添加量の食酢を添加する食酢添加工程と、前記食酢が添加された前記穀物を50℃以上にて3時間以上貯留する貯留工程と、を少なくとも有することを特徴とする穀物のGABA富化方法を提供する。
【0007】
さらに、前記食酢添加工程における食酢の添加量は前記穀物に対する重量比で1.25~4.0%とすることができる。
【0008】
さらに、前記貯留工程における貯留時間は3~5時間とすることができる。
【0009】
さらに、前記貯留工程における貯留温度は50~60℃とすることができる。
【0010】
さらに、前記食酢添加工程は、前記食酢を含有する水、又は前記食酢を含有しない水を前記穀物に加水する加水工程を有し、前記加水工程は複数回に分けて行うことができる。
【0011】
さらに、前記穀物は、籾及び玄米、分搗米のうちのいずれかであり、前記食酢は、米酢とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、穀物に対して食酢を適切な範囲の添加量で添加し、さらに好ましい温度や時間で貯留するので、健康面において安全な食酢を使用するとともに、従来よりも簡便な設備でGABA富化量を大幅に向上させることができるなどの特有の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明における検証実験1の実験結果を示す表である。
図2】本発明における検証実験1によってGABA富化した白米の食味官能試験結果を示す表である。
図3】本発明における検証実験2の実験結果に基づいて、米酢の添加量とGABA富化量の関係を示したグラフである。
図4】本発明における検証実験3のうち、食味官能試験結果を示す表である。
図5】本発明における検証実験3の実験結果に基づいて、貯留時間とGABA富化量の関係を示したグラフである。
図6】本発明における検証実験3の実験結果に基づいて、米酢の添加時期とGABA富化量の関係を示した表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、図面を参照して本発明における穀物のGABA富化方法を詳細に説明する。なお以下では、食酢(米酢等)の添加量や加水量の比率としてパーセント(%)表示しているが、これらは穀物(籾及び玄米、分搗米等)の重量比である。
【0015】
<1.GABA富化の処理工程>
本実施態様における穀物のGABA富化の処理工程を説明する。処理工程は、GABA富化の対象となる穀物に対して所定の添加量で食酢を添加する食酢添加工程と、食酢が添加された穀物を所定の温度で所定時間貯留する貯留工程とを少なくとも有している。
【0016】
上記食酢添加工程では、食酢を含有する水(食酢を溶かした水)を一度に添加することも可能であるが、本実施形態の食酢添加工程では、食酢を含有する水を穀物に加水する加水工程と、食酢を含有しない水を穀物に加水する加水工程とを有しており、加水工程を複数回(本実施形態では一次加水と二次加水の2回)に分けて行っている。
【0017】
本実施形態では、穀物の重量比で5%を上限に加水することで胴割れの防止を図っているが、上記5%の加水のみでは十分なGABA富化につながらないため、一次加水で5%の加水を行った後、二次加水でさらに5%の加水を行っている。すなわち、加水工程を複数回、段階的に行うことによって、GABA富化を促進させつつ穀物の胴割れの発生を抑止している。
【0018】
また本実施形態における貯留工程では、食酢を添加した穀物を嫌気設備(タッパーに入れて若干の穴を開けるなど)で行うことにより、従来のような大規模な加湿設備や排水設備を不要としている。
【0019】
以上が、GABA富化の処理工程の概要である。従来技術(例えば、特許文献1)においては、グルタミン酸、グルタミン酸塩、ピリドキサルリン酸などのいわゆる化学的物質を添加して人工的に反応させているが、本発明では、日常生活の料理等で使われ、健康面にも良いとされている食酢を使用することで、人体への影響度を低下させ、食品の安全・安心を向上させている。
【0020】
<2.GABA富化方法の検証実験>
以下、上記したGABA富化の処理工程による検証実験の結果に基づいて、本実施形態のGABA富化方法を説明する。なお、本検証実験では、穀物として籾を使用し、食酢として米酢を使用している。
【0021】
図1には、検証実験1の実験結果が表で示され、主に米酢の添加量ごとに、乾燥玄米100g中のGABA含有量などが示されている。当該検証実験1では、加水工程において一次加水及び二次加水の2段階で、それぞれ穀物重量比5%の加水を行っている。そして、一次加水又は二次加水のいずれか一方で米酢を溶かした水を添加している。
【0022】
また、貯留工程では、貯留時の温度を50℃と55℃の2水準とし、貯留時間については3時間と5時間の2水準としている。
【0023】
図1に示す検証実験1の結果から、米酢を1.25%以上添加することで、大幅にGABAの含有量が増加することが判る。また、加水工程を複数段階に分けることで、急激な加水を避け、これにより胴割の発生率を大幅に低減できることが判る。
【0024】
図2には、検証実験1によってGABA富化した白米の、食味官能試験結果が表で示されている。より詳細に説明すると、米酢を添加してGABA富化した白米と、比較対象として水のみを添加した白米の食味官能試験結果が表に示されている。
【0025】
食味官能試験の結果から、米酢を添加してGABA富化した白米は、外観、味、粘り、硬さの評価が水のみを添加したものよりも高いことが判る。また米酢を添加した白米は、すっぱいにおいや酢の風味が感じられるため、香りの評価が低くなっているが、寿司用のシャリとしてうま味が増して好適である。
【0026】
もちろん、寿司用以外の用途でも、GABA富化の効果により健康食品に利用することが可能である。一方、水のみを添加して得た白米は、GABA加工米の炊飯臭や籾臭、青臭いにおいがあり、食味が劣る。
【0027】
続いて、図3は、追加して行った検証実験2の実験結果に基づいて、米酢の添加量とGABA富化量の関係を示したグラフである。本検証実験2では、貯留工程における貯留時の温度を55℃、貯留時間を5時間として、米酢の添加量ごとにGABA富化量を調査している。
【0028】
図示されるように、米酢の添加量が1.0~6.0%の範囲で、GABA富化量が大幅に増加することが判る。より好ましくは、米酢の添加量を1.25~4.0%の範囲とすることで、乾燥玄米100g中に18mg以上のGABA富化量を得ることが可能となる。一方で、6.0%以上米酢を添加してもGABA富化量は所定量よりも増加しないことが判る。
【0029】
続いて図4には、検証実験3のうち、食味官能試験の結果が表で示されている。すなわち、米酢を添加した籾を、貯留温度55℃、貯留時間を5時間、6時間、7時間の3水準で貯留して得た白米の食味官能試験結果が表に示されている。
【0030】
表に示されるように、貯留時間が6時間及び7時間となると、粒感が無くなり、全体的な食味評価も低下してしまうことが判る。すなわち、食味の観点からすると、貯留時間を6時間以上とするのは好ましくないといえる。
【0031】
さらに図5には、検証実験3により、米酢を1.5%添加して55℃で貯留した場合における、貯留時間ごとのGABA富化量がグラフで示されている。グラフに示されるように、貯留時間が長くなるほどGABA富化量が増加する傾向にあることが判る。特に3時間以上貯留することで、乾燥玄米100g中に20mg以上のGABA富化量が得られることが判る。また貯留時間が5時間を超えるとほぼGABA富化量は横ばいとなることも判る。
【0032】
したがって、貯留時間は3時間以上が好ましく、前述したように、貯留時間が6時間以上になると食味評価が低下することを考慮すると、貯留時間を3~5時間とするのがより好ましいといえる。
【0033】
図6には、検証実験3により、米酢を1.5%添加して55℃で貯留した場合における、貯留時間ごとのGABA富化量が表に示されている。表中の検体名に丸数字1と丸数字2が表示された検体があるが、丸数字1は加水工程の一次加水で米酢を添加した検体を示している。
【0034】
一方、丸数字2は加水工程の二次加水で米酢を添加した検体を示している。これらのGABA富化量を見ると、一次加水で米酢を添加した場合と、二次加水で米酢を添加した場合とでは、GABA富化量に大きな差は認められず、米酢の添加時期の影響は少ないことが判る。
【0035】
<3.その他の実施形態>
前述した実施形態では、食酢として米酢を添加する実施形態を示したが、必ずしも食酢は米酢に限定されるものではなく、穀物酢であればこれを利用することも可能である。
【0036】
また、前述した実施形態では、食酢の添加対象穀物を籾とする実施形態を示したが、必ずしも籾に限定されるものではなく、玄米や分搗米のほか、麦や蕎麦などの穀類においても、本発明のGABA富化方法を適用することが可能である。
【0037】
以上、本発明の一実施形態について、検証実験の結果を参照しながら説明してきたが、本発明は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではない。添付の特許請求の範囲及びその要旨を逸脱することなく、様々な変更、置換が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6