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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038793
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】材料特性測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 22/00 20060101AFI20240313BHJP
【FI】
G01N22/00 Y
G01N22/00 W
G01N22/00 Q
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143075
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】592004714
【氏名又は名称】荒井 郁男
(71)【出願人】
【識別番号】522358180
【氏名又は名称】有限会社エフティ・ワークス
(74)【代理人】
【識別番号】100110319
【弁理士】
【氏名又は名称】根本 恵司
(72)【発明者】
【氏名】荒井 郁男
(72)【発明者】
【氏名】藤原 滝男
(57)【要約】
【課題】電磁波を被測定材料に照射して、それを透過した電磁波を受信して解析することにより、被測定材料の材料特性を測定する材料特性測定装置において、VNAを不要にし、直流オフセットを除去するためのキャリブレーションを不要にする。
【解決手段】送信アンテナ4と受信アンテナ7を横に並べて配置し、前方に直線的にピストン移動する反射板5を配置する。反射板5で反射した電磁波を受信し、ミキサー9でホモダイン検波してドップラー信号を得る。受信アンテナ7の前に試料6がないときとあるときのドップラー信号の振幅と位相から、試料6の比誘電率とtanδを算出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波信号を発生する信号発生手段と、
前記高周波信号を電磁波として送信する送信手段と、
前記送信手段により送信された電磁波を直線移動しながら反射する反射手段と、
前記反射手段により反射された電磁波を受信し、高周波受信信号を出力する受信手段と、
前記高周波受信信号を前記高周波信号でホモダイン検波してドップラー信号を取得する信号取得手段と、
前記反射手段と前記送信手段または受信手段との間に被測定材料を配置したときと配置しないときの前記ドップラー信号の振幅および位相に基づき、前記被測定材料の材料特性として比誘電率およびtanδを算出する算出手段と、
を有する材料特性測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載された材料特性測定装置において、
前記送信手段は自由空間へ電磁波を送信し、前記受信手段は自由空間から電磁波を受信し、前記反射手段及び前記被測定材料は自由空間に配置されている、材料特性測定装置。
【請求項3】
請求項1に記載された材料特性測定装置において、
前記送信手段は導波管内へ電磁波を送信し、前記受信手段は導波管から電磁波を受信し、前記反射手段及び前記被測定材料は導波管内に配置されている、材料特性測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波を被測定材料に照射して、それを透過した電磁波を受信して解析することにより、その被測定材料の材料特性を測定する材料特性測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波・ミリ波帯の電磁波を利用した材料特性の測定法として自由空間法がある。自由空間法とは、送信アンテナから放射された電磁波を受信アンテナで受信するとき、送信アンテナと受信アンテナの間に被測定材料(以下、試料(DUT:device under test)ということがある)を置き、この試料を透過又は反射した電磁波の振幅と位相の測定値から、試料の材料特性として比誘電率とtanδ(損失角)を求める方法である。自由空間法を用いた材料特性測定装置として特許文献1、2に記載されたものがある。
【0003】
また、自由空間法を用いた材料特性測定装置として、文献に記載されたものではないが図5に示されているものがある。この材料特性測定装置は、信号発生器1、電力分配器2、送信アンテナ4、受信アンテナ7、直交検波器11、直流アンプ12および13を備えている。ここで、信号発生器1、電力分配器2、直交検波器11、直流アンプ12および13は、試料6を透過した電磁波の振幅と位相を測定するための基本回路である(周波数変換回路などは省略)。
【0004】
図5において、信号発生器1が生成したマイクロ波・ミリ波帯の高周波信号は、その一部が電力分配器2で分配されて送信用高周波信号とされ、送信アンテナ4からマイクロ波・ミリ波の電磁波として放射される。この電磁波は試料6を透過して受信アンテナ7で受信され、高周波受信信号となり、直交検波器11に入力される。直交検波器11には、信号発生器1で生成され、電力分配器2で分配された高周波信号が参照信号として入力されており、高周波受信信号が直交検波されてI信号、Q信号が出力され、直流アンプ12,13により直流化されたI信号、Q信号となる。
【0005】
ここで、試料6を透過した電磁波の振幅と位相を測定する手段としてベクトルネットワークアナライザ(vector network analyzer:以下、VNA)を用い、S(Scattering)パラメータのS21(透過係数)から振幅と位相を求めているが、S21を求めるVNAの基本回路(周波数変換回路などは省略)は図5に示されているように、直交検波器11と直流アンプ12および13を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-133048号公報
【特許文献2】特開2018-13452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図5に示されている基本回路における直交検波器11と直流アンプ12,13は直流を扱うので、直流オフセットがある。そのため測定開始前にキャリブレーション(校正)を行い、その直流オフセットを除去する必要がある。なぜなら、SパラメータのS21は受信信号を振幅と位相からなるベクトルとして求めるので、直流オフセットは0でなければならないからである。さらに、直交検波器11は互いに直交したI信号とQ信号の2チャンネルの出力があり、ベクトルとして検出しているが、I信号とQ信号は正確な振幅と90°位相差を得るのが困難なため誤差を含むことから、それらの誤差が試料6の材料特性(比誘電率、tanδ)の測定誤差になるという問題がある。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、その目的は、電磁波を被測定材料に照射して、それを透過した電磁波を受信して解析することにより、被測定材料の材料特性を測定する材料特性測定装置において、VNAを不要にし、直流オフセットを除去するためのキャリブレーションを不要にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、高周波信号を発生する信号発生手段と、前記高周波信号を電磁波として送信する送信手段と、前記送信手段により送信された電磁波を直線移動しながら反射する反射手段と、前記反射手段により反射された電磁波を受信し、高周波受信信号を出力する受信手段と、前記高周波受信信号を前記高周波信号でホモダイン検波してドップラー信号を取得する信号取得手段と、前記反射手段と前記送信手段または受信手段との間に被測定材料を配置したときと配置しないときの前記ドップラー信号の振幅および位相に基づき、前記被測定材料の材料特性として比誘電率およびtanδを算出する算出手段と、を有する材料特性測定装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電磁波を被測定材料に照射して、それを透過した電磁波を受信して解析することにより、被測定材料の材料特性を測定する材料特性測定装置において、VNAが不要になり、直流オフセットを除去するためのキャリブレーションが不要になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1の実施形態に係わる材料特性測定装置の構成を示す図である。
図2】受信した反射波をホモダイン検波して得られる正弦波状のドップラー信号を示す図である。
図3】正弦波状のドップラー信号から試料の比誘電率を求めるための方法を説明するための図である。
図4】本発明の第2の実施形態に係わる材料特性測定装置の構成を示す図である。
図5】VNAでSパラメータのS21を求める基本回路を含む従来の材料特性測定装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
[第1の実施形態]
〈材料特性測定装置の構成及び概略動作〉
【0013】
図1は、本発明の第1の実施形態に係わる材料特性測定装置(以下、第1実施形態に係わる材料特性測定装置)の構成を示す図である。この図において、図5と同一又は対応の構成要素については図5と同じ参照符号が付されている。
【0014】
第1実施形態に係わる材料特性測定装置は、信号発生器1、電力分配器2、アイソレータ3、送信アンテナ4、反射板5、受信アンテナ7、アイソレータ8、ミキサー9、及び直流アンプ10を備えている。ここで、信号発生器1、送信アンテナ4、反射板5、受信アンテナ7、ミキサー9と直流アンプ10が、それぞれ本発明に係わる信号発生手段、送信手段、反射手段、受信手段、信号取得手段に相当する。
【0015】
まず送信アンテナ4、受信アンテナ7、反射板5の位置関係などについて説明する。
送信アンテナ4と受信アンテナ7は横に並べて配置されている。すなわち、前後方向(図の左右方向)の同じ位置、及び上下方向(鉛直方向)の同じ位置(すなわち同じ高さ)に配置されている。ただし、これは一例であって、前後方向の位置、上下方向の位置が異なってもよい。
【0016】
反射板5は、その表面(反射面)が鉛直面に平行に配置されており、図示されていない反射板駆動機構により前後方向にピストン移動可能である。
【0017】
また、試料6が反射板5と受信アンテナ7との間に配置されている。試料6は板状であり、その表面(電磁波の透過面)が鉛直面に平行に配置されている。
【0018】
送信アンテナ4及び受信アンテナ7と反射板5との間の距離Rは平面波が成り立つ距離である。距離Rは平面波となる条件、すなわち遠方電磁界となる条件を満たすことであり、アンテナの開口寸法や反射板の寸法などで求められる。
【0019】
信号発生器1は、マイクロ波帯またはミリ波帯の高周波信号(以下、高周波信号)を発生し、電力分配器2へ供給する。電力分配器2は、信号発生器1から供給された高周波信号をアイソレータ3とミキサー9に分配する。アイソレータ3は、電力分配器2から供給された高周波信号を低損失で送信アンテナ4に供給する。送信アンテナ4は、アイソレータ3から供給された高周波信号を電磁波として自由空間へ放射する。
【0020】
反射板5は、前後方向(図の左右方向)へ直線移動(真っ直ぐに一定速度で移動)し、送信アンテナ4から放射された電磁波を反射する。受信アンテナ7は、試料6があるときは反射板5で反射し、試料6を透過した電磁波を受信し、試料6がないときは反射板5で反射した電磁波を直接受信し、高周波受信信号をアイソレータ8に供給する。
【0021】
アイソレータ8は、受信アンテナ7から供給された高周波受信信号を低損失でミキサー9に供給する。ミキサー9(ここではDBM:double balance mixer)は、電力分配器2から供給された高周波信号を参照信号(局部発振信号)として、アイソレータ8から供給された高周波受信信号をホモダイン検波し、直流アンプ10に出力する。
【0022】
直流アンプ10の出力である正弦波状のドップラー信号は、図示されていない計算装置(パーソナルコンピュータなど)に入力され、所定の計算式により、試料6の材料特性として比誘電率及びtanδを算出する。この計算式については後述する。
【0023】
図2は正弦波状のドップラー信号の波形を示す図である。ここで、点線で表されている正弦波状の波形は試料6がないときのドップラー信号14(V1とする)の波形であり、実線で表されている正弦波状の波形は試料6があるときのドップラー信号15(V2とする)の波形である。ドップラー信号14の振幅A、ドップラー信号15の振幅Bは直流オフセットがあっても無関係である。また、位相は、試料6がないときのドップラー信号14と試料6があるときのドップラー信号15の時間差ΔTdから相対的に求める。つまり、試料6がないときとあるときのドップラー信号の振幅と位相差はいずれも相対的に求めるので、ミキサー9と直流アンプ10の直流オフセットの存在とは関係がない。したがって、直流オフセットを除去するためのキャリブレーションは不要である。さらに、図5に示されている材料特性測定装置とは異なり、直交検波器が不要であるから、VNAが不要である。
【0024】
このように、第1実施形態に係わる材料特性測定装置によれば、ホモダイン検波は単なるミキサー(DBM)9でよいので、直交検波器11に起因する誤差を含まない。また、反射板5の直線移動により図2に示すように、受信アンテナ7の前に試料6がないときと試料6があるときの正弦波状に変化するドップラー信号14、15の振幅は振れ幅(peak to peak)のA、Bであり、位相は正弦波状のドップラー信号14,15の位相差をとるので、振幅も位相も相対的に求めることができる。したがって、ミキサー9や直流アンプ10の直流オフセットとは関係がないのでキャリブレーションの必要がないという効果がある。また、高価なVNAが不要であるから、低コストで装置を実現することができる。
【0025】
〈材料特性測定装置の詳細な動作〉
次に第1実施形態に係わる材料特性測定装置の詳細な動作を説明する。
【0026】
図1において、信号発生器1から出力された角周波数ωの高周波信号を電力分配器2で二分配して、一方を送信用高周波信号として送信アンテナ4に供給し、電磁波として放射させる。この送信用高周波信号を
ν0=cos(ωt+θ) …式[1]
とすると、まず試料6がないときは、送信アンテナ4から放射され、前方の反射板5で反射した電磁波は時間τ1(=2R/c)だけ遅れて受信アンテナ7で受信されるので、受信アンテナ7から出力される高周波受信信号ν1
ν1=Acos[ω(t-τ1)+θ]=Acos(ωt-ωτ1+θ) …式[2]
となる。ここで、A=振幅、ω=2πf、f=周波数、θ=任意位相、t=時間、R=反射板5までの距離、c=光速である。
【0027】
よって、電力分配器2で分配された高周波信号と受信アンテナ7から出力された高周波受信信号とをミキサー9でホモダイン検波し、直流アンプ10で増幅された出力V1は、式[1]と式[2]とから、
V1=LPF[ν0×ν1]=LPF[cos(ωt+θ)×Acos(ωt-ωτ1+θ)]=(A/2)cosωτ1
=(A/2)cos2β1R …式[3]
となる。ここで、LPFはローパスフィルタを通すことを意味し、β1は位相定数であり、信号発生器1の信号の波長をλとすると、β1=(2π/λ)である。
【0028】
よって、式[3]より、反射板5までの距離Rが時間τに対して直線的に変化すると、直流アンプ10の出力V1は図2に示されている正弦波状のドップラー信号14となる。
【0029】
同様に、受信アンテナ7の前に厚さd、比誘電率εrの試料6を置いた場合、送信アンテナ4から放射され、前方の反射板5で反射し、試料6を透過した電磁波は時間τ2だけ遅れて受信されるので、受信アンテナ7から出力される高周波受信信号ν2
ν2=Bcos[ω(t-τ2)+θ] …式[4]
となる。ここで、τ2は下記の式[5]で表される。なお、後述するように、εrは厳密には複素比誘電率であるが、tanδ≦0.1の場合、εrの平方根√(εr)とεrの実部ε´rの平方根√(ε´r)とが略等しいとみなせるので、本願明細書ではεrおよびε´rの双方を比誘電率と呼ぶ。
【0030】
【数1】
【0031】
したがって、直流アンプ10の出力V2は下記の式[6]で表される。
【0032】
【数2】
【0033】
ここでBは高周波受信信号ν2の振幅である。
【0034】
よって、反射板5までの距離Rが時間τで直線的に変化すると、直流アンプ10の出力V2は式[6]式により、図2に示されている正弦波状のドップラー信号15になることが分かる。
【0035】
したがって、V1とV2の位相差Δθは式[3]と式[6]から、下記の式[7]で表される。
【0036】
【数3】
【0037】
ただし、β2は試料6内の位相定数であり、下記の式[8]で表される。
【0038】
【数4】
【0039】
式[7]により、厚さdの試料6を透過した信号と試料6がないときの自由空間を通過した信号との位相差Δθが求められた。
【0040】
また試料6を透過した信号の振幅Bと試料6がないときの信号の振幅Aとの比は式[3]と式[6]とにより求められ、下記の式[9]となる。
|(V2/V1)|=B/A …式[9]
【0041】
以上のように、送信アンテナ4と受信アンテナ7の前方に直線移動する反射板5を置き、反射板5の反射波を受信して得られるドップラー信号14,15から、受信アンテナ7の前に試料6がないときと、試料6があるときの位相差と振幅比を測定することができる。そして、これらの位相差と振幅の比から試料6の比誘電率εrやtanδを求めることができる。
【0042】
〈試料の透過係数T〉
次に第1実施形態に係わる材料特性測定装置において、試料6の材料特性(比誘電率、tanδ)が受信アンテナ7の前に試料6がないときと、試料6があるときに求めた位相差を表す式[7]と振幅比を表す式[9]から算出できることを示す。
【0043】
図1図2において、試料6があるときのドップラー信号15のレベル(=直流アンプ10の出力V2)は試料6の透過係数Tに比例するから、
V2=kT …式[10]
で表される。ここで、比例定数kは送信出力や反射板5の反射強度などに比例する。
【0044】
一方、厚さd、比誘電率εrの板状の試料6の透過係数Tは、送信アンテナ4から送信された電磁波が平面であれば理論計算で下記の式[11]で表されることが分かっている。
【0045】
【数5】
【0046】
ここでrは試料6の反射係数であり、下記の式[12]で表される。
【0047】
【数6】
【0048】
なお、試料6の比誘電率は、
εr=ε(1-jtanδ) …式[13]
で表される複素数である。そして、この式において、εは実数、tanδは損失角、jは虚数単位である。
【0049】
次に試料6がないときのドップラー信号14のレベル(=直流アンプ10の出力V1)は、
V1=k …式[14]
なので、式[11]との比をとると、試料6の透過係数Tは次式[15]で求められる。
【0050】
【数7】
【0051】
ここで、tanδ≦0.1のとき、εrの平方根√(εr)とεの平方根√(ε)は略等しいとみなせるので、
β´2=(2π/λ)√(ε) …式[16]
とおき、式[15]を書き換えると、下記の式[17]となる。
【0052】
【数8】
【0053】
ここに、η´、r´、β1は、それぞれ下記の式[18]、[19]、[20]で表される。
【0054】
【数9】
【0055】
【数10】
【0056】
【数11】
【0057】
さらに、式[17]のεrとして式[13]を適用すると、下記の式[21]が得られる。
【0058】
【数12】
【0059】
よって、式[17]は下記の式[22]となる。
【0060】
【数13】
【0061】
ここに、C、Dはそれぞれ下記の式[23]、式[24]で表される。
【0062】
【数14】
【0063】
【数15】
【0064】
〈試料6の比誘電率εの算出〉
送信アンテナ4と受信アンテナ7の前方にある直線移動する反射板5の反射信号を受信して求めた正弦波状のドップラー信号14,15の位相において、受信アンテナ7の前に試料6がないときと試料6があるときの位相差Δθは、ドップラー信号の一周期Tdと時間差ΔTdから、
Δθ=2π(ΔTd/Td) …式[25]
で求められる。この値は、式[22]の位相に等しいので下記の式[26]とおける。
【0065】
【数16】
【0066】
ここで、tanδ≦0.1であればCは略1なので式[26]の右辺はεの関数である。よって、図3に示されているように、色々なεを与えて、左辺の測定値になる値を求めれば、試料6の比誘電率εを求めることができる。
【0067】
〈試料6のtanδの算出〉
式[22]の絶対値を取ると下記の式[27]となる。
【0068】
【数17】
【0069】
ここでDは式[24]よりtanδの関数であるから、式[27]をtanδについて解くことで下記の式[28]が得られる。
【0070】
【数18】
【0071】
ここに、|(V2/V1)|は図2における正弦波状の出力V1とV2のレベル比であり、測定値である。
【0072】
なお、受信アンテナ7の前に置いた試料6は送信アンテナ4の前においても効果は同じであり、送信アンテナ4と受信アンテナ7との間に置いてもよい。さらに試料6は垂直に置くのが好ましいが、3°以内の傾きであれば、cos3°=0.9986であることから誤差が1パーセント以内となるため許容範囲内である。また、測定環境を電波暗室または電波暗箱の中とすることが好適である。
【0073】
[第2の実施形態]
第1実施形態に係わる材料特性測定装置は、直線移動する反射板5の反射波を受信して、反射板5の直線移動に伴うドップラー信号から試料6の透過波の位相と振幅を測定することにより、試料6の比誘電率とtanδを算出することを特徴とするが、測定の条件として平面波であることが必要である。そのためアンテナと反射板との距離Rは平面波となる条件、すなわち遠方電磁界となる条件を満たすことが必要である。また、測定環境を電波暗室又は電波暗箱の中とすることが望ましい。したがって、周波数が低いときは平面波が成り立つ距離Rを確保することが困難になる。本発明の第2の実施形態に係わる材料特性測定装置は、この問題を解決することができる。
【0074】
図4は、本発明の第2の実施形態に係わる材料特性測定装置の構成を示す図である。この図において、図1と同一又は対応の構成要素については図1と同じ参照符号が付されている。
【0075】
第1実施形態に係わる材料特性測定装置が電磁波を自由空間内で伝播させるのに対し、本発明の第2の実施形態に係わる材料特性測定装置(以下、第2実施形態に係わる材料特性測定装置)は、電磁波を導波管内で伝播させる点が基本的な相違である。
【0076】
図示のように、第2実施形態に係わる材料特性測定装置は、第1実施形態に係わる材料特性装置と同様、信号発生器1、電力分配器2、ミキサー9、および直流アンプ10を備えている。これらの構成および機能は第1実施形態に係わる材料特性装置における同名の構成要素と同じである。
【0077】
また、第2実施形態に係わる材料特性測定装置は、送信側同軸導波管変換器17、送信側アイソレータ18、サーキュレータ19、受信側アイソレータ20、受信側同軸導波管変換器21、第1導波管22、第2導波管23、第3導波管24、第4導波管25、第5導波管26を備えている。また、第2実施形態に係わる材料特性測定装置は、反射板駆動機構の反射板支持体27に取り付けられた反射板5が第3導波管24内を直線的にピストン移動可能に構成されており、かつ試料6が第4導波管25内に挿入されている。
【0078】
第2実施形態に係わる材料特性測定装置においては、同軸導波管変換器17から電磁波を第1導波管22に注入して、送信側アイソレータ18を通して第2導波管23でサーキュレータ19の第1ポートに入力し、サーキュレータ19の第2ポートに接続された第3導波管24内に供給する。第3導波管24内に供給された電磁波は反射板5で反射し、サーキュレータ19の第3ポートから試料6が挿入された第4導波管25内に供給され、試料6を透過した後、受信側アイソレータ20、第5導波管26を経て、受信側同軸導波管変換器21で高周波受信信号として取り出される。この高周波受信信号をミキサー9によりホモダイン検波し、直流アンプ10でドップラー信号を取り出せば、第1の実施形態に係わる材料特性測定装置と等価の動作をすることになる。ここで、第4導波管25に挿入した試料6を、第4導波管25と同様にアイソレータ(送信側アイソレータ18)の前に配置されている第1導波管22に挿入しても本発明の効果は同じである。
【0079】
なお、以上説明した第1実施形態および第2実施形態に係わる材料特性測定装置では、取り扱う周波数をマイクロ波帯およびミリ波帯としたが、本発明はテラヘルツ帯に至る電磁波にも適用できる。
【符号の説明】
【0080】
1…信号発生器、2…電力分配器、3,8,18,20…アイソレータ、4…送信アンテナ、5…反射板、6…試料(DUT)、7…受信アンテナ、9…ミキサー、10…直流アンプ、14…試料がないときの正弦波状のドップラー信号、15…試料があるときの正弦波状のドップラー信号、16…比誘電率に対する測定位相差の関係曲線、17…送信側同軸導波管変換器、18…送信側アイソレータ、19…サーキュレータ、20…受信側アイソレータ、21…受信側同軸導波管変換器、22~26…第1~第5導波管、27…反射板駆動機構の反射板支持体。
図1
図2
図3
図4
図5