(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038827
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】熱マネージメントシステム
(51)【国際特許分類】
B60H 1/22 20060101AFI20240313BHJP
B60L 1/00 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
B60H1/22 611Z
B60L1/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143130
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000116574
【氏名又は名称】愛三工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 智紀
(72)【発明者】
【氏名】中川 周
【テーマコード(参考)】
3L211
5H125
【Fターム(参考)】
3L211AA11
3L211BA02
3L211BA14
3L211DA43
5H125AA01
5H125CD08
5H125CD09
5H125FF21
5H125FF27
(57)【要約】
【課題】加熱部による熱効率を向上させると共に、加熱部に気泡による割れが生じたり、ポンプに気泡によるロックや異音が発生したりすることを防止すること。
【解決手段】熱回路2を循環する熱媒体の熱を管理する熱マネージメントシステムは、熱媒体を一時的に貯留するリザーバタンク3と、熱媒体を沸点まで電気的に加熱する加熱部4と、加熱された熱媒体の熱を外部と熱交換するヒータコア5と、熱媒体を圧送するポンプ6とを備える。加熱部4には、熱媒体の中の気泡を熱媒体から分離して排出する気泡排出手段が設けられ、加熱部4から排出された気泡を回収する気泡回収手段を更に備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動車に搭載され、熱回路を循環する熱媒体の熱を管理する熱マネージメントシステムであって、
前記熱媒体を一時的に貯留するためのリザーバタンクと、
前記熱媒体を沸点まで電気的に加熱するための加熱部と、
加熱された前記熱媒体の熱を外部と熱交換するための熱交換器と、
前記熱媒体を圧送するためのポンプと
を備え、
前記加熱部には、前記熱媒体の中の気泡を前記熱媒体から分離して排出するための気泡排出手段が設けられ、
前記加熱部から排出された前記気泡を回収するための気泡回収手段が設けられる
ことを特徴とする熱マネージメントシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の熱マネージメントシステムにおいて、
前記気泡排出手段は、前記加熱部にて、前記熱媒体に特定方向へ向かう螺旋流を起こす構造を有する
ことを特徴とする熱マネージメントシステム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の熱マネージメントシステムにおいて、
前記気泡回収手段は、前記リザーバタンクと、前記加熱部から前記リザーバタンクへ前記気泡を流すための気泡配管とを含む
ことを特徴とする熱マネージメントシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書に開示される技術は、電動車において車室の暖房等に使用される熱マネージメントシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術として、例えば、下記の特許文献1に記載される技術が知られている。この技術は、充放電又は電力変換によって発熱する発熱体の熱を管理する熱マネージメントシステムであって、発熱体から受けた熱を輸送する液状の熱輸送媒体(熱媒体)と、熱媒体が流れる回路(熱回路)とを備える。熱回路には、発熱体から熱を受ける受熱部(加熱部)と、熱媒体を圧送するポンプと、熱媒体と熱交換媒体との熱交換により熱回路の外部へ熱媒体の熱を放出する熱交換器と、熱媒体を貯留するリザーバタンクとが直列に配置される。また、熱回路の一部には、熱媒体から生じたガスを熱回路の外部へ抜去する抜去部が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1に記載の熱マネージメントシステムにおいて、高効率な加熱部を検討する場合、熱媒体を沸騰させて高い熱流速を実現する技術を採用することが考えられる。ただし、この種の技術を採用した場合、熱媒体を沸騰させることで気泡が発生する。この気泡を処理しなければ、加熱部に気泡が貯まりホットスポットができて割れが生じたり、ポンプに気泡が侵入することでロックや異音が発生したりするおそれがある。このシステムでは、気泡を抜去部から外部へ排出することができるが、気泡を外部へ排出していては、熱媒体が徐々に減少することになり、システムの熱効率が低下するおそれがある。
【0005】
この開示技術は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、加熱部による熱効率を向上させると共に、加熱部に気泡による割れが生じたり、ポンプに気泡によるロックや異音が発生したりすることを防止できる熱マネージメントシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の技術は、電動車に搭載され、熱回路を循環する熱媒体の熱を管理する熱マネージメントシステムであって、熱媒体を一時的に貯留するためのリザーバタンクと、熱媒体を沸点まで電気的に加熱するための加熱部と、加熱された熱媒体の熱を外部と熱交換するための熱交換器と、熱媒体を圧送するためのポンプとを備え、加熱部には、熱媒体の中の気泡を熱媒体から分離して排出するための気泡排出手段が設けられ、加熱部から排出された気泡を回収するための気泡回収手段が設けられることを趣旨とする。
【0007】
上記技術の構成によれば、熱媒体が加熱部により電気的に沸点まで加熱されることで熱媒体で気泡が発生する。ここで、加熱部には、熱媒体の中の気泡を熱媒体から分離して排出するための気泡排出手段が設けられるので、沸騰した熱媒体はそのまま熱媒体の下流側へ流れ、熱媒体の中の気泡は熱媒体から分離されて加熱部から排出され、気泡回収手段に回収される。従って、熱媒体が沸点まで加熱されるので、熱媒体の熱流束が向上する。また、加熱部で沸騰しても気泡を含まない熱媒体が熱回路を流れることになる。
【0008】
上記目的を達成するために、請求項2に記載の技術は、請求項1に記載の技術において、気泡排出手段は、加熱部にて、熱媒体に特定方向へ向かう螺旋流を起こす構造を有することを趣旨とする。
【0009】
上記技術の構成によれば、請求項1に記載の技術の作用に加え、加熱部にて、熱媒体に特定方向へ向かう螺旋流が起きるので、熱媒体からの気泡の分離が容易となる。
【0010】
上記目的を達成するために、請求項3に記載の技術は、請求項1又は2に記載の技術において、気泡回収手段は、リザーバタンクと、加熱部からリザーバタンクへ気泡を流すための気泡配管とを含むことを趣旨とする。
【0011】
上記技術の構成によれば、請求項1又は2に記載の技術の作用に加え、加熱部から排出される気泡は、気泡配管を流れてリザーバタンクに回収されるので、気泡を構成する熱媒体がリザーバタンクで液化可能となる。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の技術によれば、加熱部による熱効率を向上させることができると共に、加熱部に気泡による割れが生じたり、ポンプに気泡によるロックや異音が発生したりすることを防止することができる。また、熱交換器にて熱媒体を高効率に熱交換することができる。
【0013】
請求項2に記載の技術によれば、請求項1に記載の技術の効果に加え、加熱部にて沸騰する熱媒体から気泡を効率的に分離することができる。
【0014】
請求項3に記載の技術によれば、請求項1又は2に記載の技術の効果に加え、リザーバタンクで液化した熱媒体を熱回路にて再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施形態に係り、電動車に搭載された暖房装置を示す概略図。
【
図2】一実施形態に係り、加熱部の内部構造を示す縦断面図。
【
図4】一実施形態に係り、加熱部を示す
図2のA-A線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、熱マネージメントシステムを電動車の暖房装置に具体化した一実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
[暖房装置について]
図1に、電動車(図示略)に搭載された暖房装置1を概略図により示す。この暖房装置1は、熱回路2を循環する熱媒体の熱を管理する熱マネージメントシステムを構成する。暖房装置1は、熱媒体を一時的に貯留するためのリザーバタンク3と、熱媒体を沸点まで電気的に加熱するための加熱部4と、加熱された熱媒体の熱を外部と熱交換するためのヒータコア5と、熱媒体を圧送するための電動式のポンプ6とを備え、それらが熱回路2にて直列に配置される。
【0018】
リザーバタンク3は、その底部が液状の熱媒体を貯留する貯留部となっており、上部に空間を有する。ヒータコア5は、熱媒体が流れるパイプの周囲に多数のフィンが設けられ、熱媒体と外気との間で熱交換するように構成される。ヒータコア5は、この開示技術の「熱交換器」の一例に相当する。ヒータコア5の背面近傍には、電動式のブロワファン7が設けられ、このファン7によりヒータコア5へ向けて送風することにより、ヒータコア5で加熱された空気を温風として車室内へ送るようになっている。
【0019】
熱回路2において、ポンプ6から吐出された熱媒体は、加熱部4で加熱されてヒータコア5へ流れ、ヒータコア5で熱交換されてから、リザーバタンク3を経由してポンプ6へ戻る。熱媒体は、この順序で熱回路2を循環するようになっている。
【0020】
ここで、加熱部4には、熱媒体の中の気泡を排出するための「気泡排出手段」が設けられる。更に、暖房装置1は、加熱部4から排出された気泡を回収するための「気泡回収手段」を備える。
【0021】
[加熱部について]
図2に、加熱部4の内部構造を縦断面図により示す。
図2は、加熱部4を、後述する
図3のB-B線に沿って切断した断面図である。
図3に、加熱部4を平面図により示す。
図4に、加熱部4を
図2のA-A線断面図により示す。この加熱部4は、ケーシング11を備える。ケーシング11は、熱媒体が導入される円筒状のチャンバ12と、チャンバ12と平行に配置され、ケーシング11の上部にて連通路13を介してチャンバ12に連通する小径な熱媒体流路14とを含む。
【0022】
加熱部4は、熱媒体を沸点まで電気的に加熱する高電圧ヒータ15を更に含む。すなわち、チャンバ12の内部には、円筒状をなし、高電圧(例えば、「350V」)が印加される高電圧ヒータ15が設けられる。この高電圧ヒータ15により、チャンバ12に導入された熱媒体を加熱し沸騰させるようになっている。熱媒体を沸騰させることで熱媒体から気泡が発生する。チャンバ12の上部中央には、この気泡を排出するための円筒状の気泡排出管16が設けられる。また、ケーシング11には、その下部外周に、熱媒体をチャンバ12に導入するための入口継手17が設けられる。ケーシング11の底面には、熱媒体流路14から熱媒体を導出するための出口継手18が設けられる。入口継手17は、熱回路2を構成する配管を介してポンプ6の吐出口に接続され、出口継手18は、同じく熱回路2を構成する配管を介してヒータコア5に接続される。
【0023】
[気泡排出手段について]
ここで、入口継手17は、
図4に示すように、ケーシング11の底面視においてチャンバ12の円筒接線方向に配置される。入口継手17から熱媒体がチャンバ12に導入されると、熱媒体がチャンバ12の内周面に沿って旋回し始め、
図2、
図4に示すように、熱媒体に螺旋流(図に矢印で示す)が発生するようになっている。ここで、高電圧ヒータ15の加熱により沸騰した熱媒体からは気泡(蒸気泡)が発生し、その気泡は、熱媒体の螺旋流によってチャンバ12の上方向(特定方向)へ向かって上昇し、気泡排出管16へ導入される。この実施形態では、この螺旋流を発生させる入口継手17及びチャンバ12と気泡排出管16とにより、この開示技術の「気泡排出手段」の一例が構成される。
【0024】
従って、熱回路2にてポンプ6が作動することで、熱媒体がポンプ6から吐出されて加熱部4へ流れ、入口継手17からチャンバ12に導入される。この熱媒体の導入圧力として「100(kPa)」を想定することができる。このとき、熱媒体は、入口継手17によりケーシング11に対し円筒接線方向からチャンバ12に導入されることで、チャンバ12の内周面に沿って螺旋流を発生させることで、高電圧ヒータ15の加熱により発生した蒸気泡(気泡)と液体(熱媒体)とが分離される。このとき、密度の低い気泡はチャンバ12の中心へ向かい、密度の高い熱媒体は遠心力によりチャンバ12の外側へ向かって分離される。そして、気泡も熱媒体も螺旋流によってチャンバ12の上方向へ上昇する。このとき、気泡のみが気泡排出管16からケーシング11の外へ排出される。このときの気泡の排出圧力として「90(kPa)」を想定することができる。また、螺旋状に旋回する熱媒体は、連通路13を介して熱媒体流路14へ流れ、出口継手18からケーシング11の外へ導出される。このときの熱媒体の導出圧力として「10(kPa)」を想定することができる。
【0025】
[気泡回収手段について]
図1に示すように、加熱部4とリザーバタンク3との間には、加熱部4からリザーバタンク3へ気泡を流すための気泡配管19が設けられる。気泡配管19の一端は、上記した気泡排出管16に接続され、気泡配管19の他端はリザーバタンク3に接続される。そして、加熱部4から外部へ排出された気泡は、気泡配管19を介してリザーバタンク3に回収される。リザーバタンク3の中では、気泡が解け、気泡を構成していた熱媒体の成分が液状の熱媒体に戻り、再び熱回路2を流れることになる。この実施形態で、気泡配管19とリザーバタンク3は、この開示技術の「気泡回収手段」の一例を構成する。
【0026】
[暖房装置の作用及び効果について]
以上説明したこの実施形態の暖房装置1の構成によれば、熱媒体が加熱部4により電気的に沸点まで加熱されることで熱媒体で気泡が発生する。ここで、加熱部4には、熱媒体の中の気泡を熱媒体から分離して排出するための気泡排出手段が設けられるので、沸騰した熱媒体はそのまま熱媒体の下流側へ流れ、熱媒体の中の気泡は熱媒体から分離されて加熱部4から排出され、気泡回収手段に回収される。従って、熱媒体が沸点まで加熱されるので、熱媒体の熱流束が向上する。また、加熱部4で沸騰しても気泡を含まない熱媒体が熱回路2を流れることになる。このため、加熱部4による熱効率を向上させることができると共に、加熱部4に気泡による割れが生じたり、ポンプ6に気泡によるロックや異音が発生したりすることを防止することができる。また、ヒータコア5にて熱媒体を高効率に熱交換することができる。
【0027】
この実施形態の構成によれば、加熱部4にて、熱媒体に上方向(特定方向)へ向かう螺旋流が起こされるので、熱媒体からの気泡の分離が容易となる。このため、加熱部4にて沸騰する熱媒体から気泡を効率的に分離することができる。
【0028】
この実施形態の構成によれば、加熱部4から排出される気泡は、気泡配管19を流れてリザーバタンク3に回収されるので、気泡を構成する熱媒体がリザーバタンク3で液化可能となる。このため、リザーバタンク3で液化した熱媒体を熱回路2にて再利用することができる。
【0029】
[別の実施形態]
なお、この開示技術は前記実施形態に限定されるものではなく、開示技術の趣旨を逸脱することのない範囲で構成の一部を適宜変更して実施することもできる。
【0030】
(1)前記実施形態では、気泡排出手段として、入口継手17によりケーシング11に対し円筒接線方向からチャンバ12に熱媒体を導入することで、チャンバ12の内周面に沿って螺旋流を発生させるように構成した。これに対し、チャンバに回転翼を設けて熱媒体に螺旋流を付与するように構成することもできる。
【0031】
(2)前記実施形態では、リザーバタンク3を気泡回収手段の構成要素として利用したが、リザーバタンクとは別に専用のタンクを設けることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
この開示技術は、電動車の暖房装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 暖房装置
2 熱回路
3 リザーバタンク(気泡回収手段)
4 加熱部
5 ヒータコア(熱交換器)
6 ポンプ
12 チャンバ(気泡排出手段)
15 高電圧ヒータ
16 気泡排出管(気泡排出手段)
17 入口継手(気泡排出手段)
19 気泡配管(気泡回収手段)