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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038838
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】電界効果トランジスタ
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20240313BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20240313BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
H01L29/78 652J
H01L29/78 652T
H01L29/78 653A
H01L29/78 658A
H01L29/78 658K
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143159
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】515277942
【氏名又は名称】株式会社ノベルクリスタルテクノロジー
(71)【出願人】
【識別番号】308035117
【氏名又は名称】株式会社イオンテクノセンター
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 公平
(72)【発明者】
【氏名】根元 亮一
(72)【発明者】
【氏名】三井田 高
(72)【発明者】
【氏名】名倉 宙志
(57)【要約】
【課題】トレンチゲート構造を有する電界効果トランジスタであって、より信頼性の高い電界効果トランジスタを提供する。
【解決手段】酸化ガリウム系半導体からなるn型の第1の半導体層10と、第1の半導体層10上にn型の中間半導体層22を介して設けられた、Siからなる第2の半導体層11と、第1及び第2のトレンチ12a、12b内にそれぞれ埋め込まれた第1及び第2のp型半導体部13a、13bと、一方の側面と底面の一部とが第1のp型半導体部13aにより形成されるように設けられた第3のトレンチ14中に、ゲート絶縁膜15に覆われて埋め込まれたゲート電極16と、第2の半導体層11のトレンチ間領域の表層に設けられたn型領域111と、前記トレンチ間領域の第1の半導体層10とn型領域111の間の領域に設けられたp型領域112と、を備えた、電界効果トランジスタ1を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ガリウム系半導体からなるn型の第1の半導体層と、
前記第1の半導体層上にn型の中間半導体層を介して設けられた、Siからなる第2の半導体層と、
前記第2の半導体層の上面から前記第1の半導体層まで達する第1及び第2のトレンチ中にそれぞれ埋め込まれた第1及び第2のp型半導体部と、
一方の側面と底面の一部とが前記第1のp型半導体部により形成されるように設けられた、前記第2の半導体層の上面から前記第1の半導体層まで達する第3のトレンチ中に、ゲート絶縁膜に覆われて埋め込まれたゲート電極と、
前記第2の半導体層の前記第2のトレンチと前記第3のトレンチの間のトレンチ間領域の表層において、少なくとも前記第3のトレンチ側の一部に設けられたn型領域と、
前記トレンチ間領域の前記第1の半導体層と前記n型領域の間の領域に、前記第1の半導体層と前記n型領域を隔離するように設けられたp型領域と、
前記n型領域に接続されたソース電極と、
前記第1の半導体層に接続されたドレイン電極と、
を備え、
前記中間半導体層が、酸化されたときにn型を維持することができるn型の非酸化物、又はn型のSiCからなり、
前記中間半導体層が、前記n型の非酸化物からなる場合、前記第1の半導体層側の一部若しくは全体が酸化されており、又は酸化されておらず、前記n型のSiCからなる場合、酸化されていない、
電界効果トランジスタ。
【請求項2】
前記トレンチ間領域の前記中間半導体層と前記p型領域の間の領域に、第2のn型領域が設けられた、
請求項1に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項3】
前記トレンチ間領域の表層の、前記n型領域と前記第2のトレンチとの間の領域に、第2のp型領域が設けられた、
請求項1に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項4】
前記p型半導体部がp型の酸化物半導体からなる、
請求項1~3のいずれか1項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項5】
前記p型の酸化物半導体がp型のNiO、CuO、又はCuOである、
請求項4に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項6】
前記中間半導体層が、前記n型の非酸化物からなり、
前記非酸化物が、GaN、GaP、GaAs、GaSb、及びGaBiからなる群から選択される1つ若しくは2つ以上の混晶、InN、InP、InAs、InSb、及びInBiからなる群から選択される1つ若しくは2つ以上の混晶、ZnS、ZnSe、及びZnTeからなる群から選択される1つ若しくは2つ以上の混晶、CdS、CdSe、及びCdTeからなる群から選択される1つ若しくは2つ以上の混晶、又はGeである、
請求項1~3のいずれか1項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項7】
前記非酸化物が、GaP、GaAs、又はこれらの混晶である、
請求項6に記載の電界効果トランジスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界効果トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トレンチゲート構造を有する電界効果トランジスタであって、β-GaとSiを半導体層として用いたものが知られている(特許文献1を参照)。特許文献1に記載の電界効果トランジスタにおいては、電界が集中するトレンチの底部が絶縁破壊電界強度の高いβ-Gaの層に設けられているため、半導体層の絶縁破壊を抑えることができる。
【0003】
また、従来、トレンチゲート構造を有する電界効果トランジスタであって、SiCからなる半導体層にゲート酸化膜領域に重なるp型領域が設けられたものが知られている(非特許文献1を参照)。非特許文献1に記載の電界効果トランジスタにおいては、ゲート酸化膜領域に重なるp型領域によりトレンチの底部への電界の集中を緩和することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6873516号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】D. Peters et, al., “CoolSiC Trench MOSFET Combining SiC Performance with Silicon Ruggedness”, Issue 3 Power electronics Europe 2017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特に信頼性に優れる電界効果トランジスタを得るためには、特許文献1に記載の電界効果トランジスタに非特許文献1に記載のゲート酸化膜領域に重なるp型領域を適用して、トレンチの底部への電界の集中を緩和することが理想的である。この場合、トレンチの底部周辺の半導体層の絶縁破壊のみならずゲート絶縁膜の絶縁破壊まで抑制し、電界効果トランジスタの信頼性のさらなる向上が期待できる。
【0007】
しかしながら、良好な導電性を有するp型のβ-Gaは存在しないため、非特許文献1に記載の電界効果トランジスタにおけるSiC中のp型領域のように、特許文献1に記載の電界効果トランジスタにおけるβ-Gaの一部をp型化してp型領域を形成することはできない。このため、特許文献1に記載の電界効果トランジスタに非特許文献1に記載のゲート酸化膜領域に重なるp型領域を適用することはできない。
【0008】
本発明の目的は、トレンチゲート構造を有する電界効果トランジスタであって、より信頼性の高い電界効果トランジスタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記の電界効果トランジスタを提供する。
【0010】
[1]酸化ガリウム系半導体からなるn型の第1の半導体層と、前記第1の半導体層上にn型の中間半導体層を介して設けられた、Siからなる第2の半導体層と、前記第2の半導体層の上面から前記第1の半導体層まで達する第1及び第2のトレンチ中にそれぞれ埋め込まれた第1及び第2のp型半導体部と、一方の側面と底面の一部とが前記第1のp型半導体部により形成されるように設けられた、前記第2の半導体層の上面から前記第1の半導体層まで達する第3のトレンチ中に、ゲート絶縁膜に覆われて埋め込まれたゲート電極と、前記第2の半導体層の前記第2のトレンチと前記第3のトレンチの間のトレンチ間領域の表層において、少なくとも前記第3のトレンチ側の一部に設けられたn型領域と、前記トレンチ間領域の前記第1の半導体層と前記n型領域の間の領域に、前記第1の半導体層と前記n型領域を隔離するように設けられたp型領域と、前記n型領域に接続されたソース電極と、前記第1の半導体層に接続されたドレイン電極と、を備え、前記中間半導体層が、酸化されたときにn型を維持することができるn型の非酸化物、又はn型のSiCからなり、前記中間半導体層が、前記n型の非酸化物からなる場合、前記第1の半導体層側の一部若しくは全体が酸化されており、又は酸化されておらず、前記n型のSiCからなる場合、酸化されていない、電界効果トランジスタ。
[2]前記トレンチ間領域の前記中間半導体層と前記p型領域の間の領域に、第2のn型領域が設けられた、上記[1]に記載の電界効果トランジスタ。
[3]前記トレンチ間領域の表層の、前記n型領域と前記第2のトレンチとの間の領域に、第2のp型領域が設けられた、上記[1]に記載の電界効果トランジスタ。
[4]前記p型半導体部がp型の酸化物半導体からなる、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の電界効果トランジスタ。
[5]前記p型の酸化物半導体がp型のNiO、CuO、又はCuOである、上記[4]に記載の電界効果トランジスタ。
[6]前記中間半導体層が、前記n型の非酸化物からなり、前記非酸化物が、GaN、GaP、GaAs、GaSb、及びGaBiからなる群から選択される1つ若しくは2つ以上の混晶、InN、InP、InAs、InSb、及びInBiからなる群から選択される1つ若しくは2つ以上の混晶、ZnS、ZnSe、及びZnTeからなる群から選択される1つ若しくは2つ以上の混晶、CdS、CdSe、及びCdTeからなる群から選択される1つ若しくは2つ以上の混晶、又はGeである、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の電界効果トランジスタ。
[7]前記非酸化物が、GaP、GaAs、又はこれらの混晶である、上記[6]に記載の電界効果トランジスタ。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、トレンチゲート構造を有する電界効果トランジスタであって、より信頼性の高い電界効果トランジスタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る電界効果トランジスタの垂直断面図である。
図2図2(a)、(b)は、それぞれ接合後に400℃と1000℃でアニールが施されたSiとGaの界面近傍の断面TEM像である。
図3図3(a)、(b)は、それぞれ接合後に400℃と1000℃でアニールが施されたSiとGaの界面近傍の元素濃度プロファイルを示すグラフである。
図4図4(a)~(c)は、本発明の実施の形態に係る電界効果トランジスタの製造工程の一例を示す垂直断面図である。
図5図5(a)~(c)は、本発明の実施の形態に係る電界効果トランジスタの製造工程の一例を示す垂直断面図である。
図6図6(a)、(b)は、本発明の実施の形態に係る電界効果トランジスタの製造工程の一例を示す垂直断面図である。
図7図7(a)~(c)は、本発明の実施の形態に係る電界効果トランジスタの製造工程の変形例を示す垂直断面図である。
図8図8(a)、(b)は、本発明の実施の形態に係る電界効果トランジスタの製造工程の変形例を示す垂直断面図である。
図9図9(a)、(b)、(c)は、それぞれ本発明の実施の形態に係る電界効果トランジスタの一例のオフ耐圧特性、ゲート特性、オン特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(電界効果トランジスタの構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る電界効果トランジスタ1の垂直断面図である。電界効果トランジスタ1は、トレンチゲート構造を有する縦型の電界効果トランジスタである。
【0014】
電界効果トランジスタ1は、酸化ガリウム系半導体からなるn型の第1の半導体層10と、第1の半導体層10上にn型の中間半導体層22を介して設けられた、Siからなる第2の半導体層11と、第2の半導体層11の上面から第1の半導体層10まで達する第1のトレンチ12a及び第2のトレンチ12b中にそれぞれ埋め込まれた第1のp型半導体部13a及び第2のp型半導体部13bと、一方の側面と底面の一部とが第1のp型半導体部13aにより形成されるように設けられた、第2の半導体層11の上面から第1の半導体層10まで達する第3のトレンチ14中に、ゲート絶縁膜15に覆われて埋め込まれたゲート電極16と、第2の半導体層11の第2のトレンチ12bと第3のトレンチ14の間の領域(以下、トレンチ間領域と呼ぶ)の表層において、少なくとも第3のトレンチ14側の一部に設けられたn型領域111と、上記トレンチ間領域の第1の半導体層10とn型領域111の間の領域に、第1の半導体層10とn型領域111を隔離するように設けられたp型領域112と、n型領域111に接続されたソース電極17と、第1の半導体層10に接続されたドレイン電極18とを備える。なお、図1に示される左側のゲート電極16は、電界効果トランジスタ1の左側に隣接する電界効果トランジスタに用いられるものである。
【0015】
電界効果トランジスタ1は、ノーマリーオフ型でもノーマリーオン型でもよいが、パワーデバイスとして用いられる場合には、安全性の観点から、通常、ノーマリーオフ型に製造される。ゲート回路の断線などによりゲートが制御不能になった時にソース電極17とドレイン電極18が導通することを防ぐためである。
【0016】
ノーマリーオフ型の電界効果トランジスタ1においては、ゲート電極16とソース電極17との間にゲート閾値電圧以上の電圧を印加することにより、トレンチ間領域におけるp型領域112のゲート絶縁膜15側の領域に縦方向のチャネルが形成され、ソース電極17とドレイン電極18との間に電流を流すことができる。
【0017】
第1の半導体層10は、β型の結晶構造を有する酸化ガリウム系半導体の単結晶からなる。ここで、酸化ガリウム系半導体とは、Ga、又は、Al、Inなどの元素が添加されたGaをいう。例えば、酸化ガリウム系半導体は、(GaAlIn(1-x-y)(0<x≦1、0≦y≦1、0<x+y≦1)で表される組成を有する。GaにAlを添加した場合にはバンドギャップが広がり、Inを添加した場合にはバンドギャップが狭くなる。また、n型である第1の半導体層10は、Si、Snなどのドナー不純物を含む。
【0018】
また、第1の半導体層10は、典型的には、図1に示されるように、ドレイン電極18をオーミック接続するためのドナー濃度の高い層101と、その上の層102を含む。例えば、層101は1×1018cm-3以上、1×1021cm-3以下のドナー濃度を有し、層102は1×1015cm-3以上、1×1017cm-3以下のドナー濃度を有する。また、例えば、層101の厚さは30μm以上、600μm以下であり、層102の厚さは5μm以上、50μm以下である。
【0019】
第1の半導体層10の層101は、典型的には、酸化ガリウム系半導体の基板からなる。この場合の基板は、例えば、FZ(Floating Zone)法やEFG(Edge Defined Film Fed Growth)法などの融液成長法により育成した酸化ガリウム系単結晶のバルク結晶をスライスし、表面を研磨することにより形成される。また、第1の半導体層10の層102は、典型的には、層101の上面を下地面として成膜されたエピタキシャル膜である。
【0020】
第2の半導体層11は、Siの単結晶からなる層である。第2の半導体層11中に形成されるn型領域111やp型領域112は、例えば、第2の半導体層11中にドナー不純物やアクセプター不純物を注入することにより形成される。
【0021】
第2の半導体層11中に形成されるn型領域111は、電界効果トランジスタ1のソースである。n型領域111は、ヒ素などのドナー不純物を含み、ソース電極17をオーミック接続するために、例えば、1×1018cm-3以上、1×1021cm-3以下の高いドナー濃度を有する。
【0022】
第2の半導体層11中に形成されるp型領域112は、ホウ素などのアクセプター不純物を含み、例えば、1×1018cm-3以上、1×1021cm-3以下のアクセプター濃度を有する。
【0023】
第2の半導体層11は、薄すぎるとn型領域111やp型領域112の形成が難しくなり、厚すぎると第1のトレンチ12a、第2のトレンチ12b、及び第3のトレンチ14を深く形成しなければならなくなる。このため、第2の半導体層11の厚さD1は、例えば、0.6μm以上、1.2μm以下であることが好ましい。
【0024】
第2の半導体層11の形成方法は特に限定されず、例えば、第1の半導体層10上の中間半導体層22の上面を下地面としてSi単結晶をエピタキシャル成長させてもよいが、結晶品質の高い第2の半導体層11を形成するためには、表面活性化接合法などの基板貼り合わせ技術によりSi基板を第1の半導体層10側に貼り合わせ、スマートカット法などの薄膜化技術により薄くしたSi基板を第2の半導体層11とすることが好ましい。
【0025】
中間半導体層22は、酸化されたときにn型を維持することができるn型の非酸化物、又はn型のSiCからなる。ここで、中間半導体層22が酸化されたときにn型を維持することができるn型の非酸化物からなる場合の、酸化されていない部分を非酸化層221、酸化された部分を酸化層222と呼ぶ。
【0026】
中間半導体層22の酸化層222は、電界効果トランジスタ1の製造過程で加えられる熱により、形成された直後は非酸化層221のみからなる中間半導体層22が第1の半導体層10と反応し、酸化されることにより形成される。具体的には、酸化ガリウム系半導体からなる第1の半導体層10から抜けた酸素により、非酸化層221が酸化され、第1の半導体層10と接触している側から酸化層222が生成される。
【0027】
中間半導体層22が設けられておらず、第1の半導体層10と第2の半導体層11が直接接触している場合は、電界効果トランジスタ1の製造過程においておよそ300~400℃以上の熱処理を行うと、第1の半導体層10の酸化ガリウム系半導体から抜けた酸素が第2の半導体層11のSiを酸化し、第1の半導体層10と第2の半導体層11の間に抵抗率の高いSi酸化物が形成されてしまい、第1の半導体層10と第2の半導体層11の間に十分な電流を流せない。
【0028】
図2(a)、(b)は、それぞれ接合後に400℃と1000℃でアニールが施されたSiとGaの界面近傍の断面TEM像である。図2(a)、(b)によれば、400℃と1000℃のいずれの温度のアニールを施した場合も、SiとGaの界面にSi酸化物(SiO)と考えられるコントラストの異なる薄層が存在していることがわかる。
【0029】
図3(a)、(b)は、それぞれ接合後に400℃と1000℃でアニールが施されたSiとGaの界面近傍の元素濃度プロファイルを示すグラフである。図3(a)では判別は困難であるが、図3(b)ではSiとGaの界面にSiとOの両方が存在する層が確認でき、この層が図2(a)、(b)に見られる薄層に対応していると考えられる。
【0030】
中間半導体層22の非酸化層221は、酸素を含まない非酸化物からなるため、Siからなる第2の半導体層11を酸化させてSi酸化物を形成するおそれがない。このため、中間半導体層22と第2の半導体層11の間に十分な電流を流すことができる。また、中間半導体層22の酸化層222は、非酸化層221と同様にn型であるため、第1の半導体層10と中間半導体層22の間に十分な電流を流すことができる。
【0031】
中間半導体層22は、酸化されたときにn型を維持することができるn型の非酸化物からなる場合、典型的には、図1に示されるように、非酸化層221と酸化層222から構成される。しかしながら、中間半導体層22の全体が酸化されても、中間半導体層22と第2の半導体層11の間にSi酸化物が形成されていなければ問題はない。すなわち、中間半導体層22が酸化層222のみから構成される場合もある。また、電界効果トランジスタ1の製造工程を非酸化層221の酸化が生じない温度で完結させた場合には、中間半導体層22が非酸化層221のみから構成される。
【0032】
中間半導体層22の厚さは10nm以上であることが好ましい。厚さが10nm以上であれば、電界効果トランジスタ1の通常の製造過程で加えられる熱により中間半導体層22の全てが酸化されるおそれが少なく、中間半導体層22と第2の半導体層11の間に抵抗率の高いSi酸化物が形成されることを防止できる。一方で、中間半導体層22が厚くなるほど導通損失が大きくなってしまうため、中間半導体層22の厚さは、例えば、1μm以下であることが好ましい。
【0033】
なお、中間半導体層22の材料の1つであるSiCは、酸化されると抵抗率の高いSiOが生成され、n型を維持できない。このため、中間半導体層22がn型のSiCからなる場合は、電界効果トランジスタ1の製造工程を非酸化層221の酸化が生じない温度、例えば1000℃以下の温度で完結させる必要があり、中間半導体層22が非酸化層221のみから構成される。
【0034】
中間半導体層22は、(1)中間半導体層22と第1の半導体層10の界面及び第1の半導体層10と第2の半導体層11の界面における歪みの低減や剥離の防止のため、熱膨張係数が第1の半導体層10を構成する酸化ガリウム系半導体の熱膨張係数と第2の半導体層11を構成するSiの熱膨張係数の間にあること(以下、第1の条件と呼ぶ)、(2)中間半導体層22と第1の半導体層10の界面及び第1の半導体層10と第2の半導体層11の界面における導通損失を低減するため、第1の半導体層10を構成する酸化ガリウム系半導体及び第2の半導体層11を構成するSiとの伝導帯のバンドオフセット(伝導帯の底のエネルギー差)が小さい(以下、第2の条件と呼ぶ)、(3)高品質な中間半導体層22を第1の半導体層10上にエピタキシャル成長させるため、第2の半導体層11を構成するSiとの格子不整合度が小さい(以下、第3の条件と呼ぶ)、の条件を満たすことが好ましい。
【0035】
上記第1の条件を満たすためには、中間半導体層22が非酸化層221と酸化層222の両方を含む場合、中間半導体層22の材料、すなわち非酸化層221を構成する物質と、中間半導体層22の材料が酸化されたときに生成される酸化物、すなわち酸化層222を構成する物質の両方の熱膨張係数が、酸化ガリウム系半導体の熱膨張係数とSiの熱膨張係数の間にあることが求められる。また、中間半導体層22が酸化層222のみからなる場合は、中間半導体層22の材料が酸化されたときに生成される酸化物の熱膨張係数が、酸化ガリウム系半導体の熱膨張係数とSiの熱膨張係数の間にあることが求められる。また、中間半導体層22が非酸化層221のみからなる場合は、中間半導体層22の材料の熱膨張係数が、酸化ガリウム系半導体の熱膨張係数とSiの熱膨張係数の間にあることが求められる。
【0036】
以下の表1に、中間半導体層22の材料、すなわち非酸化層221を構成する物質の例とそれらの熱膨張係数、及び中間半導体層22の材料が酸化されたときに生成される酸化物、すなわち酸化層222を構成する物質とそれらの熱膨張係数を示す。なお、ZnTeの熱膨張係数は推測値である。表1の「非酸化層」は非酸化層221を構成する物質を意味し、「酸化層」は酸化層222を構成する物質を意味する。以降の表においても同様とする。
【0037】
【表1】
【0038】
Siの熱膨張係数は2.6×10-6/Kであり、酸化ガリウム系半導体の典型例であるGaの熱膨張係数は3.8~7.8×10-6/Kである。このため、表1に示される中間半導体層22の材料を用いる場合、中間半導体層22が非酸化層221と酸化層222の両方を含む場合、いずれか一方を含む場合のいずれであっても、上記の第1の条件を満たす、又は満たす可能性がある。
【0039】
上記第2の条件を満たすためには、中間半導体層22が非酸化層221と酸化層222の両方を含む場合、非酸化層221とSiの伝導帯のバンドオフセット、及び酸化層222と酸化ガリウム系半導体の伝導帯のバンドオフセットが小さいことが求められる。また、中間半導体層22が酸化層222のみからなる場合は、酸化層222とSiの伝導帯のバンドオフセット、及び酸化層222と酸化ガリウム系半導体の伝導帯のバンドオフセットが小さいことが求められる。また、中間半導体層22が非酸化層221のみからなる場合は、非酸化層221とSiの伝導帯のバンドオフセット、及び非酸化層221と酸化ガリウム系半導体の伝導帯のバンドオフセットが小さいことが求められる。なお、伝導帯のバンドオフセットに関して、中間半導体層22が非酸化層221と酸化層222の両方を含む場合には、第2の条件に加えて、非酸化層221と酸化層222の伝導体バンドオフセットが小さいことも求められる。
【0040】
表1に示される中間半導体層22の材料を用いた場合の、非酸化層221とSiの伝導帯のバンドオフセット及び酸化層222と酸化ガリウム系半導体の典型例であるGaの伝導帯のバンドオフセット、並びに非酸化層221と酸化層222の伝導帯のバンドオフセットを以下の表2に、非酸化層221とSiの伝導帯のバンドオフセット、及び非酸化層221と酸化ガリウム系半導体の典型例であるGaの伝導帯のバンドオフセットを以下の表3に、酸化層222とSiの伝導帯のバンドオフセット及び酸化層222と酸化ガリウム系半導体の典型例であるGaの伝導帯のバンドオフセットを以下の表4に示す。表2~4における「ΔE」は、伝導帯のバンドオフセットを意味する。なお、GaBiは半金属であり、バンドギャップを有しないため、伝導帯のバンドオフセットの値を示していない。
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
表2によれば、中間半導体層22が非酸化層221と酸化層222の両方を含む場合、上記第2の条件を満たすためには、中間半導体層22の材料としてGaN、GaP、GaAs、GaSb、ZnS、ZnSe、ZnTeを用いることが好ましいといえる。また、表3によれば、中間半導体層22が非酸化層221のみからなる場合、上記第2の条件を満たすためには、中間半導体層22の材料としてGaN、GaP、GaAs、GaSb、InN、InP、InSb、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、Ge、3C-SiC用いることが好ましいといえる。また、表4によれば、中間半導体層22が酸化層222のみからなる場合、上記第2の条件を満たすためには、中間半導体層22の材料としてGaN、GaP、GaAs、GaSb、ZnS、ZnSe、ZnTeを用いることが好ましいといえる。
【0045】
表1に示される中間半導体層22の材料を用いた場合の、中間半導体層22の材料、すなわち非酸化層221を構成する物質と第2の半導体層11を構成するSiとの格子不整合度を以下の表5に示す。表5のSiとの格子不整合度(%)は、Siとの格子定数差をSiの格子定数で除したものである。Siとの格子不整合度の計算においては、Si(001)の格子定数5.431とSi(111)の格子定数3.84のうち、Siとの格子不整合度が小さくなる方をSiの格子定数として用いている。
【0046】
【表5】
【0047】
表5によれば、上記第3の条件を満たすためには、中間半導体層22の材料としてGaP、GaAs、InN、InP、ZnS、ZnSe、CdS、Geを用いることが好ましいといえる。
【0048】
表1~5によれば、表1に示される非酸化層221を構成する物質、すなわち中間半導体層22の材料は、上記の第1~3の条件をある程度以上満たす、又は満たすと推測されるため、中間半導体層22の材料として好ましい。中でも、GaP、GaAsは、第1~3の条件を高い水準で満たすため、中間半導体層22の材料として特に好ましい。
【0049】
このため、中間半導体層22の材料としての、酸化されたときにn型を維持することができる非酸化物は、GaN、GaP、GaAs、GaSb、及びGaBiからなる群から選択される1つ若しくは2つ以上の混晶、InN、InP、InAs、InSb、及びInBiからなる群から選択される1つ若しくは2つ以上の混晶、ZnS、ZnSe、及びZnTeからなる群から選択される1つ若しくは2つ以上の混晶、CdS、CdSe、及びCdTeからなる群から選択される1つ若しくは2つ以上の混晶、又はGeであることが好ましく、特に、GaP、GaAs、又はこれらの混晶であることが好ましい。
【0050】
なお、トレンチゲート構造を有する電界効果トランジスタにおいては、その動作上、n型の半導体層とp型の半導体層がpn接合を形成することが必要であるが、異種材料からなる層の間にpn接合を形成することは難しい。例えば、n型の中間半導体層22とp型の第2の半導体層11を接合した場合、界面に意図しない化合物層や金属層が形成されたり、p型の第2の半導体層11から拡散したSiがn型の中間半導体層22中でドナーとして働き、界面近傍にドナー濃度が非常に高い層が形成されたりすることにより、pn接合が得られない場合がある。
【0051】
そのため、図1に示されるように、第2の半導体層11のトレンチ間領域のn型の中間半導体層22とp型領域112の間の領域に、第2のn型領域113が設けられていることが好ましい。この場合、pn接合は異種材料からなる中間半導体層22とp型領域112の間ではなく、ともにSiからなる第2のn型領域113とp型領域112の間に形成されるため、単にオーミック接触する界面が形成されればよく、その界面の平坦性や急峻性などを要求されない。すなわち、容易にpn接合を形成することができる。第2のn型領域113は、リンなどのドナー不純物を含み、例えば、1×1015cm-3以上、1×1017cm-3以下のドナー濃度を有する。
【0052】
また、図1に示されるように、第2の半導体層11のトレンチ間領域の表層の、n型領域111と第2のトレンチ12bとの間の領域に、第2のp型領域114が設けられていることが好ましい。これにより、第2のp型領域114を用いてトレンチ間領域のp型領域112の電界効果トランジスタ1のバルクをソース電位と共にグラウンド電位に固定できる。第2のp型領域114は、ホウ素などのアクセプター不純物を含む。第2のp型領域114のアクセプター濃度は、p型領域112のアクセプター濃度よりも高く、例えば、1×1018cm-3以上、1×1021cm-3以下である。
【0053】
第1のトレンチ12aと第2のトレンチ12bは、第2の半導体層11の上面(第1の半導体層10の反対側の面)から第1の半導体層10まで達する。すなわち、第1のトレンチ12aと第2のトレンチ12b及びこれらに埋め込まれる第1のp型半導体部13a及び第2のp型半導体部13bの底が、第1の半導体層10の上面(第2の半導体層11側の面)よりも下側に位置する。
【0054】
第1のp型半導体部13a及び第2のp型半導体部13bは、p型の半導体からなり、第1の半導体層10を構成する酸化ガリウム系半導体と反応し難いNiO、CuO、CuOなどのp型の酸化物半導体からなることが好ましい。この第1のp型半導体部13a及び第2のp型半導体部13bの材料としてNiOを用いる場合、NiOの有する3.7eVという大きなバンドギャップにより、高い耐圧が得られる。CuOやCuOを用いた場合、耐圧はNiOより低くなるものの、NiOと比較して材料コストを低減することができる。なお、これらの材料はアモルファス、多結晶、単結晶のいずれであってもよく、また、それらのうちの2つ以上の複合体であってもよい。
【0055】
第1のp型半導体部13a及び第2のp型半導体部13bを設けることにより、電界効果トランジスタ1のゲート電極16とソース電極17との間に逆バイアスを印加するとき(オフ時)に、第1のp型半導体部13a及び第2のp型半導体部13bの底に電界が集中する。第1のp型半導体部13a及び第2のp型半導体部13bの底は、絶縁破壊電界強度の高い酸化ガリウム系半導体からなる第1の半導体層10中に位置するため、電界集中による半導体層の絶縁破壊が抑えられ、電界効果トランジスタ1の耐圧が大きくなる。そして、第1のp型半導体部13a及び第2のp型半導体部13bを設けて第1の半導体層10中に電界を集中させることにより、チャネルが形成される第2の半導体層11の材料に酸化ガリウム系半導体よりも絶縁破壊電界強度が低い一方で電子の移動度が大きいSiを用いることができ、それによってチャネル抵抗を低減し、素子のオン抵抗を低減することができる。
【0056】
さらに、第3のトレンチ14の一方の側面と底面の一部は第1のp型半導体部13aにより形成されており、第3のトレンチ14中のゲート絶縁膜15に覆われたゲート電極16の底面の一部、例えば図1に示される断面の半分程度、が第1のp型半導体部13aに覆われている。このため、第1のp型半導体部13aの底に電界を集中させて、第3のトレンチ14の底部の電界を低減することができる。これにより、第3のトレンチ14の底部周辺の第1の半導体層10及びゲート絶縁膜15の絶縁破壊を抑制し、電界効果トランジスタ1の信頼性を向上させることができる。なお、寄生JFETと呼ばれる現象による抵抗増加が懸念されるため、ゲート絶縁膜15に覆われたゲート電極16の底面の全部が第1のp型半導体部13aに覆われることは好ましくない。
【0057】
n型の層102を狭窄させる事により、電界の空間変調効果を起こすため、第1のp型半導体部13aと第2のp型半導体部13bの間隔、すなわちトレンチ間領域の幅D10は、1.2μm以上、2.0μm以下であることが好ましい。
【0058】
また、上記空間変調効果によるゲート電極端への電界を遮蔽するため、第1のトレンチ12aの第1の半導体層10と第2の半導体層11の界面からの深さD7は、1.6μm以上、3.0μm以下であることが好ましい。
【0059】
また、n型の層102の更なる空間変調効果による電界緩和を達成するため、第2のトレンチ12bと第3のトレンチ14との水平方向の距離D14は、0.8μm以上、1.2μm以下であることが好ましい。
【0060】
ゲート電極16は、例えば、高濃度のドナーが添加された多結晶Siや、タングステン、タングステンとSiの化合物であるタングステンシリサイドなどからなる。ゲート電極16は、その側面及び底面がゲート絶縁膜15に覆われ、その上面が絶縁膜19に覆われている。
【0061】
ゲート絶縁膜15はゲート電極16を第1の半導体層10、第2の半導体層11、及び中間半導体層22から絶縁し、絶縁膜19はゲート電極16をソース電極17から絶縁する。ゲート絶縁膜15と絶縁膜19は、例えばHfOやAl、SiOからなる。ゲート絶縁膜15の厚さは、例えば30nm以上、100nm以下である。絶縁膜19の厚さは、例えば30nm以上、100nm以下である。
【0062】
ソース電極17は、例えば、アルミニウムなどの金属からなり、第2の半導体層11のn型領域111にオーミック接続されている。また、ドレイン電極18は、例えば、チタンやアルミニウムなどの金属からなり、第1の半導体層10にオーミック接続されている。
【0063】
第1のp型半導体部13a及び第2のp型半導体部13bの水平方向のパターン(すなわち第1のトレンチ12a及び第2のトレンチ12bの水平方向のパターン)、ゲート絶縁膜15及びゲート電極16の水平方向のパターン(すなわち第3のトレンチ14の水平方向のパターン)、並びにn型領域111及び第2のp型領域114の水平方向のパターンは、特に限定されない。例えば、第1のトレンチ12aと第2のトレンチ12bは、図1の垂直断面に表れない部分でつながっていてもよい。
【0064】
(電界効果トランジスタの製造)
図4(a)~(c)、図5(a)~(c)、図6(a)、(b)は、電界効果トランジスタ1の製造工程の一例を示す垂直断面図である。以下、図4(a)~(c)、図5(a)~(c)、図6(a)、(b)に示される製造工程について説明する。
【0065】
まず、図4(a)に示されるように、リンなどのドナー不純物を含むn型のSi基板20上に、MOCVD、MBE、HVPE、スパッタ、ALDなどにより中間半導体層22を形成する。この時点では中間半導体層22は非酸化層221のみから構成される。
【0066】
次に、図4(b)に示されるように、Si基板20の所定の深さに、水素イオンのイオン注入により面状のイオン注入領域21を形成する。後述するように、イオン注入領域21を分割面としてSi基板20を分割し、Si基板20から分離される膜が第2の半導体層11となるため、イオン注入領域21を形成する深さは、目的とする第2の半導体層11の厚さに応じて決定される。
【0067】
イオン注入領域21の形成のためにイオン注入される水素イオンのドーズ量は、例えば、2×1016~8×1016/cmである。また、イオン注入の注入エネルギーは、イオン注入領域21を形成する深さによって決定され、例えば、表面から950nm程度の深さにイオン注入領域21を形成する場合には、およそ110keVのエネルギーで水素イオンをイオン注入する。
【0068】
次に、図4(c)に示されるように、Si基板20上に形成された中間半導体層22の表面と、第1の半導体層10の層102の表面を表面活性化接合法により貼り合わせる。
【0069】
表面活性化接合法では、例えば、5×10-6Pa程度の圧力下の超高真空中チャンバー内において、CMP(chemical mechanical polishing)などの平坦化処理により平坦化された層102と中間半導体層22の最表面を1.5keVのエネルギーで加速したAr原子ビームを照射することにより除去して、露出したそれらの新生面同士を接触させて接合する。
【0070】
次に、図5(a)に示されるように、スマートカットによりSi基板20を分割し、中間半導体層22上に第2の半導体層11を残す。このとき、スマートカットが熱処理を伴うため、第1の半導体層10の層102から抜けた酸素により中間半導体層22が酸化され、非酸化層221の層102側の一部が酸化層222に変化する。
【0071】
スマートカットでは、400℃以上の熱処理を施すことにより、イオン注入領域21において水素脆化を生じさせてSi基板20を分割する。スマートカットにおける熱処理は、例えば、N又はAr雰囲気下で1~10分間行われる。なお、熱処理は、減圧下の真空チャンバー内で行われてもよいし、真空チャンバー以外の他の炉内で行われてもよい。スマートカットの後には、再度の熱処理(例えば500~1000℃)を施すことにより、イオン注入やスマートカットにおいて生じた第2の半導体層11のダメージを回復する。その後、第2の半導体層11の表面にCMPなどの平坦化処理を施してもよい。
【0072】
次に、図5(b)に示されるように、第2の半導体層11にホウ素などのアクセプター不純物をイオン注入することによりp型領域112を形成する。ここで、n型の第2の半導体層11の不純物を注入されない領域が第2のn型領域113となる。その後、熱処理(例えば500~1000℃)を施すことにより、イオン注入において生じた第2の半導体層11のダメージを回復する。このときの熱処理により、中間半導体層22の酸化が進み、酸化層222の厚さが増す。
【0073】
次に、図5(c)に示されるように、第2の半導体層11に第2のp型領域114とn型領域111を形成した後、第1の半導体層10、中間半導体層22、第2の半導体層11の積層体に第1のトレンチ12a及び第2のトレンチ12bを形成し、第1のトレンチ12a、第2のトレンチ12b中にそれぞれ第1のp型半導体部13a、第2のp型半導体部13bを形成する。
【0074】
第2のp型領域114は、第2の半導体層11にホウ素などのアクセプター不純物をイオン注入することにより形成される。また、n型領域111は、第2の半導体層11にヒ素などのドナー不純物をイオン注入することにより形成される。
【0075】
第1のトレンチ12a及び第2のトレンチ12bは、例えば、フォトリソグラフィとドライエッチングにより形成される。第1のp型半導体部13a及び第2のp型半導体部13bは、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)、真空蒸着、スパッタリングなどにより材料を第1のトレンチ12a及び第2のトレンチ12b中に堆積させることにより形成される。
【0076】
次に、図6(a)に示されるように、第1の半導体層10、中間半導体層22、第2の半導体層11の積層体に第3のトレンチ14を形成する。第3のトレンチ14は、一部が幅方向に第1のトレンチ12aと重なるように形成される。第3のトレンチ14は、例えば、フォトリソグラフィとドライエッチングにより形成される。
【0077】
次に、図6(b)に示されるように、第3のトレンチ14中にゲート絶縁膜15及びゲート電極16を形成する。ゲート絶縁膜15及びゲート電極16は、例えば、CVD、真空蒸着、スパッタリングなどにより材料を第3のトレンチ14中に堆積させて形成する。
【0078】
その後、絶縁膜19、ソース電極17、及びドレイン電極18を形成して、電界効果トランジスタ1を得る。絶縁膜19は、例えば、CVD、真空蒸着、スパッタリングなどにより材料をゲート電極16上に堆積させて形成する。ソース電極17及びドレイン電極18は、例えば、スパッタリングなどにより第2の半導体層11の上面、第1の半導体層10の下面にそれぞれ材料を堆積させて形成する。
【0079】
なお、上記の例では、表面活性化接合法による貼り合わせの前に、中間半導体層22をSi基板20上に形成したが、第1の半導体層10の層102上に形成してもよく、また、Si基板20上と層102上の両方に形成してもよい。
【0080】
図7(a)~(c)、図8(a)、(b)は、電界効果トランジスタ1の製造工程の変形例を示す垂直断面図である。
【0081】
まず、図7(a)に示されるように、ホウ素などのアクセプター不純物を含むp型のSi基板23を用意する。
【0082】
次に、図7(b)に示されるように、Si基板23上に、MOCVD、MBE、HVPE、スパッタ、ALDなどにより中間半導体層22を形成する。この場合、中間半導体層22の材料は、Si中でドナー不純物として振る舞う元素を含む材料、例えばAsを含むGaAsやPを含むGaP、から選択される。
【0083】
中間半導体層22の形成後、Si中でドナー不純物として振る舞うAsやPなどの元素が中間半導体層22からp型のSi基板23に拡散し、Si基板23の中間半導体層22側の一部がn型化する。このSi基板23のn型化した部分を第2のn型領域113として用いる。
【0084】
次に、図7(c)に示されるように、Si基板23の所定の深さに、水素イオンのイオン注入により面状のイオン注入領域24を形成する。後述するように、イオン注入領域24を分割面としてSi基板23を分割し、Si基板23から分離される膜が第2の半導体層11となるため、イオン注入領域24を形成する深さは、目的とする第2の半導体層11の厚さに応じて決定される。
【0085】
イオン注入領域24の形成のためにイオン注入される水素イオンのドーズ量は、例えば、2×1016~8×1016/cmである。また、イオン注入の注入エネルギーは、イオン注入領域24を形成する深さによって決定され、例えば、表面から950nm程度の深さにイオン注入領域24を形成する場合には、およそ110keVのエネルギーで水素イオンをイオン注入する。
【0086】
次に、図8(a)に示されるように、Si基板23上に形成された中間半導体層22の表面と、第1の半導体層10の層102の表面を表面活性化接合法により貼り合わせる。
【0087】
表面活性化接合法では、例えば、5×10-6Pa程度の圧力下の超高真空中チャンバー内において、CMP(chemical mechanical polishing)などの平坦化処理により平坦化された層102と中間半導体層22の最表面を1.5keVのエネルギーで加速したAr原子ビームを照射することにより除去して、露出したそれらの新生面同士を接触させて接合する。
【0088】
次に、図8(b)に示されるように、スマートカットによりSi基板23を分割し、中間半導体層22上に第2の半導体層11を残す。ここで、Si基板23のn型化されていない部分、すなわち第2のn型領域113が形成されていない部分がp型領域112となる。このとき、スマートカットが熱処理を伴うため、第1の半導体層10の層102から抜けた酸素により中間半導体層22が酸化され、非酸化層221の層102側の一部が酸化層222に変化する。
【0089】
スマートカットでは、400℃以上の熱処理を施すことにより、イオン注入領域24において水素脆化を生じさせてSi基板23を分割する。スマートカットにおける熱処理は、例えば、N又はAr雰囲気下で1~10分間行われる。なお、熱処理は、減圧下の真空チャンバー内で行われてもよいし、真空チャンバー以外の他の炉内で行われてもよい。スマートカットの後には、再度の熱処理(例えば500~1000℃)を施すことにより、イオン注入やスマートカットにおいて生じた第2の半導体層11のダメージを回復する。その後、第2の半導体層11の表面にCMPなどの平坦化処理を施してもよい。
【0090】
その後は、上述の図5(c)~図6(b)に示した工程と同様の工程を経て電界効果トランジスタ1を製造する。
【0091】
(電界効果トランジスタの特性)
以下に、電界効果トランジスタ1のゲート電極16に逆バイアスを印加したとき(オフ時)の電界分布、オフ耐圧特性、ゲート特性、及びオン特性のシミュレーション結果について述べる。
【0092】
次の表6に、本シミュレーションに用いた電界効果トランジスタ1の各部の寸法D1~D18(図1を参照)を示す。
【0093】
【表6】
【0094】
また、第1の半導体層10の材料をGa、第1のp型半導体部13a及び第2のp型半導体部13bの材料をNiO、ゲート電極16の材料を多結晶Si、ゲート絶縁膜15の材料をSiOとした。中間半導体層22の材料をGaAsとした。
【0095】
また、ゲート絶縁膜15の厚さは50nm、第1の半導体層10の厚さは5μm、中間半導体層22の厚さは10nm、第1の半導体層10と第2の半導体層11の界面捕獲準位密度は2×1012cm-2/eV、図1の断面に表れている第1のトレンチ12a、第2のトレンチ12bの底部の両端のコーナーの曲率半径は0.2μm、第3のトレンチ14の底部の両端のコーナーの曲率半径は0.15μm、絶縁膜19の比誘電率は3.9とした。
【0096】
次の表7に、本シミュレーションに用いた電界効果トランジスタ1の各部のドナー濃度又はアクセプター濃度を示す。
【0097】
【表7】
【0098】
上記の電界効果トランジスタ1のドレイン電極18に1400Vの電圧を印加したとき(ソース電極17は接地されている)の、点P1、P2、P3(図1を参照)における電界の強さは、それぞれおよそ7MV/cm、4.5MV/cm、0.3MV/cmであった。ここで、点P1は、第1のトレンチ12aの底部周辺の第1の半導体層10中の点であり、点P2は、第3のトレンチ14の底部周辺のゲート絶縁膜15中の点であり、点P3は、p型領域112と第2のn型領域113の界面上の点である。
【0099】
点P1における電界は、電界効果トランジスタ1の内部で最も強く、また、点P2、P3における電界の強さは上述のように低く抑えられていた。このことから、電界効果トランジスタ1のゲート電極16に逆バイアスを印加すると、第1のp型半導体部13aの底部に電界が集中して、第3のトレンチ14の底部周辺や第1の半導体層10と第2の半導体層11の界面周辺の電界が緩和されていることが確認された。このため、通常電界の集中しやすい第3のトレンチ14の底部周辺の第1の半導体層10及びゲート絶縁膜15の絶縁破壊を抑制することができる。
【0100】
図9(a)、(b)、(c)は、それぞれ電界効果トランジスタ1の一例のオフ耐圧特性、ゲート特性、オン特性を示すグラフである。これらの特性は、上記の中間半導体層22のドナー濃度が1×1016cm-3である条件に加え、中間半導体層22のドナー濃度が1×1017cm-3、1×1018cm-3である条件で求められたものである。
【0101】
図9(a)は、電界効果トランジスタ1のオフ耐圧特性を示すグラフである。図9(a)のグラフは、ゲート電極16に印加するゲート電圧を-5Vに固定して、ドレイン電極18に印加するドレイン電圧を変化させたときのドレイン電流の変化を示している。
【0102】
図9(a)によれば、中間半導体層22のドナー濃度が1×1016cm-3、1×1017cm-3、1×1018cm-3であるときのブレークダウン電圧の最大値は、それぞれ1497.6V、1497.7V、1498.5Vであり、いずれの場合も、ドレイン電圧がおよそ1400Vを超えるとアバランシェブレークダウンが生じる。また、中間半導体層22を設けずに中間半導体層22の厚さの分だけ第1の半導体層10の層102の厚さを増した場合のブレークダウン電圧の最大値は1497.9Vであり、中間半導体層22を設けることによる耐圧特性への影響はほとんどないことがわかった。
【0103】
図9(b)は、電界効果トランジスタ1のゲート特性を示すグラフである。図9(b)のグラフは、ドレイン電極18に印加するドレイン電圧を1Vに固定して、ゲート電極16に印加するゲート電圧を変化させたときのドレイン電流の変化を示している。
【0104】
図9(b)によれば、中間半導体層22のドナー濃度が1×1016cm-3、1×1017cm-3、1×1018cm-3のいずれである場合もほぼ同等のゲート特性を示し、ゲート閾値電圧がおよそ5Vである。また、中間半導体層22を設けずに中間半導体層22の厚さの分だけ第1の半導体層10の層102の厚さを増した場合のゲート閾値電圧もおよそ5Vであり、中間半導体層22を設けることによるゲート特性への影響はほとんどないことがわかった。
【0105】
図9(c)は、電界効果トランジスタ1のオン特性を示すグラフである。図9(c)のグラフは、ゲート電極16に印加するゲート電圧を15Vに固定して、ドレイン電極18に印加するドレイン電圧を変化させたときのドレイン電流の変化を示している。
【0106】
図9(c)によれば、中間半導体層22のドナー濃度が1×1016cm-3、1×1017cm-3、1×1018cm-3のいずれである場合もほぼ同等のオン特性を示し、例えば、ゲート電圧が15V、ドレイン電圧が1Vであるときのオン抵抗がおよそ2.85mΩcmである。また、中間半導体層22を設けずに中間半導体層22の厚さの分だけ第1の半導体層10の層102の厚さを増した場合の、ゲート電圧が15V、ドレイン電圧が1Vであるときのオン抵抗はおよそ2.83mΩcmであり、中間半導体層22を設けることによるオン特性への影響はほとんどないことがわかった。
【0107】
図9(a)~(c)の結果から、中間半導体層22にSiなどが拡散して中間半導体層22のドナー濃度が増加した場合であっても、少なくとも1×1016~1×1018cm-3の範囲内では、耐圧特性、ゲート特性、オン抵抗にほとんど影響しないことがわかった。
【0108】
(実施の形態の効果)
上記本発明の実施の形態によれば、ゲート電極16が埋め込まれる第3のトレンチ14の底部を絶縁破壊電界強度の高い酸化ガリウム系半導体からなるn型の第1の半導体層10中に設置し、また、第1のp型半導体部13aにより第3のトレンチ14の底部周辺の電界を緩和することにより、第3のトレンチ14の底部周辺の第1の半導体層10やゲート絶縁膜15の絶縁破壊を抑制し、電界効果トランジスタ1の信頼性を高めることができる。また、第1の半導体層10と第2の半導体層11との間に中間半導体層22を設けることにより、第1の半導体層10と第2の半導体層11の間に抵抗率の高いSi酸化物が形成されることを防止できる。
【0109】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。また、発明の主旨を逸脱しない範囲内において上記実施の形態の構成要素を任意に組み合わせることができる。
【0110】
また、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0111】
1…電界効果トランジスタ、 10…第1の半導体層、 11…第2の半導体層、 111…n型領域、 112…p型領域、 113…第2のn型領域、 114…第2のp型領域、 12a…第1のトレンチ、 12b…第2のトレンチ、 13a…第1のp型半導体部、 13b…第2のp型半導体部、 14…第3のトレンチ、 15…ゲート絶縁膜、 16…ゲート電極、 17…ソース電極、 18…ドレイン電極、 22…中間半導体層、 221…非酸化層、 222…酸化層
図1
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図9