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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038844
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】液滴移動用基板及び液滴移動デバイス
(51)【国際特許分類】
   C03C 19/00 20060101AFI20240313BHJP
   C03C 15/00 20060101ALI20240313BHJP
   C03C 17/30 20060101ALI20240313BHJP
   G01N 35/10 20060101ALI20240313BHJP
   G01N 1/00 20060101ALI20240313BHJP
   B01J 19/00 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
C03C19/00 A
C03C15/00 B
C03C17/30 B
G01N35/10 A
G01N1/00 101F
B01J19/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143165
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 沢泉
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直樹
【テーマコード(参考)】
2G052
2G058
4G059
4G075
【Fターム(参考)】
2G052AD06
2G052DA05
2G058EA14
4G059AA01
4G059AB03
4G059AB11
4G059AC01
4G059AC22
4G059BB16
4G059FA11
4G059FA22
4G075AA13
4G075AA39
4G075BB10
4G075DA02
4G075DA18
(57)【要約】
【課題】微小な液滴を移動させる場合においても、液滴の位置を精度良く制御することができる、液滴移動用基板を提供する。
【解決手段】表面1aに凹凸を有する、液滴移動用基板1であって、凹凸を有する表面1aにおける5μm×5μmの領域において、高域フィルタのカットオフ値を2.5μmとしたときに、算術平均高さSa1が、0.3nm以上、100nm以下である、液滴移動用基板1。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸を有する、液滴移動用基板であって、
前記凹凸を有する表面における5μm×5μmの領域において、高域フィルタのカットオフ値を2.5μmとしたときに、算術平均高さSa1が、0.3nm以上、100nm以下である、液滴移動用基板。
【請求項2】
前記凹凸を有する表面における92μm×76μmの領域において、高域フィルタのカットオフ値を50μmとし、低域フィルタのカットオフ値を2.5μmとしたときに、算術平均高さSa2が、5nm以上、2000nm以下である、請求項1に記載の液滴移動用基板。
【請求項3】
前記凹凸を有する表面上に20μLの水からなる液滴を載置し水平方向に対して傾けたときに、前記液滴が滑落する角度である滑落角が、30°以上である、請求項1又は2に記載の液滴移動用基板。
【請求項4】
前記液滴移動用基板が、ガラス基板である、請求項1又は2に記載の液滴移動用基板。
【請求項5】
前記液滴移動用基板の表面における少なくとも一部に、撥水性を有する領域が設けられている、請求項1又は2に記載の液滴移動用基板。
【請求項6】
基板本体と、
前記基板本体の表面における少なくとも一部に設けられた撥水性膜と、
を備え、
前記撥水性膜の表面が、前記凹凸を有する表面である、請求項1又は2に記載の液滴移動用基板。
【請求項7】
振動により液滴を移動させる、液滴移動デバイスであって、
請求項1又は2に記載の液滴移動用基板と、
アクチュエータと、
を備える、液滴移動デバイス。
【請求項8】
前記アクチュエータが、ピエゾアクチュエータである、請求項7に記載の液滴移動デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴移動用基板及び該液滴移動用基板を用いた液滴移動デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
微小化学分析や、バイオセンシング等の分野では、検体量や薬品量の削減を目的として、微小な液滴の位置を任意に制御する方法が検討されている。また、車載用や監視用等の屋外で使用されるカメラのカバー部材には撥水性材料が用いられ、カメラ表面に水滴が付着することを防止しているが、微小な液滴は凝集力が支配的になり重力下でも滑落し難いことから、この分野においても微小な液滴の位置を任意に制御する方法が検討されている。このように、微小な液滴の位置を任意に制御する方法は、近年益々需要が高まっており、注目を集めている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、表面エネルギ勾配を用いて微量液滴を輸送する簡便な独自技術と、エレクトロウェッティングという電気的制御性に優れた従来技術を組み合わせることにより、デバイス上に表面張力の差あるいは勾配を電気的に形成し、デバイス上での液滴輸送を電気的に制御することができる、微量液滴輸送デバイスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4385124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のような微量液滴輸送デバイスでは、疎水部と親水部とが生じることから、親水部では液滴が大きく濡れ広がってしまうという問題がある。また、液滴の厳密な位置制御が難しいという問題もある。
【0006】
本発明の目的は、微小な液滴を移動させる場合においても、液滴の位置を精度良く制御することができる、液滴移動用基板及び該液滴移動用基板を用いた液滴移動デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する液滴移動用基板及び該液滴移動用基板を用いた液滴移動デバイスの各態様について説明する。
【0008】
本発明の態様1に係る液滴移動用基板は、表面に凹凸を有する、液滴移動用基板であって、前記凹凸を有する表面における5μm×5μmの領域において、高域フィルタのカットオフ値を2.5μmとしたときに、算術平均高さSa1が、0.3nm以上、100nm以下であることを特徴としている。
【0009】
態様2の液滴移動用基板では、前記凹凸を有する表面における92μm×76μmの領域において、高域フィルタのカットオフ値を50μmとし、低域フィルタのカットオフ値を2.5μmとしたときに、算術平均高さSa2が、5nm以上、2000nm以下であることが好ましい。
【0010】
態様3の液滴移動用基板では、態様1又は態様2において、前記凹凸を有する表面上に20μLの水からなる液滴を載置し水平方向に対して傾けたときに、前記液滴が滑落する角度である滑落角が、30°以上であることが好ましい。
【0011】
態様4の液滴移動用基板では、態様1から態様3のいずれか一つの態様において、前記液滴移動用基板が、ガラス基板であることが好ましい。
【0012】
態様5の液滴移動用基板では、態様1から態様4のいずれか一つの態様において、前記液滴移動用基板の表面における少なくとも一部に、撥水性を有する領域が設けられていることが好ましい。
【0013】
態様6の液滴移動用基板では、態様1から態様5のいずれか一つの態様において、基板本体と、前記基板本体の表面における少なくとも一部に設けられた撥水性膜とを備え、前記撥水性膜の表面が、前記凹凸を有する表面であることが好ましい。
【0014】
本発明の態様7の液滴移動デバイスは、振動により液滴を移動させる、液滴移動デバイスであって、態様1から態様6いずれか一つの態様における液滴移動用基板と、アクチュエータとを備えることを特徴としている。
【0015】
態様8の液滴移動デバイスでは、態様7において、前記アクチュエータが、ピエゾアクチュエータであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、微小な液滴を移動させる場合においても、液滴の位置を精度良く制御することができる、液滴移動用基板及び該液滴移動用基板を用いた液滴移動デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1の実施形態に係る液滴移動デバイスを示す模式的断面図である。
図2】滑落角の評価方法を説明するための模式的断面図である。
図3】本発明の第2の実施形態に係る液滴移動デバイスを示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0019】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る液滴移動デバイスを示す模式的断面図である。
【0020】
図1に示すように、本実施形態の液滴移動デバイス10は、液滴移動用基板1と、液滴移動用基板1に接触するように設けられているアクチュエータ2とを備える。アクチュエータ2は、液滴移動用基板1に振動を加える圧電素子である。
【0021】
液滴移動用基板1は、対向している第1の主面1a及び第2の主面1bを有する。液滴移動用基板1の第1の主面1a上に、微小な液滴3が載置される。また、液滴移動用基板1の第2の主面1bに接触するようにアクチュエータ2が設けられている。本実施形態の液滴移動デバイス10では、アクチュエータ2によって液滴移動用基板1に振動を加えることにより、液滴移動用基板1の第1の主面1a上に載置された微小な液滴3を移動させることができる。
【0022】
なお、本明細書において、「微小な液滴」とは、例えば、0.1μL~100μLの液体が基板の上に載置されてなる液滴のことをいうものとする。液滴としては、特に限定されないが、例えば、水滴を用いることができる。
【0023】
アクチュエータ2は、ピエゾアクチュエータであることが好ましい。また、アクチュエータ2の配置は上記に限定されず、液滴移動用基板1に振動を加えることができるように設けられていればよい。アクチュエータ2は、1個のアクチュエータを用いてもよく、複数個のアクチュエータを用いてもよい。
【0024】
本発明者らは、液滴移動用基板1の第1の主面1a(表面)に凹凸を形成し、かつ凹凸の表面粗さを特定の範囲内とすることにより、微小な液滴3を移動させる場合においても、液滴3の位置を精度良く制御することができることを見出した。
【0025】
より具体的には、液滴移動用基板1の第1の主面1aにおける5μm×5μmの領域において、高域フィルタのカットオフ値を2.5μmとしたときに、算術平均高さSa1が、0.3nm以上、100nm以下である、凹凸を構成することにより、第1の主面1a上に載置した微小な液滴3を滑り難くすることができ、それによって、微小な液滴3を移動させる場合においても、微小な液滴3の位置を精度良く制御することができることを見出した。
【0026】
なお、「算術平均高さSa」は、ISO 25178によって規定されるパラメータであって、凹凸の断面形状を示す測定断面曲線を面に拡張したパラメータである。具体的には、算術平均高さSaは、所定の三次元領域における凹凸の高さZnの絶対値の平均(Sa=(Σ|Zn|)/n)から求めることができる。
【0027】
また、液滴移動用基板1の第1の主面1aにおける凹凸は、微小な液滴3を移動させる必要な領域のみに設けられていてもよく、第1の主面1a全体に設けられていてもよい。
【0028】
本発明においては、液滴移動用基板1の第1の主面1aにおける算術平均高さSa1が、0.3nm以上、好ましくは0.4nm以上、より好ましくは5nm以上であり、100nm以下、好ましくは50nm以下、より好ましくは30nm以下である。算術平均高さSa1が上記下限値以上である場合、凹凸の凹部に空気層が保持され、接触角が大きくなり、微小な液滴3が濡れ広がるのを抑制することができる。また、微小な液滴3がピン止め効果により適度に滑り難くなり、微小な液滴3の位置をより一層精度良く制御することができる。また、算術平均高さSa1が上記上限値以下である場合、凹凸の凹部に液体が浸入し難くなり、空気層をより一層保持し易く接触角を大きくすることができる。また、凹凸によるピン止め効果が働くため、微小な液滴3を任意の位置に移動させ易くなる。さらに、この場合、散乱を抑制し、透明性を得ることもできる。
【0029】
本発明においては、液滴移動用基板1の第1の主面1aにおける92μm×76μmの領域において、高域フィルタのカットオフ値を50μmとし、低域フィルタのカットオフ値を2.5μmとしたときに、算術平均高さSa2が、好ましくは5nm以上、より好ましくは9nm以上、さらに好ましくは20nm以上であり、好ましくは2000nm以下、より好ましくは1500nm以下、さらに好ましくは1200nm以下である。算術平均高さSa2が上記下限値以上である場合、微小な液滴3がピン止め効果により適度に滑り難くなり、微小な液滴3の位置をより一層精度良く制御することができる。また、算術平均高さSa2が上記上限値以下である場合、凹凸の凹部に液体が浸入し難くなり、空気層をより一層保持し易く接触角を大きくすることができる。また、適度にピン止め効果が働くため、微小な液滴3を任意の位置に移動させ易くすることができる。さらに、この場合、散乱を抑制し、透明性を得ることもできる。
【0030】
本発明においては、液滴移動用基板1の第1の主面1a上に20μLの水からなる液滴を載置したときの滑落角が、好ましくは30°以上、より好ましくは35°以上、さらに好ましくは40°以上であり、好ましくは90°以下である。なお、「滑落角」は、図2に示すように、微小な液滴3を載置した液滴移動用基板1を水平方向Xに対して傾けたときに、液滴3が滑落する角度αのことをいうものとする。滑落角が上述した範囲にある場合、微小な液滴3の位置をより一層精度良く制御することができる。
【0031】
本発明においては、液滴移動用基板1の第1の主面1aが撥水性を有する領域であることが好ましい。この撥水性を有する領域は、微小な液滴3を移動させる必要な領域のみに設けられていてもよく、第1の主面1a全体に設けられていてもよい。
【0032】
なお、本明細書でいう「撥水性」とは、液体表面の接線と固体表面とがなす角のうちの液体を含む側の角度で示される接触角が85°以上であることをいうものとする。
【0033】
具体的には、液滴移動用基板1の第1の主面1aに対する水の接触角が、好ましくは85°以上、より好ましくは90°以上、さらに好ましくは93°以上、さらに好ましくは95°以上、特に好ましくは97°以上、最も好ましくは100°以上であり、好ましくは150°以下である。接触角が上述した範囲にある場合、微小な液滴3の位置をより一層精度良く制御することができる。
【0034】
なお、液滴移動用基板1の第1の主面1aにおける接触角(θ)は、JIS R 3257:1999の静滴法(θ/2近似法)に基づき測定することができる。例えば、本実施形態では、液滴移動用基板1の第1の主面1aを上方に向けた状態で、水平に載置し、2μLの純水を滴下した後、デジタルスコープ(キーエンス社製、製品名「VHX-500F」)によって真横から水滴を撮影することにより測定することができる。
【0035】
本発明において、液滴移動用基板1の形状は、特に限定されず、例えば、矩形平板状、円形又は多角形の輪郭からなる平板状、平板状のものを全体的に湾曲させた形状や、球面、非球面のレンズ形状等が挙げられる。
【0036】
液滴移動用基板1の材料は、特に限定されず、例えば、ガラス、セラミックス、樹脂等を用いることができる。なかでも、液滴移動用基板1は、ガラス基板であることが好ましい。
【0037】
ガラス基板の材質は、特に限定されず、石英ガラス、ソーダ石灰ガラス、無アルカリガラス、アルミノシリケートガラス、硼珪酸ガラス、フッ化物ガラス、又はカルコゲナイドガラス等が挙げられる。これらの材料は、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0038】
液滴移動用基板1の厚みは、特に限定されないが、例えば、50μm以上、10mm以下とすることができる。
【0039】
液滴移動用基板1のヘイズは、特に限定されず、液滴移動用基板1の求められる特性や目的によって任意に選択することができる。例えば、透明度をより確実に確保したい場合、液滴移動用基板1のヘイズは、好ましくは90%未満、より好ましくは80%以下、さらに好ましくは70%以下、さらに好ましくは60%以下、さらに好ましくは50%以下、さらに好ましくは40%以下、特に好ましくは30%以下、最も好ましくは20%以下である。一方、映り込みをより一層確実に抑制したい場合、液滴移動用基板1のヘイズは、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上、さらに好ましくは20%以上、さらに好ましくは25%以上、特に好ましくは30%以上、最も好ましくは35%以上である。
【0040】
本実施形態の液滴移動用基板1及び液滴移動デバイス10は、微小な液滴3を移動させる場合においても、液滴の位置を精度良く制御することができるので、微小化学分析や、バイオセンシング等に好適に用いることができる。また、本実施形態の液滴移動用基板1は、車載カメラや監視カメラ等の屋外で使用されるカメラのレンズ部材やカバー部材にも好適に用いることができる。
【0041】
(液滴移動用基板の製造方法)
次に、液滴移動用基板1の製造方法の一例について説明する。
【0042】
液滴移動用基板1の第1の主面1aにおける凹凸は、例えば、ウェットブラスト処理、化学エッチング処理、並びに化学エッチング処理及びウェットブラスト処理を組み合わせた処理により形成することができる。
【0043】
ウェットブラスト処理は、アルミナなどの固体粒子にて構成される砥粒と、水などの液体とを均一に撹拌してスラリーとしたものを、圧縮エアを用いて噴射ノズルからワークに対して高速で噴射することにより、ワークに微細な凹凸を形成する処理である。
【0044】
ウェットブラスト処理においては、高速に噴射されたスラリーが凹凸形成前の元基板であるワークに衝突した際に、スラリー内の砥粒がワークの表面を削ったり、叩いたり、こすったりすることにより、ワークの表面に微細な凹凸が形成されることとなる。
【0045】
この場合、ワークに噴射された砥粒や、砥粒により削られたワークの破片は、ワークに噴射された液体によって洗い流されるため、ワークに残留する粒子が少なくなる。
【0046】
ウェットブラスト処理において、砥粒の粒度は、例えば、0.3μm以上、10μm以下とすることができる。ガンの走査回数は、例えば、1回以上、10回以下とすることができる。スラリーの噴出圧力(処理圧力)は、例えば、0.1MPa以上、0.4MPa以下とすることができる。また、ガンの移動速度(処理速度)は、例えば、0.1mm/s以上、100mm/s以下とすることができる。
【0047】
なお、ウェットブラスト処理における砥粒の粒度を大きくしたり、スラリーの噴出圧力を大きくしたり、ガンの移動速度を遅くしたり、ガンの走査回数を増やしたりすることにより、液滴移動用基板1の第1の主面1aにおける算術平均高さSa1を大きくすることができる。
【0048】
化学エッチング処理は、例えば、凹凸形成前の元基板を、フッ酸又はフッ酸と他の酸とを含むエッチング液に浸漬させることにより行うことができる。他の酸としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸等を用いることができる。さらに、クエン酸やエチレンジアミン四酢酸等のキレート剤やフッ化アンモニウムなどを用いてもよい。
【0049】
エッチング液中におけるフッ酸の含有量は、例えば、0.1質量%以上、50.0質量%以下とすることができる。エッチング液中におけるフッ化アンモニウムの含有量は、例えば、0質量%以上、50.0質量%以下とすることができる。エッチング液中における硫酸の含有量は、例えば、0質量%以上、60.0質量%以下とすることができる。また、エッチング液中における水の含有量は、例えば、20.0質量%以上、99.9質量%以下とすることができる。
【0050】
エッチング液の液温は、例えば、10℃以上、50℃以下とすることができる。また、エッチング液への浸漬時間は、例えば、10秒以上、60分以下とすることができる。
【0051】
なお、エッチング処理は、フッ化水素ガス(HF)を用いて行ってもよい。
【0052】
化学エッチング処理の薬液組成や、処理時間、処理温度等により、液滴移動用基板1の第1の主面1aにおける算術平均高さSa2を調整することができる。フッ酸とフッ化アンモニウムとの混合水溶液を薬液に用いた場合、処理時間が長く、処理温度が高くなるほどSa2を大きくすることができる。
【0053】
また、元基板には、化学エッチング処理の前にウェットブラスト処理等により、エッチングの起点となる凹凸を付与してもよい。この場合、液滴移動用基板1の第1の主面1aにおける算術平均高さSa2を大きくすることができる。また、凹凸を付与したあとに化学エッチング処理を行う場合、薬液の硫酸の含有量が多く、処理時間が長くなるほどSa1を小さくすることできる。
【0054】
また、第1のウェットブラスト処理により、元基板の主面にエッチング処理の起点となる凹凸を形成した後に、化学エッチング処理を施して第1の凹凸を形成し、しかる後第2のウェットブラスト処理を行って、第2の凹凸を形成してもよい。これにより、液滴移動用基板1の第1の主面1aに第1の凹凸及び第2の凹凸を形成することができ、液滴移動用基板1の撥水性をより一層高めることができる。また、液滴移動用基板1の第1の主面1aにおける算術平均高さSa1を大きくすることができる。
【0055】
[第2の実施形態]
図3は、本発明の第2の実施形態に係る液滴移動デバイスを示す模式的断面図である。図3に示すように、本実施形態の液滴移動デバイス20は、液滴移動用基板21と、アクチュエータ2とを備える。
【0056】
液滴移動用基板21は、基板本体24と、撥水性膜25とを備える。基板本体24の主面24a上に、撥水性膜25が設けられている。本実施形態では、撥水性膜25の外側主面が、液滴移動用基板21の第1の主面21aであり、第1の実施形態の第1の主面1aと同様の凹凸が形成されている。基板本体24の主面24a上に撥水性膜25を形成する場合には、形成後の撥水性膜25の外側主面(第1の主面21a)の凹凸形状が、第1の実施形態の第1の主面1aと同様の凹凸形状となるように、予め基板本体24の主面24aに凹凸形状を形成すればよい。また、撥水性膜25を形成後に凹凸を形成してもよい。なお、本実施形態では、液滴移動用基板21の第1の主面21aと対向している第2の主面21bに接触するようにアクチュエータ2が設けられている。
【0057】
撥水性膜25としては、例えば、フッ素コーティング膜や、シリコーン樹脂コーティング膜を用いることができる。また、撥水性膜25は、フッ素変性有機基とシリル基を有する化合物や、アルキル基やフルオロアルキル基を含有するシラン化合物等を含む有機薄膜であってもよい。具体的に、有機薄膜は、アルキル基やフルオロアルキル基を含有するシラン化合物等を、基板本体24の表面に結合させて形成(成膜)することができる。また、撥水性膜25は、シリコーン樹脂を含んでいてもよく、なかでもメチルシリコーンレジン、メチルフェニルシリコーンレジン、アルキッド変性シリコーンレジン、エポキシ変性シリコーンレジン、アクリル変性シリコーンレジン、ポリエステル変性シリコーンレジン、フッ素変性シリコーンレジン等を含む有機薄膜であってもよい。
【0058】
また、撥水性膜25は、微小な液滴3を移動させる必要な領域のみに設けられていてもよく、基板本体24の主面24全体に設けられていてもよい。
【0059】
撥水性膜25の厚みとしては、特に限定されないが、例えば、1nm以上、1μm以下とすることができる。
【0060】
その他の点は、第1の実施形態と同じである。
【0061】
本実施形態においても、アクチュエータ2によって液滴移動用基板21に振動を加えることにより、液滴移動用基板21の第1の主面21a上に載置された微小な液滴3を移動させることができる。
【0062】
また、本実施形態においても、液滴移動用基板21の第1の主面21aにおける5μm×5μmの領域において、高域フィルタのカットオフ値を2.5μmとしたときに、算術平均高さSa1が、0.3nm以上、100nm以下である、凹凸が構成されている。そのため、液滴移動用基板21及び液滴移動デバイス20では、微小な液滴3を移動させる場合においても、微小な液滴3の位置を精度良く制御することができる。
【0063】
なお、本発明においては、撥水性膜25の代わりに、あるいは撥水性膜25とともに、光学機能膜を設けてもよい。光学機能膜としては、例えば、反射防止膜や反射膜を用いることができる。反射防止膜及び反射膜としては、基板本体24よりも屈折率が低い低屈折率膜や、相対的に屈折率が低い低屈折率膜と相対的に屈折率が高い高屈折率膜とが交互に積層された誘電体多層膜が用いられる。反射防止膜及び反射膜は、スパッタリング法又はCVD法などにより形成することができる。
【0064】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。なお、各実施例及び比較例では、ガラス板として、厚みが0.5mmであり、矩形板状の形状を有するアルミノシリケートガラス(日本電気硝子社製、製品名「T2X-1」)を用いた。
【0065】
(実施例1)
ガラス板の一方側の主面全体に対して、ウェットブラスト処理(第1のウェットブラスト処理)により化学エッチングの起点となる凹凸を付与した。なお、第1のウェットブラスト処理に際しては、平均粒径が6.9μmのアルミナからなる砥粒10質量%と、水90質量%とを均一に撹拌してスラリーを調製し、処理速度10mm/sにてノズルを移動させながら走査させ、処理圧力0.15MPaのエアを用いて、ノズルから調製したスラリーを噴射した。
【0066】
次に、化学エッチングの起点となる凹凸を付与したガラス板を、2質量%のフッ酸(HF)、40質量%の硫酸(HSO)、及び58質量%の水(HO)からなるエッチング液に、液温30℃で30分間浸漬するエッチング処理を施し、第1の凹凸を形成した。
【0067】
次に、第1の凹凸が形成されたガラス板の主面全体に対して、第2のウェットブラスト処理を施すことにより、第2の凹凸を形成し、表面に凹凸を有するガラス基板を作製した。
【0068】
なお、第2のウェットブラスト処理に際しては、まず、平均粒径が1.2μmのアルミナからなる砥粒3質量%と、水97質量%とを均一に撹拌してスラリーを調製し、処理速度10mm/sにてノズルを移動させながら走査させ、処理圧力0.2MPaのエアを用いて、ノズルから調製したスラリーを噴射した。
【0069】
(実施例2)
ガラス板を、6質量%のフッ酸(HF)、30質量%のフッ化アンモニウム(NHF)、及び64質量%の水(HO)からなるエッチング液に、液温40℃で3分間浸漬するエッチング処理を施した。次に、エッチング処理が施されたガラス板の主面全体に対して、ウェットブラスト処理を施すことにより、表面に凹凸を有するガラス基板を作製した。なお、ウェットブラスト処理に際しては、まず、平均粒径が1.2μmのアルミナからなる砥粒3質量%と、水97質量%とを均一に撹拌してスラリーを調製し、処理速度10mm/sにてノズルを移動させながら走査させ、処理圧力0.2MPaのエアを用いて、ノズルから調製したスラリーを噴射した。
【0070】
(実施例3)
ガラス板の一方側の主面全体に対して、ウェットブラスト処理を施すことにより、表面に凹凸を有するガラス基板を作製した。なお、ウェットブラスト処理に際しては、まず、平均粒径が1.2μmのアルミナからなる砥粒3質量%と、水97質量%とを均一に撹拌してスラリーを調製し、処理速度10mm/sにてノズルを移動させながら走査させ、処理圧力0.2MPaのエアを用いて、ノズルから調製したスラリーを噴射した。
【0071】
(実施例4)
ガラス板の一方側の主面全体に対して、ウェットブラスト処理を施すことにより、表面に凹凸を有するガラス基板を作製した。なお、ウェットブラスト処理に際しては、まず、平均粒径が3.0μmのアルミナからなる砥粒10質量%と、水90質量%とを均一に撹拌してスラリーを調製し、処理速度10mm/sにてノズルを移動させながら走査させ、処理圧力0.3MPaのエアを用いて、ノズルから調製したスラリーを噴射した。
【0072】
(実施例5)
ガラス板の一方側の主面全体に対して、ウェットブラスト処理を施した。なお、ウェットブラスト処理に際しては、まず、平均粒径が1.2μmのアルミナからなる砥粒3質量%と、水97質量%とを均一に撹拌してスラリーを調製し、処理速度10mm/sにてノズルを移動させながら走査させ、処理圧力0.2MPaのエアを用いて、ノズルから調製したスラリーを噴射した。
【0073】
次に、ウェットブラスト処理を施したガラス板の主面全体上に、フッ素系防汚コーティング剤(信越化学工業社製、品番「X-71-195」)を0.2質量%に調整したフッ素系不活性液体(3M社製、品番「Novec7200」)溶液を回転数3000rpmでスピンコートした後、室温で24時間保持しコーティング膜を成膜した。それによって、表面に凹凸を有するガラス基板を作製した。
【0074】
(実施例6)
ガラス板の一方側の主面全体に対して、ウェットブラスト処理により化学エッチングの起点となる凹凸を付与した。なお、ウェットブラスト処理に際しては、平均粒径が6.9μmのアルミナからなる砥粒10質量%と、水90質量%とを均一に撹拌してスラリーを調製し、処理速度10mm/sにてノズルを移動させながら走査させ、処理圧力0.15MPaのエアを用いて、ノズルから調製したスラリーを噴射した。
【0075】
次に、化学エッチングの起点となる凹凸を付与したガラス板を、2質量%のフッ酸(HF)、30質量%の硫酸(HSO)、及び68質量%の水(HO)からなるエッチング液に、液温30℃で20分間浸漬するエッチング処理を施した。
【0076】
次に、エッチング処理を施したガラス板の主面全体上に、シリコーン樹脂(Techneglas社製、品番「GR-630S」)を0.2質量%に調整したキシレン溶液を回転数3000rpmでスピンコートした後、260℃で1時間保持しコーティング膜を成膜した。それによって、表面に凹凸を有するガラス基板を作製した。
【0077】
(実施例7)
ガラス板を、1.6質量%のフッ酸(HF)、38.7質量%のフッ化アンモニウム(NHF)、及び59.7質量%の水(HO)からなるエッチング液に、液温30℃で3分間浸漬するエッチング処理を施した。
【0078】
次に、エッチング処理を施したガラス板の主面全体上に、シリコーン樹脂(Techneglas社製、品番「GR-630S」)を0.2質量%に調整したキシレン溶液を回転数3000rpmでスピンコートした後、260℃で1時間保持しコーティング膜を成膜した。それによって、表面に凹凸を有するガラス基板を作製した。
【0079】
(比較例1)
ガラス板に各処理を施さずにそのままガラス基板として用いた。
【0080】
(比較例2)
ガラス板の主面全体上に、シリコーン樹脂(Techneglas社製、品番「GR-630S」)を0.2質量%に調整したキシレン溶液を回転数3000rpmでスピンコートした後、260℃で1時間保持しコーティング膜を成膜した。それによって、ガラス基板を作製した。
【0081】
(比較例3)
ガラス板の主面全体上に、フッ素系防汚コーティング剤(信越化学工業社製、品番「X-71-195」)を0.2質量%に調整したフッ素系不活性液体(3M社製、品番「Novec7200」)溶液を回転数3000rpmでスピンコートした後、室温で24時間保持しコーティング膜を成膜した。それによって、ガラス基板を作製した。
【0082】
<評価>
実施例1~7及び比較例1~3のガラス基板について以下の評価を行った。なお、実施例1~7及び比較例2,3においては、ガラス基板の各処理を施した主面において測定を行った。また、比較例1においては、ガラス基板の任意の主面において測定を行った。
【0083】
(算術平均高さSa1)
算術平均高さSa1は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した。原子間力顕微鏡(AFM)としては、原子間力顕微鏡(Bruker社製、商品名:Dimension Icon(SPM unit)、Nano Scope V(Controller unit))を用い、ISO 25178に基づき測定を行った。
【0084】
測定条件としては、タッピングモードを使用し、測定エリア5μm×5μmの領域に対して、スキャンレートが1Hz、取得データ数が512×512となるように実施した。高域フィルタλcのカットオフ値を2.5μmに設定し、解析を行った。
【0085】
(算術平均高さSa2)
算術平均高さSa2は、レーザー顕微鏡を用いて測定した。レーザー顕微鏡としては、レーザー顕微鏡(キーエンス社製、品番「VK-X250」)を用い、ISO 25178に基づいて測定を行った。
【0086】
測定条件は、対物レンズ150倍、ズームレンズ1倍を使用し、測定エリア92μm×76μmの領域に対して、取得データ数が2048×1536となるように実施した。平面の傾斜を最小二乗法によって除去した後、高域フィルタのカットオフ値を50μmとし、低域フィルタのカットオフ値を2.5μmに設定し、解析を行った。
【0087】
(接触角)
接触角θは、JIS R 3257:1999の静滴法(θ/2近似法)に基づき測定した。具体的には、水平に載置された各々のガラス基板に、2μLの純水を滴下した後、デジタルスコープ(キーエンス社製、製品名「VHX-500F」)によって真横から水滴を撮影し、接触角θを測定した。
【0088】
(滑落性)
30°に傾けたガラス基板上に20μLの水からなる液滴をゆっくりと滴下し、滑落性を評価した。
【0089】
<評価基準>
〇…液滴が滑落しなかった
×…液滴が滑落した
【0090】
(液滴移動性)
ガラス基板にピエゾアクチュエータを固定し、ファンクションジェネレータよりのこぎり波を入力し、ピエゾアクチュエータを駆動させることでガラス基板を振動させた。ガラス基板を振動させたとき、ガラス基板上に静置した5μLの液滴の移動性を、下記の評価基準で評価した。
【0091】
<評価基準>
〇…液滴が静置地点から5mm以上移動可能
×…液滴が静置地点から5mm以上移動不可
【0092】
(液滴位置制御性)
ピエゾアクチュエータでガラス基板を振動させたとき、5μLの液滴の位置制御性を下記の評価基準で評価した。
【0093】
<評価基準>
〇…液滴の中心が制御したい位置を中心に直径1mm以内に移動可能
×…液滴の中心が制御したい位置を中心に直径1mm以内に移動不可
【0094】
結果を下記の表1に示す。
【0095】
【表1】
【符号の説明】
【0096】
1,21…液滴移動用基板
1a,21a…第1の主面
1b,21b…第2の主面
2…アクチュエータ
3…微小な液滴
10,20…液滴移動デバイス
24…基板本体
24a…主面
25…撥水性膜
図1
図2
図3