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特開2024-38851パルプモールド成形品及びエンボス加工済みパルプモールド成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038851
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】パルプモールド成形品及びエンボス加工済みパルプモールド成形品
(51)【国際特許分類】
   D21J 5/00 20060101AFI20240313BHJP
【FI】
D21J5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143174
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100209048
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 元嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100212705
【弁理士】
【氏名又は名称】矢頭 尚之
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 郁治
(72)【発明者】
【氏名】本橋 晃
(72)【発明者】
【氏名】石井 萌
(72)【発明者】
【氏名】岡村 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】坂入 幸司
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AA05
4L055AG40
4L055AH11
4L055AH16
4L055AJ07
4L055BF06
4L055EA07
4L055EA08
4L055EA16
4L055FA11
(57)【要約】
【課題】表面に凹凸パターンを有するパルプモールド成形品の製造に有利な技術を提供する。
【解決手段】パルプモールド成形品MP2は、突き刺し強度が40乃至85Nの範囲内にある。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
突き刺し強度が40乃至85Nの範囲内にあるパルプモールド成形品。
【請求項2】
密度が0.5乃至1.1g/cmの範囲内にある請求項1に記載のパルプモールド成形品。
【請求項3】
壁部の厚さが0.6乃至1.2mmの範囲内にある請求項1に記載のパルプモールド成形品。
【請求項4】
パルプの平均繊維長が0.7乃至2.0mmの範囲内にある請求項1に記載のパルプモールド成形品。
【請求項5】
紙力増強剤を含んだ請求項1に記載のパルプモールド成形品。
【請求項6】
サイズ剤を含んだ請求項1に記載のパルプモールド成形品。
【請求項7】
突き刺し強度が40乃至85Nの範囲内にあり、壁部がエンボス加工部を含んだエンボス加工済みパルプモールド成形品。
【請求項8】
請求項1乃至6の何れか1項に記載のパルプモールド成形品の壁部へエンボス加工を施すことを含んだエンボス加工済みパルプモールド成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルプモールド成形品及びエンボス加工済みパルプモールド成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄物の増加等に関連した環境問題が多発している。これに鑑み、トイレタリー製品、飲料及び食品などの収納には、プラスチック容器や金属容器に代わり、紙製容器が使用されつつある。例えば、牛乳容器等の液体用紙製容器としては、紙の両面にポリエチレン樹脂をコートした板紙からなり、上部が切妻屋根型を有する容器、所謂、ゲーブルトップ紙容器がある。そのような紙製容器は、省資源や省エネルギーに貢献するものであるのに加え、廃棄に際してもリサイクルや焼却し易いなど環境保全に貢献するものである。それ故、紙製容器は、様々な分野で普及している。
【0003】
しかしながら、上記のような紙製容器は、板紙を折り曲げ、貼り合わせて成形されるものであることから、製造工程が複雑であり、製造コストが嵩む。また、上記のような紙製容器は、その形状の自由度が低いため、容器の形状に基づく商品の訴求力を充分に発揮できないなどの問題があった。
【0004】
紙製容器の形状の自由度を高める手段の1つとして、パルプと水とを含んだスラリーから成形品を製造するパルプモールドがある。パルプモールドでは、一般的に、スラリー中のパルプを抄型上に堆積させてパルプ層を形成し、このパルプ層を脱水し、その後、これを炉内で乾燥させる。この技術によって得られる成形品、即ち、パルプモールド成形品は、紙系包装材の物性面での特徴である、耐熱性、耐寒性及び吸放湿性等に優れており、食品用の紙製トレー容器や果物などの固定緩衝材等として広く使用されるようになってきている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-285188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、表面に凹凸パターンを有するパルプモールド成形品の製造に有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面によると、突き刺し強度が40乃至85Nの範囲内にあるパルプモールド成形品が提供される。
本発明の他の側面によると、密度が0.5乃至1.1g/cmの範囲内にある上記側面に係るパルプモールド成形品が提供される。
【0008】
本発明の更に他の側面によると、壁部の厚さが0.6乃至1.2mmの範囲内にある上記側面の何れかに係るパルプモールド成形品が提供される。
本発明の更に他の側面によると、パルプの平均繊維長が0.7乃至2.0mmの範囲内にある上記側面の何れかに係るパルプモールド成形品が提供される。
【0009】
本発明の更に他の側面によると、紙力増強剤を含んだ上記側面の何れかに係るパルプモールド成形品が提供される。
本発明の更に他の側面によると、サイズ剤を含んだ上記側面の何れかに係るパルプモールド成形品が提供される。
【0010】
本発明の更に他の側面によると、突き刺し強度が40乃至85Nの範囲内にあり、壁部がエンボス加工部を含んだエンボス加工済みパルプモールド成形品が提供される。
本発明の更に他の側面によると、上記側面の何れかに係るパルプモールド成形品の壁部へエンボス加工を施すことを含んだエンボス加工済みパルプモールド成形品の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、表面に凹凸パターンを有するパルプモールド成形品の製造に有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係るパルプモールド成形品を示す斜視図。
図2】本発明の一実施形態に係るエンボス加工済みパルプモールド成形品のエンボス加工部を示す斜視図。
図3図1のパルプモールド成形品の製造に利用可能な製造装置の一例を概略的に示す図。
図4図3の装置を用いたパルプモールド成形におけるパルプ層形成工程を示す図。
図5】抄型上に形成されたパルプ層の一例を概略的に示す断面図。
図6図3の装置を用いたパルプモールド成形における脱水工程を示す図。
図7図3の装置を用いたパルプモールド成形におけるパルプ層の搬送工程を示す図。
図8図3の装置を用いたパルプモールド成形における熱プレス形成工程を示す図。
図9】熱プレス工程によって得られるパルプモールド成形品の一例を概略的に示す断面図。
図10図3の装置を用いたパルプモールド成形におけるパルプモールド成形品の搬送工程を示す図。
図11図10の搬送工程を完了した状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者が、上記課題に取り組んだ経緯について以下に説明する。
本発明のエンボス加工済みパルプモールド成形品は、エンボス加工によってパルプモールド成形品の表面へ凹凸パターンを形成することにより製造される。本発明のエンボス加工済みパルプモールド成形品と類似した構造物は、例えば、以下の方法で製造することも可能である。即ち、エンボス加工を省略し、その代わりに、エンボス加工によってパルプモールド成形品の表面へ形成すべき凹凸パターンに対応した凹凸パターンを、パルプモールド成形品を製造するための金型に設ける。これにより、表面に凹凸パターンを有するパルプモールド成形品を製造することが可能である。
【0014】
この方法でも、エンボス加工済みパルプモールド成形品と類似した構造物を製造することができる。しかしながら、この方法では、例えば、凹凸パターンによって表示する情報を変更する場合、パルプモールド成形品を製造するための金型も変更する必要がある。パルプモールド成形品を製造するための金型は高価であるので、この方法は、例えば、凹凸パターンによって表示する情報を変更する場合に高コストである。
【0015】
一方、エンボス加工によってパルプモールド成形品の表面へ凹凸パターンを形成する方法では、凹凸パターンによって表示する情報を変更する場合に、エンボス加工に使用する版を変更すればよく、パルプモールド成形品を製造するための金型を変更する必要はない。エンボス版は、パルプモールド成形品を製造するための金型と比較して安価である。それ故、この方法は、例えば、凹凸パターンによって表示する情報を変更する場合であっても低コストである。
【0016】
このように、エンボス加工を利用する上記方法は、コスト面で有利である。しかしながら、本発明者は、エンボス加工を利用する上記方法では、エンボス加工によってパルプモールド成形品の壁部に破れを生じるか、又は、エンボス加工を行っても肉眼で鮮明に視認可能な凹凸パターンをパルプモールド成形品の壁部に形成できない可能性があることを新たに見出した。この新規課題を解決することに本発明者は取り組み、本発明を完成させるに至った。
【0017】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下に説明する実施形態は、上記側面の何れかをより具体化したものである。以下に記載する事項は、単独でまたは複数を組み合わせて、上記側面の各々に組み入れることができる。
【0018】
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、下記の構成部材の材質、形状、および構造等によって限定されるものではない。本発明の技術的思想には、請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0019】
なお、同様または類似した機能を有する要素については、以下で参照する図面において同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面は模式的なものであり、或る方向の寸法と別の方向の寸法との関係、および、或る部材の寸法と他の部材の寸法との関係等は、現実のものとは異なり得る。
【0020】
<1>パルプモールド成形品
本明細書において、エンボス加工前のものを「パルプモールド成形品」と呼び、エンボス加工後のものを「エンボス加工済みパルプモールド成形品」と呼ぶ。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係るパルプモールド成形品を示す斜視図である。
図1に示すパルプモールド成形品MP2は、容器である。このパルプモールド成形品MP2は、底部と側壁部とを含んでおり、上部で開口している。
【0022】
底部は、円盤形状を有している。底部は、容器の深さ方向に対して垂直な平面への正射影が、円以外の形状を、例えば、四角形状などの多角形状を有していてもよい。
【0023】
側壁部は、底部の縁から上方へ伸びた筒形状を有している。側壁部は、底部から開口部へ向けて拡径している。側壁部の内面及び外面は、底部の上面に対して垂直であってもよい。但し、側壁部が底部から開口部へ向けて拡径しているパルプモールド成形品MP2は、高い離型性を実現するうえで有利であるとともに、積み重ね易い。
【0024】
パルプモールド成形品MP2は、カップ形状、ボウル形状、トレー形状、及び箱形状などの様々な形状を有し得る。パルプモールド成形品MP2は、立体成形品、即ち、シートのように二次元形状を有するものではなく、三次元形状を有する成形品であれば、容器でなくてもよい。
【0025】
パルプモールド成形品MP2は、突き刺し強度が40乃至85Nの範囲内にある。パルプモールド成形品MP2は、突き刺し強度が45乃至85Nの範囲内にあることが好ましく、50乃至80Nの範囲内にあることがより好ましい。パルプモールド成形品MP2の突き刺し強度が小さすぎると、エンボス加工などの凹凸パターンを形成する加工を施した際にパルプモールド成形品MP2に破れが発生し易い。パルプモールド成形品MP2は、突き刺し強度が大きくなると、エンボス加工などの凹凸パターンを形成する加工を施した際にパルプモールド成形品MP2に破れが生じ難くなる傾向がある。ただし、パルプモールド成形品MP2の突き刺し強度が大きすぎると、肉眼で鮮明に視認可能な凹凸パターンを形成することが困難となる。
【0026】
ここで、パルプモールド成形品MP2の突き刺し強度は、JIS Z1707:2019「食品包装用プラスチックフィルム通則」で規定される方法によって得られる値である。
【0027】
パルプモールド成形品MP2は、厚さが0.6乃至1.2mmの範囲内にあることが好ましい。即ち、パルプモールド成形品MP2は、壁部の厚さ、ここでは、底部及び側壁部の厚さが0.6乃至1.2mmの範囲内にあることが好ましい。パルプモールド成形品MP2は、厚さが0.7乃至1.2mmの範囲内にあることがより好ましく、0.7乃至1.1mmの範囲内にあることが更に好ましい。パルプモールド成形品MP2を厚くすると、突き刺し強度が大きくなる傾向にある。また、パルプモールド成形品MP2を厚くすると、その曲げ剛性が大きくなる傾向にある。厚いパルプモールド成形品MP2は、特に積み重ねた場合に嵩張る。パルプモールド成形品MP2の壁部を薄くすると、肉眼で鮮明に視認可能な凹凸パターンを形成し易くなる傾向にある。また、パルプモールド成形品MP2の壁部を薄くすることは、その製造時の乾燥を短時間で完了可能とするうえで有利である。
【0028】
ここで、パルプモールド成形品MP2の厚さは、以下の方法によって得られる値である。即ち、パルプモールド成形品MP2の任意の位置から5つの試験片を切り出す。次いで、各試験片について、厚さを測定する。厚さの測定には、例えば、ミツトヨ社製のシックネスゲージを使用する。パルプモールド成形品MP2の厚さは、5つの試験片について得られた測定結果の平均値とする。
【0029】
パルプモールド成形品MP2において、パルプの平均繊維長は、0.7乃至2.0mmの範囲内にあることが好ましい。この平均繊維長は、0.8乃至2.0mmの範囲内にあることがより好ましく、0.8乃至1.9mmの範囲内にあることが更に好ましい。平均繊維長を小さくすると、突き刺し強度が大きくなる傾向にある。平均繊維長を大きくすると、製造時の乾燥をより短時間で完了することが可能となる。但し、平均繊維長を過剰に大きくすると、パルプモールド成形品MP2の強度(即ち、変形や破壊に対する抵抗力)が低下する。
【0030】
ここで、パルプの平均繊維長は、以下の方法によって得られる値である。即ち、先ず、パルプモールド成形品MP2から、5gの試験片を取得する。次に、この試験片を細かく千切り、合計質量が500gとなるように水を添加して一晩浸漬させる。次いで、これを撹拌機で撹拌して、パルプを互いから離解させる。このようにして、パルプを含んだ分散液を得る。次に、この分散液から適量を採取し、更に水で希釈をしてパルプ固形分量が0.05質量%の水分散液を作製する。このようにして得られた試料を使用して、JIS P8226-2:2011「パルプ-光学的自動分析法による繊維長測定方法-第2部:非偏光法」に従って繊維長測定を行う。パルプの平均繊維長は、長さ加重平均繊維長Lを指す。
【0031】
パルプモールド成形品MP2が含んでいるパルプを水に分散させてなるパルプ懸濁液は、カナダ標準ろ水度(CSF)が500mL以上であることが好ましく、530mL以上であることがより好ましい。このカナダ標準ろ水度が小さい場合、パルプモールド成形品MP2の製造時における乾燥に長い時間を要する傾向にある。
【0032】
上記のカナダ標準ろ水度は、700mL以下であることが好ましく、680mL以下であることがより好ましい。このカナダ標準ろ水度が大きい場合、パルプモールド成形品MP2の強度が低い傾向にある。
【0033】
ここで、上記のカナダ標準ろ水度は、以下の方法によって得られる値である。先ず、パルプモールド成形品MP2から試験片を取得し、上記と同様の方法により、パルプを含んだ分散液を得る。次に、この分散液を、固形分濃度が0.3質量%となるように水で希釈して、パルプの水懸濁液を得る。次いで、この懸濁液1Lを使用して、JIS P8121-2:2012「パルプ-ろ水度試験方法-第2部:カナダ標準ろ水度法」に規定された測定を行う。この測定には、例えば、熊谷理機工業社製のカナディアンフリーテスターを使用する。また、測定値は、予め測定しておいた懸濁液の温度を補正表へ参照することにより補正する。このようにして、カナダ標準ろ水度を得る。
【0034】
パルプモールド成形品MP2は、密度が0.5乃至1.1g/cmの範囲内にあることが好ましい。パルプモールド成形品MP2の密度は、0.6乃至1.1g/cmの範囲内にあることがより好ましく、0.6乃至1.0g/cmの範囲内にあることが更に好ましい。密度が高いことは、パルプモールドの稠密性が向上することを意味し、密度を高くすると、突き刺し強度が大きくなる傾向にある。
【0035】
ここで、上記の密度は、以下の方法によって得られる値である。即ち、パルプモールド成形品MP2のうち表面が湾曲していない部分から、正方形又は長方形の試験片を切り出し、寸法、質量、及び厚さを計測する。得られた値から密度を算出する。
【0036】
パルプモールド成形品MP2は、紙力増強剤を更に含むことが好ましい。紙力増強剤を使用すると、パルプモールド成形品MP2の突き刺し強度を高めることができる。なお、紙力増強剤の中でも、ポリアクリルアミドは、パルプモールド成形品MP2の製造において利便性が特によい。紙力増強剤としてのポリアクリルアミドは、荒川化学工業株式会社、星光PMC株式会社、又はハリマ化成グループ株式会社から販売されているものを使用することができる。あるいは、紙力増強剤としてデンプンを使用してもよい。
【0037】
紙力増強剤を使用して製造したパルプモールド成形品MP2は、紙力増強剤を使用せずに製造したパルプモールド成形品MP2と比較して、窒素含有量が多い。紙力増強剤を使用して製造したパルプモールド成形品MP2の窒素含有量は、一例によれば300μg/g以上であり、他の例によれば500μg/g以上である。なお、パルプモールド成形品MP2の窒素含有量に上限値はないが、一例によれば、1000μg/g以下である。
【0038】
パルプモールド成形品MP2の窒素含有量は、以下の方法によって得る。先ず、パルプモールド成形品MP2の任意の位置から2つの試験片を採取する。各試験片の質量は10mgとする。次に、各試験片について、JIS K2609:1998「原油及び石油製品-窒素分析試験法」において規定される化学発光法による測定を行う。この測定には、例えば、日東精工エアナリテック社製のTN-2100Hを使用することができる。窒素含有量は、2つの試験片について得られた測定結果の平均値とする。なお、上述したパルプモールド成形品MP2は、紙力増強剤を省略しても高い突き刺し強度を達成することができる。
【0039】
パルプモールド成形品MP2は、サイズ剤を更に含むことが好ましい。サイズ剤を使用すると、パルプモールド成形品MP2の突き刺し強度を高めることができる。サイズ剤は、例えばアルキルケテンダイマー(AKD)系サイズ剤である。なお、上述したパルプモールド成形品MP2は、サイズ剤を省略しても高い突き刺し強度を達成することができる。
【0040】
<2>エンボス加工済みパルプモールド成形品
上述のパルプモールド成形品MP2の壁部へエンボス加工を施すと、エンボス加工済みパルプモールド成形品を製造することができる。このように、エンボス加工によってパルプモールド成形品の表面へ凹凸パターンを形成する方法では、凹凸パターンによって表示する情報を変更する場合に、エンボス加工に使用する版を変更すればよく、パルプモールド成形品を製造するための金型を変更する必要はない。エンボス版は、パルプモールド成形品を製造するための金型と比較して安価である。それ故、この方法は、例えば、凹凸パターンによって表示する情報を変更する場合であっても低コストである。
【0041】
上記方法によれば、突き刺し強度が40乃至85Nの範囲内にあり、壁部がエンボス加工部を含んだエンボス加工済みパルプモールド成形品が提供される。図2は、本発明の一実施形態に係るエンボス加工済みパルプモールド成形品のエンボス加工部を示す斜視図である。図2に示すエンボス加工部では、文字が凹状に窪んでいる。逆に、エンボス加工部は、文字や絵柄が凸状に盛り上がるように形成されてもよい。
【0042】
上述のとおり、パルプモールド成形品MP2は、突き刺し強度が40乃至85Nの範囲内にある。このようなパルプモールド成形品にエンボス加工を施すと、エンボス加工部に破れを生じることなく、視認性に優れた凹凸パターンを形成することが可能である。
【0043】
パルプモールド成形品MP2は、エンボス加工を施した場合に得られる上述した効果とは、異なる効果も奏し得る。即ち、パルプモールド成形品MP2は、十分に高い突き刺し強度を有しているため、フォークなどのカトラリの先端を強く押し当てた場合であっても、穴開きや破れを生じ難い。また、このパルプモールド成形品は、十分に高い突き刺し強度を有しているため、エンドユーザが、他者が使用するパルプモールド成形品から区別するべく、自身が使用するパルプモールド成形品の壁部へ爪を押し当てて印を付けた場合に、壁部の破れは生じ難く、また、肉眼で鮮明に視認可能な印を設けることができる。このように、パルプモールド成形品には、エンボス加工を施さなくてもよい。
【0044】
<3>パルプモールド成形品の製造装置
次に、パルプモールド成形品MP2の製造に利用可能な製造装置について説明する。図3は、図1のパルプモールド成形品の製造に利用可能な製造装置の一例を概略的に示す図である。
【0045】
図3に示す製造装置1は、支持体10と、第1ステーション20と、第2ステーション30と、第3ステーション40とを含んでいる。
【0046】
支持体10は、枠体と、その上部に設置されたレールとを含んでいる。
【0047】
第1ステーション20は、容器210と、昇降装置220と、カバー体230と、抄型240と、移動装置250と、昇降装置260と、上型270とを含んでいる。
【0048】
容器210は、支持体10の枠体内に設置されている。容器210は、上部で開口している。容器210は、パルプと水とを含んだスラリーSを収容している。
【0049】
昇降装置220は、容器210よりも上方で、支持体10の枠体に取り付けられている。昇降装置220は、例えば、油圧シリンダを含む。昇降装置220は、カバー体230を支持している。昇降装置220は、カバー体230を、容器210の開口部の位置で昇降させ得る。
【0050】
カバー体230は、上部に開口部を有する中空体である。カバー体230には、図示しないポンプが接続されている。
【0051】
抄型240は、カバー体230の開口部に固定されている。具体的には、抄型240は、その一方の面と隣接した空間が、抄型240とカバー体230とによって囲まれるように、カバー体230の開口部に固定されている。
【0052】
抄型240は、液体透過性を有する型である。抄型240は、立体形状を有している。即ち、抄型240は、パルプが堆積する面に、1以上の凸部及び/又は1以上の凹部を有している。具体的には、抄型240の外面、即ち、上記空間と隣接した面の裏面は、パルプモールド成形品に対応した形状を有している。ここでは、抄型240は、上面が突き出た雄型である。
【0053】
抄型240は、例えば、多数の貫通孔が設けられ、外面がパルプモールド成形品に対応した形状を有している抄型本体と、抄型本体の外面上に、この外面に沿うように設けられた網体とを含んでいる。
【0054】
移動装置250は、支持体10のレールに沿って、第1ステーション20と第2ステーション30との間で移動可能である。移動装置250は、動力源として、例えば、モータを含んでいる。移動装置250には、昇降装置260が取り付けられており、これを第1ステーション20と第2ステーション30との間で移送し得る。
【0055】
昇降装置260は、上記の通り、移動装置250に取り付けられている。昇降装置260は、例えば、油圧シリンダを含む。昇降装置260は、上型270を支持している。昇降装置260は、上型270を昇降させ得る。
【0056】
上型270は、抄型240との間に後述するパルプ層を挟み、パルプ層を真空吸着式で保持する保持具である。上型270の下面は、抄型240の上記外面に対応した形状を有している。ここでは、上型270は、下面が凹んだ雌型である。上型270は、例えば、一端が下面で開口し、他端がポンプに接続された多数の貫通孔を有している。
【0057】
第2ステーション30は、第1ステーション20の近傍に設けられている。第2ステーション30は、台310と、下型320と、移動装置330と、プレス装置340と、上型350とを含んでいる。
【0058】
台310は、支持体10の枠体内に設置されている。台310上には、下型320が設置されている。
【0059】
下型320は、気体及び/又は液体透過性を有する型である。下型320は、上面が抄型240の上記外面に対応した形状を有している。ここでは、下型320は、上面が突き出た雄型である。下型320は、例えば、多数の貫通孔を有し、抄型240の上記外面に対応した形状を有している面が滑らかである。
【0060】
移動装置330は、支持体10のレールに沿って、第2ステーション30と図示しない第4ステーションとの間で移動可能である。移動装置330は、動力源として、例えば、モータを含んでいる。移動装置330は、第2ステーション30に位置している場合には、ロック機構により、上下、左右及び前後方向の移動が規制され得る。また、移動装置330には、プレス装置340が取り付けられており、これを第2ステーション30と第4ステーションとの間で移送し得る。
【0061】
プレス装置340は、上記の通り、移動装置330に取り付けられている。プレス装置340は、例えば、油圧シリンダを含む。プレス装置340は、上型350を支持している。プレス装置340は、上型350を昇降させ得る。
【0062】
上型350は、気体透過性及び液体透過性を有していない型である。上型350の下面は、抄型240の上記外面に対応した形状を有している。ここでは、上型350は、下面が凹んだ雌型である。上型350は、抄型240の上記外面に対応した形状を有している面が滑らかである。
【0063】
第2ステーション30は、ヒータ及びポンプを更に含んでいる(何れも図示せず)。ヒータは、下型320及び上型350の両面から加熱する。ポンプは、下型320の下部空間に接続されている。
【0064】
第3ステーション40は、第2ステーション30の近傍に設けられている。第3ステーション40は、台410と、移動装置420と、昇降装置430と、保持具440とを含んでいる。
【0065】
台410は、支持体10の枠体内に設置されている。台410上には、パルプモールド成形品が配置される。
【0066】
移動装置420は、支持体10のレールに沿って、第2ステーション30と第3ステーション40との間で移動可能である。移動装置420は、動力源として、例えば、モータを含んでいる。移動装置420には、昇降装置430が取り付けられており、これを第2ステーション30と第3ステーション40との間で移送し得る。
【0067】
昇降装置430は、上記の通り、移動装置420に取り付けられている。昇降装置430は、例えば、油圧シリンダを含む。昇降装置430は、保持具440を支持している。昇降装置430は、保持具440を昇降させ得る。
【0068】
保持具440は、後述するパルプモールド成形品を真空吸着式で保持する保持具である。保持具440の下面は、抄型240の上記外面に対応した形状を有している。ここでは、保持具440は、下面が凹んだ形状を有している。保持具440は、例えば、一端が下面で開口し、他端がポンプに接続された多数の貫通孔を有している。
【0069】
<4>パルプモールド成形品の製造方法
本発明の一実施形態に係る製造方法では、例えば、上記の製造装置1を用いてパルプモールド成形品MP2を製造する。これについて、図3乃至図11を参照しながら説明する。
【0070】
図4は、図3の装置を用いたパルプモールド成形におけるパルプ層形成工程を示す図である。図5は、抄型上に形成されたパルプ層の一例を概略的に示す断面図である。図6は、図3の装置を用いたパルプモールド成形における脱水工程を示す図である。図7は、図3の装置を用いたパルプモールド成形におけるパルプ層の搬送工程を示す図である。図8は、図3の装置を用いたパルプモールド成形における熱プレス形成工程を示す図である。図9は、熱プレス工程によって得られるパルプモールド成形品の一例を概略的に示す断面図である。図10は、図3の装置を用いたパルプモールド成形におけるパルプモールド成形品の搬送工程を示す図である。図11は、図10の搬送工程を完了した状態を示す図である。
【0071】
この方法では、先ず、スラリーSを準備する。
スラリーSは、パルプと水とを含んでいる。スラリーSは、紙力増強剤を更に含んでいることが好ましい。また、スラリーSは、サイズ剤を更に含んでいることが好ましい。ここでは、一例として、スラリーSは、水と紙力増強剤とサイズ剤とを含んだ溶液にパルプが分散され、高い粘度を有する懸濁液であるとする。
【0072】
スラリーSが含んでいるパルプは、平均繊維長が、パルプモールド成形品MP2が含んでいるパルプについて上述した範囲内にあることが好ましい。スラリーSが含んでいるパルプは、パルプモールド成形品MP2が含んでいるパルプについて上述した他の特徴の1以上を更に有していることが好ましい。より好ましくは、スラリーSが含んでいるパルプは、パルプモールド成形品MP2が含んでいるパルプについて上述したのとほぼ同様の特徴を有している。
【0073】
スラリーSに使用するパルプの種類に、特に制限はない。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、古紙が例示され、木材パルプ、非木材パルプが好ましい。森林保全や未利用資源の活用など環境配慮の視点から、非木材パルプを用いることが好ましい。
【0074】
パルプは、その調製法の違いによって分類され得る。例えば、木材パルプであれば、クラフトパルプ(KP)、サルファイトパルプ(SP)、ソーダパルプ(AP)等の化学パルプ;セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ;砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等が例示される。これらのなかでも、化学パルプを使用することが好ましい。
【0075】
木材パルプは、原料によって分類され得る。木材パルプとしては、針葉樹パルプ及び広葉樹パルプが挙げられる。針葉樹パルプとしては、モミ属、マツ属等から得られるパルプが例示される。また、広葉樹パルプとしては、アカシア属、ユーカリ属、ブナ属、ヤマナラシ属(例えば、ポプラ)等から得られるパルプが例示される。
【0076】
非木材パルプは、植物の皮、茎、葉、葉鞘から採取した繊維から得られる。具体的には、コットンリンター、木綿、リネン、大麻、ラミー、ワラ、エスパルト、マニラ麻、ザイザル麻、黄麻、亜麻、ケナフ、竹、サトウキビ、がんぴ、みつまた、こうぞ、桑から得られるパルプが挙げられる。なかでも、竹、サトウキビのパルプが好ましい。
【0077】
これらのパルプは、単独で又は2種以上を任意の割合で混合して使用することができる。
【0078】
パルプは、その原料や製造方法に応じて、繊維長等が異なっている。例えば、一般に、サトウキビを原料とするパルプは、竹を原料とするパルプと比較して、平均繊維長が短い。また、パルプの平均繊維長は、任意の手法により、例えば、叩解や粉砕などの機械的な処理により調節することができる。
【0079】
従って、或る特徴を有しているパルプは、例えば、複数種のパルプの中から適当なものを選択すること、又は、2種以上のパルプを適宜組み合わせることにより得ることができる。
【0080】
スラリーSのパルプ含有量は、0.01乃至3.0質量%の範囲内にあることが好ましく、0.01乃至0.5質量%の範囲内にあることがより好ましい。パルプモールド成形を開始する直前におけるスラリーSのパルプ含有量が、上記範囲内であることが望ましい。パルプ含有量が小さいと、高い生産性を達成することが難しい。パルプ含有量が大きいと、パルプ層の厚さのばらつきが大きくなる可能性がある。
【0081】
スラリーSが含んでいる紙力増強剤は、例えば、窒素を含有した化合物である。紙力増強剤は、ポリアクリルアミドであることが好ましい。
【0082】
スラリーSの固形分に占める紙力増強剤の割合は、好ましくは0.3乃至3.0質量%の範囲内にあり、より好ましくは0.5乃至2.0質量%の範囲内にあり、更に好ましくは0.7乃至2.0質量%の範囲内にある。
【0083】
スラリーSが含んでいるサイズ剤は、例えば、アルキルケテンダイマー(AKD)系サイズ剤である。
【0084】
スラリーSの固形分に占めるサイズ剤の割合は、好ましくは0.1乃至1.0質量%の範囲内にあり、より好ましくは0.2乃至0.5質量%の範囲内にある。
【0085】
スラリーSは、紙力増強剤及びサイズ剤以外の添加剤を更に含むことができる。添加剤としては、有機系低分子材料、有機系高分子材料、無機系材料、又はそれらの組み合わせを使用することができ、例えば耐水性や耐油性を付与する薬剤などが挙げられるが、パルプモールド容器としての要求性能に応じた薬剤を選定すればよい。パルプと紙力増強剤とサイズ剤と添加剤との合計に占める、紙力増強剤とサイズ剤と添加剤との合計の割合は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。即ち、スラリーSが含む全固形分に占めるパルプの割合は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。
【0086】
次に、スラリーSを容器210内へ供給する。次いで、図4に示すように、昇降装置220によりカバー体230を下降させて、抄型240の上面をスラリーSの液面よりも十分に下方へ位置させる。この状態でポンプを駆動して、カバー体230と抄型240とによって囲まれた空間を減圧する。これにより、抄型240を横切るスラリーSの流れを生じさせ、抄型240上にパルプを堆積させる。以上のようにして、図5に示すように、抄型240上にパルプ層MP1を形成する。
【0087】
次に、ポンプを駆動したまま、図6に示すように、昇降装置220によりカバー体230を上昇させて、抄型240の下部をスラリーSの液面よりも十分に上方へ位置させる。これにより、パルプ層MP1を減圧脱水する。次に、昇降装置260を駆動して、上型270を、その下面がパルプ層MP1に接触するまで下降させる。なお、図6には、パルプ層MP1は描いていない。この脱水工程は、上型270及び抄型240の何れも加熱することなしに行う。
【0088】
脱水工程における減圧時間は、1乃至60秒の範囲内にあることが好ましく、1乃至10秒の範囲内にあることがより好ましい。
【0089】
脱水直後のパルプ層MP1の水分含有量は、40乃至90質量%の範囲内にあることが好ましく、50乃至70質量%の範囲内にあることがより好ましく、50ないし65質量%の範囲内にあることが更に好ましい。水分含有量が小さいと、熱プレス工程において、パルプ層内での面内方向への繊維の移動が不十分となる可能性がある。水分含有量が大きいと、熱プレス工程において、パルプ層内での面内方向への繊維の移動が過剰となるか、又は、脱水工程を終了してから熱プレス工程を開始するまでの期間内において、パルプ層MP1の形状保持性が不十分となる可能性がある。
【0090】
上記空間の減圧及び上記の加圧を停止した後、ポンプを駆動して、上型270にパルプ層MP1を吸着保持させる。なお、ポンプと上型270とによる吸引は、パルプ層MP1の更なる脱水を生じさせるものではない。
【0091】
次いで、上型270にパルプ層MP1を吸着保持させた状態で昇降装置260を駆動して、図3に示すように、上型270を上昇させる。これにより、パルプ層MP1を抄型240から剥離する。
【0092】
次に、移動装置250及び330を駆動して、図7に示すように、プレス装置340及び上型350を第2ステーション30から第4ステーションへ移動させるとともに、昇降装置260及び上型270を第1ステーション20から第2ステーション30へ移動させる。続いて、昇降装置260を駆動して、パルプ層MP1が下型320と接触するまで上型270を下降させる。その後、ポンプと上型270とによる吸引を停止して、上型270からパルプ層MP1を解放する。次いで、昇降装置260を駆動して、上型270を上昇させる。このようにして、パルプ層MP1を第1ステーション20から第2ステーション30へ移送するとともに、パルプ層MP1を下型320上に載置する。
【0093】
次に、移動装置250及び330を駆動して、図3に示すように、昇降装置260及び上型270を第2ステーション30から第1ステーション20へ移動させるとともに、プレス装置340及び上型350を第4ステーションから第2ステーション30へ移動させる。続いて、プレス装置340を駆動して、図8に示すように上型350を下降させる。そして、上型350と下型320とによって、それらの間に挟まれたパルプ層MP1を加圧する。また、これとともに、ヒータを駆動してパルプ層MP1を加熱する。更に、これとともに、ポンプを駆動して、上型350と下型320とによって挟まれた空間から水及び/又は水蒸気を吸引除去する。これにより、パルプ層MP1の表面形状を整えるとともに、パルプ層MP1を緻密化及び乾燥させる。以上のようにして、図9に示すパルプモールド成形品MP2を得る。
【0094】
なお、この熱プレス工程を開始する直前におけるパルプ層MP1の水分含有量は、脱水工程を終了した直後におけるパルプ層MP1の水分含有量とほぼ等しい。
【0095】
この熱プレス工程において、プレス圧は、0.5乃至10.0MPaの範囲内にあることが好ましく、1.0乃至10.0MPaの範囲内にあることがより好ましい。プレス圧が低いと、高い突き刺し強度のパルプモールド成形品MP2が得られない可能性がある。
【0096】
この熱プレス工程において、パルプ層MP1の加熱温度、即ち、ヒータによって加熱する上型350又は下型320の温度は、130乃至200℃の範囲内にあることが好ましく、150乃至185℃の範囲内にあることがより好ましい。パルプ層MP1は、繊維長が短いパルプを多く含んでいるため、水蒸気が外部へ逃げ難い。それ故、加熱温度が低いと、パルプ層MP1の乾燥に長い時間を要する。加熱温度を高くすると、乾燥に伴うパルプ層MP1の収縮がより大きくなり、その結果、パルプモールド成形品MP2における歪がより大きくなる可能性がある。
【0097】
熱プレス工程におけるプレス時間は、加熱温度や成形品の形状等にもよるが、10乃至140秒の範囲内にあることが好ましく、20乃至140秒の範囲内にあることがより好ましい。
【0098】
上記の熱プレス工程を終了するに当たり、上型350が上昇するようにプレス装置340を駆動すると、パルプモールド成形品MP2は上型350から剥離する。
【0099】
次に、移動装置330及び420を駆動して、図10に示すように、プレス装置340及び上型350を第2ステーション30から第4ステーションへ移動させるとともに、昇降装置430及び保持具440を第3ステーション40から第2ステーション30へ移動させる。続いて、昇降装置430を駆動して、保持具440がパルプモールド成形品MP2と接触するまで保持具440を下降させる。下型内部からエアーを噴出させてパルプモールド成形品MP2を下型から離型させ、その後、ポンプを駆動して、保持具440にパルプモールド成形品MP2を吸着保持させる。
【0100】
次いで、保持具440にパルプモールド成形品MP2を吸着保持させた状態で昇降装置430を駆動して、保持具440を上昇させる。続いて、移動装置330及び420を駆動して、図11に示すように、昇降装置430及び保持具440を第2ステーション30から第3ステーション40へ移動させるとともに、プレス装置340及び上型350を第4ステーションから第2ステーション30へ移動させる。続いて、ポンプと保持具440とによる吸引を停止して、保持具440からパルプモールド成形品MP2を解放する。このようにして、パルプモールド成形品MP2を第2ステーション30から第3ステーション40へ移送するとともに、パルプモールド成形品MP2を台410上に載置する。
以上のようにして、パルプモールド成形品MP2を製造する。
【0101】
その後、必要に応じて、パルプモールド成形品MP2に対して、後処理、例えば、エンボス加工、絵柄印刷及び無地印刷等の印刷、コーティング、又はそれらの組み合わせを行う。後処理によって形成するコーティング層は、例えば、耐水性や耐油性を付与する薬剤を含んだ層、断熱性を付与する材料が充填された層、発泡剤によって発泡させた層、又はそれらの組み合わせである。後処理を行うことにより、例えば、パルプモールド成形品MP2の美粧性を更に高めることや、パルプモールド成形品MP2に新たな機能を付与することができる。
【0102】
上記の方法によると、乾燥を短時間で完了できるのに加え、高い突き刺し強度を有しているパルプモールド成形品MP2を製造できる。
【0103】
また、上記の方法により得られるパルプモールド成形品MP2は、表面性状に優れている。この理由について、以下に説明する。
【0104】
熱プレス工程の代わりに、オーブンを使用した乾燥を行った場合、パルプ層には、その収縮によって、表面に高低差が大きな凹凸を生じる。また、このような方法では、パルプ層は十分に緻密化されず、それ故、パルプモールド成形品は高い多孔度を有する。従って、この場合、表面性状に優れたパルプモールド成形品を製造することはできない。
【0105】
また、脱水工程後に、オーブンを使用した乾燥を行い、この乾燥品を必要に応じて加湿して、これを熱プレス処理に供した場合、乾燥に伴って表面に生じた凹凸の高低差は、その後の加湿及び熱プレス処理によって小さくすることができる。また、加湿及び熱プレス処理によって、多孔度を小さくすることができる。しかしながら、オーブンを使用した乾燥に伴って表面に生じる凹凸の高低差は非常に大きいため、その後の加湿及び熱プレス処理によって十分に小さくすることはできない。また、乾燥後に加湿及び熱プレス処理を行っても、多孔度を十分に低下させることが難しい。
【0106】
図3乃至図11を参照しながら説明した方法では、熱プレス工程において、パルプ層MP1を乾燥させる。即ち、上記の方法では、脱水工程後に、乾燥工程を経ることなしに、熱プレス工程を実施する。
【0107】
熱プレス工程前に乾燥工程を行わないので、パルプ層MP1の表面に、高低差が大きな凹凸を生じることはない。熱プレス工程では、乾燥に伴うパルプ層MP1の変形を、上型350及び下型320が防止する。また、熱プレス工程は、水分含有量が高いパルプ層MP1に対して行うので、パルプ層MP1内での面内方向への繊維の移動が適度に生じ得る。厚さのばらつきを生じることなしに、パルプ層MP1を緻密化することができる。
【0108】
従って、図3乃至図11を参照しながら説明した方法によると、表面性状に優れたパルプモールド成形品MP2を製造することができる。具体的には、算術平均粗さRa、最大高さ粗さRz、及び粗さ曲線要素の平均長さRSmの1以上が小さな領域を表面に有するパルプモールド成形品MP2が得られる。そのようなパルプモールド成形品MP2は、美粧性に優れるとともに、エンボス加工を施した際に凹凸パターンの視認性に優れる。また、そのようなパルプモールド成形品MP2は、印刷層やコーティング層の形成が容易である。
【0109】
算術平均粗さRaは、2乃至10μmの範囲内にあることが好ましく、3乃至4.5μmの範囲内にあることがより好ましい。最大高さ粗さRzは、10乃至60μmの範囲内にあることが好ましく、20乃至35μmの範囲内にあることがより好ましい。粗さ曲線要素の平均長さRSmは、90乃至300μmの範囲内にあることが好ましく、90乃至150μmの範囲内にあることがより好ましく、90乃至130μmの範囲内にあることが更に好ましい。
【0110】
ここで、「算術平均粗さRa」、「最大高さ粗さRz」及び「粗さ曲線要素の平均長さRSm」は、JIS B0601:2001で規定される表面性状パラメータである。表面性状パラメータの測定には、例えば、ミツトヨ社製の表面粗さ測定機SJ-210(先端半径2μm、測定力0.75mN)を用い、以下の条件で測定する。
フィルタ:Gasussian
カットオフλc:0.25mm
カットオフλs:8μm
測定速度:0.25mm/s
区間数:5
パルプモールド成形品MP2から板状片を採取し、任意の5箇所で測定を行い、平均値を算出する。
【0111】
パルプモールド成形品MP2は、表面の全体が上記の表面性状を有していてもよく、表面の一部の領域のみが上記の表面性状を有していてもよい。例えば、エンボス加工や印刷等の後処理を行う部分を含む領域のみが上記の表面性状を有し、他の領域は上記の表面性状を有していなくてもよい。或いは、パルプモールド成形品MP2の一方の面が上記の表面性状を有し、その裏面は上記の表面性状を有していなくてもよい。そのような構造は、例えば、上型350及び下型320のパルプ層MP1と接する面の一部の領域と他の領域とで表面性状を異ならしめることにより実現することができる。
【0112】
また、図3乃至図11を参照しながら説明した方法によると、坪量の標準偏差が小さなパルプモールド成形品MP2を製造することができる。パルプモールド成形品MP2の坪量の標準偏差は、好ましくは30g/m以下であり、より好ましくは15g/m以下である。この標準偏差の下限値は、ゼロであり、一例によれば2g/mである。
【0113】
ここで、パルプモールド成形品MP2の坪量の標準偏差は、以下の方法によって得られる値である。
【0114】
先ず、パルプモールド成形品MP2のうち、或る面内に位置した複数の領域から、幅が15mmであり、長さが40mmの短冊形状を各々が有している9つの試験片を切り出す。次に、これら試験片の質量を測定する。その後、各々の試験片について、その質量と面積(600mm)とから坪量を算出する。このようにして得られた坪量から、その標準偏差を算出する。
【0115】
次に、パルプモールド成形品MP2のうち、別の面内に位置した複数の領域から、上記と同様に、9つの試験片を切り出す。これら試験片についても、質量の測定並びに坪量及びその標準偏差の算出を行う。
【0116】
パルプモールド成形品MP2が更に別の面を有している場合には、残りの面の各々についても、上記と同様に、試験片の切り出し、質量の測定並びに坪量及びその標準偏差の算出を行う。
そして、これら標準偏差の最大値を、パルプモールド成形品MP2の坪量の標準偏差とする。
【0117】
本発明者らは、図3乃至図11を参照しながら説明した方法(以下、第1方法と呼ぶ)によると、坪量の標準偏差が小さなパルプモールド成形品MP2を製造することができるのは、以下の理由によると考えている。
【0118】
パルプモールド成形品は、例えば、以下に記載する方法(以下、第2方法と呼ぶ)で製造することもできる。
【0119】
第2方法では、先ず、抄型として、雌型を準備する。この抄型は、多数の貫通孔が設けられ、上面がパルプモールド成形品に対応した形状に凹んだ抄型本体と、抄型本体の内面上に、この内面に沿うように設けられた網体とを含んでいる。
【0120】
次に、この抄型を、その開口部が上方を向くように設置する。次いで、抄型のキャビティ内へパルプと水とを含んだスラリーを供給して、抄型内をスラリーで満たす。更に、抄型内へのスラリーの供給を継続して、網体上にパルプを堆積させる。抄型内へのスラリーの供給は、抄型内のスラリーが加圧状態になるように行う。
【0121】
十分な量のパルプが網体上に堆積した後、抄型内へのスラリーの供給を停止する。続いて、抄型内に残留している水を抄型から排出させる。例えば、抄型内へ空気を圧入して、抄型内に残留している水を抄型から排出させる。
【0122】
次に、抄型と雄型である上型とでパルプ層を押圧して、パルプ層を脱水する。この脱水工程は、上型及び抄型の何れも加熱することなしに行う。脱水直後におけるパルプ層の水分含有量は、第1方法における脱水直後におけるパルプ層MP1の水分含有量と同様とする。
【0123】
次いで、上型にパルプ層を吸着保持させ、この状態で上型を上昇させる。これにより、パルプ層を抄型から剥離する。
【0124】
次に、パルプ層を吸着保持している上型を、雌型である下型の位置まで移動させる。続いて、パルプ層が下型と接触するまで上型を下降させる。その後、吸引を停止して、上型からパルプ層を解放する。このようにして、パルプ層を下型上に載置する。
【0125】
次に、熱プレス用の上型と下型との間にパルプ層を挟み、それらの間のパルプ層を加圧する。また、これとともに、ヒータを駆動してパルプ層を加熱する。更に、これとともに、ポンプを駆動して、上型と下型とによって挟まれた空間から水及び/又は水蒸気を吸引除去する。第2方法では、以上のようにして、パルプモールド成形品を得る。
【0126】
第2方法では、抄型内へのスラリーの供給を開始してから抄型内がスラリーで完全に満たされるまでの期間においては、抄型内を循環するスラリーの流れを生じ得る。この循環流は、パルプの沈降を防止し得る。しかしながら、第2方法では、抄型内をスラリーで満たす必要があるため、抄型には、水が速やかに排出される構造を採用することができない。それ故、抄型内がスラリーで完全に満たされた後は、スラリーの圧力を高めても、パルプの沈降を防止できるほどのスラリーの循環流は生じず、抄型内のスラリーにおいてパルプの沈降を生じる。
【0127】
その結果、抄型の側壁部に堆積するパルプの量は、上方と比較して、下方においてより多くなる。そして、抄型の側壁部の上方に十分な量のパルプが堆積するまでスラリーを供給すると、抄型の底部には過剰な量のパルプが堆積することになる。パルプを過剰に堆積させると、パルプの堆積量のばらつきが大きくなる。例えば、抄型本体に設けられた貫通孔の近傍とそれらから離れた位置とで、パルプの堆積量に大きな相違を生じ得る。
【0128】
このように、第2方法では、パルプの堆積量に大きなばらつきを生じる。熱プレス処理の際には、パルプ層内で繊維が面内方向へ移動し得るが、各繊維の移動は狭い範囲に限られる。即ち、パルプ堆積量のばらつきは、熱プレス処理の際の繊維の移動によって解消されるものではない。それ故、第2方法によると、坪量の標準偏差が小さなパルプモールド成形品を製造することはできない。
【0129】
これに対し、第1方法では、カバー体230の上部に抄型240を設置し、これらの複合体をスラリーS中に浸漬させる。スラリーSの深さは、抄型240の高さと比較して遥かに大きい。それ故、スラリーSにおいてパルプの沈降を生じても、抄型240の上部の位置と抄型240の下部の位置とで、パルプ濃度は大きくは相違しない。従って、第1方法によると、抄型240上にパルプを略均一に堆積させることができ、坪量の標準偏差が小さなパルプモールド成形品MP2を製造することができる。
【0130】
パルプモールド成形品MP2は、開口部を有し、この開口部から離れる方向へ拡径していない。ここでは、パルプモールド成形品MP2は、開口部を有し、この開口部から離れる方向へ先細りしている。このような形状によると、複数のパルプモールド成形品MP2を重ねてなる積層物の体積を小さくすることができる。
【0131】
なお、第1方法において、パルプ層MP1を上型350及び下型320によって加圧する代わりに、上型350及び下型320の一方と弾性体との間にパルプ層MP1を挟んで、これを加圧した場合、弾性体の変形を生じる。それ故、パルプ層MP1に十分な圧力が加わらず、表面性状に優れたパルプモールド成形品を得ることができない。
【0132】
第2方法においても、熱プレス処理に使用する上型及び下型の一方を弾性体とすると、表面性状に優れたパルプモールド成形品を得ることはできない。また、この場合、上記の通り、坪量の標準偏差が大きくなる。
【0133】
パルプモールド成形品MP2は、例えば、容器である。パルプモールド成形品MP2は、容器以外の物品であってもよい。パルプモールド成形品MP2は、立体成形品、即ち、シートのように二次元形状を有するものではなく、三次元形状を有する成形品であればよい。
【0134】
なお、図3乃至図11は、本発明の一実施形態に係るパルプモールド成形品の製造方法の理解を容易にするためのものである。上述した方法は、他の構造を有する製造装置を使用して実施することも可能である。例えば、製造装置1では、上型270及び上型350は雌型であり、抄型240及び下型320は雄型である。上型270及び上型350は雄型であり、抄型240及び下型320は雌型であってもよい。このように、上記の製造装置1及び製造方法には、様々な変形が可能である。
【実施例0135】
以下に、本発明の具体例を記載する。本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
【0136】
<1>パルプモールド成形品の製造
(例1)
パルパーを用いて、パルプと水とサイズ剤とからなるスラリーを調製した。スラリーのパルプ含有量は1.0質量%とした。パルプとしては、竹パルプを使用した。サイズ剤としては、荒川化学工業社製のアルキルケテンダイマー(AKD)系サイズ剤(商品名:サイズパイン(登録商標)K-903-20)を使用した。スラリーの固形分に占めるサイズ剤の固形分の割合は、0.3質量%とした。
【0137】
このスラリーを使用して、図3乃至図11を参照しながら説明した方法により、パルプモールド成形品を製造した。ここでは、脱水工程は、脱水直後のパルプ層の水分含有量が69.5質量%となるように行った。熱プレス工程は、加熱温度を180℃、プレス圧を3.0MPa、プレス時間を120秒として行った。脱水工程及び熱プレス工程では、壁部の厚さが1.0mmのパルプモールド成形品が得られるように、上型と下型とのクリアランスを1.0mmとした。
以上のようにして、パルプモールド成形品として容器を製造した。
【0138】
(例2)
パルプとして、80質量部の竹パルプと20質量部のサトウキビパルプとの混合物を使用したこと以外は、例1と同様の方法によりパルプモールド成形品を製造した。
【0139】
(例3)
パルプとして、70質量部の竹パルプと30質量部のサトウキビパルプとの混合物を使用し、壁部の厚さが1.1mmのパルプモールド成形品が得られるように上型と下型とのクリアランスを1.1mmとしたこと以外は、例1と同様の方法によりパルプモールド成形品を製造した。
【0140】
(例4)
パルプとして、70質量部の竹パルプと30質量部のサトウキビパルプとの混合物を使用し、壁部の厚さが1.2mmのパルプモールド成形品が得られるように上型と下型とのクリアランスを1.2mmとしたこと以外は、例1と同様の方法によりパルプモールド成形品を製造した。
【0141】
(例5)
パルプとして、70質量部の竹パルプと30質量部のサトウキビパルプとの混合物を使用し、壁部の厚さが0.74mmのパルプモールド成形品が得られるように上型と下型とのクリアランスを0.74mmとしたこと以外は、例1と同様の方法によりパルプモールド成形品を製造した。
【0142】
(例6)
パルプとして、70質量部の竹パルプと30質量部のサトウキビパルプとの混合物を使用し、壁部の厚さが0.70mmのパルプモールド成形品が得られるように上型と下型とのクリアランスを0.70mmとし、プレス圧を10MPaとしたこと以外は、例1と同様の方法によりパルプモールド成形品を製造した。
【0143】
(例7)
パルプとして、60質量部の竹パルプと40質量部のサトウキビパルプとの混合物を使用し、壁部の厚さが1.01mmのパルプモールド成形品が得られるように上型と下型とのクリアランスを1.01mmとしたこと以外は、例1と同様の方法によりパルプモールド成形品を製造した。
【0144】
(例8)
パルプとして、50質量部の竹パルプと50質量部のサトウキビパルプとの混合物を使用したこと以外は、例1と同様の方法によりパルプモールド成形品を製造した。
【0145】
(例9)
パルプとして、40質量部の竹パルプと60質量部のサトウキビパルプとの混合物を使用したこと以外は、例1と同様の方法によりパルプモールド成形品を製造した。
【0146】
(例10)
パルプとして、20質量部の竹パルプと80質量部のサトウキビパルプとの混合物を使用したこと以外は、例1と同様の方法によりパルプモールド成形品を製造した。
【0147】
(例11)
パルプとして、サトウキビパルプを使用したこと以外は、例1と同様の方法によりパルプモールド成形品を製造した。
【0148】
(例12)
スラリーとして、パルプと水とサイズ剤と紙力増強剤とからなるスラリーを使用し、壁部の厚さが0.72mmのパルプモールド成形品が得られるように上型と下型とのクリアランスを0.72mmとし、プレス時間を140秒としたこと以外は、例1と同様の方法によりパルプモールド成形品を製造した。紙力増強剤としては、荒川化学工業社製のポリストロン(登録商標)1280(ポリアクリルアミド)を使用した。スラリーの固形分に占める紙力増強剤の固形分の割合は、1.0質量%とした。
【0149】
(例13)
スラリーとして、パルプと水とサイズ剤と紙力増強剤とからなるスラリーを使用し、壁部の厚さが0.70mmのパルプモールド成形品が得られるように上型と下型とのクリアランスを0.70mmとし、プレス時間を140秒としたこと以外は、例1と同様の方法によりパルプモールド成形品を製造した。例13では、パルプとして、80質量部の竹パルプと20質量部のサトウキビパルプとの混合物を使用した。紙力増強剤としては、荒川化学工業社製のポリストロン(登録商標)1280(ポリアクリルアミド)を使用した。スラリーの固形分に占める紙力増強剤の固形分の割合は、1.0質量%とした。
【0150】
(例14)
スラリーとして、パルプと水とサイズ剤と紙力増強剤とからなるスラリーを使用し、壁部の厚さが0.70mmのパルプモールド成形品が得られるように上型と下型とのクリアランスを0.70mmとし、プレス時間を140秒としたこと以外は、例1と同様の方法によりパルプモールド成形品を製造した。例14では、パルプとして、70質量部の竹パルプと30質量部のサトウキビパルプとの混合物を使用した。紙力増強剤としては、荒川化学工業社製のポリストロン(登録商標)1280(ポリアクリルアミド)を使用した。スラリーの固形分に占める紙力増強剤の固形分の割合は、1.0質量%とした。
【0151】
(例15)
紙力増強剤として、星光PMC株式会社製のDS4424(ポリアクリルアミド)を使用したこと以外は、例14と同様の方法によりパルプモールド成形品を製造した。例15では、スラリーの固形分に占める紙力増強剤の固形分の割合は、例14と同様、1.0質量%とした。
【0152】
(例16)
紙力増強剤として、星光PMC株式会社製のDS4424(ポリアクリルアミド)を使用したことと、スラリーの固形分に占める紙力増強剤の固形分の割合を2.0質量%としたこと以外は、例14と同様の方法によりパルプモールド成形品を製造した。
【0153】
(例17)
パルプとして、50質量部の竹パルプと50質量部のサトウキビパルプとの混合物を使用し、壁部の厚さが0.72mmのパルプモールド成形品が得られるように上型と下型とのクリアランスを0.72mmとし、プレス圧を10MPa、プレス時間を140秒としたこと以外は、例1と同様の方法によりパルプモールド成形品を製造した。
【0154】
(比較例1)
パルプとして、サトウキビパルプを使用し、プレス圧を30MPa、プレス時間を300秒としたこと以外は、例1と同様の方法によりパルプモールド成形品を製造した。
【0155】
(比較例2)
パルプとして、50質量部の竹パルプと50質量部のサトウキビパルプとの混合物を使用し、熱プレス工程の代わりに、オーブンを使用して180℃で140秒間の加熱乾燥を行ったこと以外は、例1と同様の方法によりパルプモールド成形品を製造した。
【0156】
<2>評価
例1乃至17、比較例1及び2において製造したパルプモールド成形品の各々について、上述した方法により各種測定(即ち、パルプの平均繊維長、カナダ標準ろ水度、密度、厚さ、及び突き刺し強度の測定)を行った。
【0157】
また、例1乃至17、比較例1及び2において製造したパルプモールド成形品の各々にエンボス加工を施して、エンボス加工済みパルプモールド成形品を製造した。エンボス加工は、凹凸パターンを備えたエンボスロールを、パルプモールド成形品に加熱及び加圧下でプレスすることにより行った(ホットスタンプ法)。
【0158】
エンボス加工により破れが発生したか否かを目視で確認した。また、エンボス加工により形成された凹凸パターンの賦形性を目視で確認した。
【0159】
評価基準は以下のとおりとした。
(破れの発生)
1 肉眼による観察でエンボス加工部の多くの箇所に破れを確認できる。
2 肉眼による観察でエンボス加工部の一部に破れを確認できる。
3 肉眼による観察でエンボス加工部に破れを確認できず、実使用上の問題がない。
4 スケールルーペによる観察でエンボス加工部に破れを全く確認できない。
(賦形性)
1 肉眼による観察では凹凸パターンを殆ど確認できない。
2 肉眼による観察で凹凸パターンをかろうじて確認できる。
3 肉眼による観察で凹凸パターンを確認できるが、部分的に不鮮明である。
4 肉眼による観察で凹凸パターンの全体を鮮明に確認できる。
【0160】
測定及び評価の結果を以下の表1乃至3に示す。
【0161】
【表1】
【0162】
【表2】
【0163】
【表3】
【0164】
例1乃至17では、突き刺し強度が40乃至85Nの範囲内にあるパルプモールド成形品を製造することができた。このようなパルプモールド成形品にエンボス加工を施すと、エンボス加工部に破れを生じることなく、肉眼で視認可能な凹凸パターンを形成することができた。
【0165】
一方、比較例1のパルプモールド成形品は、突き刺し強度が過剰に大きかった。このようなパルプモールド成形品にエンボス加工を施すと、エンボス加工部に破れは生じなかったが、肉眼で視認可能な凹凸パターンを形成することができなかった。また、比較例2のパルプモールド成形品は、突き刺し強度が過剰に小さかった。このようなパルプモールド成形品にエンボス加工を施すと、肉眼で視認可能な凹凸パターンを形成することはできたが、エンボス加工部の多くの箇所に破れを生じた。
【符号の説明】
【0166】
1…製造装置、10…支持体、20…第1ステーション、30…第2ステーション、40…第3ステーション、210…容器、220…昇降装置、230…カバー体、240…抄型、250…移動装置、260…昇降装置、270…上型、310…台、320…下型、330…移動装置、340…プレス装置、350…上型、410…台、420…移動装置、430…昇降装置、440…保持具、MP1…パルプ層、MP2…パルプモールド成形品、S…スラリー。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図9
図10
図11