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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038858
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】基板加工制御装置及びシステム
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240313BHJP
   C30B 33/04 20060101ALI20240313BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20240313BHJP
【FI】
H01L21/304 611Z
C30B33/04
B23K26/53
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143183
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】池野 順一
(72)【発明者】
【氏名】山田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】松尾 利香
【テーマコード(参考)】
4E168
4G077
5F057
【Fターム(参考)】
4E168AE01
4E168CB07
4E168CB15
4E168DA43
4E168EA11
4E168EA25
4E168HA01
4E168JA12
4E168JA13
4G077AA02
4G077BE15
4G077FH08
4G077HA12
5F057AA31
5F057BA01
5F057BB03
5F057BB09
5F057CA02
5F057DA22
5F057DA31
5F057GA16
5F057GA27
(57)【要約】
【課題】結晶基板及び加工条件に応じた適切な加工方法で結晶基板を加工する。
【解決手段】基板加工制御装置10は、教師データを学習して基板加工モデルを生成し、結晶基板200に関するパラメータ及び加工条件に関するパラメータを含む説明変数が入力され、光学系120に関するパラメータ及びステージ112の駆動に関するパラメータを含む目的変数を出力する基板加工学習部31を有する基板加工機械学習部11と、目的変数に基づいて光学系120及び基板支持装置110を含む基板加工装置100を制御する制御部12とを含んでいる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステージに載置した結晶基板の主表面に向けてレーザ光を照射し、主表面から所定深さにレーザ光を集光して剥離可能な改質層を形成するように基板加工装置を制御する基板加工制御装置であって、
加工する結晶基板に関するパラメータ及び前記結晶基板の加工条件に関するパラメータを含む説明変数が入力され、前記説明変数に応じて前記結晶基板にレーザ光を照射する光学系に関するパラメータ及び前記ステージの駆動に関するパラメータを含む目的変数を出力する機械学習部と、
前記機械学習部から出力された目的変数に基づいて前記基板加工装置を制御する制御部と
を含む基板加工制御装置。
【請求項2】
前記機械学習部は、
前記説明変数及び対応する前記目的変数の対で構成される教師データについて、複数の教師データを学習して基板加工モデルを生成する基板加工モデル生成部と、
前記基板加工モデル生成部で生成した基板加工モデルを保存する基板加工モデル保存部と、
前記基板加工モデル保存部に保存した基板加工モデルを適用して、前記説明変数から前記目的変数を推論する基板加工モデル適用部と
を含み、
前記入力された説明変数は前記基板加工モデル適用部において処理され、前記基板加工モデル適用部で推論された目的変数が出力される請求項1に記載の基板加工制御装置。
【請求項3】
前記基板加工モデル生成部及び前記基板加工モデル保存部は、前記教師データを学習して基板加工モデルを生成し、前記生成された基板加工モデルを保存する基板加工学習部を構成する請求項2に記載の基板加工制御装置。
【請求項4】
前記基板加工モデル適用部及び前記基板加工モデル保存部は、前記生成された基板加工モデルを保存し、前記基板加工モデルを適用して前記入力された説明変数から前記目的変数を推論する基板加工推論部を構成する請求項2に記載の基板加工制御装置。
【請求項5】
前記説明変数は、前記結晶基板に関するパラメータとして、結晶材料、結晶構造、結晶の種類、面方位、オフ角、劈開面、すべり面、バーガース・ベクトル及び転位面の少なくとも1つを含む請求項1に記載の基板加工制御装置。
【請求項6】
前記説明変数は、前記結晶基板に関するパラメータとして、透過率の波長依存性、結晶欠陥の座標及び表面異物の座標の少なくとも1つをさらに含む請求項5に記載の基板加工制御装置。
【請求項7】
前記説明変数は、加工条件に関するパラメータとして、前記結晶基板をスライスする厚さ、前記結晶基板の表面から前記改質層までの深さ、前記改質層の厚さの少なくとも1つを含む請求項1に記載の基板加工制御装置。
【請求項8】
前記目的変数は、光学系に関するパラメータとして、レーザ光の波長、パルス幅、輝度及び繰り返し周波数の少なくとも1つを含む請求項1に記載の基板加工制御装置。
【請求項9】
前記目的変数は、前記ステージの駆動に関するパラメータとして、走査方向及び走査速度の少なくとも1つを含む請求項1に記載の基板加工制御装置。
【請求項10】
前記説明変数を入力することができるコンソールをさらに含む請求項1に記載の基板加工制御装置。
【請求項11】
前記結晶基板のパラメータを検出するセンサをさらに含む請求項1に記載の基板加工制御装置。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の基板加工制御装置と、
前記基板加工装置であって、
前記結晶基板を載置するステージ及び前記ステージを駆動するステージ駆動装置を含む基板支持装置と、
前記基板支持装置のステージに載置された結晶基板の主表面に向かってレーザ光を照射する光学系と
を含む基板加工装置とを含み、
前記基板加工装置は、前記基板加工制御装置によって制御される基板加工システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基板加工装置を制御する基板加工制御装置及びシステムであって、詳しくは、基板の内部にレーザ光を集光して剥離可能な改質層を形成するように人工知能を用いて基板加工装置を制御する基板加工制御装置及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体基板の材料として各種の単結晶が使用されている。これらの単結晶の内でシリコン(Si)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、リン化ガリウム(GaP)、ダイヤモンド(C)などは難削材と呼ばれ、従来の機械加工ではインゴットやブロックなどのバルクから基板として切り出すことが困難であった。このため、機械加工に代わる加工方法としてレーザ光を基板の主表面に向けて照射して、主表面から所定深さに集光して加工痕を形成することによって、剥離可能な改質層を形成する加工技術が研究されている。
【0003】
また、シリコンや酸化マグネシウム(MgO)の単結晶基板上にダイヤモンド結晶を、シリコン、炭化ケイ素、サファイア(Al)などの基板上に窒化ガリウムを、それぞれヘテロエピキャシタル成長させるためのベースとしてダイヤモンド基板や窒化ガリウム基板が利用されている。これらのベース基板の再利用や成長基板を薄いウエーハに加工する方法として上記のレーザ光による加工技術が研究されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-183801号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】山田洋平、外2名、「単結晶シリコンの精密レーザスライシング技術」、精密工学会誌、公益社団法人 精密工学会、2019年、第85巻、第5号、p.419-425
【非特許文献2】藤田泰次郎、外5名、「ダイヤモンドのレーザスライシング (100)面の剥離の試み」、2021年度砥粒加工学会学術講演会 講演論文集、公益社団法人 砥粒加工学会、p.29-30
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の単結晶材料はその固体構造や化学結合の種類が様々であり、その特性が異なるためレーザ光による加工技術によって剥離可能な改質層を形成するためには、加工する単結晶基板の材質、結晶構造、結合形態、結晶面方位、結晶成長のオフ角その他のパラメータを確認し、さらにレーザ光の特性、基板内部へのレーザ光の集光、レーザ光走査方法、形成する改質層の深さや厚さなどの加工条件も考慮して、加工する基板に適する加工方法を個別に検討する必要があった。
【0007】
この発明は、上述の実情に鑑みて提案されるものであって、加工する結晶基板及び加工条件に応じた適切な加工方法で結晶基板を加工するように基板加工装置を制御する基板加工制御装置及びシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するために、この出願に係る基板加工制御装置は、ステージに載置した結晶基板の主表面に向けてレーザ光を照射し、主表面から所定深さにレーザ光を集光して剥離可能な改質層を形成するように基板加工装置を制御する基板加工制御装置であって、加工する結晶基板に関するパラメータ及び結晶基板の加工条件に関するパラメータを含む説明変数が入力され、説明変数に応じて結晶基板にレーザ光を照射する光学系に関するパラメータ及びステージの駆動に関するパラメータを含む目的変数を出力する機械学習部と、機械学習部から出力された目的変数に基づいて基板加工装置を制御する制御部とを含んでいる。
【0009】
機械学習部は、説明変数及び対応する目的変数の対で構成される教師データについて、複数の教師データを学習して基板加工モデルを生成する基板加工モデル生成部と、基板加工モデル生成部で生成した基板加工モデルを保存する基板加工モデル保存部と、基板加工モデル保存部に保存した基板加工モデルを適用して、説明変数から目的変数を推論する基板加工モデル適用部とを含み、入力された説明変数は基板加工モデル適用部において処理され、基板加工モデル適用部で推論された目的変数が出力されてもよい。
【0010】
基板加工モデル生成部及び基板加工モデル保存部は、教師データを学習して基板加工モデルを生成し、生成された基板加工モデルを保存する基板加工学習部を構成してもよい。基板加工モデル適用部及び基板加工モデル保存部は、生成された基板加工モデルを保存し、基板加工モデルを適用して入力された説明変数から目的変数を推論する基板加工推論部を構成してもよい。
【0011】
説明変数は、結晶基板に関するパラメータとして、結晶材料、結晶構造、結晶の種類、面方位、オフ角、劈開面、すべり面、バーガース・ベクトル及び転位面の少なくとも1つを含んでもよい。説明変数は、結晶基板に関するパラメータとして、透過率の波長依存性、結晶欠陥の座標及び表面異物の座標の少なくとも1つをさらに含んでもよい。説明変数は、加工条件に関するパラメータとして、結晶基板をスライスする厚さ、結晶基板の表面から改質層までの深さ、改質層の厚さの少なくとも1つを含んでもよい。
【0012】
目的変数は、光学系に関するパラメータとして、レーザ光の波長、パルス幅、輝度及び繰り返し周波数の少なくとも1つを含んでもよい。目的変数は、ステージの駆動に関するパラメータとして、走査方向及び走査速度の少なくとも1つを含んでもよい。
【0013】
説明変数を入力することができるコンソールをさらに含んでもよい。結晶基板のパラメータを検出するセンサをさらに含んでもよい。
【0014】
この出願に係る基板加工システムは、前記基板加工制御装置と、前記基板加工装置であって、結晶基板を載置するステージ及びステージを駆動するステージ駆動装置を含む基板支持装置と、基板支持装置のステージに載置された結晶基板の主表面に向かってレーザ光を照射する光学系とを含む基板加工装置とを含み、基板加工装置は、前記基板加工制御装置によって制御されている。
【発明の効果】
【0015】
この発明によると、教師あり機械学習による人工知能を用いて、加工する結晶基板及び加工方法に応じて結晶基板を適切に加工するように制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】基板加工制御システムの概略的な構成を示す斜視図である。
図2】基板加工制御システムの概略的な構成を示すブロック図である。
図3】基板加工機械学習部の概略的な構成を示すブロック図である。
図4】基板加工モデルの構成を示す図である。
図5】基板加工機械学習部の動作を説明する図である。
図6】閃亜鉛鉱型構造の結晶構造を示す斜視図である。
図7】ダイヤモンド型構造の結晶構造を示す斜視図である
図8】ウルツ鉱型構造の結晶構造を示す斜視図である。
図9】六方晶の窒化ガリウムの結晶構造を示す斜視図である。
図10】結晶基板を構成する正四面体の基本構造とレーザ走査方向との関係を説明する模式図である。
図11】結晶基板に対するレーザ光の走査方向を示す模式図である。
図12】主表面と劈開面の面方位が同じである結晶基板への加工痕の形成を説明する図である。
図13】主表面と劈開面の面方位が異なる結晶基板への加工痕の形成を説明する図である。
図14】主表面と劈開面の面方位が異なる結晶基板への加工痕の形成を説明する図である。
図15】岩塩型結晶の結晶構造を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、基板加工制御装置及びシステムの実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。本実施の形態は、ステージに結晶基板を載置してその主表面に向けてレーザ光を照射し、主表面から所定深さにレーザ光を集光して剥離可能な改質層を形成するように基板加工装置を制御する基板加工制御装置及びこのような基板加工装置及び基板加工制御装置を有する基板加工制御システムを想定している。具体的には、上記改質層において劈開を劈開面に沿って発生させ、この劈開面を結晶基板の面方向に連続的に形成するように改質層を制御することで剥離基板を創製することを想定している。ここで、結晶基板の面方向とは結晶基板の主表面が延びる方向をいうものとし、面方向に連続的に形成された層とは主表面に平行に延びるように形成された層をいうものとする。
【0018】
図1は、本実施の形態の基板加工制御システムの概略的な構成を示す斜視図である。図2は、基板加工システムの概略的な構成を示すブロック図である。基板加工システムは、基板加工制御装置10と、この基板加工制御装置10によって制御される基板加工装置100とを有している。
【0019】
基板加工装置100は、結晶基板200を支持して駆動する基板支持装置110と、結晶基板200の主表面200aに向かってレーザ光Bを照射する光学系120とを有している。基板支持装置110は、結晶基板200を載置するステージ112と、ステージ112が水平面内のXY方向及び垂直方向のZ方向に駆動可能であり、Z方向の軸の周りに回転駆動可能なように支持するステージ駆動装置111と、ステージ112に結晶基板200を固定する固定具113とを有している。固定具113には、粘着層、機械的なチャック、静電チャック、真空チャックなどが適用可能である。
【0020】
光学系120は、レーザ光源121と、対物レンズ125及び収差調整部126を含むレーザ集光部127とを有し、レーザ光源121から放出されたレーザ光Bがレーザ集光部127を介して結晶基板200の主表面200aに向かって照射されるようにしている。光学系120には、回折光学素子(DOE)など他の光学素子がさらに含まれてもよい。
【0021】
基板加工制御装置10は、ディスプレイ、キーボードなどを有するコンソール13と、加工する結晶基板200の材料、サイズ、結晶方位などを検出することができるセンサ14とを有している。センサ14は、例えば透過率測定装置、レーザ干渉サイズ測定装置、X線回折装置などを組み合わせて構成されてもよい。
【0022】
図2に示すように、基板加工制御装置10において、コンソール13又はセンサ14から入力された結晶基板200の材料、サイズ及び結晶方位などの結晶基板200に関するパラメータと、コンソール13から入力されたスライスする厚さなどの加工条件に関するパラメータとは基板加工機械学習部11に説明変数として入力される。基板加工機械学習部11は、入力された説明変数に基づいて、機械学習した人工知能による推論にしたがい、レーザ光Bの波長及びパルス幅を含む光学系120に関するパラメータと、基板支持装置110におけるステージ112の駆動方向及び駆動速度を含むステージ112の駆動に関するパラメータとを目的変数として出力する。
【0023】
また、基板加工制御装置10において、基板加工機械学習部11から出力された目的変数は制御部12に送られ、制御部12は目的変数に応じて基板加工装置100を制御する。詳しくは、制御部12は、目的変数の光学系120に関するパラメータに基づいて基板加工装置100の光学系120に制御信号を送って制御し、目的変数のステージ112の駆動に関するパラメータに基づいて基板加工装置100の基板支持装置110に制御信号を送って基板支持装置110の有するステージ112の駆動を制御する。
【0024】
図1に示すように、基板加工制御装置10の基板加工機械学習部11及び制御部12は、パーソナルコンピュータを基板加工制御装置10の本体16として構成してもよい。この場合、基板加工機械学習部11及び制御部12は、本体16のパーソナルコンピュータにおいて適切なプログラムを実行することにより実現されてもよい。
【0025】
図3は、基板加工機械学習部11の概略的な構成を示すブロック図である。基板加工機械学習部11において、基板加工教師データ保存部21は、教師あり機械学習に使用する教師データを保存している。教師データは、説明変数と、この説明変数に対応する目的変数との対を多数収集したものである。基板加工教師データ保存部21には、機械学習に使用するために、予め多数の教師データを収集しておく。教師データは、例えばコンピュータシミュレーションによって作成してもよい。
【0026】
基板加工モデル生成部22は、基板加工教師データ保存部21から供給された教師データを学習して基板加工モデルを作成する。図4は、基板加工モデルの構成の一例を示す図である。この基板加工モデルは、ニューラルネットワークにより構成されている。ニューラルネットワークは、ノードで構成された複数の層を含み、教師あり学習、すなわち教師データの学習によって重み及びバイアスを最適化するように設定することができる。なお、基板加工モデルは、ニューラルネットワークに限らず、他の種類の構成によって実現してもよい。
【0027】
基板加工モデル保存部23は、基板加工モデル生成部22で生成した基板加工モデルを保存する。基板加工モデルがニューラルネットワークにより構成されている場合には、教師データの学習によって設定された重み及びバイアスのような基板加工モデルのパラメータを保存する。基板加工モデルがニューラルネットワークではない構成で実現された場合にも、基板加工モデル保存部23は基板加工モデルのパラメータを保存する。
【0028】
基板加工モデル適用部24は、基板加工モデル保存部23から基板加工モデルのパラメータを読み出して基板加工モデルを再現し、入力された説明変数に基板加工モデルを適用して目的変数を出力する。基板加工モデルがニューラルネットワークによって構成されている場合には、基板加工モデル保存部23から基板加工モデルの重み及びバイアスを読み出して基板加工モデルを再現する。
【0029】
基板加工機械学習部11において、基板加工モデル生成部22及び基板加工モデル保存部23は、教師あり学習によって基板加工モデルを生成する基板加工学習部31を構成している。また、基板加工モデル保存部23及び基板加工モデル適用部24は、教師あり学習によって生成された基板加工モデルを適用して説明変数から目的変数を推論する基板加工推論部32を構成している。
【0030】
図5は、基板加工機械学習部11の動作を説明する図である。基板加工機械学習部11には、説明変数として、加工する結晶基板200の材料、サイズ、結晶方位などの結晶基板200に関するパラメータ、スライスする厚さ、改質層の厚さなどの加工条件に関するパラメータが入力される。結晶基板200の材料、サイズ、結晶方位などの結晶基板200に関するパラメータは、センサ14で測定した値が入力されてもよいし、これらのパラメータの値をコンソール13から入力してもよい。センサ14による結晶基板200の測定は、結晶基板200をステージ112に載置して加工を実施する前に行われる。スライスする厚さ、改質層の厚さなどの加工条件に関するパラメータは、コンソール13から入力してもよい。
【0031】
次の表1は、基板加工機械学習部11に入力する説明変数の例を示している。説明変数は、結晶基板200に関するパラメータを含んでいる。結晶基板200に関するパラメータは、結晶基板200の材料、サイズ、結晶方位などの個別の結晶基板200に固有のパラメータを含んでいる。結晶基板200に固有のパラメータには、結晶欠陥のXYZ座標や表面異物のXY座標なども含まれる。これらの結晶基板200に固有のパラメータはセンサ14によって測定することによって検出できるので、表1においては結晶基板の検出データの欄に示している。
【0032】
【表1】
【0033】
次の表2は、結晶基板200の材料の例を示している。表2には、単結晶シリコン、単結晶ダイヤモンド、4H-SiC、6H-SiC、単結晶窒化ガリウム、単結晶ヒ化ガリウム、単結晶リン化ガリウム、単結晶サファイア、単結晶酸化マグネシウムが例示されている。表2には、各材料の結晶構造及び劈開面も併せて記載されている。基板加工制御装置10はこれらの種類の材料に限らず、他の種類の材料にも対応することができる。例えば、材料は多結晶シリコンなど多結晶であってもよいし、ガラスなどの非晶質な材料であってもよい。
【0034】
【表2】
【0035】
表1に示すように、結晶基板200に関するパラメータは、結晶基板200の結晶構造、化学結合、面方位、オフ角、劈開面方位、すべり面方位、すべり方向、バーガースベクトル、転位面などの結晶基板200の材料によって決まるパラメータも含んでいる。表2を参照すると、材料によって決まるパラメータとして結晶構造及び劈開面が示されている。これらのパラメータは、結晶基板200の材料の属性であるといえるので、表1においては結晶基板200の属性の欄に示している。
【0036】
表1の結晶基板200の材料の属性の欄にはすべり面方位及びすべり方向を示した。結晶材料におけるすべり面は結晶面の上下の結晶が結晶材料により特定される方向であるすべり方向にずれることにより発生する。このずれは結晶材料に線欠陥である転位を導入することで生じ、結晶材料の塑性変形によってすべり面が形成される。このずれを表わすベクトルとしてバーガースベクトルが定義されている。すべり系はすべり面とすべり方向は対になって構成され、これらの面と方向の大部分は結晶材料の原子配列における最稠密面と最稠密方向に一致している。一方、劈開は脆性的な破壊であるとされ変形の起点付近から生じるとされている。本実施の形態では結晶基板200の主表面200aから所定の深さにレーザ光Bを集光することで結晶材料に転位によるずれを起点とする劈開を発生させることをその加工メカニズムとしている。
【0037】
説明変数は、加工条件に関するパラメータも含んでいる。加工条件に関するパラメータは、結晶基板200からスライスする結晶基板200の厚さ、結晶基板200の内部に形成する改質層の厚さなどを含んでいる。これらのパラメータは、表1の加工条件の欄に示している。
【0038】
次の表3に示すように、光学系120に関するパラメータは、レーザ光Bの波長、パルス幅、輝度、繰り返し周波数、ビームプロファイルなどレーザ光Bに関するパラメータを含んでいる。これらのパラメータは、表3において光学系120のレーザ光Bの欄に示している。光学系120に関するパラメータは、開口数、倍率、焦点距離、作動距離、焦点深度、必要に応じてレーザ光Bを複数のビームに分岐するための回折光学素子などのレーザ集光部127に関するパラメータも含んでいる。回折光学素子のパラメータは、回折光学素子を使用してレーザ光Bを分岐するレーザ透過光の形状、数、配置に関するパラメータなどの集光条件を含んでもよい。これらのパラメータは、表3において光学系120のレーザ集光部127の欄に示している。ステージ112の駆動に関するパラメータは、駆動方向、駆動速度、回転速度などを含んでいる。ここで、回転速度はステージ112を回転駆動する場合に該当する。これらのパラメータは、表3においてステージ駆動の欄に示している。なお、ステージ112の駆動は相対的にレーザ光Bの走査と同等であるので、ステージ駆動はレーザ光Bの走査に読み替えてもよい。
【0039】
【表3】
【0040】
基板加工機械学習部11は、入力された説明変数に教師あり機械学習によって生成した基板加工モデルを適用する。そして、目的変数として、レーザ波長、レーザ出力などの光学系120に関するパラメータ、ステージ112の駆動方向、駆動速度などの基板支持装置110のパラメータなどを出力する。
【0041】
再び図2を参照すると、基板加工制御装置10の基板加工機械学習部11から出力された目的変数は、制御部12に供給される。制御部12は、基板加工機械学習部11から供給された目的変数に基づいて、基板加工装置100を制御する。例えば、基板加工機械学習部11から供給されたレーザ光Bの波長、繰り返し周波数などの光学系120に関するパラメータに基づいて基板加工装置100の光学系120を設定する。また、基板加工機械学習部11から供給されたステージ112の駆動方向、ステージ112の駆動速度などステージ112の駆動に関するパラメータに基づいて、基板支持装置110のステージ112の位置、速度などを実時間で追跡して制御する。
【0042】
このように、本実施の形態によると、加工する結晶基板200及び加工条件に応じた適切な加工方法で結晶基板200を加工するように基板加工装置を制御することができる。したがって、結晶基板200の材料や基板の加工条件に応じて個別に基板加工装置100を検討する必要がなく、基板加工のための作業の負担を軽減することができる。また、人工知能の機械学習によって制御されるため、基板加工を正確で確実に実施することができる。
【0043】
このように、本実施の形態によると、人工知能の機械学習によって、加工する単結晶材料による結晶基板200の材料、結晶構造、結合形態、結晶面方位、結晶成長のオフ角その他のパラメータに加え、さらにレーザ光Bの特性、結晶基板200の内部へのレーザ光Bの集光、レーザ光Bの走査方法、形成する改質層の深さや厚さなどの加工条件のパラメータも考慮して、様々な固体構造や化学結合の種類を有する単結晶材料について、適切なレーザ光Bによる加工技術によって剥離可能な改質層を形成することができる。
【0044】
なお、本実施の形態においては、結晶基板200の主表面200aにレーザ光Bを照射することにより主表面200aから所定の深さに形成した加工痕によって剥離可能な改質層を形成することを想定していたが、さらに結晶基板200の端部を適切に処理するようにしてもよい。例えば、結晶基板200において外周の端部から所定の距離には加工痕を形成せずに、端部に沿った加工痕から端部に向かって劈開が自発的に発生して改質層を形成するようにしてもよい。このような結晶基板200の端部の加工も、教師あり学習によって基板加工モデルに学習させることができる。
【0045】
また、本実施の形態の基板加工制御装置10によって基板加工装置100を制御して加工された結晶基板200について、基板加工の状態を評価するようにしてもよい。例えば、赤外線顕微鏡や光学顕微鏡などにより得られる画像のセンシング結果から、画像データを用いて、劈開方向、レーザ光Bの照射面側の外観(亀裂発生など)、結晶の乱れた深さなど結晶基板200に形成した改質層を評価するようにしてもよい。評価の結果は、例えばコンソール13のディスプレイに表示してもよい。
【実施例0046】
以下では、本実施の形態の基板加工制御装置10及び基板加工制御システムを用いて、具体的な結晶基板200にレーザ光Bを照射して改質層を形成する例を説明する。実施例においては、加工する結晶基板200をセンサ14で測定することにより表1に示したような結晶基板200の材料、サイズ、結晶方位などのパラメータを検出してもよい。これらのパラメータは、コンソール13から入力してもよい。さらに、センサ14によって、結晶基板200の結晶欠陥のXYZ座標、表面異物のXY座標なども検出してもよい。結晶基板200の結晶構造、化学結合、面方位などのパラメータは結晶基板200の材料に応じて特定されるため、データベースから読み出してもよいし、必要であればコンソール13から入力してもよい。スライスする厚さ、改質層の厚さなどの加工条件に関するパラメータは、コンソール13から入力してもよい。
【0047】
図5に示したように、これらのパラメータは、基板加工機械学習部11に説明変数として入力され、基板加工機械学習部11からは人工知能により対応する目的変数が出力される。表3に示したように、目的変数にはレーザ光Bの波長、パルス幅、繰り返し周波数、ステージ112の駆動方向、駆動速度などが含まれ、基板加工制御装置10はこれらの目的変数に基づいて基板加工装置100を制御して結晶基板200を適切に加工する。このため、基板加工装置100による加工は加工対象の結晶基板200を変更しても調整する必要がなく、人工知能の制御の下に加工対象の結晶基板200に応じた適切な加工方法が選択される。
【実施例0048】
図6は閃亜鉛鉱型構造の結晶構造を示す斜視図である。図6に示す閃亜鉛鉱型構造は、例えばガリウムヒ素(GaAs)、窒化ガリウム(GaN)のようなIII-V族化合物に見られる。図6において、白丸はガリウム(Ga)のようなIII族原子を示し、黒丸はヒ素(As)や窒素(N)のようなV族原子を示し、白丸又は黒丸を結ぶ線は共有結合を示している。閃亜鉛鉱型構造は、一つの原子を取り囲む他の四つの原子を頂点として形成された正四面体を基本構造として構成されている。図6には、劈開面となる(011)面も示した。
【0049】
図7はダイヤモンド型構造の結晶構造を示す斜視図である。図6に示したような閃亜鉛鉱型構造が同種の元素から構成されている場合には、図7に示すダイヤモンド型構造になる。ダイヤモンド型構造は、例えばIV族元素に属する炭素、シリコンなどに見られる。図6において、白丸は炭素、シリコンなどの原子を示し、白丸を結ぶ線は共有結合を示している。ダイヤモンド型構造は、一つの原子を取り囲む他の四つの原子を頂点として形成された正四面体を基本構造として構成されている。図7には、劈開面となる(001)面、結晶基板200の主表面200aとされることがある(001)面も示した。
【0050】
図8は窒化ガリウムのウルツ鉱型構造を示す斜視図である。III-V族化合物に属する窒化ガリウムは図6に示した閃亜鉛鉱型構造も取り得るが、常温定圧下では図8に示すようなウルツ鉱型構造が安定型である。図8において、白丸はガリウム(Ga)原子を示し、黒丸は窒素(N)原子を示し、白丸又は黒丸を結ぶ線は共有結合を示している。
【0051】
図9は窒化ガリウムの六方晶の結晶構造を示す斜視図である。ウルツ鉱型構造の窒化ガリウムの単位格子は、図9に示すような六方晶である。六方晶を示す図9においても、図8と同様に、白丸はガリウム原子を示し、黒丸は窒素原子を示している。図9に示す六方晶の窒化ガリウムの単位格子は、極性によって異なる劈開面を有している。ガリウム原子層と窒素原子層はc軸方向に交互に積層した構造でありガリウム原子と窒素原子の電気陰性度の違いによる分極が生じ、c面は極性面、c面と垂直に位置するa面およびm面は無極性面、r面は半極性面とされる。ここで劈開面はa面{11-20}面とm面{1-100}面となる。なお、特許出願書類に使用できる文字に制限があるため、ミラー指数の上線に代えて負号“-”を使用した。このような六方晶の窒化ガリウムは、ベース基板にc軸成長させることができる。六方晶において、底面及び頂面は{0001}面となる。
【0052】
図10は結晶基板200を構成する正四面体の基本構造とレーザ走査方向との関係を示す模式図である。図6に示した閃亜鉛鉱型構造や図7に示したダイヤモンド型構造の結晶構造を有する単結晶や、このような単結晶から構成された結晶基板200は、正四面体を基本構造として構成されている。主表面200aが(100)、(111)などの面方位を有する結晶基板200においては、基本構造の正四面体の一つの面は主表面に平行に配置される。この場合、レーザ照射による結晶材料の転位から劈開を形成することができるように、レーザ光Bは基本構造の正四面体の配置を考慮して特定の方向に走査することができる。図中には、結晶基板200の主表面200aに対する基本構造の正四面体の配置と、基本構造の正四面体を基準として結晶基板200の主表面200aに向かってレーザ光Bを走査する方向を例示している。
【0053】
図1を参照すると、正四面体を基準として主表面200aに向かってレーザ光Bを走査する方向は、結晶基板200の主表面200aに沿ってレーザ光源121を含む光学系120からレーザ光Bを走査する方向に対応している。図3の基板加工機械学習部11においては、レーザを走査する方向は、(100)、(111)などの結晶基板200の面方位について結晶材料の転位によるずれを起点とする劈開の発生と発生方向に基づいて、加工される結晶基板200の種類についての教師データとして基板加工教師データ保存部21から基板加工学習部31に提供され、基板加工モデル保存部23にパラメータとして保存されてもよい。基板加工推論部32は、基板加工モデル保存部23から読み出されたパラメータに基づいて適切なレーザを走査する方向を出力することができる。
【0054】
図10(a)は、レーザ光Bを走査する方向の第1の態様を示している。図中の破線はレーザ光Bを走査するラインを示している。レーザ光Bは、ラインに沿って一定の間隔(ドットピッチ)で結晶基板200に走査され、隣接するラインが互いに一定の間隔(ラインピッチ)になるように結晶基板200の主表面200aの全体にわたって走査される。図中の太い矢印は、ラインを移動させる方向を示している。第1の態様においては、レーザ光Bを走査するラインの方向を主表面200aに平行な基本図形の正四面体の一つの面を構成する正三角形の辺の一つと直交する方向としている。このような方向に走査することにより、基本図形の四面体の中心に位置する原子から正四面体の各面に向かって延びる特定の共有結合を切断して劈開を発生させることができる。
【0055】
図10(b)は、レーザ光Bを走査する方向の第2の態様を示している。第2の態様においても図中の破線はレーザ光Bを走査するラインを示し、レーザ光Bはラインに沿って一定の間隔(ドットピッチ)で結晶基板200に走査され、隣接するラインが互いに一定の間隔(ラインピッチ)になるように結晶基板200の主表面200aの全体にわたって走査される。図中の太い矢印は、ラインを移動させる方向を示している。第2の態様においては、レーザ光Bを走査するラインの方向を主表面に平行な基本図形の正四面体の一つの面を構成する正三角形の辺の一つと平行な方向としている。このような方向に走査することにより、基本図形の正四面体の中心に位置する原子から四面体の各面に面に向かって延びる特定の共有結合を切断して劈開を発生させることができる。
【0056】
図11は、結晶基板200に対するレーザ光Bの走査方向を示す模式図である。レーザ光Bは、結晶基板200の(100)、(111)などの面方位にしたがい結晶に劈開を生じさせる適切な方向に走査される。レーザ光Bを走査する方向は、結晶基板200の主表面200aにおいて、図10で説明したように、結晶基板200を構成する基本構造の四面体の配置を考慮して定められる。結晶基板200の主表面200aにおいて、レーザ光Bはラインに沿って一定の間隔(ドットピッチ)で結晶基板200に走査され、隣接するラインが互いに一定の間隔(ラインピッチ)になるように結晶基板200の主表面200aの全体にわたって走査される。これらの走査方向は加工する材料、結晶方位に対しレーザB光のパラメータ、ドットピッチ、ラインピッチなどのパラメータと組み合わせて設定され、発生する劈開により剥離可能な加工層を形成し劈開面で結晶基板200を面方向に剥離して新たな基板を創製する加工条件が選択される。
【0057】
図11(a)は、結晶基板200の主表面200aを走査するレーザ光Bの第1の態様を示す模式図である。第1の態様において、レーザ光Bは、結晶基板200の略矩形状の主表面200aに沿って図中で右側から左側へ向かう、又は左側から右側へ向かうような一方向に走査されてもよい。また、レーザ光Bは隣接するラインごとに右側から左側に向かう、及び左側から右側に向かうように走査方向を切り替えてもよい。レーザ光Bを走査するラインは、主表面200aに沿って図中の下側から上側に向けて移動するようにしてもよく、上側から下側に移動するようにしてもよい。
【0058】
図11(b)は、結晶基板200の主表面200aを走査するレーザ光Bの第2の態様を示す模式図である。第2の態様は、図11(a)に示した第1の態様のレーザ光の走査方向を主表面200a内で90°回転させたものである。第2の態様においては、レーザ光は、略矩形状の結晶基板200の主表面200aに沿って図中で下側から上側へ向かう、又は上側から下側へ向かうような一方向に走査されてもよい。また、レーザ光Bは隣接するラインごとに下側から上側に向かう、及び上側から下側に向かうように走査方向を切り替えてもよい。レーザ光Bを走査するラインは、主表面200aに沿って図中の右側から左側に向けて移動するようにしてもよく、左側から右側に移動するようにしてもよい。
【0059】
図11(c)は、結晶基板200の主表面200aを走査するレーザ光Bの第3の態様を示す模式図である。第3の態様は、図11(a)に示した第1の態様のレーザ光Bの走査方向を主表面内で所定の角度にわたって回転させたものである。第3の態様においては、レーザ光Bは、結晶基板200の主表面200aに沿って主表面を所定の方向に、又はこの所定の方向とは逆の方向に向かうような一方向に走査されてもよい。レーザ光Bは隣接するラインごとに所定方向に、及びこの所定の方向とは逆の方向に走査方向を切り替えてもよい。レーザ光Bを走査するラインは、主表面200aの全体を走査することができれば、いずれの方向に移動してもよい。
【0060】
図12は、主表面210aと劈開面との面方位が同じである結晶基板210への加工痕212の形成を説明する図である。図12(a)は加工痕212が形成された結晶基板210の上面図であり、図12(b)及び図12(c)は加工痕212が形成された結晶基板210の断面図である。主表面210aと劈開面の面方位が同じである結晶基板210には、例えば、主表面210aが(111)面の単結晶シリコンや単結晶ダイヤモンドの結晶基板210、主表面210aが(100)面の後述する岩塩型の結晶基板210がある。
【0061】
図12(b)に示すように、レーザ光Bは主表面210aから結晶基板210の所定の深さに集光され加工痕212が形成される。加工痕212からは、主表面210aと面方位が同じ劈開面に沿ってクラック214が延びている。図12(a)に示すように、レーザ光Bは主表面210aの全体が走査されるように照射される。レーザ光Bは所定の繰り返し周波数によりパルス状に照射されているため、加工痕212はレーザ光Bを走査するラインに沿って所定間隔のドットピッチで形成される。図12(a)及び図12(b)の細い矢印はラインに沿ったレーザ光Bの走査の方向を示し、図12(a)の太い矢印はレーザ光Bを走査するラインを移動する方向を示している。レーザ光Bは、隣接するラインと互いに所定間隔のラインピッチを有するように走査される。
【0062】
図12(b)に示すように、加工痕212の周囲には加工痕212から劈開が進んだクラック214が主表面210aと面方位が同じ劈開面の方向に沿ってレーザ光Bの走査方向に延びている。図12(c)に示すように、各加工痕212から延びたクラック214が隣接する加工痕212から延びたクラック214と連結することで、結晶基板210の内部に主表面210aと平行に延びる加工痕212及びクラック214が連結した改質層が形成される。互いに隣接する加工痕212から延びたクラック214の連結は、表3に示したような光学系120に関するパラメータなどを適切に設定することにより実現される。
【0063】
改質層によって、結晶基板210は主表面210aから改質層までの結晶基板と、改質層よりも深い残りの結晶基板とに分けられる。改質層は加工痕212及びクラック214が連結されて形成されているため、主表面210aから改質層までの結晶基板と、改質層よりも深い残りの結晶基板とを改質層において劈開により剥離することができる。主表面210aから改質層までの結晶基板は、スライス加工と同様に元の結晶基板210から薄い結晶基板を切り出したものであるため、スライス基板と称される。スライス基板の厚さは、スライスする厚さと称される。改質層でスライス基板を剥離することで、結晶基板210から新たな結晶基板が得られる。
【0064】
図13及び図14は、主表面220aと劈開面との面方位が異なる結晶基板220への加工痕222の形成を説明する図である。図13(a)及び図13(b)はそれぞれ第1回のレーザ光Bの走査による加工痕222が形成された結晶基板220の上面図及び断面図であり、図14(a)から図14(c)は第2回のレーザ光Bの走査による加工痕222が形成された結晶基板220の上面図及び断面図である。主表面220aと劈開面の面方位が異なる結晶基板220には、例えば、主表面220aが(001)面の単結晶シリコンや単結晶ダイヤモンドの結晶基板220、主表面220aが(111)面の後述する岩塩型の結晶基板220がある。
【0065】
図13(b)に示すように、第1回のレーザ光Bの走査においてレーザ光Bは主表面220aから結晶基板220の所定の深さに集光され加工痕222が形成される。第1回のレーザ光Bの走査によって、加工痕222からは主表面220aと面方位が異なる第1劈開面に沿ってレーザ光Bの走査方向にクラック224が延びている。図13(a)に示すように、レーザ光Bは主表面220aの全体が走査されるように照射される。レーザ光Bは所定の繰り返し周波数によりパルス状に照射されているため、加工痕222はレーザ光Bを走査するラインに沿って所定間隔のドットピッチで形成される。図13(a)及び図13(b)の細い矢印はラインに沿ったレーザ光Bの走査の方向を示し、図13(a)の太い矢印はレーザ光Bを走査するラインを移動する方向を示している。レーザ光Bは、隣接するラインと互いに所定間隔のラインピッチを有するように走査される。図14(a)から図14(c)においても同様である。
【0066】
図14(b)に示すように、第2回の走査においてもレーザ光Bは主表面220aから結晶基板220の所定の深さに集光され加工痕222が形成される。図14(a)及び図14(b)中の細い矢印に示すように、第2回のレーザ光Bの走査は、第1回のレーザ光Bの走査と同じライン上を第1回のレーザ光Bの走査とは逆方向に走査することで行われる。図14(a)中の太い矢印に示すように、レーザ光Bを走査するラインを移動する方向も第1回のレーザ光Bの走査とは逆の方向である。第2回のレーザ光Bの走査におけるラインに沿ったレーザ光Bの走査の間隔(ドッドピッチ)及びレーザ光Bを走査するラインを移動する方向への間隔(ラインピッチ)も、第1回のレーザ光Bの走査と同様である。
【0067】
図14(b)に示すように、第2回のレーザ光Bの走査においてもレーザ光Bは主表面220aから結晶基板220の所定の深さの加工痕222に集光される。第2回のレーザ光Bの走査によって、加工痕222からは、新たに主表面220aとも前記第1劈開面とも面方位が異なる第2劈開面に沿ってレーザ光Bの走査方向にクラック224が延びている。ここで、第2回のレーザ光Bの走査は、第1回のレーザ光Bの走査とレーザ光Bの走査方向が逆であるため、第2回のレーザ光Bの走査では第1回のレーザ光Bの走査に対してレーザ光Bのプロファイルがラインに関して逆になっている。図14(b)に示すように、第1回目のレーザ光Bの走査と第2回のレーザ光Bの走査と併せると、レーザ光Bの照射によって形成された加工痕222や加工痕222から第1劈開面及び第2劈開面に沿って延びるクラック224はラインに関して対称に形成される。
【0068】
図14(c)においては、ラインに関して加工痕222から左右に対称にクラック224が形成され、各加工痕222から延びたクラック224が互いに連結している。各加工痕222から延びた主表面220aと平行ではないクラック224すなわち第1劈開面及び第2劈開面が互いに連結することで、結晶基板220の内部に主表面220aに平行な改質層が形成される。互いに隣接する加工痕222から延びたクラック224の連結は、表3に示したような光学系120に関するパラメータなどを適切に設定することにより実現される。
【0069】
改質層によって、結晶基板220は主表面220aから改質層までの結晶基板220と、改質層よりも深い残りの結晶基板220とに分けられる。この連結した改質層により結晶基板220の全体に劈開を進めることにより、主表面220aから改質層までの結晶基板と、改質層よりも深い残りの結晶基板とを剥離することができる。主表面220aから改質層までの結晶基板は、スライス加工と同様に元の結晶基板220から薄い基板結晶を切り出したものであるため、スライス基板と称される。スライス基板の厚さは、スライスする厚さと称される。改質層でスライス層を剥離することで、結晶基板220から新たな結晶基板が得られる。
【0070】
本実施の形態においては、加工する結晶基板200の材質、結晶構造、結合形態、結晶面方位、結晶成長のオフ角その他のパラメータを確認し、さらにレーザ光の特性、基板内部へのレーザ光の集光、レーザ光走査方法、形成する改質層の深さや厚さなどの加工条件も考慮して、加工する結晶基板200に適する加工方法が人工知能の制御により実施される。このため、結晶基板200をスライスする作業者の負担を軽減するとともに、所望の条件で結晶基板をスライス加工することを保証することができる。
【実施例0071】
図15は、岩塩(NaCl)型の結晶構造を示す斜視図である。実施例2では結晶基板200の材料として単結晶窒化ガリウム(GaN)、単結晶ヒ化ガリウム(GaAs)及び単結晶リン化ガリウム(GaP)を例にとって説明するが、これら単結晶窒化ガリウム、単結晶ヒ化ガリウム又は単結晶リン化ガリウム塩化はナトリウム型の単位格子を有している。図14中の白丸はガリウム(Ga)原子を示し、黒丸は窒素(N)、ヒ素(As)又はリン(P)原子を示し、白丸又は黒丸を結ぶ線は共有結合を示している。
【0072】
単結晶窒化ガリウム、単結晶ヒ化ガリウム又は単結晶リン化ガリウムからなる結晶基板200についても、実施例1と同様に基板加工機械学習部11から出力された目的変数を基にレーザ光Bを照射することにより結晶基板200の内部に壁開を発生させる改質層を形成することができる。この改質層によって結晶基板200を劈開することにより、実施例1と同様に結晶基板200よりも薄い結晶基板を得ることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15