(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038862
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】アルカリシリカ反応抑制材料、アルカリシリカ反応抑制材料の製造方法、及び、アルカリシリカ反応抑制方法
(51)【国際特許分類】
C04B 14/04 20060101AFI20240313BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20240313BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20240313BHJP
C01B 39/26 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
C04B14/04 Z
C04B22/08 A
C04B28/02
C01B39/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143187
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】503103981
【氏名又は名称】大福工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】上原 元樹
(72)【発明者】
【氏名】長野 和秀
(72)【発明者】
【氏名】三代 江里子
【テーマコード(参考)】
4G073
4G112
【Fターム(参考)】
4G073AA03
4G073BA02
4G073CZ07
4G073CZ18
4G073FB46
4G073FD08
4G073FE01
4G073GA03
4G073UA20
4G073UB07
4G112MB01
4G112PA03
4G112PB06
(57)【要約】
【課題】高価なリチウム系材料を用いる必要なく、短時間で製造することが可能で、かつ、アルカリシリカ反応の抑制効果に優れる、アルカリシリカ反応抑制材料、アルカリシリカ反応抑制材料の製造方法、及び、アルカリシリカ反応抑制方法の提供。
【解決手段】天然ゼオライトのアルカリイオンの少なくとも一部が酸処理によって水素イオンにイオン交換されているアルカリシリカ反応抑制材料。天然ゼオライトを酸処理してアルカリイオンを水素イオンにイオン交換することを備える、アルカリシリカ反応抑制材料の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゼオライトの結晶構造を有するアルカリシリカ反応抑制材料であって、
天然ゼオライトのアルカリイオンの少なくとも一部が酸処理によって水素イオンにイオン交換されているアルカリシリカ反応抑制材料。
【請求項2】
前記結晶構造がモルデナイトの結晶構造を含む、請求項1に記載のアルカリシリカ反応抑制材料。
【請求項3】
天然ゼオライトを酸処理してアルカリイオンを水素イオンにイオン交換することを備える、請求項1に記載のアルカリシリカ反応抑制材料の製造方法。
【請求項4】
前記天然ゼオライトがモルデナイトを含む、請求項3に記載のアルカリシリカ反応抑制材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のアルカリシリカ反応抑制材料を用いる、アルカリシリカ反応抑制方法であって、
前記アルカリシリカ反応抑制材料を含有するセメントペーストを、コンクリート又はモルタルの構造物の補修箇所に適用する、アルカリシリカ反応抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート又はモルタルのアルカリシリカ反応(ASR)を抑制するために用いられるアルカリシリカ反応抑制材料、アルカリシリカ反応抑制材料の製造方法、及び、アルカリシリカ反応抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリシリカ反応(ASR)はコンクリート又はモルタルの骨材中のシリカ成分とアルカリ性溶液との化学反応であり、このアルカリシリカ反応が生じることによりコンクリート又はモルタルの構造物に局部的な容積膨張が生じて構造物がひび割れして劣化する。このひび割れの原因となるアルカリシリカ反応を抑制するため、従来、アルカリシリカ反応抑制材料が用いられている。
【0003】
アルカリシリカ反応抑制材料としては、亜硝酸リチウム溶液またはリチウムを含んだリチウム型ゼオライトがあり、これらをコンクリート構造物に圧入することによってアルカリシリカ反応を抑制してひび割れを防止することがなされている。特許文献1には、天然の粘土鉱物であるカオリナイトを焼成し活性化したメタカオリンに水酸化リチウム水溶液を加え、20℃~50℃の低温下の反応によって、リチウム型ゼオライトを製造する方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、高価なリチウム系材料を用いる必要のないアルカリシリカ反応抑制材料として、シリカ及びアルミナを含む非晶質材料にアルカリ剤を混合させることによる重合反応によってアルカリイオン型硬化体を得る第1段階と、前記アルカリイオン型硬化体を粉末とした後、アルカリイオン型硬化体の粉末を酸処理してアルカリイオンを水素イオンにイオン交換する第2段階とを備えるアルカリシリカ反応抑制材料の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5594710号公報
【特許文献2】特許第5739296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、アルカリシリカ反応抑制材料として亜硝酸リチウム溶液を用いる従来の方法では、亜硝酸による土壌や地下水の汚染が発生し易く、環境問題の原因となって好ましくない。一方、リチウム型ゼオライトを用いる従来の方法では、リチウム系材料が高価であるため、コスト高となり実用的でない問題がある。特許文献1に記載されたリチウム型ゼオライトの製造では、温度調整が比較的難しい低温環境下で、長時間(例えば、168時間)の反応が必要になる。
【0007】
また、特許文献2に記載されたアルカリシリカ反応抑制材料の製造方法では、アルカリイオン型硬化体を作製した後、酸処理の前に、粉砕する必要があり、製造コストに難がある。
【0008】
本発明は、以上の問題点を考慮してなされたものであり、高価なリチウム系材料を用いる必要なく、短時間で製造することが可能で、かつ、アルカリシリカ反応の抑制効果に優れる、アルカリシリカ反応抑制材料、アルカリシリカ反応抑制材料の製造方法、及び、アルカリシリカ反応抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1] 天然ゼオライトの結晶構造を有するアルカリシリカ反応抑制材料であって、
天然ゼオライトのアルカリイオンの少なくとも一部が酸処理によって水素イオンにイオン交換されているアルカリシリカ反応抑制材料。
[2] 前記結晶構造がモルデナイトの結晶構造を含む、[1]に記載のアルカリシリカ反応抑制材料。
[3] 天然ゼオライトを酸処理してアルカリイオンを水素イオンにイオン交換することを備える、[1]に記載のアルカリシリカ反応抑制材料の製造方法。
[4] 前記天然ゼオライトがモルデナイトを含む、[3]に記載のアルカリシリカ反応抑制材料の製造方法。
[5] [1]又は[2]に記載のアルカリシリカ反応抑制材料を用いる、アルカリシリカ反応抑制方法であって、
前記アルカリシリカ反応抑制材料を含有するセメントペーストを、コンクリート又はモルタルの構造物の補修箇所に適用する、アルカリシリカ反応抑制方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、高価なリチウム系材料を用いる必要なく、短時間で製造することが可能で、かつ、アルカリシリカ反応の抑制効果に優れる、アルカリシリカ反応抑制材料、アルカリシリカ反応抑制材料の製造方法、及び、アルカリシリカ反応抑制方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実験例1で用いた天然ゼオライト及び実験例1で得られた酸処理天然ゼオライトのX線回折チャート
【
図2】実験例1で用いた天然ゼオライト及び実験例1で得られた酸処理天然ゼオライトのX線回折チャート
【
図3】実験例2で用いた天然ゼオライトのX線回折チャート
【
図4】実験例2で得られた酸処理天然ゼオライトのX線回折チャート
【
図5】実験例2で用いた天然ゼオライトの走査型電子顕微鏡写真
【
図6】実験例2で得られた酸処理天然ゼオライトの走査型電子顕微鏡写真
【
図7】実験例3のASR抑制試験で用いたモルタル供試体1の斜視図
【
図8】実験例3のASR抑制試験の膨張率の結果を示すグラフ
【
図9】実験例3のASR抑制試験の質量変化率の結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0012】
[アルカリシリカ反応抑制材料]
本実施形態のアルカリシリカ反応抑制材料は、天然ゼオライトの結晶構造を有するアルカリシリカ反応抑制材料であって、天然ゼオライトのアルカリイオンの少なくとも一部が酸処理によって水素イオンにイオン交換されている。
【0013】
天然ゼオライトは、火山活動によって生じた火山灰が、高圧下、水の存在により変成して形成された天然鉱物であり、珪素とアルミニウムとが酸素を介して結合した、Si-O-Al-O-Siの多孔質の結晶構造中に、Na成分及びK成分等を含む。
【0014】
天然ゼオライトの、ケイ素の酸化物換算質量(SiO2)に対する等価アルカリ量の比は、0.040~0.051の範囲にある。
ここで、ケイ素の酸化物換算質量(SiO2)に対する等価アルカリ量の比は、蛍光X線定量分析により、ケイ素の酸化物換算質量(SiO2)、ナトリウムの酸化物換算質量(Na2O)及びカリウムの酸化物換算質量(K2O)を算出して、次式より求める。
(Na2O+0.658K2O)/SiO2
これに対して、本実施形態のアルカリシリカ反応抑制材料の、ケイ素の酸化物換算質量(SiO2)に対する等価アルカリ量の比[(Na2O+0.658K2O)/SiO2]は、0.007~0.035の範囲にあることが好ましく、0.007~0.031の範囲にあることがより好ましく、0.015~0.030の範囲にあることがさらに好ましい。
等価アルカリ量が、前記上限値以下であることにより、アルカリシリカ反応の抑制効果が優れる。等価アルカリ量が、前記下限値以上であることにより、天然ゼオライトの結晶構造が維持されやすい。
【0015】
本実施形態のアルカリシリカ反応抑制材料を、コンクリート又はモルタルの構造物の補修箇所に適用すると、コンクリート又はモルタルのアルカリイオンが、本実施形態のアルカリシリカ反応抑制材料中の水素イオンと交換されて、アルカリシリカ反応を抑制すると考えられる。そして、アルカリシリカ反応を抑制することにより、コンクリート又はモルタルの構造物の膨張を抑制でき、膨張に起因するひび割れを防止することが可能となる。
【0016】
本実施形態のアルカリシリカ反応抑制材料は、天然ゼオライトの結晶構造を有する。天然ゼオライトの結晶構造として、モルデナイト、クリノプチロライトが挙げられる。前記結晶構造はモルデナイトの結晶構造を含むことが好ましい。
【0017】
[アルカリシリカ反応抑制材料の製造方法]
本実施形態のアルカリシリカ反応抑制材料の製造方法は、天然ゼオライトを酸処理してアルカリイオンを水素イオンにイオン交換することを備える。
【0018】
酸処理は天然ゼオライトを所定濃度の酸に投入し、所定時間攪拌して濾過し、濾過物を洗浄することにより行う。酸処理に用いる酸としては、硝酸、硫酸、塩酸のうちのいずれかを用いることができる。硫酸を用いた場合、硫酸イオンが残存することによって硫化物・硫酸塩物質が生成し、塩酸を用いた場合、塩化物イオンが残存することによって、塩化物が生成して、コンクリート又はモルタルに悪影響を及ぼす場合がある。このため硫酸及び塩酸を用いた酸処理においては、酸処理後における洗浄を確実に行う必要がある。
【0019】
天然ゼオライトを酸処理することにより、天然ゼオライトのアルカリイオンが酸の水素イオンとイオン交換する。イオン交換は天然ゼオライトを酸に投入して攪拌する酸処理により簡単に行うことができる。
【0020】
本実施形態のアルカリシリカ反応抑制材料の製造方法は、前記天然ゼオライトがモルデナイトを含むことが好ましい。多くの合成ゼオライトは、酸処理すると結晶構造が失われて、非晶質性となる。モルデナイトを含む天然ゼオライトは、安価に入手可能である。
【0021】
天然モルデナイトは粉体にしてから、粉体の状態で、酸処理することが好ましい。粉体の天然モルデナイトの、レーザー回折・散乱法で求められる50%累積頻度径は、2μm以上200μm以下であることが好ましく、4μm以上100μm以下であることがより好ましく、8μm以上50μm以下であることがさらに好ましい。50%累積頻度径が前記下限値以上であることにより、天然ゼオライトの結晶構造を維持しやすく、50%累積頻度径が前記上限値以下であることにより、短時間の酸処理によって水素イオンにイオン交換することができる。
【0022】
本実施形態のアルカリシリカ反応抑制材料の製造方法は、高価なリチウム系材料を用いる必要がないため、アルカリシリカ反応抑制材を安価に製造することができる。また、亜硝酸リチウム溶液を用いないため、亜硝酸による土壌や地下水の汚染が発生することがなく、環境問題の原因となることがない。また、イオン交換のための酸処理が1時間未満の短時間で終了するため、短時間で製造することができる。
【0023】
[アルカリシリカ反応抑制方法]
本実施形態のアルカリシリカ反応抑制方法は、前記実施形態のアルカリシリカ反応抑制材料を用いる、アルカリシリカ反応抑制方法であって、前記アルカリシリカ反応抑制材料を含有するセメントペーストを、コンクリート又はモルタルの構造物の補修箇所に適用する。
【0024】
コンクリート又はモルタルの構造物の補修箇所に適用する方法としては、例えば、コンクリート又はモルタルの構造物の0.3mm以上1.0mm以下の幅のひび割れに対しては、前記実施形態のアルカリシリカ反応抑制材料を含有するセメントペーストを、注入する方法が挙げられる。例えば、コンクリート又はモルタルの構造物の1.0mmを超える幅のひび割れに対しては、ひび割れ部分に沿ってU字型又はV字型にカットし、前記実施形態のアルカリシリカ反応抑制材料を含有するセメントペーストを、U字型又はV字型にカットされた箇所に充填する方法が挙げられる。
【実施例0025】
以下、本発明を実験例により具体的に説明するが、本発明は実験例に限定されるものではない。
【0026】
[実験例1]
天然ゼオライト(大福工業株式会社製モルデナイト、粒子径:2mm未満)を1~9M(mol/L)の硫酸、固液比1g:50g、60~70℃、10分間攪拌して酸処理し、水洗し、乾燥した(1回酸処理)。また、同じ条件で、2回酸処理し、水洗し、乾燥した試料を準備した。
表1に、未処理天然ゼオライト、及び、得られた酸処理天然ゼオライトの蛍光X線定量分析(株式会社リガク製、ZSX PrimusII、測定元素:Na~U)により、Na~Uの原子番号の元素に関し、酸化物換算で100%となるように求めた化学組成(質量%)を示す。なお、微量元素を除外しているため、合計が100%になっていない。
【0027】
実験例1で用いた天然ゼオライトの、ケイ素の酸化物換算質量(SiO2)に対する等価アルカリ量の比[(Na2O+0.658K2O)/SiO2]は、0.050であった。
【0028】
これに対して、実験例1のアルカリシリカ反応抑制材料(酸処理天然ゼオライト)の、ケイ素の酸化物換算質量(SiO2)に対する等価アルカリ量の比[(Na2O+0.658K2O)/SiO2]は、0.023~0.031の範囲に低下した。
【0029】
酸処理によりNa成分量、及び、K成分量は低下したが、硫酸を高濃度としても一定量残存した。また、高濃度の硫酸で処理回数を増やした場合、S成分量が増加することが確認された。
【0030】
【0031】
図1は、無処理天然ゼオライトのX線回折チャート、並びに、1M、3M及び9Mの硫酸で、1回の酸処理を行った酸処理天然ゼオライトのX線回折チャートである。
図2は、無処理天然ゼオライトのX線回折チャート、並びに、1M、3M及び9Mの硫酸で、2回の酸処理を行った酸処理天然ゼオライトのX線回折チャートである。
全てのX線回折チャートから、モルデナイト、クリノプチロライト及び長石の結晶成分が同定された。酸処理によりX線回折プロファイルに大きな変化はなく、いわゆるゼオライトのフレーム構造は残存していることが確かめられた。
【0032】
[実験例2]
天然ゼオライト(大福工業株式会社製モルデナイト、50%累積頻度径:17.14μm)を9M(mol/L)の硫酸、固液比1g:10g、60℃、60分間攪拌して酸処理し、水洗し、乾燥した。
天然ゼオライトの50%累積頻度径は、株式会社堀場製作所製、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置 Partica LA-950V2にて測定した。
【0033】
表2に、未処理天然ゼオライト、及び、得られた酸処理天然ゼオライトの蛍光X線定量分析により求めた化学組成(質量%)を示す。
【0034】
実験例2で用いた天然ゼオライトの、ケイ素の酸化物換算質量(SiO2)に対する等価アルカリ量の比[(Na2O+0.658K2O)/SiO2]は、0.044であった。
【0035】
これに対して、実験例2のアルカリシリカ反応抑制材料(酸処理天然ゼオライト)の、ケイ素の酸化物換算質量(SiO2)に対する等価アルカリ量の比[(Na2O+0.658K2O)/SiO2]は、0.016に低下した。
【0036】
酸処理によりNa成分量、及び、K成分量は低下し、S成分量はやや増加したが、1回処理のため、極端な増加ではないことが確認された。実験例2では、粒度の小さい天然ゼオライトを酸処理したため、表1の3M1回酸処理後の値と比較して、表2の3M1回酸処理後のNa成分量、及び、K成分量は低い値となっている。
【0037】
【0038】
図3は実験例2で用いた天然ゼオライトのX線回折チャートである。
図4は3M(mol/L)の硫酸で、1回の酸処理を行った、実験例2の酸処理天然ゼオライトのX線回折チャートである。
表2において、3M1回酸処理後の化学組成は、若干Al成分量が少なくなっており、酸処理によるAlの溶脱が認められたが、X線回折プロファイルに大きな変化はなく、ゼオライトのフレーム構造は維持されていることが確認された。
【0039】
図5は実験例2で用いた未処理天然ゼオライトの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図6は3M(mol/L)の硫酸で、1回の酸処理を行った、実験例2の酸処理天然ゼオライトの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
酸処理により粒子が細かくなり、凝集したものが認められる。
【0040】
[実験例3]
(ASR抑制試験)
実験例2で得られた酸処理天然ゼオライトのアルカリシリカ反応(ASR)に対する抑制効果を調べた。
【0041】
図7は、実験例3で用いたモルタル供試体1を示す。クリストバライトが主な反応鉱物である反応性骨材を使用し、アルカリ量(Na
2O)を1.6%に調整して、4×4×16cmのモルタル製の直方形ブロック体を作製し、直径6mmの貫通孔2を36箇所(各列12箇所)で形成した。
次に、超微粒子セメント60質量部に、実験例2で得られた酸処理天然ゼオライト40質量部を添加し、さらに、W/P=0.68の質量割合になるよう水添加して、セメントペーストとした。このセメントペーストを全ての貫通孔2に注入し、24時間後を経過日数0日として、経過日数260日までの経時的な膨張率及び質量変化率を次式により測定した。
【0042】
膨張率=(各経過日数のモルタル供試体の長さ-経過日数0日のモルタル供試体の長さ)/(経過日数0日のモルタル供試体の長さ)×100
質量変化率=(各経過日数のモルタル供試体の質量-経過日数0日のモルタル供試体の質量)/(経過日数0日のモルタル供試体の質量)×100
【0043】
膨張率の測定結果を
図8に「Hモルデナイト」として示す。質量変化率の測定結果を
図9に「Hモルデナイト」として示す。
【0044】
比較のために、天然の粘土鉱物であるカオリナイトを焼成し活性化したメタカオリンに水酸化リチウム水溶液を加え、30℃、24時間反応させて、リチウム型EDIゼオライトを作製した。超微粒子セメント60質量部に、得られたリチウム型EDIゼオライト40質量部を添加し、さらに、W/P=0.68の質量割合になるよう水添加してセメントペーストとし、このセメントペーストを全ての貫通孔2に注入し、経時的な膨張率及び質量変化率を測定した。膨張率の測定結果を
図8に「Li-EDI」として示す。質量変化率の測定結果を
図9に「Li-EDI」として示す。
【0045】
図3における「無添加」は、超微粒子セメントに、W/P=0.68の質量割合になるよう水添加して、セメントペーストとし、このセメントペーストを全ての貫通孔2に注入し、経時的な膨張率及び質量変化率を測定した。膨張率の測定結果を
図8に「無添加」として示す。質量変化率の測定結果を
図9に「無添加」として示す。
【0046】
天然ゼオライトの結晶構造を有し、天然ゼオライトのアルカリイオンの少なくとも一部が酸処理によって水素イオンにイオン交換されている本発明のアルカリシリカ反応抑制材料は、リチウム型EDIゼオライトを超微粒子セメントに添加した場合、及び、無添加の場合と比較して膨張率及び質量変化率、共に小さくなり、アルカリシリカ反応(ASR)の抑制効果が高いことが示された。
本実施形態のアルカリシリカ反応抑制材料は、天然ゼオライトのアルカリイオンの少なくとも一部が酸処理によって水素イオンにイオン交換されていることに加えて、天然ゼオライトの結晶構造を有しているので、Si-O-Al-O-Siの多孔質の結晶構造が維持されている結果、アルカリシリカ反応の抑制効果が大きかったと考えられる。