(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038874
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】レーザ肉盛層を有する部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/342 20140101AFI20240313BHJP
【FI】
B23K26/342
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143206
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000109875
【氏名又は名称】トーカロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】植田 和樹
(72)【発明者】
【氏名】横田 博紀
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA32
4E168BA74
4E168BA87
4E168FA01
(57)【要約】
【課題】銅または銅合金からなる基材にレーザ肉盛粉末を供給しつつレーザ光を照射することでレーザ肉盛層を形成したとしても、基材の溶融が不十分となり、基材界面およびレーザ肉盛層の界面において空隙などの欠陥部が生じやすいという問題がある。
【解決手段】銅または銅合金からなる基材上にレーザ肉盛粉末を供給しつつレーザ光を照射し、レーザ肉盛粉末および基材を溶融することで、基材との間に欠陥部を有するレーザ肉盛ビードを形成する工程(a)と、欠陥部上のレーザ肉盛ビードに対してレーザ光を照射し、レーザ肉盛ビードと基材とを溶融することで、基材とレーザ肉盛ビードとの接合部を形成する工程(b)と、を含むレーザ肉盛層を有する部材の製造方法とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のレーザ肉盛ビードを並列に連ねて形成されたレーザ肉盛層を有する部材の製造方法であって、
銅または銅合金からなる基材上にレーザ肉盛粉末を供給しつつレーザ光を照射し、前記レーザ肉盛粉末および前記基材を溶融することで、前記基材との間に欠陥部を有するレーザ肉盛ビードを形成する工程(a)と、
前記欠陥部上の前記レーザ肉盛ビードに対してレーザ光を照射し、前記レーザ肉盛ビードと前記基材とを溶融することで、前記基材と前記レーザ肉盛ビードとの接合部を形成する工程(b)と、を含むレーザ肉盛層を有する部材の製造方法。
【請求項2】
前記工程(b)において、前記レーザ肉盛ビードの溶融によって前記レーザ肉盛ビードの幅方向一方側に湯流れ部が形成され、
前記工程(b)の後に、工程(c)および(d)を繰り返し行い、
前記工程(c)は、直前に形成された前記湯流れ部上に前記レーザ肉盛粉末を供給しつつレーザ光を照射し、前記レーザ肉盛粉末および前記湯流れ部を溶融することで、レーザ肉盛ビードをさらに形成する工程であり、
前記工程(d)は、前記工程(c)において形成した前記レーザ肉盛ビードに対してレーザ光を照射し、前記レーザ肉盛ビードが溶融することで、該レーザ肉盛ビードの幅方向一方側に前記基材と前記レーザ肉盛ビードとの接合部を形成するとともに、新たに湯流れ部を形成する工程である、請求項1に記載のレーザ肉盛層を有する部材の製造方法。
【請求項3】
前記工程(d)は、前記工程(c)において形成した前記レーザ肉盛ビードが前記基材との間に欠陥部を有する場合、前記欠陥部上のレーザ肉盛ビードに対してレーザ光を照射し、前記レーザ肉盛ビードが溶融することで、前記基材と前記レーザ肉盛ビードとの接合部を形成するとともに、新たに湯流れ部を形成する工程である、請求項2に記載のレーザ肉盛層を有する部材の製造方法。
【請求項4】
前記工程(c)において形成する前記レーザ肉盛ビードの幅方向中心は、前記湯流れ部上に位置する、請求項2に記載のレーザ肉盛層を有する部材の製造方法。
【請求項5】
前記工程(c)において形成する前記レーザ肉盛ビードの全域は、前記湯流れ部上に位置する、請求項2に記載のレーザ肉盛層を有する部材の製造方法。
【請求項6】
前記レーザ肉盛粉末はニッケル基合金粉末である、請求項1に記載のレーザ肉盛層を有する部材の製造方法。
【請求項7】
前記レーザ肉盛ビード中の銅の含有率は5.5wt%以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のレーザ肉盛層を有する部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ肉盛層を有する部材の製造方法に関し、特に銅または銅合金からなる基材上にレーザ肉盛層が形成された部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材の表面に耐摩耗性や耐食性などの特性を付与することを目的として、アーク光またはレーザ光等の熱源により粉末状材料を加熱溶融し、その表面に肉盛層を形成することが行われる場合がある。特に、熱源としてレーザ光を用いるレーザ肉盛層の形成方法では、レーザ光の照射によって基材表面を局所的に溶融するとともに、その表面に金属粉末などのレーザ肉盛粉末を噴射投入することでレーザ肉盛層を形成でき、これにより基材の表面に高い耐摩耗性や耐食性を付与することができる。
【0003】
従来のレーザ肉盛層の形成方法として、例えば、特許文献1には、銅または銅合金からなる基材の表面に対してニッケル基耐熱合金粉末を供給しながらレーザ光を照射し、多層レーザ肉盛層を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では触れられていないが、銅または銅合金からなる基材はレーザ光の吸収率が低く、熱伝導性が高いため、銅または銅合金からなる基材に対してレーザ肉盛粉末を供給しつつレーザ光を照射することでレーザ肉盛層を形成したとしても、基材の溶融が不十分となり、基材界面およびレーザ肉盛層の界面において空隙などの欠陥部が生じやすいという問題がある。
【0006】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、銅または銅合金からなる基材表面にレーザ肉盛層を形成する場合であっても、基材とレーザ肉盛層との間に欠陥部が存在することを抑制できるレーザ肉盛層を有する部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のレーザ肉盛層を有する部材の製造方法は、以下の工程(a)および工程(b)を含み、複数のレーザ肉盛ビードが並列に連なりレーザ肉盛層が形成される。
前記工程(a)は、銅または銅合金からなる基材上にレーザ肉盛粉末を供給しつつレーザ光を照射し、前記レーザ肉盛粉末および前記基材を溶融することで、前記基材との間に欠陥部を有するレーザ肉盛ビードを形成する工程であり、
前記工程(b)は、前記欠陥部上の前記レーザ肉盛ビードに対してレーザ光を照射し、前記レーザ肉盛ビードと前記基材とを溶融することで、前記基材と前記レーザ肉盛ビードとの接合部を形成する工程である。
【0008】
また、本発明のレーザ肉盛層を有する部材の製造方法は、前記工程(b)において、前記レーザ肉盛ビードの溶融によって前記レーザ肉盛ビードの幅方向一方側に湯流れ部が形成され、前記工程(b)の後に、工程(c)および(d)を繰り返し行い、
前記工程(c)は、直前に形成された前記湯流れ部上に前記レーザ肉盛粉末を供給しつつレーザ光を照射し、前記レーザ肉盛粉末および前記湯流れ部を溶融することで、レーザ肉盛ビードをさらに形成する工程であり、
前記工程(d)は、前記工程(c)において形成した前記レーザ肉盛ビードに対してレーザ光を照射し、前記レーザ肉盛ビードが溶融することで、該レーザ肉盛ビードの幅方向一方側に前記湯流れ部を形成する工程である。
【0009】
本発明のレーザ肉盛層を有する部材の製造方法の好ましい特徴としては、次の(1)~(5)が挙げられる。
(1)前記工程(d)は、前記工程(c)において形成した前記レーザ肉盛ビードが前記基材との間に欠陥部を有する場合、前記欠陥部上のレーザ肉盛ビードに対してレーザ光を照射し、前記レーザ肉盛ビードが溶融することで、前記基材と前記レーザ肉盛ビードとの接合部を形成するとともに、新たに湯流れ部を形成する工程である。
(2)前記工程(c)において形成する前記レーザ肉盛ビードの幅方向中心は、前記湯流れ部上に位置する。
(3)前記工程(c)において形成する前記レーザ肉盛ビードの全域は、前記湯流れ部上に位置する。
(4)前記レーザ肉盛粉末はニッケル基合金粉末である。
(5)前記レーザ肉盛ビード中の銅の含有率は5.5wt%以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、銅または銅合金からなる基材とレーザ肉盛層との間の欠陥部を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係るレーザ肉盛層を有する部材の製造方法を示す説明図であり、
図1(a)は工程(a)の説明図、
図1(b)は工程(b)の説明図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るレーザ肉盛層を有する部材の製造方法を示す説明図であり、
図2(a)は工程(c)の説明図、
図2(b)は工程(d)の説明図である。
【
図3】本発明の一実施形態の工程(c)により形成されるレーザ肉盛層を有する部材の一例を示す側面図である。
【
図4】本発明の一実施形態の工程(c)により形成されるレーザ肉盛層を有する部材の他の一例を示す側面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るレーザ肉盛層を有する部材の製造方法の工程(d)の一例を示す説明図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係るレーザ肉盛層を有する部材の製造方法の工程(c)および工程(d)を繰り返し行うことにより形成されるレーザ肉盛層を有する部材を示す側面図である。
【
図7】本実施例に係るレーザ肉盛層を有する部材の側面を示す写真であり、
図7(a)は第一レーザ肉盛ビードを有する部材の側面を示す写真であり、
図7(b)はその拡大写真である。
【
図8】本実施例に係るレーザ肉盛層を有する部材の側面を示す写真であり、接合部および第一湯流れ部を備える第一レーザ肉盛ビードを有する部材の側面を示す写真である。
【
図9】本実施例に係るレーザ肉盛層を有する部材の側面を示す写真であり、
図9(a)は第一レーザ肉盛ビードおよび第二レーザ肉盛ビードを有する部材の側面を示す写真であり、
図9(b)はその拡大写真である。
【
図10】本実施例に係るレーザ肉盛層を有する部材の側面を示す写真であり、
図10(a)は第一レーザ肉盛ビード、第二レーザ肉盛ビード、および第三レーザ肉盛ビードを有する部材の側面を示す写真であり、
図10(b)はその拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係るレーザ肉盛層を有する部材の製造方法(以下、単に「部材の製造方法」とも言う)の一実施形態について説明する。一実施形態に係る部材の製造方法は、以下の工程(a)~工程(d)を行うことにより、複数のレーザ肉盛ビードを並列に連ねて形成することでレーザ肉盛層を形成することができる。
【0013】
図1(a)および(b)に示すように、工程(a)および工程(b)は、例えば以下のレーザ装置を用いて行うことができる。レーザ装置は、レーザ発振器(図示せず)、レーザヘッド1、および集光レンズなどの光学系3を備えるレーザ照射部と、レーザ肉盛粉末11をレーザ照射位置に供給可能な粉末供給部4とを備える。レーザ発振器の種類、レーザ光2の波長、強度、レーザ光2の焦点でのビーム形状、レーザ光2の走査速度、および粉末供給部4に流入させるキャリアガスなどは適宜設定することができる。具体的に、工程(a)において、
図1(a)の左側に示すように、レーザ発振器(図示せず)からレーザ光2が出力されてレーザヘッド1に入射され、その後、集光レンズなどが内蔵された光学系3まで到達する。光学系3に到達したレーザ光2は集光され、レーザヘッド1の下端の照射口から照射される。そして、レーザ光2はレーザヘッド1の下端直下の銅または銅合金からなる基材10表面近傍に焦点を結ぶように照射される。このとき基材10がレーザ光2を吸収して発熱し、厚み方向における基材10の一部が溶融する。続いて、粉末供給部4の上端からレーザ肉盛粉末11とキャリアガスを流入させ、レーザ照射位置にレーザ肉盛粉末11とキャリアガスを吐出させる。吐出したレーザ肉盛粉末11は、レーザ光2によって基材10とともに溶融され、
図1(a)の右側に示すように、基材10の表面にレーザ肉盛ビード12を形成する。但し、基材10として銅または銅合金からなる基材を用いる場合、図示されるように、基材10とレーザ肉盛ビード12との間に空隙などの欠陥部13が生じる場合がある。
【0014】
続いて、
図1(b)の左側に示すように、工程(b)において、レーザ照射位置をレーザ肉盛ビードの幅方向Wの一方側D1(
図1では左側、以降の図においても同じ。)にシフトして、工程(a)により形成したレーザ肉盛ビード12の端部に位置する欠陥部13上のレーザ肉盛ビード12の一部に対して材料を供給することなくレーザ光2を照射し、欠陥部13の周囲のレーザ肉盛ビード12の一部と基材10との溶融を行う。これにより、
図1(b)の右側に示すように、溶融したレーザ肉盛ビード12の一部が重力作用によってレーザ肉盛ビード12の幅方向一方側D1に向かって流れることで湯流れ部14が形成されるとともに、欠陥部13の周囲の溶融したレーザ肉盛ビード12と基材10とが接合して接合部15を形成することができる。また、その結果、欠陥部13を消失することができる。
【0015】
本実施形態において、基材10は、上述のとおり銅または銅合金からなるが、銅合金としては周知のものを利用することができ、基材10上にレーザ肉盛ビード12を形成することができればその種類は特に限定されない。基材10の寸法、厚さ、形状なども特に限定されない。
【0016】
本実施形態において、レーザ肉盛粉末11は、例えばニッケル粉末またはニッケル基合金粉末などを用いることができ、好ましくはニッケル基合金粉末である。ここで、ニッケル基合金とは、合金を構成する元素のうち、ニッケルの比率が最も高い合金のことを指す。このとき、ニッケル基合金におけるニッケルの含有率は、50質量%以上が好ましく、55質量%以上がより好ましい。ニッケル粉末またはニッケル基合金粉末などは周知のものを利用することができ、例えばニッケル基合金粉末としてはハステロイ(登録商標)C、インコネル、NiCr合金、NiCrAlY合金、および、NiAl合金などを利用することができる。ニッケルまたはニッケル基合金粉末のレーザ肉盛粉末11を用いる場合、銅とニッケルは全率固溶の関係にあるため、基材10とレーザ肉盛粉末11とを溶融するときに金属間化合物が析出しにくく、基材10とレーザ肉盛ビード12とが互いに溶融した領域におけるクラック発生を防止することができる。
【0017】
本実施形態において、レーザ肉盛ビード12は、上述の工程(a)および工程(b)を行うことにより形成することができるが、レーザ肉盛ビード12は、後述する工程(c)および工程(d)を行うことによって更に形成することができ、また、工程(c)および工程(d)を繰り返すことによって任意の数の線状のレーザ肉盛ビード12を基材10の表面に並列に形成することで、レーザ肉盛層12aを形成することができる(
図2を参照)。レーザ肉盛ビード12の断面形状は、例えば四角形、台形、半円、またはその他の不定形の形状とすることができるが、その形状は特に限定されない。
【0018】
本実施形態において、欠陥部13は、基材10とレーザ肉盛ビード12間での接合が不十分であり、それらの密着性を低減する原因となる箇所を指し、例えば空隙などが挙げられる。このような欠陥部13は、例えば基材10とレーザ肉盛ビード12との界面に位置する。基材10に対してレーザ肉盛ビード12の形成を行う場合、基材10の溶け込みが浅くなるため、欠陥部13が生じやすい。特に、欠陥部13は、溶け込みが浅いレーザ肉盛ビード12の幅方向Wの端部に生じやすい。なお、欠陥部13の数は特に制限されない。また、
図1(a)の右側の例では、1つの欠陥部13がレーザ肉盛ビード12の幅方向Wの端部に位置する例を図示しているが、これに限定されない。
【0019】
本実施形態において、湯流れ部14とは、レーザ肉盛ビード12の一部に対してレーザ光2を照射することにより、溶融したレーザ肉盛ビード12の一部がレーザ肉盛ビード12の幅方向一方側D1に向かって流れることで形成されたレーザ肉盛ビード12の一部分を指す。本実施形態において、湯流れ部14の断面形状は、例えば略三角形状であってもよいが、これに限定されない。なお、湯流れ部14は、上述の通り、レーザ照射により溶融したレーザ肉盛ビード12により形成されたものであり、通常は同じく溶融した基材と接合している。
【0020】
本実施形態において、レーザ肉盛ビード12における銅の含有率は、欠陥部13が生じない限りは、レーザ肉盛ビード12の本来の特性を発揮するために低いことが好ましい。レーザ肉盛ビード12における銅の含有率は、例えば5.5wt%以下、好ましくは4.5wt%以下である。レーザ肉盛ビード12における銅の含有率は、レーザ肉盛ビード12に含有される基材10の成分割合として規定され、エネルギー分散型X線分析(EDS)や電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)などの周知の分析方法を利用して測定することができる。レーザ肉盛ビード12における銅の含有率が5.5wt%超では、レーザ肉盛ビード12における銅または銅合金からなる基材10の含有率が多くなり、レーザ肉盛ビード12の本来の特性が低下するおそれがある。
【0021】
本実施形態において、レーザ肉盛ビード12の基材10への最大溶け込み深さは、特に限定されないが、例えば100μm以下である。レーザ肉盛ビード12の基材10への最大溶け込み深さは、溶融前の基材10の表面位置を起算点として、レーザ肉盛ビード12が最も深く溶け込んだ位置を終点とする基材10の厚さ方向の距離として規定され、周知の方法を利用して測定することができる。最大溶け込み深さが100μm超では、レーザ肉盛ビード12における銅または銅合金からなる基材10の含有率が多くなり、レーザ肉盛ビード12の本来の特性が低下するおそれがある。
【0022】
本実施形態において、レーザ肉盛ビード12の膜厚は、例えば800~1500μmとすることができる。レーザ肉盛ビード12の膜厚の下限値は特に限定されないが、レーザ肉盛ビード12の膜厚が1500μm超では、レーザ肉盛ビード12における銅または銅合金からなる基材10の含有率が多くなり、レーザ肉盛ビード12の本来の特性が低下するおそれがある。レーザ肉盛ビード12の膜厚は、周知の方法を利用して測定することができる。
【0023】
本実施形態において、以下の工程(c)および工程(d)を行うことで、レーザ肉盛ビード12を更に形成することができる。また、以下の工程(c)および工程(d)を繰り返し行うことで、レーザ肉盛ビード12を更に連続的に形成することができる。
【0024】
図2(a)の左側に示すように、工程(c)では、工程(b)または直前の工程において形成された湯流れ部14上にレーザ肉盛粉末11を供給しつつレーザ光2を照射し、基材10とレーザ肉盛粉末11と湯流れ部14との溶融を行う。これにより、
図2(a)の右側に示すように、湯流れ部14上にレーザ肉盛ビード12を更に形成することができる。なお、湯流れ部14は、上述の通り、レーザ照射により溶融したレーザ肉盛ビード12により形成されたものであり、通常は同じく溶融した基材と接合している。従って、工程(c)で形成されたレーザ肉盛ビード12に欠陥部13が生じることを抑制できる。
【0025】
なお、本実施形態において、工程(c)におけるレーザ肉盛ビード12の形成は、上述した工程(a)と同様の手順により行うことができる。また、レーザ発振器の種類、レーザ光2の波長、強度、レーザ光2の焦点でのビーム形状、レーザ光2の走査速度、粉末供給部4に流入させるキャリアガスなどは適宜設定することができる。
【0026】
図2(b)の左側に示すように、工程(d)では、レーザ肉盛ビード12の一部に対してレーザ光2を照射し、レーザ肉盛ビード12の一部と基材10との溶融を行う。これにより、
図2(b)の右側に示すように、湯流れ部14を有するレーザ肉盛ビード12を形成することができる。
【0027】
本実施形態において、工程(d)における湯流れ部14を有するレーザ肉盛ビード12の形成は、上述した工程(b)と同様の手順により行うことができる。また、レーザ発振器の種類、レーザ光2の波長、強度、レーザ光2の焦点でのビーム形状、レーザ光2の走査速度などは適宜設定することができる。
【0028】
工程(c)および工程(d)を更に行う、または、工程(c)および工程(d)を繰り返し行う本実施形態に係る部材の製造方法によると、銅または銅合金からなる基材10よりもレーザ光2の吸収率が高く、熱伝導性が高い湯流れ部14上にレーザ肉盛ビード12を形成できるため、基材10とレーザ肉盛ビード12との界面における欠陥部13の発生を低減することができる。
【0029】
図3に示すように、工程(c)において形成されるレーザ肉盛ビード12の幅方向中心20は、湯流れ部14上に位置することが好ましい。これにより、形成されるレーザ肉盛ビード12の少なくとも半分以上が湯流れ部14上に位置することとなるため、欠陥部13の発生を抑制することができる。
【0030】
図4に示すように、レーザ肉盛ビードの全域21は、工程(c)において形成されるレーザ肉盛ビード12の湯流れ部14の幅方向全域の範囲内に位置することができる。これにより、形成されるレーザ肉盛ビード12の全体が湯流れ部14上に位置することとなるため、レーザ肉盛ビード12の幅方向全域における欠陥部13の発生をより抑制することができる。
【0031】
上述の通り、湯流れ部14上に新たにレーザ肉盛ビード12を形成することで欠陥部13の発生を抑制することができるが、新たに形成されたレーザ肉盛ビード12のうち湯流れ部14上に位置しない箇所に欠陥部13が発生する場合がある。
図5の左側に示すように、工程(c)において形成したレーザ肉盛ビード12が欠陥部13を有する場合、工程(d)では、欠陥部13上のレーザ肉盛ビード12の一部に対してレーザ光2を照射し、レーザ肉盛ビード12の一部と基材10との溶融を行うことができる。これにより、
図5の右側に示すように、接合部15を形成するとともに、湯流れ部14を有するレーザ肉盛ビード12を形成するとともに欠陥部13を消失することができる。
【0032】
図6に示すように、工程(a)および工程(b)によりレーザ肉盛ビード12を形成した後、工程(c)および工程(d)を繰り返し行うことで、接合部15を備えた複数のレーザ肉盛ビード12により形成されたレーザ肉盛層12aを有する部材を製造することができる。
【実施例0033】
以下に、本発明を適用した実施例について説明する。本実施例は、本発明について例示するものであり、発明の範囲を限定するものではない。
【0034】
[実施例:第一レーザ肉盛ビード、第二レーザ肉盛ビード、および第三レーザ肉盛ビードを有する部材の形成ならびに各レーザ肉盛ビードにおける銅の含有率の測定]
基材として銅製のバルク基材10を用意し、レーザ肉盛粉末としてニッケル基合金の1つであるインコネル625(ニッケル:58質量%以上、クロム:20~23質量%、鉄:5.0質量%以下、モリブデン:8.0~10.0質量%、ニオブ(+タンタル):3.15~4.15質量%)を供給しつつレーザ光を照射することで、レーザ肉盛粉末と銅製のバルク基材10を溶融し、銅製のバルク基材10との間に欠陥部13を有する第一レーザ肉盛ビード16を形成した。第一レーザ肉盛ビード16を有する部材の側面を撮影した写真を
図7(a)に示し、その拡大写真を
図7(b)に示す。第一レーザ肉盛ビード16における銅の含有率は、
図7(b)の写真中の四角枠1内の領域においてEDSにより測定した。結果は後述する表1に示す。
【0035】
欠陥部13上の第一レーザ肉盛ビード16にレーザ光を照射することで、第一レーザ肉盛ビード16と銅製のバルク基材10とを溶融し、銅製のバルク基材10と第一レーザ肉盛ビード16との接合部15を形成した。このとき、溶融した第一レーザ肉盛ビード16の一部が第一レーザ肉盛ビード16の幅方向一方側D1に向かって流れることで、第一湯流れ部19が形成された。接合部15および第一湯流れ部19を備える第一レーザ肉盛ビード16を有する部材の側面を撮影した写真を
図8に示す。
【0036】
第一レーザ肉盛ビード16の第一湯流れ部19上にレーザ肉盛粉末としてインコネル625を供給しつつレーザ光を照射し、銅製のバルク基材10とレーザ肉盛粉末と第一湯流れ部19とを溶融することで、第二レーザ肉盛ビード17を形成した。第一レーザ肉盛ビード16および第二レーザ肉盛ビード17により形成されたレーザ肉盛層12aを有する部材の側面を撮影した写真を
図9(a)に示し、その拡大写真を
図9(b)に示す。第二レーザ肉盛ビード17における銅の含有率は、
図9(b)の写真中の四角枠1内の領域においてEDSにより測定した。結果は後述する表1に示す。
【0037】
第二レーザ肉盛ビード17の一部に対してレーザ光を照射し、第二レーザ肉盛ビード17の一部を溶融することで、第二レーザ肉盛ビード17の幅方向一方側D1に第二湯流れ部(図示せず)を形成した。続いて、第二レーザ肉盛ビード17の第二湯流れ部上にレーザ肉盛粉末としてインコネル625を供給しつつレーザ光を照射し、銅製のバルク基材10とレーザ肉盛粉末と第二湯流れ部とを溶融することで、第三レーザ肉盛ビード18を形成した。第一レーザ肉盛ビード16、第二レーザ肉盛ビード17、および第三レーザ肉盛ビード18により形成されたレーザ肉盛層12aを有する部材の側面を撮影した写真を
図10(a)に示し、その拡大写真を
図10(b)に示す。第三レーザ肉盛ビード18における銅の含有率は、
図10(b)の写真中の四角枠025内の領域においてEDSにより測定した。結果は後述する表1に示す。
【0038】
[第一レーザ肉盛ビードの評価]
図7(b)の拡大写真から分かるように、第一レーザ肉盛ビード16は、その左端部において銅製のバルク基材10との間に空隙を有しており、欠陥部13を有していた。このように、第一レーザ肉盛ビード16が欠陥部13を有する場合では、第一レーザ肉盛ビード16と銅製のバルク基材10との接合が不十分となる。
【0039】
図8の写真から分かるように、接合部15および第一湯流れ部19を備える第一レーザ肉盛ビード16を有する部材では上述した欠陥部13がなくなっており、接合部15が形成されていた。このように、接合部15および第一湯流れ部19を備える第一レーザ肉盛ビード16は、第一レーザ肉盛ビード16と銅製のバルク基材10間の接合不良を改善できていることが分かった。
【0040】
[第二レーザ肉盛ビードの評価]
図8の写真および
図9(a)の写真を比較すると分かるように、第一レーザ肉盛ビード16の第一湯流れ部19上に第二レーザ肉盛ビード17が形成されていた。第一レーザ肉盛ビード16と第二レーザ肉盛ビード17の間に欠陥部13は含まれておらず、また、第一レーザ肉盛ビード16および第二レーザ肉盛ビード17と銅製のバルク基材10との間においても欠陥部13が含まれていないことが分かった。第一レーザ肉盛ビード16の第一湯流れ部19上にのみ第二レーザ肉盛ビード17を形成したことから、銅製のバルク基材10との間で欠陥部13が生じなかったものと考えられる。
【0041】
[第三レーザ肉盛ビードの評価]
図9(a)の写真および
図10(a)の写真を比較すると分かるように、欠陥部13を含まない第三レーザ肉盛ビード18が形成されていた。このように、レーザ肉盛ビード12の形成工程を繰り返し行うことで、銅製のバルク基材10との間の欠陥部13を低減させつつ、銅製のバルク基材10の表面にレーザ肉盛ビード12を並列に連ねて形成することによりレーザ肉盛層12aを形成できることが分かった。
【0042】
[各レーザ肉盛ビードにおける銅の含有率の評価]
第一レーザ肉盛ビード16、第二レーザ肉盛ビード17および第三レーザ肉盛ビード18のそれぞれについて、銅の含有率の測定を行った結果を表1に示す。
【0043】
【0044】
表1から分かるように、第一レーザ肉盛ビード16、第二レーザ肉盛ビード17および第三レーザ肉盛ビード18における銅の含有率は、いずれも5.5wt%以下であった。すなわち、各レーザ肉盛ビード12における銅の含有率は低いことを示しており、各レーザ肉盛ビード12はレーザ肉盛粉末(本実施例ではニッケル基合金)の性質に基づく特性を有することが分かった。
【0045】
通常であれば、レーザ肉盛ビード12における銅の含有率が5.5wt%以下となる場合は、溶け込み深さが十分でないため、レーザ肉盛ビード12と銅製のバルク基材10間において欠陥部13が生じやすいことが分かっている。しかし、本実施例に係るレーザ肉盛ビード12の形成方法では、この欠陥部13上のレーザ肉盛ビード12の一部に対してレーザ光を照射し、欠陥部13の周囲のレーザ肉盛ビード12の一部と銅製のバルク基材10との溶融を行うことで接合部15を形成することができ、欠陥部13を低減できることが分かった。