(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038882
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】山留壁の補強構造
(51)【国際特許分類】
E02D 17/04 20060101AFI20240313BHJP
【FI】
E02D17/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143219
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】村木 佑
(72)【発明者】
【氏名】實松 俊明
(72)【発明者】
【氏名】松長 龍之介
(72)【発明者】
【氏名】田代 峰一
(72)【発明者】
【氏名】浅野 利三郎
(72)【発明者】
【氏名】堀井 隆
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 辰郎
(72)【発明者】
【氏名】伊東 宏
(72)【発明者】
【氏名】福島 隆
(72)【発明者】
【氏名】岡安 隆史
(72)【発明者】
【氏名】原田 直哉
(72)【発明者】
【氏名】藤井 幸雄
(57)【要約】
【課題】山留壁を好適に補強できる補強構造等を提供する。
【解決手段】山留壁2の補強構造1は、頭繋ぎ梁11と反力杭12を有する。頭繋ぎ梁11は、山留壁2の平面の一辺の外側に配置され、山留壁2の当該一辺の頂部に連結され、且つ端部が山留壁2の当該一辺の端部から張り出すように設けられる。反力杭12は、頭繋ぎ梁11の端部の掘削範囲30側の地盤3に設けられ、頭繋ぎ梁11の端部に当接する。頭繋ぎ梁11は、現場打ちのコンクリートによって形成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
山留壁の平面の一辺の側方に配置された梁材であって、前記山留壁の前記一辺の頂部に連結され、且つ端部が前記山留壁の前記一辺の端部から張り出すように設けられる梁材と、
前記梁材の前記端部の地盤に設けられ、前記山留壁の前記一辺に加わる土圧が前記梁材を介して伝達される杭体と、
を有することを特徴とする山留壁の補強構造。
【請求項2】
前記梁材がコンクリートによって形成されたことを特徴とする請求項1記載の山留壁の補強構造。
【請求項3】
前記杭体にH形鋼が用いられ、
前記杭体のフランジが前記梁材のコンクリートに当接することを特徴とする請求項2記載の山留壁の補強構造。
【請求項4】
前記梁材に、前記山留壁の前記一辺と直交する辺に沿って延伸する延伸部分が設けられ、
前記延伸部分が、前記山留壁の前記直交する辺の頂部に連結されたことを特徴とする請求項1記載の山留壁の補強構造。
【請求項5】
前記梁材は、矩形状の前記山留壁の短辺に沿って配置され、
前記山留壁の内側の矩形状の掘削範囲において、前記掘削範囲の短辺方向の切梁が設けられ、前記掘削範囲の長辺方向の切梁が省略されたことを特徴とする請求項1記載の山留壁の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山留壁の補強構造等に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤の掘削工事を行う際に生じる山留壁の変位を抑制するために、山留壁の頂部に頭繋ぎ梁を連結し、プレストレスをかける工法が存在している。
【0003】
例えば特許文献1、2には、山留壁の頂部に頭繋ぎ梁として固定梁や横架材を連結し、これらの頭繋ぎ梁に、梁軸方向のPC鋼材などを用いてプレストレスを導入することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-57750号公報
【特許文献2】特開平6-57741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の頭繋ぎ梁による山留壁の補強構造は、矩形状の平面を有する山留壁の4つの辺の全てに頭繋ぎ梁を設け、頭繋ぎ梁全体としてみたときに、各辺の頭繋ぎ梁の反力を打ち消し合うものとして設計されている。そのため、山留壁が平面視で凹凸のある形状となる場合や、矩形状の山留壁の1つまたは2つの辺のみに頭繋ぎ梁を採用する場合への対応が出来なかった。
【0006】
また特許文献2では、山留壁と連結した反力柱を地盤に設けることも記載されているが、
図7に示すように、山留壁200と連結した反力柱201が山留壁200の外側近傍に位置していると、掘削に伴い、山留壁200とその外側近傍の土塊(図中aで示す主働崩壊線の上方の土塊)が同時に変位する際に、当該土塊内に位置する反力柱201について地盤反力を見込むことが出来ず、十分な反力伝達効果を得られない恐れがある。なお図中bは、山留壁200について上記の変位を示したものである。
【0007】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、山留壁を好適に補強できる補強構造等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した課題を解決するための本発明は、山留壁の平面の一辺の側方に配置された梁材であって、前記山留壁の前記一辺の頂部に連結され、且つ端部が前記山留壁の前記一辺の端部から張り出すように設けられる梁材と、前記梁材の前記端部の地盤に設けられ、前記山留壁の前記一辺に加わる土圧が前記梁材を介して伝達される杭体と、を有することを特徴とする山留壁の補強構造である。
【0009】
本発明では、山留壁の一辺に設けた頭繋ぎ梁とその端部の反力杭により、山留壁の個々の辺に加わる土圧を独立して(他の辺とは関係無く)支持できるので、頭繋ぎ梁を矩形状に設ける必要が無く、より自由度の高い山留壁と頭繋ぎ梁の設計が可能となる。例えば、本発明の補強構造では、矩形状の山留壁の1つもしくは2つの辺のみに頭繋ぎ梁を設けることも可能であり、また山留壁が平面視で凹凸のある形状でも適用できる。さらに本発明では、山留壁に加わる土圧を、頭繋ぎ梁を介して反力杭に流し、山留壁に作用する力を効率的に地盤に伝えることが出来る。反力杭は山留壁の一辺の外側近傍ではなく、当該一辺の端部の隣に位置する地盤に設けられるので、地盤内の反力杭について、十分な地盤反力を見込むことができる。
【0010】
前記梁材がコンクリートによって形成されることが望ましい。
これにより、十分な耐力を有する梁材を容易に施工できる。
【0011】
前記杭体にH形鋼が用いられ、前記杭体のフランジが前記梁材のコンクリートに当接することが望ましい。
これにより、梁材と杭体の間の力の伝達を簡易な構成で行うことができる。
【0012】
前記梁材に、前記山留壁の前記一辺と直交する辺に沿って延伸する延伸部分が設けられ、前記延伸部分が、前記山留壁の前記直交する辺の頂部に連結されることが望ましい。
これにより、山留壁の一辺に加わる土圧を効果的に支持することができ、反力杭の本数を削減することも可能になる。
【0013】
前記梁材は、矩形状の前記山留壁の短辺に沿って配置され、前記山留壁の内側の矩形状の掘削範囲において、前記掘削範囲の短辺方向の切梁が設けられ、前記掘削範囲の長辺方向の切梁が省略されることも望ましい。
これにより、頭繋ぎ梁の断面寸法を小さく抑えることができ、また割高な長辺方向の切梁の使用を避けることで、頭繋ぎ梁や切梁のコストを低減することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、山留壁を好適に補強できる補強構造等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】頭繋ぎ梁11と山留壁2との連結箇所を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
図1(a)は、本発明の実施形態に係る山留壁2の補強構造1を示す平面図であり、
図1(b)は
図1(a)の線A-Aによる鉛直断面を示したものである。
【0018】
本実施形態では、山留壁2が、平面視において、矩形状の掘削範囲30を囲むように矩形状に配置される。山留壁2は、親杭横矢板工法によって構築されたものであり、H形鋼による芯材21(親杭)を地盤3の掘削範囲30の外周に沿って間隔を空けて配設し、隣り合う芯材21間に横矢板22を配置したものである。
【0019】
本実施形態の補強構造1は、頭繋ぎ梁11と反力杭12を有し、山留壁2の外側の地盤3に設けられる。なお山留壁2の外側とは、掘削範囲30の反対側を指すものとする。これに対し、山留壁2の掘削範囲30側は、山留壁2の内側というものとする。
【0020】
頭繋ぎ梁11は、山留壁2の短辺(一辺)の外側に沿って配置され、山留壁2の短辺の頂部に連結される梁材である。頭繋ぎ梁11の両端部は、山留壁2の短辺の両端部から張り出す。その張出長は、掘削範囲30の掘削深さや地盤3の地盤物性等に応じて設定することができるが、それほど長くする必要は無い。
【0021】
頭繋ぎ梁11は、山留壁2の短辺の外側の地盤3に形成された溝31内に、現場打ちのコンクリートを打設することで構築できる。必要に応じ、コンクリートの内部に鉄筋などの補強材を設けることも可能である。
【0022】
図2は、頭繋ぎ梁11の山留壁2の頂部への連結箇所について、鉛直断面を示したものである。本実施形態では、山留壁2の芯材21のフランジの孔(不図示)にボルト13を挿入し、フランジの両側からボルト13にナット14を螺合してこれらのナット14によりフランジを挟持することで、ボルト13の一方の端部がフランジに固定される。ボルト13の他方の端部は、頭繋ぎ梁11のコンクリートに埋設される。
【0023】
これにより、頭繋ぎ梁11がボルト13を介して山留壁2に連結され、引張力を伝達できる構造となる。しかしながら、頭繋ぎ梁11の構成および山留壁2との連結方法がこれに限ることはなく、頭繋ぎ梁11と山留壁2とが連結可能であればよい。例えば山留壁2の芯材21等から突出する鉄筋等を頭繋ぎ梁11のコンクリートに埋設することも可能である。
【0024】
反力杭12は、頭繋ぎ梁11の両端部の掘削範囲30側の地盤3に設けられる杭体である。本実施形態では反力杭12としてH形鋼を用い、
図1(a)に示すように、反力杭12のフランジと頭繋ぎ梁11の端部とを当接させる。
【0025】
説明のため
図1では図示を省略したが、実際には、
図3に示すように、山留壁2の内側の地盤3を掘削する際は、地盤3の掘削範囲30に切梁4が設けられる。
図3(a)、(b)はそれぞれ
図1(a)、(b)に対応する図である。これは後述の
図4、5についても同様である。
【0026】
本実施形態では山留壁2の短辺に補強構造1が設けられるので、切梁4は、山留壁2の長辺に加わる土圧を支持させるため、掘削範囲30の短辺方向に設けられる。切梁4は、掘削範囲30の長辺方向に間隔を空けて複数本配置される。
【0027】
山留壁2の短辺に加わる土圧は、頭繋ぎ梁11を介して反力杭12に伝達され、反力杭12の周囲の地盤3によって支持される。反力杭12と頭繋ぎ梁11とは、反力杭12のフランジ面と頭繋ぎ梁11のコンクリートの支圧により応力を伝達する。反力杭12と地盤3とは、反力杭12のフランジ面と地盤3との受動土圧により応力を伝達する。反力杭12の打込み本数は、地盤3の物性等から定めることができる。また反力杭12のピッチやサイズは、山留壁2の短辺の外側の土圧等から定めることができる。
【0028】
山留壁2の内側の地盤3を掘削した後、
図4に示すように、地盤3の掘削範囲30に構造物の底部の躯体5を構築する。本実施形態では、山留壁2の長辺間を連結する躯体5を、
図5の矢印cに示すように掘削範囲30の長辺方向に片押し方式で構築する。そして、躯体5を構築した箇所で順次切梁4を撤去することで、躯体5の上方を開放することが可能であり、上階の工事に早期に取り掛かることができる。
【0029】
以上説明したように、本実施形態では、山留壁2の一辺に設けた頭繋ぎ梁11とその端部の反力杭12により、山留壁2の個々の辺に加わる土圧を独立して(他の辺とは関係無く)支持できるので、頭繋ぎ梁11を矩形状に設ける必要が無く、より自由度の高い山留壁2と頭繋ぎ梁11の設計が可能となる。
【0030】
例えば、本実施形態の補強構造1では、頭繋ぎ梁11を、山留壁2の任意の辺に設けることが可能であり、山留壁2の1つもしくは2つの辺のみに頭繋ぎ梁11を設けることが可能である。本実施形態では山留壁2の短辺に沿って頭繋ぎ梁11を設けているが、山留壁2の長辺に沿って頭繋ぎ梁11を設け、当該頭繋ぎ梁11を含む補強構造1によって山留壁2の長辺に加わる土圧を支持させることも可能である。
【0031】
また本実施形態の補強構造1は、山留壁2が平面視で凹凸のある形状でも適用でき、山留壁2の形状は掘削範囲30に応じた任意の形状とできる。また頭繋ぎ梁11の一方の端部のみ、山留壁2の一辺の端部から張り出させ、当該一辺の他方の端部に関しては、山留壁2の一辺に加わる土圧を、火打や腹起し等の支保工(不図示)を介して山留壁2の当該一辺と直交する辺に伝達することもできる。
【0032】
また本実施形態では、山留壁2に加わる土圧を、頭繋ぎ梁11を介して反力杭12に流し、山留壁2に作用する力を効率的に地盤3に伝えることが出来る。反力杭12は山留壁2の一辺の外側近傍ではなく、当該一辺の端部の隣に位置する地盤3に設けられるので、地盤3内の反力杭12について、十分な地盤反力を見込むことができる。
【0033】
また本実施形態では、コンクリートによって頭繋ぎ梁11を構築することで、十分な耐力を有する頭繋ぎ梁11を容易に施工できる。本実施形態では現場打ちのコンクリートによって頭繋ぎ梁11を構築することで、頭繋ぎ梁11の施工がより容易になる。ただし、頭繋ぎ梁11をプレキャストコンクリートによるものとしてもよい。なお本実施形態の頭繋ぎ梁11においてプレストレスは必須ではないが、従来と同様、梁軸方向のPC鋼材によりプレストレスをかけることは可能である。
【0034】
また頭繋ぎ梁11と反力杭12を当接させることで、頭繋ぎ梁11と反力杭12の間の力の伝達を簡易な構成で行うことができる。
【0035】
また本実施形態では、山留壁2の短辺に沿って頭繋ぎ梁11が配置されるため、頭繋ぎ梁11が必要とする剛性は、山留壁2の長辺に沿って頭繋ぎ梁11を配置する場合に比べて低下する(必要な剛性が山留壁2の辺の長さの2乗に比例するため)。その結果、頭繋ぎ梁11の断面寸法を小さく抑えることができ、コスト低減に寄与することが出来る。
【0036】
また頭繋ぎ梁11を含む補強構造1によって山留壁2の短辺に加わる土圧が支持されることから、本実施形態では、掘削範囲30の長辺方向の切梁4は省略され、掘削範囲30の短辺方向の切梁4のみが設置される。このように、山留壁2の支保工として短辺方向の切梁4のみを用いることで、割高な長辺方向の切梁4の使用を避けてコストを低減でき、また躯体工事に早期に着手できて工期短縮にも寄与する。
【0037】
また仮に、切梁4が掘削範囲30の長辺方向と短辺方向の双方に配置されている場合、躯体5を長辺方向に片押し施工する際に短辺方向の切梁4を撤去できても長辺方向の切梁4は残るが、本実施形態では短辺方向の切梁4を撤去することで躯体5の上方を開放でき、上階の工事に早期に取り掛かることができる。
【0038】
しかしながら、本発明は以上の実施形態に限定されない。例えば
図6(a)の補強構造1aに示すように、頭繋ぎ梁11から山留壁2の長辺に沿って延伸する延伸部分11aを設け、当該延伸部分11aを山留壁2の長辺の頂部に連結することで、山留壁2の短辺に加わる土圧を、これと平面視で直交する山留壁2の長辺に伝達することも可能である。これにより、山留壁2の短辺に加わる土圧を効果的に支持することができ、反力杭12の本数を削減することも可能になる。
【0039】
図6(b)は
図6(a)の線B-Bに沿った断面を示す図である。頭繋ぎ梁11の延伸部分11aは、コンクリートにより頭繋ぎ梁11と一体に形成され、山留壁2の芯材21の頂部を巻き込むように配置される。延伸部分11aは、例えば、山留壁2の長辺の頭部の地盤3を掘削、除去して形成した溝に、現場打ちのコンクリートを打設することで形成できる。なお、延伸部分11aを山留壁2の長辺の外側の地盤3に設け、当該延伸部分11aと山留壁2の長辺の頂部とを
図2と同様の方法で連結することも可能である。
【0040】
また本実施形態では山留壁2の外側に頭繋ぎ梁11を設けているが、山留壁2の内側に頭繋ぎ梁11を設けることも可能である。さらに、山留壁2の構成も前記に限らず、例えばSMW工法などの連壁工法やシートパイル工法により山留壁を構築する場合も、本発明は適用可能である。前者の場合は、地盤3の溝等に建て込んだ芯材であるH形鋼と頭繋ぎ梁11とを
図2と同様の方法で連結することができ、後者の場合も、ボルト13の一方の端部をシートパイル(鋼矢板)にナット14で固定し、ボルト13の他方の端部を頭繋ぎ梁11のコンクリートに埋設することで、山留壁と頭繋ぎ梁11とを連結することが可能である。
【0041】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0042】
1、1a:補強構造
2、200:山留壁
3:地盤
4:切梁
5:躯体
11:頭繋ぎ梁
11a:延伸部分
12:反力杭
13:ボルト
14:ナット