(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038888
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】マルチレベル出力ゲート駆動装置及びゲート電圧制御方法
(51)【国際特許分類】
H03K 17/16 20060101AFI20240313BHJP
H03K 17/60 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
H03K17/16 G
H03K17/60 Z
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143226
(22)【出願日】2022-09-08
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】591143021
【氏名又は名称】イサハヤ電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蒲池 晴希
【テーマコード(参考)】
5J055
【Fターム(参考)】
5J055AX05
5J055AX55
5J055AX65
5J055BX16
5J055CX07
5J055DX09
5J055DX61
5J055EX01
5J055EX14
5J055EY21
5J055EZ07
5J055EZ20
5J055EZ38
5J055GX01
5J055GX02
5J055GX04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】IGBTをゲートターンオンする時に、ゲート電圧を早く上昇させ、コレクタ電圧がテールを引くのを抑制して、損失の発生を低減させる。
【解決手段】マルチレベル出力ゲート駆動装置において、高電圧D/A変換回路は、正側出力用端子(P1~Pn)にゲート、レベルシフト回路(LS1~LSn)の一端側にドレイン、負バイアス電源(En)にソースが接続される正側nチャネルMOSFET(Q1~Qn)と、LS1~LSnの他端側にゲート、正側抵抗(Rp1~Rpn)の一端側にドレイン、正バイアス電源(Ep)にソースが接続されるpチャネルMOSFET(Qp1~Qpn)と、負側出力用端子(N1~Nm)にゲート、負側抵抗(Rn1~Rnm)の一端側にドレイン、Enにソースが接続される負側nチャネルMOSFET(Qn1~Qnm)を有する。正側抵抗及び負側抵抗の他端側は、バッファー回路のベースに接続されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号を受けて電圧駆動型パワーデバイスを駆動するためのゲート電圧(Vg)を制御可能なマルチレベル出力ゲート駆動装置であって、
入力信号用端子(IN)、複数の正側出力用端子(P1~Pn)及び複数の負側出力用端子(N1~Nm)を有するデジタル信号出力回路と、高電圧D/A変換回路と、NPNトランジスタ(Qb1)とPNPトランジスタ(Qb2)のベース同士とエミッタ同士を接続したバッファー回路とを備え、
前記高電圧D/A変換回路は、
前記複数の正側出力用端子(P1~Pn)にゲートが接続され、複数のレベルシフト回路(LS1~LSn)の一端側にドレインが接続される複数の正側nチャネルMOSFET(Q1~Qn)と、
前記複数のレベルシフト回路(LS1~LSn)の他端側にゲートが接続され、複数の正側抵抗(Rp1~Rpn)の一端側にドレインが接続される複数のpチャネルMOSFET(Qp1~Qpn)と、
前記複数の負側出力用端子(N1~Nm)にゲートが接続され、複数の負側抵抗(Rn1~Rnm)の一端側にドレインが接続される複数の負側nチャネルMOSFET(Qn1~Qnm)と、を有し、
前記複数の正側nチャネルMOSFET(Q1~Qn)のソース、前記複数の負側nチャネルMOSFET(Qn1~Qnm)のソース及び前記PNPトランジスタ(Qb2)のコレクタが負バイアス電源(En)に接続若しくは接地され、
前記複数のpチャネルMOSFET(Qp1~Qpn)のソース及び前記NPNトランジスタ(Qb1)のコレクタが正バイアス電源(Ep)に接続され、
前記複数の正側抵抗(Rp1~Rpn)の他端側及び前記複数の負側抵抗(Rn1~Rnm)の他端側は共通接続されるとともに、前記バッファー回路のベースに接続され、
前記バッファー回路のエミッタから出力される出力電圧(Vo)を、前記デジタル信号出力回路の前記複数の正側出力用端子(P1~Pn)及び前記複数の負側出力用端子(N1~Nm)から出力されるデジタル信号の組合せに応じた電圧値に制御する
ことを特徴とするマルチレベル出力ゲート駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載のマルチレベル出力ゲート駆動装置を用いて、前記電圧駆動型パワーデバイスをターンオンする時における前記出力電圧(Vo)を制御するゲート電圧制御方法であって、
前記入力信号がローレベルからハイレベルに変化したタイミングで、前記出力電圧(Vo)を前記正バイアス電源(Ep)の正電源電圧(VCC)の95%以下である前記電圧駆動型パワーデバイスの標準正バイアス電圧に制御し、
前記出力電圧(Vo)を前記標準正バイアス電圧に制御してから一定時間が経過した後、所定期間に亘って前記標準正バイアス電圧の105~130%であるブースト電圧に制御し、
前記所定期間の経過後に前記出力電圧(Vo)を前記標準正バイアス電圧に制御する
ことを特徴とするゲート電圧制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予め設定した複数レベルのゲート電圧を出力することが可能なマルチレベル出力ゲート駆動装置及び同駆動装置を利用したゲート電圧制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のデジタル制御ゲート駆動回路においては、パワーデバイスのスイッチング動作に対し、スイッチ素子のオンする数を変更することで、その出力部の抵抗合成値として決定されるゲート抵抗値を変化させてゲート電圧を制御していたが、最終的に到達するゲート電圧は電源電圧とほぼ同等値となり、任意の電圧に一定時間保持することが難しかった。
また、種類の違うパワーデバイスであって、標準ゲートバイアス電圧が異なるものや負バイアス定格電圧の制約が異なるものに対してゲート電圧を印加する場合、電源電圧をパワーデバイスの種類毎に設計し直す必要があった。さらに、D/A変換部や電圧増幅部にはICを使用していたため高コストになってしまうという問題もあった。
【0003】
例えば、特許文献1(特開平11-150462号公報)には、D/Aコンバータ(1)、CRフィルタ(2)、ディジタルシーケンス回路(3)及び水晶発振器(4)で構成されるゲート電圧パターン発生器並びに電圧ホロワー(4A)、非反転増幅器(4B)及びトランジスタ増幅回路(4C)で構成されるゲート電圧駆動アンプの例が記載されており(特に、段落0033~0035、0045~0046及び
図6、10を参照)、そのゲート電圧パターン発生器及びゲート電圧駆動アンプを利用すると、
図8に示すようなゲート駆動回路が得られる。
しかし、このゲート駆動回路では、D/Aコンバータ(1)の出力が5V程度であり、素子のゲート駆動電圧としては不足するので、電圧増幅のためのオペアンプ回路が必要である。また、このオペアンプには実用上30V以上の耐圧が求められ、IGBTやMOSFETといった高速スイッチング素子へ対応するに足りる高速応答性が必要となるため、使用する素子の選択肢が狭く高額品になってしまいコスト高となる。
【0004】
また、特許文献2(特開2019-154134号公報)には、第1のIGBT(3a)のゲート(G)にゲートドライバ(11)が接続され、ゲートドライバ(11)が有する63対の駆動回路(12)に63対のプレドライバ(18)や、デコーダ(17)、レベルシフタ(16)等を介して、ドライバ制御回路(21)が接続され、ドライバ制御回路(21)に入力コネクタ(22)及び信号入力器(23)が接続されて構成されたゲート駆動装置(2)が記載されている(特に、段落0021~0026及び
図3を参照)。そして、このゲート駆動装置(2)は、ドライバ制御回路(21)において、入力信号(23a)に応じパルスパターンの記憶手段(32)に記憶されたデータに基づき、63対の駆動回路(12)に対して、ゲートドライバの制御信号生成手段(35)から12bitの信号(35a)が出力される。すると、ゲートドライバ(11)は、受信した信号(35a)に応じて、各スイッチング素子(12a),(12b)がオンオフされ、IGBT(3a),(3b)のデバイス特性に応じた制御を行うことができる(特に、段落0035及び
図2、3を参照)。
しかし、このゲート駆動装置(2)は、IGBT(3a),(3b)をオンする時はスイッチング素子(12a)のオン数でゲート充電電流値を変化させ、オフする時はスイッチング素子(12b)のオン数で放電電流値を変化させる方式であり、IGBT(3a),(3b)のゲート電圧をV1とV2の間の中間電位で一定時間保持するには、その設定電圧に到達した後ゲートドライバ(11)の出力を高インピーダンス状態にする必要があるため、高インピーダンス状態である間はゲート電圧が安定しにくいという問題がある。また、違う種類のデバイスでゲート正バイアス標準値が変われば電源電圧(V1)を設計変更する必要がある。
【0005】
さらに、ゲート駆動回路を用いてIGBTをゲートターンオンする時における従来のゲート電圧波形、コレクタ電圧波形及びコレクタ電流波形は、
図9に示すように変化するが、IGBTのミラー効果のためにゲート電圧が上がりにくく、コレクタ電圧は下がりにくくテールを引くため、損失が発生してしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-150462号公報(特許第3692740号公報)
【特許文献2】特開2019-154134号公報(特許第7025007号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような問題を解決し、安価な素子を利用可能であるにもかかわらず、小型化、高速応答化がし易く、予め設定した複数のゲート電圧レベルの出力が可能であり、ゲート電圧の最大定格、標準正バイアス電圧及び負バイアス定格電圧が違うパワーデバイスに対して、プログラミング変更のみでゲート電圧レベルを調整することができるマルチレベル出力ゲート駆動装置の提供を第1の課題としている。
また、IGBTをゲートターンオンする時に、ゲート電圧を早く上昇させコレクタ電圧がテールを引くのを抑制して、損失の発生を低減させることを第2の課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、入力信号(IN1)を受けて電圧駆動型パワーデバイスを駆動するためのゲート電圧(Vg)を制御可能なマルチレベル出力ゲート駆動装置であって、
入力信号用端子(IN)、複数の正側出力用端子(P1~Pn)及び複数の負側出力用端子(N1~Nm)を有するデジタル信号出力回路と、高電圧D/A変換回路と、NPNトランジスタ(Qb1)とPNPトランジスタ(Qb2)のベース同士とエミッタ同士を接続したバッファー回路とを備え、
前記高電圧D/A変換回路は、
前記複数の正側出力用端子(P1~Pn)にゲートが接続され、複数のレベルシフト回路(LS1~LSn)の一端側にドレインが接続される複数の正側nチャネルMOSFET(Q1~Qn)と、
前記複数のレベルシフト回路(LS1~LSn)の他端側にゲートが接続され、複数の正側抵抗(Rp1~Rpn)の一端側にドレインが接続される複数のpチャネルMOSFET(Qp1~Qpn)と、
前記複数の負側出力用端子(N1~Nm)にゲートが接続され、複数の負側抵抗(Rn1~Rnm)の一端側にドレインが接続される複数の負側nチャネルMOSFET(Qn1~Qnm)と、を有し、
前記複数の正側nチャネルMOSFET(Q1~Qn)のソース、前記複数の負側nチャネルMOSFET(Qn1~Qnm)のソース及び前記PNPトランジスタ(Qb2)のコレクタが負バイアス電源(En)に接続若しくは接地され、
前記複数のpチャネルMOSFET(Qp1~Qpn)のソース及び前記NPNトランジスタ(Qb1)のコレクタが正バイアス電源(Ep)に接続され、
前記複数の正側抵抗(Rp1~Rpn)の他端側及び前記複数の負側抵抗(Rn1~Rnm)の他端側は共通接続されるとともに、前記バッファー回路のベースに接続され、
前記バッファー回路のエミッタから出力される出力電圧(Vo)を、前記デジタル信号出力回路の前記複数の正側出力用端子(P1~Pn)及び前記複数の負側出力用端子(N1~Nm)から出力されるデジタル信号の組合せに応じた電圧値に制御することを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のマルチレベル出力ゲート駆動装置を用いて、前記電圧駆動型パワーデバイスをターンオンする時における前記出力電圧(Vo)を制御するゲート電圧制御方法であって、
前記入力信号(IN1)がローレベルからハイレベルに変化したタイミングで、前記出力電圧(Vo)を前記正バイアス電源(Ep)の正電源電圧(VCC)の95%以下である前記電圧駆動型パワーデバイスの標準正バイアス電圧に制御し、
前記出力電圧(Vo)を前記標準正バイアス電圧に制御してから一定時間が経過した後、所定期間に亘って前記標準正バイアス電圧の105~130%であるブースト電圧に制御し、
前記所定期間の経過後に前記出力電圧(Vo)を前記標準正バイアス電圧に制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明のマルチレベル出力ゲート駆動装置は、デジタル信号出力回路と、高電圧D/A変換回路と、バッファー回路とを備え、高電圧D/A変換回路が請求項1に記載した構成(
図1に示す構成)となっていることにより、出力電圧(Vo)を、デジタル信号出力回路の複数の正側出力用端子(P1~Pn)及び複数の負側出力用端子(N1~Nm)から出力されるデジタル信号の組合せに応じた電圧値に制御してバッファー回路のエミッタから出力することができる。そのため、(1)安価な素子を利用可能であるにもかかわらず、小型化、高速応答化がし易い、(2)予め設定した複数のゲート電圧レベルの出力が可能、(3)ゲート電圧の最大定格、標準正バイアス電圧及び負バイアス定格電圧が違うパワーデバイスに対して、デジタル信号出力回路におけるプログラミング変更のみでゲート電圧レベルを調整可能、といった効果を奏する。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、請求項1に記載のマルチレベル出力ゲート駆動装置を用いて、入力信号(IN1)がローレベルからハイレベルに変化したタイミングで、出力電圧(Vo)を正電源電圧(VCC)の95%以下である電圧駆動型パワーデバイスの標準正バイアス電圧に制御し、出力電圧(Vo)を標準正バイアス電圧に制御してから一定時間が経過した後、所定期間に亘って標準正バイアス電圧の105~130%であるブースト電圧に制御し、所定期間の経過後に出力電圧(Vo)を標準正バイアス電圧に制御するので、電圧駆動型パワーデバイスをゲートターンオンする時におけるゲート電圧(Vg)を早く上昇させ、コレクタ電圧がテールを引くのを抑制して、損失の発生を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1におけるマルチレベル出力ゲート駆動装置の構成を示す図。
【
図2】実施例1におけるD/A出力及び出力電圧(Vo)のイメージ波形を示す図。
【
図3】
図2のイメージ波形を形成するための真理値表。
【
図4】実施例2における出力電圧(Vo)の波形並びにIGBTのゲート電圧波形、コレクタ電圧波形及びコレクタ電流波形を示す図。
【
図5】実施例2における入力信号(IN1)の波形並びにD/A出力及び出力電圧(Vo)のイメージ波形を示す図。
【
図6】
図5のイメージ波形を形成するための真理値表。
【
図8】特許文献1から得られるゲート駆動回路の構成を示す図。
【
図9】従来のゲート電圧波形、コレクタ電圧波形及びコレクタ電流波形を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施例によって本発明の実施形態を説明する。
【実施例0014】
図1は、実施例1におけるマルチレベル出力ゲート駆動装置の構成を示す図であり、以下、
図1を用いて同装置の各構成について説明する。
(1)プログラマブルロジックデバイス(PLD)
プログラマブルロジックデバイス(PLD)は、マイコン、Complex Programmable Logic Device(CPLD)、Field Programmable Gate Array(FPGA)等を含むデバイスの総称である。
入力信号(IN1)を入力するための入力信号用端子(IN)、正側出力用端子(P1~Pn)、負側出力用端子(N1~Nm)、電源端子(E1)及びグランド端子(GND)を有し、グランド端子(GND)は負バイアス電源(En)に接続されており、電源端子(E1)の電位は負バイアス電源(En)の電圧値である負電源電圧(VEE)より3.3~5V高いVdspに維持されている。
そして、予め設定可能なプログラムによって、正側出力用端子(P1~Pn)及び負側出力用端子(N1~Nm)から出力され、後述する出力インピーダンス可変高電圧デジタル/アナログ変換回路(以下「高電圧D/A変換回路」という。)の正側nチャネルMOSFET(Q1~Qn)のゲートにそれぞれ入力されるP入力1~n及び高電圧D/A変換回路の負側nチャネルMOSFET(Qn1~Qnm)のゲートにそれぞれ入力されるN入力1~mをローレベル(L)とするかハイレベル(H)とするか、予め定めた区間ごとに決定し制御することができる。
なお、区間数は必要に応じて予め設定できるが、実施例1では区間数8の例について説明する。また、入力信号(IN1)の立ち上がり及び立ち下がりを契機として、P入力1~n又はN入力1~mを変化させるタイミングを設定することができるが、P入力1~nにおけるLとHの異なる組合せの数は2
nであり、N入力1~mにおけるLとHの異なる組合せの数は2
mであるから、各区間に設定可能なLとHの異なる全組合せは2
n×2
mとなる。
【0015】
(2)高電圧D/A変換回路(
図1の点線で囲った部分)
プログラマブルロジックデバイス(PLD)の正側出力用端子(P1~Pn)にゲートが接続され、レベルシフト回路(LS1~LSn)の一端側にドレインが接続される正側nチャネルMOSFET(Q1~Qn)と、レベルシフト回路(LS1~LSn)の他端側にゲートが接続され、正側抵抗(Rp1~Rpn)の一端側にドレインが接続されるpチャネルMOSFET(Qp1~Qpn)と、プログラマブルロジックデバイス(PLD)の負側出力用端子(N1~Nm)にゲートが接続され、負側抵抗(Rn1~Rnm)の一端側にドレインが接続される負側nチャネルMOSFET(Qn1~Qnm)と、を有し、
正側nチャネルMOSFET(Q1~Qn)のソース及び負側nチャネルMOSFET(Qn1~Qnm)のソースは、いずれも負バイアス電源(En)に接続され、pチャネルMOSFET(Qp1~Qpn)のソースは、いずれも正バイアス電源(Ep)に接続され、正側抵抗(Rp1~Rpn)及び負側抵抗(Rn1~Rnm)の他端側は共通接続されている。
そうすると、正側抵抗(Rp1~Rpn)及び負側抵抗(Rn1~Rnm)の共通接続点から出力されるD/A出力は、pチャネルMOSFET(Qp1~Qpn)と負側nチャネルMOSFET(Qn1~Qnm)のオンオフの組合せ及び正側抵抗(Rp1~Rpn)と負側抵抗(Rn1~Rnm)の抵抗値によって決まる合成抵抗値の抵抗分割比に対応する電圧となる。
【0016】
(3)バッファー回路(
図1の一点鎖線で囲った部分)
ベース同士及びエミッタ同士が接続されているNPNトランジスタ(Qb1)とPNPトランジスタ(Qb2)を有し、NPNトランジスタ(Qb1)とPNPトランジスタ(Qb2)のベースは、正側抵抗(Rp1~Rpn)の他端側及び負側抵抗(Rn1~Rnm)の他端側に接続され、NPNトランジスタ(Qb1)とPNPトランジスタ(Qb2)のエミッタは、IGBTやMOSFET等の電圧駆動型パワーデバイスのゲートにゲート抵抗(Rg)を介して接続され、NPNトランジスタ(Qb1)のコレクタは、正バイアス電源(Ep)に接続され、PNPトランジスタ(Qb2)のコレクタは、負バイアス電源(En)に接続されている。
そして、NPNトランジスタ(Qb1)とPNPトランジスタ(Qb2)のエミッタ同士の接続点から出力される出力電圧(Vo)は、高電圧D/A変換回路のD/A出力に応じて、負電源電圧(VEE)以上、正電源電圧(VCC)以下に制御される。
また、D/A出力がバッファー回路によって電流増幅されるので、出力電圧(Vo)は低インピーダンス状態となり、電圧駆動型パワーデバイスのゲートに印加すると、同デバイスを駆動するゲート電圧(Vg)を様々なレベルで安定的に制御することができる。
そのため、実施例1のマルチレベル出力ゲート駆動装置は、ゲート電圧の最大定格、標準正バイアス電圧及び負バイアス定格電圧が異なる様々な種類の電圧駆動型パワーデバイスに対応可能である。さらに、同ゲート駆動装置はプログラマブルロジックデバイス(PLD)を除きディスクリート部品で構成されているので、低コストで提供することができる。
【0017】
図2は、プログラマブルロジックデバイス(PLD)における正側出力用端子及び負側出力用端子の数、すなわちP入力の数n及びN入力の数mを4とし、区間数を8(A区間~H区間)とした場合におけるD/A出力及び出力電圧(Vo)のイメージ波形を示す図である。
図2に示す出力電圧(Vo)のイメージ波形は、入力信号(IN1)が立ち上がるまでのA区間では負電源電圧(VEE)に制御され、入力信号(IN1)の立ち上がりから第1所定タイミングまでのB区間では中間電位3に制御され、第1所定タイミングから第2所定タイミングまでのC区間では中間電位1に制御され、第2所定タイミングから入力信号(IN1)が立ち下がるまでのD区間では正電源電圧(VCC)に制御される。
また、入力信号(IN1)の立ち下がりから第3所定タイミングまでのE区間では中間電位1に制御され、第3所定タイミングから第4所定タイミングまでのF区間では中間電位2に制御され、第4所定タイミングから第5所定タイミングまでのG区間では中間電位3に制御され、第5所定タイミング以降のH区間では負電源電圧(VEE)に制御される。
【0018】
図3は、
図2のイメージ波形を形成するための真理値表である。
図3から分かるように、A区間では入力信号(IN1)及びP入力1~4がLでN入力1~4がHであり、B区間では入力信号(IN1)、P入力4及びN入力1~4がHでP入力1~3がLであり、C区間では入力信号(IN1)、P入力1~4及びN入力4がHでN入力1~3がLであり、D区間では入力信号(IN1)及びP入力1~4がHでN入力1~4がLである。
また、E区間では入力信号(IN1)及びN入力1~3がLでP入力1~4及びN入力4がHであり、F区間では入力信号(IN1)、P入力1及びN入力1がLでP入力2~4及びN入力2~4がHであり、G区間では入力信号(IN1)、P入力1~3がLでP入力4及びN入力1~4がHであり、H区間では入力信号(IN1)及びP入力1~4がLでN入力1~4がHである。
そのため、A区間とH区間ではpチャネルMOSFET(Qp1~Qp4)がオフとなり、負側nチャネルMOSFET(Qn1~Qn4)がオンとなるので、正側の合成抵抗値は非常に高くなり、負側の合成抵抗値は負側抵抗(Rn1~Rn4)の並列抵抗なので非常に低くなって、出力電圧(Vo)は負電源電圧(VEE)に制御され、B区間とG区間ではpチャネルMOSFET(Qp1~Qp3)がオフとなり、pチャネルMOSFET(Qp4)及び負側nチャネルMOSFET(Qn1~Qn4)がオンとなるので、正側の合成抵抗値は正側抵抗(Rp4)のみの抵抗値となり、負側の合成抵抗値は非常に低くなって、出力電圧(Vo)は負電源電圧(VEE)よりやや高い中間電位3に制御される。
さらに、C区間とE区間ではpチャネルMOSFET(Qp1~Qp4)及び負側nチャネルMOSFET(Qn4)がオンとなり、負側nチャネルMOSFET(Qn1~Qn3)がオフとなるので、正側の合成抵抗値は正側抵抗(Rp1~Rp4)の並列抵抗なので非常に低くなり、負側の合成抵抗値は負側抵抗(Rn4)のみの抵抗値となって、出力電圧(Vo)は正電源電圧(VCC)よりやや低い中間電位1に制御され、D区間ではpチャネルMOSFET(Qp1~Qp4)がオンとなり、負側nチャネルMOSFET(Qn1~Qn4)がオフとなるので、正側の合成抵抗値は非常に低くなり、負側の合成抵抗値は非常に高くなって、出力電圧(Vo)は正電源電圧(VCC)に制御され、F区間ではpチャネルMOSFET(Qp1)及び負側nチャネルMOSFET(Qn1)がオフとなり、pチャネルMOSFET(Qp2~Qp4)及び負側nチャネルMOSFET(Qn2~Qn4)がオンとなるので、正側の合成抵抗値は正側抵抗(Rp2~Rp4)の並列抵抗なので低くなり、負側の合成抵抗値は負側抵抗(Rn2~Rn4)の並列抵抗なので低くなって、出力電圧(Vo)は正電源電圧(VCC)と負電源電圧(VEE)との平均電圧に近い中間電位2に制御される。
【0019】
このような階段状の波形の出力電圧(Vo)を、電圧駆動型パワーデバイスのゲートにゲート抵抗を介して印加すると、各出力電圧レベルの調整と、各出力電圧レベルを維持する区間の時間を調整することにより、ゲート電圧の上昇速度、及び降下速度をパワーデバイスの特性に応じて区間ごとに調整をすることができ、スイッチングノイズの低減、電力損失の低減などがやり易く、従来のゲート駆動装置で単にハードウエア面でのゲート抵抗値だけを変更するより、きめ細かな調整が可能となる。
また、例えば上記D区間で出力電圧を中点電位1に留めておくこともプログラミングにより真理値表を変更するだけで対応可能であり、A区間及びH区間で中点電位3に維持することも同様に可能である。すなわち、電圧駆動型パワーデバイスの種類が変わり、標準正バイアス電圧が正電源電圧(VCC)より低いものや負バイアス定格電圧が負電源電圧(VEE)より高い電圧駆動型パワーデバイスに対しても、正電源電圧(VCC)や負電源電圧(VEE)をデバイスの種類毎に設計し直すことなく、実施例1のマルチレベル出力ゲート駆動装置をそのまま利用し、複数種類の電圧駆動型パワーデバイスに対して共用することが可能である。
さらに、高電圧D/A変換回路のスイッチ回路である正側nチャネルMOSFET(Q1~Qn)、pチャネルMOSFET(Qp1~Qpn)及び負側nチャネルMOSFET(Qn1~Qnm)の数を多めに設置しておけば、これらのスイッチ回路のオンオフの組合せを変更することにより、同じ出力電圧レベルであっても出力インピーダンスを変化させることができるので、NPNトランジスタ(Qb1)とPNPトランジスタ(Qb2)の電流増幅率や駆動対象の電圧駆動型パワーデバイスのゲート容量に応じた柔軟な対応が可能となる。
実施例の変形例を列記する。
(1)実施例1ではプログラマブルロジックデバイス(PLD)を用いたが、PLDに限らず入力信号用端子(IN)、複数の正側出力用端子(P1~Pn)及び複数の負側出力用端子(N1~Nm)を有し、入力信号用端子(IN)に入力される入力信号(IN1)に応じて正側出力用端子(P1~Pn)及び負側出力用端子(N1~Nm)からLとHの異なる組合せのデジタル信号が出力されるデジタル信号出力回路であれば、どんなデバイスでの構成であっても良い。
(2)実施例1では複数の正側nチャネルMOSFET(Q1~Qn)のソース、複数の負側nチャネルMOSFET(Qn1~Qnm)のソース及びPNPトランジスタ(Qb2)のコレクタが負バイアス電源(En)に接続されていたが、これらは接地されていても良い。
そうした場合、グランド端子(GND)も接地するとともに、電源端子(E1)の電位であるVdspは接地電位より3.3~5V高い電位とする。
(3)実施例1では高電圧D/A変換回路に入力されるP入力の数n及びN入力の数mを4として、
図2のイメージ波形を形成するための真理値表(
図3)を作成したが、設定する電圧のレベル数は5なので、n及びmを3として真理値表を作成することもできる。
また、実施例2では高電圧D/A変換回路に入力されるP入力の数n及びN入力の数mを3として、
図5のイメージ波形を形成するための真理値表(
図6)を作成したが、設定する電圧のレベル数は3なので、n及びmを2として真理値表を作成することもできる。
ただし、正側及び負側の合成抵抗値の選択肢が小さくなるので、n及びmは若干大きめに設定した方が、汎用性の高いマルチレベル出力ゲート駆動装置を提供できる。
(4)実施例1のバッファー回路は、NPNトランジスタ(Qb1)とPNPトランジスタ(Qb2)のベース同士とエミッタ同士が直接接続されていたが、ベース同士又はエミッタ同士が抵抗を介して接続されていても良く、
図7に示すように、複数組のNPNトランジスタ(Qb1)とPNPトランジスタ(Qb2)をダーリントン接続したものとしても良い。
そして、特許請求の範囲では、これらをまとめて「NPNトランジスタ(Qb1)とPNPトランジスタ(Qb2)のベース同士とエミッタ同士を接続したバッファー回路」と表現する。