IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

特開2024-3891ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物および成形品、金属複合部品
<>
  • 特開-ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物および成形品、金属複合部品 図1
  • 特開-ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物および成形品、金属複合部品 図2
  • 特開-ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物および成形品、金属複合部品 図3
  • 特開-ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物および成形品、金属複合部品 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003891
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物および成形品、金属複合部品
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20240109BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20240109BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20240109BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
C08L67/02
C08K7/14
C08L69/00
B29C45/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103224
(22)【出願日】2022-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田邉 純樹
(72)【発明者】
【氏名】梅津 秀之
【テーマコード(参考)】
4F206
4J002
【Fターム(参考)】
4F206AA25
4F206AD03
4F206JA07
4F206JB12
4F206JF01
4J002CD183
4J002CD193
4J002CF051
4J002CF061
4J002CF071
4J002CG002
4J002DL006
4J002EW047
4J002FA046
4J002FD016
4J002FD050
4J002FD070
4J002FD090
4J002FD100
4J002FD130
4J002FD160
4J002FD207
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高温・多湿な環境下における金属接合性と、離型性に優れた成形品を得ること。
【解決手段】炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールが、テレフタル酸100モル%に対して0.1~2.0モル%化合したポリブチレンテレフタレート樹脂(A)(以下、「成分(A)」ということがある)と、成分(A)100重量部に対して、扁平化率が2~8である扁平ガラス繊維(B)(以下、「成分(B)」ということがある)1~100重量部とが配合されたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であって、組成物中における成分(B)の重量平均繊維長(Lw)が200~900μmであり、累積繊維長分布曲線における累積度90%繊維長(D90)と重量平均繊維長(Lw)の比(D90/Lw)が2.5以下であることを満たすポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールが、テレフタル酸100モル%に対して0.1~2.0モル%化合したポリブチレンテレフタレート樹脂(A)(以下、「成分(A)」ということがある)と、成分(A)100重量部に対して、扁平化率が2~8であるガラス繊維(B)(以下、「成分(B)」ということがある)1~100重量部とが配合されたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であって、組成物中における成分(B)の重量平均繊維長(Lw)が200~900μmであり、累積繊維長分布曲線における累積度90%繊維長(D90)(μm)と重量平均繊維長(Lw)の比(D90/Lw)が2.5以下であることを満たすポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
成分(A)100重量部に対し、さらにポリカーボネート樹脂(C)(以下、「成分(C)」ということがある)1~100重量部を配合してなる請求項1に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
成分(A)100重量部に対し、さらにエポキシ基を有する化合物(D)(以下、「成分(D)」ということがある)1~50重量部を配合してなる請求項1または2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
成分(D)の配合量に対する成分(C)の配合量の比(成分(C)の配合量(重量部)/成分(D)の配合量(重量部))が1~10である請求項3に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
成分(A)100重量部に対して、さらに有機リン酸エステル化合物(E)を0.01~1重量部配合してなる請求項1~4のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項6】
金属部品と複合化し使用することを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を溶融成形してなる成形品。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる樹脂部と、金属部品とからなる金属複合部品。
【請求項9】
前記金属複合部品が、通信機器部品である、請求項8に記載の金属複合部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物およびそれを成形してなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステル樹脂は、その優れた射出成形性や機械物性などの諸特性を生かし、機械機構部品、電気・電子部品および自動車部品などの幅広い分野に利用されている。
【0003】
さらに近年、周波数が1GHz帯以上の高周波を利用した高速通信規格に基づいた携帯用通信末端や自動車用ミリ波センサーなどの高周波伝送部品への適用に対して、比誘電率や誘電正接を低減した材料が求められている。高周波伝送部品の材料において、特に誘電正接が高いと、高周波信号と材料が接した場合に高周波が熱に変換されてしまうため、信号強度の低下により通信距離などの通信精度が低下する現象が起こり、課題となっている。
【0004】
熱可塑性ポリエステル樹脂の一種であるポリブチレンテレフタレート樹脂は加工性、機械物性ならびに耐熱性に優れ、高周波伝送部品に適応する材料として注目されている。ポリブチレンテレフタレート樹脂の誘電損失を低減する方法として、特定の脂肪族アルコールを導入することで、高周波下でエネルギー損失の大きい水酸基を低減し、これにより誘電損失を低減する方法が開示されており、その製造方法としてポリブチレンテレフタレート樹脂の重合工程における、テレフタル酸とブタンジオールのエステル化反応工程で、炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールを添加する方法が開示されている。(特許文献1)
一方、近年の高周波伝送部品に要求される特性は、低誘電正接だけではなく、さらに多岐に渡る。伝送部品が使用される、自動車や電気電子機器の各種パーツは、より高度な機能を付与するため、電極や構造部材などの金属部品をインサート成形して複合化された部品(金属複合部品)が多く、金属複合部品の落下時の強度や防水性の観点から、樹脂と金属の接合強度向上が求められている。さらに、特に自動車の部材は、高温・多湿な環境下において使用されるため、このような環境下においても、樹脂と金属の接合強度を維持できる性質が求められている。金属複合部品に使用される材料として、例えば特許文献2には、ポリブチレンテレフタレート樹脂に対して、ポリエチレン、グリシジル含有共重合体、有機ホスフィン、ガラス繊維を配合してなるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が開示されている。
【0005】
また、ガラス繊維によって、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の種々特性を向上させることが可能である。例えば特許文献3および4には、ポリブチレンテレフタレート樹脂に対して、扁平ガラス繊維を配合してなるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が開示されている。
【0006】
金属接合部品に用いる樹脂は、近年の需要の高まりにより、射出成形などにより大量に生産されるが、形状が複雑化すると成形品が金型から離型しづらくなるため、離型性に優れた材料が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2021/020208号
【特許文献2】特開2020-117680号公報
【特許文献3】特開2009-96969号公報
【特許文献4】国際公開第2019/070025号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された発明は、高周波帯の誘電正接が低下する効果が示されているものの、高温・多湿な環境下における金属接合性と離型性に課題があった。
【0009】
さらに、特許文献2に開示された発明は、低誘電正接化と金属接合強度を併せ持つものの、高温・多湿な環境下における金属接合性に課題があった。
【0010】
また、特許文献3、4に開示された発明は、ソリ性や流動性、成形品の外観が改善されるものの、高温・多湿な環境下における金属接合性が不十分であった。
【0011】
本発明は、1GHz以上の高周波帯における誘電正接が小さく、高温・多湿な環境下における金属接合性が改善され、離型性に優れた、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物およびその成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記した課題を解決するために検討を重ねた結果、特定量の脂肪族アルコール成分が化合されたポリブチレンテレフタレート樹脂に対して、扁平化率が2~8であるガラス繊維を配合し、組成物中の該ガラス繊維の繊維長分布を制御することによって、上記した課題を解決できることを見出し、本発明に達した。すなわち本発明は、以下の構成を有する。
[1]炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールが、テレフタル酸100モル%に対して0.1~2.0モル%化合したポリブチレンテレフタレート樹脂(A)(以下、「成分(A)」ということがある)と、成分(A)100重量部に対して、扁平化率が2~8であるガラス繊維(B)(以下、「成分(B)」ということがある)1~100重量部とが配合されたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であって、組成物中における成分(B)の重量平均繊維長(Lw)が200~900μmであり、さらに累積繊維長分布曲線における累積度90%繊維長(D90)(μm)と重量平均繊維長(Lw)の比(D90/Lw)が2.5以下であることを満たすポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[2]成分(A)100重量部に対し、さらにポリカーボネート樹脂(C)(以下、「成分(C)」ということがある)1~100重量部を配合してなる[1]に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[3]成分(A)100重量部に対し、さらにエポキシ基を有する化合物(D)(以下、「成分(D)」ということがある)1~50重量部を配合してなる[1]または[2]に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[4]成分(D)の配合量に対する成分(C)の配合量の比(成分(C)の配合量(重量部)/成分(D)の配合量(重量部))が1~10である[3]に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[5]成分(A)100重量部に対して、さらに有機リン酸エステル化合物(E)を0.01~1重量部配合してなる[1]~[4]のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[6]金属部品と複合化し使用することを特徴とする[1]~[5]のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[7][1]~[6]のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を溶融成形してなる成形品。
[8][1]~[6]のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる樹脂部と、金属部品とからなる金属複合部品。
[9]前記金属複合部品が、通信機器部品である、[8]に記載の金属複合部品。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物によれば、高温・多湿な環境下における金属接合性が高く、離型性に優れる成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】累積繊維長分布曲線の例
図2】繊維長分布曲線の例
図3】D90/Lwが2.5より大きくなる場合の繊維長分布曲線の例
図4】離型性の評価に用いた箱形の成形品の形状を説明する図であり、(a)は上面図、(b)は正面図((a)において矢印で示す側が正面側)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物について、詳細に説明する。
【0016】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールが、テレフタル酸100モル%に対して0.1~2.0モル%化合したポリブチレンテレフタレート樹脂(A)(以下、「成分(A)」ということがある)と、該ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対して、扁平化率が2~8であるガラス繊維(B)(以下、「成分(B)」ということがある)1~100重量部とが配合されてなり、ポリブチレンテレフタレート組成物中における成分(B)の重量平均繊維長(Lw)が200~900μmであり、さらに累積繊維長分布曲線における累積度90%繊維長(D90)(μm)と重量平均繊維長(Lw)の比(D90/Lw)が2.5以下であることを特徴とする、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物である。
【0017】
テレフタル酸と1,4-ブタンジオールとから得られるポリブチレンテレフタレート樹脂は、末端に存在する1,4-ブタンジオール由来の水酸基の運動によって誘電損失が起こるため、誘電正接を下げることが困難である。そこで本発明では、炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールが、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を構成するテレフタル酸由来の構造単位(すなわち、テレフタロイル基)100モル%に対して0.1~2.0モル%化合せしめることによって分子末端の水酸基が封鎖され、分子運動を抑制する効果により低誘電正接とすることができる。一方、ポリブチレンテレフタレート樹脂を用いて射出成形により成形品を得ると、結晶化に伴う密度変化や配向による異方性収縮などが発生する。特に、本発明における成分(A)は炭素数が10以上50以下の嵩高い脂肪族アルコール部位(以下、「脂肪族アルコール部位」と表す場合がある)を有しているため、結晶化に伴う密度変化が大きくなり、冷却固化過程において成形品の寸法が変化しやすくなり離型性が低下する。これに対して、本発明では、扁平化率が2~8であるガラス繊維(B)を特定量配合し、樹脂組成物中における成分(B)の重量平均繊維長(Lw)と、累積繊維長分布曲線における累積度90%繊維長(D90)と重量平均繊維長(Lw)の比(D90/Lw)を特定の範囲に制御することによって、結晶化に伴う密度変化や配向による異方性収縮を最大限に抑え、離型性が向上することを見出した。一方、扁平断面を有するガラス繊維は射出成形時に樹脂表面に浮き出してくることがあり、高温・多湿環境下において金属接合性が低下する課題があったが、本発明に用いる成分(A)は嵩高い脂肪族アルコール部位を有しており、溶融から固化時に疎水性である脂肪族アルコール部位が成形品表面に偏在する性質があるため、扁平ガラス繊維を用いても、高温・多湿環境下において金属接合性が低下しないことを新たに見出した。さらに、詳細は後述するが、成分(B)の重量平均繊維長(Lw)と、累積繊維長分布曲線における累積度90%繊維長(D90)と重量平均繊維長(Lw)の比(D90/Lw)を特定の範囲に制御することによって、高温・多湿環境下における金属接合性と離型性を高いレベルで両立することが可能となる。以下、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を構成する各成分について詳細に説明する。
【0018】
本発明に用いる成分(A)は、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールとが縮重合されて得られる構造を主構造単位とし、さらに炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールの残基がテレフタル酸100モル%に対して0.1~2.0モル%化合された重合体である。ここで、「主構造単位」とは、ジカルボン酸に由来する構造のうちテレフタル酸に由来する構造が50モル%以上占め、かつ、ジオールに由来する構造のうち1,4-ブタンジオールに由来する構造が50モル%以上を占めている状態を指し、それぞれは80モル%以上占めていることが好ましく、さらにはそれぞれが90モル%以上占めていることが好ましい態様である。すなわち、上記の限りにおいて、共重合可能な他のモノマーが共重合されたものであってもよい。共重合可能なモノマーとしては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、ビス(p-カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体や、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、ダイマージオールなどの炭素数2~20の脂肪族または脂環式グリコール、ポリエチレングリコール、ポリ-1,3-プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの分子量200~100000の長鎖グリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t-ブチルハイドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどの芳香族ジオキシ化合物およびこれらのエステル形成性誘導体などジオール化合物などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0019】
本発明に用いられる炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールは、炭素原子および水素原子からなる炭化水素を主骨格とし、水酸基を一つ有する単官能のアルコールであり、炭素原子が鎖状につながった構造において直鎖もしくは分岐、環状構造を有していてよい。その例として、デシル基(C10)、ウンデシル基(C11)、ドデシル基(C12)、トリデシル基(C13)、テトラデシル基(C14)、ペンタデシル基(C15)、ヘキサデシル基(C16)、ヘプタデシル基(C17)、オクタデシル基(C18)、ノナデシル基(C19)、イコシル基(C20)、ヘンイコシル基(C21)、ドコシル基(C22)、トリコシル基(C23)、テトラコシル基(C24)、ペンタコシル基(C25)、ヘキサコシル基(C26)、ヘプタコシル基(C27)、オクタコシル基(C28)、トリアコンチル基(C30)、テトラコンチル基(C40)などの直鎖の飽和脂肪族基を有するアルコール化合物、ブチルヘキシル基(C10)、ブチルオクチル基(C12)、ヘキシルオクチル基(C14)、ヘキシルデシル基(C16)、オクチルデシル基(C18)、ヘキシルドデシル基(C18)、トリメチルブチルトリメチルオクチル基(C18)、ブチルテトラデシル基(C18)、ヘキシルテトラデシル基(C20)、オクチルテトラデシル基(C22)、オクチルヘキサデシル基(C24)、デシルテトラデシル基(C24)、ドデシルテトラデシル基(C26)、ドデシルヘキサデシル基(C28)、ドデシルヘキサデシル基(C28)、テトラデシルオクタデシル基(C32)、ヘキサデシルイコサシル基(C36)などの分岐を有する飽和脂肪族基を有するアルコール化合物、パルミトレイル基(C16)、オレイル基(C18)、リノレイル基(C18)、エルシル基(C22)などの不飽和脂肪族基を有するアルコールが挙げられる。ここで、上記において「C」の後に記載された数字はその基に含まれる炭素の数を表す。これらの中で、色調の点から直鎖や分岐を有する飽和脂肪族基が好ましく、高温・多湿環境下において金属接合性を高める観点から、分岐を有する飽和脂肪族基であることが好ましい。脂肪族アルコールの炭素数は10以上50以下であれば流動性向上効果が得られ、さらに流動性を向上でき、金属接合性が向上する観点から、炭素数の下限は16以上であることが好ましく、20以上であることがさらに好ましい。炭素数の上限は36以下であることが好ましく、30以下であることがさらに好ましい。
【0020】
成分(A)は、炭素数が16以上36以下の分岐を有する飽和脂肪族基を分子末端に有している末端変性ポリブチレンテレフタレート樹脂であることが好ましく、その官能基濃度が0.005mmol/g以上0.20mmol/g未満であることが好ましい。飽和脂肪族基の官能基濃度が0.005mmol/g以上であれば流動性および誘電特性を向上できるため好ましい。より好ましくは0.010mmol/g以上、さらに好ましくは0.020mmol/g以上である。一方、飽和脂肪族基の官能基濃度が0.20mmol/g未満であれば、機械物性や耐熱性を向上することができるため好ましい。より好ましくは0.18mmol/g未満であり、さらに好ましくは0.15mmol/g未満である。
【0021】
本発明において、成分(A)の分子末端に存在する脂肪族基の官能基濃度は、重ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒としてH-NMRによって測定した末端基由来のピークの積分比により求めた値である。
【0022】
成分(A)は、高温・多湿環境下において金属接合性を高める観点から、炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールが、テレフタル酸100モル%に対して、0.1~2.0モル%化合したポリブチレンテレフタレート樹脂(A)である。炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールがテレフタル酸100モル%に対して化合する量は、0.5モル%以上が好ましく、0.7モル%以上がより好ましい。また、1.8モル%以下が好ましく、1.6モル%以下がより好ましい。
【0023】
成分(A)においては水酸基濃度が0.050mmol/g以下であることが好ましい。水酸基濃度は、高温・多湿環境下において金属接合性を高める観点から、より好ましくは0.040mmol/g以下、さらに好ましくは0.030mmol/g以下、さらに好ましくは0.020mmol/g以下である。なお、水酸基濃度の下限は0mmol/gである。成分(A)の水酸基濃度は、重ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒としてH-NMRによって測定した末端基由来のピークの積分比により求めた値である。
【0024】
成分(A)においては、高温・多湿環境下において金属接合性を高める観点から、カルボキシル基濃度が0.070mmol/g以下であることが好ましい。カルボキシル基濃度は、好ましくは0.060mmol/g以下であり、より好ましくは0.050mmol/g以下である。カルボキシル基濃度の下限値は、0mmol/gである。ここで、成分(A)のカルボキシル基濃度は、成分(A)をo-クレゾール/クロロホルム溶媒に溶解させた後、エタノール性水酸化カリウムで滴定し、測定した値である。
【0025】
成分(A)の融点は180℃以上であることが好ましい。融点は耐熱性の点で、好ましくは190℃以上であり、より好ましくは200℃以上、さらに好ましくは210℃以上である。成分(A)の融点は、DSC(示差走査熱量測定)にて、25℃から20℃/minで昇温した時に得られる吸熱融解ピークのピーク温度の値である。
【0026】
成分(A)は、重量平均分子量(Mw)が8,000以上であることが好ましい。重量平均分子量(Mw)は、より好ましくは9,000以上、さらに好ましくは10,000以上である。また、重量平均分子量(Mw)が500,000以下の場合、流動性が向上するため、好ましい。重量平均分子量(Mw)は、より好ましくは300,000以下であり、さらに好ましくは250,000以下である。本発明において、成分(A)の重量平均分子量(Mw)は、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを用いてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリメチルメタクリレート(PMMA)換算値として得るものである。
【0027】
成分(A)は、固有粘度(IV)が0.6dl/g以上であることが好ましい。固有粘度は、より好ましくは0.65dl/g以上、さらに好ましくは0.7dl/g以上である。また、固有粘度が2dl/g以下の場合、流動性が向上するため、好ましい。固有粘度は、より好ましくは1.7dl/g以下であり、さらに好ましくは1.4dl/g以下である。本発明において、成分(A)の固有粘度は、オルトクロロフェノールを溶媒にし、25℃における測定により求められる値である。
【0028】
成分(A)の23℃で円筒型空洞共振器摂動法にて測定した5.8GHzでの誘電正接は、0.0060以下であることが好ましい。誘電正接が0.0060以下であれば、誘電損失を低減することができ、高周波信号の劣化を抑えることができるため、アンテナの利得やレーダーの精度などに優れるため、特にスマートフォンなどの移動携帯通信機器の部品に好適に用いられる。より好ましくは0.0055以下であり、さらに好ましくは0.0050以下である。
【0029】
成分(A)の誘電正接は、自由空間Sパラ法、コルゲート円形導波管Sパラ法などのSパラメータ法や平衡型円板共振器法、ファブリーペロー開放型共振器法、スプリットシリンダー空洞共振器法、スプリットポスト誘電体共振器法、円筒型空洞共振器摂動法、遮断円筒導波管法などの空洞共振法から求められるが、測定値の精度の観点から、本発明においては空洞共振法により求めた値により定義する。また、本発明においては、空洞共振法のうち円筒型空洞共振器摂動法により求めた値を用いる。
【0030】
本発明に用いる成分(A)を得るにあたり、ポリブチレンテレフタレートの調製には公知の重縮合法や開環重合法を用いることができ、重縮合を進めながら水酸基を低減する方法(重縮合反応による製造方法)や、固相重合法によって水酸基を低減する方法(固相重合による製造方法)を用いることができる。重縮合反応による製造方法としてはバッチ重合および連続重合のいずれでもよく、また、エステル交換反応および直接重合による反応、ならびに直接重合による反応のいずれでも適用することができるが、水酸基を低減する観点からはバッチ重合が好ましく、また、直接重合がより好ましく用いられる。
【0031】
また、成分(A)の製造においては、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールを混合してスラリーを形成する工程、触媒溶液を調整する工程、エステル化後の反応物を金属製のメッシュ等からなるフィルターにてフィルタリングする工程、溶融樹脂を水浴に吐出しストランドカッターなどでカッティングする工程など、エステル化反応と重縮合反応以外の公知のポリエステル樹脂の製造工程を含んでいてもよい。
【0032】
重縮合反応による製造方法の場合は、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とを、エステル化反応またはエステル交換反応し、次いで重縮合反応する過程において、炭素数10以上50以下の脂肪族アルコールをエステル化反応、エステル交換反応、および重縮合反応から選択されるいずれかの任意の段階で加えることにより製造することができる。特に誘電特性に優れる樹脂が得られる点で、炭素数10以上50以下の脂肪族アルコールをエステル化反応、エステル交換反応のいずれかの任意の段階で加えることにより製造することが好ましい。
【0033】
また、成分(A)を得るにあたっては、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体の水酸基と反応可能な化合物(以下、「水酸基封鎖剤」と表す場合がある)を成分(A)の製造工程におけるエステル交換反応、もしくは重縮合反応の任意の段階で加えることにより、成分(A)の水酸基濃度を低減することができる。
【0034】
水酸基封鎖剤は、成分(A)中の水酸基濃度を低減することができ、例えば単官能のカルボン酸や酸無水物、イソシアネート化合物などが挙げられる。
【0035】
単官能のカルボン酸としては、例えば酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、シクロヘキサンカルボン酸などの炭素数1~50の脂肪族カルボン酸または脂環式カルボン酸、安息香酸、トルイル酸、ナフトエ酸、アントラセンカルボン酸、フェニル安息香酸、クロロ安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、フタル酸などの炭素数1~50の芳香族カルボン酸が挙げられる。
【0036】
酸無水物としては、例えば上記のカルボン酸化合物を脱水縮合した無水酢酸や無水安息香酸などの酸無水物が挙げられる。
【0037】
イソシアネート化合物としては、フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ナフチルイソシアネート、フェニレンジイソシアナート、ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシネートなどの化合物が挙げられる。
【0038】
本発明においては、成分(A)のエステル化反応および重縮合反応のいずれかの工程において、フェノール系酸化防止剤をさらに添加することが脂肪族アルコール化合物の熱分解を抑制し、ポリブチレンテレフタレート樹脂の水酸基末端をより低減できる点で好ましい。
【0039】
本発明に好適に用いられるフェノール系酸化防止剤としては、t―ブチル基を有するフェノール化合物であり、具体的にはトリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホネート ジエチルエステル、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビスもしくはトリス(3-t-ブチル-6-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマミド)、N,N’-トリメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマミド)などが挙げられる。
【0040】
フェノール系酸化防止剤の添加量は、成分(A)100重量部に対して、0.01~0.20重量部が好ましい。ポリブチレンテレフタレート樹脂の水酸基末端を低減できる点で、より好ましくは0.02重量部以上であり、さらに好ましくは0.03重量部以上である。添加量の上限は、分子量を向上できる点で0.15重量部以下がより好ましく。0.10重量部以下がさらに好ましい。
【0041】
本発明の成分(A)のエステル化反応および重縮合反応を効果的に進めるために、これらの反応時に重合反応触媒を添加することが好ましい。重合反応触媒の具体例としては、チタン酸のメチルエステル、テトラ-n-プロピルエステル、テトラ-n-ブチルエステル、テトライソプロピルエステル、テトライソブチルエステル、テトラ-tert-ブチルエステル、シクロヘキシルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステル、トリルエステルあるいはこれらの混合エステルなどの有機チタン化合物、ジブチルスズオキシド、メチルフェニルスズオキシド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキシド、シクロヘキサヘキシルジスズオキシド、ジドデシルスズオキシド、トリエチルスズハイドロオキシド、トリフェニルスズハイドロオキシド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキシド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸などのアルキルスタンノン酸などのスズ化合物、ジルコニウムテトラ-n-ブトキシドなどのジルコニア化合物、三酸化アンチモンおよび酢酸アンチモンなどのアンチモン化合物などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0042】
これらの重合反応触媒の中でも、有機チタン化合物およびスズ化合物が好ましく、チタン酸のテトラ-n-ブチルエステル(TBT)がさらに好ましく用いられる。重合反応触媒の添加量は、成分(A)100重量部に対して、0.01~0.2重量部の範囲が好ましい。反応触媒の添加量は0.01重量部以上であれば重合を短時間で完結できるため好ましく、より好ましくは0.03重量部以上であり、さらに好ましくは0.04重量部以上である。一方、反応触媒の添加量は0.2重量部以下であれば色調を向上できることから好ましく、より好ましくは0.15重量部以下であり、さらに好ましくは0.1重量部以下である。
【0043】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対して、扁平化率が2~8であるガラス繊維(成分(B))が1~100重量部配合されてなり、組成物中の成分(B)の重量平均繊維長(Lw)が200~900μmであり、累積繊維長分布曲線における累積度90%繊維長(D90)と重量平均繊維長(Lw)の比(D90/Lw)が2.5以下であることを特徴とする(以下、前記比について、単に「D90/Lw」ということがある)。
【0044】
組成物中の成分(B)の重量平均繊維長(Lw)は、以下の方法によって求める。ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物10gを、空気中において400℃で8時間加熱して樹脂を除去する。残存した成分(B)を、光学式顕微鏡を用いて観察し、無作為に選択した1000個以上の成分(B)の繊維長(μm)を測定する。重量平均繊維長は、式{Σ(Ni×Li)/Σ(Ni×Li)}で算出する。ここで、Liは、選択された成分(B)の繊維長(μm)であり、Niは繊維長Liの成分(B)の本数である。次に、D90/Lwは、以下の方法によって求める。測定された繊維長(μm)とその繊維長の頻度(%)から、短繊維長側から横軸を繊維長(μm)、縦軸を累積頻度(%)とした累積繊維長分布曲線(図1)を描いたとき、累積頻度が90%となる繊維長(μm。要は、繊維が1000本あった場合、短い方から数えて900本目の繊維の長さ)をD90として算出し、重量平均繊維長(Lw)との比(D90/Lw)を求める。なお、測定された繊維長(μm)とその繊維長の頻度(%)について、横軸に繊維長(μm)縦軸に頻度(%)として曲線を描いた場合は、繊維長分布曲線(図2)が得られる。
【0045】
前述したとおり、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物における成分(B)の重量平均繊維長とD90/Lwを特定の範囲に制御することによって、高温・多湿環境下における金属接合性と離型性を極めて高いレベルで両立することが可能となる。重量平均繊維長が900μmより大きいと、曲げ強度などの物性は改善するものの、流動性が著しく低下し、金属表面の僅かな凹凸に樹脂が入り込まず、金属接合性が低下する。一方、200μm未満であれば、離型性が向上しない。D90/Lwは、図2に示す繊維長分布曲線の形状を表す値である。すなわち、D90/Lwの値が大きいほど図3に示すような、繊維長分布曲線が長繊維側にテーリングした分布の広い曲線となる。D90/Lwが2.5より大きくなると、図3に示すように、たとえ重量平均繊維長(Lw)が200~900μmの範囲であっても、長繊維の存在比率が大きくなるため、流動性が低下し、金属表面の僅かな凹凸に樹脂が入り込まず、金属接合性が低下する。D90/Lwを2.5以下に制御することによって、高温・多湿環境下における金属接合性と離型性を両立することが容易となる。
【0046】
成分(A)中において良く分散し、高温・多湿環境下における金属接合性と離型性を両立できる観点から、成分(A)100重量部に対する成分(B)の配合量は、30重量部以上が好ましく、40重量部以上がさらに好ましく、50重量部以上が最も好ましい。また、成分(A)100重量部に対する成分(B)の配合量は、90重量部以下が好ましく、85重量部以下がさらに好ましい。
【0047】
成分(B)の扁平化率は、成分(A)中において良く分散し、高温・多湿環境下における金属接合性と離型性を両立できる観点から、6以下が好ましく、5以下がさらに好ましい。ここで、扁平化率とは、成分(B)の長さ方向に直交する断面において、長径a(断面の外周上の2点を結ぶ線分のうち、最長となる2点間の線分の長さ)と短径b(前記最長となる2点間を結ぶ線分と直交し、該断面内において最長となる線分の長さ)の比率(a/b)である。
【0048】
組成物中の成分(B)の重量平均繊維長(Lw)は、高温・多湿環境下における金属接合性と離型性を両立できる観点から、下限については、400μm以上とすることが好ましく、450μm以上がさらに好ましく、また、上限については、800μm以下とすることが好ましく、700μm以下とすることがさらに好ましい。
【0049】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中の成分(B)のD90/Lwは、高温・多湿環境下における金属接合性と離型性を両立できる観点から、2以下とすることが好ましく、1.5以下がより好ましい。下限としては特に限定はないが、1.0以上であることが最も好ましい。
【0050】
成分(B)のガラスの種類としては一般に樹脂の強化材として用いるものであれば特に限定はないが、機械特性、耐熱性に優れるEガラスが好ましく、低誘電性に優れ、スマートフォンなどの移動式携帯端末の部品として好適に用いることができるため、低誘電ガラス(NEガラス)がより好ましい。
【0051】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、成分(A)100重量部に対して、さらにポリカーボネート樹脂(C)(以下、「成分(C)」と称することがある)1~100重量部を含むことが好ましい。ポリカーボネート樹脂(C)を配合することにより、高温・多湿環境下における金属接合性と離型性をより高いレベルで両立することができる。
【0052】
成分(C)は、2価フェノールとホスゲンまたは炭酸エステル化合物などのカーボネート前駆体とを主成分とする原料を反応させることにより得られる重合体である。例えば、塩化メチレンなどの溶媒中において、2価フェノールとホスゲンなどのカーボネート前駆体との反応により、あるいは2価フェノールとジフェニルカーボネートなどのカーボネート前駆体とのエステル交換反応などにより製造される。
【0053】
2価フェノールとしては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、ビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン、1,1-(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-(4-ヒドロキシフェニル)エタン、ハイドロキノン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル等が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]が好ましい。
【0054】
また、炭酸エステル化合物としては、例えば、ジフェニルカーボネート等のジアリールカーボネートや、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネートなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0055】
本発明で用いられる成分(C)は高流動性のものが好ましく、300℃、荷重1.2kgで測定したメルトボリュームレート(単位:cm/10min)が5~90であるポリカーボネート樹脂が好ましい。さらに好ましくは80~10、より好ましくは50~15、最も好ましくは30~15である。
【0056】
成分(A)100重量部に対する成分(C)の配合量は、5重量部以上が好ましく、10重量部以上がより好ましく、15重量部以上がさらに好ましい。また、70重量部以下が好ましく、65重量部以下がより好ましく、50重量部以下がより好ましく、30重量部以下が最も好ましい。
【0057】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対して、さらに、エポキシ基を有する化合物(D)(以下、「成分(D)」と称することがある)が1~50重量部配合されていることが好ましい。成分(D)を配合することにより、高温・多湿環境下における金属接合性と離型性をより高いレベルで両立することができる。
【0058】
成分(D)は、エポキシ基を有する熱可塑性樹脂であることが好ましく、グリシジルメタクリレートが共重合されたオレフィン樹脂や、主鎖中の多重結合がエポキシ化されたオレフィン樹脂がさらに好ましい。具体例としては、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン/ブテン-1/グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン/プロピレン/グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン/オクテン-1/グリシジルメタクリレート共重合体、アクリル酸エステル/グリシジルメタクリレート共重合体、メタクリル酸エステル/グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン/アクリル酸エステル/グリシジルメタクリレート共重合体、スチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、エポキシ化ポリブタジエン、ポリブタジエン/スチレン共重合体のエポキシ化物、アクリロニトリル/ポリブタジエン/スチレン共重合体のエポキシ化物、アクリロニトリル/ポリブタジエンン/メタクリル酸メチル/スチレン共重合体のエポキシ化物などが挙げられる。
【0059】
成分(A)100重量部に対する成分(D)の配合量は、2重量部以上とすることが好ましく、3重量部以上がより好ましく、4重量部以上がさらに好ましい。また、30重量部以下とすることが好ましく、20重量部以下がより好ましく、10重量部以下がより好ましい。
【0060】
高温・多湿環境下における金属接合性と離型性をより高いレベルで両立する観点から、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中における、成分(D)の配合量に対する成分(C)の配合量の比(成分(C)の配合量(重量部)/成分(D)の配合量(重量部))は、1~10とすることが好ましい。分散性がさらに向上することから、この配合量の比の下限については1.5以上とすることが好ましく、2以上とすることがさらに好ましい。また、この配合量の比の上限については10以下とすることが好ましく、7以下とすることがさらに好ましい。
【0061】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、成分(A)100重量部に対して、さらに、有機リン酸エステル化合物(E)(以下、「成分(E)」と称することがある)を0.01~1重量部が配合されていることが好ましい。成分(E)を配合することにより、成分(A)が有する脂肪族アルコール部位がエステル交換によって脱離することが抑制され、高温・多湿環境下における金属接合性をさらに高めることができる。
【0062】
成分(E)とは、リン酸が有するヒドロキシ基の水素の全てまたは一部が有機基で置き換わった下記に示す化合物である。
【0063】
【化1】
【0064】
(上記式中、nは0~2のいずれかの整数を表し、Rは有機基を表す。)
成分(A)への相溶性に優れ、高温・多湿環境下における金属接合性をより高めることができる観点から、前記式の有機基Rは脂肪族炭化水素基であることが好ましく、炭素数10以上の分岐または直鎖状の脂肪族炭化水素基がより好ましく、炭素数15以上の直鎖状の脂肪族炭化水素基がさらに好ましい。この有機基の炭素数の上限としては特に制限はないが、50以下とすることが好ましく、30以下とすることがより好ましい。
【0065】
成分(A)100重量部に対する成分(E)の配合量は、下限については、0.02重量部以上とすることが好ましく、0.05重量部以上がより好ましく、0.1重量部以上がさらに好ましく、また、分散性の観点から、上限については、0.7重量部以下とすることが好ましく、0.5重量部以下がより好ましく、0.3重量部以下がより好ましい。
【0066】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、断面が円形であるガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維や液晶性ポリエステル繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、および炭化ケイ素繊維や、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、硫酸カルシウムウィスカー、針状酸化チタン、ガラスビーズ、ミルドファイバー、ガラスフレーク、ワラステナイト、シリカ、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムの混合物、微粉ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、酸化ケイ素、スメクタイト系粘土鉱物(モンモリロナイト、ヘクトライト)、バーミキュライト、マイカ、フッ素テニオライト、燐酸ジルコニウム、燐酸チタニウム、およびドロマイトなどを配合することができる。
【0067】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、難燃剤、離型剤、顔料、染料および帯電防止剤などの任意の添加剤を配合することができる。
【0068】
難燃剤としては、例えば、リン系難燃剤、臭素系難燃剤などのハロゲン系難燃剤、トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌル酸との塩、シリコーン系難燃剤および無機系難燃剤などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。
【0069】
離型剤としては、例えばモンタン酸やステアリン酸などの高級脂肪酸エステル系ワックス、ポリオレフィン系ワックス、エチレンビスステアロアマイド系ワックスなどが挙げられる。離型剤を配合することで溶融加工時に金型からの離型性をよくすることができる。
【0070】
顔料や染料を1種以上配合することにより、種々の色に調色することや、耐候(光)性および導電性を改良することも可能である。顔料としては、例えばカーボンブラックや酸化チタンなどが挙げられる。
【0071】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を製造する方法としては、例えば、成分(A)、成分(B)、および必要に応じて各種添加剤を予備混合して、溶融混練機に供給して溶融混練する方法、あるいは、重量フィダーなどの定量フィダーを用いて各成分を所定量溶融混練機に供給して溶融混練する方法などが挙げられる。溶融混練機としては、例えば“ユニメルト”あるいは“ダルメージ”タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸押出機、三軸押出機、コニカル押出機およびニーダータイプの混練機などを用いることができる。上記の予備混合の例として、ドライブレンドする方法や、タンブラー、リボンミキサーおよびヘンシェルミキサー等の機械的な混合装置を用いて混合する方法などが挙げられる。
【0072】
組成物中における成分(B)の重量平均繊維長(Lw)を200~900μmとし、D90/Lwを2.5以下に制御する方法は特に限定されず、種々の手法をとることができるが、以下に好ましい手法を記載する。
【0073】
重量平均繊維長(Lw)とD90/Lwを特定の範囲に制御する観点から、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を製造する方法として、二軸押出機を用いて溶融混練をする方法が好ましい。なかでも、スクリュー長さをL,スクリュー直径をDとすると、L/D>30の二軸押出機を使用して溶融混練する方法が特に好ましい。ここで言うスクリュー長さとは、スクリュー根元の原料が供給される位置から、スクリュー先端部までの長さを指す。二軸押出機のL/Dの上限は150であり、好ましくはL/Dが30を越え、100以下のものが使用できる。
【0074】
また、本発明において二軸押出機で用いる場合のスクリュー構成としては、フルフライトおよびニーディングディスクを組み合わせて用いられるが、重量平均繊維長とD90/Lwを特定の範囲に制御する観点から、スクリュー全長に対するニーディングディスク(以下、「ニーディングゾーン」ということがある)の合計長さの割合を、5~50%の範囲とすることが好ましく、10~40%の範囲であればさらに好ましく、10~30%の範囲が最も好ましい。ニーディンングゾーンの割合が増えるほど重量平均繊維長とD90/Lwの値は小さくなる。
【0075】
重量平均繊維長(Lw)とD90/Lwを特定の範囲に制御する観点から、押出機の元込め部とベント部の途中に中間供給口(サイドフィーダー)を設置して、元込め部から成分(A)とその他添加剤を添加し、成分(B)を中間供給口から添加する方法が好ましい。さらに、中間供給口と吐出口の途中にニーディングゾーンを組み込んだスクリュー構成とすることが好ましく、中間供給口と吐出口の途中に組み込んだニーディングゾーンの、スクリュー全長に対する割合は、5~30%の範囲とすることが好ましく、5~20%の範囲とすることがさらに好ましく、8~18%の範囲とすることがもっとも好ましい。
【0076】
重量平均繊維長(Lw)とD90/Lwを特定の範囲に制御する観点から、溶融混練時のスクリューの回転周速度(m/min)は10~30m/minとすることが好ましい。回転周速度が大きいほど、重量平均繊維長とD90/Lwの値は小さくなる。13~23m/minの範囲とすることがより好ましく、13~20m/minの範囲とすることがさらに好ましい。なお、スクリューの回転周速度(m/min)は、スクリュー直径(m)×円周率×回転数(rpm)で算出することができる。
【0077】
重量平均繊維長とD90/Lwを特定の範囲に制御する観点から、溶融混練時の押出機のシリンダーの設定温度は、成分(A)の融点+10~融点+60℃の範囲に設定することが好ましい。設定温度が高いほど、重量平均繊維長とD90/Lwの値は大きくなる。成分(A)の融点+15~融点+50℃の範囲とすることがより好ましく、融点+25~融点+40℃の範囲とすることがさらに好ましい。
【0078】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、ペレット化して、成形加工に供することができる。ペレット化の方法として、溶融混練機などを用いて溶融混練されたアルキル共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を、ストランド状に吐出し、ストランドカッターでカッティングする方法が挙げられる。
【0079】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を溶融成形することにより、フィルム、繊維およびその他各種形状の成形品を得ることができる。溶融成形方法としては、例えば、射出成形、押出成形およびブロー成形などが挙げられ、射出成形が特に好ましく用いられる。
【0080】
射出成形の方法としては、通常の射出成形方法以外にもガスアシスト成形、2色成形、サンドイッチ成形、インモールド成形、インサート成形およびインジェクションプレス成形などが知られているが、いずれの成形方法も適用できる。本発明の樹脂組成物は、高温・多湿環境下における金属接合性と離型性を両立するできるため、金属部品と複合化したインサート成形用の樹脂として用いることが好ましい。このようにして、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる樹脂部と、金属部品とが直接に接合一体化された金属複合部品を得ることができ、例えば下記に示す部品等に好適に使用することができる。
【0081】
本発明の成形品は、機械機構部品、電気部品、電子部品および自動車部品から選ばれる成形品として好適に用いることができる。
【0082】
機械機構部品、電気部品、電子部品および自動車部品の具体的な例としては、ブレーカー、電磁開閉器、フォーカスケース、フライバックトランス、複写機やプリンターの定着機用成形品、一般家庭電化製品、OA機器などのハウジング、バリコンケース部品、各種端子板、変成器、プリント配線板、ハウジング、端子ブロック、コイルボビン、コネクター、リレー、ディスクドライブシャーシー、トランス、スイッチ部品、コンセント部品、モーター部品、ソケット、プラグ、コンデンサー、各種ケース類、抵抗器、金属端子や導線が組み込まれる電気・電子部品、コンピューター関連部品、音響部品などの音声部品、照明部品、電信機器関連部品、電話機器関連部品、エアコン部品、VTRやテレビなどの家電部品、複写機用部品、ファクシミリ用部品、光学機器用部品、自動車点火装置部品、自動車用コネクター、および各種自動車用電装部品などが挙げられる。また、携帯通信端末や通信基地局、ミリ波センサー、車載通信機器などに使われる電気・電子部品のアンテナ基材、コネクター、筐体、レドーム(アンテナカバーやセンサーカバー)にも好適に用いることができる。高温・多湿環境下における金属接合性と離型性を両立できる特徴を活かし、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる樹脂部と、金属部品からなる金属複合部品を、好適に、移動通信端末や通信基地局などの通信機器部品として用いることができる。
【実施例0083】
次に、実施例により本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物について具体的に説明する。
【0084】
[各特性の測定方法]
各実施例および比較例においては、次に記載する測定方法によって、その特性を評価した。
【0085】
1.融点
株式会社パーキンエルマー製DSC7を用いて、ポリブチレンテレフタレート樹脂の試料を25℃から300℃まで窒素雰囲気下10℃/minの昇温速度で分析し、得られた吸熱ピークの中で最も高温のピーク温度を求めた。
【0086】
2.官能基濃度(脂肪族基、水酸基)
ポリブチレンテレフタレート樹脂の試料2gをヘキサフルオロイソプロパノール5mLに溶解させ、エタノール50mLにより再沈殿させ、沈殿物を捕集して真空乾燥機にて真空下80℃で乾燥し、精製した。精製物30mgを重ヘキサフルオロイソプロパノール0.7mLに溶解させて、日本電子(株)製JNM-ECZ500Rにて、H-NMR測定を行った。得られたH-NMRスペクトルを、Macromol.Chem.Phys.2014,215,2138-2160に記載の方法でスペクトルのピークを帰属し、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体由来の残基のピークの積分値Saとその水素原子数Ha、および官能基(脂肪族基、水酸基)由来のピークの積分値Sbとその水素原子数Hbを求め、以下の式から官能基濃度を求めた。
官能基濃度(mmol/g)={(Sb/Sa)×(Ha/Hb)}/ユニット平均分子量×1000
ここで、ユニット平均分子量は、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体由来の残基とジオールまたはそのエステル形成性誘導体由来の残基と芳香族ヒドロキシカルボン酸の残基またはそのエステル形成性誘導体由来の残基の分子量に各残基の含有比率を掛け合わせて積算した値である。なお、ここでいう「残基」には、エステル結合を構成する部分の構造を含む。たとえば、ポリブチレンテレフタレートのホモポリマーの場合、ユニット平均分子量は220である。
【0087】
3.高周波誘電特性(比誘電率、誘電正接)
ポリブチレンテレフタレート樹脂の試料を、ソディック製TR30EHA射出成形機を用いて、金型温度80℃の温度条件で、射出時間と保圧時間は合わせて3秒、冷却時間15秒の成形サイクル条件で、試験片厚み0.5mmの30mm×30mm角板を得た。得られた角板から樹脂の流れ方向に平行に1mm幅で切削し、30mm×1mm×0.5mm厚の誘電特性評価用試験片を得た。得られた角板から樹脂の流れ方向に平行に1mm幅で切削し、80mm×1mm×1mm厚の誘電特性評価用試験片を得た。それら誘電特性評価用試験片の誘電特性をアジレント・テクノロジー(株)製ネットワークアナライザE5071Cおよび(株)関東電子応用開発製空洞共振器CP521を用いた空洞共振器摂動法によって23℃、5.8GHzにおける比誘電率および誘電正接を求めた。
【0088】
4.重量平均繊維長およびD90/Lw
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の試料10gを、空気中において400℃で8時間加熱して樹脂を除去し、残存した成分(B)を、光学式顕微鏡を用いて観察し、無作為に選択した1000個の成分(B)の繊維長を測定し、式{Σ(Ni×Li)/Σ(Ni×Li)}にて重量平均繊維長(Lw(μm))を算出する。ここで、Liは、選択された成分(B)の繊維長(μm)であり、Niは繊維長Liの成分(B)の本数である。次に、測定によって得られた繊維長とその繊維長の頻度(%)から、短繊維長側から横軸を繊維長(μm)、縦軸を累積頻度(%)とした累積繊維長分布曲線(図1)を描き、累積頻度が90%となる繊維長(μm)をD90として算出し、重量平均繊維長(Lw)との比(D90/Lw)を求めた。なお、繊維長Liの頻度は、式(Ni/1000)×100(%)で求める。
【0089】
5.高温・多湿環境下における金属接合性
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の試料を、日精樹脂工業株式会社製NEX1000射出成形機を用いて、ISO19095-2:2015「Overlapped testspecimens(type B)」に準拠した形状の評価用試験片を金属部品にインサート成形して作製し、評価用試験片(α)を得た。射出条件は、シリンダー温度270℃、金型温度140℃、充填時間0.5秒となるように射出速度を調整、保圧40MPa、射出時間15秒、冷却時間15秒にて実施した。なお、金属部品は、アルミニウム(A5052)片に(株)東亜電化社のTRI技術による表面処理を施した試験片を使用した。得られた評価用試験片(α)を、ISO19095-3:2015に従い、樹脂部と金属部のせん断接合強度を測定した。続いて、前記と同じ方法で調製した試験片(α)を、85℃×85%RHの温度と湿度に設定されたエスペック(株)社製高度加速寿命試験装置EHS-411に投入し、1500時間加圧湿熱処理を行い、試験片(β)を得た。上記試験片(α)に対して行った条件と同様の条件にて、試験片(β)についてせん断接合強度を測定し、下記式で求められる金属接合強度の変化率を求めた。変化率が小さいほど、高温・多湿環境下における金属接合性に優れるとした。
金属接合強度の変化率(%)=(試験片(α)の接合強度-試験片(β)の接合強度)/(試験片(α)の接合強度)×100 。
【0090】
6.離型性
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の試料を、図4に記載した肉厚が1.5mmで底面中央に空気抜け穴を有した箱形の成形品の形状となる金型を使用し、離型力を測定した。日精樹脂工業株式会社製NEX1000射出成形機を用い、シリンダー温度270℃、金型温度80℃、射出時間と保圧時間は合わせて5秒、冷却時間20秒の条件で図4に示した形状の成形品を成形し、離型力測定には、テクノプラス社製“ロードセル1C-1B”を金型内に挿入し、歪み増幅器には、東洋ボールドウィン社製“MD-1031”、記録装置には、日置電機製“メモリーハイコーダ8840”を用いて、図4の成形品の底面をφ10のエジェクタピン4本で突き出す際の離型力(N)を測定した。離型力が小さいほど離型性に優れるとした。
【0091】
実施例および比較例で用いた原料等を次に示す。
【0092】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)
以下の製造例1~4によりポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を得て、上記方法で評価し、表1にその結果を示した。
【0093】
[製造例1]
エステル化反応におけるジオール成分とジカルボン酸成分のモル比(ジオール成分/ジカルボン酸成分)を1.5とし、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸:2000g、ジオール成分として1,4-ブタンジオール:1627g、分岐を有する飽和脂肪族アルコールとして2-ヘキシル-1-ドデカノール:49g(テレフタル酸100モル%に対して1.5モル%)、エステル化反応触媒としてTBT(テトラ-n-ブチルチタネート):生成するポリエステル樹脂100gに対して7.5×10-5モル(ポリエステル樹脂100重量部に対して0.025重量部)を、精留塔の付いた反応器に仕込み、温度160℃、窒素気流下にてエステル化反応を開始した。その後、徐々に昇温し、最終的に温度225℃の条件下でエステル化反応を行った。留出液の状態などによりエステル化反応の終了を確認し、エステル化反応の反応時間を220分間とした。得られた反応物に、重縮合反応触媒としてTBT:生成するポリエステル樹脂100gに対して7.5×10-5モル(ポリエステル樹脂100重量部に対して0.025重量部)を添加し、温度260℃、圧力100Paの条件で重縮合反応を行った。反応物の粘度などにより重縮合反応の終了を確認し、ポリエステル樹脂を得るための重縮合反応の反応時間を140分間とし、合計360分間反応を実施し、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A-1)を得た。
【0094】
[製造例2]
分岐を有する飽和脂肪族アルコールとして2-デシル-1-テトラデカノール:64g(テレフタル酸100モル%に対して1.5モル%)を用いる以外は、製造例1と同様に反応を実施し、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A-2)を得た。
【0095】
[製造例3]
分岐を有する飽和脂肪族アルコールとして2-テトラデシル-1-オクタデカノール:84g(テレフタル酸100モル%に対して1.5モル%)を用いる以外は、製造例1と同様に反応を実施し、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A-3)を得た。
【0096】
[製造例4]
エステル化反応におけるジオール成分とジカルボン酸成分のモル比(ジオール成分/ジカルボン酸成分)を1.7とし、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸:2000g、ジオール成分として1,4-ブタンジオール:1840g、エステル化反応触媒としてTBT:生成するポリエステル樹脂100gに対して7.5×10-5モル(ポリエステル樹脂100重量部に対して0.025重量部)を、精留塔の付いた反応器に仕込み、温度160℃、圧力90kPaの減圧下にてエステル化反応を開始した。その後、徐々に昇温し、最終的に温度225℃の条件下でエステル化反応を行った。留出液の状態などによりエステル化反応の終了を確認し、エステル化反応の反応時間を180分間とした。得られた反応物に、重縮合反応触媒としてTBT:生成するポリエステル樹脂100gに対して7.5×10-5モル(ポリエステル樹脂100重量部に対して0.025重量部)を添加し、温度245℃、圧力100Paの条件で重縮合反応を行った。反応物の粘度などにより重縮合反応の終了を確認し、ポリエステル樹脂を得るための重縮合反応の反応時間を150分間とし、合計330分間反応を実施し、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A-4)を得た。
【0097】
ガラス繊維(B)
(B-1)扁平ガラス繊維:日東紡(株)製ガラス繊維CSG 3PA-830(断面の長径と短径の比(扁平化率)が4である)を用いた。
(B-2)円形ガラス繊維:日本電気硝子(株)製ガラス繊維ECS03T―187(断面の長径と短径の比(扁平化率)が1である)を用いた。
【0098】
ポリカーボネート樹脂(C)
(C-1)ポリカーボネート樹脂:出光興産(株)製“タフロン”(登録商標)A1900、メルトボリュームレート19cm/10minを用いた。
(C-2)ポリカーボネート樹脂:出光興産(株)製“タフロン”(登録商標)A2200、メルトボリュームレート12cm/10minを用いた。
【0099】
エポキシ基を有する化合物(D)
(D-1)エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体:グリシジルメタクリレート含有割合6%、住友化学(株)製“ボンドファースト”(登録商標)BF-2Cを用いた。
(D-2)スチレン-ブタジエンブロック共重合体のエポキシ化物:(株)ダイセル製“エポフレンド”(登録商標)AT501を用いた。
【0100】
有機リン酸エステル化合物(E)
(E-1)リン酸オクタデシル:(株)ADEKA製“アデカスタブ”(登録商標)AX-71を用いた。
【0101】
[実施例1]
スクリュー径30mm、L/D35の同方向回転ベント付き二軸押出機(日本製鋼所製、TEX-30α)を用いて、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)およびガラス繊維(B)を表2に示した組成で配合されるよう、二軸押出機に導入した。なおここで、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)は二軸押し出し機の元込め部から、ガラス繊維(B)は、元込め部とベント部の途中にサイドフィーダーを設置して添加した。また、ニーディングゾーンを、元込め部からサイドフィーダーの途中と、サイドフィーダーから吐出口の途中にそれぞれ組み込んだスクリュー構成とし、シリンダー温度を260℃に設定し、スクリューの回転周速度を19m/minの押出条件で溶融混合を行い、ストランド状に吐出し、冷却バスを通して固化させた後、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットを110℃の温度の熱風乾燥機で6時間乾燥後、前記方法で評価し、表2にその結果を示した。
[実施例2、3、6~13、比較例3~5]
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)、ガラス繊維(B)、ポリカーボネート樹脂(C)、エポキシ基を有する化合物(D)および有機リン酸エステル化合物(E)を表2に示す成分及び量とした以外は実施例1と同様の方法で、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを得た。なおここで、ポリカーボネート樹脂(C)、エポキシ基を有する化合物(D)および有機リン酸エステル化合物(E)は二軸押し出し機の元込め部からポリブチレンテレフタレート樹脂(A)と混合して導入し、ガラス繊維(B)は、元込め部とベント部の途中にサイドフィーダーを設置して添加した。得られたペレットを実施例1と同様に乾燥し、評価を行い、表2にその評価結果を示した。
【0102】
[実施例4]
押出条件を、シリンダー温度を250℃、スクリューの回転周速度を28m/minに変更した以外は実施例2と同様にして、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを実施例1と同様に乾燥し、評価を行い、表2にその結果を示した。
【0103】
[実施例5]
押出条件を、シリンダー温度を270℃、スクリューの回転周速度を14m/minに変更した以外は実施例2と同様にして、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを実施例1と同様に乾燥し、評価を行い、表2にその結果を示した。
[比較例1]
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)およびガラス繊維(B)を表2に示した組成で混合した後、サイドフィーダーを用いずに、二軸押出機の元込め部から添加した以外は、実施例1と同様にして、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを実施例1と同様に乾燥し、評価を行い、表2にその結果を示した。
【0104】
[比較例2]
押出条件を、シリンダー温度を280℃、スクリューの回転周速度を9.4m/minに変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを実施例1と同様に乾燥し、評価を行い、表2にその結果を示した。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2-1】
【0107】
【表2-2】
【0108】
実施例1~13と比較例1~5の比較より、脂肪族アルコール部位を有する成分(A)に対して、扁平断面を有する成分(B)を特定量配合し、組成物中の成分(B)の重量平均繊維長(Lw)とD90/Lwを特定の範囲に制御することによって、高温・多湿な環境下における金属接合性と離型性に優れることが分かった。
【0109】
実施例1~5と実施例6~13の比較より、さらに成分(C)、成分(D)および成分(E)を配合することによって、高温・多湿な環境下における金属接合性と離型性を高いレベルで両立できることが分かった。
【符号の説明】
【0110】
1 繊維長(μm)の軸:矢印の向かう側が長繊維側
2 累積頻度(%)の軸
3 累積繊維長分布曲線
4 繊維長(μm)の軸:矢印の向かう側が長繊維側
5 頻度(%)の軸
6 繊維長分布曲線
7 繊維長(μm)の軸:矢印の向かう側が長繊維側
8 頻度(%)の軸
9 D90/Lwが2.5より大きい繊維長分布曲線の形状の例
10 ゲート穴(2mmφ)
11 空気抜け穴(5mmφ)
図1
図2
図3
図4