(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038952
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】Akkermansia属細菌増殖促進剤
(51)【国際特許分類】
A23L 33/105 20160101AFI20240313BHJP
A23L 33/28 20160101ALI20240313BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20240313BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20240313BHJP
A61K 31/702 20060101ALI20240313BHJP
A61K 36/53 20060101ALI20240313BHJP
A61K 36/28 20060101ALI20240313BHJP
A61K 36/54 20060101ALI20240313BHJP
A61K 36/899 20060101ALI20240313BHJP
A61K 35/644 20150101ALI20240313BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20240313BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20240313BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
A23L33/105
A23L33/28
C12N1/20 A
A23L33/10
A61K31/702
A61K36/53
A61K36/28
A61K36/54
A61K36/899
A61K35/644
A61P3/04
A61P1/00
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143342
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100098110
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 みどり
(74)【代理人】
【識別番号】100090583
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 清
(72)【発明者】
【氏名】坂井 友美
(72)【発明者】
【氏名】石田 祐子
(72)【発明者】
【氏名】山崎 愛理沙
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C086
4C087
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LE02
4B018MD31
4B018MD48
4B018MD61
4B018MD78
4B018MD85
4B018ME01
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4B065BA22
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4C086AA01
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4C087NA05
4C087ZA70
4C087ZA73
4C087ZC75
4C088AB26
4C088AB33
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4C088NA05
4C088ZA70
4C088ZA73
4C088ZC75
(57)【要約】
【課題】 Akkermansia属細菌を増殖促進することができるAkkermansia属細菌増殖促進剤及びそれを配合した腸内環境改善用組成物を提供する。
【解決手段】 ローズマリー抽出物、キチンオリゴ糖、プロポリス抽出物、パロアッスル抽出物、ケイヒ抽出物及び米油抽出物からなる群から選ばれる1種以上を含有するAkkermansia属細菌増殖促進剤。前記Akkermansia属細菌は、Akkermansia muciniphilaであることが好ましい。前記Akkermansia属細菌増殖促進剤は、抗肥満用であることが好ましい。前記Akkermansia属細菌増殖促進剤を配合した腸内環境改善用組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローズマリー抽出物、キチンオリゴ糖、プロポリス抽出物、パロアッスル抽出物、ケイヒ抽出物及び米油抽出物からなる群から選ばれる1種以上を含有するAkkermansia属細菌増殖促進剤。
【請求項2】
Akkermansia属細菌が、Akkermansia muciniphilaであることを特徴とする請求項1に記載のAkkermansia属細菌増殖促進剤。
【請求項3】
抗肥満用であることを特徴とする請求項1に記載のAkkermansia属細菌増殖促進剤。
【請求項4】
請求項1に記載のAkkermansia属細菌増殖促進剤を配合した腸内環境改善用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はAkkermansia属細菌増殖促進剤に関する。さらに詳しく言うと、本発明は、ローズマリー抽出物、キチンオリゴ糖、プロポリス抽出物、パロアッスル抽出物、ケイヒ抽出物及び米油抽出物からなる群から選ばれる1種以上を含有するAkkermansia属細菌増殖促進剤及びそれを配合した腸内環境改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
Akkermansia属細菌は、成人のヒト腸内に生息する嫌気性菌である。
Akkermansia属細菌は多様な健康増進効果を有することが知られており、肥満、炎症、アレルギー、糖尿病、肝機能障害、更年期障害、癌等に対して抑制、緩和、改善、治療効果を有する。
しかし、Akkermansia属細菌は、成人ヒト腸内に豊富に存在するとは言い難く、肥満症などAkkermansia属細菌の効果が期待される人ほど保有率が低い。また、加齢によって腸内保有率が減少する傾向がある。
そのため、同細菌を増殖促進させることによって腸内の相対的存在量を増加させ、それを維持することが求められている。
【0003】
これまでにも、腸内における同細菌の存在量を増加、維持するための技術が報告されている。例えば、ポリフェノール類(特許文献1)、アスタキサンチン(特許文献2)ペプチド類(特許文献3)、ビタミン類(特許文献4)、ムコ多糖類(特許文献5)を用いてAkkermansia属細菌を増加させる方法が報告されている。
しかしながら、これらの文献に記載の素材は、善玉菌であるAkkermansia属細菌への特異性があまりないという問題があった。
したがって、善玉菌であるAkkermansia属細菌への特異性を有し、同菌を増殖促進できる素材を用いる増殖促進剤の開発が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-41955号公報
【特許文献2】特開2019-131527号公報
【特許文献3】特開2019-43867号公報
【特許文献4】特表2021-535086号公報
【特許文献5】特開2022-50998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況下で、本発明は、Akkermansia属細菌を増殖促進することができるAkkermansia属細菌増殖促進剤及びそれを配合した腸内環境改善用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、Akkermansia属細菌に対し約1500種以上の素材を添加して同菌の増殖促進作用の評価を行ったところ、ローズマリー抽出物、キチンオリゴ糖、プロポリス抽出物、パロアッスル抽出物、ケイヒ抽出物及び米油抽出物の各素材がAkkermansia属細菌に対して同菌を著しく増殖促進し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、下記のAkkermansia属細菌増殖促進剤及びそれを含有する腸内環境改善用組成物を提供するものである。
(1)ローズマリー抽出物、キチンオリゴ糖、プロポリス抽出物、パロアッスル抽出物、ケイヒ抽出物及び米油抽出物からなる群から選ばれる1種以上を含有するAkkermansia属細菌増殖促進剤。
(2)Akkermansia属細菌が、Akkermansia muciniphilaである上記(1)に記載のAkkermansia属細菌増殖促進剤。
(3)抗肥満用であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載のAkkermansia属細菌増殖促進剤。
(4)上記(1)~(3)のいずれかに記載のAkkermansia属細菌増殖促進剤を配合した腸内環境改善用組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、安全な素材を用いて、Akkermansia属細菌を増殖促進できる増殖促進剤及びそれを配合した腸内環境改善用組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1における生菌由来ATP産生量の測定結果を示すグラフである。
【
図2】実施例1におけるOD
600の測定結果を示すグラフである。
【
図3】比較例1における生菌由来ATP産生量の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について、例を挙げながら詳しく説明する。
【0011】
本発明は、ローズマリー抽出物、キチンオリゴ糖、プロポリス抽出物、パロアッスル抽出物、ケイヒ抽出物及び米油抽出物からなる群から選ばれる1種以上の素材を含有するAkkermansia属細菌増殖促進剤である。
本発明におけるAkkermansia属細菌は、特に限定されないが、例えば、Akkermansia muciniphilaが好ましい。
【0012】
本発明におけるローズマリー抽出物は、特に限定されないが、例えば、ローズマリー(Rosmarinus officinalis)の葉から得られる抽出物を用いることが好ましい。
本発明におけるキチンオリゴ糖は、特に限定されないが、例えば、カニやエビの殻から精製したキチンを原料として、加水分解により製造されるものを用いることが好ましい。
本発明におけるプロポリス抽出物は、特に限定されないが、例えば、ミツバチ科ミツバチ(Apis spp.)の巣から溶媒を用いて抽出して得られるものを用いることが好ましい。
本発明におけるパロアッスル抽出物は、特に限定されないが、例えば、南米パラグアイ産のハーブであるパロアッスル(Cyclolepis genistoides D. Don)を、溶媒を用いて抽出して得られるものを用いることが好ましい。
本発明におけるケイヒ抽出物は、特に限定されないが、例えば、ケイヒ(Cinnamomum cassia Blume)から溶媒を用いて抽出して得られるものを用いることが好ましい。
本発明における米油抽出物は、特に限定されないが、例えば、イネ科イネ(Oryza sativa Linne)の種子から生ずる米ぬか及び米胚芽から抽出して得られるものを用いることが好ましい。
これらの素材はすべて動植物由来であり、安全性において問題のない素材である。
本発明において、これらの素材は、いずれか1種を用いてもよいが、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0013】
本発明のAkkermansia属細菌増殖促進剤は、腸内に存在するAkkermansia属細菌を増殖促進させ、維持することにより腸内環境を改善することができる。
本発明のAkkermansia属細菌増殖促進剤により改善される疾患や症状としては、例えば、肥満症、炎症、アレルギー、肝機能障害、更年期障害、癌等などが例として挙げられるが、特に肥満症に対して有効であり、抗肥満用として用いることができる。肥満症に対しては、同菌による腸内環境改善によって内臓脂肪・皮下脂肪の量や腹部周囲径を低減させることができる。
また、本発明のAkkermansia属細菌増殖促進剤は、痩身願望を有する者の摂取にも適しており、無理なダイエットをせずとも、肥満症と同様に、内臓脂肪・皮下脂肪・腹部総脂肪の量や腹部周囲径を低減し得るため、好適に用いることができる。
本発明のAkkermansia属細菌増殖促進剤は、Akkermansia属細菌のプロバイオティクス菌としての利用にとって非常に有用である。
【0014】
本発明のAkkermansia属細菌増殖促進剤は、そのまま単独で用いることができるが、Akkermansia属細菌を増殖促進し得るその他の物質と組み合わせて用いてもよい。
【0015】
本発明のAkkermansia属細菌増殖促進剤を配合した腸内環境改善用組成物(以下、腸内環境改善用組成物)は、食品組成物、医薬組成物、飼料組成物として用いることができる。食品組成物は、特に限定されないが、健康食品、サプリメント、美容用食品、栄養補助食品、機能性食品、特定保健用食品などとして使用することができる。
また、本発明のAkkermansia属細菌増殖促進剤は、他の機能を有する組成物中に配合してもよい。
本発明の腸内環境改善用組成物の形態、剤型は限定されず、カプセル、錠剤、粉剤、顆粒、ゼリー剤、ドリンク剤、液剤等いずれの形態、剤型としてもよい。
【0016】
本発明の腸内環境改善用組成物は、食品組成物、医薬組成物、飼料組成物の製造において通常使用される栄養成分、賦形剤、添加物などいかなる原料も適宜用いることができる。
【0017】
本発明の腸内環境改善用組成物に配合することができる栄養成分としては、ビタミン類、ミネラル類、タンパク質、脂質、糖質等を適宜用いることができ、その種類や配合量は限定されない。
本発明の腸内環境改善用組成物に配合することができる賦形剤としては、例えば、水、精製水、アルコール、グリセリン、乳糖、デンプン、デキストリン、白糖、沈降シリカ、蜂蜜等を用いることができ、その種類や配合量は限定されない。
本発明の腸内環境改善用組成物に配合することができる添加物としては、例えば、乳化剤、凝固剤、軟化剤、pH調整剤、酵素、香料、光沢剤、苦味剤、調味料等を用いることができ、その種類や配合量は限定されない。
【0018】
本発明の腸内環境改善用組成物は、本発明のAkkermansia属細菌増殖促進剤とは別のAkkermansia属細菌増殖促進物質や、その他のいかなる医薬成分をも適宜配合することができる。
【0019】
本発明のAkkermansia属細菌増殖促進剤の1日当たりの摂取、投与量は、特に限定されないが、0.1mg~10g、さらに、0.5mg~5gの範囲であることが好ましい。
ただし、1日当たりの摂取、投与量は、対象者の症状、年齢、体重、性別などにより適宜変更することができる。
本発明の腸内環境改善用組成物においても、それに含まれるAkkermansia属細菌増殖促進剤の1日当たりの摂取量がそれぞれ上記と同じ量となるように各素材を配合することが好ましい。
【0020】
なお、本発明のAkkermansia属細菌増殖促進剤及びそれを配合した腸内環境改善用組成物の製造方法は、特に限定されず、慣用のいかなる方法で製造してもよい。
【実施例0021】
以下、実施例を挙げて本発明を詳しく説明する。実施例において、単に「%」と記載するものはすべて「質量%」を意味する。
【0022】
(実施例1)
本実施例では、ローズマリー抽出物、キチンオリゴ糖、プロポリス抽出物、パロアッスル抽出物、ケイヒ抽出物及び米油抽出物によるAkkermansia muciniphilaの増殖促進促進作用について試験、評価を行った。
【0023】
(1)試験試料
Akkermansia属細菌は、国立研究開発法人理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室より分譲されたAkkermansia muciniphila JCM30893株を使用した。
【0024】
使用した各素材は、下記の通りである。
・ローズマリー抽出物(品名:ローズマリーエキス、バイオアクティブズジャパン社製)
・キチンオリゴ糖(品名:キチンオリゴ糖、日本水産社製)
・プロポリス抽出物(品名:プロポクリア20、森川健康堂社製)
・パロアッスル抽出物(品名:パロティエラSG、金剛薬品社製)
・ケイヒ抽出物(品名:ケイヒ末、日本粉末薬品社製)
・米油抽出物(品名:オリザテルペノイド-P、オリザ油化社製)
【0025】
(2)増殖促進促進作用の評価
0.5%のムチン(M2378:シグマ社製)を添加したブレインハートインフィージョン(BHI)培地(BD237500:ベクトン・ディッキンソン社製)10mLに、Akkermansia muciniphilaを植菌後、24時間前培養を行った。
本培養には、ローズマリー抽出物、キチンオリゴ糖、プロポリス抽出物、パロアッスル抽出物、ケイヒ抽出物、米油抽出物をそれぞれ終濃度150μg/ml、500μg/mlとなるように添加したBHI培地10mLを使用した。被験物質の溶解にはジメチルスルホキシド(DMSO)を使用した。コントロール(陰性対照)にはDMSOを終濃度0.5%となるように添加したBHI培地を用い、陽性対照にはムチンを終濃度0.5%となるように添加したBHI培地を用いた。次いで、超微量分光光度計(NanoDrop:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて前培養液の600nm(OD600)の光学密度を計測し、初期濁度が0.03になるように前培養液の菌体を各本培養液に添加し、本培養を開始した。作業はすべて嫌気ワークステーションコンセプト400(ラスキン社製)内の嫌気的条件下で、37℃で実施した。
【0026】
菌の増殖促進は24時間培養後の菌液を用いて、生菌由来ATP量とOD
600の2つの指標を用い、下記の方法で評価した。
生菌由来ATP量については、本培養液100μLを96-Well Flat-Bottom Microplate(白色:ヌンク社製)に分取し、BacTiter-Glo(登録商標)Microbial Cell Viability Assay(プロメガ社製)を用い、添付の説明書に従って操作を行い、発光プレートリーダー(Infinite 200 PRO:テカン社製)で生菌由来ATP産生量を測定し、コントロールと各素材6種を比較して増殖促進促進作用を判定した。
OD
600については、NanoDrop(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)で測定した。
図1に生菌由来ATP産生量を示し、
図2にOD
600を示す。
図1、2におけるグラフ及び数値は、コントロールを用いた試料に対するAkkermansia属細菌の増殖促進割合を示す。
【0027】
(比較例1)
比較例1として、一般的なプレバイオティクスであるオリゴ糖(ミルクオリゴ糖)を用いて、実施例1と同じ方法により試験を行い、生菌由来ATP産生量を測定した。結果を
図3に示す。
図3におけるグラフ及び数値は、コントロールを用いた試料に対するAkkermansia属細菌の増殖促進割合を示す。
【0028】
(3)結果
図1、
図2に示すように、生菌由来ATP産生量及びOD
600のいずれの指標においても、ローズマリー抽出物、キチンオリゴ糖、プロポリス抽出物、パロアッスル抽出物、ケイヒ抽出物及び米油抽出物を添加した試料は、コントロールに比べて、Akkermansia属細菌の著しい増殖促進作用が確認できた。
それに対して、
図3に示されるように、一般的なプレバイオティクスであるミルクオリゴ糖によっては、Akkermansia属細菌増殖促進作用はほとんど認められなかった。
【0029】
(処方例1)
表1に示す処方で、ダイコンプレス式のハードカプセル充填機を用い常法に従いハードカプセル(サイズ2号)を製造した。
【0030】
【0031】
表1の処方により、問題なくハードカプセル剤を製造することができた。