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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038956
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】移動装置及び張力測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 5/106 20200101AFI20240313BHJP
   G01M 13/023 20190101ALI20240313BHJP
【FI】
G01L5/106
G01M13/023
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143348
(22)【出願日】2022-09-08
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】000138473
【氏名又は名称】株式会社ユーシン精機
(74)【代理人】
【識別番号】100167807
【弁理士】
【氏名又は名称】笠松 信夫
(72)【発明者】
【氏名】三宅 智也
【テーマコード(参考)】
2F051
2G024
【Fターム(参考)】
2F051AB09
2F051AC04
2G024AB08
2G024BA27
2G024CA11
2G024CA13
2G024DA09
(57)【要約】
【課題】比較的簡易な構成で、装置を稼働停止させることなく実用上問題のない精度でベルトの張力を測定することができる移動装置及びベルトの張力測定方法を提供する。
【解決手段】振動部材1は、一部がベルト13の特定位置に接する状態で移動装置10のベルト13以外の構成部材である固定部材14に固定される。そして、振動部材1は、ベルト13の振動とともに振動する。センサ2は、振動部材1に固定され、ベルト13の振動を検知する。張力演算部3は、センサ2により検知されたベルト13の振動に基づいてベルト13の張力を演算する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定されたベルトに沿って移動する移動体、又はベルトに固定されて当該ベルトの移動とともに移動する移動体を備える移動装置であって、
一部が前記ベルトの特定位置に接する状態で前記移動装置の前記ベルト以外の構成部材に固定され、前記ベルトの振動とともに振動する振動部材と、
前記振動部材に固定され、前記ベルトの振動を検知するセンサと、
前記センサにより検知された前記ベルトの振動に基づいて前記ベルトの張力を演算する張力演算部と、
を備える移動装置。
【請求項2】
前記センサは、前記移動体が予め設定された測定位置に停止した際に、当該測定位置までの前記移動体の移動に起因する前記ベルトの振動を検知する、請求項1記載の移動装置。
【請求項3】
前記振動部材は、前記ベルトを押圧する状態で前記ベルトの特定位置に接触する、請求項2記載の移動装置。
【請求項4】
前記振動部材は、前記ベルトとの接触部に摩耗防止部をさらに備える、請求項3記載の移動装置。
【請求項5】
周囲温度を検知する温度センサをさらに備え、
前記張力演算部は、前記温度センサにより検知された温度と前記センサにより検知されたベルトの振動とに基づいて前記ベルトの張力を演算する、請求項1から4のいずれか1項に記載の移動装置。
【請求項6】
固定されたベルトに沿って移動する移動体、又はベルトに固定されて当該ベルトとともに移動する移動体を備える移動装置における前記ベルトの張力測定方法であって、
前記移動体を予め設定された測定位置に移動させるステップと、
前記測定位置への移動に起因する前記ベルトの振動を、当該ベルトの特定位置に接する振動部材を介して検知するステップと、
検知された前記ベルトの振動に基づいて前記ベルトの張力を演算するステップと、
を有する張力測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルトを介して移動する移動体を備える移動装置、及びそのベルトの張力測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な機械装置においてベルトを介して移動する移動体を備える移動装置が広く使用されている。このような移動装置として、例えば、駆動プーリーと従動プーリーとの間に架け渡された歯付きベルトに固定された移動体を、駆動プーリーの回転によって歯付きベルトとともに移動させる構成や、移動体が備える駆動プーリーに両端が固定された歯付きベルトが巻き付けられ、駆動プーリーの回転によって移動体が歯付きベルトに沿って移動する構成が知られている。
【0003】
このようなベルトを使用した移動装置では、使用にともなうベルトの摩耗や伸び等に起因してベルトの張力が低下する。ベルトの張力が規定値よりも小さい状態である場合、駆動力の効率的な伝達ができなくなるとともに、異音の発生や、移動体の位置精度の低下等の不具合が生じる。一方、ベルトの張力が規定値よりも大きい状態である場合、ベルトに過度な負荷が付与される結果、寿命が短くなる等の不具合が生じる。そのため、ベルトの張力を定期的に測定することにより、規定値どおりに調整されているかを確認する必要がある。
【0004】
ベルトの張力を測定する手法としては、ベルトの振動周波数を、音響的、機械的、電気的、あるいは、光学的に取得し、取得した周波数に基づいて張力を算出する方法が一般的に使用されている(例えば、特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-196783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のような移動体を備える移動装置では、移動体が移動するため、移動体の位置によって移動体の一方側と他方側のベルトのスパン(長さ)が変化する。そのため、ベルトの張力を測定する際には、(1)移動装置を稼働停止状態とし、(2)移動体をベルトのスパンが規定の長さになる特定位置に移動させ、(3)ベルトを振動させ、(4)振動周波数をテンションメータ等の測定器で測定する、という手順が必要であった。
【0007】
しかしながら、24時間稼働の生産設備等に使用される移動装置の場合、装置の稼働停止は生産効率の低下に直結するため好ましくない。そのため、移動装置を稼働停止することなくベルトの張力を測定できることが強く求められる。
【0008】
一方、従来の手順では、作業者が測定器を持参して測定を実施しているが、生産設備等は、稼働中は可動部が露出しないようにカバーが配置されていたり、稼働中に人が近づくと安全のため緊急停止する機能を有していたりすることが通常である。そのため、装置の稼働中に作業者がベルトの張力を測定することは困難である。加えて、ベルトの振動周波数から張力を算出する場合、ベルトの周囲温度を加味する必要があるため、作業者はベルトの振動周波数の測定とともに周囲温度も計測する必要があり、ベルトの張力測定自体が作業者に負担を強いる作業にもなっている。
【0009】
作業者の作業負担を軽減する観点では、端的には、ベルトに振動周波数を測定可能なセンサ等を設置することで、作業者が測定をするという作業をなくすことは可能である。例えば、ベルト表面やベルトの振動が伝搬する移動装置の構成部材に加速度センサ等を設置することでベルトの振動に伴う何らかの数値を得ることはできる。
【0010】
しかしながら、ベルト表面にセンサを設置する構成では、ベルトにセンサ等を固定するために接着やボルト固定等が必要になる。接着の場合、ベルトに接着剤を塗布する必要があるため接着剤でベルトが劣化する可能性がある。また、ボルト固定の場合、ベルトに固定用の貫通孔等を設ける必要があり、ベルトの強度が低下する可能性がある。さらに、移動装置の構成部材にセンサを設置する構成では、構成部材が金属等の高剛性の素材から構成されているため、伝搬されるベルトの振動の大きさが小さくなり、ベルト以外の振動に起因するノイズとの区別が困難となって、実用上十分な測定精度を得ることが難しい。
【0011】
また、上述の特許文献1は、ベルトに先端が固定されベルトとともに振動するレバーの振動を測定する手法を開示しているが、ベルトへの固定方法としてレバー先端に設けた2つのローラによりベルトを挟持する構成を採用している。このような構成では、ローラに挟持された状態でベルトが移動するため、ベルトに転がり摩耗が発生し、ベルトが劣化する可能性がある。加えて、本手法では、レバーが比較的複雑な構成であるため、コスト高になる上、メンテナンス性が低いという問題もある。
【0012】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、比較的簡易な構成で、装置を稼働停止させることなく実用上問題のない精度でベルトの張力を測定することができる移動装置及びベルトの張力測定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の目的を達成するために、本発明は以下の技術的手段を採用している。まず、本発明は、固定されたベルトに沿って移動する移動体、又はベルトに固定されて当該ベルトの移動とともに移動する移動体を備える移動装置を前提としている。そして、本発明に係る移動装置は、振動部材、センサ、及び張力演算部を備える。振動部材は、一部がベルトの特定位置に接する状態で移動装置のベルト以外の構成部材に固定され、ベルトの振動とともに振動する。センサは、振動部材に固定され、ベルトの振動を検知する。張力演算部は、センサにより検知されたベルトの振動に基づいてベルトの張力を演算する。
【0014】
この移動装置では、ベルトの振動が伝搬し易い振動部材を介してベルトの振動を検知しているため、ベルトに劣化や強度低下を招くことがなく、ベルトの振動を実用上問題ない大きさで正確に検知することができる。また、装置の稼働中にベルトの張力測定を実施できるため装置の稼働効率が低下することがない。
【0015】
以上の移動装置では、センサが、移動体が予め設定された測定位置に停止した際に、当該測定位置までの移動体の移動に起因するベルトの振動を検知する構成を採用することができる。また、振動部材がベルトを押圧する状態でベルトの特定位置に接触する構成を採用することもできる。さらに、振動部材がベルトとの接触部に摩耗防止部をさらに備える構成を採用することもできる。加えて、周囲温度を検知する温度センサをさらに備え、張力演算部が、温度センサにより検知された温度とセンサにより検知されたベルトの振動とに基づいてベルトの張力を演算する構成を採用することもできる。
【0016】
一方、他の観点では、本発明は、固定されたベルトに沿って移動する移動体、又はベルトに固定されて当該ベルトとともに移動する移動体を備える移動装置におけるベルトの張力測定方法を提供することもできる。すなわち、本発明に係る張力測定方法では、まず、
移動体が予め設定された測定位置に移動される。次いで、測定位置への移動に起因するベルトの振動が、当該ベルトの特定位置に接する振動部材を介して検知される。そして、検知されたベルトの振動に基づいてベルトの張力が演算される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、固定されたベルトに沿って移動する移動体、又はベルトに固定されて当該ベルトの移動とともに移動する移動体を備える移動装置において、比較的簡易な構成で、装置を稼働停止させることなく実用上問題のない精度でベルトの張力を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る移動装置の一例を模式的に示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る移動装置の一例を模式的に示す要部拡大図である。
図3】本発明の一実施形態に係る移動装置におけるベルトの張力測定方法の一例を示すフロー図である。
図4】本発明の一実施形態に係る移動装置の動作を模式的に示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係る移動装置の他の例を模式的に示す図である。
図6】本発明の一実施形態に係る移動装置の他の例を模式的に示す要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながらより詳細に説明する。ここでは、移動体を直線方向に進退させる機構である移動装置として本発明を具体化する。なお、本発明は、例えば、直交座標型のロボットや搬送装置において、一軸方向の移動を担う移動装置に適用可能である。
【0020】
図1は、本実施形態に係る移動装置10を模式的に示す図である。なお、図1では、説明のため、移動体21の外形を破線で示すとともに、移動体21の内部の構成を模式的に示している。
【0021】
図1に示すように、本実施形態の移動装置10は、長尺状のベースフレーム11とベースフレーム11の長手方向に沿って移動する移動体21とを備える。特に限定されないが、本実施形態では、ベースフレーム11の上端の短手方向両側に2本のガイドレール12が長手方向に沿って平行に配置されており、移動体21が当該ガイドレール12に案内されて長手方向に沿って移動するように構成されている。本実施形態では、移動体21の下部の、2本のガイドレール12のそれぞれに対応する位置にガイドレール12に整合する被ガイド部(図示せず)が設けられている。当該被ガイド部が対応するガイドレール12と嵌合する状態で配置されることで、移動体12が長手方向に沿って移動可能になっている。
【0022】
ベースフレーム11上には、ベルト13が長手方向に沿って配置され、当該ベルト13の両端がベースフレーム11の両端に設けられたクランパ等の固定部材14により固定されている。なお、ベルト13は可撓性の歯付きベルトであり、弾性を有している。
【0023】
移動体21は、駆動プーリー22と従動プーリー23、24とを備える。駆動プーリー22は、移動体21に回転自在に設置され、移動体21に搭載された駆動モータ等の駆動部により回転駆動される。駆動プーリー22は歯付きプーリーであり、ベルト13は駆動プーリー22の半周以上に巻き掛けられた状態に噛み合う。このような噛み合いが維持されるように、2つの従動プーリー23、24がベルト13の裏面(歯が形成されていない面)に接して案内する位置に配置されている。
【0024】
また、本実施形態の移動装置10は、ベルト13の振動とともに振動する振動部材1、振動部材1の振動を検知するセンサ2、ベルト13の張力を演算する張力演算部3、及び周囲温度を検知する温度センサ4を備える。本実施形態では、振動部材1は、その一部がベルト13表面の特定位置に接する状態で上述の固定部材14の一方に固定されている。固定方法は特に限定されないが、本実施形態では、ネジ止めにより振動部材1を固定部材14に固定している。なお、振動部材1は、振動部材1がベルト13の振動とともに振動可能であればよく、その材質は特に限定されない。
【0025】
図2は、本発明の一実施形態に係る移動装置10の固定部材14の近傍を拡大して示す要部拡大図である。特に限定されないが、本実施形態では、振動部材1は、可撓性を有する断面L字状の板状部材により構成されており、先端部1bがベルト13に接する状態で、基端部1aが固定部材14に固定されている。また、特に限定されないが、本実施形態では、先端部1bは、ベルト13表面の特定位置でベルト13を押圧する状態で接触するように配置されている。なお、先端部1bにおいてベルト13と当接する接触部1cは、ベルト13に与えるダメージを低減する観点では、点接触や線接触ではなく面接触であることが好ましく、また、接触部1cも曲面であることが好ましい。接触部1cの材質は、特に限定されない。例えば、ベルト13へのダメージを軽減する観点では、ゴム等の軟質の材料を採用することができ、耐久性の観点では、金属等の硬質の材料を採用することもできる。加えて、接触部1cは、接触に起因するベルト13の摩耗を低減する摩耗防止部により構成されていることがより好ましい。摩耗防止部は、例えば、フッ素樹脂等の低摩擦係数の樹脂からなる別部材を設けた構成や、このような樹脂により表面被覆加工がなされた構成を採用することができる。
【0026】
本実施形態の移動装置10では、上述の構成から理解できるように、ベルト13は移動しない。すなわち、振動部材1の先端部1bとベルト13との相対的な位置関係が変化することはなく、先端部1bはベルト13の特定位置に常に接触し続ける。この特定位置は、例えば、移動体21が移動可能な範囲内を移動する際に、従動プーリー23、24と接触することのないベルト13上の位置が設定される。なお、ここでは、振動部材1が固定部材14に固定されているが、ベルト13との接触位置が変化しない位置であれば、振動部材1はベルト13以外の移動装置10の任意の構成部材に固定することができる。
【0027】
センサ2は振動部材1に固定される。ここでは、基端部1aの先端部1b側にセンサ2が固定されている。ベルト13の振動周波数が計測可能であればセンサ2の種別は特に限定されない。例えば、加速度センサや歪みゲージ等をセンサ2として使用することができる。ここではセンサ2として加速度センサを使用している。
【0028】
温度センサ4は、移動装置10の周囲温度を検知する。周囲温度を検知可能であれば、温度センサ4の種類や設置位置も特に限定されない。本実施形態では、振動部材1が固定されている固定部材14に温度センサ4が取り付けられている。ベルト13は、周囲温度に依存して伸縮するため、同一のベルト13を同一スパンで測定した場合であっても、周囲温度が異なると取得される振動周波数も異なってしまう。そのため、移動装置10では、温度センサ4により取得した温度データに基づいて温度補正を実施する構成を採用している。
【0029】
張力演算部3は、温度センサ4により検知された温度とセンサ2により検知されたベルト13の振動とに基づいてベルト13の張力を演算する。張力演算部3は、例えば、専用の演算回路、あるいは、プロセッサとRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等のメモリとを備えたハードウェア、及び当該メモリに格納され、プロセッサ上で動作するソフトウェアにより実現することができる。なお、張力演算部3は、セン
サ2及び温度センサ4からデータを入力可能であれば任意の位置に配置することができる。本実施形態では、張力演算部3は、移動装置10の動作を制御するコントローラに配置されている。
【0030】
続いて、以上の構成を有する移動装置10の動作について説明する。図3は、移動装置10における張力測定の手順を示すフロー図である。また、図4(a)及び図4(b)は、移動装置10における張力測定の一連の動作の一例を示す模式的に示す図である。本実施形態の移動装置10は、張力測定のために可動を停止することなく、稼働中の適切なタイミング、すなわち、移動体21が予め定められた測定位置に停止しているときに張力測定を実行する。例えば、移動装置10が稼働中に、ベースフレーム11の第1の位置と第2の位置との間を移動体21が往復動する場合、移動体21は、第1の位置及び第2の位置で必ず一旦停止する。移動装置10は、この移動体21が停止する位置を予め定められた位置としてセンサ2によりベルト13の張力を測定する。特に限定されないが、本実施形態では、振動部材1は、張力測定の際の移動体21の停止位置と、距離が離れている側の固定部材14に固定されている。なお、振動部材1を固定する固定部材14は、張力測定の際に求められるベルト13のスパンに応じて定めればよい。また、振動部材1は複数箇所に設置してもよい。
【0031】
上述のように、本実施形態では、張力測定は移動装置10の可動中に実施される。張力測定は、移動装置10の可動中に常に実施することも可能であるが、本実施形態では、作業者が図示しない上述のコントローラを介して開始指示を入力した際に、予め指定された回数のみ張力が測定される構成を採用している。
【0032】
手順開始指示が入力されると、張力演算部3は移動体21が予め定められた位置に到達するまで待機する(図3ステップS301No)。なお、手順開始指示が入力されたときに、移動体21が予め定められた測定位置で停止していた場合には、張力演算部3は移動体21が測定位置に到達する次のタイミングまで待機する。当該待機期間中、移動体21は、図4(a)に示すように、測定位置に向けて移動している状態にある。当該状態でも、センサ2によりベルト13の振動を検知することは可能であるが、ベルト13のスパンs(振動部材1が当接するベルト13が弦振動する長さ)が規定の長さLと異なる上、変動し続けているため、規定のスパンの長さLにおける振動周波数を検知することはできない。
【0033】
移動体21が測定位置に到達すると、張力演算部3はセンサ2により振動部材1を介してベルト13の振動データを取得する(図3ステップS301Yes、S302)。なお、移動体21が測定位置に到達したことは、移動体21の動作を制御する動作制御部(図示せず)から、例えば、位置信号を取得することで容易に認識可能である。このとき、移動体21は、図4(b)に示すように、測定位置で停止しており、ベルト13のスパンsは振動周波数を取得すべき予め規定された長さLになっている。また、稼働時において規定される停止時間の経過後に、移動体21は移動を開始する。なお、ベルト13の振動周波数を取得するためにはベルト13に振動を付与する必要がある。本実施形態では、特に好ましい形態として、移動体21が測定位置に停止した際に、当該測定位置までの移動体21の移動に起因するベルト13の振動を検知する構成を採用している。しかしながら、ベルト13を振動させるための打撃手段を備える構成を採用し、ベルト13を打撃することで積極的にベルト13を振動させる構成を採用することも可能である。また、このとき、張力演算部3は温度センサ4により周囲温度データを取得する(図3ステップS303)。
【0034】
そして、張力演算部3は、取得した振動データからベルト13の振動周波数(基準モード)を取得するとともに、当該振動周波数と取得した温度データに基づいてベルト13の
張力を算出する(図3 ステップS304)。なお、ベルトの振動周波数から張力を算出する手法については公知であるためここでの詳細な説明は省略する。また、温度補正については、規定のスパンにおけるベルト13の振動周波数の温度依存性を別途取得しておき、当該温度依存性に基づいて取得した振動周波数を張力の基準値が規定されている標準温度における振動周波数に補正する手法等を利用することが可能である。
【0035】
張力の演算を完了した張力演算部3は、予め指定された回数の振動測定が完了したか否かを判断する(図3 ステップS305)。張力演算部3は、指定回数の測定が完了していない場合、上述の手順を繰り返す(図3 ステップS305No)。一方、指定回数の測定が完了している場合、張力演算部3は手順を終了する(図3 ステップS305Yes)。
【0036】
以上説明したとおり、本実施形態の移動装置10によれば、ベルト13の振動が伝搬し易い振動部材1を介してベルト13の振動を検知しているため、ベルト13に劣化や強度低下を招くことがなく、ベルト13の振動を実用上問題ない大きさで正確に検知することができる。また、比較的簡易な構成であるため、高コスト化やメンテナンス性の低下を招くこともない。
【0037】
また、移動装置10によれば、装置の稼働中にベルト13の張力測定を実施できるため装置の稼働効率が低下することがなく、また、張力測定に際し作業者が実施する作業もないため、作業者の負担を著しく軽減することができる。また、上述のようにベルト13の張力を容易に取得できるため、上述の張力測定を短期間に周期的に実施することで張力の経時変化を詳細に取得することも可能である。その結果、張力の調整やベルト13の交換を計画的に実施することが可能になる。
【0038】
上述の実施形態では、移動体21が駆動プーリー22を備え、両端が固定されたベルト13に沿って移動体21が移動する移動装置に本発明を適用した事例について説明した。しかしながら、本発明は、駆動プーリーと従動プーリーとの間に架け渡されたベルトに固定された移動体を、駆動プーリーの回転によってベルトとともに移動させる移動装置に適用することも可能である。以下、このような構成に適用した具体体について説明する。
【0039】
図5は、本実施形態に係る移動装置20を模式的に示す図である。図5では、説明のため、ベースフレーム31及びガイドレール32の外形を破線で示すとともに、ベースフレーム31の内部の構成を模式的に示している。また、図6は、移動装置20の振動部材1の近傍を拡大して示す要部拡大図である。なお、図5及び図6において移動装置10と同様の作用効果を奏する構成要素には、図1図2と同一の符号を付し、以下での詳細な説明は省略する。
【0040】
図5に示すように、本実施形態の移動装置20は、長尺状のベースフレーム31とベースフレーム31の長手方向に沿って移動する移動体41とを備える。特に限定されないが、本実施形態では、上述の実施形態と同様に、ベースフレーム31の上端の短手方向両側に2本のガイドレール32が長手方向に沿って平行に配置されており、移動体41が当該ガイドレール32に案内されて長手方向に沿って移動するように構成されている。
【0041】
ベースフレーム31の内部には、一方端に配置された駆動プーリー42、他方端に配置された従動プーリー43、及び駆動プーリー42と従動プーリー43との間に架け渡されたベルト33が設けられている。ベルト33はベースフレーム31の長手方向に沿って配置されている。ベースフレーム31の表面側に位置するベルト33に、クランパ等の固定部材34を介して移動体41が固定されている。なお、ベルト33は可撓性の歯付きベルトであり、弾性を有している。
【0042】
駆動プーリー42は駆動モータ等の駆動部により回転駆動される。駆動プーリー42及び従動プーリー43は歯付きプーリーであり、ベルト33は両プーリー42、43と噛み合う状態で配置されている。
【0043】
図6に示すように、移動装置20は、移動装置10と同様に、振動部材1、センサ2、張力演算部3、及び温度センサ4を備える。振動部材1は、先端部1bがベルト33に接する状態で、基端部1aが固定部材34に固定されている。上述のとおり、移動装置20において、固定部材34はベルト33に固定されており、固定部材34はベルト33とともに移動する。すなわち、振動部材1の先端部1bとベルト33との相対的な位置関係が変化することはなく、先端部1bはベルト33の特定位置に常に接触し続ける。この特定位置は、例えば、移動体41が移動可能な範囲内を移動する際に、駆動プーリー42、従動プーリー43と重なることのないベルト33上の位置が設定される。なお、ここでは、振動部材1を固定部材34に固定しているが、移動体41とともに移動する移動装置20の他の構成部材に取り付けることも可能である。移動体41とともに移動する構成部材に固定した場合は、振動部材1とベルト33との相対的な位置関係は変動しないため、固定部材34に固定した場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0044】
なお、移動装置10と同様に、センサ2は振動部材1に固定され、温度センサ4は、振動部材1が固定されている固定部材34に固定されている。また、張力演算部3は、移動装置20の動作を制御するコントローラに配置されている。また、移動装置20においても、ベルト33の張力を測定する手順は、上述の移動装置10と同様である。
【0045】
このような構成を有する移動装置20においても、上述の移動装置10により得られる作用効果と同様の作用効果を得ることができる。
【0046】
以上説明したように、本発明によれば、比較的簡易な構成で、装置を稼働停止させることなく実用上問題のない精度でベルトの張力を測定することができる。
【0047】
なお、上述の実施形態は本発明の技術的範囲を制限するものではなく、既に記載したもの以外でも、本発明の範囲内で種々の変形や応用が可能である。例えば、上述の実施形態では、温度センサ4や振動部材1の接触部1cに摩耗防止部を備えた構成について説明したが、温度センサ4や摩耗防止部を備えることは必須ではなく選択的な構成要素である。また、振動部材1をベルト13、33に押圧した状態で配置することも必須ではなく、単に接触した状態で配置してもよい。また、振動部材1をはじめとする上述した各要素の物理的な形状や材質も、本発明の効果を奏する範囲内で任意に変更することができる。また、本発明は、ベルトを介して移動する移動体を備える移動装置において、移動体が移動する際にベルトと振動部材との相対的な位置関係が変わらない移動装置であれば適用可能である。さらに、上述の実施形態では、張力測定のためのみに移動体を停止することのない構成を説明したが、張力測定のためのみに移動体を停止する構成を排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、比較的簡易な構成で、装置を稼働停止させることなく実用上問題のない精度でベルトの張力を測定することができ、移動装置及びベルトの張力測定方法として有用である。
【符号の説明】
【0049】
10、20 移動装置
1 振動部材
1c 接触部(摩耗防止部)
2 センサ
3 張力演算部
4 温度センサ
13、33 ベルト
14、34 固定部材
21、41 移動体
図1
図2
図3
図4
図5
図6