(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038979
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】タンパク質顆粒及びタンパク質含有粒子
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20240313BHJP
C12P 7/62 20220101ALI20240313BHJP
A23K 20/147 20160101ALI20240313BHJP
A23K 50/80 20160101ALI20240313BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12P7/62
A23K20/147
A23K50/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051603
(22)【出願日】2023-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2022143128
(32)【優先日】2022-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023033677
(32)【優先日】2023-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 広和
(72)【発明者】
【氏名】濱田 充代
(72)【発明者】
【氏名】大野 勝也
(72)【発明者】
【氏名】横田 晃章
(72)【発明者】
【氏名】牧野(岩倉) 美沙子
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
2B005MB09
2B150AA07
2B150AB02
2B150AE02
2B150AE22
2B150CJ07
2B150DA32
4B064AD83
4B064CA02
4B064DA16
4B064DA20
4B065AA01X
4B065AC14
4B065BD11
4B065CA43
(57)【要約】
【課題】従来のタンパク質造粒物よりも水分散性に優れるタンパク質顆粒を提供する。
【解決手段】タンパク質を含む、平均粒子径(D50)が0.5~2.5μmである一次粒子が凝集して構成されるタンパク質顆粒。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質を含む、平均粒子径(D50)が0.5~2.5μmである一次粒子が凝集して構成されるタンパク質顆粒。
【請求項2】
タンパク質を含む一次粒子が凝集して構成されるタンパク質顆粒であって、前記一次粒子の粒度分布曲線が描くピークは1つであることを特徴とするタンパク質顆粒。
【請求項3】
前記一次粒子は、アルカン酸及び/又はアルカン酸の重合体が、タンパク質を含む細胞膜により包蔵されたものである請求項1または2に記載のタンパク質顆粒。
【請求項4】
前記アルカン酸は、3-ヒドロキシ酪酸である請求項3に記載のタンパク質顆粒。
【請求項5】
請求項1または2に記載のタンパク質顆粒を含む水産飼料。
【請求項6】
前記一次粒子が、細菌由来のアルカン酸及び/又はアルカン酸の重合体を含む請求項5に記載の水産飼料。
【請求項7】
前記アルカン酸及び/又はアルカン酸の重合体が前記細菌の細胞膜により包蔵されている請求項6に記載の水産飼料。
【請求項8】
魚類または魚介類養殖用である請求項5に記載の水産飼料。
【請求項9】
水産生物に請求項5に記載の水産飼料を与えることを特徴とする水産生物への給餌方法。
【請求項10】
アルカン酸及び/又はアルカン酸の重合体が、タンパク質を含む細胞膜により包蔵されたタンパク質含有粒子であって、前記タンパク質含有粒子の平均粒子径(D50)が0.5~2.5μmである、タンパク質含有粒子。
【請求項11】
前記アルカン酸は、3-ヒドロキシ酪酸である請求項10に記載のタンパク質含有粒子。
【請求項12】
アルカン酸及び/又はアルカン酸の重合体が、タンパク質を含む細胞膜により包蔵されたタンパク質含有粒子であって、前記タンパク質含有粒子の粒度分布曲線が描くピークは1つであることを特徴とするタンパク含有粒子。
【請求項13】
前記アルカン酸は、3-ヒドロキシ酪酸である請求項12に記載のタンパク質含有粒子。
【請求項14】
請求項10または12に記載のタンパク質含有粒子を含む水産飼料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質顆粒及びタンパク質含有粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質を摂取するために、タンパク質の粉末を形態で水に溶かして飲用することが通常行われているが、タンパク質粉末の製品には水に溶けにくくダマになってしまう製品があり、水に溶けやすいタンパク質粉末が望まれている。
【0003】
特許文献1には、ホエイタンパク質を主成分として含有するタンパク質造粒物が記載されており、特許文献1によると、造粒物の平均粒子径及び均一度を特定の範囲とすることにより溶け残りが少なく飲みやすいタンパク質水溶液を調製可能なホエイタンパク質造粒物が得られたとされている。
【0004】
特許文献2には、大豆タンパク質を主成分として含有するタンパク質造粒物が記載されており、特許文献2によると、造粒物の平均粒子径及び均一度を特定の範囲とすることにより溶け残りが少なく飲みやすいタンパク質水溶液を調製可能な大豆タンパク質造粒物が得られたとされている。また、特許文献3、4には、二酸化炭素を原料とし、水素酸化細菌を用いてタンパク質を製造する技術が開示されているが、タンパク質の水に対する分散性については検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2021/054452号
【特許文献2】国際公開第2021/054454号
【特許文献3】特表2020-526230号公報
【特許文献4】特表2020-506708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されたホエイタンパク質造粒物、及び特許文献2に開示された大豆タンパク質造粒物はいずれも水分散性が充分とはいえず、さらに水分散性に優れたタンパク質造粒物が望まれていた。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、従来のタンパク質造粒物よりも水分散性に優れるタンパク質顆粒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のタンパク質顆粒は、タンパク質を含む、平均粒子径(D50)が0.5~2.5μmである一次粒子が凝集して構成される。
【0009】
本発明のタンパク質顆粒においては、当該タンパク質顆粒を構成する一次粒子の平均粒子径(D50)が0.5~2.5μmとなっており、従来のタンパク質造粒物が水に分散された場合の一次粒子の平均粒子径(D50)よりも小さくなっている。そのため、タンパク質顆粒を水に投入した際にタンパク質顆粒が崩れて小さな一次粒子が速やかに分散してタンパク質分散液が得られる。また、タンパク質分散液を撹拌するととろみが少なくさらりとした溶液が得られる。本発明のタンパク質顆粒においては、タンパク質顆粒を構成する一次粒子の平均粒子径(D50)が0.5~2.0μmであることが望ましく、さらに0.5~1.5μmであることが好ましい。
【0010】
本発明のタンパク質顆粒は、タンパク質を含む一次粒子が凝集して構成されるタンパク質顆粒であって、前記一次粒子の粒度分布曲線が描くピークは1つであることを特徴とする。
【0011】
本発明のタンパク質顆粒粒子は、タンパク質を含む一次粒子の粒度分布曲線が描くピークが1つであるため、タンパク質を含む一次粒子が速やかに分散してタンパク質分散液が得られる。また、タンパク質分散液を撹拌するととろみが少なくさらりとした溶液が得られる。
【0012】
本発明のタンパク質顆粒において、前記タンパク質顆粒の平均粒子径(D50)は、特に限定されないが、50mm(50000μm)以下が望ましく、10mm以下(10000μm)がさらに望ましく、200μm以下であることが好ましい。
【0013】
本発明のタンパク質顆粒において、前記一次粒子は、アルカン酸及び/又はアルカン酸の重合体が、タンパク質を含む細胞膜により包蔵されたものであることが好ましい。また、前記アルカン酸は、3-ヒドロキシ酪酸であることが好ましい。一次粒子が、アルカン酸及び/又はアルカン酸の重合体を合成し、菌体内に蓄積する作用を有する細菌であると、当該細菌そのものが、細菌の細胞膜によりアルカン酸及び/又はアルカン酸の重合体が包蔵された一次粒子となる。
【0014】
本発明のタンパク質顆粒は、水産飼料の含有成分であってもよい。この場合、前記一次粒子が、細菌由来のアルカン酸及び/又はアルカン酸の重合体を含むことが好ましい。また、前記アルカン酸及び/又はアルカン酸の重合体が前記細菌の細胞膜により包蔵されていることが好ましい。本発明のタンパク質顆粒は、水に分散しやすく、得られる分散液の粘度も高くならないため、他の飼料成分と良好に混合され、水産飼料として供給され得る。
【0015】
本発明の水産飼料は、例えば魚類または魚介類養殖用に使用され得る。本発明のタンパク質顆粒は水に溶解しないため、本発明のタンパク質顆粒を含む水産飼料は、環境への影響も少なく、水産生物に対する給餌方法として好ましい。
【0016】
本発明のタンパク質含有粒子は、アルカン酸及び/又はアルカン酸の重合体が、タンパク質を含む細胞膜により包蔵されたタンパク質含有粒子であって、前記タンパク質含有粒子の平均粒子径(D50)が0.5~2.5μmである。また、前記アルカン酸は、3-ヒドロキシ酪酸であることが好ましい。
【0017】
本発明のタンパク質含有粒子は、その平均粒子径(D50)が0.5~2.5μmであるため、水への投入に伴いタンパク質含有粒子が速やかに分散してタンパク質分散液が得られる。また、タンパク質分散液を撹拌するととろみが少なくさらりとした溶液が得られる。本発明のタンパク質顆粒において、当該タンパク質顆粒を構成する一次粒子の平均粒子径(D50)が0.5~2.0μmであることが望ましく、0.5~1.5μmであることが好ましい。
【0018】
また、本発明のタンパク含有粒子は、アルカン酸及び/又はアルカン酸の重合体が、タンパク質を含む細胞膜により包蔵されたタンパク質含有粒子であって、タンパク質含有粒子の粒度分布曲線が描くピークは1つであることを特徴とする。本発明のタンパク質含有粒子は、その粒度分布曲線が描くピークが1つであるため、水への投入に伴いタンパク質含有粒子が速やかに分散してタンパク質分散液が得られる。また、タンパク質分散液を撹拌するととろみが少なくさらりとした溶液が得られる。他の飼料成分と良好に混合され得ることから、魚類または魚介類養殖用の水産飼料としても適している。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、実施例1のタンパク質顆粒を多数撮像した走査型電子顕微鏡写真(倍率500倍)である。
【
図2】
図2は、実施例1のタンパク質顆粒の一つを撮像した走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)である。
【
図3】
図3は、一次粒子である水素酸化細菌のTEM写真(倍率20000倍)である。
【
図4】
図4は、水分散性試験の評価結果を示す写真である。
【
図5】
図5は、実施例1のタンパク質顆粒を構成する一次粒子の粒子径および比較対象のタンパク質顆粒が水に分散された場合の一次粒子の粒子径の測定結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例2のタンパク質顆粒の粒子径の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(発明の詳細な説明)
以下、本発明のタンパク質顆粒及びタンパク質含有粒子について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0021】
本発明のタンパク質顆粒は、タンパク質を含む、平均粒子径(D50)が0.5~2.5μmである一次粒子が凝集して構成される。また、本発明のタンパク質含有粒子は、本発明のタンパク質顆粒を構成する一次粒子となり得る粒子であり、アルカン酸及び/又はアルカン酸の重合体が、タンパク質を含む細胞膜により包蔵されたタンパク質含有粒子であって、該タンパク質含有粒子の平均粒子径(D50)が0.5~2.5μmである。
【0022】
[タンパク質顆粒]
本発明のタンパク質顆粒は、タンパク質を含む、平均粒子径(D50)が0.5~2.5μmである一次粒子が凝集して構成される。
図1は、実施例1のタンパク質顆粒を多数撮像した電子顕微鏡写真(倍率500倍)である。
図2は、実施例1のタンパク質顆粒の一つを撮像した電子顕微鏡写真(倍率5000倍)である。
図2には、一次粒子が多数凝集して、球形のタンパク質顆粒の1つが構成されていることが示されている。
【0023】
図1及び
図2に示した電子顕微鏡写真の撮像条件は下記の通りである。
装置名:走査型電子顕微鏡 S-4800((株)日立ハイテク製)
加速電圧:1kV
エミッション:10μA
WD:8mm
【0024】
一次粒子の平均粒子径(D50)は、以下の条件によりタンパク質顆粒を解砕したのちに測定することができる。なお、本明細書において、「平均粒子径(D50)」は、レーザー回折・散乱法によって求めた体積基準粒度分布における積算値50%での粒径を意味している。
測定装置:レーザー回折・散乱法による粒子径測定装置(例えばマイクロトラック・ベル(株)製のMT3300EX)
測定範囲:0.02~2000μm
光源:波長780nmの半導体レーザー、出力3mW
解砕条件:タンパク質顆粒を水へ適量入れて薬さじで攪拌し、超音波処理を5分行うことにより解砕
【0025】
タンパク質顆粒を構成する一次粒子の平均粒子径(D50)が0.5~2.5μmとなっていると、タンパク質顆粒を水に投入した際にタンパク質顆粒が崩れて小さな一次粒子が速やかに分散してタンパク質分散液が得られる。また、タンパク質分散液を撹拌するととろみが少なくさらりとした溶液が得られる。
【0026】
本発明のタンパク質顆粒を構成する一次粒子の平均粒子径(D50)は、0.5~2.0μmであることが望ましく、さらに0.5~1.5μmであることが望ましい。このような大きさの一次粒子の凝集体により構成されるタンパク質顆粒は水に分散しやすく、粘度も高くならないため、タンパク質顆粒以外の物質、例えば、タンパク質顆粒を調味料、増量材、魚粉、植物性原料(大豆油かす、コーングルテンミールなど)や動物性原料(チキンミール等)、穀類(小麦)と均一に混合しやすく、食品や飼料を生産しやすいからである。また、本発明のタンパク質顆粒においては、一次粒子の粒度分布曲線が描くピークは1つであることが望ましい。タンパク質顆粒の水分散性がより高くなると考えられるからである。
【0027】
本発明の一次粒子は、有機化合物が、タンパク質を含む細胞膜により包蔵されたものであることが好ましい。この場合、本発明のタンパク質顆粒が含むタンパク質は、細胞膜に含まれているタンパク質である。また、タンパク質顆粒が含むタンパク質が、細胞膜により包蔵された有機化合物としてのタンパク質であってもよい。タンパク質顆粒に含まれるタンパク質を構成するアミノ酸配列及び立体構造は特に限定されるものではない。
【0028】
有機化合物は細菌により合成されたものであることが好ましく、細菌により合成された有機化合物としては、アルカン酸及び/又はアルカン酸の重合体、タンパク質、アミノ酸、糖類、並びにケトンからなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。
【0029】
このような一次粒子としては、有機化合物を合成し、菌体内に蓄積する作用を有する細菌が挙げられる。細菌の細胞膜は、タンパク質を含んでおり、このような細菌では、当該細菌そのものが、細菌の、タンパク質を含む細胞膜により有機化合物が包蔵された一次粒子となる。
【0030】
このような細菌としては、CO2及び水素を利用して有機化合物を合成し、菌体内に蓄積する反応を行う細菌である水素酸化細菌が挙げられる。例えば、水素酸化細菌としては、これらに限定される訳ではないが、Alcaligenes、Aquaspirillum、Arthrobacter、Azospirillum、Bacillus、Bradyrhizobium、Burkholderia、Calderobacterium、Cupriavidus、Derxia、Flavobacterium、Frankia、Helicobacter、Hydrogenobacter、Hydrogenomonas、Hydrogenovibrio、Mycobacterium、Microcyclus、Norcadia、Paracoccus、Pseudmonas、Pyrinomonas、Streptomyces、Ralstonia、Renobacter、Rhizobium、Rhodococcus、Variovorax、Xantobacter属等のものが使用できる。また、細菌としては、特定の特徴について選択された突然変異体、自然起源の菌株、または自然起源の菌株の遺伝子操作された変異体等が用いられてもよい。水素酸化細菌としては、好気性細菌又は嫌気性細菌を使用することができる。
【0031】
好気性細菌である水素酸化細菌としては、Acidvorax facilis,Achromobacter xylosoxidans,Alcaligenes latus,Cupriavidus necator,Ancylobacter aquaticus,Aquaspirillum autotrophicum,Azospirillum lipoferum,Bradyrhizobium japonicum,Derxia gummosa,Hydrogenophaga palleronii,Hydrogenophaga flava,Hydrogenophaga pseudoflava,Paracoccus denitrificans,Variovorax paradoxus,Xanthobacter autotrophicus,Xanthobacter flavus,Pseudomonas hydrogenovora,Hydrogenophilus thermoluteolus,Arthrobacter sp.,Pseudonocardia autotrophica,Mycobacterium gordonae,Nocardia opaca,Bacillus tusciae,Bacillus schlegelii,Hydrogenobacter thermophilus,Hydrogenobacter halophilus,Hydrogenobacter acidophilus,Calderobacterium hydrogenophilum,Aquifex pyrophilus,Hydrogenovibrio marinusが挙げられる。これらの細菌は、CO2、H2、O2を使用して有機化合物(タンパク質、3-ヒドロキシ酪酸及びその集合体であるポリヒドロキシ酪酸(PHB)等)を合成し、菌体内に蓄積する。
【0032】
嫌気性細菌である水素酸化細菌としては、Acetobacterium woodii DSM 1030,Acetohalobium arabaticum DSM 5501,Carboxydothermus hydrogenoformans Z-2901,Clostridium aceticum DSM 1496,Clostridium autoethanogenum DSM 10061,Clostridium carboxidivorans P7,Clostridium ljungdahlii DSM 13528,Clostridium scatologenes ATCC 25755,Clostridium sticklandii DSM 519,Eubacterium limosum KIST612,Eubacterium limosum SA11,Moorella thermoacetica ATCC 39073,Moorella thermoacetica DSM 521,Moorella thermoacetica DSM 2955,Clostridium difficile 630,Clostridium difficile CD196,Clostridium difficile M120,Clostridium difficile 630,Clostridium difficile 630 Deltaerm,Thermacetogenium phaeum DSM 12270,Thermoanaerobacter kivui LKT-1,Treponema primitia ZAS-2が挙げられる。これらの細菌は、CO2、COおよびH2を使用して有機化合物を合成し、菌体内に蓄積する。
【0033】
これらの嫌気性細菌が合成し、菌体内に蓄積する有機化合物としては、酢酸、エタノール、アセテート、1-ブタノール、ブチレート、2,3-ブタンジオール、ブタジエン、メチルエチルケトン(2-ブタノン)、エチレン、アセトン、イソプロパノール、脂質、3-ヒドロキシプロピオネート(3-HP)、テルペン、イソプレン、脂肪酸、2-ブタノール、1,2-プロパンジオール、1-プロパノール、1-ヘキサノール、1-オクタノール、コリスメート由来生成物、3-ヒドロキシブチレート、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-ヒドロキシイソブチレート又は2-ヒドロキシイソ酪酸、イソブチレン、アジピン酸、1,3-ヘキサンジオール、3-メチル-2-ブタノール、2-ブテン-1-オール、イソバレレート、イソアミルアルコール、及びモノエチレングリコールのうちの1つ以上が挙げられる。
【0034】
一次粒子は、アルカン酸及び/又はアルカン酸の重合体が、タンパク質を含む細胞膜により包蔵されたものであることが好ましい。
【0035】
本明細書中におけるアルカン酸は、カルボキシ基以外の置換基を有さないアルカン酸(酢酸、プロパン酸、ブタン酸等)、置換基を有するアルカン酸(ヒドロキシアルカン酸、アミノアルカン酸等)が挙げられる。とくにヒドロキシアルカン酸であることが好ましく、3-ヒドロキシ酪酸であることが好ましい。アルカン酸の重合体としては、ポリヒドロキシアルカン酸が好ましく、ポリヒドロキシアルカン酸としては3-ヒドロキシ酪酸の集合体であるポリヒドロキシ酪酸(PHB)が好ましい。
【0036】
このような、アルカン酸及び/又はアルカン酸の重合体がタンパク質を含む細胞膜により包蔵されたものである一次粒子の凝集体により構成されるタンパク質顆粒の場合は、水産飼料用に用いることが望ましい。すなわち、本発明のタンパク質含有粒子は、単細胞飼料として好適に使用され得る。アルカン酸及び/又はアルカン酸の重合体は水に溶解しやすいため、養殖している生物(例えば魚、エビ等)が採餌する前に水中に溶解して散逸してしまい、飼料効率が低下する虞がある。この結果、給餌量の増加や、溶解した有機化合物による水質の低下が問題となり得る。しかしながら、本発明ではアルカン酸及び/又はアルカン酸の重合体は、タンパク質を含む細胞膜により包蔵されており、水中への溶解が殆どないため、優れた飼料効率が得られ、また環境への影響も少ないと考えられる。したがって、本発明は、本発明のタンパク質顆粒を含有する水産飼料に関する。水産飼料は、細菌由来のアルカン酸及び/又はアルカン酸の重合体を含んでいる。本発明の一次粒子の平均粒子径(D50)は、0.5~2.5μmであり、タンパク質顆粒が水に分散されやすいため、養殖している生物の健康、成長等を考慮して、追加の栄養成分(炭水化物、アミノ酸、タウリン、脂肪酸など)、ビタミンやミネラル、リン、カルシウム、抗酸化剤などが飼料に混合されても、均一に分散され得る。成長効率に優れた水産飼料が生産され得る。本発明のタンパク質顆粒は、任意の水産生物のための飼料として使用され得るが、例えば、魚類、タコやイカなどの無脊椎生物、貝類、エビなどの魚介類用の飼料として好適に用いられ得る。よって、本発明は、本発明のタンパク質顆粒を含む水産飼料を水産生物に与えることを特徴とする水産生物への給餌方法に関する。
【0037】
図3は、一次粒子である水素酸化細菌のTEM写真(倍率20000倍)である。
図3には、写真中に白い塊で見えるアルカン酸及び/又はアルカン酸の重合体が、水素酸化細菌の細胞膜に包蔵されていることが示されている。また、本発明のタンパク質顆粒を構成する一次粒子である水素酸化細菌の平均粒子径(D50)が0.5~2.5μm程度であることが示されている。
【0038】
タンパク質顆粒は、上記に説明した一次粒子が凝集して構成される二次粒子である。タンパク質顆粒の平均粒子径(D50)は、特に限定されず、用途に応じて調整することができるが、50mm以下であることが望ましく、10mm以下がさらに望ましく、200μm以下であることが好ましい。また、タンパク質顆粒の平均粒子径(D50)は、5μm以上であることが好ましい。
【0039】
タンパク質顆粒の平均粒子径(D50)は、以下の条件により測定することができる。
測定装置:レーザー回折・散乱法による粒子径測定装置(例えばマイクロトラック・ベル(株)製のMT3200)
測定範囲:0.2~1400μm
光源:波長780nmの半導体レーザー、出力3mW
【0040】
[タンパク質含有粒子]
本発明のタンパク質含有粒子は、アルカン酸及び/又はアルカン酸の重合体が、タンパク質を含む細胞膜により包蔵されたタンパク質含有粒子であって、該タンパク質含有粒子の平均粒子径(D50)が0.5~2.5μmである、タンパク質含有粒子である。該タンパク質含有粒子の平均粒子径(D50)は、0.5~2.0μmであることが望ましく、0.5~1.5μmであることがさらに望ましい。
【0041】
このタンパク質含有粒子は、本発明のタンパク質顆粒を構成する一次粒子となり得る粒子であるので、その特徴は、本発明のタンパク質顆粒を構成する一次粒子と同様である。また、本発明のタンパク質含有粒子は、アルカン酸及び/又はアルカン酸の重合体を合成し、菌体内に蓄積する反応を行う細菌の粒子であることが好ましく、水素酸化細菌の粒子であることが好ましい。また、本発明のタンパク質含有粒子におけるアルカン酸は、3-ヒドロキシ酪酸であることが好ましい。
【0042】
本発明のタンパク質含有粒子は、その平均粒子径(D50)が0.5~2.5μmであることにより、水中での分散状態を向上することができる。すなわち、水に投入された場合に、タンパク質含有粒子は速やかに水中に分散してタンパク質分散液が得られる。また、タンパク質分散液を撹拌するととろみが少なくさらりとした溶液が得られる。より分散状態をよいものとするためには、タンパク質含有粒子の平均粒子径(D50)は、0.5~2.0μmであることが望ましく、0.5~1.5μmとすることが好ましい。
【0043】
タンパク質含有粒子の平均粒子径(D50)の測定は、上述した本発明のタンパク質顆粒の一次粒子の平均粒子径(D50)の測定と同様の方法により行うことができる。
【0044】
[タンパク質顆粒及びタンパク質含有粒子の製造方法]
本発明のタンパク質顆粒及びタンパク質含有粒子は、例えば以下の方法で細菌を培養することによって得ることができる。
【0045】
(従属栄養培地の調製)
従属栄養培地に使用される栄養成分としては、BACTO YEAST EXTRACT、トリプトン、牛肉エキス等が挙げられる。従属栄養培地の例としては、培地1L当たり、BACTO YEAST EXTRACT 10g、トリプトン 10g、牛肉エキス 5g、硫酸アンモニウム 2gを含む培地等を挙げることができる。
【0046】
(独立栄養培地の調製)
独立栄養培地に含まれていてもよい成分としては、アンモニア、アンモニウム(例えば、塩化アンモニウム(NH4Cl)、硫酸アンモニウム((NH4)2SO4)、クエン酸鉄アンモニウム)、硝酸塩(例えば、硝酸カリウム(KNO3))、尿素、又は有機窒素源などの窒素源;リン酸塩(例えば、リン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)、リン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)、リン酸二水素カリウム(KH2PO4)、リン酸(H3PO4)、ジチオリン酸カリウム(K3PS2O2)、オルトリン酸カリウム(K3PO4)、リン酸水素二カリウム(K2HPO4));硫酸塩(例えば、硫酸アンモニウム((NH4)2SO4)、硫酸マグネシウム・七水和物(MgSO4・7H2O));酵母抽出物;キレート鉄;カリウム塩、ヨウ化カリウム(KI)、臭化カリウム(KBr));並びに他の無機塩、無機質、微量栄養素(例えば、塩化ナトリウム(NaCl)、又は塩化マグネシウム(MgCl2)、塩化カルシウム(CaCl2)又は炭酸カルシウム(CaCO3)、硫酸マンガン・七水和物(MnSO4・7H2O)又は塩化マンガン(MnCl2)、塩化第二鉄・六水和物(FeCl3・6H2O)、硫酸第一鉄・七水和物(FeSO4・7H2O)、又は塩化第一鉄・四水和物(FeCl2・4H2O)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)又は炭酸ナトリウム(Na2CO3)、硫酸亜鉛(ZnSO4)又は塩化亜鉛(ZnCl2)、モリブデン酸アンモニウム(NH4MoO4)又はモリブデン酸ナトリウム・二水和物(Na2MoO4・2H2O)、硫酸第一銅(CuSO4)又は塩化銅・二水和物(CuCl2・2H2O)、塩化コバルト・六水和物(CoCl2・6H2O)、塩化アルミニウム・六水和物(AlCl3・6H2O)、塩化リチウム(LiCl)、ホウ酸(H3BO3)、塩化ニッケル・六水和物(NiCl2・6H2O)、塩化スズ・一水和物(SnCl2・H2O)、塩化バリウム・二水和物(BaCl2・2H2O)、セレン酸銅・五水和物(CuSeO4・5H2O)又は亜セレン酸ナトリウム(Na2SeO3)、メタバナジン酸ナトリウム(NaVO3)、クロム塩のうちの1つ以上の無機塩)を挙げることができる。例えば、上記のような微量栄養素の含有により水素細菌の生育、増殖を促進することも可能である。
【0047】
独立栄養培地に含まれていてもよい好適な無機塩としては、硫酸アンモニウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、硫酸マグネシウム・七水和物、炭酸水素ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム、塩化第二鉄・六水和物、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化ニッケル・六水和物等が挙げられる。
【0048】
独立栄養培地の窒素含有量を調整することで、一次粒子の平均粒子径(D50)を調整できる。具体的には、アンモニウム塩、例えば硫酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム(クエン酸三アンモニウム)、塩化アンモニウム等の濃度を高くすると一次粒子の平均粒子径は大きくなり、逆に低くすると一次粒子の平均粒子径の大きさが小さくなる。タンパク質生成量と培地に含まれる窒素濃度に相関があるためであると推定される。
【0049】
窒素含有量は、N換算で0.01g/L~10g/Lの範囲で調整することができる。
【0050】
上述の成分を用いて以下のように培養を行い、培養後の細菌からタンパク質顆粒を調製することができる。
種菌を上記独立栄養培地に播種し初期培養を行う。
初期培養した細菌を遠心分離することにより集菌する。
集菌した細菌を新しい上記独立栄養培地に播種し本培養を行う。
本培養した細菌を遠心分離等の手法により分離、回収する。
回収した細菌を乾燥することでタンパク質顆粒を得る。
乾燥は、スプレードライヤーなどの乾燥装置を用いて行うことができる。
スプレードライヤーとしてはディスク式の装置(回転しているディスクに液滴を滴下し、ディスクから飛ばされた液が熱風と接触することによって乾燥されて粒子化される装置)を好ましく用いることができる。スプレードライヤーを用いる場合の乾燥条件としては、例えば、以下のような条件とすることができる。
回転数:5,000~50,000rpm
原液処理量:0.1~80kg/h
入口温度:50~300℃
サイクロン差圧:0.10~10kPa
また、乾燥は、乾燥機にて、空気中、100℃などで所定の時間乾燥させることにより行われてもよい。乾燥条件を調整することによってタンパク質顆粒の大きさ(二次粒子の大きさ)を調整することができる。また、タンパク質顆粒を水中に投入して、振とうさせることで分散させて一次粒子にすることによって、タンパク質含有粒子を得ることができる。
【0051】
初期培養と本培養において異なる培地を用いてもよい。すなわち、従属栄養培地を用いて初期培養を行い、独立栄養培地を用いて本培養を行ってもよい。また、初期培養と本培養の両方で従属栄養培地を用いてもよい。
【0052】
水素酸化細菌を培養する場合には、培地にCO2及びH2を吹き込んで培養を行う。水素酸化細菌が好気性細菌である場合にはさらにO2を吹き込んで培養を行うことが好ましい。
【0053】
初期培養と本培養における培養条件は、特に限定されるものではなく、通常の細菌培養条件を用いることができる。例えば、培地に吹き込むH2、O2、CO2各ガス比率は、H2:O2:CO2=4~90:2~20:0.01~30が望ましい。なお、供給されるH2、O2及びCO2の基質ガスとしては、3成分系の100%純度であることを要求するものではなく、水素、二酸化炭素及び酸素以外の気体や不純物を含んでもよい。例えば、培養槽内で、水素濃度が、4~99vol%、好ましくは30~80vol%、酸素濃度が、2~30vol%、好ましくは4~10vol%、二酸化炭素濃度が、0.01~30vol%、好ましくは0.04~10vol%の範囲内程度であればよい。
【0054】
したがって、例えば、培養時に培養槽に導入する各ガス比率は、CO2:0.04~25vol%、H2:30~80vol%、およびO2:4~20vol%とすることができる。このような混合ガスが、例えば100~3000mL/分の流量で培養液に送気され得る。なお、空気としてO2を導入する場合はO2としての流量が上記範囲となるように空気の流量を調製するとよい。
【0055】
なお、基質ガスとしては、工場等から排出された副生水素等を含んだ水素排ガスや、工場等から排出されたCO2等を含んだ燃焼排ガスや、空気が使用されてもよい。CO2を排気ガスから採取する場合は、これを濃縮して使用することができる。濃縮する方法としては、CO2を加圧下でゼオライト等に吸着させて濃縮し、減圧することでCO2を離脱させる圧力スイング吸着法(PSA法)やアミン溶液にCO2を吸収させて濃縮し、これを加熱することでCO2を脱離させるいわゆるアミン法を採用することができる。また、H2については、気体分離膜を利用してH2のみを分離し、これを培養槽に還流させることで、再利用することができる。
【0056】
培養時の温度は特に限定されず、使用する細菌の培養に適した温度で設定すればよい。例えば25~35℃とすることができる。また、培養の時間も特に限定されるものではないが、例えば30~80時間とすることができる。
【0057】
例えば、リン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)およびリン酸二水素カリウム(KH2PO4)、または重炭酸ナトリウム(NaHCO3)を培養液に添加することにより、pH緩衝能をもたせてもよい。また、培養が進み、細菌の産生物が培養液に溶存することにより、あるいは溶存した二酸化炭素により培養液のpHが低くなる(酸性側に偏る)ことがあるので、その場合はアルカリ成分を加えてpHを調整することが好ましい。細菌の生育および増殖の阻害を防止できる。アルカリ成分としては、例えばアンモニア水等を使用することができ、アンモニアであれば細菌によって消費された培養液中の窒素源を補うこともできると考えられる。pHは6.50~6.75付近に調整することが好ましい。
【0058】
また、本培養を経て回収した細菌を種菌として用いて培養を行ってもよく、本培養を経て回収した細菌を、初期培養を経た細菌の代わりに用いて本培養を行ってもよい。
【0059】
本明細書には以下の事項が開示されている。
【0060】
本開示(1)は、タンパク質を含む、平均粒子径(D50)が0.5~2.5μmである一次粒子が凝集して構成されるタンパク質顆粒である。
【0061】
本開示(2)は、タンパク質を含む一次粒子が凝集して構成されるタンパク質顆粒であって、前記一次粒子の粒度分布曲線が描くピークは1つであることを特徴とするタンパク質顆粒である。
【0062】
本開示(3)は、前記一次粒子は、アルカン酸及び/又はアルカン酸の重合体が、タンパク質を含む細胞膜により包蔵されたものである本開示(1)または(2)に記載のタンパク質顆粒である。
【0063】
本開示(4)は、前記アルカン酸は、3-ヒドロキシ酪酸である本開示(3)に記載のタンパク質顆粒である。
【0064】
本開示(5)は、本開示(1)または(2)に記載のタンパク質顆粒を含む水産飼料である。
【0065】
本開示(6)は、前記一次粒子が、細菌由来のアルカン酸及び/又はアルカン酸の重合体を含む本開示(5)に記載の水産飼料である。
【0066】
本開示(7)は、前記アルカン酸及び/又はアルカン酸の重合体が前記細菌の細胞膜により包蔵されている本開示(6)に記載の水産飼料である。
【0067】
本開示(8)は、魚類または魚介類養殖用である本開示(5)に記載の水産飼料である。
【0068】
本開示(9)は、水産生物に本開示(5)に記載の水産飼料を与えることを特徴とする水産生物への給餌方法である。
【0069】
本開示(10)は、アルカン酸及び/又はアルカン酸の重合体が、タンパク質を含む細胞膜により包蔵されたタンパク質含有粒子であって、前記タンパク質含有粒子の平均粒子径(D50)が0.5~2.5μmである、タンパク質含有粒子である。
【0070】
本開示(11)は、前記アルカン酸は、3-ヒドロキシ酪酸である本開示(10)に記載のタンパク質含有粒子である。
【0071】
本開示(12)は、アルカン酸及び/又はアルカン酸の重合体が、タンパク質を含む細胞膜により包蔵されたタンパク質含有粒子であって、前記タンパク質含有粒子の粒度分布曲線が描くピークは1つであることを特徴とするタンパク含有粒子である。
【0072】
本開示(13)は、前記アルカン酸は、3-ヒドロキシ酪酸である本開示(12)に記載のタンパク質含有粒子である。
【0073】
本開示(14)は、本開示(10)または(12)に記載のタンパク質含有粒子を含む水産飼料である。
【実施例0074】
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0075】
(実施例1)
(独立栄養培地の調製)
以下の組成の独立栄養培地を調製した。
・硫酸アンモニウム 0.43g/L
・リン酸水素二ナトリウム 1.85g/L
・リン酸二水素カリウム 1.76g/L
・硫酸マグネシウム・七水和物 0.5g/L
・炭酸水素ナトリウム 0.5g/L
・クエン酸アンモニウム 0.1g/L
以上を蒸留水で1Lにメスアップした。
窒素含有量は、N換算で0.11g/Lである。
【0076】
(1)上記の独立栄養培地で水素酸化細菌であるCupriavidus necator(H16株)を増殖させた。
(2)新しい独立栄養培地(液体培地)に(1)で増殖させた水素酸化細菌Cupriavidus necator(H16株)を5重量%となるように植菌した。
(3)(2)で植菌した独立栄養培地を培養槽に仕込み、7L培養液に対しCO2:20vol%、O2:15vol%、H2:65vol%の混合気体を1.3L/分で送気した条件で培養槽にバブリングして、水素酸化細菌の培養を72時間行った。培養温度は30℃とした。
【0077】
培養後の培養液を10000G、5min、5℃の条件で遠心分離して上清と固体部分に分離した。固体部分をスプレードライヤーを用いて乾燥してタンパク質顆粒を得た(
図1)。なお、スプレードライヤーによる乾燥は、以下の条件で行った。
スプレードライヤー装置:L-8i(大川原化工機(株)製)
ディスク型式:MC-50
回転数:25,000rpm
原液処理量:0.8kg/h
入口温度:150℃
サイクロン差圧:1.10kPa
【0078】
タンパク質顆粒は、
図2の拡大写真にあるように、一次粒子の凝集体である。一次粒子は、
図3に示すように、3-ヒドロキシ酪酸の重合体が、タンパク質を含む細胞膜により包蔵されたものである。
【0079】
(実施例2)
基本的には実施例1と同様であるが、以下の条件を変更した。
(1)(独立栄養培地の調製)
以下の組成の独立栄養培地を調製した。
・リン酸水素二ナトリウム 3.57g/L
・リン酸二水素カリウム 1.50g/L
・硫酸マグネシウム・七水和物 0.2g/L
・塩化鉄(III)六水和物 0.005g/L
・塩酸 0.1mL/L
・塩化アンモニウム 1.6g/L
・塩化カルシウム 0.01g/L
・塩化ニッケル(II)六水和物 0.0002g/L
以上を蒸留水で1Lにメスアップした。
窒素含有量は、N換算で0.42g/Lである。
(2)ガスの流入量
CO2:2vol%、O2:20vol%、H2:78vol%の混合気体を1.0L/分で送気した条件で培養槽にバブリングして、水素酸化細菌の培養を72時間行った。培養温度は30℃とした。
(3)乾燥条件
培養後の培養液7Lを培養槽から取り出し、10000G、5min、5℃の条件で遠心分離して上清と固体部分に分離した。脱水されたスラリー状の固体部分の700gを乾燥用のパッド(560×413×21mm、スラリーは高さ2mm以内)に載せて、乾燥機(アズワン(株)製 強制対流式乾燥機 OF-600V)に入れて、空気中で100℃にて4.5時間乾燥させた。その後、乾燥した固体部分210gを、ティファール ミル 型番BL13C5JP、ハイモードで20秒間の解砕を2回、60秒間の解砕を2回実施し、さらに、目開き600μmメッシュの振動ふるいで分級して、タンパク質顆粒を製造した。
【0080】
(比較例)
比較対象のタンパク質顆粒として以下の製品を準備した。
カゼインNa(商品名:カゼロンL、第一化成(株)製)
エンドウ豆タンパク(商品名:PrimaPro Micronised Pea Protein Isolate、Healy Group社製)
大豆タンパク(商品名:フジプロFR、不二製油(株)製)
ホエイプロテイン(商品名:WPC80 SAPUTO WHEY PROTEIN CONCENTRATE 80%、Saputo Cheese USA, Inc.製)
【0081】
[水分散性試験]
実施例1および2で調製したタンパク質顆粒ならびに比較例で準備した比較対象のタンパク質顆粒につき、水分散性を比較した。
10mLの蒸留水(常温)を容器に入れ、各顆粒1.0gを投入した。
手振動による撹拌で水と顆粒を混合後、振盪機で室温下、2分間、150rpmの回転数で撹拌した。
その後5分静置した。
評価としては、各タンパク質顆粒の、水への投入直後の様子、撹拌及び静置後の様子、の2つの局面における様子を観察して評価した。
【0082】
図4は、水分散性試験の評価結果を示す写真である。実施例1のタンパク質顆粒は、投入直後において速やかに分散し、溶液が白濁していた。また、撹拌及び静置後においてはさらっとした溶液となっていた。また、実施例2の水分散性についても、実施例1と同程度であった。
【0083】
比較対象のタンパク質顆粒は、分散性が悪い順にカゼインNa、エンドウ豆タンパク、大豆タンパク、ホエイプロテインの順であった。ホエイプロテインはこれら4種のなかでは分散性が良いものであったが、投入直後における分散速度が遅く、実施例1のタンパク質顆粒に比べると分散性に劣っていた。カゼインNa、エンドウ豆タンパク、大豆タンパクは、投入直後において水と顆粒が分離しており、撹拌静置後においてもとろみのある溶液となっていて、分散性に劣っていた。
【0084】
[平均粒子径(D50)の測定]
実施例1および2のタンパク質顆粒ならびに比較対象のタンパク質顆粒のそれぞれを水に入れて薬さじで攪拌し、超音波処理を5分行うことにより解砕して、実施例1および2のタンパク質顆粒ならびに比較対象のタンパク質顆粒の分散液を得た。各分散液を粒子径測定装置(マイクロトラック・ベル(株)製のMT3300EX)に入れて、明細書に記載の測定方法で、実施例1および2のタンパク質顆粒の一次粒子ならびに比較対象のタンパク質顆粒の一次粒子の平均粒子径(D50)を測定した。
【0085】
図5は、実施例のタンパク質顆粒の一次粒子および比較例のタンパク質顆粒の一次粒子それぞれの粒子径の測定結果を示すグラフである。なお、実施例2のタンパク質顆粒の一次粒子の粒子径分布は
図5には記載していないが、D50の値のみ後述する。実施例2のタンパク質顆粒の一次粒子の粒度分布曲線が描くピークは一つであった。
【0086】
実施例1および2のタンパク質顆粒の一次粒子の平均粒子径(D50)は、それぞれ0.7μm、1.6μmとなっており、比較対象のタンパク質顆粒の一次粒子の平均粒子径(D50)(ホエイプロテイン:2.78μm、エンドウ豆タンパク:15.22μm、大豆タンパク:108.0μm、カゼインNa:60.35μm)と比べてかなり小さい値となっていた。
【0087】
このように、実施例1および2のタンパク質顆粒はタンパク質顆粒の一次粒子の平均粒子径が小さいため、水分散性に優れていたものと考えられる。また、実施例1および2のタンパク質顆粒の一次粒子の粒度分布曲線が描くピークは一つであり、複数のピークで示される比較対象のタンパク質顆粒の一次粒子と比べて水分散性に優れていると考えられる。
【0088】
さらに、実施例の一次粒子は、親水性の3-ヒドロキシ酪酸の重合体が、タンパク質を含む細胞膜により包蔵されたものであるため、粒子相互に水素結合を形成しにくいことも分散性に優れる理由として推定される。なお、培地に供給する酸素濃度および培地の窒素含有量(具体的には硫酸アンモニウム濃度)を増やすことで、一次粒子の平均粒子径が大きくなることが分かる。
【0089】
また、実施例1および2のタンパク質顆粒を解砕せずに、タンパク質顆粒の平均粒子径(D50)を明細書に記載の測定方法によって測定したところ、それぞれ、20.0μmおよび370.9μmであった。
図6には、実施例2で得られたタンパク質顆粒の粒子径の粒度分布を示すグラフが示されている。グラフに示されている累積カーブが50%となる点が50%径(D50)であり、その粒径は370.9μmである。
【0090】
以上、説明した通り、本発明のタンパク質顆粒は水に対する分散性に優れ、調理加工、飼料加工しやすく、食品や飼料用途に適している。食品としては、食品製品、乳製品、乳製品代替品、肉製品、肉製品代替品および/もしくは人造肉製品、ベーカリー製品、菓子類(クッキー、ケーキ等)、シリアルなどに用いるこことができる。また飼料としては養殖用飼料、家畜用飼料などが挙げられる。
【0091】
また、本発明のタンパク質顆粒は水に分散しやすく、得られる分散液の粘度も高くならないため、タンパク質顆粒以外の物質、例えば、タンパク質顆粒を調味料、増量材、魚粉、植物性原料(大豆油かす、コーングルテンミールなど)や動物性原料(チキンミール等)、穀類(小麦)と均一に混合しやすく、食品や飼料を生産しやすいという利点を有している。本発明のタンパク質顆粒は、その良好な分散性から魚類や魚介類の養殖用の水産飼料として特に有用であると考えられる。