(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038980
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】着座運動機能評価システム、着座運動機能評価方法及び着座運動機能評価プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20240313BHJP
A61B 5/107 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
A61B5/11
A61B5/107 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056188
(22)【出願日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2022143347
(32)【優先日】2022-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000181826
【氏名又は名称】社会福祉法人兵庫県社会福祉事業団
(74)【代理人】
【識別番号】100181630
【弁理士】
【氏名又は名称】原 晶子
(72)【発明者】
【氏名】陳 隆明
(72)【発明者】
【氏名】大森 清博
(72)【発明者】
【氏名】安藤 悠
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VA11
4C038VB01
4C038VB14
4C038VB35
4C038VC20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ユーザの着座動作時の状態に基づいて、ユーザの運動機能を評価するための着座運動機能評価システムを提供する。
【解決手段】本発明の着座運動機能評価システム1aは、着座装置と、着座装置の座部に着座するユーザの大腿傾角を算出できる測定データを取得できる第1センサ21aと、情報処理装置30とを備える。情報処理装置30は、第1センサ21aの測定データに基づいて、着座動作時のユーザの大腿傾角を算出する大腿傾角算出部31と、大腿傾角算出部31で算出したユーザの大腿傾角に基づいて、着座動作時のユーザの着座力学量を算出する着座力学量算出部32と、着座力学量算出部32で算出した着座力学量に基づいて、着座動作時のユーザの運動機能を評価する着座運動機能評価部33とを有する。着座運動機能評価部33は、着座力学量のピーク値の変化に基づいてユーザの着座動作時の運動機能を評価する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザが着座する着座装置と、
少なくとも前記着座装置の座部に着座するユーザの大腿傾角を算出できる測定データを取得できる第1センサと、
情報処理装置と、を備え、
前記情報処理装置は、
前記第1センサの前記測定データに基づいて、着座動作時のユーザの大腿傾角を算出する大腿傾角算出部と、
前記大腿傾角算出部で算出したユーザの前記大腿傾角に基づいて、着座動作時のユーザの着座力学量を算出する着座力学量算出部と、
前記着座力学量算出部で算出した前記着座力学量に基づいて、着座動作時のユーザの運動機能を評価する着座運動機能評価部と、を有し、
前記着座運動機能評価部は、前記着座力学量のピーク値の変化に基づいてユーザの着座動作時の前記運動機能を評価することを特徴とする着座運動機能評価システム。
【請求項2】
少なくとも前記座部から起立するユーザの体幹傾角を算出できる測定データを取得できる第2センサをさらに備え、
前記情報処理装置は、
前記第2センサの前記測定データに基づいて、起立動作時のユーザの体幹傾角を算出する体幹傾角算出部と、
前記体幹傾角算出部で算出したユーザの前記体幹傾角に基づいて、起立動作時のユーザの起立力学量を算出する起立力学量算出部と、
前記起立力学量算出部で算出した前記起立力学量に基づいて、起立動作時のユーザの運動機能を評価する起立運動機能評価部と、をさらに有し、
前記起立運動機能評価部は、前記起立力学量のピーク値の変化に基づいてユーザの起立動作時の前記運動機能を評価することを特徴とする請求項1に記載の着座運動機能評価システム。
【請求項3】
前記情報処理装置は、前記着座運動機能評価部で評価された着座動作時の前記運動機能の評価結果と、前記起立運動機能評価部で評価された起立動作時の前記運動機能の評価結果とに基づいて、ユーザの総合的な運動機能を評価する総合運動機能評価部をさらに有することを特徴とする請求項2に記載の着座運動機能評価システム。
【請求項4】
第1センサを用いて、少なくともユーザが着座する着座装置の座部に着座するユーザの大腿傾角を算出できる測定データを取得するステップと、
前記第1センサの前記測定データに基づいて、着座動作時のユーザの大腿傾角を算出するステップと、
ユーザの前記大腿傾角に基づいて、着座動作時のユーザの着座力学量を算出するステップと、
前記着座力学量に基づいて、着座動作時のユーザの運動機能を評価するステップと、を備え、
着座動作時のユーザの前記運動機能を評価するステップは、前記着座力学量のピーク値の変化に基づいて行われることを特徴とする着座運動機能評価方法。
【請求項5】
第2センサを用いて、少なくとも前記座部から起立するユーザの体幹傾角を算出できる測定データを取得するステップと、
前記第2センサの前記測定データに基づいて、起立動作時のユーザの体幹傾角を算出するステップと、
ユーザの前記体幹傾角に基づいて、起立動作時のユーザの起立力学量を算出するステップと、
前記起立力学量に基づいて、起立動作時のユーザの運動機能を評価するステップと、をさらに備え、
起立動作時のユーザの前記起立力学量を評価するステップは、前記起立力学量のピーク値の変化に基づいて行われることを特徴とする請求項4に記載の着座運動機能評価方法。
【請求項6】
コンピュータに、
第1センサを用いて、少なくともユーザが着座する着座装置の座部に着座するユーザの大腿傾角を算出できる測定データを取得するステップと、
前記第1センサの前記測定データに基づいて、着座動作時のユーザの大腿傾角を算出するステップと、
ユーザの前記大腿傾角に基づいて、着座動作時のユーザの着座力学量を算出するステップと、
前記着座力学量に基づいて、着座動作時のユーザの運動機能を評価するステップと、を含む処理を実行させ、
着座動作時のユーザの前記運動機能を評価するステップは、前記着座力学量のピーク値の変化に基づいて行われることを特徴とする着座運動機能評価プログラム。
【請求項7】
前記コンピュータに、
第2センサを用いて、少なくとも前記座部から起立するユーザの体幹傾角を算出できる測定データを取得するステップと、
前記第2センサの前記測定データに基づいて、起立動作時のユーザの体幹傾角を算出するステップと、
ユーザの前記体幹傾角に基づいて、起立動作時のユーザの起立力学量を算出するステップと、
前記起立力学量に基づいて、起立動作時のユーザの運動機能を評価するステップと、を含む処理をさらに実行させ、
起立動作時のユーザの前記起立力学量を評価するステップは、前記起立力学量のピーク値の変化に基づいて行われることを特徴とする請求項6に記載の着座運動機能評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、介護が必要になるリスクを評価するための着座運動機能評価システム、着座運動機能評価方法及び着座運動機能評価プログラムに関するもので、特に、ユーザの着座動作に基づいてユーザの着座動作時の運動機能を評価するための着座運動機能評価システム、着座運動機能評価方法及び着座運動機能評価プログラムである。
【背景技術】
【0002】
超高齢社会において、健康寿命の延伸及び介護費抑制の観点から、介護予防及びフレイル対策などのために「将来介護が必要になるリスク」を評価することが強く望まれている。例えば、代表的なフレイル評価法の一つであるJ-CHS基準においては、聞き取り票への回答に加えて、握力及び歩行速度を計測する必要がある。そのため、体力測定の用具及び場所を用意する必要があり、気軽に握力及び歩行速度を計測することができず、J-CHS基準に基づいたフレイル評価を行うことができない。
【0003】
一方、日常生活の中で現れる動作に着目し、在宅などのユーザの生活空間内で、ユーザの負担を軽減しながら継続的に運動機能を評価することも行われている。例えば、ロコモティブシンドロームの判定である。ロコモティブシンドロームは、主に立ち上がり動作及び歩行動作に基づいて判定される。立ち上がり動作及び歩行動作の全て又は一部の能力が低下すると将来介護が必要になるリスクが高くなることが知られている。そのため、これまで、立ち上がり動作及び歩行動作に着目して運動機能を評価する方法が提案されてきた。
【0004】
この中で、立ち上がり動作に着目して運動機能を評価する方法として、以下の方法が知られている。例えば、特許文献1では、ユーザの頭部上方に距離センサを配置してユーザの頭部の移動軌跡を抽出するとともに、ユーザの足下に脚圧センサを配置してユーザの足圧重心の移動軌跡を抽出して、立ち上がり時間の判定結果と、頭部及び足圧重心の移動距離に関する判定結果の組み合わせでユーザの身体能力を評価している。また、特許文献2では、ユーザが座る座面に設けられた荷重センサを用い、ユーザの立ち上がる動作によって座面に加わる荷重を測定し、荷重の変化量を演算して、運動機能としてユーザの体幹筋機能、下肢筋機能、及びバランス機能を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-44295号公報
【特許文献2】特開2020-92977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のユーザの頭部の位置を検知し、ユーザの頭部の移動軌跡に基づいてユーザの運動機能を評価する構成では、「起立動作」のときに継続的にユーザの頭部の位置を測定でき、測定したユーザの頭部の位置からユーザの頭部の移動軌跡を抽出して運動機能を評価することができる。しかしながら、人は起立する際に、その人の起立する際の癖により、「早く起立する人」、「ゆっくり起立する人」、「大きく屈曲して起立する人」、「足の力だけで起立する人」等、健全な運動機能を有するユーザでも様々な動作を行う。そのため、ユーザの頭部の移動軌跡に基づくだけでは、例えば、元気な人が立ち方の特徴で「衰えがある」と評価される場合など、ユーザの運動機能が低下しているか否かを評価することは無理があり、正しく評価できないという問題があった。
【0007】
そこで、運動機能評価システムの正確性を高めるために、着座動作に着目し、着座動作時の下肢の運動より得られる情報からユーザの運動機能を評価する方法を検討した。起立動作では、股関節伸展筋群、膝関節伸展筋群、足関節底屈筋群は求心性収縮で働くことに対して、着座動作では、股関節伸展筋群、膝関節伸展筋群、足関節底屈筋群は遠心性収縮で働くことになる。すなわち、着座動作時は、股関節の屈曲、膝関節の屈曲、足関節の背屈を、股関節伸展筋群、膝関節伸展筋群、足関節底屈筋群の遠心性収縮によって制御する必要がある。遠心性収縮と求心性収縮とでは収縮時に必要な筋力に差があり、遠心性収縮の方が難しいとされるため、着座動作時に働く筋の筋力及び十分な関節可動域を持たない高齢者などは、着座時にドスンと着座してしまう。そのため、遠心性収縮の方が運動機能の衰えの結果を得やすい可能性があるのではないかと考えた。
【0008】
ところで、特許文献2には、荷重センサにより、起立動作時だけでなく着座動作時の運動機能を評価することが記載されている。しかしながら、特許文献2では、荷重センサは、座面にユーザが接触したときの「着座状態」の時のみ作動し、着座動作及び起立動作においてユーザが座面から離れていると荷重センサは生体情報を取得できない。このため、ユーザが座面から離れているときのユーザの運動機能を継続的に測定することが出来ず、ユーザの運動機能を正しく評価できないという問題があった。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、ユーザの着座動作時の状態に基づいて、ユーザの運動機能を評価するための着座運動機能評価システム、着座運動機能評価方法及び着座運動機能評価プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の着座運動機能評価システムは、ユーザが着座する着座装置と、少なくとも着座装置の座部に着座するユーザの大腿傾角を算出できる測定データを取得できる第1センサと、情報処理装置とを備える。情報処理装置は、第1センサの測定データに基づいて、着座動作時のユーザの大腿傾角を算出する大腿傾角算出部と、大腿傾角算出部で算出したユーザの大腿傾角に基づいて、着座動作時のユーザの着座力学量を算出する着座力学量算出部と、着座力学量算出部で算出した着座力学量に基づいて、着座動作時のユーザの運動機能を評価する着座運動機能評価部とを有する。着座運動機能評価部は、着座力学量のピーク値の変化に基づいてユーザの着座動作時の運動機能を評価する。
【0011】
好ましい実施形態の着座運動機能評価システムは、少なくとも座部から起立するユーザの体幹傾角を算出できる測定データを取得できる第2センサをさらに備える。情報処理装置は、第2センサの測定データに基づいて、起立動作時のユーザの体幹傾角を算出する体幹傾角算出部と、体幹傾角算出部で算出したユーザの体幹傾角に基づいて、起立動作時のユーザの起立力学量を算出する起立力学量算出部と、起立力学量算出部で算出した起立力学量に基づいて、起立動作時のユーザの運動機能を評価する起立運動機能評価部とをさらに有する。起立運動機能評価部は、起立力学量のピーク値の変化に基づいてユーザの起立動作時の運動機能を評価する。
【0012】
さらに好ましい実施形態の着座運動機能評価システムでは、情報処理装置は、着座運動機能評価部で評価された着座動作時の運動機能の評価結果と、起立運動機能評価部で評価された起立動作時の運動機能の評価結果とに基づいて、ユーザの総合的な運動機能を評価する総合運動機能評価部をさらに有する。
【0013】
また、本発明の着座運動機能評価方法は、第1センサを用いて、少なくともユーザが着座する着座装置の座部に着座するユーザの大腿傾角を算出できる測定データを取得するステップと、第1センサの測定データに基づいて、着座動作時のユーザの大腿傾角を算出するステップと、ユーザの大腿傾角に基づいて、着座動作時のユーザの着座力学量を算出するステップと、着座力学量に基づいて、着座動作時のユーザの運動機能を評価するステップとを備える。着座動作時のユーザの運動機能を評価するステップは、着座力学量のピーク値の変化に基づいて行われる。
【0014】
好ましい実施形態の着座運動機能評価方法は、第2センサを用いて、少なくとも座部から起立するユーザの体幹傾角を算出できる測定データを取得するステップと、第2センサの前記測定データに基づいて、起立動作時のユーザの体幹傾角を算出するステップと、ユーザの体幹傾角に基づいて、起立動作時のユーザの起立力学量を算出するステップと、起立力学量に基づいて、起立動作時のユーザの運動機能を評価するステップとをさらに備える。起立動作時のユーザの起立力学量を評価するステップは、起立力学量のピーク値の変化に基づいて行われる。
【0015】
また、本発明の着座運動機能評価プログラムは、コンピュータに、第1センサを用いて、少なくともユーザが着座する着座装置の座部に着座するユーザの大腿傾角を算出できる測定データを取得するステップと、第1センサの測定データに基づいて、着座動作時のユーザの大腿傾角を算出するステップと、ユーザの大腿傾角に基づいて、着座動作時のユーザの着座力学量を算出するステップと、着座力学量に基づいて、着座動作時のユーザの運動機能を評価するステップとを含む処理を実行させる。着座動作時のユーザの運動機能を評価するステップは、着座力学量のピーク値の変化に基づいて行われる。
【0016】
好ましい実施形態の着座運動機能評価プログラムは、コンピュータに、第2センサを用いて、少なくとも座部から起立するユーザの体幹傾角を算出できる測定データを取得するステップと、第2センサの測定データに基づいて、起立動作時のユーザの体幹傾角を算出するステップと、ユーザの体幹傾角に基づいて、起立動作時のユーザの起立力学量を算出するステップと、起立力学量に基づいて、起立動作時のユーザの運動機能を評価するステップとを含む処理をさらに実行させる。起立動作時のユーザの起立力学量を評価するステップは、起立力学量のピーク値の変化に基づいて行われる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ユーザの着座動作時の状態に基づいて、ユーザの運動機能を客観的に評価することができ、ユーザの衰えの状態を正しく把握できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態1に係る着座運動機能評価システムの側面図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係る着座運動機能評価システムの構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の実施形態1に係る着座運動機能評価システムで生成された人体リンクモデルを示す側面図である。
【
図4】本発明の実施形態1に係る着座運動機能評価方法を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の実施形態1に係る着座運動機能評価システムで算出された着座力学量の時間変化を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施形態2に係る着座運動機能評価システムの側面図である。
【
図7】本発明の実施形態2に係る着座運動機能評価システムの構成を示すブロック図である。
【
図8】本発明の実施形態2に係る着座運動機能評価方法を示すフローチャートである。
【
図9】本発明の実施形態2に係る着座運動機能評価システムで算出された起立力学量の時間変化を示すグラフである。
【
図10】本発明の実施形態3に係る着座運動機能評価システムの側面図である。
【
図11】本発明の実施形態3に係る着座運動機能評価システムの構成を示すブロック図である。
【
図12】本発明の実施形態3に係る着座運動機能評価方法を示すフローチャートである。
【
図13】本発明の実施形態3に係る着座運動機能評価システムで算出された着座力学量の時間変化を示すグラフである。
【
図14】本発明の実施形態3に係る着座運動機能評価システムで算出された起立力学量の時間変化を示すグラフである。
【
図15】実施例の実験結果を示す図で、着座力学量のピーク値を比較した図である。
【
図16】実施例の実験結果を示す図で、起立力学量のピーク値を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照して説明する。本発明の着座運動機能評価システムは、着座動作に着目してユーザの運動機能を評価するシステムである。
【0020】
[実施形態1]
まず、
図1~
図3を参照して、本発明の実施形態1に係る着座運動機能評価システム1aについて説明する。
図1は、実施形態1に係る着座運動機能評価システム1aの側面図である。
図2は、実施形態1に係る着座運動機能評価システム1aの構成を示すブロック図である。
図3は、実施形態1に係る着座運動機能評価システム1aで生成された人体リンクモデル50を示す側面図である。以下では、
図1の状態に基づき上下方向(鉛直方向)を規定する。また、ユーザが着座装置10に着座する際に立つ側を前側として前後方向を規定する。上下方向と前後方向に直交する方向を左右方向とする。
【0021】
図1及び
図2に示すように、着座運動機能評価システム1aは、着座装置10と、第1センサ21aと、情報処理装置30と、表示装置45とを備える。
【0022】
着座装置10は、少なくとも座部11を備える。着座装置10は、背もたれ部12を備えてもよい。着座装置10は、例えば、椅子、ソファ、腰掛便器、車椅子、ベッドの端などのユーザが着座又は起立を行う装置である。ユーザの運動機能を評価するための専用の着座装置10を準備してもよいし、ユーザの生活空間の中でユーザが着座又は起立を行う装置を着座装置10としてもよい。
【0023】
第1センサ21aは、ユーザUの着座動作を測定するセンサである。第1センサ21aは、少なくとも着座装置10の座部11に着座するユーザUの大腿傾角θLを算出できる測定データを取得できる。ここで、大腿傾角θLは、大腿部54と座部11とのなす角度である。第1センサ21aは、着座装置10の座部11に取り付けられる。第1センサ21aは、ユーザUが着座又は起立する際に、ユーザUの大腿部54までの距離を測れるような、例えば、レーザ距離センサ、超音波距離センサ、電波式距離センサなどの測距センサである。第1センサ21aは、1点に対する距離の測定を行う測距センサだけでなく、面で捉える測距センサを使用しても構わない。
【0024】
実施形態1では、情報処理装置30は、大腿傾角算出部31と、着座力学量算出部32と、着座運動機能評価部33と、リンクモデル生成部38と、記憶部39と、制御部40とを備える。情報処理装置30は、例えば、コンピュータである。
【0025】
記憶部39は、種々の情報、データ、プログラムなどを記憶する。記憶部39は、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)によって構成される。実施形態1では、記憶部39には、ユーザUの身体情報、着座装置10の環境情報、第1センサ21aの環境情報、及び、ユーザUの運動機能を評価する着座運動機能評価プログラムが保存されている。また、記憶部39には、着座運動機能評価プログラムによって評価されたユーザUの運動機能の評価結果が保存される。運動機能の評価結果は、過去の評価結果も履歴として保存される。ユーザUの身体情報及び運動機能評価結果は、ユーザUごとに保存される。
【0026】
身体情報は、例えば、ユーザUの身長、体重、性別、年齢、大腿部54の長さ、体幹部52の長さ、下腿部56の長さなどである。ユーザUの大腿部54の長さ、体幹部52の長さ、下腿部56の長さは、直接測定された値を記憶させてもよいし、年齢及び/又は性別ごとに作成された人体寸法データベースから推定された値を記憶させてもよい。
【0027】
着座装置10及び第1センサ21aの環境情報は、着座装置10の座部11の寸法及び高さ、第1センサ21aの設置位置及び設置角度、ユーザUの踵部57(
図3参照)と着座装置10との距離などである。具体的には、第1センサ21aの設置位置は、着座装置10の座部11の基準位置111から第1センサ21aまでの距離である。実施形態1では、基準位置111は、着座装置10の座部11の前端とする。なお、基準位置111は、任意に設定することができる。また、第1センサ21aの設置角度は、着座装置10の座部11と、第1センサ21aのレーザ、超音波又は電波の照射方向とがなす角度である。
【0028】
リンクモデル生成部38は、記憶部39に記憶されている身体情報から、
図3に示す人体リンクモデル50を生成する。人体リンクモデル50は、頭部51、骨盤部53、膝部55及び踵部57をリンクジョイントとし、体幹部52、大腿部54及び下腿部56をリンクとして、身体情報に基づいて各部の位置及び長さを算出し、算出された各部の位置及び長さに基づいて作成される。リンクモデル生成部38で算出された体幹部52、大腿部54及び下腿部56の長さは、各部のリンク長として記憶部39に保存される。
【0029】
大腿傾角算出部31は、第1センサ21aの測定データに基づいて、着座動作時のユーザUの大腿傾角θLを算出する。具体的には、予め設定されているユーザUの大腿部54の長さ、座部11の基準位置111から第1センサ21aまでの距離、及び、第1センサ21aの座部11に対する設置角度、並びに、第1センサ21aで経時的に測定される第1センサ21aからユーザUの大腿部54までの距離データに基づいて、ユーザUの大腿傾角θLを算出する。大腿傾角θLは、第1センサ21aでユーザUの大腿部54までの距離を測定する時間軸に沿って経時的に算出される。
【0030】
着座力学量算出部32は、大腿傾角算出部31で算出したユーザUの大腿傾角θLに基づいて、着座動作時のユーザUの着座力学量を算出する。ここで、着座力学量は、例えば、ユーザUの大腿部54の座部11に対する角度、角速度、角加速度である。着座力学量は、第1センサ21aでユーザUの大腿部54までの距離を測定する時間軸に沿って経時的に算出される。
【0031】
着座運動機能評価部33は、着座力学量算出部32で算出した着座力学量に基づいて、着座動作時のユーザUの運動機能を評価する。着座運動機能評価部33は、着座力学量のピーク値の変化に基づいてユーザUの着座動作時の運動機能を評価する。また、着座運動機能評価部33は、記憶部39に保存されている過去のユーザUの運動機能評価結果の履歴と比較して、運動機能の変化量を算出する。
【0032】
制御部40は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサによって構成される。制御部40は、プログラムを実行することによって、大腿傾角算出部31、着座力学量算出部32、着座運動機能評価部33、リンクモデル生成部38及び記憶部39の動作を制御する。
【0033】
表示装置45は、情報処理装置30でユーザUの運動機能を評価した結果をユーザUに表示する装置である。具体的には、表示装置45は、着座運動機能評価部33で評価された運動機能の評価結果、及び/又は、着座運動機能評価部33で算出された運動機能の変化量を表示する。表示装置45は、画像又は映像のような視覚情報及び音声又はメロディのような聴覚情報の少なくとも一方で運動機能の評価結果を表示する。表示装置45は、例えば、テレビモニタ、ディスプレイ、スピーカーなどである。
【0034】
次に、
図4及び
図5も参照して、着座運動機能評価システム1aに基づいて運動機能を評価する着座運動機能評価方法について説明する。
図4は、実施形態1に係る着座運動機能評価方法を示すフローチャートである。
図5は、実施形態1に係る着座運動機能評価システム1aで算出された着座力学量の時間変化を示すグラフである。着座運動機能評価方法の各処理は、情報処理装置30に格納されている着座運動機能評価プログラムによって実行される。ここでは、ユーザUが着座装置10に着座するときの動作に基づいて、ユーザUの運動機能を評価する場合について説明する。
【0035】
まず、運動機能を評価するユーザUの身体情報、並びに、着座装置10及び第1センサ21aの環境情報を入力する(S10)。身体情報及び環境情報の入力は、情報処理装置30に接続されるキーボード、マウスなどの入力装置(図示せず)によって行われる。入力された身体情報及び環境情報は、記憶部39に保存される。
【0036】
リンクモデル生成部38が、入力された身体情報に基づいて人体リンクモデル50を生成する(S12)。人体リンクモデル50の生成の際に算出された、ユーザUの体幹部52のリンク長、大腿部54のリンク長、下腿部56のリンク長は、記憶部39に保存される。
【0037】
ユーザUが着座装置10に着座動作を開始する。制御部40は、ユーザUの着座動作が開始されたか否かを判定し、計測開始判定を行う(S14)。計測開始判定は、例えば、第1センサ21aとユーザUの大腿部54との距離が所定以下となった状態、押しボタン又は人体感知センサなどの計測開始検知センサ(図示せず)がONとなった状態などを判定して行われる。
【0038】
計測が開始されると、第1センサ21aは、ユーザUが着座する着座装置10の座部11に着座するユーザUの大腿傾角θLを算出できる測定データを取得する。具体的には、第1センサ21aは、第1センサ21aとユーザUの大腿部54との距離を測定し、時刻tごとの距離データd1tを経時的に取得する(S16)。取得した距離データは、記憶部39に保存される。
【0039】
次いで、大腿傾角算出部31は、第1センサ21aの測定データに基づいて、着座動作時のユーザUの大腿傾角θLを算出する。具体的には、大腿傾角算出部31は、ユーザUの大腿部54の長さLf、座部11の基準位置111から第1センサ21aまでの距離LS1、第1センサ21aの設置角度ΦS1、及び、経時的に保存される第1センサ21aからユーザUの大腿部54までの距離データd1tを記憶部39から取得する。大腿部54の長さLfは、記憶部39に保存されているリンク長である。なお、大腿部54の長さLfは、身体情報のデータでもよい。そして、大腿傾角算出部31は、座部11の基準位置111から第1センサ21aまでの距離LS1と、ユーザUの大腿部54の長さLfと、第1センサ21aで経時的に測定した第1センサ21aからユーザUの大腿部54までの距離データd1tとに基づいて、ユーザUの大腿傾角θLを算出する(S18)。
【0040】
より具体的には、以下の方法で時刻tにおける大腿傾角θL
tを算出する。
【数1】
ここで、θL
tは、時刻tにおける大腿部54と座部11とのなす角度である。
【0041】
次いで、着座力学量算出部32は、ユーザUの大腿傾角θLに基づいて、着座動作時のユーザUの着座力学量を算出する(S20)。ここでは、大腿部54と座部11とのなす角度θL
tに基づいて、ユーザUの膝関節の角速度ωL
tを着座力学量として算出する。
【数2】
なお、微分式の算出においては、前方差分又は後方差分などの近似解法で算出してもよい。着座力学量算出部32で算出された着座力学量の時間変化を示したグラフが
図5となる。
【0042】
ユーザUが着座装置10に着座すると、制御部40は計測終了判定を行う(S22)。計測終了判定は、例えば、第1センサ21aとユーザUの大腿部54との距離が所定以下となった状態、押しボタン又は人体感知センサなどの計測終了検知センサ(図示せず)がONとなった状態などを判定して行われる。
【0043】
計測が終了すると、着座運動機能評価部33は、着座力学量算出部32で算出した着座力学量のピーク値ωpの変化に基づいて、着座動作時のユーザUの運動機能を評価する(S24)。
【0044】
具体的には、以下の着座運動機能評価指標のうちの1つ以上の組合せでユーザUの着座動作の運動機能を評価する。着座運動機能評価指標は、(1)着座力学量のピーク値ωpが閾値以上であるか、(2)着座力学量のピークから着座動作終了までの時間tpが閾値以上であるか、(3)着座力学量のピークから着座動作終了までのプロットの傾きのピーク値αが閾値以下であるかである。着座力学量のピーク値ωpは、時刻tごとの着座力学量の最小値である。時間tpは、着座力学量のピーク値ωpが算出された時刻tをt0とし、着座動作終了時刻teとt0との差分で算出する。プロットの傾きのピーク値αは、着座力学量のピーク値ωpが算出された時刻tから着座動作終了時刻まで、時刻tごとのプロットの傾きを算出し、プロットの傾きの最大値とする。
【0045】
着座運動機能評価部33は、上記で算出した着座運動機能評価指標のうちの1つ以上の組合せでユーザUの着座動作の運動機能を評価する。指標を満たせば運動機能を良好と判定する。運動機能の評価結果は、記憶部39に保存される。
【0046】
ユーザUの運動機能の評価が終了すると、運動機能の評価結果が表示装置45に表示される(S26)。評価結果は、運動機能が良好か要改善かを示す。また、今回の評価結果を前回の評価結果と比較して、運動機能の向上又は低下を示してもよい。ユーザUは表示装置45に表示される運動機能の評価結果を確認する。
【0047】
[実施形態2]
次に、
図6及び
図7を参照して、本発明の実施形態2に係る着座運動機能評価システム1bについて説明する。
図6は、実施形態2に係る着座運動機能評価システム1bの側面図である。
図7は、実施形態2に係る着座運動機能評価システム1bの構成を示すブロック図である。以下、実施形態2について、実施形態1と異なる事項について説明する。
【0048】
図6及び
図7に示すように、着座運動機能評価システム1bは、着座装置10と、第1センサ21aと、第2センサ22bと、情報処理装置30と、表示装置45とを備える。着座装置10は、座部11及び背もたれ部12を備える。
【0049】
第2センサ22bは、ユーザUの起立動作を測定するセンサである。第2センサ22bは、少なくとも座部11から起立するユーザUの体幹傾角θBを算出できる測定データを取得できる。ここで、体幹傾角θBは、骨盤部53から鉛直方向に延びる軸に対する体幹部52の角度である。第2センサ22bは、着座装置10の背もたれ部12に取り付けられる。第2センサ22bは、ユーザUが着座する際や起立する際、あるいは着座状態でいる時に、ユーザUの体幹部52までの距離を測れるような、例えば、レーザ距離センサ、超音波距離センサ、電波式距離センサなどの測距センサである。第2センサ22bは、1点に対する距離の測定を行う測距センサだけでなく、面で捉える測距センサを使用しても構わない。
【0050】
実施形態2では、情報処理装置30は、大腿傾角算出部31と、着座力学量算出部32と、着座運動機能評価部33と、体幹傾角算出部34と、起立力学量算出部35と、起立運動機能評価部36と、総合運動機能評価部37と、リンクモデル生成部38と、記憶部39と、制御部40とを備える。情報処理装置30は、例えば、コンピュータである。
【0051】
記憶部39は、種々の情報、データ、プログラムなどを記憶する。実施形態2では、記憶部39には、ユーザUの身体情報、着座装置10の環境情報、第1センサ21aの環境情報、第2センサ22bの環境情報、及び、ユーザUの運動機能を評価する着座運動機能評価プログラムが保存されている。着座装置10、第1センサ21a及び第2センサ22bの環境情報は、着座装置10の座部11の寸法、高さ及び奥行きの長さ、第1センサ21aの設置位置及び設置角度、第2センサ22bの設置位置及び設置角度、ユーザUの踵部57(
図3参照)と着座装置10との距離などである。具体的には、第2センサ22bの設置位置は、着座装置10の座部11から第2センサ22bまでの距離である。また、第2センサ22bの設置角度は、着座装置10の背もたれ部12と、第2センサ22bのレーザ、超音波又は電波の照射方向とがなす角度である。なお、第1センサ21aと第2センサ22bは、センサによっては一つのセンサで兼用しても構わない。
【0052】
体幹算出部34は、第2センサ22bの測定データに基づいて、起立動作時のユーザUの体幹傾角θBを算出する。具体的には、予め設定されているユーザUの大腿部54の長さ、座部11の基準位置111から第1センサ21aまでの距離、及び、第1センサ21aの座部11に対する設置角度、第1センサ21aで経時的に測定される第1センサ21aからユーザUの大腿部54までの距離データ、座部11の奥行きの長さ、座部11から第2センサ22bまでの鉛直方向距離、及び、第2センサ22bの背もたれ部12に対する設置角度、並びに、第2センサ22bで経時的に測定される第2センサ22bからユーザUの体幹部52までの距離データに基づいて、ユーザUの体幹傾角θBを算出する。体幹傾角θBは、第2センサ22bでユーザUの体幹部52までの距離を測定する時間軸に沿って経時的に算出される。
【0053】
起立力学量算出部35は、体幹傾角算出部34で算出したユーザUの体幹傾角θBに基づいて、起立動作時のユーザUの起立力学量を算出する。ここで、起立力学量は、例えば、ユーザUの体幹部52の鉛直軸に対する角度、角速度、角加速度である。起立力学量は、第1センサ21a及び第2センサ22bでユーザUの大腿部54及び体幹部52までの距離を測定する時間軸に沿って経時的に算出される。
【0054】
起立運動機能評価部36は、起立力学量算出部35で算出した起立力学量に基づいて、起立動作時のユーザUの運動機能を評価する。起立運動機能評価部36は、起立力学量のピーク値の変化に基づいてユーザUの起立動作時の運動機能を評価する。また、起立運動機能評価部36は、記憶部39に保存されている過去のユーザUの運動機能評価結果の履歴と比較して、運動機能の変化量を算出する。
【0055】
総合運動機能評価部37は、着座運動機能評価部33で評価された着座動作時の運動機能の評価結果と、起立運動機能評価部36で評価された起立動作時の運動機能の評価結果とに基づいて、ユーザUの総合的な運動機能を評価する。また、総合運動機能評価部37は、記憶部39に保存されている過去のユーザUの運動機能評価結果の履歴と比較して、運動機能の変化量を算出する。
【0056】
次に、
図8及び
図9も参照して、着座運動機能評価システム1bに基づいて運動機能を評価する運動機能評価方法について説明する。
図8は、実施形態2に係る着座運動機能評価方法を示すフローチャートである。
図9は、実施形態2に係る着座運動機能評価システム1bで算出された起立力学量の時間変化を示すグラフである。ここでは、ユーザUが着座装置10から起立するときの動作に基づいて、ユーザUの運動機能を評価する場合について説明する。なお、着座運動機能評価システム1bでは、実施形態1と同様の方法で、ユーザUが着座装置10に着座するときの動作に基づくユーザUの運動機能評価を行うこともできる。
【0057】
まず、運動機能を評価するユーザUの身体情報、並びに、着座装置10、第1センサ21a及び第2センサ22bの環境情報を入力する(S30)。身体情報及び環境情報の入力は、情報処理装置30に接続されるキーボード、マウスなどの入力装置(図示せず)によって行われる。入力された身体情報及び環境情報は、記憶部39に保存される。
【0058】
リンクモデル生成部38が、入力された身体情報に基づいて
図3に示す人体リンクモデル50を生成する(S32)。人体リンクモデル50の生成の際に算出された、ユーザUの体幹部52のリンク長、大腿部54のリンク長、下腿部56のリンク長は、記憶部39に保存される。
【0059】
ユーザUが着座装置10から起立動作を開始する。制御部40は、ユーザUの起立動作が開始されたか否かを判定し、計測開始判定を行う(S34)。計測開始判定は、例えば、第2センサ22bとユーザUの体幹部52との距離が所定以上となった状態、押しボタン又は人体感知センサなどの計測開始検知センサ(図示せず)がONとなった状態などを判定して行われる。
【0060】
計測が開始されると、第1センサ21aは、ユーザUが着座する着座装置10の座部11に着座するユーザUの大腿傾角θLを算出できる測定データを取得する。同時に、第2センサ22bは、座部11から起立するユーザUの体幹傾角θBを算出できる測定データを取得する。具体的には、第1センサ21aは、第1センサ21aとユーザUの大腿部54との距離を測定し、時刻tごとの距離データd1tを経時的に取得する(S36)。同時に、第2センサ22bは、第2センサ22bとユーザUの体幹部52との距離を測定し、時刻tごとの距離データd2tを経時的に取得する(S36)。取得した距離データは、記憶部39に保存される。
【0061】
次いで、大腿傾角算出部31は、第1センサ21aの測定データに基づいて、着座動作時のユーザUの大腿傾角θLを算出する。具体的には、大腿傾角算出部31は、ユーザUの大腿部54の長さLf、座部11の基準位置111から第1センサ21aまでの距離LS1、第1センサ21aの設置角度ΦS1、及び、経時的に保存される第1センサ21aからユーザUの大腿部54までの距離データd1tを記憶部39から取得する。大腿部54の長さLfは、記憶部39に保存されているリンク長である。なお、大腿部54の長さLfは、身体情報のデータでもよい。そして、大腿傾角算出部31は、実施形態1と同様にして、座部11の基準位置111から第1センサ21aまでの距離LS1と、ユーザUの大腿部54の長さLfと、第1センサ21aで経時的に測定した第1センサ21aからユーザUの大腿部54までの距離データd1tとに基づいて、ユーザUの大腿傾角θLを算出する。
【0062】
次いで、体幹傾角算出部34は、第2センサ22bの測定データに基づいて、起立動作時のユーザUの体幹傾角θBを算出する。具体的には、体幹傾角算出部34は、大腿傾角θLに基づいて、骨盤部53の座標を算出し、算出した骨盤部53の座標に加えて、記憶部39に予め設定されており記憶部39から取得した座部11の奥行きの長さLC、座部11から第2センサ22bまでの鉛直方向距離LS2、及び、第2センサ22bの背もたれ部12に対する設置角度ΦS2、並びに、第2センサ22bで経時的に測定される第2センサ22bからユーザUの体幹部52までの距離データd2tに基づいて、ユーザUの体幹傾角θBを算出する(S38)。
【0063】
より具体的には、以下の方法で時刻tにおける体幹傾角θBを算出する。ここでは、まず、大腿傾角θLに基づいて、骨盤部53の座標(x
t,y
t)を算出する。
【数3】
次いで、骨盤部53の座標(x
t,y
t)に基づいて、骨盤部53から鉛直方向に延びる軸に対する体幹部52の角度θB
tを算出する。
【数4】
ここで、d3
tは、時刻tにおける、体幹部52と第2センサ22bの照射軸との交点と、骨盤部53との水平方向距離であり、d4
tは、時刻tにおける、体幹部52と第2センサ22bの照射軸との交点と、骨盤部53との鉛直方向距離である。
【0064】
起立力学量算出部35は、ユーザUの体幹傾角θBに基づいて、起立動作時のユーザUの起立力学量を算出する(S40)。ここでは、体幹部52と骨盤部53を起点とした鉛直軸とのなす角度θB
tに基づいて、ユーザUの腰関節の角速度ωB
tを起立力学量として算出する。
【数5】
なお、微分式の算出においては、前方差分又は後方差分などの近似解法で算出してもよい。起立力学量算出部35で算出された起立力学量の時間変化を示したグラフが
図9となる。
【0065】
ユーザUが着座装置10から起立すると、制御部40は計測終了判定を行う(S42)。計測終了判定は、例えば、第2センサ22bとユーザUの体幹部52との距離が所定以上となった状態、押しボタン又は人体感知センサなどの計測終了検知センサ(図示せず)がONとなった状態などを判定して行われる。
【0066】
計測が終了すると、起立運動機能評価部36は、起立力学量算出部35で算出した起立力学量のピーク値ωpの変化に基づいて、起立動作時のユーザUの運動機能を評価する(S44)。
【0067】
具体的には、以下の起立運動機能評価指標のうちの1つ以上の組合せでユーザUの運動機能を評価する。起立運動機能評価指標は、(1)起立力学量のピーク値ωpが閾値以上であるか、(2)起立動作開始から起立力学量のピークまでの時間tpが閾値以下であるか、(3)起立動作開始から起立力学量のピークまでのプロットの傾きのピーク値αが閾値以上であるかである。起立力学量のピーク値ωpは、時刻tごとの起立力学量の最大値である。時間tpは、起立動作開始時刻tsと起立力学量のピーク値ωpが算出された時刻tとの差分で算出する。プロットの傾きのピーク値αは、起立動作開始時刻から起立力学量のピーク値ωpが算出された時刻tまで、時刻tごとのプロットの傾きを算出し、プロットの傾きの最大値とする。
【0068】
起立運動機能評価部36は、上記で算出した起立運動機能評価指標のうちの1つ以上の組合せでユーザUの起立動作の運動機能を評価する。指標を満たせば運動機能を良好と判定する。運動機能の評価結果は、記憶部39に保存される。
【0069】
ユーザUの運動機能の評価が終了すると、運動機能の評価結果が表示装置45に表示される(S46)。評価結果は、運動機能が良好か要改善かを示す。このとき、実施形態1と同様にして着座動作時の運動機能の評価を行い、着座動作時の運動機能の評価結果と、起立動作時の運動機能の評価結果とをそれぞれ表示してもよい。また、総合運動機能評価部37において、着座動作時の運動機能の評価結果と、起立動作時の運動機能の評価結果とにそれぞれ所定の係数を掛けて足し合わせて、総合的な運動機能の評価結果を示してもよい。また、今回の評価結果を前回の評価結果と比較して、運動機能の向上又は低下を示してもよい。ユーザUは表示装置45に表示される運動機能の評価結果を確認する。
【0070】
[実施形態3]
次に、
図10及び
図11を参照して、本発明の実施形態3に係る着座運動機能評価システム1cについて説明する。
図10は、実施形態3に係る着座運動機能評価システム1cの側面図である。
図11は、実施形態3に係る着座運動機能評価システム1cの構成を示すブロック図である。以下、実施形態3について、実施形態1及び実施形態2と異なる事項について説明する。
【0071】
図10及び
図11に示すように、着座運動機能評価システム1cは、着座装置10と、第1センサ21cと、第2センサ22cと、情報処理装置30と、表示装置45とを備える。着座装置10は、座部11のみで構成されてもよいし、座部11と背もたれ部12とを備えてもよい。
【0072】
実施形態3では、第1センサ21c及び第2センサ22cは、ユーザUが着座又は起立する際に、ユーザUの大腿部54までの距離及びユーザUの体幹部52までの距離を測れる深度センサである。ここで、深度センサとは、各画素値が距離情報を持つ画像(距離画像)を得ることのできるセンサであり、例えば、Kinect(Microsoft製)などである。実施形態3では、第1センサ21c及び第2センサ22cは、1個の深度センサによって構成される。第1センサ21c及び第2センサ22cは、着座動作又は起立動作を行うユーザUの全身を撮影できる距離LDだけ着座装置10から離間した位置に、着座動作又は起立動作を行うユーザUの全身を撮影できるように配置される。
【0073】
実施形態3では、情報処理装置30は、実施形態2と同様に、大腿傾角算出部31と、着座力学量算出部32と、着座運動機能評価部33と、体幹傾角算出部34と、起立力学量算出部35と、起立運動機能評価部36と、総合運動機能評価部37と、リンクモデル生成部38と、記憶部39と、制御部40とを備える。情報処理装置30は、例えば、コンピュータである。
【0074】
記憶部39は、種々の情報、データ、プログラムなどを記憶する。実施形態3では、記憶部39には、ユーザUの身体情報、及び、ユーザUの運動機能を評価する着座運動機能評価プログラムが保存されている。また、記憶部39には、第1センサ21c及び第2センサ22cによって取得された距離画像からユーザUの動作を抽出するための解析ソフトが搭載されている。一方、記憶部39には、着座装置10、第1センサ21c及び第2センサ22cの環境情報を保存する必要はない。さらに、記憶部39には、着座運動機能評価プログラムによって評価されたユーザUの運動機能の評価結果が保存される。運動機能の評価結果は、過去の評価結果も履歴として保存される。ユーザUの身体情報及び運動機能評価結果は、ユーザUごとに保存される。
【0075】
次に、
図12~
図14も参照して、着座運動機能評価システム1cに基づいて運動機能を評価する着座運動機能評価方法について説明する。
図12は、実施形態3に係る着座運動機能評価方法を示すフローチャートである。
図13は、実施形態3に係る着座運動機能評価システム1cで算出された着座力学量の時間変化を示すグラフである。
図14は、実施形態3に係る着座運動機能評価システム1cで算出された起立力学量の時間変化を示すグラフである。着座運動機能評価方法の各処理は、情報処理装置30に格納されている着座運動機能評価プログラムによって実行される。ここでは、ユーザUが着座装置10に着座するとき及び着座装置10から起立するときの動作に基づいて、ユーザUの運動機能を評価する場合について説明する。
【0076】
まず、運動機能を評価するユーザUの身体情報を入力する(S50)。身体情報の入力は、情報処理装置30に接続されるキーボード、マウスなどの入力装置(図示せず)によって行われる。入力された身体情報は、記憶部39に保存される。
【0077】
リンクモデル生成部38が、入力された身体情報に基づいて
図3に示す人体リンクモデル50を生成する(S52)。人体リンクモデル50の生成の際に算出された、ユーザUの体幹部52のリンク長、大腿部54のリンク長、下腿部56のリンク長は、記憶部39に保存される。
【0078】
ユーザUが着座装置10に着座するときの動作に基づいてユーザUの運動機能を評価する場合は、制御部40は、ユーザUの着座動作が開始されたか否かを判定し、計測開始判定を行う(S54)。計測開始判定は、例えば、押しボタン又は人体感知センサなどの計測開始検知センサ(図示せず)がONとなった状態などを判定して行われる。リアルタイムに第1センサ21cで取得した距離画像を解析してユーザUの姿勢を検出できる場合は、ユーザUが着座を開始する前の特定の姿勢となったことを検出したときに計測開始と判定してもよい。
【0079】
計測が開始されると、第1センサ21cは、ユーザUの着座動作を撮影した距離画像を経時的に取得する(S56)。取得した距離画像は、記憶部39に保存される。
【0080】
ユーザUが着座装置10に着座すると、制御部40は計測終了判定を行う(S58)。計測終了判定は、例えば、押しボタン又は人体感知センサなどの計測終了検知センサ(図示せず)がONとなった状態などを判定して行われる。リアルタイムに第1センサ21cで取得した距離画像を解析してユーザUの姿勢を検出できる場合は、ユーザUが着座したときの特定の姿勢となったことを検出したときに計測終了と判定してもよい。
【0081】
計測が終了すると、大腿傾角算出部31は、第1センサ21cで取得した距離画像に基づいて、記憶部39に搭載されている距離画像からユーザUの動作を抽出するための解析ソフトを使用して、時刻tにおける大腿部54と座部11とのなす角度であるユーザUの大腿傾角θLtを算出する(S60)。その後、実施形態1で示したのと同様に、着座力学算出部32が着座動作時のユーザUの着座力学量を算出し(S62)、着座運動機能評価部33が着座動作時のユーザUの運動機能を評価する(S64)。運動機能の評価結果は、記憶部39に保存される。
【0082】
ユーザUが着座装置10から起立するときの動作に基づいてユーザUの運動機能を評価する場合は、制御部40は、ユーザUの起立動作が開始されたか否かを判定し、計測開始判定を行う(S54)。計測開始判定は、着座動作時と同様に、例えば、押しボタン又は人体感知センサなどの計測開始検知センサ(図示せず)がONとなった状態などを判定して行われる。リアルタイムに第2センサ22cで取得した距離画像を解析してユーザUの姿勢を検出できる場合は、ユーザUが起立を開始する前の特定の姿勢となったことを検出したときに計測開始と判定してもよい。
【0083】
計測が開始されると、第2センサ22cは、ユーザUの起立動作を撮影した距離画像を経時的に取得する(S56)。取得した距離画像は、記憶部39に保存される。
【0084】
ユーザUが着座装置10から起立すると、制御部40は計測終了判定を行う(S58)。計測終了判定は、着座動作時と同様に、例えば、押しボタン又は人体感知センサなどの計測終了検知センサ(図示せず)がONとなった状態などを判定して行われる。リアルタイムに第2センサ22cで取得した距離画像を解析してユーザUの姿勢を検出できる場合は、ユーザUが起立したときの特定の姿勢となったことを検出したときに計測終了と判定してもよい。
【0085】
計測が終了すると、体幹傾角算出部34は、第2センサ22cで取得した距離画像に基づいて、記憶部39に搭載されている距離画像からユーザUの動作を抽出するための解析ソフトを使用して、時刻tにおける骨盤部53から鉛直方向に延びる軸に対する体幹部52の角度であるユーザUの体幹傾角θBtを算出する(S60)。その後、実施形態2で示したのと同様に、起立力学算出部35が起立動作時のユーザUの起立力学量を算出し(S62)、起立運動機能評価部36が起立動作時のユーザUの運動機能を評価する(S64)。運動機能の評価結果は、記憶部39に保存される。
【0086】
着座力学量算出部32で算出された着座力学量の時間変化を示したグラフが
図13となる。また、起立力学量算出部35で算出された起立力学量の時間変化を示したグラフが
図14となる。
【0087】
ユーザUの運動機能の評価が終了すると、運動機能の評価結果が表示装置45に表示される(S66)。評価結果は、運動機能の良好か要改善かを示す。このとき、着座動作時の運動機能の評価及び起立動作時の運動機能評価の両方を行った場合は、着座動作時の運動機能の評価結果と、起立動作時の運動機能の評価結果とをそれぞれ表示してもよい。また、総合運動機能評価部37において、着座動作時の運動機能の評価結果と、起立動作時の運動機能の評価結果とにそれぞれ所定の係数を掛けて足し合わせて、総合的な運動機能の評価結果を示してもよい。また、今回の評価結果を前回の評価結果と比較して、運動機能の向上又は低下を示してもよい。ユーザUは表示装置45に表示される運動機能の評価結果を確認する。
【実施例0088】
次に、実施形態1~実施形態3に係る運動機能評価システム1a,1b,1cについて、実施例を挙げて具体的に説明する。
【0089】
本実施例では、実施形態2の着座運動機能評価システム1bを用いて着座動作時及び起立動作時の運動機能の評価を行う。ここでは、人体の運動に関する専門知識を有する作業療法士に、以下に示す特徴的な着座動作2種類及び起立動作2種類を、それぞれ9回ずつ模擬してもらい、運動機能を評価する。着座運動機能評価指標には着座力学量(角速度ωL)のピーク値ωpを用い、起立運動機能評価指標には起立力学量(角速度ωB)のピーク値ωpを用いて評価を実施した。
【0090】
2種類の着座動作及び2種類の起立動作は以下のとおりである。
着座動作A:健常な人の座り方(一定速度で座る)
着座動作B:着座時に体重を支えきれず座面にドスンと着く座り方(衰えの見られる座り方)
起立動作A:健常な人の立ち上がり方(体幹を使って重心移動しながら立ち上がる)
起立動作B:体幹筋が衰え背筋を使う立ち上がり方(衰えの見られる立ち上がり方)
【0091】
身体情報、並びに、着座装置10、第1センサ21a及び第2センサ22bの環境情報は以下のとおりである。
<身体情報>
大腿部54の長さLf:366mm
<環境情報>
座部11の基準位置111から第1センサ21aまでの距離LS1:130mm
第1センサ21aの設置角度ΦS1:63.5°
座部の奥行の長さLC:550mm
座部11から第2センサ22bまでの距離LS2:465mm
第2センサ22bの設置角度ΦS2:90°
第1センサ21a及び第2センサ22bのサンプリング周期Δt:0.033sec
【0092】
作業療法士が着座動作A、着座動作B、起立動作A及び起立動作Bを行い、上記実施形態1及び実施形態2で示したようにして、着座力学量(角速度ωL)のピーク値ωp及び起立力学量(角速度ωB)のピーク値ωpを算出した結果を、表1、表2、
図15及び
図16に示す。表1は、作業療法士が着座動作A及び着座動作Bを9回ずつ行った結果を示す。表2は、作業療法士が起立動作A及び起立動作Bを9回ずつ行った結果を示す。
図15は、本実施例の実験結果を示す図で、着座力学量(角速度ωL)のピーク値ωpを比較した図である。
図16は、本実施例の実験結果を示す図で、起立力学量(角速度ωB)のピーク値ωpを比較した図である。
図15及び
図16は、表1及び表2に示したデータを箱ひげ図で図示している。
【0093】
【0094】
【0095】
一般に、着座動作では遠心性収縮を行う大腿四頭筋を評価しており、大腿四頭筋が衰えてくると、上半身の体重を支えきれず、座部11にドスンと着くという特徴が現れる。また、姿勢不良などの影響で重心が後方となりバランスが取れない場合も、同様の現象が発生する。一方、起立動作では求心性収縮を行う体幹筋を評価しており、体幹筋が衰えてくると、重心移動を補うため背筋を使って勢いを付けて立ち上がる特性が現れる。
【0096】
着座動作では、例えば、着座力学量のピーク値ωpの閾値を-100に設定する。上記実施形態1で示したように、着座力学量のピーク値ωpが閾値以上であれば衰えなし(○)、閾値未満であれば衰えあり(×)と評価できる。これに基づき、表1及び
図15の結果を参照すると、着座動作Aでは衰えなし、着座動作Bでは衰えありと評価できていることが確認できる。
【0097】
起立動作では、例えば、起立力学量のピーク値ωpの閾値を60に設定する。上記実施形態2で示したように、起立力学量のピーク値ωpが閾値以上であれば衰えなし(○)、閾値未満であれば衰えあり(×)と評価できる。これに基づき、表2及び
図16の結果を参照すると、起立動作Aでは衰えなし、起立動作Bでは衰えありと評価できていることが確認できる。
【0098】
一方で、
図15と
図16とを比較すると、起立動作の平均の差は、着座動作の平均の差に比べて小さい。さらに、表2から見られるように、起立動作Bは、背筋を使って立ち上がるときに勢いをつけて立ち上がる傾向があり、そのときの力の加減でωpのバラツキが大きくなる。このことから、起立力学量による評価は、着座力学量による評価に比べて誤って評価する確率が高くなり、精度が下がることが分かる。以上のことから、着座動作の方が運動機能の衰えの結果を得やすいことが確認できた。
【0099】
次に、着座動作時の運動機能の評価結果と起立動作時の運動機能の評価結果とを総合した総合評価の具体例について説明する。
【0100】
着座動作A、着座動作B、起立動作A及び起立動作Bを組み合わせると、4種類の動作が考えられる。すなわち、着座動作及び起立動作ともに衰えなしの場合、着座動作又は起立動作の一方に衰えありの場合、着座動作及び起立動作ともに衰えありの場合である。着座動作及び起立動作の評価結果をそれぞれ衰えなしの場合は○で、衰えありの場合は×で表したとき、4種類の動作に対応する人の例は表3のようになる。
【0101】
【0102】
総合評価の1例として、表3に示した4種類の評価を、以下のようにして4段階で評価することができる。
・着座動作及び起立動作ともに衰えなし(○)のとき:衰えなし(◎)
・着座動作は衰えなし(○)で起立動作は衰えあり(×)のとき:衰えはないが立ち上がり方に注意が必要(○)
・着座動作は衰えあり(×)で起立動作は衰えなし(○)のとき:やや衰えあり(△)
・着座動作及び起立動作ともに衰えあり(×)のとき:衰えあり(×)
このようにして総合評価を行った結果を表4に示す。
【0103】
【0104】
また、総合評価の他の1例として、遠心性収縮と求心性収縮とでは収縮時に必要な筋力に差があり、遠心性収縮の方が難しいことを考慮して、着座動作時の運動機能の評価結果及び起立動作時の運動機能の評価結果を点数化して評価することもできる。具体的には、着座動作時の運動機能の評価結果と起立動作時の運動機能の評価結果とに対し、例えば、衰えなし○=100点、衰えあり×=0点とし、着座動作時の運動機能の評価結果には係数0.7、起立動作時の運動機能の評価結果には係数0.3とする。そして、着座動作時の運動機能の評価結果の点数に係数をかけ、起立動作時の運動機能の評価結果の点数に係数をかけ、その後に足し合わせることで、総合評価を算出することもできる。このようにして総合評価を行った結果を表5に示す。
【0105】
【0106】
表4又は表5のようにして表示することで、ユーザUには自身の現在の運動機能の状態が理解しやすくなる。
【0107】
以上のように、本発明の着座運動機能評価システム1a,1b,1cでは、主として着座動作に着目し、着座動作中のユーザUの状態を測定して運動機能の評価を行っている。これにより、遠心性収縮と求心性収縮とからなる動的な筋肉の収縮のうちの、衰えが見えやすい遠心性収縮に着目してユーザUの運動機能の評価を行うことができる。その結果、ユーザUの運動機能を正確に評価することができる。このように正確に運動機能を評価することで、ユーザUの介護が必要になるリスクを正確に判断することができる。
【0108】
また、本発明の着座運動機能評価システム1a,1b,1cでは、着座装置10に取り付けられた第1センサ21a及び/又は第2センサ22b、若しくは、着座装置10から離間して設けられた第1センサ21c及び/又は第2センサ22cを用いてユーザUの着座力学量及び/又は起立力学量を算出している。これにより、計測装置をユーザUに取り付ける必要がなくなる。その結果、日常生活での測定が気軽に行えるだけに留まらず、検査として測定する場合でも、ユーザUは日常生活と同様にリラックスして行動でき、より正確にユーザUの運動機能を評価することができる。
【0109】
また、日常生活の中でユーザUが着座及び起立する着座装置10を利用して運動機能評価システム1a,1b,1cを構築することで、ユーザUは常に自身の運動機能を把握することができる。また、ユーザUは、自身の運動機能の評価結果を顧みて運動機能の向上を試みることができ、運動機能が低下することによって要介護状態となるリスクを低減することができる。特に、本発明の運動機能評価システム1a,1b,1cでは、過去の運動機能の評価結果も記憶部39に記憶している。これにより、ユーザUは、運動機能の評価結果を過去の評価結果と比較して確認することができ、運動機能の継続的な変化を確認することができるため、運動機能の維持または改善に効果的に利用することができる。
【0110】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0111】
例えば、上記実施形態では、第1センサ21a,21c及び第2センサ22b,22cに測距センサ又は深度センサを用いたが、必ずしもこの構成でなくてもよい。例えば、第1センサ21a,21c及び第2センサ22b,22cには、ビデオカメラ、モーションセンサ、光学式モーションキャプチャなどを用いることができる。ビデオカメラを用いる場合には、AI技術等を用いてビデオカメラで取得した動画像から骨格分析を行い、着座力学量及び起立力学量を算出する。モーションセンサを用いる場合は、加速度センサ又はジャイロセンサが組み込まれた装置を、ユーザUの身体各部に装着し、モーションセンサで検出したユーザUの動作から大腿傾角θL及び体幹傾角θBを算出する。光学式モーションキャプチャを用いる場合は、ユーザUの身体各部にマーカを貼付し、周囲に設置したカメラでマーカ位置をトレースして、着座力学量及び起立力学量を算出する。
【0112】
第1センサ21a,21c及び第2センサ22b,22cとして測距センサ、深度センサ又はビデオカメラを用いた場合は、非装着型として構成でき、気軽に使うことができる。一方、第1センサ21a,21c及び第2センサ22b,22cとしてモーションセンサ又は光学式モーションキャプチャを用いた場合は、高精度な測定を行うことができ、より精度よくユーザUの運動機能を評価することができる。第1センサ21a,21c及び第2センサ22b,22cにいずれのセンサを用いた場合も、ユーザUの運動機能を評価でき、ユーザUの身体の衰えのリスクを十分に評価することができる。
【0113】
また、上記実施形態3では、第1センサ21c及び第2センサ22cを1個の深度センサで構成したが、必ずしもこの構成でなくてもよい。例えば、第1センサ21cと第2センサ22cとを別々の2個の深度センサで構成してもよい。深度センサは、ユーザUが撮影できるように配置されるが、第1センサ21cと第2センサ22cとを別々の深度センサで構成することで、第1センサ21cはユーザUの下半身を撮影でき、第2センサ22cはユーザUの上半身を撮影できるように配置することもできる。これにより、着座装置10と第1センサ21c及び第2センサ22cとの距離LDを短くすることができ、狭い空間でも着座運動機能評価システム1cを利用することができる。
【0114】
また、上記実施形態1及び実施形態2では、大腿傾角θLの算出、着座力学量の算出、体幹傾角θBの算出及び起立力学量の算出は、ユーザUが着座動作又は起立動作を行っている間に行っているが、必ずしもこの構成でなくてもよい。例えば、ユーザUが着座動作又は起立動作を終了し、計測終了後に大腿傾角θLの算出、着座力学量の算出、体幹傾角θBの算出及び起立力学量の算出を行ってもよい。逆に、実施形態3では、大腿傾角θLの算出、着座力学量の算出、体幹傾角θBの算出及び起立力学量の算出は、ユーザUが着座動作又は起立動作を終了した後に行っているが、リアルタイムに第1センサ21c及び第2センサ22cで取得した距離画像を解析してユーザUの姿勢を検出できる場合は、ユーザUが着座動作又は起立動作を行っている間に、大腿傾角θLの算出、着座力学量の算出、体幹傾角θBの算出及び起立力学量の算出を行ってもよい。
【0115】
また、上記実施形態では、情報処理装置30は、リンクモデル生成部38を備えているが、リンクモデル生成部38は必ずしも備えなくてもよい。この場合は、人体リンクモデル50を生成するステップS12,S32,S52を行わず、記憶部39に保存されている身体情報に基づいてユーザUの運動機能を評価する。