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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038991
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】ころ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/48 20060101AFI20240313BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20240313BHJP
   F16C 23/08 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
F16C33/48
F16C19/18
F16C23/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129139
(22)【出願日】2023-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2022143023
(32)【優先日】2022-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村井 隆司
(72)【発明者】
【氏名】中野 聡希
(72)【発明者】
【氏名】山田 渓太
(72)【発明者】
【氏名】河田 真一
(72)【発明者】
【氏名】高野 晋
【テーマコード(参考)】
3J012
3J701
【Fターム(参考)】
3J012AB20
3J012BB03
3J012EB02
3J012FB11
3J701AA15
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA26
3J701BA44
3J701BA49
3J701DA14
3J701FA31
3J701XB03
3J701XB19
3J701XB23
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】長寿命化を図ることが可能なころ軸受を提供すること。
【解決手段】ころ軸受は、内輪および外輪と、複数のころと、中心軸の軸方向に延びる柱部が周方向に沿って複数設けられ、且つ、複数の柱部のうち周方向に隣接する2つの柱部の間にころが保持される保持器と、を備える。中心軸の軸方向から見て、周方向に隣接する第1柱部と第2柱部とのピッチ円に沿った距離からころの最大径を引いた距離をポケット隙間とした場合、ポケット隙間をころの最大径で割ったポケット隙間比は、0.005以上0.01未満である。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸の軸回りの周方向に延びる内輪および外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置される複数のころと、前記中心軸の軸方向に延びる柱部が前記周方向に沿って複数設けられ、且つ、複数の前記柱部のうち前記周方向に隣接する2つの柱部の間のポケットに前記複数のころのそれぞれが保持される保持器と、を備え、
前記中心軸を中心として前記ころの軸心を通る円をピッチ円とした場合、
前記中心軸の前記軸方向から見て、
前記周方向に隣接する前記2つの柱部を第1柱部および第2柱部とし、前記第1柱部と前記第2柱部との間のポケットに配置されるころを第1ころとし、
前記第1柱部と前記第2柱部との前記ピッチ円に沿った距離から前記第1ころの最大径を引いた距離をポケット隙間とした場合、
当該ポケット隙間を前記第1ころの最大径で割ったポケット隙間比は、0.005以上0.01未満である、
ころ軸受。
【請求項2】
前記ポケット隙間比は、0.00573以上0.0099以下である、
請求項1に記載のころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
ころ軸受は、転がり軸受の一種である。ころ軸受は、中心軸の軸回りの周方向に延びる内輪および外輪と、内輪と外輪との間に配置されるころと、ころを保持するポケットが設けられた保持器と、を備える(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、ころの最大直径Dwと、ポケットの内面ところとの最小すきまCとを所定範囲の値にして、ころ軸受の回転音を低減させる技術が開示されている。具体的には、ころの最大直径Dwと最小すきまCとの関係は、0.01×Dw≦C≦0.02×Dwである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-169044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、ころ軸受を用いる機械装置において、当該機械装置の寿命を長くしたいという産業界の要望が高まっているため、ころ軸受の長寿命化も望まれている。
【0005】
本発明は、長寿命化を図ることが可能なころ軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るころ軸受は、中心軸の軸回りの周方向に延びる内輪および外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置される複数のころと、前記中心軸の軸方向に延びる柱部が前記周方向に沿って複数設けられ、且つ、複数の前記柱部のうち前記周方向に隣接する2つの柱部の間のポケットに前記複数のころのそれぞれが保持される保持器と、を備え、前記中心軸を中心として前記ころの軸心を通る円をピッチ円とした場合、前記中心軸の前記軸方向から見て、前記周方向に隣接する前記2つの柱部を第1柱部および第2柱部とし、前記第1柱部と前記第2柱部との間のポケットに配置されるころを第1ころとし、前記第1柱部と前記第2柱部との前記ピッチ円に沿った距離から前記第1ころの最大径を引いた距離をポケット隙間とした場合、当該ポケット隙間を前記第1ころの最大径で割ったポケット隙間比は、0.005以上0.01未満である。
【0007】
ころ軸受においては、内輪と外輪とが相対回転する際に、保持器のポケット内のころが回転する。従って、内輪、外輪または保持器と、ころとの間に摩擦や滑りが生じる。この摩擦や滑りによって、例えば、内輪または外輪に剥離等の損傷が生じたり、内輪または外輪の温度が高温になったりして、ころ軸受の寿命が低下する場合がある。
【0008】
ポケット隙間比が0.005未満の場合は、例えば内輪を外輪に対して相対回転させる場合に、保持器ポケット内のころと保持器とに一部の金属接触に伴う異常発熱が生じ、その結果、内輪や外輪の温度が高くなり過ぎて使用できなくなる。一方、ポケット隙間比が0.01以上になると、例えば内輪を外輪に対して相対回転させる場合に、ポケット内のころが大きなスキュー等を起こし易くなる為、ころと内輪、ころと外輪との接触部の滑りが増加し、その結果、特に幾何的に面圧の高い内輪に剥離が生じやすくなってころ軸受の寿命が低下する。以上より、ポケット隙間比を0.005以上0.01未満に設定することにより、ころ軸受の長寿命化を図ることが可能となる。
【0009】
NSKテクニカルジャーナル(NO.682(2007))記載のように、ポケット隙間比を小さくすることによってころ軸受の寿命が延びる理由を簡単に説明する。ポケット隙間比を小さくすると、上述のようにころ挙動(スキュー等)を抑制するとともに、ころとポケット内面とがより近づくため、ころとポケット内面とがより強く接触して、自転するころとポケット内面との摩擦力が一時的に大きくなり、ころの自転数が減少する。その結果、ころと内輪との回転速度(周速)の差が小さくなり、内輪に対するころの滑りが小さくなる。従って、ポケット隙間比を小さくすることにより、内輪に剥離が生じる時間である実寿命時間が長くなるものと考えられる。
【0010】
望ましい態様では、前記ポケット隙間比は、0.00573以上0.0099以下である。これにより、ころ軸受のさらなる長寿命化を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ころ軸受の長寿命化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、自動調心ころ軸受の断面の模式図である。
図2図2は、実施形態に係る自動調心ころ軸受の断面の模式図である。
図3図3は、実施形態に係る保持器の一部を外周側から見た模式図である。
図4図4は、実施形態に係る球面ころの平面図である。
図5図5は、軸方向から見た保持器および球面ころの断面を示す模式図である。
図6図6は、保持器と球面ころとの隙間の関係を示す断面模式図である。
図7図7は、実施例において、保持器の種類ごとのポケット隙間比および軸受の寿命比を示すグラフである。
図8図8は、軸受回転試験用に組み込んだ保持器の軸方向から見た保持器および球面ころの断面を示す模式図である。
図9図9は、軸受の回転数と外輪温度との関係を示すグラフである。
図10図10は、ポケット隙間比と軸受の寿命比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、同一構造の部位には同一符号を付けて、説明を省略する。
【0014】
[実施形態]
(自動調心ころ軸の構成)
まず、ころ軸受の一種である自動調心ころ軸の構成を説明する。図1は、自動調心ころ軸受を模式的に示す一部断面の斜視図である。図2は、実施形態に係る自動調心ころ軸受の断面の模式図である。図3は、実施形態に係る保持器の一部を外周側から見た模式図である。X1側は内輪1および外輪2の軸方向の一方側であり、X2側は軸方向の他方側である。図4は、実施形態に係る球面ころの平面図である。
【0015】
図1および図2に示すように、自動調心ころ軸受100は、内輪1と、外輪2と、球面ころ(第1ころ)32と、保持器4と、を備える。内輪1および外輪2は、中心軸AX10の軸回りの周方向に延びる円環状の形状を有する。自動調心ころ軸受100においては、内輪1および外輪2の軸方向の中心線CLを挟んで、複数の球面ころ32が2列に配置される。即ち、周方向に沿って並ぶ球面ころ32の列が、中心線CLを挟んで内輪1および外輪2のX1側(軸方向の一方側)とX2側(他方側)とにそれぞれ形成される。
【0016】
図2に示すように、中心軸AX10を含む断面において、これら2列の球面ころ32の軸心AX20は、中心軸AX10に対して傾斜している。具体的には、X1側の球面ころ32の軸心AX20は、X1側に行くに従って中心軸AX10に近づくように傾斜する。換言すると、X1側の球面ころ32の軸心AX20は、X1側に行くに従って径方向内側に向かうように傾斜する。
【0017】
図2に示すように、X2側の球面ころ32の軸心AX20は、X2側に行くに従って中心軸AX10に近づくように傾斜する。換言すると、X2側の球面ころ32の軸心AX20は、X2側に行くに従って径方向内側に向かうように傾斜する。
【0018】
図2に示すように、内輪1は、外周面11と内周面12とを有し、外周面11には、球面ころ32の軌道面13、14が設けられる。軌道面13は、X1側の球面ころ32の軌道面である。軌道面13は、X1側に行くに従って径方向内側に向かうように傾斜する。軌道面14は、X2側の球面ころ32の軌道面である。軌道面14は、X2側に行くに従って径方向内側に向かうように傾斜する。
【0019】
外輪2は、外周面22と内周面21とを有し、内周面21がころ3の軌道面23となる。ここで、中心軸AX10と中心線CLとの交点を中心O2とすると、内周面21は中心O2を中心とする円弧である。このように、自動調心ころ軸受100においては、外輪2の軌道面23の曲率中心である中心O2が自動調心ころ軸受100の中心軸AX10と一致しているために調心性を有する。
【0020】
図3に示すように、保持器4は、リム部(中央円環部、以下、リム部と称する)43と、柱部40とを備える。リム部43は、保持器4の中心線CLに沿って環状に延びる。即ち、リム部43は、内輪1および外輪2の軸方向の中央に位置する。柱部40は、リム部43からX1側またはX2側に向けて延びる。柱部40は、リム部43と略直交する。柱部40は、周方向に沿って等間隔に配置される。換言すると、環状のリム部43は、周方向に延び且つ複数の柱部40と連結する。
【0021】
ここで、周方向に隣接する一対の柱部40とリム部43との間、および、周方向に隣接する一対の柱部40とリム部43との間に、ポケット46が設けられる。また、中心軸AX10の軸方向から見た場合に、X1側で周方向に隣接する2つの柱部40の間に、X2側の柱部40が配置される。また、自動調心ころ軸受100に適用するころ3は、例えば図4に示す球面ころ32である。球面ころ32の外周面32aは、球面形状を有し、軸方向の端部の径よりも軸方向の中央部の径が大きい。球面ころ32は、軸心AX20の軸方向の中央部において最大径D100を有する。ポケット46に球面ころ32が配置される。なお、図4に示すように、球面ころ32における軸心AX20の軸方向の端面32bは、軸心AX20に直交する第2平面230に沿った平面を有する。例えば、軸方向の端面32bの全面が第2平面230に沿った平面であってもよい。
【0022】
また、リム部43は、軸方向の側面430を有する。側面430は、側面431、432を含む。側面430は、ポケット46に面する。側面431は、リム部43を径方向から見て、中心線CLよりもX1側に位置する。側面432は、リム部43を径方向から見て、中心線CLよりもX2側に位置する。側面431、432は、X1側またはX2側(即ち、軸方向)に突出する突出部433を有する。突出部433は、突出部434、435を含む。突出部434は、側面431からX1側に突出する。突出部435は、側面432からX2側に突出する。また、突出部433は、軸方向の端面433aを有する。
【0023】
ここで、中心軸AX10に直交する平面を第1平面200とする。第1平面200は、中心線CLよりもX1側に位置する第1平面210と、中心線CLよりもX2側に位置する第1平面220と、を含む。軸方向の端面433aは、第1平面200を有する。即ち、中心線CLよりもX1側に位置する突出部434の軸方向の端面433aは、第1平面210を有し、球面ころ32の軸方向の端面32b(図4参照)と当接可能である。また、中心線CLよりもX2側に位置する突出部435の軸方向の端面433aは、第1平面220を有し、球面ころ32の軸方向の端面32b(図4参照)と当接可能である。さらに具体的には、突出部434における軸方向の端面433aの全面は、第1平面210であり、突出部435における軸方向の端面433aの全面は、第1平面220である。
【0024】
(保持器および球面ころの概要)
図5は、軸方向から見た保持器および球面ころの断面を示す模式図である。図5において、中心軸AX10(図1参照)を中心として球面ころ32の軸心AX20を通る円をピッチ円C1とする。図5では、ピッチ円C1の円周を直線状の一点鎖線で描いている。
【0025】
図5に示すように、保持器4は、例えば保持器4Aおよび保持器4Bが適用可能である図1は、4Bが適用された例を記載している。保持器4Aは、2つの柱部40である第1柱部41Aおよび第2柱部42Aを有する。保持器4Bは、2つの柱部40である第1柱部41Bおよび第2柱部42Bを有する。中心軸AX10の軸方向から見た場合に、周方向に隣接する2つの柱部40の間に球面ころ32が配置される。
【0026】
軸方向から見て、保持器4Aの第1柱部41Aおよび第2柱部42Aは、ピッチ円C1の円周上に配置される。保持器4Bの第1柱部41Bおよび第2柱部42Bは、第1柱部41Aおよび第2柱部42Aよりも自動調心ころ軸受100の径方向内側に配置される。即ち、保持器4Aの第1柱部41Aおよび第2柱部42Aにおける径方向中央部と、自動調心ころ軸受100の中心軸AX10との距離は、PCD(Pitch Circle Diameter、転動体ピッチ円径)である。保持器4Bの第1柱部41Bおよび第2柱部42Bにおける径方向中央部と、自動調心ころ軸受100の中心軸AX10との距離は、PCDよりも小さい。
【0027】
ここで、保持器4Aにおける第1柱部41Aの側面41Aaの径方向中央と第2柱部42Aの側面42Aaの径方向中央との、ピッチ円C1の円周に沿った距離の中央を中心O1とする。中心O1を中心として、側面41Aaおよび側面42Aaを通る仮想円C2を破線で示す。保持器4Aの側面41Aaおよび側面42Aaと、保持器4Bの側面41Baおよび側面42Baとは、仮想円C2の円周に沿った円弧状である。
【0028】
(保持器におけるポケットの隙間)
図6は、保持器と球面ころとの隙間(図を見やすくするため、図5に比べて隙間を誇張して大きく記載している)を示す模式図である。球面ころ32の軸心AX20が中心O1に一致している場合において、保持器4A、4Bのポケット46における隙間を算出する。球面ころ32の軸心AX20が中心O1に一致している場合とは、保持器4Aにおける第1柱部41Aの側面41Aaと球面ころ32の外周面32aとのピッチ円C1の円周に沿った第1隙間と、第2柱部42Aの側面42Aaと球面ころ32の外周面32aとのピッチ円C1の円周に沿った第2隙間と、が同一である場合を意味する。第1隙間と第2隙間とを合わせた隙間をポケット隙間と称する。なお、保持器4Bについても同様に、第1隙間と第2隙間とが同一であり、第1隙間と第2隙間とを合わせた隙間をポケット隙間と称する。図6では、ポケット隙間のうち、第2隙間を算出するため、ポケット隙間は、第2隙間の2倍となる。換言すると、第1柱部41Aと第2柱部42Aとのピッチ円C1に沿った距離から球面ころ(第1ころ)32の最大径D100を引いた距離がポケット隙間である。以下、詳細に説明する。
【0029】
まず、保持器4Aと球面ころ32との第2隙間を算出する。図6に示すように、第2柱部42Aの側面42Aaの径方向中央の点を点P1とする。球面ころ32の軸心AX20と点P1とを結ぶ直線と、球面ころ32の外周面32aとの交点を点P2とする。点P1と点P2との距離は、距離L10である。即ち、保持器4Aと球面ころ32との第2隙間は、距離L10である。従って、保持器4Aのポケット隙間は、2×L10である。
【0030】
次に、保持器4Bと球面ころ32との第2隙間を算出する。保持器4Bは、ピッチ円C1よりも径方向の内側に位置するため、以下に示す近似式を適用して第2隙間を算出する。
【0031】
図6に示すように、保持器4Bの第2柱部42Bの側面42Baにおける径方向内側の端を点P3とする。軸心AX20と点P3とを結ぶ直線と、球面ころ32の外周面32aとの交点を点P4とする。軸心AX20と点P3とを結ぶ直線と、軸心AX20と点P1とを結ぶ直線との交差角を角度θとする。
【0032】
ここで、点P4を通り且つ軸心AX20と点P1とを結ぶ直線に平行な直線と、点P3を通り且つ点P4と点P3とを結ぶ直線に直角な直線とは、点P5で交差する。すると、点P3、点P4および点P5で直角三角形が形成される。即ち、点P3と点P4とを結ぶ辺pと、点P4と点P5とを結ぶ辺qと、点P3と点P5とを結ぶ辺rとで直角三角形が形成される。辺qが斜辺であり、辺pおよび辺rが直角を挟む2辺である。なお、点P3と点P5とを結ぶ直線は、仮想円C2の点P3における接線でもある。従って、保持器4Bと球面ころ32との第2隙間は、点P4と点P5との距離である距離L20(辺qの長さ)と同一である。よって、保持器4Bのポケット隙間は、2×L20と近似することができる。
【0033】
次に、保持器4Aと球面ころ32とのポケット隙間と、保持器4Bと球面ころ32とのポケット隙間との大小関係について説明する。
【0034】
保持器4Aで説明した距離L10は、保持器4Bで説明したように、点P3と点P4との距離(辺pの長さ)と同一である。ここで、(辺qの長さ)=(辺pの長さ)/cosθである。0度<θ<90度であり0<cosθ<1となるため、1<1/cosθである。よって、(辺pの長さ)<(辺qの長さ)=(辺pの長さ)/cosθとなる。以上より、距離L10<距離L20となるため、保持器4Aのポケット隙間よりも、保持器4Bのポケット隙間の方が長い。
【0035】
[実施例]
次に、実施例を通して、本発明をさらに具体的に説明する。
【0036】
[実施例1]
実施例1においては、自動調心ころ軸受A、B、C(以下、単に、軸受A、B、Cと称する)の寿命比を検証した。寿命比とは、各軸受の動定格荷重によるそれぞれの基本定格寿命に対する実寿命時間の比である。実寿命時間とは、軸受のうち内輪、外輪、ころのいずれかに剥離が発生した時間である。なお、本実施例では全て内輪に剥離が発生した。
【0037】
軸受A、軸受Bおよび軸受Cは、ポケット隙間をころの最大径で割ったポケット隙間比のみが相違し、その他の条件を同一にした。具体的には、軸受A、軸受Bおよび軸受Cは、型番22211の軸受(外径が100mm、内径が55mm、幅が25mm)を基本軸受とし、各軸受A、B、Cの外輪、内輪およびころの粗さおよび材料熱処理も全て同一とした。粗さ条件を下記に示す。また、ころと内輪との抱き率(ころの転動面の曲率半径/内輪の軌道面の曲率半径)およびころと外輪との抱き率(ころの転動面の曲率半径/外輪の軌道面の曲率半径)は、軸受A、軸受Bおよび軸受Cの全てで同等に設定した。軸受A、Cの保持器は、図5および図6で説明した保持器4Aを適用し、軸受Bの保持器は、図5および図6で説明した保持器4Bを適用した。以下、具体的に説明する。
【0038】
(粗さ条件)
・外輪の粗さ:0.3umRa
・内輪の粗さ:0.07umRa
・球面ころの粗さ:0.05umRa
【0039】
試験条件は、以下のとおりである。
・試験ラジアル荷重:45200N
・試験アキシアル荷重:0N
・内輪回転数:1500min-1(外輪固定)
・潤滑方式:JX日鉱日石FBKオイルRO68、強制供給循環
【0040】
各軸受の動定格荷重(Cr)、基本定格寿命(H)、ポケット隙間比は、以下のとおりである。軸受A、Cは保持器4Aを用いているため、軸受A、Cにおけるポケット隙間は、2×L10(図6参照)として算出した。軸受Bは保持器4Bを用いているため、軸受Bにおけるポケット隙間は、2×L20(図6参照)として算出した。
【0041】
(軸受A)
動定格荷重(Cr):10400kgf
基本定格寿命(H):176時間
ポケット隙間比:0.0135(1.35%)
【0042】
(軸受B)
動定格荷重(Cr):12150kgf
基本定格寿命(H):278時間
ポケット隙間比:0.00866(0.87%)
【0043】
(軸受C)
動定格荷重(Cr):11680kgf
基本定格寿命(H):245時間
ポケット隙間比:0.00805(0.805%)
【0044】
(試験結果)
軸受A、B、Cの内輪を寿命まで回転させ、各軸受における寿命比とポケット隙間比を調べた結果を図7に示す。図7は、実施例において、保持器の種類ごとのポケット隙間比および軸受の寿命比を示すグラフである。図8は、軸受回転試験用に組み込んだ保持器の軸方向から見た各保持器および球面ころの断面を示す模式図である。
【0045】
図7に示すように、軸受A(ポケット隙間比:1.35%)の寿命比は0.23、軸受B(ポケット隙間比:0.87%)の寿命比は1.58、軸受C(ポケット隙間比:0.805%)の寿命比は2.3であった。
【0046】
軸受Aのようにポケット隙間比が大きいと寿命比は著しく低下し、逆に、軸受Cのようにポケット隙間比が小さいと寿命比は大幅に増加することが判明した。また、ポケット隙間比が、軸受Aと軸受Cとの中間のポケット隙間比である軸受Bのポケット隙間比では、軸受Aと軸受Cとの中間の寿命比を示した。以上より、ポケット隙間比を小さくすれば寿命が延びることが分かった。
【0047】
このように、長寿命効果が得られるのは、ポケット隙間比を小さくすることで、ころと保持器のポケット内面(ころ案内面)とが接触して摩擦力が生じ、ころの自転数が低下することにより、ころと内輪との滑りが小さくなる為、内輪の表面疲労が抑制されることが一つの要因と考えられる。以下、簡単に説明する。
【0048】
ころは自転しているため、ころと外輪およびころと内輪とが接触して摩擦力が生じる。また、ころと保持器のポケット内面(ころ案内面)とが接触することによっても摩擦力が生じる。特に、負荷圏(負荷圏出入り口を含む)においては、非負荷圏よりも当該摩擦力がより大きくなる。ここで、ポケット隙間比を小さくすると、ころとポケット内面とがより近づくため、ころとポケット内面とがより強く接触して、自転するころとポケット内面との摩擦力が一時的に大きくなり、ころの自転数が減少する。その結果、ころと内輪との回転速度(周速)の差が小さくなり、内輪に対するころとの滑りが小さくなる。以上より、ポケット隙間比を小さくすることにより、内輪に剥離が生じる時間である実寿命時間が長くなり、寿命比も延びるものと考えられる。
【0049】
[実施例2]
実施例1では、ポケット隙間比を小さくすることにより寿命比が高くなることを検証することができた。実施例2では、ポケット隙間比の最小値を検証した。具体的には、自動調心ころ軸受a、b、c(以下、単に、軸受a、b、cと称する)のうち、軸受cを軸受a、bと比較しつつ、軸受cのポケット隙間比の適正を検証した。以下、詳細に説明する。
【0050】
軸受aは、実施例1の軸受Aと同等の設計である。具体的には、軸受aは、型番24128の軸受に、図5および図6で説明した保持器4Aを適用した。軸受cは、実施例1の軸受Cと同等の設計である。具体的には、軸受cは、型番24128の軸受に、図5および図6で説明した保持器4Aを適用した。軸受bは、軸受Bと同等の設計であり、型番24128の軸受に、図8に示す保持器4B´(二体型軌道輪案内プレス保持器)を組みつけた軸受(市販品)である。
【0051】
(各軸受の詳細仕様)
(軸受a)
動定格荷重(Cr):835KN
基本静定格ラジアル荷重(C0r):1160KN
ポケット隙間比:0.0163(1.63%)
【0052】
(軸受b)
動定格荷重(Cr):796KN
基本静定格ラジアル荷重(C0r):1160KN
【0053】
(軸受c)
動定格荷重(Cr):945KN
基本静定格ラジアル荷重(C0r):1330KN
ポケット隙間比:0.00573(0.5733%)
【0054】
試験条件は、以下のとおりである。
・試験ラジアル荷重:75700N
・試験アキシアル荷重:0N
・内輪回転数:1300、1950、2600min-1、3250min-1(軸受cのみ)
・潤滑方式:JX日鉱日石FBKオイルVG68、強制供給循環
【0055】
(試験結果)
軸受a、b、cの内輪を各回転数で回転させ、各回転数に対する外輪の温度を測定した。前述したように、軸受cにおけるポケット隙間比は、0.00573(0.5733%)である。よって、以下においては、軸受cの温度に問題がないかどうかを中心に、図9を参照しつつ説明する。図9は、軸受の回転数と外輪温度との関係を示すグラフである。図10は、ポケット隙間比と軸受の寿命比との関係を示すグラフである。
【0056】
図9に示すように、回転数が1300、1950、および、2600min-1において、軸受cは軸受aと同等の温度上昇を示し、軸受cは軸受bよりも温度上昇が低く抑制されることが分かった。また、回転数が3250min-1において、軸受cの温度は115.1度である。この115.1度は、回転数が2600min-1における軸受bの温度110.3度と同等である。更に正確には、軸受cの温度が110度になる回転数は3100min-1である。3100-2600=500であるため、軸受cは軸受bよりも500min-1の余裕回転数を有する。
【0057】
以上の軸受cの温度上昇の結果より、軸受におけるポケット隙間比の下限値は、0.005(0.5%)、好ましくは0.00573(0.5733%)であることが裏付けられた。
【0058】
これらの結果を図10のグラフにまとめて記載した。図10において、点Aは、軸受Aにおけるポケット隙間比と軸受の寿命比を示す。点Bは、軸受Bにおけるポケット隙間比と軸受の寿命比を示す。点Cは、軸受Cにおけるポケット隙間比と軸受の寿命比を示す。ポケット隙間比の0.5および0.573は、前述した軸受cの温度上昇の検証に基づく。
【0059】
点Aと点Bと点Cとを近似曲線(破線)で繋げると、ポケット隙間比が大きくなるに従って、寿命比が低下することが分かる。この近似曲線によれば、寿命比が1になるポケット隙間比は、0.99である。
【0060】
以上をまとめると、軸受におけるポケット隙間比の下限値は、0.005(0.5%)、好ましくは0.00573(0.5733%)である。ポケット隙間比の上限値は、0.01未満(1%未満)であり、好ましくは0.0099(0.99%)である。
【0061】
以上説明したように、本実施形態に係る自動調心ころ軸受(ころ軸受)100は、内輪1および外輪2と、複数の球面ころ32(ころ3)と、複数の柱部40のうち周方向に隣接する2つの柱部40の間に球面ころ(第1ころ)32が保持される保持器4と、を備える。第1柱部41Aと第2柱部42Aとのピッチ円C1に沿った距離から球面ころ(第1ころ)32の最大径D100を引いた距離をポケット隙間とした場合、ポケット隙間を球面ころ32の最大径D100で割ったポケット隙間比は、0.005以上0.01未満である。
【0062】
自動調心ころ軸受100においては、内輪1と外輪2とが相対回転する際に、保持器4内の球面ころ32が回転する。従って、内輪1、外輪2または保持器4と、球面ころ32との間に摩擦や滑りが生じる。この摩擦や滑りによって、例えば、内輪1または外輪2に剥離等による転がり寿命低下が生じたり、内輪1または外輪2の温度が高温になったりして、焼き付き等の損傷による自動調心ころ軸受100の寿命が低下する場合がある。
【0063】
一方で、ポケット隙間比が0.005未満の場合は、ころとポケット内面での摩擦(一部金属接触も発生し始める)が増大し、例えば内輪1を外輪2に対して相対回転させる場合に、ころの異常発熱を伴い、結果的に内輪1や外輪2の温度が高くなり過ぎて使用できなくなる事が予想される。この場合、図9に示す軸受cや軸受aの温度上昇勾配が大きくなり、軸受b以上の温度勾配を示し、例えば1950min-1でも110℃を超えるようなことも想定される。更に、隙間比が小さい場合には、最悪回転開始とともに短時間で焼き付きに至る。一方、ポケット隙間比が0.01以上になると、例えば内輪1を外輪2に対して相対回転させる場合に、内輪1に剥離が生じやすくなって自動調心ころ軸受100の寿命が低下する。以上より、ポケット隙間比は、0.005以上0.01未満に設定することにより、自動調心ころ軸受100の長寿命化を図ることが可能となる。また、ポケット隙間比を0.00573以上0.0099以下に設定することにより、自動調心ころ軸受100のさらなる長寿命化を図ることが可能となる。
【0064】
なお、ポケット隙間比を小さくすることによって自動調心ころ軸受100の寿命が延びる理由を簡単に説明する。ポケット隙間比を小さくすると、球面ころ32とポケット内面とがより近づくため、球面ころ32とポケット内面とがより強く接触して、自転する球面ころ32とポケット内面との摩擦力が一時的に大きくなり、球面ころ32の自転数が減少する。その結果、球面ころ32と内輪1との回転速度(周速)の差が小さくなり、内輪1に対するころとの滑りが小さくなる。従って、ポケット隙間比を小さくすることにより、内輪1に剥離が生じる時間である実寿命時間が長くなるものと考えられる。
【0065】
また、本実施形態によれば、保持器4は、複数の柱部40と、周方向に延びて複数の柱部40と連結する環状のリム部43と、を備え、リム部43は、リム部43における軸方向の側面430から軸方向に突出する突出部433を有し、突出部433における軸方向の端面433aは、中心軸AX10に直交する第1平面200を有し、球面ころ(第1ころ)32は、軸方向の端面32bを有し、軸方向の端面32bは、第1平面200に沿って延びる第2平面230を有し、リム部43の突出部433における軸方向の端面433aは、球面ころ(第1ころ)32における軸方向の端面32bと当接可能である。
【0066】
球面ころ32の軸方向の端面32bと突出部433における軸方向の端面433aとが当接すると、自転する球面ころ32とリム部43の突出部433との摩擦力が一時的に大きくなり、球面ころ32の自転数が減少する。従って、球面ころ32と軸受の内輪1との回転速度(周速)の差が小さくなり、内輪1に対する球面ころ32との滑りが小さくなる結果、内輪1に剥離が生じる時間である実寿命時間が長くなる。
【0067】
ここで、球面ころ32の軸方向の端面32bは、突出部433における軸方向の端面433aに沿っているため、球面ころ32の軸方向の端面32bと突出部433における軸方向の端面433aとが当接する場合は、面接触になる。従って、例えば、リム部の突出部に突起を設けて、突起が球面ころ32の軸方向の端面と接触する態様と比較すると、本実施形態の方が球面ころ32とリム部43の突出部433との摩擦力がより大きくなる。このため、本実施形態の方が、球面ころ32と軸受の内輪1との回転速度(周速)の差がより小さくなり、内輪1に対する球面ころ32との滑りが小さくなる結果、内輪1に剥離が生じる時間である実寿命時間がより長くなる。
【0068】
また、突出部433における軸方向の端面433aの全面は、第1平面200である。これによれば、球面ころ32とリム部43の突出部433との摩擦力がさらに大きくなるため、内輪1に対する球面ころ32との滑りがより小さくなる結果、内輪1に剥離が生じる時間である実寿命時間がさらに長くなる。
【符号の説明】
【0069】
1 内輪
2 外輪
3 ころ
4、4A、4B、4B´ 保持器
11 外周面
12 内周面
13、14 軌道面
21 内周面
22 外周面
23 軌道面
32 球面ころ(第1ころ)
32a 外周面
32b 端面
40 柱部
41A、41B 第1柱部
41Aa、41Ba 側面
42A、42B 第2柱部
42Aa、42Ba 側面
43 リム部(中央円環部)
46 ポケット
100 自動調心ころ軸受(ころ軸受)
200、210、220 第1平面
230 第2平面
430、431、432 側面
433、434、435 突出部
433a 端面
AX10 中心軸
AX20 軸心
C1 ピッチ円
C2 仮想円
CL 中心線
D100 最大径
L10 距離
L20 距離
O1、O2 中心
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10