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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038999
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】反射材
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/08 20060101AFI20240313BHJP
   C01F 7/02 20220101ALI20240313BHJP
   C08G 77/04 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
G02B5/08 A
C01F7/02
C08G77/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023134333
(22)【出願日】2023-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2022142616
(32)【優先日】2022-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 元
【テーマコード(参考)】
2H042
4G076
4J246
【Fターム(参考)】
2H042DA01
2H042DA11
2H042DE09
4G076AA02
4G076AA10
4G076BF10
4G076CA07
4G076CA26
4G076DA02
4G076DA11
4G076FA08
4J246AA03
4J246BA12X
4J246BB022
4J246BB02X
4J246CA24X
4J246FA071
4J246FA131
4J246FA421
4J246FB081
4J246FD08
4J246GB13
4J246GB18
4J246GC21
4J246HA11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】広い波長域に亘って高い反射率を有し、且つ低コストで製造可能な反射材を提供する。
【解決手段】反射材であって、シリコーン樹脂と、前記シリコーン樹脂中に含有されるセラミックス粒子と、を含む多孔体を有する。前記セラミックス粒子は、金属元素を含み、酸性液中に安定に分散可能である。前記セラミックス粒子の前記金属元素(M)に対する、前記シリコーン樹脂の珪素(Si)の元素比(Si/M)が、25~75であり、前記多孔体の平均骨格径が、10nm~5μmである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射材であって、
シリコーン樹脂と、前記シリコーン樹脂中に含有されるセラミックス粒子と、を含む多孔体を有し、
前記セラミックス粒子は、金属元素を含み、酸性液中に安定に分散可能であり、
前記セラミックス粒子の前記金属元素(M)に対する、前記シリコーン樹脂の珪素(Si)の元素比(Si/M)が、25~75であり、
前記多孔体の平均骨格径が、10nm~5μmである、反射材。
【請求項2】
前記セラミックス粒子に含まれる前記金属元素が、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、及び鉄(Fe)からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の反射材。
【請求項3】
前記セラミックス粒子が、ベーマイトである、請求項1又は2に記載の反射材。
【請求項4】
前記セラミックス粒子が、セラミックスファイバである、請求項1~3のいずれか一項に記載の反射材。
【請求項5】
前記シリコーン樹脂が、ランダム構造のシルセスキオキサンである、請求項1~4のいずれか一項に記載の反射材。
【請求項6】
前記セラミックス粒子の前記金属元素(M)に対する、前記シリコーン樹脂の珪素(Si)の元素比(Si/M)が、25~70である、請求項1~5のいずれか一項に記載の反射材。
【請求項7】
前記多孔体の平均骨格径が、50nm~500nmである、請求項1~6のいずれか一項に記載の反射材。
【請求項8】
前記反射材の厚さが、1mm~40mmである、請求項1~7のいずれか一項に記載の反射材。
【請求項9】
波長300nm~1100nmの光の全光線反射率が95%以上である、請求項1~8のいずれか一項に記載の反射材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光を反射する材料(反射材)は様々な分野に応用されている。例えば、近年の地球温暖化に伴うヒートアイランド対策として、太陽光に含まれている近赤外領域の光を高いレベルで反射する(即ち、日射反射率の高い)遮熱材が注目されている。
【0003】
また、光学測定の標準反射材には、可視光を中心とした近紫外・近赤外域を含む広波長域の光に対して、高い反射率が求められる。このような反射材としては、現在、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(スペクトラロン(登録商標))、硫酸バリウム等が用いられている。
【0004】
一方で、本出願の発明者は、非特許文献1~4において、シリコーン樹脂とセラミックス粒子(典型的には、ベーマイト)を含むモノリス型多孔体について報告している。尚、非特許文献1~4では、モノリス型多孔体の光の反射性能等については、一切、検討していない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Bulletin of the Chemical Society of Japan 94(1) 70-75
【非特許文献2】ACS Applied Bio Materials, 3[8](2020)4747-4750
【非特許文献3】Journal of Asian Ceramic Societies 7(4) 469-475
【非特許文献4】Chemistry of Materials 28(10) 3237-3240
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の反射材においては、高い反射性能と、低コスト化とを両立することは困難であった。例えば、光学測定の標準反射材として使用されているPTFE(スペクトラロン(登録商標))は高い反射性能を有するが高価であり、また、硫酸バリウムを用いた反射材は反射性能が十分でなく、更に耐候性も低いという課題を有していた。
【0007】
また、一般に、シリコーン系の材料は紫外光に吸収を有するため、広い波長域に亘って高い反射率を有する反射材の材料には適さないと考えられてきた。
【0008】
本発明は、上記課題を解決することを目的とする。即ち、広い波長域に亘って高い反射率を有し、且つ低コストで製造可能な反射材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成できることを見出した。
【0010】
[1] 反射材であって、
シリコーン樹脂と、前記シリコーン樹脂中に含有されるセラミックス粒子と、を含む多孔体を有し、
前記セラミックス粒子は、金属元素を含み、酸性液中に安定に分散可能であり、
前記セラミックス粒子の前記金属元素(M)に対する、前記シリコーン樹脂の珪素(Si)の元素比(Si/M)が、25~75であり、
前記多孔体の平均骨格径が、10nm~5μmである、反射材。
[2] 前記セラミックス粒子に含まれる前記金属元素が、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、及び鉄(Fe)からなる群から選択される少なくとも1つである、[1]に記載の反射材。
[3] 前記セラミックス粒子が、ベーマイトである、[1]又は[2]に記載の反射材。
[4] 前記セラミックス粒子が、セラミックスファイバである、[1]~[3]のいずれかに記載の反射材。
[5] 前記シリコーン樹脂が、ランダム構造のシルセスキオキサンである、[1]~[4]のいずれかに記載の反射材。
[6] 前記セラミックス粒子の前記金属元素(M)に対する、前記シリコーン樹脂の珪素(Si)の元素比(Si/M)が、25~70である、[1]~[5]のいずれかに記載の反射材。
[7] 前記多孔体の平均骨格径が、50nm~500nmである、[1]~[6]のいずれかに記載の反射材。
[8] 前記反射材の厚さが、1mm~40mmである、[1]~[7]のいずれかに記載の反射材。
[9] 波長300nm~1100nmの光の全光線反射率が95%以上である、[1]~[8]のいずれかに記載の反射材。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、広い波長域に亘って高い反射率を有し、且つ低コストで製造可能な反射材を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例で製造した反射材(実験1の多孔体)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図2】実施例で製造した反射材(実験1の多孔体)の全光線反射率の測定結果である。
図3】実施例で製造した反射材(実験1の多孔体)の放射率、又は吸収率の測定結果である。
図4】実施例で製造した反射材(実験2の多孔体)の全光線反射率の測定結果である。
図5】実施例で製造した反射材(実験3の多孔体)の全光線反射率の測定結果である。
図6】実施例で製造した反射材(実験4の多孔体)の全光線反射率の測定結果である。
図7】実施例で製造した反射材(実験5の多孔体)の全光線反射率の測定結果である。
図8】実施例で製造した反射材(実験6の多孔体)の全光線反射率の測定結果である。
図9】実施例で製造した反射材(実験1の多孔体)の反射強度の分布を示す図である(入射角:5°)。
図10】実施例で製造した反射材(実験1の多孔体)の反射強度の分布を示す図である(入射角:45°)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
本実施形態の反射材は、シリコーン樹脂と、該シリコーン樹脂中に含有されるセラミックス粒子と、を含む多孔体を有する。図1に示すように、多孔体は、網目状に繋がった骨格を有し、その骨格によって共通連続構造のマクロ孔が区画されている、所謂、モノリス構造を有する。棒状の骨格の内部にはセラミックス粒子(典型的には、ベーマイトのナノファイバ)が含有される。このようなモノリス構造は、例えば、非特許文献1~4に開示されるゾル-ゲル反応を経て製造されることに起因し、発泡剤による発泡過程を経て得た多孔体の構造(このような多孔体では、発泡による独立した空孔が多数形成される)とは全く異なる。尚、ここで、「共通連続構造」とは、部材の切断面を走査型電子顕微鏡で観察したとき、シリコーン樹脂(ポリシロキサン)を主成分とする骨格相と空隙とがそれぞれ連続し、かつ、互いに三次元的に入り組んでいる状態を意味し、「マクロ孔」とは、IUPACによる提唱に従い、孔径(細孔径)が50nm以上の細孔を意味する。
【0015】
発明者は、非特許文献1~4において、セラミックス粒子を含有するシリコーン樹脂のモノリス多孔体の簡便な合成方法、及び機械特性、断熱特性等について報告しているが、光の反射特性については検討していなかった。一般に、シリコーン系(ケイ素系)の材料は紫外光に吸収を有するため、広い波長域に亘って高い反射率を有する反射材の材料には適さないと考えられてきた。しかし、驚くべきことに、本実施形態の多孔体はシリコーン系材料をベースとしながらも、短波長域を含む、広い波長域(例えば、波長300~1100nm、好ましくは、波長200~1100nm)に亘って高い反射率(例えば、全光線反射率が95%以上)を示すことを発明者は見出し、本発明に至った。本実施形態の反射材(多孔体)が、このような効果(反射率特性)を示すメカニズムは不明であるが、多孔体が、特定の化学組成と特定の多孔構造とを併せ持つことに起因すると推測される。特に、短波長域の光に対する高い反射率は、多孔体の単マイクロメートル以下の構造(単マイクロメートル以下の平均骨格径)により得られると推測される。尚、これらの効果のメカニズムは推測であり、本発明の範囲に何ら影響を与えない。以下に、本実施形態の反射材の詳細について説明する。
【0016】
<シリコーン樹脂>
シリコーン樹脂は、シロキサン結合を主骨格にもち、側鎖に有機官能基を有する高分子、即ち、オルガノポリシロキサンである。そして、本実施形態のシリコーン樹脂は、複数の分岐(架橋部)を含むランダム構造(網目構造)を有する。シリコーン樹脂が網目構造を有することで巨視的構造を形成でき、本実施形態の反射材は、ハンドリング可能な強度を持つことができる。
【0017】
シリコーン樹脂は、シリコーン樹脂の前駆体(モノマー)であるアルコキシシランの縮合物である(より詳細には、アルコキシシランの加水分解物(シラノール)の縮合物である)。シリコーン樹脂の前駆体であるアルコキシシランとしては、4官能のテトラアルコキシシラン(4AS)、3官能のオルガノトリアルコキシシラン(3AS)、2官能のオルガノジアルコキシシラン、及び1官能のオルガノモノアルコキシシラン(1AS)が挙げられる。
【0018】
本実施形態のシリコーン樹脂は、1種類のアルコキシシラン(前駆体)の縮合物であってもよいし、複数種類のアルコキシシラン(前駆体)の縮合物であってもよい。但し、効率よく網目構造を形成するために、シリコーン樹脂の前駆体は、3官能以上のアルコキシシラン(3AS、4AS)を含有する。中でも、3官能のオルガノトリアルコキシシラン(3AS)を含有することが好ましい。
以下に、各アルコキシシラン(各モノマー)の詳細について説明する。
【0019】
(i)テトラアルコキシシラン:4AS
4官能(アルコキシ基が4個)であるテトラアルコキシシランは、Rをアルキル基としたとき、式1:Si-(ORで表される化合物である(分子中に複数あるRは同一でも異なってもよいが、同一であることが好ましい。)。
【0020】
のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び、環状のいずれであってもよいが、より優れた本発明の効果が得られる点で、直鎖状、又は、分岐鎖状のアルキル基が好ましい。Rの炭素数としては特に制限されないが、加水分解縮合により生ずるアルコールがより優れた親水性を有することから、1~10個が好ましく、1~4個がより好ましい。
【0021】
炭素数が1~10個の直鎖状、又は、分岐鎖状のアルキル基としては、以下の基が挙げられる。炭素数が1個のメチル基;炭素数が2個のエチル基;炭素数が3個のプロピル基、イソプロピル基;炭素数が4個のブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基;炭素数が5個のペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基;炭素数が6個のヘキシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、1,4-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、1-エチル-2-メチル-プロピル基、1,1,2-トリメチルプロピル基;炭素数が7個のヘプチル基、1-メチルヘキシル基、2-メチルヘキシル基、3-メチルヘキシル基、4-メチルヘキシル基、5-メチルヘキシル基、1,1-ジメチルペンチル基、2,2-ジメチルペンチル基、3,3-ジメチルペンチル基、4,4-ジメチルペンチル基、1,2-ジメチルペンチル基、1,3-ジメチルペンチル基、1,4-ジメチルペンチル基、2,3-ジメチルペンチル基、2,4-ジメチルペンチル基、3,4-ジメチルペンチル基、1-エチルペンチル基、2-エチルペンチル基、3-エチルペンチル基、1,2,2-トリメチルブチル基、1,1,2-トリメチルブチル基、1,3,3-トリメチルブチル基、1,1,3-トリメチルブチル基、2,2,3-トリメチルブチル基、2,3,3-トリメチルブチル基;炭素数が8個のオクチル基、1-メチルヘプチル基、2-メチルヘプチル基、3-メチルヘプチル基、4-メチルヘプチル基、5-メチルヘプチル基、6-メチルヘプチル基、1-エチルヘキシル基、2-エチルヘキシル基、3-エチルヘキシル基、4-エチルヘキシル基、1-プロピルペンチル基、2-プロピルペンチル基、1,1-ジメチルヘキシル基、2,2-ジメチルヘキシル基、3,3-ジメチルヘキシル基、4,4-ジメチルヘキシル基、5,5-ジメチルヘキシル基、3-エチル-3-メチルペンチル基、1,1-ジエチルブチル基、2,2-ジエチルブチル基、1,1,2,2-テトラメチルブチル基、1,1,3,3-テトラメチルブチル基、2,2,3,3-テトラメチルブチル基、1,1-ジメチル-2-エチルブチル基;炭素数が9個のノニル基、2-メチルオクチル基、3-メチルオクチル基、4-メチルオクチル基、2,2-ジメチルヘプチル基、2,3-ジメチルヘプチル基、2,4ジメチルヘプチル基、2,6ジメチルヘプチル基、3,3ジメチルヘプチル基、3,4ジメチルヘプチル基、3,5ジメチルヘプチル基、4,4ジメチルヘプチル基、3-エチルヘプチル基、4-エチルヘプチル基、2,2,3-トリメチルヘキシル基、2,2,4-トリメチルヘキシル基、2,2,5-トリメチルヘキシル基、2,3,3-トリメチルヘキシル基、2,3,4-トリメチルヘキシル基、2,3,5-トリメチルヘキシル基、2,4,4-トリメチルヘキシル基、3,3,4-トリメチルヘキシル基、2メチル-3-エチルヘキシル基、3-メチル-3-エチルヘキシル基、3-エチル-4-メチルヘキシル基、3-エチル-5-メチルヘキシル基、2,2,3,3-テトラメチルペンチル基、2,2,3,4-テトラメチルペンチル基、2,2,4,4-テトラメチルペンチル基、2,3,3,4-テトラメチルペンチル基、2,2-ジメチル-3-エチルペンチル基、2,3-ジメチル-3-エチルペンチル基、2,4-ジメチル-3-エチルペンチル基、3,3-ジエチルペンチル基;炭素数が10個のデシル基、イソデシル基;等が挙げられる。
【0022】
また、環状のアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、及び、シクロヘキシル基等が挙げられる。また、環状のアルケニル基としては、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘキサジエニル基、シクロヘプテニル基、シクロヘプタジエニル基、シクロオクテニル基、及び、シクロオクタジエニル基等が挙げられる。また、環状のアルキニル基としては、シクロアルケニル基;シクロオクチニル基、シクロノニニル基、シクロデシニル基、及び、シクロデカジイニル基等が挙げられる。
【0023】
4ASとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、及び、テトラキス(2-エチルヘキシルオキシ)シラン等が挙げられ、反応の制御のしやすさ、コストの点からはテトラメトキシシラン(TMOS)が好ましい。
【0024】
(ii)オルガノトリアルコキシシラン:3AS
3官能(アルコキシ基が3個)であるオルガノトリアルコキシシランは、R及びR21をアルキル基としたとき、式2:R21-Si-(ORで表される化合物である(分子中のR21、及び複数あるRは同一でも異なってもよいが、複数あるRは同一であることが好ましい。)。
【0025】
なお、R21、及びRのアルキル基は、Rのアルキル基と同義であり、好適形態も同様である。また、R21は、メチル基であることが好ましい。
【0026】
3ASとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、及び、メチルトリブトキシシラン等が挙げられ、メチルトリメトキシシラン(MTMS)が好ましい。
【0027】
(iii)オルガノジアルコキシシラン:2AS
2官能(アルコキシ基が2個)であるオルガノジアルコキシシランは、R及びR31をアルキル基としたとき、式3:(R31-Si-(ORで表される化合物である(分子中複数あるR31、及びRは同一でも異なってもよいが、複数あるRは同一であることが好ましい。)
【0028】
なお、R31、及びRのアルキル基は、Rのアルキル基と同義であり、好適形態も同様である。また、R31は、メチル基であることが好ましい。
【0029】
2ASとしては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、及び、ジエトキシジメチルシラン等が挙げられ、ジメチルジメトキシシラン(DMDMS)が好ましい。
【0030】
(iv)オルガノモノアルコキシシラン:1AS
1官能(アルコキシ基が1個)であるオルガノモノアルコキシシランは、R及びR41をアルキル基としたとき、式4:(R41-Si-ORで表される化合物である(分子中複数あるR41、及びRは同一でも異なってもよい。)
【0031】
なお、R41、及びRのアルキル基は、Rのアルキル基と同義であり、好適形態も同様である。また、R41は、メチル基であることが好ましい。
【0032】
1ASとしては、例えば、トリメチルメトキシシラン、及び、エトキシトリメチルシラン等が挙げられ、トリメチルメトキシシランが好ましい。
【0033】
シリコーン樹脂は、珪素(Si)に結合しているアルキル基が全てメチル基である前駆体(アルコキシシラン)の縮合物であることが好ましい。即ち、式2~式4において、R21,R31,R41は、メチル基であることが好ましい。
【0034】
また、シリコーン樹脂は、主成分が3官能であるオルガノトリアルコキシシラン(3AS)である前駆体の縮合物であることが好ましく、主成分がメチルトリメトキシシランである前駆体の縮合物であることがより好ましい。これにより、シリコーン樹脂は、ランダム構造(網目構造)を形成し易くなる。アルコキシシランが全て、オルガノトリアルコキシシラン(3AS)である場合、得られるシリコーン樹脂はシルセスキオキサンである。また、本実施形態のシルセスキオキサンはランダム構造を有し、これにより巨視的構造を形成し、ハンドリング可能な強度を持つことができる。
【0035】
全前駆体(アルコキシシラン)における、各種アルコキシシラン(4AS,3AS,2AS,1AS)配合量は、特に限定されないが、例えば、以下の範囲としてよい。
4AS:0mol%~30mol%、
3AS:40mol%~100mol%、又は、80mol%~100mol%、
2AS:0mol%~50mol%、及び
1AS:0mol%~20mol%。
【0036】
<セラミックス粒子>
本実施形態のセラミックス粒子は、金属元素を含み、酸性液中に安定に分散可能である。ここで、セラミックス粒子が「酸性液中に安定に分散する」とは、室温(20℃)においてpH3~5となる、いずれかの濃度の酢酸水液中にセラミックス粒子を0.5質量%の濃度で分散させて室温で24時間静置させたとき、沈殿が生じないことをいう。酸性液中に安定に分散可能であるセラミックス粒子を用いることにより、本実施形態で用いる多孔体は、以下に記載する簡便な製造方法(非特許文献1~4参照)により製造可能となり、製造コストを抑制できる。まず、セラミックス粒子(例えば、ベーマイトのナノファイバ)の酸性分散液(水性ゾル)を調整し、そこにシリコーン樹脂の前駆体(例えば、メチルトリメトキシシラン)を加えて加熱すると乳白色ゲルが形成する。これを乾燥することで、本実施形態のモノリス型多孔体が得られる。この製造方法では、酸性液中で合成反応が一段階で進行し、また、セラミックス粒子が骨格相の相分離制御を行うため、界面活性剤等の添加剤が不要となり、添加剤除去のための洗浄工程も省略できる。
【0037】
本実施形態の反射材(多孔体)は、セラミックス粒子を含有することで機械的強度、及び耐候性が向上する。例えば、セラミックス粒子としてセラミックスファイバを用いた場合、多孔体の骨格中に1本、又は複数本のナノファイバが筋のように入った構造となる。通常、低嵩密度の多孔体は機械加工が難しいが、本実施形態の多孔体は機械的強度が高いため、例えば、CNC(computer numerical control)フライス盤等を用いた表面形状加工が可能であり、平面出しや任意形状加工が容易である。
【0038】
セラミックス粒子の含む金属元素としては、例えば、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、鉄(Fe)又は、これら金属元素の混合物を用いることができる。具体的なセラミックス粒子としては、ベーマイト、イットリア安定化酸化ジルコニア、イットリア、水酸化鉄が挙げられ、微粒子のサイズ及び形態の多様性、並びに入手の容易性の観点から、ベーマイトが好ましい。セラミックス粒子は、1種類の化合物の粒子から構成されてもよいし、2種類以上の化合物の粒子から構成されてもよい。
【0039】
セラミックス粒子の形状は、特に限定されず、例えば、球状粒子、棒(ロッド)状粒子、繊維(セラミックスファイバ)、プレート状粒子等を用いることができるが、多孔体製造時に凝集が少ない三次元構造を形成することから、セラミックスファイバ、棒(ロッド)状粒子が好ましく、セラミックスファイバがより好ましい。セラミックス粒子は、1種類の形状の粒子から構成されてもよいし、2種類以上の形状の粒子から構成されてもよい。
【0040】
セラミックス粒子の平均粒子径は、特に限定されず、本発明の効果を奏する範囲で適宜選択してよい。例えば、セラミックス粒子がセラミックスファイバである場合、平均直径(短径)は、好ましくは1nm~100nm、より好ましくは4nm~20nmであり、平均長さ(長径)、好ましくは10nm~10μm、より好ましくは100nm~3μmである。セラミックスファイバの平均粒子径(短径、長径)が上記範囲内であれば、より優れた反射率特性を有する反射材(多孔体)が得られる。セラミックスファイバの平均粒子径(短径、長径)は、電子顕微鏡観察像の画像解析により求めることができ、例えば、透過電子顕微鏡像より得た任意の20本のセラミックスファイバの粒子径(短径、長径)の相加平均として求めることができる。
【0041】
シリコーン樹脂と、セラミックス粒子との比率は特に限定されず、本発明の効果を奏する範囲で適宜調整してよい。例えば、セラミックス粒子の金属元素(M)に対する、シリコーン樹脂の珪素(Si)の元素比(Si/M)は、25~75が好ましく、25~70がより好ましい。元素比(Si/M)が上記範囲内であれば、モノリス構造が得られ易く、更に、多孔体の骨格の太さを適正な範囲内に調整し易くなる。これにより、より優れた反射率特性を有する反射材(多孔体)が得られる。また、元素比(Si/M)を上記範囲内とすることで、反射材の機械的強度が向上する。
【0042】
本実施形態の多孔体は、より優れた反射率特性を得る観点からは、シリコーン樹脂と、セラミックス粒子とのみから構成されることが好ましいが、本実施形態の効果を奏する範囲内において、シリコーン樹脂及びセラミックス粒子とは異なる、その他の成分を含んでもよい。本実施形態の多孔体の総質量に対する、シリコーン樹脂及びセラミックス粒子の合計質量の割合は、例えば、100質量%、95質量%以上、又は90質量%以上である。
【0043】
上述のように、本実施形態の多孔体は、網目状に繋がった骨格を有し、その骨格によって共通連続構造のマクロ孔が区画されている、所謂、モノリス構造を有する。多孔体の平均骨格径は、10nm~5μmであり、10nm~1μmが好ましく、20nm~700nmがより好ましく、50nm~500nmが更により好ましい。平均骨格径を上記範囲内とすることで、本実施形態の反射材(多孔体)は、広い波長域に亘って高い反射率が得られる。平均骨格径が上記範囲の下限値未満であると、多孔体の機械的強度が低下する虞があり、上限値を超えると、紫外光域の反射率が低下する虞がある。尚、平均骨格径は、電子顕微鏡観察像の画像解析により求めることができ、例えば、任意の10箇所の骨格径の相加平均として求めることができる。
【0044】
多孔体のマクロ孔の平均孔径は、例えば500nm~200μmである。多孔体の平均孔径は、例えば、電子顕微鏡観察像の画像解析により求められる。また、多孔体の空孔率は、レーザー共焦点顕微鏡による測定値にして、例えば75~98%が好ましい。また、多孔体の嵩密度は特に制限されないが、0.50gcm-3以下が好ましく、0.40gcm-3以下がより好ましく、0.30gcm-3以下が更に好ましい。下限は特に制限されないが、一般に、0.05gcm-3以上が好ましい。また、多孔体の嵩密度は、0.20gcm-3~0.45gcm-3程度であってもよい。
【0045】
反射材の厚さは、特に限定されず、本発明の効果を奏する範囲内で用途に合わせて、適宜、調整可能である。例えば、反射材の厚さは、より好ましい反射率特性を得る観点から、1mm以上、又は、2mm以上としてよく、更に、耐久性を高める観点から、5mm以上としてもよい。また、反射材の厚さは、多孔体の製造過程において乾燥を促進する観点から、40mm以下としてもよい。
【0046】
本実施形態の反射材(多孔体)は、波長300nm~1100nmの範囲の光に対して、例えば、80%以上、95%以上、又は98%以上の高い全光線反射率を有することが好ましい。また、本実施形態の反射材(多孔体)は、波長200nm~1100nmの範囲の光に対して、例えば、80%以上、95%以上、又は98%以上の高い全光線反射率を有することが、より好ましい。
【0047】
また、本実施形態の反射材(多孔体)は、高い光反射率と共に、高い断熱性を併せ持つ。これにより、本実施形態の反射材(多孔体)は、遮熱と断熱との両効果を同時に奏することができる。本実施形態の反射材(多孔体)の20℃(大気圧、空気中)の熱伝導率は、例えば、0.0500W/(m・K)以下、0.0350W/(m・K)以下、又は、0.0300W/(m・K)以下であってよい。下限は特に制限されないが、例えば、0.0150W/(m・K)以上であってよい。なお、上記熱伝導率は、例えば、非特許文献1に記載の方法により測定される。非特許文献1に開示される内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0048】
更に、本実施形態の反射材(多孔体)は、赤外光である7.5μm~14μmの波長域に吸収を有してもよい。これにより、本実施形態の反射材は、地球温暖化を抑制できる。このメカニズムについて以下に説明する。放射エネルギーにおけるキルヒホッフの法則によれば、物体の分光放射率εと分光吸収率αは等しい(ε=α)。よって、波長7.5μm~14μmの領域に吸収を有する本実施形態の反射材は、同領域において、光(エネルギー)を放出できる。一方で、波長7.5μm~14μmの領域は、「大気の窓」といわれており、この領域の光は大気に吸収され難く(大気を透過し易く)、放射冷却を効率的に行なうことができる。上述のように本実施形態の反射材は高反射性能を有するため、吸収する光量(エネルギー)は多くは無いが、吸収したエネルギーは、「大気の窓」の波長域の光(波長7.5μm~14μm)として放出可能であり、これにより、反射材は効率的に冷却され得る。
【0049】
本実施形態の反射材(多孔体)の製造方法は特に限定されないが、上述した非特許文献1~4に記載する、簡便な方法により製造できる。非特許文献1~4に開示される内容は、参照により本明細書に組み込まれる。反射材の好ましい製造方法は、具体的には、以下の工程を含む。
(1)セラミックス粒子と、シリコーン樹脂の前駆体とを含む酸性液を調製し、セラミックス粒子とシリコーン樹脂とを含むゲルを得る工程、及び
(2)得られたゲルを乾燥し、多孔体を得る工程。
【0050】
上記製造方法では、工程(1)において、酸性液中で合成反応が一段階で進行し、前駆体の縮合によって形成されるシリコーン樹脂がセラミックス粒子を被覆する。この製造方法によれば、セラミックス粒子が骨格相の相分離制御を行うため、界面活性剤等の添加剤が不要であり、添加剤除去のための洗浄工程も省略できる。
【0051】
[用途]
以上説明したように、本実施形態の反射材は、広い波長域に亘って高い反射率を有し、且つ低コストで製造可能である。更に、反射材は、高い機械的強度、及び耐候性も有する。このため、本実施形態の反射材は、ヒートアイランド対策用の反射材(遮熱材)、例えば、屋根、壁面等に用いる建材に利用できる。本実施形態の反射材は、太陽光、特に近赤外光を高いレベルで反射する。これにより、近赤外光の吸収、輻射を低減(即ち、遮熱)し、建物内部の気温上昇を抑制する。また、本実施形態の反射材は、遮熱性と共に、高い断熱性も有する。このため、太陽光を遮熱すると共に、地球温暖化、ヒートアイランド等により上昇した外気温を断熱し、建物内部の気温上昇を更に抑えることができる。また、実施形態の反射材は、反射しきれずに吸収した太陽光を「大気の窓」と言われる波長域(波長7.5μm~14μm)の光(エネルギー)として放出可能である。このため、結果的に、地球温暖化を抑制できる。
【0052】
更に、本実施形態の反射材は、塗料ではなく、多孔体(例えば、パネル)であるため、建材として、建物への設置が容易である。また、本実施形態の反射材は、CNCフライス盤等を用いて表面形状加工が容易であるため、建材の設置場所に合わせて、サイズ、形状等を容易に調整できる。
【0053】
また、本実施形態の反射材は、広い波長域に亘って高い反射率を有するため、光学測定の標準反射材として用いることができる。本実施形態の反射材は、例えば、従来品のPTFE製の反射材(スペクトラロン(登録商標))に匹敵する高い可視光反射率特性を有しながら、より低コストで製造できる。
【実施例0054】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
【0055】
[実験1]
本実験では、非特許文献2に開示される製造方法に従って、多孔体を作製した。
シリコーン樹脂の前駆体として、メチルトリメトキシシラン(MTMS)(東京化成工業株式会社製)を用いた。セラミックス粒子として、ベーマイト(AlOOH)のナノファイバ(平均直径(短径):4nm、平均長さ(長径)1μm)を用いた。
【0056】
まず、ベーマイトナノファイバ酢酸水分散液F1000(川研ファインケミカル株式会社製、2M酢酸水溶液中のベーマイト濃度:7.2wt%)を、水で10倍希釈した溶液を100mL用意した。そこに、100mLのMTMSを加え、15分間攪拌して、原料液を調製した。調製した原料液から必要量を容器(型)に注いで密閉し、80℃で数時間かけてゲル化させた。得られたゲルを更に80℃で24時間インキュベートした後、水と2-プロパノールで洗浄した。洗浄後、60℃で半日乾燥させて、本実験の多孔体(キセロゲル)を得た。得られた多孔体の大きさは、110mm×110mm×8mmであった。
【0057】
[評価]
(1)電子顕微鏡による観察、及び組成分析
走査型電子顕微鏡(SEM、株式会社日立ハイテクノロジーズ製、SU8000)を用いて、実験1で得られた多孔体の微細構造を観察した。結果を図1に示す。多孔体は、網目状に繋がった骨格を有し、その骨格によって共通連続構造のマクロ孔が区画されたモノリス連続孔を有していた。
【0058】
SEM観察像の画像解析から、多孔体の平均骨格径を求めた。具体的には、SEM像において、骨格上の任意の点に内接する円を描写して、この円の直径を5nm刻みに丸めた値を骨格径とした。そして、10箇所の骨格径を求め、これらの相加平均を多孔体の平均骨格径とした。尚、骨格径(円の直径)の測定は、明らかに骨格が凝集している領域は除いて行った。多孔体の平均骨格径は、500nmであった。
【0059】
また、SEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、TM3000)に付属するエネルギー分散型X線分析装置(EDX、BRUKER製、QUANTAX70)を用いて、多孔体の元素分析を行った。多孔体において、ベーマイトの金属元素(Al)に対する、シリコーン樹脂の珪素(Si)の元素比(Si/Al)は、53.6であった。
【0060】
(2)反射率測定
実験1で得られた多孔体の表面(スキン層)を削り、平面出しを行った(平面:20mm×20mm)。多孔体の切削には、CNCフライス盤(株式会社オリジナルマインド製、Kitmill(登録商標) CL200)、及び直径2mmのスクエアエンドミルを用いた。紫外可視赤外分光光度計(日本分光株式会社製、JASCO V-770、積分球ユニットISN-923)を用いて、得られた平面に対して全光線反射測定を行なった。結果を図2に示す。図2に示すように、実験1で得られた多孔体は、波長200~1100nmの光の全光線反射率が95%以上、より詳細には、98%以上(約100%)であった。この結果から、実験1の多孔体は、広い波長域に亘って高い反射率を有し、反射材として用いるのに十分な特性を有することが確認でした。尚、図2に示すグラフにおいて、波長250nm以下で反射率が100%を超えるピークが見られるが、これは装置の汚れ等による蛍光だと推測される。本実験の評価結果(全光線反射率)に大きく影響を与えるものではない。
【0061】
また、通常、低嵩密度の多孔体は機械加工が難しいが、本評価では、多孔体のスキン層をCNCフライス盤により除去することができた。これにより、実験1の多孔体が高い機械的強度を有することを確認した。尚、本評価(反射率測定)では、CNCフライス盤を用いずに、サンドペーパー(例えば、粒度♯220程度)等を用いてスキン層を除去することも可能である。
【0062】
(3)分光放射率、及び分光吸収率の測定
フーリエ変換型赤外分光光度計(FT-IR、株式会社島津製作所製、IR Tracer-100)および金積分球(株式会社システムエンジニアリング製、FT-IR用積分球 ゴールデンアイIII)を用いて、実験1で得られた多孔体の分光放射率、及び分光吸収率の測定を行った。結果を図3に示す。図3に示すように、多孔体は、赤外光である7.5μm~14μm波長域に大きな吸収を有していた。キルヒホッフの法則によれば、物体の分光放射率εと分光吸収率αは等しい(ε=α)ので、実験1の多孔体は、波長7.5μm~14μmの領域、所謂、「大気の窓」において、光(エネルギー)を放出可能である。大気の窓における光の放出は、放射冷却を促進するため、これにより、実験1の多孔体は効率的に冷却され得ることが確認できた。
【0063】
(4)嵩密度
実験1で得られた多孔体の重量を測定し、測定した重量と、多孔体の大きさから求めた体積とから、嵩密度を計算した。実験1の多孔体の嵩密度は、0.261gcm-3であった。
【0064】
(5)反射強度の分布
実験1で得られた多孔体(試料)の表面をCNCフライス盤を用いて切削し、平面出しを行った。得られた平面(表面粗さ(Ra)12μm)において、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光株式会社製、V-770)および手動絶対反射率測定ユニット(日本分光株式会社製、ARSV-917)を用いて、サンプル平面の鉛直方向に対して5度および45度の角度から波長550nmの光を当てることで反射強度の分布を求めた。入光角5度の結果を図9に、入光角45度の結果を図10に示す。図9及び図10において、破線は試料に照射した光の入射角を示し、また、反射点は各図に示す横線上(試料表面上)の中央である。図9及び図10に示す結果から、実験1で得られた多孔体が拡散反射材として理想的なランバート反射に近い特性をもつことが確認できた。
【0065】
[実験2~13]
実験2~13では、実験1の多孔体とは、元素比(Si/Al)が異なる多孔体を合成した。具体的には、実験2~13では、原料液の調製において、ベーマイトナノファイバ酢酸水分散液(BNF分散液)の希釈の程度と、MTMSの量(体積)を表1に示すように変更した。それ以外は、実験1と同様の方法により多孔体を合成した。
【0066】
[評価]
(1)電子顕微鏡による観察、組成分析、平均骨格径及び嵩密度の測定
上述した実験1と同様の方法により、実験2~13で得られた多孔体のSEM観察を行い、このうち、実験2~8で得られた多孔体の元素比(Si/Al)を求め、更に、実験2~6で得られた多孔体の平均骨格径、及び嵩密度を求めた。結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示すように、元素比(Si/Al)が25~75(より詳細には、25~70)の範囲内にある実験1~6では、平均骨格径が10nm~5μm(より詳細には、50nm~500nm)のモノリス構造を有する多孔体が得られた。
【0069】
一方、元素比(Si/Al)が25未満の実験7及び8では、モノリス構造を有する多孔体は得られたものの、割れや収縮が見られた。実験7及び8の多孔体は、反射材として用いるのに十分な機械的強度を有さないと推測される。このため、実験7及び8に関しては、平均骨格径及び嵩密度の測定は行わなかった。
【0070】
また、実験9~13では、原料液において、実験1~6よりもBNFに対するMTMSの比率を高め、元素比(Si/Al)の大きい多孔体を作製しようと試みた。しかし、得られた多孔体は、多孔体ではあるものの、その構造は非常に不均一であり、モノリス構造(網目状に繋がった骨格によって共通連続構造のマクロ孔が区画されている構造)ではなかった。この結果から、元素比(Si/Al)が大きいと(例えば、(Si/Al)=75、又は70を超えると)、モノリス構造が得られ難いことが確認できた。このため、実験9~13に関しては、組成分析、平均骨格径及び嵩密度の測定は行わなかった。
【0071】
(2)反射率測定
上述した実験1と同様の方法により、実験2~6で得られた多孔体の反射率測定を行った。結果をそれぞれ、図4図8に示す。
図4図8に示すように、実験2~6で得られた多孔体は、実験1の多孔体と同様に、波長200~1100nmの光の全光線反射率が95%以上、より詳細には、98%以上(約100%)であり、反射材として用いるのに十分な特性を有することが確認でした。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の反射材は、広い波長域に亘って高い反射率を有し、且つ低コストで製造可能である。したがって、例えば、ヒートアイランド対策用の反射材(遮熱材)や、光学測定の標準反射材として用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10