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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039002
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】局所適用システム
(51)【国際特許分類】
   A61M 37/00 20060101AFI20240313BHJP
【FI】
A61M37/00 510
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023143317
(22)【出願日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2022143339
(32)【優先日】2022-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022180765
(32)【優先日】2022-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501296380
【氏名又は名称】コスメディ製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】権 英淑
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 純也
(72)【発明者】
【氏名】田中 弘
(72)【発明者】
【氏名】李 英哲
(72)【発明者】
【氏名】神山 文男
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA72
4C267CC01
4C267GG05
4C267GG06
4C267HH30
(57)【要約】      (修正有)
【課題】局所麻酔薬、抗ヒスタミン薬等の皮膚及び口腔粘膜への作用発現時間を短くするための手段を提供する。
【解決手段】基板及び該基板上に林立している微小突起を含む微小突起パッチであって、該基板及び該微小突起は、1.5×10kgf/cm以下の弾性率を有する非水溶性熱可塑性高分子物質からなり、皮膚又は口腔粘膜に適用するための微小突起パッチ、並びに、前記微小突起パッチと、塗布薬(薬物を含有するゲル又は軟膏等)とからなる、皮膚又は口腔粘膜への薬物作用時間短縮のための局所適用システム。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板及び該基板上に林立している微小突起を含む微小突起パッチであって、該基板及び該微小突起は、1.5×10kgf/cm以下の弾性率を有する非水溶性熱可塑性高分子物質からなり、皮膚又は口腔粘膜に適用するための微小突起パッチ。
【請求項2】
微小突起の先端部直径が10μm~300μm、微小突起の長さが50μm~1500μm、基板の厚さが20~500μmである、請求項1に記載の微小突起パッチ。
【請求項3】
非水溶性熱可塑性高分子物質が、ポリオレフィン、軟質シリコン、及びポリウレタンからなる群より選ばれる、請求項1に記載の微小突起パッチ。
【請求項4】
微小突起パッチが粘着テープにより裏打ちされている、請求項1に記載の微小突起パッチ。
【請求項5】
粘着テープを構成する粘着剤が親水性物質を含有する、請求項4に記載の微小突起パッチ。
【請求項6】
親水性物質が、ポリアクリル酸、ヒアルロン酸及びそのナトリウム塩、カルボキシメチルセルロース及びそのナトリウム塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デキストリン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、コラーゲン、並びにそれらの架橋体からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項5に記載の微小突起パッチ。
【請求項7】
粘着テープを構成する粘着剤用基材がフォームである、請求項4に記載の微小突起パッチ。
【請求項8】
粘着テープを構成する粘着剤用基材が不織布である、請求項4に記載の微小突起パッチ。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の微小突起パッチと、塗布薬とからなる、皮膚又は口腔粘膜への薬物作用時間短縮のための局所適用システム。
【請求項10】
薬物が局所麻酔薬又は抗ヒスタミン薬であり、疼痛緩和又はかゆみ止めの短時間達成を目的とするものである、請求項9に記載の局所適用システム。
【請求項11】
局所麻酔薬がリドカイン又はアミノ安息香酸エチルである、請求項10に記載の局所適用システム。
【請求項12】
抗ヒスタミン薬がジフェンヒドラミン及びその塩、並びに、クロルフェニラミン及びその塩からなる群より選ばれる、請求項10に記載の局所適用システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚を穿刺する硬さを有しない微小突起を有するパッチに関する。さらに、そのパッチを利用した局所適用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザー療法時の疼痛緩和に用いる局所麻酔製剤は、現在市販されている製剤を用いているが、当該製剤の皮膚表面への適用後、麻酔効果を発揮するまでには40~60分必要である。また、貼付用局所麻酔剤(リドカイン60%を含有するテープ剤:適用は静脈留置針穿刺時の疼痛緩和)を本疼痛緩和目的で使用した場合にも、同様に60分を要するのが現状である。虫さされ、皮膚炎、かゆみ等に対する治療には、局所麻酔薬、抗ヒスタミン薬等を薬物とし、患部に塗布する皮膚外用剤が使用されている。これらに対する効果発現も、同様の時間を要する。
【0003】
歯科用の局所麻酔剤も広く使用されている。薬物は、リドカイン、アミノ安息香酸エチルを用いる(ゲル)軟膏が一般的であるが、その効果発現時間は10分と皮膚への効果発現に比べて短い。しかし、より短い時間での作用発現が医師、患者双方から求められている。
本発明者らは、口腔内適用のため、局所麻酔薬を含有するマイクロニードルアレイを開発し、麻酔効果を短時間で達成することに成功した(特許文献1)。特許文献1においては、水溶性樹脂からなるマイクロニードルに局所麻酔薬を含有することを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019―084352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1における実施は、医師の立場から言えば既に製造された医薬品としてのマイクロニードル局所麻酔剤を患者に投与することになる。様々な(ゲル)軟膏、液剤からなる局所投与製剤を投与してより短時間で効果を発現させる目的のためには、既存の軟膏などの医薬品を使用して医療の現場で適宜調製適用する、特許文献1以外の新しい投与法が必要である。
本発明は、局所適用製剤に関する課題を解決するためになされたものであり、局所麻酔、抗ヒスタミン、消炎、抗菌、疼痛緩和、鎮痒等を目的とした局所投与用の軟膏、クリーム、液剤、ゲル及びスプレー等の製剤の効果発現の時間短縮の手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、局所麻酔剤、抗ヒスタミン剤、消炎剤、抗菌剤、疼痛緩和剤、鎮痒剤、等の皮膚及び口腔粘膜への作用発現時間を短くするために、これらの薬物を含有する(ゲル)軟膏や液剤を患部に塗布するにあたり、塗布部位に微小突起パッチでオーバーレイすることを特徴とする。
微小突起を有するパッチとしては、マイクロニードルパッチが知られている。マイクロニードルを構成する材料は、シリカ、金属、プラスチック、生体溶解性物質、等からなるが、従来のマイクロニードルは、皮膚穿刺が可能な硬さを有することが特徴である。本発明においては、微小突起は皮膚あるいは口腔粘膜に適用しても穿刺できない硬さを有することを特徴とする。皮膚に穿刺できないが微小突起が皮膚を圧迫することにより、皮膚あるいは口腔粘膜を局所的に引き延ばして薄くすることにより、同時に投与する薬物の経皮、粘膜吸収を改善するのが目的である。あえて固さに劣る物質を用いる利点は、皮膚を傷つけることなく薬物の経皮経粘膜吸収を促進できることによる。
本発明は、以下に示す通りである。
〔1〕 基板及び該基板上に林立している微小突起を含む微小突起パッチであって、該基板及び該微小突起は、1.5×10kgf/cm以下の弾性率を有する非水溶性熱可塑性高分子物質からなり、皮膚又は口腔粘膜に適用するための微小突起パッチ。
〔2〕 微小突起の先端部直径が10μm~300μm、微小突起の長さが50μm~1500μm、基板の厚さが20~500μmである、〔1〕に記載の微小突起パッチ。
〔3〕 非水溶性熱可塑性高分子物質が、ポリオレフィン、軟質シリコン、及びポリウレタンからなる群より選ばれる、〔1〕又は〔2〕に記載の微小突起パッチ。
〔4〕 微小突起パッチが粘着テープにより裏打ちされている、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の微小突起パッチ。
〔5〕 粘着テープを構成する粘着剤が親水性物質を含有する、〔4〕に記載の微小突起パッチ。
〔6〕 親水性物質が、ポリアクリル酸、ヒアルロン酸及びそのナトリウム塩、カルボキシメチルセルロース及びそのナトリウム塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デキストリン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、コラーゲン、並びにそれらの架橋体からなる群より選ばれる少なくとも1種である、〔5〕に記載の微小突起パッチ。
〔7〕 粘着テープを構成する粘着剤用基材がフォームである、〔4〕に記載の微小突起パッチ。
〔8〕 粘着テープを構成する粘着剤用基材が不織布である、〔4〕に記載の微小突起パッチ。
〔9〕 〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の微小突起パッチと、塗布薬とからなる、皮膚又は口腔粘膜への薬物作用時間短縮のための局所適用システム。
〔10〕 薬物が局所麻酔薬又は抗ヒスタミン薬であり、疼痛緩和又はかゆみ止めの短時間達成を目的とするものである、〔9〕に記載の局所適用システム。
〔11〕 局所麻酔薬がリドカイン又はアミノ安息香酸エチルである、〔10〕に記載の局所適用システム。
〔12〕 抗ヒスタミン薬がジフェンヒドラミン及びその塩、並びに、クロルフェニラミン及びその塩からなる群より選ばれる、〔10〕に記載の局所適用システム。
【発明の効果】
【0007】
本発明の局所適用システムは、局所麻酔剤、抗ヒスタミン剤、消炎剤、抗菌剤、疼痛緩和剤、鎮痒剤等の塗布薬の皮膚又は口腔粘膜への作用発現時間を短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る微小突起パッチの図面である。図1A及び図1Bは、微小突起パッチの基板の背面全体に粘着テープを接着している。図1Cは、微小突起パッチの基板の背面の一部に粘着テープを接着している。図1Dは、 微小突起パッチの基板の背面に粘着フォームを接着している。
図2】本発明の微小突起パッチの顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の特徴である皮膚あるいは口腔粘膜に適用しても穿刺できない硬さを有し、非水溶性である高分子物質に関して検討した。非水溶性であることは、微小突起が数分から数十分間皮膚あるいは口腔粘膜に接触しても溶解、膨潤しないため、本発明の材料の必要条件である。水溶解型微小突起は、皮膚又は粘膜に適用する際、表面の水分により膨潤、溶解しやすく、薬物が皮膚又は粘膜側へ拡散すると同時に、微小突起部への逆拡散の現象も起こり得る。ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース等の水溶性樹脂のような水溶解性材料を用いて微小突起パッチを作製しても、ゲル軟膏と接触する、あるいは皮膚、口腔粘膜と接触してその水分で微小突起が溶解して形状を失い、透過促進の役割をなさない。
【0010】
硬さの定量的尺度として、弾性率(単位はkgf/cm)の異なる種々の高分子物質をプレス成型で微小突起パッチとし、皮膚に押し当てて穿刺性を評価した。その結果、1.5×10kgf/cm以下の弾性率を有する非水溶性熱可塑性高分子物質を用いることが適切と判明した。具体的には、ポリオレフィン、軟質シリコン、ポリウレタン、等からなる微小突起パッチが適当である。発明者等が測定した、あるいは製品カタログから確認した各種プラスチックの弾性率は、以下のようであった(単位:10 kgf/cm)。ポリオレフィンにおいては、ポリプロピレン:1.2、高密度ポリエチレン:1.0、エチレン酢ビ共重合体:0.05である。軟質シリコン樹脂:0.06、ポリウレタン樹脂:0.08。これらの樹脂は、本発明で好適に使用できる。
ポリ塩化ビニル:3.0、ポリアセタール:3.3、ポリグリコール酸:7.6、等は固く、これらの材料から製造される微小突起は、皮膚に穿刺され従って適用時出血の恐れがあるので、本発明においては好ましくない。
【0011】
1.5×10 kgf/cm以下の弾性率を有する非水溶性熱可塑性高分子物質から構成された微小突起パッチにおいては、微小突起による皮膚あるいは口腔粘膜の圧迫により、皮膚あるいは口腔粘膜の最外層(皮膚においては角質層)を引き伸ばし、それにより最外層の厚みを薄くし薬物の皮内浸透を高めることができる。また、針状の微小突起の場合、微小突起の先端部が粘膜の浅い部位に入りミクロポアができ、薬物の浸透を促進させることが可能である。周知のように、皮膚への薬物透過の最大のバリヤーは角質層であり、その厚さを1/2にすることができれば、理論的には薬物透過は2倍に増加する。
【0012】
また、塗布薬を微小突起パッチと併用することにより、薬物を微小突起パッチが被覆することにより、薬物が周辺に流れず、より安全に薬物を投与することが可能である。特に歯科表面麻酔の場合、塗るだけでは局所麻酔薬が咽喉など他の部位に流れやすく、微小突起パッチにより固着することにより、薬物のターゲット部位での効果が集中発揮できる。
塗布薬の剤型としては、軟膏、クリーム、液剤、ゲル及びスプレー等が挙げられる。
【0013】
本発明は、本発明の微小突起パッチと、塗布薬(薬物を含有する軟膏、クリーム、液剤、ゲル又はスプレー)とからなる、皮膚又は口腔粘膜への薬物作用時間短縮のための局所適用システムを提供する。局所適用システムとは、皮膚又は口腔粘膜へ投与する製剤システムであって、局所麻酔、抗ヒスタミン、消炎、抗菌、疼痛緩和、鎮痒等を目的とした局所投与用の軟膏、クリーム、液剤、ゲル及びスプレー等の製剤の効果発現の時間短縮に関する。
【0014】
微小突起パッチは、基板及び該基板上に林立している微小突起を含む。
基板の厚さは20μm~500μmが好ましく、50μm~300μmがより好ましい。基板の厚さが20μm以上であれば、取り扱い易く、500μm以下であれば、凹凸の大きい口腔粘膜部に密着させ易い厚さである。
微小突起の長さは、50μm~1500μmが好ましく、100μm~1000μmがより好ましい。微小突起の長さが50μm以上であれば、表層皮膚薄化効果を得るための突起の凸高さとして十分である。微小突起の長さが1500μm以下であれば、微小突起の湾曲が防止できる。
微小突起は、皮膚を圧迫した際に皮膚内あるいは口腔粘膜内に深く入らないように、先端部は尖ってはいけない。そのため、微小突起の形状は、円柱形、円錐形又は円錐台形が好ましい。かかる形状の突起の場合、先端部直径は10μm以上300μm以下が好ましく、30μm~200μmがより好ましい。
1.5×10kgf/cm以下の弾性率を有する非水溶性熱可塑性高分子物質からなる微小突起であって、先端部直径が10μm以上であれば、皮膚内に深く挿入される恐れはない。先端部直径が300μm以下であれば、十分な凹凸を皮膚に形成することが可能である。
微小突起の密度は20本~1000本/cmである。密度が20本/cm以上であれば、本発明の効果を発揮することができる。密度が1000本/cm以下であれば、十分な皮膚の凹凸が表れやすい。
微少突起は凹型鋳型に熱可塑性プラスチックを加熱圧着によるマイクロニードル製造によるのが適切であるが、その他の製法としてサンドブラスト等で表面粗面化した金属面への熱可塑性プラスチックの加熱圧着法、等によって製造されてもよい。
微小突起パッチの面積は、基板の面積に該当し、特に制限はないが、口腔内適用においては1~5cmが望ましい。
【0015】
このような態様の微小突起パッチにおいては、塗った薬物を確実にその部位に保持できるとともに、薬物投与効率を格段に向上させることができ、局所麻酔薬の場合、麻酔効果発現時間を短縮できる。疼痛緩和、鎮痒剤の場合、痛み止め、かゆみ止め時間の短縮などが実現できる。微小突起パッチを皮膚に適用するには、パッチを皮膚に固定するために周辺に粘着テープで裏打ちして用いてもよい。粘着テープは必須ではないが、パッチを皮膚に安定的に固定するためには粘着テープによる固定が好ましい。
【0016】
粘着テープは、粘着剤と基材からなり、粘着剤を基材上に塗布したものである。粘着剤は、ゴム系、シリコン系、アクリル系、ウレタン系粘着剤、などを用いうるが、口腔粘膜に適用するにあたっては親水性の粘着剤が好ましい。親水性粘着剤としては、例えば、親水性アクリル粘着剤、HiPAS10(商品名)粘着剤(メタクリル酸メチルを主モノマーとするアクリル粘着剤、コスメディ製薬)、HiPAS-PU(商品名)(ウレタン系粘着剤、コスメディ製薬)がある。
【0017】
粘着剤をそのまま基材上に塗布して用いるが、特に口腔内に適用するに際しては、口腔が極めて親水性であり水を多く表面に含むので、その水が粘着剤の表面を覆い粘着性を消失させることがある。それを防ぎ長時間の安定した皮膚適用を可能にするため、粘着剤中に前もって親水性物質をブレンドして混和して基材に塗布することが有効である。本発明における親水性物質とは水に添加する時、溶解もしくは膨潤する物質をいう。親水性物質としては、グルコース、グリセリンのような低分子親水性物質;ポリアクリル酸、ヒアルロン酸(ナトリウム塩)、カルボキシメチルセルロース(ナトリウム塩)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デキストリン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、コラーゲンのような親水性高分子物質;あるいは親水性高分子物質の架橋体、等が用いられる。特にアクリル粘着剤のような非水系溶液に添加する観点から、親水性高分子物質がより好ましい。前記親水性物質の役割は、口腔内の水分を吸収して粘着剤としての粘着性を長く保持させることにある。親水性物質の添加量は3~80質量%が好ましく、5~70質量%がより好ましい。親水性物質の添加量が少なければ、上記の効果を発揮しにくく、多すぎると、粘着剤としての粘着性を消失させると同時に親水性物質が皮膚に残りやすい。
粘着剤に可塑剤を添加してもよい。可塑剤は、通常一般的に使用される可塑剤、例えば、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチル、乳酸オクチルドデシル、等が使用できる。
【0018】
粘着剤を塗布する基材は、皮膚、口腔内等の屈曲部に適用する観点から、フレキシブルなフィルム、またはフォーム、あるいは不織布が望ましい。口腔内の水分の吸収により粘着テープの口腔内接着を安定化することにおいて、フォーム、不織布の使用がより望ましく、吸水性の材料であるほうがより好ましい。フォームは、クリーム剤、液剤などの塗る薬をオーバーレイ使用時に製剤の流れ防止効果が発揮できる。フォームはフィルムに比べて厚いので、口腔内に違和感を生じさせないよう、硬さがあまり大きすぎないことが要請される。フォームの弾性率が20kgf/cm以下であれば、口腔内での違和感は生じない。弾性率の測定は、フォームをダンベルに打ち抜き引張試験機で引っ張る時の応力-変異曲線から計測できる。フォームは、連続気泡フォームであっても独立気泡フォームであってもどちらでもよい。口腔に接触する側が多孔質であればよい。厚さは、フィルムであれば300μm以下5μm以上(100μm以下5μm以上でもよい)、フォームであれば10mm以下0.1mm以上が好ましい。不織布であれば20mm以下0.05mm以上が好ましい。より好ましくは、フィルムであれば100μm以下10μm以上、フォームであれば6mm以下0.5mm以上である。不織布であれば10mm以下0.08mm以上が好ましい。粘着剤/基材の大きさは、微小突起パッチを固定するためであるから、微小突起パッチの縁辺から1~10mmの大きさがあることが望ましい。
【0019】
実際の適用に当たっては、塗布薬(ゲル・軟膏等)を微小突起面に載せて広げて平面状とした後、皮膚に適用し基板の背面から押さえ、微小突起パッチと皮膚とを密着させる。微小突起パッチの形状は、正方形、長方形、円形、楕円形、又は円柱状、球状などもよい。この微小突起パッチを粘着テープで裏打ちして皮膚に密着させると、より密着性が良い。それにより、皮膚が伸長し薬物の皮膚内透過を促進する。皮膚を微小突起で押さえても、微小突起の密度が高く微小突起の長さが1500μm以下であれば、皮膚を破って出血することはない。
【0020】
口腔粘膜適用のための微小突起パッチは、歯床に密着しフィットさせるために、長方形であれば短径が15mm以下であり長径が30mm以下であるようなパッチが好ましい。基板の厚みは500μm以下、特に300μm以下が好ましい。さらに基板も柔軟性が必要であり、基板を構成する非水溶性熱可塑性高分子物質も1.5×10Kgf/cm以下の弾性率を有することが望ましい。微小突起形成高分子物質と基板形成高分子物質は同一であることが望ましいが、上記の条件を満たせば、異なる非水溶性熱可塑性高分子物質であってもよい。
【0021】
本発明における微小突起の成形法は、鋳型を用いるプレス成型、高分子物質を溶媒に溶解した溶液を鋳型に充填し乾燥させる鋳型成型、射出成型、等が挙げられる。軟質シリコン樹脂、ウレタン樹脂を原料として用いる場合、硬化前の原料を鋳型に入れて硬化させて微小突起パッチとする。熱可塑性樹脂は、鋳型に入れて加熱充填し、冷却後取り出す。
プレス成型が最も容易である。特に、微小突起の基板を薄くして柔軟性を有するものを製造するには、鋳型を用いるプレス成型がより適当な製造方法である。
微小突起は、凹型鋳型に熱可塑性プラスチックを加熱圧着するマイクロニードル製造によるのが適切であるが、その他の製法としてサンドブラスト、化学処理、レーザー等で表面粗面化した金属面への熱可塑性プラスチックの加熱圧着法、等によって製造されてもよい。これらの方法による粗面化において生成する凹凸の最大高さ(Rz)をもって、本発明における微少突起長さとする。
【0022】
本発明に利用できる薬物として、局所麻酔薬は、リドカイン、メピバカイン、ジブカイン、ブピバカイン、ロピバカイン、プロカイン、クロロプロカイン、テトラカイン、ベンゾカイン(アミノ安息香酸エチル)等である。
抗ヒスタミン薬としてはジフェンヒドラミン及びその塩、クロルフェニラミン及びその塩、イソチペンジル及びその塩、ジフェニルピラリン及びその塩、並びにジフェニルイミダゾール及びその塩が好ましい。
消炎、疼痛緩和、鎮痒薬としては、ベタメタゾンエステルのような副腎皮質ホルモン剤、ジクロフェナック、インドメタシンのような非ステロイド剤、ビタミンAのような外皮用ビタミン剤、抗生物質のような抗菌剤が好ましい。
【0023】
使用方法は、塗布薬を皮膚又は口腔粘膜に塗布後、微小突起パッチをその上に被覆するように載せて基板の背面から押さえても良い。あるいは、塗布薬を直接微小突起面に塗布し、皮膚又は口腔粘膜に適用し、さらに口腔内粘着性の粘着テープにより裏打ちしても良い。
【実施例0024】
以下、本発明を下記実施例によりさらに詳しく説明する。これら実施例は、単に本発明を具体的に説明するための例であり、本発明の範囲がこれら実施例に限定されるものではない。
【0025】
本実施例で製造した微小突起パッチは、シート状基板上に複数の微小突起が形成され、シート状基板の微小突起が形成された面と反対の面に、粘着テープが積層されている(図1A~Cを参照)。以下、本発明の微小突起パッチを局所麻酔適用のために使用した実施形態の一例を説明する。
【0026】
実施例1
本発明の微小突起パッチに係る第一実施形態について、図を用いて説明する。
【0027】
図1Bに示す微小突起パッチは、円形の基板上に長さ700μmの複数の微小突起が林立したものであり、個々の突起の形状は円錐形であり、突起先端の直径は35μmであり、突起間隔は500μmである。微小突起の顕微鏡写真を図2Bに示す。
金属凹型金型上に厚さ100μmのポリプロピレンシートを乗せ、180℃に加熱してプレス成型により微小突起林立シートを成型し、10mm直径に裁断して、微小突起パッチを製造した。突起の長さは700μm、基板の厚さは90μmであった。本微小突起パッチを、市販の絆創膏を16mm直径に裁断したテープ上に接着して用いた。
実際に本微小突起パッチを用いるには、外用局所麻酔剤「エムラクリーム」(1g軟膏中にリドカイン25mgとプロピトカイン25mgを含む)の0.1gを微小突起の全面に広げて載せた。その状態で、薬剤を載せた微小突起をボランティア3名の上腕に適用し、基板(微小突起の背面)を押して軟膏及び微小突起パッチを皮膚に密着させた。皮膚適用後、5分ごとにテープを一部剥がして薬物適用部を軽く爪楊枝で押さえ、痛みの有無を自己評価した。痛みを感じなくなった時間は3名において、25分、25分、30分であった。比較のため、同時に0.1gのエムラクリームを上腕皮膚に直径1cmの円形部に適用し、5分ごとに痛みの感じなくなる時間を評価した。痛みを感じなくなった時間は3名において、45分、50分、50分であった。
【0028】
実施例2
本発明の微小突起パッチに係る第二実施形態について、図を用いて説明する。
【0029】
図1Aに示す微小突起パッチは、長方形の基板上に長さ300μmの複数の微小突起が林立したものであり、個々の突起の形状は円錐台形であり、突起先端の直径は25μmであり、突起間隔は500μmである。微小突起の顕微鏡写真を図2Aに示す。金属凹型金型上に厚さ60μmの高密度ポリエチレンシートを乗せ、150℃に加熱してプレス成型により微小突起林立シートを成型し、10mm×20mmに裁断して、微小突起長さ300μm、基板厚さ50μmの微小突起パッチを製造した。本微小突起パッチを、市販の絆創膏を16×26mmに裁断したテープ上に接着して用いた。
実際に本微小突起パッチを用いるには、歯科用局所麻酔剤「ハリケインゲル」(1gゲル軟膏中にアミノ安息香酸エチル200mgを含む)の0.1gを微小突起の全面に広げて載せた。その状態で、薬剤を載せた微小突起をボランティア3名の上顎部に適用し、基板(微小突起の背面)を押して軟膏及び微小突起パッチを皮膚に密着させた。皮膚適用後、5分ごとにテープを一部剥がして薬物適用部を軽く爪楊枝で押さえ、痛みの有無を自己評価した。痛みを感じなくなった時間は3名において、すべて5分であった。比較のため、同時に0.1gのハリケインゲルを上腕皮膚に直径1cmの円形部に適用し、5分ごとに痛みの感じなくなる時間を評価した。痛みを感じなくなった時間は3名において、5分、10分、10分であった。
【0030】
比較例1
ヒアルロン酸を材料とし、鋳型成型により、長方形の基板上に長さ300μmの微小突起が林立した微小突起林立シートを成形した。突起の形状は、実施例2と同様であった。本シートを10mm×20mmに裁断して製造し、市販の絆創膏を16×26mmに裁断した「テープ」上に接着して微小突起パッチとして用いた。本パッチ上に、歯科用局所麻酔剤「ハリケインゲル」(1gゲル軟膏中にアミノ安息香酸エチル200mgを含む)の0.1gを「微小突起」部の全面に広げて載せた。
5分後微小突起を観察すると、ゲル中の水分によりヒアルロン酸が膨潤溶解し、全く微小突起の形状を消失していた。
【0031】
実施例3-9
実施例2で製造したものと同様の10mm×20mmの微小突起パッチを、16×26mmに裁断した粘着テープ上に接着して用いた。「ハリケインゲル」(商品名、1gゲル軟膏中にアミノ安息香酸エチル200mgを含む)の0.1gを微小突起の全面に広げて載せた。粘着テープは7種類用いた。使用した粘着テープの粘着剤の組成と基材の種類を表1に示す。
実施例3-9の粘着テープ付き微小突起パッチを、上顎に押し付けた状態で1分後に粘着テープごと左右に動かしてテープの上顎への付着の強さを評価した。結果を以下のように分類した。
(1)軽い力での押しで上顎部を滑り移動した。
(2)軽い力での押しでは移動しないが強く押すと上顎部を滑り移動した。
(3)強い押しでも上顎部への接着が強く移動しなかった。
(4)強い力で押すとポリアクリル酸の一部が上顎部に接着残存した。
【0032】
【表1】
【0033】
実施例10、11
実施例2で製造したものと同様の10mm×20mmの微小突起パッチを、16×26mmに裁断した粘着テープ上に接着して用いた。「ハリケインゲル」(1gゲル軟膏中にアミノ安息香酸エチル200mgを含む)の0.2gを微小突起の全面に広げて載せた。粘着テープの粘着剤は実施例7組成と同様であり、粘着テープ用基材は実施例10ではポリエチレンフィルム、実施例11ではポリウレタンフォームであった。2種の粘着テープ付きの微小突起パッチをヒト上腕部に押し付け、その直後にハリケインゲルの粘着テープ周囲へのはみだし状況を確認した。実施例10のテープ構成においては、テープの縁辺部においてゲル軟膏のはみ出しを観察したが、実施例11のテープの周囲はゲル軟膏のはみだしは観察されなかった。ポリウレタンフォームの塗布薬流れ防止効果が確認できた。
【0034】
実施例12
サンドブラスト法によりステンレス平面を最大高さ100μmとした金属凹型金型上に、厚さ50μmの高密度ポリエチレンシートを乗せ、150℃に加熱してプレス成型により微小凹凸シートを成型し、10mm×20mmに裁断して、微小凹凸パッチを製造した。凹凸の最大高さ(Rz)は90μmであった。本微小凹凸パッチを、市販の絆創膏を16×26mmに裁断したテープ上に接着して用いた。歯科用局所麻酔剤「ネオザロカインパスタ」(1gパスタ中にアミノ安息香酸エチル250mg、パラブチルアミノ安息香酸ジエチルアミノエチル塩酸塩50mgを含む)の0.15gを微小凹凸の全面に広げて載せた。その状態で、薬剤を載せた微小凹凸パッチをボランティア3名の上顎部に適用し、基板(微小凹凸の背面)を押してパスタ及び微小凹凸パッチを皮膚に密着させた。皮膚適用後5分にテープを剥がして薬物適用部を軽く爪楊枝で押さえ、痛みの有無を自己評価した。3名において、すべて痛みを感じなかった。
【符号の説明】
【0035】
1 微小突起
2 粘着テープ(フィルム)
3 粘着テープ(フォーム)

図1
図2