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特開2024-39016陽イオン交換膜を含む二酸化炭素還元用MEA、前記MEAを含む二酸化炭素還元用アセンブリ、及び前記MEAの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039016
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】陽イオン交換膜を含む二酸化炭素還元用MEA、前記MEAを含む二酸化炭素還元用アセンブリ、及び前記MEAの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/032 20210101AFI20240313BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20240313BHJP
   C25B 11/091 20210101ALI20240313BHJP
   C25B 1/23 20210101ALI20240313BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240313BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20240313BHJP
【FI】
C25B11/032
C25B11/052
C25B11/091
C25B1/23
C25B9/00 Z
C25B9/23
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023146112
(22)【出願日】2023-09-08
(31)【優先権主張番号】10-2022-0114093
(32)【優先日】2022-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】304039548
【氏名又は名称】コリア・インスティテュート・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】オ,ヒョン-ソク
(72)【発明者】
【氏名】リ,ウン-ヒ
(72)【発明者】
【氏名】リ,ウン
(72)【発明者】
【氏名】コ,ジェ-ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】リ,ドン-キ
(72)【発明者】
【氏名】ウォン,ダ-ヘ
(72)【発明者】
【氏名】ミン,ビョン-クォン
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA11
4K011AA29
4K011AA68
4K011AA69
4K011BA06
4K011DA11
4K021AB25
4K021DB16
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC15
(57)【要約】      (修正有)
【課題】陽イオン交換膜を分離膜として用いる場合に発生する問題である触媒反応中カソード側の反応に不利な酸性環境をアルカリ環境に変えることができるだけでなく、副反応であるHER(Hydrogen Evolution Reaction)を低減できる新規なMEA(Membrane Electrode Assembly)、前記MEAの製造方法、前記MEAを適用した二酸化炭素還元用アセンブリを提供する。
【解決手段】気体拡散層及び触媒層を含むカソード層と、陽イオン交換膜(CEM)と、酸化触媒を含むアノード層と、を含むCO還元用MEAにおいて、前記カソード層の触媒層は、還元触媒、炭素系混合剤、陰イオン交換アイオノマー、及び陽イオンを含む、CO還元用MEAとする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体拡散層及び触媒層を含むカソード層と、陽イオン交換膜(CEM)と、酸化触媒を含むアノード層と、を含むCO還元用MEAにおいて、
前記カソード層の触媒層は、還元触媒、炭素系混合剤、陰イオン交換アイオノマー、及び陽イオンを含む、CO還元用MEA。
【請求項2】
前記還元触媒は、Ag、Au、Zn、Cu、及びInの中から選択されるいずれか1つ以上である、請求項1に記載のCO還元用MEA。
【請求項3】
前記還元触媒は、0.5mg/cm~3mg/cmである、請求項1に記載のCO還元用MEA。
【請求項4】
前記炭素系混合剤は、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンナノファイバー、及び黒鉛化カーボンブラックのうちいずれか1つ以上である、請求項1に記載のCO還元用MEA。
【請求項5】
前記炭素系混合剤は、還元触媒100重量部を基準にして20~500重量部が含まれた、請求項1に記載のCO還元用MEA。
【請求項6】
前記陰イオン交換アイオノマーは、還元触媒100重量部を基準にして50~300重量部が含まれた、請求項1に記載のCO還元用MEA。
【請求項7】
前記陽イオンは、Na、K、Cs、及びTMA(Tetramethylammonium)の陽イオンのうちいずれか1つ以上である、請求項1に記載のCO還元用MEA。
【請求項8】
前記陽イオンは、還元触媒100重量部に対して0.01~5重量部が含まれた、請求項1に記載のCO還元用MEA。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のMEAを適用した、CO還元用アセンブリ。
【請求項10】
気体拡散層を準備するステップと、
還元触媒、陰イオン交換アイオノマー、及び炭素系混合剤の溶液を前記気体拡散層にコーティングするステップと、
前記ステップで還元触媒、陰イオン交換アイオノマー、及び炭素系混合剤がコーティングされた気体拡散層を陽イオン溶液に含浸することにより、陽イオンが含浸されたカソード層を製造するステップと、
陽イオン交換膜及びアノード層を前記カソード層に積層するステップと、を含む、CO還元用MEAの製造方法。
【請求項11】
前記炭素系混合剤は、還元触媒100重量部を基準にして20~500重量部が含まれた、請求項10に記載のCO還元用MEAの製造方法。
【請求項12】
前記陰イオン交換アイオノマーは、還元触媒100重量部を基準にして50~300重量部が含まれた、請求項10に記載のCO還元用MEAの製造方法。
【請求項13】
気体拡散層を準備するステップと、
還元触媒、陰イオン交換アイオノマー、陽イオン、及び炭素系混合剤の混合溶液を前記気体拡散層にコーティングすることにより、カソード層を製造するステップと、
陽イオン交換膜及びアノード層を前記カソード層に積層するステップと、を含む、CO還元用MEAの製造方法。
【請求項14】
前記炭素系混合剤は、還元触媒100重量部を基準にして20~500重量部が含まれた、請求項13に記載のCO還元用MEAの製造方法。
【請求項15】
前記陰イオン交換アイオノマーは、還元触媒100重量部を基準にして50~300重量部が含まれた、請求項13に記載のCO還元用MEAの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽イオン交換膜を含むMEA(Membrane Electrod Assembly)、前記MEAの製造方法、及び前記MEAを含む二酸化炭素還元用アセンブリに関し、特に、カソード触媒層の改善により、陽イオン交換膜の使用時に発生する問題点を解決することができる新規なMEAに関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の使用が増加するにつれて増えている二酸化炭素によって地球温暖化が加速しており、このような問題を解決するための研究が続けられている。
【0003】
電気化学的CO還元反応(COReduction Reaction、「CORR」とする。)は、二酸化炭素を低減し、一酸化炭素、エチレンなどの高付加価値化合物に転換する方法として注目されている。陽イオン及び/又は陰イオン交換膜を用いたCORR技術は、電極間の小さな抵抗及び高い拡張性のために注目されている。
【0004】
図1は、陰イオン交換膜(AEM、Anion Exchange Membrane、左図)と陽イオン交換膜(CEM、Cation Exchange Membrane、右図)を適用したCORRの反応の相違点を説明する概略図である。
【0005】
過去数十年間、陰イオン交換膜を用いたCORRの電極アセンブリの開発にかなりの進展があり、陰イオン交換膜を用いた電極アセンブリは、高い選択性と電流密度でCOを一酸化炭素、エチレンなどの有用な物質に転換するためのアセンブリとして知られている。しかしながら、陰イオン交換膜を用いたCORR過程で発生するHCO 、CO 2-などの陰イオンと液状生成物は、陰イオン交換膜を介してクロスオーバー(cross-over)し、COの転換率の限界があるだけでなく、陰イオン交換膜は、機械的及び化学的安定性が低くて産業化の可能性が少ないという問題点がある。又、陰イオン交換膜を適用したCORRの電極アセンブリでは、COのクロスオーバーにより、アノード側にCOの捕集及び再使用を含む追加工程が必要であるという欠点がある。
【0006】
近年、陰イオン交換膜(AEM)の限界性を克服するために、Nafion(登録商標)などの陽イオン交換膜(CEM)を用いた電極アセンブリ(MEA)が好まれている。陽イオン交換膜は、高い安定性とプロトン伝導性により電気化学分野で広く使用されている膜であるが、CO還元のためには、カソード側は、還元反応中アルカリ状態の維持が有利であるが、陽イオン交換膜の高いプロトン伝導度は、カソード側に酸性反応環境を誘導してCORRの選択性(selectivity)を低下させながら、水素発生反応(HER、Hydrogen Evolution Reaction)を促進するという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許登録第3665316号公報
【特許文献2】日本特開第2021-147677号公報
【特許文献3】日本特開第2022-076331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、陽イオン交換膜を含む新規なMEA(Membrane Electrode Assembly)を提供することを目的とする。
【0009】
特に、本発明は、陽イオン交換膜を含む二酸化炭素還元用MEAにおいて、従来陽イオン交換膜の使用時の問題点である還元反応中カソード側が酸性環境によりCOの転換率(conversion rate)が低くなり、カソード側で副反応である水素発生反応が起こるという問題を解決できる技術を提供することを目的とする。
【0010】
又、本発明は、前記MEAを適用した二酸化炭素還元用アセンブリを提供することを目的とする。
【0011】
又、本発明は、前記MEAを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、気体拡散層及び触媒層を含むカソード層と、陽イオン交換膜(CEM)と、酸化触媒を含むアノード層と、を含むCO還元用MEAにおいて、前記カソード層の触媒層は、還元触媒、炭素系混合剤、陰イオン交換アイオノマー、及び陽イオンを含む、CO還元用MEAを提供する。
【0013】
特に、前記還元触媒は、例えば、Ag、Au、Zn、Cu、及びInの中から選択されるいずれか1つ以上である。
【0014】
特に、前記還元触媒は、0.5mg/cm~3mg/cmで気体拡散層に塗布することができる。
【0015】
特に、前記炭素系混合剤は、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンナノファイバー、及び黒鉛化カーボンブラックのうちいずれか1つ以上である。
【0016】
特に、前記炭素系混合剤は、還元触媒100重量部を基準にして20~500重量部を含むことができる。
【0017】
特に、前記陰イオン交換アイオノマーは、還元触媒100重量部を基準にして50~300重量部を含むことができる。
【0018】
特に、前記陽イオンは、例えば、Na、K、Cs、及びTMA(Tetramethylammonium)の陽イオンのうちいずれか1つ以上である。
【0019】
特に、前記陽イオンは、還元触媒100重量部に対して0.01~5重量部を含むことができる。
【0020】
特に、前記還元触媒の粒子のサイズは、例えば、10nm以下のナノ粒子形態、前記ナノ粒子が凝集した二次粒子形態、平均粒径0.01~2μmの単一粒子形態、又はこれらが混合された形態である。
【0021】
又、本発明は、前記MEAを適用したCO還元用アセンブリを提供する。
【0022】
又、本発明は、前記CO還元用MEAの製造方法において、気体拡散層を準備するステップと、還元触媒、陰イオン交換アイオノマー及び炭素系混合剤の溶液を前記気体拡散層にコーティングするステップと、前記ステップで還元触媒、陰イオン交換アイオノマー及び炭素系混合剤がコーティングされた気体拡散層を陽イオン溶液に含浸することにより、陽イオンを含浸してカソード層を製造するステップと、陽イオン交換膜及びアノード層を前記カソード層に積層するステップと、を含む、CO還元用MEAの製造方法を提供する。
【0023】
又、本発明は、前記CO還元用MEAの製造方法において、気体拡散層を準備するステップと、還元触媒、陰イオン交換アイオノマー、陽イオン、及び炭素系混合剤の混合溶液を前記気体拡散層にコーティングするステップと、陽イオン交換膜及びアノード層を前記カソード層に積層するステップと、を含む、CO還元用MEAの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る陽イオンイオン交換膜を用いたMEAは、高い電流密度及び選択性を有することにより、二酸化炭素還元反応(CORR)システムに効果的に活用することができる。
【0025】
特に、本発明の実験結果、陰イオン交換アイオノマー及び炭素系混合剤の量が増加するほどpHが高くなるアルカリ環境となり、二酸化炭素還元反応が効率的に起こることが分かった。
【0026】
特に、本発明の実験結果、触媒層に陽イオンを含浸する実施例が陽イオンを含まない比較例に比べて高いCO選択性を示すことにより、陽イオンの含浸がCO選択性を高めるのに非常に重要であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】陰イオン交換膜(AEM、Anion Exchange Membrane)と陽イオン交換膜(CEM、Cation Exchange Membrane)を適用したCORRの反応の差異点を説明するための概略図である。
図2a図2aは、比較例1(Ag electrode(i5%))に対する触媒反応後の走査電子顕微鏡(SEM)の写真及びエネルギー分散分光法(EDS)を用いた分析結果である。
図2b図2bは、比較例2(Ag electrode(i50%))に対する触媒反応後の走査電子顕微鏡(SEM)の写真及びエネルギー分散分光法(EDS)を用いた分析結果である。
図2c図2cは、実施例1で金属ナノ粒子触媒の重量に対して陰イオン交換アイオノマーの含有量が20wt%であるサンプル(Ag/C electrode(i20%))に対する触媒反応後の走査電子顕微鏡(SEM)の写真及びエネルギー分散分光法(EDS)を用いた分析結果である。
図2d図2dは、実施例1で金属ナノ粒子触媒の重量に対して陰イオン交換アイオノマーの含有量が200wt%であるサンプル(Ag/C electrode(i200%))に対する触媒反応後の走査電子顕微鏡(SEM)の写真及びエネルギー分散分光法(EDS)を用いた分析結果である。
図3a図3aは、比較例1(左)及び比較例2(右)のサンプルに対するpHの測定結果である。
図3b図3bは、比較例2(左)及び実施例1(右)に対するサンプルのpHの測定結果である。
図4a図4aは、実施例1でAg:炭素=1:1の重量比に固定したサンプルにおいて陰イオン交換アイオノマー量の増加によるCO選択性の実験結果である。
図4b図4bは、比較例1(Agブラック)及び実施例1の2つのサンプルに対するCO選択性の実験結果である。
図5】実施例1のサンプルであって、陰イオン交換アイオノマーの含有量の差異によるCO選択性の実験結果である。
図6】陽イオンが含浸されない比較例3のサンプルのCO選択性の実験結果である。
図7a】実施例2で製造した触媒電極を、二酸化炭素転換装置を用いて、電解質に応じた一酸化炭素の選択性及びセル電圧を示したグラフであり、図7a(CO選択性)では、電解質として0.5 M KHCOと0.5M CsHCOを陽極に流した。
図7b】実施例2で製造した触媒電極を、二酸化炭素転換装置を用いて、電解質に応じた一酸化炭素の選択性及びセル電圧を示したグラフであり、図7b(セル電圧)では、電解質として0.5 M KHCOと0.5M CsHCOを陽極に流した。
図7c】実施例2で製造した触媒電極を、二酸化炭素転換装置を用いて、電解質に応じた一酸化炭素の選択性及びセル電圧を示したグラフであり、図7c(CO選択性)では、電解質として0.5 M KHCOと0.05テトラメチルアンモニウム(TMA)HCOを陽極に流した。
図7d】実施例2で製造した触媒電極を、二酸化炭素転換装置を用いて、電解質に応じた一酸化炭素の選択性及びセル電圧を示したグラフであり、図7d(セル電圧)では、電解質として0.5 M KHCOと0.05テトラメチルアンモニウム(TMA)HCOを陽極に流した。
図8】実施例1の電極触媒と陽イオン交換膜を含むMEAの触媒の耐久性の実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、気体拡散層(GDL)及び触媒層を含むカソード層と、陽イオン交換膜(CEM)と、酸化触媒を含むアノード層と、を含むCO還元用MEAにおいて、前記カソード層の触媒層は、還元触媒、炭素系混合剤、陰イオン交換アイオノマー、及び陽イオンを含む、CO還元用MEAを提供する。
【0029】
前記MEAは、カソード側の二酸化炭素供給部とアノード側の水供給部と結合して二酸化炭素還元用アセンブリを構成することができる。
【0030】
本発明のMEAを適用した二酸化炭素還元装置は、陽極(anode)側には、水電解を介して酸素生成反応を行い、陰極(cathode)側には、加湿された二酸化炭素ガスを流して二酸化炭素還元反応により、一酸化炭素を生成することができる。前記二酸化炭素還元装置は、陽イオン交換膜を用いるための二酸化炭素還元用電極触媒を適用することにより、高い選択性を有することができる。前記二酸化炭素還元装置において、陽極としては、イリジウム酸化物のような酸素発生反応に有利な触媒を金属網に塗布して用いる。両電極の間には、陽イオン交換膜を用いて陰極と陽極で生成される生成物が混ざることを遮断する電解質膜を形成する。
【0031】
二酸化炭素の還元のためのアノード層、カソード層及び膜の集合体であるMEA(Membrane Electrode Assembly)は、従来公知の技術であるので、各構成については具体的な説明を省略する。
【0032】
本発明では、陽イオン交換膜を用いるが、陽イオン交換膜を用いた時の問題点である反応中のカソード側の酸性化により発生する問題点を解決するために、カソード層の改良に関する技術を公開する。前記カソード層は、気体拡散層(GDL、Gas Diffusion Layer)と触媒層を含むという点は従来技術と同じである。本発明では、前記触媒層に還元触媒の他に、炭素系混合物、陰イオン交換アイオノマー、及び陽イオンをさらに含む。
【0033】
還元触媒
還元触媒は、通常、金属ナノ粒子を用いるが、金属ナノ粒子は、二酸化炭素を還元できる触媒活性を有するものであり、例えば、金(Au)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、インジウム(In)、及びこれらの合金から選択される1つ以上を含むことができるが、これに限定されるものではない。例えば、前記金属ナノ粒子は、銀ナノ粒子である。銀(Ag)は、高い選択性と電流密度で二酸化炭素を還元して一酸化炭素を生成することができる。前記金属ナノ粒子の含有量は、気体拡散層の単位面積当たり0.5mg/cm~3mg/cmの範囲で塗布することができる。前記金属ナノ粒子は、約10nm以下、例えば、1~10nmの非常に小さいナノ粒子形態で分布していてもよく、又はこれらのナノ粒子が凝集した二次粒子形態であってもよく、又は0.01~2μmの平均粒径を有する単一粒子形態であってもよく、又はこれらが混合された形態であってもよい。例えば、金属粒子は、数ナノメートル以下の小さな粒子が炭素系混合剤の表面に存在すると共に、ナノ粒子が凝集した二次粒子形態が混合されていてもよい。凝集した二次粒子の平均粒径は、例えば、0.05~1.5μm、具体的には、例えば0.1~1μmの範囲である。前記金属ナノ粒子の形態は、これらに限定されず、いかなる形態であってもよい。
【0034】
炭素系混合剤
前記炭素系混合剤は、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンナノファイバー、及び黒鉛化カーボンブラックの中から選択される少なくとも1つを含むことができる。特に、炭素系混合剤として電流密度の向上のためにカーボンブラックを用いることができる。本発明において、炭素系混合剤は、電極触媒層の厚さを増加して電極のpHを増加させ、二酸化炭素の還元効率を増加させることができる。本発明において、炭素系混合剤の含有量は、還元触媒である金属ナノ粒子100重量部を基準にして20~500重量部の範囲で用いることができる。前記範囲で金属ナノ粒子と混合されている炭素系混合剤は、金属ナノ粒子層の厚さを効果的に増加させて高いpHを維持し、高いCORRの選択性を示すことができる。
【0035】
本発明において、炭素系混合剤は、ナノ粒子還元触媒と共に溶媒に混合した後、気体拡散層上にコーティングして形成することができる。
【0036】
陰イオン交換アイオノマー
前記陰イオン交換アイオノマーは、金属粒子の周囲を包みながら、金属粒子の表面を覆っていてもよい。前記陰イオン交換アイオノマーの含有量は、例えば、金属ナノ粒子100重量部を基準にして50~300重量部の範囲である。前記範囲で金属ナノ粒子と混合されている陰イオン交換アイオノマーは、金属ナノ粒子の表面を効果的に包みながら、水素イオン(H)の伝達を抑制して高いCORRの選択性を示すことができる。
【0037】
陰イオン交換アイオノマーの例として、Dioxide社製のXA-9、XC-1、XC-2陰イオンアイオノマー、Fumatech社製のFAA-3陰イオンアイオノマー、PiperiON陰イオンアイオノマー、4級アンモニウム系高分子(quaternary ammonium based polymer)、イミダゾール系高分子(imidazolium based polymer)などがある。
【0038】
陽イオン
本発明で、還元触媒に陽イオンをさらに含浸するが、様々な陽イオンが使用可能であり、例えば、Na、K、Cs、TMA(Tetramethylammonium)などが使用可能である。本発明において、陽イオンは、例えば、金属ナノ粒子100重量部を基準にして0.01~5重量部の範囲である。前記陽イオンは、含浸法によって還元触媒層に含まれてもよいが、還元触媒と混合された溶液を気体拡散層に塗布することにより、陽イオンを還元触媒層に含ませることができる。
【0039】
本発明では、前記炭素系混合剤と陰イオン交換アイオノマーが金属ナノ粒子触媒の表面にコーティングされており、触媒表面の厚さを増加させ、水素イオン(H)の伝達を抑制し、陽イオンは含浸しており、電極触媒の表面のpHを高く維持し、表面処理がされない金属ナノ粒子のみからなる電極触媒よりも水素発生量を抑制し、CORRの電流密度を向上させることができるようにした。前記陽イオン交換膜を用いた二酸化炭素還元用電極触媒は、高いCORRの選択性を有することにより、二酸化炭素還元反応システムに効果的に適用することができる。
【0040】
以下の実施例及び比較例により例示的な具現例をさらに詳細に説明するが、これらの実施例及び比較例は、本発明の技術的思想を例示するためのものであり、これらにより本発明の範囲が限定されることはない。
【0041】
実施例1
実施例1は、先ず、触媒、炭素系混合剤、及び陰イオン交換アイオノマーを混合して気体拡散層にコーティングした後、最後に陽イオンをコーティングしたサンプルであり、実施例1では、炭素系混合剤及び陰イオン交換アイオノマーの含有量を多様にして複数のサンプルを製造した。
【0042】
実施例1では、陽イオン交換膜としてNafionを用いたMEAを製造した。ここで、還元触媒として銀ナノ粒子30mg、炭素系混合剤としてカーボンブラック30~90mg、陰イオン交換アイオノマー(AEI、Dioxide社製のXA-9、以下、実験同一)6~60mgをエタノール2mlに溶解させて約20分間超音波処理してよく分散した溶液を製造した。すなわち、前記溶液は、還元触媒、炭素系混合剤、及び陰イオン交換アイオノマーを含む混合溶液である。
【0043】
前記混合溶液をMPL層のある気体拡散層(GDL、Fuelcellstore、Sigracet39BC)上にcm当たり1mgとなるように塗布した後、GDLを70℃に加熱して前記塗布された混合溶液が速やかに乾燥するようにして触媒層を製造した。
【0044】
前記触媒層に陽イオンKを含浸させるために、当該電極を1 M KOH溶液に2時間浸漬した後、再び取り出した。
【0045】
実施例2
実施例1とは異なり、実施例2では、先ず、還元触媒、陽イオン、炭素系混合剤の混合粒子を製造した後、前記粒子と陰イオン交換アイオノマーを混合して気体拡散層に塗布して製造した。
【0046】
陽イオンが含浸された銀ナノ粒子を生成するために、Ag nitrate170mg、水100ml、カーボンブラック100mgを混ぜた後、KOH 0.1 M溶液20mlを入れてから1時間後に濾過してKが含浸されたAg-K/C粒子を製造した。
【0047】
前記陽イオン及びカーボンブラックが含浸された銀ナノ粒子60mgと陰イオン交換アイオノマー(AEI)60mgをエタノール2mlに溶解させて約20分間超音波処理してよく分散した溶液を製造した。前記溶液をMPL(MicroPorousLayer)層のある気体拡散層(GDL、Fuelcellstore、Sigracet39BC)上にcm当たり1mgとなるように塗布した後、前記GDLを70℃に加熱して溶液が速やかに乾燥するようにして触媒電極を製造した。
【0048】
陽イオンは、粒子の製造時に含浸したが、陽イオンの濃度を増加させるために、さらに陽イオンの含浸を行い、当該電極を1 M KOH溶液に2時間浸漬した後、再び取り出した。
【0049】
比較例1
比較例1は、実施例とは異なり、炭素系混合剤を含まないサンプルである。
【0050】
電極触媒として銀ナノ粒子(平均粒径20~40nm)を用いた。銀ナノ粒子30mgをエタノール2ml中で銀ナノ粒子の重量に対して5wt%のAEIと共に超音波処理してよく分散した溶液を製造した。実施例1と同様に、前記溶液をGDL上にcm当たり1mgとなるように塗布した後、GDLを70℃に加熱して溶液が速やかに乾燥するようにして触媒電極を製造した。陽イオンを含浸させるために、当該電極を1 M KOH溶液に2時間浸漬した後、再び取り出した。
【0051】
比較例2
比較例2は、比較例1に比べて陰イオン交換アイオノマーの含有量が高いサンプルである。
【0052】
電極触媒として陰イオン交換アイオノマーを混合した銀ナノ粒子(Agi)を用いた。銀ナノ粒子30mg及び陰イオン交換アイオノマー15mgを混合した触媒をエタノール2ml中で超音波処理してよく分散した溶液を製造した。実施例1と同様に、前記溶液をGDL上にcm当たり1mgとなるように塗布した後、GDLを90℃に加熱して溶液が速やかに乾燥するようにして触媒電極を製造した。陽イオンを含浸させるために、当該電極を1 M KOH溶液に2時間浸漬した後、再び取り出した。
【0053】
比較例3
比較例3は、炭素系混合剤及び陽イオンを含まず、陰イオン交換アイオノマー及び還元触媒のみを含むサンプルである。
【0054】
電極触媒として銀ナノ粒子(平均粒径20~40nm)を用いた。銀ナノ粒子30mgをエタノール2ml中で銀ナノ粒子重量に対して5wt%のAEIと共に超音波処理してよく分散した溶液を製造した。実施例1と同様に、前記溶液をGDL上にcm当たり1mgとなるように塗布した後、GDLを70℃に加熱して溶液が速やかに乾燥するようにして触媒電極を製造した。
【0055】
実験例1:電極Kの含浸量及び電極の厚みの評価
図2aは、比較例1(Ag electrode(i5%))、図2bは、比較例2(Ag electrode(i50%))、図2cは、実施例1で金属ナノ粒子触媒の重量に対して陰イオン交換アイオノマーの含有量が20wt%であるサンプル(Ag/C electrode(i20%))、図2dは、実施例1で金属ナノ粒子触媒の重量に対する陰イオン交換アイオノマーの含有量が200wt%であるサンプル(Ag/C electrode(i200%))に対する触媒反応後の走査電子顕微鏡(SEM)の写真及びエネルギー分散分光法(EDS)を用いた分析結果である。
【0056】
図2a~図2dを参照すると、銀ナノ粒子との割合をみると、陰イオン交換アイオノマー量と炭素量が増加するほど、電極に含浸されるK量と電極の厚さが増加することが確認できる。図2aの比較例1の場合、Kイオンの含浸量が銀触媒に対して0.014である反面、図2dの実施例1の場合、Kイオンの含浸量が銀に対して0.407であって、Kイオンの含浸がうまく行われたことが分かった。
【0057】
実験例2:電極触媒のpHの評価
実施例1及び比較例1、2で製造した電極触媒の反応中pHを測定して分析結果を図3a及び図3bに示す。図3aは、比較例1(左)及び2(右)のサンプルに対するpHの測定結果であり、図3bは、比較例2(左)及び実施例1(右)のサンプルに対するpHの測定結果である。
【0058】
図3aのように、比較例1と比較例2を比較すると、陰イオン交換アイオノマーの量が十分なときに電極のpHが高いことが確認できた。図3bに示すように、実施例1(右図)と比較例2(左図)を比較したとき、炭素系混合剤が電極触媒に存在するとき、電極のpHが高いことが確認できる。
【0059】
実験例3:二酸化炭素の転換性能評価の結果
実施例1及び比較例1、2、3で製造した電極触媒に対する二酸化炭素の転換-一酸化炭素の生成性能を確認するために、陰イオン交換アイオノマーの量による一酸化炭素の選択性、炭素系混合剤の量による一酸化炭素の選択性を図4a及び図4bに示す。このときのシステムは、Nafion212陽イオン交換膜を用い、陽極触媒としては、IrOをGDLに塗布して用いた。電解質は、1 M KHCOを用いて陽極に流し、陰極には二酸化炭素200ccmを流した。
【0060】
図4aは、実施例1においてAg:炭素=1:1の重量比に固定したサンプルに対する陰イオン交換アイオノマー量の増加によるCO選択性の実験結果であって、陰イオン交換アイオノマーの含有量が増加するほどCO選択性、すなわち、二酸化炭素の転換率が増加したことが分かった。
【0061】
図4bは、比較例1(Agブラック)及び実施例1の2つのサンプルに対するCO選択性の実験結果であって、Ag/C(3:1)は、Agに対してCの含有量比が3:1、アイオノマーは、Agに対して50重量%であるサンプルであり、Ag/C(1:1)は、Agに対してCの含有量比は1:1であり、アイオノマーは、Agに対して200重量%であるサンプルに対するCO選択性の実験結果である。図4bの結果のように、Agに対してCの含有量が高いほどCO選択性が増加することが分かった。
【0062】
図4a及び図4bをまとめると、一酸化炭素の選択性は、実施例1のAgCi電極触媒、比較例2のAgi電極触媒、比較例1の銀ナノ粒子電極触媒の順に高いことが確認できる。陰イオンアイオノマーの質量が銀ナノ粒子に対して50%であるとき、一酸化炭素の選択性が最も高く、炭素混合剤の質量は、銀ナノ粒子に対して100%であるとき、一酸化炭素の選択性が最も高いことが確認できた。
【0063】
又、図5は、実施例1のサンプルであって、イオノマーの含有量がAgに対して20重量%であるサンプル、200重量%であるサンプルの二酸化炭素の選択性の実験結果であって、炭素量が同じであっても陰イオンイモノマー量が少ないと一酸化炭素の選択性が低いことが確認できた。
【0064】
図6は、陽イオンが含浸されない比較例3のサンプルの二酸化炭素の選択性の実験結果であって、Kが含浸されていない場合、一酸化炭素の選択性が極端に低いことが分かる。すなわち、陽イオンの含浸と陰イオンアイオノマーの量が非常に重要であることが分かる。
【0065】
実験例4:含浸された陽イオンの種類による性能評価の結果
実施例2で製造した触媒電極を、二酸化炭素転換装置を用いて、電解質に応じた一酸化炭素の選択性及びセル電圧を示したグラフを図7a~図7dに示す。図7a(CO選択性)及び図7b(セル電圧)では、電解質として0.5 M KHCO及び0.5 M CsHCOをそれぞれ陽極に流し、図7c(CO選択性)及び図7d(セル電圧)では、電解質として0.5 M KHCO及び0.05テトラメチルアンモニウム(TMA)HCOをそれぞれ陽極に流した。
【0066】
図7a~図7dを参照すると、含浸された陽イオンが大きくなるほど反応中間体の安定性が高くなり、電極触媒周辺のCO量が増加して一酸化炭素の選択性が増加することが確認できる。一方、電解質の陽イオンが大きくなるほど陽イオン交換膜を介して移動する抵抗が大きくなり、電極の作動電圧が増加することが確認できる。
【0067】
実験例5:電極触媒の耐久性評価の結果
実施例1で製造した触媒電極Ag:C=1:1、Agに対してアイオノマー200重量%であるサンプルに対する二酸化炭素転換装置を用いてクロノポテンショメトリ(Chronopotentiometry)を測定し、一酸化炭素の選択性の測定結果と共に図8に示す。これにより、耐久性の評価を行い、100mA/cmの電流を一定に流すように条件を設定した。陽極触媒としては、IrOが塗布されたGDLを用いた。電解質は、0.6 M CsHCOを用いて陽極に流し、陰極には二酸化炭素200ccmを流した。24時間の間に、電圧は、3.4Vから3.6Vまで0.2V程度上昇し、一酸化炭素の選択性は、初期90%レベルから83%まで徐々に減少した。
図1
図2a
図2b
図2c
図2d
図3a
図3b
図4a
図4b
図5
図6
図7a
図7b
図7c
図7d
図8