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特開2024-39024含フッ素フタル酸誘導体の製造方法及び組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039024
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】含フッ素フタル酸誘導体の製造方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/265 20060101AFI20240313BHJP
   C07D 307/89 20060101ALI20240313BHJP
   C07D 493/04 20060101ALI20240313BHJP
   C07D 493/14 20060101ALI20240313BHJP
   C07C 51/56 20060101ALI20240313BHJP
   C07C 51/573 20060101ALI20240313BHJP
   C07C 63/72 20060101ALI20240313BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240313BHJP
【FI】
C07C51/265
C07D307/89 A
C07D493/04 101A
C07D493/14
C07C51/56
C07C51/573
C07C63/72
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】33
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023201243
(22)【出願日】2023-11-29
(62)【分割の表示】P 2023009107の分割
【原出願日】2023-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2022011241
(32)【優先日】2022-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白井 淳
(72)【発明者】
【氏名】尾形 明俊
(72)【発明者】
【氏名】岸本 誠之
(72)【発明者】
【氏名】井岡 和恵
(72)【発明者】
【氏名】大塚 達也
(72)【発明者】
【氏名】平野 暁久
(57)【要約】
【課題】含フッ素フタル酸誘導体を簡便な工程によって得ることができる含フッ素フタル酸誘導体の製造方法を提供する。
【解決手段】本開示の含フッ素フタル酸誘導体の製造方法は、含フッ素芳香族化合物から含フッ素フタル酸誘導体を製造する方法であって、金属触媒の存在下、酸化促進剤を用いて前記含フッ素芳香族化合物の酸化反応を行う工程を備え、前記含フッ素芳香族化合物は、少なくとも二つのアルキル基が芳香環に結合した化合物であり、前記酸化促進剤は、アルデヒド化合物及びケトン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素芳香族化合物から含フッ素フタル酸誘導体を製造する方法であって、
金属触媒の存在下、酸化促進剤を用いて前記含フッ素芳香族化合物の酸化反応を行う工程を備え、
前記含フッ素芳香族化合物は、下記一般式(1)
【化1】
(式(1)中、R及びRは同一又は異なって含フッ素アルキル基を示し、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11及びR12は同一又は異なって水素又は炭素数1~12のアルキル基を示し、R、R、R、R及びRの少なくとも2つは炭素数1~12のアルキル基であり、R、R、R10、R11及びR12の少なくとも2つは炭素数1~12のアルキル基であり、R及びRは一緒になって-O-結合を形成してもよい)
で表される化合物であり、
前記酸化促進剤は、アルデヒド化合物及びケトン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、含フッ素フタル酸誘導体の製造方法。
【請求項2】
前記含フッ素芳香族化合物は含フッ素キシレン誘導体であって、
前記式(1)中、R、R、R、R及びRの少なくとも2つはメチル基であり、R、R、R10、R11及びR12の少なくとも2つはメチル基である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記式(1)中、R及びRはトリフルオロメチル基であり、
、R、R10及びR11はメチル基であり、
、R、R、R、R及びR12は水素である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記アルデヒド化合物の炭素数が1~10である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記アルデヒド化合物が、パラアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド及びメタアルデヒドからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記アルデヒド化合物が、パラアルデヒドである、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ケトン化合物の炭素数が3~10である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ケトン化合物が、アセトン又はメチルエチルケトンである、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記酸化促進剤は、前記含フッ素芳香族化合物中の酸化させる官能基に対して1当量以上を使用する、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記酸化促進剤は、前記含フッ素キシレン誘導体のキシレン骨格一つに対して2当量以上使用する、請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項11】
前記金属触媒は遷移金属を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記遷移金属は、Mn、Co、Zr、Rh、Pd、Ru、Pt、Ni、Fe、W及びCuからなる群より選ばれる1種以上を含む、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記遷移金属はCoを含む、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記酸化反応は、140℃以下で行われる、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法で得られた含フッ素フタル酸誘導体を無水酢酸の存在下で脱水する工程を備える、含フッ素フタル酸誘導体の無水物の製造方法。
【請求項16】
含フッ素フタル酸誘導体の無水物の精製方法であって、ケトン化合物、エーテル化合物及びニトリル化合物からなる群より選ばれる1種以上の溶媒と、該溶媒の総質量に対して0.05倍以上の無水酢酸とを含む混合溶媒を用いて再結晶する工程を備える、精製方法。
【請求項17】
前記工程では、粗製の含フッ素フタル酸誘導体の無水物を上記混合溶媒に溶解し、得られた溶液から該混合溶媒を不完全に留去した後、芳香族炭化水素を添加して含フッ素フタル酸誘導体の無水物を晶析させ、晶析した結晶を分離する、請求項16に記載の精製方法。
【請求項18】
金属及び含フッ素フタル酸誘導体の無水物を含み、かつ、臭素を含まない、組成物。
【請求項19】
前記金属の合計含有割合が前記含フッ素フタル酸誘導体の無水物に対して0.01~50質量ppmである、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記金属の各種含有割合がそれぞれ前記含フッ素フタル酸誘導体の無水物に対して0.01~50質量ppmである、請求項18に記載の組成物。
【請求項21】
前記金属がNa、K、Ca、Si、Co、Fe、Ni、Cr及びMoからなる群より選ばれる1種以上である、請求項18~20のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項22】
前記金属が遷移金属である、請求項18~20のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項23】
前記遷移金属の合計含有割合が前記含フッ素フタル酸誘導体の無水物に対して0.01~50質量ppmである、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記遷移金属の各種含有割合がそれぞれ前記含フッ素フタル酸誘導体の無水物に対して0.01~50質量ppmである、請求項22に記載の組成物。
【請求項25】
前記遷移金属がCo、Fe、Ni、Cr及びMoからなる群より選ばれる1種以上である、請求項22のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項26】
含フッ素フタル酸誘導体の無水物及び脂肪族カルボン酸を含み、
前記脂肪族カルボン酸の含有割合が、前記無水物及び前記脂肪族カルボン酸の総質量に対して2000質量ppm以下である、組成物。
【請求項27】
含フッ素フタル酸誘導体の無水物及び少なくとも二つのアルキル基が芳香環に結合した含フッ素芳香族化合物を含む、組成物。
【請求項28】
含フッ素フタル酸誘導体の無水物と、アルデヒド化合物及びケトン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種とを含む、組成物。
【請求項29】
含フッ素フタル酸誘導体の無水物と、
下記式(21-1)で表される化合物、下記式(21-2)で表される化合物、下記式(21-3)で表される化合物、下記式(21-4)で表される化合物、下記式(22-1)で表される化合物、下記式(22-2)で表される化合物、下記式(22-3)で表される化合物、下記式(22-4)で表される化合物、下記式(23-1)で表される化合物、下記式(23-2)で表される化合物、下記式(23-3)で表される化合物及び下記式(23-4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、を含む、組成物。
【化2】
【請求項30】
含フッ素フタル酸誘導体の無水物を含み、
前記含フッ素フタル酸誘導体の無水物は見かけ密度が0.4g/mL以上である、組成物。
【請求項31】
含フッ素フタル酸誘導体の無水物を含み、
フッ素イオンの含有割合が含フッ素フタル酸誘導体の無水物の全質量に対し5質量ppm以下である、組成物。
【請求項32】
含フッ素フタル酸誘導体の無水物を含み、
ハーゼン単位色数が150以下である、組成物。
【請求項33】
含フッ素フタル酸誘導体の無水物を含み、
水分の含有割合が含フッ素フタル酸誘導体の無水物の全質量に対し2000質量ppm以下である、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、含フッ素フタル酸誘導体の製造方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素キシレン化合物等の含フッ素芳香族化合物を、酸素(空気)で酸化する工程を経て、フタル酸誘導体等の含フッ素芳香族ポリカルボン酸を製造する方法は、従来から種々知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、臭化水素存在下で特定構造を有する含フッ素芳香族化合物を酸化する方法が開示されている。特許文献2には、含フッ素キシレン化合物を臭素等の存在下、酸素で酸化してテトラカルボン酸化合物を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1-165544号公報
【特許文献2】特開2002-97168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、含フッ素フタル酸誘導体の製造方法を提供することを目的とし、また、特定の化合物等を含む組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の項に記載の構成を包含する。
項1
含フッ素芳香族化合物から含フッ素フタル酸誘導体を製造する方法であって、
金属触媒の存在下、酸化促進剤を用いて前記含フッ素芳香族化合物の酸化反応を行う工程を備え、
前記含フッ素芳香族化合物は、下記一般式(1)
【0007】
【化1】
【0008】
(式(1)中、R及びRは同一又は異なって含フッ素アルキル基を示し、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11及びR12は同一又は異なって水素又は炭素数1~12のアルキル基を示し、R、R、R、R及びRの少なくとも2つは炭素数1~12のアルキル基であり、R、R、R10、R11及びR12の少なくとも2つは炭素数1~12のアルキル基であり、R及びRは一緒になって-O-結
合を形成してもよい)
で表される化合物であり、
前記酸化促進剤は、アルデヒド化合物及びケトン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、含フッ素フタル酸誘導体の製造方法。
項2
前記含フッ素芳香族化合物は含フッ素キシレン誘導体であって、
前記式(1)中、R、R、R、R及びRの少なくとも2つはメチル基であり、R、R、R10、R11及びR12の少なくとも2つはメチル基である、項1に記載の製造方法。
項3
前記式(1)中、R及びRはトリフルオロメチル基であり、
、R、R10及びR11はメチル基であり、
、R、R、R、R及びR12は水素である、項2に記載の製造方法。
項4
前記アルデヒド化合物の炭素数が1~10である、項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
項5
前記アルデヒド化合物が、パラアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド及びメタアルデヒドからなる群より選ばれる少なくとも1種である、項4に記載の製造方法。
項6
前記アルデヒド化合物が、パラアルデヒドである、項5に記載の製造方法。
項7
前記ケトン化合物の炭素数が3~10である、項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
項8
前記ケトン化合物が、アセトン又はメチルエチルケトンである、項7に記載の製造方法。項9
前記酸化促進剤は、前記含フッ素芳香族化合物中の酸化させる官能基に対して1当量以上を使用する、項1~8のいずれか1項に記載の製造方法。
項10
前記酸化促進剤は、前記含フッ素キシレン誘導体のキシレン骨格一つに対して2当量以上使用する、項2又は3に記載の製造方法。
項11
前記金属触媒は遷移金属を含む、項1~10のいずれか1項に記載の製造方法。
項12
前記遷移金属は、Mn、Co、Zr、Rh、Pd、Ru、Pt、Ni、Fe、W及びCuからなる群より選ばれる1種以上を含む、項11に記載の製造方法。
項13
前記遷移金属はCoを含む、項12に記載の製造方法。
項14
前記酸化反応は、140℃以下で行われる、項1~13のいずれか1項に記載の製造方法。
項15
項1~14のいずれか1項に記載の製造方法で得られた含フッ素フタル酸誘導体を無水酢酸の存在下で脱水する工程を備える、含フッ素フタル酸誘導体の無水物の製造方法。
項16
含フッ素フタル酸誘導体の無水物の精製方法であって、ケトン化合物、エーテル化合物及びニトリル化合物からなる群より選ばれる1種以上の溶媒と、該溶媒の総質量に対して0.05倍以上の無水酢酸とを含む混合溶媒を用いて再結晶する工程を備える、精製方法。
項17
前記工程では、粗製の含フッ素フタル酸誘導体の無水物を上記混合溶媒に溶解し、得られた溶液から該混合溶媒を不完全に留去した後、芳香族炭化水素を添加して含フッ素フタル酸誘導体の無水物を晶析させ、晶析した結晶を分離する、項16に記載の精製方法。
項18
金属及び含フッ素フタル酸誘導体の無水物を含み、かつ、臭素を含まない、組成物。
項19
前記金属の合計含有割合が前記含フッ素フタル酸誘導体の無水物に対して0.01~50質量ppmである、項18に記載の組成物。
項20
前記金属の各種含有割合がそれぞれ前記含フッ素フタル酸誘導体の無水物に対して0.01~50質量ppmである、項18に記載の組成物。
項21
前記金属がNa、K、Ca、Si、Co、Fe、Ni、Cr及びMoからなる群より選ばれる1種以上である、項18~20のいずれか1項に記載の組成物。
項22
前記金属が遷移金属である、項18~21のいずれか1項に記載の組成物。
項23
前記遷移金属の合計含有割合が前記含フッ素フタル酸誘導体の無水物に対して0.01~50質量ppmである、項22に記載の組成物。
項24
前記遷移金属の各種含有割合がそれぞれ前記含フッ素フタル酸誘導体の無水物に対して0.01~50質量ppmである、項22に記載の組成物。
項25
前記遷移金属がCo、Fe、Ni、Cr及びMoからなる群より選ばれる1種以上である、項22~24のいずれか1項に記載の組成物。
項26
含フッ素フタル酸誘導体の無水物及び脂肪族カルボン酸を含み、
前記脂肪族カルボン酸の含有割合が、前記無水物及び前記脂肪族カルボン酸の総質量に対して2000質量ppm以下である、組成物。
項27
含フッ素フタル酸誘導体の無水物及び少なくとも二つのアルキル基が芳香環に結合した含フッ素芳香族化合物を含む、組成物。
項28
含フッ素フタル酸誘導体の無水物と、アルデヒド化合物及びケトン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種とを含む、組成物。
項29
含フッ素フタル酸誘導体の無水物と、
下記式(21-1)で表される化合物、下記式(21-2)で表される化合物、下記式(21-3)で表される化合物、下記式(21-4)で表される化合物、下記式(22-1)で表される化合物、下記式(22-2)で表される化合物、下記式(22-3)で表される化合物、下記式(22-4)で表される化合物、下記式(23-1)で表される化合物、下記式(23-2)で表される化合物、下記式(23-3)で表される化合物及び下記式(23-4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、を含む、組成物。
【0009】
【化2】
【0010】
項30
含フッ素フタル酸誘導体の無水物を含み、
前記含フッ素フタル酸誘導体の無水物は見かけ密度が0.4g/mL以上である、組成物。
項31
含フッ素フタル酸誘導体の無水物を含み、
フッ素イオンの含有割合が含フッ素フタル酸誘導体の無水物の全質量に対し5質量ppm以下である、組成物。
項32
含フッ素フタル酸誘導体の無水物を含み、
ハーゼン単位色数が150以下である、組成物。
項33
含フッ素フタル酸誘導体の無水物を含み、
水分の含有割合が含フッ素フタル酸誘導体の無水物の全質量に対し2000質量ppm以下である、組成物。
【発明の効果】
【0011】
本開示の含フッ素フタル酸誘導体の製造方法は、含フッ素フタル酸誘導体を簡便な工程によって得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、含フッ素フタル酸誘導体を簡便に得るべく鋭意研究を重ねた。まず、前述の特許文献1及び2等に開示される方法では、臭素等を使用することから反応器が腐食されやすく、このため特殊な反応器の使用が必要となる問題を突き止めた。また、臭素のようなハロゲンは電子機器への悪影響を及ぼすため、ハロゲン含有量の低減が求められている。特許文献1及び2等に開示される方法では、高い温度領域での反応が必要となるので、多くのエネルギーが必要となり、また、反応で使用する酢酸が燃焼するという問題、及び、生成物が着色する問題もあった。
【0013】
本開示の製造方法では、上記種々の問題の発生を抑制することができ、簡便にハロゲン含有量を低減した目的物たる含フッ素フタル酸誘導体を得ることができる。
【0014】
以下、本開示に含まれる実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0015】
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を夫々最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値又は実施例から一義的に導き出せる値に置き換えてもよい。
【0016】
1.含フッ素フタル酸誘導体の製造方法
本開示の製造方法は、含フッ素芳香族化合物から含フッ素フタル酸誘導体を製造する方法であって、金属触媒の存在下、酸化促進剤を用いて含フッ素芳香族化合物の酸化反応を行う工程を備える。斯かる工程を「工程A」と表記する。
【0017】
工程Aにおいて、含フッ素芳香族化合物は、アルキル基が芳香環に結合した化合物であり、酸化促進剤は、アルデヒド化合物及びケトン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む。
【0018】
(含フッ素芳香族化合物)
含フッ素芳香族化合物は、工程Aで実施される酸化反応の原料である。含フッ素芳香族化合物は、下記一般式(1)で表される化合物である。
【0019】
【化3】
【0020】
式(1)中、R及びRは同一又は異なって含フッ素アルキル基を示し、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11及びR12は同一又は異なって水素又は炭素数1~12のアルキル基を示し、R、R、R、R及びRの少なくとも2つは炭素数1~12のアルキル基であり、R、R、R10、R11及びR12の少なくとも2つは炭素数1~12のアルキル基であり、R及びRは一緒になって-O-結合を形成してもよい。
【0021】
、R、R、R、R、R、R、R10、R11及びR12が炭素数1~12のアルキル基である場合、斯かるアルキル基を「アルキル基R」と斯かるアルキル基を、「アルキル基R」と表記する。アルキル基Rは、工程Aの酸化反応で酸化され得る基である。
【0022】
アルキル基Rは、炭素数1~6であることが好ましく、1~3であることがさらに好ましく、1であることが特に好ましい。より具体的に炭素数1~12のアルキル基(アルキル基R)は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基を挙げることができ、中でもメチル基であることが特に好ましい。アルキル基Rは、置換基を有していてもよいし、置換基を有さずに炭素原子及び水素原子のみで構成されるものであってもよい。また、アルキル基Rは、直鎖状及び分岐鎖状のいずれでもよい。
【0023】
含フッ素芳香族化合物において、アルキル基Rの数は特に限定されない。より具体的には、アルキル基Rは、含フッ素芳香族化合物中の1個の芳香環に少なくとも2個以上結合していることが好ましく、1個の芳香環に2個結合していることが好ましく、この場合、2個のアルキル基Rは互いにオルト位に配置されていることが好ましい。含フッ素芳香族化合物において、複数のアルキル基Rはすべて同一であってもよいし、一部又は全部が異なる種類であってもよい。また、含フッ素芳香族化合物中の複数の芳香環において、アルキル基Rの個数は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0024】
式(1)中、R及びRは一緒になって-O-結合を形成することもできる。つまり、式(1)で表される化合物は、2個のベンゼン環が-O-結合(エーテル結合)によって直接連結された構造を有する場合もある。
【0025】
式(1)において、含フッ素アルキル基とは、前述のフルオロアルキル基である。従って、含フッ素アルキル基としては、炭素数が1~6であるフルオロアルキル基を挙げることができ、炭素数1~3であるフルオロアルキル基が好ましく、炭素数が1であるフルオロアルキル基がさらに好ましい。フルオロアルキル基のフッ素の数は特に限定されず、少なくとも1個以上有していればよく、中でも、パーフルオロアルキル基が好ましく、トリ
フルオロメチル基であることが特に好ましい。
【0026】
含フッ素芳香族化合物は含フッ素キシレン誘導体であることが好ましい。従って、含フッ素芳香族化合物は、式(1)で表される化合物において、R、R、R、R及びRの少なくとも2つはメチル基であり、R、R、R10、R11及びR12の少なくとも2つはメチル基であることが好ましい。
【0027】
これらの中でも、式(1)中、R及びRはトリフルオロメチル基であり、R、R、R10及びR11はメチル基であり、R、R、R、R、R及びR12は水素であることが特に好ましい。この場合、原料の獲得が容易で、酸化反応も進行しやすく、低温であってもより高い収率で目的物を得ることができる。
【0028】
なお、以下では上記の式(1)中、R及びRはトリフルオロメチル基であり、R、R、R10及びR11はメチル基であり、R、R、R、R、R及びR12は水素である化合物を「6FXY」と略記することがある。
【0029】
工程Aにおいて、含フッ素芳香族化合物は、1種単独で使用することができ、あるいは異なる2種以上を使用することもできる。通常、工程Aで原料として使用する含フッ素芳香族化合物は、1種単独である。
【0030】
(酸化促進剤)
酸化促進剤は、前述のように、アルデヒド化合物及びケトン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む。酸化促進剤は、工程Aで行われる酸化反応を促進させる役割を果たす。
【0031】
アルデヒド化合物の種類は特に限定されず、例えば、酸化反応を促進させる作用を有する限りは、公知のアルデヒド化合物を広く採用することができる。アルデヒド化合物の炭素数は、例えば、1~10とすることができ、1~8であることが好ましく、2~6であることがより好ましい。
【0032】
アルデヒド化合物の具体例としては、パラアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド及びメタアルデヒドからなる群より選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0033】
中でも、アルデヒド化合物は、パラアルデヒドであることがより好ましい。この場合、酸化反応を促進させる作用が特に強まり、低温であっても、より高い収率で目的物を得ることができる。
【0034】
ケトン化合物の種類は特に限定されず、例えば、酸化反応を促進させる作用を有する限りは、公知のケトン化合物を広く採用することができる。ケトン化合物の炭素数は、例えば、3~10とすることができ、3~8であることが好ましく、3~6であることがより好ましい。
【0035】
中でもケトン化合物は、アセトン又はメチルエチルケトンであることが好ましい。この場合、酸化反応を促進させる作用が特に強まり、低温であっても、より高い収率で目的物を得ることができる。
【0036】
酸化促進剤は、1種単独で使用することができ、あるいは、2種以上を併用することもできる。また、酸化促進剤は、酸化反応の進行が阻害されない限りは、アルデヒド化合物及びケトン化合物以外の酸化促進剤を含むこともでき、あるいは、酸化促進剤は、アルデ
ヒド化合物及び/又はケトン化合物のみとすることもできる。
【0037】
酸化促進剤は、低温であっても、より高い収率で目的物が得られやすいという点で、酸化促進剤はパラアルデヒドを使用することが特に好ましい。
【0038】
工程Aにおいて、酸化促進剤の使用量は酸化反応の進行が阻害されない限りは特に限定されない。酸化反応がより進行しやすくなるという点で、酸化促進剤は、前記含フッ素芳香族化合物中の酸化させる官能基に対して1当量以上使用することが好ましい。ここでいう含フッ素芳香族化合物中の酸化させる官能基とは、例えば、前記アルキル基Rを挙げることができる。従って、酸化促進剤は、前記含フッ素芳香族化合物中のアルキル基Rに対して1.0当量以上使用することがより好ましく、1.2当量以上使用することがさらに好ましい。酸化促進剤の使用量は、前記含フッ素芳香族化合物中のアルキル基Rに対して20当量以下であることがより好ましく、10当量以下であることがさらに好ましい。
【0039】
前記含フッ素芳香族化合物が前記含フッ素キシレン誘導体(例えば、前記6FXY)である場合)、酸化促進剤は、当該含フッ素キシレン誘導体のキシレン骨格一つに対して2当量以上使用することが好ましい。この場合、酸化反応がより進行しやすくなり、低温であっても、より高い収率で目的物を得ることができる。前記含フッ素芳香族化合物が前記含フッ素キシレン誘導体(例えば、前記6FXYである場合)、酸化促進剤は、含フッ素キシレン誘導体のキシレン骨格一つに対して2.0当量以上使用することがより好ましく、2.4当量以上使用することがさらに好ましい。酸化促進剤の使用量は、含フッ素キシレン誘導体のキシレン骨格一つに対して40当量以下であることがより好ましく、20当量以下であることがさらに好ましい。
【0040】
(金属触媒)
工程Aで使用する金属触媒は、酸化反応において触媒作用を発揮することができる。金属触媒の種類は特に限定されず、例えば、酸化反応で使用される公知の金属触媒を広く採用することができる。
【0041】
中でも、工程Aの酸化反応が進行されやすいという点で、金属触媒は、1種又は2種以上の遷移金属を含むことが好ましい。遷移金属としては、Mn、Co、Zr、Rh、Pd、Ru、Pt、Ni、Fe、W及びCuからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましく、Coであることが特に好ましい。
【0042】
金属触媒は、酸化反応の進行が阻害されない限り、遷移金属以外の金属を含むことができる。あるいは、金属触媒に含まれる金属は遷移金属のみとすることができるが、この場合において、金属触媒に不可避的に含まれる遷移金属以外の金属の含有は許容される。
【0043】
金属触媒の具体例としては、例えば、前記遷移金属の単体を挙げることができ、あるいは、遷移金属を含む酸化物、塩(有機塩又は無機塩)、錯体を挙げることができる。より具体的には、遷移金属の酢酸塩、シュウ酸塩、蟻酸塩、コハク酸塩等が例示される。例えば、金属触媒として、酢酸コバルト、ナフテン酸コバルト、酢酸酸化ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、ナフテン酸ジルコニウムが挙げられる。遷移金属を含む有機塩又は無機塩は水和物であってもよい。
【0044】
工程Aでは金属触媒を1種単独で使用することができ、あるいは、2種以上を併用することもできる。
【0045】
酸化反応で使用する金属触媒の使用量は、酸化反応が進行できる限りは特に限定されず、例えば、酸化反応と同様の使用量とすることができ、また、いわゆる触媒量で金属触媒
を使用することができる。具体的に酸化反応で使用する金属触媒の使用量は、含フッ素芳香族化合物1モルあたり、0.01~1モルであることが好ましく、0.01~0.5モルであることがより好ましく、0.01~0.3モルであることがさらに好ましい。また、酸化反応で後記溶媒を使用する場合、酸化反応における金属触媒の使用量は溶媒1Lあたり、0.6mol以下とすることができ、0.3mol以下であることが好ましく、0.2mol以下であることがより好ましく、0.1mol以下であることがさらに好ましい。また、酸化反応で後記溶媒を使用する場合、酸化反応における金属触媒の使用量は溶媒1Lあたり、0.01mol以上であることが好ましく、0.03mol以上であることがより好ましく、0.05mol以上であることがさらに好ましく、0.07mol以上であることが特に好ましい。
【0046】
(酸化反応)
工程Aで行われる酸化反応では、原料である前記含フッ素芳香族化合物が酸化される。この酸化反応は、金属触媒の存在下、酸化促進剤を用いて酸素が存在する条件下で行われる限り、酸化反応の条件及び方法は特に限定されない。
【0047】
酸化反応では、必要に応じて溶媒を使用することができる。溶媒の種類は特に限定されず、例えば、脂肪族カルボン酸を挙げることができる。脂肪族カルボン酸は、例えば、公知の化合物を広く使用することができ、例えば、中でも脂肪族カルボン酸は、炭素数1~7であることが好ましい。より具体的に、脂肪族カルボン酸として、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸等を挙げることができる。酸化反応が進行しやすく、入手が容易という点で、溶媒は酢酸であることが特に好ましい。
【0048】
酸化反応で溶媒を使用する場合、その使用量は特に限定されない。例えば、含フッ素芳香族化合物100質量部あたりの溶媒の使用量は50~3000質量部とすることが好ましく、50~2000質量部とすることがより好ましく、80~1000質量部とすることがさらに好ましい。
【0049】
酸化反応で溶媒を使用する場合、溶媒は1種単独でもよいし、2種以上を使用することもできる。
【0050】
工程Aの酸化反応では、反応の進行が阻害されない限り、その他の各種添加剤を使用することもできる。
【0051】
酸化反応の温度は特に限定されず、使用する原料の種類等に応じて適宜選択することができる。反応器の腐食が起こりにくい点、使用する溶媒等(特に酢酸)の燃焼が起こりにくい点、及び、生成物の着色が起こりにくいという点で、酸化反応の温度は140℃以下であることが好ましく、130℃以下であることがより好ましく、125℃以下であることがさらに好ましく、120℃以下であることが特に好ましい。酸化反応の温度の下限は、酸化反応が進行する限りは特に限定されない。例えば、酸化反応の温度の下限は、好ましくは70℃、より好ましくは80℃である。
【0052】
酸化反応を行う反応容器は特に限定されず、種々の反応容器を広く使用することができる。前述のように酸化反応において容器の腐食等が起こりにくいことから、ステンレス製等の反応容器を適用することもできる。
【0053】
酸化反応を実施する方法は特に制限されない。例えば、容器に原料である含フッ素芳香族化合物と、金属触媒と、酸化促進剤と、必要に応じて使用される溶媒とを収容し、酸素が存在する条件下で容器内を所定の温度にすることで工程Aの酸化反応を行うことができる。酸化促進剤は分割して容器に加えることができ、例えば、所定の反応温度になる前に
一部を加え、その後、所定の反応温度になってから残りを容器内に添加することで酸化反応を行うこともできる。また、酸化促進剤は、反応に使用する溶媒で希釈して添加することもできる。
【0054】
酸素の反応系への供給方法は特に限定されない。酸化反応では、例えば、反応が行われている雰囲気内(例えば、容器内)に酸素を供給することで反応が進行する。酸化反応で使用する酸素中には、酸素以外の成分が含まれていてもよく、例えば、空気に含まれる各種成分が挙げられ、その他、不活性ガスが酸素中に含まれていてもよい。
【0055】
酸化反応は、加圧下、減圧下及び大気圧下(0MPaG)のいずれの条件で行うこともできる。なお、圧力の単位MPaの後の「G」はゲージ圧であることを意味する。酸化反応を加圧下で行う場合、圧力は0.2~10MPaGであることが好ましく、0.5~5MPaGであることがより好ましく、0.7~3MPaGであることがさらに好ましい。加圧は、例えば、窒素、アルゴン等の不活性ガスを反応器に供給することで行うことができる。
【0056】
酸化反応は連続式及びバッチ式のいずれの方式を採用してもよい。
【0057】
酸化反応の時間は特に限定されず、原料の種類、反応温度等の各種条件に応じて適宜設定することができる。例えば、酸化反応の時間は1~50時間とすることが好ましく、3~40とすることがより好ましく、5~30時間とすることがさらに好ましい。
【0058】
(生成物)
工程Aの酸化反応によって、目的物である含フッ素フタル酸誘導体を含む生成物が生成する。
【0059】
工程Aで得られる含フッ素フタル酸誘導体は、原料として使用する含フッ素芳香族化合物の構造に応じて決定される。特に工程Aでは、含フッ素芳香族化合物の前記アルキル基Rが酸化されてカルボン酸へと酸化される。従って、工程Aの酸化反応により、含フッ素芳香族化合物中の全部又は一部のアルキル基Rがカルボキシ基(-COOH)へと変化する。
【0060】
含フッ素芳香族化合物において、一分子中の複数あるアルキル基Rのうちの一部のアルキル基Rだけが酸化されることもあるので、生成物には、複数種のカルボン酸化合物が含まれ得る。例えば、モノカルボン酸化合物、ジカルボン酸化合物、トリカルボン酸化合物、テトラカルボン酸化合物等が生成物中に混在する。工程Aの酸化反応では、すべてのアルキル基Rが酸化されやすいので、すべてのアルキル基Rが酸化されたカルボン酸化合物が主成分となり得る。
【0061】
例えば、含フッ素芳香族化合物が含フッ素キシレン誘導体である場合は、生成物はテトラカルボン酸化合物が主成分となり、トリカルボン酸化合物、ジカルボン酸化合物等が副生成物として混在することがある。
【0062】
含フッ素芳香族化合物が前述の6FXYである場合、生成物に含まれる含フッ素フタル酸誘導体は、下記式(2)で表されるテトラカルボン酸化合物が主成分となる。この場合においても、トリカルボン酸化合物、ジカルボン酸化合物等が副生成物として混在することがある。
【0063】
【化4】
【0064】
工程Aで得られた生成物は、必要に応じて精製処理等を行うことができる。精製処理の方法は特に限定されず、例えば、公知の精製処理の方法を広く採用することができる。
【0065】
工程Aの酸化反応で得られた生成物に含まれる化合物の種類は、例えば、HPLC分析によって分析することができる。斯かる分析によって、原料の消失、カルボン酸化合物の存在を知ることができる。
【0066】
酸化反応をより低温で行うことができることから、工程Aで得られる生成物は、高温で反応する場合に比べて着色の発生も起こりにくい。従って、工程Aで得られた含フッ素フタル酸誘導体は、種々の用途の使用することができる。
【0067】
以上より、工程Aの酸化反応によって、目的物である含フッ素フタル酸誘導体を簡便な方法、かつ、高い収率で得ることができる。
【0068】
従って、工程Aは、含フッ素芳香族化合物の酸化方法として適した工程であり、工程Aを備えた酸化方法は、含フッ素フタル酸誘導体を得る方法として好適である。
【0069】
2.含フッ素フタル酸誘導体の無水物の製造方法
工程Aで得られる含フッ素フタル酸誘導体を用いて、含フッ素フタル酸誘導体の無水物を製造することができる。
【0070】
本開示の含フッ素フタル酸誘導体の無水物の製造方法は、例えば、工程Aを備える前述の本開示の製造方法で得られた含フッ素フタル酸誘導体を無水酢酸の存在下で脱水する工程を備えることができる。以下、斯かる工程を「工程B」と表記する。工程Bにより、前記無水物を得ることができる。
【0071】
工程Bにおいて、脱水の条件は特に限定されず、例えば、公知の無水酢酸を用いた脱水反応と同様の条件とすることができる。
【0072】
無水酢酸は、例えば、2個のカルボキシル基を脱水して無水化するのに必要な化学量論量以上の使用量とすることができる。脱水反応の温度も特に限定されず、例えば、20~200℃であることが好ましく、20~150℃であることがより好ましく、20~100℃であることがさらに好ましい。脱水反応に時間も特に限定されず、温度に応じて適宜選択することができる。脱水を行った後は、適宜の手段で、目的物を精製、単離等をすることができる。
【0073】
工程Bによって得られる生成物は、目的の含フッ素フタル酸誘導体の無水物を含む。工程Bによって得られる生成物には、含フッ素フタル酸誘導体の無水物の他、副生成物を含むことができる。工程Bで使用する含フッ素フタル酸誘導体が前記式(2)で表される化合物である場合、斯かる副生成物は代表的には、下記式(21-1)で表される化合物、下記式(21-2)で表される化合物、下記式(21-3)で表される化合物、下記式(21-4)で表される化合物、下記式(22-1)で表される化合物、下記式(22-2
)で表される化合物、下記式(22-3)で表される化合物、下記式(22-4)で表される化合物、下記式(23-1)で表される化合物、下記式(23-2)で表される化合物、下記式(23-3)で表される化合物及び下記式(23-4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である。
【0074】
【化5】
【0075】
前記式(21-1)、式(21-2)、式(21-3)、式(21-4)、式(22-1)、式(22-2)、式(22-3)及び式(22-4)で表される化合物は、前述の工程Aにおける酸化反応の進行が不十分な場合に工程Bで生成しやすくなる。
【0076】
従って、工程Bによって、含フッ素フタル酸誘導体の無水物と、前記式(21-1)で表される化合物、前記式(21-2)で表される化合物、前記式(21-3)で表される化合物、前記式(21-4)で表される化合物、前記式(22-1)で表される化合物、前記式(22-2)で表される化合物、前記式(22-3)で表される化合物、前記式(22-4)で表される化合物、前記式(23-1)で表される化合物、前記式(23-2)で表される化合物、前記式(23-3)で表される化合物及び前記式(23-4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む組成物を得ることができる。
【0077】
工程Bで使用する含フッ素フタル酸誘導体が前記式(2)で表される化合物である場合は、前記式(21-1)で表される化合物、前記式(21-2)で表される化合物、前記式(22-1)で表される化合物、前記式(22-2)で表される化合物、前記式(23-1)及び前記式(23-2)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が副生成物として生成しやすい。
【0078】
含フッ素フタル酸誘導体の無水物に対する前記式(21-1)、(21-2)、(21-3)、(21-4)、(22-1)、(22-2)、(22-3)、(22-4)、(23-1)、(23-2)、(23-3)、及び(23-4)で表される化合物の含有割合はそれぞれ、10000質量ppm以下となり得るものであり、好ましくは5000質量ppm以下、より好ましくは1000質量ppm以下、さらに好ましくは500質量ppm以下、特に好ましくは100質量ppm以下である。特に含フッ素フタル酸誘導体の無水物が前記式(2)の無水物(つまり実施例記載の6FDA)である場合に前記式(21-1)、(21-2)、(21-3)、(21-4)、(22-1)、(22-2)、(22-3)、(22-4)、(23-1)、(23-2)、(23-3)、及び(23-4)で表される化合物の含有割合はいずれも上記範囲になりやすい。
【0079】
工程Bで得られる含フッ素フタル酸誘導体の無水物を含む生成物は適宜の方法で精製することができる。例えば、工程Bにおいて無水酢酸を用いた脱水反応によって得られた含フッ素フタル酸誘導体の無水物を再結晶することで精製することができる。含フッ素フタル酸誘導体の無水物の純度をより高めるべく、再結晶で得られた含フッ素フタル酸誘導体の無水物を、さらに無水酢酸を用いた脱水反応に供することもできる。これにより、未反応の含フッ素フタル酸誘導体が無水物に変換させることができ、得られる含フッ素フタル酸誘導体の無水物の純度をさらに高めることができる。
【0080】
工程Bで得られる含フッ素フタル酸誘導体の無水物は、ASTM D1895に準じて測定される見かけ密度が0.4g/mL以上となり得る。これにより、ドラムへのパッキング量が増え、輸送コストを抑えることができる。前記見かけ密度は0.45g/mL以上であることがより好ましく、0.5g/mL以上であることがさらに好ましく、0.55g/mL以上であることが特に好ましい。
【0081】
含フッ素フタル酸誘導体の無水物の見かけ密度は、例えば、再結晶で使用する溶媒の選択により調整可能である。再結晶で使用する溶媒は特に限定されず、例えば、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、ニトリル系溶媒、アミド系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒を挙げることができ、好ましくはケトン系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、ニトリル系溶媒、アミド系溶媒であり、より好ましくは、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、ニトリル系溶媒であり、さらに好ましくはケトン系溶媒、エ
ーテル系溶媒である。
【0082】
工程Bで得られる含フッ素フタル酸誘導体の無水物を含む生成物は、フッ素イオン(F)の含有割合が、例えば、含フッ素フタル酸誘導体の無水物の全質量に対し5質量ppm以下となり得るものであり、好ましくは3質量ppm以下、より好ましくは1質量ppm以下である。従って、工程Bで得られる含フッ素フタル酸誘導体の無水物を含む生成物は、フッ素イオン(F)の含有割合が少ないので、反応時に容器の腐食等を抑制しやすい。フッ素イオン(F)は、市販のフッ素イオンメーターによって測定することができる。
【0083】
工程Bで得られる含フッ素フタル酸誘導体の無水物を含む生成物は、ハーゼン単位色数が150以下となり得るものであり、好ましくは100以下、より好ましくは70以下である。これにより、含フッ素フタル酸誘導体の無水物を、例えば、重合反応等で使用したときに、着色の少ない重合物が得られやすい。ハーゼン単位色数は、JIS K0071-1(化学製品の色試験方法-第1部:ハーゼン単位色数(白金-コバルトスケール))に準拠して測定することができる。
【0084】
工程Bで得られる含フッ素フタル酸誘導体の無水物を含む生成物は、水分の含有割合が含フッ素フタル酸誘導体の無水物の全質量に対し2000質量ppm以下となり得るものであり、好ましくは300質量ppm以下、より好ましくは250質量ppm以下、さらに好ましくは200質量ppm以下、特に好ましくは100質量ppm以下である。これにより、含フッ素フタル酸誘導体の無水物の分解が抑えられて長期保管が可能になり、また、分解物が少ないことから、重合反応の際に分子量を増大させることができる。水分量は、カールフィッシャー電量滴定装置を用いて測定することができる。
【0085】
3.含フッ素フタル酸誘導体の無水物の精製方法
本開示は、含フッ素フタル酸誘導体の無水物の精製方法を包含する。斯かる精製方法は、ケトン化合物、エーテル化合物及びニトリル化合物からなる群より選ばれる1種以上の溶媒と、該溶媒の総質量に対して0.05倍以上の無水酢酸とを含む混合溶媒を用いて再結晶する工程を備える。本開示の精製方法で使用する含フッ素フタル酸誘導体の無水物は、例えば、前述の含フッ素フタル酸誘導体の無水物の製造方法により得ることができる。
【0086】
本開示の精製方法において、前記ケトン化合物の種類は特に限定されず、例えば、公知のケトン化合物を広く使用することができる。ケトン化合物としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、ジエチルケトン等が例示される。
【0087】
本開示の精製方法において、前記エーテル化合物の種類は特に限定されず、例えば、公知のエーテル化合物を広く使用することができる。エーテル化合物としては、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、エチルメチルエーテル、ジベンジルエーテル、テトラヒドロピラン、メチルtert-ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメチルエーテル、ジグリム、
1,2-ジメトキシエタン等が例示される。
【0088】
本開示の精製方法において、前記ニトリル化合物の種類は特に限定されず、例えば、公知のニトリル化合物を広く使用することができる。ニトリル化合物としては、アセトニトリル等が例示される。
【0089】
本開示の精製方法において、前記溶媒の使用量は特に限定されず、例えば、使用した含フッ素フタル酸誘導体の無水物に対する溶媒の使用量を、1倍量~20倍量とすることが
でき、好ましくは3倍量~10倍量、さらに好ましくは4倍量~8倍量とすることができる。
【0090】
具体的に前記工程における再結晶では、前記混合溶媒に含フッ素フタル酸誘導体の無水物を溶解し、必要に応じて活性炭処理をしてから冷却し、析出した結晶を採取して前記無水物を得る。これにより、純度の高い含フッ素フタル酸誘導体の無水物を得ることができる。
【0091】
上記再結晶の一態様においては、前記混合溶媒を加熱等によって留去することもできる。例えば、前述の活性炭処理後、冷却の前に前記混合溶媒を完全又は不完全に留去することができる。
【0092】
前記工程では、粗製の含フッ素フタル酸誘導体の無水物を上記混合溶媒に溶解し、得られた溶液から該混合溶媒を不完全に留去した後、芳香族炭化水素を添加して含フッ素フタル酸誘導体の無水物を晶析させ、晶析した結晶を分離することもできる。これにより、より純度の高い無水物を得ることができる。炭化水素の種類は特に限定されず、例えば、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、ヘプタン、ヘキサン、オクタン、ペンタン、石油エーテル、キシレン等の公知の芳香族炭化水素を広く使用することができる。芳香族炭化水素の使用量は特に限定されず、例えば、使用した含フッ素フタル酸誘導体の無水物に対する芳香族炭化水素の使用量を、0.1倍量~20倍量とすることができ、好ましくは0.3倍量~10倍量、さらに好ましくは0.4倍量~8倍量とすることができる。
【0093】
本開示の精製方法により、高純度の含フッ素フタル酸誘導体無水物を得ることができる。得られた含フッ素フタル酸誘導体無水物は、高純度であるので、機能性材料用の含フッ素フタル酸誘導体無水物として特に適している。
【0094】
本開示の精製方法によれば、後記する組成物A、組成物B、組成物C、組成物D、組成物E、組成物F、組成物G、組成物H及び組成物Iを得ることができる。
【0095】
3.組成物
本開示の組成物は、例えば、下記の組成物A、組成物B、組成物C、組成物D、組成物E、組成物F、組成物G、組成物H及び組成物Iを包含する。
【0096】
組成物Aは、遷移金属及び含フッ素フタル酸誘導体の無水物を含み、かつ、臭素を含まない。
【0097】
組成物Bは、含フッ素フタル酸誘導体の無水物及び脂肪族カルボン酸を含む。当該組成物Bにおいて、前記脂肪族カルボン酸の含有割合は、前記無水物及び前記脂肪族カルボン酸の総質量に対して、2000質量ppm以下ある。
【0098】
組成物Cは、含フッ素フタル酸誘導体の無水物及び少なくとも二つのアルキル基が芳香環に結合した含フッ素芳香族化合物を含む。
【0099】
組成物Dは、含フッ素フタル酸誘導体の無水物と、アルデヒド化合物及びケトン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種とを含む。
【0100】
組成物Eは、含フッ素フタル酸誘導体の無水物と、前記式(21-1)で表される化合物、前記式(21-2)で表される化合物、前記式(22-1)で表される化合物、前記式(22-2)で表される化合物、前記式(23-1)及び前記式(23-2)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む。
【0101】
組成物Fは、含フッ素フタル酸誘導体の無水物を含み、前記含フッ素フタル酸誘導体の無水物は、ASTM D1895に準じて測定される見かけ密度が0.4/mL以上となり得る。
【0102】
組成物Gは、含フッ素フタル酸誘導体の無水物を含み、フッ素イオンの含有割合が含フッ素フタル酸誘導体の無水物の全質量に対し5質量ppm以下であり、好ましくは3質量ppm以下、より好ましくは1質量ppm以下である。
【0103】
組成物Hは、含フッ素フタル酸誘導体の無水物を含み、ハーゼン単位色数が150以下である。
【0104】
組成物Iは、含フッ素フタル酸誘導体の無水物を含み、水分の含有割合が含フッ素フタル酸誘導体の無水物の全質量に対し2000質量ppm以下である。水の含有割合が20000質量ppmを超えると組成物の品質が低下する。
【0105】
組成物A、B、C、D、E、F、G、H及びIは、例えば、前記工程Bによって得ることができる。あるいは、組成物A、B、C、D、E、F、G、H及びIは、前述の含フッ素フタル酸誘導体の無水物の精製方法によって得ることもできる。この場合、不純物が少ない組成物を得ることができる。
【0106】
以下、各組成物に含まれる各成分について詳述する。
【0107】
(金属)
金属としては、例えば、前記酸化反応において触媒作用を発揮することができる各種の金属を挙げることができる。金属としては、具体的には、Mn、Co、Zr、Rh、Pd、Ru、Pt、Ni、Fe、W、Cu、Cr、Mo、Al、Zn、Ti、Si、Li、Mg、P、As、Ca、K及びNaからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましく、Na、K、Ca及びSiからなる群より選ばれる1種以上であることが特に好ましい。
【0108】
(遷移金属)
前記金属は遷移金属であっても良い。遷移金属としては、例えば、前記酸化反応において触媒作用を発揮することができる各種の金属を挙げることができる。遷移金属としては、具体的には、Mn、Co、Zr、Rh、Pd、Ru、Pt、Ni、Fe、W、Cr、Mo、Zn、Ti及びCu等を挙げることができ、Co、Fe、Ni、Cr及びMoからなる群より選ばれる1種以上であることが特に好ましい。
【0109】
金属は単体であってもよく、また、遷移金属も単体であってもよい。あるいは、金属及び遷移金属はいずれも、酸化物、塩(有機塩又は無機塩)、錯体であってもよく、例えば、酢酸塩、シュウ酸塩、蟻酸塩、コハク酸塩等が例示され、例として、酢酸コバルト、ナフテン酸コバルト、酢酸酸化ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、ナフテン酸ジルコニウムが挙げられる。金属又は遷移金属を含む有機塩又は無機塩は水和物であってもよい。
【0110】
(含フッ素フタル酸誘導体の無水物)
含フッ素フタル酸誘導体の無水物において、含フッ素フタル酸誘導体は、例えば、含フッ素芳香族化合物の酸化反応による生成物である。ここでいう酸化反応は、例えば、前記工程Aにおける酸化反応と同様とすることができる。
【0111】
前記含フッ素芳香族化合物は、前述の本開示の製造方法で使用する前記式(1)で表される含フッ素芳香族化合物が挙げられる。式(1)において、含フッ素アルキル基とは、
前述のフルオロアルキル基である。従って、含フッ素アルキル基としては、炭素数が1~6であるフルオロアルキル基を挙げることができ、炭素数1~3であるフルオロアルキル基が好ましく、炭素数が1であるフルオロアルキル基がさらに好ましい。フルオロアルキル基のフッ素の数は特に限定されず、少なくとも1個以上有していればよく、中でも、パーフルオロアルキル基が好ましく、トリフルオロメチル基であること特に好ましい。また、式(1)において、アルキル基の炭素数は1~6であることが好ましく、1~3であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。より具体的に炭素数1~12のアルキル基は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基を挙げることができ、中でもメチル基であることが特に好ましい。
【0112】
含フッ素芳香族化合物は、含フッ素キシレン誘導体であることが好ましい。従って、式(1)で表される化合物において、R、R、R、R及びRの少なくとも2つはメチル基であり、R、R、R10、R11及びR12の少なくとも2つはメチル基であることが好ましく、R及びRはトリフルオロメチル基であり、R、R、R10及びR11はメチル基であり、R、R、R、R、R及びR12は水素であることが特に好ましい。つまり、成分(1)のアルキル基が芳香環に結合した含フッ素芳香族化合物としては、6FXYであることが好ましい。
【0113】
含フッ素フタル酸誘導体の無水物は、含フッ素フタル酸誘導体を無水化することで得ることができる。この無水化の方法は特に限定されず、例えば、公知の方法を採用することができ、これにより、含フッ素フタル酸誘導体の無水物が得られる。
【0114】
含フッ素フタル酸誘導体の無水物は、例えば、前記式(2)で表されるテトラカルボン酸化合物の無水物である6FDAが挙げられる。
【0115】
(脂肪族カルボン酸)
脂肪族カルボン酸は、例えば、炭素数1~7である脂肪族カルボン酸を挙げることができ、より具体的には、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸等を挙げることができ、脂肪族カルボン酸は酢酸であることが特に好ましい。
【0116】
(アルデヒド化合物及びケトン化合物)
アルデヒド化合物は、例えば、炭素数が1~10、好ましくは1~8、さらに好ましくは2~6である。アルデヒド化合物の具体例としては、パラアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド及びメタアルデヒドからなる群より選ばれる少なくとも1種を挙げることができ、中でも、アルデヒド化合物は、パラアルデヒドであることがより好ましい。
【0117】
ケトン化合物は、例えば、炭素数が3~10、好ましくは3~8、さらに好ましくは3~6である。中でもケトン化合物は、アセトン又はメチルエチルケトンであることが好ましい。
【0118】
(組成物A)
組成物Aは、前述のように、金属及び前記含フッ素フタル酸誘導体の無水物(以下、単に「無水物」)を含み、かつ、臭素を含まない、組成物である。斯かる組成部は臭素を含まないので、反応の原料として使用しても反応器への腐食を起こしにくい。組成物Aに含まれる前記無水物は1種単独とすることができ、あるいは、2種以上とすることもできる。
【0119】
組成物Aが臭素を含まないとは、イオンクロマトグラフィーによる測定で組成物を分析した場合に、臭素が検出限界以下の濃度であることを意味する。組成物Aに対して臭素の
検出限界値は5ppmであることができる。イオンクロマトグラフィーは下記の条件で行うことができる。
1.含フッ素フタル酸誘導体の無水物(10g)をジクロロメタン(100mL)に溶解させる。
2.そこへ0.001%亜硫酸カリウム水溶液(5mL)を添加して撹拌する。
3.水層をイオンクロマトグラフィーで分析する。
分析条件は下記の条件とする。
使用カラム 島津製作所製「IC-SA3」
検出器:電気伝導度
【0120】
組成物Aに含まれる金属の種類は特に限定されない。例えば、組成物Aに含まれる金属は、Na、K、Ca、Si、Co、Fe、Ni、Cr及びMoからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。また、組成物Aに含まれる金属は、遷移金属であってもよい。遷移金属としては、例えば、Co、Fe、Ni、Cr及びMoからなる群より選ばれる1種以上を挙げることができる。組成物Aに含まれる金属は、1種単独とすることができ、あるいは、2種以上とすることもでき、2種以上であることが好ましい。
【0121】
組成物Aに含まれる金属の合計含有割合は、例えば、前記含フッ素フタル酸誘導体の無水物に対して0.01~50質量ppmであることが好ましい。組成物Aに含まれる金属の合計含有割合は、前記含フッ素フタル酸誘導体の無水物に対して0.02質量ppm以上とすることがより好ましく、0.1質量ppm以上とすることがさらに好ましく、また、10質量ppm以下とすることがより好ましく、5質量ppm以下とすることがさらに好ましい。また、組成物Aに含まれる金属の各種含有割合はそれぞれ、前記含フッ素フタル酸誘導体の無水物に対して0.01~50質量ppmであることが好ましい。組成物Aに含まれる金属の各種含有割合はそれぞれ、前記含フッ素フタル酸誘導体の無水物に対して0.02質量ppm以上とすることがより好ましく、0.1質量ppm以上とすることがさらに好ましく、また、10質量ppm以下とすることがより好ましく、5質量ppm以下とすることがさらに好ましい。他の一態様においては、組成物Aに含まれる金属の各種含有割合は、0.01質量ppm以上0.1質ppm未満であることができ、0.01質量ppm以上0.05質量ppm未満であることが好ましい。
【0122】
組成物Aに含まれる金属が遷移金属である場合、当該前記遷移金属の合計含有割合は、前記含フッ素フタル酸誘導体の無水物に対して0.01~50質量ppmであることが好ましい。組成物Aに含まれる遷移金属の合計含有割合は、前記含フッ素フタル酸誘導体の無水物に対して0.02質量ppm以上とすることがより好ましく、0.1質量ppm以上とすることがさらに好ましく、また、10質量ppm以下とすることがより好ましく、5質量ppm以下とすることがさらに好ましい。また、組成物Aに含まれる遷移金属の各種含有割合はそれぞれ、前記含フッ素フタル酸誘導体の無水物に対して0.01~50質量ppmであることが好ましい。組成物Aに含まれる遷移金属の各種含有割合はそれぞれ、前記含フッ素フタル酸誘導体の無水物に対して0.02質量ppm以上とすることがより好ましく、0.1質量ppm以上とすることがさらに好ましく、また、10質量ppm以下とすることがより好ましく、5質量ppm以下とすることがさらに好ましい。他の一態様においては、組成物Aに含まれる遷移金属の各種含有割合は、0.01質量ppm以上0.1質ppm未満であることができ、0.01質量ppm以上0.05質量ppm未満であることが好ましい。
【0123】
金属または遷移金属の合計含有量は、ICP-MASS、ICP-AES又はICP-OESを用いて分析することができる。分析の手順は、限定されるものではないが、例えば下記の手順で行うことができる。
1.含フッ素フタル酸誘導体を約10g石英ビーカーに量り取る。
2.電気炉に入れ、試料を灰化する。
3.放冷後、3%硝酸溶液を加え、加熱溶解する。
4.放冷後3%硝酸溶液にて10mLにメス合わせする。
5.ICP-MASS、ICP-AES又はICP-OESを用いて分析する。
検出限界値は、前記含フッ素フタル酸誘導体の無水物に対して0.01質量ppmとすることが好ましく、0.02質量ppmとすることがより好ましく、0.04質量ppmとすることがさらに好ましい。
【0124】
組成物Aは、
(A-1)他の成分をさらに含有する組成物;
(A-2)他の成分が脂肪族カルボン酸を含有する、(A-1)に記載の組成物;
(A-3)他の成分が少なくとも二つのアルキル基が芳香環に結合した含フッ素芳香族化合物を含有する、(A-1)又は(A-2)に記載の組成物;
(A-4)他の成分がアルデヒド化合物及びケトン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、(A-1)~(A-3)のいずれかに記載の組成物;
(A-5)他の成分が前記式(21-1)で表される化合物、前記式(21-2)で表される化合物、前記式(21-3)で表される化合物、前記式(21-4)で表される化合物、前記式(22-1)で表される化合物、前記式(22-2)で表される化合物、前記式(22-3)で表される化合物、前記式(22-4)で表される化合物、前記式(23-1)で表される化合物、前記式(23-2)で表される化合物、前記式(23-3)で表される化合物及び前記式(23-4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する、(A-1)~(A-4)のいずれかに記載の組成物;
(A-6)他の成分が水を含有する、(A-1)~(A-5)のいずれかに記載の組成物;
であることができる。
【0125】
組成物Aにおいて、他の成分として含まれる「脂肪族カルボン酸」、「少なくとも二つのアルキル基が芳香環に結合した含フッ素芳香族化合物」、「アルデヒド化合物及びケトン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種」、「前記式(21-1)で表される化合物、前記式(21-2)で表される化合物、前記式(21-3)で表される化合物、前記式(21-4)で表される化合物、前記式(22-1)で表される化合物、前記式(22-2)で表される化合物、前記式(22-3)で表される化合物、前記式(22-4)で表される化合物、前記式(23-1)で表される化合物、前記式(23-2)で表される化合物、前記式(23-3)で表される化合物及び前記式(23-4)で表される化合物」及び「水」の含有割合はいずれも、組成物B、C、D、E、F、G、H又はIにおける含有割合と同一であることが好ましい。
【0126】
(組成物B)
組成物Bは、前記含フッ素フタル酸誘導体の無水物(以下、単に「無水物」)及び前記脂肪族カルボン酸を含み、前記脂肪族カルボン酸の含有割合が、前記無水物及び前記脂肪族カルボン酸の総質量に対して2000質量ppm以下である。前記脂肪族カルボン酸の含有割合が前記範囲であることで、含フッ素フタル酸誘導体の無水物の分解が抑制される。
前記脂肪族カルボン酸の含有割合は、前記無水物及び前記脂肪族カルボン酸の総質量に対して500質量ppm以下であることが好ましく、100質量ppm以下であることがより好ましく、50質量ppm以下であることがさらに好ましく、30質量ppm以下であることがよりさらに好ましく、10質量ppm以下であることが特に好ましい。前記脂肪族カルボン酸の含有割合は、前記無水物及び前記脂肪族カルボン酸の総質量に対して0.5質量ppm以上であることが好ましく、1.0質量ppm以上であることがより好ましい。
【0127】
組成物Bに含まれる前記無水物は1種単独とすることができ、あるいは、2種以上とすることもできる。また、組成物Bに含まれる前記脂肪族カルボン酸は1種単独とすることができ、あるいは、2種以上とすることもできる。
【0128】
組成物Bは、
(B-1)他の成分をさらに含有する組成物;
(B-2)他の成分が金属又は遷移金属を含有する、(B-1)に記載の組成物;
(B-3)他の成分が少なくとも二つのアルキル基が芳香環に結合した含フッ素芳香族化合物を含有する、(B-1)又は(B-2)に記載の組成物;
(B-4)他の成分がアルデヒド化合物及びケトン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、(B-1)~(B-3)のいずれかに記載の組成物;
(A-5)他の成分が前記式(21-1)で表される化合物、前記式(21-2)で表される化合物、前記式(21-3)で表される化合物、前記式(21-4)で表される化合物、前記式(22-1)で表される化合物、前記式(22-2)で表される化合物、前記式(22-3)で表される化合物、前記式(22-4)で表される化合物、前記式(23-1)で表される化合物、前記式(23-2)で表される化合物、前記式(23-3)で表される化合物及び前記式(23-4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する、(B-1)~(B-4)のいずれかに記載の組成物;
(B-6)他の成分が水を含有する、(B-1)~(B-5)のいずれかに記載の組成物;
であることができる。
【0129】
組成物Bにおいて、他の成分として含まれる「金属又は遷移金属」、「少なくとも二つのアルキル基が芳香環に結合した含フッ素芳香族化合物」、「アルデヒド化合物及びケトン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種」、「前記式(21-1)で表される化合物、前記式(21-2)で表される化合物、前記式(21-3)で表される化合物、前記式(21-4)で表される化合物、前記式(22-1)で表される化合物、前記式(22-2)で表される化合物、前記式(22-3)で表される化合物、前記式(22-4)で表される化合物、前記式(23-1)で表される化合物、前記式(23-2)で表される化合物、前記式(23-3)で表される化合物及び前記式(23-4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物」及び「水」の含有割合はいずれも、組成物A、C、D、E、F、G、H又はIにおける含有割合と同一であることが好ましい。
【0130】
(組成物C)
組成物Cは、前記含フッ素フタル酸誘導体の無水物(以下、単に「無水物」)と、前記含フッ素芳香族化合物(即ち、前記少なくとも二つのアルキル基が芳香環に結合した含フッ素芳香族化合物)を含む。組成物Cにおける含フッ素芳香族化合物は、前記含フッ素フタル酸誘導体を酸化反応で得るために使用され得る含フッ素芳香族化合物と同義である。
【0131】
組成物Cに含まれる前記無水物は1種単独とすることができ、あるいは、2種以上とすることもできる。また、組成物Cに含まれる前記含フッ素芳香族化合物は1種単独とすることができ、あるいは、2種以上とすることもできる。組成物Cに含まれる前記含フッ素芳香族化合物は1種単独とすることができ、あるいは、2種以上とすることもできる。
【0132】
組成物Cにおいて、前記無水物に対する前記含フッ素芳香族化合物の含有割合は、10000質量ppm以下であることが好ましく、5000質量ppm以下であることがより好ましく、1000質量ppm以下であることがさらに好ましく、100質量ppm以下であることが特に好ましい。
【0133】
組成物Cは、
(C-1)他の成分をさらに含有する組成物;
(C-2)他の成分が脂肪族カルボン酸を含有する、(C-1)に記載の組成物;
(C-3)他の成分が金属又は遷移金属を含有する、(C-1)又は(C-2)に記載の組成物;
(C-4)他の成分がアルデヒド化合物及びケトン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、(C-1)~(C-3)のいずれかに記載の組成物;
(C-5)他の成分が前記式(21-1)で表される化合物、前記式(21-2)で表される化合物、前記式(21-3)で表される化合物、前記式(21-4)で表される化合物、前記式(22-1)で表される化合物、前記式(22-2)で表される化合物、前記式(22-3)で表される化合物、前記式(22-4)で表される化合物、前記式(23-1)で表される化合物、前記式(23-2)で表される化合物、前記式(23-3)で表される化合物及び前記式(23-4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する、(C-1)~(C-4)のいずれかに記載の組成物;
(C-6)他の成分が水を含有する、(C-1)~(C-5)のいずれかに記載の組成物;
であることができる。
【0134】
組成物Cにおいて、他の成分として含まれる「脂肪族カルボン酸」、「金属又は遷移金属」、「アルデヒド化合物及びケトン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種」、「前記式(21-1)で表される化合物、前記式(21-2)で表される化合物、前記式(21-3)で表される化合物、前記式(21-4)で表される化合物、前記式(22-1)で表される化合物、前記式(22-2)で表される化合物、前記式(22-3)で表される化合物、前記式(22-4)で表される化合物、前記式(23-1)で表される化合物、前記式(23-2)で表される化合物、前記式(23-3)で表される化合物及び前記式(23-4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物」及び「水」の含有割合はいずれも、組成物A、B、D、E、F、G、H又はIにおける含有割合と同一であることが好ましい。
【0135】
(組成物D)
組成物Dは、前記含フッ素フタル酸誘導体の無水物(以下、単に「無水物」)と、前記アルデヒド化合物及びケトン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
【0136】
組成物Dに含まれる前記無水物は1種単独とすることができ、あるいは、2種以上とすることもできる。また、組成物Dに含まれる前記アルデヒド化合物は1種単独とすることができ、あるいは、2種以上とすることもできる。また、組成物Dに含まれる前記ケトン化合物は1種単独とすることができ、あるいは、2種以上とすることもできる。
【0137】
組成物Dにおいて、前記無水物に対する前記アルデヒド化合物及び前記ケトン化合物の含有割合は、10000質量ppm以下であることが好ましく、5000質量ppm以下であることがより好ましく、1000質量ppm以下であることがさらに好ましく、100質量ppm以下であることが特に好ましい。
【0138】
組成物Dは、
(D-1)他の成分をさらに含有する組成物;
(D-2)他の成分が脂肪族カルボン酸を含有する、(D-1)に記載の組成物;
(D-3)他の成分が少なくとも二つのアルキル基が芳香環に結合した含フッ素芳香族化合物を含有する、(D-1)又は(D-2)に記載の組成物;
(D-4)他の成分が金属又は遷移金属を含有する、(D-1)~(D-3)のいずれか
に記載の組成物;
(D-5)他の成分が前記式(21-1)で表される化合物、前記式(21-2)で表される化合物、前記式(21-3)で表される化合物、前記式(21-4)で表される化合物、前記式(22-1)で表される化合物、前記式(22-2)で表される化合物、前記式(22-3)で表される化合物、前記式(22-4)で表される化合物、前記式(23-1)で表される化合物、前記式(23-2)で表される化合物、前記式(23-3)で表される化合物及び前記式(23-4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する、(D-1)~(D-4)のいずれかに記載の組成物;
(D-6)他の成分が水を含有する、(D-1)~(D-5)のいずれかに記載の組成物;
であることができる。
【0139】
組成物Dにおいて、他の成分として含まれる「脂肪族カルボン酸」、「少なくとも二つのアルキル基が芳香環に結合した含フッ素芳香族化合物」、「金属又は遷移金属」、「前記式(21-1)で表される化合物、前記式(21-2)で表される化合物、前記式(21-3)で表される化合物、前記式(21-4)で表される化合物、前記式(22-1)で表される化合物、前記式(22-2)で表される化合物、前記式(22-3)で表される化合物、前記式(22-4)で表される化合物、前記式(23-1)で表される化合物、前記式(23-2)で表される化合物、前記式(23-3)で表される化合物及び前記式(23-4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物」及び「水」の含有割合はいずれも、組成物A、B、C、E、F、G、H又はIにおける含有割合と同一であることが好ましい。
【0140】
(組成物E)
組成物Eは、含フッ素フタル酸誘導体の無水物と、前記式(21-1)で表される化合物、前記式(21-2)で表される化合物、前記式(21-3)で表される化合物、前記式(21-4)で表される化合物、前記式(22-1)で表される化合物、前記式(22-2)で表される化合物、前記式(22-3)で表される化合物、前記式(22-4)で表される化合物、前記式(23-1)で表される化合物、前記式(23-2)で表される化合物、前記式(23-3)で表される化合物及び前記式(23-4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む。組成物Eにおいて、含フッ素フタル酸誘導体の無水物に対する、前記式(21-1)、(21-2)、(21-3)、(21-4)、(22-1)、(22-2)、(22-3)、(22-4)、(23-1)、(23-2)、(23-3)及び(23-4)で表される化合物の含有割合はそれぞれ、10000質量ppm以下となり得るものであり、好ましくは5000質量ppm以下、より好ましくは1000質量ppm以下、さらに好ましくは500質量ppm以下、特に好ましくは100質量ppm以下である。組成物Eにおいて、含フッ素フタル酸誘導体の無水物に対する、前記式(21-1)、(21-2)、(21-3)、(21-4)、(22-1)、(22-2)、(22-3)、(22-4)、(23-1)、(23-2)、(23-3)及び(23-4)で表される化合物の含有割合はそれぞれ、好ましくは1.0質量ppm以上、より好ましくは5.0質量ppm以上である。
【0141】
組成物Eにおいて、含フッ素フタル酸誘導体の無水物は、ASTM D1895に準じて測定される見かけ密度が0.4g/mL以上となり得る。これにより、ドラムへのパッキング量が増え、輸送コストを抑えることができる。前記見かけ密度は0.45g/mL以上であることがより好ましく、0.5g/mL以上であることがさらに好ましく、0.55g/mL以上であることが特に好ましい。前記見かけ密度は1.5g/mL以下であることが好ましく、1.0g/mL以下であることがより好ましい。
【0142】
組成物Eは、
(E-1)他の成分をさらに含有する組成物;
(E-2)他の成分が脂肪族カルボン酸を含有する、(E-1)に記載の組成物;
(E-3)他の成分が少なくとも二つのアルキル基が芳香環に結合した含フッ素芳香族化合物を含有する、(E-1)又は(E-2)に記載の組成物;
(E-4)他の成分がアルデヒド化合物及びケトン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、(E-1)~(E-3)のいずれかに記載の組成物;
(E-5)他の成分が金属又は遷移金属を含有する、(E-1)~(E-4)のいずれかに記載の組成物;
(E-6)他の成分が水を含有する、(E-1)~(E-5)のいずれかに記載の組成物;
であることができる。
【0143】
組成物Eにおいて、他の成分として含まれる「脂肪族カルボン酸」、「少なくとも二つのアルキル基が芳香環に結合した含フッ素芳香族化合物」、「アルデヒド化合物及びケトン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種」、「金属又は遷移金属」、及び「水」の含有割合はいずれも、組成物A、B、C、D、F、G、H又はIにおける含有割合と同一であることが好ましい。
【0144】
(組成物F)
組成物Fは、含フッ素フタル酸誘導体の無水物を含み、前記含フッ素フタル酸誘導体の無水物は、ASTM D1895に準じて測定される見かけ密度が0.5g/mL以上である。斯かる組成物Fは、見かけ密度の小さい含フッ素フタル酸誘導体の無水物を含むことから、ドラムへのパッキング量が増え、輸送コストを抑えることができる。組成物Fは、前記工程Bによって得ることができる。
【0145】
含フッ素フタル酸誘導体の無水物の見かけ密度は0.4g/mL以上であることが好ましく、0.45g/mL以上であることがより好ましく、0.5g/mL以上であることがさらに好ましく、0.55g/mL以上であることが特に好ましい。含フッ素フタル酸誘導体の無水物の見かけ密度は1.5g/mL以下であることが好ましく、1.0g/mL以下であることがより好ましい。
【0146】
含フッ素フタル酸誘導体の無水物の見かけ密度は、例えば、当該無水物を再結晶によって精製することで調整することができ、具体的には、再結晶で使用する溶媒の選択により見かけ密度の調整可能である。再結晶で使用する溶媒は特に限定されず、例えば、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、ニトリル系溶媒、アミド系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒を挙げることができ、好ましくはケトン系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、ニトリル系溶媒、アミド系溶媒であり、より好ましくは、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、ニトリル系溶媒であり、さらに好ましくはケトン系溶媒、エーテル系溶媒である。
【0147】
組成物Fは、
(F-1)他の成分をさらに含有する組成物;
(F-2)他の成分が脂肪族カルボン酸を含有する、(F-1)に記載の組成物;
(F-3)他の成分が少なくとも二つのアルキル基が芳香環に結合した含フッ素芳香族化合物を含有する、(F-1)又は(F-2)に記載の組成物;
(F-4)他の成分がアルデヒド化合物及びケトン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、(F-1)~(F-3)のいずれかに記載の組成物;
(F-5)他の成分が前記式(21-1)で表される化合物、前記式(21-2)で表される化合物、前記式(21-3)で表される化合物、前記式(21-4)で表される化合物、前記式(22-1)で表される化合物、前記式(22-2)で表される化合物、前記
式(22-3)で表される化合物、前記式(22-4)で表される化合物、前記式(23-1)で表される化合物、前記式(23-2)で表される化合物、前記式(23-3)で表される化合物及び前記式(23-4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する、(F-1)~(F-4)のいずれかに記載の組成物;
(F-6)他の成分が水を含有する、(F-1)~(F-5)のいずれかに記載の組成物;
(F-7)他の成分が金属又は遷移金属を含有する、(F-1)~(F-6)のいずれかに記載の組成物;
であることができる。
【0148】
組成物Fにおいて、他の成分として含まれる「脂肪族カルボン酸」、「少なくとも二つのアルキル基が芳香環に結合した含フッ素芳香族化合物」、「アルデヒド化合物及びケトン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種」、「前記式(21-1)で表される化合物、前記式(21-2)で表される化合物、前記式(21-3)で表される化合物、前記式(21-4)で表される化合物、前記式(22-1)で表される化合物、前記式(22-2)で表される化合物、前記式(22-3)で表される化合物、前記式(22-4)で表される化合物、前記式(23-1)で表される化合物、前記式(23-2)で表される化合物、前記式(23-3)で表される化合物及び前記式(23-4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物」、「金属又は遷移金属」、及び「水」の含有割合はいずれも、組成物A、B、C、D、E、G、H又はIにおける含有割合と同一であることが好ましい。
【0149】
(組成物G)
組成物Gは、含フッ素フタル酸誘導体の無水物を含み、Fイオンの含有割合が含フッ素フタル酸誘導体の無水物の全質量に対し5質量ppm以下である。斯かる組成物Gは、フッ素イオン(F)の含有割合が少ないので、反応用の原料に使用した時に容器の腐食等を抑制しやすい。フッ素イオン(F)は、市販のフッ素イオンメーターによって測定することができる。
【0150】
組成物Gにおいて、Fイオンの含有割合は、含フッ素フタル酸誘導体の無水物の全質量に対し、好ましくは3質量ppm以下である。これにより、組成物Gを反応の原料として使用しても反応器への腐食を起こしにくい。Fイオンの含有割合は、含フッ素フタル酸誘導体の無水物の全質量に対し、より好ましくは1質量ppm以下である。Fイオンの含有割合は、含フッ素フタル酸誘導体の無水物の全質量に対し、好ましくは0.01ppm以上、より好ましくは0.05ppm以上である。
【0151】
組成物Gは、
(G-1)他の成分をさらに含有する組成物;
(G-2)他の成分が脂肪族カルボン酸を含有する、(G-1)に記載の組成物;
(G-3)他の成分が少なくとも二つのアルキル基が芳香環に結合した含フッ素芳香族化合物を含有する、(G-1)又は(G-2)に記載の組成物;
(G-4)他の成分がアルデヒド化合物及びケトン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、(G-1)~(G-3)のいずれかに記載の組成物;
(G-5)他の成分が前記式(21-1)で表される化合物、前記式(21-2)で表される化合物、前記式(21-3)で表される化合物、前記式(21-4)で表される化合物、前記式(22-1)で表される化合物、前記式(22-2)で表される化合物、前記式(22-3)で表される化合物、前記式(22-4)で表される化合物、前記式(23-1)で表される化合物、前記式(23-2)で表される化合物、前記式(23-3)で表される化合物及び前記式(23-4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する、(G-1)~(G-4)のいずれかに記載の組成物;
(G-6)他の成分が水を含有する、(G-1)~(G-5)のいずれかに記載の組成物;
(G-7)他の成分が金属又は遷移金属を含有する、(G-1)~(G-6)のいずれかに記載の組成物;
であることができる。
【0152】
組成物Gにおいて、他の成分として含まれる「脂肪族カルボン酸」、「少なくとも二つのアルキル基が芳香環に結合した含フッ素芳香族化合物」、「アルデヒド化合物及びケトン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種」、「前記式(21-1)で表される化合物、前記式(21-2)で表される化合物、前記式(21-3)で表される化合物、前記式(21-4)で表される化合物、前記式(22-1)で表される化合物、前記式(22-2)で表される化合物、前記式(22-3)で表される化合物、前記式(22-4)で表される化合物、前記式(23-1)で表される化合物、前記式(23-2)で表される化合物、前記式(23-3)で表される化合物及び前記式(23-4)で表される化合物」、「金属又は遷移金属」、及び「水」の含有割合はいずれも、組成物A、B、C、D、E、F、H又はIにおける含有割合と同一であることが好ましい。
【0153】
(組成物H)
組成物Hは、含フッ素フタル酸誘導体の無水物を含み、ハーゼン単位色数が150以下である。斯かる組成物Hを、例えば、重合反応等で使用したときに、着色の少ない重合物が得られやすい。すなわち、組成物Hを用いて製造したポリマーのハーゼン単位色数やYI値を低減することができる。ハーゼン単位色数は、JIS K0071-1(化学製品の色試験方法-第1部:ハーゼン単位色数(白金-コバルトスケール))に準拠して測定することができる。
【0154】
組成物Hにおいて、ハーゼン単位色数は、好ましくは100以下、より好ましくは70以下である。組成物Hにおいて、ハーゼン単位色数は、好ましくは1以上、より好ましくは5以上である。
【0155】
組成物Hは、
(H-1)他の成分をさらに含有する組成物;
(H-2)他の成分が脂肪族カルボン酸を含有する、(H-1)に記載の組成物;
(H-3)他の成分が少なくとも二つのアルキル基が芳香環に結合した含フッ素芳香族化合物を含有する、(H-1)又は(H-2)に記載の組成物;
(H-4)他の成分がアルデヒド化合物及びケトン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、(H-1)~(H-3)のいずれかに記載の組成物;
(H-5)他の成分が前記式(21-1)で表される化合物、前記式(21-2)で表される化合物、前記式(21-3)で表される化合物、前記式(21-4)で表される化合物、前記式(22-1)で表される化合物、前記式(22-2)で表される化合物、前記式(22-3)で表される化合物、前記式(22-4)で表される化合物、前記式(23-1)で表される化合物、前記式(23-2)で表される化合物、前記式(23-3)で表される化合物及び前記式(23-4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する、(H-1)~(H-4)のいずれかに記載の組成物;
(H-6)他の成分が水を含有する、(H-1)~(H-5)のいずれかに記載の組成物;
(H-7)他の成分が金属又は遷移金属を含有する、(H-1)~(H-6)のいずれかに記載の組成物;
であることができる。
【0156】
組成物Hにおいて、他の成分として含まれる「脂肪族カルボン酸」、「少なくとも二つ
のアルキル基が芳香環に結合した含フッ素芳香族化合物」、「アルデヒド化合物及びケトン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種」、「前記式(21-1)で表される化合物、前記式(21-2)で表される化合物、前記式(21-3)で表される化合物、前記式(21-4)で表される化合物、前記式(22-1)で表される化合物、前記式(22-2)で表される化合物、前記式(22-3)で表される化合物、前記式(22-4)で表される化合物、前記式(23-1)で表される化合物、前記式(23-2)で表される化合物、前記式(23-3)で表される化合物及び前記式(23-4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物」、「金属又は遷移金属」、及び「水」の含有割合はいずれも、組成物A、B、C、D、E、F、G又はIにおける含有割合と同一であることが好ましい。
【0157】
(組成物I)
組成物Iは、含フッ素フタル酸誘導体の無水物を含み、水分の含有割合が含フッ素フタル酸誘導体の無水物の全質量に対し2000質量ppm以下である。斯かる組成物Iでは、水分量が前記範囲であることで含フッ素フタル酸誘導体の無水物の分解が抑えられて保存安定性が向上し、また、分解物が少ないことから、重合反応の際に分子量を増大させることができるため、組成物Iは、重合用の原料として優れている。水分量は、カールフィッシャー電量滴定装置を用いて測定することができる。
【0158】
組成物Iにおいて、水分の含有割合は、含フッ素フタル酸誘導体の無水物の全質量に対し、好ましくは300質量ppm以下、より好ましくは250質量ppm以下、さらに好ましくは200質量ppm以下、特に好ましくは100質量ppm以下である。組成物Iにおいて、水分の含有割合は、含フッ素フタル酸誘導体の無水物の全質量に対し、好ましくは5.0質量ppm以上、より好ましくは10.0質量ppm以上である。
【0159】
組成物Iは、
(I-1)他の成分をさらに含有する組成物;
(I-2)他の成分が脂肪族カルボン酸を含有する、(I-1)に記載の組成物;
(I-3)他の成分が少なくとも二つのアルキル基が芳香環に結合した含フッ素芳香族化合物を含有する、(I-1)又は(I-2)に記載の組成物;
(I-4)他の成分がアルデヒド化合物及びケトン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、(I-1)~(I-3)のいずれかに記載の組成物;
(I-5)他の成分が前記式(21-1)で表される化合物、前記式(21-2)で表される化合物、前記式(21-3)で表される化合物、前記式(21-4)で表される化合物、前記式(22-1)で表される化合物、前記式(22-2)で表される化合物、前記式(22-3)で表される化合物、前記式(22-4)で表される化合物、前記式(23-1)で表される化合物、前記式(23-2)で表される化合物、前記式(23-3)で表される化合物及び前記式(23-4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する、(I-1)~(I-4)のいずれかに記載の組成物;
(I-6)他の成分が金属又は遷移金属を含有する、(I-1)~(I-6)のいずれかに記載の組成物;
であることができる。
【0160】
組成物Iにおいて、他の成分として含まれる「脂肪族カルボン酸」、「少なくとも二つのアルキル基が芳香環に結合した含フッ素芳香族化合物」、「アルデヒド化合物及びケトン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種」、「前記式(21-1)で表される化合物、前記式(21-2)で表される化合物、前記式(21-3)で表される化合物、前記式(21-4)で表される化合物、前記式(22-1)で表される化合物、前記式(22-2)で表される化合物、前記式(22-3)で表される化合物、前記式(22-4)で表される化合物、前記式(23-1)で表される化合物、前記式(23-2)で表され
る化合物、前記式(23-3)で表される化合物及び前記式(23-4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物」及び「金属又は遷移金属」の含有割合はいずれも、組成物A、B、C、D、E、F、G又はHにおける含有割合と同一であることが好ましい。
【0161】
組成物A、B、C、D、E、G、H又はIに含まれる含フッ素フタル酸誘導体の無水物は、組成物F同様、ASTM D1895に準じて測定される見かけ密度が0.5g/mL以上であることが好ましい。この場合、見かけ密度の小さい含フッ素フタル酸誘導体の無水物を含むことから、ドラムへのパッキング量が増え、輸送コストを抑えることができる。含フッ素フタル酸誘導体の無水物の見かけ密度は0.4g/mL以上であることが好ましく、0.45g/mL以上であることがより好ましく、0.5g/mL以上であることがさらに好ましく、0.55g/mL以上であることが特に好ましい。含フッ素フタル酸誘導体の無水物の見かけ密度は1.5g/mL以下であることが好ましく、1.0g/mL以下であることがより好ましい。
【0162】
含フッ素フタル酸誘導体の無水物の見かけ密度は、組成物F同様、例えば、当該無水物を再結晶によって精製することで調整することができる。
【0163】
組成物A、B、C、D、E、F、H又はIは、組成物G同様、Fイオンの含有割合が含フッ素フタル酸誘導体の無水物の全質量に対し5質量ppm以下であることが好ましい。この場合、フッ素イオン(F)の含有割合が少ないので、反応用の原料に使用した時に容器の腐食等を抑制しやすい。フッ素イオン(F)は、市販のフッ素イオンメーターによって測定することができる。Fイオンの含有割合は、含フッ素フタル酸誘導体の無水物の全質量に対し、好ましくは3質量ppm以下である。Fイオンの含有割合は、含フッ素フタル酸誘導体の無水物の全質量に対し、より好ましくは1質量ppm以下である。Fイオンの含有割合は、含フッ素フタル酸誘導体の無水物の全質量に対し、好ましくは0.01ppm以上、より好ましくは0.05ppm以上である。
【0164】
組成物A、B、C、D、E、F、G又はIにおいて、組成物H同様、ハーゼン単位色数が150以下であることが好ましい。これにより、組成物を重合反応等で使用したときに、着色の少ない重合物が得られやすい。すなわち、製造したポリマーのハーゼン単位色数やYI値を低減することができる。ハーゼン単位色数は、JIS K0071-1(化学製品の色試験方法-第1部:ハーゼン単位色数(白金-コバルトスケール))に準拠して測定することができる。ハーゼン単位色数は、好ましくは100以下、より好ましくは70以下であり、また、好ましくは1以上、より好ましくは5以上である。
【実施例0165】
以下、実施例により本開示をより具体的に説明するが、本開示はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0166】
(実施例1)
<工程A>
下記式(3)で表す反応式に従って、酸化反応を行った。SUS316製の500cc耐圧反応容器に、原料として6FXYを40g(0.111mol)、溶媒として酢酸を236g、金属触媒としてCo(OAc)四水和物(Acはアセチル基を意味する)を4.147g(0.017mol)、酸化促進剤としてパラアルデヒドを2.54g(0.019mol)添加した。この反応器内に窒素を供給して容器内圧力を2MPaGまで加圧し、この加圧条件下、反応容器の内部を100℃に維持し、空気とパラアルデヒド(0.077mL/min)を反応容器に供給しつつ、約20時間保持して酸化反応を行った(工程A)。なお、工程Aで使用したパラアルデヒドの全量は82.1gであった。
【0167】
【化6】
【0168】
その後、反応容器から反応液を採取し、これをHPLCで分析した結果、6FXYに由来するピークが消失し、テトラカルボン酸体とトリカルボン酸体とジカルボン酸体とが92:8:1の比率で生成していることを確認した。また、テトラカルボン酸体の収率は58%であった。従って、得られた反応液は、主成分として前記式(2)で表される化合物を含むことがわかった。また、反応液を分析したところ、臭素は検出限界以下(5ppm以下)、6FXYは0.01%(ただし酢酸を除く)、化合物(21-1)~(21-4)は0.5%(ただし酢酸を除く)、化合物(23-1)~(23-4)は0.3%(ただし酢酸を除く)、Fイオンの含有割合は4300ppm、コバルト以外の表3記載の各金属は1000ppm以下であった。さらに、反応器内を目視で確認したところ、反応器の腐食は見られなかった。
【0169】
<工程B>
得られた反応液を100℃まで加熱して、この温度で保持し、当該反応液に無水酢酸33g(0.323mol)を添加し、1時間撹拌した。その後、10℃まで冷却して再結晶し、下記式のように粗6FDAを得た。
【0170】
【化7】
【0171】
得られた粗6FDAにメチルエチルケトン62gと無水酢酸3.6gとを加え、還流下、5時間撹拌し、活性炭処理した後、10℃まで冷却し、析出した結晶をろ取、乾燥して、6FDAを35.1g得た(純度:99.90%)。得られた6FDAの臭素量をイオンクロマトグラフィーで分析したところ、検出限界以下であることを確認した。
【0172】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で得た粗6FDAにメチルエチルケトン280gと無水酢酸15gとを加え、70℃へ加熱し、固体成分を溶解させた。得られた溶液を活性炭処理し、メチルエチルケトンを185g留去した後、10℃まで冷却し、析出した結晶をろ取、乾燥して、6FDAを36.9g得た(純度:99.84%)。得られた6FDAの臭素量をイオンクロマトグラフィーで分析したところ、検出限界以下であることを確認した。
【0173】
(実施例3)
実施例1と同様の操作で得られた粗6FDAにメチルエチルケトン280gと無水酢酸15gとを加え、70℃へ加熱し、固体成分を溶解させた。得られた溶液を活性炭処理し
、メチルエチルケトンを230g留去した後、トルエンを150g添加した。その溶液からトルエンを100g留去した後、10℃まで冷却した。析出した結晶をろ取、乾燥して、6FDAを35.9g得た(純度:99.82%)。得られた6FDAの臭素量をイオンクロマトグラフィーで分析したところ、検出限界以下であることを確認した。
【0174】
(生成物の分析)
表1は、実施例1~3で得られた粗6FDA及び6FDAに含まれる他の成分量を分析した結果である。
【0175】
【表1】
【0176】
表2は、実施例1~3で得られた6FDAの見かけ密度、フッ素イオンの含有割合、ハーゼン単位色数及び水分の含有割合を測定した結果である。
【0177】
【表2】
【0178】
後掲の表(3-1)、表(3-2)及び表(3-3)は、実施例1、2、3で得られた6FDAの金属の含有割合を測定した結果である。金属含有量は、ICP-MASS、ICP-AES又はICP-OESを用いて分析した。なお、各金属の検出限界は、表(3-4)の通りである。
【0179】
【表3】
【0180】
【表4】
【0181】
表5は、実施例1で得られた6FDAの保存安定性試験の結果である。この試験では、実施例1で得られた6FDAを、恒温恒湿槽内で40℃、80%湿度の環境下にてアルミラミネート袋中で所定期間保管し、保管後、発生した分解物の量(新たに発生した成分の量)、6FDAの純度及び融点を分析することで、保存安定性を確かめた。なお、表5において、保管期間が「0」とは、6FDAの保管直前の状態であることを意味する。
【0182】
【表5】
【0183】
表5に示される結果から、実施例1で得られた6FDAは10ヶ月間保管しても分解物が少なく高純度であり、保存安定性に優れているものであった。
【0184】
(実施例4)
<工程A>
下記反応式(A)に従って、酸化反応を行った。SUS316製の500cc耐圧反応容器に、原料として2,3,6,7-Tetramethyl-9,9-bis(trifluoromethyl)-9H-xanthene(4)を40g(0.107mol)、溶媒として酢酸を240g、金属触媒としてCo(OAc)四水和物(Acはアセチル基を意味する)を3.985g(0.016mol)、酸化促進剤としてパラアルデヒドを2.38g(0.018mol)添加した。この反応器内に窒素を供給して容器内圧力を2MPaGまで加圧し、この加圧条件下、反応容器の内部を100℃に維持し、空気とパラアルデヒド(0.077mL/min)を反応容器に供給しつつ、約20時間保持して酸化反応を行った(工程A)。なお、工程Aで使用したパラアルデヒドの全量は94.2gであった。
【0185】
【化8】
【0186】
その後、反応容器から反応液を採取し、これをHPLCで分析した結果、2,3,6,7-Tetramethyl-9,9-bis(trifluoromethyl)-9H-xanthene(4)に由来するピークが消失していることを確認した。目的物である9,9-Bis(trifluoromethyl)-9H-xanthene-2,3,6,7-tetracarboxylic acid(5)の収率は70%であった。また、反応液を分析したところ、臭素は
検出限界以下(5ppm以下)、2,3,6,7-Tetramethyl-9,9-bis(trifluoromethyl)-9H-xanthene(4)は0.01%(ただし酢酸を除く)、Fイオンの含有割合は3900ppm、コバルト以外の表3記載の各金属は1200ppm以下であった。さらに、反応器内を目視で確認したところ、反応器の腐食は見られなかった。
【0187】
<工程B>
得られた反応液を100℃まで加熱して、この温度で保持し、当該反応液に無水酢酸32.8g(0.321mol)を添加し、1時間撹拌した。その後、10℃まで冷却して再結晶し、下記式(6)で示される11,11-Bis(trifluoromethyl)-1H-difuro[3,4-b:3′,4′-i]xanthene-1,3,7,9(11H)-tetrone(6)の粗体を得た。
【化9】
【0188】
得られた11,11-Bis(trifluoromethyl)-1H-difuro[3,4-b:3′,4′-i]xanthene-1,3,7,9(11H)-tetrone(6)の粗体にメチルエチルケトン60gと無水酢酸3.5gとを加え、還流下、3時間撹拌し、活性炭処理した後、10℃まで冷却し、析出した結晶をろ取、乾燥して、11,11-Bis(trifluoromethyl)-1H-difuro[3,4-b:3′,4′-i]xanthene-1,3,7,9(11H)-tetrone(6)を31.3g得た(純度:99.80%)。得られた11,11-Bis(trifluoromethyl)-1H-difuro[3,4-b:3′,4′-i]xanthene-1,3,7,9(11H)-tetrone(6)の臭素量をイオンクロマトグラフィーで分析したところ、検出限界以下であることを確認した。
【0189】
(実施例5)
実施例4と同様の方法で得た11,11-Bis(trifluoromethyl)-1H-difuro[3,4-b:3′,4′-i]xanthene-1,3,7,9(11H)-tetrone(6)の粗体にメチルエチルケトン280gと無水酢酸15gとを加え、70℃へ加熱し、固体成分を溶解させた。得られた溶液を活性炭処理し、メチルエチルケトンを173g留去した後、10℃まで冷却し、析出した結晶をろ取、乾燥して、11,11-Bis(trifluoromethyl)-1H-difuro[3,4-b:3′,4′-i]xanthene-1,3,7,9(11H)-tetrone(6)を30.5g得た(純度:99.79%)。得られた11,11-Bis(trifluoromethyl)-1H-difuro[3,4-b:3′,4′-i]xanthene-1,3,7,9(11H)-tetrone(6)の臭素量をイオンクロマトグラフィーで分析したところ、検出限界以下であることを確認した。
【0190】
(実施例6)
実施例4と同様の操作で得られた11,11-Bis(trifluoromethyl)-1H-difuro[3,4-b:3′,4′-i]xanthene-1,3,7,9(11H)-tetrone(6)の粗体にメチルエチルケトン280gと無水
酢酸15gとを加え、70℃へ加熱し、固体成分を溶解させた。得られた溶液を活性炭処理し、メチルエチルケトンを225g留去した後、トルエンを150g添加した。その溶液からトルエンを105g留去した後、10℃まで冷却した。析出した結晶をろ取、乾燥して、11,11-Bis(trifluoromethyl)-1H-difuro[3,4-b:3′,4′-i]xanthene-1,3,7,9(11H)-tetrone(6)を29.0g得た(純度:99.80%)。得られた11,11-Bis(trifluoromethyl)-1H-difuro[3,4-b:3′,4′-i]xanthene-1,3,7,9(11H)-tetrone(6)の臭素量をイオンクロマトグラフィーで分析したところ、検出限界以下であることを確認した。
【0191】
(生成物の分析)
表6は、実施例4~6で得られた11,11-Bis(trifluoromethyl)-1H-difuro[3,4-b:3′,4′-i]xanthene-1,3,7,9(11H)-tetrone(6)の粗体及び11,11-Bis(trifluoromethyl)-1H-difuro[3,4-b:3′,4′-i]xanthene-1,3,7,9(11H)-tetrone(6)に含まれる他の成分量を分析した結果である。
【0192】
【表6】
【0193】
表7は、実施例4~6で得られた11,11-Bis(trifluoromethyl)-1H-difuro[3,4-b:3′,4′-i]xanthene-1,3,7,9(11H)-tetrone(6)の見かけ密度、フッ素イオンの含有割合、ハーゼン単位色数及び水分の含有割合を測定した結果である。
【0194】
【表7】
【0195】
表(8-1)、(8-2)及び(8-3)は、実施例4、5、6で得られた11,11-Bis(trifluoromethyl)-1H-difuro[3,4-b:3′,4′-i]xanthene-1,3,7,9(11H)-tetrone(6)の金属の含有割合を測定した結果である。金属含有量は、ICP-MASS、ICP-AES又はICP-OESを用いて分析した。なお、各金属の検出限界は、前述の表3-4と同じである。
【0196】
【表8】
【0197】
(実施例7)
<工程A>
前述の式(3)で表す反応式に従って、酸化反応を行った。SUS316製の500cc耐圧反応容器に、原料として6FXYを40g(0.111mol)、溶媒として酢酸を236g、金属触媒としてCo(OAc)四水和物(Acはアセチル基を意味する)を4.147g(0.017mol)、酸化促進剤としてパラアルデヒドを2.54g(0.019mol)添加した。この反応器内に窒素を供給して容器内圧力を2MPaGまで加圧し、この加圧条件下、反応容器の内部を100℃に維持し、空気とパラアルデヒド(0.077mL/min)を反応容器に供給しつつ、約20時間保持して酸化反応を行った(工程A)。なお、工程Aで使用したパラアルデヒドの全量は82.1gであった。その後、反応容器から反応液を採取し、これをHPLCで分析した結果、6FXYに由来
するピークが消失し、テトラカルボン酸体とトリカルボン酸体とジカルボン酸体とが92:8:1の比率で生成していることを確認した。また、テトラカルボン酸体の収率は80%であった。従って、得られた反応液は、主成分として前記式(2)で表される化合物を含むことがわかった。また、反応液を分析したところ、臭素は検出限界以下(5ppm以下)、6FXYは0.01%(ただし酢酸を除く)、化合物(21-1)~(21-4)は0.5%(ただし酢酸を除く)、化合物(23-1)~(23-4)は0.3%(ただし酢酸を除く)、Fイオンの含有割合は4300ppm、コバルト以外の表3記載の各金属は1000ppm以下であった。さらに、反応器内を目視で確認したところ、反応器の腐食は見られなかった。
【0198】
<工程B>
得られた反応液を100℃まで加熱して、この温度で保持し、当該反応液に無水酢酸33g(0.323mol)を添加し、1時間撹拌した。その後、10℃まで冷却して再結晶し、粗6FDAを得た。得られた粗6FDAにメチルエチルケトン62gと無水酢酸3.6gとを加え、還流下、5時間撹拌し、活性炭処理した後、10℃まで冷却し、析出した結晶をろ取、乾燥して、6FDAを35.1g得た(純度:99.90%)。得られた6FDAの臭素量をイオンクロマトグラフィーで分析したところ、検出限界以下であることを確認した。
【0199】
(実施例8)
実施例7と同様の方法で得た粗6FDAにメチルエチルケトン280gと無水酢酸15gとを加え、70℃へ加熱し、固体成分を溶解させた。得られた溶液を活性炭処理し、メチルエチルケトンを185g留去した後、10℃まで冷却し、析出した結晶をろ取、乾燥して、6FDAを36.9g得た(純度:99.84%)。得られた6FDAの臭素量をイオンクロマトグラフィーで分析したところ、検出限界以下であることを確認した。
【0200】
(実施例9)
実施例7と同様の操作で得られた粗6FDAにメチルエチルケトン280gと無水酢酸15gとを加え、70℃へ加熱し、固体成分を溶解させた。得られた溶液を活性炭処理し、メチルエチルケトンを230g留去した後、トルエンを150g添加した。その溶液からトルエンを100g留去した後、10℃まで冷却した。析出した結晶をろ取、乾燥して、6FDAを35.9g得た(純度:99.82%)。得られた6FDAの臭素量をイオンクロマトグラフィーで分析したところ、検出限界以下であることを確認した。
【0201】
(生成物の分析)
表9は、実施例7~9で得られた粗6FDA及び6FDAに含まれる他の成分量を分析した結果である。
【0202】
【表9】
【0203】
表10は、実施例7~9で得られた6FDAの見かけ密度、フッ素イオンの含有割合、ハーゼン単位色数及び水分の含有割合を測定した結果である。
【0204】
【表10】
【0205】
表(11-1)、(11-2)及び(11-3)は、実施例7、8、9で得られた6FDAの金属の含有割合を測定した結果である。金属含有量は、ICP-MASS、ICP-AES又はICP-OESを用いて分析した。なお、各金属の検出限界は、表3-4の通りである。
【0206】
【表11】
【0207】
表12は、実施例7で得られた6FDAの保存安定性試験の結果である。この試験では、実施例7で得られた6FDAを、恒温恒湿槽内で40℃、80%湿度の環境下にてアルミラミネート袋中で所定期間保管し、保管後、発生した分解物の量(新たに発生した成分の量)、6FDAの純度及び融点を分析することで、保存安定性を確かめた。なお、下表において、保管期間が「0」とは、6FDAの保管直前の状態であることを意味する。
【0208】
【表12】
【0209】
表12に示される結果から、実施例7で得られた6FDAは10ヶ月間保管しても分解物が少なく高純度であり、保存安定性に優れているものであった。
【産業上の利用可能性】
【0210】
本開示の製造方法により提供される含フッ素フタル酸の無水物は、金属量が低減されているため、半導体デバイスや電子部品の絶縁・保護剤等の電子材料であるポリイミドの原料として有用である。