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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039049
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】製品1,3-ブチレングリコール
(51)【国際特許分類】
   C07C 31/20 20060101AFI20240313BHJP
【FI】
C07C31/20 B CSP
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023222977
(22)【出願日】2023-12-28
(62)【分割の表示】P 2022578778の分割
【原出願日】2022-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2022083950
(32)【優先日】2022-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】312004880
【氏名又は名称】KHネオケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】前田 実紀
(72)【発明者】
【氏名】白村 隆
(72)【発明者】
【氏名】金田 純
(57)【要約】      (修正有)
【課題】皮膚感作性が低減され、塩基性条件下での着色も生じにくい製品1,3-ブチレングリコールを提供する。
【解決手段】特定条件下のガスクロマトグラフィー分析において、n-ドデカンの相対保持時間を1.00としたときに、相対保持時間が0.80~0.99の範囲に現れるピークのうち、メチルエチルケトンと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体のピークを除いたピークのn-ドデカン換算濃度の和が0質量ppm超25質量ppm以下であり、かつ、2-エチルクロトンアルデヒドのピーク、及びn-ブチルアルデヒドと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体のピークのn-ドデカン換算濃度の和が0質量ppm超20質量ppm以下であり、特定条件のガスクロマトグラフィー分析において、1,3-ブチレングリコールのピークの面積率が99.5%以上である、製品1,3-ブチレングリコール組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記条件下のスプリットレス注入法によるガスクロマトグラフィー分析において、n-ドデカンの相対保持時間を1.00としたときに、相対保持時間が0.80~0.99の範囲に現れるピークのうち、メチルエチルケトンと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体のピークを除いたピークのn-ドデカン換算濃度の和が25質量ppm以下である、製品1,3-ブチレングリコール。

[ガスクロマトグラフィー分析の条件]
分析カラム:固定相が(50%シアノプロピル-フェニル)ジメチルポリシロキサンであるカラム(長さ30m×内径0.25mm×膜厚0.25μm)
昇温条件:50℃で5分間保持した後、10℃/分で50℃から135℃まで昇温し、135℃で9分間保持した後、15℃/分で135℃から220℃まで昇温して220℃で12分間保持
試料導入温度:220℃
キャリアガス:窒素
カラムのガス流量:0.5mL/分
検出器及び検出温度:水素炎イオン化検出器(FID)、220℃
コントロールモード:コンスタントフロー
スプリット比:スプリットレス
注入口ベントパージ:60mL/分
パージ開始時間:1分
試料注入条件:0.6μL
試料調製:内部標準物質であるn-ドデカンを2-プロパノールで24質量ppmに希釈し内部標準溶液を調製した後、製品1,3-ブチレングリコール0.5gと前記内部標準溶液0.1gとを混合することで試料を調製する。
n-ドデカン換算濃度の和の算出:前記ガスクロマトグラフィー分析条件で検出されるn-ドデカンの相対保持時間を1.00とした場合に、相対保持時間0.80~0.99の範囲に検出され、メチルエチルケトンと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体のピークを除いたピークの合計面積値(検出ピーク面積値)を下記式(1)を用いてn-ドデカン換算濃度の和に変換する。

n-ドデカン換算濃度の和(質量ppm)=n-ドデカン濃度(質量ppm)×検出ピーク面積値/n-ドデカンの面積値 (1)

ここで、n-ドデカン濃度(質量ppm)とは、下記式(2)を用いて算出する値である。

n-ドデカン濃度(質量ppm)=(試料中のn-ドデカンの質量/試料中の製品1,3-ブチレングリコールの質量)×10 (2)
【請求項2】
下記条件下のスプリットレス注入法によるガスクロマトグラフィー分析において、2-エチルクロトンアルデヒドのピーク、及びn-ブチルアルデヒドと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体のピークのn-ドデカン換算濃度の和が20質量ppm以下である、製品1,3-ブチレングリコール。

[ガスクロマトグラフィー分析の条件]
分析カラム:固定相が(50%シアノプロピル-フェニル)ジメチルポリシロキサンであるカラム(長さ30m×内径0.25mm×膜厚0.25μm)
昇温条件:50℃で5分間保持した後、10℃/分で50℃から135℃まで昇温し、135℃で9分間保持した後、15℃/分で135℃から220℃まで昇温して220℃で12分間保持
試料導入温度:220℃
キャリアガス:窒素
カラムのガス流量:0.5mL/分
検出器及び検出温度:水素炎イオン化検出器(FID)、220℃
コントロールモード:コンスタントフロー
スプリット比:スプリットレス
注入口ベントパージ:60mL/分
パージ開始時間:1分
試料注入条件:0.6μL
試料調製:内部標準物質であるn-ドデカンを2-プロパノールで24質量ppmに希釈し内部標準溶液を調製した後、製品1,3-ブチレングリコール0.5gと前記内部標準溶液0.1gとを混合することで試料を調製する。
n-ドデカン換算濃度の和の算出:前記ガスクロマトグラフィー分析条件で検出される2-エチルクロトンアルデヒドのピークと、n-ブチルアルデヒドと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体のピークとの合計面積値(検出ピーク面積値)を下記式(1)を用いてn-ドデカン換算濃度の和に変換する。

n-ドデカン換算濃度の和(質量ppm)=n-ドデカン濃度(質量ppm)×検出ピーク面積値/n-ドデカンの面積値 (1)

ここで、n-ドデカン濃度(質量ppm)とは、下記式(2)を用いて算出する値である。

n-ドデカン濃度(質量ppm)=(試料中のn-ドデカンの質量/試料中の製品1,3-ブチレングリコールの質量)×10 (2)
【請求項3】
下記条件下におけるガスクロマトグラフィー分析において1,3-ブチレングリコールのピークの面積率が99.5%以上である、請求項1又は2記載の製品1,3-ブチレングリコール。

[ガスクロマトグラフィー分析の条件]
分析カラム:固定相がポリエチレングリコールであるカラム(長さ30m×内径0.25mm×膜厚0.25μm)
昇温条件:5℃/分で80℃から230℃まで昇温した後、230℃で10分間保持
試料導入温度:250℃
キャリアガス:窒素
カラムのガス流量:0.5mL/分
検出器及び検出温度:水素炎イオン化検出器(FID)、250℃
コントロールモード:コンスタントフロー
スプリット比:50:1
試料注入条件:1μL
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂の原料、界面活性剤の原料、溶媒、不凍液、化粧品原料等として有用な製品1,3-ブチレングリコールに関する。
【背景技術】
【0002】
1,3-ブチレングリコールは、沸点208℃の粘調な無色透明、低臭の液体で、化学的安定性に優れる。このため、1,3-ブチレングリコールは、各種の合成樹脂、界面活性剤の原料として用いられる。また、1,3-ブチレングリコールは、その優れた吸湿特性、低揮発性、低毒性を活かして、化粧品、吸湿剤、高沸点溶剤、不凍液の材料としても利用されている。特に近年、化粧品業界では毒性及び刺激性の低い1,3-ブチレングリコールが保湿剤として優れた性質を有するため、その需要を大きく伸ばしている。
【0003】
特許文献1には、臭気の少ない1,3-ブチレングリコールが開示されており、臭気の少ない1,3-ブチレングリコールを得る方法として、粗1,3-ブチレングリコールを、水素添加処理によって精製する1,3-ブチレングリコールの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2020-512351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、例えば化粧品分野において1,3-ブチレングリコールを使用する際には、皮膚に直接塗布するが、特許文献1に記載された方法で得られる1,3-ブチレングリコールは、皮膚感作性が十分に低減できていないという問題もある。さらに、化粧品分野において1,3-ブチレングリコールを使用する際には、塩基性条件下で加熱して配合することがあるが、塩基性条件下での混合調製においては1,3-ブチレングリコールが着色するという問題もある。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は、皮膚感作性が低減され、塩基性条件下での着色も生じにくい、製品1,3-ブチレングリコールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、1,3-ブチレングリコール中に含まれる特定の不純物の濃度を一定以下に抑えることにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。なお、本明細書においてppmは特段の明記がない限り質量ppmを示す。
[1]
下記条件下のスプリットレス注入法によるガスクロマトグラフィー分析において、n-ドデカンの相対保持時間を1.00としたときに、相対保持時間が0.80~0.99の範囲に現れるピークのうち、メチルエチルケトンと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体のピークを除いたピークのn-ドデカン換算濃度の和が25ppm以下である、製品1,3-ブチレングリコール。

[ガスクロマトグラフィー分析の条件]
分析カラム:固定相が(50%シアノプロピル-フェニル)ジメチルポリシロキサンであるカラム(長さ30m×内径0.25mm×膜厚0.25μm)
昇温条件:50℃で5分間保持した後、10℃/分で50℃から135℃まで昇温し、135℃で9分間保持した後、15℃/分で135℃から220℃まで昇温して220℃で12分間保持
試料導入温度:220℃
キャリアガス:窒素
カラムのガス流量:0.5mL/分
検出器及び検出温度:水素炎イオン化検出器(FID)、220℃
コントロールモード:コンスタントフロー
スプリット比:スプリットレス
注入口ベントパージ:60mL/分
パージ開始時間:1分
試料注入条件:0.6μL
試料調製:内部標準物質であるn-ドデカンを2-プロパノールで24ppmに希釈し内部標準溶液を調製した後、製品1,3-ブチレングリコール0.5gと前記内部標準溶液0.1gとを混合することで試料を調製する。
n-ドデカン換算濃度の和の算出:前記ガスクロマトグラフィー分析条件で検出されるn-ドデカンの相対保持時間を1.00とした場合に、相対保持時間0.80~0.99の範囲に検出され、メチルエチルケトンと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体のピークを除いたピークの合計面積値(検出ピーク面積値)を下記式(1)を用いてn-ドデカン換算濃度の和に変換する。

n-ドデカン換算濃度の和(ppm)=n-ドデカン濃度(ppm)×検出ピーク面積値/n-ドデカンの面積値 (1)

ここで、n-ドデカン濃度(ppm)とは、下記式(2)を用いて算出する値である。

n-ドデカン濃度(ppm)=(試料中のn-ドデカンの質量/試料中の製品1,3-ブチレングリコールの質量)×10 (2)

[2]
下記条件下のスプリットレス注入法によるガスクロマトグラフィー分析において、2-エチルクロトンアルデヒドのピーク、及びn-ブチルアルデヒドと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体のピークのn-ドデカン換算濃度の和が20ppm以下である、製品1,3-ブチレングリコール。

[ガスクロマトグラフィー分析の条件]
分析カラム:固定相が(50%シアノプロピル-フェニル)ジメチルポリシロキサンであるカラム(長さ30m×内径0.25mm×膜厚0.25μm)
昇温条件:50℃で5分間保持した後、10℃/分で50℃から135℃まで昇温し、135℃で9分間保持した後、15℃/分で135℃から220℃まで昇温して220℃で12分間保持
試料導入温度:220℃
キャリアガス:窒素
カラムのガス流量:0.5mL/分
検出器及び検出温度:水素炎イオン化検出器(FID)、220℃
コントロールモード:コンスタントフロー
スプリット比:スプリットレス
注入口ベントパージ:60mL/分
パージ開始時間:1分
試料注入条件:0.6μL
試料調製:内部標準物質であるn-ドデカンを2-プロパノールで24ppmに希釈し内部標準溶液を調製した後、製品1,3-ブチレングリコール0.5gと前記内部標準溶液0.1gとを混合することで試料を調製する。
n-ドデカン換算濃度の和の算出:前記ガスクロマトグラフィー分析条件で検出される2-エチルクロトンアルデヒドのピークと、n-ブチルアルデヒドと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体のピークとの合計面積値(検出ピーク面積値)を下記式(1)を用いてn-ドデカン換算濃度の和に変換する。

n-ドデカン換算濃度の和(ppm)=n-ドデカン濃度(ppm)×検出ピーク面積値/n-ドデカンの面積値 (1)

ここで、n-ドデカン濃度(ppm)とは、下記式(2)を用いて算出する値である。

n-ドデカン濃度(ppm)=(試料中のn-ドデカンの質量/試料中の製品1,3-ブチレングリコールの質量)×10 (2)

[3]
下記条件下におけるガスクロマトグラフィー分析において1,3-ブチレングリコールのピークの面積率が99.5%以上である、上記[1]又は[2]記載の製品1,3-ブチレングリコール。

[ガスクロマトグラフィー分析の条件]
分析カラム:固定相がポリエチレングリコールであるカラム(長さ30m×内径0.25mm×膜厚0.25μm)
昇温条件:5℃/分で80℃から230℃まで昇温した後、230℃で10分間保持
試料導入温度:250℃
キャリアガス:窒素
カラムのガス流量:0.5mL/分
検出器及び検出温度:水素炎イオン化検出器(FID)、250℃
コントロールモード:コンスタントフロー
スプリット比:50:1
試料注入条件:1μL
【発明の効果】
【0009】
本発明により、皮膚感作性が低減され、塩基性条件下での着色も生じにくい、製品1,3-ブチレングリコールを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。本発明は、以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
なお、本実施形態においては、最終製品である1,3-ブチレングリコールを「製品1,3-ブチレングリコール」、原料或いは最終製品に至るまでの中間体としての1,3-ブチレングリコールを「粗1,3-ブチレングリコール」ともいう。
【0011】
[製品1,3-ブチレングリコールの製造方法]
(原料)
本実施形態における製品1,3-ブチレングリコールを製造する際に原料として使用される粗1,3-ブチレングリコールとしては、特に限定されることはないが、例えば、皮膚感作性を有する1,3-ブチレングリコールや塩基性条件下で着色する1,3-ブチレングリコール等が挙げられる。
【0012】
原料としての粗1,3-ブチレングリコールとして、後述する特定条件下のガスクロマトグラフィー分析2における1,3-ブチレングリコールのピークの面積率が、製品1,3-ブチレングリコールに含まれる不純物量の低減の観点から、99.5%以上であることが好ましく、より好ましくは99.6%以上、さらに好ましくは99.7%以上である。
【0013】
原料としての粗1,3-ブチレングリコールの製造方法は、特には限定されないが、例えば、公知の方法(特公平3-80139号公報、特開平7-258129号公報等参照)により、粗1,3-ブチレングリコールを製造することができる。また、アセトアルドールの液相水素還元法により製造されたもの、1,3-ブチレンオキサイドの加水分解法により製造されたもの、又は微生物や菌類を用いた発酵法により製造されたもの、これらの混合物など、いずれのものを用いてもよい。中でも、本発明の効果がより顕著となる傾向にあるため、アセトアルドールの液相水素還元法によって得られた反応生成物を用いることが好ましい。アセトアルドールの液相水素還元法においては、臭気原因物質と考えられるアセトアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、クロトンアルデヒド、メチルビニルケトン等の低沸点化合物やこれらの縮合物、あるいはこれらと1,3-ブチレングリコールとのアセタール、これらとエタノールとのアセタールなどが副生し、これらは蒸留によっても十分に取り除くことが難しい。また、蒸留などの加熱工程においても、アセトアルデヒドとn-ブチルアルデヒドが縮合反応を引き起こすことによって、2-エチルクロトンアルデヒドなどが副生する、あるいはn-ブチルアルデヒドと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体が副生するという課題もある。上記臭気原因物質とは、そのもの自体が臭気源であるものや、経時変化、加熱処理、化学処理等により臭気物質となるもの等が含まれる。
【0014】
また、アセトアルドールの液相水素還元法によって得られる反応生成物から副生成物であるエタノールなどのアルコール類、塩、水分等を除去した後のものを、粗1,3-ブチレングリコールとして用いてもよい。これらの成分を除去する方法としては限定されず、蒸留、吸着等の方法を用いることができる。
【0015】
また、エタノールなどを除去した後の留分にさらに1つ以上の公知の精製工程、例えば、アルカリ金属化合物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)を添加して加熱処理する工程(特許第4559625号公報等参照)等を施したものを粗1,3-ブチレングリコールとして用いてもよい。また、粗1,3-ブチレングリコールは、市販品として入手することも可能である。
【0016】
(水添処理工程)
本実施形態における製品1,3-ブチレングリコールの製造方法は、粗1,3-ブチレングリコールを触媒を用いて水素添加処理する工程(水添処理工程)を含む。水添処理工程は、より具体的には、例えば、触媒を充填した触媒層に粗1,3-ブチレングリコールと水素ガスを流通させることで水素還元する処理工程である。
粗1,3-ブチレングリコールを触媒を用いて水素添加処理することより、塩基性条件下での着色および皮膚感作性原因物質である2-エチルクロトンアルデヒドおよび、n-ブチルアルデヒドと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体が水添あるいは水素化分解されると推測される。但し、本発明のメカニズムは上記に限定されることはない。
【0017】
水添処理工程は、気相又は液相のいずれでも行うことができ、液相で実施することが好ましい。液相で実施する場合、気相で実施する場合に比べて反応温度を低温にできるため、1,3-ブチレングリコールの熱分解反応を抑制できる。水添処理工程においては、触媒としてPd/C触媒を用いることが好ましい。Pd/C触媒とは、活性炭を担体としてその上にパラジウムを分散、担持させたものをいう。活性炭に分散、担持するパラジウムの担持率は、特に限定されず、0.1~30%が好ましく、0.2~10%がさらに好ましく、0.4~1%が特に好ましい。また、Pd/C触媒の形状は、特に限定されず、粉末、ペレットなどの形状であればよい。
【0018】
水添処理工程における反応温度は、特に限定されず、後述する加熱処理工程を実施する場合、好ましくは100~150℃であり、より好ましくは110~145℃であり、さらに好ましくは125~135℃であって、後述する加熱処理工程を実施しない場合、好ましくは120℃超~150℃であり、より好ましくは125~135℃である。
水添処理工程における反応温度が150℃以下であると、1,3-ブチレングリコールの熱分解反応が進行せずに高沸点成分の増加が抑えられる傾向にあり、100℃以上(加熱処理工程を実施しない場合120℃超)であると、2-エチルクロトンアルデヒド、およびn-ブチルアルデヒドと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体の水添あるいは水素化分解の進行が促進される傾向にある。
【0019】
水添処理工程における水素圧力は、特に限定されず、好ましくは0.4~1.0MPaであり、より好ましくは0.5~0.9MPaであり、さらに好ましくは0.6~0.8MPaである。水添処理工程における水素圧力が1.0MPa以下であると、高圧ガス設備として強度が十分な肉厚な装置が不要であること等から装置コストが低減する傾向にあり、0.4MPa以上であると、2-エチルクロトンアルデヒド、およびn-ブチルアルデヒドと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体の水添あるいは水素化分解の進行が促進される傾向にある。
【0020】
本実施形態における製品1,3-ブチレングリコールの製造方法としては、粗1,3-ブチレングリコールを触媒を用いて水素添加処理する工程(水添処理工程)が含まれていれば特に限定されず、水添処理工程以外に、粗1,3-ブチレングリコールを加熱処理する工程(加熱処理工程)、粗1,3-ブチレングリコールから低沸点成分を留去する工程(脱低沸蒸留工程)のうち一工程以上がさらに含まれていてもよい。これらの工程の順序は特に限定されないが、本願発明の効果がより顕著となる観点から、加熱処理工程、水添処理工程、脱低沸蒸留工程の順で実施することが好ましい。
以下、各工程について説明する。
【0021】
(加熱処理工程)
本実施形態の製品1,3-ブチレングリコールの製造方法における加熱処理工程は、粗1,3-ブチレングリコールを加熱処理する工程である。粗1,3-ブチレングリコールを加熱処理することにより、2-エチルクロトンアルデヒドが副生される原因物質であるアセトアルデヒドとn-ブチルアルデヒドが縮合反応等により消費される、あるいはn-ブチルアルデヒドと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体が副生される原因物質であるn-ブチルアルデヒドが消費されるため、その後の蒸留工程などの加熱を伴う工程において、2-エチルクロトンアルデヒド、およびn-ブチルアルデヒドと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体などの生成量が低減する。また、加熱処理工程で予め2-エチルクロトンアルデヒド、あるいはn-ブチルアルデヒドと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体などを副生させた後、水添処理を施すことによって、当該原因物質が水添あるいは水素化分解により効率的に分解される傾向にある。但し、本発明のメカニズムは上記に限定されることはない。
【0022】
加熱処理工程における加熱時間としては、特に限定されないが、好ましくは20分間~9時間、より好ましくは1~6時間、さらに好ましくは1~3時間である。加熱時間が20分間以上であると、縮合反応によるアセトアルデヒドとn-ブチルアルデヒドの消費が十分に進む傾向にあり、9時間以下であると、加熱処理にかかるコストの増大を抑制することができる傾向にある。
【0023】
加熱処理工程における加熱温度としては、特に限定されないが、好ましくは80~200℃、より好ましくは90~120℃、さらに好ましくは100~110℃である。加熱温度が80℃以上であると、アセトアルデヒドとn-ブチルアルデヒドの縮合反応が進む傾向にあり、200℃以下であると、1,3-ブチレングリコールの加熱分解反応が抑制され、不純物が低減する傾向にある。
【0024】
加熱処理工程における加熱処理装置としては特に限定されず、例えば、連続式管型、回分式槽型、連続式槽型等の加熱処理装置が挙げられ、撹拌効率の観点から、特に回分式槽型が好ましい。
【0025】
(脱低沸蒸留工程)
本実施形態の製品1,3-ブチレングリコールの製造方法における脱低沸蒸留工程は、例えば、水添処理工程で得た1,3-ブチレングリコールを多く含む留分から低沸点成分を留去する工程である。脱低沸蒸留工程において用いる蒸留装置としては、例えば、多孔板塔、泡鐘塔、充填塔等が挙げられるが、中でも、理論段数が7~40段の充填塔が好ましい。蒸留塔は、1塔でもよいし、2塔以上のものを用いてもよい。蒸留の条件としては、蒸留塔の塔頂部の圧力が1~20kPaであることが好ましく、蒸留塔の塔底部の温度が100~160℃であることが好ましく、110~140℃であることがより好ましい。脱低沸蒸留工程の具体的な態様としては連続式でも回分式でもよく、例えば、連続式としては、1,3-ブチレングリコールを多く含む留分を蒸留塔の塔頂より連続的に供給し、塔頂より低沸点分を多く含む留分を連続的に抜き出すと同時に、塔底より1,3-ブチレングリコールをより多く含む留分連続的に抜き出す方法等が挙げられる。
【0026】
[製品1,3-ブチレングリコール]
本実施形態のうちの一つとして、下記条件下のスプリットレス注入法によるガスクロマトグラフィー分析において、n-ドデカンの相対保持時間を1.00としたときに、相対保持時間が0.80~0.99の範囲に現れるピークのうち、メチルエチルケトンと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体のピークを除いたピークのn-ドデカン換算濃度の和が25ppm以下である製品1,3-ブチレングリコールを提供する。

[ガスクロマトグラフィー分析の条件]
分析カラム:固定相が(50%シアノプロピル-フェニル)ジメチルポリシロキサンであるカラム(長さ30m×内径0.25mm×膜厚0.25μm)
昇温条件:50℃で5分間保持した後、10℃/分で50℃から135℃まで昇温し、135℃で9分間保持した後、15℃/分で135℃から220℃まで昇温して220℃で12分間保持
試料導入温度:220℃
キャリアガス:窒素
カラムのガス流量:0.5mL/分
検出器及び検出温度:水素炎イオン化検出器(FID)、220℃
コントロールモード:コンスタントフロー
スプリット比:スプリットレス
注入口ベントパージ:60mL/分
パージ開始時間:1分
試料注入条件:0.6μL
試料調製:内部標準物質であるn-ドデカンを2-プロパノールで24ppmに希釈し内部標準溶液を調製した後、製品1,3-ブチレングリコール0.5gと前記内部標準溶液0.1gとを混合することで試料を調製する。
n-ドデカン換算濃度の和の算出:前記ガスクロマトグラフィー分析条件で検出されるn-ドデカンの相対保持時間を1.00とした場合に、相対保持時間0.80~0.99の範囲に検出され、メチルエチルケトンと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体のピークを除いたピークの合計面積値(検出ピーク面積値)を下記式(1)を用いてn-ドデカン換算濃度の和に変換する。

n-ドデカン換算濃度の和(ppm)=n-ドデカン濃度(ppm)×検出ピーク面積値/n-ドデカンの面積値 (1)

ここで、n-ドデカン濃度(ppm)とは、下記式(2)を用いて算出する値である。

n-ドデカン濃度(ppm)=(試料中のn-ドデカンの質量/試料中の製品1,3-ブチレングリコールの質量)×10 (2)

ここで、分析カラムとしては、例えば、Agilent Technologies社製 DB-225 (長さ30m×内径0.25mm×膜厚0.25μm、固定相:(50%シアノプロピル-フェニル)ジメチルポリシロキサン)を用いることができる。
【0027】
本実施形態のうちの一つである製品1,3-ブチレングリコールは、本願発明の奏する効果がより顕著となる傾向にあるため、相対保持時間が0.80~0.99の範囲に現れるピークのうち、メチルエチルケトンと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体のピークを除いたピークのn-ドデカン換算濃度の和が25ppm以下であり、23ppm以下であることが好ましく、21ppm以下であることがより好ましい。
【0028】
また、本実施形態のうちの一つとして、下記条件下のスプリットレス注入法によるガスクロマトグラフィー分析において、2-エチルクロトンアルデヒドのピーク、及びn-ブチルアルデヒドと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体のピークのn-ドデカン換算濃度の和が20ppm以下である製品1,3-ブチレングリコールを提供する。

[ガスクロマトグラフィー分析の条件]
分析カラム:固定相が(50%シアノプロピル-フェニル)ジメチルポリシロキサンであるカラム(長さ30m×内径0.25mm×膜厚0.25μm)
昇温条件:50℃で5分間保持した後、10℃/分で50℃から135℃まで昇温し、135℃で9分間保持した後、15℃/分で135℃から220℃まで昇温して220℃で12分間保持
試料導入温度:220℃
キャリアガス:窒素
カラムのガス流量:0.5mL/分
検出器及び検出温度:水素炎イオン化検出器(FID)、220℃
コントロールモード:コンスタントフロー
スプリット比:スプリットレス
注入口ベントパージ:60mL/分
パージ開始時間:1分
試料注入条件:0.6μL
試料調製:内部標準物質であるn-ドデカンを2-プロパノールで24ppmに希釈し内部標準溶液を調製した後、製品1,3-ブチレングリコール0.5gと前記内部標準溶液0.1gとを混合することで試料を調製する。
n-ドデカン換算濃度の和の算出:前記ガスクロマトグラフィー分析条件で検出される2-エチルクロトンアルデヒドのピークと、n-ブチルアルデヒドと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体のピークとの合計面積値(検出ピーク面積値)を下記式(1)を用いてn-ドデカン換算濃度の和に変換する。

n-ドデカン換算濃度の和(ppm)=n-ドデカン濃度(ppm)×検出ピーク面積値/n-ドデカンの面積値 (1)

ここで、n-ドデカン濃度(ppm)とは、下記式(2)を用いて算出する値である。

n-ドデカン濃度(ppm)=(試料中のn-ドデカンの質量/試料中の製品1,3-ブチレングリコールの質量)×10 (2)

ここで、分析カラムとしては、例えば、Agilent Technologies社製 DB-225 (長さ30m×内径0.25mm×膜厚0.25μm、固定相:(50%シアノプロピル-フェニル)ジメチルポリシロキサン)を用いることができる。
【0029】
本実施形態のうちの一つである製品1,3-ブチレングリコールは、本願発明の奏する効果がより顕著となる傾向にあるため、2-エチルクロトンアルデヒドのピーク、及びn-ブチルアルデヒドと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体のピークのn-ドデカン換算濃度の和が20ppm以下であり、16ppm以下であることが好ましく、12ppm以下であることがより好ましい。
【0030】
本実施形態の製品1,3-ブチレングリコールにおいて、下記条件でのガスクロマトグラフィー分析における1,3-ブチレングリコールのピークの面積率は、要求される製品品質に応じて、好ましくは99.5%以上、より好ましくは99.7%以上、さらに好ましくは99.8%以上、特に好ましくは99.9%以上である。なお、ピークの「面積率」とは、チャートに現れる全てのピークの面積の和に対する特定のピークの面積の割合を意味するものである。また、全てのピークとは、1,3-ブチレングリコールのピークの相対保持時間を1.0としたとき、相対保持時間が2.2まで分析を継続して停止した場合に現れるピークの全てを意味する。上記ピークの面積率が上記範囲にあることにより、臭気の発生や皮膚感作性がより一層低減される傾向がある。

[ガスクロマトグラフィー分析の条件]
分析カラム:固定相がポリエチレングリコールであるカラム(長さ30m×内径0.25mm×膜厚0.25μm)
昇温条件:5℃/分で80℃から230℃まで昇温した後、230℃で10分間保持
試料導入温度:250℃
キャリアガス:窒素
カラムのガス流量:0.5mL/分
検出器及び検出温度:水素炎イオン化検出器(FID)、250℃
コントロールモード:コンスタントフロー
スプリット比:50:1
試料注入条件:1μL

ここで、分析カラムとしては、例えば、Agilent Technologies社製 DB-WAX(固定相がポリエチレングリコールであるカラム;長さ30m×内径0.25mm×膜厚0.25μm)を用いることができる。
【0031】
[皮膚感作性試験]
本実施形態における製品1,3-ブチレングリコールは、皮膚感作性が低減されたものである。ここで皮膚感作性とは、皮膚接触後にアレルギー反応を引き起こすことをいう。皮膚感作性の評価には、通常、実験動物が使用されてきたが、動物福祉の観点から2015年にOECDガイドラインTG442Cでin Chemico試験であるペプチド結合性試験(DPRA)が代替試験として採択されており、本実施形態においても、DPRAを準用した試験により皮膚感作性を評価する。より詳細には、後述する実際例に記載された方法に従って皮膚感作性を評価する。
【0032】
[塩基性条件下での着色]
本実施形態における製品1,3-ブチレングリコールは、塩基性条件下での着色が生じにくいという利点を有するものである。塩基性条件下の着色は、後述する実施例に記載された方法(塩基性着色試験)で評価できる。本実施形態の製品1,3-ブチレングリコールを該方法で評価したときのビースター表色系(JISZ8729)の色彩度(b*)は特に限定されないが、例えば、3回の測定における平均値で4.0以下が好ましく、より好ましくは3.8以下、特に好ましくは3.5以下である。
【実施例0033】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。原料となる粗1,3-ブチレングリコールとしては、アセトアルドールを水添還元した後、脱低沸蒸留、および脱高沸蒸留(粗1,3-ブチレングリコールに含まれる高沸点成分を除去する蒸留)を施したものを用いた。また、各種分析及び評価は、以下に従って行った。下記条件下のガスクロマトグラフィー分析2において、原料となる粗1,3-ブチレングリコールのピーク面積率は99.6%であった。
【0034】
[ガスクロマトグラフィー分析1]
実施例1~3および比較例1で得られた製品1,3-ブチレングリコールについて、以下の方法に従ってガスクロマトグラフィー分析1を行った。
(ガスクロマトグラフィー分析1の条件)
分析装置:Agilent Technologies社製 7890A ガスクロマトグラフィーSystem
分析カラム:Agilent Technologies社製 DB-225 (長さ30m×内径0.25mm×膜厚0.25μm、固定相:(50%シアノプロピル-フェニル)ジメチルポリシロキサン)
昇温条件:50℃で5分間保持した後、10℃/分で50℃から135℃まで昇温し、135℃で9分間保持した後、15℃/分で135℃から220℃まで昇温して220℃で12分間保持
試料導入温度:220℃
キャリアガス:窒素
カラムのガス流量:0.5mL/分
検出器及び検出温度:水素炎イオン化検出器(FID)、220℃
コントロールモード:コンスタントフロー
スプリット比:スプリットレス
注入口ベントパージ:60mL/分
パージ開始時間;1分
試料注入条件:0.6μL
試料調製:ジーエル・サイエンス社製n-ドデカンを富士フイルム和光純薬社製2-プロパノールで24ppmに希釈し内部標準溶液を調製した。製品1,3-ブチレングリコール0.5gと前記内部標準溶液0.1gとを混合することで試料を調製した。
n-ドデカン換算濃度の和の算出:前記測定条件で検出されるn-ドデカンの相対保持時間を1.00とした場合に、相対保持時間0.80~0.99に検出され、メチルエチルケトンと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体のピークを除いたピークの合計面積値(検出ピーク面積値)を下記式(1)を用いてn-ドデカン換算濃度の和に変換し、これを不純物濃度Aとした。また、2-エチルクロトンアルデヒドのピークと、n-ブチルアルデヒドと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体のピークとの合計面積値(検出ピーク面積値)を下記式(1)を用いてn-ドデカン換算濃度の和に変換し、これを不純物濃度Bとした。

n-ドデカン換算濃度の和(ppm)=n-ドデカン濃度(ppm)×検出ピーク面積値/n-ドデカンの面積値 (1)

ここで、n-ドデカン濃度(ppm)とは、下記式(2)を用いて算出する値である。

n-ドデカン濃度(ppm)=(試料中のn-ドデカンの質量/試料中の製品1,3-ブチレングリコールの質量)×10(2)
【0035】
[ガスクロマトグラフィー分析2]
実施例1~3および比較例1で原料となる粗1,3-ブチレングリコールと実施例1~3および比較例1で得られた製品1,3-ブチレングリコールについて、以下の方法に従ってガスクロマトグラフィー分析2を行った。
(ガスクロマトグラフィー分析2の条件)
分析装置:Agilent Technologies社製 7890B ガスクロマトグラフィーSystem
分析カラム:Agilent Technologies社製 DB-WAX(固定相がポリエチレングリコールであるカラム;長さ30m×内径0.25mm×膜厚0.25μm)
昇温条件:5℃/分で80℃から230℃まで昇温した後、230℃で10分間保持
試料導入温度:250℃
キャリアガス:窒素
カラムのガス流量:0.5mL/分
検出器及び検出温度:水素炎イオン化検出器(FID)、250℃
コントロールモード:コンスタントフロー
スプリット比:50:1
試料注入条件:1μL
【0036】
[皮膚感作性試験]
実施例1~3および比較例1で得られた製品1,3-ブチレングリコールについて、以下の方法に従って皮膚感作性を評価した。
(皮膚感作性試験の条件)
スクラム社製DPRA用システイン含有ペプチド15mgと、0.05Mリン酸緩衝液30mLとを混合し、当該ペプチドを0.667mM含有する0.05Mリン酸緩衝液溶液(以下、ペプチド溶液)を調製した。ペプチド溶液を調製してから1時間経過後、3つのHPLC用褐色サンプル瓶のそれぞれに、ペプチド溶液750μLと、アセトニトリル250μLとを入れ、基準溶液を3つ調製した。基準溶液を調製してから2時間経過後、別のHPLC用褐色サンプル瓶に、ペプチド溶液750μLと、アセトニトリル200μLと、1,3-ブチレングリコール50μLとを入れ検体溶液を調製した(検体溶液1)。さらに基準溶液を調製してから4時間経過後および6時間経過後に、同様の操作で検体溶液を調製した(検体溶液2および検体溶液3)。3つの基準溶液と検体溶液(検体溶液1、検体溶液2、検体溶液3)のそれぞれについて、各溶液を調製してから72±2時間経過後にHPLC分析により測定し、基準溶液と検体溶液のペプチドのピーク高さの3回平均値をそれぞれ算出した。算出した3回平均値より、下記式(3)を用いてペプチド減少率を算出し、評価結果とした。

ペプチド減少率(%)=(検体溶液のペプチドのピーク高さの3回平均値/基準溶液のペプチドのピーク高さの3回平均値)×100 (3)

本試験は再現性の観点から、基準とする比較例1の製品1,3-ブチレングリコールの検体溶液と実施例1~3の製品1,3-ブチレングリコールの各検体溶液をそれぞれ同日に試験した。

(皮膚感作性試験におけるHPLC分析の条件)
分析装置:Agilent Technologies社製 Agilent 1260 InfinityII
検出器:Agilent Technologies社製 Agilent 1260 InfinityII UV-Vis検出器 G7114A
検出波長:220nm
分析カラム:Agilent Technologies社製 Zorbax SB-C-18(粒子径3.5μm、内径×長さ=2.1mm×10mm)
カラム温度:30℃
測定時間:20min
移動相:
A 0.1体積%トリフルオロ酢酸水溶液
B 0.085体積%トリフルオロ酢酸アセトニトリル溶液
グラジエント:
A/B=90/10~75/25(10min)
A/B=75/25~10/90(1min)
A/B=10/90(2min)
A/B=10/90~90/10(0.5min)
A/B=90/10(6.5min)
移動相流量:0.35mL/min
試料注入条件:5μL
【0037】
[塩基性着色試験]
実施例1~3及び比較例1で得られた製品1,3-ブチレングリコールについて、以下の方法に従って塩基性条件下での着色を評価した。
(塩基性着色試験の条件)
100mL耐熱メジューム瓶に水13gと水酸化カリウム2gを加え混合し、さらに対象となる製品1,3-ブチレングリコール6gを加えた。次いで、耐熱メジューム瓶をウォータバスに浸け、90℃で1時間加熱処理を行った。室温まで冷却後、日本電色社製の分光色彩計SE2000で加熱処理後の溶液の色彩度(b*)を測定し、評点とした。
【0038】
[実施例1]
(水添処理工程)
エヌ・イーケムキャット社製0.5%Pd/C触媒10mLを充填した触媒層に、粗1,3-ブチレングリコールをLHSV8.0h-1、水素ガスをGHSV420h-1となるよう流通させ、水素還元を実施した(水素添加処理)。反応時の水素圧力は0.7MPaであり、反応温度は135℃に設定した。
【0039】
得られた製品1,3-ブチレングリコールについて、ガスクロマトグラフィー分析1を行った結果、n-ドデカンの相対保持時間を1.00とした場合に、相対保持時間0.80~0.99に検出され、メチルエチルケトンと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体のピークを除いたピークのn-ドデカン換算濃度の和は21ppm(不純物濃度A)であった。また、2-エチルクロトンアルデヒドのピーク、及びn-ブチルアルデヒドと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体のピークのn-ドデカン換算濃度の和は12ppm(不純物濃度B)であった。
製品1,3-ブチレングリコールについて、ガスクロマトグラフィー分析2を行った結果、製品1,3-ブチレングリコールのピークの面積率は99.6%であった。
製品1,3-ブチレングリコールについて皮膚感作性試験を行ったところ、ペプチド減少率は比較例1の結果を基準に100とした場合の相対値は45であった。また、塩基性着色試験を行ったところ、色彩度(b*)は2.8であった。
製品1,3-ブチレングリコールに関するこれらの結果を表1に示す。
【0040】
[実施例2]
水添処理工程の反応温度を125℃とした以外は実施例1と同様に行った。
【0041】
得られた製品1,3-ブチレングリコールについて、ガスクロマトグラフィー分析1を行った結果、n-ドデカンの相対保持時間を1.00とした場合に、相対保持時間0.80~0.99に検出され、メチルエチルケトンと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体のピークを除いたピークのn-ドデカン換算濃度の和は18ppm(不純物濃度A)であった。また、2-エチルクロトンアルデヒドのピーク、及びn-ブチルアルデヒドと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体のピークのn-ドデカン換算濃度の和は10ppm(不純物濃度B)であった。
製品1,3-ブチレングリコールについて、ガスクロマトグラフィー分析2を行った結果、製品1,3-ブチレングリコールのピークの面積率は99.6%であった。
製品1,3-ブチレングリコールについて皮膚感作性試験を行ったところ、ペプチド減少率は比較例1の結果を基準に100とした場合の相対値は43であった。また、塩基性着色試験を行ったところ、色彩度(b*)は3.2であった。
【0042】
[実施例3]
(加熱処理工程)
100℃に加熱した槽に、粗1,3-ブチレングリコールを滞留時間が1時間となるよう流通させ、加熱処理を実施した。
【0043】
(水添処理工程)
水添処理工程の原料に上記加熱処理工程で得られた1,3-ブチレングリコールを使用し、水添処理工程の反応温度を100℃とした以外は実施例1と同様に行った。
【0044】
(脱低沸蒸留工程)
上記の水添処理工程で得られた1,3-ブチレングリコールを充填高さ415mmになるように3mmサイズのディクソンパッキンを充填した高さ500mmの充填塔(内径22mm)を取り付けた蒸留装置で、オイルバス温度126℃、圧力1.6kPaで脱低沸蒸留を行い、蒸留装置塔頂から仕込液量に対し、重量率10%の留出液を留去し、蒸留装置塔底より製品1,3-ブチレングリコールを得た。
得られた製品1,3-ブチレングリコールについて、ガスクロマトグラフィー分析1を行った結果、n-ドデカンの相対保持時間を1.00とした場合に、相対保持時間0.80~0.99に検出され、メチルエチルケトンと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体のピークを除いたピークのn-ドデカン換算濃度の和は0ppm(不純物濃度A)であった。また、2-エチルクロトンアルデヒドのピーク、及びn-ブチルアルデヒドと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体のピークのn-ドデカン換算濃度の和は0ppm(不純物濃度B)であった。
製品1,3-ブチレングリコールについて、ガスクロマトグラフィー分析2を行った結果、製品1,3-ブチレングリコールのピークの面積率は99.7%であった。
製品1,3-ブチレングリコールについて皮膚感作性試験を行ったところ、ペプチド減少率は比較例1の結果を基準に100とした場合の相対値は22であった。また、塩基性着色試験を行ったところ、色彩度(b*)は0.7であった。
【0045】
[比較例1]
水素還元における触媒をClariant社製 NiSAT340(組成;NiO、SiO、Al等)としたこと以外は実施例1と同様に行った。
【0046】
得られた製品1,3-ブチレングリコールについて、ガスクロマトグラフィー分析1を行った結果、n-ドデカンの相対保持時間を1.00とした場合に、相対保持時間0.80~0.99に検出され、メチルエチルケトンと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体のピークを除いたピークのn-ドデカン換算濃度の和は28ppm(不純物濃度A)であった。また、2-エチルクロトンアルデヒドのピーク、及びn-ブチルアルデヒドと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体のピークのn-ドデカン換算濃度の和は27ppm(不純物濃度B)であった。
製品1,3-ブチレングリコールについて、ガスクロマトグラフィー分析2を行った結果、製品1,3-ブチレングリコールのピークの面積率は99.6%であった。
製品1,3-ブチレングリコールについて皮膚感作性試験を行い、得られたペプチド減少率を実施例と相対比較する際の基準となる100とした。また、塩基性着色試験を行ったところ、色彩度(b*)は19.6であった。
【0047】
【表1】
【0048】
本出願は、2022年5月23日に日本国特許庁へ出願された日本特許出願(特願2022-083950)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の1,3-ブチレングリコールは、合成樹脂の原料、界面活性剤の原料、溶媒、不凍液、化粧品原料等としての産業上利用可能性を有する。
【手続補正書】
【提出日】2023-12-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記条件下のスプリットレス注入法によるガスクロマトグラフィー分析において、
n-ドデカンの相対保持時間を1.00としたときに、相対保持時間が0.80~0.99の範囲に現れるピークのうち、メチルエチルケトンと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体のピークを除いたピークのn-ドデカン換算濃度の和が0質量ppm超25質量ppm以下であり、かつ、
2-エチルクロトンアルデヒドのピーク、及びn-ブチルアルデヒドと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体のピークのn-ドデカン換算濃度の和が0質量ppm超20質量ppm以下であり、

[ガスクロマトグラフィー分析の条件]
分析カラム:固定相が(50%シアノプロピル-フェニル)ジメチルポリシロキサンであるカラム(長さ30m×内径0.25mm×膜厚0.25μm)
昇温条件:50℃で5分間保持した後、10℃/分で50℃から135℃まで昇温し、135℃で9分間保持した後、15℃/分で135℃から220℃まで昇温して220℃で12分間保持
試料導入温度:220℃
キャリアガス:窒素
カラムのガス流量:0.5mL/分
検出器及び検出温度:水素炎イオン化検出器(FID)、220℃
コントロールモード:コンスタントフロー
スプリット比:スプリットレス
注入口ベントパージ:60mL/分
パージ開始時間:1分
試料注入条件:0.6μL
試料調製:内部標準物質であるn-ドデカンを2-プロパノールで24質量ppmに希釈し内部標準溶液を調製した後、製品1,3-ブチレングリコール0.5gと前記内部標準溶液0.1gとを混合することで試料を調製する。
n-ドデカン換算濃度の和の算出:前記ガスクロマトグラフィー分析条件で検出されるn-ドデカンの相対保持時間を1.00とした場合に、相対保持時間0.80~0.99の範囲に検出され、メチルエチルケトンと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体のピークを除いたピークの合計面積値(検出ピーク面積値)を下記式(1)を用いてn-ドデカン換算濃度の和に変換し、前記ガスクロマトグラフィー分析条件で検出される2-エチルクロトンアルデヒドのピークと、n-ブチルアルデヒドと1,3-ブチレングリコールとのアセタール体のピークとの合計面積値(検出ピーク面積値)を下記式(1)を用いてn-ドデカン換算濃度の和に変換する。

n-ドデカン換算濃度の和(質量ppm)=n-ドデカン濃度(質量ppm)×検出ピーク面積値/n-ドデカンの面積値(1)

ここで、n-ドデカン濃度(質量ppm)とは、下記式(2)を用いて算出する値である。

n-ドデカン濃度(質量ppm)=(試料中のn-ドデカンの質量/試料中の製品1,3-ブチレングリコールの質量)×106 (2)

下記条件下におけるガスクロマトグラフィー分析において1,3-ブチレングリコールのピークの面積率が99.5%以上である、製品1,3-ブチレングリコール組成物

[ガスクロマトグラフィー分析の条件]
分析カラム:固定相がポリエチレングリコールであるカラム(長さ30m×内径0.25mm×膜厚0.25μm)
昇温条件:5℃/分で80℃から230℃まで昇温した後、230℃で10分間保持
試料導入温度:250℃
キャリアガス:窒素
カラムのガス流量:0.5mL/分
検出器及び検出温度:水素炎イオン化検出器(FID)、250℃
コントロールモード:コンスタントフロー
スプリット比:50:1
試料注入条件:1μL