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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039076
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】混構造建築物
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/30 20060101AFI20240314BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
E04B1/30 B
E04B1/58 600A
E04B1/58 600E
E04B1/58 506N
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143352
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大島 睦巳
(72)【発明者】
【氏名】中島 崇裕
(72)【発明者】
【氏名】清水 悟
(72)【発明者】
【氏名】教誓 勉
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA03
2E125AA13
2E125AA53
2E125AA57
2E125AB12
2E125AC23
2E125AE07
2E125AF01
2E125AF05
2E125AG03
2E125AG04
2E125AG12
2E125AG13
2E125AG41
2E125BA41
2E125BB16
2E125BE07
2E125CA05
2E125CA13
2E125CA19
(57)【要約】
【課題】非木造系の建物構造の中に、木造建物を、比較的高い自由度で構築可能な、混構造建築物を提供する。
【解決手段】混構造建築物1は、非木造系の建物構造20と、木造建物30とを備え、非木造系の建物構造20を構成する架構21の内側に、木造建物30が構築され、木造建物30を構成する柱31、梁32、壁33及び床34のうち少なくとも複数の部位が、鋼製の接合具50を介して、建物構造20に接合されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非木造系の建物構造と、木造建物との混構造建築物であって、
前記非木造系の前記建物構造を構成する架構の内側に、前記木造建物が構築され、
前記木造建物を構成する柱、梁、壁及び床のうち少なくとも複数の部位が、鋼製の接合具を介して、前記建物構造に接合されている
ことを特徴とする混構造建築物。
【請求項2】
前記接合具は、ボルト、または緊張材であり、
前記接合具の一端は、前記木造建物側に固定され、他端は、前記建物構造に埋設されて定着されるか、または、前記建物構造に設けられる貫通孔に挿通されてナットにより固定されている
ことを特徴とする請求項1に記載の混構造建築物。
【請求項3】
前記木造建物は複数の階層を有し、前記建物構造の複数の階層に跨って構築され、
前記木造建物が跨って構築される前記複数の階層の間においては、前記建物構造には梁及び床スラブが設けられていないことを特徴とする請求項1または2に記載の混構造建築物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非木造(RC造、SRC造)系の建物架構の内部側に、木造建物が設けられる混構造建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート造や鉄骨造等の、非木造系の建物構造と、木造の建物構造とを、混在させて、建築物を構築することがある。
例えば特許文献1には、下部構造体と、下部構造体の上に設けられた上部構造体とを有し、上部構造体が、例えば木造等により、下部構造体の材質よりも軽い材質で構成されている混構造建築物が開示されている。
また、特許文献2には、木造軸組工法や2×4(ツーバイフォー)工法と、鉄筋コンクリートラーメン工法とによる混構造が開示されている。より詳しくは、この混構造においては、1階部分を鉄骨造や鉄筋コンクリート造とし、2~3階部分を木造で建設する構成が開示されている。
また、特許文献3には、多層の人工地盤における各層の鉄筋コンクリート造の床上に、木造の住戸が建設される構成が開示されている。
【0003】
ここで、上記のような、非木造系の建物構造と木造の建物構造とを混在させた建築物として、複数の住戸を備えた集合住宅を建設し、顧客から、住戸を木造にしたいとの要望があれば、これに応じて、当該顧客の住戸のみを木造建築とすることが考えられる。このような場合に、非木造系の建物構造の中に、木造建物を、比較的高い自由度で構築することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-3208号公報
【特許文献2】特開2005-83187号公報
【特許文献3】特開平7-4057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、非木造系の建物構造の中に、木造建物を、比較的高い自由度で構築可能な、混構造建築物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の混構造建築物は、非木造系の建物構造と、木造建物との混構造建築物であって、前記非木造系の前記建物構造を構成する架構の内側に、前記木造建物が構築され、前記木造建物を構成する柱、梁、壁及び床のうち少なくとも複数の部位が、鋼製の接合具を介して、前記建物構造に接合されていることを特徴とする。
このような構成によれば、非木造系の建物構造を構成する架構の内側に、木造建物を構築することで、混構造建築物を施工することができる。このため、非木造系の建物構造の架構に大きく干渉しない程度であれば、非木造系の建物構造内の所望の場所に、所望の大きさで、木造建物を構築することができる。したがって、非木造系の建物構造の中に、木造建物を、比較的高い自由度で構築することができる。
また、木造建物を構成する柱、梁、壁及び床のうち少なくとも複数の部位を、鋼製の接合具を介して、建物構造に接合することで、木造建物と建物構造とを強固に接合することができる。このため、地震発生時に、建物構造と木造建物との間に生じるせん断力に対し、効率的に抵抗することができる。
【0007】
本発明の一態様においては、前記接合具は、ボルト、または緊張材であり、前記接合具の一端は、前記木造建物側に固定され、他端は、前記建物構造に埋設されて定着されるか、または、前記建物構造に設けられる貫通孔に挿通されてナットにより固定されている。
このような構成によれば、ボルト、または緊張材からなる接合具の一端を、木造建物側に固定し、他端を、建物構造に埋設して定着、または建物構造に設けられる貫通孔に挿通してナットにより固定することで、接合具を介して、木造建物を建物架構と強固に接合できる。
【0008】
本発明の一態様においては、前記木造建物は複数の階層を有し、前記建物構造の複数の階層に跨って構築され、前記木造建物が跨って構築される前記複数の階層の間においては、前記建物構造には梁及び床スラブが設けられていない。
このような構成によれば、非木造系の建物構造を構成する架構の内側に、複数の階層を有した木造建物を構築することで、木造建物を、より高い自由度で提供することができる。建物構造の、木造建物が跨って構築される複数の階層の間において、木造建物が位置する部分に建物構造の梁及び床スラブを設けないことで、建物構造の梁及び床スラブとの干渉を考慮する必要がなくなる。このため、複数の階層を有した木造建物の設計、施工を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、非木造系の建物構造の中に、木造建物を、比較的高い自由度で構築可能な、混構造建築物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る混構造建築物の構成を示す断面図である。
図2図1の混構造建築物の上層階の一部を示す断面図である。
図3図1の混構造建築物の上層階の平断面図である。
図4】本発明の実施形態に係る混構造建築物の建物構造と木造建物との接合部を示す断面図である。
図5】上記建物構造の床スラブに設けられた貫通孔を示す平断面図である。
図6】上記建物構造の壁に設けられた貫通孔を示す斜視図である。
図7】本発明の実施形態に係る混構造建築物の第1変形例の構成を示す断面図である。
図8】本発明の実施形態に係る混構造建築物の第2変形例の構成を示す断面図である。
図9】本発明の実施形態に係る混構造建築物の第3変形例の構成を示す断面図である。
図10】本発明の実施形態に係る混構造建築物の第4変形例の構成を示す断面図である。
図11】上記混構造建築物の評価例を示す図であり、入力した地震波に対して各階層に生じる加速度を示す図である。
図12】上記混構造建築物の評価例を示す図であり、入力した地震波に対して各階層に生じる水平変位を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、非木造(RC造、SRC造)系の建物構造を構成する架構の内部側に、木造建物が設けられる混構造建築物である。具体的には、木造建物を構成する柱、梁、壁及び床のうち少なくとも複数の部位が、鋼製の接合具(ボルト、緊張材)を介して建物構造に接合されている。
以下、添付図面を参照して、本発明による混構造建築物を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
本発明の実施形態に係る混構造建築物を示す縦断面図を図1に示す。図2は、図1の混構造建築物の上層階の一部を示す断面図である。図3は、図1の混構造建築物の上層階の平断面図である。
図1に示されるように、混構造建築物1は、地盤G中に構築された基礎部2と、基礎部2上に構築された建物本体10と、を主に備えている。なお、建物本体10の一部は、地盤G中に形成された地下部を備えていてもよい。
建物本体10は、非木造系の建物構造20と、木造建物30と、を備えている。
建物構造20は、柱22と、梁23とを備えた架構21を有している。建物構造20は、木造系以外の非木造系である。建物構造20は、例えば、鉄筋コンクリート造、鉄筋鉄骨コンクリート造、鉄骨造、及びこれらを適宜組み合わせた構造とされている。柱22は、水平方向に間隔をあけて複数配置されている。各柱22は、上下方向に延びている。各柱22は、鉄筋コンクリート柱、鉄筋鉄骨コンクリート柱、鉄骨柱、鋼管柱のいずれかである。梁23は、水平方向で隣り合う柱22同士の間に配置され、その両端部が柱22に接合されている。各梁23は、水平方向に延びている。各梁23は、鉄筋コンクリート梁、鉄筋鉄骨コンクリート梁、鉄骨梁のいずれかである。建物構造20は、上下方向に複数の階層Fを有している。本実施形態においては、建物構造20は、4以上の階層Fを有するように構築されている。建物構造20の階層Fは、3以下であっても構わない。各梁23は、基本的に、各階層Fごとに設けられている。
このような架構21は、木造建物30よりも高い強度、及び剛性を有している。建物構造20の架構21は、木造建物30よりも高い耐震性を有している。建物構造20の架構21は、木造建物30よりも高い強度、及び剛性を有している。
建物構造20は、床スラブ25、及び壁26をさらに備えている。床スラブ25は、各階層Fの梁23上に設けられている。床スラブ25は、鉄筋コンクリート床、プレキャストコンクリート床等からなる。壁26は、鉄筋コンクリート壁、プレキャストコンクリート壁等からなる。
【0012】
木造建物30は、非木造系の建物構造20を構成する架構21の内側に構築されている。木造建物30は、架構21を構成する複数の柱22、及び複数の梁23によって囲まれた、架構21の内部の空間に構築されている。木造建物30は、下方に設けられた床スラブ25Aと、上方に設けられた床スラブ25Bとの間に設けられている。木造建物30は、下方に設けられた床スラブ25Aを人工地盤として、床スラブ25A上に構築されている。
図3に示されるように、木造建物30は、平面視で、複数の柱22の間に設けられた複数の壁26によって、全周が囲まれている。つまり、木造建物30は、建物本体10の外方に向かって露出していない。ただし、図2に示されるように、建物構造20の壁26においては、木造建物30の玄関や窓が設けられる部分に対向する部位に、開口部29が形成されている。
このようにして、木造建物30は、上下をコンクリート製の床スラブ25で、側方をコンクリート製の壁26で、それぞれ囲われて設けられている。
【0013】
複数の木造建物30は、柱31、梁32、壁33及び床34が、それぞれ木造とされている。木造建物30は、在来軸組工法、2×4工法、CLT(Cross Laminated Timber)工法等の、木造建築で用いられる各種の工法により構築され得る。柱31は、水平方向に間隔をあけて複数配置されている。各柱31は、上下方向に延びている。梁32は、水平方向で隣り合う柱31同士の間に配置され、その両端部が柱31に接合されている。各梁32は、水平方向に延びている。壁33は、水平方向で隣り合う2本の柱31と、互いに上下に位置する2本の梁32との間に設けられている。床34は、梁32上に、または梁32間に、設けられている。
木造建物30は、上下に複数の階層Jを有していてもよい。本実施形態において、図2に示される木造建物30A、30Bは、2つの階層J1、J2を有した、いわゆる2階建てとされている。また、木造建物30Cは、2つの階層J1、J2と、ロフトとして用いられる階層J3と、を有している。梁32及び床34は、木造建物30(30A、30B、30C)の階層数に応じて設けられている。
また、木造建物30は、階層J間を昇降するための階段36、各階層Jの室内空間を仕切る図示されない仕切壁等を適宜備えている。
【0014】
木造建物30が複数の階層Jを有している場合、木造建物30は、建物構造20の複数の階層Fに跨って構築してもよい。建物構造20において、木造建物30が跨って構築される複数の階層Fの間においては、木造建物30が位置する部分に梁23及び床スラブ25が設けられていない。つまり、建物構造20の内部には、建物構造20の複数の階層Fに跨って構築される木造建物30を収容するため、建物構造20の複数の階層Fに跨がって連通する、無梁・無床の収容空間Sが形成されている。
ただし、建物構造20の架構21における耐震強度等を確保するため、例えば、建物構造20の上層部20tにのみ、木造建物30を配置するようにしてもよい。より具体的には、本実施形態のように、建物構造20が4以上の階層Fを有するように構築されている場合、木造建物30は、建物構造20の、上から4階層以内の階層Fに構築するのが好ましい。特に、混構造建築物1が、高層、または超高層である場合、建物構造20の上層部20tにおいては、地震発生時に作用する地震力が小さくなるため、本実施形態のように無梁・無床の収容空間Sを形成するために、梁23及び床スラブ25を設けないようにしても、建物構造20の耐震性能への影響が少なくて済む。
【0015】
特に本実施形態においては、既に説明したように、建物構造20は、4以上の階層Fを有するように構築されている。このような建物に対しては、建物の最上層から数えて4層以内を1時間耐火構造とすることが求められることがある。このような場合において、建物構造20の上層部20tに木造建物30を設けつつも、木造建物30が、上下をコンクリート製の床スラブ25で、側方をコンクリート製の壁26で、囲われて設けられた構造とすることで、木造建物30の耐火性能を確保して、1時間耐火の要件を満たすような構造とすることができる。
耐震強度上、あるいは耐火構造上において、問題が無いようであれば、木造建物30は、建物構造20の上層部20t以外の部分に設けられてもよい。例えば、木造建物30は、建物構造20の下層部や、下層部と上層部20tの間の中層部等に設けられても構わない。基本的に、木造建物30は、建物構造20のどの階層Fに設けられても構わない。例えば、建物構造20の階層Fが4である場合に、木造建物30が、建物構造20の1階、2階、3階、4階のいずれかの階層Fのみに設けられてもよいし、これらのなかの複数の階層Fに設けられてもよい。階層Fが4以外の建物構造20においても同様であるのは言うまでもない。
【0016】
このような木造建物30は、例えば、各木造建物30に入居する入居者の要望に応じた階層数、間取り等とすることができる。このため、例えば、建物構造20内の複数の住戸の全てが、上記したような木造建物30であってもよいし、建物構造20内の複数の住戸のうちの一部の住戸が、上記したような木造建物30であってもよい。
また、建物構造20内に複数の木造建物30が設けられている場合、複数の木造建物30間で、階層数、間取り、各階層の床面積等は異なっていてもよい。
【0017】
図4は、本発明の実施形態に係る混構造建築物の建物構造と木造建物との接合部を示す断面図である。
図2図4に示すように、木造建物30は、鋼製の接合具50を介して、建物構造20に接合されている。木造建物30は、木造建物30を構成する柱31、梁32、壁33及び床34のうち少なくとも複数の部位が、接合具50を介して、建物構造20に接合されている。木造建物30は、特に、木造建物30の下端部において、柱31の柱脚部、土台としての梁32や床34、壁33の下端等が、接合具50を介して建物構造20に接合されているのが好ましい。木造建物30は、上側の床スラブ25Bの下方に配置された梁32や天井35、壁33の上端等が、接合具50を介して、建物構造20に接合されていてもよい。木造建物30において、床34や壁33が、接合具50を介して、建物構造20に接合される場合、床34や壁33を、木造でありながら高い強度を有するCLTにより形成するようにしてもよい。
木造建物30は、建物構造20の、柱22、梁23、床スラブ25、及び壁26の、いずれか、またはいずれかの組み合わせに対して、接合具50によって接合されている。木造建物30は、建物構造20の、床スラブ25、壁26よりも、柱22、梁23に対して接合されるのが、より好ましい。
【0018】
図5は、上記建物構造の床スラブに設けられた貫通孔を示す平断面図である。図6は、上記建物構造の壁に設けられた貫通孔を示す斜視図である。
接合具50としては、例えば、緊張材51(図4参照)を用いることができる。この場合、木造建物30を構成する柱31、梁32、壁33、床34、天井35に対向する、建物構造20の壁26、床スラブ25等には、図5図6に示されるように、緊張材51を挿通するための貫通孔28が形成されている。貫通孔28は、壁26、床スラブ25を厚さ方向に貫通している。
例えば、木造建物30の床34、及び天井35を、建物構造20の床スラブ25に、接合具50を介して接合する場合、木造建物30の上下に位置して、床34、天井35に対向する床スラブ25に、図5に示されるように、貫通孔28を形成する。また、木造建物30の床34、天井35には、貫通孔28に連通する位置に、接合具挿通孔38(図4参照)が形成される。
また、例えば、木造建物30の壁33を、建物構造20の壁26に、接合具50を介して接合する場合、木造建物30の側方に位置して、壁33に対向する建物構造20の壁26に、図6に示されるように、貫通孔28を形成する。また、木造建物30の壁33には、貫通孔28に連通する位置に、接合具挿通孔が形成されている。
緊張材51は、各接合具挿通孔38と、貫通孔28に挿通されている。緊張材51の一端は、木造建物30に設けられる接合具挿通孔38に挿通されて、ナット52が螺着されることにより、木造建物30側に固定されている。緊張材51の他端は、建物構造20に設けられる貫通孔28に挿通されて、その先端部にナット53が締着されることにより、建物構造20側に固定されている。これにより、接合具50を構成する緊張材51に緊張力が導入され、接合具50を介して、木造建物30が建物架構21に強固に接合されている。
なお、木造建物30を、建物構造20に接合するのに用いられる接合具50の配置、数は、適宜変更可能である。
【0019】
上述したような混構造建築物1は、非木造系の建物構造20と、木造建物30との混構造建築物1であって、非木造系の建物構造20を構成する架構21の内側に、木造建物30が構築され、木造建物30を構成する柱31、梁32、壁33及び床34のうち少なくとも複数の部位が、鋼製の接合具50を介して、建物構造20に接合されている。
このような構成によれば、非木造系の建物構造20を構成する架構21の内側に、木造建物30を構築することで、混構造建築物1を施工することができる。このため、非木造系の建物構造20の架構21に大きく干渉しない程度であれば、非木造系の建物構造20内の所望の場所に、所望の大きさで、木造建物30を構築することができる。したがって、非木造系の建物構造20の中に、木造建物30を、比較的高い自由度で構築することができる。
また、木造建物30を構成する柱31、梁32、壁33及び床34のうち少なくとも複数の部位を、鋼製の接合具50を介して、建物構造20に接合することで、木造建物30と建物構造20とを強固に接合することができる。このため、地震発生時に、建物構造20と木造建物30との間に生じるせん断力に対し、効率的に抵抗することができる。
【0020】
また、接合具50は、緊張材51であり、接合具50の一端は、木造建物30側に固定され、他端は、建物構造20に設けられる貫通孔28に挿通されてナット53により固定されている。
このような構成によれば、緊張材51からなる接合具50の一端を、木造建物30側に固定し、他端を、建物構造20に設けられる貫通孔28に挿通してナット53により固定することで、接合具50を介して、木造建物30を建物架構21と強固に接合できる。
【0021】
また、木造建物30は複数の階層Jを有し、建物構造20の複数の階層Fに跨って構築され、木造建物30が跨って構築される複数の階層Fの間においては、建物構造20には梁23及び床スラブ25が設けられていない。
このような構成によれば、非木造系の建物構造20を構成する架構21の内側に、複数の階層Jを有した木造建物30を構築することで、木造建物30を、より高い自由度で提供することができる。建物構造20の、木造建物30が跨って構築される複数の階層Fの間において、木造建物30が位置する部分に建物構造20の梁23及び床スラブ25を設けないことで、建物構造20の梁23及び床スラブ25との干渉を考慮する必要がなくなる。このため、複数の階層Jを有した木造建物30の設計、施工を容易に行うことができる。
【0022】
また、非木造系の建物構造20は、鉄筋コンクリート造、鉄筋鉄骨コンクリート造、鉄骨造のいずれか、またはいずれかの組み合わせにより構築されている。
このような構成によれば、建物構造20の耐震性を、木造建物30よりも高いものとすることができる。
【0023】
特に、木造建物30は、上下をコンクリート製の床スラブ25で、側方をコンクリート製の壁26で、それぞれ囲われて設けられている。
このような構成によれば、木造建物30は、コンクリート製の床スラブ25及び壁26によって囲われた空間Sに設けられているため、木造建物30の耐火性能を確保することができる。
【0024】
また、本実施形態においては、木造建物は、建物構造20の上層部20tのみに設けられている。
混構造建築物1が、高層、または超高層である場合、建物構造20の上層部20tにおいては、地震発生時に作用する地震力が小さくなるため、本実施形態のように無梁・無床の収容空間Sを形成するために、梁23及び床スラブ25を設けないようにしても、建物構造20の耐震性能への影響が少なくて済む。
また、高所に木造の構造を設けるに際し、本実施形態の木造建物30においては、建物構造20の床スラブ25上で構築作業を行うことができるため、例えば木造のみで多層の建物を建築する場合に比べると、高所作業が削減され、作業安全性が高まる。
ただし、既に説明したように、木造建物30が、建物構造20の上層部20t以外の部分に設けられるような形態であっても構わない。
【0025】
(実施形態の第1変形例)
なお、本発明の混構造建築物は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
上記実施形態では、接合具50として、緊張材51を用いたが、これに限らない。
図7は、本発明の実施形態に係る混構造建築物の第1変形例の構成を示す断面図である。
本変形例においては、接合具50Bは、アンカーボルト(ボルト)55である。接合具50Bは、木造建物30の梁32や床34を、建物構造20の梁23や床スラブ25に固定する。アンカーボルト55の一端は、木造建物30に設けられる接合具挿通孔38に挿通されて、ナット56が螺着されることにより、木造建物30側に固定されている。建物構造20の梁23や床スラブ25には、穴27が形成されている。アンカーボルト55の他端は、この穴27に挿入されている。アンカーボルト55と穴27の間には、グラウト等の充填剤65が設けられている。このようにして、アンカーボルト55の他端は、建物構造20に埋設され、定着されている。
アンカーボルト55は、位置ずれ防止のためのジベル61を挿通するように設けられている。ジベル61は、床34の下面に形成された凹部34dに収容されるように設けられている。
【0026】
このように、本変形例においては、接合具50Bは、アンカーボルト(ボルト)55であり、接合具50Bの一端は、木造建物30側に固定され、他端は、建物構造20に埋設されている。
このような構成によれば、アンカーボルト(ボルト)55からなる接合具50Bの一端を、木造建物30側に固定し、他端を、建物構造20に埋設させることで、接合具50Bを介して、木造建物30を建物架構21と強固に接合できる。
【0027】
(実施形態の第2変形例)
図8は、本発明の実施形態に係る混構造建築物の第2変形例の構成を示す断面図である。
図8に示すように、先ず始めに、木造建物30の柱31や梁32、壁33、床34の下面に、断面H型、あるいは断面コ字型の鉄骨やアングル材からなる接合金物71を、ラグスクリューボルト72によって取り付け、その後、この接合金物71を、接合具50Cとしてアンカーボルト(ボルト)75を用いて、建物構造20の梁23や床スラブ25に定着させるようにしてもよい。この場合、予め、建物構造20にアンカーボルト75の一端を埋設させておき、当該一端は、接合金物71を介して木造建物30側に固定されている。アンカーボルト75の他端には、ナット等の定着部76が、アンカーボルト75が拡径するように設けられて接合されており、アンカーボルト75の他端と定着部76が共に、建物構造20の梁23や床スラブ25に埋設され、定着されている。
【0028】
(実施形態の第3変形例)
図9は、本発明の実施形態に係る混構造建築物の第3変形例の構成を示す断面図である。
また、図9に示すように、建物構造20と、木造建物30とを備える混構造建築物1Bの建物本体10は、基礎部2上に、免震装置80を介して設けられていてもよい。これにより、地震発生時に、建物構造20、及び建物構造20内に設けられた木造建物30に及ぶ地震力を低減することができ、混構造建築物1Bの耐震性をさらに高めることができる。
【0029】
(実施形態の第4変形例)
図10は、本発明の実施形態に係る混構造建築物の第4変形例の構成を示す断面図である。
また、図10に示すよう混構造建築物1Cのように、内部に木造建物30が設けられた建物構造20において、木造建物30に対して、柱31や壁33を挟んで隣接するように設けられた、例えば制振ブレース91を備えた制振部材90と、制振部材90が設けられた階層Fの下側の階層Fに備えられた制振間柱92と、を備えるようにしてもよい。
【0030】
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
例えば、上記実施形態においては、木造建物30が、上下をコンクリート製の床スラブ25で、側方をコンクリート製の壁26で、それぞれ囲われて設けられた構造としていたが、十分な耐火、耐振性能が実現されるようであれば、木造建物30の一部の外壁を、コンクリート製の壁で覆わないような構成としてもよい。この場合においては、例えば混構造建築物1の外壁や共用廊下に相当して位置する部分の木造建物30の外壁を、コンクリート製の壁で覆わずに、木造建物30の外壁が外部や共用廊下に露出するように構成すれば、混構造建築物1の外観の一部を木表しとすることができる。
【0031】
(評価例)
上記したような混構造建築物1、1B、1Cについて、比較評価検討を行ったので、その結果を以下に示す。
上記したような混構造建築物1のような耐震構造の評価モデルと、上記したような免震装置80を備えた混構造建築物1Bのような免震構造の評価モデルについて、「神戸波」の地震波形を入力し、その応答をシミュレーションにより推定した。耐震構造の評価モデル、免震構造の評価モデルは、いずれも33階建ての鉄筋コンクリート造の建物構造20を備えるものとした。
図11は、上記混構造建築物の評価例を示す図であり、入力した地震波に対して各階層に生じる加速度を示す図である。図12は、上記混構造建築物の評価例を示す図であり、入力した地震波に対して各階層に生じる水平変位を示す図である。
その結果、図11図12に示されるように、地震入力による加速度、水平変位ともに、特に高層階において、免震構造とした評価モデルの方が良好な結果を示した。このことから、高層の建物構造20内に木造建物30を設ける場合、免震装置80を備えるのが望ましいことが推察される。
【符号の説明】
【0032】
1、1B、1C 混構造建築物 32 梁
20 建物構造 33 壁
21 架構 34 床
22 柱 50、50B、50C 接合具
23 梁 51 緊張材
25、25A、25B 床スラブ 53 ナット
26 壁 55、75 アンカーボルト(ボルト)
28 貫通孔 F 建物構造の階層
30、30A~30C 木造建物 J、J1、J2 木造建物の階層
31 柱
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12