(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039083
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】肌状態特徴量推定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20240314BHJP
A61B 5/107 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
G01N33/50 Q
A61B5/107 800
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143364
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】591230619
【氏名又は名称】株式会社ナリス化粧品
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 広之
(72)【発明者】
【氏名】森田 美穂
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健成
(72)【発明者】
【氏名】松ヶ下 かおり
【テーマコード(参考)】
2G045
4C038
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045CB09
2G045DA36
2G045DA80
2G045FA01
2G045FA11
4C038VA04
4C038VB22
4C038VC05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明の課題は、低侵襲的に採取・利用できる被験者の肌表面の角層を使用して、簡易な肌状態特徴量推定方法を提供することである。
【解決手段】本発明者らは、鋭意検討した結果、角層細胞の輪郭特徴量は、角層細胞の輪郭特徴量毎に、肌状態特徴量と特有の相関性を有することを見出し、本発明を完成した。
【効果】本発明により、被験者の肌表面から低侵襲で簡易的に採取可能な角層を用い、特殊な染色を行わなくとも、輪郭特徴量を解析することで、簡易的な肌状態特徴量の推定方法を提供でき、例えば専用の機器を用いた測定を行わずとも、自宅のテープを顔面に貼ることで採取した角層を解析機関に送るだけで各種の肌状態特徴量の推定が可能になる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
角層細胞の輪郭特徴量と、肌状態特徴量との相関関係に基づいて、角層細胞の輪郭特徴量を指標とする、肌状態特徴量の推定方法 (ただし、医療行為を除く)。
【請求項2】
前記角層細胞の輪郭特徴量が、角層細胞の径特徴量、外形特徴量、重なり特徴量、および径特徴量・外形特徴量・重なり特徴量それぞれの不揃い度特徴量から選ばれる1種以上である請求項1に記載の肌状態特徴量の推定方法(ただし、医療行為を除く)。
【請求項3】
前記角層細胞の輪郭特徴量が、角層細胞の径特徴量、外形特徴量、重なり特徴量、および径特徴量・外形特徴量・重なり特徴量それぞれの不揃い度特徴量から選ばれる1種以上である請求項1に記載の肌状態特徴量の推定方法であって、
前記径特徴量が長径および短径から選ばれる1種以上であり、
前記外形特徴量が円形率、真円率および正六角形率から選ばれる1種以上であり、
前記重なり特徴量が重なり距離、重なり面積および重なり率から選ばれる1種以上であり、
前記不揃い度特徴量が長径のばらつき、短径のばらつき、円形率のばらつき、真円率のばらつき、正六角形率のばらつき、重なり距離のばらつき、重なり面積のばらつき、および重なり率のばらつきから選ばれる1種以上である肌状態特徴量の推定方法(ただし、医療行為を除く)。
【請求項4】
前記肌状態特徴量が、保湿特徴量、肌表面画像特徴量、および肌内部状態特徴量から選ばれる1種以上である請求項1~請求項3いずれかに記載の肌状態特徴量の推定方法(ただし、医療行為を除く)。
【請求項5】
前記肌状態特徴量が、保湿特徴量、肌表面画像特徴量、および肌内部状態特徴量から選ばれる1種以上である請求項1~請求項3いずれかに記載の肌状態特徴量の推定方法であって、
前記保湿特徴量が角層水分量および経皮水分蒸散量から選ばれる1種以上であり、
前記肌表面画像特徴量がシミ量、ポルフィリン量、彩度、赤み、およびたるみの外向性度から選ばれる1種以上であり、
前記肌内部状態特徴量がコラーゲン量、角層厚、および弾力から選ばれる1種以上である肌状態特徴量の推定方法(ただし、医療行為を除く)。
【請求項6】
請求項1~請求項3 いずれかの肌状態特徴量の推定方法を用い、肌状態特徴量を改善する剤をスクリーニングする方法。
【請求項7】
請求項4の肌状態特徴量の推定方法を用い、肌状態特徴量を改善する剤をスクリーニングする方法。
【請求項8】
請求項5の肌状態特徴量の推定方法を用い、肌状態特徴量を改善する剤をスクリーニングする方法。
【請求項9】
複数の被験者の肌から採取した角層細胞の輪郭特徴量を説明変数とし、測定した肌状態特徴量の測定値を目的変数として得られる回帰式に、特定の被験者の角層細胞の輪郭特徴量を代入して算出される数値を被験者の肌状態特徴量の測定値と推定する、肌状態特徴量の測定値の推定方法(ただし、医療行為を除く)。
【請求項10】
前記角層細胞の輪郭特徴量として、角層細胞の径特徴量、外形特徴量、重なり特徴量、および径特徴量・外形特徴量・重なり特徴量それぞれの不揃い度特徴量から選ばれる1種以上を説明変数とする請求項9に記載の肌状態特徴量の測定値の推定方法(ただし、医療行為を除く)。
【請求項11】
前記角層細胞の輪郭特徴量として、角層細胞の
径特徴量、外形特徴量、重なり特徴量、および径特徴量・外形特徴量・重なり特徴量それぞれの不揃い度特徴量から選ばれる1種以上を説明変数とする請求項9に記載の肌状態特徴量の測定値の推定方法であって、
前記径特徴量が長径および短径から選ばれる1種以上を、
前記外形特徴量が円形率、真円率および正六角形率から選ばれる1種以上を、
前記重なり特徴量が重なり距離、重なり面積および重なり率から選ばれる1種以上を、
前記不揃い度特徴量が長径のばらつき、短径のばらつき、円形率のばらつき、真円率のばらつき、正六角形率のばらつき、重なり距離のばらつき、重なり面積のばらつき、および重なり率のばらつきから選ばれる1種以上を説明変数とする肌状態特徴量の測定値の推定方法(ただし、医療行為を除く)。
【請求項12】
前記肌状態特徴量として、保湿特徴量、肌表面画像特徴量、および肌内部状態特徴量から選ばれる1種以上を目的変数とする請求項9~請求項11いずれかに記載の肌状態特徴量の測定値の推定方法(ただし、医療行為を除く)。
【請求項13】
前記肌状態特徴量として、保湿特徴量、肌表面画像特徴量、および肌内部状態特徴量から選ばれる1種以上を目的変数とする請求項9~請求項11いずれかに記載の肌状態特徴量の測定値の推定方法であって、
前記保湿特徴量が角層水分量および経皮水分蒸散量から選ばれる1種以上を、
前記肌表面画像特徴量がシミ量、ポルフィリン量、彩度、赤み、およびたるみの外向性度から選ばれる1種以上を、
前記肌内部状態特徴量がコラーゲン量、角層厚、および弾力から選ばれる1種以上を目的変数とする肌状態特徴量の測定値の推定方法(ただし、医療行為を除く)。
【請求項14】
複数の被験者の肌から採取した角層細胞の輪郭特徴量を説明変数とし、測定した肌状態特徴量の測定値を目的変数として得られる回帰式に、特定の被験者の角層細胞の輪郭特徴量を代入して算出される数値を被験者の肌状態特徴量の測定値と推定する、肌状態特徴量の測定値の推定方法であって、
角層細胞の輪郭特徴量として、角層細胞の長径、短径、円形率、真円率、正六角形率、重なり距離、円形率のばらつき、真円率のばらつき、正六角形率のばらつき、長径のばらつき、および短径のばらつきから選ばれる1種以上を説明変数とし、
肌状態特徴量として、経皮水分蒸散量を目的変数とする肌状態特徴量の測定値の推定方法(ただし、医療行為を除く)。
【請求項15】
複数の被験者の肌から採取した角層細胞の輪郭特徴量を説明変数とし、測定した肌状態特徴量の測定値を目的変数として得られる回帰式に、特定の被験者の角層細胞の輪郭特徴量を代入して算出される数値を被験者の肌状態特徴量の測定値と推定する、肌状態特徴量の測定値の推定方法であって、
角層細胞の輪郭特徴量として、円形率、真円率、および正六角形率から選ばれる1種以上を説明変数とし、
肌状態特徴量として、角層水分量を目的変数とする肌状態特徴量の測定値の推定方法(ただし、医療行為を除く)。
【請求項16】
複数の被験者の肌から採取した角層細胞の輪郭特徴量を説明変数とし、測定した肌状態特徴量の測定値を目的変数として得られる回帰式に、特定の被験者の角層細胞の輪郭特徴量を代入して算出される数値を被験者の肌状態特徴量の測定値と推定する、肌状態特徴量の測定値の推定方法であって、
角層細胞の輪郭特徴量として、重なり距離、および長径のばらつきから選ばれる1種以上を説明変数とし、
肌状態特徴量として、コラーゲン量を目的変数とする肌状態特徴量の測定値の推定方法(ただし、医療行為を除く)。
【請求項17】
複数の被験者の肌から採取した角層細胞の輪郭特徴量を説明変数とし、測定した肌状態特徴量の測定値を目的変数として得られる回帰式に、特定の被験者の角層細胞の輪郭特徴量を代入して算出される数値を被験者の肌状態特徴量の測定値と推定する、肌状態特徴量の測定値の推定方法であって、
角層細胞の輪郭特徴量として、円形率、正六角形率、および円形率のばらつきから選ばれる1種以上を説明変数とし、
肌状態特徴量として、ポルフィリン量を目的変数とする肌状態特徴量の測定値の推定方法。
【請求項18】
複数の被験者の肌から採取した角層細胞の輪郭特徴量を説明変数とし、測定した肌状態特徴量の測定値を目的変数として得られる回帰式に、特定の被験者の角層細胞の輪郭特徴量を代入して算出される数値を被験者の肌状態特徴量の測定値と推定する、肌状態特徴量の測定値の推定方法であって、
角層細胞の輪郭特徴量として、重なり距離のばらつき、および重なり率のばらつきから選ばれる1種以上を説明変数とし、
肌状態特徴量として、シミ量を目的変数とする肌状態特徴量の測定値の推定方法(ただし、医療行為を除く)。
【請求項19】
複数の被験者の肌から採取した角層細胞の輪郭特徴量を説明変数とし、測定した肌状態特徴量の測定値を目的変数として得られる回帰式に、特定の被験者の角層細胞の輪郭特徴量を代入して算出される数値を被験者の肌状態特徴量の測定値と推定する、肌状態特徴量の測定値の推定方法であって、
角層細胞の輪郭特徴量として、円形率、真円率、および正六角形率から選ばれる1種以上を説明変数とし、
肌状態特徴量として、彩度を目的変数とする肌状態特徴量の測定値の推定方法(ただし、医療行為を除く)。
【請求項20】
複数の被験者の肌から採取した角層細胞の輪郭特徴量を説明変数とし、測定した肌状態特徴量の測定値を目的変数として得られる回帰式に、特定の被験者の角層細胞の輪郭特徴量を代入して算出される数値を被験者の肌状態特徴量の測定値と推定する、肌状態特徴量の測定値の推定方法であって、
角層細胞の輪郭特徴量として、円形率、真円率、正六角形率、円形率のばらつき、真円率のばらつき、および正六角形率のばらつきから選ばれる1種以上を説明変数とし、
肌状態特徴量として、赤みを目的変数とする肌状態特徴量の測定値の推定方法(ただし、医療行為を除く)。
【請求項21】
複数の被験者の肌から採取した角層細胞の輪郭特徴量を説明変数とし、測定した肌状態特徴量の測定値を目的変数として得られる回帰式に、特定の被験者の角層細胞の輪郭特徴量を代入して算出される数値を被験者の肌状態特徴量の測定値と推定する、肌状態特徴量の測定値の推定方法であって、
角層細胞の輪郭特徴量として、重なり率のばらつきを説明変数とし、
肌状態特徴量として、弾力を目的変数とする肌状態特徴量の測定値の推定方法(ただし、医療行為を除く)。
【請求項22】
複数の被験者の肌から採取した角層細胞の輪郭特徴量を説明変数とし、測定した肌状態特徴量の測定値を目的変数として得られる回帰式に、特定の被験者の角層細胞の輪郭特徴量を代入して算出される数値を被験者の肌状態特徴量の測定値と推定する、肌状態特徴量の測定値の推定方法であって、
角層細胞の輪郭特徴量として、真円度を説明変数とし、
肌状態特徴量として、たるみの外向性度を目的変数とする肌状態特徴量の測定値の推定方法(ただし、医療行為を除く)。
【請求項23】
請求項9、10、11、14、15、16、17、18、19、20、21および22いずれかの肌状態特徴量の測定値の推定方法を用い、肌状態特徴量を改善する剤をスクリーニングする方法。
【請求項24】
請求項12の肌状態特徴量の測定値の推定方法を用い、肌状態特徴量を改善する剤をスクリーニングする方法。
【請求項25】
請求項13の肌状態特徴量の測定値の推定方法を用い、肌状態特徴量を改善する剤をスクリーニングする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角層細胞を分析することで肌状態特徴量を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
肌(皮膚)は人体が外気と接する表層から順に表皮、真皮、皮下組織の3層から構成されている。表皮は、ケラチノサイト(角化細胞)という細胞からなり、真皮に近い深部から基底層、有棘層、顆粒層、角層(角質層)に分類される。表皮では分裂によりケラチノサイトが基底層から角層に向けて押し上げられ、角層最表層ではいわゆる垢として剥がれ落ちる。
【0003】
角層は、肌の最表面に存在し、低侵襲的に測定が可能となることから、これまでも肌状態の推定において、利用が検討されており、例えば、角層の重層度や有核細胞率から肌状態を推定する手法が検討されてきた。また、角層中のメラニンや酸化タンパク質を選択的に染色や標識し、測定することによる、肌内部のメラニンや酸化タンパク量の間接的な推定方法が知られる(特許文献1、2)。
【0004】
角層に存在する細胞(角層細胞)の大きさには個人差や部位差があり、ターンオーバーが遅いほど角層細胞面積が大きくなることが知られるため、ターンオーバーの速度を測定する指標として用いられることがある。また、角層細胞面積の大きさや面積の均一性がバリア機能や保水能力と関連していることも知られている(特許文献3、4)。このように、面積に関する指標が肌状態の推定にたびたび利用される一方で、面積を除く角層細胞の形状と肌状態との関連についてはこれまで知られていなかった。
【0005】
また、角層細胞はターンオーバーに従って徐々に扁平化し、隣接する細胞と重なり合うように存在しているが、これらの重なりと肌状態との関連はこれまで知られていなかった。
【0006】
肌状態は角層水分量、角層水分蒸散量、弾力、毛穴状態、明るさ、赤み、黄みなど多岐に渡るが、被験者に対して専用の測定機器を使うことなく、手軽に各種肌状態を推定することはこれまで困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6-82443
【特許文献2】特開2006-349372
【特許文献3】特開2005-172481
【特許文献4】特開2005-189011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、低侵襲的に採取・利用できる被験者の肌表面の角層を使用して、簡易な肌状態特徴量の推定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、角層細胞の輪郭特徴量は、角層細胞の輪郭特徴量毎に、肌状態特徴量と特有の相関性を有することを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、被験者の肌表面から低侵襲で簡易的に採取可能な角層を用い、特殊染色を行わなくとも、輪郭特徴量を解析することで、簡易的な肌状態特徴量の推定方法を提供でき、例えば専用の機器を用いた測定を行わずとも、自宅のテープを顔面に貼ることで採取した角層を解析機関に送るだけで各種の肌状態特徴量の推定が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】角層細胞の長径と短径を算出する方法に関する図である。
【
図2】角層細胞の正六角形率を算出する方法に関する図である。
【
図3】角層細胞の重なり距離を算出する方法に関する図である。
【
図4】角層細胞の重なり面積と重なり率を算出する方法に関する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
角層細胞の輪郭情報から得られる特徴量である輪郭特徴量と、肌状態特徴量との関連性を調査したところ、角層細胞の輪郭特徴量は、角層細胞の輪郭特徴量毎に、肌状態特徴量との特有の相関を示し、角層細胞の輪郭特徴量と肌状態特徴量には密接な関係があることが明らかとなった。これらの見出した関係性を利用すれば、角層細胞の輪郭特徴量から、肌状態特徴量を推定することが可能となることから本発明に至った。
【0013】
角層細胞の輪郭特徴量と肌状態特徴量とに相関関係があれば、それはどちらか一方が変化すれば、他方も変化する関係が成り立っているといえるため、その相関関係に基づいて、角層細胞の輪郭特徴量を指標とすることで、肌状態特徴量を推定することができるようになる。例えば、本発明では角層細胞の輪郭特徴量である真円率と、肌状態特徴量である赤みに負の相関があることが判明しているため、真円率の測定値を赤みの指標として用いることができ、真円率が高いほど赤みが低いと推定することができる。
【0014】
また、角層細胞の輪郭特徴量と肌状態特徴量を基に求められたあてはまりのよい回帰式において、特定の被験者の肌から採取した角層細胞の輪郭特徴量を変数として該回帰式に代入して算出される値は被験者の肌状態特徴量に相応する値となることから、複数の被験者の肌から採取した角層細胞の輪郭特徴量を説明変数とし、測定した肌状態特徴量の測定値を目的変数として得られる回帰式に、特定の被験者の角層細胞の輪郭特徴量を代入して算出される数値を被験者の肌状態特徴量の測定値と推定することが可能となる。また、推定する肌状態特徴量と相関する複数の角層細胞の輪郭特徴量から、重回帰式を求めることで、より高い精度で肌状態特徴量の推定に利用することができる。
【0015】
上述のような、肌状態特徴量の推定方法を用いれば、角層細胞の輪郭特徴量を経時的に測定することで、肌状態特徴量の変化を判断することが可能となり、肌状態特徴量を改善する剤のスクリーニングの実施が可能となる。例えば、本発明では角層細胞の輪郭特徴量である真円率と、肌状態特徴量である赤みに負の相関があることが判明しているが、この相関関係に基づいて肌状態特徴量を推定すれば、被験物質を塗布した部位の真円率を測定し、任意の時間をおいた後に真円率が大きくなれば、赤みを改善させることができる剤であると判断するスクリーニングを実施することが可能となる。
【0016】
本発明において指標とする角層細胞の輪郭特徴量とは、角層細胞の輪郭情報から読み取れる面積以外の特徴量を指し、径特徴量、外形特徴量、重なり特徴量、および径特徴量・外形特徴量・重なり特徴量それぞれの不揃い度特徴量が含まれる。
【0017】
角層細胞の輪郭特徴量である径特徴量とは、角層細胞の中心(重心、もしくは内心、もしくは外心)を通り、両端が角層細胞の輪郭上にある線分、もしくは角層細胞を楕円近似した際に、楕円の中心を通り、両端が楕円輪郭上にある線分である径の長さの特徴量である。最長の径を長径、最短の径を短径とする。本発明で指標とする角層細胞の長径及び短径の測定方法は特に限定されないが、例えば、
図1に示すように、2つの同心円で角層細胞を内側と外側から挟んだ場合に、2つの同心円の間隔が最小となる外接円及び内接円の直径を測定し、それぞれを長径、短径とすることで求められる。もしくは
図1に示すように角層細胞を楕円近似して、楕円の長径と短径を角層細胞の長径と短径として把握することもできる。
【0018】
角層細胞の輪郭特徴量である外形特徴量とは、角層細胞の輪郭情報から読み取ることができる、面積を除く形状に関する特徴量であり、円形率、真円率、正六角形率が含まれる。円形率は角層細胞の輪郭形状の複雑さを表す数値であり測定方法は特に限定されないが、一般的には円形率=4π×S÷L2(Sは角層細胞の面積、Lは角層細胞の周囲長)で表され、値が高いほど形状が複雑ではない、すなわち円形率が高いと把握される。真円率は幾何学的に正しい円からの狂いの大きさを表す数値であり、測定方法は特に限定されないが、例えば段落0017で求めた角層細胞の長径と短径の比率や差が小さいほど真円率が高いと把握することができる。正六角形率は角層細胞を正六角形に近似した際の近似率を示し、測定方法は特に限定されないが、例えば、
図2に示すように角層細胞と同じ面積を持つ正六角形の重心を揃えて重ね、最も重複面積が広くなるように回転させた際の、重複率を正六角形率として把握することができる。なお、重複率は
図2において斜線範囲で示される共通部の面積を、太線で示される角層細胞輪郭もしくは破線で示される正六角形で囲まれる面積で除することで算出することができる。
【0019】
角層細胞の輪郭特徴量である重なり特徴量とは、肌表面側を上とした際に、隣り合った細胞同士の重なりの程度に関する特徴量を指す。この重なり特徴量は、上下関係にある細胞間の剥離がうまくいかないことにより、テープストリッピングの際に複数層の角層細胞がまとめて剥がれてしまう重層度や重層剥離量と言われる、これまで利用されてきたほぼ単層で剥離してくる角層細胞に対する重層して剥離する角層細胞の程度に関する特徴量とは異なるものである。3枚以上の細胞が重なりあう場合にも、重なりあう2細胞が複数組あると捉えて、それぞれの組み合わせごとに重なりが存在すると判断できる。重なり特徴量には重なり距離、重なり面積、重なり率が含まれる。重なり距離は、ある角層細胞が隣り合った他の角層細胞と重なっている部分の幅を表す距離である。具体的には、例えば、
図3に示すように、2つの角層細胞の輪郭が重なる2点(図中A、B)を結ぶ直線(図中で破線で示した線)を引いた場合に、当該直線と平行を成し、かつ、当該直線と垂直な方向に掛けて最遠な重なり部分の2点をそれぞれ通る、2本の平行直線(図中C、D)の間の距離である。なお、3点以上が重なる場合は、もっとも離れた2点を、輪郭が重なる2点とみなす。重なり面積は、角層細胞が隣り合った他の角層細胞と重なっている範囲の面積である。
図4に重なり面積および重なり率について図示する。まず
図4の角層細胞の重なり面積を算出する場合、例えば、重なりあう2細胞の輪郭から、斜線範囲で示す重なり部分の面積を重なり面積として把握できる。次に重なり率について、重なり率は、角層細胞の面積に対し、隣り合った他の角層細胞と重なっている部分の面積の割合である。
図4をもとに角層細胞の重なり率を算出する場合、例えば、角層細胞面積に対する、斜線範囲で示す重なり部分の面積の割合を算出することができる。この際、重なり部分が一つであるのに対し、角層細胞は二つ(A、B)あるため、それぞれの角層細胞面積を基準とした重なり率として、一組の重なりの組み合わせごとに二つの重なり率が得られる。もしくは、重なり部分の面積から、二つの角層細胞の面積の平均値を除することで、一組の重なりの組み合わせについて一つの重なり率として把握することもできる(
図4参照)。
【0020】
角層細胞の輪郭特徴量である径特徴量・外形特徴量・重なり特徴量それぞれの不揃い度特徴量とは、角層細胞の径特徴量・外形特徴量・重なり特徴量を同一被験範囲内から複数測定した際に生じるばらつきのことであり、変動係数や標準偏差、標準誤差などから選択できる。径特徴量・外形特徴量・重なり特徴量それぞれの不揃い度特徴量には、長径のばらつき、短径のばらつき、円形率のばらつき、真円率のばらつき、正六角形率のばらつき、重なり距離のばらつき、重なり率のばらつきが含まれる。径特徴量・外形特徴量・重なり特徴量それぞれの不揃い度特徴量を算出する際には、例えば同一被験範囲で10個以上の角層細胞の径特徴量・外形特徴量・重なり特徴量を算出し、それぞれの変動係数や標準偏差、標準誤差を求めることで径特徴量・外形特徴量・重なり特徴量それぞれの不揃い度特徴量とすることができる。
【0021】
本発明において指標とする角層細胞の輪郭特徴量の把握・数値化の方法は特に限定されない。例えば、テープストリッピングで角層細胞を被験部より採取して、染色することで輪郭特徴量を明瞭化し、顕微鏡で観察・撮影することで把握が可能となる。数値化に際しては、取得した角層画像中の各細胞の輪郭を手書きでなぞる、もしくは自動的に角層細胞の輪郭を抽出するアルゴリズムを使用し、角層細胞の輪郭特徴量の数値化を行うことができる。
【0022】
解析に必要な角層細胞数としては、同一人物同一部位でも角層細胞の輪郭特徴量には多少のばらつきが生じるため、角層細胞の輪郭特徴量を把握する際には、同一被験範囲で、複数の角層細胞を解析することが望ましく、10個以上、可能であれば50個以上、さらには100個以上の角層細胞を解析することがよりいっそう望ましい。
【0023】
解析対象となる角層細胞は正確に輪郭を測定できるものが望ましく、ちぎれ、折れ曲がりなどがあることにより、ターンオーバーにより肌表面に現れた直後の輪郭を正確に把握できない角層細胞は解析対象外とすることが望ましい。また、テープストリッピングで角層を採取した際に、深さ方向に複数枚の角層細胞が重なって、重層剥離の状態で採取される際など、最表面の角層細胞を選択的に測定できない場合は解析対象から除外することが望ましい。
【0024】
肌状態特徴量とは、肌の物理的な状態、光学的な状態、成分存在状態などに関する肌の状態を指す特徴量であり、保湿特徴量、肌表面画像特徴量、および肌内部状態特徴量が含まれる。本発明による肌状態特徴量の推定においては、相関関係に基づいて、角層細胞の輪郭特徴量を指標として推定しても良いし、複数の被験者の肌から採取した角層細胞の輪郭特徴量を説明変数とし、測定した肌状態特徴量の測定値を目的変数として得られる回帰式に、特定の被験者の角層細胞の輪郭特徴量を代入して算出される数値を被験者の肌状態特徴量の測定値と推定してもよい。推定に際しては、基準を設けて複数段階に分かれたランク付けとして推定しても良いし、他の比較対象との比較による高低として推定しても良い。また、本発明において、肌状態特徴量は主に推定対象となるが、角層細胞の輪郭特徴量との相関係数を算出する場合や、肌状態特徴量の測定値を算出するための回帰式を作成する場合などには、実際に肌状態特徴量を測定して、角層細胞の輪郭特徴量と照らし合わせることで実施が可能となる。
【0025】
肌状態特徴量である保湿特徴量とは、肌の角層水分量や、角層水分量を維持する能力のことであり、いわゆる保湿に関する特徴量を指す。保湿特徴量には、角層水分量、経皮水分蒸散量が含まれる。角層水分量とは、角層中に含まれる水分量のことである。測定方法は特に問われず、例えば電気伝導率や静電容量、誘電率などの電気的指標、近赤外線、ラマン散乱などの光学的手法を利用することで測定が可能となる。経表皮水分蒸散量(TEWL)は、体内から角層を通じて揮散する水分量である。単位面積あたり、単位時間あたりの水分の重量で表される。測定方法は特に問われず、例えば水分蒸散量測定プローブで測定され得る。
【0026】
肌状態特徴量である肌表面画像特徴量とは、肌表面状態を視覚的に、もしくは撮影することで画像として把握した際に、判定することが可能な肌の状態に関する特徴量を指す。肌表面画像特徴量には、シミ量、ポルフィリン量、彩度、赤みなど、肌表面の画像を取得し、その画像の色調から算出が可能となる画像色調特徴量に加え、たるみの外向性度が含まれる。シミ量とは、主に加齢に伴って増加する老人性色素斑やニキビなどの炎症に伴う炎症性色素沈着など、肌にメラニンが蓄積することで部分的に肌の色が茶色や黒くなるシミの被験面積あたりの量のことを指す。測定方法は特に問われず、例えば被験者の平均的な肌の色や明るさに対し、設けた基準以上に黒いもしくは暗い部分をシミと判断し、シミの面積率をシミ量とすることができる。ポルフィリン量は、アクネ菌の代謝産物であり、活性酸素の発生源としても知られるポルフィリンの被験面積あたりの量である。測定方法は特に問われず、例えばUV光に応答して光る性質を利用して測定することが可能である。彩度は、肌表面の鮮やかさを指し、赤みは、赤方向の色度である。測定方法は特に問われず、例えば肉眼やマイクロスコープによる観察で、鮮やか、赤いと感じる度合いを、基準を決めて数値化しても良いし、L*a*b*表色系(L*:明度、a*:赤方向の色あい、b*:黄方向の色あいをそれぞれ表す)におけるa*、b*を被験部で推定し、a*の2乗とb*の2乗の和の平方根を彩度、a*を赤みとして把握してもよい。たるみの方向性とは、頬がたるみにより、下に下がった際に、顔の内側(中心)方向に動くか、外側方向に動くかの方向性のことであり、本発明で推定するたるみの外向性度とは、たるみの方向性が外側方向である度合いである。たるみの外向性度が高ければ、外側に向けてたるみが生じている、いわゆるブルドッグ型のたるみがあるといえ、一方で、たるみの外向性度が低ければ、内側に向けてたるみが生じている、いわゆるコケ・凹み型の顔であるといえる。また、たるみの方向性は、たるみの大きさの影響を受けないため、目視では分かりづらい、軽微なたるみ型の違いの判別にも利用できる。本発明におけるたるみの外向性度の測定方法は特に問われず、例えば、頬にマークした点や円が、仰臥位から座位に体勢を変えた際に、外側に動く程度を測定することで把握できる。
【0027】
肌状態特徴量である肌内部状態特徴量とは、肌表面から視覚的に把握することが難しい、肌内部の成分状態や物理特性に関する特徴量を指す。肌内部状態特徴量にはコラーゲン量、角層厚、弾力が含まれる。コラーゲン量とは、真皮に存在するコラーゲンの量を示す。コラーゲン量の測定方法は特に問われず、例えば、肌内部に発射した超音波の反響の強度から推定することができる。角層厚は肌の表皮に存在する角層の厚さを示す。測定方法は特に問われず、例えば、共焦点レーザー顕微鏡を用いて、赤外線を照射して、その反射像から角層厚を推定しても良いし、共焦点ラマン分光法等により、深さ方向の質量含水率勾配を測定し、質量含水率勾配の変曲点を求めることで、角層厚を推定することもできる。弾力とは肌において、ひずみを与える外力をはね返そうとする力や、外力による変形から元に戻ろうとする力を指す。測定方法は特に問われず、例えば、先端に開口部があるプローブを肌にあて、陰圧により開口部から肌表面を一定時間吸引し、その後開放した際の、吸引による肌表面の変位の少なさや、開放後に元の状態に戻る速度などから推定できる。
【0028】
本発明では、角層細胞の輪郭情報から得られる特徴量である輪郭特徴量と、肌状態特徴量との関連性を調査した。その結果、後述する実施例に示すように、角層細胞の輪郭特徴量は、以下に列挙する組み合わせにおいて肌状態特徴量と相関があり、指標とする角層細胞の輪郭特徴量毎に、それらと対応する肌状態特徴量を推定できることが認められた。
〔1〕角層細胞の輪郭特徴量である長径を指標とすることで、肌状態特徴量である経皮水分蒸散量を推定できる。
〔2〕角層細胞の輪郭特徴量である短径を指標とすることで、肌状態特徴量である経皮水分蒸散量を推定できる。
〔3〕角層細胞の輪郭特徴量である円形率を指標とすることで、肌状態特徴量である経皮水分蒸散量を推定できる。
〔4〕角層細胞の輪郭特徴量である真円率を指標とすることで、肌状態特徴量である経皮水分蒸散量を推定できる。
〔5〕角層細胞の輪郭特徴量である正六角形率を指標とすることで、肌状態特徴量である経皮水分蒸散量を推定できる。
〔6〕角層細胞の輪郭特徴量である重なり面積を指標とすることで、肌状態特徴量である経皮水分蒸散量を推定できる。
〔7〕角層細胞の輪郭特徴量である円形率のばらつきを指標とすることで、肌状態特徴量である経皮水分蒸散量を推定できる。
〔8〕角層細胞の輪郭特徴量である真円率のばらつきを指標とすることで、肌状態特徴量である経皮水分蒸散量を推定できる。
〔9〕角層細胞の輪郭特徴量である正六角形率のばらつきを指標とすることで、肌状態特徴量である経皮水分蒸散量を推定できる。
〔10〕角層細胞の輪郭特徴量である円形率を指標とすることで、肌状態特徴量である角層水分量を推定できる。
〔11〕角層細胞の輪郭特徴量である真円率を指標とすることで、肌状態特徴量である角層水分量を推定できる。
〔12〕角層細胞の輪郭特徴量である正六角形率を指標とすることで、肌状態特徴量である角層水分量を推定できる。
〔13〕角層細胞の輪郭特徴量である重なり距離を指標とすることで、肌状態特徴量であるコラーゲン量を推定できる。
〔14〕角層細胞の輪郭特徴量である長径のばらつきを指標とすることで、肌状態特徴量であるコラーゲン量を推定できる。
〔15〕角層細胞の輪郭特徴量である円形率を指標とすることで、肌状態特徴量であるポルフィリン量を推定できる。
〔16〕角層細胞の輪郭特徴量である正六角形率を指標とすることで、肌状態特徴量であるポルフィリン量を推定できる。
〔17〕角層細胞の輪郭特徴量である円形率のばらつきを指標とすることで、肌状態特徴量であるポルフィリン量を推定できる。
〔18〕角層細胞の輪郭特徴量である重なり距離のばらつきを指標とすることで、肌状態特徴量であるシミ量を推定できる。
〔19〕角層細胞の輪郭特徴量である重なり率のばらつきを指標とすることで、肌状態特徴量であるシミ量を推定できる。
〔20〕角層細胞の輪郭特徴量である円形率を指標とすることで、肌状態特徴量である彩度を推定できる。
〔21〕角層細胞の輪郭特徴量である真円率を指標とすることで、肌状態特徴量である彩度を推定できる。
〔22〕角層細胞の輪郭特徴量である正六角形率を指標とすることで、肌状態特徴量である彩度を推定できる。
〔23〕角層細胞の輪郭特徴量である円形率を指標とすることで、肌状態特徴量である赤みを推定できる。
〔24〕角層細胞の輪郭特徴量である真円率を指標とすることで、肌状態特徴量である赤みを推定できる。
〔25〕角層細胞の輪郭特徴量である正六角形率を指標とすることで、肌状態特徴量である赤みを推定できる。
〔26〕角層細胞の輪郭特徴量である円形率のばらつきを指標とすることで、肌状態特徴量である赤みを推定できる。
〔27〕角層細胞の輪郭特徴量である真円率のばらつきを指標とすることで、肌状態特徴量である赤みを推定できる。
〔28〕角層細胞の輪郭特徴量である正六角形率のばらつきを指標とすることで、肌状態特徴量である赤みを推定できる。
〔29〕角層細胞の輪郭特徴量である重なり率のばらつきを指標とすることで、肌状態特徴量である弾力を推定できる。
〔30〕角層細胞の輪郭特徴量である長径のばらつきを指標とすることで、肌状態特徴量である経皮水分蒸散量を推定できる。
〔31〕角層細胞の輪郭特徴量である短径のばらつきを指標とすることで、肌状態特徴量である経皮水分蒸散量を推定できる。
〔32〕角層細胞の輪郭特徴量である円形率を指標とすることで、肌状態特徴量である角層厚を推定できる。
〔33〕角層細胞の輪郭特徴量である真円率を指標とすることで、肌状態特徴量であるシミ量を推定できる。
〔34〕角層細胞の輪郭特徴量である短径のばらつきを指標とすることで、肌状態特徴量である赤みを推定できる。
〔35〕角層細胞の輪郭特徴量である短径のばらつきを指標とすることで、肌状態特徴量である赤みを推定できる。
〔36〕角層細胞の輪郭特徴量である真円度を指標とすることで、肌状態特徴量であるたるみの外向性度を推定できる。
【0029】
さらに、本発明で得られた相関関係に基づくと、後述する実施例にて示す(表1および2参照)ように、複数人の角層細胞の輪郭特徴量から、指標とする角層細胞の輪郭特徴量毎に、それらと対応する肌状態特徴量を以下のように比較推定できる。
〔1〕角層細胞の輪郭特徴量である長径を指標として、値が高いほど肌状態特徴量である経皮水分蒸散量が低いと推定できる。
〔2〕角層細胞の輪郭特徴量である短径を指標として、値が高いほど肌状態特徴量である経皮水分蒸散量が低いと推定できる。
〔3〕角層細胞の輪郭特徴量である円形率を指標として、値が高いほど肌状態特徴量である経皮水分蒸散量が低いと推定できる。
〔4〕角層細胞の輪郭特徴量である真円率を指標として、値が高いほど肌状態特徴量である経皮水分蒸散量が低いと推定できる。
〔5〕角層細胞の輪郭特徴量である正六角形率を指標として、値が高いほど肌状態特徴量である経皮水分蒸散量が低いと推定できる。
〔6〕角層細胞の輪郭特徴量である重なり面積を指標として、値が高いほど肌状態特徴量である経皮水分蒸散量が低いと推定できる。
〔7〕角層細胞の輪郭特徴量である円形率のばらつきを指標として、値が高いほど肌状態特徴量である経皮水分蒸散量が高いと推定できる。
〔8〕角層細胞の輪郭特徴量である真円率のばらつきを指標として、値が高いほど肌状態特徴量である経皮水分蒸散量が高いと推定できる。
〔9〕角層細胞の輪郭特徴量である正六角形率のばらつきを指標として、値が高いほど肌状態特徴量である経皮水分蒸散量が高いと推定できる。
〔10〕角層細胞の輪郭特徴量である円形率を指標として、値が高いほど肌状態特徴量である角層水分量が低いと推定できる。
〔11〕角層細胞の輪郭特徴量である真円率を指標として、値が高いほど肌状態特徴量である角層水分量が低いと推定できる。
〔12〕角層細胞の輪郭特徴量である正六角形率を指標として、値が高いほど肌状態特徴量である角層水分量が低いと推定できる。
〔13〕角層細胞の輪郭特徴量である重なり距離を指標として、値が高いほど肌状態特徴量であるコラーゲン量が低いと推定できる。
〔14〕角層細胞の輪郭特徴量である長径のばらつきを指標として、値が高いほど肌状態特徴量であるコラーゲン量が高いと推定できる。
〔15〕角層細胞の輪郭特徴量である円形率を指標として、値が高いほど肌状態特徴量であるポルフィリン量が低いと推定できる。
〔16〕角層細胞の輪郭特徴量である正六角形率を指標として、値が高いほど肌状態特徴量であるポルフィリン量が低いと推定できる。
〔17〕角層細胞の輪郭特徴量である円形率のばらつきを指標として、値が高いほど肌状態特徴量であるポルフィリン量が高いと推定できる。
〔18〕角層細胞の輪郭特徴量である重なり距離のばらつきを指標として、値が高いほど肌状態特徴量であるシミ量が高いと推定できる。
〔19〕角層細胞の輪郭特徴量である重なり率のばらつきを指標として、値が高いほど肌状態特徴量であるシミ量が高いと推定できる。
〔20〕角層細胞の輪郭特徴量である円形率を指標として、値が高いほど肌状態特徴量である彩度が低いと推定できる。
〔21〕角層細胞の輪郭特徴量である真円率を指標として、値が高いほど肌状態特徴量である彩度が低いと推定できる。
〔22〕角層細胞の輪郭特徴量である正六角形率を指標として、値が高いほど肌状態特徴量である彩度が低いと推定できる。
〔23〕角層細胞の輪郭特徴量である円形率を指標として、値が高いほど肌状態特徴量である赤みが低いと推定できる。
〔24〕角層細胞の輪郭特徴量である真円率を指標として、値が高いほど肌状態特徴量である赤みが低いと推定できる。
〔25〕角層細胞の輪郭特徴量である正六角形率を指標として、値が高いほど肌状態特徴量である赤みが低いと推定できる。
〔26〕角層細胞の輪郭特徴量である円形率のばらつきを指標として、値が高いほど肌状態特徴量である赤みが高いと推定できる。
〔27〕角層細胞の輪郭特徴量である真円率のばらつきを指標として、値が高いほど肌状態特徴量である赤みが高いと推定できる。
〔28〕角層細胞の輪郭特徴量である正六角形率のばらつきを指標として、値が高いほど肌状態特徴量である赤みが高いと推定できる。
〔29〕角層細胞の輪郭特徴量である重なり率のばらつきを指標として、値が高いほど肌状態特徴量である弾力が低いと推定できる。
〔30〕角層細胞の輪郭特徴量である長径のばらつきを指標として、値が高いほど肌状態特徴量である経皮水分蒸散量が高いと推定できる。
〔31〕角層細胞の輪郭特徴量である短径のばらつきを指標として、値が高いほど肌状態特徴量である経皮水分蒸散量が高いと推定できる。
〔32〕角層細胞の輪郭特徴量である円形率を指標として、値が高いほど肌状態特徴量である角層厚が高いと推定できる。
〔33〕角層細胞の輪郭特徴量である真円率を指標として、値が高いほど肌状態特徴量であるシミ量が低いと推定できる。
〔34〕角層細胞の輪郭特徴量である短径のばらつきを指標として、値が高いほど肌状態特徴量である赤みが高いと推定できる。
〔35〕角層細胞の輪郭特徴量である短径のばらつきを指標として、値が高いほど肌状態特徴量である赤みが高いと推定できる。
〔36〕角層細胞の輪郭特徴量である真円度を指標として、値が高いほど肌状態特徴量であるたるみの外向性度が高いと推定できる。
【0030】
本発明ではさらに、複数の被験者の肌から採取した角層細胞の輪郭特徴量を説明変数とし、測定した肌状態特徴量の測定値を目的変数として得られる回帰式に、特定の被験者の角層細胞の輪郭特徴量を代入して算出される数値を被験者の肌状態特徴量の測定値と推定することができる。下記に好ましい説明変数と目的変数との組み合わせを列挙する。
〔1〕説明変数:長径、目的変数:経皮水分蒸散量
〔2〕説明変数:短径、目的変数:経皮水分蒸散量
〔3〕説明変数:円形率、目的変数:経皮水分蒸散量
〔4〕説明変数:真円率、目的変数:経皮水分蒸散量
〔5〕説明変数:正六角形率を、目的変数:経皮水分蒸散量
〔6〕説明変数:重なり面積、目的変数:経皮水分蒸散量
〔7〕説明変数:円形率のばらつき、目的変数:経皮水分蒸散量
〔8〕説明変数:真円率のばらつき、目的変数:経皮水分蒸散量
〔9〕説明変数:正六角形率のばらつき、目的変数:経皮水分蒸散量
〔10〕説明変数:円形率、目的変数:角層水分量
〔11〕説明変数:真円率、目的変数:角層水分量
〔12〕説明変数:正六角形率、目的変数:角層水分量
〔13〕説明変数:重なり距離、目的変数:コラーゲン量
〔14〕説明変数:長径のばらつき、目的変数:コラーゲン量
〔15〕説明変数:円形率、目的変数:ポルフィリン量
〔16〕説明変数:正六角形率、目的変数:ポルフィリン量
〔17〕説明変数:円形率のばらつき、目的変数:ポルフィリン量
〔18〕説明変数:重なり距離のばらつき、目的変数:シミ量
〔19〕説明変数:重なり率のばらつき、目的変数:シミ量
〔20〕説明変数:円形率、目的変数:彩度
〔21〕説明変数:真円率、目的変数:彩度
〔22〕説明変数:正六角形率、目的変数:彩度
〔23〕説明変数:円形率、目的変数:赤み
〔24〕説明変数:真円率、目的変数:赤み
〔25〕説明変数:正六角形率、目的変数:赤み
〔26〕説明変数:円形率のばらつき、目的変数:赤み
〔27〕説明変数:真円率のばらつき、目的変数:赤み
〔28〕説明変数:正六角形率のばらつき、目的変数:赤み
〔29〕説明変数:重なり率のばらつき、目的変数:弾力
〔30〕説明変数:真円度、目的変数:たるみの外向性度
【0031】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0032】
本発明の方法は、人体より角層細胞を取り出す方法を含むが、肌美容を目的とした方法であり、医療行為を含まない概念、すなわち人間を手術、治療又は診断する方法を含まない概念、より具体的には医師又は医師の指示を受けた者が人間に対して手術、治療又は診断を実施する方法を含まない概念である。
【実施例0033】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
【0034】
〔肌状態特徴量の測定〕
肌状態特徴量の測定としては、79人(年代:20代 ~ 60代、性別:女性・男性)の頬の状態を測定した。まず、洗顔を行い、その後22℃50%の恒温恒湿室内にて15分間馴化した。角層水分量はTHz-ATR法(特開2017-201254)により測定した。経皮水分蒸散量はTewameter(Courage+Khazaka)を用いて測定した。シミ量、ポルフィリン量はVISIA(Canfield Scientific)を用いて測定した。彩度、赤みは測色計(コニカミノルタ)を用いて測定した。角層厚は角層膜厚水分計(アサヒバイオメッド)を用いて測定した。コラーゲン量はDermaLab(Cortex Technology)を用いて測定した。弾力はCutometer(Courage+Khazaka)を用いて測定した。たるみの外向性度は頬にマークした点が、仰臥位から座位に体勢を変えた際に、外側に動く角度を測定することで測定した(特開2020-157013の段落0031に記載の方法を用いた)。
【0035】
〔角層細胞の輪郭特徴量の測定〕
段落0034の被験者から肌状態特徴量を測定したのち、頬にスキンチェッカー(プロモツール)を張り付けて剥がすことで角層を採取した。採取した角層が付着したスキンチェッカーを染色液(アミドブラック0.1%、酢酸9%、酢酸ナトリウム0.9%、水90%)に24時間浸したのち、水道水で洗浄した。顕微鏡(BZ-X700、KEYENCE)を用いてスキンチェッカー一枚につき48枚の角層画像を取得し、スキンチェッカー一枚につき100個以上の角層細胞を選択し、得られた角層細胞画像より、選択された各角層細胞の輪郭を抽出し、輪郭情報から角層細胞の輪郭特徴量を測定し、被験者の角層細胞の各指標の平均値と変動係数を求めた。
【0036】
輪郭抽出の対象となる角層細胞の選択から輪郭特徴量の測定までの一連の流れは、特願2021-118198に記載の情報処理方法を用いて実施した。本情報処理における、角層細胞の輪郭情報からの、輪郭特徴量の算出方法は以下のとおりである。
【0037】
長径及び短径は、角層細胞を楕円近似して、楕円の長径と短径を角層細胞の長径と短径として把握した。
【0038】
円形率は、下記数式1に当てはめることで算出した。真円率は短径の値を長径の値で除することで求めた。正六角形率は、角層細胞と同じ面積を持つ正六角形の重心を揃えて重ね、最も重複面積が広くなるように正六角形を回転させた際の、重複率を正六角形率として把握した。
【0039】
【0040】
重なり特徴量の測定においては、3枚以上の細胞が重なりあう場合にも、重なりあう2細胞が複数組あると捉えて、それぞれの組み合わせごとに重なりが存在すると判断し、重なりあう2細胞の組み合わせごとに測定を行った。重なり距離は、
図3に示すように、2つの角層細胞が重なり始める2点(図中A、B)を結ぶ直線を引いた場合に、当該直線と平行を成し、かつ、当該直線と垂直な方向に掛けて最遠な重なり部分の2点をそれぞれ通る、2本の平行直線の間の距離を測定することで把握した。重なり面積は、重なりあう2細胞の輪郭から、重なっている部分の面積を重なり面積として把握した。重なり率は、角層細胞の面積に対する重なり面積の割合として求めた。
【0041】
径特徴量・外形特徴量・重なり特徴量それぞれの不揃い度特徴量は、同一スキンチェッカーから選択された全ての角層細胞の、輪郭特徴量毎の変動係数を算出することで求めた。
【0042】
角層細胞の輪郭特徴量と肌状態特徴量の測定結果における、一部の組み合わせについて、ピアソンの相関分析を行って求めた相関係数を表1に、スピアマンの相関分析を行って求めた相関係数を表2に示した。例えば、全被験者における、角層細胞の輪郭特徴量である長径と、肌状態特徴量である経皮水分蒸散量のそれぞれの測定値を用いて、ピアソンの相関分析にて相関解析を行った結果、-0.429の相関係数が得られた。相関分析の結果、相関性がある(本発明では相関係数の絶対値が0.3以上の場合、相関があると認めた)場合、その相関関係に基づいて、角層細胞の輪郭特徴量を指標として、肌状態特徴量を推定することが可能となる。さらに、ピアソンの相関分析で相関がある場合、該当する角層細胞の輪郭特徴量と肌状態特徴量は線形に近い関連性があると言えることから、角層細胞の輪郭特徴量と実際の肌状態特徴量から回帰式を作成することで、新しい被験者の肌状態特徴量を数値として推定することができる。
【0043】
【0044】
【0045】
〔肌状態特徴量の推定〕
76人(年代:20代 ~ 60代、性別:女性・男性)の頬の赤みを測色計(コニカミノルタ)を用いて測定した。被験者の頬からスキンチェッカー(プロモツール)を用いて角層を採取し、スキンチェッカーを染色液(アミドブラック0.1%、酢酸9%、酢酸ナトリウム0.9%、水90%)に24時間浸し、水道水で洗浄した。顕微鏡(BZ-X700、KEYENCE)を用いてスキンチェッカー一枚あたり、48枚の角層画像を取得し、100個以上の角層細胞を選択した。得られた角層細胞画像より、選択された各角層細胞の輪郭を抽出し、輪郭情報から角層細胞の輪郭特徴量である真円率を測定し、平均値を求めた。なお、輪郭抽出の対象となる角層細胞の選択から輪郭特徴量の測定までの一連の流れは、特願2021-118198に記載の情報処理方法を用いて実施した。本情報処理における、角層細胞の輪郭情報からの、真円度の算出方法としては、まず角層細胞を楕円近似して、楕円の長径と短径を角層細胞の長径と短径として把握したのち、短径の値を長径の値で除することで真円度とした。
【0046】
本測定における全被験者から、2人を選択するすべての組み合わせにおいて(76人×75人/2通り)、真円率と赤みとの関係を見ると、全組み合わせの63%において、真円率が高いほど赤みが低いことが分かった。このように、真円率の差から、63%の精度でどちらの被験者の赤みが高いかを推定することができ、真円率を指標として、値が高いほど赤みが低いと推定できることが示された。また、角層細胞の輪郭特徴量と肌状態特徴量に相関がある場合、角層細胞の輪郭特徴量を利用することで、同様に肌状態特徴量を推定することができる。
【0047】
次に、真円率と赤みの測定値の散布図から、回帰曲線の式を求めた。回帰曲線の式に真円率を当てはめて求めた推定の赤みと、実際の赤みとの差を求めたところ、83%の被験者では、赤みが回帰曲線の推定値±2.1であった。この結果より、例えば真円率が75の場合、回帰曲線にあてはめると赤みが11.523となり、83%の確率で赤みは11.523±2.1であると判断でき、真円率を説明変数、赤みを目的変数として得られた回帰式に、被験者の角層細胞の計測から得られた真円率を入れて算出される数値を被験者の赤みとして推定できることが分かった。また、角層細胞の輪郭特徴量と肌状態特徴量に相関がある場合、角層細胞の輪郭特徴量を利用することで、同様に肌状態特徴量を推定することができる。