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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039084
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】車両制御装置及び車両制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/12 20200101AFI20240314BHJP
   B60W 40/114 20120101ALI20240314BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
B60W30/12
B60W40/114
B62D6/00
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143367
(22)【出願日】2022-09-09
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(74)【代理人】
【識別番号】100167793
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 学
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 暢浩
(72)【発明者】
【氏名】原 英之
【テーマコード(参考)】
3D232
3D241
【Fターム(参考)】
3D232CC20
3D232DA23
3D232DA33
3D232DD02
3D232DD08
3D232DE02
3D232EA01
3D232EB11
3D232EC23
3D232GG01
3D241BA12
3D241BB27
3D241BC04
3D241CC17
3D241DB12Z
(57)【要約】
【課題】目標軌道に対して定常的に横偏差が生じることを抑制する。
【解決手段】車両制御装置10は、車両Vに対する車線中心の横位置、車両Vの車線に対する向きを示す方位角、車線の車両Vの位置に対応する曲率、及び車両Vの車速の測定値を取得する取得部121と、取得部121が取得した横位置、方位角、曲率、車速の測定値に基づいて車両Vに対して発生すると推定される推定ヨーレートを出力するカルマンフィルタを用いて、推定ヨーレートを推定する推定部122と、取得部121が取得した横位置、方位角、及び曲率の測定値と、推定部122が推定した推定ヨーレートとに基づいて、車両Vが車線の中心を走行するように車両Vの操舵角を制御する操舵角制御部123と、を有する。
【選択図】図5


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に対する車線中心の横位置、前記車両の車線に対する向きを示す方位角、前記車線の前記車両の位置に対応する曲率、及び前記車両の車速の測定値を取得する取得部と、
前記取得部が取得した前記横位置、前記方位角、前記曲率、及び前記車速の測定値に基づいて前記車両に対して発生すると推定される推定ヨーレートを出力するカルマンフィルタを用いて、前記推定ヨーレートを推定する推定部と、
前記取得部が取得した前記横位置、前記方位角、及び前記曲率の測定値と、前記推定部が推定した前記推定ヨーレートとに基づいて、前記車両が前記車線の中心を走行するように前記車両の操舵角を制御する操舵角制御部と、
を有する車両制御装置。
【請求項2】
前記取得部は、前記車両に対して発生するヨーレートを取得し、
前記操舵角制御部は、前記取得部が取得した前記ヨーレートに、前記ヨーレートと前記推定ヨーレートとの差分の時間平均を加算して得られる値に基づいて、前記操舵角を制御する、
請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記操舵角制御部は、前記曲率が所定の値を超える場合に、前記曲率が所定の値を超える前に算出した前記時間平均を、前記ヨーレートに加算して得られる値に基づいて、前記操舵角を制御する、
請求項2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
コンピュータが実行する、
車両に対する車線中心の横位置、前記車両の車線に対する向きを示す方位角、前記車線の前記車両の位置に対応する曲率、及び前記車両の車速の測定値を取得するステップと、
取得した前記横位置、前記方位角、前記曲率、及び前記車速の測定値に基づいて前記車両に対して発生すると推定される推定ヨーレートを出力するカルマンフィルタを用いて、前記推定ヨーレートを推定するステップと、
取得した前記横位置、前記方位角、及び前記曲率の測定値と、推定した前記推定ヨーレートとに基づいて、前記車両が前記車線の中心を走行するように前記車両の操舵角を制御するステップと、
を有する車両制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置及び車両制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両が目標軌道を走行するように車両の走行を制御することが行われている。例えば、特許文献1には、車両の車線中心からの横偏差、車両が走行する道路の曲率、車両のヨー角を観測し、これらの観測量をカルマンフィルタで構成した推定モデルに入力して横偏差、ヨー角、及びヨーレート等の状態量を推定し、推定した車両の状態量に基づいて車両が車線中心を走行するように操舵制御を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-129289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
方位角やヨーレートのセンサ値に真値からのオフセットが含まれている場合に従来の技術を利用して操舵制御を行うと、目標軌道に対して定常的に横偏差が生じてしまうという問題が生じていた。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、目標軌道に対して定常的に横偏差が生じることを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に係る車両制御装置は、車両に対する車線中心の横位置、前記車両の車線に対する向きを示す方位角、前記車線の前記車両の位置に対応する曲率、及び前記車両の車速の測定値を取得する取得部と、前記取得部が取得した前記横位置、前記方位角、前記曲率、及び前記車速の測定値に基づいて前記車両に対して発生すると推定される推定ヨーレートを出力するカルマンフィルタを用いて、前記推定ヨーレートを推定する推定部と、前記取得部が取得した前記横位置、前記方位角、及び前記曲率の測定値と、前記推定部が推定した前記推定ヨーレートとに基づいて、前記車両が前記車線の中心を走行するように前記車両の操舵角を制御する操舵角制御部と、を有する。
【0007】
前記取得部は、前記車両に対して発生するヨーレートを取得し、前記操舵角制御部は、前記取得部が取得した前記ヨーレートに、前記ヨーレートと前記推定ヨーレートとの差分の時間平均を加算して得られる値に基づいて、前記操舵角を制御してもよい。
【0008】
前記操舵角制御部は、前記曲率が所定の値を超える場合に、前記曲率が所定の値を超える前に算出した前記時間平均を、前記ヨーレートに加算して得られる値に基づいて、前記操舵角を制御してもよい。
【0009】
本発明の第2の態様に係る車両制御方法は、コンピュータが実行する、車両に対する車線中心の横位置、前記車両の車線に対する向きを示す方位角、前記車線の前記車両の位置に対応する曲率、及び前記車両の車速の測定値を取得するステップと、取得した前記横位置、前記方位角、前記曲率、及び前記車速の測定値に基づいて前記車両に対して発生すると推定される推定ヨーレートを出力するカルマンフィルタを用いて、前記推定ヨーレートを推定するステップと、取得した前記横位置、前記方位角、及び前記曲率の測定値と、推定した前記推定ヨーレートとに基づいて、前記車両が前記車線の中心を走行するように前記車両の操舵角を制御するステップと、を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、目標軌道に対して定常的に横偏差が生じることを抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】車両制御装置の概要を説明するための図である。
図2】車両の滑り角が微小で無視できると仮定したときの、微小時間幅Δtにおける車両運動を説明する図である。
図3図2に示される時刻t2における車両の付近の拡大図である。
図4】車両の重心位置における横位置、方位角、曲率と、車両の前方部における横位置、方位角、曲率との関係を説明する図である。
図5】車両制御装置に係る車両の構成を示す図である。
図6】車両制御装置のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[車両制御装置10の概要]
図1は、車両制御装置10の概要を説明するための図である。車両制御装置10は、車両Vに搭載され、車両Vが目標軌道Tを走行するように車両Vの操舵角を制御するためのコンピュータである。目標軌道Tは、例えば、車両Vが走行する車線の進行方向に存在する複数の点であって、車両Vの位置からそれぞれ異なる距離における車線の中心の点を結んだ線である。
【0013】
車両制御装置10は、車両Vに対する車線中心の横位置、車両Vの車線に対する向きを示す方位角、車両Vに対して発生するヨーレート、車線の車両Vの位置に対応する曲率、及び車両Vの車速の測定値を車両Vに設けられている各種センサ等から取得する。車両制御装置10は、取得した横位置、方位角、曲率、車速の測定値に基づいて、車両Vの現在の状態に対応する推定横位置、推定方位角、推定ヨーレート、及び推定曲率を出力するカルマンフィルタを用いて、現在のヨーレートを推定する。そして、車両制御装置10は、取得した横位置、方位角、及び曲率の測定値と、推定したヨーレートとに基づいて、車両Vが車線の中心、すなわち目標軌道Tを走行するように車両Vの操舵角を制御する。
【0014】
従来の技術では、方位角やヨーレートの測定値に真値からのオフセットが含まれている場合に操舵制御を行うと、目標軌道に対して定常的に横偏差が生じてしまうという問題が生じていた。一方で、方位角の測定値とヨーレートの測定値とを比較して、それぞれ逆符号のオフセットが存在する場合、これらの測定値を用いて操舵制御を行うと、それぞれの影響が打ち消し合い目標軌道に対して定常的な横偏差が無く走行できることが確認されている。
【0015】
そこで、本実施の形態に係る車両制御装置10は、横位置、方位角、曲率、車速の測定値に基づいて推定横位置、推定方位角、推定ヨーレート、及び推定曲率を出力するカルマンフィルタを用いて、方位角の測定値に含まれるオフセットと相殺されるオフセットを含むヨーレートを推定する。そして、車両制御装置10は、方位角の測定値と、推定したヨーレートとに基づいて、車両Vの操舵角を制御する。このようにすることで、車両制御装置10は、目標軌道に対して測定値のオフセットの影響により定常的に横偏差が生じることを抑制することができる。
【0016】
[カルマンフィルタの構成]
車両制御装置10の詳細な説明を行うにあたり、まず、カルマンフィルタの構成について説明する。カルマンフィルタは、状態変数の離散的な時間遷移を表す離散時間状態方程式による予測ステップ及び観測量と状態変数の関係を記述する観測方程式による修正ステップから構成される。本実施の形態では車両Vの車線に対する横位置、方位角、曲率、ヨーレートを状態変数とし、車両Vの車線に対する横位置、方位角、曲率を観測量として扱う。以下、カルマンフィルタを想定した離散時間状態方程式と観測方程式との構築例について説明する。
【0017】
図2は、車両Vの滑り角が微小で無視できると仮定したときの、微小時間幅Δtにおける車両運動を説明する図である。図2には時刻tにおける車両Vと、時刻tからΔtが経過した時刻tにおける車両Vとを示している。図2において、円弧A1は車両Vの重心点の軌跡を示し、円弧A2は車線中心の軌跡を示している。また、φは、円弧A1と、円弧A1の両端と円弧A1に対応する円の中心とを結ぶ2つの線からなる扇形の中心角を示している。
【0018】
Δxは、時刻tにおける車両Vの進行方向に対する、時刻tにおける車両Vの重心位置から、時刻tにおける車両Vの重心位置までの距離を示している。Δyは、時刻tにおける車両Vの進行方向と直交する横方向に対する、時刻tにおける車両Vの重心位置から、時刻tにおける車両Vの重心位置までの距離を示している。
【0019】
また、V、r、U、θ、ρは、時刻tにおける車両Vの車速、ヨーレート、横位置、方位角、車線の曲率を示し、V、r、U、θ、ρは、時刻tからΔt経過した時刻tにおける車両Vの車速、ヨーレート、横位置、方位角、車線の曲率を示している。U’は、時刻tにおける車両Vの進行方向と直交する横方向の向きに対する、時刻tにおける車両Vの重心から車線中心線までの距離を示している。横位置は、車両Vの重心から車線中心までの横方向の距離を示しており、車両Vに対して車線の中心が右側にある場合を正とする。
【0020】
方位角は、車両Vの中心線と車線中心線のなす角であり、車両Vに対して車線が左方向を向いている場合を正とする。曲率は、車線中心の曲線半径の逆数を示し、左旋回を正とする。なお、時刻t(ただし、t≦t≦t)、すなわちΔtの間、車速V、ヨーレートr、曲率ρは一定であるものとする。
【0021】
まず、横位置の離散時間変化の式を導く。車線形状を2次多項式で近似すると、幾何学的な関係から次の式(1)が成り立つ。
【数1】
【0022】
また、Δtの間、車速V、ヨーレートrが一定であることから、次の式(2)、(3)が成り立つ。
【数2】
【0023】
Δtが小さいため、rΔtに関する3次以上の項を無視して定式化を行うと、以下に示される式(4)~(7)が成り立つ。
【数3】
【0024】
図3は、図2に示される時刻t2における車両Vの付近の拡大図である。rΔtに関する3次以上の項を無視して定式化を行うと、以下に示される式(8)~(10)が導かれる。
【数4】
【0025】
方位角、曲率、ヨーレートが小さいと仮定すると、以下に示される式(11)が成り立つ。
【数5】
【0026】
式(8)~(11)により、以下の式(12)が導かれる。
【数6】
【0027】
式(12)の一部について、以下の関係式(13)が成り立ち、U’はUに近似される。
【数7】
【0028】
したがって、式(1)のU’をUに置き換えるとともに、Δx、Δyを式(6)、(7)に基づいて変換すると、式(1)は、以下の式(14)に変換される。
【数8】
【0029】
式(14)を変形することにより、時刻tにおける横位置Uは、時刻tにおける横位置U、車速V、方位角θ、曲率ρに基づいて以下の式(15)で表される。
【数9】
【0030】
次に方位角の離散時間変化の式を導く。図2から、ψ、φ、θの間で、以下の式(16)が成り立つ。
【数10】
【0031】
式(16)に式(3)、(11)を代入すると、以下の式(17)となる。
【数11】
【0032】
式(17)を変形することにより、時刻tにおける方位角θは、時刻tにおける車速V、方位角θ、ヨーレートr、曲率ρに基づいて以下の式(18)で表される。
【数12】
【0033】
式(15)、(18)から、カルマンフィルタを想定した離散時間状態方程式と観測方程式を以下の式(19)~(25)のように構築する。
【数13】
【0034】
ここで、yの各要素は観測値、wは次元数が4であり、平均0、共分散行列Qのガウス白色雑音ベクトル、vは次元数が3であり、平均0、共分散行列Rのガウス白色雑音ベクトルである。wとvは独立であるものとする。
【0035】
カルマンフィルタの構成に用いた式(15)の特性を検証する。例えば、車両Vが直線の中央を走行している場合、車両Vの横位置、曲率、方位角は0である。また、方位角の測定値にθのオフセットが含まれているとする。式(15)において、U、U、ρに0を代入し、θにθを代入すると、以下の式(26)が導かれる。
【数14】
【0036】
車両Vが直進しており、実際のヨーレートが0である場合に、方位角にオフセットが含まれていると、式(26)に示すようにヨーレートの値は0ではない値となる。なお、図2において定義した方位角はセンサの測定値の定義と正負が反転している。このため、式(15)を用いて状態方程式を構成したカルマンフィルタを用いてヨーレートを推定することにより、オフセットを含む方位角と逆符号のオフセットを含むヨーレート推定値が得られることとなる。
【0037】
なお、上述の説明では、車両Vの重心に対応する状態方程式を導いたが、横位置、方位角、曲率は、車両Vの前方部に設けられた撮像装置の位置において測定される。このため、上述したカルマンフィルタに適用するために、これらの測定値を重心位置に対応した値に変換する必要がある。
【0038】
図4は、車両の重心位置における横位置、方位角、曲率と、車両の前方部における横位置、方位角、曲率との関係を説明する図である。図4に示されるU’、θ’、ρ’は、車両Vの前方部において得られる横位置、方位角、曲率を示している。図4におけるlは、車両Vの重心から車両Vの前方部までの距離を示している。図4から重心における横位置は、以下の式(27)で示される。
【数15】
【0039】
また、方位角、曲率が小さい場合には、重心位置における方位角は以下の式(28)で示される。車両Vの重心位置における横位置、方位角は、式(27)、(28)に基づいて算出されるものとする。
【数16】
【0040】
[車両制御装置10の構成]
続いて、車両制御装置10の構成について説明する。図5は、車両制御装置10に係る車両Vの構成を示す図である。車両Vは、車速センサ1と、測定装置2と、方位角センサ3と、ヨーレートセンサ4と、ステアリングECU5と、車両制御装置10とを有する。
【0041】
車速センサ1は、車両Vの車速を測定し、車速の測定値を車両制御装置10に出力する。
測定装置2は、例えば、撮像装置及び画像解析装置等を含んでおり、車両Vに対する車線中心の横位置と、車両Vが走行する車線の曲率とを測定し、横位置と、曲率との測定値を車両制御装置10に出力する。
方位角センサ3は、車両Vの方位角を測定し、方位角の測定値を車両制御装置10に出力する。なお、方位角センサ3が方位角を測定することとしたが、これに限らない。例えば、測定装置2が方位角を測定できる場合には、測定装置2が方位角を測定してもよく、この場合、車両Vが方位角センサ3を有していなくてもよい。
ヨーレートセンサ4は、車両Vのヨーレートを測定し、ヨーレートの測定値を車両制御装置10に出力する。
【0042】
ステアリングECU5は、電動パワーステアリングシステムの制御装置であり、車両Vのステアリング機構に組み込まれているアシストモータ(不図示)に接続されている。ステアリングECU5は、車両制御装置10から操舵制御信号を受信すると、操舵制御信号に基づいてアシストモータを駆動する。
【0043】
車両制御装置10は、記憶部11と、制御部12とを有する。
記憶部11は、例えばROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)やハードディスクである。記憶部11は、制御部12を機能させるための各種のプログラムを記憶する。記憶部11は、制御部12を、取得部121、推定部122、操舵角制御部123として機能させるプログラムを記憶する。
【0044】
制御部12は、例えばCPU(Central Processing Unit)である。制御部12は、記憶部11に記憶されているプログラムを実行することにより、取得部121、推定部122、操舵角制御部123として機能する。
【0045】
取得部121は、車両Vに対する車線中心の横位置、車両Vの車線に対する向きを示す方位角、車両Vに対して発生するヨーレート、車線の車両Vの位置に対応する曲率、及び車両Vの車速の測定値を取得する。例えば、取得部121は、車速センサ1、測定装置2、方位角センサ3、及びヨーレートセンサ4から出力された、車速の測定値、横位置、車線曲率、方位角、及びヨーレートの測定値を取得する。
【0046】
推定部122は、取得部121が取得した横位置、方位角、曲率、車速の測定値に基づいて、車両Vの現在の状態に対応する推定横位置、推定方位角、推定ヨーレート、及び推定曲率を出力するカルマンフィルタを用いて、現在のヨーレート(推定ヨーレート)を推定する。
【0047】
具体的には、推定部122において、取得部121が取得した横位置、方位角、曲率、車速を用い、式(19)~式(25)で示された離散時間方程式に対して、カルマンフィルタの枠組みを適用して推定値を算出する。ここで、推定部122は、初めて横位置、方位角、曲率、ヨーレートを推定する場合に、取得部121が取得した横位置、方位角、曲率、ヨーレートの測定値を初期値として用いてもよい。
【0048】
操舵角制御部123は、取得部121が取得した横位置、方位角、及び曲率の測定値と、推定部122が出力した推定ヨーレートとに基づいて、車両Vが車線の中心を走行するように操舵角を制御する。その際内部での計算では、車両Vが車線維持のために実現すべき目標ヨーレートの算出と、推定ヨーレートをその目標ヨーレートに近づけるための操舵角の算出とが階層的に行われるものとする。例えば、操舵角制御部123は、車速、横位置、方位角、曲率、ヨーレートの入力に対し、車両Vが車線の中心を走行するような操舵角を出力するドライバモデルに対し、取得部121が取得した車速、横位置、方位角、及び曲率の測定値と、推定部122が出力した推定ヨーレートとを入力し、ドライバモデルから操舵角を取得する。操舵角制御部123は、取得した操舵角を示す操舵制御信号をステアリングECUに出力することにより、車両Vの操舵角を制御する。
【0049】
ここで、カルマンフィルタで推定するヨーレートは、センサのヨーレート測定値よりも、時間的に遅れを持ったものとなることが多い。また、推定ヨーレートは、ヨーレートの測定値の比較的短い周期の振幅に対して小さい振幅となる場合がある。このため、推定ヨーレートをそのまま操舵角の制御に用いることが好ましくない場合がある。
【0050】
これに対し、操舵角制御部123は、取得部121が取得したヨーレートに、ヨーレートと推定ヨーレートとの差分の時間平均を加算して得られる値を補正後ヨーレートとする。そして、操舵角制御部123は、補正後ヨーレートに基づいて、操舵角を制御するようにしてもよい。すなわち、操舵角制御部123は、ドライバモデルに対し、推定ヨーレートの代わりに補正後ヨーレートを入力するようにしてもよい。このようにすることで、車両制御装置10は、ヨーレートセンサ4から取得したヨーレートの測定値に基づいて操舵角を制御する場合と同様の応答性を確保しつつ、方位角の測定値に含まれるオフセットと逆符号のオフセットを含むヨーレートに基づいて操舵制御を行い、定常的に車線の中央に対する車両Vの横偏差が生じることを抑制することができる。
【0051】
[シミュレーション結果]
続いて、車両制御装置10のシミュレーション結果について説明する。シミュレーションでは、方位角センサ3に対して0.1°のオフセットを付与し、上述したカルマンフィルタを用いて推定ヨーレートの推定を行い、ヨーレートの測定値と推定ヨーレートとの差分の5秒間の時間平均をヨーレートの測定値に付加して補正後ヨーレートを算出し、操舵角制御部123に入力するものとした。
【0052】
また、車両Vの車速を80km/hとし、直線、クロソイド、一定半径部を走行するものとした。また、クロソイドパラメータは386m、一定半径部の曲線半径を400mとした。図6は、車両制御装置10のシミュレーション結果を示す図である。図6(a)は、横位置のシミュレーション結果と、走行路の曲率とを示しており、図6(b)は、ヨーレートのシミュレーション結果を示している。図6(a)においてS1は、車両制御装置10のシミュレーション結果を示し、S2は、ヨーレートの測定値を操舵角制御部123に直接入力したときのシミュレーション結果を示している。また、図6(b)においてrはヨーレートの測定値、rは補正後ヨーレート、rは目標ヨーレートを示している。
【0053】
図6(a)に示されるように、ヨーレートの測定値を操舵角制御部123に直接入力した場合、車両が直線(時刻0秒~30秒)を走行しているときに、車両の横位置が-0.07m付近を維持して走行していることが確認できる。これに対し、ヨーレートの推定値を反映させた補正後ヨーレートを操舵角制御部123に入力した場合、車両Vが直線を走行しているときには、車両Vの横位置が0m付近を維持していることが確認できる。また、図6(b)に示されるように、車両Vが直線を走行しているときには、補正後ヨーレートrの値が、ヨーレート測定値rに比べて-0.1deg/s小さく、オフセットが付与されていることが確認できる。これにより、ヨーレートに対し、方位角のオフセットと相殺するようにオフセットが付されていることが確認できる。
【0054】
なお、クロソイド及び一定半径部を走行している場合には、補正後ヨーレートに対し、-0.1deg/sよりも小さい値のオフセットが付されていることが確認できる。この現象は、車両Vの速度が車体の向きにのみ発生するものとして状態方程式を算出していることによるものと考えられる。すなわち、実際の車両の運動では、車両の横滑りが発生し、車両の向きと垂直方向の向きにも速度(横速度)が発生する。横速度は、ヨーレートが低ければ無視できるものの、車両がカーブを走行する場合等、ヨーレートが大きくなると無視できないものとなる。これにより、ヨーレートに含まれる、方位角の測定値に含まれるオフセットと逆符号のオフセットが大きく算出される場合がある。
【0055】
これに対し、操舵角制御部123は、車線の曲率が所定の値を超える場合に、当該曲率が所定の値を超える前に算出した、取得部121が取得したヨーレートと推定ヨーレートとの差分の時間平均を、取得したヨーレートに加算して得られる値を補正後ヨーレートとしてもよい。例えば、操舵角制御部123は、車線の曲率が所定の値を超える場合に、当該曲率が所定の値を超える直前に算出した時間平均の値を、取得したヨーレートに加算して得られる値を補正後ヨーレートとしてもよい。そして、操舵角制御部123は、当該補正後ヨーレートに基づいて操舵角を制御してもよい。このようにすることで、車両制御装置10は、カーブ等を走行する場合にも、車線の中央に対する車両Vの横偏差が生じることを抑制することができる。
【0056】
[本実施の形態の効果]
以上説明したように、本実施の形態に係る車両制御装置10は、車両Vに対する車線中心の横位置、車両Vの車線に対する向きを示す方位角、車線の車両Vの位置に対応する曲率、及び車両Vの車速の測定値を取得し、取得した横位置、方位角、曲率、車速の測定値に基づいて車両Vに対して発生すると推定される推定ヨーレートを出力するカルマンフィルタを用いて、次の時刻のヨーレートを推定する。そして、車両制御装置10は、取得した横位置、方位角、及び前記曲率の測定値と、推定ヨーレートとに基づいて、車両Vが車線の中心を走行するように車両Vの操舵角を制御する。このようにすることで、車両制御装置10は、目標軌道である車線の中心を結んだ軌道に対して定常的に横偏差が生じることを抑制することができる。
【0057】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0058】
1 車速センサ
2 測定装置
3 方位角センサ
4 ヨーレートセンサ
5 ステアリングECU
10 車両制御装置
11 記憶部
12 制御部
121 取得部
122 推定部
123 操舵角制御部
V 車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6