IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人上智学院の特許一覧

<>
  • 特開-金属イオン捕捉剤 図1
  • 特開-金属イオン捕捉剤 図2
  • 特開-金属イオン捕捉剤 図3
  • 特開-金属イオン捕捉剤 図4
  • 特開-金属イオン捕捉剤 図5
  • 特開-金属イオン捕捉剤 図6
  • 特開-金属イオン捕捉剤 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039112
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】金属イオン捕捉剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20240314BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20240314BHJP
   B01D 15/00 20060101ALI20240314BHJP
   B01J 20/24 20060101ALI20240314BHJP
   G01N 31/00 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
C12N15/09 Z
C12Q1/68 ZNA
B01D15/00 N
B01J20/24 B
B01J20/24 Z
G01N31/00 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143419
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】502350504
【氏名又は名称】学校法人上智学院
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 次郎
【テーマコード(参考)】
2G042
4B063
4D017
4G066
【Fターム(参考)】
2G042BC11
2G042CB03
2G042DA06
2G042FA20
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR54
4D017AA01
4D017BA13
4D017CA12
4D017CA14
4D017EB10
4G066AB26B
4G066CA46
4G066CA47
4G066DA07
4G066DA08
(57)【要約】
【課題】本発明は、核酸分子を用いた、金属イオンを高感度に検出可能な方法を開発し、高感度な金属イオンの捕捉剤及び検出手段を提供することを課題とする。
【解決手段】互いにハイブリダイズ可能な2つの塩基配列領域を含む核酸分子を含む、標的金属イオンの捕捉剤であって、核酸分子は、一方の前記塩基配列領域に含まれる1つの作動塩基及びそれに隣接する1つの表示塩基、及び他方の前記塩基配列領域に含まれる1つの共用塩基からなる、右巻きの二本鎖構造を構成する検知ドメインを1つ又は複数含む捕捉剤を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いにハイブリダイズ可能な2つの塩基配列領域を含む核酸分子を含む、標的金属イオンの捕捉剤であって、
前記核酸分子は、
一方の前記塩基配列領域に含まれる1つの作動塩基及びそれに隣接する1つの表示塩基、及び
他方の前記塩基配列領域に含まれる1つの共用塩基
からなる、右巻きの二本鎖構造を構成する検知ドメインを1つ又は複数含み、
前記共用塩基及び前記表示塩基は塩基対を形成可能であり、
前記共用塩基及び前記作動塩基はその塩基間に前記標的金属イオンを介在させる金属介在塩基対を形成可能であり、
前記標的金属イオンの非存在下では前記共用塩基と前記表示塩基の塩基対が形成され、
前記標的金属イオンの存在下では、前記共用塩基と前記作動塩基の間で前記金属介在塩基対が形成される、
前記捕捉剤。
【請求項2】
前記標的金属イオンが重金属イオンである、請求項1に記載の捕捉剤。
【請求項3】
前記重金属イオンが水銀イオン、銀イオン、銅イオン、ニッケルイオン、マンガンイオン、亜鉛イオン、金イオン、ガドリニウムイオン及びパラジウムイオンからなる群から選択される、請求項2に記載の捕捉剤。
【請求項4】
前記金属介在塩基対がT/Hg2+/T、U/Hg2+/U、T/Hg2+/U、T/Hg2+/G、U/Hg2+/G、C/Ag+/C及びC/Au+/Cからなる群から選択される、請求項3に記載の捕捉剤。
【請求項5】
前記表示塩基が標識されている、請求項1に記載の捕捉剤。
【請求項6】
前記標識が蛍光標識である、請求項5に記載の捕捉剤。
【請求項7】
前記2つの塩基配列領域が1つの核酸分子中に含まれる、請求項1に記載の捕捉剤。
【請求項8】
同一又は異なる標的金属イオンを捕捉する2種類以上の検知ドメインを含む、請求項1に記載の捕捉剤。
【請求項9】
請求項1に記載の捕捉剤を含む、標的金属の検出用組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の捕捉剤及び/又は請求項9に記載の検出用組成物を含む、標的金属の検出キット。
【請求項11】
請求項1に記載の捕捉剤及び/又は請求項9に記載の検出用組成物を含む、標的金属の検出デバイス。
【請求項12】
被験試料を、請求項1に記載の捕捉剤と接触させる工程を含む、前記標的金属イオンの捕捉方法。
【請求項13】
前記被験試料が、液体、半固体及びエアロゾルからなる群から選択される形態である、請求項12に記載の捕捉方法。
【請求項14】
標的金属の検出方法であって、
被験試料を、請求項1に記載の捕捉剤及び/又は請求項9に記載の検出用組成物と接触させる接触工程、
前記標的金属のイオンと前記検知ドメインとの結合の有無を検出する検出工程、及び
前記イオンの結合が検出された場合に、前記被験試料中に前記標的金属が存在すると判定する判定工程
を含む、前記検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的金属イオンを捕捉可能な核酸分子を含む標的金属イオンの捕捉剤及び検出用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
レアアースを含む金属は、その効率的な活用が重要である一方、それらの外環境への流出による、環境や人体への影響も懸念されている。そのため、金属を自然界から効率的に収集する技術の開発や、廃棄された製品や排気、排水中に含まれる微量な金属を選択的かつ高効率に回収する技術や高感度で検出する技術の確立が望まれている。また、金属イオンは生体内にも存在するため、生体試料にもそのまま利用可能な検出方法が開発されることが望ましい。
【0003】
特に、古くから様々な用途に使用され、その環境への影響も大きいことが知られているいくつかの金属について、非特許文献1に記載されているようにこれまでに様々な検出方法が開発されてきた。このような検出方法の開発は、特に水銀イオンの検出に関して盛んに行われている。
【0004】
水銀イオンについては、チミン(T)同士の非相補塩基対(本明細書においては、しばしば塩基対を形成することを「/」で表す)に水銀イオン(Hg(II))が選択的に結合してT/Hg(II)/Tという金属介在塩基対を形成することが知られている。この金属介在塩基対を利用して核酸分子を用いた水銀イオンの検出方法が開発された。特許文献1に記載の方法においては、一方の末端に蛍光物質を、他方の末端に消光物質を有する核酸分子が使用されている。この核酸分子は水銀イオン非存在下では一本鎖構造をとるが、水銀イオン存在下では7つの金属介在塩基対が形成されることによってヘアピン構造を形成する。これにより、両端の物質間でFRET現象が起き、蛍光が失われることにより水銀イオンの存在が検出される。しかしながら、消光反応に必要な水銀イオンの数が多いため、反応の効率が低かった。また、検出反応がシグナルの消失反応であることにより、低濃度範囲での検出効率が低いこと及び偽陽性のリスクが高く信頼性が低いこと等の大きな難点が残されていた。
【0005】
その後、核酸分子を用いた方法として、検出反応がシグナルの発生反応である検出方法(非特許文献2)や、1つの水銀イオンによるシグナルの消失反応を用いた検出方法(非特許文献3)が開発されてきた。しかしながら、理想的な、1つの水銀イオンという高効率で起こり、かつシグナルの発生反応に基づいた検出方法はいまだ開発されていない。
【0006】
高い感度と信頼性を備え、多様な金属の検出に応用可能な検出方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-058213
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Kim, H. N., et al., Chemical Society Reviews, 2012, 41(8), 3210-3244.
【非特許文献2】Zhou, W., et al., Biosensors and Bioelectronics, 2017, 87, 171-177.
【非特許文献3】Han, J. H., et al., Chemical Communications, 2019, 55(69), 10245-10248.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、核酸分子を用いた、金属イオンの捕捉剤及び金属イオンを高感度に検出可能な方法を開発し、提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者らは、金属イオンの存在により局所的な立体構造が変化し、標的金属イオンを高い効率で捕捉可能な核酸分子を開発するに至った。発明は上記等の新規知見に基づくものであり、以下を提供する。
(1)互いにハイブリダイズ可能な2つの塩基配列領域を含む核酸分子を含む、標的金属イオンの捕捉剤であって、前記核酸分子は、一方の前記塩基配列領域に含まれる1つの作動塩基及びそれに隣接する1つの表示塩基、及び他方の前記塩基配列領域に含まれる1つの共用塩基からなる、右巻きの二本鎖構造を構成する検知ドメインを1つ又は複数含み、前記共用塩基及び前記表示塩基は塩基対を形成可能であり、前記共用塩基及び前記作動塩基はその塩基間に前記標的金属イオンを介在させる金属介在塩基対を形成可能であり、前記標的金属イオンの非存在下では前記共用塩基と前記表示塩基の塩基対が形成され、前記標的金属イオンの存在下では、前記共用塩基と前記作動塩基の間で前記金属介在塩基対が形成される、前記捕捉剤。
(2)前記標的金属イオンが重金属イオンである、(1)に記載の捕捉剤。
(3)前記重金属イオンが水銀イオン、銀イオン、銅イオン、ニッケルイオン、マンガンイオン、亜鉛イオン、金イオン、ガドリニウムイオン及びパラジウムイオンからなる群から選択される、(2)に記載の捕捉剤。
(4)前記金属介在塩基対がT/Hg2+/T、U/Hg2+/U、T/Hg2+/U、T/Hg2+/G、U/Hg2+/G、C/Ag+/C及びC/Au+/Cからなる群から選択される、(3)に記載の捕捉剤。
(5)前記表示塩基が標識されている、(1)~(4)のいずれかに記載の捕捉剤。
(6)前記標識が蛍光標識である、(5)に記載の捕捉剤。
(7)前記2つの塩基配列領域が1つの核酸分子中に含まれる、(1)~(6)のいずれかに記載の捕捉剤。
(8)同一又は異なる標的金属イオンを捕捉する2種類以上の検知ドメインを含む、(1)~(7)のいずれかに記載の捕捉剤。
(9)(1)~(8)のいずれかに記載の捕捉剤を含む、標的金属の検出用組成物。
(10)(1)~(8)のいずれかに記載の捕捉剤及び/又は(9)に記載の検出用組成物を含む、標的金属の検出キット。
(11)(1)~(8)のいずれかに記載の捕捉剤及び/又は(9)に記載の検出用組成物を含む、標的金属の検出デバイス。
(12)被験試料を、(1)~(8)のいずれかに記載の捕捉剤と接触させる工程を含む、前記標的金属イオンの捕捉方法。
(13)前記被験試料が、液体、半固体及びエアロゾルからなる群から選択される形態である、(12)に記載の捕捉方法。
(14)標的金属の検出方法であって、被験試料を、(1)~(8)のいずれかに記載の捕捉剤及び/又は(9)に記載の検出用組成物と接触させる接触工程、前記標的金属のイオンと前記検知ドメインとの結合の有無を検出する検出工程、及び前記イオンの結合が検出された場合に、前記被験試料中に前記標的金属が存在すると判定する判定工程を含む、前記検出方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の捕捉剤によれば、標的金属イオンを特異的に、かつ高感度に捕捉することができる。
また、本発明の検出用組成物によれば、標的金属の存在を特異的に、かつ高感度に検出することができる。
さらに、本発明の捕捉方法によれば、被験試料中の標的金属イオンを捕捉することができる。
さらに、本発明の検出方法によれば、被験試料中の標的金属を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は本発明の核酸分子の例示的な構造を示す模式図である。図1Aは、標的金属イオン非存在下における核酸分子の構造を示す。図1Bは、標的金属イオン非存在下における核酸分子の構造を示す。図中、本発明の核酸分子における2つの塩基配列領域は、第1の塩基配列領域及び第2の塩基配列領域として示される。また、図中、2つの塩基配列領域間の破線は塩基対を形成していることを示す。図1A中、破線枠は例示的な検知ドメインを示す。
図2図2は例示的な検知ドメインの立体構造を示す模式図である。図2Aは、標的金属イオン非存在下の検知ドメインの模式的な立体構造を示す。図2Bは、図2Aのチミジン及び2-アミノプリンが形成する塩基対を示す。図2Cは、標的金属イオン存在下の検知ドメインの模式的な立体構造を示す。図2Dは、図2Cのチミジン、水銀イオン及びチミジンが形成する金属介在塩基対を示す。図中、Tはチミジンを示し、2APは2-アミノプリンを示す。図2A及びC中、破線円は各塩基の場所を示し、図2C及びD中、灰色丸は二価の水銀イオン(Hg(II))を示す。図2B及びD中、破線は代表的な水素結合を示す。
図3図3は実施例で用いた核酸分子の構造を示す模式図である。図3Aは、実施例1において使用した核酸分子-1のホモ二量体の構造を示す。図3Bは、実施例1において使用した核酸分子-2のホモ二量体の構造を示す。図中、Tはチミジン、Cはシトシン、Gはグアニン、2APは2-アミノプリンをそれぞれ示し、横方向の黒色線は核酸鎖間で塩基対が形成されていることを示す。
図4図4は、核酸分子-1を含む溶液に各種金属塩を添加したときの励起波長280nmにおける蛍光強度の変化を示す図である。図4Aは、各種金属を添加した溶液の蛍光スペクトルを測定した結果を示す図である。図4Bは、図4Aの各条件における波長370nmでの蛍光強度の変化率(ΔF)を示す図である。図中、Hg(II)は二価の水銀イオン、Ag(I)は一価の銀イオン、Ni(II)は二価のニッケルイオン、Cu(I)は一価の銅イオン、Cu(II)は二価の銅イオン、Au(I)は一価の金イオン、Au(III)は三価の金イオンをそれぞれ示す。
図5図5は、核酸分子-1を含む溶液に異なる濃度の水銀イオンを添加したときの励起波長280nmにおける蛍光強度の変化を示す図である。図5Aは、核酸分子-1以下の濃度の水銀イオンを添加した溶液の蛍光スペクトルを測定した結果を示す図である。図5Bは、核酸分子-1以上の濃度の水銀イオンを添加した溶液の蛍光スペクトルを測定した結果を示す図である。図中、各系列を示す数値は、「(核酸分子-1の濃度):(水銀イオンの濃度)の比」を示す。
図6図6は、図5の各条件における波長370nmでの蛍光強度の変化率(ΔF)を示す図である。図中、「[Hg(II)]/[核酸分子-1]」は、「核酸分子-1の濃度に対する水銀イオンの濃度の割合」を示す。
図7図7は、核酸分子-2を含む溶液に各種金属塩を添加したときの励起波長305nmにおける蛍光強度の変化を示す図である。図7Aは、各種金属を添加した溶液の蛍光スペクトルを測定した結果を示す図である。図7Bは、図7Aの各条件における波長370nmでの蛍光強度の変化率(ΔF)を示す図である。図中、Hg(II)は二価の水銀イオン、Ag(I)は一価の銀イオン、Ni(II)は二価のニッケルイオン、Cu(I)は一価の銅イオン、Cu(II)は二価の銅イオン、Au(I)は一価の金イオン、Au(III)は三価の金イオンをそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.捕捉剤
1-1.概要
本発明の第1の態様は、標的金属イオンの捕捉剤である。本発明の捕捉剤は、互いにハイブリダイズ可能な2つの塩基配列領域を含む核酸分子を必須の構成として含み、標的金属イオンを捕捉する。本発明の捕捉剤は、後述する本発明の検出用組成物、検出キット及び検出デバイスの有効成分となり得る。
【0014】
1-2.定義
本明細書で使用する用語について、以下で定義する。
「核酸」又は「核酸分子」とは、ヌクレオチドを構成単位とし、それらがホスホジエステル結合によって連結した生体高分子を指す。天然核酸と人工核酸に大別できるが、本明細書ではいずれも包含する。
【0015】
「天然核酸」とは、自然界に存在する核酸を指す。例えば、DNAやRNAが該当する。また、「人工核酸」とは、生物学的方法に又は化学合成法によって人為的に合成された核酸分子を指す。本明細書の人工核酸は、特に断りがない限り、例えば、全て非修飾の天然のヌクレオチドからなってもよく、又は非天然のヌクレオチドや修飾されたヌクレオチドを含んでもよい。
【0016】
「ヌクレオチド」とは、ヌクレオシドの糖部分にリン酸基が共有結合した分子をいう。ペントフラノシル糖を含むヌクレオチドの場合、通常、糖の3'位又は5'位のヒドロキシル基にリン酸基が連結されている。
【0017】
「ヌクレオシド」とは、一般に塩基及び糖の組合せからなる分子をいう。糖は、限定はしないが、通常、ペントフラノシル糖で構成される。ペントフラノシル糖の例として、リボースやデオキシリボースが挙げられる。また、塩基(核酸塩基)には、例えば、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)、及びウラシル(U)が挙げられる。本明細書では、特に断りのない限り塩基は、修飾塩基又は非修飾塩基のいずれであってもよい。
【0018】
本明細書において「修飾」とは、核酸の構成単位であるヌクレオチド又はその構成要素であるヌクレオシドの一部又は全部が他の原子団と置換されること、又は官能基等が付加されることを指す。具体的には、例えば、糖修飾、塩基修飾、又はホスホジエステル結合の修飾が挙げられる。
【0019】
本明細書において「修飾ヌクレオチド」とは、一部又は全部が他の原子団と置換された、又は官能基等が付加されたヌクレオチドを指す。また、「非修飾ヌクレオチド」とは、修飾ヌクレオチド以外のヌクレオチドを指す。原則として、天然型ヌクレオチドの多くがこれに該当する。
【0020】
本明細書において、「糖修飾」とは、核酸分子の糖部分における置換及び/又は任意の変化を指す。
【0021】
「修飾塩基」とは、天然のアデニン、シトシン、グアニン、チミン、又はウラシル以外の核酸塩基を指し、「塩基修飾」とは、それらの核酸塩基に変化させることを指す。
【0022】
「人工塩基」とは、天然の塩基に類似の性質を有する人工的に構築された、特定の塩基対を形成可能な化学物質を指す。本明細書において「特定の塩基対を形成可能」とは、1種類以上の天然塩基及び/又は1種類以上の人工塩基と塩基対及び/又は金属介在塩基対を形成可能であることを指す。
【0023】
「塩基配列」とは、核酸分子中で共有結合により結合したヌクレオチドの並び順を各ヌクレオチドの塩基により表現したものをいう。また、本明細書において「塩基配列領域」とは、特定の塩基配列を有する、核酸鎖を構成する連続した核酸領域を指す。
【0024】
「右巻きの二本鎖構造」とは、核酸分子が形成する二本鎖構造のうち、時計回りのらせん構造を有する二本鎖構造をいう。具体的には、A型構造及びB型構造が含まれる。「A型構造」とは、1回転当たりの塩基数が11でらせんの直径が平均20Åの右巻きの二本鎖構造をいう。一般に二本鎖RNAはA型構造をとりやすい。一方「B型構造」とは、1回転当たりの塩基数が10でらせんの直径が平均23Åの右巻きの二本鎖構造をいう。一般に二本鎖DNAはB型構造をとりやすい。
【0025】
「塩基対」とは、核酸分子を構成する2つの塩基が対合したものをいう。通常、2つの塩基からなる塩基対においては、塩基は非共有結合(例えば、水素結合)により対合する。本明細書における非共有結合は、水素結合、イオン結合、配位結合及びその組合せ等を含む。
【0026】
本明細書において、「金属介在塩基対」とは、核酸分子を構成する2つの塩基が金属イオンを介して対合したものを指す。通常、金属介在塩基対においては、塩基と金属イオンは配位結合又は共有結合により連結されている。
【0027】
本明細書において、塩基Aと塩基Bの塩基対を「A/B」で表し、塩基Aと塩基Bと金属イオンMの金属介在塩基対を「A/M/B」で表す。これらいずれの場合においても、記載された順番に限定されるものではない。例えば、特に限定する記載がない限り、塩基A及び塩基Bのいずれを共用塩基とすることもできるものとする。一方、本明細書において、塩基Aと塩基Bが同一の核酸鎖上で互いに隣接したヌクレオチドの塩基であることは「A-B」で表す。
【0028】
本明細書において、特定の塩基と「塩基対を形成可能」とは、ある塩基が当該特定の塩基と塩基対を形成し得る構造を有し、当該特定の塩基と塩基対を形成し得る位置関係にあることを指す。
【0029】
本明細書において、ある塩基について、特定の「塩基対が形成される」とは、その塩基が形成可能な他の塩基対と比較して当該特定の塩基対がエネルギー的に安定であることを指す。結合に関し、より「エネルギー的に安定」とは、その結合の結合エネルギーが比較対象より大きいことを指す。「結合エネルギー」とは、1molの原子間の結合を切るために必要なエネルギーをいう。
【0030】
「金属」とは、金属光沢、展性及び延性を有し、電気及び熱の良伝導体である物質の総称である。また、「イオン」とは、電子の過剰又は欠損により電荷を帯びた原子をいう。本明細書において「標的金属」及び「標的金属イオン」とは、それぞれ本発明により捕捉又は検出する対象となる金属及び金属イオンを指す。
【0031】
「重金属」とは、比重がチタンのそれ(4.50g/cm3)以上である金属をいう。
「捕捉」とは、ある物質を他の物質の内部にとらえることをいう。特に、本明細書においては、金属イオンを核酸分子の内部にとらえることを指す。
【0032】
「検出」とは、特定の成分又は特定の状態の存在を、検査して見出すことをいう。特に、本明細書においては、被験試料における標的金属の存在又は標的金属イオンの結合の有無を見出すことを指す。
「接触」とは、一の物質が他の物質と物理的に直接触れることを指す。
【0033】
1-3.構成
本発明の捕捉剤は、必須の構成として互いにハイブリダイズ可能な2つの塩基配列領域を含む核酸分子を含む。また、核酸分子は右巻きの二本鎖構造を構成する検知ドメインを1つ又は複数含む。
各構成について以下に具体的に説明する。
【0034】
1-3-1.2つの塩基配列領域
本発明の捕捉剤に含まれる核酸分子は2つの塩基配列領域を含み、2つの塩基配列領域は互いにハイブリダイズ可能である。
【0035】
本明細書において「ハイブリダイズする」とは、互いに完全に又は部分的に相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドが二本鎖を形成することを指す。
【0036】
ハイブリダイズする塩基配列領域の長さは特に限定しない。例えば、6塩基~120塩基であればよい。具体的には、例えば、6塩基以上、7塩基以上、8塩基以上、9塩基以上、10塩基以上、11塩基以上、12塩基以上、13塩基以上、14塩基以上、15塩基以上、16塩基以上、17塩基以上、18塩基以上、19塩基以上、20塩基以上、21塩基以上、22塩基以上であればよく、また、例えば、120塩基以下、110塩基以下、100塩基以下、90塩基以下、80塩基以下、70塩基以下、60塩基以下、50塩基以下、40塩基以下、又は30塩基以下であればよい。この塩基配列領域の塩基配列は、互いにハイブリダイズ可能である限り特に限定しない。
【0037】
ハイブリダイゼーション条件は特に限定しないが、例えば、低ストリンジェントな条件及び高ストリンジェントな条件等の様々なストリンジェントな条件とすることができる。好ましくは、ハイブリダイズが、高ストリンジェントな条件で行われ得る。「高ストリンジェントな条件」とは、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味する。ここでいう低塩濃度は、具体的には、例えば、15~750mM、好ましくは15~500mM、15~300mM又は15~200mMをいう。また、ここでいう高温は、具体的には、例えば、50~68℃、又は55~70℃である。具体的な高ストリンジェントな条件として、例えば、65℃、0.1×SSC及び0.1%のSDSで洗浄する条件が挙げられる。ここで、1×SSCは、150mM塩化ナトリウム及び15mMクエン酸ナトリウムを含む。
【0038】
ハイブリダイズ可能であるかどうかは、当技術分野において公知の方法を用いて知ることができる。例えば、塩基同一性に基づいて知ることができる。通常、第1の核酸の塩基配列と完全に相補的な配列と塩基同一性が一定以上の塩基配列を有する第2の核酸は、第1の核酸とハイブリダイズ可能である。具体的には、例えば、塩基同一性が70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上又は100%の場合にハイブリダイズ可能である。
【0039】
本明細書において「塩基同一性」とは、2つのポリヌクレオチドの塩基配列を整列(アラインメント)し、必要に応じて、いずれかの塩基配列にギャップを導入して、両者の塩基一致度が最も高くなるようにしたときの、一方のポリヌクレオチドの全塩基数に対する他方のポリヌクレオチドの同一塩基の割合(%)をいう。%同一性は、相同性検索プログラムBLAST(Basic local alignment search tool;Altschul, S. F. et al.,J. Mol. Biol., 215, 403-410, 1990)検索等の公知のプログラムを用いて容易に決定できる。また、通常、第1の核酸の塩基配列と完全に相補的な配列において1個又は複数個の塩基が別の塩基に置換された塩基配列を有する第2の核酸は、第1の核酸とハイブリダイズ可能である。
【0040】
本明細書における複数個とは2個以上を指し、具体的には、例えば、2~30個、2~14個、2~12個、2~10個、例えば、2~8個、2~6個、2~5個、2~4個又は2~3個(数個)を指す。例えば、検知ドメインの両方又は一方に隣接する1個又は複数個の塩基対を相補的な塩基対とすることができる。
【0041】
2つの塩基配列領域の具体的な塩基配列は、検知ドメインが右巻きの二本鎖構造を構成する限り特に限定しない。好ましくは、検知ドメインの前及び/又は検知ドメインの後の配列が右巻きの二本鎖構造をとることが知られている配列である。
【0042】
例えば、左巻きの二本鎖構造を形成することが知られている配列を避けることにより右巻きの二本鎖構造をとらせることができる。左巻きの二本鎖構造を形成することが知られている具体的な配列としては、例えば、GCの繰り返し配列(具体的には、例えば、(GC)n(nは2以上の自然数)を含む繰り返し配列)等の配列が知られている。
【0043】
右巻きの二本鎖構造をとる配列の長さは特に限定しないが、例えば、2塩基以上、3塩基以上、4塩基以上、5塩基以上、6塩基以上、7塩基以上、8塩基以上、9塩基以上、10塩基以上とすることができる。
【0044】
目的の配列が右巻きの二本鎖構造を形成可能であるか否かは、当技術分野において公知の方法を用いて知ることができる。例えば、右巻きの二本鎖構造を形成することが知られている配列モチーフやコンセンサス配列を使用した場合には、その特定の立体構造が形成されるものと推定することができる。この場合、実際に右巻きの二本鎖構造が形成されたか否かを確認することを要しない。実際に右巻きの二本鎖構造が形成されることを確認する場合は、例えば、in silicoでの解析によって、又は構造解析によって、右巻きの二本鎖構造特異的に起こる現象の観察によって確認することができる。
【0045】
in silicoでの解析には、例えば、RNAComposer、RNAMotifScan、3dRNA、ModeRNA、MacroMoleculeBuilder、NAST、iFoldRNA、Vfold3D、SimRNA、又はこれらの組合せ等の当技術分野において公知の立体構造予測プログラムを使用することができる。
【0046】
または、目的の配列を有する核酸分子の構造解析によって立体構造を観察することもできる。この際、結晶化や構造解析に使用される条件及び方法は特に限定しない。具体的な方法としては、例えば、円二色性スペクトル(CDスペクトル)解析、中性子線結晶解析、核磁気共鳴(NMR)、X線結晶構造解析、核酸二本鎖の融解温度測定、又はこれらの組合せ等が挙げられる。
【0047】
あるいは、右巻きの二本鎖構造特異的に起こる現象の観察によって立体構造の形成を確認することもできる。例えば、ZBP1やADAR1等のタンパク質は左巻きのZ型構造特異的にDNAに結合することが知られている。そのため、これらタンパク質の結合の可否を調べることによって、目的の配列が右巻き構造を形成するか確認することができる。
【0048】
2つの塩基配列領域は1つの核酸分子中に、又は別々の核酸分子中に含むことができる。例えば、ホモ二量体又はヘテロ二量体を形成可能であるように構成してもよく、分子内会合可能なように構成してもよく、また、複数種類の構造を形成可能なように構成されてもよい。ここで、2つの塩基配列領域が1つの核酸分子中に含まれるとは、例えば、図1における塩基配列領域1及び塩基配列領域2が直接、又は追加の塩基配列により連結されていることを指す。
【0049】
例えば、2つの塩基配列領域を1つの核酸分子中に含むことにより、図3に示す実施例において使用された核酸分子のように、同一の2つの核酸分子が逆平行に対合し、ホモ二量体を形成可能な核酸分子を設計することができる。この場合、例えば、上述の追加の塩基配列を含まないか、追加の塩基配列を構成する塩基の数を少なくすることにより、ホモ二量体を形成可能である核酸分子を設計することができる。追加の塩基配列を構成する塩基の数の上限は特に限定しないが、例えば、20塩基以下、19塩基以下、18塩基以下、17塩基以下、16塩基以下、15塩基以下、14塩基以下、13塩基以下、12塩基以下、11塩基以下、10塩基以下、9塩基以下、8塩基以下、7塩基以下、6塩基以下、5塩基以下、4塩基以下、3塩基以下、2塩基以下、1塩基以下とすることができる。
【0050】
2つの塩基配列領域を1つの核酸分子中に含むことにより、追加の塩基配列の部分で折れ曲がり、一分子内で2つの塩基配列領域が対合できるように、核酸分子を設計することができる。この場合、例えば、追加の塩基配列を構成する塩基の数を多くすることにより、分子内会合可能な核酸分子を設計することができる。この領域間の塩基数の下限は特に限定しないが、例えば、1塩基以上、2塩基以上、3塩基以上、4塩基以上、5塩基以上、6塩基以上、7塩基以上、8塩基以上、9塩基以上、10塩基以上、20塩基以上、50塩基以上、100塩基以上等とすることができる。分子内会合可能な核酸分子には、単純なヘアピン構造を形成するものの他、tRNAやrRNAの様な複雑な構造を形成するものも含む。
【0051】
1-3-2.検知ドメイン
本発明の捕捉剤に含まれる核酸分子は検知ドメインを1つ又は複数含み、検知ドメインは1つの作動塩基、1つの表示塩基及び1つの共用塩基からなる(図1A)。
【0052】
検知ドメインにおいて、作動塩基及び表示塩基は互いに隣接し、2つの塩基配列領域の一方に含まれる(図1Aにおいては第1の塩基配列領域)。
【0053】
共用塩基は他方の塩基配列領域に含まれ(図1Aにおいては第2の塩基配列領域)、表示塩基と塩基対を形成可能であるとともに、作動塩基と金属介在塩基対を形成可能である。
なお、いずれの塩基配列領域に共用塩基が含まれるかは特に限定しない。
【0054】
本発明における検知ドメインは、以下の様に挙動する。
検知ドメインは、通常の状態、つまり、標的金属イオン非存在下においては(図1A)、表示塩基と共用塩基が塩基対を形成している。一方で、この塩基対に関与できない作動塩基は二本鎖構造の外側に露出している。
【0055】
標的金属イオンが検知ドメインに侵入すると、表示塩基と作動塩基が回転し(図1A)、共用塩基と作動塩基はその塩基間に標的金属イオンを介在させる金属介在塩基対を形成する(図1B)。一方で、この金属介在塩基対に関与できない表示塩基が二本鎖構造の外側に露出する。
【0056】
このように、標的金属イオンの有無によって検知ドメインは立体構造を変化させる。また、それにより、二本鎖構造の外側に露出した塩基が変化し、検知ドメインと標的金属イオンの接触の是非が核酸分子の外側から観測可能となる。
【0057】
(1)金属介在塩基対
定義の項にて上述した通り、「金属介在塩基対」とは、共用塩基及び作動塩基により、その塩基間に標的金属イオンを介在させて構成されるものである。金属介在塩基対は、金属イオンに2つの塩基(共用塩基及び作動塩基)が配位した構造を有する。具体的な構造は特に限定しないが、例えば、直線型二配位構造、平面型四配位構造等が挙げられる。直線型二配位構造では、2つの塩基がそれぞれ1つの配位部位で金属イオンに配位する。一方、平面型四配位構造では、1つの塩基が2つの配位部位で1つの標的金属イオンに配位し、もう1つの塩基が2つの配位部位で同じ標的金属イオンに配位するか、又は1つの塩基が1つの配位部位で1つの標的金属イオンに配位し、もう1つの塩基が3つの配位部位で同じ標的金属イオンに配位する。
【0058】
以下に図示するように、通常、チミン及びウラシルはその2位の酸素原子、3位の窒素原子、4位の酸素原子のいずれか1以上を、シトシン塩基はその2位の酸素原子及び/又は3位の窒素原子のいずれか1以上を、アデニンはその1位、3位、7位の窒素原子のいずれか1以上を、グアニンはその1位の窒素原子、3位の窒素原子、6位の酸素原子、7位の窒素原子のいずれか1以上を配位部位として金属イオンに配位可能である。
【0059】
【化1】
【0060】
金属介在塩基対に含まれる金属イオンは、作動塩基及び共用塩基が配位可能なものであれば特に限定しない。好ましくは直線型二配位構造又は平面型四配位構造をとることができる金属イオンである。
【0061】
直線型二配位構造をとることができる金属イオンとしては、一価の金イオン(Au(I))、一価の銀イオン(Ag(I))、一価の銅イオン(Cu(I))及び二価の水銀イオン(Hg(II))が挙げられる。一価の金イオンは、例えば塩化金(III)(AuCl3)由来の三価の金イオン(Au(III))を還元することにより得られる。一価の銀イオンは、例えば硝酸銀(I)(AgNO3)から得られる。一価の銅イオンは、例えば塩化銅(II)(CuCl2)由来の二価の銅イオン(Cu(II))を還元することにより得られる。二価の水銀イオンは、例えば過塩素酸水銀(II)(Hg(ClO4)2)から得られる。なお、二価の水銀イオンがチミン(T)と共に金属介在塩基対を形成することは、本発明者らにより既に報告されているとおりである(J. Kondo et al., Angewandte Chemie International Edition, 2014, vol. 53, pp. 2385-2388)。
【0062】
また、平面型四配位構造をとることができる金属イオンとしては、二価の銅イオン(Cu(II))、二価の白金イオン(Pt(II))、二価のニッケルイオン(Ni(II))、二価のパラジウムイオン(Pd(II))、二価の金イオン(Au(II))、三価のガドリニウムイオン(Gd(III))、三価のマンガンイオン(Mn(III))、三価のユウロピウムイオン(Eu(III))、一価のイリジウムイオン(Ir(I))、一価のロジウムイオン(Rh(I))が挙げられる。二価の銅イオンは、例えば塩化銅(II)(CuCl2)から得られる。二価の白金イオンは、例えばヘキサブロモ白金(IV)酸カリウム(K2PtBr6)由来の四価の白金を還元することによって得られる。二価のニッケルイオンは、例えば塩化ニッケル(II)(NiCl2)から得られる。
【0063】
金属介在塩基対(定義の項で上述した通り、「(第1の塩基)/(金属イオン)/(第2の塩基)」と表記する。なお、第1の塩基及び第2の塩基のいずれが共用塩基であってもよい。)としては、例えば、T/Hg2+/T、U/Hg2+/U、T/Hg2+/U、T/Hg2+/G、U/Hg2+/G、C/Ag+/U、C/Ag+/T、C/Ag+/A、C/Ag+/G、U/Ag+/U、T/Ag+/U、T/Ag+/T、U/Ag+/A、G/Ag+/G、G/Ag+/A、C/Ag+/C、C/Au+/C及びC/Au+/G等が挙げられる。好ましい金属介在塩基対としては、T/Hg2+/T、U/Hg2+/U、T/Hg2+/U、T/Hg2+/G、U/Hg2+/G、C/Ag+/C及びC/Au+/C等が挙げられる。
【0064】
また、金属介在塩基対は人工塩基を含んでもよい。具体的には、例えば、イミダゾール及びその誘導体(例えばメチル基による置換体)、1,2,3-トリアゾール及びその誘導体(例えばピリジンによる置換体)、6-フリルプリン、1H-イミダゾ[4,5-f][1,10]フェナントロリン、ピリジン、ヒドロキシピリドン、6-ヒドロキシキノリン、7-ヒドロキシキノリン、6-カルボキシプリン、ピラゾリルフェノール、サレン、ピリジン-2,6-ジカルボン酸、プリン-2,6-ジカルボン酸、ビピリジン、ピリジルピリミドン、ピリジルプリン、メルカプトピリドン、ヒドロキシピリジンチオン、1,2-ヒドロキシピリジノン、サリチルアルデヒド、1,2,4-トリアゾール等を挙げることができる。
【0065】
人工塩基や天然塩基誘導体によって構成される金属介在塩基対としては、例えば、Takezawa, Y., et al., (2017) Chemistry Letters, 46(5), 622-633.に記載の金属介在塩基対を用いることができる。具体的には、水銀イオンを介在する金属介在塩基対としては、例えば、(ピリジン)/Ag+/(ピリジン)等が挙げられる。銀イオンを介在する金属介在塩基対としては、(イミダゾール)/Ag+/(イミダゾール)、(イミダゾールシトシン)/Ag+/(イミダゾールシトシン)、(4-チオチミン)/Ag+/(4-チオチミン)、(ピロロシトシン)/Ag+/(ピロロシトシン)、(6-フリルプリン)/Ag+/(6-フリルプリン)等が挙げられる。また、銅イオンを介在する金属介在塩基対としては、(サレン)/Cu2+/(サレン)、(6-ヒドロキシキノリン)/Cu2+/(6-ヒドロキシキノリン)、(6-カルボキシプリン)/Cu2+/(6-カルボキシプリン)等が挙げられる。ニッケルイオンを介在する金属介在塩基対としては、(ピリジルプリン)/Ni2+/(ピリジルプリン)、(ピリジルピリミドン)/Ni2+/(ピリジルピリミドン)等が挙げられる。マンガンイオンを介在する金属介在塩基対としては、(サレン)/Mn3+/(サレン)等が挙げられる。亜鉛イオンを介在する金属介在塩基対としては、(プリン-2,6-ジカルボン酸)/Zn2+/(ピリジン)等が挙げられる。ガドリニウムイオンを介在する金属介在塩基対としては、(5-ヒドロキシウラシル)/Gd3+/(5-ヒドロキシウラシル)等が挙げられる。パラジウムイオンを介在する金属介在塩基対としては、(メルカプトピリドン)/Pd2+/(メルカプトピリドン)等が挙げられる。白金イオンを介在する金属介在塩基対としては、(ヒドロキシピリジンチオン)/Pt2+/(ヒドロキシピリジンチオン)等が挙げられる。ユウロピウムイオンを介在する金属介在塩基対としては、(1,2-ヒドロキシピリジノン)/Eu3+/(1,2-ヒドロキシピリジノン)等が挙げられる。共用塩基と作動塩基は同じ塩基、人工塩基又は天然塩基誘導体であってもよく、互いに異なる塩基等であってもよい。
【0066】
金属介在塩基対の形成は、その接触時の環境条件に応じて変化するものであってもよい。例えば、pHや温度等の条件に応じて、結合可能な標的金属イオンの種類が変化する金属介在塩基対を用いることができる。
【0067】
(2)表示塩基
表示塩基は、金属介在塩基対が形成された際に二本鎖構造の外側に露出する塩基である。表示塩基は、その露出を検出可能な塩基であることが好ましい。
【0068】
例えば、表示塩基が天然塩基である場合、表示塩基に特異的に結合可能な抗体、抗原結合性断片、アプタマー等を使用して検出することができる。
【0069】
また、表示塩基は検出可能な標識を含んでもよい。検出可能な標識の種類は特に制限せず、検出方法によって適宜決定すればよい。具体的な検出可能な標識としては、例えば、蛍光色素(例えば、FITC、Texas、Cy3、Cy5、Cy7、FAM、HEX、VIC、JOE、Rox、TET、Bodipy493、NBD及びTAMRA等)、発光物質(例えば、アクリジニウムエステル等)、酵素の基質又は抗原として働く非着色低分子(例えば、ビオチン及びDIG等)、及び放射性同位元素(例えば、32P、3H及び14C等)等が含まれる。表示塩基に使用される標識としては、表示塩基が二本鎖構造の外側に露出した場合と露出していない場合を区別して検出可能な標識が好ましい。
【0070】
また、標識として、蛍光塩基を使用することもできる。蛍光塩基の種類は、蛍光を発する核酸塩基であれば特に限定しない。具体的な蛍光塩基は、例えば、Glen research社のカタログ(https://www.glenresearch.com/media//folio3/productattachments/product_catalog/Glen_Product_Catalog_2021.pdf)、Bood, M., et al., Beilstein Journal of Organic Chemistry, 2018, 14(1), 114-129.等に記載されている。蛍光塩基には、限定されないが、2-アミノプリン、pA、qA及びその誘導体、1,N6-エテノアデニン等のアデニンの類似体;ピロロシトシン、tC(1,3-ジアザ-2-オキソフェノキサジン)、9-アミノエチル-1,3-ジアザ-2-オキソフェノキサジン、1,3-ジアザ-2-オキソフェノチアジン、及びその誘導体等のシトシンの類似体;5-(1-ピレニル-エチニル)ウラシル等のウラシルの類似体及び等が挙げられる。蛍光塩基は、例えば、糖の1'位に結合していてもよい。
【0071】
蛍光塩基を有するヌクレオチドは、例えば、下記の構造を有する2-アミノプリンを有するデオキシリボヌクレオチドであってもよい。
【0072】
【化2】
【0073】
蛍光塩基を有するヌクレオチドは、例えば、下記の構造を有するpA又はその誘導体を有するデオキシリボヌクレオチドであってもよい(構造式中、Rはデオキシリボースである)。
【0074】
【化3】
【0075】
蛍光塩基を有するヌクレオチドは、例えば、下記の構造を有するqA又はその誘導体を有するデオキシリボヌクレオチドであってもよい(構造式中、Rはデオキシリボースである)。
【0076】
【化4】
【0077】
蛍光塩基を有するヌクレオチドはまた、例えば、下記の構造を有するピロロシトシンを有するデオキシリボヌクレオチドであってもよい。
【0078】
【化5】
【0079】
(3)塩基同士の関係
表示塩基に対する共用塩基の位置は、塩基対を形成可能であれば特に限定しない。例えば、一方の塩基配列領域における表示塩基の位置が5'末端からM番目である場合、共用塩基は他方の塩基配列領域の3'末端からM-1番目、M番目又はM+1番目とすることができる。
【0080】
また、作動塩基に対する共用塩基の位置は、金属介在塩基対を形成可能であれば特に限定しない。例えば、一方の塩基配列領域における作動塩基の位置が5'末端からN番目である場合、共用塩基は他方の塩基配列領域の3'末端からN-1番目、N番目又はN+1番目とすることができる。
【0081】
さらに、表示塩基に対する作動塩基の位置も、隣接している限り特に限定しない。例えば、一方の塩基配列領域における表示塩基の位置が5'末端からM番目である場合、作動塩基の位置(5'末端からN番目)は5'末端からM-1番目又はM+1番目とすることができる。
【0082】
好ましくは、一方の塩基配列領域における表示塩基及び作動塩基の位置がそれぞれ5'末端からM番目及びM+1番目である場合、共用塩基は他方の塩基配列領域の3'末端からM番目である。また好ましくは、一方の塩基配列領域における表示塩基及び作動塩基の位置がそれぞれ5'末端からM番目及びM-1番目である場合、共用塩基は他方の塩基配列領域の3'末端からM-1番目である。
【0083】
上述の通り、検知ドメインは、標的金属イオンの存在の是非によってその形態を以下のように変化させる:
標的金属イオンの非存在下では共用塩基と表示塩基の塩基対が形成され、作動塩基はその塩基部分を二本鎖構造の外側に露出させる;
標的金属イオンの存在下では、金属介在塩基対が形成され、表示塩基はその塩基部分を二本鎖構造の外側に露出させる。
【0084】
このことから、表示塩基と作動塩基は異なる塩基であることが好ましい。
また、共用塩基と表示塩基の塩基対、共用塩基と作動塩基の塩基対、及び金属介在塩基対の結合のエネルギー的な安定性の関係は以下の通りであることが好ましい。
【0085】
(共用塩基と作動塩基の塩基対)<(共用塩基と表示塩基の塩基対)<(金属介在塩基対)
なお、本明細書において、エネルギー的な安定性に関して「A<B」なる記載は、Aに比べてBがエネルギー的に安定であることを示す。
【0086】
特定の塩基対のエネルギー的な安定性は、当該技術分野において公知の技術及び情報を用いて推定することができる(例えば、Sherer, E. C., et al., (2003) Journal of computational chemistry, 24(1), 57-67.;Takezawa, Y., et al., (2017) Chemistry Letters, 46(5), 622-633.を参照)。具体的には、例えば、PM3BP、mPWPW91/MIDI!、MP2又はその組合せ等のモデルを用いて推定することができる。また、検知ドメインでの利用を検討している塩基対及び/又は金属介在塩基対のエネルギー的な安定性は、例えば、核酸二本鎖の融解温度測定等の手法を用いることによって、実験的に確認することができる。
【0087】
共用塩基と作動塩基の塩基対、及び共用塩基と表示塩基の塩基対はいずれも、相補的な塩基対であっても、非相補的な塩基対であってもよい。好ましくは、共用塩基と作動塩基の塩基対は非相補的な塩基対である。
【0088】
塩基対と金属介在塩基対のエネルギー的な安定性の具体的な関係としては、例えば、(T/T)<(T/(2-アミノプリン))<(T/Hg2+/T)、(U/T)<(U/(2-アミノプリン))<(U/Hg2+/T)、(T/U)<(T/(2-アミノプリン))<(T/Hg2+/U)、(U/U)<(U/(2-アミノプリン))<(U/Hg2+/U)、(T/T)<(T/A)<(T/Hg2+/T)、(U/T)<(U/A)<(U/Hg2+/T)、(T/U)<(T/A)<(T/Hg2+/U)、(U/U)<(U/A)<(U/Hg2+/U)、(T/T)<(T/(1,N6-エテノアデニン))<(T/Hg2+/T)、(U/T)<(U/(1,N6-エテノアデニン))<(U/Hg2+/T)、(T/U)<(T/(1,N6-エテノアデニン))<(T/Hg2+/U)、(U/U)<(U/(1,N6-エテノアデニン))<(U/Hg2+/U)、(T/T)<(T/(ピロロシトシン))<(T/Hg2+/T)、(U/T)<(U/(ピロロシトシン))<(U/Hg2+/T)、(T/U)<(T/(ピロロシトシン))<(T/Hg2+/U)、(U/U)<(U/(ピロロシトシン))<(U/Hg2+/U)、 (C/C)<(C/(2-アミノプリン))<(C/Ag+/C)、(C/C)<(C/(1,N6-エテノアデニン))<(C/Ag+/C)、(C/C)<(C/A)<(C/Ag+/C)、(C/C)<(C/(2-アミノプリン))<(C/Au+/C)、(C/C)<(C/(1,N6-エテノアデニン))<(C/Au+/C)、(C/C)<(C/A)<(C/Au+/C)等が知られている。
【0089】
なお、エネルギー的な安定性の関係は、特定の本発明の捕捉剤を使用する条件下において成り立てばよい。例えば、特定のpH、温度、金属イオン濃度等の条件において、上述の様な関係が成り立つ場合、それらの塩基対を含む検知ドメインを有する捕捉剤は、その条件下において使用することができる。
【0090】
本発明において使用される検知ドメインの塩基構成は、上述の要件を満たす限り特に限定しない。具体的には、例えば、「(共用塩基)/(作動塩基)-(表示塩基)」として、T/T-A、T/T-(2-アミノプリン)、T/U-A、T/U-(2-アミノプリン)、U/T-A、U/T-(2-アミノプリン)、U/U-A、U/U-(2-アミノプリン)、T/T-(1,N6-エテノアデニン)、T/U-(1,N6-エテノアデニン)、U/T-(1,N6-エテノアデニン)、U/U-(1,N6-エテノアデニン)、T/T-(ピロロシトシン)、T/U-(ピロロシトシン)、U/T-(ピロロシトシン)、U/U-(ピロロシトシン)、C/C-A、C/C-(2-アミノプリン)、C/C-(1,N6-エテノアデニン)等が挙げられる。なお、例示された作動塩基と表示塩基の位置は、両塩基が含まれる塩基配列領域における並び順を示すものではない。つまり、5'末端から、作動塩基、表示塩基の順に並んでいても、逆に表示塩基、作動塩基の順に並んでいてもよい。
【0091】
検知ドメインは右巻きの二本鎖構造を構成する。本明細書における右巻きの二本鎖構造は、A型及びB型のいずれでもよい。通常、検知ドメインの前及び/又は後の配列が右巻きの二本鎖構造を形成する場合、検知ドメインも右巻きの二本鎖構造を構成する。
【0092】
また、本発明の核酸分子又はその重合体が複数の検知ドメインを含む場合、その位置関係は特に限定しない。例えば、異なる検知ドメインの表示塩基同士が互いに立体障害を受けないような位置にすることができる。具体的には、例えば、表示塩基同士の間に3塩基対以上又は4塩基対以上含まれていればよい。
【0093】
1-3-3.核酸分子
本発明の核酸分子の構造は、検知ドメインが右巻き二本鎖構造に含まれている限り特に限定しない。例えば、本発明の核酸分子は全体として直鎖状の二本鎖構造を形成してもよく、分岐を含む二本鎖構造を形成してもよい。右巻き二本鎖構造は局所的に又は全域的に形成され得る。右巻き構造を形成している領域の全体がA型又はB型のいずれか1種類で構成されていてもよく、A型及びB型が組合さって構成されていてもよい。
【0094】
本発明の核酸分子は、上述の2つの塩基配列領域の他に任意の塩基配列領域を含むことができる。例えば、検出用のタグ配列や、2つの塩基配列領域は1つの核酸分子中に含む場合には、2つの塩基配列領域の間にループ配列を含むことができる。また、本発明の核酸分子は、上述の2つの塩基配列領域を1組又は複数組含むことができる。
【0095】
本発明の核酸分子は1つ又は複数の検知ドメインを含むことができる。核酸分子が複数の検知ドメインを含む場合、同じ種類の検知ドメインを複数含んでも、異なる種類の検知ドメインを含んでもよい。また、例えば、2種類以上の検知ドメインを含む場合、同一又は異なる標的金属イオンを捕捉する検知ドメインを使用することができる。具体的には、同一の標的金属イオンを捕捉する検知ドメインを複数含むことにより、捕捉効率を上げることができる。また、異なる標的金属イオンを捕捉する検知ドメインを複数含むことにより、一つの捕捉剤によって複数種類の金属イオンを捕捉することができる。
【0096】
本発明の核酸分子は修飾ヌクレオチドを含むことができる。
修飾ヌクレオチドは、人工的に構築された修飾ヌクレオチド及び天然の修飾ヌクレオチドをいずれも包含する。非修飾ヌクレオチドに類似の性質及び/又は構造を有する人工ヌクレオチド(ヌクレオチド類似体)や、非修飾ヌクレオチドの構成要素である非修飾ヌクレオシド若しくは非修飾塩基に類似の性質及び/又は構造を有する修飾ヌクレオシド若しくは修飾塩基を含む人工ヌクレオチドが該当する。修飾ヌクレオシドの具体例としては、脱塩基ヌクレオシド、アラビノヌクレオシド、2'-デオキシウリジン、α-デオキシリボヌクレオシド、β-L-デオキシリボヌクレオシドが挙げられる。また、修飾塩基の具体例としては、2-オキソ(1H)-ピリジン-3-イル基、5位置換-2-オキソ(1H)-ピリジン-3-イル基、2-アミノ-6-(2-チアゾリル)プリン-9-イル基、2-アミノ-6-(2-チアゾリル)プリン-9-イル基、2-アミノ-6-(2-オキサゾリル)プリン-9-イル基等が挙げられる。
【0097】
修飾ヌクレオチドは糖修飾を含んでもよい。具体的には、例えば、2'位のヒドロキシ基を、メトキシ基に置換した2'-O-メチルリボース(2'-OMe)、エトキシ基に置換した2'-O-エチルリボース、プロポキシ基に置換した2'-O-プロピルリボース、若しくはブトキシ基に置換した2'-O-ブチルリボース、ヒドロキシ基をフルオロ基に置換した2'-デオキシ-2'-フルオロリボース又はヒドロキシ基を2'-O-メトキシ-エチル基に置換した2'-O-メトキシエチルリボース(2'-MOE)等が挙げられる。ヒドロキシ基が、炭化水素以外の官能基によって置換されてもよい。具体的には、例えば、H、及びハロゲン元素等による置換が挙げられる。また、ヌクレオシドの(デオキシ)リボース部が他の分子、例えば、糖、モルフォリノ環、PNA及びXNA等に置換されてもよい。具体的には、例えば、リボース部のアラビノース、2'-フルオロ-β-D-アラビノース、リボースの2'位のヒドロキシ基と4'位の炭素原子を架橋したリボース誘導体、リボース環の4'位の酸素を硫黄に置換したリボース誘導体への置換等が挙げられる。また、リボフラノース環上の酸素原子(リボースの4'位の酸素原子)が硫黄に置換したものも含まれる。特に、架橋したリボース誘導体を有するヌクレオチドは架橋核酸と呼ばれ、例えば、2'-OMe RNA、2'-MOE RNA、LNA、2'-O,5'-N BNA、及び2'-デオキシ-トランス-3',4'-BNA等が挙げられる。
【0098】
修飾ヌクレオチドは修飾塩基を含んでもよい。修飾塩基の例としては、5-メチルシトシン、5-フルオロシトシン、5-ブロモシトシン、5-ヨードシトシン又はN4-メチルシトシン;N6-メチルアデニン又は8-ブロモアデニン;2-チオ-チミン;N2-メチルグアニン又は8-ブロモグアニン;及び5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-ヨードウラシル又は5-ヒドロキシウラシルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0099】
また、本発明の核酸分子を構成する各塩基は天然塩基であっても人工塩基であってもよい。例えば、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)若しくはその誘導体、又は人工の配位子を用いることができる。好ましくはアデニン、チミン、グアニン、シトシン又はこれらの誘導体である。
【0100】
アデニンの誘導体としては、N1-メチルアデニン、N6-メチルアデニン、N6-アセチル-N6-メチルアデニン、N6-カルボキシメチルアデニン、2-アミノアデニン、8-アミノアデニン、8-オキソアデニン、8-ブロモアデニン、3-デアザアデニン、7-デアザアデニン、1,3-ジデアザアデニン、7-デアザ-8-アザアデニン、エテノアデニン、フェノキシアセチルアデニン等が挙げられる。
【0101】
チミン及びウラシルの誘導体としては、2-チオチミン、4-チオチミン、O4-メチルチミン、O4-カルボキシメチルチミン、5,6-ジヒドロチミン、シュードウラシル、5-ブロモウラシル、5-フルオロウラシル、5-ヨードウラシル、5-ヒドロキシウラシル、5-ヒドロキシメチルウラシル、4-チオウラシル、5,6-ジヒドロウラシル、O4-トリアゾリルウラシル等が挙げられる。
【0102】
グアニンの誘導体としては、ヒポキサンチン、6-チオグアニン、8-アミノグアニン、8-オキソグアニン、8-ブロモグアニン、8-ジュウテログアニン、O6-メチルグアニン、O6-カルボキシメチルグアニン、7-デアザグアニン、7-デアザ-8-アザグアニン等が挙げられる。
【0103】
シトシンの誘導体としては、N4-アセチルシトシン、N4-エチルシトシン、N4-メチルシトシン、N4-カルボキシメチルシトシン、5-ブロモシトシン、5-ヨードシトシン、5-カルボキシシトシン、5-ヒドロキシシトシン、5-ヒドロキシメチルシトシン、5-ホルミルシトシン、5-メチルシトシン、5-メチルイソシトシン、5-アザ-5,6-ジヒドロシトシン、ピロロシトシン、イミダゾールシトシン等が挙げられる。
【0104】
2.検出用組成物
2-1.概要
本発明の第2の態様は検出用組成物である。本発明の検出用組成物は、有効成分である第1態様に記載の捕捉剤を必須の構成成分として含む。また、捕捉剤の金属イオンの捕捉能を阻害又は抑制しない範囲において担体及び/又は媒体を含むことができる。さらに必要に応じて、他の有効成分を含んでいてもよい。本発明の検出用組成物を使用することで、低濃度の標的金属であってもより高効率で存在を検出することができる。以下、それぞれの構成成分について、具体的に説明をする。
【0105】
2-2.構成
2-2-1.構成成分
本発明の検出用組成物は、第1態様に記載の捕捉剤を必須の有効成分として含む。
【0106】
(1)有効成分
捕捉剤の具体的な構成は、第1態様で詳述していることからここでの説明は省略する。本態様の検出用組成物に使用される捕捉剤は、検出可能な標識を含む表示塩基を含むことが好ましい。
【0107】
組成物中の単位量あたりに含まれる有効成分の量は、剤形、標識の種類、標的金属の種類、使用条件、及び使用方法等の諸条件によって左右される。有効成分である捕捉剤が標的金属を捕捉する上で、及びその反応を検出する上で十分な量の有効成分を含んでいることが好ましい。したがって、当該分野の技術常識の範囲において、本発明の検出用組成物に含まれる捕捉剤が使用時に有効量となるように各条件を勘案し、決定すればよい。
【0108】
具体的には、使用時に、検知ドメインの数が、例えば、被験試料中の標的金属の濃度の1000倍以下、500倍以下、200倍以下、100倍以下、50倍以下、25倍以下、20倍以下、10倍以下、9.8倍以下、9.6倍以下、9.4倍以下、9.2倍以下、9倍以下、8.8倍以下、8.6倍以下、8.4倍以下、8.2倍以下、8倍以下、7.8倍以下、7.6倍以下、7.4倍以下、7.2倍以下、7倍以下、6.8倍以下、6.6倍以下、6.4倍以下、6.2倍以下、6倍以下、5.8倍以下、5.6倍以下、5.4倍以下、5.2倍以下、5倍以下、4.5倍以下、4倍以下、3.5倍以下、3倍以下、2.5倍以下、2倍以下、1.5倍以下又は1倍以下の量となるように含むことができる。また、例えば、検知ドメインの数が、被験試料中の標的金属の量の0.1倍以上、0.15倍以上、0.2倍以上、0.25倍以上、0.3倍以上、0.35倍以上、0.4倍以上、0.45倍以上、0.5倍以上、0.55倍以上、0.6倍以上、0.65倍以上、0.7倍以上、0.75倍以上、0.8倍以上、0.85倍以上、0.9倍以上又は0.95倍以上の量となるように含むことができる。
【0109】
(2)担体及び媒体
本発明の組成物において使用される担体及び媒体は、組成物の使用、標的金属の検出を容易にし、有効成分である捕捉剤の捕捉能を維持可能、及び/又は作用速度を制御可能な物質であれば特に限定しない。例えば、第3態様において記載するハイブリダイズ溶液を担体又は溶媒として使用してもよい。
【0110】
(2-1)担体
本発明に使用可能な担体の具体例として、保護剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、乳化剤、キレート剤及びpH緩衝剤等を利用しても良い。当該担体は、予め配合しても良いし、使用の直前に配合しても良い。
【0111】
保護剤は、紫外線によるダメージ軽減等の効果が期待される。例えば、スキムミルク類、カゼイン類、ゼラチン類等が挙げられる。
【0112】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0113】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、その他の有機系紫外線吸収剤(例えば、パラアミノ安息香酸系、オキシベンゾン系、ケイ皮酸系、ウロカニン酸系、退色防止剤等)及び無機系紫外線吸収剤(例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、タルク及びカオリン等)が挙げられる。
【0114】
乳化剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが挙げられる。
【0115】
キレート剤としては、例えば、EDTA、EGTA、クエン酸、サリチレート等が挙げられる。
【0116】
pH調整剤としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、グリコール酸、アスコルビン酸等の酸剤等が挙げられる。
【0117】
金属イオンとの結合活性を有する担体(例えば、キレート剤及び一部のpH調整剤等)は、本発明の金属イオンの検出を阻害しない範囲で利用することができる。利用の是非、及び利用する担体の種類や濃度は、例えば、結合対象の金属イオンと検出対象の金属の異同、目的の検出感度等の条件に応じて、適宜選択することができる。
【0118】
(2-2)溶媒
本発明において使用される溶媒は、有効成分である捕捉剤の捕捉能を維持可能であり、標的金属の検出能を維持可能な溶媒であれば特に限定しない。
【0119】
本発明に使用可能な溶媒としては、例えば、水(水溶液を含む)、バッファー、又はその他の水性溶媒が挙げられる。水溶液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助剤を含む等張液が挙げられる。補助剤としては、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、及び塩化ナトリウム、並びに低濃度の非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート80TM、HCO-60)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。
【0120】
好ましくは、検出用組成物に含まれる担体及び溶媒は、標的金属イオンを含まないか実質的に含まない。
【0121】
(3)他の有効成分
本発明の組成物は、第1態様に記載の捕捉剤に加えて、当該捕捉剤を構成する核酸分子の捕捉能に影響しない範囲において、同一の、及び/又は異なる作用を有する他の有効成分を一以上含むことができる。
【0122】
他の有効成分の種類は問わない。例えば、同一の、及び/又は異なる標的金属に対して捕捉能を有する核酸分子やペプチド等の生体分子であってもよい。
【0123】
3.キット
3-1.概要
本発明の第3の態様はキットである。本発明のキットは、第1態様に記載の捕捉剤及び/又は第2態様に記載の検出用組成物を有効成分として含み、試料中に存在する標的金属を検出できるように構成されている。本発明のキットを使用することで、低濃度の標的金属であってもより高効率で存在を捕捉することができる。
【0124】
3-2.構成
3-2-1.構成
本発明のキットは必須の構成要素として捕捉剤及び/又は検出用組成物を含むことを特徴とする。
【0125】
捕捉剤の具体的な構成は、第1態様で詳述していることからここでの説明は省略する。また、検出用組成物の具体的な構成は、第2態様で詳述していることからここでの説明は省略する。
【0126】
本発明のキットは容器を含むことができる。容器の素材は内容物を汚染しない、又は内容物による汚染を受けない素材で構成されていれば限定はしない。例えば、ポリプロピレンやポリスチレン等のプラスチック、ガラス、又は表面を特殊コーティングした紙等の素材が挙げられる。
【0127】
本発明のキットにおいて、捕捉剤及び/又は検出用組成物は、容器に含められていてもよい。本発明のキットは、標的金属が異なる複数種類の捕捉剤を含んでもよく、その場合、複数種類の捕捉剤は、1つ又は複数の容器に含められていてもよい。
【0128】
本発明のキットはまた、ハイブリダイゼーション溶液をさらに含み得る。本発明のキットにおいて、ハイブリダイゼーション溶液は、捕捉剤等と同じ又は異なる容器に含められていてもよい。
【0129】
本明細書において、ハイブリダイゼーション溶液は、捕捉剤等に含まれる核酸分子が二本鎖構造を形成し得る溶液であれば特に限定しない。ハイブリダイゼーション溶液は、例えば、塩及び/又は緩衝剤を含む溶液であってもよい。ここで、塩としては、例えば、塩化リチウム、硝酸ナトリウム、酢酸カリウム、ギ酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム、及び硫酸バリウム等が挙げられる。
【0130】
また、緩衝剤としては、例えばカコジル酸ナトリウム、カコジル酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、BIS-TRIS、HEPES、TRIS、MES、MOPS、クエン酸ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム、コハク酸、トリシン、及び酢酸ナトリウム等が挙げられる。
好ましくは、ハイブリダイズ溶液は、標的金属イオンを含まないか実質的に含まない。
【0131】
ハイブリダイゼーション溶液中の塩の濃度は特に限定しない。例えば、1mM~10M、1mM~1M、1mM~500mM、又は1mM~200mMとすることができる。ハイブリダイゼーション溶液中の緩衝剤の濃度は特に限定しない。例えば、1mM~1M、10mM~100mM、10mM~50mM、又は10mM~30mMとすることができる。ハイブリダイゼーション溶液のpHは特に限定しないが、例えば、pH≦11、具体的には5<pH<8、又は8≦pH≦11等とすることができる。ハイブリダイゼーション溶液は、例えば、塩化ナトリウム及びカコジル酸ナトリウムを含む溶液、例えば10mMカコジル酸ナトリウム(pH7)及び100mM塩化ナトリウムを含む溶液であってもよい。
【0132】
本発明のキットは、例えば、第5態様の接触工程において使用されるような、被験試料と核酸分子を接触させるための手段を含むことができる。
【0133】
本発明のキットは、例えば、第6態様の検出工程において使用されるような、核酸分子の表示塩基を検出可能な手段を含んでもよい。検出可能な手段とは、例えば、検出に使用可能な試薬及び/又は得られるシグナルの検出に使用可能な検出機器等を指す。
【0134】
検出に使用可能な試薬としては、例えば、二本鎖構造の外側に表示塩基が露出した形態を検出可能な試薬等が挙げられる。二本鎖構造の外側に表示塩基が露出した形態を検出可能な試薬としては、例えば、表示塩基に結合可能な分子を含む試薬、及び表示塩基が二本鎖構造の外側に露出した形態の立体構造の全部又は一部に結合可能な分子を含む試薬等が挙げられる。
【0135】
結合可能な分子は特に限定しないが、例えば、抗体、その抗原結合性断片、及び核酸アプタマー及びペプチドアプタマー等のアプタマー等が挙げられる。
【0136】
検出機器は特に限定しない。使用する標識及び試薬、及び被験試料の性質等に応じて検出方法を適宜選択し、その検出方法に必要な機器を使用することができる。例えば、蛍光色素又は発光物質を使用した場合は、例えば、目視検査によって、顕微鏡(例えば、蛍光顕微鏡等)を用いて、検出器(例えば、蛍光活性化セルソーティング(FACS)、発光光度計、吸光光度計等)を用いて、又はその組合せにより検出することができる。酵素の基質又は抗原として働く非着色低分子を標識として使用した場合は、例えば、酵素処理等の処理の後に、蛍光色素又は発光物質を使用した場合と同様の検出方法により検出を行うことができる。放射性同位元素を標識として使用した場合は、例えば、オートラジオグラフィ、シンチレーションカウンター、陽電子放出断層撮影(PET)又はその組合せにより検出することができる。
【0137】
本発明のキットは、例えば、第6態様の判定工程において使用されるような、含有される標的金属の量が既知の対照試料を含むことができる。対照試料は1つ又は複数含むことができる。また、キットが複数種類の標的金属を検出可能な核酸分子を含む場合、標的金属ごとの対照試料を含むことができる。
【0138】
本発明のキットは、例えば、第6態様の判定工程において使用されるような、被験試料における標的金属の存在を判定するための指標を含むことができる。指標は1つ又は複数含むことができる。また、キットが複数種類の標的金属を検出可能な核酸分子を含む場合、標的金属ごとの対照試料を含むことができる。また、対照試料及び指標の両方を含んでもよい。
【0139】
本発明のキットは、必要に応じて使用説明書を含むことができる。
本発明のキットは被験試料中の標的金属イオンを捕捉するための標的金属イオンの捕捉キットとして、又は被験試料中の標的金属を検出する標的金属の検出キットとして使用することができる。
【0140】
4.デバイス
4-1.概要
本発明の第4の態様はデバイスである。本発明のデバイスは、試薬部において、第1態様に記載の捕捉剤及び/又は第2態様に記載の検出用組成物を必須の構成として含み、標的金属の存在を検出することができる。本発明の検出デバイスを使用することで、低濃度の標的金属であってもより高効率で存在を検出することができる。
【0141】
4-2.構成
4-2-1.構成部分
本発明のデバイスは、必須の構成部分として試料受容部、試薬部、反応部、及び提示部を、また選択的構成部分として展開部を含む。展開部は、さらに標識手段を含むことができる。以下、各構成部分について説明をする。
【0142】
4-2-2.試料受容部
「試料受容部」は、標的金属が含まれ得る試料を受容するように構成されている。この部で受容される試料は特に限定しないが、第5態様に記載の捕捉方法又は第6態様に記載の検出方法で使用される被験試料及び対照試料等が含まれる。受容する試料の量は、標的金属イオンを捕捉する上で必要となる最低限の量以上あれば限定はしない。試薬部に含まれる核酸分子の感度や被験試料の組成、形態等によって適宜決定することができる。
【0143】
試料受容部は、受容した試料を貯留可能なウェル状の容器形状であってもよい。この場合、試料受容部の素材は試料を汚染しない、又は試料による汚染を受けない素材で構成されていれば限定はしない。ポリプロピレンやポリスチレン等のプラスチック、ガラス、又は表面を特殊コーティングした紙等の素材が挙げられる。また、試料受容部は、試料を吸収しやすいシート状又は棒状の形状であってもよい。この場合、不織布やフィルターのように、試料を吸収しやすい素材で構成することができる。
【0144】
本発明のデバイスを用いて標的金属イオンを捕捉する場合、試料が液体の場合には、試料受容部に滴下するか又は含浸させればよい。また、試料が固体の場合には、液体に懸濁した試料を試料受容部に滴下するか又は含浸させる、又は湿潤させた試料受容部を試料に接触させればよい。試料が気体又はエアロゾル等の場合には、液体に吸収させた試料を試料受容部に滴下するか又は含浸させる、又は湿潤させた試料受容部を試料に接触させればよい。
【0145】
4-2-3.試薬部
「試薬部」は、第1態様に記載の捕捉剤及び/又は第2態様に記載の検出用組成物を含むように構成されている。捕捉剤及び/又は検出用組成物に含まれる核酸分子は、試薬部内の担体表面に固定されていてもよいし、試薬部内で遊離状態であってもよい。
【0146】
試薬部に含まれる核酸分子の量は、試料中に含まれる標的金属イオンを捕捉するために必要な最低限の量以上であれば限定はしない。
【0147】
試薬部は、デバイスにおいて、前記試料受容部とは異なる箇所に設置されていてもよい。この場合、試料受容部で受容された試料と試薬部に含まれる核酸分子は、それぞれ流路を通り、後述する反応部へ送達されるように構成される。また、試料受容部と試薬部とを同一箇所に設置し、試料受容部兼試薬部(試料受容部/試薬部)とすることもできる。この場合、試料受容部内には核酸分子が包含され、受容した試料は核酸分子と直ちに反応する。したがって、試料受容部/試薬部は、次に説明する反応部も兼ね得る。
【0148】
4-2-4.反応部
「反応部」は、試料中に含まれる標的金属イオンと核酸分子が反応し得る場として機能するように構成されている。両者の反応が進行し得る条件を提供できる部であれば、その構成は特に限定しない。
【0149】
4-2-5.展開部
「展開部」は、反応部で生成された反応物が後述の提示部にまで移動する流路となり得る部であり、本発明のデバイスにおける選択的構成部分である。展開部は、本発明のデバイスにおいて、反応部と提示部が異なる箇所に設置される場合、両部を連絡する部として機能し得る。展開部の構造は、限定はしないが溝状又は管状の流路が挙げられる。
【0150】
(1)標識手段
展開部は、標識手段を包含していてもよい。「標識手段」は反応部で生成された反応物が提示部に到達するまでの間に反応物の標識を行う手段である。標識手段では、反応物が標識物質により標識されるように構成されている。標識手段の具体的な構成は、特に限定はしない。例えば、第3態様のキットの項にて記載した検出に使用可能な試薬等を用いることができる。
なお、標識手段は、前記反応部又は後述の提示部に包含されていてもよい。
【0151】
(2)除去手段
展開部は、除去手段を包含していてもよい。「除去手段」は反応部で生成された反応物が提示部に到達するまでの間に標的金属イオンに結合していない核酸分子及び/又は核酸分子に結合していない金属イオン等の除去を行う手段である。除去手段では、反応物中の反応していない核酸分子及び/又は金属イオン等が除去されるように構成されている。除去手段の具体的な構成は特に限定はしない。例えば、標的金属イオンと結合していない核酸分子に結合可能な分子や、金属イオン等の微小な夾雑物を除去可能な膜構造や吸着剤等を用いることができる。
なお、除去手段は、前記反応部又は後述の提示部に包含されていてもよい。
【0152】
4-2-6.提示部
「提示部」は、前記反応部における捕捉結果、すなわち反応部で生成された反応物の量や反応物の有無を提示できるように構成されている。具体的には、例えば、捕捉及び/又は検出の成否が視認可能な状態で提示されるように構成されてもよく、標的金属イオンの含有量が視認可能な状態で提示されるように構成されてもよい。
【0153】
提示の手段は特に限定しない。例えば、呈色反応を用いる場合には、その発色を、また、蛍光や発光の反応を用いる場合には、その蛍光や発光を、デバイス上の任意の場所で提示できるように構成されていればよい。あるいは、それらの反応の程度を数値等で提示できるように構成されてもよい。
【0154】
本態様のデバイスの具体例として、当技術分野で公知の免疫クロマトグラフィーに使用されるようなテストストリップ等の形態、ろ紙等に核酸分子を含ませた試験紙等の形態、感応膜等を用いたイオン濃度計等の形態、又は検知管やデジタル気体測定器等の形態等が挙げられる。
【0155】
本発明のデバイスは被験試料中の標的金属イオンを捕捉するための標的金属イオンの捕捉用デバイスとして、又は被験試料中の標的金属を検出する標的金属の検出デバイスとして使用することができる。
【0156】
5.標的金属イオンの捕捉方法
5-1.概要
本発明の第5の態様は、標的金属イオンの捕捉方法である。本態様の方法は、接触工程を必須工程として含み、懸濁工程、捕捉剤濃縮工程、金属単離工程及び金属濃縮工程を任意選択可能な工程として含む。本方法によれば、第1態様に記載の捕捉剤を用いて金属イオンを捕捉することができる。
【0157】
5-2.方法
本態様の方法は、接触工程を必須工程として含み、懸濁工程、捕捉剤濃縮工程、金属単離工程及び金属濃縮工程を任意選択可能な工程として含む。以下、各工程について具体的に説明をする。
【0158】
5-2-1.懸濁工程
本工程は任意工程であり、被験試料を液体に懸濁する工程である。
被験試料が液体でない場合には、本工程を行うことができる。一方、例えば、被験試料が液体、半固体及びエアロゾルからなる群から選択される形態である場合、本工程を行う必要はない。
【0159】
本明細書において「被験試料」とは、標的金属イオンが存在し得る試料である。本明細書において使用可能な被験試料としては、例えば、体液及び細胞等の生体試料、石炭灰及び石油灰等の各種リサイクル試料、大気、土壌及び水等の環境試料、鉱山資源試料及び海洋資源試料等の資源試料等が含まれる。
【0160】
5-2-2.接触工程
本工程は、被験試料を第1態様に記載の捕捉剤と接触させる工程である。懸濁工程を行う場合には、本工程は懸濁工程と同時に又はその後に行うことができる。
【0161】
本工程において使用される接触方法は特に限定しない。本発明においては、被験試料及び捕捉剤の少なくともいずれか一方が液体である。したがって、固体と液体、又は液体と液体が互いに直接接触できる方法であれば特に限定しない。具体的には、例えば、固体を液体に浸漬させる、固体に液体を散布、噴射若しくは塗布する、液体を液体に滴下若しくは混和する、又はその組合せ等によって接触させることができる。
【0162】
被験試料の一部が捕捉剤と接触すればよく、その全体が接触する必要はない。具体的には、例えば、被験試料が大きい固形物である場合には、その一部に捕捉剤を接触させることにより、被験試料に含まれる標的金属イオンを捕捉することができる。
【0163】
接触時間は特に限定しない。例えば、被験試料の種類や接触条件等に関連して決定することができる。具体的には、例えば、1秒以上、3秒以上、10秒以上、20秒以上、30秒以上、1分以上、5分以上、10分以上又は30分以上等とすることができる。
【0164】
接触は複数回行うことができる。その場合、各接触ごとに捕捉剤等の組成、接触時間及びその他の条件等を変更してもよく、前の接触に用いたものをそのまま使用してもよい。
【0165】
5-2-3.捕捉剤濃縮工程
本工程は、捕捉剤を濃縮する工程である。本工程は、接触工程と同時に又はその後に行うことができる。
【0166】
本工程において使用される濃縮方法は特に限定しない。例えば、標的金属イオンと結合しているか否かにかかわらず、非選択的に捕捉剤を濃縮してもよく、標的金属イオンと結合した、つまり、表示塩基が二本鎖構造の外側に露出した捕捉剤を選択的に濃縮してもよい。
【0167】
捕捉剤を非選択的に濃縮する方法としては、核酸分子の濃縮に使用される任意の方法を用いることができる。例えば、限外ろ過、イオン交換クロマトグラフィー、珪藻土法、サイズ排除クロマトグラフィー法の他、スピンカラムや磁気ビーズを用いた方法等を使用することができる。
【0168】
標的金属イオンと結合した捕捉剤を選択的に濃縮する方法としては、特定の認識部位を含む核酸分子の濃縮に使用される任意の方法を用いることができる。例えば、表示塩基に対する結合性分子を用いた、アフィニティークロマトグラフィー、磁気ビーズを用いた方法等を使用することができる。
【0169】
本工程は複数回行うことができる。その場合、毎回同じ方法を用いてもよく、又はその度ごとに異なる方法を用いてもよい。
【0170】
5-2-4.金属単離工程
本工程は、捕捉された標的金属イオンを単離する工程である。本工程は、接触工程の後に行うことができる。
【0171】
本工程で使用される方法は、二本鎖核酸分子にインターカレートされた物質を単離可能な方法であれば特に限定しない。例えば、温度変化、塩濃度変化等により二本鎖核酸を変性させる方法、核酸分子を分解する方法、核酸分子と比較して標的金属イオンに対して親和性の高い物質でイオン交換を行う方法、電荷や分子量の差によって分離する方法、又はこれらの組合せ等が挙げられる。
【0172】
本工程において、捕捉剤を破壊することなく標的金属イオンが単離される場合、標的金属イオンと分離された捕捉剤は標的金属イオンの捕捉剤として再利用することができる。
【0173】
5-2-5.金属濃縮工程
本工程は、標的金属イオンを濃縮する工程である。本工程は、接触工程と同時に又はその後に行うことができる。
【0174】
本工程において使用される濃縮方法は特に限定しない。例えば、活性炭、有機系吸着材(例えば、イオン交換樹脂等)、無機系吸着材(例えば、ヒドロキシアパタイト及びゼオライト等)又はこれらの組合せを使用した方法等の金属イオンを非選択的に濃縮する方法の他、イオン選択性樹脂等を用いた標的金属イオンを選択的に濃縮する方法等、当技術分野において知られる任意の方法を使用することができる。
【0175】
本工程は複数回行うことができる。その場合、毎回同じ方法を用いてもよく、又はその度ごとに異なる方法を用いてもよい。
【0176】
6.標的金属の検出方法
6-1.概要
本発明の第6の態様は、標的金属の検出方法である。本態様の方法は、接触工程、検出工程及び判定工程を必須工程として含み、懸濁工程を任意選択可能な工程として含む。本方法によれば、第1態様に記載の捕捉剤を用いて金属イオンを捕捉することができる。
【0177】
6-2.方法
本態様の方法は、接触工程、検出工程及び判定工程を必須工程として含み、懸濁工程を任意選択可能な工程として含む。以下、各工程について具体的に説明をする。
【0178】
6-2-1.懸濁工程
本工程は任意工程であり、被験試料を液体に懸濁する工程である。
本工程は、第5態様に記載の懸濁工程と同様である。したがって、ここでの詳細な説明は省略する。
【0179】
6-2-2.接触工程
本工程は、被験試料を、第1態様に記載の捕捉剤及び/又は第2態様に記載の検出用組成物と接触させる工程である。懸濁工程を行う場合には、本工程は懸濁工程と同時に又はその後に行うことができる。
本工程は、第5態様に記載の接触工程と同様である。したがって、ここでの詳細な説明は省略する。
【0180】
6-2-3.検出工程
本工程は、標的金属のイオンと検知ドメインとの結合の有無を検出する工程である。本工程は、接触工程と同時に又はその後に行うことができる。
【0181】
本工程において使用される検出方法は、表示塩基が二本鎖構造の外側に露出した状態を検出可能な方法であれば特に限定しない。例えば、SPR法、比濁法、比色法、蛍光法又はこれらの組合せを利用することができる。
【0182】
SPR(表面プラズモン共鳴)は、金属薄膜にレーザー光を照射すると特定の入射角度(共鳴角)において反射光強度が著しく減衰する現象をいう。SPR法は、この現象を利用した測定方法で、センサ部である金属薄膜表面上の吸着物を高感度に測定することができる。本発明においては、例えば、予め本発明の核酸分子を金属薄膜表面上に固定化しておき、その金属薄膜表面上に試料を通過させ、当該核酸分子と標的金属イオンとの結合によって生じる試料通過前後の金属表面上の吸着物の差を検出することにより試料中の標的金属を検出することができる。SPR法には、置換法、間接競合法等が知られるがいずれを用いてもよい。
【0183】
比濁法は、溶液に光を照射し、溶液中に浮遊する物質によって散乱する散乱光の減衰又はその溶液を通過した透過光を、吸光光度計等を用いて、又は目視により光学的に計測することにより溶液中の物質量を測定する方法である。本発明においては、試料中に本発明の核酸分子を添加する前後、又は本発明の捕捉剤及び/又は検出用組成物に試料を添加する前後の吸光度を計測することによって、試料中の標的金属を定量的に検出することができる。
【0184】
比色法は、発色させた反応物において、透過光又は反射光の強度や波長を光学的に計測することにより反応物中の物質量を測定する方法である。本方法は比色計等を用いて、又は目視により行うことができる。本発明においては、試料に本発明の核酸分子を添加する前後、又は本発明の捕捉剤及び/又は検出用組成物に試料を添加する前後の吸光度及び/又は色を計測することによって、試料中の標的金属を定量的に検出することができる。
【0185】
蛍光法は、励起光を、蛍光物質を含む反応物に照射し、発せられた蛍光の強度や波長を光学的に計測することにより反応物中の物質量を測定する方法である。本方法は蛍光検出器等を用いて、又は目視により行うことができる。本発明においては、試料に本発明の核酸分子を添加する前後、又は本発明の捕捉剤及び/又は検出用組成物に試料を添加する前後の蛍光の強度及び/又は波長を計測することによって、試料中の標的金属を定量的に検出することができる。
【0186】
また、二本鎖構造の外側に表示塩基が露出した形態を検出可能な分子と併用することにより検出を行うこともできる。例えば、ELISA法のサンドイッチ法を応用した方法を用いてもよい。この方法では、例えば、まず、固相担体に本発明の核酸分子を固定しておき、次に試料を添加し、試料中に存在する標的金属イオンと核酸分子とを結合させる。続いて、試料を洗い流した後、第3態様に記載の分子を添加して標的金属イオンと核酸分子の複合体に結合させる。洗浄後、適当な標識をした二次抗体を用いる等して複合体に結合した分子を検出することにより、試料中の標的金属を検出することができる。固相担体としては、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルトルエン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリメタクリレート、ラテックス、ゼラチン、アガロース、セルロース、セファロース、ガラス、金属、セラミックス又は磁性体等の材質よりなるビーズ、マイクロプレート、試験管、スティック又は試験片等の形状の不溶性担体を用いることができる。
【0187】
6-2-4.判定工程
本工程は、イオンの結合が検出された場合に、前記被験試料中に前記標的金属が存在すると判定する工程である。本工程は、検出工程と同時に又はその後に行うことができる。
【0188】
イオンの結合が検出されたか否かは、任意の方法を用いて決定することができる。
例えば、標的金属を含まないことが明らかな対照試料等を用いて相対的に決定してもよく、得られた検出工程において得られた結果に基づいて絶対的に決定してもよい。
【0189】
具体的には、例えば、標的金属を含まないことが明らかな対照試料を用いた場合、対照試料と比較して、被験試料における検出工程の結果が、よりイオンの結合を示す結果である場合に、被験試料が標的金属を含むと判定することができる。よりイオンの結合を示す結果であるといえるか否かは、例えば、定性的に判断してもよく、定量的に、例えば、統計学的手法を用いて、有意差の有無によって判断してもよい。
【0190】
本明細書において「有意」とは、統計学的に有意であることをいう。統計学的に有意とは、被験対象の測定値と対照値の差異を統計学的に処理したときに、両者間に有意差があることをいう。例えば、得られた値の危険率(有意水準)が小さい場合、具体的には5%より小さい場合(p<0.05)、1%より小さい場合(p<0.01)、0.1%より小さい場合(p<0.001)が挙げられる。ここに示す「p(値)」は、統計学的検定において、帰無仮説に基づいた分布の中で、検定統計量が偶然その値になる確率を示す。したがって「p」が小さいほど、検定統計量がその値となる確率は低く、帰無仮説が棄却されやすいことを意味する。統計学的処理の検定方法は、有意性の有無を判断可能な公知の検定方法を適宜使用すればよく、特に限定しない。例えば、スチューデントのt検定法、対応のあるスチューデントのt検定法、ウェルチのt検定法、ウィルコクソンの順位和検定、分散分析、Tukey事後検定等を用いることができるが、特に限定しない。
【0191】
あるいは、対照試料として、含有する標的金属の量が既知の1つ又は複数の試料を使用して判定することもできる。この場合、本工程により、被験試料に含まれる標的金属の量を推定することができる。
【0192】
絶対的に判定する場合、検出工程で得られた結果から、例えば、特定の指標に基づいて、被験試料に標的金属が含まれるか否か、又は含まれる量を判定することができる。
【0193】
例えば、イオンの結合によりシグナルが量的に変化する場合、そのシグナル強度と標的金属の量の関係を指標として、被験試料において観察されたシグナル強度から判定を行うことができる。具体的には、例えば、指標が標的金属の存在の是非を区別するための閾値である場合には、その閾値を超える強度のシグナルが被験試料から得られたときに、被験試料が標的金属を含むと判定することができる。
【0194】
また、例えば、イオンの結合によりシグナルが質的に変化する場合(例えば、色が変化する場合等)、シグナルの質と標的金属の量の関係を指標として、被験試料において観察されたシグナルから判定を行うことができる。具体的には、例えば、指標が標的金属の存在の是非を区別するための色のサンプルである場合には、被験試料から得られたシグナルがその色を超えて変化したときに、被験試料が標的金属を含むと判定することができる。
【実施例0195】
<実施例1:水銀イオン捕捉剤の設計とその機能の検証>
(目的)
核酸で構成される水銀イオン捕捉剤を設計し、水銀イオン捕捉剤としての機能を検証する。
【0196】
(方法)
1.核酸分子の設計と合成
検知ドメインとしてT/2AP-T(2APは蛍光塩基2-アミノプリンを示す)を含む核酸分子-1(5'-GGGTGCTA*CCC-3'(A*:2-アミノプリン):配列番号1;図3A)を設計した。この核酸分子-1はホモ二量体を形成し、塩基三つ組T/2AP-Tを2つ有する二本鎖核酸を形成する核酸分子として核酸分子-1を設計した。この塩基三つ組からなる検知ドメインにおいては、共用塩基がTであり、表示塩基が2APであり、作動塩基がTである。
【0197】
このような設計により、水銀イオン非存在時には図2Aの様な立体構造をとり、T:2APの塩基対が形成されると考えられる(図2B)。一方、水銀イオン存在時には図2Cの様な立体構造をとり、T/Hg2+/Tの金属介在塩基対が形成されると考えられる(図2D)。これにより、水銀イオン存在時には、2APが露出し、その蛍光シグナルが強く観察されると予想される。
【0198】
核酸分子の合成には、核酸自動合成機NTS-M2-MX(Nihon Techno Service Co, Ltd)を使用した。この際、2-アミノプリンを含むヌクレオチドのホスホロアミダイトとしては、2-アミノプリン-CEホスホロアミダイド(2-Aminopurine-CE Phosphoramidite)(Glen Research社)を使用した。合成したサンプルはNAP-10 columns(Cytiva社)を使用してゲルろ過により精製した。精製後には、7 M尿素を含む20%変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い、サンプルが高純度に正しく合成されていることを確認した。
【0199】
2.蛍光強度の測定
100mMの硝酸ナトリウム及び10mMの3-モルホリノプロパンスルホン酸(pH 7)を含む溶液を蛍光測定用緩衝液として用い、合成した核酸分子-1を最終濃度0.02mMとなるように添加した蛍光測定用緩衝液を試験溶液として調製した。
【0200】
蛍光スペクトルの測定条件(励起波長及び検出する蛍光波長の範囲)は、試験溶液の3D蛍光スペクトルをFP-8300(Jasco社)を用いて測定し、最大励起波長と最大蛍光波長を特定することにより決定した。
【0201】
以降の実験においては、核酸分子-1については以下の測定条件を用いた:
励起波長:280nm
検出波長:320nm~460nm。
【0202】
さらに、以下の式により、試験溶液に最終濃度0.02mMとなるように各種金属塩を添加したときの蛍光強度の変化率ΔFを算出し、核酸分子-1の金属検出能力を評価した。
【0203】
ΔF = (F-F0)/F
(F:金属イオン添加後の試験溶液における波長370nmでの蛍光強度、F0:金属イオン無添加の試験溶液における波長370nmでの蛍光強度)
【0204】
金属塩としては、過塩素酸水銀、硝酸銀、塩化ニッケル、シアン化金(I)カリウム、塩化金(III)、塩化銅(I)及び塩化銅(II)を用いた。
なお、これらの工程は室温で行った。
【0205】
(結果)
結果を図4に示す。
試験溶液に過塩素酸水銀を添加した場合のみ蛍光強度が上昇し(図4のHg(II))、その他の塩を添加した場合にはほとんど蛍光強度の上昇は見られなかった。
このことから、核酸分子-1は特異性の高い水銀捕捉剤として機能することがわかった。
【0206】
<実施例2:水銀イオン捕捉剤の捕捉効率の評価>
(目的)
核酸分子-1の水銀イオン捕捉剤としての捕捉効率を評価する。
【0207】
(方法)
蛍光強度の測定は実施例1と同様に行った。
添加する金属塩として過塩素酸水銀のみを用いた。過塩素酸水銀は、最終濃度が以下の濃度になるように試験溶液に添加した:
0.002mM、0.004mM、0.006mM、0.008mM、0.01mM、0.012mM、0.014mM、0.016mM、0.018mM、0.02mM、0.022mM、0.024mM、0.026mM、0.028mM、0.03mM、0.032mM、0.034mM、0.036mM、0.038mM、0.04mM、0.06mM、0.08mM、0.1mM、0.12mM、0.14mM、0.16mM、0.18mM及び0.2mM。
【0208】
(結果)
結果を図5及び6に示す。
捕捉剤の濃度を固定し、水銀イオン濃度を変動させた場合の蛍光強度は、水銀イオン濃度が捕捉剤の濃度を下回る範囲においては、水銀イオンの濃度依存的に上昇した(図5A及び図6)。一方、水銀イオン濃度が捕捉剤の濃度を超えた範囲においては、水銀イオンの濃度依存的に減少した(図5B及び図6)。結果として、水銀イオン濃度が捕捉剤の濃度と同等の場合に最も高い蛍光強度が観察された(図6)。
【0209】
2-アミノプリンに水銀イオンが直接結合することによる消光現象が報告されている(Zhou, W., et al., (2017). Biosensors and Bioelectronics, 87, 171-177.)。そのため、理論に縛られるものではないが、水銀イオンが高濃度の範囲における蛍光強度の減少は、この消光現象が関与している可能性がある。
【0210】
以上のことから、この捕捉剤は、特に水銀イオン濃度が低い条件において、高い効率で水銀イオンを捕捉可能であることがわかった。
【0211】
<実施例3:周囲の立体構造が捕捉剤性能に与える影響の評価>
(目的)
検知ドメインの周囲の構造が捕捉剤の性能に与える影響を調べる。
【0212】
(方法)
1.核酸分子の設計と合成
核酸分子-1において、末端付近の2塩基のみを置換した核酸分子-2(5'-GCGTGCTA*CGC-3'(A*:2-アミノプリン)配列番号2;図3B)を設計した。具体的には、配列番号2では、配列番号1の2番目のCがGに置換され、10番目のGがCに置換されている。
【0213】
核酸分子の合成と蛍光強度の測定は実施例1と同様に行った。実施例1と同様に蛍光の測定条件を検討し、使用する励起波長を305nmに決定した。
【0214】
(結果)
結果を図7に示す。
実施例1の結果と比べてバックグラウンドが高くなり、金属イオン非存在下においても2-アミノプリンの蛍光が比較的強く観測されてしまうことがわかった(図7A)。この結果、ΔFの値は、核酸分子-1での結果と比較して小さくなり、金属イオンの種類による値の差も比較的小さかった(図7B)。
【0215】
一般に、G/C塩基対とC/G塩基対を連続して交互に含む二本鎖核酸は逆平行左巻き構造であるZ型構造をとり得ることが知られている。一方、一般的なDNAの二本鎖核酸は逆平行右巻き構造であるB型構造をとることも知られている。
【0216】
これらのことから、理論に縛られるものではないが、検知ドメインは、右巻き構造を形成する場合には機能する一方、左巻き構造になると金属イオンの捕捉機能が損なわれる可能性がある。
【0217】
以上のことから、右巻き構造を有する二本鎖核酸に検知ドメインが含まれることが、金属イオンの捕捉機能の実現に必要であることが示唆された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
2024039112000001.xml