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特開2024-39130水分量または密度の補正方法および補正システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039130
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】水分量または密度の補正方法および補正システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/203 20060101AFI20240314BHJP
   G01N 23/09 20180101ALI20240314BHJP
   G01V 5/00 20240101ALI20240314BHJP
【FI】
G01N23/203
G01N23/09
G01V5/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143456
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】592069296
【氏名又は名称】ソイルアンドロックエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179855
【弁理士】
【氏名又は名称】藁科 えりか
(74)【代理人】
【氏名又は名称】藁科 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】谷口 龍
(72)【発明者】
【氏名】森 安弘
(72)【発明者】
【氏名】池永 太一
【テーマコード(参考)】
2G001
2G105
【Fターム(参考)】
2G001AA02
2G001AA04
2G001BA14
2G001CA02
2G001CA04
2G001FA08
2G001GA08
2G001KA01
2G105AA02
2G105BB19
2G105CC02
2G105DD02
2G105EE02
2G105GG06
2G105LL01
(57)【要約】
【課題】不陸のある地盤では、正確な水分量または密度を測定できない。
【解決手段】測定対象の地盤を不陸のない状態で、一定間隔に分割する複数のグリッドと、各グリッドの面に対する垂直方向の長さを表す1または複数の凹み量とを設定し、不陸のない地盤で放射線挙動シミュレータを使用して、グリッドおよび凹み量の各組み合わせに係る各補正値をそれぞれ取得する準備工程S1~3と、スキャナで不陸のある地盤の不陸の形状を測定し、測定した不陸の形状を各グリッドに対応させ、各グリッドの面に対する垂直方向の長さの数値を凹み量として取得し、各グリッドの凹み量の平均値を平均凹み量として算出する測定工程S4、5と、各グリッドの平均凹み量に対応する各補正値をそれぞれ取得して補正する補正工程S6と、を備えている。
【選択図】図2


【特許請求の範囲】
【請求項1】
散乱型RI計器の測定対象となる地盤の水分量または密度の補正方法において、
測定対象の地盤を不陸のない状態で、一定間隔に分割する複数のグリッドと、各グリッドの面に対する垂直方向の長さを表す1または複数の凹み量とを設定し、不陸のない地盤で放射線挙動シミュレータを使用して、グリッドおよび凹み量の各組み合わせに係る各補正値をそれぞれ取得する準備工程と、
スキャナで不陸のある地盤の不陸の形状を測定し、測定した不陸の形状を各グリッドに対応させ、各グリッドの面に対する垂直方向の長さの数値を凹み量として取得し、各グリッドの凹み量の平均値を平均凹み量として算出する測定工程と、
各グリッドの平均凹み量に対応する各補正値をそれぞれ取得して補正する補正工程と、
を備えることを特徴とする水分量または密度の補正方法。
【請求項2】
散乱型RI計器の測定対象となる地盤の水分量または密度の補正方法において、
水分量または密度の補正方法は準備工程、測定工程、補正工程を備え、
準備工程はシミュレート準備工程、全シミュレート工程、補正値算出工程を、測定工程は不陸測定工程、実測工程をそれぞれ有し、
シミュレート準備工程は、水分量または密度の測定対象となる地盤を不陸のない状態で、散乱型RI計器を模擬した放射線挙動シミュレータで水分量または密度に係る計数率を取得し、
全シミュレート工程は、測定対象の地盤を一定間隔に分割する複数のグリッドと、各グリッドの面に対する垂直方向の長さを表す1または複数の凹み量とを設定し、シミュレート準備工程と同一の放射線挙動シミュレータですべてのグリッドおよび凹み量の組み合わせに対して水分量または密度に係る計数率をそれぞれ取得し、
補正値算出工程は、全シミュレート工程で取得した各計数率を、シミュレート準備工程で取得した計数率ですべて除し、除した値をグリッドおよび凹み量の各組み合わせに係る各補正値としてそれぞれ取得し、
不陸測定工程は、スキャナで不陸のある地盤の不陸の形状を測定し、測定した不陸の形状を各グリッドに対応させ、各グリッドの面に対する垂直方向の長さの数値を凹み量として取得し、各グリッドの凹み量の平均値を平均凹み量として算出し、
実測工程は、不陸測定工程で測定した不陸のある地盤で、散乱型RI計器による水分量または密度に係る実測の計数率比を取得し、
補正工程は、補正値算出工程で算出した各補正値から、不陸測定工程で算出した各グリッドの平均凹み量に対応する各補正値をそれぞれ取得し、各グリッドについて取得した各補正値のすべての積を積算補正値とし、実測工程で取得した実測の計数率比を積算補正値で除して補正する
ことを特徴とする水分量または密度の補正方法。
【請求項3】
散乱型RI計器は、散乱型RI水分計、散乱型RI密度計のいずれも備えている、あるいは、いずれか一方のみ備えている請求項1または2記載の水分量または密度の補正方法。
【請求項4】
放射線を使用して地盤の水分量または密度を測定する散乱型RI計器と、
散乱型RI計器を模擬した放射線挙動シミュレータと、
地盤の不陸の形状を測定するスキャナと、
散乱型RI計器、放射線挙動シミュレータおよびスキャナが接続され、地盤の水分量または密度を補正する制御部と、
を少なくとも備える水分量または密度の補正システムにおいて、
制御部が、
測定対象の地盤を不陸のない状態で、一定間隔に分割する複数のグリッドと、各グリッドの面に対する垂直方向の長さを表す1または複数の凹み量とを設定し、不陸のない地盤で放射線挙動シミュレータを使用して、グリッドおよび凹み量の各組み合わせに係る各補正値をそれぞれ取得し、
スキャナで不陸のある地盤の不陸の形状を測定し、測定した不陸の形状を各グリッドに対応させ、各グリッドの面に対する垂直方向の長さの数値を凹み量として取得し、各グリッドの凹み量の平均値を平均凹み量として算出し、
各グリッドの平均凹み量に対応する各補正値をそれぞれ取得して補正する水分量または密度の補正システム。
【請求項5】
放射線を使用して地盤の水分量または密度を測定する散乱型RI計器と、
散乱型RI計器を模擬した放射線挙動シミュレータと、
地盤の不陸の形状を測定するスキャナと、
散乱型RI計器、放射線挙動シミュレータおよびスキャナが接続され、地盤の水分量または密度を補正する制御部と、
を少なくとも備える水分量または密度の補正システムにおいて、
制御部は、
水分量または密度の測定対象となる地盤を不陸のない状態で、散乱型RI計器を模擬した放射線挙動シミュレータで水分量または密度に係る計数率を取得し、
測定対象の地盤を一定間隔に分割する複数のグリッドと、各グリッドの面に対する垂直方向の長さを表す1または複数の凹み量とを設定し、放射線挙動シミュレータですべてのグリッドおよび凹み量の組み合わせに対して水分量または密度に係る計数率をそれぞれ取得し、
すべてのグリッドおよび凹み量の組み合わせに対する計数率を、放射線挙動シミュレータで取得した計数率ですべて除し、除した値をグリッドおよび凹み量の各組み合わせに係る各補正値としてそれぞれ取得し、
2次元または3次元的に測定するスキャナで不陸のある地盤の不陸の形状を測定し、測定した不陸の形状を各グリッドに対応させ、各グリッドの面に対する垂直方向の長さの数値を凹み量として取得し、各グリッドの凹み量の平均値を平均凹み量として算出し、
不陸のある地盤で、散乱型RI計器による水分量または密度に係る実測の計数率比を取得し、
グリッドおよび凹み量の各組み合わせに係る各補正値から、各グリッドの平均凹み量に対応する各補正値をそれぞれ取得し、各グリッドについて取得した各補正値のすべての積を積算補正値とし、実測の計数率比を積算補正値で除して補正する水分量または密度の補正システム。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分量または密度の補正方法および補正システムに関する。
【背景技術】
【0002】
土工現場においては、地盤の水分量(含水比のみならず、含水量、含水率なども含む。以下同じ)や密度(湿潤密度)を非接触かつ迅速に測定する必要がある。そのため、測定には放射性物質を利用したRI(ラジオアイソトープ)水分計やRI密度計がよく使用されている。以下、RI水分計またはRI密度計の少なくとも一方を含むものを適宜「RI計器」という。
なお、「水分量または密度」との用語は、水分量または密度の少なくとも一方を含むものをいう。
【0003】
RI計器には主に透過型と散乱型の2種類があり、いずれも、内蔵した放射性物質から放射線を放射する放射線源と、放射線を検出する放射線検出器(中性子線・γ線)とから構成されている。放射線源として、RI水分計では中性子線が、RI密度計ではγ線がそれぞれ使用されている。
【0004】
RI水分計について述べると、散乱型RI水分計は、放射線源である中性子線源と、放射線検出器である中性子検出器とが一体化され、測定対象の上表面(平面)に配置されている。放射線源(中性子線源)の標準体として、Cf-252(カリホルニウム252)が一般的に使用される。散乱型RI水分計の放射線源から中性子線が放射され、概略、測定対象内の水素原子核に衝突して発生し、減衰した熱中性子を放射線検出器が電気信号として検出する。検出した信号を、散乱型RI水分計の放射線検出器に接続された(制御装置の)制御部が受信する。ここで、単位時間あたりに検出される熱中性子の数(計数率)、より詳細には、熱中性子の計数率を放射線の標準体の計数率(標準計数率)で除した計数率比が、測定対象の水素含有密度に対応して関数で表されることが知られている。この関数を校正式として、算出された計数率比から水分量(単位%)が(制御装置の)制御部により算出される。
【0005】
一方、透過型RI水分計では、中性子線源は測定対象である地盤の地中に埋め込まれ、地盤の上表面に放射線検出器が配置される。中性子線から放射された中性子線は、測定対象である地中を通過して放射線検出器に至る。
【0006】
散乱型RI水分計は、透過型RI水分計のように放射線源を地中に埋め込む必要がなく、測定対象となる地盤の上表面に配置して水分量を算出することができる。地盤との非接触の測定で用いられるのは、散乱型RI水分計である。
以下特に明示がなければ、RI水分計は「散乱型RI水分計」と、RI密度計は「散乱型RI密度計」とそれぞれされる。以下、散乱型RI水分計または散乱型RI密度計の少なくとも一方を含むものを適宜「散乱型RI計器」という。
【0007】
地盤の水分量や密度の測定においては、測定対象となる地盤の上表面(平面)が均され平坦であることが望ましい。地盤の平面が平坦でなく凹凸(不陸という)があると、正確な水分量や密度を測定することができない。言い換えると、散乱型RI計器は、不陸のある地盤と散乱型RI計器の底面との間隙の影響を受けやすく、実際の水分量や密度を測定することが難しい。
特に散乱型RI密度計は、散乱型RI水分計よりも不陸や間隙の影響を受けやすい。数mm不陸が生じただけで水分量や密度に係る計数率比が大きくばらつくため、散乱型RI密度計は土工現場では従来あまり普及していなかった。
そのため、地盤に不陸があっても正確な水分量や密度を測定、補正する方法(システム)が知られている(たとえば、特開平8-074238号公報、特開2019-127682号公報)。
【0008】
特開平8-074238号公報では、地盤の間隙を測定する散乱型速中性子測定部を備えている。具体的に、地盤上を移動する移動体(そり)に、地盤の水分量や密度を測定する散乱型RI計器、移動体の底面と地盤との間隙を測定する散乱型速中性子測定部、およびこれらの制御部が載置されている。
散乱型速中性子測定部は、中性子線源から放出され地盤の平面で散乱した速中性子を検出可能な速中性子検出器を有している。散乱型RI水分計の中性子線源から放射された高速中性子は、地盤の平面の物質の原子と衝突、散乱する。散乱後に速中性子検出器で検出される速中性子の数は、速中性子の移動距離に依存し、移動距離が長くなるほど減少する。すなわち、速中性子の計数率(計数率比)が、間隙の深さに対応して関数で表される。
【0009】
まず、水分量や密度が既知の地盤において、不陸のない状態で移動体を用いて準備工程を行う。具体的に、不陸のない地盤上で移動体を移動させながら散乱型速中性子測定部を作動し、速中性子に係る計数率比と間隙の深さとの関数を算出し、制御部に保存する。そして、不陸のない既知の地盤で間隙の深さを複数回変化させて、地盤の水分量または密度、計数率比、間隙の深さに係る関数を算出し、制御部に保存する。
【0010】
間隙の深さが一定値を超えると、実際の水分量や密度、計数率比との差異が大きくなる。そのため、この一定値を閾値として測定前にあらかじめ制御部に設定しておく。具体的に、測定対象となる地盤上で移動体を移動させながら地盤の水分量または密度、計数率比、間隙の深さをそれぞれリアルタイムに測定、算出し、間隙の深さが閾値以下か否かを制御部が判断する。間隙の深さが閾値以下であれば各計数率比を採用し、水分量や密度を算出する。
【0011】
特開2019-127682号公報では、移動体に散乱型速中性子測定部ではなくスキャナ(3Dスキャナ)を載置し、スキャナが間隙の体積を測定している。準備工程で空隙の体積の閾値をあらかじめ決定しておき、この閾値を制御部に設定しておく。間隙の体積が閾値以下か否かを制御部が判断し、閾値以下であれば地盤を測定可能とする。測定可能と判断された場合に散乱型RI計器を使用し、計数率比から関数により水分量や密度を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平8-074238号公報
【特許文献2】特開2019-127682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特開平8-074238号公報では、散乱型速中性子測定部が間隙の深さを測定している。間隙の深さが閾値以下である場合のみ計数率比を採用し、水分量や密度を算出している。
特開2019-127682号公報では、スキャナが間隙の体積を測定している。間隙の体積が閾値以下である場合のみ、散乱型RI計器を使用した測定を行っている。
いずれも、地盤の不陸の形状を、間隙の深さまたは体積という数値データで把握している。そして、間隙の深さまたは体積が閾値以上の場合は不陸が大きく、正確な水分量や密度を測定不可能と判断し、計数率比を採用しない、あるいはそもそも測定自体を行わないとの判断を自動的に行っている。そのため、多少の不陸のある地盤では、水分量や密度を容易に取得することができる。
【0014】
しかし、大きな不陸のある地盤では、結局正確な水分量や密度を取得できない。
また、閾値の選択については具体的に言及されておらず、閾値の選択によっては正確な水分量や密度を取得できないおそれがある。そのため、あらゆる土質の地盤に当該補正方法が適用されるとは限らない。
【0015】
本発明は、測定対象となる地盤の土質や不陸の形状によることなく、実際の水分量や密度に近い値に補正しうる水分量または密度の補正方法の提供を目的としている。
また、本発明は、測定対象となる地盤の土質や不陸の形状によることなく、実際の水分量や密度に近い値に補正しうる水分量または密度の補正システムの提供を別の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、準備工程では不陸のない地盤に複数のグリッドを設定し、各グリッドを凹ませて凹み量を持たせることで仮想の不陸を設定している。準備工程では放射線挙動シミュレータを用いて、グリッドおよび凹み量の各組み合わせに係る各補正値を、測定工程ではスキャナを用いて不陸の形状をそれぞれ取得している。
すなわち、請求項1に係る本発明によれば、散乱型RI計器の測定対象となる地盤の水分量または密度の補正方法において、測定対象の地盤を不陸のない状態で、一定間隔に分割する複数のグリッドと、各グリッドの面に対する垂直方向の長さを表す1または複数の凹み量とを設定し、不陸のない地盤で放射線挙動シミュレータを使用して、グリッドおよび凹み量の各組み合わせに係る各補正値をそれぞれ取得する準備工程と、スキャナで不陸のある地盤の不陸の形状を測定し、測定した不陸の形状を各グリッドに対応させ、各グリッドの面に対する垂直方向の長さの数値を凹み量として取得し、各グリッドの凹み量の平均値を平均凹み量として算出する測定工程と、各グリッドの平均凹み量に対応する各補正値をそれぞれ取得して補正する補正工程と、を備えている。
請求項4に係る本発明によれば、放射線を使用して地盤の水分量または密度を測定する散乱型RI計器と、散乱型RI計器を模擬した放射線挙動シミュレータと、地盤の不陸の形状を測定するスキャナと、散乱型RI計器、放射線挙動シミュレータおよびスキャナが接続され、地盤の水分量または密度を補正する制御部と、を少なくとも備える水分量または密度の補正システムにおいて、制御部が、測定対象の地盤を不陸のない状態で、一定間隔に分割する複数のグリッドと、各グリッドの面に対する垂直方向の長さを表す1または複数の凹み量とを設定し、不陸のない地盤で放射線挙動シミュレータを使用して、グリッドおよび凹み量の各組み合わせに係る各補正値をそれぞれ取得し、スキャナで不陸のある地盤の不陸の形状を測定し、測定した不陸の形状を各グリッドに対応させ、各グリッドの面に対する垂直方向の長さの数値を凹み量として取得し、各グリッドの凹み量の平均値を平均凹み量として算出し、各グリッドの平均凹み量に対応する各補正値をそれぞれ取得して補正している。
【発明の効果】
【0017】
請求項1、4に係る本発明では、不陸がない状態と、凹み量による仮想の不陸を設定した状態とで放射性挙動シミュレーションを行い、測定対象となる地盤のすべてのグリッドおよび凹み量の組み合わせに係る各補正値を取得している。すなわち、各補正値とは、グリッドおよび凹み量が計数率比に与える影響の大きさ(増減比)を表している。次に、測定対象となる実際の不陸のある地盤においては、不陸の形状をスキャナにより測定し、各グリッドの平均凹み量を算出している。そして、各グリッドの平均凹み量に対応する各補正値をそれぞれ取得して、最終的な(積算)補正値を算出している。
大きな不陸のある地盤であっても、凹み量の閾値を設定することなく、測定対象となる地盤の土質や不陸の形状によらずに測定、補正をすることができる。そのため、実際の水分量や密度に近い値に補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施例に係る水分量または密度の補正システム(本発明の実施例に係る水分量または密度の補正方法を具体化したシステム)の概略正面図を示す。
図2】本発明の一実施例に係る水分量または密度の補正方法の概略フロー図を示す。
図3】水分量または密度の補正方法の詳細なフロー図を示す。
図4】水分量または密度の補正方法のうち、全シミュレート工程の詳細なフロー図を示す。
図5】散乱型RI水分計における地盤のグリッドの一例を表す概略図を示す。
図6】散乱型RI密度計における地盤のグリッドの一例を表す概略図を示す。
図7】スキャナの測定結果の一例を表す概略図を示す。
図8】各グリッドにおける平均凹み量の一例を表す概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
散乱型RI計器の測定対象となる地盤の水分量または密度の補正方法において、測定対象の地盤を不陸のない状態で、一定間隔に分割する複数のグリッドと、各グリッドの面に対する垂直方向の長さを表す1または複数の凹み量とを設定し、不陸のない地盤で放射線挙動シミュレータを使用して、グリッドおよび凹み量の各組み合わせに係る各補正値をそれぞれ取得する準備工程と、スキャナで不陸のある地盤の不陸の形状を測定し、測定した不陸の形状を各グリッドに対応させ、各グリッドの面に対する垂直方向の長さの数値を凹み量として取得し、各グリッドの凹み量の平均値を平均凹み量として算出する測定工程と、各グリッドの平均凹み量に対応する各補正値をそれぞれ取得して補正する補正工程と、を備えている。
【実施例0020】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施例に係る水分量または密度の補正システム(本発明の実施例に係る水分量または密度の補正方法を具体化したシステム)の概略正面図を示す。図1では、説明の便宜上、地盤100の不陸(凹凸)を誇張して記載している。
【0021】
(水分量または密度の補正方法を具体化した)水分量または密度の補正システム1は、放射線を使用して地盤100の水分量または密度を測定する散乱型RI計器10と、散乱型RI計器を模擬した放射線挙動シミュレータ20と、地盤の不陸の形状を測定するスキャナ30と、散乱型RI計器、放射線挙動シミュレータおよびスキャナが接続され、地盤の水分量または密度を補正する制御部40と、を少なくとも備えている。図1に示すように、垂直方向とは、水平な地盤100の平面(上表面。後述するグリッドの面も同じ)に対して垂直に延びる方向(上下方向)をいう。
【0022】
散乱型RI計器10は、散乱型RI水分計10A、散乱型RI密度計10Bのいずれも備えている、あるいは、いずれか一方のみ備えている。図1の散乱型RI計器10は、散乱型RI水分計10A、散乱型RI密度計10Bが一体化された散乱型RI水分密度計とされているが、これに限定されない。散乱型RI水分計10A、散乱型RI密度計10Bが一体化されず、分離されていてもよい。
概略、散乱型RI計器10は、放射線を放射する放射線源12と、放射線源から放射された後に散乱、反射した放射線を検出する放射線検出器14とを一体化して構成されている。
【0023】
散乱型RI水分計10Aは、放射線(中性子線)を放射する放射線源12Aと、放射線源から放射されて地盤中の水素原子核100Aに衝突して発生(反射)した熱中性子を検出する放射線検出器14Aとを一体化して構成されている。放射線源12Aの標準体として中性子線を放出するカリホルニウム252などが使用され、この放射線源は散乱型RI水分計の格納部12A’に厳重に封入、格納されている。図1において、放射線源12Aおよび放射線検出器14Aからの波線は、放射もしくは反射する放射線(中性子線)を表している。
【0024】
散乱型RI密度計10Bは、放射線(γ線)を放射する放射線源12Bと、放射線源から放射された後に地盤中の物質100Bで吸収されず反射、散乱したγ線を検出する放射線検出器14Bとを一体化して構成されている。放射線源12Bの標準体としてγ線を放出するコバルト60、セシウム137などが使用され、この放射線源は散乱型RI密度計の格納部12B’に厳重に封入、格納されている。散乱型RI水分計10Aと同様に、図1において、放射線源12Bおよび放射線検出器14Bからの波線は、放射もしくは反射する放射線(γ線)を表している。放射線源12Bと放射線検出器14Bとの間に位置する斜線部14B’は、原子番号の高い金属(たとえば鉛)からなる遮蔽体を示す。
【0025】
放射線挙動シミュレータ20は、散乱型RI計器10を模擬した放射線挙動の測定、解析装置(シミュレータ)である。中性子線やγ線の挙動を測定ないし解析(シミュレート)する方法として、たとえば日本原子力研究開発機構製のPHITS(コード)が挙げられるが、これに限定されない。なお、PHITSとは、あらゆる物質中での様々な放射線挙動を核反応モデルや核データなどを用いて模擬するモンテカルロ計算コードである。
放射線挙動シミュレータ20の構成やPHITSの原理などは本発明の要部ではないため、その詳細な説明を割愛する。
【0026】
スキャナ30は、非接触で地盤100の地盤の上表面(平面)の凹凸、すなわち不陸の形状を2次元的もしくは3次元的に測定(スキャン)可能としている。スキャナ30としてたとえばレーザを使用した3DLiDARが使用されるが、2DLiDARでもよく、これに限定されない。スキャナ30は、その測定の際には、地盤100からわずかに上方に離反して、あるいは、地盤の平面上に配置されている。
スキャナ30は、その周囲の角度ごとに地盤100の不陸の垂直方向の深さ(凹み量)Xを数値データとしてリアルタイムで出力している。凹み量Xは、たとえば不陸の最も高い頂点を含む水平面からの長さをいうが、これに限定されない。
なお、図1では上から順に放射線挙動シミュレータ20、スキャナ30、散乱型RI計器10と配置、記載されているが、各配置はこれに限定されない。たとえば、スキャナ30により地盤100の不陸の形状を測定する際には、散乱型RI計器10などの別の部材を適切な位置に退避させることはいうまでもなく、スキャナは測定に即した任意の位置に配置される。
【0027】
制御部40は、散乱型RI計器10、放射線挙動シミュレータ20およびスキャナ30に接続されている。図1の一点鎖線は、制御部40を含む後述の制御装置40’、散乱型RI計器10、放射線挙動シミュレータ20、スキャナ30の接続の一例を表している。
具体的に、制御部40は制御装置40’に内蔵され、制御部を含む制御装置は情報処理機能を有するCPU(プロセッサ)40’-1により制御されている。また、制御装置40’には、各種のプログラムを実行する制御部40のほか、フラッシュメモリなどの記憶媒体から構成されて情報を記憶する記憶部42、タッチパネルやキーボード、ボタンなどの入力手段44’からの入力を受け付ける入力部44、ディスプレイなどの出力(表示)手段46’に出力する出力部46などを有している。
なお、制御装置40’は、ネットワークを介して外部と通信する通信部(図示しない)などを有していてもよく、この構成に限定されない。また、制御部40内のプログラムにAIや機械学習を含めてもよい。
【0028】
たとえば、記憶部42には、放射線(中性子線・γ線)の標準計数率、計数率比と水分量または密度との相関を示す関数、水分量または密度の補正プログラム(図示しない)などが保存されている。また、散乱型RI計器10、放射線挙動シミュレータ20、スキャナ30などにより測定された数値データや、制御部40で算出された各補正値の数値データなどが保存される。
制御部40は、記憶部42に保存された標準計数率で測定された計数率を除して計数率比を算出したり、記憶部に保存された関数と計数率比から水分量または密度を算出したり、記憶部に保存された各補正値から最終的な補正値である積算補正値を算出し、補正したりする。
【0029】
図2は、本発明の一実施例に係る水分量または密度の補正方法の概略フロー図、図3は水分量または密度の補正方法の詳細なフロー図をそれぞれ示す。
制御部40は、記憶部42に記憶された水分量または密度の補正プログラム(図示しない)を実行することで、図2の準備工程S1~3、測定工程S4、5、補正工程S6を順に行う。準備工程S1~3は不陸のない状態の地盤100で、測定工程S4、5は不陸のある状態の地盤でそれぞれ行われる。
そして、準備工程S1~3はシミュレート準備工程S1、全シミュレート工程S2、補正値算出工程S3を、測定工程S4、5は不陸測定工程S4、実測工程S5をそれぞれ有している。
【0030】
これらの工程S1~6を行うために、制御部40は、散乱型RI計器10による水分量または密度の測定対象となる地盤100の水分量または密度の補正方法において、測定対象の地盤を不陸のない状態で、一定間隔に分割する複数のグリッドと、各グリッドの面に対する垂直方向の長さを表す1または複数の凹み量とを設定し、不陸のない地盤で放射線挙動シミュレータ20を使用して、グリッドおよび凹み量の各組み合わせに係る各補正値をそれぞれ取得する準備手段40-1~3(シミュレート準備工程S1~補正値算出工程S3)と、スキャナ30で不陸のある地盤の不陸の形状を測定し、測定した不陸の形状を各グリッドに対応させ、各グリッドの面に対する垂直方向の長さの数値を凹み量として取得し、各グリッドの凹み量の平均値を平均凹み量として算出する測定手段40-4(不陸測定工程S4)と、各グリッドの平均凹み量に対応する各補正値をそれぞれ取得して補正する補正手段40-6(補正工程S6)を有し、これらの手段として機能する(図2、3)。
さらに詳細に述べれば、水分量または密度の測定対象となる地盤100を不陸のない状態で、散乱型RI計器10を模擬した放射線挙動シミュレータ20で水分量または密度に係る計数率を取得するシミュレート準備手段40-1(シミュレート準備工程S1)、測定対象の地盤を一定間隔に分割する複数のグリッドと、各グリッドの面に対する垂直方向の長さを表す1または複数の凹み量とを設定し、(シミュレート準備工程S1と)同一の放射線挙動シミュレータですべてのグリッドおよび凹み量の組み合わせに対して水分量または密度に係る計数率をそれぞれ取得する全シミュレート手段40-2(全シミュレート工程S2)、(全シミュレート工程S2で)取得した各計数率を、(シミュレート準備工程S1で)取得した計数率ですべて除し、除した値をグリッドおよび凹み量の各組み合わせに係る各補正値としてそれぞれ取得する補正値算出手段40-3(補正値算出工程S3)、スキャナで不陸のある地盤の不陸の形状を測定し、測定した不陸の形状を各グリッドに対応させ、各グリッドの面に対する垂直方向の長さの数値を凹み量として取得し、各グリッドの凹み量の平均値を平均凹み量として算出する不陸測定手段40-4(不陸測定工程S4)、(補正値算出工程S3で算出した)各補正値から、(不陸測定工程S4で算出した)各グリッドの平均凹み量に対応する各補正値をそれぞれ取得し、各グリッドについて取得した各補正値のすべての積を積算補正値とし、実測の計数率比を積算補正値で除して補正する補正手段40-6(補正工程S6)を有し、これらの手段として機能する(図2、3)。なお、実測工程S5は、散乱型RI計器10(10A、10B)が行う。
【0031】
以下、(水分量または密度の補正方法を具体化した)水分量または密度の補正システム1の制御部40で行われる水分量または密度の補正方法の各工程について、主に説明する。
1.各工程の説明
準備工程では、不陸のない地盤100に対して放射線挙動シミュレータ20を使用し、水分量または密度に係る各補正比を取得することを目的としている。具体的には、シミュレート準備工程S1、全シミュレート工程S2、補正値算出工程S3により行われる。
【0032】
1.1 シミュレート準備工程S1
シミュレート準備手段40-1により行われるシミュレート準備工程S1では、水分量または密度の測定対象となる地盤100を不陸のない状態で、散乱型RI計器10を模擬した放射線挙動シミュレータ20で水分量または密度に係る計数率を取得している。
【0033】
1.2 全シミュレート工程S2
全シミュレート手段40-2により行われる全シミュレート工程S2では、測定対象の地盤を一定間隔に分割する複数のグリッドと、各グリッドの面に対して垂直方向の深さを表す1または複数の凹み量とを設定し、シミュレート準備工程と同一の放射線挙動シミュレータですべてのグリッドおよび凹み量の組み合わせに対して水分量または密度に係る計数率をそれぞれ取得している。
図4は、水分量または密度の補正方法のうち、全シミュレート工程の詳細なフロー図を示す。図5は散乱型RI水分計における地盤のグリッドの一例を表す概略図、図6は散乱型RI密度計における地盤のグリッドの一例を表す概略図をそれぞれ示す。
図5の二点鎖線は、地盤100上に配置された放射線源12A、放射線検出器14Aを含む散乱型RI水分計10Aを示す。図6の二点鎖線は、地盤100上に配置された放射線源12B、放射線検出器14B、遮蔽体14B’を含む散乱型RI密度計10Bを示している。
【0034】
初めに、シミュレート準備工程S1と同一の地盤100を不陸のない状態で、一定間隔に分割する複数のグリッドと、各グリッドの面に対して垂直方向の深さXを表す1または複数の凹み量とを設定する(S2-1)。
まず、グリッドについて説明する。グリッドとは、散乱型RI計器10を地盤100の上表面(平面)に配置したときに、散乱型RI計器(クリアランス)の影響を受けると考えられる周囲の地盤を一定間隔に複数の格子状に分割した、その各格子をいう(図5、6)。グリッドに分割される地盤の範囲は、散乱型RI計器を中心とした放射の対称性、RI計器の影響などを鑑みて決定される。
【0035】
具体的に、図5、6では、30cm×30cmの範囲F(以下「測定範囲F」という。)をそれぞれ分割している。放射線源12、放射線検出器14に近いグリッドはその大きさが小さく、遠ざかるほど大きく設定されているが、これは放射線源、放射線検出器に近いほどクリアランスの影響が強くなるためである。また、放射線挙動シミュレータ20によるシミュレーションの時間を短縮させるため、放射線源12、放射線検出器14から遠いグリッドを大きく設定している。図5、6の各グリッドの中央に付された番号は、放射線源線12に近いものから、1から順に付されたグリッドの番号を表している。以下、各グリッドを「No.n」として説明する。
図1では散乱型RI水分計10A、散乱型RI密度計10Bを一体化して表していたが、以下では説明の便宜上、散乱型RI水分計10A、散乱型RI密度計10Bとそれぞれの場合に分けて説明する。
【0036】
散乱型RI水分計においては、たとえば図5に示すように、一点鎖線で示す30cm×30cmの測定範囲Fの地盤100を前後対称かつ左右対称として26個に分割している。すなわち、図5に示すように、No.1~26までのグリッドが存在している。
散乱型RI水分計10Aにおける26個のグリッドの平面上の大きさ(左右方向×前後方向)は、たとえばNo.1~12が2cm×2cm、No.13~22が3cm×3cm、No.23が3cm×4cm、No.24~26が5cm×5cmとされているが、当該個数や数値に限定されない。
【0037】
散乱型RI密度計においては、たとえば図6に示すように、一点鎖線で示す30cm×30cmの測定範囲Fの地盤100を前後対称として90個に分割している。すなわち、図6に示すように、No.1~90までのグリッドが存在している。
散乱型RI密度計10Bにおける90個のグリッドの平面上の大きさ(前後方向×左右方向)は、No.1~60が1cm×1cm、No.61~71およびNo.75が2cm×2cm、No.72およびNo.76が2cm×3cm、No.74およびNo.78が3cm×2cm、No.73およびNo.77が3cm×3cm、No.79~90が5cm×5cmとされているが、当該個数や数値に限定されない。
【0038】
次に、凹み量について説明する。凹み量とは、図1に示すように、各グリッドの面(つまり地盤の平面(上表面))に対する垂直方向の深さXをといい、各グリッドに対して1または複数の凹み量が設定されている。凹み量の単位はたとえばミリメートル(mm)とされるが、これに限定されない。
表1は、散乱型RI水分計におけるグリッドと凹み量との組み合わせをそれぞれ示す。表1のaは1から順に付された個数、Xはaに対応した凹み量を表す。表1を見るとわかるように、各グリッドNo.nに対して複数個(a通り)の凹み量Xが設定されている。グリッドとグリッドに対する個数を(n、a)と表すと、(n、a)の組み合わせにより凹み量Xは一意に決定される。
なお、各グリッドNo.nに対して1個(1通り、a=1)の凹み量Xを設定してもよいが、凹み量Xは仮想の不陸を表すため、複数個の凹み量を設定することで後述するように様々な不陸の大きさ、形状に対応できる。
【0039】
【表1】
【0040】
個数a、凹み量Xについてさらに詳細に述べると、個数a、凹み量Xは散乱型RI水分計の放射線源(中性子線源)12A、放射線検出器14Aとグリッドとの距離に応じて設定されている。たとえば放射線源12A、放射線検出器14Aに近く、また、放射線源、放射線検出器を結ぶ線の延長上に該当する左右方向に位置するグリッドNo.1~12に対して、表1では8個(8通り、a=8)の凹み量Xが設定されている。また、放射線源12A、放射線検出器14Aから遠いグリッドNo.13~23、No.24~26に対しては、クリアランスの影響を考慮して5ないし4個(通り)と、少ない個数aが設定されている。
【0041】
表2は、散乱型RI密度計におけるグリッドと凹み量との組み合わせをそれぞれ示す。表2に示すように、散乱型RI密度計10Bにおいても同様に、散乱型RI密度計の放射線源(γ線源)12B、放射線検出器14Bとグリッドとの距離に応じて、個数a、凹み量Xが設定されている。たとえば放射線源12B、放射線検出器14Bに近く、また、放射線源、放射線検出器を結ぶ線の延長上に該当する前後方向に位置するグリッドNo.1~60に対して、10個(10通り、a=10)の凹み量Xが設定されている。放射線源12B、放射線検出器14Bから遠いグリッドNo.61~78およびNo.79~90に対しては、クリアランスの影響を考慮して7ないし4個(通り)と、少ない個数aが設定されている。
散乱型RI水分計10A、散乱型RI密度計10Bにおいて、グリッドの個数n、各グリッドにおける凹み量の設定の個数a、凹み量Xはこれらの数値に限定されないことはいうまでもない。
【0042】
【表2】
【0043】
そして、シミュレート準備工程S1と同一の放射線挙動シミュレータ20ですべてのグリッドおよび凹み量の組み合わせに対して水分量または密度に係る計数率をそれぞれ取得する(図4、S2-2~S2-6)。
図4に示すように、初期値としてn=1、a=1が設定される(S2-2)。そして、散乱型RI水分計の場合は表1、散乱型RI密度計の場合は表2を参照し、(n、a)の組み合わせにおいてNo.nのグリッドをXmm凹ませる(S2-3)。たとえば、散乱型RI水分計の場合、初期値(n、a)=(1、1)における凹み量Xは表1より1mmであるから、グリッドNo.1を人為的に1mm凹ませる。次に、No.nのグリッドをXmm凹ませた状態で、シミュレート準備工程S1と同一の放射線挙動シミュレータ20を使用して放射線の挙動をシミュレートし、取得した計数率を制御部40(記憶部42)に保存する(S2-4)。
【0044】
次のaが存在する場合、nは不変、aに1を追加する(S2-5)。次のaが存在しない場合は次のS2-6に進む。たとえば、散乱型RI水分計で初期値(n、a)=(1、1)の場合、次のa(a=2)が表1に存在するため(n、a)=(1、2)としてS2-3へ戻る。(n、a)=(1、2)における凹み量Xは表1より2mmであるから、グリッドNo.1を人為的に2mm凹ませて(S2-3)、シミュレートおよび保存を行う(S2-4)。
【0045】
S2-3~5を繰り返すと、グリッドNo.nにおけるすべてのシミュレートが終了する。すなわち、次のaが存在しない場合(S2-5)、nに1を追加するとともに、aを初期値の1に戻して(S2-6)、S2-3へ戻る。たとえば、散乱型RI水分計で初期値(n、a)=(1、10)の場合、次のa(a=11)は表1に存在しない。そのため、nに1を追加するとともに、aを初期値の1に戻し、(n、a)=(2、1)としてS2-3へ戻る。(n、a)=(2、1)における凹み量Xは表1よりふたたび1mmであるから、グリッドNo.2を人為的に1mm凹ませて(S2-3)、シミュレートおよび保存を行う(S2-4)。
このように、散乱型RI水分計の場合、表1に記載のすべてのグリッドに対して人為的な凹み量を仮想の不陸として設定し、これらの組み合わせで水分量に係る計数率をシミュレート、保存を行う(S2-2~S2-6)。密度についても同様に、表2に記載のすべての組み合わせにおいて密度に係る計数率をシミュレート、保存する。
【0046】
1.3 補正値算出工程S3
補正値算出手段40-3により行われる補正値算出工程S3では、全シミュレート工程S2で取得した各計数率を、シミュレート準備工程S1で取得した計数率ですべて除し、除した値をグリッドおよび凹み量の各組み合わせに係る各補正値tとしてそれぞれ取得している。取得された各補正値をtとする。取得された各補正値tは、グリッドおよび凹み量の組み合わせごとに制御部40(記憶部42)に保存される。
【0047】
1.4 不陸測定工程S4
不陸測定手段40-4により行われる不陸測定工程S4では、スキャナ30で不陸のある地盤100の不陸の形状を測定し、測定した不陸の形状を各グリッドに対応させ、各グリッドの面に対する垂直方向の長さの数値を凹み量として取得し、各グリッドの凹み量の平均値を平均凹み量として算出している。
不陸測定工程S4では、実際に測定対象となる不陸のある地盤100を測定する。初めに、スキャナ30が、不陸のある地盤100の不陸の形状を2次元的もしくは3次元的に非接触で測定(スキャン)するが、測定結果に地盤の不陸の垂直方向の深さ(凹み量)Xが数値データとして含まれ、制御部40(記憶部42)に保存される。たとえば、スキャナ30として3DLiDARを使用した場合、その周囲の角度ごとに地盤100の不陸の垂直方向の深さ(凹み量)Xを数値データとしてリアルタイムで出力されている。
図7は、スキャナの測定結果の一例を表す概略図を示す。スキャナ30により不陸の形状は図7のように表され、色が濃いほど不陸が大きい、すなわち深さXが大きい(深い)ことを示している。
【0048】
次に、制御部40が、スキャナ30により測定された不陸の形状(数値データである凹み量Xを含む)を、シミュレート準備工程S1で設定された複数のグリッドと対応させ、各グリッドの面に対する凹み量として取得する。具体的に、各グリッドは1cm四方や5cm四方などの小さい面積からなるが、実際の測定対象の地盤をグリッドに分割したことを想定すると、土質などによりグリッド内は必ずしも平坦ではなく小さな不陸が複数生じている。言い換えると、実際の測定対象の地盤をグリッドに分割したことを想定した場合、各グリッド内の凹み量は一定(均一)ではない。そのため、各グリッド内の平均化(均一化)するため、各グリッドにおいて、スキャナ30により測定された凹み量の平均値を制御部40が算出する。この各グリッドにおける凹み量の平均値を「平均凹み量」という。制御部40は各グリッドで平均凹み量を算出し、グリッドごとに平均凹み量を保存する。
【0049】
図8は、各グリッドにおける平均凹み量の一例を表す概略図を示す。散乱型RI密度計の場合の図7、8を参照して説明すると、図7ではグリッドに寄らず地盤100の不陸の形状をそのまま表しているが、図8では図7をグリッドに対応させ、各グリッドにおける平均凹み量を算出し、平均凹み量に応じて各グリッドを色分けしている。図7と同様に、図8においても色が濃いほど不陸(深さ。ここでは平均凹み量)が大きいことを示している。
【0050】
1.5 実測工程S5
散乱型RI計器10(10A、10B)により行われる実測工程S5では、不陸測定工程S4で測定した不陸のある地盤100で、散乱型RI計器による水分量または密度に係る実測の計数率比を取得している。説明のため、散乱型RI計器10(10A、10B)を使用した、測定対象となる実際の不陸のある地盤100の計数率比(数値データ)との意味で「実測の計数率比」という。実測の計数率比は、制御部40(記憶部42)に保存される。
【0051】
1.6 補正工程S6
補正手段40-6により行われる補正工程S6では、補正値算出工程S3で算出した各補正値tから、不陸測定工程S4で算出した各グリッドの平均凹み量に対応する各補正値をそれぞれ取得し、各グリッドについて取得した各補正値tのすべての積を積算補正値Tとし、実測工程S5で取得した実測の計数率比を積算補正値Tで除して補正している。すなわち、積算補正値Tが実測の計数率比を補正するための最終的な補正値となる。
初めに、積算補正値Tを以下の数1により算出する。数式のtは補正値算出工程S3で算出した各補正値、nはグリッドの総数、aは上述のとおり1から順に付された個数である。
【数1】
【0052】
以上より、補正後の計数率比R’を数2により算出する。数式のRは補正前の計数率比、すなわち実測工程S5で測定された実測の計数率比である。
【数2】
【0053】
2.第一の検証(シミュレータ使用)
上記工程による(水分量または密度の補正方法を具体化した)水分量または密度の補正システム1を用いて、2通りの検証(具体的な実施例)を行った。以下説明する。
第一の検証では、水分量および密度が既知の地盤を使用し、かつ、実測工程S5では散乱型RI計器10ではなく放射線挙動シミュレータ20を使用して効果を確認した。第二の検証では、実測工程S5において散乱型RI計器10を使用した。いずれの検証においても、放射線挙動シミュレータ20に係るシミュレート方法としてPHITSを、スキャナ30として3DLiDARをそれぞれ使用した。
【0054】
第一の検証においては、水分量および密度が既知の地盤ではあるが(含水量0.336g/cm、密度1.750g/cm)、放射線挙動シミュレータ20を使用してシミュレート準備工程S1を行った。
全シミュレート工程S2では、概略、不陸のない状態の地盤100の30cm×30cmの測定範囲Fに対して、散乱型RI水分計10Aに関しては26個、散乱型RI密度計10Bに関しては90個のグリッドにそれぞれ分割した(S2-1、図5、6)。そして、表1、2に示すようにグリッドおよび凹み量Xの組み合わせを設定し(S2-1)、表1、2に示すすべてのグリッドおよび凹み量の組み合わせに対して水分量または密度に係る計数率をそれぞれ取得した(S2-2~S2-6)。
補正値算出工程S3では、全シミュレート工程S2で取得した各計数率を、シミュレート準備工程S1で取得した計数率ですべて除し、除した値をグリッドおよび凹み量の各組み合わせに係る各補正値tをそれぞれ取得した。
【0055】
不陸測定工程S4では、複数のパターンの不陸を地盤100に人為的に設定、作成した。たとえば、表3、4に示す理由により、散乱型RI水分計10A、散乱型RI水分計10Bのいずれも5パターンの不陸の形状を設定、作成した。特に、表3の散乱型RI水分計のパターン4、5、表4に示す散乱型RI密度計のパターン3~5におけるグリッドは、できるだけ計数率比の変化量(すなわち各補正値t)が大きくなるように設定した。
【表3】
【表4】
【0056】
以下、表3の散乱型RI水分計10Aのパターン1の検証について、具体的に述べる。散乱型RI水分計10Aのパターン1では、26個すべてのグリッドの凹み量を5mmと設定している。スキャナ30が不陸の形状(この場合はパターン1)を測定し、制御部40が各グリッドに対応させて各グリッドの平均凹み量を算出した(S4)。
【0057】
実測工程S5では、実機での検証(第二の検証)を前に放射線挙動シミュレータを使用した。不陸測定工程S4で測定した不陸のある地盤100、ここでは表3の散乱型RI水分計10Aのパターン1において、水分量に係る実測の計数率比を取得した(S5)。そして、各グリッドの平均凹み量に対応する各補正値tをそれぞれ取得し、取得した各補正値tのすべての積を(最終的な補正値である)積算補正値Tとした(補正工程S6、数1、2参照)
【0058】
同様の工程(不陸測定工程S4~補正工程S6)を、表3の散乱型RI水分計のパターン2~5、表4の散乱型RI密度計10Bのパターン1~5のすべてに対して行った。
第一の検証の結果を以下の表5、6に示す。表5、6の「計数率比」は実測工程S5で取得した実測の計数率比を、「積算補正値」は補正工程S6で算出した積算補正値Tをそれぞれ表す。
表5、6に示すように、散乱型RI水分計、散乱型RI密度計ともに、実測の計数率比と積算補正値Tとの間に大きな誤差はなく、実際(実測)に近い補正値が算出されていることが理解される。
【表5】
【表6】
【0059】
3.第二の検証(実機使用)
第一の検証の妥当性の確認のため、第二の検証を行った。第二の検証では、散乱型RI計器10(実機)を使用して土槽実験を行った。第一の検証と異なる点を中心に説明する。なお、実機の使用の都合上、一部の工程で順序が異なっている。
第二の検証では、前後60cm×左右60cm×上下(垂直方向、深さ)40cmの金属モールドに山砂を4層に分けて敷き詰め、土槽を作成した。第一の検証と同様に、土槽の地盤100の30cm×30cmの測定範囲Fに対して、散乱型RI水分計10Aに関しては26個、散乱型RI密度計10Bに関しては90個のグリッドにそれぞれ分割した。
【0060】
初めに、不陸のない状態の土槽の地盤100にて、散乱型RI密度計10A、散乱型RI水分計10Bを使用して5分間測定を行った(シミュレート準備工程S1)。次に、表3、4のパターン1~3に従って土槽の地盤100の上表面を凹ませて人為的な不陸を作成し、計数率比を算出した(全シミュレート工程S2、補正値算出工程S3)。そして、不陸のある状態でその形状を3DLiDAR(スキャナ)30で測定し(不陸測定工程S4、図7参照)、散乱型RI密度計10A、散乱型RI水分計10Bを使用して5分間測定を行い、実測の計数率比を取得した(実測工程S5)。
【0061】
次に、3DLiDAR(スキャナ)30で測定した不陸の形状を各グリッドに対応させ、各グリッドの平均凹み量を算出した(不陸測定工程S4、図8参照)。そして、各グリッドの平均凹み量に対応する各補正値tをそれぞれ取得し、積算補正値Tを算出した(補正工程S6、数1、2参照)。
【0062】
第二の検証の結果を以下の表7、8に示す。表7、8において、「補正値」は実測工程S5で取得した実測の計数率比を、「PHITS積算補正値」は補正工程S6で算出した積算補正値Tをそれぞれ表す。
表8の散乱型RI密度計については、積算補正値Tが実測の計数率比よりも大きい、すなわち過大評価したパターンが1点見られたが(パターン3)、概ね相違ない補正値が算出されたことがわかる。表7の散乱型RI水分計については、実測の計数率比と積算補正値Tとの間に大きな誤差はなく、実際(実測)に近い補正値が算出されていることが理解される。
【表7】
【表8】
【0063】
(水分量または密度の補正方法を具体化した)水分量または密度の補正システム1によれば、閾値以上か未満かで測定可否が決定されるのではなく、人為的な、仮想の不陸として各グリッドに凹み量を設定し、平均凹み量により各補正値tが決定される。各補正値tはグリッドおよび凹み量(不陸)が計数率比に与える影響の大きさ(増減比)を表しているため、各グリッドで取得した各補正値tをすべての積算することで、最終的な補正値である積算補正値Tを算出している。
つまり、すべての各補正値tを積算することで、すべてのグリッドにおける不陸の影響を勘案した面的な補正が可能となる。そのため、不陸が大きい地盤であっても実測に近い補正値を算出し、より正確な水分量や密度を測定、補正することができる。
グリッドは仮想の不陸の位置を、凹み量Xは仮想の不陸の深さをそれぞれ表すため、全シミュレート工程S2でより微細なグリッド、凹み量を設定することで、測定対象となる地盤の土質や不陸の形状によらず、実際の水分量や密度に近い値に補正することができる。
【0064】
上述した実施例は、この発明を説明するためのものであり、この発明を何等限定するものでなく、この発明の技術範囲内で変形、改造等の施されたものも全てこの発明に包含されることはいうまでもない。
【0065】
たとえば、第二の検証のように、不陸ありの地盤で行う測定工程を不陸なしで行う準備工程よりも先に実施してもよい。
また、上述のとおり、地盤の水分量は、含水比のみならず、含水量、含水率などであってもよいことはいうまでもない。そして、不陸測定工程において、測定した不陸の形状を各グリッドに対応させる処理や、補正値の算出において、機械学習、AIを使用してもよい。さらに、上述のとおり、放射線挙動シミュレータ、スキャナは、3DLiDAR、PHITSにそれぞれ限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、地盤の水分量または密度の補正方法、補正システムに応用できる。
【符号の説明】
【0067】
1 水分量または密度の補正システム
10 散乱型RI計器
10A 散乱型RI水分計
10B 散乱型RI密度計
20 放射線挙動シミュレータ
30 スキャナ
40 制御部
40-1 シミュレート準備手段
40-2 全シミュレート手段
40-3 補正値算出手段
40-4 不陸測定手段
40-6 補正手段
S1~3 準備工程(S1 シミュレート準備工程、S2 全シミュレート工程、S3 補正値算出工程)
S4、5 測定工程(S4 不陸測定工程、S5 実測工程)
S6 補正工程



図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8