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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039134
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】車両制御装置及び車両制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/09 20120101AFI20240314BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20240314BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20240314BHJP
   G01C 21/34 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
B60W30/09
B60W60/00
G08G1/16 C
G01C21/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143462
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100168871
【弁理士】
【氏名又は名称】岩上 健
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英輝
(72)【発明者】
【氏名】山下 拓也
(72)【発明者】
【氏名】加賀美 光二
(72)【発明者】
【氏名】菅野 崇
【テーマコード(参考)】
2F129
3D241
5H181
【Fターム(参考)】
2F129AA03
2F129BB03
2F129BB20
2F129BB23
2F129BB26
2F129DD53
3D241BA33
3D241BC01
3D241BC02
3D241CC01
3D241CC08
3D241CC17
3D241CE04
3D241CE05
3D241DA13Z
3D241DA39Z
3D241DA52Z
3D241DB01Z
3D241DB02Z
3D241DB05Z
3D241DB09Z
3D241DB12Z
3D241DB20Z
3D241DC02Z
3D241DC03Z
3D241DC31Z
3D241DC33Z
3D241DC34Z
3D241DC35Z
3D241DC39Z
3D241DC44Z
3D241DC59Z
5H181AA01
5H181CC03
5H181CC04
5H181CC11
5H181CC12
5H181CC14
5H181LL01
5H181LL09
(57)【要約】
【課題】車両と障害物との安全な距離を確保しつつ、乗員に煩わしさを感じさせることを防止できる、車両制御装置及び方法を提供する。
【解決手段】車両制御装置(100)は、車両(1)の走行路(6)に関する走行路情報を取得するカメラ(21)、レーダ(22)、ナビゲーションシステム(30)と、車両の前方の物体(OB)の位置を検出し、当該位置を繰り返し更新するカメラ、レーダと、走行路情報及び物体の位置に基づき走行路における目標走行経路を繰り返し設定し、目標走行経路に沿って車両が走行するように、車両を制御するように構成されたECU(10)とを備え、ECUは、カメラ、レーダによる更新後の物体の位置と、更新前の物体の位置に基づき設定されている目標走行経路との距離が、更新前の物体の位置と設定されている目標走行経路との距離よりも大きい場合、設定されている目標走行経路よりも物体に近い領域に、次の目標走行経路が設定され難くするように構成されている。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行路に関する走行路情報を取得する走行路情報取得装置と、
前記車両の前方の物体の位置を検出し、当該位置を繰り返し更新する物体検出装置と、
前記走行路情報及び前記物体の位置に基づき前記走行路における目標走行経路を繰り返し設定し、前記目標走行経路に沿って前記車両が走行するように、前記車両を制御するように構成されたコントローラと、を備え、
前記コントローラは、前記物体検出装置による更新後の前記物体の位置と、更新前の当該物体の位置に基づき設定されている前記目標走行経路との距離が、更新前の当該物体の位置と当該設定されている目標走行経路との距離よりも大きい場合、当該設定されている目標走行経路よりも当該物体に近い領域に、次の目標走行経路が設定され難くするように構成されている、
車両制御装置。
【請求項2】
車両の走行路に関する走行路情報を取得する走行路情報取得装置と、
前記車両の前方の物体の位置を検出し、当該位置を繰り返し更新する物体検出装置と、
前記走行路情報及び前記物体の位置に基づき前記走行路における目標走行経路を繰り返し設定し、前記目標走行経路に沿って前記車両が走行するように、前記車両を制御するように構成されたコントローラと、を備え、
前記コントローラは、前記物体検出装置による更新後の前記物体の位置と、更新前の当該物体の位置に基づき設定されている前記目標走行経路との距離が、更新前の当該物体の位置と当該設定されている目標走行経路との距離よりも大きい場合、当該設定されている目標走行経路よりも当該物体に近い領域を、次の目標走行経路が設定される領域から除外するように構成されている、
車両制御装置。
【請求項3】
前記コントローラは、
前記走行路情報に基づいて、前記目標走行経路を設定するための候補となる複数の走行経路候補を設定し、
前記走行路情報及び前記車両の前方の物体の位置に基づいて、前記複数の走行経路候補のそれぞれについて経路コストを求め、
前記物体の位置と前記走行経路候補との距離が小さいほど、当該走行経路候補の経路コストを高くし、
前記走行路において前記車両が走行する自車レーンのセンターラインと前記走行経路候補との距離が大きいほど、当該走行経路候補の経路コストを高くし、
前記複数の走行経路候補の内、前記経路コストが最小の走行経路候補を前記目標走行経路として設定し、
前記物体検出装置による更新後の前記物体の位置と、更新前の当該物体の位置に基づき設定されている前記目標走行経路との距離が、更新前の当該物体の位置と当該設定されている目標走行経路との距離よりも大きい場合、当該設定されている目標走行経路よりも当該物体に近い領域を通る走行経路候補の経路コストを、当該設定されている目標走行経路を通る走行経路候補の経路コストより高くするように構成されている、
請求項1又は2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
コンピュータを備える制御装置により実行される車両制御方法であって、
車両の走行路に関する走行路情報を取得するステップと、
前記車両の前方の物体の位置を検出し、当該位置を繰り返し更新するステップと、
前記走行路情報及び前記物体の位置に基づき前記走行路における目標走行経路を繰り返し設定するステップと、
前記目標走行経路に沿って前記車両が走行するように、前記車両を制御するステップと、を有し、
前記目標走行経路を設定するステップは、前記物体の位置を繰り返し更新するステップにおける更新後の前記物体の位置と、更新前の当該物体の位置に基づき設定されている前記目標走行経路との距離が、更新前の当該物体の位置と当該設定されている目標走行経路との距離よりも大きい場合、当該設定されている目標走行経路よりも当該物体に近い領域に、次の目標走行経路が設定され難くするステップを含む、
車両制御方法。
【請求項5】
コンピュータを備える制御装置により実行される車両制御方法であって、
車両の走行路に関する走行路情報を取得するステップと、
前記車両の前方の物体の位置を検出し、当該位置を繰り返し更新するステップと、
前記走行路情報及び前記物体の位置に基づき前記走行路における目標走行経路を繰り返し設定するステップと、
前記目標走行経路に沿って前記車両が走行するように、前記車両を制御するステップと、を有し、
前記目標走行経路を設定するステップは、前記物体の位置を繰り返し更新するステップにおける更新後の前記物体の位置と、更新前の当該物体の位置に基づき設定されている前記目標走行経路との距離が、更新前の当該物体の位置と当該設定されている目標走行経路との距離よりも大きい場合、当該設定されている目標走行経路よりも当該物体に近い領域を、次の目標走行経路が設定される領域から除外するステップを含む、
車両制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のための走行経路を設定し、この走行経路に基づき車両の制御を行う車両制御装置及び車両制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の自動運転を実行するために、車両の外界の認識結果に基づいて車両の移動経路を計画し、外界の障害物の認識結果に基づいてその計画された移動経路を補正し、補正された移動経路に基づいて車両の走行を制御する制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-146905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているような従来の技術においては、カメラやレーダ等のセンサを用いて障害物を認識しており、障害物に接近するほどその位置や形状をより正確に検出することが可能になる。したがって、計画された移動経路に沿って車両が進行し、障害物に接近するにつれて、障害物と移動経路との距離が想定より近いことや遠いことが判明する場合がある。
【0005】
従来の技術においては、障害物を回避しつつ走行車線のセンター位置に沿って走行するように移動経路が設定されている場合において、車両の進行につれて障害物の位置が想定より移動経路に近いことが判明すると、更新された障害物の位置から遠ざかるように移動経路が補正され、障害物の位置が想定より移動経路から遠いことが判明すると、走行車線のセンター位置に近づくように移動経路が補正される。このように、車両の進行につれて障害物の位置が更新される度に移動経路が補正されると、移動経路の補正に応じて車両制御が実行されることにより車両の挙動変化が頻繁に発生し、乗員に煩わしさを感じさせてしまう。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、車両と障害物との安全な距離を確保しつつ、乗員に煩わしさを感じさせることを防止可能な、車両制御装置及び車両制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明は、車両制御装置であって、車両の走行路に関する走行路情報を取得する走行路情報取得装置と、車両の前方の物体の位置を検出し、当該位置を繰り返し更新する物体検出装置と、走行路情報及び物体の位置に基づき走行路における目標走行経路を繰り返し設定し、目標走行経路に沿って車両が走行するように、車両を制御するように構成されたコントローラと、を備え、コントローラは、物体検出装置による更新後の物体の位置と、更新前の当該物体の位置に基づき設定されている目標走行経路との距離が、更新前の当該物体の位置と当該設定されている目標走行経路との距離よりも大きい場合、当該設定されている目標走行経路よりも当該物体に近い領域に、次の目標走行経路が設定され難くするように構成されている。
【0008】
このように構成された本発明によれば、コントローラは、物体検出装置による更新後の物体の位置と、更新前の当該物体の位置に基づき設定されている目標走行経路との距離が、更新前の当該物体の位置と当該設定されている目標走行経路との距離よりも大きい場合、当該設定されている目標走行経路よりも当該物体に近い領域に、次の目標走行経路が設定され難くするので、設定されている目標走行経路から離れる方向に物体の位置が更新された場合に、更新後の物体の位置に近づくような目標走行経路が設定されることを抑制できる。これにより、目標走行経路の変化に伴う車両挙動の頻繁な変化を抑制することができ、車両と障害物との安全な距離を確保しつつ、乗員に煩わしさを感じさせることを防止できる。
【0009】
他の観点では、本発明は、車両制御装置であって、車両の走行路に関する走行路情報を取得する走行路情報取得装置と、車両の前方の物体の位置を検出し、当該位置を繰り返し更新する物体検出装置と、走行路情報及び物体の位置に基づき走行路における目標走行経路を繰り返し設定し、目標走行経路に沿って車両が走行するように、車両を制御するように構成されたコントローラと、を備え、コントローラは、物体検出装置による更新後の物体の位置と、更新前の当該物体の位置に基づき設定されている目標走行経路との距離が、更新前の当該物体の位置と当該設定されている目標走行経路との距離よりも大きい場合、当該設定されている目標走行経路よりも当該物体に近い領域を、次の目標走行経路が設定される領域から除外するように構成されている。
【0010】
このように構成された本発明によれば、コントローラは、物体検出装置による更新後の物体の位置と、更新前の当該物体の位置に基づき設定されている目標走行経路との距離が、更新前の当該物体の位置と当該設定されている目標走行経路との距離よりも大きい場合、当該設定されている目標走行経路よりも当該物体に近い領域を、次の目標走行経路が設定される領域から除外するので、設定されている目標走行経路から離れる方向に物体の位置が更新された場合には、更新後の物体の位置に近づくような目標走行経路が設定されない。これにより、目標走行経路の変化に伴う車両挙動の頻繁な変化を防止することができ、車両と障害物との安全な距離を確保しつつ、乗員に煩わしさを感じさせることを防止できる。
【0011】
本発明において、好ましくは、コントローラは、走行路情報に基づいて、目標走行経路を設定するための候補となる複数の走行経路候補を設定し、走行路情報及び車両の前方の物体の位置に基づいて、複数の走行経路候補のそれぞれについて経路コストを求め、物体の位置と走行経路候補との距離が小さいほど、当該走行経路候補の経路コストを高くし、走行路において車両が走行する自車レーンのセンターラインと走行経路候補との距離が大きいほど、当該走行経路候補の経路コストを高くし、複数の走行経路候補の内、経路コストが最小の走行経路候補を目標走行経路として設定し、物体検出装置による更新後の物体の位置と、更新前の当該物体の位置に基づき設定されている目標走行経路との距離が、更新前の当該物体の位置と当該設定されている目標走行経路との距離よりも大きい場合、当該設定されている目標走行経路よりも当該物体に近い領域を通る走行経路候補の経路コストを、当該設定されている目標走行経路を通る走行経路候補の経路コストより高くするように構成されている。
【0012】
このように構成された本発明によれば、コントローラは、物体検出装置による更新後の物体の位置と、更新前の当該物体の位置に基づき設定されている目標走行経路との距離が、更新前の当該物体の位置と当該設定されている目標走行経路との距離よりも大きい場合、当該設定されている目標走行経路よりも当該物体に近い領域を通る走行経路候補の経路コストを、当該設定されている目標走行経路を通る走行経路候補の経路コストより高くするので、設定されている目標走行経路から離れる方向に物体の位置が更新された場合には、更新後の物体の位置に近づくような走行経路候補を、次の目標走行経路として設定され難くし、あるいは次の目標走行経路として設定されないようにすることができる。これにより、目標走行経路の変化に伴う車両挙動の頻繁な変化を防止することができ、車両と障害物との安全な距離を確保しつつ、乗員に煩わしさを感じさせることを防止できる。
【0013】
他の観点では、本発明は、コンピュータを備える制御装置により実行される車両制御方法であって、車両の走行路に関する走行路情報を取得するステップと、車両の前方の物体の位置を検出し、当該位置を繰り返し更新するステップと、走行路情報及び物体の位置に基づき走行路における目標走行経路を繰り返し設定するステップと、目標走行経路に沿って車両が走行するように、車両を制御するステップと、を有し、目標走行経路を設定するステップは、物体の位置を繰り返し更新するステップにおける更新後の物体の位置と、更新前の当該物体の位置に基づき設定されている目標走行経路との距離が、更新前の当該物体の位置と当該設定されている目標走行経路との距離よりも大きい場合、当該設定されている目標走行経路よりも当該物体に近い領域に、次の目標走行経路が設定され難くするステップを含む。
このように構成された本発明によっても、車両と障害物との安全な距離を確保しつつ、乗員に煩わしさを感じさせることを防止できる。
【0014】
他の観点では、本発明は、コンピュータを備える制御装置により実行される車両制御方法であって、車両の走行路に関する走行路情報を取得するステップと、車両の前方の物体の位置を検出し、当該位置を繰り返し更新するステップと、走行路情報及び物体の位置に基づき走行路における目標走行経路を繰り返し設定するステップと、目標走行経路に沿って車両が走行するように、車両を制御するステップと、を有し、目標走行経路を設定するステップは、物体の位置を繰り返し更新するステップにおける更新後の物体の位置と、更新前の当該物体の位置に基づき設定されている目標走行経路との距離が、更新前の当該物体の位置と当該設定されている目標走行経路との距離よりも大きい場合、当該設定されている目標走行経路よりも当該物体に近い領域を、次の目標走行経路が設定される領域から除外するステップを含む。
このように構成された本発明によっても、車両と障害物との安全な距離を確保しつつ、乗員に煩わしさを感じさせることを防止できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の車両制御装置及び車両制御方法によれば、車両と障害物との安全な距離を確保しつつ、乗員に煩わしさを感じさせることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態による車両制御装置が搭載された車両の説明図である。
図2】本発明の実施形態による車両制御装置の概略構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態による車両制御の基本概念についての説明図である。
図4】本発明の実施形態による目標走行経路設定の基本概念についての説明図である。
図5】本発明の実施形態によるレーン内位置コストを規定するマップである。
図6】本発明の実施形態による障害物位置コストを規定するマップである。
図7】本発明の実施形態による追加コストを規定するマップである。
図8】本発明の実施形態による経路コストの一例を示すマップである。
図9】本発明の実施形態による車両制御処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両制御装置及び方法を説明する。
【0018】
[システム構成]
まず、図1及び図2を参照して、本実施形態による車両制御装置の構成について説明する。図1は車両制御装置が搭載された車両の説明図、図2は車両制御装置のブロック図である。
【0019】
本実施形態による車両1は、駆動力を出力するエンジンや電気モータなどの駆動力源2、駆動力源2から出力された駆動力を駆動輪に伝達するトランスミッション3、車両1に制動力を付与するブレーキ4、及び車両1を操舵するための操舵装置5を備えている。
【0020】
車両制御装置100は、車両1のための目標走行経路を設定して、車両1をこの目標走行経路に沿って走行させるように車両1の制御(車両制御)を行うように構成されている。図2に示すように、車両制御装置100は、コントローラとしてのECU(Electronic Control Unit)10と、複数のセンサ類と、複数の制御システムと、を有する。
【0021】
具体的には、複数のセンサ類には、カメラ21、レーダ22や、車両1の挙動や乗員による運転操作を検出するための車速センサ23、加速度センサ24、ヨーレートセンサ25、操舵角センサ26、アクセルセンサ27、ブレーキセンサ28が含まれている。さらに、複数のセンサ類には、車両1の位置を検出するための測位システム29、ナビゲーションシステム30が含まれている。複数の制御システムには、駆動力源2やトランスミッション3を制御するパワートレインコントロールモジュール(PCM)31、駆動力源2やブレーキ4を制御するダイナミックスタビリティコントロールシステム(DSC)32、及び操舵装置5を制御する電動パワーステアリングシステム(EPS)33が含まれている。
【0022】
また、他のセンサ類として、車両1に対する周辺構造物の距離及び位置を測定する周辺ソナー、車両1の4箇所の角部における周辺構造物の接近を測定するコーナーレーダや、車両1の車室内を撮影するインナーカメラが含まれていてもよい。
【0023】
ECU10は、複数のセンサ類から受け取った信号に基づいて種々の演算を実行し、PCM31、DSC32、EPS33に対して、駆動力源2、トランスミッション3、ブレーキ4、操舵装置5を適宜に作動させるための制御信号を送信する。ECU10は、1つ以上のプロセッサ(典型的にはCPU)、各種プログラムを記憶するメモリ(ROM、RAMなど)、入出力装置などを備えたコンピュータにより構成される。
【0024】
カメラ21は、車両1の周囲を撮影し、画像データを出力する。ECU10は、カメラ21から受信した画像データに基づいて、対象物(例えば、先行車両、駐車車両、歩行者、走行路、区画線(車線境界線、白線、黄線)、交通信号、交通標識、停止線、交差点、障害物等)を特定する。なお、ECU10は、交通インフラや車々間通信等により、外部から対象物の情報を取得してもよい。これにより、対象物の種類、相対位置、移動方向等が特定される。なお、カメラ21は、本発明における「走行路情報取得装置」及び「物体検出装置」の一例に相当する。
【0025】
レーダ22は、対象物(特に、先行車両、駐車車両、歩行者、走行路上の落下物等)の位置及び速度を測定する。レーダ22として、例えばミリ波レーダを用いることができる。レーダ22は、車両1の進行方向に電波を送信し、対象物により送信波が反射されて生じた反射波を受信する。そして、レーダ22は、送信波と受信波に基づいて、車両1と対象物との間の距離(例えば、車間距離)や、車両1に対する対象物の相対速度を測定する。なお、本実施形態において、レーダ22に代えて、レーザレーダや超音波センサ等を用いて対象物との距離や相対速度を測定してもよい。また、複数のセンサ類を用いて、位置及び速度測定装置を構成してもよい。なお、レーダ22は、本発明における「物体検出装置」の一例に相当する。
【0026】
車速センサ23は、例えば車輪やドライブシャフトの回転速度に基づき車両1の速度を検出する。加速度センサ24は、車両1の加速度を検出する。この加速度は、車両1の前後方向の加速度と、横方向の加速度(つまり横加速度)とを含む。なお、本明細書においては、加速度には、速度が増加する方向の速度の変化率だけでなく、速度が減少する方向の速度の変化率(つまり減速度)も含むものとする。
【0027】
ヨーレートセンサ25は、車両1のヨーレートを検出する。操舵角センサ26は、車両1のステアリングホイールの回転角度(操舵角)を検出する。アクセルセンサ27は、アクセルペダルの踏み込み量を検出する。ブレーキセンサ28は、ブレーキペダルの踏み込み量を検出する。
【0028】
測位システム29は、GPSシステム及び/又はジャイロシステムであり、車両1の位置(現在車両位置情報)を検出する。ナビゲーションシステム30は、内部に地図情報を格納しており、ECU10に地図情報を提供することができる。ECU10は、地図情報及び現在車両位置情報に基づいて、車両1の周囲(特に、進行方向)に存在する道路、交差点、交通信号、建造物等を特定する。地図情報は、ECU10内に格納されていてもよい。なお、ナビゲーションシステム30も、本発明における「走行路情報取得装置」の一例に相当する。
【0029】
PCM31は、車両1の駆動力源2を制御して、車両1の駆動力を調整する。例えば、PCM31は、エンジンの点火プラグ、燃料噴射弁、スロットルバルブ、可変動弁機構や、トランスミッション3、電気モータに電力を供給するインバータなどを制御する。ECU10は、車両1を加速又は減速させる必要がある場合に、PCM31に対して、駆動力を調整するために制御信号を送信する。
【0030】
DSC32は、車両1の駆動力源2やブレーキ4を制御して、車両1の減速制御や姿勢制御を行う。例えば、DSC32は、ブレーキ4の液圧ポンプやバルブユニットなどを制御し、PCM31を介して駆動力源2を制御する。ECU10は、車両1の減速制御や姿勢制御を行う必要がある場合に、DSC32に対して、駆動力を調整したり制動力を発生させたりするために制御信号を送信する。
【0031】
EPS33は、車両1の操舵装置5を制御する。例えば、EPS33は、操舵装置5のステアリングシャフトにトルクを付与する電動モータなどを制御する。ECU10は、車両1の進行方向を変更する必要がある場合に、EPS33に対して、操舵方向を変更するために制御信号を送信する。
【0032】
[車両制御の基本概念]
次に、図3を参照して、本実施形態において上述したECU10によって実行される車両制御の基本概念について説明する。図3は、車両1の前方の物体を回避するように設定された目標走行経路に沿って車両1が走行する様子を示しており、(a)は時刻t0の様子、(b)及び(c)は時刻t1から所定時間経過した時刻t1の様子を示している。
【0033】
まず、ECU10は、カメラ21、測位システム29、ナビゲーションシステム30などから走行路情報を取得すると共に、カメラ21やレーダ22により車両1の前方の物体OB(図3の例では路上駐車しているトラック)の位置を検出する。走行路情報は、走行路に関する情報であり、例えば、走行路の形状(直線、カーブ、カーブ曲率)、走行路幅、車線数、車線幅等に関する情報を含んでいる。これらの走行路情報と物体OBの位置とは繰り返し更新される。
【0034】
次いで、ECU10は、走行路情報及び物体OBの位置に基づき、走行路における目標走行経路を設定する。目標走行経路の設定は繰り返し実行される。そして、ECU10は、設定した目標走行経路に沿って車両1が走行するように、PCM31、DSC32及びEPS33のうちの少なくとも1以上に対して制御信号を送信する。
【0035】
図3(a)の例では、時刻t0において、ECU10は走行路情報を取得する共に物体OBの位置を検出し、これらの走行路情報及び物体OBの位置に基づき、目標走行経路Rt0を設定する。目標走行経路Rt0は、車両1が物体OBから離れるように右方向に旋回しつつ前進するように設定されており、物体OBの位置と、設定した目標走行経路Rt0との距離はd0となっている。次いで、ECU10は、上記のように設定した目標走行経路Rt0に沿って車両1が走行するように、車両1を制御する。
【0036】
図3(b)は、時刻t0の後、目標走行経路Rt0に沿って車両1が物体OBから離れるように右方向に旋回しつつ前進し、時刻t1においてECU10が走行路情報を取得する共に物体OBの位置を更新したときの様子を示している。具体的には、車両1が前進して物体OBに接近し、カメラ21やレーダ22による物体OBの位置検出精度が向上した結果、時刻t1において更新された物体OBの位置が、更新前の物体OBの位置よりも目標走行経路Rt0に近くなっている。即ち、時刻t1に更新された物体OBの位置と、時刻t0の物体OBの位置に基づき設定されている目標走行経路Rt0との距離d1が、時刻t0に検出された物体OBの位置と目標走行経路Rt0との距離d0よりも小さい(d1<d0)。この場合、ECU10は、走行路情報及び時刻t1に更新された物体OBの位置に基づき、更新された物体OBの位置から離れるような新たな目標走行経路Rt1図3(b)において点線により示す)を設定する。
【0037】
図3(c)も、時刻t0の後、目標走行経路Rt0に沿って車両1が前進し、時刻t1においてECU10が走行路情報を取得する共に物体OBの位置を更新したときの様子を示している。この図3(c)の例では、図3(b)と異なり、車両1が前進して物体OBに接近し、カメラ21やレーダ22による物体OBの位置検出精度が向上した結果、時刻t1において更新された物体OBの位置が、更新前の物体OBの位置よりも目標走行経路Rt0から遠くなっている。即ち、時刻t1に更新された物体OBの位置と、時刻t0の物体OBの位置に基づき設定されている目標走行経路Rt0との距離d1が、時刻t0に検出された物体OBの位置と目標走行経路Rt0との距離d0よりも大きい(d1>d0)。この場合、時刻t0のときと同様に、ECU10が走行路情報及び時刻t1に更新された物体OBの位置に基づき新たな目標走行経路を設定すると、時刻t0の物体OBの位置に基づき設定されている目標走行経路Rt0よりも物体OBに近い領域に次の目標走行経路R’t1が設定されることになる(図3(c)において一点鎖線により示す)。この場合、目標走行経路R’t1は、車両1が物体OBに近づくように左方向に旋回しつつ前進するように設定される。即ち、時刻t0からt1の間に右方向に旋回し始めていた車両1に、さらに左方向に旋回させることになるので、車両1の挙動変化が頻繁になり、乗員に煩わしさを感じさせてしまう。
【0038】
そこで、本実施形態によるECU10は、時刻t0の物体OBの位置に基づき設定されている目標走行経路Rt0よりも物体OBに近い領域に次の目標走行経路が設定され難くする。これにより、図3(c)の例では、ECU10は、時刻t0の物体OBの位置に基づき設定されている目標走行経路Rt0と同じ位置を車両1に走行させるような新たな目標走行経路Rt1図3(c)において点線により示す)を設定する。
【0039】
[目標走行経路設定の基本概念]
次に、図4を参照して、本実施形態において上述したECU10によって実行される目標走行経路設定の基本概念について説明する。図4は、車両1が走行路6上を走行している様子を示している。
【0040】
まず、ECU10は、走行路情報に基づいて、走行路6上の位置を特定するための演算を行う。走行路情報は、車両1が走行している走行路6に関する情報であり、カメラ21、レーダ22、ナビゲーションシステム30等により取得される。走行路情報は、例えば、走行路の形状(直線、カーブ、カーブ曲率)、走行路幅、車線数、車線幅等に関する情報を含んでいる。
【0041】
次いで、ECU10は、走行路情報に基づく演算により、車両1の進行方向前方に存在する走行路6上に、仮想の複数のグリッド点Gn(n=1,2,・・・N)を設定する。走行路6が延びる方向をx方向と定義し、走行路6の幅方向をy方向と定義した場合に、グリッド点Gnは、x方向及びy方向に沿って格子状に配列されている。なお、xy座標の原点は、車両1の位置に対応する点に設定される。
【0042】
ECU10がグリッド点Gnを設定する範囲は、走行路6に沿って、距離Lだけ車両1の前方に亘っている。距離Lは、演算実行時の車両1の速度に基づいて計算される。本実施形態では、距離Lは、演算実行時の速度(V)で所定の固定時間t(例えば3秒)に走行すると予想される距離である(L=V×t)。しかしながら、距離Lは、所定の固定距離(例えば100m)であってもよいし、速度(及び加速度)の関数であってもよい。また、グリッド点Gnが設定される範囲の幅Wは、走行路6の幅と略等しい値に設定される。このような複数のグリッド点Gnの設定により、走行路6上の位置を特定することが可能になる。
【0043】
なお、図4に示される走行路6は直線区間であるため、グリッド点Gnは矩形状に配置されている。しかしながら、グリッド点Gnは走行路が延びる方向に沿って配置されるため、走行路がカーブ区間を含んでいる場合は、グリッド点Gnはカーブ区間の湾曲に沿って配置される。
【0044】
次いで、ECU10は、走行路情報に基づいて、走行経路候補RC(つまり、実際に車両1を走行させる目標走行経路となり得る候補)を設定するための演算を実行する。例えば、ECU10は、ステートラティス法を用いた経路探索により、複数の走行経路候補RCを設定する。ステートラティス法によれば、車両1の位置から、車両1の進行方向に存在するグリッド点Gnに向かって枝分かれするように、複数の走行経路候補RCが設定される。図4は、ECU10が設定する複数の走行経路候補RCの一部である走行経路候補RCa,RCb,RCcを示している。
【0045】
なお、ECU10は、走行路情報に加えて、障害物情報に基づいて、走行経路候補RCを設定してもよい。この障害物情報は、車両1の進行方向の走行路6上の障害物(例えば、先行車両、駐車車両、歩行者、落下物等)の有無や、その移動方向、移動速度等に関する情報であり、カメラ21及びレーダ22により取得される。
【0046】
次いで、ECU10は、図4に示されるように、各走行経路候補RCに沿って複数のサンプリング点SPを設定して、各サンプリング点SPにおける経路コストを計算する。このサンプリング点SPは、経路コストが計算される、各走行経路候補RCの経路上の離散点(位置)である。具体的には、ECU10は、複数の走行経路候補RCのそれぞれについて、複数のサンプリング点SPの各々の経路コストを計算する。
【0047】
次いで、ECU10は、このように計算された複数の走行経路候補RCのそれぞれの経路コストに基づき、複数の走行経路候補RCの中から経路コストが最小である1つの経路を選択し、この経路を目標走行経路として設定する。そして、ECU10は、設定した目標走行経路に沿って車両1が走行するように、PCM31、DSC32及びEPS33のうちの少なくとも1以上に対して制御信号を送信する。
【0048】
[経路コストの計算]
次に、本発明の実施形態による経路コストについて説明する。基本的には、経路コストには、速度や、前後加速度や、横加速度や、経路変化率や、障害物などの複数の要因に応じて規定されるコストが含まれる。本実施形態は、そのような複数の経路コストの一つとして、基本的には走行路6中の自車レーン(走行路6において自車両1が走行するレーン)のセンターラインに近い位置を車両1に走行させつつ、障害物から安全な距離を確保できるように、走行路6における位置(具体的には走行経路候補RC上のサンプリング点SPの位置)に応じて経路コストを規定する。以下では、この経路コストについて具体的に説明する。
【0049】
図5図8を参照して、本実施形態による経路コストについて具体的に説明する。
【0050】
まず、図5は、センターラインからの距離に応じた経路コスト(レーン内位置コストC1)を規定するマップである。図5において、横軸は、自車レーンのセンターラインからの距離、具体的には走行経路候補RC上のサンプリング点SPとセンターラインとの距離を示し、縦軸は、このセンターラインからの距離に応じたレーン内位置コストC1(各サンプリング点SPに対して設定すべき経路コスト)を示している。また、図5において、「W1」は、自車レーンの幅を示している。即ち、自車レーンのセンターラインから幅方向端部までの距離は「W1/2」となる。ECU10は、図5に示すようなマップを参照して、経路コストを求めるべきサンプリング点SPについて、当該サンプリング点SPとセンターラインとの距離に応じたレーン内位置コストC1を決定する。
【0051】
図5に示すように、本実施形態では、基本的には、センターラインとサンプリング点SPとの距離が小さくなるほど、当該サンプリング点SPのレーン内位置コストC1を低くし、センターラインとサンプリング点SPとの距離が大きくなるほど、当該サンプリング点SPのレーン内位置コストC1を高くする。こうすることで、車両1が自車レーンのセンターラインに近い位置を走行するような走行経路を設定できるようにしている。
【0052】
また、本実施形態では、センターラインとサンプリング点SPとの距離が「W1/2」未満である場合には、センターラインとサンプリング点SPとの距離が「W1/2」以上である場合よりも、センターラインとサンプリング点SPとの距離に対するレーン内位置コストC1の変化率を大きくする。すなわち、サンプリング点SPが自車レーン内にある場合には、サンプリング点SPが自車レーンにある場合よりも、レーン内位置コストC1の変化率を大きくする。こうすることで、サンプリング点SPが自車レーン内にある場合には、レーンセンタリングに関するレーン内位置コストC1が経路選択に与える影響を大きくし、サンプリング点SPが自車レーン外にある場合には、レーンセンタリングに関するレーン内位置コストC1が経路選択に与える影響を小さくする。
【0053】
図6は、車両1の前方の物体OB(障害物)の位置からの距離に応じた経路コスト(障害物位置コストC2)を規定するマップである。図6において、横軸は、障害物からの距離、具体的には走行経路候補RC上のサンプリング点SPと物体OBの検出位置との距離を示し、縦軸は、この物体OBの位置からの距離に応じた障害物位置コストC2(各サンプリング点SPに対して設定すべき経路コスト)を示している。また、図6において、「SD」は、自車レーンの幅方向において物体OBと車両1との間に確保すべき安全距離を示している。ECU10は、図6に示すようなマップを参照して、経路コストを求めるべきサンプリング点SPについて、当該サンプリング点SPと物体OBの位置との距離に応じた障害物位置コストC2を決定する。
【0054】
図6に示すように、本実施形態では、物体OBの位置からの距離がSD以下である場合には、障害物位置コストC2が所定の最大値MAXに設定される。この最大値MAXは、最終的に設定される目標走行経路の経路コストよりも極めて高い値(例えば2桁以上高い値)になるように予め設定される。これにより、走行経路候補RCに含まれるサンプリング点SPと物体OBとの距離がSD以下である場合には、他の走行経路候補RCよりも必ず経路コストが高くなるので、そのサンプリング点SPを含む走行経路候補RCが目標走行経路として選択されないようになる。即ち、目標走行経路と物体OBとの間に距離SDが確保されるようになる。
【0055】
また、物体OBの位置からの距離がSDより大きい場合には、物体OBの位置とサンプリング点SPとの距離が小さくなるほど、当該サンプリング点SPの障害物位置コストC2を高くし、物体OBとサンプリング点SPとの距離が大きくなるほど、当該サンプリング点SPの障害物位置コストC2を低くする。こうすることで、車両1が物体OBから離れた位置を走行するような走行経路を設定できるようにしている。
【0056】
図7は、ある時刻に更新された物体OBの位置と、更新前の物体OBの位置に基づき設定されている目標走行経路との距離が、更新前の物体OBの位置と設定されている目標走行経路との距離よりも大きい場合に、設定されている目標走行経路からの距離に応じて追加する経路コスト(追加コストC3)を規定するマップである。図7において、横軸は、設定されている目標走行経路からの距離、具体的には走行経路候補RC上のサンプリング点SPと設定されている目標走行経路との距離を示し、横軸中央を原点として左側が目標走行経路よりも物体OBに近い側(障害物側)、右側が目標走行経路よりも物体OBから遠い側(反障害物側)を示している。縦軸は、設定されている目標走行経路からの距離に応じた追加コストC3(各サンプリング点SPに対して追加すべき経路コスト)を示している。ECU10は、図7に示すようなマップを参照して、経路コストを求めるべきサンプリング点SPについて、当該サンプリング点SPと設定されている目標走行経路との距離に応じた追加コストC3を決定する。
【0057】
図7に示すように、本実施形態では、設定されている目標走行経路よりも物体OBに近い側(障害物側)においては、追加コストC3が最大値MAXに設定される。これにより、ある時刻に更新された物体OBの位置と、更新前の物体OBの位置に基づき設定されている目標走行経路との距離が、更新前の物体OBの位置と設定されている目標走行経路との距離よりも大きい場合には、設定されている目標走行経路よりも物体OBに近い領域の走行経路候補RCの経路コストが、設定されている目標走行経路を通る走行経路候補RC及びそれより物体OBから遠い領域の走行経路候補RCの経路コストよりも必ず高くなる。即ち、設定されている目標走行経路よりも物体OBに近い領域は、次の目標走行経路が設定される領域から除外される。
【0058】
また、設定されている目標走行経路よりも物体OBに近い側(障害物側)の追加コストC3を、最大値MAXよりも小さく、上記のレーン内位置コストC1や障害物位置コストC2と同程度の桁数ではあるがこれらのコストC1、C2と比べて大きい値に設定してもよい。このようにすることで、ある時刻に更新された物体OBの位置と、更新前の物体OBの位置に基づき設定されている目標走行経路との距離が、更新前の物体OBの位置と設定されている目標走行経路との距離よりも大きい場合に、設定されている目標走行経路よりも物体OBに近い領域の走行経路候補RCの経路コストが、設定されている目標走行経路を通る走行経路候補RC及びそれより物体OBから遠い領域の走行経路候補RCの経路コストよりも高くなりやすい。即ち、設定されている目標走行経路よりも物体OBに近い領域に、次の目標走行経路が設定され難くなる。
【0059】
また、設定されている目標走行経路よりも物体OBから遠い側(反障害物側)においては、設定されている目標走行経路とサンプリング点SPとの距離が大きくなるほど、追加コストC3を高くし、物体OBとサンプリング点SPとの距離が小さくなるほど、当該サンプリング点SPの追加コストC3を低くする。こうすることで、設定されている目標走行経路に近い位置に、次の目標走行経路が設定されるようにしている。
【0060】
図8は、ある時刻に更新された物体OBの位置と、更新前の物体OBの位置に基づき設定されている目標走行経路との距離が、更新前の物体OBの位置と設定されている目標走行経路との距離よりも大きい場合に、上述したレーン内位置コストC1、障害物位置コストC2及び追加コストC3を用いて算出される経路コストの一例を示すマップである。図8において、横軸は、自車レーンのセンターラインからの距離、具体的には走行経路候補RC上のサンプリング点SPとセンターラインとの距離を示し、縦軸は、サンプリング点SPに対して設定される経路コストを示している。また、図8において、「W1」は、自車レーンの幅を示し、PSD図8の例において物体OBの位置からの距離がSDである位置を示し、PT図8の例において更新前の物体OBの位置に基づき設定された目標走行経路の位置を示している。
【0061】
図8における一点鎖線は、追加コストC3を加算せずに経路コストを算出した場合を示している。更新された物体OBの位置が、更新前の物体OBの位置に基づき設定された目標走行経路から遠くなっていた場合に、追加コストC3を加算せず、レーン内位置コストC1及び障害物位置コストC2を加算することによって経路コストを算出すると、図8の一点鎖線により示すように、経路コストが最小となる位置Pmは、設定されていた目標走行経路の位置PTよりも物体OBに近く且つセンターラインに近くなる。これは、設定されている目標走行経路からセンターライン側に向かって物体OBの位置が離れることにより、目標走行経路よりもセンターライン側における障害物位置コストC2が減少し、レーン内位置コストC1と障害物位置コストC2との和が最小となる位置がセンターライン側に移動するからである。したがって、追加コストC3を加算せずに算出した経路コストが最小となる走行経路候補RCを次の目標走行経路として設定すると、更新前の物体OBの位置に基づき設定されている目標走行経路よりも物体OBに近い領域に次の目標走行経路が設定されることになる。この場合、図3(c)において一点鎖線により示した目標走行経路R’t1のように、車両1の挙動変化が頻繁になり、乗員に煩わしさを感じさせてしまう。
【0062】
一方、図8における実線は、本実施形態により追加コストC3も加算して経路コストを算出した場合を示している。この場合、設定されている目標走行経路の位置PTよりも物体OBに近い側(障害物側)においては、追加コストC3が最大値MAXに設定されているので、図8の実線により示すように、設定されている目標走行経路の位置PTよりも物体OBに近い側の経路コストは最大値MAXになる。したがって、設定されている目標走行経路の位置PTよりも物体OBに近い領域には、次の目標走行経路が設定されない。また、設定されている目標走行経路の位置PTよりもセンターラインからの距離が大きい領域においては、センターラインからの距離が大きいほど経路コストが大きくなっている。これは、センターラインからの距離が大きいほどレーン内位置コストC1及び追加コストC3が大きくなり、かつ、その変化率が、センターラインからの距離が大きいほど障害物位置コストC2が小さくなるときの変化率よりも大きいからである。その結果、次の目標走行経路は、更新前の物体OBの位置に基づき設定された目標走行経路の位置PTと同じ位置に設定される。つまり、ECU10は、図3(c)において点線により示した目標走行経路Rt1のように、更新前の物体OBの位置に基づき設定されている目標走行経路と同じ位置を車両1に走行させるような新たな目標走行経路を設定する。
【0063】
[車両制御処理]
次に、図9を参照して、本実施形態の車両制御処理の流れについて説明する。図9は車両制御処理のフローチャートである。この処理は、ECU10によって所定の周期(例えば、0.05~0.2秒毎)で繰り返し実行される。
【0064】
まず、ECU10は、カメラ21、レーダ22、及びナビゲーションシステム30から走行路情報を取得する(ステップS1)。
【0065】
次に、ECU10は、カメラ21及びレーダ22により、車両1の前方の物体OBの位置を検出し、既に検出済みの物体OBについてはその位置を更新する(ステップS2)。
【0066】
次に、ECU10は、現在の走行路において既に設定されている目標走行経路が有るか否かを判定する(ステップS3)。その結果、既に設定されている目標走行経路が有る場合(ステップS3:Yes)、ECU10は、ステップS2において更新された物体OBの位置と、更新前の物体OBの位置に基づき設定されている目標走行経路との距離が、更新前の物体OBの位置と設定されている目標走行経路との距離よりも大きいか否かを判定する。
【0067】
その結果、更新された物体OBの位置と、更新前の物体OBの位置に基づき設定されている目標走行経路との距離が、更新前の物体OBの位置と設定されている目標走行経路との距離よりも大きい場合(ステップS4:Yes)、ECU10は、走行路情報に基づいて、複数の走行経路候補RCを設定する(ステップS5)。例えば、ECU10は、ステートラティス法を用いた経路探索により、複数の走行経路候補RCを設定し、各走行経路候補RCに沿って複数のサンプリング点SPを設定する。
【0068】
次に、ECU10は、複数の走行経路候補RCのそれぞれの経路コストを計算する(ステップS6)。具体的には、ECU10は、複数の走行経路候補RCのそれぞれについて、複数のサンプリング点SPの各々の経路コストを計算する。このとき、ECU10は、レーン内位置コストC1及び障害物位置コストC2と共に、追加コストC3も用いて経路コストを算出する。例えば、ECU10は、複数のサンプリング点SPの各々について、レーン内位置コストC1、障害物位置コストC2及び追加コストC3の和を算出する。そして、ECU10は、一つの走行経路候補RCにおける複数のサンプリング点SPについて計算された複数の経路コストから、当該走行経路候補RCに適用する経路コストを計算する。例えば、ECU10は、複数のサンプリング点SPにおける複数の経路コストの平均値を、一つの走行経路候補RCの経路コストとする。このようにして、ECU10は、複数の走行経路候補RCの全てについて経路コストを計算する。
【0069】
次に、ECU10は、目標走行経路を設定する(ステップS7)。具体的には、ECU10は、上記のように計算された複数の走行経路候補RCのそれぞれの経路コストに基づき、複数の走行経路候補RCの中から経路コストが最小である1つの経路を選択し、この経路を目標走行経路として設定する。
【0070】
また、ステップS3の判定において、既に設定されている目標走行経路が無い場合(ステップS3:No)、あるいは、ステップS4の判定において、更新された物体OBの位置と、更新前の物体OBの位置に基づき設定されている目標走行経路との距離が、更新前の物体OBの位置と設定されている目標走行経路との距離以下である場合(ステップS4:No)、ECU10は、走行路情報に基づいて、複数の走行経路候補RCを設定する(ステップS8)。例えば、ECU10は、ステップS5の場合と同様に、ステートラティス法を用いた経路探索により、複数の走行経路候補RCを設定し、各走行経路候補RCに沿って複数のサンプリング点SPを設定する。
【0071】
次に、ECU10は、複数の走行経路候補RCのそれぞれの経路コストを計算する(ステップS9)。具体的には、ECU10は、複数の走行経路候補RCのそれぞれについて、複数のサンプリング点SPの各々の経路コストを計算する。このとき、ECU10は、追加コストC3は用いず、レーン内位置コストC1及び障害物位置コストC2を用いて経路コストを算出する。例えば、ECU10は、複数のサンプリング点SPの各々について、レーン内位置コストC1及び障害物位置コストC2の和を算出する。そして、ECU10は、一つの走行経路候補RCにおける複数のサンプリング点SPについて計算された複数の経路コストから、当該走行経路候補RCに適用する経路コストを計算する。例えば、ECU10は、複数のサンプリング点SPにおける複数の経路コストの平均値を、一つの走行経路候補RCの経路コストとする。このようにして、ECU10は、複数の走行経路候補RCの全てについて経路コストを計算する。次いで、ECU10は、目標走行経路を設定する(ステップS7)。
【0072】
ステップS7において目標走行経路を設定した後、ECU10は、目標走行経路に沿って車両1が走行するように、車両1の速度制御及び/又は操舵制御を含む運転制御を実行する(ステップS10)。具体的には、ECU10は、PCM31、DSC32及びEPS33のうちの少なくとも1以上に制御信号を送信して、駆動力源2、トランスミッション3、ブレーキ4、及び操舵装置5の少なくとも1以上の制御を実行する。その後、ECU10は、ステップS1に戻り、ステップS1からS10の処理を繰り返し実行する。
【0073】
なお、上述した実施形態では、ECU10が、ステートラティス法を用いた経路探索により目標走行経路を設定する場合を例として説明したが、他の既知の走行経路生成アルゴリズム、例えばAスター法や、ダイクストラ法を用いて目標走行経路を設定する場合にも、本発明を適用することができる。
【0074】
[作用及び効果]
次に、上述した本実施形態の車両制御装置100の作用効果を説明する。
【0075】
ECU10は、カメラ21やレーダ22による更新後の物体OBの位置と、更新前の当該物体OBの位置に基づき設定されている目標走行経路との距離が、更新前の当該物体OBの位置と当該設定されている目標走行経路との距離よりも大きい場合、当該設定されている目標走行経路よりも当該物体OBに近い領域に、次の目標走行経路が設定され難くするので、設定されている目標走行経路から離れる方向に物体OBの位置が更新された場合に、更新後の物体OBの位置に近づくような目標走行経路が設定されることを抑制できる。これにより、目標走行経路の変化に伴う車両挙動の頻繁な変化を抑制することができ、車両1と障害物との安全な距離を確保しつつ、乗員に煩わしさを感じさせることを防止できる。
【0076】
あるいは、ECU10は、カメラ21やレーダ22による更新後の物体OBの位置と、更新前の当該物体OBの位置に基づき設定されている目標走行経路との距離が、更新前の当該物体OBの位置と当該設定されている目標走行経路との距離よりも大きい場合、当該設定されている目標走行経路よりも当該物体OBに近い領域を、次の目標走行経路が設定される領域から除外するので、設定されている目標走行経路から離れる方向に物体OBの位置が更新された場合に、更新後の物体OBの位置に近づくような目標走行経路が設定されない。これにより、目標走行経路の変化に伴う車両挙動の頻繁な変化を防止することができ、車両1と障害物との安全な距離を確保しつつ、乗員に煩わしさを感じさせることを防止できる。
【0077】
また、ECU10は、カメラ21やレーダ22による更新後の物体OBの位置と、更新前の当該物体OBの位置に基づき設定されている目標走行経路との距離が、更新前の当該物体OBの位置と当該設定されている目標走行経路との距離よりも大きい場合、当該設定されている目標走行経路よりも当該物体OBに近い領域を通る走行経路候補RCの経路コストを、当該設定されている目標走行経路を通る走行経路候補RCの経路コストより高くするので、設定されている目標走行経路から離れる方向に物体OBの位置が更新された場合には、更新後の物体OBの位置に近づくような走行経路候補RCを、次の目標走行経路として設定され難くし、あるいは次の目標走行経路として設定されないようにすることができる。これにより、目標走行経路の変化に伴う車両挙動の頻繁な変化を防止することができ、車両1と障害物との安全な距離を確保しつつ、乗員に煩わしさを感じさせることを防止できる。
【符号の説明】
【0078】
1 車両
6 走行路
10 ECU
21 カメラ
22 レーダ
30 ナビゲーションシステム
100 車両制御装置
OB 物体
R 目標走行経路
RC 走行経路候補
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9