(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003914
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】セルロースナノファイバーの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 15/04 20060101AFI20240109BHJP
【FI】
C08B15/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103272
(22)【出願日】2022-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(72)【発明者】
【氏名】山口 正人
(72)【発明者】
【氏名】杉村 裕介
【テーマコード(参考)】
4C090
【Fターム(参考)】
4C090AA05
4C090BA29
4C090BA34
4C090BB52
4C090BB65
4C090BD19
4C090CA01
4C090CA31
(57)【要約】
【課題】高濃度とした場合であっても効率の良いセルロースナノファイバーの製造方法を提供する。
【解決手段】(A)アニオン変性セルロース系原料をアルカリ性溶液に分散させて、前記アニオン変性セルロース系原料の固形分濃度が6質量%以上9質量%未満、かつ、pHが6~9のスラリーを得る工程と、(B)前記工程Aで得たスラリー化したアニオン変性セルロース系原料を加水分解する工程と、(C)前記工程Bで得た加水分解されたアニオン変性セルロース系原料を含む分散液を調製し、当該加水分解されたアニオン変性セルロース系原料を分散媒中に分散させながら解繊してナノファイバー化する工程とを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アニオン変性セルロース系原料をアルカリ性溶液に分散させて、前記アニオン変性セルロース系原料の固形分濃度が6質量%以上9質量%未満、かつ、pHが6~9のスラリーを得る工程と、
(B)前記工程Aで得たスラリー化したアニオン変性セルロース系原料を加水分解する工程と、
(C)前記工程Bで得た加水分解されたアニオン変性セルロース系原料を含む分散液を調製し、当該加水分解されたアニオン変性セルロース系原料を分散媒中に分散させながら解繊してナノファイバー化する工程と、を含むことを特徴とするセルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項2】
(A)アニオン変性セルロース系原料をアルカリ性溶液に分散させて、前記アニオン変性セルロース系原料の固形分濃度が9質量%以上20質量%以下、かつ、pHが6~9のスラリーを得る工程と、
(B)前記工程Aで得たスラリー化したアニオン変性セルロース系原料を加水分解する工程と、
(C)前記工程Bで得た加水分解されたアニオン変性セルロース系原料を含む分散液を調製し、当該加水分解されたアニオン変性セルロース系原料を分散媒中に分散させながら解繊してナノファイバー化する工程と、を含み、
前記工程Bにおける加水分解反応を、温度70~120℃の条件下で実施すること、又は、前記工程Bにおける加水分解反応を、複数回にわけて実施することを特徴とするセルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項3】
前記工程Bにおける加水分解反応を、温度40~120℃の条件下で実施することを特徴とする請求項1に記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項4】
前記工程Bにおける加水分解反応を、複数回に分けて実施することを特徴とする請求項1に記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項5】
前記アニオン変性セルロース系原料が、酸化パルプ又はカルボキシメチル化パルプであることを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項6】
前記工程Cで得られるセルロースナノファイバーの平均繊維長が、500nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースを微細化して得られるセルロースナノファイバーは、繊維径がナノオーダーの微細な繊維であり、高強度、高弾性、チキソ性等、通常のパルプにはない機能を有する新規材料として様々な分野での利用が期待されている。
【0003】
通常、セルロースナノファイバーは、分散液の状態で種々の用途に適用される。例えば、樹脂やゴムなどにセルロースナノファイバー分散液を添加して複合化し、機能性が向上した複合品を得ることが行われている。複合品中のセルロースナノファイバー量を増やすことができる観点、及び、輸送費の削減によるコストダウンの観点から、セルロースナノファイバー分散液中のセルロースナノファイバー濃度は高いことが好ましい。
【0004】
セルロースナノファイバー分散液は、セルロース系原料を含む分散液を調製し、これに対して強力なせん断力を印加することにより、解繊して得ることができる(例えば、特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高濃度のセルロースナノファイバー分散液を得ようとする場合には、アニオン変性されたセルロース系原料を高濃度で含む分散液を解繊処理する方法が考えられるが、例えば濃度が0.3~0.5%程度と低い場合であっても、解繊処理を行っている間に、分散液が極端に増粘し、効率のよい解繊処理が行いにくい問題があった。
【0007】
特許文献1には、TEMPO酸化したセルロース系原料をアルカリ性溶液中で加水分解することにより、セルロース系原料の濃度が高い場合であっても、解繊処理中の増粘を抑制可能なことが記載されている。具体的には、濃度が5%のTEMPO酸化セルロース系原料の水分散液をアルカリ性溶液中で加水分解し、水洗した後に2%まで希釈することにより得られた水分散液を、超高圧ホモジナイザーで処理してセルロースナノファイバー分散液を得たこと、及び解繊及び分散に要した消費電力が低いことが示されている。
【0008】
アニオン変性されたセルロース系原料の濃度が5%を超えるような高濃度である場合には、アニオン変性されたセルロース系原料の希釈洗浄・脱水工程を効率化するために、アニオン変性セルロース系原料は水分をより多く抱き込む金属塩型から酸型に変換されたものが用いられている。しかし、酸型のアニオン変性セルロース系原料の脱水ケーキを用いると、5%を超えるような高固形分濃度のアニオン変性セルロース系原料を均一に分散した分散液を短時間で効率的に得ることが難しかった。また、分散が十分でない分散液を加水分解して得られた水分散液は、粘度が高いものであり、これに対してさらに超高圧ホモジナイザーを用いた解繊を行うと、解繊初期にかけてセルロース系原料を含む分散液の粘度がさらに極端に増粘するため、送液が困難となる問題があった。また、分散が十分でない分散液を加水分解して得られた水分散液を解繊処理すると、解繊が部分的に不十分となる箇所が生じ、均一なナノ解繊が阻害されることにより、得られるセルロースナノファイバー分散液の透明度低下等の品質低下が懸念される。
【0009】
そこで本発明は、高濃度とした場合であっても効率の良いセルロースナノファイバーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、かかる目的を達成するため鋭意検討した結果、セルロース系原料を加水分解する前に、アルカリ性溶液に分散させてスラリーの状態とすることが極めて有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
本発明は以下を提供する。
(1) (A)アニオン変性セルロース系原料をアルカリ性溶液に分散させて、前記アニオン変性セルロース系原料の固形分濃度が6質量%以上9質量%未満、かつ、pHが6~9のスラリーを得る工程と、(B)前記工程Aで得たスラリー化したアニオン変性セルロース系原料を加水分解する工程と、(C)前記工程Bで得た加水分解されたアニオン変性セルロース系原料を含む分散液を調製し、当該加水分解されたアニオン変性セルロース系原料を分散媒中に分散させながら解繊してナノファイバー化する工程と、を含むことを特徴とするセルロースナノファイバーの製造方法。
(2) (A)アニオン変性セルロース系原料をアルカリ性溶液に分散させて、前記アニオン変性セルロース系原料の固形分濃度が9質量%以上20質量%以下、かつ、pHが6~9のスラリーを得る工程と、(B)前記工程Aで得たスラリー化したアニオン変性セルロース系原料を加水分解する工程と、(C)前記工程Bで得た加水分解されたアニオン変性セルロース系原料を含む分散液を調製し、当該加水分解されたアニオン変性セルロース系原料を分散媒中に分散させながら解繊してナノファイバー化する工程と、を含み、前記工程Bにおける加水分解反応を、温度70~120℃の条件下で実施すること、又は、前記工程Bにおける加水分解反応を、複数回にわけて実施することを特徴とするセルロースナノファイバーの製造方法。
(3) 前記工程Bにおける加水分解反応を、温度40~120℃の条件下で実施することを特徴とする(1)に記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
(4) 前記工程Bにおける加水分解反応を、複数回に分けて実施することを特徴とする(1)に記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
(5) 前記アニオン変性セルロース系原料が、酸化パルプ又はカルボキシメチル化パルプであることを特徴とする(1)または(2)に記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
(6) 前記工程Cで得られるセルロースナノファイバーの平均繊維長が、500nm以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載のセルロースナノファイバーの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高濃度とした場合であっても効率の良いセルロースナノファイバーの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において「~」は端値を含む。すなわち「X~Y」はその両端の値XおよびYを含む。
【0014】
本発明は、セルロースナノファイバーの製造方法であって、(A)アニオン変性セルロース系原料をアルカリ性溶液に分散させて、前記アニオン変性セルロース系原料の固形分濃度が6質量%以上9質量%未満、かつ、pHが6~9のスラリーを得る工程と、(B)前記工程Aで得たスラリー化したアニオン変性セルロース系原料を加水分解する工程と、(C)前記工程Bで得た加水分解されたアニオン変性セルロース系原料を含む分散液を調製し、当該加水分解されたアニオン変性セルロース系原料を分散媒中に分散させながら解繊してナノファイバー化する工程と、を含む。
【0015】
また、本発明は、セルロースナノファイバーの製造方法であって、(A)アニオン変性セルロース系原料をアルカリ性溶液に分散させて、前記アニオン変性セルロース系原料の固形分濃度が9質量%以上20質量%以下、かつ、pHが6~9のスラリーを得る工程と、(B)前記工程Aで得たスラリー化したアニオン変性セルロース系原料を加水分解する工程と、(C)前記工程Bで得た加水分解されたアニオン変性セルロース系原料を含む分散液を調製し、当該加水分解されたアニオン変性セルロース系原料を分散媒中に分散させながら解繊してナノファイバー化する工程と、を含み、前記工程Bにおける加水分解反応を、温度70~120℃の条件下で実施するか、又は、前記工程Bにおける加水分解反応を、複数回にわけて実施する。
【0016】
(工程A)
工程Aでは、アニオン変性セルロース系原料をアルカリ性溶液に分散させて、前記アニオン変性セルロース系原料の固形分濃度が6質量%以上9質量%未満、又は、9質量%以上20質量%以下、かつ、pHが6~9のスラリーを得る。
【0017】
(アニオン変性)
アニオン変性とはセルロース系原料にアニオン性基を導入することであり、具体的に酸化または置換反応によってピラノース環にアニオン性基を導入することである。本発明において前記酸化反応とはピラノース環の水酸基を直接カルボキシ基に酸化する反応をいう。また、本発明において置換反応とは、当該酸化以外の置換反応によってピラノース環にアニオン性基を導入する反応である。
【0018】
(セルロース系原料)
本発明において、セルロースナノファイバーを製造するためのセルロース系原料としては、植物(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等を起源とするものが知られており、本発明ではそのいずれも使用できる。好ましくは植物又は微生物由来のセルロース繊維であり、より好ましくは植物由来のセルロース繊維である。
【0019】
本発明に用いられるセルロース繊維原料の繊維径は特に制限されるものではなく、数平均繊維径としては1μmから1mmである。一般的な精製を経たものは50μm程度である。例えばチップ等の数cm大のものを精製したものである場合、リファイナーやビーター等の離解機で機械的処理を行い、50μm程度にすることが好ましい。
【0020】
(酸化)
本発明において、セルロース系原料の酸化は公知の方法を用いて行うことができ、特に限定されるものではないが、セルロースナノファイバーの絶乾質量に対して、カルボキシ基の量が0.5mmol/g~3.0mmol/gになるように調整することが好ましい。
【0021】
その一例として、セルロースをN-オキシル化合物、及び、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で酸化剤を用いて水中で酸化することにより、得ることができる。この酸化反応により、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、表面にアルデヒド基と、カルボキシ基またはカルボキシレート基を有するセルロース系ファイバーを得ることができる。反応時のセルロースの濃度は特に限定されないが、5質量%以下が好ましい。N-オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。N-オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。
【0022】
N-オキシル化合物の使用量は、原料となるセルロースを酸化できる触媒量であれば特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.01~10mmolが好ましく、0.01~1mmolがより好ましく、0.05~0.5mmolがさらに好ましい。また、反応系に対し0.1~4mmol/L程度がよい。臭化物とは臭素を含む化合物であり、その例には、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が含まれる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、その例には、ヨウ化アルカリ金属が含まれる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物およびヨウ化物の合計量は、例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.1~100mmolが好ましく、0.1~10mmolがより好ましく、0.5~5mmolがさらに好ましい。
【0023】
酸化剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などを使用できる。中でも、安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムは好ましい。酸化剤の適切な使用量は、例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.5~500mmolが好ましく、0.5~50mmolがより好ましく、1~25mmolがさらに好ましく、3~10mmolが最も好ましい。また、例えば、N-オキシル化合物1molに対して1~40molが好ましい。
【0024】
セルロースの酸化工程は、比較的温和な条件であっても反応を効率よく進行させられる。よって、反応温度は4~40℃が好ましく、また15~30℃程度の室温であってもよい。反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシ基が生成するため、反応液のpHの低下が認められる。酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを8~12、好ましくは10~11程度に維持することが好ましい。反応媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じにくいこと等から、水が好ましい。酸化反応における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5~6時間、例えば、0.5~4時間程度である。また、酸化反応は、2段階に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロースを、再度、同一または異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化させることができる。
【0025】
カルボキシル化(酸化)方法の別の例として、オゾンを含む気体とセルロース系原料とを接触させることにより酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、グルコピラノース環の少なくとも2位及び6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。オゾンを含む気体中のオゾン濃度は、50~250g/m3であることが好ましく、50~220g/m3であることがより好ましい。セルロース系原料に対するオゾン添加量は、セルロース系原料の固形分を100質量部とした際に、0.1~30質量部であることが好ましく、5~30質量部であることがより好ましい。オゾン処理温度は、0~50℃であることが好ましく、20~50℃であることがより好ましい。オゾン処理時間は、特に限定されないが、1~360分程度であり、30~360分程度が好ましい。オゾン処理の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度に酸化及び分解されることを防ぐことができ、酸化セルロースの収率が良好となる。オゾン処理を施した後に、酸化剤を用いて、追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物や、酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸などが挙げられる。例えば、これらの酸化剤を水またはアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を作成し、溶液中にセルロース系原料を浸漬させることにより追酸化処理を行うことができる。
【0026】
セルロース系ファイバーのカルボキシ基、カルボキシレート基、アルデヒド基の量は、上記した酸化剤の添加量、反応時間をコントロールすることで調整することができる。カルボキシ基量の測定方法は例えば、酸化セルロースの0.5質量%スラリー(水分散液)60mLを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出することができる:
カルボキシ基量〔mmol/g酸化セルロース又はセルロースナノファイバー〕=a〔mL〕×0.05/酸化セルロース質量〔g〕
【0027】
(カルボキシメチル化)
本発明において、セルロース系原料のカルボキシメチル化は公知の方法を用いて行うことができ、特に限定されるものではないが、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.01~0.50となるように調整することが好ましい。その一例として次のような製造方法を挙げることができるが、従来公知の方法で合成してもよく、市販品を使用してもよい。セルロースを発底原料にし、溶媒に3~20質量倍の水及び/又は低級アルコール、具体的にはメタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等の単独、又は2種以上の混合媒体を使用する。なお、低級アルコールの混合割合は、60~95質量%である。マーセル化剤としては、発底原料の無水グルコース残基当たり0.5~20倍モルの水酸化アルカリ金属、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用する。発底原料と溶媒、マーセル化剤を混合し、反応温度0~70℃、好ましくは10~60℃、かつ反応時間15分~8時間、好ましくは30分~7時間、マーセル化処理を行う。その後、カルボキシメチル化剤をグルコース残基当たり0.05~10.0倍モル添加し、反応温度30~90℃、好ましくは40~80℃、かつ反応時間30分~10時間、好ましくは1時間~4時間、エーテル化反応を行う。
【0028】
グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度の測定方法としては、例えば、次の方法によって得ることができる。すなわち、1)カルボキシメチル化セルロース繊維(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。2)メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(CM化セルロース)を水素型CM化セルロースにする。3)水素型CM化セルロース(絶乾)を1.5~2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。4)80%メタノール15mLで水素型CM化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。5)指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定する。6)カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’-(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(水素型CM化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型CM化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F’:0.1NのH2SO4のファクター
F:0.1NのNaOHのファクター
【0029】
本発明において、工程Aでアルカリ性溶液に分散させるアニオン変性セルロース系原料は、金属塩型のアニオン性基(例えば、-COONa)をそのまま用いてもよいが、高濃度化し易く、濃度調整を容易にする観点から、鉱酸を用いた酸処理により、酸型(例えば、-COOH)に変換し、親水性を下げた酸型(以下、「H型」ということがある)のアニオン変性セルロース系原料を用いることが好ましい。
【0030】
工程Aにおいては、好ましくは酸型のアニオン変性セルロース系原料を、希釈および中和を同時に行う目的で、アルカリ性溶液に分散させる。アルカリは、水溶性であれば特に制限なく用いることができるが、製造コストの観点から水酸化ナトリウムが最適である。アルカリ性溶液の濃度は、得られるスラリーを中和でき、かつ、アニオン変性セルロース系原料の固形分濃度を所望の濃度とする範囲で調整すればよいが、アルカリ性溶液の濃度が高すぎると極端にpHが高くなる部分が生じて、パルプの黄変や過度の粘度低下の虞があるため、5%未満のものを用いることが好ましい。中和後に得られるスラリーのpHは6~9であり、好ましくはpH7~8である。
【0031】
なお、酸型のアニオン変性セルロース系原料の固形分濃度6質量%以上のスラリーを得ようとする場合には、例えば固形分濃度20質量%程度まで脱水した酸型アニオン変性セルロース系原料を、例えば10質量%等の所望の濃度とするために必要な量の水で希釈し、その後にアルカリを添加して中和する方法を採用することも考えられる。しかしながら、この方法により固形分濃度20質量%の酸型アニオン変性セルロース系原料を、希釈用の水に徐々に加えて撹拌しても、5質量%を超えたあたりから極端に増粘し、スラリー化せず、ペースト状となり、均質化したスラリーを得ることができない。また、ペースト状となったところにアルカリを加えても、均質化したスラリーを得ることができない。この理由としては、10質量%等の高濃度では、酸型アニオン変性セルロース系原料がスラリー化しないまま吸水、膨潤してペースト状となるため、その後に高濃度のアルカリを加えても一部でしか接触しないため、均質な混合、中和が難しくなると考えられる。一方、本発明のように、好ましくは酸型のアニオン変性セルロース系原料を、純水ではなく、アルカリ性溶液、好ましくは希釈した水酸化ナトリウム水溶液に分散させ、中和も同時に行う場合は、所望の固形分濃度が10質量%等と高い場合であっても、酸型アニオン変性セルロース系原料と水酸化ナトリウムとの接触が、マイルドであり、かつ、接触面積が広いために、セルロース系原料への水酸化ナトリウムの浸透が早く、均質化したスラリーを得ることができる。なお、膨潤した酸型アニオン変性セルロース系原料よりもNa等の金属塩型アニオン変性セルロース系原料の方が、粘度が低い。したがって、本発明の工程Aを行うと、高濃度の酸型アニオン変性セルロース系原料が、粘度の低いNa型アニオン変性セルロース系原料に変換されやすいため、高濃度であっても均質化したスラリーを得ることが可能である。
【0032】
(工程B)
工程Bでは、工程Aで得たスラリー化したアニオン変性セルロース系原料を加水分解する。
【0033】
工程Bでは、副反応を抑制するために、反応媒体として水を用いることが好ましい。工程Bでは助剤として酸化剤または還元剤を用いることが好ましい。酸化剤または還元剤としては、pH8~14のアルカリ性領域で活性を有するものを使用できる。酸化剤の例には、酸素、オゾン、過酸化水素、次亜塩素酸塩が含まれ、これらの2種以上を組み合わせて使用してもよい。ただし、オゾンのようなラジカルを発生する酸化剤を使用した場合には、発生するラジカルにより加水分解後のアニオン変性セルロース系原料が着色する問題が生じうる。したがって、本発明に用いる酸化剤としては、ラジカルを発生しにくい酸素、過酸化水素、次亜塩素酸塩などが好ましく、特に、着色防止の観点から、過酸化水素が好ましい。これらは、オゾンのようなラジカルを発生する酸化剤と併用しないことがさらに好ましく、過酸化水素を単独で用いることがより好ましい。本発明に用いる還元剤の例には、水素化ホウ素ナトリウム、ハイドロサルファイト、亜硫酸塩が含まれ、これらの2種以上を併用して使用してもよい。反応効率の観点から、助剤の添加量はアニオン変性セルロース系原料の固形分に対して0.1~10質量%が好ましく、0.3~5質量%がより好ましく、0.5~2質量%がさらに好ましい。
【0034】
加水分解反応における反応開始時の反応液のpHは、8~14が好ましく、9~13がより好ましく、10~12がさらに好ましい。pHが8未満であると十分な加水分解が起こらない場合がある。また、pHが14を超えると、加水分解は進行するが、加水分解後の酸化セルロース系原料が着色するという問題が生じうる。pHの調整に用いるアルカリは水溶性であればよいが、製造コストの観点から、水酸化ナトリウムが最適である。
【0035】
加水分解反応を行う際の温度条件は、加水分解反応に供するスラリーのアニオン変性セルロース系原料の固形分濃度にも関係するが、反応効率の観点から、温度は40~120℃が好ましく、50~100℃がより好ましく、50~80℃がさらに好ましい。温度が低いと十分な加水分解が起こらない場合がある。一方、温度が高いと加水分解は進行するが、加水分解後の酸化セルロース系原料が着色するという問題が生じうる。加水分解の反応時間は0.5~24時間が好ましく、1~10時間がより好ましく、2~6時間がさらに好ましい。
【0036】
加水分解反応は、1回のみ行ってもよいし、複数回にわけて行ってもよい。加水分解反応を複数回にわける場合、反応回数の上限値は特に限られないが、生産性の観点から、3回が好ましく、2回がより好ましい。
【0037】
なお、加水分解反応に供するスラリーのアニオン変性セルロース系原料の固形分濃度が9質量%以上20質量%の未満の場合において、加水分解反応を複数回にわけて実施せず、1回のみ行うときは、反応効率および着色や過剰な減粘防止の観点から、温度条件として、温度70~120℃、好ましくは70~80℃とする必要がある。また、加水分解反応を2回以上にわけて行うときは、温度は40~120℃が好ましく、50~100℃がより好ましく、50~80℃がさらに好ましい。
【0038】
工程Bを行うと、加水分解反応によりアニオン変性セルロース系原料は短繊維化される。このように、アニオン変性セルロース系原料の繊維長を短くすることで、当該原料を含む分散液の粘度を低下できる。なお、単にアルカリ性条件下で加水分解すると、セルロース系原料は黄色に着色しやすいが、過酸化水素などを酸化剤として用いると、着色が起こりにくいため好ましい。
【0039】
(工程C)
工程Cでは、前記工程Bで得た、加水分解されたアニオン変性セルロース系原料(以下、「工程Bで得たセルロース系原料」ともいう)を含む分散液を調製し、当該加水分解されたアニオン変性セルロース系原料を分散媒中に分散させながら解繊してナノファイバー化する。「ナノファイバー化する」とは、セルロース系原料を、繊維径2~5nm程度のセルロースのシングルミクロフィブリルであるセルロースナノファイバーへと加工することを意味する。取扱いの容易性から、分散媒は水が好ましい。工程Bで得たセルロース系原料を分散媒中に分散させながら解繊するには、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの装置を用いて前記分散液に強力なせん断力を印加することが好ましい。特に、前記分散液に50MPa以上の圧力を印加し、かつ強力なせん断力を印加できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。前記圧力は、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。この処理により、工程Bで得たセルロース系原料が解繊してセルロースナノファイバーが形成され、かつセルロースナノファイバーが分散媒中に分散する。
【0040】
なお、本発明の工程Cで得られるセルロースナノファイバーは、加水分解により繊維長が短くされたアニオン変性セルロース系原料を用いることから、その平均繊維長は加水分解を行わないセルロース系原料を用いたものと比較して短いものであり、好ましくは500nm以下であり、より好ましくは400nm以下である。
【0041】
本発明において、解繊に供する分散液中の工程Bで得たセルロース系原料の濃度は6~20質量%が好ましい。本発明では前記工程Bにおいて加水分解処理を施しているので、工程Bで得たセルロース系原料の濃度をこのように高くしても、解繊処理中に系の粘度が上昇しない。
【0042】
(低粘度化処理)
本発明においては、工程Aと工程Bとの間または工程Bと工程Cとの間に、工程Aで得たアニオン変性セルロース系原料または工程Bで得た加水分解されたアニオン変性セルロース系原料(以下、まとめて「工程AまたはBで得たセルロース系原料」とよぶ)を、工程Bの方法とは別の方法で低粘度化処理してもよい。低粘度化処理とは、工程AまたはBで得たセルロース系原料のセルロース鎖をさらに適度に切断(セルロース鎖を短繊維化)することである。このように処理された原料は分散液としたときの粘度が低くなるので、低粘度化処理とは、低粘度の分散液を与えるセルロース系原料を得る処理ともいえる。低粘度化処理は、工程AまたはBで得たセルロース系原料の粘度が低下するような処理であればよく、例えば、工程AまたはBで得たセルロース系原料に紫外線を照射する処理、同原料を過酸化水素及びオゾンで酸化分解する処理、同原料を酸で加水分解する処理、ならびにこれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0043】
(セルロースナノファイバー)
本発明により製造されるセルロースナノファイバーは、平均繊維径2~5nm程度、平均繊維長100~5000nm程度、好ましくは500nm以下、より好ましくは400nm以下のセルロースのシングルミクロフィブリルである。本発明により得られたセルロースナノファイバーは、濃度1.0%(w/v)の水分散液におけるB型粘度(60rpm、25℃)が100mPa・s以下、好ましくは50mPa・s以下、さらに好ましくは30mPa・s以下である。また濃度5%(w/v)の水分散液におけるB型粘度は、10000mPa・s以下が好ましく、6000mPa・s以下がより好ましい。高濃度(6~20%(w/v))の水分散液におけるB型粘度(60rpm、25℃)が100000mPa・s以下、好ましくは40000mPa・s以下、さらに好ましくは30000mPa・s以下である。前記高濃度の解繊前の水分散液におけるB型粘度が30000mPa・s以下であると水酸化ナトリウム水溶液などと優れた混和性を有し、さらに20000mPa・s以下であると容易に均一な中和ができる。B型粘度の下限値は特に限定されないが、通常、1mPa・s以上、または5mPa・s以上程度である。B型粘度は、通常のB型粘度計を用いて測定することができ、例えば、英弘精機株式会社製のBROOKFIELD VISCOMETER DV-1PRIME等を用いて、25℃、60rpmの条件で測定できる。
【0044】
本発明の製造方法によれば、セルロースナノファイバーを分散媒中に良好に分散できるので光の拡散が生じにくく、得られるセルロースナノファイバーの分散液の透明度は高い。本発明により得られたセルロースナノファイバーは、濃度1.0%(w/v)水分散液における透明度(波長660nmの透過率)が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、88%以上であることがさらに好ましい。また、濃度5.0%(w/v)水分散液における透明度(波長660nmの透過率)が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることがさらに好ましい。高濃度(6~20%(w/v))の水分散液における透明度については現在の技術では高粘度スラリーの気泡を完全に除去してセルに充填することが困難なため、測定が困難であるが、より高透明な方が好ましい。前記濃度1.0%水分散液における透明度が85%以上であると異物の混入を嫌う用途、たとえば樹脂複合用、塗料複合用、光学用途などにも問題なく使用することができる。具体的には、可視分光光度計を用いて、石英セル(光路10mm)に所定濃度の分散液を入れた試験体を透過する光の量を測定することで求められる。
【0045】
本発明により製造されるセルロースナノファイバーとしては、着色の少ないものが好ましい。着色したセルロースナノファイバーは強度が低いことがある。また、例えば、着色の少ないセルロースナノファイバーを含む塗料を透明フィルム上に塗工して乾燥させた場合、乾燥時の熱によって変色(着色)しにくいため、外観不良の少ない透明フィルムが得られるという利点がある。そのようなセルロースナノファイバーは、工程Bにおいて酸化剤または還元剤を用いることにより、特に、ラジカルを発生しにくい過酸化水素を酸化剤として用いることにより、得ることができる。
【0046】
本発明により製造されるセルロースナノファイバーは、流動性と透明性に優れ、さらにバリヤー性及び耐熱性にも優れるので、上記以外にも、分散材、包装材料等の様々な用途に使用することが可能である。
【実施例0047】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各実施例における各数値の測定/算出方法が特に記載されていない場合には、明細書中に記載されている方法により測定/算出されたものである。
【0048】
(カルボキシ基量の測定方法)
酸化パルプの0.5質量%スラリー(水分散液)60mLを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.4とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出した:
カルボキシ基量〔mmol/g酸化パルプ〕=a〔mL〕×0.05/酸化パルプ質量〔g〕。
【0049】
(CNFの平均繊維径、平均繊維長の測定)
実施例および比較例で得られたCNFの平均繊維径および平均繊維長は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、ランダムに選んだ50本の繊維について解析した。
【0050】
(B型粘度の測定)
実施例および比較例で得られたCNF分散液、並びに、所定濃度に希釈して得られたCNF分散液のB型粘度は、B型粘度計(英弘精機株式会社製)を用いて、25℃の条件にて、回転数60rpmで3分後の粘度を測定して求めた。結果を表1に示した。
【0051】
(透明度の測定)
実施例および比較例で得られたCNF分散液、並びに、所定濃度に希釈して得られたCNF分散液の透明度は、可視分光光度計ASV11D(アズワン株式会社製)を用い、透明度(660nm光の透過率)を測定して求めた。結果を表1に示した。
【0052】
(製造例1)
(TEMPO酸化パルプ1の製造)
針葉樹由来漂白溶解クラフトパルプ(バッカイ社製DKP)をパルパーにて離解してパルプスラリーとした。このパルプスラリーに対しパルプの固形分1g当たりTEMPOを0.05 mmol、臭化ナトリウムを1.0 mmol、次亜塩素酸ナトリウムを5.5 mmol添加し、さらにpHが10.0±0.2になるよう、水酸化ナトリウム添加によりpH調整を行って2時間維持し、導入カルボキシ基量1.6 mmol/gのTEMPO酸化パルプ1を得た。その後塩酸を添加してpH2.4に調整したのちに脱液、また水による希釈、脱水を2回繰り返して洗浄を行い、固形分濃度約20質量%のH型TEMPO酸化パルプ1の脱水ケーキを得た。
【0053】
(製造例2)
(TEMPO酸化パルプ2の製造)
針葉樹由来漂白パルプ(日本製紙製NBKP)をパルパーにて離解してパルプスラリーとした。このパルプスラリーに対しパルプの固形分1g当たりTEMPOを0.05 mmol、臭化ナトリウムを1.0 mmol、次亜塩素酸ナトリウムを5.5 mmol/g添加し、さらにpHが10.0±0.2になるよう、水酸化ナトリウム添加によりpH調整を行って2時間維持し、導入カルボキシ基量1.4 mmol/gのTEMPO酸化パルプ2を得た。その後塩酸を添加してpH2.4に調整したのちに脱液、また水による希釈、脱水を2回繰り返して洗浄を行い、固形分濃度約20質量%のH型TEMPO酸化パルプ2の脱水ケーキを得た。
【0054】
(実施例1)
予めパルプ固形分濃度を8%程度に調整するために必要な量に少し足りない量の水に製造例1のH型TEMPO酸化パルプのカルボキシ基量と等量より若干少ない量の水酸化ナトリウムを添加し溶解させることにより、およそ0.85%(w/w)の希水酸化ナトリウム溶液を調製した。この希水酸化ナトリウム溶液に、製造例1で得られたH型TEMPO酸化パルプ1の脱水ケーキを撹拌しながら投入することで希釈した。数分間撹拌を継続することにより均質化させ、流動するTEMPO酸化パルプスラリーとした。その後、撹拌しながら4.8%(w/w)の水酸化ナトリウム水溶液を適宜加えることによりpH7.5±0.5となるまで中和し、パルプ固形分濃度8.1質量%のTEMPO酸化パルプスラリーを得た。これを50℃に加温し、過酸化水素をパルプ固形分に対して2質量%、水酸化ナトリウムをパルプ固形分に対して0.9質量%添加してpHを10~11に調整した。この水分散液を50℃で2時間加熱し、パルプ固形分濃度が8.1質量%の流動する短繊維化TEMPO酸化パルプ分散液を得た。その後、得られた短繊維化TEMPO酸化パルプ分散液(解繊前温度20~40℃)に対して、超高圧ホモジナイザーを用いて150MPaの条件で解繊を5パス処理行い、固形分濃度8.1質量%、平均繊維長243nm、平均繊維径5.0nmの短繊維化CNF分散液を得た。また、得られたCNF分散液についてB型粘度、透明度、及びpHを測定した。さらに、水で固形分濃度5質量%、1質量%に希釈した際のB型粘度、透明度、及びpHについてもそれぞれ測定した。
【0055】
(実施例2)
予めパルプ固形分濃度を10%程度に調整するために必要な量に少し足りない量の水に製造例1のH型TEMPO酸化パルプのカルボキシ基量と等量より若干少ない量の水酸化ナトリウムを添加し溶解させることにより、およそ1.2%(w/w)の希水酸化ナトリウム溶液を調製した。この希水酸化ナトリウム溶液に、製造例1で得られたH型TEMPO酸化パルプ1の脱水ケーキを撹拌しながら投入することで希釈した。数分間撹拌継続することにより均質化させ、流動するTEMPO酸化パルプスラリーとした。その後、撹拌しながら4.8%(w/w)の水酸化ナトリウム水溶液を適宜加えることによりpH7.5±0.5となるまで中和し、パルプ固形分濃度10.7質量%のTEMPO酸化パルプスラリーを得た。これを50℃に加温し、過酸化水素をパルプ固形分に対して2質量%、水酸化ナトリウムをパルプ固形分に対して0.9質量%添加してpHを10~11に調整した。この水分散液を50℃で2時間加熱した。加水分解反応が進行し、pHは7~8程度まで低下した。その後、再度過酸化水素をパルプ固形分に対して2質量%、水酸化ナトリウムをパルプ固形分に対して0.9質量%添加してpHを10~11に調整した。この水分散液を50℃で2時間加熱し、パルプ固形分濃度が10.7質量%の流動する短繊維化TEMPO酸化パルプ分散液を得た。その後、得られた短繊維化TEMPO酸化パルプ分散液(解繊前温度20~40℃)に対して、超高圧ホモジナイザーを用いて150MPaの条件で解繊を5パス処理行い、固形分濃度10.1質量%、平均繊維長251nm、平均繊維径4.3nmの短繊維化CNF分散液を得た。また、得られたCNF分散液についてB型粘度、透明度、及びpHを測定した。さらに、水で固形分濃度5質量%、1質量%に希釈した際のB型粘度、透明度、及びpHについてもそれぞれ測定した。
【0056】
(実施例3)
予めパルプ固形分濃度を10%程度に調整するために必要な量に少し足りない量の水に製造例1のH型TEMPO酸化パルプのカルボキシ基量と等量より若干少ない量の水酸化ナトリウムを添加し溶解させることにより、およそ1.2%(w/w)の希水酸化ナトリウム溶液を調製した。この希水酸化ナトリウム溶液に、製造例1で得られたH型TEMPO酸化パルプ1の脱水ケーキを撹拌しながら投入することで希釈した。数分間撹拌継続することにより均質化させ、流動するTEMPO酸化パルプスラリーとした。その後、撹拌しながら4.8%(w/w)の水酸化ナトリウム水溶液を適宜加えることによりpH7.5±0.5となるまで中和し、パルプ固形分濃度10.9質量%のTEMPO酸化パルプスラリーを得た。これを80℃に加温し、過酸化水素をパルプ固形分に対して2質量%、水酸化ナトリウムをパルプ固形分に対して0.9質量%添加してpHを10~11に調整した。この水分散液を80℃で2時間加熱し、パルプ固形分濃度が10.9質量%の流動する短繊維化TEMPO酸化パルプ分散液を得た。その後、得られた短繊維化TEMPO酸化パルプ分散液(解繊前温度20~40℃)に対して、超高圧ホモジナイザーを用いて150MPaの条件で解繊を5パス処理行い、固形分濃度10.4質量%、平均繊維長240nm、平均繊維径4.5nmの短繊維化CNF分散液を得た。また、得られたCNF分散液についてB型粘度、透明度、及びpHを測定した。さらに、水で固形分濃度5質量%、1質量%に希釈した際のB型粘度、透明度、及びpHについてもそれぞれ測定した。
【0057】
(比較例1)
製造例2で得られたH型TEMPO酸化パルプ2の脱水ケーキを、水に、撹拌しながら投入することでおよそ3質量%となるように希釈した。なお、撹拌により数秒で均質化したTEMPO酸化パルプスラリーを得た。ここへ4.8%(w/w)の水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH7.5±0.5となるまで中和し、パルプ固形分濃度3.1質量%のTEMPO酸化パルプスラリーを得た。これを超高圧ホモジナイザーにより150Mpa(解繊前温度20~40℃)の条件で解繊を2パス処理行い、固形分濃度3.1質量%、平均繊維長616nm、平均繊維径3.0nmのCNF分散液を得た。また、得られたCNF分散液についてB型粘度、透明度、及びpHを測定した。さらに、水で固形分濃度1質量%に希釈した際のB型粘度、透明度、及びpHについても測定した。
【0058】
(比較例2)
製造例1で得られたH型TEMPO酸化パルプ1の脱水ケーキを、水に、撹拌しながら投入することでおよそ5質量%となるように希釈した。なお、撹拌により数秒で均質化したTEMPO酸化パルプスラリーを得た。ここへ4.8%(w/w)の水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH7.5±0.5となるまで中和し、パルプ固形分濃度5.1質量%のTEMPO酸化パルプスラリーを得た。これを撹拌しながら50℃に加温し、過酸化水素をパルプ固形分に対して2質量%、水酸化ナトリウムをパルプ固形分に対して0.9質量%添加してpHを10~11に調整した。この水分散液を50℃で2時間加熱し、パルプ固形分濃度が5.1質量%の流動する短繊維化TEMPO酸化パルプ分散液を得た。その後、得られたTEMPO酸化パルプ分散液(解繊前温度20~40℃)に対して、湿式キャビテーション装置を用いて150MPaの条件で解繊を5パス処理し、固形分濃度5.1質量%、平均繊維長271nm、平均繊維径4.5nmの短繊維化CNF分散液を得た。また、得られたCNF分散液についてB型粘度、透明度、及びpHを測定した。さらに、水で固形分濃度1質量%に希釈した際のB型粘度、透明度、及びpHについても測定した。
【0059】
(比較例3)
予めパルプ固形分濃度を10%程度に調整するために必要な量に少し足りない量の水に製造例1のH型TEMPO酸化パルプのカルボキシ基量と等量より若干少ない量の水酸化ナトリウムを添加し溶解させることにより、およそ1.2%(w/w)の希水酸化ナトリウム溶液を調製した。この希水酸化ナトリウム溶液に、製造例1で得られたH型TEMPO酸化パルプ1の脱水ケーキを撹拌しながら投入することで希釈した。数分間撹拌継続することにより均質化させ、流動するTEMPO酸化パルプスラリーとした。その後、撹拌しながら4.8%(w/w)の水酸化ナトリウム水溶液を適宜加えることによりpH7.5±0.5となるまで中和し、パルプ固形分濃度10.9質量%のTEMPO酸化パルプスラリーを得た。これを50℃に加温し、過酸化水素をパルプ固形分に対して2質量%、水酸化ナトリウムをパルプ固形分に対して0.9質量%添加してpHを10~11に調整した。この水分散液を50℃で2時間加熱し、パルプ固形分濃度が10.9質量%の流動する短繊維化TEMPO酸化パルプ分散液を得た。その後、得られた短繊維化TEMPO酸化パルプ分散液(解繊前温度20~40℃)に対して、超高圧ホモジナイザーを用いて150MPaの条件で解繊を行ったところ、1パス処理後に極端に増粘したため、2パス時に送液ができず処理を中断した。その結果、所望のパス回数を経たCNFを得ることができなかった。
【0060】
(比較例4)
製造例1で得られたH型TEMPO酸化パルプ1の脱水ケーキを、水に撹拌しながら投入することにより希釈し、パルプ固形分濃度10質量%に調整したスラリーを得ようと試みたが、5質量%を超えたあたりで極端に増粘し、スラリー化せずペースト状になってしまい、TEMPO酸化パルプスラリーを得ることができなかった。
【0061】