(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039151
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】逆入力遮断クラッチおよびそれを用いたアクチュエータ
(51)【国際特許分類】
F16D 41/08 20060101AFI20240314BHJP
F16D 41/10 20060101ALI20240314BHJP
F16D 43/02 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
F16D41/08 Z
F16D41/10
F16D43/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143486
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】高田 声一
【テーマコード(参考)】
3J068
【Fターム(参考)】
3J068AA07
3J068BA01
3J068BB10
3J068CB09
3J068CC01
3J068CC05
3J068CC09
3J068GA03
3J068GA13
3J068GA20
(57)【要約】
【課題】必要に応じて逆入力遮断機能を解除でき、かつ部品の製作および組立が行いやすく、軽量化も容易な逆入力遮断クラッチを提供する。
【解決手段】通常時は、入力トルクに対して、入力軸1と一体にカム受け2が回転し、カム受け2の偏心穴2aに摺動可能に嵌め込まれて旋回支持機構8に支持されたスペーサ6が自転することなく公転旋回することにより、スペーサ6内周に摺動可能に嵌め込まれた偏心カム4が出力軸3と一体に回転し、逆入力トルクに対しては、スペーサ6に移動力が生じてスペーサ6の公転旋回運動が妨げられることにより出力軸3が回転しなくなるが、非常時には、カム受け2にねじ込まれたねじ12を締め込んで出力軸3のフランジ部3aに押し付けることにより、カム受け2と出力軸3とを連結し、逆入力トルクを加えて出力軸3を入力軸1と一体に回転させることができる構成の逆入力遮断クラッチとした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と出力軸とを同一軸線上に配し、前記出力軸にその軸線と平行な偏心軸線を有する円筒状の偏心カムを設け、前記入力軸にその軸線と同一の軸線を有する円筒状のカム受けを設け、前記カム受けに前記偏心カムと同一軸線を有する円形の偏心穴を形成して、この偏心穴に前記偏心カムを挿入するとともに、前記カム受けの偏心穴の内周面と前記偏心カムの外周面との間に円筒状のスペーサを摺動可能に嵌め込み、前記スペーサと固定部材との間にスペーサを自転不能かつ公転旋回可能に支持する旋回支持機構を設けて、
前記入力軸に入力トルクが加えられたときは、前記入力軸と一体にカム受けが回転し、前記カム受けの偏心穴に嵌め込まれたスペーサが公転旋回することにより、前記偏心カムと出力軸が一体に回転し、
前記出力軸に逆入力トルクが加えられたときは、前記スペーサに移動力が生じてスペーサの公転旋回運動が妨げられることにより、前記出力軸がロック状態となるようにし、
さらに、前記出力軸および偏心カムを前記入力軸およびカム受けと一体回転可能に連結して、前記出力軸に逆入力トルクが加えられたときに出力軸をロックさせないようにする連結機構を設けた逆入力遮断クラッチ。
【請求項2】
前記旋回支持機構は、前記スペーサの一端にフランジ状の連結部を設けて、前記スペーサの連結部と固定部材とに軸方向で挟まれる平板状の連結部材を設け、前記連結部材とスペーサの連結部の互いの軸方向対向面に、スペーサの径方向に延びて互いに摺動可能に嵌合する第1の凹凸嵌合部を設けるとともに、前記連結部材と固定部材の互いの軸方向対向面に、前記第1の凹凸嵌合部と直交する方向に延び、互いに摺動可能に嵌合する第2の凹凸嵌合部を設けたものであることを特徴とする請求項1に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項3】
前記連結機構は、前記出力軸に前記偏心カムと隣接する位置で前記カム受けの内側に挿入されるフランジ部を設け、前記カム受けにその外周面から前記出力軸のフランジ部に向かって径方向に貫通するねじ孔を設け、前記ねじ孔にねじ込まれたねじを締め込んで前記出力軸のフランジ部に押し付けるものであることを特徴とする請求項1または2に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項4】
前記カム受けが前記ねじの操作を行うための開口を有するカバー部材に覆われており、前記カム受けの外周に前記ねじ孔の周縁部を傾斜面の起点として周方向に延びるラチェット歯状の回転操作部を設け、前記カバー部材の外方から前記回転操作部を操作することにより、前記カバー部材の開口と前記ねじ孔の位置合わせを行えるようにしたことを特徴とする請求項3に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項5】
前記カム受けが前記ねじの操作を行うための開口を有するカバー部材に覆われており、前記入力軸に連結されたモータ軸の駆動により、前記カバー部材の開口と前記ねじ孔の位置合わせを行えるようにしたことを特徴とする請求項3に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項6】
前記連結機構は、前記出力軸を前記入力軸の内部に通して入力軸の端面から突出させ、前記出力軸の入力軸端面からの突出部の外周面におねじおよび軸方向溝を設け、前記出力軸の突出部に、前記軸方向溝に挿入される突起を内周に有する環状の固定板を軸方向移動可能に外嵌し、前記おねじとねじ結合する環状の回転板を前記固定板よりも軸方向外側に装着するとともに、前記固定板を回転板に向けて付勢する弾性部材を設け、前記入力軸と固定板の互いの軸方向対向面に第3の凹凸嵌合部を設けて、前記回転板を所定方向に回転させることにより、前記回転板で固定板を弾性部材の付勢力に抗して軸方向内側へ移動させ、前記第3の凹凸嵌合部を嵌合状態として、前記固定板を介して前記出力軸を入力軸と一体回転可能に連結するものであることを特徴とする請求項1または2に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項7】
前記入力軸と出力軸のそれぞれに回転方向隙間をもってモータ軸が連結されており、前記モータ軸と入力軸との回転隙間角度をθMI、前記モータ軸と出力軸との回転隙間角度をθMOとし、前記カム受けとスペーサとの回転隙間角度をθRS、前記偏心カムとスペーサとの回転隙間角度をθCSとするとき、
θMO>θMIかつθRS≦θCSかつθCS<θMOとなるように設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項8】
前記旋回支持機構を構成する部品のうち、少なくとも1つの部品を樹脂製としたことを特徴とする請求項1または2に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項9】
請求項1または2に記載の逆入力遮断クラッチを減速機とモータの出力側の間に組み込み、前記モータの入力側に回転センサを設けたアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力トルクが加えられたときは入力側部材の回転を出力側部材に伝達し、逆入力トルクに対しては入力側部材が回転しないようにする逆入力遮断クラッチと、その逆入力遮断クラッチを組み込んだアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
産業用のロボットは、JIS B 8433-1(2015)における「5.5.2非常停止」、「5.13駆動用動力なしの移動」の項で、非常停止機能を持たなければならないことや、非常時または異常状態で駆動用動力なしで軸が動かせるように設計しなければならないことが規定されている。
【0003】
このため、ロボットの関節部を動かすアクチュエータには、非常停止機構(以下、「ブレーキ」とも称する。)として電磁ブレーキを組み込んだものが多い。その電磁ブレーキは、一般に、ロボットの通常運転時には、電磁石の吸引力でアーマチュアを引き寄せてブレーキばねを圧縮し、出力軸に相対回転不可かつ軸方向移動可能に取り付けたブレーキ板を解放することにより、ブレーキ解除状態となっている。また、停電時には、電磁石の吸引力がなくなるので、ブレーキばねがアーマチュアを介してブレーキ板を固定部材に押し付け、アーマチュアとブレーキ板との間およびブレーキ板と固定部材との間の摩擦力で出力軸にブレーキをかけるようになっている。そして、停電時でもバッテリ等の補助電源から電力を供給することにより、ブレーキ解除状態となって出力軸を手動で動かせるようになる。
【0004】
ところが、上記のような電磁ブレーキを組み込んだアクチュエータを使用しているロボットでは、稼働中は常時電磁ブレーキに通電してブレーキ解除状態としている必要があるので、電力消費が多くなるという問題がある。また、アクチュエータ毎に電磁ブレーキ用の配線が必要となるので、ロボットの関節数が多くなると配線数も多くなり、構造が複雑になるという難点もある。
【0005】
さらに、停電時に出力軸にブレーキをかける際には、アーマチュアとブレーキ板の間およびブレーキ板と固定部材の間で摩擦粉が発生し、この摩擦粉がアクチュエータに組み込まれた減速機や回転センサ(エンコーダ)の動作に悪影響を及ぼすおそれがある。摩耗粉から減速機および回転センサを保護するために、アクチュエータを構成する各部を、減速機-モータ-ブレーキ(電磁ブレーキ)-回転センサの順で配置することも提案されているが、その配列を採用した場合には、ブレーキが不要で減速機-モータ-回転センサの順で配置されたアクチュエータとは、モータと回転センサの間の接続構造を統一できなくなくなる。
【0006】
これに対し、例えば特許文献1で提案されているようなロック式の逆入力遮断クラッチを非常停止機構としてアクチュエータに組み込むことも考えられる。
【0007】
上記特許文献1に記載された逆入力遮断クラッチは、同一軸心のまわりに回転する入力側部材と出力側部材との間に、入力側部材の回転を僅かな角度遅れをもって出力側部材に伝達するトルク伝達手段を設け、内周側に円筒面を有する固定外輪を出力側部材の径方向外側に配し、出力側部材の外周面に複数のカム面を設けて、固定外輪の内周円筒面と出力側部材の各カム面との間に周方向両側で次第に狭小となる楔形空間を形成し、これらの各楔形空間に一対のローラとそのローラを楔形空間の狭小部へ押し込むばねを組み込むとともに、各楔形空間の周方向両側に挿入される柱部を有する保持器を、入力側部材と一体回転するように連結したものである。
【0008】
この逆入力遮断クラッチでは、各ローラがばねの弾力で楔形空間の狭小部に押し込まれているので、出力側部材に逆入力トルクが加えられても、回転方向後側のローラが固定外輪および出力側部材に係合することにより出力側部材がロックされ、出力側部材も入力側部材も回転はしない。
【0009】
一方、入力側部材に入力トルクが加えられたときは、入力側部材と一体に回転する保持器の柱部が回転方向後側のローラをばねの弾力に抗して楔形空間の広大側へ押し出すことにより、そのローラと固定外輪および出力側部材との係合が解除されて出力側部材がロック状態から解放された後、トルク伝達手段によって入力側部材から出力側部材に回転が伝達されるようになる。
【0010】
この逆入力遮断クラッチを電磁ブレーキに代えてアクチュエータに組み込めば、電力消費がなくなるし、配線も不要となる。また、摩耗粉の発生がなくなるため、アクチュエータを減速機-ブレーキ(逆入力遮断クラッチ)-モータ-回転センサの順で配置した構造とすることができ、モータと回転センサを直接接続した構造をブレーキのないアクチュエータと統一できるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記特許文献1の逆入力遮断クラッチは、逆入力トルクに対して出力側部材をロックする機能(以下、「逆入力遮断機能」と称する。)を解除する機構がなく、停電等で入力側部材が動かせなくなった場合に手動等で出力側部材を動かすことができないので、ロボット用のアクチュエータには使用できない。
【0013】
また、出力側部材の外周面に複数のカム面を設けて、これらの各カム面と固定外輪の内周円筒面との間の楔形空間に一対のローラとそのローラを楔形空間の狭小部へ押し込むばねを組み込んだ構造なので、出力側部材を製作する際に複雑な加工(カム面の形成)が必要になるし、組立時に複数の楔形空間へ小型部品となるローラやばねを組み込むのに手間がかかるという難点がある。
【0014】
さらに、逆入力トルクに対して出力側部材がロックしている状態では、出力側部材のカム面と固定外輪の内周円筒面との間に線接触状態で噛み込んでいるローラに大きな接触圧が作用するので、ローラやローラと接触する部材は、圧痕や摩耗を防ぐために焼き入れ処理を行った鋼材等、表面硬度の高い材料で形成する必要があり、その材質を樹脂等に代えてクラッチ全体の軽量化を図ることは困難である。
【0015】
そこで、本発明は、必要に応じて逆入力遮断機能を解除でき、かつ部品の製作および組立が行いやすく、軽量化も容易な逆入力遮断クラッチと、それを用いたアクチュエータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するために、本発明の逆入力遮断クラッチは、入力軸と出力軸とを同一軸線上に配し、前記出力軸にその軸線と平行な偏心軸線を有する円筒状の偏心カムを設け、前記入力軸にその軸線と同一の軸線を有する円筒状のカム受けを設け、前記カム受けに前記偏心カムと同一軸線を有する円形の偏心穴を形成して、この偏心穴に前記偏心カムを挿入するとともに、前記カム受けの偏心穴の内周面と前記偏心カムの外周面との間に円筒状のスペーサを摺動可能に嵌め込み、前記スペーサと固定部材との間にスペーサを自転不能かつ公転旋回可能に支持する旋回支持機構を設けて、前記入力軸に入力トルクが加えられたときは、前記入力軸と一体にカム受けが回転し、前記カム受けの偏心穴に嵌め込まれたスペーサが公転旋回することにより、前記偏心カムと出力軸が一体に回転し、前記出力軸に逆入力トルクが加えられたときは、前記スペーサに移動力が生じてスペーサの公転旋回運動が妨げられることにより、前記出力軸がロック状態となるようにし、さらに、前記出力軸および偏心カムを前記入力軸およびカム受けと一体回転可能に連結して、前記出力軸に逆入力トルクが加えられたときに出力軸をロックさせないようにする連結機構を設けた構成(構成1)を採用した。
【0017】
すなわち、入力軸に入力トルクが加えられたときは、その回転を出力軸に伝達し、出力軸に逆入力トルクが加えられたときは、出力軸をロックさせて入力軸が回転しないようにすることができ、しかも、必要に応じて連結機構で出力軸を入力軸と連結すれば、逆入力遮断機能が解除され、逆入力トルクを加えて出力軸を入力軸と一体に回転させることが可能となる構成とすることにより、非常停止機能および駆動用動力なしで軸を動かす機能が必要とされるロボットのアクチュエータに使用可能なものとしたのである。
【0018】
また、上記の構成1によれば、製作時に従来のロック式の逆入力遮断クラッチにおけるカム面形成のような複雑な加工が不要となるので、部品の製作や寸法精度の確保が容易になるし、従来のクラッチに複数組み込まれている小型のローラおよびばねがないので、部品点数が少なく組立も容易である。さらに、逆入力トルクに対してロックする部品は従来のクラッチよりも面圧が小さくなるので、その部品の材質に樹脂等を採用してクラッチ全体の軽量化を図ることも可能になる。
【0019】
上記構成1において、前記旋回支持機構としては、前記スペーサの一端にフランジ状の連結部を設けて、前記スペーサの連結部と固定部材とに軸方向で挟まれる平板状の連結部材を設け、前記連結部材とスペーサの連結部の互いの軸方向対向面に、スペーサの径方向に延びて互いに摺動可能に嵌合する第1の凹凸嵌合部を設けるとともに、前記連結部材と固定部材の互いの軸方向対向面に、前記第1の凹凸嵌合部と直交する方向に延び、互いに摺動可能に嵌合する第2の凹凸嵌合部を設けたもの(いわゆるオルダム軸継手のダブルスライダクランク機構に相当するもの)を採用することができる(構成2)。
【0020】
また、前記連結機構としては、前記出力軸に前記偏心カムと隣接する位置で前記カム受けの内側に挿入されるフランジ部を設け、前記カム受けにその外周面から前記出力軸のフランジ部に向かって径方向に貫通するねじ孔を設け、前記ねじ孔にねじ込まれたねじを締め込んで前記出力軸のフランジ部に押し付けるものを採用することができる(構成3)。そして、このねじによる連結機構を採用する際に、前記カム受けが前記ねじの操作を行うための開口を有するカバー部材に覆われている場合は、前記カム受けの外周に前記ねじ孔の周縁部を傾斜面の起点として周方向に延びるラチェット歯状の回転操作部を設け、前記カバー部材の外方から前記回転操作部を操作することにより、前記カバー部材の開口と前記ねじ孔の位置合わせを行えるようにするか(構成4)、あるいは、前記入力軸に連結されたモータ軸の駆動により、前記カバー部材の開口と前記ねじ孔の位置合わせを行えるようにするとよい(構成5)。
【0021】
また、前記連結機構は、上記構成3と異なる構造として、前記出力軸を前記入力軸の内部に通して入力軸の端面から突出させ、前記出力軸の入力軸端面からの突出部の外周面におねじおよび軸方向溝を設け、前記出力軸の突出部に、前記軸方向溝に挿入される突起を内周に有する環状の固定板を軸方向移動可能に外嵌し、前記おねじとねじ結合する環状の回転板を前記固定板よりも軸方向外側に装着するとともに、前記固定板を回転板に向けて付勢する弾性部材を設け、前記入力軸と固定板の互いの軸方向対向面に第3の凹凸嵌合部を設けて、前記回転板を所定方向に回転させることにより、前記回転板で固定板を弾性部材の付勢力に抗して軸方向内側へ移動させ、前記第3の凹凸嵌合部を嵌合状態として、前記固定板を介して前記出力軸を入力軸と一体回転可能に連結するものを採用することもできる(構成6)。
【0022】
また、前記入力軸と出力軸のそれぞれに回転方向隙間をもってモータ軸が連結されており、前記モータ軸と入力軸との回転隙間角度をθMI、前記モータ軸と出力軸との回転隙間角度をθMOとし、前記カム受けとスペーサとの回転隙間角度をθRS、前記偏心カムとスペーサとの回転隙間角度をθCSとするとき、θMO>θMIかつθRS≦θCSかつθCS<θMOとなるように設定されている構成を採用することもできる(構成7)。ここで、「回転隙間角度」とは、回転方向隙間の回転方向角度のことをいう(以下同じ)。
【0023】
この構成7では、モータ軸が入力軸と出力軸の両方に連結されているが、各回転隙間角度がθMI+θRS<θMO+θCSとなるように設定されているので、モータ軸が駆動されたときは、最初に入力軸およびカム受けの方からスペーサに回転が伝達されてスペーサが公転旋回し、その後にモータ軸から直接出力軸に回転が伝達されて、出力軸が回転するようになる。一方、出力軸に逆入力トルクが加えられたときは、θCS<θMOの関係から、最初に出力軸および偏心カムの方からスペーサに回転が伝達され、スペーサの公転旋回運動が妨げられることにより出力軸がロック状態となる。そして、出力軸および偏心カムを入力軸およびカム受けと一体回転可能に連結すると、出力軸に逆入力トルクが加えられたときに、θRS≦θCSの関係から、入力軸およびカム受けの方から出力軸および偏心カムの方よりも早く(または同時に)スペーサに回転が伝達されるので、出力軸はロックすることなく回転するようになる。
【0024】
また、上記構成1乃至7のいずれにおいても、上述のようにクラッチ全体の軽量化を図る場合は、前記旋回支持機構を構成する部品のうち、少なくとも1つの部品を樹脂製とするとよい(構成8)。
【0025】
そして、本発明のアクチュエータは、上記構成1乃至8のいずれかの逆入力遮断クラッチを減速機とモータの出力側の間に組み込み、前記モータの入力側に回転センサを設けたものである(構成9)。この構成では、電力を消費しないので、電磁ブレーキを組み込んだものに比べて省電力化できるし、配線がないため、ロボット等への取付けも容易に行える。また、モータと回転センサを直接接続した構造を、ブレーキのないアクチュエータと統一することもできる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の逆入力遮断クラッチは、上述したように、必要に応じて出力軸を入力軸と連結して逆入力遮断機能を解除し、逆入力トルクにより出力軸を入力軸と一体に回転させることができるようにしたものであるから、非常停止機能および駆動用動力なしで軸を動かす機能が必要とされるロボットのアクチュエータに使用することができる。そして、従来のロック式のものに比べると、部品製作時の複雑な加工がなく、製作および組立を容易に行えるし、部品の材質に樹脂等を採用してクラッチ全体の軽量化を図ることもできる。
【0027】
また、本発明のアクチュエータは、上記構成の逆入力遮断クラッチを組み込んだものであるから、電磁ブレーキを組み込んだものに比べて省電力化できるし、ロボット等への取付けも容易に行える。また、モータと回転センサを直接接続した構造を、ブレーキのないアクチュエータと統一することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】第1実施形態の逆入力遮断クラッチの縦断正面図
【
図3】aは
図1のIII-III線に沿った断面図、bはaに対応してクラッチ動作を説明する断面図
【
図4】a、bは、それぞれ
図1のIV-IV線に沿った断面における連結機構の連結作業の説明図
【
図5】
図1の旋回支持機構を変形した例を示す縦断正面図
【
図7】第1実施形態の逆入力遮断クラッチを組み込んだアクチュエータの一部縦断正面図
【
図8】第2実施形態の逆入力遮断クラッチを組み込んだアクチュエータの一部縦断正面図(逆入力遮断クラッチの入力軸と出力軸を連結した状態)
【
図9】
図8のアクチュエータの要部を拡大して示す一部縦断正面図(逆入力遮断クラッチの入力軸と出力軸が連結されてない状態)
【
図11】第3実施形態の逆入力遮断クラッチの縦断正面図
【
図13】
図11の逆入力遮断クラッチの変形例を示す縦断正面図
【
図14】
図11の逆入力遮断クラッチの別の変形例を示す縦断正面図
【
図15】第3実施形態の逆入力遮断クラッチを組み込んだアクチュエータの一部縦断正面図
【
図16】第4実施形態の逆入力遮断クラッチを組み込んだアクチュエータの一部縦断正面図
【
図18】
図17に対応してモータ軸駆動時の初期動作を説明する拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。
図1乃至
図4は第1実施形態の逆入力遮断クラッチを示す。この逆入力遮断クラッチは、
図1、
図2および
図3(a)に示すように、一端が塞がれた円筒状の入力軸1と、入力軸1の他端側のフランジ部1aに一体形成される円筒状のカム受け2と、入力軸1の内周に一端部を摺動可能に嵌め込まれる出力軸3と、出力軸3の軸方向中央部に一体形成される円筒状の偏心カム4と、カム受け2と出力軸3とを一体回転可能に連結する連結機構5と、カム受け2の内周面と偏心カム4の外周面との間に摺動可能に嵌め込まれる円筒状のスペーサ6と、偏心カム4およびスペーサ6を覆う固定部材およびカバー部材としての円筒状のハウジング7と、スペーサ6とハウジング7との間でスペーサ6を自転不能かつ公転旋回可能に支持する旋回支持機構8とで基本的に構成されている。
【0030】
入力軸1と出力軸3は同一軸線上に配されており、入力軸1と一体のカム受け2も入力軸1の軸線と同一の軸線を有している。一方、出力軸3と一体の偏心カム4は出力軸3の軸線と平行な偏心軸線を有している。そして、カム受け2には、偏心カム4と同一軸線を有し、偏心カム4およびスペーサ6が挿入される円形の偏心穴2aが形成されている。
【0031】
ハウジング7は、他端側に出力軸3の他端部を摺動自在に支持する蓋部7aを、一端側に図示省略した外部部材への取付用孔が複数あけられたフランジ部7bをそれぞれ有し、一端部の内周にはカム受け2を抜け止めし、入力軸1を摺動自在に支持する蓋9が嵌め込まれている。なお、蓋9と入力軸1との間、およびハウジング7の蓋部7aと出力軸3との間には、滑り軸受や転がり軸受を組み込んでもよい。転がり軸受を組み込めば、逆入力遮断クラッチの空転トルク(負荷しないときの回転トルク)を小さくすることができる。
【0032】
また、ハウジング7の軸方向中央部にはカム受け2と出力軸3の連結作業を行うための開口7cが周方向の一箇所に設けられ、その開口7cが開口蓋10で塞がれている。そして、このハウジング7の蓋部7aとスペーサ6の一端に設けられた内向きフランジ状の連結部6aとに軸方向で挟まれる位置には、後述するように旋回支持機構8の一部を構成する円板状の連結部材11が配されている。
【0033】
旋回支持機構8は、連結部材11とスペーサ6の連結部6aの互いの軸方向対向面に、スペーサ6の径方向に延びて互いに摺動可能に嵌合する第1の凹凸嵌合部を設けるとともに、連結部材11とハウジング7の蓋部7aの互いの軸方向対向面に、第1の凹凸嵌合部と直交する方向に延び、互いに摺動可能に嵌合する第2の凹凸嵌合部を設けたもの(オルダム軸継手のダブルスライダクランク機構に相当するもの)である。
【0034】
ここで、第1の凹凸嵌合部は、スペーサ6の連結部6aの外側面(連結部材11との軸方向対向面)に径方向に延びるように形成された凹部6bと、連結部材11の内側面(スペーサ6の連結部6aとの軸方向対向面)に形成され、スペーサ6の凹部6bに摺動可能に嵌まり込む凸部11aとからなる。
【0035】
また、第2の凹凸嵌合部は、連結部材11の外側面(ハウジング7の蓋部7aとの軸方向対向面)に内側面の凸部11aと直交する方向に延びるように形成された凸部11bと、ハウジング7の蓋部7aの内側面(連結部材11との軸方向対向面)に形成され、連結部材11の外側面の凸部11bが摺動可能に嵌まり込む凹部7dとからなる。
【0036】
この旋回支持機構8により、スペーサ6が前述のように固定部材であるハウジング7に対して自転不能かつ公転旋回可能に支持されている。なお、スペーサ6の連結部6aおよび連結部材11にはそれぞれ出力軸3を通す中心孔6c、11cがあけられており、その中心孔6c、11cは、いずれもスペーサ6が公転旋回すると同時に連結部材11が平行移動するときに出力軸3と干渉しない大きさに形成されている。
【0037】
連結機構5は、出力軸3に偏心カム4と隣接する位置でカム受け2の内側に挿入されるフランジ部3aを設け、カム受け2にその外周面から出力軸3のフランジ部3aに向かって径方向に貫通するねじ孔2bを複数設け、そのねじ孔2bにねじ込まれたねじ12を締め込んで出力軸3のフランジ部3aに押し付けることにより、カム受け2(および入力軸1)と出力軸3(および偏心カム4)とを一体回転可能に連結するものである。
【0038】
ここで、カム受け2の外周には、ねじ孔2bの周縁部を傾斜面の起点として周方向に延びるラチェット歯状の回転操作部2cが複数設けられており、この回転操作部2cを利用して後述するようにハウジング7の開口7cとカム受け2のねじ孔2bの位置合わせが行われるようになっている。
【0039】
この逆入力遮断クラッチは、上記の構成であり、通常は、
図1に示すように、連結機構5のねじ12が出力軸3のフランジ部3aと接触せず、カム受け2と出力軸3が連結されていない状態で保持されている。
【0040】
そして、
図1および
図3(a)に示す通常状態で入力軸1に左回りの入力トルクが加えられたときには、
図3(b)に示すように、入力軸1と一体にカム受け2が偶力回転し、カム受け2の偏心穴2aに摺動可能に嵌め込まれたスペーサ6が連結部材11に案内されて右方へ移動すると同時に、連結部材11がハウジング7の蓋部7aに案内されて上方へ移動することにより、スペーサ6はハウジング7に対して自転することなく左回りに公転旋回する。そして、このスペーサ6の公転旋回に伴って、スペーサ6内周に摺動可能に嵌めこまれた偏心カム4が偏心回転し、偏心カム4と一体の出力軸3が回転する。
【0041】
一方、出力軸3に逆入力トルクが加えられたときは、出力軸3と一体の偏心カム4からスペーサ6に伝達される接線力が周方向位置によって異なり、スペーサ6に移動力が発生するため、連結部材11は内側面の凸部11aがスペーサ6の凹部6bの方向と異なる方向に力を受けて摺動できなくなる。すなわち、スペーサ6は移動力の発生により公転旋回運動を妨げられ、これにより、出力軸3はロック状態となって回転せず、カム受け2および入力軸1も回転しない。
【0042】
また、非常時等には、連結機構5でカム受け2と出力軸3を連結することにより、逆入力トルクを加えて出力軸3を入力軸1と一体に回転させることもできる。すなわち、出力側から入力側を動かすことが必要となったときは、
図4(a)に示すように、ハウジング7の開口蓋10を取り外し、ハウジング7の外方からドライバー13でカム受け2の外周の回転操作部2cを操作してカム受け2を回転させ、
図4(b)に示すように、カム受け2のねじ孔2bの周方向位置をハウジング7の開口7cに合わせたうえで、ドライバー13で連結機構5のねじ12を締め込んで、ねじ12の先端部を出力軸3のフランジ部3aの外周面に押し付ける。これにより、カム受け2(および入力軸1)と出力軸3(および偏心カム4)とが一体回転可能に連結されるので、出力軸3に逆入力トルクを加えると、入力軸1に入力トルクを加えたときと同様のメカニズムで入力軸1および出力軸3が回転する。そして、非常時における作業等が完了すれば、ねじ12を緩めて出力軸3のフランジ部3aから離し(カム受け2と出力軸3の連結を解除し)、開口蓋10を取り付けて通常状態に戻しておく。なお、ねじ12は六角穴つきのものとし、六角レンチで操作するようにしてもよい。
【0043】
この逆入力遮断クラッチは、上述のように逆入力遮断機能とその逆入力遮断機能を解除する機構を備えているので、非常停止機能および駆動用動力なしで軸を動かす機能が必要とされるロボットのアクチュエータにも使用することができる。
【0044】
また、その構成は、小型のローラやばねを複数組み込んだ従来のロック式のものに比べて、製作時にカム面形成のような複雑な加工がないため、部品の製作や寸法精度の確保がしやすいし、部品点数が少なく組立も容易である。さらに、逆入力トルクに対してロックする部品すなわち旋回支持機構8を構成する各部品(スペーサ6、連結部材11、ハウジング7)に生じる面圧が小さいので、そのうちの少なくとも一つの部品の材質に樹脂や軟質金属等を採用して、クラッチ全体の軽量化を図ることもできる。
【0045】
図5および
図6は旋回支持機構8の変形例を示す。この変形例の旋回支持機構8は、第1および第2の凹凸嵌合部を構成するスペーサ6の凹部6b、連結部材11の両側面の凸部11a、11bおよびハウジング7の蓋部7aの凹部7dとして、それぞれ
図1および
図2に示したものに加えてその両側で平行に延びるものが複数形成されている。これにより、負荷トルクを受ける部位が分散されるので、各部品の材質に樹脂や軟質金属を採用して軽量化を図りやすいものとなり、各部品の材質を変えない場合はトルク負荷容量を大きくすることができる。
【0046】
さらに、この変形例では、連結部材11における内側面の各凸部11aの先端部およびスペーサ6の各凹部6b間の部位の表面部を断面三角形状に形成している。また、偏心カム4の外側面(スペーサ6の連結部6aとの軸方向対向面)、出力軸3のフランジ部3aの外側面(入力軸1のフランジ部1aとの軸方向対向面)および蓋9の内側面(カム受け2との軸方向対向面)には、それぞれの外周縁部に断面三角形状の環状突部4a、3b、9aが形成されている。これは、軸方向で対向して摺動する部位どうしの間には摩耗粉の発生を防止するための潤滑剤が配されるので、その潤滑剤によって各摺動部位が互いに吸着されることを防止するためである。その摺動部位どうしの接触面積を互いに対向する面積の50%以下とすれば、クラッチ動作をより安定したものとすることができる。
【0047】
なお、上述した第1実施形態では、出力軸3の一端部を円筒状の入力軸1の内周に摺動可能に嵌め込んで支持するようにしたが、これと逆に、出力軸の一端部を円筒状に形成して、その内周に入力軸の他端部を摺動可能に嵌め込んで支持するようにしてもよい。
【0048】
図7は、第1実施形態の逆入力遮断クラッチを変形して組み込んだアクチュエータを示す。このアクチュエータは、逆入力遮断クラッチ20を減速機21とモータ22の出力側の間に組み込み、モータ22の入力側に回転センサ(エンコーダ)23を設けたロボット用のものである。その逆入力遮断クラッチ20の構成において、上述した第1実施形態のもの(
図1乃至
図4のもの)と異なっているのは、ハウジング7に第1実施形態のようなフランジ部7bがない点、および出力軸3の一端部が入力軸1の一端から突出している点のみである。
【0049】
また、逆入力遮断クラッチ20の入力軸1はモータ22のモータ軸24にキー25で一体回転可能に連結されており、出力軸3は減速機21の入力側に連結されている。そのモータ軸24は回転センサ23を貫通しており、モータ軸24の回転センサ23からの突出部に回転板26が取り付けられている。
【0050】
このアクチュエータは、上記の構成であり、逆入力遮断クラッチ20を組み込んだことにより、電磁ブレーキを組み込んだものに比べて省電力化できるし、ロボットへの取付けも容易に行え、ロボットのコントロール性を向上させることもできる。また、摩耗粉が減速機21や回転センサ23の動作に悪影響を及ぼすおそれがないので、モータ22と回転センサ23を直接接続でき、その構造をブレーキのないアクチュエータと統一(標準化)することもできる。
【0051】
また、停電等の非常時または異常状態で、出力側からロボットを動かすために逆入力遮断クラッチ20の逆入力遮断機能を解除する、具体的な作業としては連結機構5でカム受け2と出力軸3とを連結する際には、回転板26を手動で回転操作して、モータ軸24、入力軸1およびカム受け2を一体に回転させることにより、ハウジング7の開口7cとカム受け2のねじ孔2bの位置合わせを簡単に行うことができる。
【0052】
そして、このアクチュエータを使用したロボットでは、逆入力遮断クラッチ20の逆入力遮断機能を解除することにより、ロボットアーム側からロボット全体を動かしてティーチングするダイレクトティーチング(ロボット教示方法の一つ)も可能となる。
【0053】
図8乃至
図10は、第2実施形態の逆入力遮断クラッチ30を組み込んだロボット用アクチュエータを示す。このアクチュエータの基本的な構成は、
図7に示したものと同じであり、逆入力遮断クラッチ30を減速機21とモータ22の出力側の間に組み込み、モータ22の入力側に回転センサ23を設けている。
図7に示したものと異なっているのは、逆入力遮断クラッチ30が、第1実施形態のものとは別の構成の連結機構31を採用している点、およびその連結機構31を操作するためにモータ軸24を中空としている点である。したがって、以下では、その相違点について説明し、それ以外の構成については説明を省略する。
【0054】
このアクチュエータの逆入力遮断クラッチ30は、入力軸1を一端側へ延長してモータ軸24の内部に通し、モータ軸24の端面から突出させるとともに、出力軸3を一端側へ延長して入力軸1の内部に通し、入力軸1の端面から突出させ、その入力軸1のモータ軸24端面からの突出部と出力軸3の入力軸1端面からの突出部との間に連結機構31を設けている。
【0055】
連結機構31は、出力軸3の入力軸1端面からの突出部を含む一端部の外周面におねじ3cおよび複数の軸方向溝3dを設け、その出力軸3の突出部に、軸方向溝3dに挿入される突起32aを内周に有する環状の固定板32を軸方向移動可能に外嵌し、おねじ3cとねじ結合する環状の回転板33を固定板32よりも軸方向外側に装着するとともに、モータ軸24と固定板32との間に固定板32を回転板33に向けて付勢する弾性部材としてのコイルばね34を設け、入力軸1と固定板32の互いの軸方向対向面に第3の凹凸嵌合部を設けたものである。その第3の凹凸嵌合部は、入力軸1の一端面に設けられた複数の凹部1bと、固定板32の他側面に設けられた複数の凸部32bとで構成される。また、出力軸3の一端部には回転板33を抜け止めするピン35が取り付けられている。
【0056】
そして、通常時は、
図9に示すように、回転板33が出力軸3の一端近傍に後退して、固定板32が入力軸1と接触せず、入力軸1と出力軸3が連結されていない状態で保持されている。この
図9の状態から、回転板33を所定方向に回転させると、回転板33が固定板32をコイルばね34の付勢力に抗して軸方向内側へ移動させ、固定板32の各凸部32bが入力軸1の凹部1bに嵌まり込んで(第3の凹凸嵌合部が嵌合状態となって)、固定板32を介して入力軸1と出力軸3とが一体回転可能に連結され、
図8の状態とすることができる。また、
図8の状態から、回転板33を逆方向に回転させれば、コイルばね34の付勢力によって固定板32が入力軸1から離れ(入力軸1と出力軸3の連結が解除され)、通常状態に戻る。なお、回転板33は六角ナットに変更して、六角レンチで回転操作するようにしてもよい。
【0057】
したがって、通常時は、入力トルクに対して入力軸1の回転を出力軸3に伝達し、逆入力トルクに対しては出力軸3をロックさせて入力軸1が回転しないようにし、非常時には、連結機構31で出力軸3を入力軸1と連結して、逆入力トルクが加えられたときも出力軸3をロックさせないようにする(逆入力遮断機能を解除する)ことができる。
【0058】
すなわち、この逆入力遮断クラッチ30も第1実施形態のものと同じ機能を有し、これを組み込んだアクチュエータも
図7に示したものと同様の効果を発揮することができる。
【0059】
図11および
図12は第3実施形態の逆入力遮断クラッチ40を示す。この逆入力遮断クラッチ40は、
図7に示したアクチュエータに組み込まれた第1実施形態の逆入力遮断クラッチ20をベースとして、第1実施形態よりも大径かつ中空の出力軸3を組み込むことにより、ロボットのアクチュエータに使用される場合に、その配線を出力軸3に通してロボットの外部に出さないようにできる構成としたものである。したがって、以下では、
図7の第1実施形態のものとの相違点について説明し、それ以外の構成については説明を省略する。
【0060】
この第3実施形態の逆入力遮断クラッチ40は、連結機構41の位置が第1実施形態のものと異なっている。すなわち、連結機構41は、入力軸1にその外周面から出力軸3に向かって径方向に貫通するねじ孔1cを設け、そのねじ孔1cにねじ込まれたねじ12を締め込んで出力軸3のDカット部3eの外周平坦面に押し付けることにより、入力軸1(およびカム受け2)と出力軸3(および偏心カム4)とを一体回転可能に連結するものとなっている。
【0061】
そして、上記の位置に連結機構41を設けることにより、第1実施形態の出力軸3のフランジ部3aをなくすとともに、カム受け2を第1実施形態よりも薄くして、第1実施形態よりも大径で中空の出力軸3を組み込めるようにしている。なお、連結機構41の位置の変更に伴い、第1実施形態のハウジング7の開口7cおよび開口蓋10も省略されている。
【0062】
また、この第3実施形態では、出力軸3は入力軸1を貫通しておらず、入力軸1には連結機構41のねじ孔1cと軸方向で並ぶように入力用ねじ孔1dがあけられ、その入力用ねじ孔1dにねじ込まれた入力用ねじ42の締め込みにより、入力軸1がその一端側の内周に挿入されるモータ軸等の入力用軸部材(図示省略)と一体回転可能に連結されるようになっている。さらに、第1実施形態のハウジング7に嵌め込まれた蓋9の代わりに、ハウジング7とカム受け2との間に保持器付きころ43が組み込まれて、カム受け2および入力軸1を回転自在に支持するころ軸受が形成されるとともに、ハウジング7の蓋部7aと出力軸3との間に組み込まれた転がり軸受44によって出力軸3が回転自在に支持されており、これらの点も第1実施形態とは異なっている。
【0063】
図13および
図14は、それぞれ上記
図11、12に示した逆入力遮断クラッチ40の変形例を示す。
図13の変形例は、ハウジング7とカム受け2との間だけでなく、カム受け2とスペーサ6との間、およびスペーサ6と偏心カム4との間にも保持器付きころ43を組み込んでころ軸受を形成し、入力軸1の回転がより効率よく出力軸3に伝達されるようにしたものである。
【0064】
そして、
図14の変形例は、
図13のハウジング7とカム受け2との間のころ軸受の位置およびハウジング7の蓋部7aと出力軸3との間の転がり軸受44の位置にそれぞれ玉軸受44’を組み込んで、ハウジング7に対してカム受け2および出力軸3を軸方向に位置決めすることにより、カム受け2とハウジング7、スペーサ6および出力軸3との間の軸方向スペースを確保して、摺動トルクの低減を図ったものである。
【0065】
図15は第3実施形態の逆入力遮断クラッチ40(
図11、12の例)を組み込んだロボット用アクチュエータを示す。このアクチュエータの基本的な構成は、
図7に示したものと同じであり、逆入力遮断クラッチ40を減速機21とモータ22の出力側の間に組み込み、モータ22の入力側に回転センサ23を設けている。ただし、モータ22のモータ軸24は、
図8乃至
図10に示したものと同じく、中空としている。
【0066】
逆入力遮断クラッチ40の入力軸1とモータ軸24との連結は、
図7のようなキー結合ではなく、
図11に基づいて説明したように、入力軸1の一端側内周にモータ軸24の出力側端部を挿入した状態で、入力軸1の入力用ねじ孔1dにねじ込まれた入力用ねじ42を締め込むことによって行われる。
【0067】
また、逆入力遮断クラッチ40とモータ22の間には、逆入力遮断クラッチ40の入力軸1を覆う環状のジョイント部材45が設けられており、そのジョイント部材45の周方向に複数あけられた窓45aから連結機構41のねじ12および入力用ねじ42の操作を行えるようになっている。
【0068】
連結機構41のねじ12を操作する際には、モータ軸24の回転センサ23からの突出部に取り付けられた回転板26を手動で回転操作して、モータ軸24と入力軸1を一体に回転させることにより、ジョイント部材45の窓45aと入力軸1のねじ孔1cの位置合わせを簡単に行うことができる。
【0069】
また、このアクチュエータでは、減速機21の外側面から、減速機21、逆入力遮断クラッチ40のハウジング7、ジョイント部材45およびモータ22を貫通して、回転センサ23にねじ込まれる一本のボルト46により、これらの各部材が連結されており、この点も
図7に示したものと異なっている。
【0070】
そして、前述のように、モータ軸24および逆入力遮断クラッチ40の出力軸3を中空としているので、配線をモータ軸24および出力軸3に通してロボットの外部に出さないようにすることができる。
【0071】
図16は第4実施形態の逆入力遮断クラッチ50を組み込んだロボット用アクチュエータを示す。このアクチュエータの基本的な構成は、
図15に示したものと同じであり、逆入力遮断クラッチ50を減速機21と中空のモータ軸24を有するモータ22の出力側の間に組み込み、モータ22の入力側に回転センサ23を設けている。逆入力遮断クラッチ50の入力軸1と出力軸3との連結機構41、そのねじ12の操作方法も
図15に示したものと同じである。以下、このアクチュエータの
図15に示したものとの相違点について説明する。
【0072】
このアクチュエータは、まず、逆入力遮断クラッチ50のハウジング7とカム受け2との間にころ軸受が形成されていない点、モータ軸24と逆入力遮断クラッチ50の入力軸1を連結するための入力軸1の入力用ねじ孔および入力用ねじ42が設けられていない点が、
図15に示したものと異なる。
【0073】
そして、そのモータ軸24は、逆入力遮断クラッチ50の入力軸1と出力軸3のそれぞれに回転方向隙間をもって連結されている。すなわち、
図16および
図17に示すように、モータ軸24は出力側端部の外周がDカットされ、モータ軸24の出力側端部が挿入される入力軸1の内周および出力軸3の内周には、それぞれモータ軸24の外周のカット面24aと対向する平坦な係合面1e、3fが形成されている。そして、
図17の状態からモータ軸24を駆動したときは、
図18に示すように、モータ軸24のカット面24aが出力軸3の係合面3fよりも先に入力軸1の係合面1eに係合するようになっている。言い換えると、モータ軸24と入力軸1との回転隙間角度をθ
MI、モータ軸24と出力軸3との回転隙間角度をθ
MOとするとき、θ
MO>θ
MIとなるように形成されている。
【0074】
また、図示は省略するが、カム受け2とスペーサ6との間、偏心カム4とスペーサ6との間にはそれぞれ僅かな嵌め合い隙間があり、カム受け2とスペーサ6との回転隙間角度をθRS、偏心カム4とスペーサ6との回転隙間角度をθCSとするとき、θRS≦θCSかつθCS<θMOとなるように設定されている。
【0075】
このアクチュエータでは上記のように各回転隙間角度が設定されており、モータ軸24が駆動されたときは、θMI+θRS<θMO+θCSの関係から、最初に入力軸1およびカム受け2の方からスペーサ6に回転が伝達されてスペーサ6が公転旋回し、その後にモータ軸24から直接出力軸3に回転が伝達されて、出力軸3が回転するようになる。一方、出力軸3に逆入力トルクが加えられたときは、θCS<θMOの関係から、最初に出力軸3および偏心カム4の方からスペーサ6に回転が伝達され、スペーサ6の公転旋回運動が妨げられることにより出力軸3がロック状態となる。そして、連結機構41のねじ12を操作して、出力軸3および偏心カム4を入力軸1およびカム受け2と一体回転可能に連結すると、出力軸3に逆入力トルクが加えられたときに、θRS≦θCSの関係から、入力軸1およびカム受け2の方から出力軸3および偏心カム4の方よりも早く(または同時に)スペーサ6に回転が伝達されるので、出力軸3はロックすることなく回転するようになる。
【0076】
なお、図示は省略するが、
図15に示した入力軸1の入力用ねじ孔と入力用ねじ42を設けて、モータ軸24を回転方向隙間なく入力軸1と連結した場合は、上記の回転隙間角度の大小関係をθ
MI=0として設計すればよい。
【0077】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0078】
例えば、第1乃至第3の凹凸嵌合部は、それぞれその凹部と凸部を実施形態と逆に設けるようにしてもよい。
【0079】
また、逆入力遮断クラッチの連結機構は、上述した各実施形態のものに限らず、出力軸および偏心カムを入力軸およびカム受けと一体回転可能に連結する機能を有しているものであればよい。
【符号の説明】
【0080】
1 入力軸
1c ねじ孔
1e 係合面
2 カム受け
2a 偏心穴
2b ねじ孔
2c 回転操作部
3 出力軸
3a フランジ部
3c おねじ
3d 軸方向溝
3e Dカット部
3f 係合面
4 偏心カム
5 連結機構
6 スペーサ
6a 連結部
7 ハウジング(固定部材、カバー部材)
7c 開口
8 旋回支持機構
9 蓋
10 開口蓋
11 連結部材
12 ねじ
20 逆入力遮断クラッチ
21 減速機
22 モータ
23 回転センサ
24 モータ軸
24a カット面
30 逆入力遮断クラッチ
31 連結機構
32 固定板
32a 突起
33 回転板
34 コイルばね(弾性部材)
40 逆入力遮断クラッチ
41 連結機構
45 ジョイント部材
45a 窓