(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039178
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】液体噴射装置および液体噴射ヘッドのメンテナンス方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/165 20060101AFI20240314BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240314BHJP
B41J 2/175 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
B41J2/165 205
B41J2/01 401
B41J2/165 301
B41J2/165 207
B41J2/175 501
B41J2/175 171
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143534
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】平田 嵩貴
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 友之
(72)【発明者】
【氏名】花岡 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】勝家 隼
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA12
2C056EA15
2C056EB20
2C056EB34
2C056EC15
2C056EC32
2C056EC37
2C056EC54
2C056EC56
2C056EC62
2C056FA04
2C056FA10
2C056HA05
2C056HA22
2C056JA01
2C056JB02
2C056JB04
2C056JC23
2C056KA01
2C056KB08
2C056KC02
2C056KC16
(57)【要約】
【課題】排出処理において、無駄に消費される液体の量を低減する。
【解決手段】液体噴射装置は、第1液体を噴射する第1ノズル列を有する液体噴射ヘッドと、第1液体を貯留する第1タンクと、第1タンクから第1ノズル列へ第1液体を供給するための第1供給流路と、第1供給流路の途中に設けられ、第1供給流路を開閉可能な第1開閉弁と、第1タンク内を加圧可能な第1加圧機構と、を備え、第1開閉弁が閉状態で第1加圧機構を駆動させることにより第1タンク内の圧力を所定の正圧とした後、第1開閉弁を開状態とすることにより第1ノズル列から第1液体を排出させる排出処理を実行可能であり、排出処理は、第1ノズル列から第1液体が排出されている最中のタイミングで第1開閉弁を開状態から閉状態へ切り替える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1液体を噴射する第1ノズル列を有する液体噴射ヘッドと、
前記第1ノズル列に供給される第1液体を貯留する第1タンクと、
前記第1タンクから前記第1ノズル列へ第1液体を供給するための第1供給流路と、
前記第1供給流路の途中に設けられ、前記第1供給流路を開閉可能な第1開閉弁と、
前記第1タンク内を加圧可能な第1加圧機構と、を備え、
前記第1開閉弁が閉状態で前記第1加圧機構を駆動させることにより前記第1タンク内の圧力を所定の正圧とした後、前記第1開閉弁を開状態とすることにより前記第1ノズル列から第1液体を排出させる排出処理を実行可能であり、
前記排出処理は、前記第1ノズル列から第1液体が排出されている最中のタイミングで前記第1開閉弁を開状態から閉状態へ切り替える、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記所定の正圧を第1圧力とし、
前記第1タンク内の圧力を前記第1圧力とした後に前記第1タンク内の圧力が略一定となるまで前記第1開閉弁を開状態とした場合における前記第1タンク内の圧力を第2圧力とし、
前記第1圧力と前記第2圧力との間の圧力を第3圧力としたとき、
前記排出処理は、前記第1タンク内の圧力が前記第3圧力となるタイミングで前記第1開閉弁を開状態から閉状態へ切り替える、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記所定の正圧を第1圧力とし、
前記第1タンク内の圧力を前記第1圧力とした後に前記第1タンク内の圧力が略一定となるまで前記第1開閉弁を開状態とした場合における、前記第1開閉弁を開状態としてから前記第1タンク内の圧力が略一定となるまでに要する時間長さを第1時間長さとし、
前記第1時間長さよりも短い時間長さを第2時間長さとしたとき、
前記排出処理は、前記第1開閉弁を開状態としてから前記第2時間長さを経過したタイミングで前記第1開閉弁を開状態から閉状態へ切り替える、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記第2時間長さは、前記第1時間長さの半分以下である、
ことを特徴とする請求項3に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記液体噴射ヘッドに第1液体が充填されていない状態で前記排出処理を実行開始する充填処理、および、前記液体噴射ヘッドに第1液体が充填されている状態で前記排出処理を実行開始するクリーニング処理のうちの一方または両方を実行可能である、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項6】
前記充填処理および前記クリーニング処理の両方を実行可能であり、
前記クリーニング処理における前記所定の正圧は、前記充填処理における前記所定の正圧よりも小さい、
ことを特徴とする請求項5に記載の液体噴射装置。
【請求項7】
前記充填処理および前記クリーニング処理の両方を実行可能であり、
前記クリーニング処理における前記第1開閉弁を開状態としてから閉状態とするまでの時間長さは、前記充填処理における前記第1開閉弁を開状態としてから閉状態とするまでの時間長さよりも短い、
ことを特徴とする請求項5に記載の液体噴射装置。
【請求項8】
前記第1タンク内を大気開放させるために開閉可能な第1大気開放弁を備え、
前記排出処理は、前記第1大気開放弁が閉状態で前記第1加圧機構を駆動させることにより前記第1タンク内を前記所定の正圧に加圧する、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項9】
前記排出処理は、前記第1開閉弁を閉状態から開状態へ切り替える前に、前記第1加圧機構を停止させる、
ことを特徴とする請求項8に記載の液体噴射装置。
【請求項10】
前記液体噴射ヘッドは、前記第1ノズル列と、第1液体とは異なる種類の第2液体を噴射する第2ノズル列と、を含む噴射面を有し、
液体噴射装置は、
前記第2ノズル列に供給される第2液体を貯留する第2タンクと、
前記第2タンクから前記第2ノズル列へ第2液体を供給するための第2供給流路と、
前記第2供給流路の途中に設けられ、前記第2供給流路を開閉可能な第2開閉弁と、
前記第2タンク内を加圧可能な第2加圧機構と、を備え、
前記排出処理は、前記第2開閉弁が閉状態で前記第2加圧機構を駆動させることにより前記第2タンク内の圧力を所定の正圧とした後、前記第2開閉弁を開状態とすることにより前記第2ノズル列から第2液体を排出させ、
前記排出処理は、前記第2ノズル列から第2液体が排出されている最中のタイミングで前記第2開閉弁を開状態から閉状態へ切り替え、
前記排出処理において、前記第1開閉弁の開状態を維持する期間と前記第2開閉弁の開状態を維持する期間との少なくとも一部が互いに重なる、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項11】
前記排出処理において、前記第1開閉弁を閉状態から開状態へ切り替えるタイミングと前記第2開閉弁を閉状態から開状態へ切り替えるタイミングとが互いに同一のタイミングであり、かつ、前記第1開閉弁を開状態から閉状態に切り替えるタイミングと前記第2開閉弁を開状態から閉状態へ切り替えるタイミングとが互いに同一のタイミングである、
ことを特徴とする請求項10に記載の液体噴射装置。
【請求項12】
前記噴射面を払拭する払拭部材をさらに備え、
前記排出処理の後に、前記第1開閉弁および前記第2開閉弁の双方を閉状態とした期間中に前記噴射面を前記払拭部材によって払拭する払拭動作を実行する、
ことを特徴とする請求項10に記載の液体噴射装置。
【請求項13】
前記第1タンク内を大気開放させるために開閉可能な第1大気開放弁と、
前記第2タンク内を大気開放させるために開閉可能な第2大気開放弁と、をさらに備え、
前記排出処理において前記第1開閉弁および前記第2開閉弁の双方を閉状態とした後、かつ、前記払拭動作の実行後に前記第1開閉弁および前記第2開閉弁の少なくとも一方を開状態とする前のタイミングで、前記第1大気開放弁および前記第2大気開放弁の双方を閉状態から開状態へ切り替える、
ことを特徴とする請求項12に記載の液体噴射装置。
【請求項14】
前記払拭動作の実行期間中、または、前記払拭動作の実行前に、前記第1大気開放弁および前記第2大気開放弁を閉状態から開状態へ切り替える、
ことを特徴とする請求項13に記載の液体噴射装置。
【請求項15】
前記第1ノズル列は、複数のノズルで構成され、
前記液体噴射ヘッドは、前記複数のノズルにノズルごとに連通する複数の圧力室を有し、
前記払拭動作の実行後に、フラッシング動作を実行し、
前記複数のノズルのうちの1つのノズルから前記フラッシング動作によって噴射される第1液体の総量は、前記複数の圧力室のうち当該1つのノズルに連通する圧力室の体積以下である、
ことを特徴とする請求項12に記載の液体噴射装置。
【請求項16】
前記第1ノズル列から噴射される第1液体と前記第2ノズル列から噴射される第2液体とのそれぞれは、細胞、DNAおよびタンパク質のうちの少なくとも1つを含む液体である、
ことを特徴とする請求項11に記載の液体噴射装置。
【請求項17】
前記第1ノズル列および前記第2ノズル列は、互いに同じノズルプレートに設けられる、
ことを特徴とする請求項16に記載の液体噴射装置。
【請求項18】
前記第1ノズル列と前記第2ノズル列とのノズル間の最短距離は、1.5mm以下である、
ことを特徴とする請求項17に記載の液体噴射装置。
【請求項19】
第1液体を噴射する第1ノズル列を有する液体噴射ヘッドのメンテナンス方法であって、
前記第1ノズル列に供給される第1液体を貯留する第1タンクから前記第1ノズル列へ第1液体を供給するための第1供給流路を閉塞させた状態で、前記第1タンク内を加圧する加圧工程と、
前記加圧工程の後、前記第1供給流路を開放させることにより前記第1ノズル列から第1液体を排出させる開放工程と、
前記開放工程によって前記第1ノズル列から第1液体が排出されている最中のタイミングで前記第1供給流路を閉塞させる閉鎖工程と、を含む、
ことを特徴とする液体噴射ヘッドのメンテナンス方法。
【請求項20】
前記液体噴射ヘッドは、前記第1ノズル列と、第1液体とは異なる種類の第2液体を噴射する第2ノズル列と、を含む噴射面を有し、
前記加圧工程は、前記第2ノズル列に供給される第2液体を貯留する第2タンクから前記第2ノズル列へ第2液体を供給するための第2供給流路を閉塞させた状態で、前記第2タンク内を加圧し、
前記開放工程は、前記第2供給流路を開放させることにより前記第2ノズル列から第2液体を排出させ、
前記閉鎖工程は、前記開放工程によって前記第2ノズル列から第2液体が排出されている最中のタイミングで前記第2供給流路を閉塞させ、
前記開放工程において、前記第1供給流路を開放させた状態を維持する期間と前記第2供給流路を開放させた状態を維持する期間との少なくとも一部が互いに重なる、
ことを特徴とする請求項19に記載の液体噴射ヘッドのメンテナンス方法。
【請求項21】
前記閉鎖工程の後に、前記第1供給流路および前記第2供給流路の双方を閉塞させた状態で前記噴射面を払拭部材によって払拭する払拭工程をさらに含む、
ことを特徴とする請求項20に記載の液体噴射ヘッドのメンテナンス方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体噴射装置および液体噴射ヘッドのメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式のプリンターに代表される液体噴射装置は、一般に、インク等の液体を噴射する複数のノズルを有する液体噴射ヘッドを備える。このような液体噴射装置では、例えば、特許文献1に開示されるように、液体噴射ヘッド内に液体が充填されていない状態または液体噴射ヘッドに異常が生じた際に、加圧機構を駆動させることで供給流路を加圧し、タンクから液体噴射ヘッドへ液体を供給する充填処理又はクリーニング処理を行う場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のように、供給流路を加圧することで充填処理又はクリーニング処理を行う場合に、液体が無駄に消費されてしまう虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するため、本開示の液体噴射装置の一態様は、第1液体を噴射する第1ノズル列を有する液体噴射ヘッドと、前記第1ノズル列に供給される第1液体を貯留する第1タンクと、前記第1タンクから前記第1ノズル列へ第1液体を供給するための第1供給流路と、前記第1供給流路の途中に設けられ、前記第1供給流路を開閉可能な第1開閉弁と、前記第1タンク内を加圧可能な第1加圧機構と、を備え、前記第1開閉弁が閉状態で前記第1加圧機構を駆動させることにより前記第1タンク内の圧力を所定の正圧とした後、前記第1開閉弁を開状態とすることにより前記第1ノズル列から第1液体を排出させる排出処理を実行可能であり、前記排出処理は、前記第1ノズル列から第1液体が排出されている最中のタイミングで前記第1開閉弁を開状態から閉状態へ切り替える。
【0006】
本開示の液体噴射ヘッドのメンテナンス方法の一態様は、第1液体を噴射する第1ノズル列を有する液体噴射ヘッドのメンテナンス方法であって、前記第1ノズル列に供給される第1液体を貯留する第1タンクから前記第1ノズル列へ第1液体を供給するための第1供給流路を閉塞させた状態で、前記第1タンク内を加圧する加圧工程と、前記加圧工程の後、前記第1供給流路を開放させることにより前記第1ノズル列から第1液体を排出させる開放工程と、前記開放工程によって前記第1ノズル列から第1液体が排出されている最中のタイミングで前記第1供給流路を閉塞させる閉鎖工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態に係る液体噴射装置の構成例を示す概略図である。
【
図2】液体噴射ヘッドのヘッドチップの断面図である。
【
図3】第1実施形態の液体供給機構の模式図である。
【
図4】第1実施形態に係る液体噴射ヘッドのメンテナンス方法のフローチャートである。
【
図5】第1実施形態に係る液体噴射ヘッドのメンテナンス方法のタイミングチャートである。
【
図6】第2実施形態の液体供給機構の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照しながら本開示に係る好適な実施形態を説明する。なお、図面において各部の寸法および縮尺は実際と適宜に異なり、理解を容易にするために模式的に示している部分もある。また、本開示の範囲は、以下の説明において特に本開示を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られない。
【0009】
なお、以下では、説明の便宜上、互いに交差するX軸、Y軸およびZ軸が適宜に用いられる。また、以下では、X軸に沿う一方向がX1方向であり、X1方向と反対の方向がX2方向である。同様に、Y軸に沿って互いに反対の方向がY1方向およびY2方向である。また、Z軸に沿って互いに反対の方向がZ1方向およびZ2方向である。
【0010】
ここで、典型的には、Z軸が鉛直な軸であり、Z2方向が鉛直方向での下方向に相当する。ただし、Z軸は、鉛直な軸でなくともよい。また、X軸、Y軸およびZ軸は、典型的には互いに直交するが、これに限定されず、例えば、80°以上100°以下の範囲内の角度で交差すればよい。
【0011】
1.第1実施形態
1-1.液体噴射装置の概略構成
図1は、第1実施形態に係る液体噴射装置100の構成例を示す概略図である。液体噴射装置100は、「液体」の一例であるインクを液滴として媒体Mに噴射するインクジェット方式の印刷装置である。媒体Mは、典型的には印刷用紙である。なお、媒体Mは、印刷用紙に限定されず、例えば、樹脂フィルムまたは布帛等の任意の材質の印刷対象でもよい。
【0012】
図1に示すように、液体噴射装置100は、液体供給機構10と、制御ユニット20と、搬送機構30と、移動機構40と、液体噴射ヘッド50と、メンテナンス機構60と、を備える。以下、
図1に基づいて、これらを順に簡単に説明する。
【0013】
液体供給機構10は、インクを液体噴射ヘッド50に供給する。
図1に示す例では、液体供給機構10は、第1供給流路SJ_1を介して、第1液体をインクとして液体噴射ヘッド50に供給するとともに、第2供給流路SJ_2を介して、第1液体とは種類の異なる第2液体をインクとして液体噴射ヘッド50に供給する。第1供給流路SJ_1および第2供給流路SJ_2のそれぞれは、例えば、可撓性を有するチューブで構成される。
【0014】
液体供給機構10は、第1液体を貯留する第1タンク11_1と、第2液体を貯留する第2タンク11_2と、を有する。第1タンク11_1および第2タンク11_2のそれぞれの具体的な態様としては、例えば、液体噴射装置100に着脱可能なカートリッジ、可撓性のフィルムで構成される袋状のインクパック、および、インクを補充可能なインクタンク等が挙げられる。液体供給機構10の詳細については、後に
図3に基づいて説明する。
【0015】
なお、第1タンク11_1および第2タンク11_2のそれぞれは、メインタンクからインクの供給を受けるサブタンクであってもよい。この場合、例えば、メインタンクとサブタンクとの間には、開閉弁が設けられ、後述の排出処理時には、当該開閉弁を閉じておくことが好ましい。
【0016】
第1液体および第2液体のそれぞれは、特に限定されず、例えば、生体材料または生体適合材料を溶媒に溶解または分散媒に分散させたバイオ系インクでもよいし、染料または顔料等の色材を水系溶媒に溶解させた水系インクでもよいし、色材を有機溶剤に溶解させた溶剤系インクでもよいし、紫外線硬化型インクでもよいし、クリアインク、ホワイトインクまたは処理液でもよい。バイオ系インクは、例えば、生体材料または生体適合材料として、細胞、DNAおよびタンパク質のうちの少なくとも1つを含む液体である。クリアインクは、色材を含有せず、色材により印刷された印刷面をオーバーコートすることにより、印刷面の耐擦過性を向上させたり、顔料成分による凹凸を低減させて乱反射による色味ズレを低減させたりするためのインクである。ホワイトインクは、白色顔料等を含有し、媒体Mの汚れ等による非白色性を低減させるためのインクである。処理液は、色材インクに含まれる成分との反応性を有し、媒体M上で色材インクと接触することにより色材インクの定着性等を高めるためのインクである。なお、以下では、第1液体および第2液体のそれぞれをインクという場合がある。
【0017】
制御ユニット20は、例えば、CPU(Central Processing Unit)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)等の処理回路と半導体メモリー等の記憶回路とを含み、液体噴射装置100の各要素の動作を制御する。
【0018】
搬送機構30は、制御ユニット20による制御のもとで、媒体MをY1方向に搬送する。移動機構40は、制御ユニット20による制御のもとで、複数の液体噴射ヘッド50をX1方向とX2方向とに往復させる。
図1に示す例では、移動機構40は、液体噴射ヘッド50を収容するキャリッジと称される略箱型の搬送体41と、搬送体41が固定される搬送ベルト42と、を有する。なお、搬送体41には、複数の液体噴射ヘッド50のほかに、液体供給機構10の一部が搭載されてもよい。
【0019】
液体噴射ヘッド50は、制御ユニット20による制御のもとで、液体供給機構10から供給されるインクを複数のノズルNのそれぞれからZ2方向に媒体Mに噴射する。この噴射が搬送機構30による媒体Mの搬送と移動機構40による液体噴射ヘッド50の往復移動とに並行して行われることにより、媒体Mの表面にインクによる画像が形成される。
【0020】
ここで、液体噴射ヘッド50には、制御ユニット20から、液体噴射ヘッド50を駆動するための駆動信号Comと、液体噴射ヘッド50の駆動を制御するための制御信号SIと、が供給される。制御信号SIは、液体噴射ヘッド50の後述の駆動素子51fに対して駆動信号Comを供給するか否かを指定するための信号であり、画像データImgに基づいて生成される。画像データImgは、画像を示す情報であり、パーソナルコンピューターまたはデジタルカメラ等のホストコンピューターから制御ユニット20に供給される。
【0021】
図1に示す例では、液体噴射ヘッド50は、複数のヘッドチップ51を有する。当該複数のヘッドチップ51のそれぞれは、第1供給流路SJ_1および第2供給流路SJ_2を介して、液体供給機構10に接続される。ヘッドチップ51の詳細については、後に
図2に基づいて説明する。なお、液体噴射ヘッド50の有するヘッドチップ51の数は、
図1に示す例に限定されず、任意であり、単数であってもよい。
【0022】
メンテナンス機構60は、液体噴射ヘッド50のメンテナンスを行うための機構である。
図1に示す例では、メンテナンス機構60が払拭部材61と液体受容部材62とを有する。
【0023】
払拭部材61は、液体噴射ヘッド50の噴射面FNを払拭するための部材である。払拭部材61は、例えば、ゴム等で構成されるブレード状の弾性部材であるか、または、織物または不織布等の繊維材またはスポンジ等の多孔質部材である。ノズルN内のインクの汚染を好適に低減する観点から、払拭部材61は、多孔質部材であることが好ましい。
【0024】
払拭部材61は、媒体Mの搬送路から媒体Mの幅方向(X2方向)に外れた位置に配置されている。払拭部材61を液体噴射ヘッド50の噴射面FNに接触させた状態で、噴射面FNに対して払拭部材61をX軸に沿う方向に相対的に移動させることにより、払拭部材61は噴射面FNの付着物を拭き取る。当該外れた位置は、例えば、液体噴射ヘッド50の往復動の一方の端点であり、ホームポジションとも称される。当該付着物の典型例は、インクまたは紙粉等である。
【0025】
図1に示す例では、移動機構40が液体噴射ヘッド50をX軸に沿う方向に移動させることにより、払拭部材61が噴射面FNに対してX軸に沿う方向に相対的に移動する。なお、払拭部材61を噴射面FNに対してX軸に沿う方向に相対的に移動させることができればよく、例えば、払拭部材61がX軸に沿う方向に移動可能に構成されてもよい。また、払拭部材61がZ軸に沿う方向に移動可能に構成されてもよい。
【0026】
液体受容部材62は、ホームポジションに位置する液体噴射ヘッド50から噴射される液体を廃液として受容する。液体受容部材62は、例えば、液体を吸収可能な繊維材またはスポンジ等の吸収体で構成されていてもよし、噴射面FNに向かって開口する凹部状の容器であってもよい。
【0027】
なお、メンテナンス機構60は、
図1に示す例に限定されず、例えば、払拭部材61および液体受容部材62以外の構成を有してもよい。例えば、メンテナンス機構60は、噴射面FNを覆うキャップ機構を有してもよい。
【0028】
1-2.ヘッドチップの構成
図2は、液体噴射ヘッド50のヘッドチップ51の断面図である。
図2に示すように、ヘッドチップ51は、Y軸に沿う方向に配列される複数のノズルNを有する。当該複数のノズルNは、X軸に沿う方向に互いに間隔をあけて並ぶ第1ノズル列LN1と第2ノズル列LN2とに区分される。第1ノズル列LN1および第2ノズル列LN2のそれぞれは、Y軸に沿う方向に直線状に配列される複数のノズルNの集合である。ただし、第1ノズル列LN1は、第1液体を噴射し、一方、第2ノズル列LN2は、第2液体を噴射する。なお、以下では、第1ノズル列LN1および第2ノズル列LN2のそれぞれをノズル列LNという場合がある。
【0029】
ヘッドチップ51は、X軸に沿う方向で互いに略対称な構成である。ただし、第1ノズル列LN1の複数のノズルNと第2ノズル列LN2の複数のノズルNとのY軸に沿う方向での位置は、互いに一致してもよいし異なってもよい。
図2では、第1ノズル列LN1の複数のノズルNと第2ノズル列LN2の複数のノズルNとのY軸に沿う方向での位置が互いに一致する構成が例示される。
【0030】
図2に示すように、ヘッドチップ51は、流路基板51aと圧力室基板51bとノズルプレート51cと吸振体51dと振動板51eと複数の駆動素子51fと保護板51gとケース51hと配線基板51iとを有する。
【0031】
流路基板51aおよび圧力室基板51bは、この順でZ1方向に積層されており、複数のノズルNにインクを供給するための流路を形成する。流路基板51aおよび圧力室基板51bからなる積層体よりもZ1方向に位置する領域には、振動板51eと複数の駆動素子51fと保護板51gとケース51hと配線基板51iとが設置される。他方、当該積層体よりもZ2方向に位置する領域には、ノズルプレート51cと吸振体51dとが設置される。ヘッドチップ51の各要素は、概略的にはY方向に長尺な板状部材であり、例えば接着剤により、互いに接合される。以下、ヘッドチップ51の各要素を順に説明する。
【0032】
ノズルプレート51cは、第1ノズル列LN1および第2ノズル列LN2のそれぞれの複数のノズルNが設けられた板状部材である。複数のノズルNのそれぞれは、インクを通過させる貫通孔である。ここで、ノズルプレート51cのZ2方向を向く面が噴射面FNである。ノズルプレート51cは、例えば、ドライエッチングまたはウェットエッチング等の加工技術を用いる半導体製造技術によりシリコン単結晶基板を加工することにより製造される。ただし、ノズルプレート51cの製造には、他の公知の方法および材料が適宜に用いられてもよい。また、ノズルの断面形状は、典型的には円形状であるが、これに限定されず、例えば、多角形または楕円形等の非円形状であってもよい。
【0033】
流路基板51aには、第1ノズル列LN1および第2ノズル列LN2のそれぞれについて、空間R1と複数の個別流路Raと複数の連通流路Naとが設けられる。空間R1は、Z軸に沿う方向でみた平面視で、Y軸に沿う方向に延びる長尺状の開口である。個別流路Raおよび連通流路Naのそれぞれは、ノズルNごとに形成された貫通孔である。各個別流路Raは、空間R1に連通する。
【0034】
圧力室基板51bは、第1ノズル列LN1および第2ノズル列LN2のそれぞれについて、キャビティと称される複数の圧力室Cが設けられた板状部材である。複数の圧力室Cは、Y軸に沿う方向に配列される。各圧力室Cは、ノズルNごとに形成され、平面視でX軸に沿う方向に延びる長尺状の空間である。流路基板51aおよび圧力室基板51bそれぞれは、前述のノズルプレート51cと同様に、例えば、半導体製造技術によりシリコン単結晶基板を加工することにより製造される。ただし、流路基板51aおよび圧力室基板51bのそれぞれの製造には、他の公知の方法および材料が適宜に用いられてもよい。
【0035】
圧力室Cは、流路基板51aと振動板51eとの間に位置する空間である。第1ノズル列LN1および第2ノズル列LN2のそれぞれについて、複数の圧力室CがY軸に沿う方向に配列される。また、圧力室Cは、連通流路Naおよび個別流路Raのそれぞれに連通する。したがって、圧力室Cは、連通流路Naを介してノズルNに連通し、かつ、個別流路Raを介して空間R1に連通する。
【0036】
圧力室基板51bのZ1方向を向く面には、振動板51eが配置される。振動板51eは、弾性的に振動可能な板状部材である。振動板51eは、例えば、酸化シリコン(SiO2)で構成される弾性膜と、酸化ジルコニウム(ZrO2)で構成される絶縁膜と、を有し、これらがこの順でZ1方向に積層される。当該弾性膜は、例えば、シリコン単結晶基板の一方の面を熱酸化することにより形成される。当該絶縁膜は、例えば、スパッタ法によりジルコニウムの層を形成し、当該層を熱酸化することにより形成される。なお、振動板51eは、前述の弾性膜および絶縁膜の積層による構成に限定されず、例えば、単層で構成されてもよいし、3層以上で構成されてもよい。
【0037】
振動板51eのZ1方向を向く面には、第1ノズル列LN1および第2ノズル列LN2のそれぞれについて、互いにノズルNに対応する複数の駆動素子51fが配置される。各駆動素子51fは、駆動信号の供給により変形する受動素子である。各駆動素子51fは、平面視でX軸に沿う方向に延びる長尺状をなす。複数の駆動素子51fは、複数の圧力室Cに対応するようにY軸に沿う方向に配列される。駆動素子51fは、平面視で圧力室Cに重なる。
【0038】
各駆動素子51fは、圧電素子であり、図示しないが、第1電極と圧電体層と第2電極とを有し、この順でこれらがZ1方向に積層される。第1電極および第2電極のうちの一方の電極は、駆動素子51fごとに互いに離間して配置される個別電極であり、当該一方の電極には、駆動信号Comが供給される。第1電極および第2電極のうちの他方の電極は、複数の駆動素子51fにわたり連続するようにY軸に沿う方向に延びる帯状の共通電極であり、当該他方の電極には、例えば、定電位が供給される。これらの電極の金属材料としては、例えば、白金(Pt)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、金(Au)、銅(Cu)等の金属材料が挙げられ、これらのうち、1種を単独でまたは2種以上を合金または積層等の態様で組み合わせて用いることができる。圧電体層は、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)等の圧電材料で構成されており、例えば、複数の駆動素子51fにわたり連続するようにY軸に沿う方向に延びる帯状をなす。ただし、圧電体層は、複数の駆動素子51fにわたり一体でもよい。この場合、圧電体層には、互いに隣り合う各圧力室Cの間隙に平面視で対応する領域に、当該圧電体層を貫通する貫通孔がX軸に沿う方向に延びて設けられる。以上の駆動素子51fの変形に連動して振動板51eが振動すると、圧力室C内の圧力が変動することで、インクがノズルNから噴射される。
【0039】
保護板51gは、振動板51eのZ1方向を向く面に設置される板状部材であり、複数の駆動素子51fを保護するとともに振動板51eの機械的な強度を補強する。ここで、保護板51gと振動板51eとの間には、複数の駆動素子51fが収容される。保護板51gは、例えば、樹脂材料で構成される。
【0040】
ケース51hは、複数の圧力室Cに供給されるインクを貯留するための部材である。ケース51hは、例えば、樹脂材料で構成される。ケース51hには、第1ノズル列LN1および第2ノズル列LN2のそれぞれについて、空間R2が設けられる。空間R2は、前述の空間R1に連通する空間であり、空間R1とともに、複数の圧力室Cに供給されるインクを貯留するリザーバーRとして機能する。ケース51hには、各リザーバーRにインクを供給するための導入口IHが設けられる。各リザーバーR内のインクは、各個別流路Raを介して圧力室Cに供給される。
【0041】
ここで、第1ノズル列LN1に対応する導入口IHは、第1供給流路SJ_1に連通する。このため、第1ノズル列LN1には、第1液体がインクとして供給される。一方、第2ノズル列LN2に対応する導入口IHは、第2供給流路SJ_2に連通する。このため、第2ノズル列LN2には、第2液体がインクとして供給される。なお、第1供給流路SJ_1および第2供給流路SJ_2のそれぞれの一部が、液体噴射ヘッド50の一部により構成されてもよい。具体的には、第1供給流路SJ_1及び第2供給流路SJ_2のそれぞれは、液体噴射ヘッド50の導入口IHおよびリザーバーRを含んでいてもよい。つまり、第1供給流路SJ_1は、第1タンク11_1から複数の個別流路Raまでの流路として構成されていてもよい。同様に、第2供給流路SJ_2は、第2タンク11_2から複数の個別流路Raまでの流路として構成されていてもよい。
【0042】
吸振体51dは、コンプライアンス基板とも称され、リザーバーRの壁面を構成する可撓性の樹脂フィルムであり、リザーバーR内のインクの圧力変動を吸収する。なお、吸振体51dは、金属製の可撓性を有する薄板であってもよい。吸振体51dのZ1方向を向く面は、流路基板51aに接着剤等により接合される。
【0043】
配線基板51iは、振動板51eのZ1方向を向く面に実装されており、ヘッドチップ51と駆動回路51jおよび制御ユニット20等とを電気的に接続するための実装部品である。配線基板51iは、例えば、COF(Chip On Film)、FPC(Flexible Printed Circuit)またはFFC(Flexible Flat Cable)等の可撓性の配線基板である。本実施形態の配線基板51iには、駆動回路51jが実装される。駆動回路51jは、制御信号SIに基づいて、駆動信号Comに含まれる波形のうちの少なくとも一部を駆動パルスとして駆動素子51fに供給するか否かを切り替えるスイッチング素子を含む回路である。
【0044】
以上のヘッドチップ51では、駆動信号Comにより駆動素子51fが駆動することにより、圧力室Cの圧力が変動し、その変動に伴ってノズルNからインクが噴射される。ここで、第1液体が第1ノズル列LN1から噴射されるのに対し、第1液体とは種類の異なる第2液体が第2ノズル列LN2から噴射される。
【0045】
ここで、第1ノズル列LN1と前記第2ノズル列LN2とのノズル間の最短距離Dnは、特に限定されないが、例えば、1.5mm以下である。なお、第1ノズル列LN1と前記第2ノズル列LN2とのノズル間の最短距離Dnとは、第1ノズル列LN1と第2ノズル列LN2との並び方向(本実施形態ではX方向)に関する第1ノズル列LN1と第2ノズル列LN2との距離である。
【0046】
1-3.液体供給機構の構成
図3は、第1実施形態の液体供給機構10の模式図である。
図3では、液体供給機構10の構成要素のうち、任意の1組の第1ノズル列LN1および第2ノズル列LN2に対応する構成要素が模式的に示される。なお、他の組の第1ノズル列LN1および第2ノズル列LN2に対応する構成要素は、当該任意の1組の第1ノズル列LN1および第2ノズル列LN2に対応する構成要素と同様に構成される。これらの構成要素は、同時に動作制御されてもよいし、独立に動作制御されてもよい。
【0047】
図3に示すように、液体供給機構10は、前述の第1タンク11_1および第2タンク11_2のほか、第1開閉弁12_1と第2開閉弁12_2と第1加圧機構13_1と第2加圧機構13_2と第1圧力センサー14_1と第2圧力センサー14_2と第1大気開放弁15_1と第2大気開放弁15_2とを有する。
【0048】
第1開閉弁12_1は、第1供給流路SJ_1の途中に設けられ、制御ユニット20による制御のもとで、第1供給流路SJ_1を開閉可能な弁機構である。一方、第2開閉弁12_2は、第2供給流路SJ_2の途中に設けられ、制御ユニット20による制御のもとで、第2供給流路SJ_2を開閉可能な弁機構である。第1開閉弁12_1および第2開閉弁12_2のそれぞれは、例えば、電磁弁、ダイアフラム弁またはニードルバルブ等である。
【0049】
ここで、第1供給流路SJ_1は、第1タンク11_1から第1ノズル列LN1へ第1液体を供給するための流路である。したがって、第1開閉弁12_1の開状態では、第1供給流路SJ_1が開放した状態であり、第1タンク11_1から第1ノズル列LN1への第1液体の供給が許容される。一方、第1開閉弁12_1の閉状態では、第1供給流路SJ_1が閉塞した状態であり、第1タンク11_1から第1ノズル列LN1への第1液体の供給が許容されない。
【0050】
同様に、第2供給流路SJ_2は、第2タンク11_2から第2ノズル列LN2へ第2液体を供給するための流路である。したがって、第2開閉弁12_2の開状態では、第2供給流路SJ_2が開放した状態であり、第2タンク11_2から第2ノズル列LN2への第2液体の供給が許容される。一方、第2開閉弁12_2の閉状態では、第2供給流路SJ_2が閉塞した状態であり、第2タンク11_2から第2ノズル列LN2への第2液体の供給が許容されない。
【0051】
第1加圧機構13_1は、制御ユニット20による制御のもとで、第1タンク11_1内を加圧可能な機構である。一方、第2加圧機構13_2は、制御ユニット20による制御のもとで、第2タンク11_2内を加圧可能な機構である。第1加圧機構13_1および第2加圧機構13_2のそれぞれは、例えば、シリンジポンプ、ダイアフラムポンプ、チューブポンプまたはコンプレッサー等であり、大気圧よりも高い正圧を発生させる。なお、第1加圧機構13_1および第2加圧機構13_2のそれぞれは、圧力を調整するレギュレーターを有してもよい。また、第1加圧機構13_1および第2加圧機構13_2のうちの一方が他方を兼ねてもよい。すなわち、第1タンク11_1および第2タンク11_2に共通して、第1加圧機構13_1および第2加圧機構13_2の双方を兼ねる1つの加圧機構が設けられてもよい。
【0052】
第1圧力センサー14_1は、第1タンク11_1内の圧力を計測する。一方、第2圧力センサー14_2は、第2タンク11_2内の圧力を計測する。第1圧力センサー14_1および第2圧力センサー14_2のそれぞれとしては、特に限定されず、例えば、公知のダイアフラム式の圧力センサーを用いることができる。
【0053】
第1圧力センサー14_1および第2圧力センサー14_2のそれぞれの計測結果を示す情報は、制御ユニット20に入力される。例えば、制御ユニット20は、第1圧力センサー14_1の計測結果に基づいて、第1タンク11_1内の圧力が所定圧力となるように第1加圧機構13_1の動作を制御する。同様に、例えば、制御ユニット20は、第2圧力センサー14_2の計測結果に基づいて、第2タンク11_2内の圧力が所定圧力となるように第2加圧機構13_2の動作を制御する。
【0054】
第1大気開放弁15_1は、制御ユニット20による制御のもとで、第1タンク11_1内を大気開放させるために開閉可能な弁機構であり、第1タンク11_1内と外部空間との間を開閉する。つまり、第1大気開放弁15_1は、制御ユニット20によって第1タンク11_1内を大気開放させる開状態と第1タンク11_1内を大気開放させない閉状態とに切り替え可能に制御される。一方、第2大気開放弁15_2は、制御ユニット20による制御のもとで、第2タンク11_2内を大気開放させるために開閉可能な弁機構であり、第2タンク11_2内と外部空間との間を開閉する。つまり、第2大気開放弁15_2は、制御ユニット20によって第2タンク11_2内を大気開放させる開状態と第2タンク11_2内を大気開放させない閉状態とに切り替え可能に制御される。第1大気開放弁15_1および第2大気開放弁15_2のそれぞれは、制御ユニット20等の装置から制御可能な弁であればよく、例えば、ダイアフラム弁、電磁弁または電動弁等である。なお、第1大気開放弁15_1および第2大気開放弁15_2のうちの一方が他方を兼ねてもよい。すなわち、第1タンク11_1および第2タンク11_2に共通して、第1大気開放弁15_1および第2大気開放弁15_2の双方を兼ねる1つの大気開放弁が設けられてもよい。
【0055】
以上の液体供給機構10は、制御ユニット20による制御のもとで、第1タンク11_1内の第1液体を液体噴射ヘッド50に供給するとともに、第2タンク11_2内の第2液体を液体噴射ヘッド50に供給する。
【0056】
ここで、液体噴射装置100は、制御ユニット20による制御のもとで、液体供給機構10を動作させることにより、液体噴射ヘッド50のメンテナンスとして、第1ノズル列LN1および第2ノズル列LN2からインクを排出させる排出処理SDを実行可能である。
【0057】
より具体的には、液体噴射装置100は、液体噴射ヘッド50にインクが充填されていない状態で当該排出処理SDを実行開始する充填処理、および、液体噴射ヘッド50にインクが充填されている状態で当該排出処理SDを実行開始するクリーニング処理のうちの一方または両方を実行可能である。当該排出処理SDの詳細については、後に
図4および
図5に基づいて説明する。本実施形態の液体噴射装置100は、充填処理としての排出処理SD及びクリーニング処理としての排出処理SDの双方を実行可能である。
【0058】
1-4.液体噴射装置の動作
図4は、第1実施形態に係る液体噴射ヘッド50のメンテナンス方法のフローチャートである。以下、
図4に基づいて、当該メンテナンス方法について説明する。なお、以下では、第1供給流路SJ_1および第2供給流路SJ_2のそれぞれを供給流路SJという場合があり、第1タンク11_1および第2タンク11_2のそれぞれをタンク11という場合があり、第1開閉弁12_1および第2開閉弁12_2のそれぞれを開閉弁12という場合があり、第1加圧機構13_1および第2加圧機構13_2のそれぞれを加圧機構13という場合があり、第1圧力センサー14_1および第2圧力センサー14_2のそれぞれを圧力センサー14という場合があり、第1大気開放弁15_1および第2大気開放弁15_2のそれぞれを大気開放弁15という場合がある。
【0059】
当該メンテナンス方法は、
図4に示すように、制御ユニット20がステップS11からステップS18をこの順で実行する。ここで、ステップS11からステップS14により、排出処理SDが実行される。以下、各ステップを順に説明する。
【0060】
まず、ステップS11において、制御ユニット20が開閉弁12および大気開放弁15を閉状態とする。なお、ステップS11は、開閉弁12および大気開放弁15が予め閉状態である場合、省略される。
【0061】
以上のステップS11の後、ステップS12において、制御ユニット20が加圧工程SPを実行する。加圧工程SPは、供給流路SJを閉塞させた状態で、タンク11内を加圧することにより所定の正圧とする。ここで、加圧工程SPは、開閉弁12が閉状態で加圧機構13を駆動させることによりタンク11内を加圧する。このとき、供給流路SJが閉塞されているため、液体噴射ヘッド50にインクが供給されない。
【0062】
本実施形態の加圧工程SPでは、大気開放弁15が閉状態で加圧機構13を駆動させる。このため、タンク11内を効率的に加圧することができる。なお、タンク11内の圧力の変遷については、後に
図5に基づいて説明する。
【0063】
以上のステップS12の後、ステップS13において、制御ユニット20が開放工程SOを実行する。開放工程SOは、加圧工程SPの後、供給流路SJを開放させることによりノズル列LNからインクを排出させる。ここで、開放工程SOは、タンク11内の圧力を所定の正圧とした状態で開閉弁12を開状態とすることにより、タンク11内の圧力によりタンク11内のインクが供給流路SJを介して液体噴射ヘッド50に供給される。
【0064】
本実施形態の開放工程SOは、加圧工程SPでの加圧機構13を停止した後に実行される。すなわち、開放工程SOにおいて開閉弁12を閉状態から開状態へ切り替える前に、加圧機構13が停止される。
【0065】
以上のステップS13の後、ステップS14において、制御ユニット20が閉鎖工程SCを実行する。閉鎖工程SCは、開放工程SOによってノズル列LNからインクが排出されている最中のタイミングで供給流路SJを閉塞させる。ここで、閉鎖工程SCは、開閉弁12を開状態から閉状態へ切り替えることにより、供給流路SJを閉塞させる。これにより、タンク11から供給流路SJを介した液体噴射ヘッド50へのインクの供給が停止される。
【0066】
また、排出処理SDの効率化またはノズル列LNでのインクの汚染を低減する観点から、開放工程SOにおいて、第1供給流路SJ_1を開放させた状態を維持する期間と第2供給流路SJ_2を開放させた状態を維持する期間との少なくとも一部が互いに重なることが好ましく、これらの期間が一致することがより好ましい。
【0067】
ここで、第1供給流路SJ_1を開放させた状態を維持する期間は、第1開閉弁12_1の開状態を維持する期間である。また、第2供給流路SJ_2を開放させた状態を維持する期間は、第2開閉弁12_2の開状態を維持する期間である。
【0068】
また、第1供給流路SJ_1を開放させた状態を維持する期間と第2供給流路SJ_2を開放させた状態を維持する期間とを互いに一致させる場合、第1開閉弁12_1を閉状態から開状態へ切り替えるタイミングと第2開閉弁12_2を閉状態から開状態へ切り替えるタイミングとが互いに同一のタイミングであり、かつ、第1開閉弁12_1を開状態から閉状態に切り替えるタイミングと第2開閉弁12_2を開状態から閉状態へ切り替えるタイミングとが互いに同一のタイミングである。
【0069】
以上のステップS14の後、ステップS15において、制御ユニット20が払拭工程SWを実行する。払拭工程SWは、閉鎖工程SCの後、すなわち排出処理SDの後に、供給流路SJを閉塞させた状態で噴射面FNを払拭部材61によって払拭する払拭動作を実行する。ここで、ノズル列LNのインクの汚染を低減する観点から、払拭工程SWは、第1供給流路SJ_1および第2供給流路SJ_2の双方を閉塞させた状態で実行されることが好ましい。すなわち、払拭工程SWは、第1開閉弁12_1および第2開閉弁12_2の双方を閉状態とした期間中に実行されることが好ましい。
【0070】
以上のステップS15の後、ステップS16において、制御ユニット20が大気開放弁15を閉状態から開状態へ切り替える。これにより、タンク11内の圧力が大気圧となる。なお、ステップS16の実行は、排出処理SDの実行後であれば、払拭工程SWの実行中でもよいし、払拭工程SWの実行前でもよい。
【0071】
以上のステップS16の後、ステップS17において、制御ユニット20が開閉弁12を閉状態から開状態へ切り替える。これにより、タンク11内の圧力が大気圧であるため、ノズル列LNのインクの圧力が低減される。具体的には、ノズル列LNのインクの圧力は、タンク11と液体噴射ヘッド50とのインクの水頭差に応じた圧力に低減される。
【0072】
このように、閉鎖工程SCにおいて開閉弁12を閉状態とした後、かつ、払拭動作の実行後に開閉弁12を開状態とする前のタイミングで、大気開放弁15が閉状態から開状態へ切り替えられる。ここで、大気開放弁15を閉状態から開状態へ切り替えるタイミングは、払拭動作の実行後に第1開閉弁12_1および第2開閉弁12_2の少なくとも一方を開状態とする前のタイミングであればよい。ここで、払拭動作の実行後に第1開閉弁12_1を開状態とするタイミングと第2開閉弁12_2を開状態とするタイミングとが同じ場合、「払拭動作の実行後に第1開閉弁12_1および第2開閉弁12_2の少なくとも一方を開状態とする前のタイミング」とは、第1開閉弁12_1および第2開閉弁12_2の双方を開状態とするタイミングよりも前のタイミングである。また、払拭動作の実行後に第1開閉弁12_1を開状態とするタイミングと第2開閉弁12_2を開状態とするタイミングとが異なる場合、「払拭動作の実行後に第1開閉弁12_1および第2開閉弁12_2の少なくとも一方を開状態とする前のタイミング」とは、第1開閉弁12_1および第2開閉弁12_2のうち、払拭動作の実行後に先に開状態とする方の開閉弁12を開状態とするタイミングよりも前のタイミングである。
【0073】
ステップS17の後、ステップS18において、制御ユニット20がフラッシング工程SFを実行する。フラッシング工程SFは、払拭動作の実行後にフラッシング動作を実行する。フラッシング動作は、液体噴射ヘッド50をホームポジションに位置させた状態でノズルNからインクを液体受容部材62に向かって噴射させる。ここで、液体噴射ヘッド50の駆動素子51fを駆動することにより、ノズルNからインクが噴射される。
【0074】
フラッシング動作では、ノズルN内のインクの汚染を好適に除去する観点から、複数のノズルNのうちの1つのノズルNから噴射されるインクの総量は、当該1つのノズルに連通する圧力室Cの体積以下であることが好ましく、圧力室Cよりも下流の流路である連通流路NaおよびノズルNの体積以下であることがより好ましく、ノズルNの体積以下であることがさらに好ましい。
【0075】
以上のように液体噴射ヘッド50のメンテナンスが実行される。このメンテナンスの実行により、液体噴射ヘッド50の印刷準備が完了する。なお、ステップS18のフラッシング工程SFは、必要に応じて実行され、省略されてもよい。
【0076】
図5は、第1実施形態に係る液体噴射ヘッド50のメンテナンス方法(メンテナンス処理)のタイミングチャートである。
図5では、タイミングt0からタイミングt10にわたる期間における開閉弁12、加圧機構13、大気開放弁15および払拭動作の動作状態とタンク11内およびノズルN内の圧力の変遷が示される。加圧機構13のタイミングチャートは、ハイレベルであるとき加圧機構13が駆動状態であることを示し、ローレベルであるとき加圧機構13が非駆動状態であることを示す。開閉弁12のタイミングチャートは、ハイレベルであるとき開閉弁12が開状態であることを示し、ローレベルであるとき開閉弁12が閉状態であることを示す。大気開放弁15のタイミングチャートは、ハイレベルであるとき大気開放弁15が開状態であることを示し、ローレベルであるとき大気開放弁15が閉状態であることを示す。払拭動作のタイミングチャートは、ハイレベルであるとき払拭部材61が噴射面FNを払拭している状態であることを示し、ローレベルであるとき払拭部材61が噴射面FNを払拭していない状態であることを示す。なお、開閉弁12の構成によっては、ハイレベルのときに開閉弁12が閉状態であり、ローレベルのときに開閉弁12が開状態であってもよい。これは、大気開放弁15に関しても同様である。
【0077】
まず、
図5を参照しながら、充填処理としての排出処理SDを含むメンテナンス方法を中心に説明する。
図5では、充填処理としての排出処理SDを含むメンテナンス方法におけるタンク11内の圧力の変遷が、実線で示されている。
【0078】
図5に示すように、メンテナンス処理を開始するタイミングt0において開閉弁12および大気開放弁15が開状態である場合、タイミングt0の後のタイミングt1において、開閉弁12および大気開放弁15のそれぞれが閉状態となる(ステップS11)。このとき、加圧機構13および払拭動作のそれぞれは、停止している状態である。また、タンク11内およびノズルN内のそれぞれの圧力が0kPaである。なお、本明細書の圧力に関する記載は、大気圧を0kPaとしたゲージ圧を基準としている。
【0079】
タイミングt1の後のタイミングt2において、加圧機構13の駆動が開始され、タイミングt2の後のタイミングt3において、加圧機構13の駆動が停止される。すなわち、タイミングt2からタイミングt3までの期間では、当該期間にわたり、加圧機構13が駆動する(ステップS12)。これにより、加圧工程SPが行われるので、タンク11内の圧力が所定の正圧である第1圧力P1まで上昇する。なお、
図5では、充填処理として加圧工程SPが行われた後のタンク11内の所定の正圧を第1圧力P1aとし、クリーニング処理として加圧工程SPが行われた後のタンク11内の所定の正圧を第1圧力P1bとしているが、第1圧力P1aと第1圧力P1bとを区別しない場合には単に第1圧力P1と呼称する。
図5で示す例では、第1圧力P1aは、41kPaである。なお、液体供給機構10がタンク11に接続されたレギュレーターを備えている場合、タイミングt3において加圧機構13を停止しなくても構わない。
【0080】
タイミングt3の後のタイミングt4において開閉弁12が閉状態から開状態へ切り替えられる(ステップS13)。これにより、開放工程SOが行われるので、タンク11内の圧力の減少を伴って、ノズルN内の圧力が急峻に上昇する。なお、タイミングt3からタイミングt4までの期間では、タンク11内の圧力が第1圧力P1に保たれる。
【0081】
タイミングt4の後のタイミングt5において開閉弁12が開状態から閉状態へ切り替えられる。これにより、閉鎖工程SCが行われる(ステップS14)。このように、タイミングt4からタイミングt5までの期間では、当該期間にわたり、開閉弁12が開状態となる。当該期間中では、ノズルNからインクが排出される。また、タイミングt5からタイミングt5より後のタイミング21までの間でも、ノズルNからインクが排出される。
図5に示すように、タイミングt21は、ノズルN内の圧力がメニスカス耐圧Pmとなるタイミングである。つまり、タイミングt5におけるノズルN内の圧力は、ノズルNのメニスカス耐圧Pmよりも大きいため、タイミングt5は、ノズルNからインクが排出されている最中のタイミングである。なお、
図5に示す例でのメニスカス耐圧Pmは、1kPaである。
【0082】
図5に示す例では、タイミングt5は、タンク11内の圧力が第3圧力P3となるタイミングである。第3圧力P3は、第1圧力P1と第2圧力P2との間の圧力である。ここで、第2圧力P2は、タンク11内の圧力を第1圧力P1とした後に仮にタンク11内の圧力が略一定となるまで開閉弁12を開状態とした場合、換言すればタイミングt5で開閉弁12を開状態から閉状態にしない場合(以降では、比較例1の排出処理と称する。)におけるタンク11内の圧力である。ここで、「略一定」とは、タンク11内の圧力が平衡状態となること、より具体的には、圧力の最大振幅が1kPa以下となる状態が3秒以上にわたって継続されることをいう。なお、
図5では、比較例1の充填処理としての排出処理におけるタンク11内の圧力の変遷が二点鎖線で示される。つまり、
図5に示す例では、第3圧力P3は、第1圧力P1aと第2圧力P2との間の圧力であり、第2圧力P2は、3kPaであり、第3圧力P3は、19kPaである。
【0083】
また、比較例1におけるタイミングt4からタンク11内の圧力が略一定となるタイミングt11までに要する時間長さを第1時間長さT1とし、タイミングt4からタイミングt5までの期間の長さを第2時間長さT2としたとき、第2時間長さT2は、ノズルNから排出されるインクの無駄を低減する観点から、第1時間長さT1よりも短く、好ましくは、第1時間長さT1の半分以下であり、より好ましくは、第1時間長さT1の1/3以下であり、さらに好ましくは、第1時間長さT1の1/5以下である。
図5に示す例では、第2時間長さT2は2秒であり、第1時間長さT1は、5~10秒程度である。なお、図示はしないが、比較例1では、タイミングt4にて開閉弁12を開状態とすることでノズルN内の圧力がメニスカス耐圧Pmを超えてから、ノズルN内の圧力がメニスカス耐圧Pmとなるタイミングt11まで期間において、ノズルN内の圧力はメニスカス耐圧Pmよりも大きいため、ノズルNからインクが排出されている。
【0084】
タイミングt5の後のタイミングt6からタイミングt7までの期間では、当該期間にわたり、払拭動作が行われる(ステップS15)。タイミングt6は、ノズルN内の圧力がメニスカス耐圧Pmとなるタイミングt21より後であることが好ましい。
【0085】
タイミングt7の後のタイミングt8では、大気開放弁15が閉状態から開状態へ切り替えられる(ステップS16)。これにより、タンク11内の圧力が大気圧まで低下する。なお、メンテナンス処理の処理時間を短縮化する観点から、この切り替えは、払拭動作の実行期間中、即ちタイミングt6からタイミングt7までの期間、または、払拭動作の実行前、即ちタイミングt6よりも前であってもよい。
【0086】
タイミングt8の後のタイミングt9では、開閉弁12が閉状態から開状態へ切り替えられる。これにより、供給流路SJを介してタンク11から液体噴射ヘッド50へのインクの供給が許容される。その後、必要に応じて、フラッシング工程SFが実行される(ステップS18)。
【0087】
次に、
図5を参照しながら、クリーニング処理としての排出処理SDを含むメンテナンス方法について説明する。本実施形態において、充填処理としての排出処理SDを含むメンテナンス方法とクリーニング処理としての排出処理SDを含むメンテナンス方法とは、加圧工程SPによってタンク11内に生じる第1圧力P1が相違する点を除いてほぼ同じメンテナンス処理を実行するため、相違点についてのみ説明を行う。
図5では、クリーニング処理としての排出処理SDを含むメンテナンス方法におけるタンク11内の圧力の変遷が、一点鎖線で示される。なお、
図5では、充填処理としての排出処理SDを含むメンテナンス処理に関して、ノズルN内の圧力の変遷、第2圧力P2、第3圧力P3、比較例1の排出処理のタンク11内の圧力の変遷である二点鎖線、タイミングt11および第1時間長さT1を示しており、クリーニング処理としての排出処理SDを含むメンテナンス処理に関して、それらの図示は省略している。
【0088】
液体噴射装置100が充填処理およびクリーニング処理の両方を実行可能である場合、
図5に示すようにクリーニング処理における第1圧力P1bは、充填処理における第1圧力P1aよりも小さいことが好ましい。
図5に示す例では、クリーニング処理における第1圧力P1bは、充填処理における第1圧力P1aよりも小さい15kPaである。これにより、インクの過不足なく充填処理を実行するとともに、クリーニング処理で無駄に消費されるインクの量を低減することができる。なお、
図5から分かる通り、本実施形態では、充填処理の加圧工程SPにおいて加圧機構13を駆動する期間と、クリーニング処理の加圧工程SPにおいて加圧機構13を駆動する期間とは、同じタイミングt2からタイミングt3までの期間である。そのため、クリーニング処理の加圧工程SPでは、充填処理の加圧工程SPに比べて、単位時間当たりの加圧機構13の出力を低く設定することで、第1圧力P1bを第1圧力P1aよりも小さくしている。但し、クリーニング処理の加圧工程SPにおいて加圧機構13を駆動する期間を、充填処理の加圧工程SPにおいて加圧機構13を駆動する期間よりも短くすることで、第1圧力P1bを第1圧力P1aよりも小さくしてもよい。この場合、加圧工程SPにおける加圧機構13の単位時間当たりの出力は、クリーニング処理と充填処理とで同じであってもよいし、クリーニング処理の方が充填処理の方よりも小さくなるようにしてもよい。
【0089】
ここで、比較例2の排出処理について説明する。
図5の破線で示されたタンク11内の圧力の変遷は、充填処理としての比較例2の排出処理におけるタンク11内の圧力の変遷を示している。比較例2の充填処理は、本実施形態の充填処理と比べて、加圧工程SPによってタンク11内に生じる所定の正圧である第1圧力P1cが、本実施形態の充填処理の加圧工程SPによってタンク11内に生じる第1圧力P1aよりも小さい点、及び、加圧工程SPの後のタイミングt4にて開閉弁12を開状態とした後にタンク11内の圧力が略一定となるタイミングt12まで開状態としている点、換言すればノズルNからインクが排出されている最中に開閉弁12を閉状態としない点で相違する。第1圧力P1cは、タイミングt4からタイミングt12までの期間にわたり開閉弁12を開状態とすることで、ノズル列LNを構成するすべてのノズルNに対してインクを充填可能な大きさに設定されており、
図5に示す例では25kPaである。
【0090】
供給流路SJは、ノズル列LNを構成する複数のノズルNに連通しており、導入口IHから各ノズルまでの流路抵抗にはバラツキが生じるため、開閉弁12をタイミングt4で開状態としてから各ノズルNにインクが充填されるまでの時間にバラつきが生じる。そのため、比較例2では、ノズル列LNを構成する複数のノズルNのうち、全てのノズルNにインクが充填されるタイミングよりも前にインクが充填されたノズルNから、インクが無駄に排出されてしまう。
【0091】
一方、本実施形態のタイミングt4からタイミングt5までの期間におけるタンク11内の圧力変化の傾きは、比較例2のタイミングt4からタイミングt5までの期間におけるタンク11内の圧力変化の傾きよりも大きい。したがって、ノズル列LNを構成する全てのノズルNに対して瞬時にインクを充填することができるため、比較例2に比べてノズルNから無駄に排出されるインクの量を低減できる。
【0092】
以上では、充填処理に関して比較例2と本実施形態との比較を説明したが、比較例2の充填処理と本実施形態の充填処理との関係は、比較例2のクリーニング処理と本実施形態のクリーニング処理との関係と同様である。具体的には、比較例2のクリーニング処理では、開閉弁12をタイミングt4で開状態としてから各ノズルNからクリーニングに必要な所定量のインクが排出されるまでの時間にバラつきが生じる。そのため、比較例2のクリーニング処理では、ノズル列LNを構成する複数のノズルNのうち、全てのノズルNから当該所定量のインクが排出されるタイミングよりも前に当該所定量のインクが排出されたノズルNから、インクが無駄に排出されてしまう。一方、本実施形態のクリーニング処理は、本実施形態の充填処理と同様の理由から、比較例2に比べてノズルNから無駄に排出されるインクの量を低減できる。
【0093】
なお、前述した比較例1の充填処理のように、加圧工程SPによってタンク11内に生じる所定の正圧を本実施形態と同じ程度大きくすることで、ノズル列LNを構成する複数のノズルNに対して瞬時にインクを充填することが考えられるが、比較例1の充填処理ではタイミングt5で開閉弁12を閉状態としないため、ノズル列LNを構成する全てのノズルNにインクを充填するのに必要な圧力に対して過剰なタンク11内の正圧が、液体噴射ヘッド50に作用してしまう。その結果、比較例1の充填処理は、本実施形態の充填処理と比べて、無駄にノズルNからインクを排出してしまう。なお、比較例1のクリーニング処理についても同様であり、本実施形態のクリーニング処理に比べて無駄にノズルNからインクが排出される。
【0094】
以上のように、液体噴射装置100は、液体噴射ヘッド50と第1タンク11_1と第1供給流路SJ_1と第1開閉弁12_1と第1加圧機構13_1とを備える。液体噴射ヘッド50は、第1液体を噴射する第1ノズル列LN1を有する。第1タンク11_1は、第1ノズル列LN1に供給される第1液体を貯留する。第1供給流路SJ_1は、第1タンク11_1から第1ノズル列LN1へ第1液体を供給するための流路である。第1開閉弁12_1は、第1供給流路SJ_1の途中に設けられ、第1供給流路SJ_1を開閉可能である。第1加圧機構13_1は、第1タンク11_1内を加圧可能である。
【0095】
そのうえで、液体噴射装置100は、排出処理SDを実行可能である。排出処理SDは、第1開閉弁12_1が閉状態で第1加圧機構13_1を駆動させることにより第1タンク11_1内の圧力を所定の正圧とした後、第1開閉弁12_1を開状態とすることにより第1ノズル列LN1から第1液体を排出させる。ここで、排出処理SDは、第1ノズル列LN1から第1液体が排出されている最中のタイミングで第1開閉弁12_1を開状態から閉状態へ切り替える。
【0096】
以上の液体噴射ヘッド50では、排出処理SDにおいて、第1開閉弁12_1の閉状態で第1加圧機構13_1を駆動させることにより第1タンク11_1内の圧力を所定の正圧とした後、第1開閉弁12_1を開状態とするので、第1ノズル列LN1への第1液体を供給するための圧力を急峻な立ち上がりで液体噴射ヘッド50に供給することができる。このため、第1ノズル列LN1を構成するすべてのノズルNに液体を瞬時に行き渡らせることができる。また、排出処理SDにおいて、第1ノズル列LN1から第1液体が排出されている最中のタイミングで第1開閉弁12_1を開状態から閉状態へ切り替えるので、第1ノズル列LN1から第1液体を不要に排出する期間を短くすることができる。このため、第1ノズル列LN1から第1液体が無駄に排出されることが防止される。
【0097】
前述のように、排出処理SDは、第1タンク11_1内の圧力が第3圧力P3となるタイミングt5で第1開閉弁12_1を開状態から閉状態へ切り替える。ここで、第3圧力P3は、第1圧力P1と第2圧力P2との間の圧力である。第1圧力P1は、当該所定の正圧である。第2圧力P2は、第1タンク11_1内の圧力を第1圧力P1とした後に第1タンク11_1内の圧力が略一定となるまで第1開閉弁12_1を開状態とした場合における第1タンク11_1内の圧力である。このような排出処理SDでは、無駄に消費される第1液体の量を低減することができる。
【0098】
また、前述のように、タイミングt5は、排出処理SDにおいて、第1開閉弁12_1を開状態としてから第2時間長さT2を経過したタイミングである。すなわち、排出処理SDは、第1開閉弁12_1を開状態としてから第2時間長さT2を経過したタイミングt5で第1開閉弁12_1を開状態から閉状態へ切り替える。ここで、第2時間長さT2は、第1時間長さT1よりも短い時間長さである。第1時間長さT1は、第1タンク11_1内の圧力を第1圧力P1とした後に第1タンク11_1内の圧力が略一定となるまで第1開閉弁12_1を開状態とした場合における第1開閉弁12_1を開状態としてから第1タンク11_1内の圧力が略一定となるまでに要する時間長さである。このようにすることで、無駄に消費される第1液体の量を低減することができる。
【0099】
さらに、前述のように、第2時間長さT2は、第1時間長さT1の半分以下であることが好ましい。この場合、排出処理SDにおいて、無駄に消費される第1液体の量を好適に低減することができる。
【0100】
また、前述のように、液体噴射装置100は、液体噴射ヘッド50に第1液体が充填されていない状態で排出処理SDを実行開始する充填処理、および、液体噴射ヘッド50に第1液体が充填されている状態で排出処理SDを実行開始するクリーニング処理のうちの一方または両方を実行可能である。このため、充填処理およびクリーニング処理のうちの一方または両方において、無駄に消費される第1液体の量を低減することができる。
【0101】
さらに、前述のように、液体噴射装置100が充填処理およびクリーニング処理の両方を実行可能である場合、クリーニング処理における当該所定の正圧は、充填処理における当該所定の正圧よりも小さい。充填処理では、液体噴射ヘッド50内の空気を液体に置換するために、クリーニング処理に比べて、第1タンク11_1内の圧力を大きくする必要がある。また、第1供給流路SJ_1の途中に不図示のフィルターが配置される場合、充填処理では、そのフィルターのバブルポイントを超えるために、この点でも、クリーニング処理に比べて、第1タンク11_1内の圧力を大きくする必要がある。したがって、クリーニング処理における第1タンク11_1内の圧力を充填処理における第1タンク11_1内の圧力よりも小さくすることにより、液体の過不足なく充填処理を実行するとともに、クリーニング処理で無駄に消費される液体の量を低減することができる。
【0102】
さらに、前述のように、液体噴射装置100は、第1タンク11_1内を大気開放させるために開閉可能な第1大気開放弁15_1を備える。排出処理SDは、第1大気開放弁15_1の閉状態で第1加圧機構13_1を駆動させることにより第1タンク11_1内を所定の正圧に加圧する。このため、第1大気開放弁15_1の閉状態で第1加圧機構13_1を駆動させることにより第1タンク11_1内を所定の正圧に効率的に加圧することができる。また、必要時に、第1タンク11_1内を大気開放させることにより、第1タンク11_1内を大気圧とすることができる。これにより、例えば、第1タンク11_1と液体噴射ヘッド50との水頭差に応じた圧力をノズルNのインクに作用させることができる。
【0103】
また、前述のように、排出処理SDは、第1開閉弁12_1を閉状態から開状態へ切り替える前に、第1加圧機構13_1を停止させる。このため、第1加圧機構13_1を停止しても、第1タンク11_1内の圧力を所定の正圧に保つことができる。この結果、省電力化を図ることができる。
【0104】
さらに、前述のように、液体噴射ヘッド50は、第1ノズル列LN1と、第1液体とは異なる種類の第2液体を噴射する第2ノズル列LN2と、を含む噴射面FNを有する。液体噴射装置100は、第2タンク11_2と第2供給流路SJ_2と第2開閉弁12_2と第2加圧機構13_2とを備える。第2タンク11_2は、第2ノズル列LN2に供給される第2液体を貯留する。第2供給流路SJ_2は、第2タンク11_2から第2ノズル列LN2へ第2液体を供給するための流路である。第2開閉弁12_2は、第2供給流路SJ_2の途中に設けられ、第2供給流路SJ_2を開閉可能である。第2加圧機構13_2は、第2タンク11_2内を加圧可能である。
【0105】
そのうえで、排出処理SDは、第2開閉弁12_2が閉状態で第2加圧機構13_2を駆動させることにより第2タンク11_2内の圧力を所定の正圧とした後、第2開閉弁12_2を開状態とすることにより第2ノズル列LN2から第2液体を排出させる。ここで、排出処理SDは、第2ノズル列LN2から第2液体が排出されている最中のタイミングで第2開閉弁12_2を開状態から閉状態へ切り替える。しかも、排出処理SDにおいて、第1開閉弁12_1の開状態を維持する期間と第2開閉弁12_2の開状態を維持する期間との少なくとも一部が互いに重なる。つまり、第1ノズル列LN1に対応する排出処理SDのタイミングt4からタイミングt5までの期間と、第2ノズル列LN2に対応する排出処理SDのタイミングt4からタイミングt5までの期間との少なくとも一部が重なる。このため、排出処理SDで互いに異なる種類の液体を噴射する複数のノズル列LNから液体を排出させる際、複数のノズル列LNのそれぞれの内圧を正圧とすることができる。この結果、第1ノズル列LN1のノズルN内に第2液体が混入することで第1ノズル列LN1のノズルN内の第1液体が汚染されるリスク、および、第2ノズル列LN2のノズルN内に第1液体が混入することで第2ノズル列LN2のノズルN内の第2液体が汚染されるリスクを低減することができる。
【0106】
また、前述のように、排出処理SDにおいて、第1開閉弁12_1を閉状態から開状態へ切り替えるタイミングと第2開閉弁12_2を閉状態から開状態へ切り替えるタイミングとが互いに同一のタイミングであり、かつ、第1開閉弁12_1を開状態から閉状態に切り替えるタイミングと第2開閉弁12_2を開状態から閉状態へ切り替えるタイミングとが互いに同一のタイミングである。このため、第1ノズル列LN1および第2ノズル列LN2での液体の汚染をより低減することができる。
【0107】
さらに、前述のように、液体噴射装置100は、噴射面FNを払拭する払拭部材61をさらに備える。そして、液体噴射装置100は、排出処理SDの後に、第1開閉弁12_1および第2開閉弁12_2の双方を閉状態とした期間中に噴射面FNを払拭部材61によって払拭する払拭動作を実行する。このため、第1ノズル列LN1および第2ノズル列LN2のそれぞれの内圧が正圧である状態で払拭動作が行われるので、第1ノズル列LN1および第2ノズル列LN2での液体の汚染を好適に低減することができる。
【0108】
また、前述のように、液体噴射装置100は、第1タンク11_1内を大気開放させるための開閉可能な第1大気開放弁15_1と、第2タンク11_2内を大気開放させるための開閉可能な第2大気開放弁15_2と、をさらに備える。そして、液体噴射装置100は、排出処理SDにおいて第1開閉弁12_1および第2開閉弁12_2の双方を閉状態とした後、かつ、払拭動作の実行後に第1開閉弁12_1および第2開閉弁12_2の少なくとも一方を開状態とする前のタイミングで、第1大気開放弁15_1および第2大気開放弁15_2の双方を閉状態から開状態へ切り替える。このため、第1開閉弁12_1および第2開閉弁12_2を開状態としたタイミングで、閉鎖工程SCによってタンク11内に残った正圧が第1ノズル列LN1および第2ノズル列LN2に作用することで無駄にノズルNからインクが排出されてしまうことを防止できる。
【0109】
さらに、前述のように、液体噴射装置100は、払拭動作の実行期間中、または、払拭動作の実行前に、第1大気開放弁15_1および第2大気開放弁15_2を閉状態から開状態へ切り替えてもよい。この場合、充填処理を含む印刷準備に必要な時間、または、クリーニング処理に要する時間を短縮することができる。
【0110】
また、前述のように、第1ノズル列LN1は、複数のノズルNで構成される。液体噴射ヘッド50は、複数のノズルNにノズルごとに連通する複数の圧力室Cを有する。液体噴射装置100は、払拭動作の実行後に、フラッシング動作を実行する。ここで、複数のノズルNのうちの1つのノズルNからフラッシング動作によって噴射される第1液体の総量は、複数の圧力室Cのうち当該1つのノズルに連通する圧力室Cの体積以下である。前述の排出処理SDおよび払拭工程SWによるノズルN内の液体の汚染は少ないため、ノズルN内の液体のメニスカスの表面の近傍のみをフラッシング動作で排出すれば十分である。このため、ノズルN内の第1液体のメニスカス表面の汚染を少ないインクで除去することができる。
【0111】
さらに、前述のように、第1ノズル列LN1から噴射される第1液体と第2ノズル列LN2から噴射される第2液体とのそれぞれは、細胞、DNAおよびタンパク質のうちの少なくとも1つを含む液体であることが好ましい。このようなバイオ系の液体は一般に高価である。また、このようなバイオ系の液体は、互いに混ざることで簡単に汚染されてしまい液体の機能が損なわれやすい。したがって、このような液体の消費の無駄を低減するとともに液体の汚染を低減することは、極めて有用である。
【0112】
また、前述のように、第1ノズル列LN1および第2ノズル列LN2は、互いに同じノズルプレート51cに設けられる。この場合、ノズル列LNでの液体の汚染を低減する効果が顕著である。
【0113】
さらに、前述のように、第1ノズル列LN1と前記第2ノズル列LN2とのノズル間の最短距離は、1.5mm以下であることが好ましい。このように最短距離Dnの比較的小さい構成では、第1ノズル列LN1および前記第2ノズル列LN2のうちの一方のノズル列LNから排出された液体が他方のノズル列LNへ移動してしまい、ノズルN内の液体に汚染が生じやすい。したがって、この場合、前述の排出処理SDおよび払拭工程SWによるノズル列LNでの液体の汚染を低減する効果が顕著である。
【0114】
また、前述のように、液体噴射ヘッド50のメンテナンス方法は、加圧工程SPと開放工程SOと閉鎖工程SCとを含む。加圧工程SPは、第1ノズル列LN1に供給される第1液体を貯留する第1タンク11_1から第1ノズル列LN1へ第1液体を供給するための第1供給流路SJ_1を閉塞させた状態で、第1タンク11_1内を加圧する。開放工程SOは、加圧工程SPの後、第1供給流路SJ_1を開放させることにより第1ノズル列LN1から第1液体を排出させる。閉鎖工程SCは、開放工程SOによって第1ノズル列LN1から第1液体が排出されている最中のタイミングで第1供給流路SJ_1を閉塞させる。
【0115】
以上の液体噴射ヘッド50のメンテナンス方法では、前述の排出処理SDが実行されるので、第1ノズル列LN1から第1液体が無駄に排出されることを防止しつつ、第1ノズル列LN1を構成するすべてのノズルNに液体を短時間に行き渡らせることができる。
【0116】
ここで、前述のように、加圧工程SPは、第2ノズル列LN2に供給される第2液体を貯留する第2タンク11_2から第2ノズル列LN2へ第2液体を供給するための第2供給流路SJ_2を閉塞させた状態で、前記第2タンク11_2内を加圧する。開放工程SOは、第2供給流路SJ_2を開放させることにより第2ノズル列LN2から第2液体を排出させる。閉鎖工程SCは、開放工程SOによって第2ノズル列LN2から第2液体が排出されている最中のタイミングで第2供給流路SJ_2を閉塞させる。しかも、開放工程SOにおいて、第1供給流路SJ_1を開放させた状態を維持する期間と第2供給流路SJ_2を開放させた状態を維持する期間との少なくとも一部が互いに重なる。このため、排出処理SDで互いに異なる種類の液体を噴射する複数のノズル列LNから液体を排出させる際、複数のノズル列LNのそれぞれの内圧を正圧とすることができる。この結果、第1ノズル列LN1および第2ノズル列LN2での液体の汚染を好適に低減することができる。
【0117】
また、前述のように、液体噴射ヘッド50のメンテナンス方法は、閉鎖工程SCの後に、第1供給流路SJ_1および第2供給流路SJ_2の双方を閉塞させた状態で噴射面FNを払拭部材61によって払拭する払拭工程SWをさらに含む。このため、第1ノズル列LN1および第2ノズル列LN2のそれぞれの内圧が正圧である状態で払拭工程SWが行われるので、第1ノズル列LN1および第2ノズル列LN2での液体の汚染を好適に低減することができる。
【0118】
2.第1実施形態の変形例
第1実施形態では、
図5に示したように、充填処理に含まれる開放工程SOを実行する期間の長さである第2時間長さT2と、クリーニング処理に含まれる開放工程SOを実行する期間の長さである第2時間長さT2とは、同じ長さであったが、この構成には限られない。
ここで、第1実施形態の変形例では、クリーニング処理に含まれる開放工程SOを実行する期間の長さである時間長さT2b(不図示)を、充填処理に含まれる開放工程SOを実行する期間の長さである時間長さT2a(不図示)よりも短くしてもよい。このようにすることで、第1実施形態と同様に、インクの過不足なく充填処理を実行するとともに、クリーニング処理で無駄に消費されるインクの量を低減することができる。なお、第1実施形態では、クリーニング処理として加圧工程SPが行われた後のタンク11内の所定の正圧である第1圧力P1bを、充填処理として加圧工程SPが行われた後のタンク11内の所定の正圧である第1圧力P1aよりも小さくしたが、第1実施形態の変形例では、第1実施形態と同様に第1圧力P1bを第1圧力P1aより小さくしてもよいし、第1圧力P1bと第1圧力P1aとを同じにしてもよい。
【0119】
前述のように、液体噴射装置100が充填処理およびクリーニング処理の両方を実行可能である場合、クリーニング処理における第1開閉弁12_1を開状態としてから閉状態とするまでの時間長さT2bは、充填処理における第1開閉弁12_1を開状態としてから閉状態とするまでの時間長さT2aよりも短い。このため、液体の過不足なく充填処理を実行するとともに、クリーニング処理で無駄に消費される液体の量を低減することができる。
【0120】
3.第2実施形態
以下、本開示の第2実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用および機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0121】
図6は、第2実施形態の液体供給機構10Aの模式図である。本実施形態は、液体供給機構10に代えて液体供給機構10Aを用いること以外は、前述の第1実施形態と同様である。
【0122】
液体供給機構10Aは、圧力調整弁16_1、16_2を追加したこと以外は、第1実施形態の液体供給機構10と同様に構成される。
【0123】
圧力調整弁16_1は、第1供給流路SJ_1の第1開閉弁12_1と液体噴射ヘッド50との間に設けられ、液体噴射ヘッド50内のインクの圧力に応じて開閉する。一方、圧力調整弁16_2は、第2供給流路SJ_2の第2開閉弁12_2と液体噴射ヘッド50との間に設けられ、液体噴射ヘッド50内のインクの圧力に応じて開閉する。圧力調整弁16_1および圧力調整弁16_2のそれぞれは、液体噴射ヘッド50内の圧力に関係なく、強制的に開状態とすることが可能に構成される。
【0124】
図7は、圧力調整弁16の一例を示す断面図である。
図7に示すように、圧力調整弁16は、上流側流路RJ1および下流側流路RJ2を備えており、これらは、供給流路SJの一部を構成する。上流側流路RJ1には、インクの流入口DIが設けられ、下流側流路RJ2には、インクの流出口DOが設けられる。流入口DIには、タンク11からのインクが流入する。流出口DOは、液体噴射ヘッド50に供給するためのインクを排出する。
【0125】
圧力調整弁16は、弁体16aと弁座16bとバネ16cとバネ16dとを備える。弁体16aは、弁座16bに対して接近したり離反したりするように、図中のW方向またはその反対方向に移動することにより、上流側流路RJ1を開閉する。
【0126】
弁座16bは、支持体16eのうち上流側流路RJ1と下流側流路RJ2との間に位置する部分であり、可撓膜16fのうち下流側流路RJ2を封止する部分に対して間隔をあけて対向する。弁座16bの略中央には、支持体16eを貫通する貫通孔Kが設けられる。上流側流路RJ1および下流側流路RJ2は、貫通孔Kを介して互いに連通する。
【0127】
弁体16aは、上流側流路RJ1内に設置される。弁体16aは、基部16a1と封止部16a2と弁軸16a3とを有する。基部16a1は、貫通孔Kの内径を上回る外径の円形状の平板部分である。基部16a1の表面には、弁軸16a3が同軸で垂直に突起しており、円環状の封止部16a2が平面視で弁軸16a3を囲むように設置される。弁軸16a3の軸線OがW方向に平行であり、弁軸16a3が弁座16bの貫通孔Kに挿入された状態で、基部16a1および封止部16a2が上流側流路RJ1内に位置する。弁座16bの貫通孔Kの内周面と弁軸16a3の外周面との間には、隙間が形成される。バネ16cは、上流側流路RJ1内において支持体16eのうち弁座16bに対向する面と弁体16aの基部16a1との間に設置されており、弁体16aを弁座16bに向けて付勢する。他方、バネ16dは、下流側流路RJ2内において弁座16bと受圧板16gとの間に設置される。弁体16aの封止部16a2は、基部16a1と弁座16bとの間に位置しており、弁座16bの封止面FSに接触することにより、貫通孔Kを閉塞するシールとして機能する。
【0128】
下流側流路RJ2には、大気圧の外部空間に連通する大気圧室RCが可撓膜16fを介して隣り合う。可撓膜16fは、可撓性の弾性膜であり、例えば、フィルム、ゴム、繊維等で構成される。
図7に示すように、下流側流路RJ2内の圧力が所定の範囲内に維持されている場合、バネ16dの付勢力により弁体16aの封止部16a2が弁座16bの封止面FSに押し付けられることにより、上流側流路RJ1と下流側流路RJ2とが互いに遮断される。他方、下流側流路RJ2内の圧力が所定の負圧以下になると、バネ16cおよびバネ16dによる付勢力に抗して弁体16aの封止部16a2が弁座16bの封止面FSから離反することにより、上流側流路RJ1と下流側流路RJ2とが互いに連通する。つまり、圧力調整弁16は、ノズルNからインクを噴射可能とするインクのメニスカスがノズルN内に形成されるように、液体噴射ヘッド50内のインクの圧力を所定の負圧に設定するように構成されている。
【0129】
圧力調整弁16では、圧力調整室RVが弾性部材16hを介して大気圧室RCに隣り合う。弾性部材16hは、可撓性を有する板状部材であり、ゴム等の弾性材料で構成される。圧力調整室RVは、気体流路口DAに連通する。気体流路口DAには、図示しないポンプが接続される。当該ポンプは、制御ユニット20による制御のもとで、圧力調整室RVの加圧可能なポンプである。当該ポンプが圧力調整室RVを加圧することにより、弾性部材16hを可撓膜16fに向けて押し付けるように撓み変形させることができる。この結果、バネ16cおよびバネ16dによる付勢力に抗して弁体16aの封止部16a2を弁座16bの封止面FSから離反させることができる。このように、下流側流路RJ2名の圧力によらず、当該ポンプの動作により、上流側流路RJ1と下流側流路RJ2とを互いに連通させることができる。
【0130】
以上の圧力調整弁16は、前述の排出処理SDの期間にわたり、強制的に開状態とする。これにより、第1実施形態と同様の排出処理SDを実行することができる。また、排出処理SDの実行後から払拭工程SWを終了するまでの期間においても、圧力調整弁16を強制的に開状態とすることが好ましい。このようにすることで、払拭動作中にノズルN内の液体が汚染してしまうのを低減できる。そして、払拭工程SWが終了した後であって、ステップS17において開閉弁12を閉状態から開状態へ切り替えるタイミングt9よりも前のタイミングで、圧力調整弁16の強制的な開状態を停止することにより、液体噴射ヘッド50内の圧力に応じて、タンク11から液体噴射ヘッド50にインクを適切に供給することができる。
【0131】
以上の第2実施形態によっても、排出処理SDおいて、無駄に消費される液体の量を低減することができる。なお、圧力調整弁16の構成は、
図7に示す例に限定されず、例えば、カム等の機構を用いて、弾性部材16hを撓み変形させることにより、強制的に開状態とする構成でもよい。
【0132】
4.変形例
以上に例示した各形態は多様に変形され得る。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。
【0133】
4-1.変形例1
前述の形態では、互いに種類の異なる第1液体および第2液体を用いる態様が例示されるが、この態様に限定されず、例えば、1種または3種以上の液体が用いられてもよい。1種の液体を用いる場合、当該1種の液体が「第1液体」に相当する。3種以上の液体を用いる場合、当該3種の液体から任意に選択される2種の液体のうち、一方が「第1液体」に相当し、他方が「第2液体」に相当する。また、ヘッドチップ51ごとに液体の種類が異なってもよい。
【0134】
4-2.変形例2
前述の形態では、加圧機構13がタンク11に直接接続される態様が例示されるが、この態様に限定されず、例えば、加圧機構13が供給流路SJのタンク11と開閉弁12との間の部分に接続されてもよい。
【0135】
4-3.変形例3
前述の形態では、加圧機構13がタンク11内に気体を導入することによりタンク11内を加圧する態様が例示されるが、この態様に限定されず、例えば、タンク11が可撓性の袋体である場合、加圧機構13は、タンク11を外部から押圧することによりタンク11内を加圧する構成でもよい。
【0136】
4-4.変形例4
液体噴射装置は、液体噴射ヘッド50の内外で第1液体または第2液体を循環させる構成でもよい。ただし、第1液体または第2液体が高価である場合等、液体の使用量をできるだけ少なくする観点から、このような循環は、行わない構成であることが好ましい。
【0137】
4-5.変形例5
前述の形態では、タンク11と液体噴射ヘッド50との水頭差、又は、圧力調整弁16の何れかによって液体噴射ヘッド50内のインクの圧力が所定の負圧となるように調整していたが、液体噴射ヘッド50内のインクの圧力を調整する構成は、これらの構成には限らない。例えば、圧力センサー14が計測したタンク11内の圧力の情報に基づいて、加圧機構13を駆動することで、液体噴射ヘッド50内のインクの圧力を調整するようにしても構わない。
【0138】
4-6.変形例6
前述の形態では、開閉弁12は、液体噴射ヘッド50の外部に配置された供給流路SJの途中に配置されていたが、これに限られない。開閉弁12は、液体噴射ヘッド50の内部、即ち液体噴射ヘッド50の内部に形成された供給流路SJの途中に配置されていてもよい。
【0139】
4-7.変形例7
前述の各形態で例示する液体噴射装置100は、印刷に専用される機器のほか、ファクシミリ装置やコピー機等の各種の機器に採用され得る。もっとも、本発明の液体噴射装置の用途は印刷に限定されない。例えば、色材の溶液または分散液を第1液体または第2液体として噴射する液体噴射装置は、液晶表示装置のカラーフィルターを形成する製造装置として利用される。また、導電材料の溶液または分散液を第1液体または第2液体として噴射する液体噴射装置は、配線基板の配線や電極を形成する製造装置として利用される。
【符号の説明】
【0140】
10…液体供給機構、10A…液体供給機構、11…タンク、11_1…第1タンク、11_2…第2タンク、12…開閉弁、12_1…第1開閉弁、12_2…第2開閉弁、13…加圧機構、13_1…第1加圧機構、13_2…第2加圧機構、14…圧力センサー、14_1…第1圧力センサー、14_2…第2圧力センサー、15…大気開放弁、15_1…第1大気開放弁、15_2…第2大気開放弁、16…圧力調整弁、16_1…圧力調整弁、16_2…圧力調整弁、16a…弁体、16a1…基部、16a2…封止部、16a3…弁軸、16b…弁座、16c…バネ、16d…バネ、16e…支持体、16f…可撓膜、16g…受圧板、16h…弾性部材、20…制御ユニット、30…搬送機構、40…移動機構、41…搬送体、42…搬送ベルト、50…液体噴射ヘッド、51…ヘッドチップ、51a…流路基板、51b…圧力室基板、51c…ノズルプレート、51d…吸振体、51e…振動板、51f…駆動素子、51g…保護板、51h…ケース、51i…配線基板、51j…駆動回路、60…メンテナンス機構、61…払拭部材、62…液体受容部材、100…液体噴射装置、C…圧力室、Com…駆動信号、DA…気体流路口、DI…流入口、DO…流出口、Dn…最短距離、FN…噴射面、FS…封止面、IH…導入口、Img…画像データ、K…貫通孔、LN…ノズル列、LN1…第1ノズル列、LN2…第2ノズル列、M…媒体、N…ノズル、Na…連通流路、O…軸線、P1…第1圧力、P2…第2圧力、P3…第3圧力、R…リザーバー、R1…空間、R2…空間、RC…大気圧室、RJ1…上流側流路、RJ2…下流側流路、RV…圧力調整室、Ra…個別流路、S11…ステップ、S12…ステップ、S13…ステップ、S14…ステップ、S15…ステップ、S16…ステップ、S17…ステップ、S18…ステップ、SC…閉鎖工程、SD…排出処理、SF…フラッシング工程、SI…制御信号、SJ…供給流路、SJ_1…第1供給流路、SJ_2…第2供給流路、SO…開放工程、SP…加圧工程、SW…払拭工程、t0…タイミング、t1…タイミング、t2…タイミング、t3…タイミング、t4…タイミング、t5…タイミング、t6…タイミング、t7…タイミング、t8…タイミング、t9…タイミング、t10…タイミング。